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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-11
(45)【発行日】2025-03-19
(54)【発明の名称】線条体の画像直径測定システム
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/08 20060101AFI20250312BHJP
【FI】
G01B11/08 H
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021079503
(22)【出願日】2021-05-10
(65)【公開番号】P2022173669
(43)【公開日】2022-11-22
【審査請求日】2024-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】弁理士法人東京UIT国際特許
(72)【発明者】
【氏名】平勢 理士
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-286709(JP,A)
【文献】特開平03-249263(JP,A)
【文献】特開2012-026816(JP,A)
【文献】特表2017-515097(JP,A)
【文献】特開2011-132010(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0075159(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向全体が撮像されるように線条体を撮像し,上記線条体を被写体像に含む画像データを出力するイメージセンサを含むカメラ,
上記線条体を挟んで上記カメラと反対側に設けられる照明装置,および
上記カメラから与えられる画像データを処理する画像処理装置を備え,
上記画像処理装置が,
上記カメラから与えられる画像データによって表されるフレーム画像を構成するライン画像ごとに,上記線条体のシルエット画像の両端エッジ位置を決定するエッジ位置決定手段,
上記エッジ位置決定手段によってライン画像ごとに決定される両端エッジ位置から等距離にある中点位置を決定し,決定される中点位置を用いて上記フレーム画像に含まれる上記線条体シルエット画像の中心線を決定する中心線決定手段,ならびに
上記両端エッジ位置,中点位置および上記中心線の傾きを用いて,ライン画像ごとに,上記中心線に垂直な線分に沿って上記線条体シルエット画像の両端エッジ間の長さを決定する直径決定手段を備え
上記直径決定手段は,
上記両端エッジ位置のそれぞれと上記中点位置と上記中心線の傾きを用いて,上記線条体のシルエット画像の左半径および右半径をそれぞれ算出する半径算出手段を含む,
線条体の画像直径測定システム。
【請求項2】
上記直径決定手段は,上記半径算出手段によってライン画像ごとに算出される左半径および右半径のそれぞれの最大値の合計を,上記両端エッジ間の長さとするものである,
請求項に記載の線条体の画像直径測定システム。
【請求項3】
上記エッジ位置決定手段が,
上記ライン画像の水平方向に隣接する画素の輝度変化量によって表されるピークの重心位置を両端エッジ位置として決定するものである,
請求項1または2に記載の線条体の画像直径測定システム。
【請求項4】
上記エッジ位置決定手段が,
上記ライン画像の水平方向に隣接する画素の輝度変化量の最大値を示す位置を両端エッジ位置として決定するものである,
請求項1または2に記載の線条体の画像直径測定システム。
【請求項5】
上記中心線決定手段によって決定される中心線が,ライン画像ごとに決定される中点位置を用いて最小二乗法により求められる回帰直線である,
請求項1からのいずれか一項に記載の線条体の画像直径測定システム。
【請求項6】
上記線条体が複数本のストランドを撚り合わせることによって構成されるワイヤロープであり,
上記直径決定手段は,
上記フレーム画像に含まれる上記ワイヤロープのシルエット画像のうちの一つの山部を含む画像部分を用いて,上記中心線に垂直な線分に沿って上記線条体シルエット画像の両端エッジ間の長さを決定する,
