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特許7649399窒化アルミニウム焼結体、およびその製造方法
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  • 特許-窒化アルミニウム焼結体、およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-11
(45)【発行日】2025-03-19
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム焼結体、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/581 20060101AFI20250312BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20250312BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20250312BHJP
【FI】
C04B35/581
H01L23/36 D
H01L23/36 M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024035702
(22)【出願日】2024-03-08
【審査請求日】2024-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】591149089
【氏名又は名称】株式会社MARUWA
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 冬樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 光隆
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-037691(JP,A)
【文献】特開2004-083341(JP,A)
【文献】特開2013-203597(JP,A)
【文献】特開2012-116750(JP,A)
【文献】国際公開第2020/059035(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/008697(WO,A1)
【文献】特開平11-322432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/581
C01B 21/072
H01L 23/36
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウム粒子と焼結助剤相とを含む窒化アルミニウム焼結体であって、
厚さ2.5mmに換算した際の熱伝導率λが260W/mK以上であり、且つ、
基板全体領域の反りを示す反り指標値C1が、0.20μm/mm未満であり、
前記反り指標値C1は、前記窒化アルミニウム焼結体の基板サンプルにおいて、基板サンプル表面全体の平方領域の3次元形状測定によって得られた最大高さ値Hmax(μm)および最小高さ値Hmin(μm)と、前記平方領域の対角線の距離D1(mm)とを用いて、
C1=(Hmax-Hmin)/D1
によって算出されることを特徴とする窒化アルミニウム焼結体。
【請求項2】
前記反り指標値C1が、0.14~0.19μm/mmであることを特徴とする請求項1に記載の窒化アルミニウム焼結体。
【請求項3】
前記窒化アルミニウム焼結体の基板角部領域の反りを示す第2の反り指標値C2が、0.17~0.35μm/mmであり、
前記第2の反り指標値C2は、前記窒化アルミニウム焼結体の基板サンプルにおいて、基板サンプル表面の角部を含む平方領域の3次元形状測定によって得られた最大高さ値Hmax(μm)および最小高さ値Hmin(μm)と、前記平方領域の対角線の距離D2(mm)とを用いて、
C2=(Hmax-Hmin)/D2
によって算出されることを特徴とする請求項1に記載の窒化アルミニウム焼結体。
【請求項4】
前記窒化アルミニウム焼結体の基板中央領域の反りを示す第3の反り指標値C3が、0.10~0.29μm/mmであり、
前記第3の反り指標値C3は、前記窒化アルミニウム焼結体の基板サンプルにおいて、基板サンプル表面の中心に位置する平方領域の3次元形状測定によって得られた最大高さ値Hmax(μm)および最小高さ値Hmin(μm)と、前記平方領域の対角線の距離D3(mm)とを用いて、
C3=(Hmax-Hmin)/D3
によって算出されることを特徴とする請求項1に記載の窒化アルミニウム焼結体。
【請求項5】
熱伝導率λ/反り指標値C1が、1400以上且つ2000以下であることを特徴とする請求項1に記載の窒化アルミニウム焼結体。
【請求項6】
90~99.5重量%の窒化アルミニウムと、0.5~10重量%の酸化イットリウムとを焼結してなることを特徴とする請求項1に記載の窒化アルミニウム焼結体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム焼結体を製造する方法であって、
窒化アルミニウム原料粉末と、焼結助剤と、有機溶媒とを混合して原料混合物のスラリーを作製する混合工程と、
前記原料混合物を成形して成形体を得る成形工程と、
乾燥空気流入下または窒素雰囲気中にて、前記成形体を脱脂温度域で加熱して脱脂処理する脱脂工程と、
窒素雰囲気中にて、脱脂後の前記成形体を脱酸温度域で加熱して脱酸処理する脱酸工程と、
窒素雰囲気中にて、脱酸後の前記成形体を焼結温度域で焼結して窒化アルミニウム前駆焼結体を作製する焼結工程と、
少なくとも前記窒化アルミニウム前駆焼結体の一部を窒化アルミニウム粉末で包埋することによって包埋構造を作製し、弱還元性雰囲気中にて、前記包埋構造を1850~1950℃で熱処理する還元焼成工程と、
