(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-11
(45)【発行日】2025-03-19
(54)【発明の名称】エレクトレットシート及び圧電センサ
(51)【国際特許分類】
H01G 7/02 20060101AFI20250312BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20250312BHJP
H10N 30/857 20230101ALI20250312BHJP
【FI】
H01G7/02 D
A61B5/11 100
H01G7/02 C
H01G7/02 E
H10N30/857
(21)【出願番号】P 2019570165
(86)(22)【出願日】2019-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2019033090
(87)【国際公開番号】W WO2020040301
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-07-12
【審判番号】
【審判請求日】2024-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2018157398
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 哲裕
(72)【発明者】
【氏名】神谷 信人
(72)【発明者】
【氏名】白坂 康之
(72)【発明者】
【氏名】葛山 裕太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 良輔
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】▲高▼橋 徳浩
【審判官】山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-93167(JP,A)
【文献】特開2017-64338(JP,A)
【文献】特開2017-139469(JP,A)
【文献】特開2013-258320(JP,A)
【文献】特開2014-100868(JP,A)
【文献】特開2009-246327(JP,A)
【文献】特開2006-245398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC A61B 5/11
H01G 7/02
H10N 30/857
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を含む合成樹脂シートを帯電させてなり、
透気度が10~1000sec/100mLであることを特徴とするエレクトレットシート。
【請求項2】
厚み方向に50%圧縮した時のJIS K6767に準拠した圧縮永久歪みが20%以下であることを特徴とする請求項1に記載のエレクトレットシート。
【請求項3】
開口端の最大長径が1μm以下である貫通孔を有する、請求項1又は請求項2に記載のエレクトレットシート。
【請求項4】
貫通孔の開口端の平均長径が500nm以下である、請求項3に記載のエレクトレットシート。
【請求項5】
空孔率が40%以上70%以下である、請求項1~4の何れか1項に記載のエレクトレットシート。
【請求項6】
孔密度が15個/μm
2以上である、請求項1~5いずれか1項に記載のエレクトレットシート。
【請求項7】
請求項1~
6の何れか1項に記載のエレクトレットシートと、上記エレクトレットシートの第1の面に積層されたシグナル電極と、上記エレクトレットシートの第2の面に積層されたグランド電極とを有することを特徴とする圧電センサ。
【請求項8】
請求項1~
6の何れか1項に記載のエレクトレットシートの製造方法であって、
合成樹脂シートを得る押出工程と、
上記押出工程で得られた合成樹脂シートをその表面温度が、[(合成樹脂の融点)-30℃]以上[(合成
樹脂の融点)-1℃]以下となるようにして養生する養生工程と、
上記養生工程後に上記合成樹脂シートを一軸延伸する延伸工程と、
上記延伸工程後の上記合成樹脂シートをアニールするアニーリング工程と、
上記合成樹脂シートを帯電させる帯電工程とを含む、エレクトレットシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトレットシート及び圧電センサに関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトレットシートは絶縁性の高分子材料に電荷を注入することにより、内部に永久帯電を付与した材料である。
【0003】
合成樹脂製の発泡シートは気泡を形成している気泡膜及びこの近傍部を帯電させることによってセラミックスに匹敵する非常に高い圧電性を示すことが知られている。このような合成樹脂製の発泡シートを用いたエレクトレットは、その優れた感度を利用して音響ピックアップや各種圧力センサなどへの応用が提案されている。
【0004】
エレクトレットシートとしては、特許文献1に、圧縮弾性率が異なる二枚の合成樹脂シートが積層一体化された積層シートを帯電させたエレクトレットシートが開示されており、合成樹脂シートとして合成樹脂発泡シートが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のエレクトレットシートは、独立気泡を有する発泡シートから構成されていることから、圧縮回復性が高いものではなく、押圧力を繰り返し加えられると、圧縮に対する回復力が徐々に低下し、使用するにしたがって圧電性が低下するという問題点を有する。
【0007】
更に、上記エレクトレットシートは、例えば、生体信号を測定するために、人体の皮膚表面に貼着させた場合、蒸れを生じるという問題点を生じる。
【0008】
