(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-11
(45)【発行日】2025-03-19
(54)【発明の名称】皮膚疾患治療薬及び化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/5685 20060101AFI20250312BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20250312BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20250312BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20250312BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20250312BHJP
C07J 1/00 20060101ALI20250312BHJP
【FI】
A61K31/5685
A61P17/00
A61P17/06
A61P29/00
A61P37/08
C07J1/00
(21)【出願番号】P 2024185964
(22)【出願日】2024-10-22
【審査請求日】2024-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2024045185
(32)【優先日】2024-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524109371
【氏名又は名称】下條 隆雄
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下條 隆雄
【審査官】今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-151197(JP,A)
【文献】薬学雑誌,1980年,Vol.100,No.1,p.72-80
【文献】Tetrahedron Letters,2009年,Vol.50,p.4575-4581
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
C07J
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物及び式(II)で表される化合物からなる群から選ばれる1以上の化合物(a)を含む、皮膚疾患治療薬。
【化1】
【化2】
[式(I)及び式(II)中、X
1はフッ素原子又は塩素原子であり、X
2はフッ素原子、塩素原子又は水素原子であり、X
3はメチル基又は水素原子である。]
【請求項2】
前記化合物(a)が下記式(I-1)で表される化合物である、請求項1に記載の皮膚疾患治療薬。
【化3】
【請求項3】
前記皮膚疾患が炎症性角化症である、請求項1又は2に記載の皮膚疾患治療薬。
【請求項4】
前記炎症性角化症が乾癬、類乾癬、及び扁平苔癬からなる群から選ばれる1以上である、請求項3に記載の皮膚疾患治療薬。
【請求項5】
前記皮膚疾患が膿疱症である、請求項1又は2に記載の皮膚疾患治療薬。
【請求項6】
前記膿疱症が掌蹠膿疱症である、請求項5に記載の皮膚疾患治療薬。
【請求項7】
前記皮膚疾患が炎症性変化を生じる疾患群である、請求項1又は2に記載の皮膚疾患治療薬。
【請求項8】
前記炎症性変化を生じる疾患群が湿疹・皮膚炎群である、請求項7に記載の皮膚疾患治療薬。
【請求項9】
前記炎症性変化を生じる疾患群がアトピー性皮膚炎及び脂漏性皮膚炎からなる群から選ばれる1以上である、請求項7に記載の皮膚疾患治療薬。
【請求項10】
ベタメタゾンジプロピオン酸エステル、クロベタゾールプロピオン酸エステル、酪酸プロピオン酸ベタメタゾン、ベタメタゾン吉草酸エステル、クロベタゾン酪酸エステル、及びジフルプレドナートからなる群から選ばれる1以上の化合物(B)とNaHとを接触させる工程を含む、9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオンの製造方法。
【請求項11】
前記化合物(B)がベタメタゾンジプロピオン酸エステルである、請求項10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚疾患治療薬及び特定構造を有する化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚疾患の治療には、種々の薬剤を含む外用薬が使われ、その剤型(軟膏、クリーム、ローション、ゲル、泡等)も様々であるが、特に異なる強度のステロイド外用薬及び/又はビタミンD3外用薬等が汎用されてきた。しかし、より早く、より少量で治療効果を上げる外用薬は必ずしも多くはなかった。
【0003】
例えば、炎症性角化症の代表である乾癬は、全身皮膚の各部に特徴的な銀白色雲母状鱗屑を付着させた紅斑が散在する難治性疾患である。該疾患については、日本には40万人以上の患者がおり、欧米の1億2千万人位に比して発症率は小さいが、日本においても発症率は最近増加傾向にある。乾癬患者の男女比は2:1で、乾癬患者は男性に多く、特に青壮年期に多い。
【0004】
乾癬発症の原因は不明であるが、乾癬を発症しやすい遺伝的素因が基盤にあると考えられており、PSORS1、IL12B、IL23R、IL23Aなどの乾癬感受性遺伝子が報告されている。現在では、ヘルパーT細胞や樹状細胞などの骨髄由来の免疫細胞が病態形成に中心的役割を果たしていると考えられており、IL-12、Th1細胞、IL-23、Th17細胞等の関与が乾癬の病態形成に重要であると考えられている(非特許文献1)。発症、悪化因子としては、病巣感染、HIV感染、糖尿病、メタボリック症候群、薬剤(Ca拮抗薬、β遮断薬、抗マラリア剤、インドメタシン、ACE阻害薬、テトラサイクリン、ジゴキシン等)、外傷、妊娠、ストレス等がある(非特許文献1第379頁)。
【0005】
乾癬の症状は、銀白色雲母状鱗屑を付着させた紅斑の他、様々な形の紅斑、蝋片現象、アウスピッツ血露現象、ケブネル現象等であり、時に痒みを伴う。症状は、夏に軽快傾向があるものの、軽快、増悪を繰り返すことが多い。発症1年くらいのうちに皮疹が拡大し、爪、アキレス腱、手指関節等に拡大すれば予後は悪いとされている。乾癬患者の大半は尋常性乾癬である。
【0006】
尋常性乾癬の治療法には、局所療法として、ステロイド軟膏、活性型ビタミンD3軟膏等、又はこれらの合剤を外用する外用療法、光線療法(PUVA療法、narrow band UVB療法)、併用療法(外用療法+光線療法)があり、全身療法として、シクロスポリン、エトレチナート、メトトレキサート、アプレミラスト、JAK阻害薬、漢方薬等を内服する内服療法、生物学的製剤を注射する注射療法等がある(
図1)。尋常性乾癬の治療の第一選択は局所療法であり、より具体的には、ステロイド化合物を含む軟膏、クリーム、若しくはローション、又は活性型ビタミンD3を含む軟膏、クリーム、ゲル、ローション、若しくは泡の単独外用、あるいはこれらのステロイド化合物と活性型ビタミンD3とを併用して外用する療法である。これらの外用療法による効果は症状の重症度によって異なるが、皮疹が消えても再発することがほとんどであり、治癒する例はごく少ない。そのため、患者のQOLは低下し、自殺企図に追い込まれる例もある。
局所療法の効果が見られず、皮疹が増悪した場合は、全身療法に移るが、重症例に対し、生物学的製剤を採用して、皮疹なしまで改善した場合でも完治はしにくく、維持療法が必要である。
【0007】
類乾癬は、角化性紅斑が体幹等に多発し、慢性に経過する疾患の総称であり、滴状類乾癬、斑状類乾癬、及び苔癬状類乾癬に大別される。類乾癬は、主にステロイド化合物の外用療法、光線療法で治療する。
【0008】
扁平苔癬は、紫紅色の浸潤性丘疹、紅斑を四肢、体幹に生じ、口唇、口腔内(レース状白斑)、爪にも病変が見られる疾患である。扁平苔癬の原因は不明だが、C型肝炎ウイルス感染、薬剤、歯科金属アレルギー、精神的ストレス等により誘発されることがある。ステロイド化合物やタクロリムスの外用療法や内服療法、光線療法によって治療する。
【0009】
膿疱症は、皮膚に無菌性あるいは非感染性の膿疱を形成する疾患である。膿疱とは、多数の好中球を含んでいるため膿性となった水疱のことである。膿疱症のほとんどは、原因不明である。膿疱症は、限局性膿疱症、全身性膿疱症、及び壊疽性膿皮症に分類される。
【0010】
