(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-11
(45)【発行日】2025-03-19
(54)【発明の名称】ロータリソレノイド
(51)【国際特許分類】
H01F 7/08 20060101AFI20250312BHJP
H02K 33/16 20060101ALI20250312BHJP
【FI】
H01F7/08 B
H02K33/16 B
(21)【出願番号】P 2021122436
(22)【出願日】2021-07-27
【審査請求日】2024-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000108627
【氏名又は名称】タカノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【氏名又は名称】下田 茂
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 将志
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-205343(JP,A)
【文献】特開2009-095184(JP,A)
【文献】特開2001-258233(JP,A)
【文献】特開2016-178203(JP,A)
【文献】特開2008-277700(JP,A)
【文献】特開昭60-176455(JP,A)
【文献】米国特許第04795929(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 7/06- 7/17
H02K 33/00-33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒形のヨーク本体部,このヨーク本体部の内周面から中心方向に180〔゜〕対向して突出する一対のコア部,及び各コア部に巻回したコイル部を有するステータ部と、ケーシング部の端面部の中心位置で回動自在に支持されたマグネットロータ部とを備えるロータリソレノイドにおいて、前記ヨーク本体部の内周面と前記コア部の磁気的接続面の間を、空隙部を介して磁気的に接続するとともに、当該空隙部の間隔を、前記マグネットロータ部に対して設定した回動角度範囲の中央位置における通電時の回転トルクに対する、±15〔゜〕の回動角度範囲の通電時における全体の回転トルクの変動率が、20〔%〕以内となるように設定したことを特徴とするロータリソレノイド。
【請求項2】
前記コイル部は、前記コア部の外郭部に装着するコイルボビンに巻回してなることを特徴とする請求項1記載のロータリソレノイド。
【請求項3】
前記空隙部は、前記コイルボビンにより前記コア部を固定する位置を選定して形成することを特徴とする請求項2記載のロータリソレノイド。
【請求項4】
前記空隙部は、前記コイルボビンを形成する合成樹脂素材を充填して充填樹脂部を設けてなることを特徴する請求項2又は3記載のロータリソレノイド。
【請求項5】
前記マグネットロータ部の回動角度範囲を±15〔゜〕以内に規制するストッパ機構部を備えることを特徴とする請求項1記載のロータリソレノイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータ部に通電することによりマグネットロータ部を所定の回動角度範囲で変位させるロータリソレノイドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筒形のヨーク本体部,このヨーク本体部の内周面から中心方向に180〔゜〕対向して突出する一対のコア部,及び各コア部に巻回したコイル部を有するステータ部と、ケーシング部の端面部の中心位置で回動自在に支持されたマグネットロータ部とを備えるロータリソレノイドとしては、特許文献1に記載されるソレノイド及び特許文献2に記載されるロータリソレノイド装置が知られている。
【0003】