本発明は、繰り返し加えられる押圧力に対する耐久性、即ち、圧縮回復性に優れると共に、人体の皮膚に貼着させて用いても蒸れを抑制することができるエレクトレットシートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のエレクトレットシートは、透気度が10~1000sec/100mLであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のエレクトレットシートは、上述の如き構成を有していることから、繰り返し加えられる押圧力に対する耐久性、即ち、圧縮回復性に優れているので、長期間に亘って優れた圧電性を安定的に保持する。
【0011】
更に、本発明のエレクトレットシートは、例えば、人体の皮膚に貼着させて用いても蒸れを概ね抑制することができる。従って、本発明のエレクトレットシートを用いた圧電センサを使用することによって、生体信号を測定される者に負担をかけることなく、呼吸数、心拍数及び体動などの生体信号を容易に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
エレクトレットシートは、エレクトレットシート本体を含有している。エレクトレットシートのエレクトレットシート本体は帯電されている。即ち、エレクトレットシート本体が帯電されてエレクトレットシートが構成されている。エレクトレットシート本体は、合成樹脂を含有している。エレクトレットシートは、合成樹脂含み且つ帯電されたエレクトレットシート本体を含む。合成樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリ乳酸、液晶樹脂などが挙げられ、ポリオレフィン系樹脂を含むことが好ましく、ポリプロピレン系樹脂を含むことがより好ましい。
【0014】
合成樹脂は絶縁性に優れていることが好ましく、合成樹脂としては、JIS K6911に準拠して印可電圧500Vにて電圧印可1分後の体積固有抵抗値(以下、単に「体積固有抵抗値」という)が1.0×1010Ω・m以上である合成樹脂が好ましい。
【0015】
合成樹脂の上記体積固有抵抗値は、エレクトレットシートがより優れた圧電性を有することから、1.0×1012Ω・m以上が好ましく、1.0×1014Ω・m以上がより好ましい。
【0016】
ポリエチレン系樹脂としては、エチレン単独重合体、又は、エチレン成分を50質量%を超えて含有するエチレンと少なくとも1種の炭素数が3~20のα―オレフィンとの共重合体を挙げることができる。エチレン単独重合体としては、高圧下でラジカル重合させた低密度ポリエチレン(LDPE)、中低圧で触媒存在下で重合させた中低圧法高密度ポリエチレン(HDPE)などを挙げることができる。エチレンとα-オレフィンを共重合させることで直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を得ることができる。α―オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどが挙げられ、炭素数が4~10のα-オレフィンが好ましい。なお、直鎖状低密度ポリエチレン中におけるα-オレフィンの含有量は通常、1~15質量%である。
【0017】
ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン成分を50質量%を超えて含有しておればよく、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)、プロピレンと少なくとも1種のプロピレン以外の炭素数が20以下のα-オレフィンとの共重合体が好ましい。なお、ポリプロピレン系樹脂は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。又、プロピレンと少なくとも1種のプロピレン以外の炭素数が20以下のα-オレフィンとの共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体の何れであってもよいが、ランダム共重合体が好ましい。ポリプロピレン系樹脂としてはプロピレン-α-オレフィンランダム共重合体が好ましい。ポリオレフィン系樹脂中におけるプロピレン-α-オレフィンランダム共重合体の含有量は、60~100質量%が好ましく、70~100質量%がより好ましく、85~100質量%が特に好ましく、96~100質量%が最も好ましい。プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体の含有量が上記範囲内であると、エレクトレットシートは、高温環境下においても高い圧電性を保持することができる。
【0018】
なお、プロピレンと共重合されるα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどが挙げられる。
【0019】
ポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、3万~50万が好ましく、5万~48万がより好ましい。ポリプロピレン系樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、25万~50万が好ましく、28万~48万がより好ましい。ポリエチレン系樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、3万~25万が好ましく、5万~20万がより好ましい。重量平均分子量が上記範囲内であるポリオレフィン系樹脂によれば、エレクトレットシートの圧縮回復性が一層向上し、エレクトレットシートは長期間に亘って優れた圧電性を保持する。
【0020】
ポリオレフィン系樹脂の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、特に限定されないが、5~30が好ましく、7.5~25がより好ましい。ポリプロピレン系樹脂の分子量分布は、特に限定されないが、7.5~12が好ましく、8~11がより好ましい。ポリエチレン系樹脂の分子量分布は、特に限定されないが、5.0~30が好ましく、8.0~25がより好ましい。分子量分布が上記範囲内であるポリオレフィン系樹脂によれば、エレクトレットシートの圧縮回復性が一層向上し、エレクトレットシートは長期間に亘って優れた圧電性を保持する。
【0021】