請求項1に記載の線条体の画像直径測定システム。
【請求項7】
線条体の幅方向の全体を被写体像に含むフレーム画像を表す画像データの入力を受け付ける画像データ入力手段,
上記フレーム画像を構成するライン画像ごとに,上記線条体画像の両端エッジ位置を決定するエッジ位置決定手段,
上記エッジ位置決定手段によってライン画像ごとに決定される両端エッジ位置から等距離にある中点位置を決定し,ライン画像ごとに決定される中点位置を用いて上記フレーム画像に含まれる上記線条体画像の中心線を決定する中心線決定手段,
上記両端エッジ位置,中点位置および上記中心線の傾きを用いて,ライン画像ごとに,上記中心線に垂直な線分に沿って上記線条体画像の両端エッジ間の長さを決定する直径決定手段を備え
上記直径決定手段は,
上記両端エッジ位置のそれぞれと上記中点位置と上記中心線の傾きを用いて,上記線条体の画像の左半径および右半径をそれぞれ算出する半径算出手段を含む,
線条体の画像直径測定装置。
【請求項8】
線条体の幅方向の全体を被写体像に含むフレーム画像を表す画像データを用いて上記線条体の直径を測定するプログラムであって,
上記フレーム画像を構成するライン画像ごとに,上記線条体画像の両端エッジ位置を決定し,
ライン画像ごとに決定される両端エッジ位置から等距離にある中点位置を決定し,ライン画像ごとに決定される中点位置を用いて上記フレーム画像に含まれる上記線条体画像の中心線を決定し,
上記両端エッジ位置,中点位置および上記中心線の傾きを用いて,ライン画像ごとに,上記中心線に垂直な線分に沿って上記線条体画像の両端エッジ間の長さを決定し
上記線条体の画像の両端エッジ間の長さの決定において,上記両端エッジ位置のそれぞれと上記中点位置と上記中心線の傾きを用いて,上記線条体の画像の左半径および右半径をそれぞれ算出する,
線条体の画像直径測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,画像データを用いて線条体の直径を測定する線条体の画像直径測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は,カメラを用いてワイヤロープを撮像し,撮像によって得られた画像を用いてワイヤロープの径の実寸法を算出するワイヤロープ検査装置を開示する。カメラを用いて撮像されるワイヤロープの画像領域の幅の画素数とワイヤロープの幅の実寸法との換算係数(1画素あたりの実寸法)が設定され,この換算係数を利用してワイヤロープの画像からワイヤロープの幅の実寸法が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5769875号公報
【0004】
ワイヤロープの画像領域の幅の画素数からワイヤロープの幅の実寸法を算出する場合,撮像時のカメラの姿勢とワイヤロープの長手方向(走行方向)との関係が正しくなければならない。すなわち,ワイヤロープの撮像に用いられるカメラの撮像素子の水平方向(行方向)の配列がワイヤロープの長手方向(走行方向)と正しく直交していれば,ワイヤロープの画像領域の幅の画素数からワイヤロープの幅の実寸法を正しく算出することができる。しかしながら,カメラの撮像素子の水平方向の配列がワイヤロープの長手方向と直交していない場合,ワイヤロープの幅以上の値が算出されてしまう。特許文献1に記載のワイヤロープ検査装置は,ワイヤロープを撮像するカメラの設置姿勢に高い精度が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は,線条体を撮像するカメラの姿勢に大きく気をつかわずとも,線条体の直径を精度よく測定できるようにすることを目的とする。
【0006】
この発明はまた,線条体の直径の測定精度を向上させることを目的とする。
【0007】
