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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-11
(45)【発行日】2025-03-19
(54)【発明の名称】脈波伝播速度測定システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/02 20060101AFI20250312BHJP
   A61B 5/0215 20060101ALI20250312BHJP
【FI】
A61B5/02 310V
A61B5/0215
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021522093
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-14
(86)【国際出願番号】 EP2019079253
(87)【国際公開番号】W WO2020084140
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-10-20
【審判番号】
【審判請求日】2024-03-18
(31)【優先権主張番号】18202912.4
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】19165687.5
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】マンフレッド ミューラー
(72)【発明者】
【氏名】ファン デル ホルスト アーエン
【合議体】
【審判長】南 宏輔
【審判官】萩田 裕介
【審判官】北島 拓馬
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第17/102340号(WO,A1)
【文献】国際公開第17/148877号(WO,A1)
【文献】国際公開第17/207559号(WO,A1)
【文献】特表2000-507142号公報(JP,A)
【文献】特表2014-530639号公報(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B5/02-5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管の脈波伝播速度を測定するためのシステムであって、
前記システムは、前記管の長さに沿った複数の測定値を提供するための血管内デバイスと装置とを備え、
前記血管内デバイスは、前記血管内デバイスの長さに沿った異なる場所に設けられている2つのマーカを備え、前記2つのマーカの間が剛直であり、その遠位部分に、前記2つのマーカの一方に近接して、前記管の長さに沿った複数の前記測定値を提供するための単一のセンサを備え、前記2つのマーカは追跡装置によって位置を特定可能であり、
前記装置は、
前記血管内デバイスから複数の前記測定値を受信し、
前記追跡装置から前記2つのマーカの位置情報を受信し、
前記2つのマーカは第1のマーカ及び第2のマーカであり、前記第1のマーカは第1の位置にあり、前記第2のマーカは第2の位置にあって、第1の時間に関して複数の前記測定値のうちのある測定値を前記マーカの位置と関連付け、
前記血管内デバイスが移動するときに前記位置情報から前記第1のマーカが前記第2の位置に達する時点を検出して、第2の時間を関連付け、
複数の前記測定値のうちの前記第1の時間及び前記第2の時間に関して関連付けられた測定値に基づいて、及び、前記血管内デバイスの長さに沿った前記2つのマーカの前記場所の間の距離に基づいて、前記管の前記脈波伝播速度値を確定する、
システム。
【請求項2】
前記装置は更に、
前記追跡装置から受信された前記位置情報から、前記第1の時間における前記第1のマーカと前記第2のマーカとの間の見かけの距離を確定し、
前記見かけの距離を前記血管内デバイス上の前記2つのマーカの前記場所の間の物理的距離と比較し、
前記見かけの距離及び前記物理的距離に基づいて局所的な補正係数を確定し、
