(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-11
(45)【発行日】2025-03-19
(54)【発明の名称】カットコア及びそれを用いたノイズ対策部材
(51)【国際特許分類】
H01F 27/245 20060101AFI20250312BHJP
H01F 1/153 20060101ALI20250312BHJP
B22D 11/06 20060101ALI20250312BHJP
C21D 6/00 20060101ALI20250312BHJP
C22C 45/02 20060101ALI20250312BHJP
【FI】
H01F27/245 157
H01F1/153 108
H01F1/153 133
B22D11/06 360B
C21D6/00 C
C22C45/02 A
(21)【出願番号】P 2025505902
(86)(22)【出願日】2024-09-26
(86)【国際出願番号】 JP2024034530
【審査請求日】2025-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2023170671
(32)【優先日】2023-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100169524
【氏名又は名称】槇田 顕
(72)【発明者】
【氏名】石原 大資
(72)【発明者】
【氏名】蔵前 雅規
【審査官】五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-316724(JP,A)
【文献】特開平3-75343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/245
H01F 1/153
B22D 11/06
C21D 6/00
C22C 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性合金薄帯が厚み方向に積層された2個以上の積層体を備えるカットコアであって、
前記積層体が、接触面を1個あたり少なくとも1つ備え、前記接触面において互いに接触し、
前記軟磁性合金薄帯が、
Fe
100-x-y-z-a-bSi
xB
yCu
zCr
aM
b
(ただし、MはNb及びMoから選ばれた少なくとも1種の元素を表し、
x、y、z、a及びbはそれぞれSi、B、Cu、Cr及びMの原子百分率を表し、
11.0≦x≦17.0、
5.0≦y≦10.0、
0.5≦z≦ 2.0、
0.5≦a≦ 4.0、
1.0≦b≦ 5.0
及び65≦100-x-y-z-a-b≦75を満たす。)
により表される成分組成を有する、
ことを特徴とするカットコア。
【請求項2】
前記接触面において、前記軟磁性合金薄帯が、前記成分組成を有する基材と、前記基材よりも外側に位置し、前記成分組成に比べてSiが濃化し、Feが欠乏する中間拡散層と、前記中間拡散層よりも外側に位置し、前記成分組成に比べて新たにО(酸素)を含み、Siが濃化し、Fe及びCrが欠乏する表面酸化層と、を備える、
請求項1に記載のカットコア。
【請求項3】
前記軟磁性合金薄帯が、Fe基ナノ結晶合金を含む、
請求項
1に記載のカットコア。
【請求項4】
前記表面酸化層の最表面における酸素濃度が、43.0原子%以上である、
請求項
2に記載のカットコア。
【請求項5】
前記カットコアをイオン交換水に100時間浸漬する前後で周波数100kHzにおけるインピーダンスを測定し、浸漬前の測定値をZ
A、浸漬後の測定値をZ
Bとしたとき、(Z
B-Z
A)/Z
A×100で算出されるインピーダンス変化率ΔZの絶対値が15%以下である、
請求項
1に記載のカットコア。
【請求項6】
前記軟磁性合金薄帯が環状に巻回されてなる1つの環状体を、その周方向に対して垂直にn箇所(ただし、nは2以上の整数)で切断することにより形成されるn個の積層体を備え、前記n個の積層体が有する(n×2)面の切断面を前記接触面となし、前記n個の積層体のうち隣接する2つの積層体が、前記接触面としての前記切断面において互いに接触して、全体として磁気回路を構成する、
請求項
1に記載のカットコア。
【請求項7】
前記軟磁性合金薄帯が環状に巻回されてなる1つの環状体について、その周方向の一部に不連続部を1箇所設けることにより形成される積層体を2個以上備え、前記2個以上の積層体のそれぞれが有する2つの幅方向端面のうち少なくとも1つを前記接触面となし、前記2個以上の積層体のうち隣接する2つの積層体が、それぞれの前記不連続部が周方向に重ならないように、前記接触面としての前記幅方向端面において互いに接触して、全体として磁気回路を構成する、
請求項
1に記載のカットコア。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれかに記載のカットコアを用いた、
ノイズ対策部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カットコア及びそれを用いたノイズ対策部材に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性コアは、軟磁性材料からなる環状又は棒状の部材である。磁性コアは、トランスやリアクトルにおいてコイルと組み合わせて透磁率を高める部材として使用されるほか、ケーブルの周囲に配置されるノイズフィルタとしても使用される。磁性コアに使用される軟磁性材料には、フェライト、ケイ素鋼板、軟磁性合金薄帯などがある。ケイ素鋼板及び軟磁性合金薄帯は、環状に巻回して厚さ方向に積層した積層体の形状で使用されることが多い。
【0003】
特許文献1には、Fe基ナノ結晶合金からなる軟磁性合金薄帯が巻回され、かつ磁路の少なくとも一部が切断された構造を有するカットコアと呼ばれる磁性コアの発明が記載されている。カットコアは、ノイズ対策部材として配線済みのケーブルの周囲に配置したり、製造済みのコイルと組み合わせて使用したりするのに便利であるため、広く使われている。特許文献1には、カットコアの切断面を研磨し、さらにエッチングを施して切断面のバリを除去することによって、積層体の積層方向の導通が防止され、ヒステリシス損失の少ないカットコアが得られることが記載されている。
【0004】
一方で、軟磁性合金薄帯の耐食性を向上させる試みがなされている。例えば、特許文献2には、Crを2~5原子%含有する非晶質合金を熱処理することによって得られる耐食性に優れた軟磁性合金の発明が記載されている。また、特許文献3には、初期微結晶合金薄帯について6~18%の酸素濃度を有する雰囲気中で熱処理を施すことによって表面に酸化皮膜が形成された耐食性に優れた軟磁性合金薄帯の発明が記載されている。特許文献2及び3に記載された熱処理は、いずれも合金薄帯中に微結晶を析出させる目的で行われるものである。熱処理の温度は、特許文献2では550℃、特許文献3では420℃などとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-27412号公報
【文献】特開平3-24252号公報
【文献】特開2011-149045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カットコアでは、積層体の切断面を接触面となし、隣り合う積層体が接触面を介して密に接触することによって磁気的に接続される。ところが、接触面に錆が発生すると、錆の体積膨張により接触面に空隙が生じることで磁気的な連続性が阻害されるため、カットコア全体の透磁率が大きく低下する場合がある。このため、カットコアの接触面には、発錆を防止するための特別な配慮が必要である。
