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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-11
(45)【発行日】2025-03-19
(54)【発明の名称】脆弱X症候群の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/437 20060101AFI20250312BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20250312BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20250312BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20250312BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250312BHJP
【FI】
A61K31/437
A61P25/00
A61P25/18
A61P25/28
A61P43/00 105
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022508766
(86)(22)【出願日】2020-08-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-17
(86)【国際出願番号】 GB2020051949
(87)【国際公開番号】W WO2021028698
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2023-07-25
(31)【優先権主張番号】1911603.7
(32)【優先日】2019-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】521362427
【氏名又は名称】ヒールクス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HEALX LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,デイビッド
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-089755(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0028816(US,A1)
【文献】国際公開第2009/022740(WO,A1)
【文献】特開平10-053524(JP,A)
【文献】特開平09-136834(JP,A)
【文献】特表2021-524837(JP,A)
【文献】The Journal of Neuroscience,Vol.35,2015年,p.396-408
【文献】Journal of Medicinal Chemistry,2019年04月23日,Vol.62, No.10,p.4884-4901
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆弱X症候群の治療における使用のための、イブジラストまたはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物であって、スリンダクもしくはその薬学的に許容される塩、またはブメタニドもしくはその薬学的に許容される塩を含まない、医薬組成物
【請求項2】
治療の対象が、ヒトである、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項3】
前記組成物が、10mg~300mgのイブジラストを含む、請求項1または2に記載の医薬組成物
【請求項4】
前記組成物が、20mg~150mgのイブジラストを含む、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
投与が、1日当たり1回の用量による、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項6】
前記1日当たり1回の用量が、10mg~300mgのイブジラストを含む、請求項に記載の医薬組成物
【請求項7】
前記1日当たり1回の用量が、20mg~150mgのイブジラストを含む、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
投与が、1日当たり2回の用量による、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項9】
前記用量が、20mg~100mgのイブジラストを含む、請求項に記載の医薬組成物
【請求項10】