掌蹠膿疱症は限局性膿疱症の代表疾患であり、一般的に乾癬同様、治療抵抗性である。掌蹠膿疱症は、両側の掌蹠又は一方に無菌性膿疱が多発し、慢性の経過をたどり、軽快と増悪を繰り返す。膿疱が形成されると紅斑や鱗屑を伴う病変も形成される。日本での掌蹠膿疱症の有病率は約0.12%であり、患者数は約13.6万人と推定されている。掌蹠膿疱症の平均発症年齢は55.5歳であり、男女比は約1:2で、患者は女性に多い。IL-17 signal経路の異常亢進が起こっていて、これが炎症や好中球遊走を誘導し、病態形成に寄与すると考えられている。
【0011】
掌蹠膿疱症の治療には(1)生活指導(禁煙、口腔ケア)、(2)悪化因子の除去、すなわち、病巣感染の治療、具体的には病巣扁桃、歯性病巣、慢性副鼻腔炎の治療、(3)対症療法(ステロイド化合物の外用、ビタミンD3の外用、紫外線照射、顆粒球単球吸着除去療法、生物学的製剤)がある。
【0012】
掌蹠膿疱症の治療では、上記(1)と(2)を前提として行い、対症療法の第一選択はステロイド軟膏、ビタミンD3軟膏の外用であるが、既存の外用薬の効果は不十分であることが多い。
【0013】
皮膚疾患は多数あるが、最も一般的で多くの人が罹患するのは湿疹反応と言われる皮膚の炎症性変化を生じる疾患群である。この疾患群は、湿疹三角(
図2、非特許文献1第140頁)と呼ばれる病態を経るが、急性期に共通の臨床症状や組織像を呈し、病因・病態は多彩であり、未知の部分も多い。湿疹反応は、皮膚疾患患者の1/3以上を占める疾患である。湿疹反応の基本像は、リンパ球の表皮侵入と海綿状態であるが、不全角化や表皮肥厚もある。急性型、亜急性型、慢性型の組織像を呈する。そのほとんどは、ステロイド化合物の外用を主として治療されているが、この疾患にも、より早く治る外用薬が常に必要とされている。
【0014】
急性湿疹では、湿疹三角に示されるような紅斑、膿疱、落屑、丘疹、小水疱、湿潤、又は結痂といった種々の症状を呈する。しかし、病因・病態は多彩であり、不明な部分も多い。この湿疹三角の症状が出ている場合が急性湿疹と呼ばれるが、この時期を経ても治らず、苔癬化を生ずる状態になると慢性湿疹と呼ばれる。
【0015】
湿疹三角に示されている紅斑、膿疱、落屑、丘疹、小水疱、湿潤、及び結痂等の病態は、原因がよくわからない湿疹の症状である一方で、原因が比較的明らか又は定型的臨床像を呈する湿疹・皮膚炎群には接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、乳児脂漏性皮膚炎、貨幣状湿疹、自家感作性皮膚炎、うっ滞性湿疹、皮膚欠乏性湿疹、しいたけ皮膚炎等がある(非特許文献1)。
【0016】
アトピー性皮膚炎と脂漏性皮膚炎は、炎症性変化を生じる疾患群の中で、湿疹・皮膚炎と分類される皮膚疾患の1つであり、原因が比較的明らかであるか、又は定型的臨床像を呈する皮膚疾患である。
【0017】
アトピー性皮膚炎は、掻痒を伴う湿疹を主病変とする疾患であり、増悪・寛解を繰り返す。アトピー性皮膚炎の患者のほとんどはアトピー素因を持つ。
アトピー性皮膚炎を短期間に根治させる治療法はないが、外用療法では、ステロイド化合物を始め、タクロリムス、デルゴシチニブ、ジファミラストが使われている。近年では、ホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害剤も外用療法に使われている。内服療法、食餌療法等の他、近年では生物学的製剤も開発され、治療効果も大きくなっているが、患者の立場からすれば、より効果のある外用薬は不可欠である。
【0018】
脂漏性皮膚炎(脂漏性湿疹と同義である)は、脂漏部位や間擦部位(頭部、顔面、腋窩・陰部等)に淡褐色の落屑を伴う紅斑局面を生じる難治性の炎症性疾患である。成人においては、頭部では粃糠様鱗屑の増加、髪際部に紅斑局面、眉毛、鼻唇溝部には鱗屑を伴った紅斑が生ずる他、腋窩・乳房下・陰部には浸軟した鱗屑を付着させた紅斑局面も時に見られる。乳児ではアトピー性皮膚炎との区別がつかない例もある。脂漏性皮膚炎の症状は、長期に亘り軽快、増悪を繰り返す。脂漏性皮膚炎の原因として、マラセチア真菌の関与も注目されている。マラセチアの炎症誘導機序としては、補体の活性化、IL-6、IL-8などのサイトカインの産生増加などの関与も指摘されている。脂漏性皮膚炎に対する治療はステロイド化合物の外用、ケトコナゾールの外用等による。
【0019】
既存のステロイド化合物の外用薬に限ってみると、strongestからweakに分類されるものまで25種類あり、それぞれの各皮膚疾患に対する効果の程度は、臨床の場で確立している。25種類のステロイド化合物についての詳細は後述するが、非常によく効くものから、ほとんど効かないものまで様々である。
【0020】
乾癬の治療に汎用されているステロイド外用薬は、ステロイド化合物の種類として20種類以上ある。strongestに分類されるステロイド化合物は短期間の外用でほとんどの症例において、皮疹はより早く軽快するが、外用を中止すると再発し、外用再開を繰り返すと皮膚の菲薄化が生じ、回復することはない。ステロイド化合物の強さを落とせば、それに比例して皮疹の改善度は小さくなり、改善に要する時間も長くなり、患者の満足度は低下し、いわゆるcomplianceが落ち、治療効果は減じる。
また、乾癬の治療に汎用されているビタミンD3外用薬単剤又はステロイド化合物との合剤は、その効果はステロイド化合物のみの外用と同等か、それを上回ることも多いが、長期間の外用が必要なため、高カルシウム血症(易疲労感、倦怠感、意識障害、多飲、多尿、QT短縮、悪心、嘔吐等)の副作用も起こり得る。
【0021】
皮膚疾患は、乾癬以外にも難治性のものが多く、その治療に用いられるステロイド化合物の外用薬は使用期間が長期に亘るため、皮膚の菲薄化の副作用がある。ステロイド化合物の外用薬の副作用は、難治性ではない湿疹・皮膚炎でも起こるため、より早く効く外用薬は常に必要とされている。
【0022】
一方、11β-ヒドロキシ-4-アンドロステン-3,17-ジオンは、自己免疫疾患治療薬として報告されており、その誘導体として、9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオン等が開示されている(特許文献1)。しかし、9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオンがどのような作用を有するかは開示されていない。
【0023】
9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオンの製造方法は、ベタメタゾンをジオキサンに溶解し、水酸化ナトリウムを加え、80℃に加熱し、5時間反応させる方法が報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【非特許文献】
【0025】
【文献】原著:上野賢一、編集:大塚藤男、藤本学、皮膚科学、第11版、株式会社金芳堂、2022年06月刊行
【文献】日高哲郎ら、「Betamethasoneの研究:弱い条件での酸、アルカリ、光照射および酸化剤に対するBetamethasoneの挙動」、薬学雑誌、1980年、100(1)、72~80頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
皮膚疾患に対して、より効果の高い治療薬を提供する。また、9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオンを容易に製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、以下の構成を有することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の態様は、例えば以下の〔1〕~〔11〕に関する。
〔1〕 下記式(I)で表される化合物及び式(II)で表される化合物からなる群から選ばれる1以上の化合物(a)を含む、皮膚疾患治療薬。
【0028】
【0029】
【化2】
[式(I)及び式(II)中、X
1はフッ素原子又は塩素原子であり、X
2はフッ素原子、塩素原子又は水素原子であり、X
3はメチル基又は水素原子である。]
〔2〕 前記化合物(a)が下記式(I-1)で表される化合物である、〔1〕に記載の皮膚疾患治療薬。
【0030】
【化3】
〔3〕 前記皮膚疾患が炎症性角化症である、〔1〕又は〔2〕に記載の皮膚疾患治療薬。
〔4〕 前記炎症性角化症が乾癬、類乾癬、及び扁平苔癬からなる群から選ばれる1以上である、〔3〕に記載の皮膚疾患治療薬。
〔5〕 前記皮膚疾患が膿疱症である、〔1〕又は〔2〕に記載の皮膚疾患治療薬。