還元焼成した前記包埋構造から前記窒化アルミニウム粉末を除去して、窒化アルミニウム焼結体を得る除去工程と、
を含み、
前記還元焼成工程が、30時間以上実施されることを特徴とする窒化アルミニウム焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記還元焼成工程は、前記窒化アルミニウム前駆焼結体を、黒鉛製容器、または、カーボンブラックもしくはカーボンシートを配置したBN製容器もしくはAlN製容器に入れて、前記窒化アルミニウム前駆焼結体が見えなくなるまで窒化アルミニウム粉末で包埋することを含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム焼結体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウム焼結体の製品は、高熱伝導性を有する絶縁材料からなり、高熱伝導基板用材料として注目されている。該窒化アルミニウム焼結体は、その優れた熱伝導特性により、高熱で動作が不安定となる半導体や電子機器において、例えば、パワートランジスタモジュール基板、発光ダイオード、ICパッケージ、レーザーダイオードなどの電子部品の放熱基板として広く利用されている。近年、窒化アルミニウム焼結体基板は、モバイル用途の電子基板に多く用いられ、より高い放熱性が求められている。そこで、窒化アルミニウム焼結体の熱伝導率を改善すべく、種々の試みがなされている。
【0003】
例えば、特許文献1は、窒化アルミニウム焼結体及びその製造方法を開示する。特許文献1の窒化アルミニウム焼結体は、粒界相の構成成分、含有割合等を特定すると共に、微構造、具体的には窒化アルミニウム結晶粒子の平均径、最小径、最大径、および粒子数を特定することで、260W/m・K以上といった高い熱伝導率を有する。この窒化アルミニウム焼結体の製造方法は、平均粒径が1.5μm以下の窒化アルミニウム粉末と、少なくともY化合物粉末を含む焼結助剤とを混合し、成形して成形体を得る成形工程と、この成形体を脱脂する脱脂工程と、この脱脂後の成形体を非酸化性雰囲気または減圧雰囲気中、1300℃以上1550℃以下で熱処理して脱酸する脱酸工程と、この脱酸後の成形体を非酸化性雰囲気中、1800℃以上1950℃以下で熱処理することにより熱伝導率が230W/m・K以上の一次焼結体を得る焼結工程と、この一次焼結体を弱還元性雰囲気中、1750℃以上1900℃以下で熱処理することにより熱伝導率が260W/m・K以上の高熱伝導性窒化アルミニウム焼結体を得る還元工程とを有することを特徴とする。特には、焼結工程では、脱酸後の成形体を非酸化性雰囲気中、1800℃以上1950℃以下で熱処理することにより熱伝導率が230W/m・K以上の一次焼結体が得られる。これに続く、還元工程では、一次焼結体を弱還元性雰囲気中、1750℃以上1900℃以下で熱処理することにより熱伝導率が260W/m・K以上の窒化アルミニウム焼結体(高熱伝導性窒化アルミニウム焼結体)が得られる。この還元工程では、熱伝導率の阻害要因である粒界相を表面に析出させて除去することで、最終的に熱伝導率が260W/m・K以上の窒化アルミニウム焼結体が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-37691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、高い熱伝導率を有する窒化アルミニウム焼結体を提供するものである。特許文献1のような従来の窒化アルミニウム焼結体では、高い熱伝導率を実現するために、還元雰囲気下で高温の焼成が必要であるが、そのような条件では焼結体の変形や反りが発生し易いことが分かっている(例えば、本明細書の比較例1、2、9参照)。そして、従来の窒化アルミニウム焼結体を基板として電子回路に組み込むと、窒化アルミニウム焼結体基板自体の反りが原因となって、回路の緻密化や、電子回路の歩留まりなどに悪影響を及ぼすことがあった。そこで、発明者らは、窒化アルミニウム焼結体の高熱伝導特性を維持しつつ、窒化アルミニウム焼結体を基板として形成した際に基板の反りを低減させることを課題とした。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、高い熱伝導特性および基板の反りを低減させた窒化アルミニウム焼結体、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(項1)
本発明の一形態の窒化アルミニウム焼結体は、窒化アルミニウム粒子と焼結助剤相とを含む窒化アルミニウム焼結体であって、
厚さ2.5mmに換算した際の熱伝導率λが260W/mK以上であり、且つ、
基板全体領域の反りを示す反り指標値C1が、0.20μm/mm未満であり、
前記反り指標値C1は、前記窒化アルミニウム焼結体の基板サンプルにおいて、基板サンプル表面全体の平方領域の3次元形状測定によって得られた最大高さ値Hmax(μm)および最小高さ値Hmin(μm)と、前記平方領域の対角線の距離D1(mm)とを用いて、
C1=(Hmax-Hmin)/D1
によって算出されることを特徴とする。
【0008】
(項2)
本発明のさらなる形態の窒化アルミニウム焼結体は、より好適には項1の窒化アルミニウム焼結体において、前記反り指標値C1が、0.14~0.19μm/mmであることを特徴とする。
【0009】
(項3)
本発明のさらなる形態の窒化アルミニウム焼結体は、より好適には項1または2の窒化アルミニウム焼結体において、前記窒化アルミニウム焼結体の基板角部領域の反りを示す第2の反り指標値C2が、0.17~0.35μm/mmであり、