この発明はさらに,撚り構造を備える線条体の直径の測定に適する測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明による線条体の画像直径測定システムは,幅方向全体が撮像されるように線条体を撮像し,上記線条体を被写体像に含む画像データを出力するイメージセンサを含むカメラ,上記線条体を挟んで上記カメラと反対側に設けられる照明装置,および上記カメラから与えられる画像データを処理する画像処理装置を備え,上記画像処理装置が,上記カメラから与えられる画像データによって表されるフレーム画像を構成するライン画像ごとに,上記線条体のシルエット画像の両端エッジ位置を決定するエッジ位置決定手段,上記エッジ決定位置手段によってライン画像ごとに決定される両端エッジ位置から等距離にある中点位置を決定し,決定される中点位置を用いて上記フレーム画像に含まれる上記線条体シルエット画像の中心線を決定する中心線決定手段,ならびに上記両端エッジ位置,中点位置および上記中心線の傾きを用いて,ライン画像ごとに,上記中心線に垂直な線分に沿って上記線条体シルエット画像の両端エッジ間の長さを決定する直径決定手段を備えている。
【0009】
被測定対象物である線条体を挟んでカメラと照明装置とが対向して配置される。この配置によってカメラが備えるイメージセンサには線条体のシルエット画像が結像する。カメラは線条体の幅方向全体が撮像されるように配置される。
【0010】
イメージセンサは多数の撮像素子が行方向および列方向の二次元に配列されたエリアセンサであってもよいし,多数の撮像素子が行方向の二次元に配列されたラインセンサであってもよい。いずれにしてもカメラが備えるイメージセンサから出力される画像データによって矩形のフレーム画像が構成される。フレーム画像には線条体の幅方向の全体を含む線条体シルエット画像が含まれる。
【0011】
フレーム画像を構成するライン画像(一行分の複数の撮像素子から出力される画像データによって表される水平方向画像)ごとに,上記線条体のシルエット画像の両端エッジ位置が決定され,両端エッジ位置から等距離にある中点位置が決定される。複数のライン画像のそれぞれについて決定される中点位置を用いてフレーム画像に含まれる線条体シルエット画像の中心線が決定される。
【0012】
複数のライン画像のそれぞれについて決定される中点位置同士を結べば,線条体シルエット画像の中心線を決定することができる。中心線をより精緻に決定するために,ライン画像ごとに決定される中点位置を用いて最小二乗法により求められる回帰直線を中心線としてもよい。
【0013】
線条体の長手方向とカメラが備えるイメージセンサの水平方向(複数の撮像素子の配列方向)とが直交していれば,中心線はフレーム画像の垂直方向と合致する。線条体の長手方向とカメラが備えるイメージセンサの水平方向とが直交していない場合,中心線はフレーム画像の垂直方向に合致せずに傾きを持つものとなる。
【0014】
この発明によると,上記両端エッジ位置,中点位置および上記中心線の傾きを用いて,ライン画像ごとに,上記中心線に垂直な線分に沿って上記線条体シルエット画像の両端エッジ間の長さが決定される。すなわち,線条体シルエット画像の中心線の傾きを用いることで,両端エッジ位置を単純に結ぶ長さではなく,上記中心線に垂直な線分に沿って,すなわち線条体シルエット画像の幅方向(線条体シルエット画像の長手方向に垂直な方向)に沿って線条体シルエット画像の幅(直径)が決められる。
【0015】
具体的には,両端エッジ位置を結ぶ長さの余弦(コサイン)または正弦(サイン)を,上記中心線の傾きを用いて求めればよい(余弦または正弦のいずれが採用されるかは中心線の傾きの基準(傾きゼロ)を垂直方向にするか水平方向にするかによって決定される)。線条体シルエット画像が傾いて撮像されたとしても,線条体シルエット画像の幅方向に正しく沿って両端エッジ間の長さを決定することができる。
【0016】
算出される両端エッジ間の長さは画像データによって表される線条体シルエット画像に基づくものである。画素分解能(1画素あたりの寸法)にしたがって両端エッジ間の長さに対応する線条体の直径(実寸法)は算出される。画素分解能は視野サイズ,イメージセンサの画素数から一意に定めることができる。
【0017】
このようにこの発明によると,線条体が斜めに撮像されたとしても線条体の直径を正しく測定することができる。線条体を撮像するカメラの姿勢に大きく気をつかわずに済み,これは特に使用中の線条体の直径を測定する場合に好都合である。
【0018】