【0007】
特許文献2及び特許文献3には、合金薄帯中に微結晶を析出させる目的で行われる熱処理によって生じた表面酸化皮膜を備える軟磁性合金薄帯の耐食性に関する知見が記載されている。一方、特許文献1に記載されているカットコアの接触面では、熱処理によって形成された表面酸化皮膜が加工によって剥ぎ取られた結果、表面酸化皮膜を伴わない接触面が形成される。このような、表面酸化皮膜を伴わない接触面の耐食性に関して、特許文献2及び特許文献3に記載された知見を適用することはできない。
【0008】
特許文献1に記載されているカットコアの製造方法においては、合金薄帯を巻回して形成された積層体を結晶化熱処理した後、接着剤を含浸させ、積層体を固定する。接着剤の耐熱温度は、結晶化熱処理の温度よりも低い。積層体を接着剤で固定した後に切断加工を行い、加工によって形成された接触面に表面酸化皮膜を設ける目的で結晶化熱処理の温度で再び熱処理を行う場合には、積層体を固定している接着剤が熱で分解されるという新たな課題が発生する。
【0009】
一方、接着剤の含浸による積層体の固定に先立って切断加工及び結晶化熱処理を行う場合には、接着剤で固定されていない状態の積層体を切断加工することになるため、切断加工を正確に行うことができなかったり、固定時に合金薄帯の位置がずれて接触面の平面度が損なわれたりするいという別の課題が発生する。
【0010】
本発明は、カットコアに特有なこれらの課題に鑑みてなされたものであり、カットコアの接触面に結晶化熱処理温度における熱処理によって表面酸化皮膜を設けることが困難な場合であっても、長期にわたり安定した磁気特性を維持することができるカットコアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨構成は以下の通りである。
【0012】
[1]軟磁性合金薄帯が厚み方向に積層された2個以上の積層体を備えるカットコアであって、
前記積層体が、接触面を1個あたり少なくとも1つ備え、前記接触面において互いに接触し、
前記軟磁性合金薄帯が、
Fe100-x-y-z-a-bSixByCuzCraMb
(ただし、MはNb及びMoから選ばれた少なくとも1種の元素を表し、
x、y、z、a及びbはそれぞれSi、B、Cu、Cr及びMの原子百分率を表し、
11.0≦x≦17.0、
5.0≦y≦10.0、
0.5≦z≦ 2.0、
0.5≦a≦ 4.0、
1.0≦b≦ 5.0
及び65≦100-x-y-z-a-b≦75を満たす。)
により表される成分組成を有する、
ことを特徴とするカットコア。
【0013】
[2]前記接触面において、前記軟磁性合金薄帯が、前記成分組成を有する基材と、前記基材よりも外側に位置し、前記軟磁性合金薄帯の成分組成に比べてSiが濃化し、Feが欠乏する中間拡散層と、前記中間拡散層よりも外側に位置し、前記軟磁性合金薄帯の成分組成に比べて新たにОを含み、Siが濃化し、Fe及びCrが欠乏する表面酸化層と、を備える、
上記[1]に記載のカットコア。
【0014】
[3]前記軟磁性合金薄帯が、Fe基ナノ結晶合金を含む、
上記[1]又は[2]に記載のカットコア。
【0015】
[4]前記表面酸化層の最表面における酸素濃度が、43.0原子%以上、
上記[3]に記載のカットコア。
【0016】
[5]前記カットコアをイオン交換水に100時間浸漬する前後で周波数100kHzにおけるインピーダンスを測定し、浸漬前の測定値をZA、浸漬後の測定値をZBとしたとき、(ZB-ZA)/ZA×100で算出されるインピーダンス変化率ΔZの絶対値が15%以下である、
上記[1]から[4]までのいずれかに記載のカットコア。
【0017】
[6]前記軟磁性合金薄帯が環状に巻回されてなる1つの環状体を、その周方向に対して垂直にn箇所(ただし、nは2以上の整数)で切断することにより形成されるn個の積層体を備え、前記n個の積層体が有する(n×2)面の切断面を前記接触面となし、前記n個の積層体のうち隣接する2つの積層体が、前記接触面としての前記切断面において互いに接触して、全体として磁気回路を構成する、
上記[1]から[5]までのいずれかに記載のカットコア。
【0018】
[7]前記軟磁性合金薄帯が環状に巻回されてなる1つの環状体について、その周方向の一部に不連続部を1箇所設けることにより形成される積層体を2個以上備え、前記2個以上の積層体のそれぞれが有する2つの幅方向端面のうち少なくとも1つを前記接触面となし、前記2個以上の積層体のうち隣接する2つの積層体が、それぞれの前記不連続部が周方向に重ならないように、前記接触面としての前記幅方向端面において互いに接触して、全体として磁気回路を構成する、
上記[1]から[5]までのいずれかに記載のカットコア。
【0019】
[8]上記[1]から[7]までのいずれかに記載のカットコアを用いた、
ノイズ対策部材。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来技術に比べてカットコアの接触面に錆が発生しにくくなる。このため、高温高湿などの錆びやすい環境下であっても長期にわたりカットコアの透磁率の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】結晶化のための熱処理を行わずに研磨加工した後の軟磁性合金薄帯の接触面の表面からの距離と元素の比率との関係を示すグラフである。
【
図2】結晶化のための熱処理を行った後に研磨加工したFe基ナノ結晶合金を含む軟磁性合金薄帯の接触面の表面からの距離と元素の比率との関係を示すグラフである。
【
図3】結晶化のための熱処理を行った後に研磨加工し、さらに大気中130℃で8時間の加温処理を行なったFe基ナノ結晶合金を含む軟磁性合金薄帯の接触面の表面からの距離と元素の比率との関係を示すグラフである。
【
図4】カットコアの一の実施形態の例を示す模式図である。
【
図5】カットコアの他の実施形態の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0023】
[カットコア]
一の実施形態において、本発明はカットコアに係る発明である。本発明に係るカットコアは、軟磁性合金薄帯が厚み方向に積層された2個以上の積層体を備えるカットコアであって、積層体は、接触面を1個あたり少なくとも1つ備え、接触面において互いに接触する。
【0024】
本発明に係るカットコアに使用される軟磁性合金薄帯は、例えば、所定の成分組成を有する合金の溶湯を冷却ロールの表面に噴射して急冷凝固させることによって製造することができる。この方法によって得られる合金薄帯の金属組織は、非晶質であってもよく、結晶質であってもよく、あるいは、急冷凝固の後に熱処理によって結晶化させたものであってもよい。軟磁性合金薄帯の厚さは、10μm以上であればカットコアにしたときの充填率が大きく低下せず、40μm以下であれば巻回する際に割れにくいので、10μm以上、40μm以下であることが好ましい。より好ましい軟磁性合金薄帯の厚さは、15μm以上、25μm以下である。軟磁性合金薄帯の幅はカットコアの用途によって大きく異なるために特に限定されない。例えば、ノイズフィルタ用のカットコアの場合は、軟磁性合金薄帯の幅は、好ましくは5.0mm以上、50mm以下である。
【0025】