前記第2の反り指標値C2は、前記窒化アルミニウム焼結体の基板サンプルにおいて、基板サンプル表面の角部を含む平方領域の3次元形状測定によって得られた最大高さ値Hmax(μm)および最小高さ値Hmin(μm)と、前記平方領域の対角線の距離D2(mm)とを用いて、
C2=(Hmax-Hmin)/D2
によって算出されることを特徴とする。
【0010】
(項4)
本発明のさらなる形態の窒化アルミニウム焼結体は、より好適には項1から3のいずれか一項の窒化アルミニウム焼結体において、前記窒化アルミニウム焼結体の基板中央領域の反りを示す第3の反り指標値C3が、0.10~0.29μm/mmであり、
前記第3の反り指標値C3は、前記窒化アルミニウム焼結体の基板サンプルにおいて、基板サンプル表面の中心に位置する平方領域の3次元形状測定によって得られた最大高さ値Hmax(μm)および最小高さ値Hmin(μm)と、前記平方領域の対角線の距離D3(mm)とを用いて、
C3=(Hmax-Hmin)/D3
によって算出されることを特徴とする。
【0011】
(項5)
本発明のさらなる形態の窒化アルミニウム焼結体は、より好適には項1から4のいずれか一項の窒化アルミニウム焼結体において、熱伝導率λ/反り指標値C1が、1400以上且つ2000以下であることを特徴とする。
【0012】
(項6)
本発明のさらなる形態の窒化アルミニウム焼結体は、より好適には項1から5のいずれか一項の窒化アルミニウム焼結体において、90~99.5重量%の窒化アルミニウムと、0.5~10重量%の酸化イットリウムとを焼結してなることを特徴とする。
【0013】
(項7)
本発明の一形態の窒化アルミニウム焼結体を製造する方法は、
項1から6のいずれか一項の窒化アルミニウム焼結体を製造する方法であって、
窒化アルミニウム原料粉末と、焼結助剤と、有機溶媒とを混合して原料混合物のスラリーを作製する混合工程と、
前記原料混合物を成形して成形体を得る成形工程と、
乾燥空気流入下または窒素雰囲気中にて、前記成形体を脱脂温度域で加熱して脱脂処理する脱脂工程と、
窒素雰囲気中にて、脱脂後の前記成形体を脱酸温度域で加熱して脱酸処理する脱酸工程と、
窒素雰囲気中にて、脱酸後の前記成形体を焼結温度域で焼結して窒化アルミニウム前駆焼結体を作製する焼結工程と、
少なくとも前記窒化アルミニウム前駆焼結体の一部を窒化アルミニウム粉末で包埋することによって包埋構造を作製し、弱還元性雰囲気中にて、前記包埋構造を1850~1950℃で熱処理する還元焼成工程と、
還元焼成した前記包埋構造から前記窒化アルミニウム粉末を除去して、窒化アルミニウム焼結体を得る除去工程と、
を含み、
前記還元焼成工程が、30時間以上実施されることを特徴とする。
【0014】
(項8)
本発明のさらなる形態の方法は、より好適には項7の方法において、前記還元焼成工程は、前記窒化アルミニウム前駆焼結体を、黒鉛製容器、または、カーボンブラックもしくはカーボンシートを配置したBN製容器もしくはAlN製容器に入れて、前記窒化アルミニウム前駆焼結体が見えなくなるまで窒化アルミニウム粉末で包埋することを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、260W/mK以上の高い熱伝導率を有するとともに、基板の反りを低減した窒化アルミニウム焼結体を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態における還元焼成工程の一例を示す模式図。
図2】従来例(比較例1、2)における還元焼成工程の一例を示す模式図。
図3】窒化アルミニウム焼結体の基板表面における反り指標値C1、C2、C3の測定範囲を示す模式図。
図4】(a)実施例1および(b)比較例1の窒化アルミニウム焼結体の基板の3次元形状測定結果を視覚的に示した画像であって、薄い色ほど基準面から高い位置にあることを示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態の窒化アルミニウム焼結体は、所定厚の基板形状をなし、電子部品を搭載するための回路基板として使用され得る。また、窒化アルミニウム焼結体は、主原料として90~99.5重量%の窒化アルミニウムと、0.5~10重量%の焼結助剤とを焼結してなる窒化アルミニウム焼結体からなる。そして、窒化アルミニウム焼結体は、窒化アルミニウム粒子の結晶相と、焼結助剤相からなる液相とから構成される。
【0018】
焼結助剤は、希土類元素Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ho,Er,Ybの酸化物の群から選択され得る。本実施形態では、焼結助剤として、酸化イットリウム(Y)が採用された。希土類酸化物を焼結助剤として添加することによって、焼結時の液相生成温度を低下させ、結晶構造を緻密化し、その結果、比較的高い熱伝導性と機械的強度とを両立することができることが知られている。
【0019】
本実施形態の窒化アルミニウム焼結体は、厚さ2.5mmに換算した際の熱伝導率λが260W/mK以上の熱伝導特性を有することを特徴とする。また、窒化アルミニウム焼結体は、厚さ0.5mmに換算した際の熱伝導率が240W/mK以上の熱伝導特性を有することが好ましい。本実施形態の窒化アルミニウム焼結体は、焼結体中に残留したY含有量が0.1重量%以下であり、且つ、焼結体中に残留した炭素(C元素)含有量が0.05重量%以下であることが好ましい。Y含有量が0.03重量%以下であることがより好ましい。また、炭素含有量が0.03重量%以下であることがより好ましい。本発明の窒化アルミニウム焼結体は、焼結体中に残留するY含有量および炭素含有量の両方を制御したことによって、高熱伝導率と基板の反り低減との両立を図ったものである。
【0020】