前記用量が、20mg~50mgのイブジラストを含む、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
経口投与される、請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項12】
非経口、経皮、舌下、直腸または吸入投与によって投与される、請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項13】
患者が、多動性、社交不安症、記憶喪失および/または破壊的行動の兆候を示している、請求項1~12のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項14】
前記患者が、多動性、記憶喪失および/または破壊的行動の兆候を示している、請求項1~13のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項15】
脆弱X症候群の治療における使用のための、イブジラストまたはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物であって、イブジラストは、前記組成物中の唯一の活性剤である、医薬組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆弱X症候群(FXS)の治療におけるイブジラストの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
脆弱X症候群(しばしば脆弱Xと呼ばれる)は、知的障害の最も一般的な遺伝性の原因、および自閉症の最も一般的な単一遺伝子性の原因である。それには、世界中でおよそ4000人の男性に1人、6000人の女性に1人が罹患している。
【0003】
脆弱Xに関連する広範囲の特徴が存在し、典型的には、男性が女性よりも多く罹患している。脆弱X症候群に関連する主要な特徴の1つは、認知、実行および言語パフォーマンスの困難などの知的障害である。脆弱X症候群を有する個体は、典型的には、極度の内気、アイコンタクトの乏しさ、および仲間関係を形成する困難に関連する社会的な、情緒的な、およびコミュニケーションの困難によって特徴付けられる社交不安症を有する。脆弱X症候群はまた、短い注意持続時間、散漫性、衝動性、不穏、過活動および感覚問題などの、多動性および破壊的行動に関連する。さらに、脆弱X症候群を有する個体はしばしば、てんかん発作を患っている。
【0004】
脆弱X症候群は、脆弱X精神遅滞遺伝子1(FMR1)と呼ばれる単一遺伝子における変異から生じる。FMR1の5’UTRは、集団において多型であるCGGトリヌクレオチドリピートを含む。一旦リピートの数が200を超えると、プロモーターのメチル化がトリガーされ、これにより今度は、遺伝子の発現、およびそのコードされるタンパク質である脆弱X精神遅滞タンパク質(FMRP)の翻訳の欠如が引き起こされる。FMRPは、翻訳制御(神経細胞体および樹状突起棘における)ならびにRNA輸送などの、mRNA代謝の様々な段階に関与するRNA結合タンパク質である。
【0005】
現在、脆弱X症候群を治療するために有効な治療法は存在しない。しかし、この障害を治療するための薬理学的標的を特定するためのかなりの努力がなされている。特に、脆弱X症候群は、開発中の薬物の再配置ならびに転用努力の標的に頻繁になっている。多くの様々な基準および方法がこのタスクに適用されている。多くの場合、転用候補は、主に臨床的パターンマッチングに基づいて特定されており、一方、他の基礎疾患においては、治療標的を特定するためにメカニズムが広範に研究され、その後、徹底的な前臨床検証が行われている。
【0006】
全体として、脆弱X症候群を治療するための努力は、いくつかの素晴らしい可能性に導いたが、多くの努力にもかかわらず、決定的な成功はなかった。これは、新たな治療法の必要性を強調している。
【0007】
イブジラストは、ホスホジエステラーゼ阻害剤であり、抗炎症剤として使用されている。それは、喘息、脳卒中および多発性硬化症の治療において使用されている。イブジラストは、組織名2-メチル-1-(2-プロパン-2-イルピラゾロ[1,5-a]ピリジン-3-イル)プロパン-1-オンを有する。
【0008】
本発明は、脆弱X症候群の治療における使用のための、イブジラストまたはその薬学的に許容される塩を含む組成物であって、スリンダクもしくはその薬学的に許容される塩、またはブメタニドもしくはその薬学的に許容される塩を含まない、組成物である。以下に示すインビボデータから明かになるように、イブジラストは、脆弱X症候群を治療することにおいて有効である。
【0009】
本発明の第1の態様は、脆弱X症候群の治療における使用のための、イブジラストまたはその薬学的に許容される塩を含む組成物であって、スリンダクもしくはその薬学的に許容される塩、またはブメタニドもしくはその薬学的に許容される塩を含まない、組成物である。