前記脈波伝播速度値及び前記補正係数に基づいて補正された脈波伝播速度値を確定する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記血管内デバイスは、前記追跡装置によって位置を特定可能な複数のマーカを備え、前記複数のマーカは、前記血管内デバイスの長さに沿った異なる場所に設けられていて、物差しを形成している、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記脈波伝播速度値を表示するユーザインターフェースを更に備える、請求項1から3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記マーカの位置を特定するための前記追跡装置を更に備える、請求項1から4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記追跡装置は放射線装置であり、前記マーカは放射線不透過性材料を含む、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記管の長さに沿った複数の前記測定値は、圧力測定値、流量測定値、管径測定値、及び管断面測定値の各タイプのうちの少なくとも1つを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記追跡装置は超音波プローブであり、前記マーカは、前記超音波プローブに超音波を放射する又は前記超音波プローブから超音波を受信する、能動的又は受動的超音波トランスデューサである、請求項5に記載のシステム。
【請求項9】
前記超音波プローブは体外の超音波プローブである、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記マーカのうちの少なくとも1つは、前記管の長さに沿った複数の前記測定値を提供するためのセンサとして使用される、請求項8又は9に記載のシステム。
【請求項11】
前記センサは流量測定値を含む複数の前記測定値を提供する、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記センサは管径又は断面測定値を含む複数の前記測定値を提供する、請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
前記追跡装置は電磁的追跡装置であり、前記マーカは永久磁性材料又は電磁コイルを含む、請求項5に記載のシステム。
【請求項14】
管の脈波伝播速度を測定するためのシステムのプロセッサに、
血管内デバイスから前記管の長さに沿った複数の測定値を受信するステップであって、前記血管内デバイスは、前記血管内デバイスの長さに沿った異なる場所に設けられている2つのマーカを備え、前記2つのマーカの間が剛直であり、その遠位部分に、前記2つのマーカの一方に近接して、前記管の長さに沿った複数の前記測定値を提供するための単一のセンサを備え、前記2つのマーカは追跡装置によって位置を特定可能である、受信するステップと、
前記追跡装置から前記2つのマーカの位置情報を受信するステップと、
前記2つのマーカは第1のマーカ及び第2のマーカであり、前記第1のマーカは第1の位置にあり、前記第2のマーカは第2の位置にあって、第1の時間に関して複数の前記測定値のうちのある測定値を前記マーカの位置と関連付けるステップと、
前記血管内デバイスが移動するときに前記位置情報から前記第1のマーカが前記第2の位置に達する時点を検出して、第2の時間を関連付けるステップと、
複数の前記測定値のうちの前記第1の時間及び前記第2の時間に関して関連付けられた測定値に基づいて、及び、前記血管内デバイスの長さに沿った前記2つのマーカの場所の間の距離に基づいて、前記管の前記脈波伝播速度値を確定するステップと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療システム、及びこの医療システムを用いて管の脈波伝播速度を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脈波伝播速度(PWV)測定は、主要な血管の伸展性を測定するために十分に確立された手法である。心血管イベントのリスクを評価するためには大動脈及び心臓のPWVが使用され、腎デナベーション(切除)のための患者層別化を支援するには腎臓PWVが有用である。
【0003】
PWVの測定には主流となっている2つの手法がある:
a)(ほぼ)同じ位置で流量及び圧力を測定し、圧力の変化と流速の変化との間の関係からPWVを導出することによるもの(例えば、Khirら、Determination of wave speed and wave separation in the arteries、Journal of Biomechanics 34、2001年、1145~1155、及び、Daviesら、Use of simultaneous pressure and velocity measurements to estimate arterial wave speed at a single site in humans、Am J Physiol Heart Circ Physiol 290: H878~H885、2006年)、
b)既知の距離波又は圧力パルスの立ち上がりの時間調整によるもの(Millasseauら、Evaluation of Carotid-Femoral Pulse Wave Velocity: Influence of Timing Algorithm and Heart Rate、Hypertension、2005年、45:222~226、及び、Harbaouiら、Development of Coronary Pulse Wave Velocity: New Pathophysiological Insight Into Coronary Artery Disease、Journal of the American Heart Association、2017、6:e004981)。いずれの方法にもその利点及び欠点がある。圧力-流量の関係によるPWVの測定には、血管内流量-圧力ワイヤが必要である。圧力又は流波を時間調整することは、技術的な要件はより低いが、遅延時間が長く測定が比較的容易な大動脈などの長い血管に対しては最も良好に機能する。しかしながら、腎デナベーションのための患者層別化のような用途では、腎動脈など僅か数cmの血管のPWVを測定する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
改善された正確度及び再現性で血管のPWVを測定するための医療システムを提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
システムは、単一の圧力又は流量センサを有する血管内ガイドワイヤ/カテーテルと、心電図(ECG)信号又は追加の圧力信号とセンサによって測定される圧力/流量信号との間の遅延時間を導出するように構成されている処理ユニットとを備え、この場合、血管内デバイスは、センサの近くに、画像化又は追跡モダリティ(血管造影法、超音波、電磁的追跡)が高度な正確度で引き戻し距離を決定することを可能にする、特別なマーキングを備える。
【0006】
ある実施形態では、血管のPWVを測定するためのシステムは、単一の圧力又は流量センサを有する血管内ガイドワイヤ/カテーテルと、ECG又は追加の圧力信号とセンサによって測定される圧力/流量信号との間の遅延時間を導出するための処理ユニットとを備え、血管内デバイスは、その近位側に及びセンサのところに、少なくとも2つのマーキングを備え、少なくとも2つのマーキングは、画像化又は追跡モダリティ(血管造影法、超音波、電磁的追跡)が、画像化平面とセンサとの間の位置合わせに関係なく高い精度で引き戻し距離を決定することを可能にする、物差しを形成する。
【0007】
本発明のある態様では、管の脈波伝播速度を測定する方法が提示され、この方法は、
血管内デバイスから管の長さに沿った複数の測定値を受信するステップであって、血管内デバイスは血管内デバイスの長さに沿った異なる場所に設けられている2つのマーカを備える、2つのマーカは追跡装置によって位置を特定可能である、受信するステップと、
追跡装置から2つのマーカの位置情報を受信するステップと、
第1のマーカは第1の位置にあり、第2のマーカは第2の位置にあって、第1の時間に関して複数の測定値のうちのある測定値をマーカの位置と関連付けるステップと、
血管内デバイスが移動するときに位置情報から第1のマーカが第2の位置に達している時点を検出して、第2の時間を関連付けるステップと、
複数の測定値のうちの第1の時間及び第2の時間に関して関連付けられた測定値に基づいて、及び、血管内デバイスの長さに沿った2つのマーカの場所の間の距離に基づいて、管の脈波伝播速度値を確定するステップと、を含む。
【0008】
添付の図面を参照しそれらと関連させることで最もよく理解され得る以下の詳細な説明から、本発明の追加の態様及び利点が更に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】典型的な圧力信号(1回の心拍についての圧力対時間)を例示的に示す図である。
