(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-11
(45)【発行日】2025-03-19
(54)【発明の名称】非水電解液、該非水電解液を備える非水電解液二次電池、及び化合物
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20250312BHJP
C07F 9/14 20060101ALI20250312BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20250312BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20250312BHJP
【FI】
H01M10/0567
C07F9/14
H01M4/525
H01M10/0525
(21)【出願番号】P 2021051171
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】320011605
【氏名又は名称】MUアイオニックソリューションズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000157119
【氏名又は名称】関東電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 良規
(72)【発明者】
【氏名】矢三 勇介
(72)【発明者】
【氏名】木戸 大希
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 宏行
(72)【発明者】
【氏名】木村 宣久
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/207983(WO,A1)
【文献】特開2019-197705(JP,A)
【文献】国際公開第2016/024496(WO,A1)
【文献】特開2017-120780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
H01M10/05-10/0587;10/36-10/39
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式( I )で表される化合物を
0.05~4質量%含有することを特徴とする非水電解液。
【化10】
(式( I )中、R
1は、
炭素数が1~6の鎖状アルキル基、炭素数が2~6の鎖状アルケニル基もしくは炭素数が2~6の鎖状アルキニル基、又は炭素数が1~6の鎖状含ハロゲンアルキル基を表す。mは1から4までの整数であり、n=4-mである。Mは金属元素を表し、kは1から3の整数である。)
【請求項2】
さらに、フッ素原子を有する環状カーボネートおよび不飽和結合を有する環状カーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
前記フッ素原子を有する環状カーボネートが、モノフルオロエチレンカーボネート又はジフルオロエチレンカーボネートである請求項2に記載の非水電解液。
【請求項4】
前記不飽和結合を有する環状カーボネートが、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、又はエチニルエチレンカーボネートである請求項2または3に記載の非水電解液。
【請求項5】
前記フッ素原子を有する環状カーボネート又は不飽和結合を有する環状カーボネートを非水電解液に0.01~15質量%含有する請求項2から
4のいずれかに記載の非水電解液。
【請求項6】
金属イオンを吸蔵及び放出しうる正極活物質を有する正極と、金属イオンを吸蔵及び放出しうる負極活物質を有する負極と、請求項1から
5のいずれかに記載の非水電解液を備える非水電解液二次電池。
【請求項7】
前記正極が、正極活物質中の遷移金属元素の全原子の量に対するNi原子の含有量が50atomic%以上である正極活物質を含むことを特徴とする請求項
6に記載の非水電解液二次電池。
【請求項8】
式( I )で表される化合物。
【化11】
(式( I )中、R
1は、炭素数が1~20の炭化水素基、又は炭素数が1~20の範囲であって、ハロゲン原子若しくはヘテロ原子の少なくとも何れか1つを有する炭化水素基を表す。mは1から4までの整数であり、n=4-mである。Mは金属元素を表し、kは1から3の整数である。)
【請求項9】
三フッ化ホウ素化合物と、式( I I )で表される化合物とを反応させる工程を含む、請求項
8に記載の式(I)で表される化合物の製造方法。
【化12】
(式( I I )中、R
1は、炭素数が1~20の炭化水素基、又は炭素数が1~20の範囲であって、ハロゲン原子若しくはヘテロ原子の少なくとも何れか1つを有する炭化水素基を表す。Mは金属元素を表し、kは1から3の整数である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液、該非水電解液を備える非水電解液二次電池、及び化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蓄電デバイス、特にリチウム電池は、携帯電話やノート型パソコン等の小型電子機器、電気自動車や電力貯蔵用として広く使用されている。リチウム電池の使用用途の拡大により、リチウム電池はさらに厳しい環境での作動が要求されている。厳しい環境の一例として、広い温度範囲での使用が挙げられる。80℃以上の高温領域での保存耐久性に加え、0℃以下での低温の始動性が要求される例も少なくない。なお、本明細書において、リチウム電池という用語は、いわゆるリチウムイオン二次電池も含む概念として用いる。
【0003】
リチウム電池は、主にリチウムを吸蔵放出可能な材料を含む正極および負極、リチウム塩と非水溶媒からなる非水電解液から構成され、リチウム塩としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)などが使用され、非水溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート類が使用されている。
また、リチウム電池の負極としては、リチウム金属、リチウムを吸蔵および放出可能な金属化合物(金属単体、金属酸化物、リチウムとの合金等)、炭素材料等が知られている。特に、炭素材料のうち、例えばコークス、黒鉛(人造黒鉛、天然黒鉛)等のリチウムを吸蔵および放出することが可能な炭素材料を用いたリチウム電池が広く実用化されている。コークスや黒鉛等の炭素材料はリチウム金属と同等の極めて卑な電位でリチウムと電子を貯蔵・放出するために、多くの溶媒が還元分解を受ける可能性を有している。
リチウム電池の正極としては、リチウムを吸蔵および放出可能な、コバルト、マンガン、およびニッケルからなる群より選ばれる1種または2種以上を含有するリチウムとの複合金属酸化物が使用される。正極活物質中の重金属は、高温充電保存時に電解液中に溶出する場合があり、溶出した金属が負極上に再析出すると、さらに電解液の分解が促進される。
特にリチウム電池を80℃以上の高温で保存した場合、前記負極上での還元分解および正極活物質中の重金属の溶出は加速的に進行することに加え、リチウム塩の熱分解が生じるため、電池特性を大きく低下させる問題がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、周期律表の13族または15族元素から選ばれる元素を中心とし、ジフルオロリン酸アニオンを配位子としたイオン性化合物を含む電解液が開示されており、充放電サイクル維持率と充放電サイクル後の抵抗上昇を抑制することが開示されている。
【0005】
特許文献2には、ハロゲンを含む特定のリン酸エステル化合物と、特定のホウ素錯塩、またはホウ酸エステル、酸無水物、不飽和結合を有する環状カーボネート、ハロゲン原子を有する環状カーボネート、環状スルホン酸エステル、アセトアセチル基を有するアミン類及びリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物とを含む電解液が開示されており、充放電サイクル維持率を改善することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010―257616号
【文献】特開2017―120780号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の非水電解液二次電池、特に電気自動車に搭載する二次電池に対し、求められる要求特性がますます高くなり、電池保存時のガス発生量の抑制と、電池内抵抗の低減が高いレベルで求められている。特許文献1ではジフルオロリン酸成分と特定の元素が結合した電気化学デバイス用電解質が開示されており、ルイス酸であるホウ素化合物やリン化合物に配位したジフルオロリン酸錯塩が実施例として記載されている。しかし、これらジフルオロリン酸構造を有する錯塩は、特に高温の非水電解液中では安定性が低いためフッ素イオンの脱離反応が進行しやすく、脱離したフッ素イオンが非水電解液中の有機溶媒を分解し、ガス発生や抵抗上昇の要因となり得る。また、特許文献2には、モノフルオロリン酸エステル塩と、特定成分を含む二次電池用非水電解液が開示されている。モノフルオロリン酸エステル塩は、高温の非水電解液中で安定であるものの、特に負極への反応性が低く、良好な負極Solid Electrolyte Interphase(SEI)形成がなされないために、高温保存時のガス発生を十分に抑制できるとは言えない。
【0008】
本発明では、非水電解液二次電池において上記問題点を解決し、特定の金属錯塩を非水電解液に添加することで高温保存時のガス発生量を大きく抑制し、加えて電池内部抵抗を低減し得る非水電解液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の錯塩を非水電解液に含有させることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明の要旨は、以下に存する。
[1]式( I )で表される化合物を含有することを特徴とする非水電解液。
【化1】
(式( I )中、R
1は、炭素数が1~20の炭化水素基、又は炭素数が1~20の範囲であって、ハロゲン原子若しくはヘテロ原子の少なくとも何れか1つを有する炭化水素基を表す。mは1から4までの整数であり、n=4-mである。Mは金属元素を表し、kは1から3の整数である。)
[2]さらに、フッ素原子を有する環状カーボネートおよび不飽和結合を有する環状カーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する前記[1]に記載の非水電解液。
[3]前記フッ素原子を有する環状カーボネートが、モノフルオロエチレンカーボネート又はジフルオロエチレンカーボネートである前記[2]に記載の非水電解液。