【0010】
本発明の第2の態様は、脆弱X症候群の治療における使用のための医薬の製造のための、イブジラストまたはその薬学的に許容される塩の使用であって、医薬は、スリンダクもしくはその薬学的に許容される塩、またはブメタニドもしくはその薬学的に許容される塩を含まない、使用である。
【0011】
本発明の第3の態様は、脆弱X症候群を治療する方法であって、イブジラストまたはその薬学的に許容される塩を含む組成物を患者に投与することを含み、組成物は、スリンダクもしくはその薬学的に許容される塩、またはブメタニドもしくはその薬学的に許容される塩を含まない、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】イブジラストのインビボ試験からの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
脆弱Xは症候群であるので、患者におけるいくつかの様々な徴候および症状が存在する。これには以下が含まれる:知的障害(認知、実行および言語パフォーマンス、短期記憶、実行機能、視覚記憶ならびに視覚空間関係の困難など);自閉症;社交不安症(すなわち、社会的相互作用の困難)(アイコンタクトの乏しさ、視線をそらすこと、社会的相互作用を開始するまでの時間が長いこと、および仲間関係を形成する困難など);多動性および反復行動(非常に短い注意持続時間、視覚、聴覚、触覚および嗅覚刺激に対する過感受性、散漫性、衝動性、不穏ならびに過活動を含む);破壊的行動(気分変動、易怒性、自傷および攻撃性を含む);強迫性障害(OCD);眼科的問題(斜視など);てんかん発作;作業記憶(同じまたは他の情報を処理する際の情報の一時的な保存を含む)の困難;音韻記憶(または言語性作業記憶)の困難;ならびに脆弱X関連早発卵巣機能不全(FXPOI)。
【0014】
本発明において、そして以下のインビボデータによって示されるように、イブジラストは、上記の症状のうちの1つ以上を治療するために使用され、したがって、脆弱X症候群の有効な治療である。好ましくは、イブジラストは、脆弱X症候群の治療のために使用され、ここで、患者は、社交不安症、多動性、記憶喪失および/または破壊的行動を含む、症候群の典型的な症状を示している。より好ましくは、イブジラストは、脆弱X症候群の治療のために使用され、ここで、患者は、多動性、記憶喪失および/または破壊的行動を示している。
【0015】
「多動性」という用語は、当該技術分野におけるその通常の意味を有する。多動性は、非常に短い注意持続時間、視覚、聴覚、触覚、および嗅覚刺激に対する過感受性、散漫性、衝動性、不穏、ならびに/または過活動を有することを含み得る。
【0016】
「社交不安症」という用語は、当該技術分野におけるその通常の意味を有する。それはまた、社会的相互作用の困難または低社交性と呼ばれ得る。社交不安症は、アイコンタクトの乏しさ、視線をそらすこと、社会的相互作用を開始するまでの時間が長いこと、社会的回避または離脱、および仲間関係を形成する困難を有することを含み得る。
【0017】
「記憶喪失」という用語は、当該技術分野におけるその通常の意味を有する。それは、記憶障害とも呼ばれ得る。それは、情報を短期または長期のいずれにも保持することができないことを指す。これは、認知、実行、および言語パフォーマンス、実行機能、ならびに視覚記憶の困難を含み得る。それはまた、短期記憶(すなわち、同じまたは他の情報を処理する際の情報の一時的な保存)とも呼ばれる、作業記憶の困難、および音韻記憶(または言語性作業記憶)の困難も含み得る。
【0018】
「破壊的行動」という用語は、当該技術分野におけるその通常の意味を有する。それはまた、反復行動を含み得る。それはまた、気分変動、易怒性、自傷および攻撃性を含み得る。
【0019】
本明細書で使用される場合、薬学的に許容される塩は、薬学的に許容される酸または塩基との塩である。薬学的に許容される酸は、塩酸、硫酸、リン酸、二リン酸、臭化水素酸、または硝酸などの無機酸、およびクエン酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、コハク酸、酒石酸、安息香酸、酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、サリチル酸、ステアリン酸、ベンゼンスルホン酸、またはp-トルエンスルホン酸などの有機酸の両方を含む。薬学的に許容される塩基は、アルカリ金属(例えば、ナトリウムまたはカリウム)およびアルカリ土類金属(例えば、カルシウムまたはマグネシウム)水酸化物、ならびにアルキルアミン、アリールアミン、または複素環式アミンなどの有機塩基を含む。
【0020】