ここで、ポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量及び数平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって測定されたポリスチレン換算した値である。具体的には、ポリオレフィン系樹脂6~7mgを採取し、採取したポリオレフィン系樹脂を試験管に供給した上で、試験管に0.05質量%のBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)を含んでいるo-DCB(オルトジクロロベンゼン)溶液を加えてポリオレフィン系樹脂濃度が1mg/mLとなるように希釈して希釈液を作製する。
【0022】
溶解濾過装置を用いて145℃にて回転数25rpmにて1時間に亘って上記希釈液を振とうさせてポリオレフィン系樹脂をo-DCB溶液に溶解させて測定試料とする。この測定試料を用いてGPC法によってポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量及び数平均分子量を測定することができる。
【0023】
ポリオレフィン系樹脂における重量平均分子量及び数平均分子量は、例えば、下記測定装置及び測定条件にて測定することができる。
測定装置 TOSOH社製 商品名「HLC-8121GPC/HT」
測定条件 カラム:TSKgelGMHHR-H(20)HT×3本
TSKguardcolumn-HHR(30)HT×1本
移動相:o-DCB 1.0mL/分
サンプル濃度:1mg/mL
検出器:ブライス型屈折計
標準物質:ポリスチレン(TOSOH社製 分子量:500~8420000)
溶出条件:145℃
SEC温度:145℃
【0024】
ポリオレフィン系樹脂の融点は、特に限定されないが、130~170℃が好ましく、133~165℃がより好ましい。ポリプロピレン系樹脂の融点は、特に限定されないが、160~170℃が好ましく、160~165℃がより好ましい。ポリエチレン系樹脂の融点は、特に限定されないが、130~140℃が好ましく、133~139℃がより好ましい。融点が上記範囲内であるポリオレフィン系樹脂によれば、エレクトレットシートの圧縮回復性が向上し、エレクトレットシートは長期間に亘って優れた圧電性を保持する。
【0025】
なお、本発明において、ポリオレフィン系樹脂の融点は、示差走査熱量計(例えば、セイコーインスツル社 装置名「DSC220C」など)を用い、下記手順に従って測定することができる。先ず、ポリオレフィン系樹脂10mgを25℃から昇温速度10℃/分にて250℃まで加熱し、250℃にて3分間に亘って保持する。次に、ポリオレフィン系樹脂を250℃から降温速度10℃/分にて25℃まで冷却して25℃にて3分間に亘って保持する。続いて、ポリオレフィン系樹脂を25℃から昇温速度10℃/分にて250℃まで再加熱し、この再加熱工程における吸熱ピークの頂点の温度を、ポリオレフィン系樹脂の融点とする。
【0026】
エレクトレットシート本体は、貫通孔を有することが好ましい。貫通孔は、互いに隣接する微小孔部同士が連続的に連なることによって形成される貫通孔を有することが好ましい。貫通孔は、エレクトレットシート本体の厚み方向に貫通していることが好ましい。貫通孔は、エレクトレットシート本体内において、エレクトレットシート本体の厚み方向に延びており、貫通孔の一端がエレクトレットシート本体の一面に、貫通孔の他端がエレクトレットシート本体の他面に開口している。貫通孔を有することで、透気度を上記範囲に調整することが容易となる。その結果、圧縮回復性が向上すると共に、人体の皮膚に貼着させて用いても蒸れを抑制することができる。
【0027】
エレクトレットシート本体は、微小孔部を有することが好ましい。微小孔部は、エレクトレットシート本体内に不規則に形成されていることが好ましい。
【0028】
貫通孔は、エレクトレットシート本体の厚み方向に蛇行しながら延びていても直線状に延びていてもよいが、蛇行しながら延びていることが好ましい。貫通孔が蛇行しながら延びていると、貫通孔及び微小孔部の壁面部近傍に電荷を長期間に亘って安定的に保持することができる。その結果、エレクトレットシートは、長期間に亘って安定的により優れた圧電性を保持することができる。
【0029】
貫通孔は、その一部に分岐部が形成されていてもよく、この分岐部の端部はエレクトレットシート本体の表面に開口していてもいなくてもよいが、エレクトレットシート本体の表面に開口していることが好ましい。
【0030】
エレクトレットシートの透気度は、10~1000sec/100mLである。透気度の好ましい下限は20sec/100mL、より好ましい上限は600sec/100mLであり、より好ましい下限は30sec/100mL、より好ましい上限は150sec/100mLであり、特に好ましい下限は30sec/100mL、特に好ましい上限は80sec/100mLである。エレクトレットシートの透気度が10sec/100mL以上であると、エレクトレットシートの電荷保持性が向上し、エレクトレットシートは長期間に亘って優れた圧電性を維持することができる。又、エレクトレットシートを人体の皮膚に貼着させて用いても蒸れを一層抑制することができる。エレクトレットシートの透気度が1000sec/100mL以下であると、エレクトレットシートの圧縮回復性が向上し、エレクトレットシートは長期間に亘って優れた圧電性を保持すると共に、人体の皮膚に貼着させて用いても蒸れを一層抑制することができる。透気度は、貫通孔の形状、貫通孔の開口端の長径及び孔密度などにより調整することができる。
【0031】
なお、エレクトレットシートの透気度は、23℃、相対湿度65%の雰囲気下でJIS P8117に準拠してエレクトレットシートの任意の10箇所の透気度を測定し、その相加平均値を算出することにより得られた値とする。
【0032】
貫通孔が蛇行しながら延びている場合、エレクトレットシートの透気度は、50~1000sec/100mLが好ましい。透気度が上記範囲内であることで、繰り返し加えられる押圧力に対する耐久性、即ち、圧縮回復性に一層優れる。更に、人体の皮膚に貼着させて用いた場合に、蒸れを一層抑制することができる。エレクトレットシートの透気度は、80~600sec/100mLがより好ましく、100~300sec/100mLが特に好ましい。