本発明に係るカットコアは、軟磁性合金薄帯が厚み方向に積層された2個以上の積層体を備える。軟磁性合金薄帯を厚み方向に積層することによって、カットコアの磁路の断面積を大きくし、磁束を増やすことができる。カットコアにおける磁束の方向は軟磁性合金薄帯の面内方向と一致する。カットコアの磁気回路を2個以上の積層体で構成することによって、磁気回路から少なくとも1個の積層体を分離したり、分離された積層体を再び統合して磁気回路を再構成したりすることができる。これにより、配線済みのケーブルの周囲にカットコアを事後的に配置したり、製造済みのコイルにカットコアを事後的に組み合わせたりすることが可能になる。
【0026】
本発明に係るカットコアは、積層体が、接触面を1個あたり少なくとも1つ備える。積層体が備える接触面は、積層体を構成する軟磁性合金薄帯の厚み方向に平行になるように設けることが好ましい。このような場合、接触面で切断された軟磁性合金薄帯の断面が接触面に露出する。カットコアを分離したときは、磁気回路が接触面において遮断される。カットコアを再び統合させたときは、2個以上の積層体の接触面が互いに接触することによってカットコア全体が見かけ上連続した磁性体となり、一度遮断された磁気回路が再構成される。
【0027】
積層体は、軟磁性合金薄帯を所定の形状に整えたものを束ねたり、ロール状に巻き取ったりすることによって製造することができる。積層体の全体の体積に占める軟磁性合金薄帯の体積の割合、すなわち充填率は、65vol%以上であれば透磁率が大きく低下せず、85vol%以下であれば残留歪みが大きくならず、後述する接着剤の含浸も容易であるため、65vol%以上、85vol%以下であることが好ましい。充填率は、軟磁性合金薄帯を束ねるときの拘束力や巻き取るときの張力により調整することができる。
【0028】
積層体を製造した後、接着剤を含浸させる前に、熱処理を行うことによって、軟磁性合金薄帯に生じた残留歪みを除去することが好ましい。このときの好ましい熱処理温度は、350℃以上、700℃以下である。熱処理の雰囲気は、窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気中又は真空中であることが好ましい。
【0029】
熱処理した積層体を構成する軟磁性合金薄帯の空隙に接着剤を含浸させることによって、軟磁性合金薄帯を固定し、積層体の形状を維持することができる。接着剤には、有機系ではアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコーン系樹脂、シリコーン系エラストマーなど、無機系では水ガラスやベントナイト系溶剤、アルミナ系溶剤、シリカ系溶剤などを使用することができる。
【0030】
接着剤の粘度は、例えば2000mPa・s以下にすることが、接着剤を軟磁性合金薄帯の空隙に満遍なく浸透させるために好ましい。接着剤の粘度が2000mPa・sよりも高い場合には、温度の調整や有機溶剤などの希釈剤の添加により粘度を調整したり、真空含浸を行なったりすることで、軟磁性合金薄帯の間に満遍なく浸透させることができる。また、軟磁性合金薄帯を積層する前に、表面に接着剤を塗布してもよい。
【0031】
使用する接着剤の種類が熱硬化性樹脂である場合には、軟磁性合金薄帯の空隙に接着剤を含浸させた後に、積層体全体を加熱することによって接着剤の硬化を行う。硬化のための温度は、例えばエポキシ樹脂の場合には50℃以上、180℃以下が好ましい。
【0032】
接着剤によって固定された積層体について切断加工を行うことによって、切断面や不連続部を設けることができる。切断加工には、例えば、切断砥石を備えた湿式の外周スライサなどを用いることができる。切断砥石には、例えば、レジノイド結合剤を使用したGC砥石などが適している。使用するGC砥石の結合度はK~P、粒度は80番~150番で、厚さは0.5~1.5mm程度の範囲のものが好ましい。
【0033】
切断面や不連続部の表面に対して研磨加工を行うことによって、表面を平滑にすることができる。特に、切断面や不連続部の表面を本発明の接触面となす場合には、研磨面の算術平均粗さRaは0.70μm以下であることが好ましく、最大高さ粗さRzは10μm以下であることが好ましい。これにより、接触面が互いに密着して空隙が少なくなり磁束の流れが妨げられないので、カットコアにすることによる透磁率の低下を抑制することができる。研磨面の算術平均粗さRaは0.35μm以下であることがより好ましく、0.16μm以下であることがさらに好ましい。最大高さ粗さRzは5.0μm以下であることがより好ましい。算術平均粗さRa及び最大高さ粗さRzの下限は特に限定されないが、量産工法で可能な範囲とする。
【0034】
研磨面の平面度は2.5μm以下であることが好ましい。これにより、接触面が互いに密着して空隙が少なくなり磁束の流れが妨げられないので、カットコアにすることによる透磁率の低下を抑制することができる。研磨面の平面度の下限は特に限定されないが、量産工法で可能な範囲とする。積層体1個について2つ以上の接触面を設ける場合には、カットコアに組み上げたときの接触面に空隙が生じないように、2つ以上の接触面がなす角度についても適切に調整することが好ましい。
【0035】
切断及び研磨によって形成された積層体の接触面に露出する軟磁性合金薄帯の断面の面積率は、上述した積層体に占める軟磁性合金薄帯の充填率に依存する。例えば、軟磁性合金薄帯の厚さが18μmであり、接着剤の層の厚みが平均で4~5μmである場合、接触面における軟磁性合金薄帯の断面の面積率は75~80%程度となる。この場合、接触面の大部分を軟磁性合金薄帯の断面が占めることになるので、接触面において接触する2個以上の積層体の位置が接触面に平行な方向にずれた場合であっても、磁気的な連続性が常に保たれる。
【0036】
本発明に係るカットコアにおいて、2個以上の積層体が有する接触面のうち互いに接触する2つの接触面の形状及び大きさは、同一であることが好ましく、不連続部を除き、2つの接触面の形状がぴったりと重なり合うように接触させることが好ましい。これにより、磁路から漏洩する磁束が少なくなり、再構成された磁気回路の透磁率を高めることができる。
【0037】
切断加工によって生じた切断面や不連続部の表面を本発明の接触面としない場合であっても、切断面や不連続部の表面に生じたバリを研磨加工によって取り除いておくことが、表面の耐食性を高める観点から好ましい。この場合において、研磨面の算術平均粗さRa及び最大高さ粗さRzを接触面と同等のレベルに仕上げることが好ましい。
【0038】
[成分組成]
本発明に係るカットコアに使用される軟磁性合金薄帯は、
Fe100-x-y-z-a-bSixByCuzCraMb
により表される成分組成を有する。ただし、MはNb及びMoから選ばれた少なくとも1種の元素を表し、x、y、z、a及びbはそれぞれSi、B、Cu、Cr及びMの原子百分率を表し、11.0≦x≦17.0、5.0≦y≦10.0、0.5≦z≦2.0、0.5≦a≦4.0、1.0≦b≦5.0及び65≦100-x-y-z-a-b≦75を満たす。本明細書における成分組成は、特に断らない限り原子百分率で表す。
【0039】
Siは、Bと共に、Fe基合金の非晶質化を促進する元素である。Siの原子百分率xは、11.0以上であれば非晶質化が促進され、17.0以下であれば磁化を大きく損ねないので、11.0以上、17.0以下とする。同様に、Bの原子百分率yは、5.0以上であれば非晶質化が促進され、10.0以下であれば磁化を大きく損ねないので、5.0以上、10.0以下とする。
【0040】
Cuは、Feと分離する傾向があり、結晶化熱処理の際に核を形成して結晶の微細化を促進する元素である。Cuの原子百分率zは、0.5以上であれば結晶の微細化が促進され、2.0以下であれば磁化を大きく損ねないので、0.5以上、2.0以下とする。
【0041】