[4]前記不飽和結合を有する環状カーボネートが、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、又はエチニルエチレンカーボネートである前記[2]または[3]に記載の非水電解液。
[5]前記( I )で表される化合物を非水電解液中に0.01~15質量%含有する前記[1]から[4]のいずれかに記載の非水電解液。
[6]前記フッ素原子を有する環状カーボネート又は不飽和結合を有する環状カーボネートを非水電解液に0.01~15質量%含有する前記[2]から[5]のいずれかに記載の非水電解液。
[7]金属イオンを吸蔵及び放出しうる正極活物質を有する正極と、金属イオンを吸蔵及び放出しうる負極活物質を有する負極と、前記[1]から[6]のいずれかに記載の非水電解液を備える非水電解液二次電池。
[8]前記正極が、正極活物質中の遷移金属元素の全原子の量に対するNi原子の含有量が50atomic%以上である正極活物質を含むことを特徴とする前記[7]に記載の非水電解液二次電池。
[9]式( I )で表される化合物。
【化2】
(式( I )中、R
1は、炭素数が1~20の炭化水素基、又は炭素数が1~20の範囲であって、ハロゲン原子若しくはヘテロ原子の少なくとも何れか1つを有する炭化水素基を表す。mは1から4までの整数であり、n=4-mである。Mは金属元素を表し、kは1から3の整数である。)
[10]三フッ化ホウ素化合物と、式( I I )で表される化合物とを反応させる工程を含む、請求項9に記載の式(I)で表される化合物の製造方法。
【化3】
(式( I I )中、R
1は、炭素数が1~20の炭化水素基、又は炭素数が1~20の範囲であって、ハロゲン原子若しくはヘテロ原子の少なくとも何れか1つを有する炭化水素基を表す。Mは金属元素を表し、kは1から3の整数である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高温保存時のガス発生量を抑制及び保存時の電池内部抵抗を低減し得る非水電解液を提供できる。また、当該非水電解液を備えた非水電解液二次電池を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。ただし、以下に記載する説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明は請求項に記載の要旨を超えない限り、これらの内容に限定されるものではない。
【0012】
[1.非水電解液]
本発明の非水電解液は、式( I )で表される化合物を含有する。
【化4】
式( I )中、R
1は、炭素数が1~20の炭化水素基、又は炭素数が1~20の範囲であって、ハロゲン原子若しくはヘテロ原子の少なくとも何れか1つを有する炭化水素基を表す。mは1から4までの整数でn=4-mである。Mは金属元素を表し、kは1から3の整数である。
このような優れた効果を有する理由について、本発明者は以下のように推測する。本発明の非水電解液中に含まれる式( I )で表される化合物は、炭化水素基を含むモノフルオロリン酸部分を必須として含有し、必要に応じて、フッ化ホウ素部分を有する化合物である。モノフルオロリン酸部分を必須として含有する構造体は正極上の活性点に化学的及び電気化学的に反応し、Li伝導性の高い電極被膜を形成する。前記被膜は電極の界面抵抗を低減することに加えて、電解液の分解や正極活物質に含まれる重金属の溶出を抑制することができるため、高温保存耐久性が向上すると考えられる。さらに、本発明の非水電解液中に含まれる式( I )で表される化合物の一部は、蓄電デバイスの充放電中の負極SEI形成時にも取り込まれ、Li伝導性の高い強固な被膜を形成するため、保存時の発生ガスを抑制し、電池抵抗を低減する。式( I )で表される化合物は、特許文献1で開示されているはジフルオロリン酸と特定の元素が結合した電解質とを比較すると、ジフルオロリン酸部分の一つのフッ素原子がアルコキシ基等に置換されているため、高温の非水電解液中でも安定であり、フッ素イオンの脱離が進行しにくいことから、高温時の電解液の分解を抑制し、ガス発生量や抵抗上昇をより改善できると考えられる。また、モノフルオロリン酸エステル構造はジフルオロリン酸構造と比較して酸化電位が低いため、正極の活性点と電気化学的に反応しやすく、反応後の被膜も耐久性が高くなり、より一層の電池特性向上が見込まれる。また、特許文献2で開示されている非水電解液中の成分と比較して、式( I )で表される化合物は、モノフルオロリン酸エステル成分がルイス酸に配位している点で大きく異なる。これにより、モノフルオロリン酸エステル成分の負極への反応性が向上し、緻密な負極SEIを形成することができるため、より良好な高温保存時の耐久性向上の効果を得ることができる。以上のことから本発明の非水電解液を用いた場合、特許文献1に記載の電解質を含む非水電解液および特許文献2に記載の非水電解液と比べて、より優れた高温保存耐久性と抵抗上昇抑制効果が得られたと考えられる。
以下、各構成について説明する。
【0013】
[1-1.式( I )中で表される化合物]
【化5】
式( I )中、R
1は、炭素数が1~20の炭化水素基、又は炭素数が1~20の範囲であって、ハロゲン原子若しくはヘテロ原子の少なくとも何れか1つを有する炭化水素基を表す。mは1から4までの整数であり、n=4-mである。Mは金属元素を表し、kは1から3の整数である。
【0014】
前記式( I )において、前記R1は、炭化水素基又はハロゲン原子若しくはヘテロ原子の少なくとも何れか1つを有する炭化水素基(以下、「ハロゲン原子等を有する炭化水素基」という。)を表す。前記炭化水素基の炭素数は1~20であり、立体的に小さく電極と好適に反応できるため好ましくは1~10、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~4、特に好ましくは1~3である。また、ハロゲン原子等を有する炭化水素基の炭素数は1~20であり、同じく立体的に小さく電極と好適に反応できるため、好ましくは1~10、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~4、特に好ましくは1~3である。また、前記炭化水素基及びハロゲン原子等を有する炭化水素基は不飽和結合を有していてもよく、不飽和結合の数は1~5の範囲が好ましく、1~3の範囲がより好ましく、1が特に好ましい。不飽和結合としては、炭素-炭素二重結合が好ましい。
【0015】
前記炭化水素基又はハロゲン原子等を有する炭化水素基としては特に限定されず、前記炭化水素基の例として、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、フェニル基等が挙げられ、具体例として例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の鎖状アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基、2-プロペニル基(アリル基)、イソプロペニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基等の鎖状アルケニル基、2-シクロペンテニル基、2-シクロヘキセニル基、3-シクロヘキセニル基等の環状アルケニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、1-ペンチニル基、2-ペンチニル基、3-ペンチニル基、4-ペンチニル基等の鎖状アルキニル基、フェニル基、3-メトキシフェニル基、4-メトキシフェニル基、3,5-ジメトキシフェニル基、4-フェノキシフェニル基等のフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、等のナフチル基等が挙げられる。
また、ハロゲン原子等を有する炭化水素基の具体例として例えば、2-ヨードエチル基、2-ブロモエチル基、2-クロロエチル基、2-フルオロエチル基、1,2-ジヨードエチル基、1,2-ジブロモエチル基、1,2-ジクロロエチル基、1,2-ジフルオロエチル基、2,2-ジヨードエチル基、2,2-ジブロモエチル基、2,2-ジクロロエチル基、2,2-ジフルオロエチル基、2,2,2-トリブロモエチル基、2,2,2-トリクロロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、ヘキサフルオロ-2-プロピル基等の鎖状含ハロゲンアルキル基、2-ヨードシクロヘキシル基、2-ブロモシクロヘキシル基、2-クロロシクロヘキシル基、2-フルオロシクロヘキシル基等の環状含ハロゲンアルキル基、2-ヨードフェニル基、2-ブロモフェニル基、2-クロロフェニル基、2-フルオロフェニル基、3-ヨードフェニル基、3-ブロモフェニル基、3-クロロフェニル基、3-フルオロフェニル基、4-ヨードフェニル基、4-ブロモフェニル基、4-クロロフェニル基、4-フルオロフェニル基、3,5-ジヨードフェニル基、3,5-ジブロモフェニル基、3,5-ジクロロフェニル基、3,5-ジフルオロフェニル基等の含ハロゲンフェニル基、3-アミノ-2-ナフチル基等のナフチル基等が挙げられる。
前記の中でも、立体的に小さく電極と好適に反応できるため、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の鎖状アルキル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基等の鎖状アルケニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、1-ペンチニル基、2-ペンチニル基、3-ペンチニル基、4-ペンチニル基等の鎖状アルキニル基がより好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基がさらに好ましく、メチル基、エチル基、2-プロペニル基(アリル基)が特に好ましい。
【0016】
前記ハロゲン原子とは、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素の原子を意味する。ハロゲン原子を有する炭化水素基とは、当該炭化水素基中の水素の一部又は全部がこれらのハロゲン原子の何れかで置換されていてもよいことを意味する。また、ヘテロ原子とは、酸素、窒素又は硫黄等の原子を意味する。ヘテロ原子を有する炭化水素基とは、当該炭化水素基中の水素及び炭素の一部がこれらのヘテロ原子の何れかで置換されていてもよいことを意味する。ヘテロ原子としては、酸素が好ましい。
【0017】
前記ヘテロ原子を有する炭化水素基としては、具体的には、例えば、2-メトキシエチル基、2-(2-メトキシエトキシ)エチル基、2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エチル基、2-(2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エトキシ)エチル基、シアノエチル基等が挙げられる。
【0018】