【0033】
貫通孔が直線状に延びている場合、エレクトレットシートの透気度は、10~300sec/100mLが好ましい。透気度が上記範囲内であることで、繰り返し加えられる押圧力に対する耐久性、即ち、圧縮回復性に一層優れる。更に、エレクトレットシートを人体の皮膚に貼着させて用いた場合に、蒸れを一層抑制することができる。エレクトレットシートの透気度は、20~100sec/100mLがより好ましく、30~80sec/100mLが特に好ましい。
【0034】
なお、貫通孔が蛇行又は直線状に延びているか否かは下記基準に基づいて判断される。エレクトレットシートをその厚み方向に切断して倍率3000倍の拡大写真を撮影する。拡大写真において、貫通孔における両側の開口端の中心同士を結ぶ直線を基準線として描く。なお、開口端の中心とは、拡大写真において、開口端縁同士を結ぶ直線上にあり且つこの直線の中央に位置する点をいう。貫通孔において基準線から最も離間している部分と、貫通孔における両側の開口端の中心のそれぞれとを結ぶ直線を判定線として2本描く。基準線と、双方の判定線とがなす内角が15°未満である場合、貫通孔は直線状に延びているとする。基準線と、何れかの判定線とがなす内角が15°以上である場合、貫通孔は蛇行しながら延びているとする。
【0035】
エレクトレットシート本体において、貫通孔の開口端、即ち、微小孔部が連続的に連なって形成された貫通孔の開口端の最大長径は1μm以下が好ましく、100nm~900nmがより好ましく、200~600nmが特に好ましい。貫通孔の開口端の最大長径が1μm以下であると、エレクトレットシートの電荷保持性が向上し、エレクトレットシートは長期間に亘って優れた圧電性を維持することができる。貫通孔の開口端の最大長径が100nm以上であると、エレクトレットシートの圧縮回復性が一層向上し、エレクトレットシートは長期間に亘ってより優れた圧電性を保持することができる。又、エレクトレットシートを人体の皮膚に貼着させて用いても、蒸れを一層抑制することができる。
【0036】
エレクトレットシート本体において、貫通孔の開口端の平均長径は500nm以下が好ましく、100nm~500nmがより好ましく、200nm~500nmが特に好ましく、250~350nmが最も好ましい。微小孔部の開口端の平均長径が500nm以下であると、エレクトレットシートの電荷保持性が一層向上し、エレクトレットシートは長期間に亘ってより優れた圧電性を維持することができる。貫通孔の開口端の平均長径が100nm以上であると、エレクトレットシートの圧縮回復性が一層向上し、エレクトレットシートは長期間に亘ってより優れた圧電性を保持することができる。又、エレクトレットシートを人体の皮膚に貼着させて用いても、蒸れを一層抑制することができる。
【0037】
なお、エレクトレットシート本体における貫通孔の開口端の最大長径及び平均長径は次のようにして測定される。先ず、エレクトレットシートの表面をカーボンコーティングする。次に、エレクトレットシートの表面における任意の10個所を走査型電子顕微鏡を用いて倍率1万にて撮影する。なお、撮影範囲は、エレクトレットシートの表面において縦9.6μm×横12.8μmの平面長方形の範囲とする。
【0038】
得られた写真に現れている各貫通孔の開口端の長径を測定する。なお、貫通孔の開口端の長径とは、この貫通孔の開口端を包囲し得る最小径の真円の直径とする。撮影範囲と、撮影範囲でない部分とに跨がって存在している貫通孔については、測定対象から除外する。そして、写真に現れている貫通孔における開口端の長径のうち最大の長径を、エレクトレットシート本体の貫通孔の開口端の最大長径とする。写真に現れている各貫通孔における開口端の長径の相加平均値を、エレクトレットシート本体の貫通孔の開口端の平均長径とする。
【0039】
エレクトレットシートの孔密度は、15個/μm2以上が好ましく、17個/μm2以上がより好ましい。エレクトレットシートの孔密度が15個/μm2以上であると、エレクトレットシートの圧縮回復性が一層向上し、エレクトレットシートは長期間に亘ってより優れた圧電性を保持することができる。また、エレクトレットシートを人体の皮膚に貼着させて用いても、蒸れを一層抑制することができる。エレクトレットシートの孔密度は50個/μm2以下が好ましく、40個/μm2以下がより好ましく、35個/μm2以下が特に好ましい。エレクトレットシートの孔密度が50個/μm2以下であると、エレクトレットシートの電荷保持性が一層向上し、エレクトレットシートは長期間に亘ってより優れた圧電性を維持することができる。
【0040】
なお、エレクトレットシートの孔密度は、下記の要領で測定する。先ず、エレクトレットシート表面の任意の部分において、縦9.6μm×横12.8μmの平面長方形状の測定部分を定め、この測定部分を倍率1万倍にて写真撮影する。そして、測定部分において貫通孔の開口端の個数を測定し、この個数を122.88μm2(9.6μm×12.8μm)で除すことによって孔密度を算出することができる。なお、測定部分と、測定部分でない部分とに跨がって存在している貫通孔は0.5個として数える。
【0041】
エレクトレットシートの空孔率は、40~70%が好ましく、45~65%がより好ましく、50~60%が特に好ましい。空孔率が上記範囲内であることで、エレクトレットシートの圧縮回復性が一層向上し、エレクトレットシートは長期間に亘ってより優れた圧電性を保持することができる。また、エレクトレットシートを人体の皮膚に貼着させて用いても、蒸れを一層抑制することができる。
【0042】
なお、エレクトレットシートの空孔率は下記の要領で測定することができる。先ず、エレクトレットシートを切断することにより縦10cm×横10cmの平面正方形状(面積100cm2)の試験片を得る。次に、試験片の重量W(g)を及び厚みT(cm)を測定し、下記により見掛け密度ρ(g/cm3)を算出する。なお、試験片の厚みは、ダイヤルゲージ(例えば、株式会社ミツトヨ製 シグナルABSデジマチックインジケータ)を用いて、試験片の厚みを15箇所測定し、その相加平均値とする。そして、この見掛け密度ρ(g/cm3)及びエレクトレットシートを構成している合成樹脂自体の密度ρ0(g/cm3)を用いて下記に基づいてエレクトレットシートの空孔率P(%)を算出することができる。エレクトレットシートを構成している合成樹脂自体の密度ρ0(g/cm3)は、エレクトレットシートから気泡を除いた状態における質量と体積から算出した値である。気泡を除く処理としては、加熱溶融後に冷却する方法や超臨界状態にて処理する方法などが挙げられる。