〔6〕 前記膿疱症が掌蹠膿疱症である、〔5〕に記載の皮膚疾患治療薬。
〔7〕 前記皮膚疾患が炎症性変化を生じる疾患群である、〔1〕又は〔2〕に記載の皮膚疾患治療薬。
〔8〕 前記炎症性変化を生じる疾患群が湿疹・皮膚炎群である、〔7〕に記載の皮膚疾患治療薬。
〔9〕 前記炎症性変化を生じる疾患群がアトピー性皮膚炎及び脂漏性皮膚炎からなる群から選ばれる1以上である〔7〕に記載の皮膚疾患治療薬。
〔10〕 ベタメタゾンジプロピオン酸エステル、クロベタゾールプロピオン酸エステル、酪酸プロピオン酸ベタメタゾン、ベタメタゾン吉草酸エステル、クロベタゾン酪酸エステル、及びジフルプレドナートからなる群から選ばれる1以上の化合物(B)とNaHとを接触させる工程を含む、9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオンの製造方法。
〔11〕 前記化合物(B)がベタメタゾンジプロピオン酸エステルである、〔10〕に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、皮膚疾患に対して、より効果の高い治療薬を提供することができる。本発明の皮膚疾患治療薬は、特に尋常性乾癬に対し、ステロイド及びビタミンD3を含む既存の外用薬よりも高い効果を示し、ビタミンDによる副作用もない。本発明の皮膚疾患治療薬は、特に掌蹠膿疱症に対しても、ステロイド及びビタミンD3を含む既存の外用薬と同等以上の効果を示し、ビタミンDによる副作用もない。本発明の皮膚疾患治療薬は、特にアトピー性皮膚炎に対し、ステロイド、又はホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害剤を含む既存の外用薬と同等以上の効果を示す。本発明の皮膚疾患治療薬は、脂漏性皮膚炎に対しても高い効果を示す。本発明の皮膚疾患治療薬は、慢性湿疹に対しても高い効果を示す。
【0032】
本発明によれば、9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオンを容易に製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、乾癬治療の選択肢を説明する図であり、飯塚一、J Visual Dematol 16(9):850-851,2017より改変したものである。
【
図3】
図3は、化合物(I-1-1)のIR chartである。
【
図4】
図4は、化合物(I-1-1)の
1H NMR chartである。
【
図5】
図5は、化合物(I-1-1)の
13C NMR chartである。
【
図6】
図6は、化合物(I-1-1)の単結晶自動X線構造解析結果である。
【
図7】
図7は、化合物(I-1-1)の単結晶自動X線構造解析結果である。
【
図8】
図8は、化合物(I-1-1)の解析結果のまとめと、化合物(I-1-1)の化学構造式(9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオン)である。
【
図9】
図9は、実施例1における、化合物(I-1-1)を含むクリームの外用開始前の下腿前面の写真である。
【
図10】
図10は、実施例1における、化合物(I-1-1)を含むクリームの外用開始4ヶ月後の下腿前面の写真である。
【
図11】
図11は、実施例2における、化合物(I-1-1)を含むクリームの外用開始前の左側頭部の写真である。
【
図12】
図12は、実施例2における、化合物(I-1-1)を含むクリームの外用開始後28日目の左側頭部の写真である。
【0034】
【
図13】
図13は、実施例3における、化合物(I-1-1)を含むクリームの外用開始前の前頭髪際部の写真である。
【
図14】
図14は、実施例3における、化合物(I-1-1)を含むクリームの外用開始後14日目の前頭髪際部の写真である。
【
図15】
図15は、実施例4における、化合物(I-1-1)を含むクリームの外用開始前の右下腿前面の写真である。
【
図16】
図16は、実施例4における、化合物(I-1-1)を含むクリームの外用開始後52日目の右下腿前面の写真である。
【
図17】
図17は、実施例5における、化合物(I-1-1)を含むクリームの外用開始前の両手掌の写真である。
【
図18】
図18は、実施例5における、化合物(I-1-1)を含むクリームの外用開始後3週目の両手掌の写真である。
【
図19】
図19は、実施例6における、化合物(I-1-1)を含むクリームの外用開始前の後頭髪際部の写真である。
【
図20】
図20は、実施例6における、化合物(I-1-1)を含むクリームの外用開始後28日目の後頭髪際部の写真である。
【
図21】
図21は、実施例7における、外用開始前の両肘窩及び両膝窩の写真である。
【0035】
【
図22】
図22は、実施例7における、外用開始後15日目の両肘窩及び両膝窩の写真である。
【
図23】
図23は、実施例8における、外用開始前の両肘窩の写真である。
【
図24】
図24は、実施例8における、外用開始後14日目の両肘窩の写真である。
【
図25】
図25は、実施例9における、外用開始前の両大腿部の写真である。
【
図26】
図26は、実施例9における、外用開始後14日目の両大腿部の写真である。
【
図27】
図27は、実施例10における、外用開始前の両足底の写真である。
【
図28】
図28は、実施例10における、外用開始後29日目の両足底の写真である。
【
図29】
図29は、実施例11における、外用開始前の右足底内側縁の写真である。
【
図30】
図30は、実施例11における、外用開始後12日目の右足底内側縁の写真である。
【
図31】
図31は、実施例12における、外用開始前の仙骨部の写真である。
【
図32】
図32は、実施例12における、外用開始後6か月半の仙骨部の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
次に本発明について具体的に説明する。なお、数値範囲に関する「A~B」との記載は、特に断りがなければ、A以上B以下であることを表す。例えば、「1~5%」との記載は、1%以上5%以下を意味する。
【0037】
[皮膚疾患治療薬]
<化合物(a)>
本発明の皮膚疾患治療薬は、化合物(a)を含む。
本発明の皮膚疾患治療薬に含まれる化合物(a)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0038】
化合物(a)は、下記式(I)で表される化合物及び式(II)で表される化合物からなる群から選ばれる1以上の化合物である。
【0039】
【0040】
【化5】
[式(I)及び式(II)中、X
1はフッ素原子又は塩素原子であり、X
2はフッ素原子、塩素原子又は水素原子であり、X
3はメチル基又は水素原子である。]
【0041】
皮膚疾患治療薬の効果がより強くなることから、X1は、好ましくはフッ素原子である。
皮膚疾患治療薬の効果がより強くなることから、X2は、好ましくはフッ素原子又は水素原子であり、より好ましくは水素原子である。
皮膚疾患治療薬の効果がより強くなることから、X3は、好ましくはメチル基である。
【0042】
式(I)で表される化合物としては、下記表1に示すX1、X2、及びX3の組み合わせを有する化合物NO.1~12が挙げられる。
【0043】
【0044】
式(II)で表される化合物としては、下記表2に示すX1、X2、及びX3の組み合わせを有する化合物NO.13~24が挙げられる。なお、化合物NO.2と化合物NO.14、化合物NO.4と化合物NO.16、化合物NO.6と化合物NO.18、化合物NO.8と化合物NO.20、化合物NO.10と化合物NO.22、化合物NO.12と化合物NO.24は同一の化合物である。
【0045】
【0046】
皮膚疾患治療薬の効果がより強くなることから、化合物(a)は、好ましくは化合物NO.1、2、5、6、13、より好ましくは化合物NO.1、2、5、13、さらに好ましくは化合物NO.1、2、5、特に好ましくは化合物NO.1、5、さらに好ましくは、化合物NO.5、言い換えると下記式(I-1)で表される化合物(9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオン)である。
【0047】
【0048】
皮膚疾患治療薬中において、化合物(a)の含有量は、好ましくは0.0001~5質量%、より好ましくは0.001~1質量%、さらに好ましくは0.01~0.5質量%、特に好ましくは0.05~0.2質量%である。