本発明は、脆弱X症候群の治療における使用のための、イブジラストまたはその薬学的に許容される塩を含む組成物であって、スリンダクもしくはその薬学的に許容される塩、またはブメタニドもしくはその薬学的に許容される塩を含まない、組成物に関する。
【0021】
本発明による組成物は、スリンダクまたはその薬学的に許容される塩を含まない。スリンダクは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)である。スリンダクは、抗炎症、鎮痛および解熱活性を示すので、関節炎、肩滑液包炎および腱炎などの急性および慢性の炎症状態の治療において使用される。本発明による組成物は、スリンダクを少しも含有しない(すなわち、0重量%のスリンダク)。
【0022】
本発明による組成物は、レチノイン酸関連オーファン受容体アルファ(RORA)アゴニスト、カルシウムチャネル阻害剤または溶質輸送体ファミリー12メンバー1、溶質輸送体ファミリー12メンバー1、2、4もしくは溶質輸送体ファミリー12メンバー1、2、4、5の阻害剤、ジヒドロピリジン、フェニルアキルアミン、ベンゾチアゼピン、インドラジン、アミノグリコシド、ならびにスルファモイル安息香酸の4-置換誘導体(例えば、ブメタニド、AqB007、AqB011、PF-2178、BUM13、BUM5およびブメパミン)などの、細胞内カルシウム濃度を調節することができる物質を含まない。
【0023】
具体的には、本発明による組成物は、ブメタニドまたはその薬学的に許容される塩を含まない。ブメタニドは、心不全および腫脹の治療において典型的に使用される利尿剤である。本発明による組成物は、ブメタニドを少しも含有しない(すなわち、0重量%のブメタニド)。
【0024】
別の実施形態において、本発明は、脆弱X症候群の治療における使用のための、イブジラストまたはその薬学的に許容される塩を含む組成物であって、イブジラストは、組成物中の唯一の活性剤である、組成物に関する。唯一の活性剤は、組成物が、脆弱X症候群の治療において使用され得る他の成分、特に細胞内カルシウム濃度を調節することができる成分を含有しないことを意味する。組成物は、充填剤または結合剤などの賦形剤を含有し得る。
【0025】
本発明では、組成物は、様々な剤形で投与され得る。一実施形態では、組成物は、経口、直腸、非経口、鼻腔内もしくは経皮投与、または吸入によるかもしくは坐剤による投与のために適切な形式で製剤化され得る。
【0026】
組成物は、例えば、錠剤、トローチ、ロゼンジ、水性もしくは油性懸濁液、分散性粉末または顆粒として経口投与され得る。好ましくは、組成物は、経口投与のために適切であるように製剤化される(例えば、錠剤およびカプセル)。
【0027】
組成物はまた、非経口で(皮下で、静脈内で、筋肉内で、胸骨内で、経皮で、または注入技術によってのいずれか)投与され得る。イブジラストはまた、坐剤として投与され得る。
【0028】
組成物はまた、吸入によって投与され得る。吸入医薬品の利点は、経口経路によって服用される多くの医薬品と比較して、血液供給が豊富な領域へのそれらの直接送達である。よって、肺胞は巨大な表面積および豊富な血液供給を有し、初回通過代謝が迂回されるため、吸収は非常に迅速である。
【0029】
本発明はまた、本発明の組成物を含有する吸入デバイスを提供する。典型的には、当該デバイスは、定量吸入器(MDI)であり、これは医薬品を吸入器から押し出すための薬学的に許容される化学推進剤を含有する。
【0030】
組成物はまた、鼻腔内投与によって投与され得る。鼻腔の透過性の高い組織は、医薬品に対して非常に受容性であり、それを迅速かつ効率的に吸収する。経鼻薬物送達は、注射よりも痛みおよび侵襲が少なく、患者間でもたらされる不安がより少ない。この方法によって、吸収は、非常に迅速であり、初回通過代謝は、通常迂回され、よって患者間ばらつきを低減する。さらに、本発明はまた、本発明による組成物を含有する鼻腔内デバイスを提供する。
【0031】
組成物はまた、経皮投与によって投与され得る。局所送達のために、経皮および経粘膜パッチ、クリーム、軟膏、ゼリー、溶液、または懸濁液が使用され得る。したがって、本発明はまた、組成物を含有する経皮パッチを提供する。
【0032】
組成物はまた、舌下投与によって投与され得る。したがって、本発明はまた、組成物を含む舌下錠剤を提供する。
【0033】
組成物はまた、抗菌剤、あるいは患者中に、または患者上もしくは患者内に生存ずる共生もしくは寄生生物中に存在し得、化合物を分解することができるプロテアーゼ酵素の阻害剤などの、患者の正常な代謝以外のプロセスによる物質の分解を低減する薬剤とともに製剤化され得る。
【0034】
経口投与用の液体分散液は、シロップ、乳濁液および懸濁液であり得る。
【0035】