図2】本発明に係るシステムの一般概念を概略的かつ例示的に示す図である。
図3】本発明に係る測定手順を概略的かつ例示的に示す図である。
図4】本発明に係る代替の測定手順を概略的かつ例示的に示す図である。
図5】本発明に係るシステムの機能的用法を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
距離Δxを移動するときの圧力又は流速波の時間遅延Δtを測定することによって、脈波伝播速度を以下のように求めることができる:
【数1】
【0011】
したがって、互いから既知の距離に位置付けられた2つの(圧力又は流量)センサを用いて、PWVを測定することが可能である。図1は、Δtを決定するためにそのような2重の測定を使用する方式を示す。しかしながら、これには2つの圧力センサを有する血管内デバイスが必要である。そのようなデバイスは現在のところ人用には市販されていない。またおそらく、これには単一のセンサを有する標準的な圧力ワイヤ又はフローワイヤの2倍のコストがかかると考えられ、また2つのセンサのための接続ケーブルを備える必要性から、デバイスの機械的特性が犠牲になる可能性が高いと思われる。
【0012】
管に沿ってセンサを引き戻して異なる場所で連続的な測定を行うことによって、単一のセンサ(圧力又は流量)で圧力又は流速波の時間遅延Δtを測定することも可能である。この場合、各パルスの時間調整の起点となる基準信号が必要である。典型的には、ECG信号又は中央圧力センサからの信号が使用される。Harbaouiらがこの方法を詳細に説明している。この方法は、単一の圧力又は流量センサしか必要としないため、通常は有利である。
【0013】
しかしながら、単一のセンサの使用は、特に短い動脈内での測定の場合に、正確度を大幅に低下させる可能性がある。この理由は、センサを移動させる必要性から測定場所間の距離Δxの不正確さが増すからであり、一方で、2センサプローブの場合には、センサ間の距離がごく僅かな誤差で機械的に固定される。長い動脈内での測定の場合、距離の相対的誤差は通常は無視することができるが、数センチメートルの長さしかない動脈内では、誤差はすぐに許容できないほどの大きさになる。例えば、Δx=40cmの距離にわたって大動脈のPWVを測定する場合には、各センサの設置における±1mmの誤差は、0.5%の相対的誤差をもたらすに過ぎない。しかし測定点間の距離が僅かΔx=2mmである腎動脈などの短い動脈内で測定する場合には、各センサの設置における同じ±1mmの絶対的誤差はその時点で10%の相的誤差をもたらす。
【0014】
管内で±1mm又はこれを上回る正確度でセンサの位置を測定するのは困難であるため、この問題は悪化する。Harbaouiらは、引き戻し中のデバイスの外部部品の変位を測定することによって、この問題の克服を試みている。これは残念ながら、短い動脈内でPWVを測定するには正確度が十分ではない。この理由は、どの血管内デバイス(ガイドワイヤ、カテーテル、等)も管内のより深くまで前進させると管壁に追従して、まとまろうとするからである。その後、引き戻し中にはデバイスのシャフトは真っ直ぐになろうとする。引き戻し中にはまた、デバイスの部品が管壁を捕捉するか又は管壁に引っ掛かり、デバイス先端部の移動が円滑でなくなる可能性がある。この結果引き戻し中に、デバイスの先端部に組み込まれたセンサの変位は、典型的には外部シャフトの変位未満になる。この不確実性は患者の体内のデバイスの全長と共に大きくなり、短い動脈内でのPWVの測定にとっては最も問題となる。例えば、あるデバイスについてその長さの1mが患者の体内にある場合、及び、遠位先端部の変位と外部のシャフトの変位との間に0.5%の乖離がある場合には、長さ2cmの腎動脈内でΔxを測定すると25%の相対的誤差があることになるが、長さ20cmの動脈内でΔxを測定するとこの誤差はたった2.5%となるに過ぎない。
【0015】
別法として、画像化を用いてセンサ変位の判定を試みてもよい。センサワイヤ又はカテーテルを誘導するために通常は血管造影法が使用されるが、その理由は、血管内でのデバイス及びセンサの移動を医師が直接観察できるからである。残念ながら、2次元(2D)血管造影図上で見られる移動は、実際の3次元(3D)移動の2D平面上への投影に過ぎない。Cアームが血管及びデバイスと完全には位置合わせされていない場合、又は血管が完全には真っ直ぐではない場合、このことはかなりの不正確度をもたらし得る。