化合物(a)の含有量が前記範囲内であると、充分な効果が得られるとともに、皮膚への刺激性が低く、使用感もよい。
【0049】
化合物(a)の製造方法は特に限定されず、公知の方法で製造することができる。式(I-1)で表される化合物(9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオン)は、例えば、日高哲郎ら、「Betamethasoneの研究:弱い条件での酸、アルカリ、光照射および酸化剤に対するBetamethasoneの挙動」、薬学雑誌、1980年、100(1)、72~80頁に記載された方法、又は後述する実施例に記載された方法により得ることができる。
【0050】
式(I-1)で表される化合物(9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオン)は、市販品を用いてもよく、CAS登録番号は3109-01-1である。
【0051】
化合物(a)は、光への安定性を考慮し、遮光して保管することが好ましい。
【0052】
ステロイド外用薬は1952年にSulzbergerがその軟膏を開発した歴史があり、日本では1953年にヒドロコルチゾン酢酸エステル外用薬が最初に承認された。それ以後、多くのステロイド外用薬が開発され、現在汎用されているものは、以下の25種類であり、その全ては共通の化学骨格構造をもつ。
I群(Strongest);デルモベート(クロベタゾールプロピオン酸エステル)、ダイアコート(ジフロラゾン酢酸エステル)
II群(very strong):フルメタ(モメタゾンフランカルボン酸エステル)、アンテベート(酪酸プロピオン酸ベタメタゾン)、トプシム(フルオシノニド)、リンデロンDP(ベタメタゾンジプロピオン酸エステル)、ビスダーム(アムシノニド)、ネリゾナ、テクスメテン(ジフルコルトロン吉草酸エステル)、パンデル(酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン)、マイザー(ジフルプレドナート)
【0053】
III群(strong);ボアラ(デキサメタゾン吉草酸エステル)、ベトネベート・リンデロンV・リンデロンVG(ベタメタゾン吉草酸エステル)、フルコート(フルオシノロンアセトニド)、フルコートF(フルオシノロンアセトニド)、エクラー(デプロドンプロピオン酸エステル)、メサデルム(デキサメタゾンプロピオン酸エステル)
IV群(medium);リドメックス(プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル)、レダコート(トリアムシノロンアセトニド)、アルメタ(アルクロメタゾンプロピオン酸エステル)、キンダベート(クロベタゾン酪酸エステル)、ロコイド(ヒドロコルチゾン酪酸エステル)、オイラゾン(デキサメタゾン、グリメサゾン)
V群(weak);プレドニゾロン、テラ・コートリル(ヒドロコルチゾン)、エキザルベ(混合死菌浮遊液・ヒドロコルチゾン配合)
汎用されているステロイド外用薬の代表として、プレドニゾロンの構造式を以下の式(P)に示す。
【0054】
【0055】
現在汎用されている25種類のステロイド外用薬は、以下のような分子構造上の共通した特徴をもち、薬理効果を発揮している。
(1)C3がケトン基である。
(2)C1とC2との間の結合が二重結合であると、抗炎症作用が増強される。
(3)C4とC5との間の結合が二重結合であることは、糖質コルチコイドの活性を高めるために必須である。
(4)C6、C9がハロゲン原子を有すると、薬効がより強まる。
(5)C11がOH基(水酸基)を有する、又はC11がC=O基(ケトン基)であることは抗炎症作用を発揮するために必須である。
(6)C17が有するα-OH基は消炎作用発現に重要である。
(7)C17、C21が有するOH基(水酸基)がエステル化されると、皮膚への親和性が高まる。
【0056】
化合物(a)は、C17がC=O基(ケトン基)である点で、上述した25種類のステロイド化合物とは構造が大きく異なる。前記(6)を考慮すれば、化合物(a)は皮膚への親和性が低下するように予想されるが、後述する実施例で示すように、そのようなことはなく、むしろ、C17がC=O基(ケトン基)であれば、薬理効果が高まることが示唆されている。さらに化合物(a)は、分子量が318.4~383.4であり、ステロイド化合物としては比較的小さい。特に、式(I-1)で表される化合物(9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオン)の分子量は332.4であり、上述した25種類のステロイド化合物(最大がフルメタ(モメタゾンフランカルボン酸エステル、分子量521.43)、最小がテラ・コートリル(ヒドロコルチゾン、分子量362.46)である)のいずれよりも小さい。ステロイド化合物の分子量が小さい(500以下)ほど、経皮吸収性が高まることは周知の事実(マルホ医療関係者向けサイト ぬり薬の蘊蓄 第2章 主薬と経皮吸収性:経皮されやすい主薬の特性)である。この経皮吸収性は逆指数関係にあると言うこともできる。
【0057】
一般に化合物の融点が低いことは経皮吸収性を高めるために有利とされる。式(I-1)で表される化合物(9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオン)の融点は278~280℃と高く、経皮吸収性の点では不利であると予想される。しかし、後述する実施例で示すように、式(I-1)で表される化合物の経皮吸収性は充分に高く、分子量が小さいことの効果は、融点が高いことによる不利を上回っていると考えられる。
【0058】
このような理由から、化合物(a)は、皮膚疾患に対し、既存のステロイド外用薬よりも少ない投与量・期間で、目立った副作用を伴わず、より安全に(主に、皮膚の菲薄化の可能性がより小さい)、治療効果を奏すると考えられる。
【0059】
<皮膚疾患治療薬>
本発明の皮膚疾患治療薬は、前記式(I)で表される化合物及び式(II)で表される化合物からなる群から選ばれる1以上の化合物(a)を含む。
本発明の皮膚疾患治療薬は、化合物(a)を含めば、その性状や剤型は特に制限されない。
皮膚疾患治療薬の性状としては、例えば、固体状、半固体状、液状、乳液状、クリーム状、ジェル状、泡状(ムース状)が挙げられるが、好ましくは、乳液状、クリーム状、ジェル状、又は泡状(ムース状)である。
【0060】
皮膚疾患治療薬は、外皮用薬、点眼薬、点鼻薬、点耳薬、口腔薬、坐薬等の外用薬;又は注射薬とすることができるが、好ましくは外用薬、より好ましくは外皮用薬である。
外用薬の剤型としては、例えば、外用散剤等の外用固形剤;リニメント剤、ローション剤等の外用液剤;エアゾール剤、ポンプスプレー剤等のスプレー剤(噴霧剤)、油脂性軟膏剤、水溶性軟膏剤等の軟膏剤、水中油型クリーム剤、油中水型クリーム剤等のクリーム剤(乳剤性基材);水性ゲル剤、油性ゲル剤等のゲル剤;パップ剤、テープ剤等の貼付剤が挙げられるが、好ましくはスプレー剤(噴霧剤)、軟膏剤、クリーム剤、又はゲル剤、より好ましくはクリーム剤、さらに好ましくは油中水型クリーム剤である。
【0061】
注射薬の剤型としては、例えば、水溶性注射剤、非水溶性注射剤、懸濁性注射剤、乳化性注射剤、用時溶解注射剤が挙げられるが、好ましくは非水溶性注射剤、懸濁性注射剤、乳化性注射剤である。
注射薬の投与経路は制限されず、例えば、皮内注射、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射が挙げられるが、好ましくは皮内注射、筋肉内注射である。
【0062】
前記皮膚疾患治療薬には、本発明の効果を損なわない範囲で、通常、外用薬又は注射薬に用いられる添加剤を必要に応じて適宜配合することができる。医薬品等の皮膚外用剤等に用いられる添加剤としては、例えば油性成分、界面活性剤(合成系、天然物系)、保湿剤、増粘剤、防腐・殺菌剤、粉体成分、紫外線吸収剤、抗酸化剤、キレート剤、色素、香料等が挙げられる。これらの成分は1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