また、窒化アルミニウム焼結体は、従来と比べて、より反りが低減された3次元形状を有する基板として構成され得る。この基板の3次元形状を定量的に評価するために、カメラ光学系を有する光学測定機によって3次元形状測定が行われ得る。光学測定機器は、(好ましくは2以上の)カメラ光学系により、基板表面の特定された平方領域(正方形の範囲)を高精密にスキャンすることによって、基板表面の凹凸、うねり、反り等を含む表面形状の3次元データを取得するものである。この3次元データは、平面上の測定位置(x、y座標)における高さ情報(高さ値またはz座標)の集合体であり、3次元マップとして表現され得る。高さ値は、基板全面がなるべく水平になる面としてソフトウェアによって自動で設定された基準面(H=0)に対する相対高さである。そして、最大高さ値Hmaxは、この相対高さの最大となる値であって、最小高さ値Hminは、相対高さの最小となる値である。基板の反り量を評価するために、最大高さ値Hmaxと最小高さ値Hminとの差ΔHを用いた。測定する平方領域のサイズが大きければ、反り量(ΔH)が大きくなることが考えられる。そのため、この反り量(ΔH)を平方領域の対角線Dで除することによって反り指標値Cを算出した。そして、反り指標値Cが基板の反りを評価するために用いられた。本実施形態では、基板全体領域の反り指標値C1、角部領域での反り指標値C2、および、中央領域での反り指標値C3が評価された。図3は、反り指標値C1、C2、C3の評価範囲を示す模式図である。なお、基板自体の表面粗さは、反り量と比べて極めて小さいので無視可能である。
【0021】
窒化アルミニウム焼結体は、基板全体領域の反りを示す、0.20μm/mm未満の反り指標値C1を有する。反り指標値C1は、0.14~0.19μm/mmであることがより好ましい。ここで、反り指標値C1は、所定サイズ(実施例では厚さ0.5mmおよび50.8mm角の正方形とした)に作製した窒化アルミニウム焼結体の基板サンプルにおいて、基板サンプル表面全体の平方領域(一辺50mmの正方形範囲)の光学的3次元形状測定によって得られた最大高さ値Hmax(μm)および最小高さ値Hmin(μm)と、該平方領域の対角線の距離D1(mm)とを用いて、
C1=(Hmax-Hmin)/D1
によって算出されたものである。
【0022】
窒化アルミニウム焼結体は、基板角部領域の反りを示す、0.17~0.35μm/mmの第2の反り指標値C2を有する。ここで、第2の反り指標値C2は、所定サイズ(実施例では厚さ0.5mmおよび50.8mm角の正方形とした)に作製した窒化アルミニウム焼結体の基板サンプルにおいて、基板サンプル表面の角部を含む平方領域(一辺25mmの正方形範囲)の光学的3次元形状測定によって得られた最大高さ値Hmax(μm)および最小高さ値Hmin(μm)と、該平方領域のの対角線の距離D2(mm)とを用いて、
C2=(Hmax-Hmin)/D2
によって算出されたものである。
【0023】
窒化アルミニウム焼結体は、基板中央領域の反りを示す、0.10~0.29μm/mmの第3の反り指標値C3を有する。ここで、第3の反り指標値C3は、所定サイズ(実施例では厚さ0.5mmおよび50.8mm角の正方形とした)に作製した窒化アルミニウム焼結体の基板サンプルにおいて、基板サンプル表面の中心に位置する平方領域(一辺25mmの正方形範囲)の3次元形状測定によって得られた最大高さ値Hmax(μm)および最小高さ値Hmin(μm)と、該平方領域の対角線の距離D3(mm)とを用いて、
C3=(Hmax-Hmin)/D3
によって算出されたものである。
【0024】
従来の製法による窒化アルミニウム焼結体(比較例9)では、後述するとおり、第1の反り指標値C1が約0.30μm/mmであり、第2の反り指標値C2が約0.55μm/mmであり、第3の反り指標値C3が約0.41μm/mmであるのに対し、本発明の窒化アルミニウム焼結体は、第1の反り指標値C1が0.14~0.19μm/mmであり、第2の反り指標値C2が0.17~0.35μm/mmであり、第3の第3の反り指標値C3が0.10~0.29μm/mmである。すなわち、本発明の窒化アルミニウム焼結体では、基板全体領域、基板角部領域、および基板中央領域の全てにおいて、従来の製法による窒化アルミニウム焼結体と比べて、基板の反りが低減されている。さらに、第1の反り指標値C1および熱伝導率λとの両立を示す指標として、熱伝導率λ/反り指標値C1を用いた。従来の製法による窒化アルミニウム焼結体(比較例9)では、後述するとおり、λ/C1が、約900であるのに対し、本発明の窒化アルミニウム焼結体では、λ/C1が、1400~2000である。したがって、本発明の窒化アルミニウム焼結体は、260W/mK以上の高い熱伝導率を有するとともに、従来と比べて基板の反りを低減したことを特徴とする。
【0025】
次に、本実施形態の窒化アルミニウム焼結体の製造方法について説明する。窒化アルミニウム焼結体の製造方法は、主として、窒化アルミニウム原料粉末と、焼結助剤と、有機溶媒とを混合して原料混合物のスラリーを作製する混合工程と、原料混合物を成形して成形体を得る成形工程と、乾燥空気流入下または窒素雰囲気中にて、成形体を脱脂温度域で加熱して脱脂処理する脱脂工程と、窒素雰囲気中にて、脱脂後の成形体を脱酸温度域で加熱して脱酸処理する脱酸工程と、窒素雰囲気中にて、脱酸後の成形体を焼結温度域で焼結して窒化アルミニウム前駆焼結体を作製する焼結工程と、窒化アルミニウム前駆焼結体を窒化アルミニウム粉末で包埋することによって包埋構造を作製し、弱還元性雰囲気中にて、包埋構造を1850~1950℃で30時間以上、熱処理する還元焼成工程と、還元焼成した包埋構造から窒化アルミニウム粉末を除去して、窒化アルミニウム焼結体を得る除去工程と、を含む。以下、各工程について詳細に説明する。なお、本明細書での「包埋」とは、窒化アルミニウム前駆焼結体を窒化アルミニウム粉末で完全に覆われる(窒化アルミニウム前駆焼結体の外周面が完全に窒化アルミニウム粉末で包囲される)のみならず、窒化アルミニウム前駆焼結体の外周面の一部が見える程度に大部分を窒化アルミニウム粉末で覆われることも含まれる。