見掛け密度ρ(g/cm3)=W/(100×T)
空孔率P[%]=100×[(ρ0-ρ)/ρ0]
【0043】
エレクトレットシートについて、厚み方向に50%圧縮したときのJIS K6767に準拠した圧縮永久歪みは20%以下であることが好ましい。上記圧縮永久ひずみは、10%以上20%以下であることがより好ましく、13%以上18%以下であることがさらに好ましい。圧縮永久歪みが20%以下であると、エレクトレットシートの圧縮回復性が一層向上し、エレクトレットシートは長期間に亘ってより優れた圧電性を保持する。
【0044】
エレクトレットシートの厚みは、10~300μmが好ましく、12~100μmがより好ましく、13~50μmがより好ましく、14~30μmが特に好ましい。エレクトレットシートの厚みが10μm以上であると、エレクトレットシート内に電荷をより保持することができ、エレクトレットシートの圧電性が一層向上する。エレクトレットシートの厚みが300μm以下であると、エレクトレットシートの貫通孔及び微小孔部の壁部近傍に正電荷及び負電荷を分極状態でより効果的に保持させることができ、エレクトレットシートの圧電性の安定性を一層向上させることができる。
【0045】
次に、エレクトレットシートの製造方法について説明する。エレクトレットシートの製造方法は特に限定されないが、下記の製造方法が好ましい。
【0046】
エレクトレットシートは、下記工程、
合成樹脂を押出機に供給して溶融混練し、上記押出機の先端に取り付けたTダイから押出すことにより合成樹脂シートを得る押出工程と、
上記押出工程で得られた上記合成樹脂シートをその表面温度が(合成樹脂の融点-30℃)~(合成樹脂樹脂の融点-1℃)となるようにして1分以上養生する養生工程と、
上記養生工程後の上記合成樹脂シートを延伸倍率1.5~2.8倍にて一軸延伸する延伸工程と、
上記延伸工程後の上記合成樹脂シートをアニールしてエレクトレットシート本体を製造するアニーリング工程と、
上記エレクトレットシート本体を帯電させる帯電工程と
を含む方法によって製造することができる。以下、エレクトレットシートの製造方法について、順を追って説明する。
【0047】
(押出工程)
先ず、合成樹脂を押出機に供給して溶融混練し、押出機の先端に取り付けたTダイから押出すことにより合成樹脂シートを得る押出工程を行う。
【0048】
合成樹脂を押出機にて溶融混練する際の合成樹脂の温度は、(合成樹脂の融点+20℃)~(合成樹脂の融点+100℃)が好ましく、(合成樹脂の融点+25℃)~(合成樹脂の融点+80℃)がより好ましい。合成樹脂の温度が上記範囲内であると、合成樹脂の配向性が向上し、合成樹脂のラメラを高度に形成することができる。
【0049】
合成樹脂を押出機からシート状に押出す際におけるドロー比は、50~300が好ましく、55~280がより好ましく、65~250が特に好ましく、68~250が最も好ましい。ドロー比が50以上であると、合成樹脂を充分に分子配向させて、合成樹脂のラメラを充分に生成させることができる。ドロー比が、300以下であると、合成樹脂シートの製膜安定性が向上し、合成樹脂シートの厚み精度及び幅精度を向上させることができる。
【0050】
なお、ドロー比とは、TダイのリップのクリアランスをTダイから押出された合成樹脂シートの厚みで除した値をいう。Tダイのリップのクリアランスの測定は、JIS B7524に準拠したすきまゲージ(例えば、株式会社永井ゲージ製作所製 JISすきまゲージ)を用いてTダイのリップのクリアランスを10箇所以上測定し、その相加平均値を求めることにより行うことができる。また、Tダイから押出された合成樹脂シートの厚みは、ダイヤルゲージ(例えば、株式会社ミツトヨ製 シグナルABSデジマチックインジケータ)を用いてTダイから押出された合成樹脂シートの厚みを10箇所以上測定し、その相加平均値を求めることにより行うことができる。
【0051】
合成樹脂シートの製膜速度は、10~300m/分が好ましく、15~250m/分がより好ましく、15~30m/分が特に好ましい。合成樹脂シートの製膜速度が10m/分以上であると、合成樹脂を充分に分子配向させて、合成樹脂のラメラを充分に生成させることができる。また、合成樹脂シートの製膜速度が300m/分以下であると、合成樹脂シートの製膜安定性が向上し、合成樹脂シートの厚み精度及び幅精度を向上させることができる。
【0052】
Tダイから押出された合成樹脂シートをその表面温度が(合成樹脂の融点-100℃)以下となるまで冷却することが好ましい。これにより、合成樹脂が結晶化してラメラを生成することを促進させることができる。溶融混練した合成樹脂を押出すことにより、合成樹脂シートを構成している合成樹脂分子を予め配向させた上で、合成樹脂シートを冷却することにより、合成樹脂が配向している部分においてラメラの生成を促進させることができる。
【0053】
冷却された合成樹脂シートの表面温度は、合成樹脂の融点よりも100℃低い温度以下が好ましく、合成樹脂の融点よりも140~110℃低い温度がより好ましく、合成樹脂の融点よりも135~120℃低い温度が特に好ましい。冷却された合成樹脂シートの表面温度が合成樹脂の融点よりも100℃低い温度以下であると、合成樹脂シートを構成している合成樹脂のラメラを十分に生成することができる。
【0054】
(養生工程)
次に、上述した押出工程により得られた合成樹脂シートを養生する。この合成樹脂シートの養生工程は、押出工程において合成樹脂シート中に生成させたラメラを成長させるために行う。このことにより、合成樹脂シートの押出方向に結晶化部分(ラメラ)と非結晶部分とが交互に配列してなる積層ラメラ構造を形成させることができ、後述する合成樹脂シートの延伸工程において、ラメラ内ではなく、ラメラ間において亀裂を発生させ、この亀裂を起点として微小な貫通孔及び微小孔部を形成することができる。