油性成分としては、例えば、オリーブ油、ホホバ油、ヒマシ油、大豆油、米油、米糠油パーム油、シアバター、植物由来スクワラン等の植物由来の油脂類;ミンク油等の動物由来の油脂類;ミツロウ、カルナウバロウ、ライスワックス、ラノリン等のロウ類;流動パラフィン、ワセリン、パラフィンワックス、スクワラン、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素類;ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸等の脂肪酸類;ラウリルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類;ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、2-エチルヘキシルグリセライド、高級脂肪酸オクチルドデシル(ステアリン酸オクチルドデシル等)等の合成エステル類及び合成トリグリセライド類等が挙げられるが、好ましくはロウ類、炭化水素類である。
【0064】
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤;脂肪酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン脂肪アミン硫酸塩等のアニオン界面活性剤;第四級アンモニウム塩、第一級~第三級脂肪アミン塩等のカチオン界面活性剤;N,N-ジメチル-N-アルキル-N-カルボキシメチルアンモニオベタイン等の両性界面活性剤等が挙げられるが、好ましくは非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤であり、より好ましくは非イオン界面活性剤である。
【0065】
保湿剤としては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール;ソルビトール、キシリトール、トレハロース等の糖類、;ヒアルロン酸及びその誘導体、コンドロイチン及びその誘導体等のムコ多糖類が挙げられるが、好ましくは多価アルコールであり、より好ましくはグリセリンである。
【0066】
前記皮膚疾患治療薬には、本発明の効果を損なわない範囲で、通常、外用薬又は注射薬に用いられる有効成分を必要に応じて適宜配合することができる。医薬品等の皮膚外用剤等に用いられる有効成分としては、例えば、抗ヒスタミン薬、ステロイド化合物、抗ウイルス薬、殺菌剤、尿素、ビタミン類、ヘパリン類似物質等が挙げられる。これらの成分は1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記皮膚疾患治療薬には、ヘパリン類似物質を配合することが好ましい。
【0067】
前記皮膚疾患治療薬は、これらの製剤について一般的に用いられている手法に従って、化合物(a)を添加することにより製造することができる。化合物(a)は、製剤の製造工程の初期に添加するか、製造工程の中期又は終期に添加すればよく、また添加の手法は、混和、混練、溶解、浸漬、散布、噴霧、塗布等から適切なものを製剤の態様に応じて選択すればよい。
【0068】
前記皮膚疾患治療薬は、通常、外用又は注射するものである。前記皮膚疾患治療薬は、好ましくは外用するものであり、皮膚の病変部及びその周辺に外用する。外用の方法は、特に制限されず、塗布又は塗擦すればよい。
【0069】
前記皮膚疾患治療薬の投与量及び投与頻度は特に制限されず、皮膚疾患の種類、症状に応じて決定することができるが、外用の場合、好ましくは、FTU(Finger Tip Unit、口径5mmのチューブから絞り出して、成人の示指の先端から第一関節まで載せた量、約0.5g)を成人の手掌2枚分の面積に1日1~2回外用する。
前記皮膚疾患治療薬の1回あたりの投与量は、外用の場合、化合物(a)として、好ましくは0.5ng~25mg、より好ましくは5ng~5mg、さらに好ましくは50ng~2.5mg、特に好ましくは0.25mg~1mgである。
前記皮膚疾患治療薬の投与期間は特に制限されず、皮膚疾患の種類、症状に応じて決定することができるが、好ましくは1日~180日、より好ましくは7日~120日、さらに好ましくは10日~60日である。
【0070】
本発明の皮膚疾患治療薬は、既存のステロイド外用薬よりも少ない投与量・期間で、より安全に効くことが期待される。
本発明の皮膚疾患治療薬は、乾癬に対し、既存の乾癬治療薬、特にステロイド外用薬よりも少ない投与量・期間で、より安全に効くことが期待される。
本発明の皮膚疾患治療薬は、アトピー性皮膚炎に対し、既存のアトピー性皮膚炎治療薬、特にステロイド外用薬、及びホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害剤の外用薬よりも少ない投与量・期間で、より安全に効くことが期待される。
本発明の皮膚疾患治療薬は、掌蹠膿疱症に対し、既存の掌蹠膿疱症治療薬、特にステロイド外用薬よりも少ない投与量・期間で、より安全に効くことが期待される。
本発明の皮膚疾患治療薬は、湿疹に対し、既存の湿疹治療薬、特にステロイド外用薬よりも少ない投与量・期間で、より安全に効くことが期待される。
【0071】
前記皮膚疾患治療薬が対象とする皮膚疾患は特に制限されないが、前記皮膚疾患としては、例えば、炎症性角化症、膿疱症、炎症性変化を生じる疾患群が挙げられる。
前記皮膚疾患の重症度は特に制限されないが、好ましくは、通常、ステロイド外用薬で治療される重症度の皮膚疾患である。
前記皮膚疾患は、急性でも慢性でもよい。
【0072】
前記炎症性角化症は、特に制限されず、例えば、乾癬、類乾癬、扁平苔癬、毛孔性紅色粃糠疹、線状苔癬、光沢苔癬、Gibertばら色粃糠疹が挙げられるが、好ましくは、乾癬、類乾癬、及び扁平苔癬からなる群から選ばれる1以上である。
【0073】
乾癬は、尋常性乾癬、急性滴状乾癬、乾癬性紅皮症、関節症性乾癬、及び膿疱性乾癬のいずれであってもよいが、好ましくは尋常性乾癬である。
乾癬の発症部位は特に制限されず、頭部、頭髪際部、肘、膝、背部、腰部、臀部、下腿、陰部、鼠径部、腋窩、手掌、足底等であってもよいが、好ましくは頭部、頭髪際部、背部、腰部、下腿である。
乾癬の重症度は特に制限されず、軽症、中等症、重症のいずれであってもよいが、好ましくは実施例で後述するPSI合計スコアであれば3~25、PSSI合計スコアであれば3~42の乾癬である。
【0074】
膿疱症は、限局性膿疱症、全身性膿疱症、及び壊疽性膿皮症のいずれであってもよいが、好ましくは限局性膿疱症である。膿疱症としては、例えば、掌蹠膿疱症、角層下膿疱症、好酸球性膿疱性毛包炎、急性汎発性膿疱性細菌疹、小児肢端膿疱症が挙げられるが、好ましくは掌蹠膿疱症である。
【0075】
炎症性変化を生じる疾患群は、湿疹反応を生じる疾患群と言い換えることができ、例えば、湿疹・皮膚炎群、水疱性類天疱瘡、サルコイドーシス、環状肉芽腫、円形脱毛症が挙げられる。
前記炎症性変化を生じる疾患群は、好ましくは湿疹・皮膚炎群、より好ましくはアトピー性皮膚炎及び脂漏性皮膚炎からなる群から選ばれる1以上である。
【0076】
湿疹・皮膚炎群は、アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、接触皮膚炎、乳児脂漏性皮膚炎、貨幣状湿疹、自家感作性皮膚炎、うっ滞性湿疹、皮膚欠乏性湿疹、しいたけ皮膚炎、虫刺され、手湿疹(主婦湿疹)、汗疱(汗疱状湿疹・異汗性湿疹)汗疹、慢性単純性苔癬等の原因が比較的明らか又は定型的臨床像を呈する湿疹・皮膚炎群と、その他の湿疹・皮膚炎群とさらに分類することができ、急性でも慢性でもよい。
前記その他の湿疹・皮膚炎群は、原因が明らかではない多くの湿疹であり、湿疹三角に示された各像を示す急性湿疹と慢性湿疹に分類できる。
【0077】
アトピー性皮膚炎は、いずれの重症度であってもよいが、好ましくは軽症又は中等症のアトピー性皮膚炎である。アトピー性皮膚炎の主な悪化因子の一つは掻くことであり、掻かなければ、皮疹が改善することが多いことから、前記皮膚疾患治療薬は、例えば、時に手がいき、軽く掻く程度のアトピー性皮膚炎患者を治療対象とすることができ、VAS40以上、又はVAS60以上の患者を治療対象としてもよい。VASについては後述する。
【0078】
脂漏性皮膚炎は、頭髪際部、耳介後部、眉毛部、鼻唇溝、及び胸骨部のいずれの部位に生じたものであってもよいが、好ましくは髪際部に生じた脂漏性皮膚炎である。
【0079】
前記皮膚疾患治療薬における「治療」には疾病又は症状を治癒することに加えて、疾病又は症状を緩和(軽快)すること、及び疾病又は症状の治癒後にその再発を防ぐことも含まれる。
【0080】
前記皮膚疾患治療薬の投与対象は、ヒトであるか、ヒト以外であるか(例えばイヌ、ネコ、マウス等の哺乳類)を問わないが、好ましくはヒトである。
【0081】