電池特性を向上するため、式( I )中、R1は炭素数が1~10の炭化水素基、又は炭素数が1~10の範囲であって、ハロゲン原子若しくはヘテロ原子の少なくとも何れか1つを有する炭化水素基であることが好ましく、炭素数が1~6の炭化水素基、又は炭素数が1~6の範囲であって、ハロゲン原子若しくはヘテロ原子の少なくとも何れか1つを有する炭化水素基であることがより好ましく、炭素数が1~6の炭化水素基であることがさらに好ましく、炭素数1~3の炭化水素基であることが特に好ましい。
mは1から4までの整数であり、好ましくはmが1又は2である。
mが2以上の場合には、R1は同一でも異なっていてもよいが、好ましくは、製造容易性の点で同一である。
また、本発明の非水電解液は、式( I )で表される化合物を複数含有してもよく、例えば、mが1である式( I )で表される化合物とmが2である式( I )で表される化合物が混在していてもよい。mが1である式( I )で表される化合物とmが2以上である式( I )で表される化合物が混在している場合に、式( I )で表される化合物の合計量に対するmが1である式( I )で表される化合物のモル百分率は、特段の制限はないが、通常5以上、好ましくは10以上、より好ましくは20以上、さらに好ましくは30以上であり、特に好ましくは55以上であり、一方、上限は99以下、好ましくは95以下、より好ましくは90以下であり、特に好ましくは85以下である。ただし、mがX(X=1~4)である式( I )で表される化合物のモル百分率は、(mがXである式( I )で表される化合物の合計物質量)/(式( I )で表される化合物の合計物質量)×100で定義する。
特に、mが1である式( I )で表される化合物とmが2である式( I )で表される化合物とが混在してなる態様が好ましく、この場合における、式( I )で表される化合物の合計量に対するmが1である式( I )で表される化合物のモル百分率は上記した範囲とすることが好ましい。
また、mが1である式( I )で表される化合物とmが2以上である式( I )で表される化合物が混在している場合には、mが1である式( I )で表される化合物と、mが2以上である式( I )で表される化合物とは、R1は同一でも異なっていてもよいが、好ましくは、製造容易性の点で同一である。
Mk+は金属イオンを表し、金属イオンであれば特段の制限はないが、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウム、及びセシウム等のアルカリ金属イオン、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属イオンが挙げられる。なかでも、アルカリ金属イオンが好ましく、リチウムイオンが特に好ましい。
kは1から3までの整数である。好ましくは1又は2であり、特に好ましくは1である。
【0019】
具体的には以下の化合物が挙げられる。
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
なかでも、例1~例10、例19~例20、例29~例32、例37~例44、が好ましく、なかでも例1~例2、例5~例6、例9~例10、例19~例20、例29~例32、例37~例38、例41~例42がより好ましく、例1~例2、例5~例6、例29~例30が特に好ましい。
【0024】
式( I )で表される化合物は、特段の制限はないが、非水電解液中に0.01~10質量%含有することが好ましく、より好ましくは、0.01~6質量%であり、さらに好ましくは0.05~4質量%であり、特に好ましくは0.1~2.5質量%である。
式( I )で表される化合物の同定や含有量の測定は、核磁気共鳴(NMR)分析により行うことができる。
【0025】
式( I )で表される化合物は、例えば、式( I I )で表される化合物と三フッ化ホウ素化合物を反応させて得ることができる。
【化9】
(式( I I )中、R
1は、炭素数が1~20の炭化水素基、又は炭素数が1~20の範囲であって、ハロゲン原子若しくはヘテロ原子の少なくとも何れか1つを有する炭化水素基を表す。Mは金属元素を表し、kは1から3の整数である。)
式( I I )中、R
1の具体例としては、前記式( I )と同様のものを挙げることができ、式( I I )で表される化合物の具体例としては、上記した例1~例72の化合物を与えることのできる化合物が挙げられる。M
k+は金属イオンを表し、金属イオンであれば特段の制限はないが、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウム、及びセシウム等のアルカリ金属イオン、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属イオンが挙げられる。なかでも、アルカリ金属イオンが好ましく、リチウムイオンが特に好ましい。
kは1から3までの整数である。好ましくは1又は2であり、特に好ましくは1である。
式( I I )で表される化合物は、例えば従来公知の方法(特開2019-135215号)で得ることができる。
式( I I )で表される化合物と反応させる三フッ化ホウ素化合物として、例えばフッ化ホウ素ガス、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジn-ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジtert-ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素tert-ブチルメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、三フッ化ホウ素酢酸メチル錯体、三フッ化ホウ素酢酸エチル錯体、三フッ化ホウ素プロピオン酸プロピル錯体、三フッ化ホウ素アセトニトリル錯体、三フッ化ホウ素メタノール錯体、三フッ化ホウ素プロパノール錯体、三フッ化ホウ素フェノール錯体、三フッ化ホウ素ジメチルカーボネート錯体、三フッ化ホウ素ジエチルカーボネート錯体、三フッ化ホウ素メチルエチルカーボネート錯体、三フッ化ホウ素メチルプロピルカーボネート錯体、三フッ化ホウ素メチルブチルカーボネート錯体、三フッ化ホウ素エチレンカーボネート錯体、三フッ化ホウ素プロピレンカーボネート錯体、三フッ化ホウ素1,2-ブチレンカーボネート錯体、三フッ化ホウ素2,3-ブチレンカーボネート錯体、三フッ化ホウ素4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン錯体、三フッ化ホウ素ビニレンカーボネート錯体、三フッ化ホウ素ビニルエチレンカーボネート錯体及び三フッ化ホウ素4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オン錯体が好適に挙げられ、中でも三フッ化ホウ素ジメチルカーボネート錯体、三フッ化ホウ素ジエチルカーボネート錯体、三フッ化ホウ素メチルエチルカーボネート錯体等のカーボネート錯体を用いることが好ましい。
【0026】
式( I I )で表される化合物と反応させる三フッ化ホウ素化合物のモル比は、好ましくは式( I I )で表される化合物1モルに対して、通常1~10モル、より好ましくは1~5モル、更に好ましくは1~3モルであり、1モルであることが最も好ましい。
【0027】
反応温度については反応が進行する限り制限はないが、通常0~90℃、0~50℃がより好ましく、0~20℃がさらに好ましい。
【0028】
反応圧力については反応が進行する限り制限はないが、通常常圧で行う。加える順序についても特に制限はないが、式( I I )で表される化合物を含んだ反応液に三フッ化ホウ素化合物を加える方が好ましい。
【0029】
本発明の非水電解液において、非水電解液中にさらに、フッ素原子を有する環状カーボネートおよび不飽和結合を有する環状カーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことで、ガス抑制効果を向上できるため好ましい。
【0030】
前記フッ素原子を有する環状カーボネートとは、フッ素原子を少なくとも1つ以上有する環状カーボネートであれば限定はないが、具体的には、モノフルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネート、及びテトラフルオロエチレンカーボネート等の環状カーボネート骨格にフッ素原子を有する環状カーボネート、トリフルオロメチルエチレンカーボネート、及びペンタフルオロエチルエチレンカーボネート等の置換基にフッ素化アルキル基を有する環状カーボネート、並びにフルオロトリフルオロメチルエチレンカーボネート、及びフルオロペンタフルオロエチルエチレンカーボネート等の置換基にフッ素化アルキル基を有し、かつ環状カーボネート骨格にフッ素原子を有する環状カーボネートが挙げられる。なかでも、環状カーボネート骨格にフッ素原子を有する環状カーボネートが好ましく、モノフルオロエチレンカーボネート又はジフルオロエチレンカーボネートが、本願効果の高温保存時の発生ガスを抑制する点で特に好ましい。
【0031】
前記不飽和結合を有する環状カーボネートとは、炭素-炭素不飽和結合を少なくとも1つ以上有する環状カーボネートであれば限定はないが、具体的には、ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、及びアリルエチレンカーボネート等の置換基にアルキニル基等の炭素-炭素不飽和結合を有する飽和環状カーボネート、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、モノフルオロビニレンカーボネート、及びジフルオロビニレンカーボネート等の環状カーボネート骨格に炭素・炭素不飽和結合を有する環状カーボネート、並びにビニルビニレンカーボネート、アリルビニレンカーボネート及びエチニルビニレンカーボネート等の置換基にアルキニル基等の炭素-炭素不飽和結合を有し、かつ環状カーボネート骨格に炭素・炭素不飽和結合を有する環状カーボネートが挙げられる。なかでも、環状カーボネート骨格に炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネートが好ましく、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、及びエチルビニレンカーボネートが、本願効果の高温保存時の発生ガス量を抑制する点で特に好ましい。
【0032】
フッ素原子を有する環状カーボネート及び不飽和環状カーボネートは、特段の制限はないが、非水電解液中に0.01~15質量%含有することが好ましく、より好ましくは、0.05~13質量%であり、特に好ましくは0.1~10質量%である。
【0033】
[1-2.電解質]
[1-2-1.リチウム塩]
非水電解液における電解質としては、通常、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、この用途に用いることが知られているものであれば特に制限がなく、任意のものを用いることができ、具体的には以下のものが挙げられる。