好ましくは,上記直径決定手段は,上記両端エッジ位置のそれぞれと上記中点位置を用いて,上記線条体シルエット画像の左半径および右半径をそれぞれ算出する半径算出手段を含む。中心線に垂直な線分に沿って,すなわち線条体シルエット画像の幅方向に正しく沿って左半径および右半径を算出することができる。左半径および右半径のそれぞれを別々に測定することによって線条体の直径をより正確に測定することができる。
【0019】
一実施態様では,上記直径決定手段は,上記半径算出手段によってライン画像ごとに算出される左半径および右半径のそれぞれの最大値の合計を,上記両端エッジ間の長さとするものである。線条体の断面が真円でない場合に外接円の直径を求めることができる。
【0020】
一実施態様では,上記エッジ位置決定手段が,上記ライン画像の水平方向に隣接する画素の輝度変化量によって表されるピークの重心位置を両端エッジ位置として決定するものである。両端エッジ位置を画素単位よりも細かく決定することができ,イメージセンサの画素数がたとえ少ない(画素分解能が低い)としても線条体の直径の測定精度を向上させることができる。
【0021】
他の実施態様では,上記エッジ位置決定手段が,上記ライン画像の水平方向に隣接する画素の輝度変化量の最大値を示す位置を両端エッジ位置として決定するものである。上述した重心位置を求めることなく両端エッジ位置を簡便に決定することができる。
【0022】
上記線条体が複数本のストランドを撚り合わせることによって構成されるワイヤロープの場合,好ましくは,上記直径算出手段は,上記フレーム画像に含まれる上記ワイヤロープのシルエット画像のうちの一つの山部を含む画像部分を用いて,上記中心線に垂直な線分に沿って上記線条体シルエット画像の両端エッジ間の長さを決定する。シルエット画像に複数の山部が含まれている場合(複数ピッチ分の長さのワイヤロープがフレーム画像に含まれている場合)に,左半径の算出位置と右半径の算出位置の齟齬を回避することができる。
【0023】
この発明は,上述した線条体の画像直径測定システムに好適な線条体の画像直径測定装置およびプログラムも提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】ワイヤロープの直径測定システムのブロック図である。
図2】フレーム画像を示す。
図3】直径を測定するための画像処理アルゴリズムを示すフローチャートである。
図4】ライン画像の輝度および輝度変化量を示すグラフである。
図5】ワイヤロープの直径算出原理を示す。
図6】ワイロープの直径測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1はワイヤロープの直径測定システムを概略的に示すブロック図である。
【0026】
ワイヤロープ1の直径測定システムは,デジタルカメラ11,デジタルカメラ11の前方に設けられるレンズ12,照明光源13および記録/解析装置14を備えている。
【0027】
被測定対象物であるワイヤロープ1を挟んで,一方側に照明光源13が,他方側にデジタルカメラ11およびレンズ12が配置される。照明光源13からの出射光はワイヤロープ1によってその一部が遮られ,レンズ12を介してデジタルカメラ11のイメージセンサ(図示略)によって受光される。ワイヤロープ1は長手方向に沿って走行している状態であっても静止している状態であってもよい。
【0028】
レンズ12には好ましくはテレセントリックレンズが用いられる。テレセントリックレンズを用いることで,レンズ12の光軸に対して平行に入射した光だけがデジタルカメラ11が備えるイメージセンサに結像し,歪みのない被写体像を得ることができる。
【0029】
デジタルカメラ11が備えるイメージセンサは,複数の撮像素子が垂直方向および水平方向の二次元に配列されたエリアセンサであってもよいし,水平方向に配列された複数の撮像素子を備えるラインセンサであってもよい。撮像素子はC-MOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)素子であっても,CCD(Charge-Coupled Device)素子であってもよい。イメージセンサのフレームレートは,走行しているワイヤロープ1を撮像するか静止しているワイヤロープ1を撮像するかによって,さらには走行するワイヤロープ1の走行速度に応じて任意に設定することができ,たとえば10~500fps程度のフレームレートによってワイヤロープ1を撮像する。イメージセンサの画素数は任意であるが,画素数が多いほど,以下に説明するエッジ位置を詳細に(細かく)決定することができる。