【0016】
上記の理由により、単一のセンサ(及び手動での引き戻し)を用いたPWV測定は、短い動脈において現時点では確実ではない。これらの測定の正確度を高めるために、センサの変位測定の正確度を高める必要がある。本発明はこの課題を解決するための手法について記載する。
【0017】
一般的概念のために、概略的かつ例示的なシステム100が図2に示されており、ここではシステムの様々な有利な実施形態のために、ある要素の機能性が様々な異なるデバイス又はサブシステムによって達成され得るが、これについては本明細書において後に詳述する。脈波伝播速度測定システムとも呼ばれるシステム100は、治療目的の患者層別化のために使用される。例えば、腎動脈のPWV値を利用して、患者が腎動脈デナベーションに適しているかどうかを判定することができる。PWV判定に基づき、血管内システム100を使用して、一人又は複数の患者を、腎デナベーションの予想される治療効果の様々な程度とそれぞれ関連付けられたグループへと分類することができる。任意の好適な数のグループ又は範疇が企図される。例えば、グループは、PWVによれば腎デナベーションの治療効果の見込みが低い、中程度である、及び/又は高い患者の、それぞれに対するグループを含む。層別化又は分類に基づいて、システム100は、一人又は複数の患者が腎デナベーションの候補者としてどの程度適しているかを勧告することができる。
【0018】
管80は、自然なもの及び人工的なものの両方の流体充填構造体を表す。管80は患者の体内にある。管80の壁は、管80内で流体が中を流れる管腔81を画定する。管80は、心血管系、末梢血管系、脳血管系、腎血管系を含む患者の血管系の動脈若しくは静脈などの血管、及び/又は、体内の任意の他の好適な管腔であってもよい。例えば、血管内デバイス10は、肝臓、心臓、腎臓、胆のう、膵臓、肺、腸、脳、尿管を含む器官中の管内の、任意の数の解剖学的な場所を調べるために使用される。自然の構造体に加えて、血管内デバイス10は、限定するものではないがグラフト、ステント、シャントといった、人工的な構造体を調べるためにも使用できる。
【0019】
管80はある身体部分内に位置付けられる。管80が腎動脈である場合、この患者の身体部分には、腹部、腰部、及び/又は胸部が含まれ得る。いくつかの例では、管80は頭部、頸部、胸部、腹部、腕部、鼠径部、脚部等を含む、患者の身体の任意の部分内に位置付けられる。
【0020】
血管内デバイス10は細長い可撓性部材11、例えば、カテーテル、ガイドワイヤ、若しくはガイドカテーテル、又は患者の管80内に挿入され得る他の細く長い可撓性の構造体を含む。管80は図3及び図4に示すように腎動脈であり得る。本開示の血管内デバイス10は、血管内デバイス10の外径を画定する円形の断面を有する円筒形の外形を有し、他の例では、血管内デバイスの全て又は一部は、他の幾何学的な断面外形を有してもよい(例えば、卵形、矩形、正方形、楕円形、等)。血管内デバイス10は、他の器具を受け入れる及び/又は案内するためのその全長又は長さの一部に沿って延びるルーメンを、含んでも含まなくてもよい。血管内デバイス10がルーメンを含む場合、そのルーメンは、血管内デバイス10の断面外形の中心に配置されてもこの外形に対してずらされていてもよい。
【0021】
血管内デバイス10、又はその様々な構成要素は、非限定的な例として、プラスチック、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルブロックアミド(PEBAX)、熱可塑性材料、ポリイミド、シリコーン、エラストマー、ステンレス鋼、チタンなどの金属、ニチノールなどの形状記憶合金、及び/又は他の生体適合性材料を含む、様々な材料から製造され得る。更に、血管内デバイスは、カテーテル、ガイドワイヤ、カテーテルとガイドワイヤの組合せ、等を含む、様々な長さ、直径、寸法、及び形状で製造される。例えば、細長い可撓性部材11は、約115cm~195cmの範囲の長さを有するように製造される。細長い可撓性部材11は、約135cmの長さを有するように製造される。細長い可撓性部材11は、約0.35mm~2.67mm(1Fr~8Fr)の範囲の外側横方向寸法又は外径を有するように製造される。細長い可撓性部材11は2mm(6Fr)以下の横方向寸法を有するように製造され、このことにより血管内デバイス10を患者の腎血管系内に挿入されるように構成することが可能になる。これらの例は例示の目的でのみ提供されており、限定することは意図していない。いくつかの例では、血管内デバイスは、圧力、体積流量、流速、管径、及び管の壁厚さのうちの少なくとも1つを管の中から管の長さに沿ってモニタできるように、血管内デバイスが患者の血管系(又は他の内部ルーメン)内で移動できるようなサイズ及び形状となっている。