Crは、接触面の耐食性を高める作用を有する元素である。Crの原子百分率aは、0.5以上であれば接触面の耐食性が高まり、4.0以下であれば磁化を大きく損ねないので、0.5以上、4.0以下とする。耐食性向上の観点から、Crの原子百分率aは、2.5以上とすることが好ましい。
【0042】
記号Mは、Nb及びMoから選ばれた少なくとも1種の元素を表す。Mの原子百分率bは、Nb及びMoのそれぞれの原子百分率の合計を表す。Nb及びMoは、結晶化温度を上昇させ、結晶の粒成長を抑制して微細化を促進する元素である。Mの原子百分率bは、1.0以上であれば結晶の微細化が促進され、5.0以下であれば磁化を大きく損ねないので、1.0以上、5.0以下とする。
【0043】
Feは、本発明に係る軟磁気合金薄帯のベースとなる主成分であり、成分組成の中では強磁性の源となる唯一の元素である。上記の成分組成の表記において、Feの原子百分率は、Fe以外の元素の原子百分率の合計を100から引いた差で示される。Feの原子百分率は、65以上であれば磁化の大きさが十分であり、75以下であれば他の添加元素とのバランスが損なわれずに添加元素の機能が発揮されるので、65以上、75以下とする。
【0044】
本発明に係るカットコアは、上記の成分組成を有するために、従来技術に係るカットコアに比べて接触面の耐食性が高まる。これにより、接触面における発錆が防止されるので、長期間使用しても接触面における密接な接触による磁気的な結合が維持され、磁気回路の透磁率が低下しない。
【0045】
[中間拡散層及び表面酸化層]
好ましい実施形態において、本発明に係るカットコアは、接触面において、軟磁性合金薄帯が、上記の成分組成を有する基材と、基材よりも外側に位置し、軟磁性合金薄帯の成分組成に比べてSiが濃化し、Feが欠乏する中間拡散層と、中間拡散層よりも外側に位置し、軟磁性合金薄帯の成分組成に比べて新たにО(酸素)を含み、Siが濃化し、Fe及びCrが欠乏する表面酸化層と、を備える。本明細書において中間拡散層が「基材よりも外側に位置する」とは、基材から見て中間拡散層が基材の表面又は基材の中心から遠い側に位置することをいう。同様に、本明細書において表面酸化層が「中間拡散層よりも外側に位置する」とは、基材の外側に位置する中間拡散層から見て表面酸化層が中間拡散層の表面又は中間拡散層を備える基材の中心から遠い側に位置することをいう。
【0046】
以下に、中間拡散層及び表面酸化層について、実際のデータを用いて説明する。
図1は、後述する実施例1に示す発明例3の軟磁性合金薄帯について、結晶化のための熱処理を行わずに冷却ロールに接していない側の表面を600番の研磨紙で研磨することによって薄帯製造時の生成物を取り除いて露出させた接触面における表面からの距離と元素の比率との関係を示すグラフである。元素の比率の測定はグロー放電発光分光分析(GD-OES)によって行なった。発明例3の軟磁性合金薄帯の成分組成は、Fe:69.5%、Si:15.5%、B:7.0%、Cu:1.0%、Cr:4.0%、Nb:3.0%、であった。
図1の横軸は表面からの距離(nm)、縦軸はそれぞれの距離における元素の比率(at%)である。
図1には、測定された元素の比率のうち、Fe、Si、Cr及びО(酸素)の比率を示している。このうち、Feについては分析値に1/2を乗じた数値(Fe/2)を表示している。
【0047】
図1によれば、発明例3の軟磁性合金薄帯の表面からの距離が50nm以上である記号Cで示される領域では、元素の比率がほぼ一定の値を示している。この領域Cは、上記の成分組成を有する基材に相当する。表面からの距離が8nm以上、50nm以下である記号Bで示される領域は、基材よりも外側に位置し、表面に近づくにつれてSiの比率は緩やかに増加し、Feの比率は緩やかに減少する。この領域Bは、軟磁性合金薄帯の成分組成に比べてSiが濃化し、Feが欠乏する中間拡散層に相当する。表面からの距離が0以上、8nm以下である記号Aで示される領域は、中間拡散層よりも外側に位置し、基材に比べてSi及びOの比率が極めて高く、Fe及びCrの比率は減少している。この領域Aは、軟磁性合金薄帯の成分組成に比べて新たにО(酸素)を含み、Siが濃化し、Fe及びCrが欠乏する表面酸化層に相当する。
【0048】
図1に例示した元素の比率の変化を示すグラフにおいて、基材(領域C)と中間拡散層(領域B)との境界の位置及び中間拡散層(領域B)と表面酸化層(領域A)との境界の位置を決定する方法は、特に限定されない。例えば、グラフ上で、元素の比率の値が軟磁性合金薄帯の成分組成と同じ値で一定である基材の領域から増加又は減少に転じるポイントを、基材と中間拡散層の境界とすることができる。また、例えば、表面からの距離に対する元素の比率の値の二次微分係数が顕著に変化するポイントを、中間拡散層と表面酸化層の境界とすることができる。すべての元素についてこれらのポイントを明確に定めることができない場合は、これらのポイントは、グラフに示される元素の比率のうちの少なくとも1種の元素の比率を用いて定めればよい。
【0049】
この好ましい実施形態において、接触面に表面酸化層及び中間拡散層が形成されるメカニズムについてはっきりしたことは分からないが、おそらく以下のようなことが考えられる。上述のとおり、接触面は、軟磁性合金薄帯が積層された積層体を切断、研磨、エッチングなどにより加工することによって形成される。例えば、湿式研磨による加工を行なった場合には、研磨の過程で形成された接触面は、研磨及び洗浄に使用される水その他の媒体と接触する。また、洗浄の後に研磨面を乾燥する際には、接触面は加熱された空気と接触する。これらの過程で接触面の表面に取り込まれたОによってSiの酸化物が生成される結果、Оを含み、Siが濃化し、Fe及びCrが欠乏する表面酸化層が形成されると考えられる。表面酸化層に含まれるОは、基材には含まれておらず、接触面が形成された後に軟磁性合金薄帯に取り込まれたものである。一方、中間拡散層は、基材及び表面酸化層におけるSi及びОの濃度差を駆動力として、Si及びОが拡散した結果形成されたと考えられる。
【0050】
また、この好ましい実施形態において、接触面の発錆が防止されるメカニズムについてもはっきりしたことは分からないが、おそらく、基材(領域C)の外側に中間拡散層(領域B)が、そのさらに外側に表面酸化層(領域A)が存在することによって、接触面の耐食性が向上し、発錆が防止されると考えられる。なお、表面酸化層及び中間拡散層では、基材に比べてCrが欠乏していることから、上記の防錆効果は、Fe-Cr合金で一般に知られている不働態皮膜の形成による防錆とは異なるメカニズムによるものであると考えられる。
【0051】
本発明に係るカットコアについて、積層体に接触面を形成するときの加工の形態は、基材が露出する程度のものであれば、どのような形態の加工であってもよい。積層体の加工には、上述のとおり、切断、研磨、エッチングなどを用いることができるが、加工の方法はこれらに限定されない。
【0052】
[Fe基ナノ結晶合金]
好ましい実施形態において、本発明に係るカットコアは、軟磁性合金薄帯が、Fe基ナノ結晶合金を含む。
【0053】
Fe基ナノ結晶合金は、Feを主成分とする合金の溶湯を冷却ロールの表面に噴射して急冷凝固させた急冷薄帯を熱処理することによって得ることができる軟磁性合金である。熱処理を行う前の急冷薄帯は、成分組成に上述した所定の割合で含まれるSi及びBの作用によって非晶質状態になる。急冷薄帯を熱処理することによって非晶質状態の下地の中に結晶粒径が0nm超60nm以下の微細な結晶が晶出する。これにより、粒径が均一で微細な結晶組織と優れた軟磁気特性とを有する軟磁性合金薄帯が得られる。また、Fe基ナノ結晶合金には、熱処理後も非晶質状態のまま結晶化しなかった部分が残存する。