同文献1のソレノイドは、筒形のケーシングと、このケーシングの開口部を閉塞する端面カバーと、ケーシングに収容するコイルボビンと、このコイルボビンに巻装した一又は二以上のコイルと、コイルボビンに装着してコイルから導出されるワイヤ端部を接続する一又は二以上のピン端子と、コイルの通電により変位するマグネットを有する可動部とを備えたソレノイドであって、特に、コイルボビンに設けた貫通孔部と、この貫通孔部に対して一端開口から挿通させた際に、ワイヤ接続部に対してワイヤ端部を接続可能な中途位置及びワイヤ接続部がコイルボビンにおけるバリア部により遮蔽される最終位置に止めることができる中間取付部を有するとともに、最終位置では貫通孔部の他端開口から突出するピン本体部を有してなるピン端子とを備えて構成したものである。
【0004】
また、同文献2のロータリソレノイド装置は、全体の小型コンパクト化を図り、無用な設置スペースが取られてしまう不具合を解消するとともに、部品点数の削減により、コストダウン及び組立性(組付性)の向上を図ることを目的としたものであり、具体的には、ロータリソレノイド本体のシャフトに作用部材を取付けて構成したロータリソレノイド装置において、作用部材を板材より形成し、この板材に規制孔部を設けるとともに、ロータリソレノイド本体の一方の端面部に、規制孔部に係合して作用部材の回動変位範囲を規制する規制突起部を設けて構成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012- 39804号公報
【文献】特開2001-258233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した従来のロータリソレノイドは、ステータ部を構成するヨーク部は、筒形のヨーク本体部の内周面から中心方向に180〔゜〕対向して突出する一対のコア部により構成するとともに、ヨーク本体部とコア部間は、磁気抵抗を低減する観点から密着(又は一体形成)する構成を備えている。したがって、回転トルク特性は、起動時に低く、他方、終端時に高くなる傾向があるため、次のような解決すべき課題も存在した。
【0007】
第一に、ロータリソレノイドの使用電圧は、マグネットロータの起動時の低い回転トルクに依存する。したがって、回転トルクを補うために印加電圧を高く設定する必要があり、この設定が省エネルギ化を促進する上での阻害要因になっているとともに、加えて、ロータリソレノイドの発熱要因、更には回転トルク特性の不安定化の一因になる。
【0008】
第二に、ロータリソレノイドの終端時の回転トルクが高くなる傾向があるため、終端付近におけるマグネットロータの加速は大きくなる。したがって、終端の停止時には、大きな衝撃力が発生するとともに、負荷の大きさやストッパ機構の構造により、この衝撃力に伴う反力がマグネットロータ及び軸受を介してステータ部側に伝達され、ロータリソレノイド全体の耐久性を低下させる要因となる。
【0009】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決したロータリソレノイドの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るロータリソレノイド1は、上述した課題を解決するため、筒形のヨーク本体部2m,このヨーク本体部2mの内周面2miから中心方向に180〔゜〕対向して突出する一対のコア部2cp,2cq,及び各コア部2cp,2cqに巻回したコイル部3p,3qを有するステータ部Msと、ケーシング部4の端面部4s,4tの中心位置で回動自在に支持されたマグネットロータ部Mrとを備えるロータリソレノイドを構成するに際して、ヨーク本体部2mの内周面2miとコア部2cp,2cqの磁気的接続面2cpo,2cqoの間を、空隙部Gsを介して磁気的に接続するとともに、当該空隙部Gsの間隔Lgを、マグネットロータ部Mrに対して設定した回動角度範囲Zrの中央位置Xcにおける通電時の回転トルクTrに対する、±15〔゜〕の回動角度範囲Zrの通電時における全体の回転トルクTrの変動率が、20〔%〕以内となるように設定したことを特徴とする。
【0011】