【0022】
血管内デバイス10は、細長い可撓性部材11の遠位部分にセンサ16を含む。別法として又は追加として、細長い可撓性部材の長さに沿って、更なるセンサを含めてもよい。血管内デバイスは、細長い可撓性部材に沿った異なる場所に設けられている、追跡装置40によって管80内での位置を特定可能な2つのマーカ12及び14を備える。システムは、血管内デバイス10によって提供される複数の測定値を受信するための、プロセッサ31によって測定信号を処理するための、並びに任意選択的に又は別法として受信した測定信号及び/若しくは処理した測定信号をメモリユニット32に記憶するための、外部コンソール、又は装置30を更に備える。血管内デバイス10によって提供される測定値は、外部コンソール30に直接送信されるか、又は別法として、血管内デバイスが接続されている患者インターフェースモジュール20を介して送信される。患者インターフェースモジュールは、有線接続又はワイヤレス接続のいずれかによって、外部コンソールに測定情報を送信する。任意選択的に、システムは、内的な電位図信号又は外的な心電図信号を測定するための心電図(ECG)ユニット50を備え、これらの信号は、必要なときにECG信号を血管内デバイス10から受信した複数の測定信号と組み合わせて使用して脈波伝播速度値を確定するために、装置30に送信される。内的な電位図信号は、血管内に導入される血管内デバイス上に設置された電極によって測定され、一方、外的な心電図は、患者の身体に取り付けられた外部リードによって測定される。
【0023】
一般に、センサ16は、圧力測定値、流量測定値、管径測定値、及び管断面測定値のグループのうちから、1つのタイプの測定又は複数のタイプの測定値を提供する。同じセンサによって複数のタイプの測定を同時に又は分散させて行ってもよい。そのようなセンサの例は微細機械加工容量センサであるが、このセンサは超音波の放射及び受信が可能であるとともに、その設計上、膜で閉じられた空洞を備えており、この膜は圧力下で静電容量値が変化でき、この結果圧力測定を行うことができる。別法として、圧力に感受性のある、超音波の発出及び/又は受信が行われる周波数特性から、圧力値を判定することができる。超音波を放射及び受信するように微細機械加工容量センサを動作させると、管の超音波画像化を行うことができるとともに、超音波ドップラー原理を用いて流速を測定することができる。超音波画像から管径及び/又は管断面を判定することができ、血管内の血液の流速が追加的に与えられれば、体積流量を計算することができる。
【0024】
図3に概略的に示されている特定の実施形態では、システムは、遠位先端部に又はその近くに、単一の圧力センサを有する血管内ガイドワイヤを備える。圧力センサに近接して第1の放射線不透過性マーカが設置される。第1のマーカの近位側の固定された距離Δxに第2の放射線不透過性マーカが設置され、ここでΔxは腎動脈内で測定を行うように構成された血管内デバイスの場合、0.5cmから4cmの範囲内である。システムは、圧力パルスを読み出すための、及び、ECG信号を、又は別法として固定された圧力若しくは流量センサ信号を基準として使用して、パルス遅延時間ΔTを導出するための、装置30を更に備える。システムは、上述した追跡装置40の機能性を有し、追加的に管の解剖学的構造の形態学的情報(画像)を提供し得る、血管造影画像化に適した放射線(x線)システム又は装置を更に備える。別法として、マーカの追跡中に3次元の形態学的情報(管の解剖学的構造)を取得するために、コンピュータ断層撮影(CT)又は磁気共鳴画像化(MRI)を使用してもよい。MRIの場合、血管内デバイスに組み込まれたトラッキングコイルを使用してもよい。
【0025】