【0055】
合成樹脂シートの養生温度は、(合成樹脂の融点-30℃)~(合成樹脂の融点-1℃)が好ましく、(合成樹脂の融点-25℃)~(合成樹脂の融点-5℃)がより好ましい。合成樹脂シートの養生温度が(合成樹脂の融点-30℃)以上であると、合成樹脂の分子を十分に配向させてラメラを十分に成長させることができる。また、合成樹脂シートの養生温度が(合成樹脂の融点-1℃)以下であると、合成樹脂の分子を十分に配向させてラメラを十分に成長させることができる。なお、合成樹脂シートの養生温度とは、合成樹脂シートの表面温度をいう。
【0056】
合成樹脂シートの養生時間は、1分以上が好ましく、3分以上がより好ましく、5分以上が特に好ましく、10分以上が最も好ましい。合成樹脂シートを1分以上養生させることにより、合成樹脂シートのラメラを十分に且つ均一に成長させることができる。また、養生時間が長すぎると、合成樹脂シートが熱劣化する虞れがある。したがって、養生時間は、30分以下が好ましく、20分以下がより好ましい。
【0057】
(延伸工程)
次に、養生工程後の合成樹脂シートを一軸延伸する延伸工程を行う。延伸工程では、合成樹脂シートを好ましくは押出方向にのみ一軸延伸する。合成樹脂シートを一軸延伸することによって、エレクトレットシートの透気度を上記範囲内に調整しやすい。又、ラメラ間の非結晶部において円滑に亀裂を発生させて、エレクトレットシート本体に微小孔部及び貫通孔を生成することができる。
【0058】
延伸工程における合成樹脂シートの延伸方法としては、合成樹脂シートを一軸延伸することができれば、特に限定されず、例えば、合成樹脂シートを一軸延伸装置を用いて所定温度にて一軸延伸する方法などが挙げられる。合成樹脂シートの延伸は、複数回分割して行う逐次延伸が好ましい。逐次延伸をすることによって、透気度を上記範囲内に調整しやすい。
【0059】
エレクトレットシート本体内に蛇行しながら延びる貫通孔を形成する場合には、合成樹脂シートの延伸時における歪み速度は、200~350%/分が好ましく、200~300%/分がより好ましく、250~300%/分が特に好ましい。
【0060】
エレクトレットシート本体内に直線状に延びる貫通孔を形成する場合には、合成樹脂シートの延伸時における歪み速度は、230%/分以下が好ましく、200%/分以下がより好ましく、150%/分以下が特に好ましい。上記延伸時における歪み速度の下限は特に限定されないが、生産性の観点から10%/分以上が好ましい。
【0061】
合成樹脂シートの延伸時における歪み速度とは、下記式に基づいて算出された値をいう。なお、延伸倍率λ[%]、ライン搬送速度V[m/分]及び延伸区間路長F[m]に基づいて算出される、単位時間当たりの変形歪みε[%/分]をいう。ライン搬送速度Vとは、延伸区間の入口での合成樹脂シートの搬送速度をいう。延伸区間路長Fとは、延伸区間の入口から出口までの搬送距離をいう。
歪み速度ε=λ×V/F
【0062】
延伸工程において、合成樹脂シートの表面温度は、(合成樹脂の融点-100℃)~(合成樹脂の融点-5℃)が好ましく、(合成樹脂の融点-30℃)~(合成樹脂の融点-10℃)がより好ましい。上記表面温度が上記範囲内にあると、合成樹脂シートを破断させることなく、ラメラ間の非結晶部において円滑に亀裂を発生させて微小孔部及び貫通孔を生成することができる。
【0063】
延伸工程において、合成樹脂シートの延伸倍率は、1.5~3.0倍が好ましく、2.0~2.9倍がより好ましく、2.3~2.8倍が特に好ましい。上記延伸倍率が上記範囲内であると、合成樹脂シートに微小孔部を均一に形成することができ、エレクトレットシートを用いて構成された圧電センサの精度を向上させることができる。
【0064】
なお、合成樹脂シートの延伸倍率とは、延伸後の合成樹脂シートの長さを延伸前の合成樹脂シートの長さで除した値をいう。
【0065】
(アニーリング工程)
次に、延伸工程後の合成樹脂シートにアニール処理を施してエレクトレットシート本体を製造するアニーリング工程を行う。このアニーリング工程は、上述した延伸工程において加えられた延伸によって合成樹脂シートに生じた残存歪みを緩和して、得られるエレクトレットシートに加熱による熱収縮が生じることを抑えるために行われる。
【0066】
アニーリング工程における合成樹脂シートの表面温度は、(合成樹脂の融点-40℃)~(合成樹脂の融点-5℃)が好ましい。上記表面温度が上記範囲内であると、延伸工程で形成された貫通孔の閉塞を防止することができる。その結果、エレクトレットシートの圧縮回復性が一層向上し、エレクトレットシートは長期間に亘って一層優れた圧電性を保持することができる。また、エレクトレットシートを人体の皮膚に貼着させて用いても、蒸れを一層抑制することができる。
【0067】
(帯電工程)
アニーリング工程で製造されたエレクトレットシート本体を帯電させることによってエレクトレットシート本体に圧電性を発現させてエレクトレットシートを製造することができる。
【0068】
エレクトレットシート本体を帯電させる方法としては、特に限定されず、例えば、エレクトレットシート本体に直流電解を加える方法などが挙げられる。
【0069】
エレクトレットシート本体に直流電界を加える方法としては、特に限定されず、例えば、下記の方法が挙げられる。
(1)エレクトレットシート本体を一対の平板電極で挟持し、帯電させたい表面に接触させている平板電極を高圧直流電源に接続すると共に他方の平板電極をアースし、エレクトレットシート本体に直流又はパルス状の高電圧を印加して合成樹脂に電荷を注入してエレクトレットシート本体を帯電させる方法。
(2)エレクトレットシート本体の第1の面に、アースされた平板電極を密着状態に重ね合わせ、エレクトレットシート本体の第2の面側に所定間隔を存して直流の高圧電源に電気的に接続された針状電極又はワイヤー電極を配設する。そして、針状電極の先端又はワイヤー電極の表面近傍への電界集中によりコロナ放電を発生させ、空気分子をイオン化させて、針状電極又はワイヤー電極の極性により発生した空気イオンを反発させてエレクトレットシート本体を帯電させる方法。