本発明の皮膚疾患治療薬は、外用療法において、他の薬剤、例えば他の皮膚疾患治療薬又は予防薬と併用して用いることができる。本発明の皮膚疾患治療薬を他の皮膚疾患治療薬又は予防薬と併用した場合、本発明の皮膚疾患治療薬単独のときよりも皮膚疾患の治療効果が上昇しやすい。他の皮膚疾患治療薬又は予防薬の種類は限定されず、例えば抗ヒスタミン薬、ステロイド化合物、抗ウイルス薬、殺菌剤、尿素、ビタミン類、ヘパリン類似物質が挙げられる。他の皮膚疾患治療薬又は予防薬は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0082】
本発明の皮膚疾患治療薬は、光線療法(PUVA療法、narrow band UVB療法)、内服療法、注射療法と組み合わせて用いてもよい。
【0083】
[9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオンの製造方法]
本発明の、9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオンの製造方法は、ベタメタゾンジプロピオン酸エステル、クロベタゾールプロピオン酸エステル、酪酸プロピオン酸ベタメタゾン、ベタメタゾン吉草酸エステル、クロベタゾン酪酸エステル、及びジフルプレドナートからなる群から選ばれる1以上の化合物(B)とNaHとを接触させる工程を含む。
【0084】
<化合物(B)>
化合物(B)は、ベタメタゾンジプロピオン酸エステル、クロベタゾールプロピオン酸エステル、酪酸プロピオン酸ベタメタゾン、ベタメタゾン吉草酸エステル、クロベタゾン酪酸エステル、及びジフルプレドナートからなる群から選ばれる1以上の化合物である。
【0085】
化合物(B)は、特に制限されず、公知の方法で製造したものを使用することができ、市販品を使用してもよい。
使用する化合物(B)の量は特に制限されず、所望する9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオンの量に応じて決定することができる。
【0086】
化合物(B)は、好ましくはベタメタゾンジプロピオン酸エステル、クロベタゾールプロピオン酸エステル、酪酸プロピオン酸ベタメタゾン、ベタメタゾン吉草酸エステル、及びクロベタゾン酪酸エステルからなる群から選ばれる1以上の化合物であり、より好ましくはベタメタゾンジプロピオン酸エステル、クロベタゾールプロピオン酸エステル、酪酸プロピオン酸ベタメタゾン、及びベタメタゾン吉草酸エステルからなる群から選ばれる1以上の化合物であり、さらに好ましくはベタメタゾンジプロピオン酸エステルである。
【0087】
<NaH>
NaHは、特に制限されず、公知の方法で製造したものを使用することができ、市販品を使用してもよい。NaHは、純粋な固体を用いてもよいし、油への分散物を用いてもよいが、好ましくは油への分散物である。
使用するNaHの量は特に制限されないが、化合物(B)の量に応じて決定することができ、好ましくは触媒量である。
【0088】
NaHは、強塩基(pKa=35)であり、NH、OH、SH又はCHからプロトンを奪うために汎用され、Williamのエーテル合成等で汎用される。本発明の製造方法においては、NaHは、化合物(B)のステロイド骨格のC21のプロトンを奪うことに起因して、分子内で求核攻撃を起こし、以降、特異な電子移動が生じ、C17位にケトン基を生じさせたものと推測される。NaHは、前記製造方法において、化学的に極めて稀で、画期的な反応を引き起こしたものと推測される。
【0089】
<接触させる工程>
化合物(B)とNaHとを接触させる方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。化合物(B)とNaHとは、通常、有機溶媒中で接触させる。
化合物(B)とNaHとを接触させる方法は、好ましくは化合物(B)とNaHとを有機溶媒中で混合する方法であり、より好ましくは化合物(B)とNaHとを混合した後、攪拌する方法である。攪拌は公知の方法、例えば、攪拌子を用いて行えばよい。
化合物(B)とNaHとが接触すると、両者が反応し、9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオンを製造することができる。
【0090】
接触温度は、使用する溶媒に応じて適宜決定すればよいが、例えば、1~40℃、好ましくは室温(1~30℃)である。また、接触時間は、例えば、0.1~15時間である。
【0091】
前記有機溶媒は、特に制限されず公知の有機溶媒を使用することができるが、好ましくは極性溶媒である。
極性溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられる。
前記極性溶媒は、好ましくはテトラヒドロフラン(THF)及びジオキサンからなる群から選ばれる1以上の有機溶媒であり、より好ましくはテトラヒドロフラン(THF)である。
前記有機溶媒の純度は、特に制限されないが、高いほど好ましく、より好ましくは95%以上である。
前記有機溶媒は、蒸留してから用いてもよいし、蒸留せずに用いてもよい。本発明の製造方法は、蒸留していない有機溶媒を用いる場合でも、化合物(B)とNaHとが反応し、9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオンを製造することができる。
前記有機溶媒の使用量は、特に制限されないが、化合物(B)の量に応じて決定することができ、好ましくは化合物(B)が溶けきる量である。
【0092】
化合物(B)とNaHとを接触させる工程を行う環境は特に制限されず、気相で行えばよく、窒素下でなくてもよい。
【0093】
前記製造方法によれば、9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオンを、室温付近の温度で、短時間で、容易に製造することができる。また、化合物(B)は一般に入手しやすい化合物であることから、前記製造方法は産業上の利用に適する。
【0094】
なお、本発明者は、デキサメタゾンプロピオン酸エステル、モメタゾンフランカルボン酸エステル、デキサメタゾン吉草酸エステル、ジフルコルトロン吉草酸エステル、アルクロメタゾンプロピオン酸エステル、デキサメタゾン、デプロドンプロピオン酸エステル、酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル、ヒドロコルチゾン酪酸エステル、プレドニゾロン、及びヒドロコルチゾン酪酸エステルからなる群から選ばれる1以上の化合物とNaHとを接触させると、両者が反応し、9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオン及び/又はその関連化合物(類縁体)を製造することができると予測している。
【実施例】
【0095】
<製造実施例1:化合物(I-1-1)の調製>
Betamethasone 17,21-dipropionate(ベタメタゾンジプロピオン酸エステル)はTokyo Chemical Industry社製を用いた。TLC(Thin Layer Chromatography)は、MERCK社製20×20cm、TLC Silicagel 60F254を使用した。展開溶媒は、n-Hexane-AcOEt(1:1.5)、検出器はAs ONE Handy UV Lamp SUV-4 254nmを使用した。
各種スペクトルはそれぞれ以下の機種を用いて測定した。
IR spectrum(赤外吸収スペクトル)は日本分光工業 FT/IR-410、1H NMR、13C NMRはバリアン型式UNITY INOVA 400、内部標準はTMSで測定し、δ値(ppm)で示した。単結晶自動X線構造解析はリガク製VariMaxSaturn CCD724αを用いた。
【0096】
Betamethasone 17,21-dipropionate 203mgをテトラヒドロフラン(東京化成工業株式会社製)4mLに溶かし、NaH(富士フイルム和光純薬株式会社製、Sodium Hydride,in Oil)を小薬匙一山加え、マグネチックスターラーで15時間攪拌後、水を加え、クロロホルムで抽出後、pH7まで水洗し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥させた後、ろ過し、溶媒を除去し、TLCで展開し、Rf(retention factor value)0.53の帯をアセトンで溶出し、溶媒を除去し、白色粉末状物質18mgを得た(収率40%)。以上は室温下で実施した。得られた白色粉末状物質を以下、化合物(I-1-1)と称する。
【0097】