【0026】
混合工程では、適量の窒化アルミニウム原料粉末と、適量の焼結助剤の粉末とを準備する。主原料である窒化アルミニウム原料粉末は、金属不純物が少なく、酸素含有量が低い高純度微粉末であることが好ましい。焼結助剤は、希土類元素Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ho,Er,Ybの酸化物の群から選択され得るが、Yであることが好ましい。本実施形態の製造方法では、90~99.5重量%の窒化アルミニウム原料粉末と、0.5~10重量%のYとが配合される。準備した原料(窒化アルミニウムおよび焼結助剤)がボールミル等の粉砕混合機に投入されるとともに、有機溶剤、分散剤、有機バインダー及び/又は可塑剤が加えられ、所定の時間をかけて混合材料が十分に粉砕及び混合される。有機溶剤は、例えばトルエン、エタノールを所定の割合で調合した溶剤である。有機溶剤の分量は、窒化アルミニウム原料粉末を100重量部として30~70重量部程度である。また、分散剤は、例えば、ポリカルボン酸系界面活性剤である。ただし、これら有機溶剤及び分散剤は任意に選択可能である。また、有機バインダーは、例えばポリビニルブチラール樹脂もしくはアクリル樹脂を用いる。その添加量は、原料粉末を100重量部として3~10重量部程度である。可塑剤は、例えばフタル酸ジブチル(DBP)を用いる。その添加量は、原料粉末を100重量部として1~5重量部程度である。そして、各原料が十分に分散及び混合されたスラリー状の原料混合物が得られる。なお、窒化アルミニウム原料粉末および焼結助剤粉末の混合物に対して、追加の添加剤が添加されてもよい。
【0027】
成形工程では、得られたスラリー状の原料混合物が、プレス成形法、鋳込成形法、ドクターブレード成形法等の任意の手段により所定の大きさおよび厚みを有する形状に成形されて成形体が作製される。
【0028】
脱脂工程では、上記成形した成形体が脱脂用のオーブンに投入され、(限定されないが)乾燥空気流入下または窒素雰囲気中にて脱脂温度域で約1時間以上かけて加熱されることで、添加した有機バインダーなどの有機成分が除去される。脱脂温度域は(成形体を焼結させないように)約400~600℃であることが好ましい。より好適には、成形体をBN(窒化ホウ素)製の筐体へ配置し、乾燥空気流入下において約500℃で4時間の加熱、または、窒素雰囲気中にて約600℃で4時間の加熱によって、有機成分が適切に脱脂される。
【0029】
脱酸工程では、脱脂後の成形体が焼成炉に投入され、窒素雰囲気中にて脱酸温度域で10~20時間加熱して、成形体の脱酸が行われる。脱酸温度域は、1500~1650℃であることが好ましい。より好適には、脱脂後の成形体が密閉状態のBN製筐体の内部に配置され、当該筐体が焼成炉に投入されて加熱処理される。
【0030】
焼結工程では、焼成炉において、脱酸後の成形体を窒素雰囲気中にて焼結温度域で2~20時間加熱して焼結することで、窒化アルミニウム前駆焼結体を作製する。焼結温度域は、1750~1900℃であることが好ましい。より好適には、脱酸後の成形体を焼成炉から出さずに、連続して焼結工程が実施される。作製した窒化アルミニウム前駆焼結体は、焼成炉から取り出される。
【0031】
還元焼成工程では、図1に示すように、作製した窒化アルミニウム前駆焼結体を、黒鉛(C)製容器、または、カーボンブラックもしくはカーボンシートを配置したBN製容器もしくはAlN製容器に入れて、前駆焼結体が見えなくなるまで窒化アルミニウム粉末で完全に包埋処理することによって、窒化アルミニウム粉末による包埋構造を作製する。このとき、窒化アルミニウム前駆焼結体の全ての外面が窒化アルミニウム粉末によって包囲されていることが好ましい。そして、包埋構造を内包する容器を密閉状態とし、当該容器を焼成炉に投入する。包埋用の窒化アルミニウム粉末は、酸素量1重量%以下の粉末であることが好ましい。その後、1850~1950℃で30時間以上加熱し、還元焼成を行った。還元焼成の時間は、30時間以上であればよいが、好ましくは30~100時間である。このとき、黒鉛(カーボン)またはカーボンブラックが弱還元性雰囲気源として機能することで、焼成炉内を弱還元性雰囲気とすることができる。この還元焼成工程では、窒素ガスが導入されてもよい。あるいは、黒鉛(カーボン)またはカーボンブラックを導入する代わりに、弱還元性雰囲気とするために、還元性ガスであるCOガスが導入されてもよい。
【0032】
図2は、従来の還元焼成工程を示す模式図である。従来の還元焼成工程では、黒鉛製容器の中に、窒化アルミニウム前駆焼結体が置かれて、弱還元性雰囲気中にて焼成させることによって、窒化アルミニウム前駆焼結体が還元される。その結果として、焼結助剤の助剤成分が基板表面に析出して、窒化アルミニウム前駆焼結体から除去される。しかしながら、従来の還元焼成工程では、助剤成分の排出は雰囲気のみによることから効率が悪く、また、黒鉛製容器からのC成分が窒化アルミニウム前駆焼結体へと流入し易いことが問題点として指摘された。これに対し、本発明は、図1に示すように、還元焼成工程において、窒化アルミニウム前駆焼結体を窒化アルミニウム粉末によって包埋した状態で還元焼成したことで、助剤成分の排出量とC成分の流入量をより効果的に制御し、結果として、高熱伝導率と基板の反り低減との両立を図ったものである。特には、雰囲気制御による助剤成分の排出に加えて、窒化アルミニウム前駆焼結体中の助剤成分が、窒化アルミニウム粉末によって吸着されることで、助剤成分の排出がより一層促進される。また、窒化アルミニウム前駆焼結体は、黒鉛製容器に直に接触することがないので、黒鉛製容器からの炭素(C)成分の混入が抑制される。そのため、図1では窒化アルミニウム前駆焼結体が窒化アルミニウム粉末で完全に覆われているが、炭素(C)成分の流入を抑制できる程度に窒化アルミニウム前駆焼結体を窒化アルミニウム粉末で覆うことで、高熱伝導率と基板の反り低減との両立を図ることができる。