【0070】
エレクトレットシート本体に直流電界を加える時の直流処理電圧の絶対値は、5~40kVが好ましく、10~30kVがより好ましい。直流処理電圧を上記範囲に調整することによって、得られるエレクトレットシートの高温における圧電性の保持性が向上する。
【0071】
(圧電センサ)
エレクトレットシート1の第1の面(一方の主面)にシグナル電極2を積層又は積層一体化し且つ第2の面(他方の主面)にグランド電極3を積層し又は積層一体化することによって圧電センサが構成される。そして、グランド電極3を基準電極としてシグナル電極2の電位を測定することによって、エレクトレットシートにて発生した電位を測定することができる。
【0072】
シグナル電極は、エレクトレットシート1の第1の面(一方の主面)に必要に応じて固定剤を介して積層一体化されていることが好ましい。同様に、グランド電極は、エレクトレットシート1の第2の面(他方の主面)に必要に応じて固定剤を介して積層一体化されていることが好ましい。なお、シグナル電極2及びグランド電極3としては、導電性を有しておれば、特に限定されず、例えば、銅箔、アルミニウム箔などの金属シート及び導電性膜などが挙げられる。
【0073】
シグナル電極2及びグランド電極3を導電性膜で構成する場合、導電性膜は、電気絶縁シート上に形成された上で、エレクトレットシート上に積層一体化されてもよいし、エレクトレットシートの表面に直接、形成されてもよい。電気絶縁シート又はエレクトレットシート上に導電性膜を形成する方法は、例えば、(1)電気絶縁シート又はエレクトレットシート上に、バインダー中に導電性微粒子を含有する導電ペーストを塗布、乾燥させて導電性膜を形成する方法、(2)電気絶縁シート又はエレクトレットシート上に、蒸着により導電性膜を形成する方法などが挙げられる。
【0074】
電気絶縁シートとしては、電気絶縁性を有しておれば、特に限定されず、例えば、ポリイミドシート、ポリエチレンテレフタレートシート、ポリエチレンナフタレートシート、ポリ塩化ビニルシートなどが挙げられる。
【0075】
固定剤層を構成している固定剤は、反応系、溶剤系、水系及びホットメルト系の接着剤又は粘着剤などを用いることができる。エレクトレットシートの感度を維持する観点から、誘電率の低い固定剤が好ましい。
【0076】
上記では、一枚のエレクトレットシート1の第1の面にシグナル電極2を、第2の面にグランド電極3を積層させて圧電センサを構成した場合を説明したが、複数枚のエレクトレットシートを互いに接触した状態又は通気性を有するシートを介在させた状態に重ね合わせて積層シートとし、この積層シート全体を本発明のエレクトレットシートとしてもよい。この積層シートの第1の面にシグナル電極を、第2の面にグランド電極を積層させて圧電センサを構成してもよい。
【0077】
通気性を有するシートとしては、特に限定されず、例えば、貫通孔が形成された合成樹脂シート、不織布などが挙げられる。
【0078】
エレクトレットシートは、上述のように、圧縮回復性に優れ、長期間に亘って優れた圧電性を安定的に保持する。また、人体の皮膚に貼着させて用いても蒸れを抑制することができる。
【実施例】
【0079】
次に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0080】
[実施例1~7、比較例5及び6]
(押出工程)
表1に示した重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、分子量分布(Mw/Mn)及び融点を有するホモポリプロピレンを押出機に供給して表1に示した樹脂温度にて溶融混練し、押出機の先端に取り付けられたTダイからシート状に押出した。しかる後、シートを表面温度が30℃となるまで冷却して、厚みが18μmで且つ幅が200mmの長尺状のホモポリプロピレンシートを得た。なお、製膜速度、押出量及びドロー比は表1に示した通りであった。
【0081】
(養生工程)
次に、ホモポリプロピレンシートをその表面温度が表1に示した養生温度となるようにして表1に示した時間(養生時間)の間、養生した。
【0082】
(延伸工程)
次に、養生を施したホモポリプロピレンシートをその表面温度が表1に示した温度となるようにして表1に示した歪み速度にて表1に示した延伸倍率に押出方向にのみ一軸延伸装置を用いて一軸延伸した。
【0083】
(アニーリング工程)
延伸後、ホモポリプロピレンシートを熱風炉に供給し、ホモポリプロピレンシートをその表面温度が表1に示した温度となるように且つホモポリプロピレンシートに張力が加わらないようにして1分間に亘って加熱し、ホモポリプロピレンシートにアニールを施してエレクトレットシート本体を製造した。エレクトレットシート本体(アニール後のホモポリプロピレンシート)の厚みは表3に示す通りであった。なお、アニーリング工程におけるホモポリプロピレンシートの収縮率は表1に示した値であった。
【0084】
(帯電工程)
エレクトレットシート本体の第1の面に、アースされた平板電極を密着状態に重ね合わせ、エレクトレットシート本体の第2の面側に所定間隔を存して直流の高圧電源に電気的に接続された針状電極を配設した。次に、針状電極の表面近傍への電界集中により、電圧-15kV、放電距離30mm及び電圧印可時間1分の条件にて、コロナ放電を発生させた。空気分子をイオン化させて、針状電極の極性により発生した空気イオンを反発させて、エレクトレットシート本体(ホモポリプロピレンシート)に直流電界を加えて電荷を注入し、エレクトレットシート本体(ホモポリプロピレンシート)を全体的に帯電させた。その後、電荷を注入したエレクトレットシート本体(ホモポリプロピレンシート)を、接地されたアルミニウム箔で包み込んだ状態で80℃にて3時間に亘って保持してエレクトレットシート本体を帯電させてエレクトレットシートを得た。なお、エレクトレットシート本体は、帯電工程において、帯電されていること以外、物理的構造に変化は生じない。
【0085】
実施例1~3、5及び7、並びに比較例6のエレクトレットシートの貫通孔は、蛇行しながら延びていた。実施例4及び6、並びに比較例5のエレクトレットシートの貫通孔は、直線状に延びていた。