懸濁液および乳濁液は、担体として、例えば、天然ガム、寒天、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、またはポリビニルアルコールを含有し得る。筋肉内注射用の懸濁液または溶液は、活性化合物とともに、薬学的に許容される担体、例えば、滅菌水、オリーブ油、オレイン酸エチル、グリコール、例えば、プロピレングリコール、および所望に応じて、適切な量のリドカイン塩酸塩を含有し得る。
【0036】
注射または注入用の溶液は、担体として、例えば、滅菌水を含有し得るか、または好ましくはそれらは、滅菌、水性、等張性食塩溶液の形態であり得る。
【0037】
本発明の一実施形態では、組成物は、脆弱X症候群の症状を治療するために有効な量で投与される。有効用量は、当業者にとって明らかであり、医療従事者が決定することができる、年齢、性別、体重を含むいくつかの因子に依存する。
【0038】
好ましい実施形態では、組成物は、10mg~300mgのイブジラスト、好ましくは20mg~150mgのイブジラストを含む。
【0039】
組成物は、1日1回、1日2回、1日3回、または1日4回投与され得る。
【0040】
本発明の一実施形態では、組成物は、少なくとも1日1回投与される。好ましくは、それは1日当たり1回の用量として投与される。好ましくは、1日当たり1回の用量は、10mg~300mgのイブジラスト、好ましくは20mg~150mgのイブジラストを含む。
【0041】
本発明の一実施形態では、組成物は、1日2回投与される。好ましくは、各用量は、20mg~100mgのイブジラスト、または20mg~50mgのイブジラストである。
【0042】
好ましくは、投与レジメンは、イブジラストの総1日投与量が300mgを超えないようなものである。
【0043】
脆弱X症候群を治療するために、イブジラストを含む組成物は、慢性投与レジメン、すなわち慢性、長期治療で使用される。
【0044】
本発明はまた、脆弱X症候群の治療における使用のための医薬の製造のための、イブジラストまたはその薬学的に許容される塩の使用であって、医薬は、スリンダクもしくはその薬学的に許容される塩、またはブメタニドもしくはその薬学的に許容される塩を含まない、使用に関する。本発明のこの実施形態は、上記の好ましい特徴のいずれかを有し得る。
【0045】
本発明はまた、脆弱X症候群を治療する方法であって、イブジラストまたはその薬学的に許容される塩を含む組成物を患者に投与することを含み、組成物は、スリンダクもしくはその薬学的に許容される塩、またはブメタニドもしくはその薬学的に許容される塩を含まず、患者は、ブメタニドを投与されていない、方法に関する。好ましくは、患者は、上記の細胞内カルシウム濃度を調節することができる物質を投与されていない。本発明のこの実施形態は、上記の好ましい特徴のいずれかを有し得る。投与の方法は、上記の経路のいずれかに従い得る。
【0046】
疑義を避けるために、本発明はまた、インビボで反応して本発明の化合物を与えるプロドラッグを包含する。
【0047】
以下の研究は、本発明を例証する。
【0048】
研究1
動物
Fmr1ノックアウト2(Fmr1 KO2)マウスを、Fmr1のプロモーターおよび第1エクソンの欠失によって生成した。Fmr1 KO2、これは、タンパク質ヌルおよびmRNAヌルの両方である。本研究では、C57BL/6Jバックグラウンドで生成し、8世代より多くC57BL/6Jバックグラウンドに繰り返し戻し交配したFmr1 KO2および野生型(WT)同腹子を使用した。
【0049】
動物収容
Fmr1 KO2マウスを、同じ遺伝子型のケージ群当たり4~5匹で、温度(21±1℃)および湿度制御室中で、12時間の明暗サイクル(午前7時~午後7時に照明)で収容した。食料および水は自由に利用可能であった。マウスを市販のプラスチックケージ中に収容し、実験をUK Animals(Scientific Procedures)Act,1986の要件に従って実施した。プロトコルは、IEB、University of Chile Institute審査委員会によって審査および承認された。すべての実験を、遺伝子型および薬物治療に対して目隠しされたスタッフが実施した。別々の研究者が、投与溶液を調製およびコード化し、マウスを研究治療群に割り当て、動物に投与し、行動データを収集した。
【0050】
治療群
研究において化合物当たり4つの治療群が存在し、治療群当たり10匹の雄性マウスを使用した(すべて8週齢):群1:ビヒクルで治療した野生型同腹仔マウス(WT-Veh)、群2:ビヒクルで治療したFmr1 KO2マウス(KO-Veh)、群3:12mg/kgのイブジラストで治療したFmr1 KO2マウス(KO-イブジラスト)。
【0051】
行動試験
実験のために、すべてのマウスを同じ装置中で一度試験した。試験に先立って、実験前にマウスを数分間装置に入れた。各マウスを試験する前に、装置を湿ったティッシュおよび乾いたティッシュで掃除した。目的は、すべての実験対象について、低いが一定のバックグラウンドマウス臭を作り出すことであった。試験者は、すべての試験およびデータ分析の間、遺伝子型および治療に対して目隠しされた。体重減少、脱毛、歩行、開眼、眼脂、および一般行動を評価した。すべての兆候は、すべての治療が、Fmr1KO2マウスおよびWT同腹仔によって常に十分に許容されたことを示した。