【0033】
最後に、除去工程では、還元焼成した包埋構造から窒化アルミニウム粉末を除去することで、本発明の窒化アルミニウム焼結体を得ることができる。
【0034】
そして、本実施形態の製造方法によって製造された窒化アルミニウム焼結体は、X線回折による結晶相同定において、AlNの結晶相の回折ピークに加え、焼結助剤としての希土類化合物(例えば、Y、YAMなど)の回折ピークを有し得る。
【0035】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて、さらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例によって限定解釈されるものではない。
【0036】
実施例1~19、比較例1~9に係る窒化アルミニウム焼結体は以下の条件および手順によって作製された。なお、比較例9は、特許文献1の実施例1とほぼ同じ条件で作製された。
【0037】
所定量の窒化アルミニウム原料粉末および焼結助剤粉末を準備した。窒化アルミニウム原料粉末は、還元窒化法によって製造された平均粒子径(D50)が約1.0μm、酸素含有量が1重量%以下のものを採用した。焼結助剤として、平均粒子径(D50)が約1.2μmのY粉末を採用した。
【0038】
実施例1~7、9~19および比較例1~9については、窒化アルミニウム粉末100重量部に対して、所定量のY粉末と、約0.5重量部の分散剤と、約60重量部のトルエンとエタノールの混合溶媒とを添加して、樹脂製容器とアルミナ製玉石を用いたボールミルによって粉砕混合を行った。この粉砕混合物に、さらにバインダーとしてアクリルバインダーを3.5重量部加え、溶解バインダー溶液と粉砕混合物とが完全に混合されるまで、ボールミルによって攪拌混合した後、スラリーを作製した。その後、プレス成形法を用いて、原料混合物を所定の大きさおよび厚みに成形した。具体的には、プレス成形法では、混合粉砕したスラリーを、スプレードライヤーにより乾燥および造粒し、AlN顆粒を得た。そして、AlN顆粒をプレス成形し、所定の大きさおよび厚みを有する基板状の成形体を得た。
【0039】
他方、実施例8については、シート成形法を用いて成形するために、混合工程から成形工程までの工程が上記と相違する。窒化アルミニウム粉末100重量部に対して、所定量のY粉末と、約0.8重量部の界面活性型分散剤と、約25重量部のトルエンとエタノールの混合溶媒とを添加して、樹脂製容器とアルミナ製玉石とを用いたボールミルによって粉砕混合を行った。この粉砕混合物に、さらにバインダーとして約8重量部のポリビニルブチラールと、可塑剤として約3.5重量部のフタル酸ジブチルと、約25重量部のトルエンおよびエタノールの混合溶媒とからなる溶解バインダー溶液を加えた。そして、溶解バインダー溶液と粉砕混合物とが完全に混合されるまで、ボールミルによって攪拌混合した後、スラリーを作製した。そして、スラリーを真空中で加熱放置し、脱泡及び溶媒を揮発させることで、25℃における粘度を20000cpsに調整した。次いで、作製したスラリーから、ドクターブレード法によって板状のグリーンシートを得た。ドクターブレード成形装置内での最終乾燥温度は120℃とした。得られたグリーンシートを、金型プレス加工により所定の大きさへ型抜きすることで、所定の大きさおよび厚みを有する基板状の成形体を得た。
【0040】
次いで、作製した成形体をBN製の筐体へ配置し、窒素雰囲気中にて約600℃で4時間加熱し、バインダーなどの有機成分を除去する脱脂処理を行った。BN製の底板に脱脂後の成形体を配置し、底板にBN製の側板及び天板を設置して、閉鎖状態の筐体を組み立てた。こうして成形体を内包した筐体を焼成炉に入れ、窒素雰囲気中、1500~1650℃で10~20時間加熱して、成形体の脱酸処理を行った。実施例1~19、比較例1~4、6~9については、脱酸後の成形体を焼成炉から出さずに、窒素雰囲気中にて1750~1900℃で2~20時間加熱して、成形体の焼結処理を行って、窒化アルミニウム前駆焼結体を得た。比較例5については、焼結工程を実施せずに、焼成炉から取り出して、次の還元焼成工程に進んだ。比較例6については、還元焼成工程を実施せずに、焼成炉から取り出して完成とした。
【0041】
実施例1~19および比較例3~5、7、8については、得られた窒化アルミニウム前駆焼結体を黒鉛製容器、または、カーボンブラックもしくはカーボンシートを配置したBN製容器もしくはAlN製容器に入れ、図1に示すように、包埋用AlN粉末で窒化アルミニウム前駆焼結体が見えなくなるまで包埋して、BN製容器内もしくはAlN製容器内に密閉した。包埋用AlN粉末として酸素量1重量%以下の窒化アルミニウム粉末を各例に用いた。その後、1780~1950℃で5~100時間加熱し、還元焼成を行った。こうして、実施例1~19および比較例3~5の試料を作製した。比較例1、2、9については、図2に示すように、得られた窒化アルミニウム前駆焼結体を黒鉛製容器、または、カーボンブラックを配置したBN製容器に入れ、該容器内に密閉した。その後、比較例1、2では1950℃で70時間加熱し、実施例9では1850℃で12時間加熱し、還元焼成を行った。こうして、比較例1、2、9の試料を作製した。
【0042】
作製した実施例1~19および比較例1~9の各試料について、X線回折測定によって得られた回折パターンとAlNの結晶相の回折ピークとを同定することで、窒化アルミニウム焼結体が得られたことを確認した。
【0043】
作製した実施例1~19および比較例1~9の各試料について、以下に示す各種特性評価が実施された。
