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7649459ナノセルロース及びその分散液並びにその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-12
(45)【発行日】2025-03-21
(54)【発明の名称】ナノセルロース及びその分散液並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/18 20060101AFI20250313BHJP
   D21H 15/02 20060101ALI20250313BHJP
   D21H 11/20 20060101ALI20250313BHJP
   C08B 15/02 20060101ALI20250313BHJP
   C08B 15/04 20060101ALI20250313BHJP
【FI】
D21H11/18
D21H15/02
D21H11/20
C08B15/02
C08B15/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022539519
(86)(22)【出願日】2021-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2021027849
(87)【国際公開番号】W WO2022025100
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2024-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2020126977
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020126980
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020126981
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020126983
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020126984
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020126986
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020126988
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020126990
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168893
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 正路
(72)【発明者】
【氏名】松木 詩路士
【審査官】土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-184461(JP,A)
【文献】特表2018-533660(JP,A)
【文献】特開2017-193814(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230354(WO,A1)
【文献】特開2017-130451(JP,A)
【文献】国際公開第2017/018524(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/199191(WO,A1)
【文献】特開2019-172858(JP,A)
【文献】国際公開第2018/030310(WO,A1)
【文献】特表2016-501926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/00
D21H 15/00
C08B 15/00
H01M 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維長が100nm以上500nm以下であり、平均繊維幅が2.0nm以上4.5nm以下であるナノセルロースであって、下記条件Aを満たし、カルボキシル化ナノセルロースを含む、ナノセルロース。
条件A:繊維長の標準偏差が600nm以下である
【請求項2】
繊維長の標準偏差が10nm以上500nm以下である、請求項1に記載のナノセルロース。