【0030】
デジタルカメラ11から出力される画像データは記録/解析装置14に送信される。記録/解析装置14は,記録/解析装置14の動作を統括的に制御するCPU(Central Processing Unit),各種データを一時的に記憶するメモリ,各種データを記憶する記憶媒体,デジタルカメラ11との間でデータ通信をするための通信装置,後述する解析結果(ワイヤロープ1の直径dの測定結果を表すグラフ)等を表示するための表示装置等を備えるコンピュータ装置であり,デジタルカメラ11から送信される画像データは記録/解析装置14が備える記憶媒体に記録され,記憶媒体に記録された画像データを用いてワイヤロープ1の直径dが測定される。記録/解析装置14の記憶媒体には,デジタルカメラ11から送信される画像データが記録されるととも,記録/解析装置14に後述する画像処理を実行させるためのプログラム,オペレーティングシステム・プログラム等も記録される。
【0031】
図2は,デジタルカメラ11によって撮像され,記録/解析装置14が備える記憶媒体に記録される1フレーム分の画像データによって表される画像(以下,フレーム画像という)20の一例を示している。
【0032】
上述したように,ワイヤロープ1を挟んで一方側に照明光源13が,他方側にデジタルカメラ11が設置されているので,デジタルカメラ11によって撮像されるフレーム画像20は,照明光源13からの出射光がワイヤロープ1によって遮られる暗い画像部分(以下,ワイヤシルエット画像という)21とその周囲の明るい画像部分を含むものになる。図2に示すように,ワイヤロープ1の幅方向全体が撮像されるようにデジタルカメラ11は設置される。
【0033】
撮像のときにワイヤロープ1の長手方向とデジタルカメラ11が備える水平方向に並ぶ撮像素子とが正しく直交していれば,ワイヤシルエット画像21はフレーム画像20の垂直方向に沿うことになる。しかしながらワイヤロープ1の長手方向とデジタルカメラ11が備える水平方向の撮像素子の並びとにずれがあると,図2に示すように,ワイヤシルエット画像21はフレーム画像20において傾くことになる。
【0034】
この実施例のワイヤロープの直径測定装置は,図2に示すようにワイヤロープ1の長手方向とデジタルカメラ11の水平方向撮像素子の並びが正しく直交していず,このためにワイヤシルエット画像21が傾いたフレーム画像20を用いても,ワイヤロープ1の直径を正しく測定することができるアルゴリズムを持つ。以下,ワイヤロープ1の直径を測定するアルゴリズムの詳細を説明する。
【0035】
図3は,ワイヤロープ1の直径dを測定するための画像処理アルゴリズムを示すフローチャートである。図3に示す処理は記録/解析装置14によって実行される。図5はワイヤロープ1の直径dの算出原理を示すもので,以下の説明において適宜参照する。
【0036】
上述したように,記録/解析装置14の記憶媒体にはデジタルカメラ11から出力される画像データが記録される。記憶媒体に記録される画像データに対して以下に説明する処理が実行される。
【0037】
はじめにワイヤロープ1の直径測定の基本的な考えを簡単に説明しておく。ワイヤロープ1は一般に複数本のストランドを撚り合わせて作られるので,隣り合うストランドの境界にはらせん状の谷部(溝部,ニップ)が形成され,谷部と谷部の間に山部(クラウン)が位置する。ワイヤロープ1の直径dの測定ではワイヤロープ1の山部に沿うワイヤロープ1の横断面の外接円の直径が用いられる。以下に説明するように,記録/解析装置14によって実行される画像データを用いたワイヤロープ1の直径dの測定処理においても,ワイヤロープ1の山部に相当する画像部分が直径dの算出に用いられるように処理が行われる。
【0038】