【0044】
(i)熱伝導率
窒化アルミニウム焼結体を10mm×10mm×厚み0.5mmの個片に切り出し、個片の両面に約100nmの金スパッタ膜を形成した後、個片の両面にグラフェンスプレーを使用し、グラフェン塗布量が約0.1mg/mmになるように均一な黒化処理を行ったものを測定試料とした。ネッチジャパン株式会社製の熱拡散率測定装置:型式「LFA467」を使用し、電圧250V、パルス幅30μsで3回測定し、平均値を熱拡散率とした。測定された熱拡散率にアルキメデス法により測定した焼結体の密度と比熱を乗じて0.5mm厚の試料の熱伝導率とした。また、窒化アルミニウム焼結体は温度が高いと熱伝導率が低下する性質を有する。レーザーフラッシュ法は試料の温度上昇にかかった時間から熱拡散率を算出する測定方法であり、試料の温度上昇分の熱拡散率低下を含んだ測定値が得られる。仮に、同じレーザー強度で測定した場合、試料厚みが薄いものは試料の温度上昇が厚いものよりも大きく、熱拡散率が低く測定される。そこで、下表に、同一の試料について、厚み2.5mmTの試料の熱拡散率を測定し、その後に厚み1.5、1.0、0.75、0.5mmTに研磨してから測定したデータを示す。表1によれば、熱伝導率は明らかに試料厚みが薄い方が低くなる。得られた熱伝導率を用いて、厚み2.5mmTに換算するための各厚みの倍率を算出した。具体的には、0.5mmTの試料の熱伝導率の値に、1.10を乗算することによって、厚み2.5mmT換算の熱伝導率λの値を算出した。
【表1】
【0045】
(ii)Yの含有量
株式会社リガク製の走査型蛍光X線分析装置:型式「Primus iv」を使用した。作製した窒化アルミニウム焼結体を50.8mm×50.8mmに切り出し、その基板の中心と角部4点の計5点のAl、Y含有量を測定し、検量線によりY含有量を算出し、その平均値をY含有量とした。
【0046】
(iii)炭素含有量
作製した窒化アルミニウム焼結体を50.8mm×50.8mmに切り出し、その基板の中心と角部4点の計5点を株式会社堀場製作所製のEMIA-Proによる酸素気流中 高周波加熱 燃焼-赤外線吸収法により測定し、平均値を炭素含有量とした。
【0047】
(iv)反り指標値C1、C2、C3
作製した0.5mm厚の窒化アルミニウム焼結体基板を50.8mm×50.8mmに切り出し、株式会社キーエンス製のワンショット3D形状測定機(型式:VR-6000)を使用して、エッジ部分(0.4mm)を除いた、50mm角の方形領域を基板表面全体として光学的にスキャンし、その3次元形状を測定して、スキャンした箇所の高さ値データおよび画像データを取得した。画像データでは、薄い色ほど相対的に高い位置にあることが視覚的に示されている。取得したデータに対して、解析アプリケーションを使用して反り指標値C1、C2、C3をそれぞれ算出した。第一に、反り指標値C1を算出するために、基板表面全体で基準面設定(傾き補正)を行った後、基板表面全体に対して面計測(平面度)を実施し、最大高さ値Hmaxと最小高さ値Hminの差ΔHを算出した。得られた差ΔHを、50.8mm角の方形領域の対角線長さ(71.84mm)で除算することで、反り指標値C1を算出した。第二に、反り指標値C2を算出するために、基板全面で基準面設定(傾き補正)を行った後、基板の4つの角部の25mm角の方形領域に対して、それぞれ面計測(平面度)を実施し、最大高さ値Hmaxと最小高さ値Hminの差の平均値を算出し、差ΔHを算出した。得られた差ΔHを、25mm角の方形領域の対角線長さ(35.36mm)で除算することで、反り指標値C2を算出した。第三に、反り指標値C3を算出するために、基板全面で基準面設定(傾き補正)を行った後、基板中央の25mm角の方形領域に対して、面計測(平面度)を実施し、最大高さ値Hmaxと最小高さ値Hminの差ΔHを算出した。得られた差ΔHを、25mm角の方形領域の対角線長さ(35.36mm)で除算することで、反り指標値C3を算出した。
【0048】
実施例1~19および参考例1~9の各試料についての条件および焼結体の特性に関する各種測定結果を表2に示した。
【0049】
【表2】
【0050】
表2によれば、実施例1~19、比較例1、2では、焼結体中のYの含有量が0.10重量%以下であるのに対し、比較例3~9では0.4重量%以上である。特には、実施例1~19では、焼結体中のYの含有量が0.03重量%以下であるのに対し、比較例1、2では、焼結体中のYの含有量が0.04重量%以上であり、且つ、比較例3、7、8では、0.4重量%以上である。包埋条件下で30時間以上の還元焼成を行った実施例1~19のYの含有量は、包埋なしで70時間の還元焼成を行った比較例1、2のYの含有量よりも小さい。これは、窒化アルミニウム粉末による包埋処理と30時間以上の還元焼成とによって、焼結体中の助剤成分が、包埋なしの還元焼成と比べて、効果的に外部に排出されることを示している。また、包埋条件下で作製された試料同士を比較すると、実施例1~19では、還元焼成工程の処理時間が30時間以上であるのに対し、比較例3、7、8では、還元焼成工程の処理時間(5、10、20時間)が20時間以下であるが、比較例3、7、8のYの含有量が相対的に高い。これは、20時間程度の処理時間ではYの排出が十分でないことを示している。
【0051】
また、実施例1~19では、焼結体中の炭素含有量が0.03重量%以下であるのに対し、比較例1、2では、焼結体中の炭素含有量が0.08重量%以上である。これは、窒化アルミニウム粉末による包埋とともに前駆焼結体を還元焼成することによって、炭素が焼結体中に流入することが抑えられることを示している。
【0052】
すなわち、表2に示されるように、実施例1~19では、焼結体中のYの含有量が0.10重量%以下に制御されるとともに、焼結体中の炭素含有量が0.05重量%以下に制御された。