【請求項3】
N-オキシル化合物を実質的に含まない、請求項1又は2に記載のナノセルロース。
【請求項4】
セルロース系原料を次亜塩素酸またはその塩で酸化して得られる酸化セルロースを解繊処理して作製する請求項1~のいずれか1項に記載のナノセルロース。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載のナノセルロースが分散媒に分散されたナノセルロース分散液。
【請求項6】
セルロース系原料を次亜塩素酸またはその塩で酸化して得られる酸化セルロースを解繊処理して作製する工程を含む請求項1~のいずれか1項に記載のナノセルロースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノセルロース及びその分散液並びにその製造方法に関する。さらに詳しくは、特定の範囲の平均繊維長と平均繊維幅を有し、かつ、特定の範囲の繊維長分布または特定の範囲の繊維幅分布を有するナノセルロース及びこれを含むナノセルロース分散液並びにナノセルロースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバー(以下、「CNF」ともいう)等のナノセルロースは、セルロースや酸化セルロースなどを水中で機械的に解繊処理することで製造され、粘性のあるナノセルロース水分散体として得られる。
その粘性を活かしてナノセルロースを増粘剤、分散剤、バインダーなどへの使用が検討されているが、ナノセルロース水分散体の粘性はナノセルロースの繊維長や繊維幅などの繊維形状に関係していることが知られている。また、上記用途でナノセルロースと無機粒子を混合させてスラリーを作製する場合、そのスラリーの粘度安定性が悪いとき、製品としての品質に変化が生じる恐れがある。
【0003】
例えば、特開2018-162549号公報(特許文献1)には、低ずり領域で高粘度であり、極めて短い繊維長を有する酸(H)型のカルボキシル化CNFとして、CNFの平均繊維長や平均繊維幅を特定し、またCNF水分散液の粘度を特定したCNFが記載されている。
【0004】
また、特許第5655432号公報(特許文献2)には、化学パルプを機械的処理することで短繊維化し、その後、セルラーゼ系酵素処理を行った後に、高速回転式解繊処理あるいは高圧ホモジナイザー処理、超音波処理などの微細化処理を行うことで、繊維幅が4~100nmであり、全繊維の30%以上を占める繊維長が1~600μmである微細繊維状セルロースを得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-162549号公報
【文献】特許第5655432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1は、低ずり領域で高粘度である酸型のカルボキシル化CNFに関する技術であり、また、平均繊維長が50~500nmであり、300nm以下の繊維長を有する割合が50%以上、600nm以上の繊維長の割合が20%未満のCNFが記載されているが、このCNFを含むスラリーの粘度安定性に問題がある。
また、特許文献2は、マイクロメートル単位の繊維長のCNFについてのみ記載されており、ナノメートル単位の繊維長分布である微細セルロースに関する技術については記載されていない。
【0007】
本発明は、上記の状況を鑑み、ナノセルロースを含むスラリーの粘度安定性に優れたナノセルロースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ナノセルロースの繊維長分布または繊維幅分布を示す指標として標準偏差、尖度、歪度、または範囲を特定の範囲にすることで、ナノセルロースを含むスラリーの粘度安定性が優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1発明は、平均繊維長が100nm以上500nm以下であり、平均繊維幅が2.0nm以上5.0nm以下であるナノセルロースであって、下記条件A~Hの少なくとも一つを満たすナノセルロースである。
条件A:繊維長の標準偏差が600nm以下である
条件B:繊維長の尖度が11以上である
条件C:繊維長の歪度が3.0以上である
条件D:繊維長の範囲が4000nm以下である
条件E:繊維幅の標準偏差が1.5nm以下である
条件F:繊維幅の尖度が0.3以上である
条件G:繊維幅の歪度が0.5以上である
条件H:繊維幅の範囲が6.8nm以下である
【0010】
本発明の第2発明は、繊維長の標準偏差が10nm以上500nm以下である、第1発明に記載のナノセルロースである。