フレーム画像20には複数の行単位の画像(以下,ライン画像という)が含まれる。はじめに,フレーム画像20に含まれる複数のライン画像のそれぞれを処理対象にして,ライン画像ごとに,ワイヤシルエット画像21の左側エッジ位置(座標x)および右側エッジ位置(座標x)が決定される(ステップ31)。
【0039】
図4は,フレーム画像20に含まれる一行分のライン画像の輝度および輝度変化量を示すグラフであり,上段のグラフの縦軸が輝度を,下段のグラフの縦軸が輝度変化量をそれぞれ表している。横軸はいずれもライン画像の水平位置である。撮像素子の1画素あたりの実寸値は既知であり,図4に示すグラフの横軸(x座標)は実寸値に換算される。
【0040】
上述のように,フレーム画像20中にワイヤシルエット画像21(左右エッジの両方)が完全に含まれるようにデジタルカメラ11は設置される。フレーム画像20を構成する複数のライン画像にはワイヤシルエット画像21を表す輝度の小さい部分と,その左右に隣接する輝度の大きい部分とが含まれる。
【0041】
水平方向(左右)に隣接する撮像素子から出力される画像データの輝度の差を輝度変化量として算出すると,図4の上段に示すグラフから下段に示すグラフを描くことができる。より詳細には,輝度変化量は,水平方向に隣接する2つの撮像素子のそれぞれから出力される2つの画像データの輝度値を用いて,右側撮像素子の輝度値から左側撮像素子の輝度値を減算することによって算出される。右側撮像素子の輝度値が左側撮像素子の輝度値よりも小さいと,算出される輝度変化量は負の値となる。逆に右側撮像素子の輝度値が左側撮像素子の輝度値よりも大きいと,輝度変化量は正の値になる。輝度変化量のグラフには,ワイヤシルエット画像21の左側エッジに対応する負の値を持つピークP1と,右側エッジに対応する正の値を持つピークP2とが現われる。
【0042】
上述した輝度変化量を用いて,ライン画像に含まれるワイヤシルエット画像21の左側および右側のエッジ位置がそれぞれ決定される。
【0043】
左側エッジ位置xは以下の式1によって算出される。
【0044】
【数1】
【0045】
ここでf(x)はライン画像の水平位置をxとしたときのピークP1の曲線を表す関数であり,a,bはピークP1を両側から挟む任意の水平位置である。式1によってピークP1の重心のx座標が算出され,これがライン画像の左側エッジ位置xとして扱われる。
【0046】
ライン画像の右側エッジ位置xも,上述した式1と同様にしてピークP2の曲線を表す関数を用いて算出することができる。
【0047】
式1によって算出される左側,右側エッジ位置x,xは1画素よりも小さい単位,たとえば1/10~1/100画素単位(サブピクセル単位)程度で算出することができ(正確な画素分解能は被写体であるワイヤロープ1とデジタルカメラ11との間の距離(視野サイズ)およびイメージセンサの画素数によって一意に定められる),左側,右側エッジ位置(座標)x,xを高精度に決定することができる。
【0048】
輝度変化量のピークP1,P2の重心を左側,右側エッジ位置x,xとするのに代えて,輝度変化量が最大となるx座標を,それぞれ左側,右側エッジ位置x,xとしてもよい。重心を算出する必要がないので,左側,右側エッジ位置x,xを簡便に決定することができる。
【0049】
左側エッジの水平位置x,右側エッジの水平位置xが決定されると,次にこれらの2つの位置x,xから等距離にある中点座標が中点位置xに決定される(ステップ32)。
【0050】
フレーム画像に含まれる複数のライン画像のそれぞれについて上述した処理が行われる。
【0051】
フレーム画像20に含まれるすべてのライン画像について左側エッジ位置x,右側エッジ位置xおよび中点位置xが算出されると,ライン画像ごとに算出された中点位置xを用いて回帰直線が算出され,この回帰直線がフレーム画像20に含まれるワイヤシルエット画像21の中心線Cとして扱われる。回帰直線の算出には典型的には最小二乗法が用いられる(ステップ40)。
【0052】
回帰直線(中心線C)が算出されることによって,ワイヤシルエット画像21の中心線Cのフレーム画像20に対する傾きθが把握される。図5を参照して,この実施例において中心線Cの傾きθは,フレーム画像20の垂直方向を基準(傾きゼロ)とする,垂直方向からの角度とする。