化合物(I-1-1)について、赤外吸収スペクトル、
1H NMR、及び
13C NMRを測定し、さらに単結晶自動X線構造解析を行った。得られたIR chartを
図3、
1H NMR chartを
図4、
13C NMRchartを
図5、単結晶自動X線構造解析結果を
図6、
図7に示す。これら全ての解析結果のまとめと、それから決定された化合物(I-1-1)の化学構造式(9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオン)を
図8に示す。
【0098】
<製造実施例2:化合物(b)、化合物(c)の調製>
アンテベート(ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル)(富士フイルム和光純薬株式会社製)105mgをテトラヒドロフラン(東京化成工業株式会社製)3.5mLに溶かし、NaH(富士フイルム和光純薬株式会社製、Sodium Hydride,in Oil)を小薬匙一山加え、マグネチックスターラーで15時間攪拌後、水を加え、クロロホルムで抽出後、pH7まで水洗し、硫酸ナトリウムを加えて乾燥させた後、ろ過し、溶媒を除去し、TLCで展開(n-ヘキサン:酢酸エチル=1:3)し、Rf0.41付近の2本の帯をアセトンで溶出し、溶媒を除去し、白色粉末状物質5mgを得た。以上は室温下で実施した。得られた白色粉末状物質は、2種類の化合物(b)と化合物(c)の混合物であると推測される。化合物(b)及び化合物(c)は、9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオン又はその関連化合物であると推測される。
【0099】
以下の実施例は、患者(被験者)に、その効果や副反応について充分に説明し、承諾書を得てから行った。
【0100】
(クリームの調製)
所定量の化合物(I-1-1)をヒルドイドソフト軟膏0.3%(マルホ株式会社製)に加えて均一になるまで充分に混合し、化合物(I-1-1)を含むクリームを得た。
ヒルドイドソフト軟膏0.3%は、1g中に有効成分としてヘパリン類似物質を3.0mg含み、添加剤として、グリセリン、スクワラン、軽質流動パラフィン、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、白色ワセリン、サラシミツロウ、グリセリン脂肪酸エステル、ジブチルヒドロキシトルエン、エデト酸ナトリウム水和物、パラオキシ安息香酸メチル、及びパラオキシ安息香酸プロピルを含む、油中水型のクリーム剤である。
【0101】
(PSIスコア)
頭部以外の乾癬の局所的症状の重症度は、PSI(Psosiasis Severity Index)スコアにより評価した。PSIスコアは、紅斑、浸潤/肥厚、鱗屑の重症度をスコア化した指標であり、尋常性乾癬の特定の皮疹に対する治療効果を評価するために有用な指標である。
紅斑、浸潤/肥厚、鱗屑の重症度は、以下の表3の基準に従ってスコア化した。
【0102】
【0103】
紅斑、浸潤/肥厚、鱗屑のスコアから、以下の式(A)によりPSI合計スコアを算出した。
PSI合計スコア=PSI紅斑スコア+PSI浸潤/肥厚スコア+PSI鱗屑スコア
・・・式(A)
一般に、PSI合計スコアが5以下であると軽症、5より大きく20未満であると中等症、20以上であると重症である。
【0104】
(PSSI)
頭部の乾癬の局所的症状の重症度は、PSSI(Psoriasis Scalp Severity Index)スコアにより評価した。PSSIスコアは、頭部の尋常性乾癬の主な症状である紅斑、浸潤/肥厚、鱗屑の各皮膚所見を独立して評価するとともに、病変範囲も評価可能な指標である。
PSSIスコアは、臨床での観察(所見)と、マルホ株式会社が提供する「評価指標別尋常性乾癬症例写真」とを比べて決定した。
この尋常性乾癬症例写真は、各皮膚所見の重症度と病変面積が異なる複数の尋常性乾癬症例の写真に、それぞれPSSIスコアが書き添えられており、臨床においてPSSIスコアを簡便に決定するための一般的な評価ツールである。書き添えられたPSSIスコアは以下の方法で算出されたものである。
【0105】
頭部における各皮膚所見(紅斑、浸潤/肥厚、鱗屑)の重症度、及び頭部面積に対する頭部の尋常性乾癬の病変面積(%)をスコア化し、これらを計算式に当てはめてPSSIスコアを算出した。紅斑、浸潤/肥厚、鱗屑の重症度は、以下の表4の基準に従ってスコア化した。
【0106】
【0107】
紅斑、浸潤/肥厚、鱗屑のスコアから、以下の式(B)によりPSSI合計スコアを算出した。
PSSI合計スコア=(紅斑スコア+浸潤/肥厚スコア+鱗屑スコア)×病変範囲スコア ・・・式(B)
【0108】
<実施例1>
(被験者1のプロファイル)
79歳男性、乾癬を四肢に3年前に発症した。他院にてオテズラ錠と、ドボベット軟膏等を1年半処方されていた。しかし、鱗屑、紅斑は消えず、両下腿前面には手掌大の皮疹が残っていた。そこで、シクロスポリンカプセルの内服(25mgカプセルを4カプセル、1日2回)、及びドボベットフォーム(レオファーマ株式会社製)の外用(適量を1日1回)に替えて、約7カ月治療した。しかし、両下腿前面の鱗屑と紅斑は消えずに残っていた。
【0109】
(被験者1への化合物(I-1-1)の投与)
ドボベットフォームの外用は中止した上で、シクロスポリンの内服は同量で継続し、化合物(I-1-1)を2.9mg含むクリーム5gを処方し、1日1回FTU量(Finger Tip Unit、約0.5g)量を病変部に外用する治療を行った。
【0110】
(結果)
化合物(I-1-1)の外用開始前のPSI合計スコアは20であった。下腿前面の写真を
図9に示す。外用開始4ヶ月後、PSI合計スコアは3であった。下腿前面の写真を
図10に示す。重症であった乾癬が、(I-1-1)を含むクリームの外用により、軽症に改善した。副作用は観察されなかった。
【0111】
<実施例2>
(被験者2のプロファイル)
61歳男性。左側頭部に乾癬を数年前に発症した。以来、種々のステロイド外用剤(デルモベートスカルプローション、コムクロシャンプー、アンテベートローション等)を外用して軽快、増悪を繰り返していた。
【0112】
(被験者2への化合物(I-1-1)の投与)
それまでに使っていたステロイド外用剤の使用を中止し、化合物(I-1-1)5.8mgを含有するクリーム10gを処方し、1日1回FTUに相当する量を外用する治療を行った。
【0113】
(結果)
化合物(I-1-1)の外用開始前のPSSI合計スコアは16、外用開始後28日目のPSSI合計スコアは8であった。左側頭部の化合物(I-1-1)の外用開始前の写真を
図11に、外用開始後28日目の写真を
図12に示す。中等症であった乾癬が、化合物(I-1-1)を含むクリームの外用により、軽症に改善した。副作用は観察されなかった。
【0114】
<実施例3>
(被験者3のプロファイル)
48歳女性。乾癬を初めて発症した患者である。初診の2カ月前に症状に気づいた。前頭髪際部に鱗屑を付着した紅斑が2cm、長さ8cmの面積に出現した。
【0115】
(被験者3への化合物(I-1-1)の投与)
病変右半分に化合物(I-1-1)を2.9mg含むクリーム5g、左半分にはドボベットゲル(レオファーマ株式会社製)15gを処方し、各病変部に1日1回、FTU量を外用する治療を行った。
【0116】
(結果)
化合物(I-1-1)外用開始前 右 左
PSSI合計スコア 27 27
外用開始後14日目
PSSI合計スコア 0 2
前頭髪際部の化合物(I-1-1)の外用開始前の写真を
図13に、外用開始後14日目の写真を
図14に示す。化合物(I-1-1)を含むクリームを外用した右側は治療成功と評価した。副作用は観察されなかった。
【0117】
<実施例4>
(被験者4のプロファイル)
50歳男性。20年来乾癬(頭部、背部、腰部)の治療中。5、6年前から全手指の爪にも発症し、シクロスポリン、ドボベットフォーム等で治療していた。右下腿前面にのみ鱗屑を付着させた紅斑が残っていた。
【0118】
(被験者4への化合物(I-1-1)の投与)
シクロスポリン、ドボベットフォーム等の使用を中止した上で、右下腿前面の病変部に化合物(I-1-1)を11mg含むクリーム10gを1日1回FTU相当量外用する治療を行った。
【0119】
(結果)
化合物(I-1-1)の外用開始前のPSI合計スコア 15
外用開始52日目のPSI合計スコア 7
右下腿前面の化合物(I-1-1)の外用開始前の写真を
図15に、外用開始後52日目の写真を