【0011】
本発明の第3発明は、繊維長の尖度が12以上30以下である、第1発明または第2発明に記載のナノセルロースである。
【0012】
本発明の第4発明は、繊維長の歪度が3.0以上6.0以下である、第1発明~第3発明のいずれか1項に記載のナノセルロースである。
【0013】
本発明の第5発明は、繊維長の範囲が450nm以上4000nm以下である、第1発明~第4発明のいずれか1項に記載のナノセルロースである。
【0014】
本発明の第6発明は、繊維幅の標準偏差が0.5nm以上1.5nm以下である、第1発明~第5発明のいずれか1項に記載のナノセルロースである。
【0015】
本発明の第7発明は、繊維幅の尖度が0.3以上2.5以下である、第1発明~第6発明のいずれか1項に記載のナノセルロースである。
【0016】
本発明の第8発明は、繊維幅の歪度が0.5以上1.5以下である、第1発明~第7発明のいずれか1項に記載のナノセルロースである。
【0017】
本発明の第9発明は、繊維幅の範囲が3.0nm以上6.8nm以下である、第1発明~第8発明のいずれか1項に記載のナノセルロースである。
【0018】
本発明の第10発明は、カルボキシル化ナノセルロースを含む、第1発明~第9発明のいずれか一項に記載のナノセルロースである。
【0019】
本発明の第11発明は、N-オキシル化合物を実質的に含まない、第1発明~第10発明のいずれか1項に記載のナノセルロースである。
【0020】
本発明の第12発明は、セルロース系原料を次亜塩素酸またはその塩で酸化して得られる酸化セルロースを解繊処理して作製する第1発明~第11発明のいずれか1項に記載のナノセルロースである。
【0021】
本発明の第13発明は、第1発明~第12発明のいずれか1項に記載のナノセルロースが分散媒に分散されたナノセルロース分散液。
【0022】
また、本発明の第14発明は、セルロース系原料を次亜塩素酸またはその塩で酸化して得られる酸化セルロースを解繊処理して作製する工程を含む第1発明~第12発明のいずれか1項に記載のナノセルロースの製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ナノセルロースの繊維長の標準偏差、尖度、歪度、もしくは範囲、またはナノセルロースの繊維幅の標準偏差、尖度、歪度、もしくは範囲の数値を特定の範囲にすることで、ナノセルロースを含むスラリーの粘度安定性を高めることが出来る。
ナノセルロースを含むスラリーの粘度安定性に優れているので、本発明のナノセルロースは、例えば、増粘剤、分散剤、バインダーなどに有用である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
セルロース系原料を2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシラジカル(以下、「TEMPO」ともいう)、臭化ナトリウム、安価な酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムとの共存下で処理すると、セルロースの表面にカルボキシ基を効率よく導入することができる。このカルボキシ基を導入した酸化セルロースをミキサー等で解繊処理することにより繊維長がナノメートル単位の微細なナノセルロースを製造することができる。また、TEMPOの非存在下、セルロース系原料を次亜塩素酸またはその塩で処理することで、酸化セルロースが得られ、これを解繊処理することで、微細なナノセルロースが得られる。
【0025】
なお、TEMPOを使用すると、有害性のあるN-オキシル化合物がナノセルロースに残留する恐れがあるため、TEMPOを使用しない製造方法で得られるN-オキシル化合物を実質的に含まないナノセルロースが好ましい。
本明細書において、N-オキシル化合物を実質的に含まないとは、ナノセルロース中に含まれるN-オキシル化合物由来の残留窒素成分が、原料パルプからの増加分として2.0ppm以下であることを意味する。本明細書のナノセルロースにおけるN-オキシル化合物由来の残留窒素成分は、原料パルプからの増加分として1.0ppm以下であることが好ましい。また、N-オキシル化合物の含有量が、セルロース系原料からの増加分として、好ましくは2.0質量ppm以下、より好ましくは1.0質量ppm以下である場合も、「N-オキシル化合物を実質的に含まない」ことを意味する。