【0053】
フレーム画像20に含まれるすべてのライン画像について左側エッジ位置xおよび右側エッジ位置xが算出されることで,ワイヤシルエット画像21の左側エッジ位置および右側エッジ位置のそれぞれにサインカーブに類似するエッジ曲線が描かれる。上述したようにワイヤロープ1は複数本のストランドを撚り合わせることによって構成されており,ワイヤロープ1の表面にはワイヤロープ1の長手方向に沿って山部と谷部とが繰り返し現れるからである。
【0054】
図2に示すワイヤシルエット画像21の左側エッジには3つの山部21L1,21L2,21L3が,右側エッジにも3つの山部21R1,21R2,21R3が含まれている。ワイヤシルエット画像21に複数の山部が含まれている場合,そのうちの一つ(一対),たとえば最も上方に位置する山部21L1,21R1を含む画像部分(たとえば図2に示すワイヤシルエット画像21の上側1/3程度の画像部分)が,以下に説明するワイヤロープ1の直径dの算出のための処理対象画像部分とされる。これは,ワイヤシルエット画像21中に複数の山部が含まれている場合に,以下に説明する左半径と右半径の最大値が異なる山部から選ばれてしまうのを回避する(左半径の算出位置と右半径の算出位置の齟齬を回避する)ためである。
【0055】
ワイヤシルエット画像21の処理対象画像部分が用いられて,ライン画像のそれぞれについて決定された左側エッジ位置x,右側エッジ位置x,中点位置xおよび中心線Cの傾きθを用いて,ワイヤロープ1の左半径rおよび右半径rがそれぞれ算出される。図5を参照して左半径rは(x-x)cosθ,右半径rは(x-x)cosθによってそれぞれ表される(ステップ50)。ワイヤロープ1がデジタルカメラ11によって斜めに撮像され,この結果ワイヤシルエット画像21がフレーム画像20の垂直方向から傾いたとしても,算出される左半径rおよび右半径rを正しく算出することができる。ワイヤロープ1を撮像するデジタルカメラ11の姿勢に大きく気を使う必要がなく,これは特にエレベータ等の設置現場において使用中のワイヤロープ1の直径を測定する場合に好都合である。
【0056】
ワイヤシルエット画像21の処理対象画像部分に含まれるライン画像のそれぞれについて上述した処理が行われることで,ワイヤシルエット画像21の処理対象画像部分に含まれるライン画像ごとに左半径rおよび右半径rが求められる。求められた左半径rの最大値と右半径rの最大値の合計が,処理対象のフレーム画像20に含まれるワイヤシルエット画像21によって表されるワイヤロープ1の直径dとされる(ステップ60)。
【0057】
走行するワイヤロープ1であれば,撮像箇所が異なる複数のフレーム画像20を表す画像データが記録/解析装置14の記憶装置に記録される。複数のフレーム画像20のそれぞれについて上述した処理が実行されることで,ワイヤロープ1の長手方向の複数箇所の直径dが算出される。
【0058】
図6は,複数のフレーム画像20を用いて算出されたワイヤロープ1の直径dの測定結果を示すグラフであり,縦軸が上述したアルゴリズムを用いて算出されたワイヤロープ1の直径dを,横軸がワイヤロープ1の位置(ここでは一例としてワイヤロープ1の表面に現れる山の数)を示している。図6のグラフにおいて非常に大きな3つのピークが現われているが,これはワイヤロープ1にあらかじめ巻かれたマーキングテープを含む直径であり,ワイヤロープ1の直径を表す値ではない。フレーム画像20ごとに直径dは測定されるので,長手方向に沿って多数の箇所のワイヤロープ1の直径dが測定される。
【0059】
上述したアルゴリズムを用いてワイヤロープ1の長手方向に沿う多数の箇所の直径dを測定したところ,その平均値は10.34mmであった。同じワイヤロープ1についてノギスを用いて複数個所の直径を計測したところその平均値は10.31mmであった。上述したアルゴリズムを用いることによって,ノギスを用いた測定とほぼ同じ精度でワイヤロープ1の直径を測定できていることが分かる。
【符号の説明】
【0060】
1 ワイヤロープ
11 カメラ
12 レンズ
13 光源
14 記録/解析装置
20 フレーム画像
21 ワイヤシルエット画像
図1
図2
図3
図4
図5
図6