【0053】
表2によれば、実施例1~19、比較例1、2、8、9では、熱伝導率λ(2.5T換算)が260W/mK以上の高い値を示すのに対し、比較例3~6では、熱伝導率λ(2.5T換算)が250W/mK未満である。比較例3、4、6は、適切な還元焼成工程を経ていないことから、助剤成分の排出が十分に行われていないといえる。具体的には、比較例3は、還元焼成工程の処理時間が短く、比較例4は、還元焼成工程の処理温度が低い。比較例6は還元焼成工程を経ていない。また、比較例5は、焼結工程を経ていない。
【0054】
続いて、実施例および比較例の焼結体の反り特性について説明する。図4は、窒化アルミニウム焼結体の基板の3次元形状測定結果を視覚的に示した画像であって、図4(a)が実施例1の画像であり、図4(b)が比較例1の画像である。画像の濃淡において、薄い色ほど基準面から高い位置にあることを示している。図4(a)および図4(b)を対比すると、実施例1の方が比較例1よりも濃淡が均一であり、基板表面の高低差が少ない(反りが小さい)ことが視覚的に確認できる。そして、当該画像に関連するデータを解析することによって、基板の反りを定量的に評価した。
【0055】
実施例1~19および比較例1~9の各試料についての条件および焼結体の反り特性および熱伝導特性に関する各種測定結果を表3に示した。
【0056】
【表3】
【0057】
実施例1~19、比較例6では、反り指標値C1が0.20μm/mm未満であるのに対し、比較例1~5、7~9では、反り指標値C1が0.22μm/mm以上である。特には、実施例1~19では、反り指標値C1が0.14~0.19μm/mmである。比較例6では、反り指標値C1が0.20μm/mm未満であるのは、還元焼成工程を経ていないからである。しかしながら、比較例6は、熱伝導率λが260W/mK未満であり、高熱伝導率と基板の反り低減との両立ができていない。一方で、比較例1、2、9は、包埋なしの還元焼成工程を経たことにより、反り指標値C1が相対的に大きくなっている。また、比較例3、7、8は、実施例と比べて、包埋下での還元焼成工程の処理時間が短い(30時間未満)ことにより、反り指標値C1が相対的に大きくなっている。比較例4は、実施例と比べて、包埋下での還元焼成工程の処理温度が低い(1850℃未満)ことにより、反り指標値C1が相対的に大きくなっている。
【0058】
実施例1~19、比較例6では、反り指標値C2が0.40μm/mm未満であるのに対し、比較例1~5、7~9では、反り指標値C2が0.41μm/mm以上である。特には、実施例1~19では、反り指標値C2が0.17~0.35μm/mmである。比較例6では、反り指標値C2が0.40μm/mm未満であるのは、還元焼成工程を経ていないからである。しかしながら、比較例6は、熱伝導率λが260W/mK未満であり、高熱伝導率と基板の反り低減との両立ができていない。一方で、比較例1、2は、包埋なしの還元焼成工程を経たことにより、反り指標値C2が相対的に大きくなっている。また、比較例3、7、8は、実施例と比べて、包埋下での還元焼成工程の処理時間が短い(30時間未満)ことにより、反り指標値C2が相対的に大きくなっている。比較例4は、実施例と比べて、包埋下での還元焼成工程の処理温度が低い(1850℃未満)ことにより、反り指標値C2が相対的に大きくなっている。
【0059】
実施例1~19、比較例6では、反り指標値C3が0.35μm/mm未満であるのに対し、比較例1~5、7~9では、反り指標値C3が0.37μm/mm以上である。特には、実施例1~19では、反り指標値C3が0.10~0.29μm/mmである。比較例6では、反り指標値C3が0.35μm/mm未満であるのは、還元焼成工程を経ていないからである。しかしながら、比較例6は、熱伝導率λが260W/mK未満であり、高熱伝導率と基板の反り低減との両立ができていない。一方で、比較例1、2は、包埋なしの還元焼成工程を経たことにより、反り指標値C3が相対的に大きくなっている。また、比較例3、7、8は、実施例と比べて、包埋下での還元焼成工程の処理時間が短い(30時間未満)ことにより、反り指標値C3が相対的に大きくなっている。比較例4は、実施例と比べて、包埋下での還元焼成工程の処理温度が低い(1850℃未満)ことにより、反り指標値C3が相対的に大きくなっている。
【0060】
熱伝導率と基板の反りの関係を評価するために、各試料についてλ/C1を算出した。実施例1~19では、λ/C1が1300以上であるのに対し、比較例1~9では、1220未満である。特には、実施例1~19では、λ/C1が1400~2000である。すなわち、実施例1~19は、260W/mK以上の高熱伝導率と、基板の反り低減とを両立するものである。
【0061】
本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限りにおいて種々の態様で実施しうるものである。
【要約】
【課題】高い熱伝導特性および基板の反りを低減させた窒化アルミニウム焼結体を提供する。
【解決手段】窒化アルミニウム焼結体は、窒化アルミニウム粒子と焼結助剤相とを含む。窒化アルミニウム焼結体において、厚さ2.5mmに換算した際の熱伝導率λが260W/mK以上であり、且つ、基板全体領域の反りを示す反り指標値C1が、0.20μm/mm未満である。ここで、反り指標値C1は、前記窒化アルミニウム焼結体の基板サンプルにおいて、基板サンプル表面全体の平方領域の3次元形状測定によって得られた最大高さ値Hmax(μm)および最小高さ値Hmin(μm)と、前記平方領域の対角線の距離D1(mm)とを用いて、C1=(Hmax-Hmin)/D1によって算出される。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4