N-オキシル化合物を実質的に含んでいないことにより、環境や人体への影響が懸念されているN-オキシル化合物を、ナノセルロースに残留させることを抑制できる。N-オキシル化合物の含有量は、公知の手段で測定することができる。公知の手段としては、微量全窒素分析装置を用いる方法が挙げられる。具体的には、ナノセルロース中のN-オキシル化合物由来の窒素成分は、微量全窒素分析装置(例えば、三菱ケミカルアナリテック社製、装置名:TN-2100H等)を用いて窒素量として測定することができる。
【0026】
セルロースを酸化すると、そのセルロース分子鎖を構成する少なくとも一部の構成単位にカルボキシ基が生じる。そのカルボキシ基により生じる静電的斥力および浸透圧効果により、比較的弱いエネルギーで解繊が可能になり、生産コストの低減に寄与する。この酸化法により得られるナノセルロースをカルボキシル化ナノセルロースという。そして、そのカルボキシ基により水中などでの分散性が向上することから、ナノセルロースを含むスラリーの粘度安定性も高まるため、本願発明のナノセルロースとしては、カルボキシル化ナノセルロースを含むことが好ましい。
【0027】
本発明のナノセルロースは、ナノセルロース繊維の集合体である。本発明のナノセルロースがカルボキシル化ナノセルロースを含む場合、少なくとも1つのカルボキシル化されたナノセルロース繊維を含んでいればよく、カルボキシル化されたナノセルロースが主成分であることが好ましい。ここでカルボキシル化ナノセルロース繊維が主成分であるとは、ナノセルロース全量に占めるカルボキシル化ナノセルロースの割合が50質量%超過であること、好ましくは70質量%超過であること、より好ましくは80質量%超過であることを指す。上記割合の上限は100質量%であるが、98質量%であってもよく、95質量%であってもよい。
【0028】
本発明のナノセルロースは、平均繊維長が100nm以上500nm以下であり、平均繊維幅が2.0nm以上5.0nm以下である。
平均繊維長は100nm以上450nm以下の範囲が好ましく、100nm以上400nm以下の範囲がより好ましい。平均繊維長が500nmを超える場合、スラリーが激しく増粘しハンドリングが難しくなる。また、平均繊維長が100nmより小さいとナノセルロースの特長である粘性が発現し難くなる。
【0029】
平均繊維幅は2.0nm以上4.5nm以下の範囲が好ましく、2.5nm以上4.0nm以下の範囲がより好ましい。平均繊維幅が2.0nmより小さいとナノセルロースを樹脂に添加した際の強度向上が発現し難くなる。また、平均繊維幅が5.0nmより大きいと応力集中により同様に強度向上が発現し難くなる。
【0030】
なお、平均繊維長および平均繊維幅は、ナノセルロースの濃度が概ね1~10ppmとなるようにナノセルロースと水とを混合し、十分希釈したナノセルロース水分散体をマイカ基材上で自然乾燥させ、走査型プローブ顕微鏡を用いてナノセルロースの形状観察を行い、得られた像より任意の本数の繊維を無作為に選択し、形状像の断面高さ=繊維幅とし、周囲長÷2=繊維長とすることにより算出した値である。このような平均繊維幅及び平均繊維長の算出には、画像処理のソフトウェアを用いることができる。このとき画像処理の条件は任意であるが、画像処理の条件によって同一画像であっても算出される値に差が生じる場合がある。画像処理の条件による値の差の範囲は、平均繊維長については±100nmの範囲内であることが好ましい。条件による値の差の範囲は、平均繊維幅については±10nmの範囲内であることが好ましい。より詳細な測定方法は、後述の実施例に記載の方法に従う。
【0031】
本発明のナノセルロースに関して、繊維長の標準偏差が600nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、10nm以上500nm以下の範囲がさらに好ましい。
繊維長の標準偏差が600nmを超える場合、そのナノセルロースを使用したスラリーは、ナノセルロース濃度の不均一な部分が生じ易くなり、スラリーの状態、特に粘度安定性が低下する。そのため、標準偏差は小さいほど好ましい。但し、標準偏差を10nm未満にしようとすると解繊回数を大幅に増やす必要があり、経済的に好ましくない。
【0032】
本発明のナノセルロースに関して、繊維長の尖度が11以上であることが好ましく、12以上がより好ましく、12以上30以下の範囲がさらに好ましい。
尖度は繊維長分布の集中度を示す数値であり、11未満の尖度が小さなナノセルロースを使用したスラリーは、ナノセルロース濃度の不均一な部分が生じ易くなり、スラリーの状態、特に粘度安定性が低下する。そのため、尖度は大きいほど好ましいが、30を超える尖度にするためには、解繊回数を大幅に減らす必要があり、ナノセルロース化が不十分となるため好ましくない。