この場合、発明の好適な態様により、コイル部3p,3qは、コア部2cp,2cqの外郭部に装着するコイルボビン11p,11qに巻回して構成することができる。また、空隙部Gsは、コイルボビン11p,11qによりコア部2cp,2cqを固定する位置を選定して形成することができるとともに、この空隙部Gsには、コイルボビン11p,11qを形成する合成樹脂素材Rを充填して充填樹脂部11fp,11fqを設けることができる。さらに、マグネットロータ部Mrの回動角度範囲Zrを±15〔゜〕以内に規制するストッパ機構部12を設けることができる。
【発明の効果】
【0012】
このような構成を有する本発明に係るロータリソレノイド1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0013】
(1) ヨーク本体部2mの内周面2miとコア部2cp,2cqの磁気的接続面2cpo,2cqoの間を、空隙部Gsを介して磁気的に接続するとともに、当該空隙部Gsの間隔Lgを、マグネットロータ部Mrに対して設定した回動角度範囲Zrの中央位置Xcにおける通電時の回転トルクTrに対する、±15〔゜〕の回動角度範囲Zrの通電時における全体の回転トルクTrの変動率が20〔%〕以内となるように設定したため、マグネットロータ部Mrの回動角度範囲Zrにおける通電時の回転トルク特性を、変動を抑えたフラットな特性にすることができる。これにより、起動時における印加電圧を低く設定することができ、消費電力の低減化による省エネルギ化を促進できるとともに、発熱の抑制、更には回転トルク特性の安定化を図ることができる。
【0014】
(2) ロータリソレノイド1の終端時の回転トルクをTrを低く設定できるため、終端付近におけるマグネットロータ部Mrの加速を低減できる。この結果、終端の停止時に発生する衝撃力を抑制できるとともに、この衝撃力に伴う反力がマグネットロータ部Mr及び軸受孔部を有する端面部4s,4tを介してステータ部Ms側に伝達されるのを低減できるため、ロータリソレノイド1全体の耐久性を高めることができる。
【0015】
(3) 好適な態様により、コイル部3p,3qを構成するに際し、コア部2cp,2cqの外郭部に装着するコイルボビン11p,11qに巻回して構成すれば、コア部2cp,2cqとコイル部3p,3qを絶縁する本来の絶縁機能に加え、ヨーク本体部2mとコア部2cp,2cq間における空隙部Gsを介在させた位置決めを確実に行うことができるため、信頼性の高いロータリソレノイド1を容易に得ることができる。
【0016】
(4) 好適な態様により、空隙部Gsを、コイルボビン11p,11qによりコア部2cp,2cqを固定する位置を選定して形成すれば、コイルボビン11p,11qに対する形状変更等により対応できるため、精度の高い空隙部Gsを容易に形成することができる。
【0017】
(5) 好適な態様により、この空隙部Gsに、コイルボビン11p,11qを形成する合成樹脂素材Rを充填して充填樹脂部11fp,11fqを設ければ、コイルボビン11p,11qのインサート成形等により一緒に成形できるため、空隙部Gsの間隔Lgを安定に維持できるとともに、金型変更等を行うことなくコイルボビン11p,11qの一部として容易に成形することができる。
【0018】
(6) 好適な態様により、マグネットロータ部Mrの回動角度範囲Zrを±15〔゜〕以内に規制するストッパ機構部12を設ければ、少なくとも実施する観点から回動角度範囲Zrを±15〔゜〕以内に設定できるため、本発明の作用効果が確実なロータリソレノイド1を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の好適実施形態に係るロータリソレノイドの一部抽出拡大断面図を含む断面背面図、
【
図3】同ロータリソレノイドの
図2中の上方から見たコイルボビンの側面図、
【
図4】同ロータリソレノイドの空隙部の間隔をパラメータとした通電時における回動角度範囲対回転トルク特性図、
【
図5】同ロータリソレノイドの空隙部の間隔をパラメータとした非通電時における回動角度範囲対回転トルク特性図、
【
図6】同ロータリソレノイドの起動時における磁束線図、
【