【0034】
フルオロホウ酸リチウム塩類、フルオロリン酸リチウム塩類、タングステン酸リチウム塩類、カルボン酸リチウム塩類、スルホン酸リチウム塩類、リチウムイミド塩類、リチウムメチド塩類、リチウムオキサラート塩類、及び含フッ素有機リチウム塩類等が挙げられる。
【0035】
中でも、フルオロホウ酸リチウム塩類としてLiBF4;フルオロリン酸リチウム塩類としてLiPF6、Li2PO3F、LiPO2F2;スルホン酸リチウム塩類としてLiFSO3、CH3SO3Li;リチウムイミド塩類としてLiN(FSO2)2、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンジスルホニルイミド;リチウムメチド塩類として、LiC(FSO2)3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3;リチウムオキサラート塩類として、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムテトラフルオロオキサラトフォスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)フォスフェート、リチウムトリス(オキサラト)フォスフェート等が、低温出力特性やハイレート充放電特性、インピーダンス特性、高温保存特性、サイクル特性等を向上させる効果がある点からより好ましい。さらに好ましくは、LiPF6、LiN(FSO2)2、リチウムビス(オキサラト)ボレート及びLiFSO3であり、特に好ましくはLiPF6である。また、上記電解質塩は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0036】
2種類以上の電解質塩の組み合わせとして、特段の制限はないが、LiPF6とLiN(FSO2)2、LiPF6とLiBF4、LiPF6とLiN(CF3SO2)2、LiBF4とLiN(FSO2)2、LiBF4とLiPF6とLiN(FSO2)2が挙げられる。なかでも、LiPF6とLiN(FSO2)2、LiPF6とLiBF4、LiBF4とLiPF6とLiN(FSO2)2が好ましい。
【0037】
非水電解液中の電解質の総濃度は、特に制限はないが、非水電解液の全量に対して、通常8質量%以上、好ましくは8.5質量%以上、より好ましくは9質量%以上であり、また、通常18質量%以下、好ましくは17質量%以下、より好ましくは16質量%以下である。電解質の総濃度が上記範囲内であると、電気伝導率が電池動作に適正となるため、十分な出力特性が得られる傾向にある。
【0038】
[1-3.溶媒]
本発明の非水電解液は、一般的な非水電解液と同様、通常はその主成分として、上述した電解質を溶解する非水溶媒を含有する。ここで用いられる非水溶媒について上述した電解質を溶解すれば特に制限はなく、公知の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、飽和環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、鎖状カルボン酸エステル、環状カルボン酸エステル、エーテル系化合物、及びスルホン系化合物等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
2種以上の有機溶媒の組み合わせとして、特段の制限はないが、飽和環状カーボネート類と鎖状カルボン酸エステル、環状カルボン酸エステルと鎖状カーボネート類、及び飽和環状カーボネート類と鎖状カーボネート類と鎖状カルボン酸エステルが挙げられる。なかでも、飽和環状カーボネート類と鎖状カーボネート類、及び飽和環状カーボネート類と鎖状カーボネート類と鎖状カルボン酸エステルが好ましい。
【0039】
[1-3-1.飽和環状カーボネート]
飽和環状カーボネートとしては、通常炭素数2~4のアルキレン基を有するものが挙げられ、リチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から炭素数2~3の飽和環状カーボネートが好ましく用いられる。
【0040】
飽和環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。中でも、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートが好ましく、酸化・還元されにくいエチレンカーボネートがより好ましい。飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。
【0041】
飽和環状カーボネートの含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、下限は、非水電解液の溶媒全量に対して、通常3体積%以上、好ましくは5体積%以上であり、一方、通常90体積%以下、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。この範囲とすることで、非水電解液の誘電率の低下に由来する電気伝導率の低下を回避し、非水電解液二次電池の大電流放電特性、負極に対する安定性、サイクル特性を良好な範囲としやすくなり、非水電解液の酸化・還元耐性が向上し、高温保存時の安定性が向上する傾向にある。
なお、本実施形態における体積%とは25℃、1気圧における体積を意味する。
【0042】
[1-3-2.鎖状カーボネート]
鎖状カーボネートとしては、通常炭素数3~7のものが用いられ、電解液の粘度を適切な範囲に調整するために、炭素数3~5の鎖状カーボネートが好ましく用いられる。
【0043】
鎖状カーボネートとしては、具体的には、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n-プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネートが挙げられる。特に好ましくはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートである。
【0044】
また、フッ素原子を有する鎖状カーボネート類(以下、「フッ素化鎖状カーボネート」と略記する場合がある。)も好適に用いることができる。フッ素化鎖状カーボネートが有するフッ素原子の数は、1以上であれば特に制限されないが、通常6以下であり、好ましくは4以下である。フッ素化鎖状カーボネートが複数のフッ素原子を有する場合、それらは互いに同一の炭素に結合していてもよく、異なる炭素に結合していてもよい。フッ素化鎖状カーボネートとしては、フルオロメチルメチルカーボネート等のフッ素化ジメチルカーボネート誘導体、2-フルオロエチルメチルカーボネート等のフッ素化エチルメチルカーボネート誘導体、エチル-(2-フルオロエチル)カーボネート等のフッ素化ジエチルカーボネート誘導体等が挙げられる。
【0045】
鎖状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0046】
鎖状カーボネートの含有量は特に限定されないが、非水電解液の溶媒全量に対して、通常15体積%以上であり、好ましくは20体積%以上、より好ましくは25体積%以上であり、また、通常90体積%以下、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。鎖状カーボネートの含有量を上記範囲とすることによって、非水電解液の粘度を適切な範囲とし、イオン伝導度の低下を抑制し、ひいては非水電解液二次電池の出力特性を良好な範囲としやすくなる。
【0047】
さらに、特定の鎖状カーボネートに対して、エチレンカーボネートを特定の含有量で組み合わせることにより、電池性能を著しく向上させることができる。
【0048】
例えば、特定の鎖状カーボネートとしてジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを選択した場合、エチレンカーボネートの含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水電解液の溶媒全量に対して、通常15体積%以上、好ましくは20体積%以上、また、通常45体積%以下、好ましくは40体積%以下であり、ジメチルカーボネートの含有量は、非水電解液の溶媒全量に対して、通常20体積%以上、好ましくは30体積%以上、また、通常50体積%以下、好ましくは45体積%以下であり、エチルメチルカーボネートの含有量は通常20体積%以上、好ましくは30体積%以上、また、通常50体積%以下、好ましくは45体積%以下である。含有量を上記範囲内とすることで、高温安定性に優れ、ガス発生が抑制される傾向がある。
【0049】
[1-3-3.鎖状カルボン酸エステル]
鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、吉草酸メチル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、及びピバル酸メチルが挙げられる。なかでも、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルが電池特性向上の点から好ましい。上述の化合物の水素の一部をフッ素で置換した鎖状カルボン酸エステル(例えば、トリフルオロ酢酸メチル、トリフルオロ酢酸エチル等)も好適に使える。
【0050】
[1-3-4.環状カルボン酸エステル]
環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン、及びγ-バレロラクトンが挙げられる。これらの中でも、γ-ブチロラクトンがより好ましい。上述の化合物の水素の一部をフッ素で置換した環状カルボン酸エステルも好適に使える。
【0051】
[1-3-5.エーテル系化合物]
エーテル系化合物としては、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタン、エチレングリコールジ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールジ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等の炭素数3~10の鎖状エーテル、及びテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、2-メチル-1,3-ジオキサン、4-メチル-1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン等炭素数3~6の環状エーテルが好ましい。
なかでも、炭素数3~10の鎖状エーテルとして、リチウムイオンへの溶媒和能力が高く、イオン解離性を向上させ、粘性が低く、高いイオン伝導度を与えることから、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタンが好ましく、炭素数3~6の環状エーテルとして、高いイオン電導度を与えることから、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン等が好ましい。