【0054】
急冷薄帯を結晶化させるときの好ましい熱処理温度は、350℃以上、700℃以下である。熱処理の雰囲気は、窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気中又は真空中であることが好ましい。
【0055】
急冷薄帯の熱処理は、急冷薄帯を積層した後に行うことが好ましい。これは、急冷薄帯を熱処理した後の軟磁性合金薄帯が脆くて割れやすく、取り扱いが困難だからである。急冷薄帯を予め積層して積層体の形状にした後に熱処理を行うことによって、軟磁性合金薄帯の割れによる積層体の破損を防ぐことができる。結晶化のための熱処理を行うことによって、急冷薄帯の製造及び積層体の組み立ての際に導入された残留歪みの除去も同時に行うことができる。急冷薄帯を積層した後に熱処理を行う際に、治具等を用いて積層体が元の急冷薄帯に分離してしまわないように固定しておくことが好ましい。
【0056】
結晶化のための熱処理を行わない軟磁性合金薄帯の場合と同様に、軟磁性合金薄帯がFe基ナノ結晶合金を含む場合においても、接触面において、軟磁性合金薄帯が、基材と、基材よりも外側に位置する中間拡散層と、中間拡散層よりも外側に位置する表面酸化層とを備えることが、耐食性の観点から好ましい。
【0057】
以下に、軟磁性合金薄帯がFe基ナノ結晶合金を含む場合における中間拡散層及び表面酸化層について、実際のデータを用いて説明する。
図2は、後述する実施例2に示す発明例3の軟磁性合金薄帯に、アルゴン雰囲気下にて550℃で90分間熱処理を施して結晶化を行ったFe基ナノ結晶合金を含む軟磁性合金薄帯について、接触面における表面からの距離と元素の比率との関係を示すグラフである。
図1の場合と同じく、元素の比率の測定はグロー放電発光分光分析(GD-OES)によって行なった。
図1の場合と同様に、
図2に示すFe基ナノ結晶合金を含む軟磁性合金薄帯においても、基材に相当する領域C、中間拡散層に相当する領域B及び表面酸化層に相当する領域Aが認められる。基材と中間拡散層の境界はあまり明確でないが、表面からの距離が50nmの位置付近にあるように思われる。中間拡散層と表面酸化層の境界は、
図1の場合と同じく表面からの距離が8nmの位置にある。また、最表面の位置におけるOの比率は
図1に比べて高く、逆にSiの比率は
図1に比べて低い。
【0058】
[表面酸化層の最表面における酸素濃度]
好ましい実施形態において、本発明に係るカットコアは、軟磁性合金薄帯がFe基ナノ結晶合金を含み、表面酸化層の最表面における酸素濃度が、43.0原子%以上である。表面酸化層の最表面における酸素濃度が43.0原子%以上である場合、積層体の接触面の耐食性が特に優れている。表面酸化層の最表面における酸素濃度の上限は特に限定されないが、60.0原子%以下であることが好ましい。
【0059】
表面酸化層の最表面における酸素濃度を43.0%以上に高めるための方法は、特に限定されない。例えば、本発明に規定する成分組成を有し、結晶化のための熱処理を施して得られたFe基ナノ結晶合金を含む軟磁性合板薄帯の場合、熱処理後に接触面を形成した積層体を大気中130℃で8時間保持する加温処理を施すことによって、表面酸化層の最表面における酸素濃度を43.0%以上とすることができる。この加温処理の温度は、積層体を固定する接着剤の耐熱温度よりも低い。
【0060】
図2に例示したように、結晶化のための熱処理を施したFe基ナノ結晶合金を含む軟磁性合板薄帯の場合、接触面を形成した直後の表面酸化層の最表面における酸素濃度はたかだか40.0原子%未満であり、酸素濃度を43.0%以上とすることは難しい。また、結晶化のためにアルゴン雰囲気中での熱処理を施した直後の、接触面を形成する前のFe基ナノ結晶合金を含む軟磁性合板薄帯の場合、表面酸化層の最表面における酸素濃度はたかだか37.0原子%程度であり、酸素濃度を43.0%以上に増加させることはやはり難しい。したがって、表面酸化層の最表面における酸素濃度を43.0%以上に高めるためには、結晶化のための熱処理を施して得られたFe基ナノ結晶合金を含む軟磁性合板薄帯について、熱処理後に接触面を形成した積層体を大気中130℃で8時間保持する加温処理を施すことが好ましい。
【0061】
大気中で行う加温処理の温度が過少な場合、表面酸化層の最表面における酸素濃度を43.0原子%以上にすることができない。そのため、加温処理の温度は100℃以上とすることが好ましく、120℃以上とすることがより好ましい。他方で、加温処理の温度が過大な場合、表面酸化層の最表面における酸素濃度が60.0原子%を超える。そのため、加温処理の温度は160℃以下とすることが好ましく、140℃以下とすることがより好ましい。加温処理の好ましい処理時間は、積層体の熱容量その他の条件を考慮して、上記の好ましい温度範囲において表面酸化層の最表面における酸素濃度が43.0原子%以上になるために必要な時間を確保すればよい。
【0062】
図3は、後述する実施例2に示す発明例14の軟磁性合金薄帯に、アルゴン雰囲気下にて550℃で90分間熱処理を施して結晶化を行ったFe基ナノ結晶合金を含む軟磁性合金薄帯について、さらに大気中130℃で8時間保持する加温処理を行った場合の、接触面における表面からの距離と元素の比率との関係を示すグラフである。発明例14の軟磁性合金薄帯の成分組成は、
図1及び
図2に示す発明例3の軟磁性合金薄帯の成分組成と同一である。
図1及び
図2の場合と同じく、元素の比率の測定はグロー放電発光分光分析(GD-OES)によって行なった。この試料の中間拡散層における元素の比率は
図2に示す中間拡散層と大きく異ならない。他方で、
図3の表面酸化層では、最表面における酸素濃度が44.6原子%に到達しており、逆に最表面におけるSiの濃度は
図2に比べて低い。また、中間拡散層と表面酸化層の境界は、表面からの距離が10nmの位置にあり、表面酸化層の厚さは
図1及び
図2と比べてやや増加している。後述する実施例3に示すように、表面酸化層の最表面における酸素濃度が43.0原子%以上である発明例14では、酸素濃度が42.6原子%である比較例2と比べて積層体の接触面の耐食性が特に優れていた。
【0063】
[インピーダンス変化率]
好ましい実施形態において、本発明に係るカットコアは、軟磁性合金薄帯がFe基ナノ結晶合金を含み、カットコアをイオン交換水に100時間浸漬する前後で周波数100kHzにおけるインピーダンスを測定し、浸漬前の測定値をZA、浸漬後の測定値をZBとしたとき、(ZB-ZA)/ZA×100で算出されるインピーダンス変化率ΔZの絶対値が15%以下である。一般に、カットコアをイオン交換水に浸漬すると、接触面に赤錆が発生する。これにより、浸漬した後のインピーダンスは、浸漬する前のインピーダンスと比べて低下する。この場合、インピーダンス変化率ΔZは負の値となり、ΔZの絶対値が大きければ大きいほど発錆の程度が大きいことを意味する。本発明に係るカットコアは、表面酸化層及び中間拡散層の存在によって接触面の耐食性が改善されるため、上記の評価条件におけるインピーダンス変化率ΔZの絶対値が15%を超えることはない。より好ましくは、インピーダンス変化率ΔZの絶対値が12%以下である。
【0064】
カットコアを浸漬する際のイオン交換水の温度は特に限定しないが、イオン交換水の温度は室温であることが好ましい。室温とは、例えば25℃である。また、カットコアのインピーダンスを測定する際の温度も特に限定しないが、カットコア及び周囲の環境の温度は室温であることが好ましい。
【0065】
[切断面接触型カットコア]