脈波伝播速度を測定するために、医師は調査中の血管内に血管内デバイスを、血管造影図が血管内部の両方の放射線不透過性マーカを示すように設置する。2つのマーカの間のガイドワイヤは十分に剛直であるので、両マーカ間の距離は高い精度で知られ、これがΔxである。放射線画像又は血管造影画像上の第2のマーカの位置は、システムによって自動的にか又は医師の手作業でのいずれかで、記録されるか又はマーキングでラベル付けされる。医師は次いで、この位置におけるパルス遅延時間ΔTを、典型的には複数回の心拍について平均化することによって、測定する。この第1の測定の後で、医師は次いで、画像上の第1の放射線不透過性マーカの新しい位置が、第2の放射線不透過性マーカの古い位置を示すマーキングと一致するまで、血管内デバイスを優しく引き戻す。これはセンサ16の、第1の測定場所からの距離Δxの変位を示す。医師は今度は、この新しい位置におけるパルス遅延時間ΔTを測定し、前回と同数の心拍について平均化する。
【0026】
プロセッサは次いでPWVを計算し、任意選択的にそれを以下のように表示する:
【数2】
【0027】
図4に示すシステムの第2の実施形態は第1の実施形態と似ているが、ガイドワイヤ/カテーテル先端部がセンサの近位側に、互いとの距離が固定されて既知である複数の放射線不透過性マーカを備える点が異なっている。マーカ同士の間のガイドワイヤは十分に剛直であるので、これらのマーカは放射全画像化及び/又は血管造影画像化において可視である、一種の物差しを形成する。
【0028】
脈波伝播速度を測定するために、医師は調査中の血管内に血管内デバイスを、圧力センサが可能な限り遠位に位置付けられるように設置する。医師は次いで、この位置におけるパルス遅延時間ΔTを、典型的には複数回の心拍について平均することによって、測定する。測定中、放射線画像又は血管造影画像上の放射線不透過性マーカの位置が自動的に記録され、画像上のマーカ同士の間の距離が、マーカの真の距離と比較される。見かけの距離と真の(又は物理的な)距離の比から、処理ユニット用の、管又はシャフトの屈曲に起因して生じる血管内デバイスとその放射線画像又は血管造影画像上への投影との間の局所的角度を補正する、局所的な補正係数が得られる。第1の測定後、次いで医師は調査中の管の近位部分に向けて血管内デバイスを優しく引っ張る。センサはまだ、管の放射線不透過性マーカによって予め覆われている部分の中になければならない。医師は今度は、この新しい位置におけるパルス遅延時間ΔTを測定し、前回と同数の心拍について平均する。測定中、血管造影図上の放射線不透過性マーカの位置が再度自動的に記録され、放射線不透過性マーカの新しい場所がそれらの古い位置と比較される。第1の測定に関して導出された補正係数を使用し、処理ユニットはこの情報を使用して、第1の測定の場合及び第2の測定の場合におけるセンサの位置の間の、補正された距離Δxを計算する。
【0029】
システムは次いで式2に従ってPWVを計算し表示する。
【0030】
システムの第3の実施形態はシステムの第1及び第2の実施形態のいずれか一方であり、放射線装置が超音波画像化システムで置き換えられており、放射線不透過性マーカが超音波画像化において可視であるマーカで置き換えられている。
【0031】
第3の実施形態の更なる代替形態である、システムの第4の実施形態では、マーカは、超音波プローブに超音波を放射する能動的超音波トランスデューサ、又は超音波プローブから超音波を受信する受動的超音波トランスデューサであり、これらは対象者の体内に導入されるように構成されている更なる超音波デバイス、又は体外超音波プローブとすることができ、能動的又は受動的超音波マーカの場所は、更なる超音波デバイス又は体外超音波プローブによって提供される超音波画像上で追跡される。
【0032】
システムの第4の実施形態の更なる代替形態である、システムの第5の実施形態では、センサは超音波流量センサであり、同時に能動的超音波位置マーカとして使用される。
【0033】
システムの第1又は第2の実施形態に基づき得る、システムの第6の実施形態では、放射線装置は電磁的追跡システムで置き換えられており、放射線不透過性マーカは電磁的追跡システムを用いて追跡可能な電磁コイルで置き換えられている。
【0034】
第1から第6のシステムの実施形態のうちのいずれかに基づき得る、システムの第7の実施形態では、呼吸の動き又は患者移動などの測定中の動きを補正するために、測定中にマーカの位置が連続的に追跡される。
【0035】
第1から第7のシステムの実施形態のうちのいずれかに基づき得る、システムの第8の実施形態では、システムは、圧力又は流量センサの代わりに、血管内超音波(IVUS)センサなどの管径測定センサを使用する。
【0036】
システムの第8の実施形態に基づく第9の実施形態では、IVUSセンサが能動的超音波位置マーカと同時に使用される。