図7】従来技術に係るロータリソレノイドの起動時における磁束線図、
【
図8】本発明の好適実施形態に係るロータリソレノイドに係る回動角度範囲(±15〔゜〕)対回転トルク特性図、
【
図9】同ロータリソレノイドの変更例を示す一部抽出拡大断面正面図、
【
図10】従来技術に係るロータリソレノイドの一部抽出拡大断面図を含む断面正面図、
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0021】
まず、本実施形態に係るロータリソレノイド1の理解を容易にするため、比較例として
図10に示す一般的なロータリソレノイド1rの概略構成について説明する。
【0022】
ロータリソレノイド1rは、主要構成として、ヨーク本体部2m、コア部2cp,2cq、コイル部3p,3q、ケーシング部4、マグネットロータ部Mr、コイルボビン11p,11qを備える。
【0023】
この場合、
図10に示すように、筒形のヨーク本体部2m,このヨーク本体部2mの内周面2miから中心方向に突出する一対のコア部2cp,2cq及び各コア部2cp,2cqに巻回したコイル部3p,3qはステータ部Msを構成する。ヨーク本体部2mは、ケーシング部4の一部を構成するため、ケーシング部4は、このヨーク本体部2m,このヨーク本体部2mの前端開口を閉塞する前端カバー4s(
図2参照)及びこのヨーク本体部2mの後端開口を閉塞する後端カバー4t(
図2参照)により構成する。
【0024】
また、ヨーク本体部2mの内周面2miから中心方向に180〔゜〕対向して突出する一対のコア部2cp,2cqはヨーク部2を構成する。ヨーク部2は磁束が通る磁気回路を構成するため、通常、ヨーク本体部2mの内周面2miとコア部2cp,2cqの磁気的接続面2cpo,2cqoの間は、
図10に示す一部抽出拡大断面図のように、密着(0〔mm〕)又は一体形成することにより磁気損失を最小にしている。
【0025】
一方、マグネットロータ部Mrの前側は前端カバー4sの中心位置で回動自在に支持されるとともに、マグネットロータ部Mrの後側は後端カバー4tの中心位置で回動自在に支持される。そして、マグネットロータ部Mrの中間位置には、N極とS極を径方向の180対向する位置に着磁したマグネット5mを設けるとともに、ケーシング部4の外部に位置するマグネットロータ部Mrの前端付近には、マグネットロータ部Mrの回動角度範囲を所定の角度範囲に規制するストッパ機構部12を配設する。ストッパ機構部12は、マグネットロータ部Mrに、一端を固定したレバー状のストッパ12sと、このストッパ12sの回動角度範囲を規制する一方側と他方側に配設した一対の規制部12p,12qからなる。
【0026】
これにより、コイル部3p,3qに順方向の通電を行えば、各コア部2cp,2cqにN極とS極がそれぞれ発生し、マグネット5mのS極(N極)が各コア部2cp,2cqのN極(S極)に吸引(反発)され、マグネットロータ部Mrの回動変位によりストッパ12sが一方の規制部12pに当接して停止するとともに、コイル部3p,3qに逆方向の通電を行えば、各コア部2cp,2cqにS極とN極がそれぞれ発生し、マグネット5mのN極(S極)が各コア部2cp,2cqのS極(N極)に反発(吸引)され、マグネットロータ部Mrの回動変位によりストッパ12sが他方の規制部12qに当接する。
【0027】
次に、本実施形態に係るロータリソレノイド1の全体の構成について、
図1-
図3を参照して具体的に説明する。
【0028】
なお、ロータリソレノイド1の基本的な部品構成は
図10に比較例として示した一般的なロータリソレノイド1rと同じである。このため、ロータリソレノイド1における
図10と同一部分については同一符号を付してその構成を明確にした。
【0029】
ロータリソレノイド1も、主要構成として、ロータリソレノイド1rと同様に、ヨーク本体部2m、コア部2cp,2cq、コイル部3p,3q、ケーシング部4、マグネットロータ部Mr、コイルボビン11p,11qを備える。
【0030】