【0052】
エーテル系化合物の含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水溶媒100体積%中、通常1体積%以上、好ましくは2体積%以上、より好ましくは3体積%以上、また、通常30体積%以下、好ましくは25体積%以下、より好ましくは20体積%以下である。エーテル系化合物の含有量が前記好ましい範囲内であれば、エーテルのリチウムイオン解離度の向上と粘度低下に由来するイオン伝導度の向上効果を確保しやすい。また、負極活物質が炭素質材料の場合、鎖状エーテルがリチウムイオンと共に共挿入される現象を抑制できることから、入出力特性や充放電レート特性を適正な範囲とすることができる。
【0053】
[1-3-6.スルホン系化合物]
スルホン系化合物としては、環状スルホン、鎖状スルホンであっても特に制限されないが、環状スルホンの場合、通常炭素数が3~6、好ましくは炭素数が3~5であり、鎖状スルホンの場合、通常炭素数が2~6、好ましくは炭素数が2~5である化合物が好ましい。また、スルホン系化合物1分子中のスルホニル基の数は、特に制限されないが、通常1又は2である。
【0054】
環状スルホンとしては、モノスルホン化合物であるトリメチレンスルホン類、テトラメチレンスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類;ジスルホン化合物であるトリメチレンジスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンジスルホン類等が挙げられる。中でも誘電率と粘性の観点から、テトラメチレンスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類、ヘキサメチレンジスルホン類がより好ましく、テトラメチレンスルホン類(スルホラン類)が特に好ましい。
【0055】
スルホラン類としては、スルホラン及び/又はスルホラン誘導体(以下、スルホランも含めて「スルホラン類」と略記する場合がある。)が好ましい。スルホラン誘導体としては、スルホラン環を構成する炭素原子上に結合した水素原子の1以上がフッ素原子やアルキル基で置換されたものが好ましい。
【0056】
中でも、2-メチルスルホラン、3-メチルスルホラン、2-フルオロスルホラン、3-フルオロスルホラン、2,3-ジフルオロスルホラン、2-トリフルオロメチルスルホラン、3-トリフルオロメチルスルホラン等が、イオン伝導度が高く入出力が高い点で好ましい。
【0057】
また、鎖状スルホンとしては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、モノフルオロメチルメチルスルホン、ジフルオロメチルメチルスルホン、トリフルオロメチルメチルスルホン、ペンタフルオロエチルメチルスルホン等が挙げられる。なかでも、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、モノフルオロメチルメチルスルホンが電解液の高温保存安定性が向上する点で好ましい。
【0058】
スルホン系化合物の含有量は、特に制限されず、本実施形態に係る発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水電解液の溶媒全量に対して、通常0.3体積%以上、好ましくは0.5体積%以上、より好ましくは1体積%以上であり、また、通常40体積%以下、好ましくは35体積%以下、より好ましくは30体積%以下である。スルホン系化合物の含有量が前記範囲内であれば、高温保存安定性に優れた電解液が得られる傾向にある。
【0059】
[1-4.助剤]
非水電解液には、本発明の効果を著しく損なわない範囲において、各種の助剤を含有していてもよい。助剤としては、従来公知のものを任意に用いることができる。なお、助剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0060】
非水電解液に含有していてもよい助剤としては、イソシアナト基を有する化合物、イソシアネート基を有する化合物、硫黄含有有機化合物、リン含有有機化合物、シアノ基を有する有機化合物、ケイ素含有化合物、芳香族化合物、フッ素非含有カルボン酸エステル、エーテル結合を有する環状化合物、カルボン酸無水物、ホウ酸塩、シュウ酸塩、モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩、フルオロスルホン酸塩等が例示できる。例えば、国際公開公報第2015/111676号に記載の化合物等が挙げられる。
助剤は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。助剤の含有量(2種以上の場合は合計量)は、非水系電解液100質量%中、1.0×10-3質量%以上であることができ、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、また、5質量%以下であることができ、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
エーテル結合を有する環状化合物は、非水系電解液において助剤として用いることもできるし、1-5.で示したとおり非水溶媒としても用いることができるものも含まれる。エーテル結合を有する環状化合物を助剤として用いる場合は、4質量%未満の量で用いる。ホウ酸塩、シュウ酸塩、モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩及びフルオロスルホン酸塩は、非水系電解液において助剤として用いることもできるし、1-4.で示したとおり電解質として用いることができるものも含まれる。これら化合物を助剤として用いる場合は、3質量%未満で用いる。
【0061】
[2.非水電解液二次電池]
本発明の別の実施態様である非水電解液二次電池は、金属イオンを吸蔵及び放出しうる正極活物質を有する正極と、金属イオンを吸蔵及び放出しうる負極活物質を有する負極とを備える非水電解液二次電池であって、上述の非水電解液を含む。
【0062】
[2-1.非水電解液]
非水電解液としては、上述の非水電解液を用いる。なお、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において上述の非水電解液に対し、その他の非水電解液を混合して用いることも可能である。
【0063】
[2-2.負極]
負極とは、負極活物質を集電体表面の少なくとも一部に有するものをいう。
[2-2-1.負極活物質]
負極に使用される負極活物質としては、電気化学的に金属イオンを吸蔵・放出可能なものであれば、特に制限はない。具体例としては、炭素質材料、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子、リチウム含有金属複合酸化物材料、及びこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でもサイクル特性及び安全性が良好でさらに連続充電特性も優れている点で、炭素質材料、Liと合金化可能な金属粒子及びLiと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子と黒鉛粒子との混合物を使用するのが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意に組み合わせて併用してもよい。
【0064】
[2-2-1-1.炭素系材料]
炭素系材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素、炭素被覆黒鉛、黒鉛被覆黒鉛及び樹脂被覆黒鉛等が挙げられる。なかでも、天然黒鉛が好ましい。炭素質材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
天然黒鉛としては、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛及び/又はこれらの黒鉛を原料に球形化や緻密化等の処理を施した黒鉛粒子等が挙げられる。これらの中でも、粒子の充填性や充放電レート特性の観点から、球形化処理を施した球状もしくは楕円体状の黒鉛粒子が特に好ましい。
黒鉛粒子の平均粒子径(d50)は、通常1μm以上通常100μm以下である。
【0065】
[2-2-1-2.炭素系材料の物性]
負極活物質としての炭素系材料は、以下の(1)~(4)に示した物性及び形状等の特徴の内、少なくとも1項目を満たしていることが好ましく、複数の項目を同時に満たすことが特に好ましい。
(1)X線パラメータ
炭素系材料の学振法によるX線回折で求めた格子面(002面)のd値(層間距離)は、通常0.335nm以上0.360nm以下である。また、学振法によるX線回折で求めた炭素質材料の結晶子サイズ(Lc)は、1.0nm以上である。
(2)体積基準平均粒径
炭素系材料の体積基準平均粒径は、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の平均粒径(メジアン径)であり、通常1μm以上100μm以下である。
(3)ラマンR値、ラマン半値幅
炭素質材料のラマンR値は、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトル法を用いて測定した値であり、通常0.01以上1.5以下である。
また、炭素質材料の1580cm-1付近のラマン半値幅は特に制限されないが、通常10cm-1以上100cm-1以下である。
(4)BET比表面積
炭素質材料のBET比表面積は、BET法を用いて測定した比表面積の値であり、通常0.1m2・g-1以上100m2・g-1以下である。
負極活物質中に性質の異なる炭素質材料が2種以上含有していてもよい。ここでいう性質とは、X線回折パラメータ、メジアン径、ラマンR値及びBET比表面積の群から選ばれる1つ以上の特性を示す。
好ましい例としては、体積基準粒度分布がメジアン径を中心としたときに左右対称とならないこと、ラマンR値が異なる炭素系材料を2種以上含有していること、及びX線パラメータが異なること等が挙げられる。
【0066】
[2-2-1-3.Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子]
Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子は、従来公知のいずれのものも使用可能であるが、容量とサイクル寿命の点から、金属粒子は、例えば、Sb、Si、Sn、Al、As、及びZnからなる群から選ばれる金属又はその化合物であることが好ましい。また、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子が金属を2種類以上含有する場合、当該粒子は、これらの金属の合金からなる合金粒子であってもよい。