図16に示す。中等症であった乾癬が、化合物(I-1-1)を含むクリームを外用した結果、軽症に改善した。副作用は観察されなかった。
【0120】
<実施例5>
(被験者5のプロファイル)
42歳男性。掌蹠膿疱症の患者である。2年前、両手掌に紅斑を伴う小膿疱が多発し始めた。1回他院を受診しただけであった。初診時、両手掌全体に淡紅色紅斑が右手掌には左手掌よりも多くの鱗屑が多発していたが、両手掌ともに水疱や膿疱は見られなかった。
【0121】
(被験者5への化合物(I-1-1)の投与)
右手掌には化合物(I-1-1)を8.1mg含むクリーム7g、左手掌には手持ちのドボベット軟膏(レオファーマ株式会社製)をそれぞれ1日1回FTU相当量を就寝前に外用する治療を行った。
【0122】
(結果)
3週後、右手掌の紅斑、鱗屑は、同心円状に左手掌より改善し、さらに右手掌では痒みが消失していて明らかに左右差を認めた。両手掌の化合物(I-1-1)の外用開始前の写真を
図17に、外用開始後3週目の写真を
図18に示す。化合物(I-1-1)を含むクリームによる改善効果が確認できた。副作用は観察されなかった。
【0123】
<実施例6>
(被験者6のプロファイル)
54歳女性。10年前から後頭髪際部に脂漏性皮膚炎を発症したと思われる患者である。当初から難治性で、何軒もの皮膚科を受診し、あらゆるステロイドローションを始め、最近ではドボベットゲルまで処方されていたが、全く効かなかったといって受診した。
【0124】
(被験者6への化合物(I-1-1)の投与)
化合物(I-1-1)を5mg含むクリーム10gを処方し、1日1回FTU相当量を外用する治療を行った。
【0125】
(結果)
28日後には、鱗屑、紅斑ともに全て消え、治癒した。後頭髪際部の化合物(I-1-1)の外用開始前の写真を
図19に、外用開始後28日目の写真を
図20に示す。化合物(I-1-1)を含むクリームによる改善効果が確認できた。副作用は観察されなかった。
【0126】
<実施例7>
(被験者7のプロファイル)
23歳男性。4年前にアトピー性皮膚炎を発症し、顔、四肢、体幹にかゆみを伴う紅斑、乾燥肌が診られた。他院にて種々の外用薬を処方されていた。
【0127】
(被験者7への化合物(I-1-1)の投与)
左肘窩及び左膝窩には、化合物(I-1-1)を3.2mg含むクリーム5g、右肘窩及び右膝窩には、アンテベート軟膏20gとヒルドイドソフトクリーム20gとの混合薬を処方し、1日1回FTU相当量を就寝前に外用する治療を行った。
【0128】
(結果)
15日後、左肘窩及び左膝窩のかゆみは消失し、左肘窩及び左膝窩の紅斑も右肘窩及び右膝窩に比べて軽快し、明らかに左右差を認めた。両肘窩及び両膝窩への外用薬開始時の写真を
図21に、外用開始15日目の写真を
図22に示す。化合物(I-1-1)を含むクリームによる治療効果は、アンテベート軟膏とヒルドイドソフトクリーム(1:1)の混合薬よりも大きいことが確認できた。副作用は観察されなかった。
【0129】
<実施例8>
(被験者8のプロファイル)
22歳男性。2年前にアトピー性皮膚炎をほぼ全身に発症したが放置していた。
【0130】
(被験者8への化合物(I-1-1)の投与)
左肘窩には、化合物(I-1-1)を8mg含むクリーム12.5g、右肘窩には、モイゼルト軟膏1% 20gを処方し、化合物(I-1-1)を含むクリームは1日1回、モイゼルト軟膏1%は1日2回FTU相当量を就寝前に外用する治療を行った。外用開始時のVAS(Visual Analogue Scale)は両肘窩共に40であった。
【0131】
VASは、アトピー性皮膚炎の掻痒の評価方法の一つである。患者がかゆみの程度を評価し、0~100mmの物差し上に示した数値である。想像されうる最悪のかゆみを100(mm)とし、かゆみなしを0(mm)とする。
【0132】
(結果)
14日後、両肘窩共に、かゆみ、紅斑等は改善したが、化合物(I-1-1)を含むクリームを使用していた左肘窩の方が、紅斑の消退傾向は、モイゼルト軟膏を使用していた右肘窩より顕著であった。VASは両肘窩共に20に改善した。両肘窩への外用薬開始時の写真を
図23に、外用開始14日目の写真を
図24に示す。化合物(I-1-1)を含むクリームによる治療効果は、モイゼルト軟膏と同等以上であることが確認できた。副作用は観察されなかった。
【0133】
<実施例9>
(被験者9のプロファイル)
14歳男性。2、3年以上前からアトピー性皮膚炎が悪化し、顔、四肢にかゆみを伴う紅斑、乾燥肌が激しく、他院にてステロイドを中心に外用及び内服で治療していたが難治性であった。
【0134】
(被験者9への化合物(I-1-1)の投与)
右大腿部には、化合物(I-1-1)を9.6mg含むクリーム15g、左大腿部には、アンテベート軟膏30gを処方し、それぞれ1日1回FTU相当量を就寝前に外用する治療を行った。外用開始時のVASは両大腿部共に80であった。
【0135】
(結果)
14日後、化合物(I-1-1)を含むクリームを使用していた右大腿部は、アンテベート軟膏を使用していた左大腿部とほぼ同様のレベルまで改善し、紅斑、乾燥肌も消え、かゆみも左右差なく、VASは両大腿部共に38に改善した。外用薬開始時の写真を
図25に、外用開始14日目の写真を
図26に示す。化合物(I-1-1)を含むクリームは、アンテベート軟膏とほぼ同等の効果があることが確認できた。副作用は観察されなかった。
【0136】
<実施例10>
(被験者10のプロファイル)
64歳女性。数か月前、両足底に紅斑、小水疱、鱗屑が多発し、掌蹠膿疱症を発症していた。初診時以来、ビタミンDとvery strongのステロイドの混合外用薬30gを外用していたが、増悪傾向にあった。
【0137】
(被験者10への化合物(I-1-1)の投与)
両足底に、化合物(I-1-1)を9mg含むクリーム14gを処方し、1日1回FTU相当量を就寝前に外用する治療を行った。
【0138】
(結果)
29日後、両足底の紅斑、小水疱、鱗屑ともに著明に減少した。外用開始時の写真を
図27に、外用開始29日目の写真を
図28に示す。化合物(I-1-1)を含むクリームは、それ以前に外用していたビタミンDとvery strongのステロイドの混合外用薬よりも効果があることが確認できた。副作用は観察されなかった。
【0139】
<実施例11>
(被験者11のプロファイル)
32歳女性。二年来、他院にて掌蹠膿疱症と診断され、ビタミンD軟膏、very strongのステロイド軟膏、及びヘパリン類似物質クリームを手掌、足縁に処方されていたが、ほとんど改善は見られなかった。
【0140】
(被験者11への化合物(I-1-1)の投与)
右足底内側縁に、化合物(I-1-1)を9.6mg含むクリーム15gを処方し、1日1回FTU相当量を就寝前に外用する治療を行った。
【0141】
(結果)
12日後、新たな紅斑局面が若干新生しているものの、全体的には紅斑、鱗屑、水疱は目立たず、治療効果が確認できた。外用開始時の写真を
図29に、外用開始12日目の写真を
図30に示す。副作用は観察されなかった。
【0142】
<実施例12>
(被験者12のプロファイル)
74歳男性。初診の2、3か月前、仙骨部に軽度の側圧痛があり、淡紅色でやや肥厚した直径1、2cm程度の病変が2つあることに気が付いた。手指で触れると、鱗屑様物が剥がれ落ちた。病変が増大傾向にあったため、受診した。慢性湿疹であると診断した。
【0143】
(被験者12への化合物(I-1-1)の投与)
病変部に、化合物(I-1-1)を3mg含むクリーム5gを処方し、1日1回FTU相当量を就寝前に外用する治療を行った。1か月後に同じクリーム20gを追加処方した。
【0144】
(結果)
4、5か月後、病変は完治した。外用開始時の写真を
図31に、外用開始6か月半の写真を
図32に示す。副作用は観察されなかった。
【要約】
【課題】皮膚疾患に対して、より効果の高い治療薬を提供する。9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオンを容易に製造する方法を提供する。
【解決手段】式(I)で表される化合物及び式(II)で表される化合物からなる群から選ばれる1以上の化合物(a)を含む、皮膚疾患治療薬。
ベタメタゾンジプロピオン酸エステル、クロベタゾールプロピオン酸エステル、酪酸プロピオン酸ベタメタゾン、ベタメタゾン吉草酸エステル、クロベタゾン酪酸エステル、及びジフルプレドナートからなる群から選ばれる1以上の化合物(B)とNaHとを接触させる工程を含む、9α-フルオロ-11β-ヒドロキシ-16β-メチルアンドロスタ-1,4-ジエン-3,17-ジオンの製造方法。
【選択図】なし