この場合、ケーシング部4は、筒形に形成したヨーク本体部2mと、このヨーク本体部2mの前端開口に付設する前端カバー(端面部)4sと、ヨーク本体部2mの後端開口に付設する後端カバー(端面部)4tを備える。このため、ヨーク本体部2mは、前述したように、本来のヨーク本体部2mの機能に加えてケーシング部4の一部を兼ねている。ヨーク本体部2mは、炭素鋼素材等を用いて筒形に形成する。また、
図2に示すように、前端カバー4sはヨーク本体部2mの前端開口に嵌め込むことにより閉塞するため、全体を円盤状に一体形成するとともに、後端カバー4rも、ヨーク本体部2mの後端開口に嵌め込むことにより閉塞するため、全体を円盤状に一体形成する。
【0031】
さらに、前端カバー4sの中央位置には、後述するマグネットロータ部Mrにおける駆動シャフト5sの前側を支持する軸受孔部21を設けるとともに、後端カバー4tの中央位置には、マグネットロータ部Mrにおける駆動シャフト5sの後側を支持する軸受孔部22を設ける。前端カバー4s及び後端カバー4tには、それぞれ軸受機能と絶縁機能が求められるため、絶縁性及び耐熱性を有し、かつ摺動性の高い潤滑性樹脂素材等により形成することが望ましい。
【0032】
一方、ヨーク本体部2mの内周面2miから中心方向に180〔゜〕対向して突出する一対のコア部2cp,2cqを備え、少なくとも、ヨーク本体部2m,一対のコア部2cp,2cqは、それぞれ独立した三部品として用意する。そして、本発明に従って、ヨーク本体部2mの内周面2miとコア部2cp,2cqの磁気的接続面2cpo,2cqoの間は、
図1及び
図2に示すように、空隙部Gsを介して磁気的に接続する。この場合、一対のコア部2cp,2cqの外郭部には合成樹脂素材Rにより形成したコイルボビン11p,11qをそれぞれ装着し、このコイルボビン11p,11q上に、コイル部3p,3qを巻回構成する。また、ヨーク本体部2mの内周面2miに対向するコア部2cp,2cqの磁気的接続面2cpo,2cqoに位置する各コイルボビン11p,11qは、ヨーク本体部2mの内周面2miに沿って延出形成する。
【0033】
この際、コア部2cpの先端に位置するコイルボビン11pの先端部位とコア部2cqの先端に位置するコイルボビン11qの先端部位は近接するため、コイルボビン11pの先端部位とコイルボビン11qの先端部位は、それぞれ連結片部11jp,11jqを介して一体形成するとともに、この連結片部11jp,11jqにより形成した段差部によりコア部2cp,2cqの先端に当接する位置決め機能を持たせている。これにより、コイルボビン11pと11qは、全体を連続したボビンユニット11として一体成形することができる。なお、ボビンユニット11は、難燃性の高い絶縁性合成樹脂素材(例えば、シンジオタクチックポリスチレン等)により全体を一体形成することが望ましい。
【0034】
これにより、ボビンユニット11に、各コア部2cp,2cqを装着又はインサート成形により組付けるとともに、この状態で、各コイルボビン11q,11qに対して、自動巻線機を用いて銅線等のマグネットワイヤWを巻回することができる。このように、コイル部3p,3qを構成するに際し、コア部2cp,2cqの外郭部に装着するコイルボビン11p,11qに巻回して構成すれば、コア部2cp,2cqとコイル部3p,3qを絶縁する本来の絶縁機能に加え、ヨーク本体部2mとコア部2cp,2cq間における空隙部Gsを介在させた位置決めを確実に行うことができるため、信頼性の高いロータリソレノイド1を容易に得ることができる。
【0035】
また、この状態のボビンユニット11は、そのままヨーク本体部2mの内部に挿入して組付けすることができる。組付けた際には、
図1に示すように、ヨーク本体部2mの内周面2miに対して、ボビンユニット11の周方向における四つのほぼ等間隔の外郭部位の外面が面接触し、径方向の位置決めが行われる。さらに、上述した連結片部11jp,11jqとコイルボビン11p,11qの形状により、コア部2cp,2cqに対する径方向の位置決めが行われるため、前述した空隙部Gsの間隔Lgを容易に設定できる。このように、空隙部Gsを、コイルボビン11p,11qによりコア部2cp,2cqを固定する位置を選定して形成すれば、コイルボビン11p,11qに対する形状変更等により対応できるため、精度の高い空隙部Gsを容易に形成することができる。