また、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素の化合物として、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等が挙げられる。該化合物は、Liと合金化可能な金属元素及び/若しくは半金属元素を2種以上含有していてもよい。
なかでも、金属Si(以下、Siと記載する場合がある)又はSi含有無機化合物が高容量化の点で、好ましい。
また、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素の化合物は、後述する負極の製造時で既にLiと合金化されていてもよく、Si又はSi含有無機化合物が高容量化の点で、好ましい。
【0067】
本明細書では、Si又はSi含有無機化合物を総称してSi化合物と呼ぶ。Si化合物としては、具体的には、
SiOx(0≦x≦2)等が挙げられる。Liと合金化された金属化合物としては、具体的には、LiySi(0<y≦4.4)、Li2zSiO2+z(0<z≦2)等が挙げられる。Si化合物としてSi金属酸化物(SiOx1、0<x1≦2)が、黒鉛と比較して理論容量が大きい点で好ましく、又は非晶質SiもしくはナノサイズのSi結晶が、リチウムイオン等のアルカリイオンの出入りがしやすく、高容量を得ることが可能である点で好ましい。
Liと合金化可能な金属粒子の平均粒子径(d50)は、サイクル寿命の観点から、通常0.01μm以上通常10μm以下である。
【0068】
[2-2-1-4.Liと合金可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子と黒鉛粒子との混合物]
負極活物質として用いられるLiと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子と黒鉛粒子との混合物は、前述のLiと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子と前述の黒鉛粒子が互いに独立した粒子の状態で混合されている混合体でもよいし、Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子が黒鉛粒子の表面又は内部に存在している複合体でもよい。
Liと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子と黒鉛粒子の合計に対するLiと合金化可能な金属元素及び/又は半金属元素を含有する粒子の含有割合は、通常1質量%以上99質量%以下である。
【0069】
[2-2-1-5.リチウム含有金属複合酸化物材料]
負極活物質として用いられるリチウム含有金属複合酸化物材料としては、リチウムを吸蔵・放出可能であれば、特に制限されないが、高電流密度充放電特性の点からチタンを含むリチウム含有複合金属酸化物材料が好ましく、リチウムとチタンの複合酸化物(以下、「リチウムチタン複合酸化物」と略記する場合がある)がより好ましく、スピネル構造を有するリチウムチタン複合酸化物が出力抵抗を大きく低減するので特に好ましい。
【0070】
また、リチウムチタン複合酸化物のリチウムやチタンが、他の金属元素、例えば、Al、Ga、Cu及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素で置換されていてもよい。 リチウムチタン複合酸化物として、Li4/3Ti5/3O4、Li1Ti2O4及びLi4/5Ti11/5O4が好ましい。また、リチウム・チタンの一部が他の元素で置換されたリチウムチタン複合酸化物として、例えば、Li4/3Ti4/3Al1/3O4が好ましい。
【0071】
[2-2-2.負極の構成と製造方法]
負極の製造は、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のいずれの方法を用いることができる。例えば、負極活物質に、結着剤、水系溶媒及び有機系溶媒等の液体媒体、必要に応じて、増粘剤、導電材、充填材等を加えてスラリーとし、これを集電体に塗布、乾燥した後にプレスすることによって負極活物質層を形成することによって作製することができる。
【0072】
[2-2-2-1.活物質含有量]
負極活物質の、負極活物質層中の含有量は、通常80質量%以上、99.5質量%以下である。
【0073】
[2-2-2-2.電極密度]
塗布、乾燥によって得られた負極活物質層は、負極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。負極活物質を電極化した際の電極構造は特に制限されないが、集電体上に存在している負極活物質層の密度は、通常1g・cm-3以上、2.2g・cm-3以下である。
【0074】
[2-2-2-3.増粘剤]
増粘剤は、通常、スラリーの粘度を調製するために使用される。増粘剤としては、特に制限されないが、具体的には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
さらに増粘剤を用いる場合には、負極活物質に対する増粘剤の割合は、通常0.1質量%以上5質量%以下である。
【0075】
[2-2-2-4.結着剤]
負極活物質を結着するバインダーとしては、非水電解液や電極製造時に用いる溶媒に対して安定な材料であれば、特に制限されない。
具体例としては、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、NBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
負極活物質に対するバインダーの割合は、通常0.1質量%以上20質量%以下である。
特に、SBRに代表されるゴム状高分子を主要成分に含有する場合には、負極活物質に対するバインダーの割合は、通常0.1質量%以上5質量%以下である。また、ポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素系高分子を主要成分に含有する場合には負極活物質に対する割合は、通常1質量%以上15質量%以下である。
【0076】
[2-2-2-5.集電体]
負極活物質を保持させる集電体としては、公知のものを任意に用いることができる。負極の集電体としては、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料が挙げられるが、加工し易さとコストの点から特に銅が好ましい。
集電体の形状としては、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられる。これらのうち、金属箔又は金属薄膜が好ましい。なお、金属薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
負極の集電体の形状が板状や膜状等である場合、該集電体の厚さは任意であるが、通常1μm以上、1mm以下である。
【0077】
[2-2-2-6.負極板の厚さ]
負極板の厚さは用いられる正極板に合わせて設計されるものであり、特に制限されないが、芯材の金属箔厚さを差し引いた合材層の厚さは通常15μm以上300μm以下である。
【0078】
[2-2-2-7.負極板の表面被覆]
また、上記負極板の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したもの(表面付着物質)を用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム等の酸化物、硫酸リチウム等の硫酸塩、炭酸リチウム等の炭酸塩等が挙げられる。
【0079】
[2-3.正極]
正極とは、正極活物質を集電体表面の少なくとも一部に有するものをいう。
[2-3-1.正極活物質]
以下に正極に使用される正極活物質(リチウム遷移金属系化合物)について述べる。
【0080】
[2-3-1-1.リチウム遷移金属系化合物]
リチウム遷移金属系化合物とは、リチウムイオンを脱離、挿入することが可能な構造を有する化合物であり、例えば、硫化物やリン酸塩化合物、ケイ酸化合物、ホウ酸化合物、リチウム遷移金属複合酸化物などが挙げられる。なかでも、リチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。
【0081】
リチウム遷移金属複合酸化物としては、三次元的拡散が可能なスピネル構造や、リチウムイオンの二次元的拡散を可能にする層状構造に属するものが挙げられる。スピネル構造を有するものは、一般的にLixM’2O4(M’は少なくとも1種以上の遷移金属)と表され、具体的にはLiMn2O4、LiCoMnO4、LiNi0.5Mn1.5O4、LiCoVO4などが挙げられる。層状構造を有するものは、一般的にLixMO2(Mは少なくとも1種以上の遷移金属)と表される。具体的にはLiCoO2、LiNiO2、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2、LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2、Li1.05Ni0.33Co0.33Mn0.33O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、Li1.05Ni0.5Co0.2Mn0.3O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2などが挙げられる。
【0082】
なかでも、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、下記組成式(11)で示される遷移金属酸化物であることがより好ましい。
Lia1Nib1Coc1M’d1O2・・・(11)
(組成式(11)中、0.9≦a1≦1.1、0.3≦b1≦0.9、0.1≦c1≦0.5、0.0≦d1≦0.5の数値を示し、0.5≦b1+c1かつb1+c1+d1=1を満たす。M’はMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
【0083】
組成式(11)で表されるリチウム遷移金属酸化物の好適な具体例としては、例えば、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2、LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2、Li1.05Ni0.5Co0.2Mn0.3O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2等が挙げられる。
【0084】