好ましい実施形態において、本発明に係るカットコアは、軟磁性合金薄帯が環状に巻回されてなる1つの環状体を、その周方向に対して垂直にn箇所(ただし、nは2以上の整数)で切断することにより形成されるn個の積層体を備え、n個の積層体が有する(n×2)面の切断面を接触面となし、n個の積層体のうち隣接する2つの積層体が、接触面としての切断面において互いに接触して、全体として磁気回路を構成する。
図4は、この好ましい実施形態に係るカットコアの形状の例を示す模式図である。
【0066】
図4に例示するカットコア1は、軟磁性合金薄帯が環状に巻回されてなる1つの環状体を二等分した2個の積層体2を備える。積層体2は、その周方向に対して垂直な切断面を積層体1個あたり2つ備える。軟磁性合金薄帯の巻回は、長尺の軟磁性合金薄帯に張力を加えながら例えば円柱形状を有する治具の外周面に沿って何層にも巻き付けることによって行うことができる。
【0067】
切断する前のカットコアの形状は、環状に閉じていればよく、その形状は円、陸上競技のトラックの形状、四角形の四隅が丸くなった形状などのいずれであってもよく、かつ、これらの形状に限られない。ただし、軟磁性合金薄帯の曲げ加工における変形能には限度があるので、曲面の曲率半径はその限度を下回らない大きさ以上にする必要がある。
【0068】
図4に示すように、切断面は、例えば、軟磁性合金薄帯の周方向に垂直に設けることができる。本明細書における「周方向」とは、軟磁性合金薄帯を巻き付ける方向をいう。より厳密には、軟磁性合金薄帯が既に巻回された積層体の最表面と接する位置における軟磁性合金薄帯の接線の方向をいう。周方向に垂直な切断面を接触面となすことにより、接触面の面積を小さくすることができる。また、接触面が周方向に垂直であることは、接触面に垂直な力を加えて密着させたい場合にも都合がよい。ただし、切断面の方向は必ずしも周方向に垂直でなくてもよく、任意の方向に設けることができる。
【0069】
2個以上の積層体2は接触面2aにおいて互いに接触して、全体として磁気回路を構成する。磁気回路は、連続する積層体で構成された磁路が環状に閉じることによって再構成される。
図4において、カットコア1を構成する積層体2の数は2個であるが、積層体2の数は3個であってもよく、それ以上の数であってもよい。また、
図4において、カットコア1を構成する2個の積層体2の大きさは同じであるが、2個の積層体2のうち片方の磁路の長さが長く、他方の磁路の長さがそれよりも短くてもよい。
【0070】
[端面接触型カットコア]
好ましい実施形態において、本発明に係るカットコアは、軟磁性合金薄帯が環状に巻回されてなる1つの環状体について、その周方向の一部に不連続部を1箇所設けることにより形成される積層体を2個以上備え、2個以上の積層体のそれぞれが有する2つの幅方向端面のうち少なくとも1つを接触面となし、2個以上の積層体のうち隣接する2つの積層体が、それぞれの不連続部が周方向に重ならないように、接触面としての幅方向端面において互いに接触して、全体として磁気回路を構成する。
図5は、この好ましい実施形態に係るカットコアの形状の例を示す模式図である。
【0071】
図5に例示するカットコア1は、積層体2が、不連続部2bを1個あたり1つ備える。本明細書において「不連続部」とは、環状体の一部を欠くために、環状形状に巻回された軟磁性合金薄帯の巻回方向の連続性が断たれた部分をいう。不連続部2bの幅は、ケーブル等が通過することができる大きさであればよい。1個の積層体2の磁路は、不連続部2bにおいて遮断される。積層体2に不連続部2bを設けることによって、2個の積層体2が分離された状態において、例えば、不連続部2bを通してケーブルを環状形状の積層体の外側から内側に移動させることができる。
【0072】
この好ましい実施の形態において、積層体2に不連続部2bを設ける手段としては、例えば、環状形状に巻回された軟磁性合金に接着剤を含浸させて固定した後、切断加工によって積層体2の一部を除去する手段を採用することができる。あるいは、予め所定の形状に切断された平らな軟磁性合金薄帯を積層した後、全体を曲げ変形させることによって不連続部2bを有する環状形状となす手段を採用することができる。
【0073】
この好ましい実施形態において、不連続部2bは接触面ではない。不連続部2bを構成する一組の断面は、軟磁性合金薄帯の巻回方向に対して垂直である必要はなく、巻回方向に対して任意の角度を有していてもよい。ただし、不連続部2bを構成する一組の断面が互いに平行であることが、ケーブルの移動のしやすさの観点から好ましい。
【0074】
積層体2は、積層体2のそれぞれが有する2つの幅方向端面のうち少なくとも1つを接触面2aとなし、不連続部2bが重ならないように接触面2aにおいて互いに接触して、全体として磁気回路を構成する。積層体2の「幅方向端面」とは、軟磁性合金薄帯を環状に巻回して得られた積層体2において、巻回の中心軸2cに垂直な2つの端面をいう。軟磁性合金薄帯を巻回した結果として、積層体の端面には軟磁性合金薄帯の幅方向の端部が積み重なった状態で存在する。2個以上の積層体2を、不連続部2bが重ならないように接触面2aにおいて互いに接触させることによって、1個の積層体2において不連続部2bによって遮断された磁路が隣接する他の積層体2によってつながるので、全体として閉じた磁気回路が再構成される。上述のとおり、接触面2aに対して研磨加工を行うことによって、接触面2aを平滑にすることが好ましい。なお、接触面2aは、巻回の中心軸2cに対して厳密に垂直である必要はなく、巻回方向に対して多少の角度を有していてもよい。
【0075】
図5において、カットコア1を構成する積層体2の数は2個であるが、積層体2の数は3個であってもよく、それ以上の数であってもよい。
図5において、カットコア1を構成する2個の積層体2の大きさは同じであるが、2個の積層体2のうち片方の厚みが厚く、他方の厚みがそれよりも薄くてもよい。積層体2の数が3個以上の場合、中間に位置する積層体2では、巻回の中心軸に垂直な両方の幅方向端面が接触面2aとなる。また、積層体2の数が3個以上の場合、互いに接触して隣り合う2個の積層体2の間で不連続部2bが重ならなければよく、離れた位置にある積層体2の間では不連続部2bが重なってもよい。
【0076】
[ケース]
カットコアは図示しないケースに収納して使用することができる。この場合において、積層体2が有するすべての接触面2aがケースから露出するように、1つのケースに1個の積層体2を収容することが好ましい。これにより、ケースを互いに勘合することで積層体2が備える接触面2aを接触させて磁気回路を再構成することができる。ケースを構成する材料には、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PA(ポリアミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、ASA(アクリロニトリルスチレンアクリルゴム)、シリコーン系樹脂、シリコーン系エラストマー等を用いることができる。
【0077】
ケースは、勘合することによって対向する接触面2aを密に押し付けることができる加重機構を備えることが好ましい。接触面2aの密な接触を維持できるものであれば、加重機構はどのような構造のものであってもよい。ケースが備える加重機構としては、例えば、樹脂又は金属で構成された板バネ、突起物又はバンドなどを用いることができる。
【0078】