【0036】
空隙部Gsは、単なる空気空間として形成してもよいが、
図1-
図3に示すように、コイルボビン11p,11qを形成する合成樹脂素材Rを充填することにより、充填樹脂部11fp,11fqとして形成してもよい。このように、空隙部Gsに、コイルボビン11p,11qを形成する合成樹脂素材Rを充填して充填樹脂部11fp,11fqを設ければ、コイルボビン11p,11qのインサート成形等により一緒に成形できるため、空隙部Gsの間隔Lgを安定に維持できるとともに、金型変更等を行うことなくコイルボビン11p,11qの一部として容易に成形することができる。以上により、ステータ部Msを構成することができる。
【0037】
他方、マグネットロータ部Mrは、ステンレス素材等の磁性材料により形成した駆動シャフト5sと、この駆動シャフト5sの中間部に固定した円筒形のマグネット5mを備える。マグネット5mは径方向における180〔゜〕対向位置にS極とN極を着磁した二極マグネットである。マグネットロータ部Mrは、
図1及び
図2に示すように、駆動シャフト5sの前側が前端カバー4sの中央位置に設けた軸受孔部21により回動自在に支持されるとともに、駆動シャフト5sの後側が後端カバー4tの中央位置に設けた軸受孔部22により回動自在に支持される。
【0038】
また、ケーシング部4の外部に位置するマグネットロータ部Mrの前端付近には、
図10のロータリソレノイド1rで示した同様のストッパ機構部12を備える。即ち、ストッパ機構部12は、マグネットロータ部Mrの回動角度範囲を所定の角度範囲に規制する機能を備えており、マグネットロータ部Mrに一端を固定したレバー状のストッパ12sと、このストッパ12sの回動角度範囲を規制する一方側と他方側に配設した一対の規制部12p,12qからなる。特に、
図1におけるストッパ機構部(12)は、マグネットロータ部Mrの回動角度範囲Zrを±15〔゜〕に設定する。このように、マグネットロータ部Mrの回動角度範囲Zrを±15〔゜〕以内に規制するストッパ機構部12を設ければ、少なくとも実施する観点から回動角度範囲Zrを±15〔゜〕以内に設定できるため、本発明の作用効果が確実なロータリソレノイド1を得ることができる。
【0039】
次に、本実施形態に係るロータリソレノイド1の要部構成となる空隙部Gsについて、
図1-
図8を参照して具体的に説明する。
【0040】
前述したように、この種のロータリソレノイドの場合、通常、ヨーク本体部2mの内周面2miとコア部2cp,2cqの磁気的接続面2cpo,2cqo間は、密着又は一体形成することにより磁気的なロスを低減している。
【0041】
一方、一定の目的の下に、磁気特性(回転トルク特性)を最適化する観点からは改善の余地がある。そこで、今回、空隙部Gsの有無による影響について、その検証を行うとともに、特に、空隙部Gsの間隔Lgを選定することにより、省エネルギ性及び耐久性を高める観点から回転トルクTrの最適化が図れる点を確認できた。
【0042】
まず、空隙部Gsの有無による影響について検証を行った。この検証はシミュレーションにより行ったものであり、
図4は、ロータリソレノイド1の空隙部Gsの間隔Lgをパラメータ、即ち、間隔Lg〔mm〕を、「0.1」,「0.2」,「0.3」,「0.4」,「0.5」として設定し、各間隔Lgにおいて、0,5〔A〕を駆動電流とした際における回動角度範囲「-90~+90〔゜〕」における回転トルクTr〔Nm〕のトルク値を求めた。また、
図5はロータリソレノイド1の空隙部Gsの間隔Lg〔mm〕を、「0.1」,「0.2」,「0.3」,「0.4」,「0.5」として設定し、各間隔Lgにおいて、非通電時(0〔A〕)における回動角度範囲「-90~+90〔゜〕」に対する回転トルクTr〔Nm〕の値を求めた。
図4及び
図5から明らかなように、空隙部Gsの間隔Lgを0.2〔mm〕に設定した場合、回動角度範囲Zrを、-15~+15〔゜〕の範囲で使用する場合には、0.5〔A〕の通電時及び非通電時のいずれの場合であっても、フラットの特性を維持できることを確認できる。