【0086】
[比較例1~4]
ポリプロピレン系樹脂として下記のプロピレン-エチレンランダム共重合体を用意した。
・ポリプロピレン系樹脂A(プロピレン-エチレンランダム共重合体、日本ポリプロ社製 商品名「ノバテックEG8B」、エチレン単位の含有量:5質量%)
・ポリプロピレン系樹脂B(プロピレン-エチレンランダム共重合体、日本ポリプロ社製 商品名「ウィンテックWFW4」、エチレン単位の含有量:2質量%)
【0087】
(押出工程)
ポリプロピレン系樹脂A、ポリプロピレン系樹脂B、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTM)、アゾジカルボンアミド及びフェノール系酸化防止剤を表2に示した所定量ずつ押出機に供給した。表2に示した樹脂温度にて溶融混練してTダイからシート状に押出し、発泡性樹脂シートを製造した。なお、発泡性樹脂シートの厚みを表2に示した。
【0088】
(電子線照射工程)
得られた発泡性樹脂シートの両面に電子線を加速電圧500kV及び照射強度25kGyの条件にて照射し、発泡性樹脂シートを構成しているポリプロピレン系樹脂を架橋した。
【0089】
(発泡工程)
架橋させた発泡性樹脂シートを250℃に保持された発泡炉に供給して発泡させてポリプロピレン系樹脂発泡シートを得た。なお、ポリプロピレン系樹脂発泡シートの発泡倍率及び厚みを表2に示した。
【0090】
(延伸工程)
得られたポリプロピレン系樹脂発泡シートをその溶融状態を維持したまま連続的に幅方向の端部を吸引式ガイダーで吸引して幅方向に延伸して、気泡を押出方向に対して直交する方向(幅方向)に延伸して、延伸気泡を有するポリプロピレン系樹脂発泡シートを得た。なお、ポリプロピレン系樹脂発泡シートの延伸倍率及び厚みを表2に示した。
【0091】
(帯電工程)
ポリプロピレン系樹脂発泡シートの第1の面に、アースされた平板電極を密着状態に重ね合わせると共に、ポリプロピレン系樹脂発泡シートの第2の面側に所定間隔を存して直流の高圧電源に電気的に接続された針状電極を配設した。次に、針状電極の表面近傍への電界集中により、電圧-15kV、放電距離30mm及び電圧印可時間1分の条件下にてコロナ放電を発生させた。空気分子をイオン化させて、針状電極の極性により発生した空気イオンを反発させてホモポリプロピレン系樹脂発泡シートに直流電界を加えて電荷を注入してポリプロピレン系樹脂発泡シートを全体的に帯電させた。その後、電荷を注入したポリプロピレン系樹脂発泡シートを、接地されたアルミニウム箔で包み込んだ状態で80℃、3時間に亘って保持してエレクトレットシートを得た。
【0092】
得られたエレクトレットシートについて、透気度、厚み方向に50%圧縮した時のJIS K6767に準拠した圧縮永久歪み、空孔率、孔密度及び厚み、並びに、エレクトレットシート本体の貫通孔の開口端の最大長径及び平均長径を上記の要領で測定し、その結果を表3に示した。なお、比較例1~4のエレクトレットシートは、貫通孔が存在しないため、貫通孔の開口端の最大長径及び平均長径、並びに、透気度は測定できなかった。
【0093】
得られたエレクトレットシートの圧電定数d33、繰り返し耐久性試験(厚みの変化率)及び蒸れ防止性を下記の要領で測定し、その結果を表2に示した。
【0094】
(圧電定数d33)
エレクトレットシートから一辺が10mmの平面正方形状の試験片を切り出し、試験片の両面に金蒸着を施して試験体を作製した。
【0095】
試験体に加振機を用いて荷重Fが2N、動的荷重が±0.25N、周波数が110Hzの条件下にて押圧力を加え、その時に発生する電荷Q(クーロン)を計測した。電荷Q(クーロン)を荷重F(N)で除することによって圧電定数d33を算出した。なお、圧電定数dijはj方向の荷重、i方向の電荷を意味し、d33はエレクトレットシートの厚み方向の荷重及び厚み方向の電荷となる。
【0096】
エレクトレットシートをアルミニウム箔で包み込んだ状態で80℃の恒温恒湿槽内に3時間に亘って放置した後、エレクトレットシートを23℃の恒温恒湿槽内に24時間に亘って放置した。このエレクトレットシートの圧電定数d33を測定し、圧電定数d33とした。
【0097】
(繰り返し耐久性試験)
エレクトレットシートの厚みを測定した。その後、100kPaの応力で10000回繰り返し圧縮を行なった。繰り返し圧縮後、10分間放置した後の厚みを測定し、厚みの変化率を算出し、評価した。
厚みの変化率(%)
=100×[(圧縮後の厚み)-(圧縮前の厚み)]/(圧縮前の厚み)
【0098】
(蒸れ防止性)
実施例及び比較例のエレクトレットシートを、両面テープを用いて、評価者の皮膚表面に貼着させた。貼着後3時間後の蒸れ防止性を評価した。評価者は10人とし、以下の基準にて判定した。
A:蒸れを感じなかった人数は7人以上であった。
B:蒸れを感じなかった人数は5~6人であった。
C:蒸れを感じなかった人数は4人以下であった。
【0099】
【0100】
【0101】
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明のエレクトレットシートは、圧縮回復性に優れると共に、人体の皮膚に貼着させて用いても蒸れを抑制することができる。本発明のエレクトレットシートは、その第1の面にシグナル電極を積層させ且つ第2の面にグランド電極を積層させることによって圧電センサを構成することができる。圧電センサは、様々な応力及び動きを検知することができる。圧電センサは、脈波、呼吸、体動などの生体信号を精度良く測定することができる。圧電センサは、人体の皮膚表面に貼着させて用いることができる。圧電センサを人体の皮膚表面に貼着させても蒸れを抑制しつつ、生体信号を円滑に測定することができる。
【0103】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2018年8月24日に出願された日本国特許出願第2018-157398号に基づく優先権を主張し、この出願の開示はその全体を参照することにより本明細書に組み込まれる。
【符号の説明】
【0104】
1 エレクトレットシート
2 シグナル電極
3 グランド電極