【0033】
本発明のナノセルロースに関して、繊維長の歪度(分布の形状)が3.0以上であることが好ましく、3.0以上6.0以下の範囲がより好ましく、3.0以上4.0以下の範囲がさらに好ましい。
繊維長の歪度が一定範囲内であると、メカニズムは不明であるが、そのナノセルロースを使用したスラリーは、スラリーの状態、特に粘度安定性が高い。
繊維長の歪度が3.0未満であると粘度安定性が低下し、繊維長の歪度が6.0を超える場合は、解繊回数を大幅に減らす必要があり、ナノセルロース化が不十分となるため好ましくない。
なお、繊維長の歪度が高いほど、繊維長分布が幅の小さい側に偏っていることを示している。
【0034】
また、本発明のナノセルロースに関して、繊維長の範囲(最大値と最小値の差)が4000nm以下であることが好ましく、450nm以上4000nm以下であることがより好ましく、500nm以上4000nm以下の範囲がさらに好ましく、550nm以上4000nm以下の範囲がよりさらに好ましく、700nm以上4000nm以下の範囲が一層好ましい。
繊維長の範囲が4000nmを超えるナノセルロースを使用したスラリーは、ナノセルロース濃度の不均一な部分が生じ易くなり、スラリーの状態、特に粘度安定性が低下する傾向にある。そのため、繊維長の範囲は小さいほど好ましい。但し、繊維長の範囲の下限を500nm未満にするためには、解繊回数を大幅に増やす必要があり、経済的に好ましくない。
【0035】
本発明のナノセルロースに関して、繊維幅の標準偏差は1.5nm以下であり、好ましくは0.5nm以上1.5nm以下の範囲であり、より好ましくは1.0nm以上1.5nm以下の範囲である。
繊維幅の標準偏差が1.5nmを超えると、ナノセルロースを使用したスラリーは、スラリー中のナノセルロース濃度の不均一な部分が生じ易くなり、スラリーの状態、特に粘度安定性が低下する傾向にある。そのため、標準偏差は小さいほど好ましい。但し、標準偏差を1.0nm未満にするためには解繊回数を大幅に増やす必要があり、経済的に好ましくない。
【0036】
本発明のナノセルロースに関して、繊維幅の尖度が0.3以上であることが好ましく、0.3以上2.5以下の範囲がさらに好ましく、0.7以上2.5以下の範囲がよりさらに好ましい。繊維幅の尖度の下限は、0.35以上がより好ましく、0.4以上がさらに好ましく、0.5以上がよりさらに好ましく、0.6以上が一層好ましくい。
繊維幅の尖度の小さなナノセルロースを使用したスラリーは、ナノセルロース濃度の不均一な部分が生じ易くなり、スラリーの状態、特に粘度安定性が低下する傾向にある。そのため、尖度は大きいほど好ましい。但し、繊維幅の尖度を2.5超過にしようとすると解繊回数を大幅に減らす必要があり、ナノセルロース化が不十分となるため好ましくない。
【0037】
本発明のナノセルロースに関して、繊維幅の歪度(分布の形状)が0.5以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましく、0.7以上であることがさらに好ましく、0.8以上であることがよりさらに好ましい。繊維幅の歪度の範囲は、0.5以上1.5以下の範囲が好ましく、0.6以上1.5以下の範囲がより好ましく、0.7以上1.5以下の範囲がさらに好ましく、0.8以上1.5以下の範囲がよりさらに好ましく、0.85以上1.5以下の範囲が一層好ましい。
繊維幅の歪度が0.5以上であると、メカニズムは不明であるが、そのナノセルロースを使用したスラリーは、スラリーの状態、特に粘度安定性が高い。
繊維幅の歪度が0.5未満であると粘度安定性が低下し、繊維幅の歪度が1.5を超える場合は、解繊回数を大幅に減らす必要があり、ナノセルロース化が不十分となるため好ましくない。
なお、繊維幅の歪度が高いほど、繊維幅分布が幅の小さい側に偏っていることを示している。
【0038】
さらに、本発明のナノセルロースに関して、繊維幅の範囲(最大値と最小値の差)が6.8nm以下であることが好ましく、3.0nm以上6.8nm以下の範囲がより好ましく、4.0nm以上6.8nm以下の範囲がさらに好ましく、5.0nm以上6.8nm以下の範囲がよりさらに好ましく、5.2nm以上6.7nm以下の範囲がさらにより好ましい。
繊維幅の範囲の大きなナノセルロースを使用したスラリーは、ナノセルロース濃度の不均一な部分が生じ易くなり、スラリーの状態、特に粘度安定性が低下する傾向にある。そのため、繊維幅の範囲は小さいほど好ましい。但し、繊維幅の範囲の下限を3.0nm未満にするためには、解繊回数を大幅に増やす必要があり、経済的に好ましくない。