【0043】
一方、
図6は最適結果として得た間隔Lgが0.2〔mm〕の空隙部Gsを用いた場合のロータリソレノイド1の磁束線f…を示すとともに、
図7は従来技術(間隔Lgを0〔mm〕)におけるロータリソレノイド1rの磁束線fを示す。いずれの場合も、-15〔゜〕の角度の起動時(0.5〔A〕通電時)における磁束線fを示している。
【0044】
このように、検証結果では、空隙部Gsの間隔Lgをロータリソレノイド1における固有の空隙部Gsとして最適化可能であり、特に、回動角度範囲Zrに対する回転トルクTrのトルク特性をフラットな特性にできることを確認できた。即ち、一般的な(従来の)ロータリソレノイドの場合、磁束の流れは、
図7に示すように、マグネット5m(N極)→コア部2cp→ヨーク本体部2m→コア部2cq→マグネット5m(S極)が主体となり、ヨーク本体部2mの外方には一部の磁束の漏れも生じるが、空隙部Gs(磁気抵抗)を設けたロータリソレノイド1では、
図6に示すように、マグネット5m(N極)→コア部2cp→コア部2cq→マグネット5m(S極)に流れる磁束の量を増加させることができる。これにより、ヨーク本体部2msとコア部2cp,2cq間に流れる磁束とのバランスを取ることができるため、保持力による回転トルクの傾きを無くすことが可能となり、通電時の回転トルクTrをフラットにできるものと想定される。
【0045】
図1-
図3は、このような検証結果に基づいて試作した本実施形態に係るロータリソレノイド1である。このロータリソレノイド1の回転トルク特性を
図8に示す。このロータリソレノイド1の回動角度範囲Zrは、±15〔゜〕に設定することにより、回転トルク特性の最適化を図った。即ち、空隙部Gsの間隔Lgを設定するに際しては、マグネットロータ部Mrに対して設定した回動角度範囲Zrの中央位置Xcにおける通電時の回転トルクTrに対する、±15〔゜〕の回動角度範囲Zrの通電時における全体の回転トルクTrの変動率が、20〔%〕以内となるように設定した。この際、空隙部Gsの間隔Lgは、0.06〔mm〕程度であった。
【0046】
これにより、例示の場合、
図8に示すように、本発明として示すロータリソレノイド1に11〔V〕,15〔V〕をそれぞれ印加するとともに、起動時(非飽和時),温度飽和時のいずれの場合も変動率は、10〔%〕以内となることを確認できる。なお、変動率は、回動角度範囲Zrを±15〔゜〕に設定するとともに、+15〔゜〕における回転トルクをTru、-15〔゜〕における回転トルクをTrd、回動角度範囲Zrの中心値、即ち、中央位置Xcとなる0〔゜〕の回転トルクTrcとしたとき、[(Tru-Trd)/Trc]×100〔%〕により求めた値である。なお、比較例(従来技術)として示すロータリソレノイド1rに、15〔V〕を印加した起動時(非飽和時)の変動率は、62〔%〕となる。
【0047】
本実施形態に係るロータリソレノイド1の場合、回動角度範囲Zrを±15〔゜〕に設定し、一端側から起動させた際における比較例(従来技術)として挙げた
図10のロータリソレノイド1rとの対比では、起動時の回転トルクTrは、概ね2.3倍、中央位置Xcの回転トルクTrは、概ね1.5倍、終端時の回転トルクTruは、概ね1.2倍となった。また、起動時の回転トルクTrを同等に設定した場合の電力は、-80〔%〕、回動角度範囲Zrを±6〔゜〕に設定した場合の同一応答速度を得る印加電力は-45〔%〕、さらに、起動時の回転トルクTrを同一とした場合の消費電力は-70〔%〕、終端時の回転トルクTrを同一とした場合の消費電力は-25〔%〕となり、衝撃力の低下を確認で、高耐久性を期待できる。また、温度上昇は20〔℃〕ほど低下した。アレニウスの法則に従った場合、寿命は4倍となる。
【0048】