ケースが備える加重機構によって接触面2aにかかる荷重は、積層体2の質量の5倍以上であれば、カットコア1を使用しているときの振動や衝撃によって接触面2aが離れることを防止することができる。荷重が積層体2の質量の100倍以下であれば、積層体2の変形による歪みが原因で軟磁気特性が損なわれることを防止することができる。よって、接触面2aにかかる荷重は、積層体2の質量の5倍以上、100倍以下であることが好ましい。接触面2aに荷重をかける手段は、必ずしもケースの勘合による必要はなく、例えば、2以上の積層体2をビニールテープや結束バンドなどを用いて締め付けるといった簡便な手段であってもよい。
【0079】
[ノイズ対策部材]
他の実施形態において、本発明はノイズ対策部材に係る発明である。本発明に係るノイズ対策部材は、本発明に係るカットコアを用いた、ノイズ対策部材である。上述のとおり、本発明に係るカットコア1は、接触面2aにおいて分離したり統合させたりすることができる。カットコア1を2個以上の積層体2に分離した状態では、例えば、配線済みのケーブル等の任意の位置に積層体2を事後的に配置することができる。しかる後に、積層体2を統合させることによって、分離によって遮断された磁気回路を容易に再構成することができる。
【0080】
上述のとおり、本発明に係るカットコア1は、接触面2aの耐食性が優れているため、ノイズ対策部材としてケーブル等の周囲に設置したあとも長期間にわたりノイズを低減する性能を維持することができる。したがって、本発明に係るノイズ対策部材は、例えば、設置した後のノイズ対策部材を容易に交換することができない電気設備又は電子機器等に好適に使用することができる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例に従って説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0082】
[実施例1](合金薄帯の評価)
表1に記載された発明例1-11及び比較例1の成分組成を有する合金溶湯を単ロール法により急冷して、幅10mm、厚さ23μmのFe基非晶質合金からなる合金薄帯を得た。得られた合金薄帯を長さ15mmに切断し、冷却ロールに接していない側の表面、すなわち自由面を600番の研磨紙で研磨して薄帯製造時の生成物を取り除き、加工により露出した接触面を模擬した試験片とした。また、これらの試験片とは別に、表1に記載された発明例12-22及び比較例2の成分組成を有する試験片を同様の工程により作製し、接触面を露出させた後に大気中130℃で8時間の加温処理を行なった試験片も準備した。
【0083】
次に、得られたすべての試験片を25℃のイオン交換水に24時間浸漬し、浸漬後の試験片の研磨面を目視で観察し、変色及び発錆の有無により耐食性を評価した。評価結果は、変色が全くないものを「優」(excellent)、白っぽい変色はあるが赤錆は発生していないものを「良」(good)、赤錆が発生している部分の面積が観察面全体の20%以下であるものを「可」(passing)、赤錆が発生している部分の面積が観察面全体の20%を超えるものを「不可」(failing)とした。評価結果を表1に示す。
【0084】
【0085】
表1に示す耐食性の評価結果によれば、本発明に係るカットコアの接触面を模擬した研磨面において、Crの含有量が原子百分率で0.5以上、4.0以下である発明例1から11までの試料片では、Crを含有しない比較例1の試料片に比べて発錆が少なかった。特に、Crの含有量が原子百分率で2.5以上の場合には、評価結果は「良」又は「優」であり、赤錆は発生していなかった。また、Crの含有量が原子百分率で0.5以上、4.0以下であり、研磨後に大気中130℃で8時間の加温処理を行なった発明例12から22までの試料片では、赤錆の発生が見られたCrを含有しない比較例2の試料片と異なり、変色も発錆も全く見られなかった。
【0086】
[実施例2](表面酸化層の最表面における酸素濃度)
表1に記載された発明例1-3及び比較例1の成分組成を有する合金薄帯を実施例1と同様の工程により作製し、アルゴン雰囲気下にて550℃で90分間熱処理を施して結晶化を行い、Fe基ナノ結晶合金を含む軟磁性合金薄帯とした。得られた合金薄帯を長さ15mmに切断し、冷却ロールに接していない側の表面、すなわち自由面を600番の研磨紙で研磨して薄帯製造時の生成物を取り除き、加工により露出した接触面を模擬した試験片とした。また、これらの試験片とは別に、表1に記載された発明例12-14及び比較例2の成分組成を有する試験片を同様の工程により作製し、接触面を露出させた後に大気中130℃で8時間の加温処理を行なった試験片も準備した。
【0087】
次に、グロー放電発光分光分析(GD-OES)によって各試験片の研磨された最表面における酸素濃度を測定した。測定には堀場製作所製のGD-Profiler2を用いた。測定結果を表2に示す。
【0088】
【0089】
表2に示す測定結果によれば、結晶化のための熱処理を施したFe基ナノ結晶合金を含む軟磁性合板薄帯では、接触面を露出させた直後の試験片における表面酸化層の最表面における酸素濃度は39.5原子%以下であった。一方、接触面を露出させた後に大気中130℃で8時間の加温処理を行なった試験片では、表面酸化層の最表面における酸素濃度は、比較例2を除き、43.0原子%以上であった。これに対し、比較例2の試験片では、表面酸化層の最表面における酸素濃度は42.6原子%であった。
【0090】
[実施例3](磁性コアの評価)
実施例1と同様の方法により、表1に記載の成分組成を有する合金溶湯を単ロール法により急冷して、幅10mm厚さ23μmのFe基非晶質合金からなる合金薄帯を得た。得られた合金薄帯を巻回して、外径28.5mm、内径18.0mm、高さ10mmの円筒状の積層体とした。ただし、この実施例に係る積層体には
図4に示す不連続部2bは存在せず、全体が継ぎ目なしに連続していた。次に、Fe基非晶質合金からなる円筒状の積層体について、アルゴン雰囲気下にて550℃で90分間熱処理を施して結晶化を行い、Fe基ナノ結晶合金からなる磁性コアを作製した。
【0091】
次に、得られた磁性コアを、三菱ケミカル製エポキシ樹脂801N、及び硬化剤ST12を規定量比で混合した溶液の中に浸し、-0.1MPaGまで真空引きを行い10分保持した後、大気圧開放して、磁性コアにエポキシ樹脂を含浸させた。エポキシ樹脂を含浸させた磁性コアを室温にて24時間放置し、その後大気中80℃で3時間保持してエポキシ樹脂を硬化させて、Fe基ナノ結晶合金薄帯を固定した。
【0092】
次に、磁性コアの巻回の中心軸に垂直な端面、すなわち軟磁性合金薄帯の厚さ方向に平行な平面を研磨加工した。磁性コアについて研磨加工した平面は、
図5に示す端面接触型のカットコア1における接触面2aに相当する。平面の研磨加工には、Struers製のTegramin-25を用いた。研磨加工の条件は、公転100rpm、自転50rpmで同方向に回転させ、荷重は15Nとした。研磨紙の番手を220番から順に320番、500番、800番、1200番、2000番と細かくしていき、片側の平面を研磨加工した磁性コア(発明例1-11及び比較例1)を作製した。また、得られた磁性コアについて、大気中130℃で8時間の加温処理を行なった磁性コア(発明例12-22及び比較例2)も準備した。得られた磁性コアの保磁力は、東京特殊鋼製の自動計測保磁力計K-HC1000を用いて測定した。各磁性コアに対し、実施例1と同様の方法により、磁性コアを水に浸漬し、研磨した平面について耐食性の評価を行なった。得られた結果を表3に示す。
【0093】
【0094】
表3に示す評価結果によれば、磁性コアの保磁力に関しては、発明例6及び17を除き15.0A/mよりも低い値を示し、良好な軟磁気特性を示すことが分かる。また、耐食性に関しては、実施例1の評価結果と同様に、成分組成にCrを含む発明例1から11までの磁性コアで良好な耐食性を示し、加温処理を行なった発明例12から22までの磁性コアでは特に優れた耐食性を示すことが分かる。