なかでも、正極活物質中の全遷移金属元素の原子濃度の合計値に対するNiの原子濃度の割合が50atomic%以上の正極活物質を使用すると、Niの触媒作用により正極表面での非水溶媒の分解が起き、電池の抵抗が増加しやすい傾向にある。特に高温環境下での電気化学特性が低下しやすい傾向にあるが、本発明に係るリチウム二次電池ではこれらの電気化学特性の低下を抑制することができるので好ましい。特に、正極活物質中の遷移金属元素の全原子の量に対するNi原子の含有量、換言すると、正極活物質中の全遷移金属元素の原子濃度の合計値に対するNiの原子濃度の割合が、50atomic%を超える正極活物質を用いた場合に上記効果が顕著になるので好ましく、60atomic%以上がより好ましく、70atomic%以上が更に好ましく、80atomic%以上が特に好ましい。
【0085】
また、下記組成式(12)で示される遷移金属酸化物であることも好ましい。
Lia2Nib2Coc2M’d2O2・・・(12)
(式(12)中、a2、b2、c2及びd2はそれぞれ、0.90≦a2≦1.10、0.50≦b2≦0.98、0.01≦c2<0.50、0.01≦d2<0.50を満たす数値を示し、b2+c2+d2=1を満たす。M’はMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
組成式(12)で表されるリチウム遷移金属酸化物の好適な具体例としては、例えば、LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2、LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2、LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2等が好適に挙げられる。なお、上記具体的な正極活物質の全遷移金属元素(Ni、Mn、Co)の全原子の量(全遷移金属濃度)(合計量)に対するNi原子の含有量(Ni原子濃度)の割合は、50atomic%、60atomic%、80atomic%、84atomic%である。
各組成式中、M’はMn、Alが好ましい。遷移金属酸化物の構造安定性が高まり、繰り返し充放電した際の構造劣化が抑制される。
なお、正極活物質中の遷移金属元素の全原子の量(全遷移金属濃度)及びNi原子の含有量(Ni原子濃度)は、X線光電子分光(XPS)法により測定、算出することができる。
【0086】
[2-3-1-2.異元素導入]
リチウム遷移金属系化合物は、上述の組成式(11)、(12)で規定以外の異元素が導入されてもよい。
【0087】
[2-3-1-3.表面被覆]
上記正極活物質の表面に、これとは異なる組成の物質(表面付着物質)が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム等の酸化物、硫酸リチウム等の硫酸塩、炭酸リチウム等の炭酸塩等が挙げられ、炭酸塩であることが、上記式( I )で表される化合物と正極の親和性が向上するため好ましい。
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加、乾燥する方法等により該正極活物質表面に付着させることができる。
表面付着物質の量としては、該正極活物質に対して質量で、下限として好ましくは1μmol/g以上であり、10μmol/g以上が好ましく、通常1mmol/g以下で用いられる。
本明細書においては、正極活物質の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものも「正極活物質」という。
【0088】
[2-3-1-4.ブレンド]
なお、これらの正極活物質は一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0089】
[2-3-2.正極の構成と作製法]
以下に、正極の構成について述べる。本実施形態において、正極は、正極活物質と結着剤とを含有する正極活物質層を、集電体上に形成して作製することができる。正極活物質を用いる正極の製造は、常法により行うことができる。即ち、正極活物質と結着剤、並びに必要に応じて導電材及び増粘剤等を乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、又はこれらの材料を液体媒体に溶解又は分散させてスラリーとして、これを正極集電体に塗布し、乾燥することにより、正極活物質層を集電体上に形成されることにより正極を得ることができる。また、例えば、上述の正極活物質をロール成形してシート電極としたり、圧縮成形によりペレット電極としてもよい。
以下、スラリーを正極集電体に塗布・乾燥する場合について説明する。
【0090】
[2-3-2-1.活物質含有量]
正極活物質の、正極活物質層中の含有量は、通常80質量%以上99.5質量%以下である。
【0091】
[2-3-2-2.電極密度]
塗布、乾燥によって得られた正極活物質層は、正極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。集電体上に存在している正極活物質層の密度は、通常1.5g/cm3以上4.5g/cm3以下である。
【0092】
[2-3-2-3.導電材]
導電材としては、公知の導電材を任意に用いることができる。具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料等が挙げられる。なお、これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。導電材は、正極活物質層中に、通常0.01質量%以上50質量%以下含有するように用いられる。
【0093】
[2-3-2-4.結着剤]
正極活物質層の製造に用いる結着剤としては、特に限定されず、塗布法の場合は、電極製造時に用いる液体媒体に対して溶解又は分散される材料であれば、その種類は特に制限されないが、耐候性、耐薬品性、耐熱性、難燃性等からポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンシアニド等のCN基含有ポリマーなどが好ましい。
また、上記のポリマーなどの混合物、変成体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体なども使用できる。なお、結着剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、結着剤として樹脂を用いる場合、その樹脂の重量平均分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1万以上300万以下である。分子量がこの範囲であると電極の強度が向上し、電極の形成を好適に行うことができる。
正極活物質層中の結着剤の割合は、通常0.1質量%以上80質量%以下である。
【0094】
[2-3-2-5.集電体]
正極集電体の材質としては特に制限されず、公知のものを任意に用いることができる。具体例としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料が挙げられる。中でもアルミニウムが好ましい。
集電体の形状としては、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられる。これらのうち、金属薄膜が好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
正極の集電体の形状が板状や膜状等である場合、該集電体の厚さは任意であるが、通常1μm以上、1mm以下である。
【0095】
[2-3-2-6.正極板の厚さ]
正極板の厚さは特に限定されないが、高容量かつ高出力の観点から、芯材の金属箔厚さを差し引いた合材層の厚さは、集電体の片面に対して通常10μm以上500μm以下である。
【0096】
[2-3-2-7.正極板の表面被覆]
また、上記正極板は、その表面に、正極板とは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよく、当該物質としては、正極活物質の表面に付着していてもよい表面付着物質と同じ物質が用いられる。
【0097】
[2-4.セパレータ]
正極と負極との間には、短絡を防止するために、通常はセパレータを介在させる。この場合、非水系電解液は、通常はこのセパレータに含浸させて用いる。
セパレータの材料や形状については特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。
【0098】
[2-5.電池設計]
[2-5-1.電極群]
電極群は、上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介してなる積層構造のもの、及び上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のもののいずれでもよい。電極群の体積が電池内容積に占める割合(以下、電極群占有率と称する)は、通常40%以上90%以下である。
【0099】
[2-5-2.集電構造]
電極群が前述の積層構造のものでは、各電極層の金属芯部分を束ねて端子に溶接して形成される構造が好適に用いられる。電極内に複数の端子を設けて抵抗を低減することも好適に用いられる。電極群が前述の捲回構造のものでは、正極及び負極にそれぞれ複数のリード構造を設け、端子に束ねることにより、内部抵抗を低くすることができる。
【0100】
[2-5-3.保護素子]
保護素子として、異常発熱や過大電流が流れた時に抵抗が増大するPTC(Positive Temperature Coefficient)素子、温度ヒューズ、サーミスター、異常発熱時に電池内部圧力や内部温度の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)等を使用することができる。上記保護素子は高電流の通常使用で作動しない条件のものを選択することが好ましく、保護素子がなくても異常発熱や熱暴走に至らない設計にすることがより好ましい。
【0101】
[2-5-4.外装体]
非水電解液二次電池は、通常、上記の非水電解液、負極、正極、セパレータ等を外装体(外装ケース)内に収納して構成される。この外装体に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り公知のものを任意に採用することができる。
外装ケースの材質は用いられる非水電解液に対して安定な物質であれば特に限定されるものではないが、軽量化の観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金の金属、ラミネートフィルムが好適に用いられる。
上記金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、又は、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。
【0102】
[2-5-5.形状]
また、外装ケースの形状も任意であり、例えば円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等の何れであってもよい。
【実施例】
【0103】