【0037】
関連する実施形態のいずれにおいても、上記のように取得した管の長さに沿った複数の測定値に基づいて、管の脈波伝播速度値を確定するようにシステムを構成することができ、この場合、複数の測定は別法として、以下の組合せのうちのいずれかであり得る:圧力及び管径の測定、圧力及び流速の測定、圧力及び体積流量の測定、流速及び管径の測定、圧力及び管壁厚さの測定。脈波伝播速度の計算のための特定の測定の組合せの使用について説明するために、国際出願第2017/198800A1号、国際出願第2017/198867A1号、国際出願第2017/198490A1号、国際出願第2017/198871A1号を参照する。
【0038】
管内のマーカの位置に加えて管の形態が利用できるどのような実施形態の場合も、PWV測定に関する式1又は式2中の見かけの距離Δxが、管の軸線上に投影された第1のマーカから第2のマーカまでの距離になるようにすることによって、PWV計算の正確度を更に改善できる。短い距離の場合、(PWV測定に必要な)マーカ同士の間の見かけの距離は、マーカが管の軸線に対して同じ半径方向位置にない場合、物理的距離とは異なり得る。これは2重センサ測定と比較して追加の利益である。
【0039】
図5は、上記の本発明に係るシステムの実施形態のいずれかの機能的用法を概略的に示す。管の脈波伝播速度を測定する方法200は、血管内デバイスから管の長さに沿った複数の測定値を受信するステップ202から始まる。システムに関して既に記載したように、血管内デバイスは、血管内デバイスの長さに沿った異なる場所に設けられている、追跡装置によって位置を特定可能な少なくとも2つのマーカを備える。ステップ204では、システムは追跡装置から2つのマーカの位置情報を受信し、そしてシステムはステップ206では、第1の時間に関して複数の測定値のうちのある測定値をマーカの位置と関連付け、第1のマーカは第1の位置にあり、第2のマーカは第2の位置にある。ステップ208では、システムは、血管内デバイスが血管内を移動するときに位置情報から第1のマーカが第2の位置に達している時点を検出し、その後第2の時間を関連付ける。ステップ210では、管の脈波伝播速度値は、複数の測定値のうちの第1の時間及び第2の時間に関して関連付けられた測定値に基づいて、及び、血管内デバイスの長さに沿った2つのマーカの場所の間の距離に基づいて、確定される。
【0040】
ステップ212では、脈波伝播速度値がディスプレイに出力される。別法として又は追加として、患者が治療に適しているか否かを判定するために、プロセッサが脈波伝播速度値と閾値を自動的に比較してもよく、適格性の指標はディスプレイに出力される。臨床研究により、約9m/sの閾値を超える腎動脈の脈波伝播速度のどのような値でも、患者が腎デナベーション治療に適格となり血圧低下の十分な効果を得られることが実証されている。
【0041】
管の連続した部分に対してステップ202から212を繰り返すことによって、管に沿ったPWVマップを生成し、管の形態学的情報に重ねて又はその隣に表示することができる。このマップは、血管造影法又は例えば超音波画像化などの他の画像化モダリティによって取得される、管の2次元又は3次元画像である。次いで、管に沿ったPWVマップによって提供されるより包括的な情報のセットに基づいて、血圧低下の十分な効果が得られる腎デナベーション治療に対する患者適格性を評価することができる。
【0042】
本発明は主として腎動脈における脈波伝播速度の測定に関して例示的に記載されているが、本発明は心臓血管及び脳血管を含む任意の他の血管の脈波伝播速度の測定に適用可能である。
【0043】
特許請求される本発明の実施に際して、当業者は、図面、本開示、及び添付の特許請求の範囲を検討することによって、開示される実施形態の他の変形形態を理解及び実現することができる。
【0044】
単一のユニット又はデバイスが、請求項に記載されたいくつかの事項の機能を満たす場合がある。特定の手段が互いに異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの手段の組合せが有利に使用され得ないことを示すものではない。
【0045】
請求項において、単語「備える」は他の要素又はステップを除外せず、単数形は複数を除外しない。
【0046】
請求項中のどの参照符号もその範囲を限定するものと解釈されるべきではない。

図1
図2
図3
図4
図5