よって、このような本実施形態に係るロータリソレノイド1によれば、基本構成として、ヨーク本体部2mの内周面2miとコア部2cp,2cqの磁気的接続面2cpo,2cqoの間を、空隙部Gsを介して磁気的に接続するとともに、当該空隙部Gsの間隔Lgを、マグネットロータ部Mrに対して設定した回動角度範囲Zrの中央位置Xcにおける通電時の回転トルクTrに対する、±15〔゜〕の回動角度範囲Zrの通電時における全体の回転トルクTrの変動率が、20〔%〕以内となるように設定したため、マグネットロータ部Mrの回動角度範囲Zrにおける通電時の回転トルク特性を、変動を抑えたフラットな特性にすることができる。これにより、起動時における印加電圧を低く設定することができ、消費電力の低減化による省エネルギ化を促進できるとともに、発熱の抑制、更には回転トルク特性の安定化を図ることができる。加えて、ロータリソレノイド1の終端時の回転トルクをTrを低く設定できるため、終端付近におけるマグネットロータ部Mrの加速を低減できる。この結果、終端の停止時に発生する衝撃力を抑制できるとともに、この衝撃力に伴う反力がマグネットロータ部Mr及び軸受孔部を有する端面部4s,4tを介してステータ部Ms側に伝達されるのを低減できるため、ロータリソレノイド1全体の耐久性を高めることができる。
【0049】
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定
されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0050】
例えば、
図9に変更例として示すように、空隙部Gsの間隔Lgの大きさを調整できる間隔調整機構31を設けてもよい。この場合、インサート成形による製造は行わない。即ち、コア部2cp,2cqとボビンユニット11はそれぞれ別体の部品として製作し、組付けにより一体化させる。このため、空隙部Gsは、空気空間Sg又は弾性材を充填して構成する。また、コア部2cp(2cqも同じ)の磁気的接続面2cpoに対面するヨーク本体部2mの部位に、ネジ孔部32を貫通形成し、このネジ孔部32に調整ネジ33を螺着し、先端面を磁気的接続面2cpoに当接する。さらに、コア部2cpとボビンユニット11間にゴム等の弾性素材34,34を介在させて構成できる。この構成は、空隙部Gsに弾性材を充填した場合には不要である。なお、間隔調整機構31は少なくとも一つ設けることができるが、必要に応じ、バランスを考慮した位置に二つ、或いはそれ以上の間隔調整機構31を設けてもよい。このような変更例は一例であり、その他、薄いシート材を空隙部Gsに挿入するなどの手法により空隙部Gsを調整することも可能である。
【0051】
その他、本発明において、ヨーク本体部2mの内周面2miから中心方向に180〔゜〕対向して突出する一対のコア部2cp,2cqは、一組の意味であり、二組以上を含む場合を排除するものではない。また、マグネットロータ部Mrの回動角度範囲Zrの中央位置Xcの回転トルクTrに対して、±15〔゜〕の回動角度範囲Zrの通電時における全体の回転トルクTrの変動率が、20〔%〕以内となるとは、あくまでも設定時の条件であり、使用時(実施時)の条件となるものではない。さらに、コイルボビン11p,11qは必ずしも必須の構成要件となるものではなく、他の絶縁機能を有する部材により置換可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係るロータリソレノイドは、ステータ部に通電することによりマグネットロータ部を所定の回動角度範囲で変位させる機能を有する各種タイプのロータリソレノイドに利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1:ロータリソレノイド,2m:ヨーク本体部,2mi:ヨーク本体部の内周面,2cp:コア部,2cq:コア部,2cpo:磁気的接続面,2cqo:磁気的接続面,3p:コイル部,3q:コイル部,4:ケーシング部,4s:端面部,4t:端面部,11p:コイルボビン,11q:コイルボビン,11fp:充填樹脂部,11fq:充填樹脂部,12:ストッパ機構部,Ms:ステータ部,Mr:マグネットロータ部,Gs:空隙部,Lg:空隙部の間隔,Zr:回動角度範囲,Xc:中央位置,Tr:回転トルク,R:合成樹脂素材