【0039】
本発明のナノセルロースにおける平均繊維長、平均繊維幅、繊維長の標準偏差、尖度、歪度、および範囲、ならびに繊維幅の標準偏差、尖度、歪度、および範囲はそれぞれ、例えば、セルロース系原料の種類の選択、ナノセルロースのカルボキシル化の程度を制御すること、具体的には、酸化反応の時間を制御すること;酸化反応の撹拌を調整すること;解繊処理の方法を制御すること;酸化反応後に酸化セルロースを固液分離する際に用いるフィルターの目開きを調整すること;などによって、所定の範囲に制御することができる。本発明のナノセルロースにおける平均繊維長、平均繊維幅、繊維長の標準偏差、尖度、歪度、および範囲、ならびに繊維幅の標準偏差、尖度、歪度、および範囲の制御方法はそれぞれ、これらに限定されず、また、これらの方法の2つ以上を組み合わせて行ってもよい。
フィルターの目開きを調整する方法においては、目開きを大きくすることにより、細かな繊維が除かれて、平均繊維長、平均繊維幅、繊維長の標準偏差、尖度、歪度、および範囲、ならびに繊維幅の標準偏差、尖度、歪度、および範囲が所定の範囲に制御しやすい。
【0040】
なお、本発明における繊維長の標準偏差および繊維幅の標準偏差はそれぞれ、統計的な対象となる値がその平均からどれだけ広い範囲に分布しているかを表すものである。標準偏差は、データ数をn、各データをxとすれば、下記式(1)から求められる。
【数1】

は、データ数nの集団の算術平均を表す。
【0041】
【数2】
【0042】
なお、繊維長の尖度および繊維幅の尖度のそれぞれについて、正規分布と比べて、尖度が大きければ鋭いピークと長く太い裾を持った分布となり、尖度が小さければより丸みがかったピークと短く細い裾を持つ分布となる。
繊維長の尖度および繊維幅の尖度はそれぞれ、データ数をn、各データをxi、標準偏差をsとすれば、下記式(2)から求められる。
【数3】

は、データ数nの集団の算術平均を表す。
【0043】
【数4】
【0044】
繊維長の歪度および繊維幅の歪度はそれぞれ、平均値周辺分布の両側の非対称度を表すもので、正の歪度は、より正の値に向かって広がる非対称のテールを持つ分布を示し、負の歪度は、より負の値に向かって伸びる非対称テールを持つ分布を示す。
繊維長の歪度および繊維幅の歪度はそれぞれ、データ数をn、各データをxi、標準偏差をsとすれば、下記式(3)から求められる。
【数5】

は、データ数nの集団の算術平均を表す。
【0045】
【数6】
【0046】
本発明のナノセルロースにおける平均繊維長、平均繊維幅、繊維長の標準偏差、尖度、歪度、および範囲、ならびに繊維幅の標準偏差、尖度、歪度、および範囲は、市販の表計算ソフトを用いて求めてもよい。例えば、標準偏差の算出には、マイクロソフト社エクセルのSTDEV関数を用いることができ、尖度の算出には、KURT関数を用いることができ、歪度の算出にはSKEW関数を用いることができる。
【0047】
平均繊維長が比較的短く、繊維長分布または繊維幅分布が狭い(標準偏差が小さい、範囲が小さい)、および/または、繊維長分布または繊維幅分布が尖っている(尖度が大きい)と、および/または、繊維長分布または繊維幅分布が小さい方へ偏っている(歪度が大きい)と、スラリー中のナノセルロース濃度の不均一な部分が生じ難くなり、スラリーの状態、特に粘度の安定性が高くなると考えられる。
同様に、繊維幅もしくは繊維幅分布は、その分布が狭い(標準偏差が小さい、範囲が小さい)、および/または、その分布が尖っている(尖度が大きい)、および/または、繊維幅分布もしくは繊維幅分布が小さい方へ偏っている(歪度が大きい)と、スラリー中のナノセルロース濃度の不均一な部分が生じ難くなり、スラリーの状態、特に粘度の安定性が高くなると考えられる。
【0048】
以下、本発明のナノセルロースについて、製造方法を例示して説明する。なお、本発明のナノセルロースは、これらの製造方法に限定されるものではない。
本発明のナノセルロースは、例えば、セルロース系原料を酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムと反応させて酸化セルロースを製造し、さらに酸化セルロースを解繊することで製造することができる。
なお、「ナノセルロース」は、酸化された繊維状セルロースを微細化した繊維状セルロースであるため、「微細セルロース繊維」や「CNF」とも称する。また、ナノセルロースは、セルロースをナノ化したものの総称を表し、セルロースナノファイバーやセルロースナノクリスタル等を含む。
【0049】