次に実施例により本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0104】
<製造例1>
(式( I )におけるR1がメチル基、Mk+がLi+、m=1とm=2の混合物の製造方法)
撹拌子を入れた100mlPFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂)製反応器にモノフルオロリン酸メチルリチウム(9.69g、0.080mol、式( I I )におけるR1がメチル基である化合物)、別途三フッ化ホウ素ガスと炭酸ジメチルから調製した三フッ化ホウ素の炭酸ジメチル錯体(6.7%、81.1g、0.080mol)を混合し室温で終夜撹拌した。分析結果は下記のとおりである。
[式( I )におけるR1がメチル基、Mk+がLi+、m=1の化合物]
19F-NMR(DMC,376MHz,トリクロロフルオロメタン=0ppm):δ=-85.0ppm(d,J=920.3Hz,1F),-149.6ppm(s,3F)
HRMS(ESI,m/z) Calcd For C2H5BF4O3P-:180.9849 Found:180.9845
[式( I )における、2つのR1がメチル基、Mk+がLi+、m=2の化合物]
19F-NMR(DMC,376MHz,トリクロロフルオロメタン=0ppm):δ=-84.7ppm(d,J=922.1Hz,2F),-144.1ppm(s,2F)
HRMS(ESI,m/z) Calcd For C4H10BF4O6P2-:274.9669 Found:274.9669
炭酸ジメチル中の式( I )におけるR1がメチル基、Mk+がLi+、m=1の化合物とm=2の化合物のモル比率は74:26であり、式( I )で表される化合物の合計濃度は19F-NMR内標定量法(内標:1,4-(ビストリフルオロメチル)ベンゼン)により14.2%であった。
【0105】
<製造例2>
(式( I )におけるR1がエチル基、Mk+がLi+、m=1とm=2の混合物の製造方法)
撹拌子を入れた100mlPFA製反応器にモノフルオロリン酸エチルリチウム(10.43g、0.078mol、式( I I )におけるR1がエチル基である化合物)、別途三フッ化ホウ素ガスと炭酸ジメチルから調製した三フッ化ホウ素の炭酸ジメチル錯体(7.8%、68.1g、0.078mol)を混合し室温で終夜撹拌した。分析結果は下記のとおりである。
[式( I )におけるR1がエチル基、Mk+がLi+、m=1の化合物]
19F-NMR(DMC,376MHz,トリクロロフルオロメタン=0ppm):δ=-82.4ppm(d,J=920.6Hz,1F),-149.5ppm(s,3F)
HRMS(ESI,m/z) Calcd For C2H5BF4O3P-:195.0005 Found:195.0002
[式( I )における、2つのR1がエチル基、Mk+がLi+、m=2の化合物]
19F-NMR(DMC,376MHz,トリクロロフルオロメタン=0ppm):δ=-82.0ppm(d,J=922.6Hz,2F),-143.9ppm(s,2F)
HRMS(ESI,m/z) Calcd For C4H10BF4O6P2-:302.9982 Found:302.9985
炭酸ジメチル中の式( I )におけるR1がエチル基、Mk+がLi+、m=1の化合物とm=2の化合物のモル比率は73:27であり、式( I )で表される化合物の合計濃度は19F-NMR内標定量法(内標:1,4-(ビストリフルオロメチル)ベンゼン)により17.5%であった。
【0106】
<製造例3>
(式( I )におけるR1がアリル基、Mk+がLi+、m=1とm=2の混合物の製造方法)
撹拌子を入れた20mlPFA製反応器にモノフルオロリン酸アリルリチウム(2.93g、0.020mol、式( I I )におけるR1がアリル基である化合物)、別途三フッ化ホウ素ガスと炭酸ジメチルから調製した三フッ化ホウ素の炭酸ジメチル錯体(7.1%、20.7g、0.021mol)を混合し室温で終夜撹拌した。反応液中の不溶解分をPTFEメンブレンフィルター(アドバンテック社製、孔径:0.2μm)でろ別し、ろ液を19F-NMRにて分析した。分析結果は下記のとおりである。
[式( I )におけるR1がアリル基、Mk+がLi+、m=1の化合物]
19F-NMR(DMC,376MHz,トリクロロフルオロメタン=0ppm):δ=-81.9ppm(d,J=924.4Hz,1F),-149.6ppm(s,3F)
HRMS(ESI,m/z) Calcd For C2H5BF4O3P-:207.0005 Found:207.0006
[式( I )における、2つのR1がアリル基、Mk+がLi+、m=2の化合物]
19F-NMR(DMC,376MHz,トリクロロフルオロメタン=0ppm):δ=-81.5ppm(d,J=926.1Hz,2F),-143.8ppm(s,2F)
HRMS(ESI,m/z) Calcd For C4H10BF4O6P2-:326.9982 Found:326.9985
炭酸ジメチル中の式( I )におけるR1がアリル基、Mk+がLi+、m=1の化合物とm=2の化合物のモル比率は75:25であり、式( I )で表される化合物の合計濃度は19F-NMR内標定量法(内標:1,4-(ビストリフルオロメチル)ベンゼン)により15.9%であった。
【0107】
[非水電解液二次電池の評価]
実施例で作製した非水電解液二次電池は以下のとおり評価した。
・初期充放電
25℃の恒温槽中、非水電解液二次電池を0.1C(1時間率の放電容量による定格容量を1時間で放電する電流値を1Cとする。以下同様。)で1時間定電流充電し、0.1Cで2.5Vまでの定電流放電を行った。その後0.2Cで4.2Vの電圧まで定電流-定電圧充電し、0.2Cで2.5Vまでの定電流放電を行った。なお、定電圧充電のカットオフ電流は0.05Cである。
さらに、4.2Vまで0.2Cで定電流-定電圧充電した後に、60℃で48時間保管することで非水電解液二次電池を安定させた。その後、25℃にて0.2Cで2.5Vまで定電流放電し、次いで4.2Vの電圧まで0.2Cで定電流-定電圧充電を実施した。その後、0.2Cで2.5Vまでの定電流放電を行った。
【0108】
・高温保存試験
45℃にて、4.2Vの電圧まで0.2Cで定電流-定電圧充電を実施した。なお、定電圧充電のカットオフ電流は0.05Cである。その後85℃の恒温槽内で24時間静置し、45℃にて0.2Cで2.5Vまでの定電流放電を行った。
【0109】
・電池内部抵抗測定試験
高温保存試験後に保存3.7Vの電圧まで0.2Cで定電流-定電圧充電を実施し、その後0℃において各々0.3C、0.5C、0.7C、1.0C、1.5Cで放電させ、その10秒時の電圧を測定した。この電流-電圧直線より内部抵抗を求めた。
なお、表1の実施例1~5記載の電池内部抵抗は比較例1を100と規格化して記載し、実施例6~7記載の電池内部抵抗は比較例2を100と規格化して記載した。
【0110】
・保存ガスの評価
前記初期充放電後と、高温保存試験後の非水電解液二次電池を常温の状態で超純水浴中に浸して体積を測定し、高温保存前後の体積変化を電池の「保存ガス」とした。
なお、表1の実施例1~5記載の発生ガス量は比較例1を100と規格化して記載し、実施例6~7記載の発生ガス量は比較例2を100と規格化して記載した。
【0111】
[非水電解液二次電池の作製][実施例1~5、比較例1]
<非水電解液の調製>
乾燥アルゴン雰囲気下、モノフルオロエチレンカーボネート(FEC)とエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)の混合物(容量比で、FEC:EC:EMC:DMC=1:2:3:4)に、十分に乾燥させたLiPF6を1.2mol/L(非水電解液中の濃度として)溶解させて非水電解液とし、ビニレンカーボネート(VC)を前記非水電解液に対して0.5質量部加えたものを基準電解液とした。該基準電解液に対して、式( I )で表される化合物の合計量が表1に記載の濃度になるように製造例1~3で得られた、式( I )で表される化合物の炭酸ジメチル溶液を添加して、非水電解液を調製した。
[実施例6~7、比較例2]
<非水電解液の調製>
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)の混合物(容量比で、EC:EMC:DMC=3:3:4)に、十分に乾燥させたLiPF6を1.2mol/L(非水電解液中の濃度として)溶解させた非水電解液を基準電解液として、式( I )で表される化合物の合計量が表1に記載の濃度になるように製造例1,3で得られた、式( I )で表される化合物の炭酸ジメチル溶液を添加して非水電解液を調製した。
この非水電解液を用いて下記の方法で非水電解液二次電池を作製し評価を実施した。
【0112】
<正極の作製>
LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2(正極活物質);90質量%、炭素系導電剤;6質量%、を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤);4質量%を1-メチル-2-ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、正極合剤ペーストを調製した。この正極合剤ペーストをアルミニウム箔(集電体)上の片面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに裁断し、矩形の正極とした。
【0113】
<負極の作製>
天然黒鉛(負極活物質);98質量%と、カルボキシメチルセルロース(増粘剤);1質量%、スチレンブタジエンゴム(結着剤);1質量%を水に溶解させておいた溶液に加えて混合し、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔(集電体)上の片面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに裁断し、負極とした。
【0114】
<非水電解液二次電池の製造>
上記の正極、負極、及び微多孔性ポリエチレンフィルム製セパレータを、負極、セパレータ、正極の順に積層した。こうして得られた電池要素をアルミニウムラミネートフィルムで包み込み、前述の非水電解液を注入した後で真空封止し、シート状の非水電解液二次電池を作製した。
得られた非水電解液二次電池において、保存ガス及び抵抗維持率の評価を前述の通りに行った。表1に結果を示す。
【0115】
【0116】
表1から明らかなように、上記実施例1~7のリチウム二次電池は、本願発明の非水電解液において、本願発明の化合物を添加しない場合の比較例1、比較例2のリチウム二次電池に比べ、高温保存時の発生ガス量を抑制し、抵抗上昇抑制効果を向上させている。以上より、本願発明の蓄電デバイスを、高温で使用した場合の効果は、非水電解液中に、本願の化合物を含有する場合に特有の効果であることが判明した。