【0095】
表2に示す実施例2の結果と、表3に示す実施例3の結果を照らし合わせると、次のようなことが分かる。表3によれば、加温処理を行なった発明例12から22までの磁性コアでは、接触面を模擬した試験片の表面に変色は全く見られず、特に優れた耐食性を示した。表2によれば、これらの磁性コアを構成する発明例12から22までのFe基ナノ結晶合金を含む軟磁性合板薄帯では、表面酸化層の最表面における酸素濃度は43.0原子%以上であった。一方、表3によれば、同じく加温処理を行った比較例2の磁性コアでは、試験片の表面の20%を超える面積に赤錆が発生した。表2によれば、この磁性コアを構成する比較例2のFe基ナノ結晶合金を含む軟磁性合板薄帯では、表面酸化層の最表面における酸素濃度は、43.0原子%よりも少ない42.6原子%であった。これらの結果から、Fe基ナノ結晶合金を含む軟磁性合板薄帯において、接触面に形成される表面酸化層の最表面における酸素濃度が43.0原子%以上である場合には、その接触面は特に優れた耐食性を示すことが分かる。
【0096】
[実施例4](表面粗さの影響)
実施例2と同様の方法により、表1に記載の成分組成を有するFe基ナノ結晶合金薄帯を巻回して積層体とした後に、エポキシ樹脂を含浸させて固定した磁性コアを作製し、得られた磁性コアの巻回の中心軸に垂直な端面を研磨加工した。平面の研磨加工では、研磨紙の番手を220番、320番、800番及び2000番の各段階で研磨加工を止めた。次に、得られた磁性コアの一部に対して大気中130℃で8時間の加温処理を行なった。研磨面の算術平均粗さRaは、キーエンス製のレーザー顕微鏡VK-X3000を用いて測定した。測定倍率は480倍、対物レンズの倍率は20倍とし、カットオフ波長はS-フィルター2.75μm、L-フィルターを0.8mmにそれぞれ設定し、内周側から外周側へ向かって両端面まで1ライン測定した。各試験片に対し、実施例1と同様の方法により、磁性コアを水に浸漬し、研磨した平面について耐食性の評価を行なった。得られた結果を表4に示す。
【0097】
【0098】
表4に示す評価結果によれば、本発明に係るカットコアの接触面を模擬した研磨面において、いずれの試料においても、研磨加工に使用した研磨紙の番手が大きいほど研磨面の算術平均粗さRaは小さくなった。また、Crの含有量が原子百分率で0.5以上、4.0以下である発明例1から11までの試料片では、研磨面の算術平均粗さRaが小さいほど耐食性が向上する傾向が見られた。特に、研磨紙の番手が2000番のものでは、全ての試料において赤錆が発生している部分の面積が観察面全体の20%以下(優、良又は可)であった。さらに、研磨後に加温処理を行なった発明例12から22までの試料では、変色も発錆も全く見られなかった(優)。これに対し、Crを含有しない比較例1及び2の試料では、研磨紙の全ての番手において赤錆が発生している部分の面積が観察面全体の20%を超えていた(不可)。
【0099】
[実施例5](カットコアの評価)
実施例3と同様の方法により、エポキシ樹脂を含浸させて表1に記載の成分組成を有するFe基ナノ結晶合金薄帯を巻回して積層体とした後に、エポキシ樹脂を含浸させて固定した磁性コアを作製した。次に、得られた磁性コアについて、積層体の形状が
図5に示す形状になるように切断して、不連続部を設けた。切断は平和テクニカ社製の高速精密切断機ファインカットHS-100型を用い、砥石は平和テクニカ社製のトクウストイシステンB(外径φ205mm、内径φ25.4mm、厚さ0.7mm)を用いて操作を手動で行い、幅10mmの不連続部を設けた。
【0100】
次に、実施例3と同様の方法により、不連続部を有する磁性コアの巻回の中心軸に垂直な片方の端面を2000番の研磨紙まで使用して研磨加工した。その後、大気中130℃で8時間の加温処理を行なった。研磨面の表面粗さはRaが0.1μm、Rzは1.0μmであった。得られた研磨後の磁性コアを2個使って、
図5に示すように各不連続部の中心位置がなす角度が180°になるようにして研磨加工した端面同士を接触させ、耐熱テープで固定してカットコアとした。実施例3と同様の方法により、得られたカットコアの保磁力を測定した。
【0101】
次に、実施例1と同様の方法により、カットコアを25℃のイオン交換水に100時間浸漬し、浸漬の前後で周波数100kHzにおけるインピーダンスを測定し、浸漬前の測定値をZA、浸漬後の測定値をZBとしたとき、(ZB-ZA)/ZA×100で算出されるインピーダンス変化率ΔZ(%)を求めた。インピーダンスの測定には、キーサイト製のインピーダンスアナライザー4294Aを用いた。インピーダンスを測定する際のカットコア及び周囲の環境の温度は25℃であった。田中電線製のリード線H-PVC、Φ0.5mm単線をカットコアに1ターン通し、キーサイト製のリード線用固定治具16047Eを用いてカットコアを固定して測定した。その際に、カットコアに質量が100gのウエイトを載せて接触面に荷重をかけて密着させた。
【0102】
次に、水への浸漬に使用したカットコアとは別のカットコアについて、エスペック製の小型環境試験機SH-222を用いて、85℃、85%RHの環境下で1000時間保持し、水浸漬の場合と同様の方法により試験前後の周波数100kHzにおけるインピーダンスの変化率ΔZを算出した。これらの評価結果を表5に示す。
【0103】
【0104】
表5に示す評価結果によれば、水浸漬及び85℃、85%RHのいずれの試験条件においても、本発明に係る発明例12から22までのカットコアにおけるインピーダンス変化率ΔZの絶対値は比較例2に比べて小さく、15%を超えることはなかった。比較例2に係るカットコアでは、実施例2の場合と同様に接触面に赤錆が発生することによって接触面の密着が損なわれ、透磁率が低下した結果としてインピーダンスの変化率ΔZの絶対値が大きくなったと考えられる。これに対し、本発明に係るカットコアでは、比較例2に比べて接触面における赤錆の発生が抑制された結果として、インピーダンスの変化率ΔZの絶対値が比較例2よりも少なかったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本カットコアは、自動車や発電・電源設備、通信機器、OA/FA機器等の電子機器の電源ケーブルに装着され、これらの電子機器内で発生し、または、外部で発生してケーブル内を伝播するノイズを抑制するノイズ対策コアとして使用することができる。
【符号の説明】
【0106】
A 表面酸化層
B 中間拡散層
C 基材
1 カットコア
2 積層体
2a 接触面
2b 不連続部
2c 巻回の中心軸
【要約】
カットコアの接触面に結晶化熱処理温度における熱処理によって表面酸化皮膜を設けることが困難な場合であっても、カットコアの磁気特性を長期にわたり安定に維持する手段を提供する。本発明に係るカットコアは、軟磁性合金薄帯が厚み方向に積層された2個以上の積層体を備え、前記積層体が、接触面を1個あたり少なくとも1つ備え、前記接触面において互いに接触し、前記軟磁性合金薄帯が、Fe100-x-y-z-a-bSixByCuzCraMb(ただし、MはNb及びMoから選ばれた少なくとも1種の元素を表し、x、y、z、a及びbはそれぞれSi、B、Cu、Cr及びMの原子百分率を表し、11.0≦x≦17.0、5.0≦y≦10.0、0.5≦z≦2.0、0.5≦a≦4.0、1.0≦b≦5.0及び65≦100-x-y-z-a-b≦75を満たす。)により表される成分組成を有する。