【0052】
オープンフィールド(多動性)
多動性を試験するために、オープンフィールド装置を使用した。装置は、10×10cmグリッドに分割された灰色のPVCで囲い込まれたアリーナ50×9×30cmであった。試験の5~20分前にマウスを実験室に運んだ。マウスを角の正方形に角に対向して置き、3分間観察した。全身が入った正方形の数(歩行活動)を数えた。フィールドの周りのマウスの動きをビデオ追跡デバイスで3分間記録した(バージョンNT4.0、Viewpoint)。
【0053】
営巣
試験は、個々のケージで行った。通常の床敷は、床を0.5cmの深さまで覆った。各ケージには、5cm四方の圧縮精製綿である「Nestlet」(Ancare)を供給した。マウスを個別に営巣ケージに暗期の1時間前に入れ、結果を翌朝評価した。造巣は、5点尺度でスコア付けした。
【0054】
スコア1:Nestletは大部分が手つかずであった(>90%変化なし)。
【0055】
スコア2:Nestletは部分的に引き裂かれた(50~90%変化なしのまま)。
【0056】
スコア3:Nestletはほとんど細断されたが、多くの場合、巣の場所は特定可能ではなかった:Nestletの<50%
スコア4:特定可能であるが平らな巣 Nestletの<90%が引き裂かれ、材料は平らな巣に集められ、壁はその周囲の50%未満で、側面で丸まっているマウスの高さよりも高かった。
【0057】
スコア5:(ほぼ)完璧な巣:Nestletの>90%が引き裂かれ、巣はクレーターであり、壁はその周囲の50%超でマウス体高よりも高かった。
【0058】
恐怖条件付け
文脈的恐怖条件付けで使用された依存尺度は、条件付けされていない刺激(足ショック)と、特定の文脈である条件付けされた刺激との対合に従ったフリージング応答であった。フリージングは、恐怖に対する種特異的応答であり、「呼吸以外の動きの欠如」と定義されている。これは、嫌悪刺激の強度、提示の数、および対象によって達成された学習の程度に応じて、数秒~数分間続く場合がある。試験は、動物を新規環境(暗チャンバー)に入れ、嫌悪刺激(足に1秒電気ショック、0.2mA)を提供し、次いでそれを取り除くことを含んだ。
【0059】
社会的相互作用
3チャンバー社交性タスクでは、対象マウスを新規社会的刺激(新規マウス)のその探索について評価した。3チャンバー社会的アプローチタスクは、対象マウスに新規マウスまたは空のカップのいずれかと時間を過ごすという選択肢が提示される場合の直接的社会的アプローチ行動を監視する。社交性は、対象マウスが空のチャンバーよりもマウスを含有するチャンバーでより多くの時間を過ごすこととして定義される。社会的新規性の選好性は、新規マウスを有するチャンバーでより多くの時間を過ごすこととして定義される。装置は、長方形3チャンバーボックスであり、各チャンバーのサイズは、20cm(長さ)x40.5cm(幅)x22cm(高さ)である。仕切り壁は、各チャンバーへのアクセスを可能にする小さな開口部(幅10cm×高さ5cm)を備えた、透明なパープレックスからなる。3チャンバータスクは、下から点灯した(10ルクス)。マウスは、3チャンバー装置を3回の10分トライアルにわたって自由に探索することができた。トライアル中、1つのワイヤーカップをサイドチャンバーの一方に逆さまに置き、新規マウスを他方のサイドチャンバーで別のワイヤーカップの下に置き(新規マウス刺激)、中央チャンバーを空のままにした。トライアル全体における新規マウスの位置は、チャンバー位置の選好性による任意の潜在的な交絡を最小限に抑えるように釣り合いをとった。新規マウスの探索に費やされた時間は、探索比としてスコア付けした。
【0060】
行動データの統計分析
データを、ダネットの多重比較事後検定を用いる一元配置分散分析によって分析し、ここで、WT Vehicle群を参照として使用し、すべての他の群と比較した。
統計の解釈:
・NS:WT群の平均はいずれの他の群の平均に対しても有意差がなく、したがって、治療はレベルをWTと等しくする(p>0.05)
・WT群の平均といずれかの他の群の平均とは統計的に差があり、したがって、治療はWTのレベルと等しくするのに十分ではない
・*P≦0.05
・**P≦0.01
・***P≦0.001
・****P≦0.0001
【0061】
結論
図1からわかるように、イブジラストを含む組成物での治療は、オープンフィールド、営巣、恐怖条件付け、および社交性を完全にレスキューした。これは、イブジラストを含む本発明による組成物が、脆弱X症候群の治療に成功していることの証拠である。
図1-1】
図1-2】