本発明におけるセルロース系原料は、セルロースを主体とした材料であれば特に限定されず、例えば、パルプ、天然セルロース、再生セルロース、セルロース原料を機械的に処理することで解重合した微細セルロースなどが挙げられる。
なお、セルロース系原料として、パルプを原料とする結晶セルロースなどの市販品をそのまま使用することもできる。セルロース系原料は、後述する方法で使用する酸化剤を浸透しやすくするためにアルカリ処理等の化学処理を行ってもよい。
【0050】
<酸化セルロースを製造する工程>
反応時におけるセルロース系原料濃度は特に限定されないが、10質量%以下が好ましく、一般的には、酸化剤を含む液にセルロース原料が添加された状態で反応させる。
また、反応系内における次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素濃度は、特に限定されないが、6質量%以上43質量%以下であることが好ましく、7質量%以上43質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上43質量%以下であることが更に好ましく、14質量%以上43質量%以下であることがより更に好ましい。反応系内の有効塩素濃度が高いほど反応が円滑に進む利点がある。一方、有効塩素濃度が43質量%を超える次亜塩素酸ナトリウムは不安定になりやすい。
【0051】
次亜塩素酸ナトリウムなどの次亜塩素酸またはその塩における有効塩素濃度はよく知られた概念であり、以下のように定義される。
次亜塩素酸は水溶液としてのみ存在する弱酸であり、次亜塩素酸塩は次亜塩素酸の水素が他の陽イオンに置換された化合物である。
例えば、次亜塩素酸塩である次亜塩素酸ナトリウムは溶液中にしか存在しないため、次亜塩素酸ナトリウムの濃度ではなく、溶液中の有効塩素量を測定する。次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素とは、次亜塩素酸ナトリウムの分解により生成する2価の酸素原子の酸化力が1価の塩素の2原子当量に相当するため、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の結合塩素原子は、非結合塩素(Cl)の2原子と同じ酸化力を持っていて、有効塩素=2×(NaClO中の塩素)となる。
具体的な有効塩素濃度の測定は、試料を精秤し、水、ヨウ化カリウム、酢酸を加えて放置し、遊離したヨウ素についてデンプン水溶液を指示薬としてチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定し測定する。
【0052】
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の有効塩素濃度の調整としては、有効塩素濃度が低い次亜塩素酸ナトリウム水溶液を濃縮する方法、有効塩素濃度が約43質量%である次亜塩素酸ナトリウム5水和物結晶をそのまま、または水で希釈して調整する方法がある。
有効塩素濃度を好ましい範囲である6質量%以上43質量%以下の範囲に調整する方法は前記の方法が挙げられる。これらの中でも、次亜塩素酸ナトリウム5水和物を用いて、酸化剤として有効塩素濃度に調整することが、自己分解が少ない、すなわち有効塩素濃度の低下が少なく、調整が簡便であるため好ましい。
【0053】
酸化剤である次亜塩素酸ナトリウム水溶液の使用量は、酸化反応が促進する範囲で選択することができる。
セルロース系原料と次亜塩素酸ナトリウム水溶液の混合方法は、特に限定はないが、操作の容易さの面から、次亜塩素酸ナトリウム水溶液にセルロース系原料を加えて混合させることが好ましい。
【0054】
前記酸化反応における反応温度は、15℃以上100℃以下であることが好ましく、20℃以上90℃以下であることがより好ましい。酸化反応を効率的に進めるために、反応系のpHを5以上14以下に維持することが好ましく、7以上14以下に維持することがより好ましい。pHを調整するために水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤、塩酸などの酸を添加することができる。
酸化反応の時間は、酸化の進行の程度に従って設定することができるが、例えば、15分以上50時間以下程度反応させることが好ましい。
平均繊維長、平均繊維幅、繊維長の標準偏差、尖度、歪度、および範囲、繊維幅の標準偏差、尖度、歪度、および範囲などを本発明の範囲に調整する観点から、酸化反応時間は、20分以上とすることが好ましく、20分超過とすることがより好ましく、25分以上とすることがさらに好ましい。
【0055】
前記酸化反応では、セルロース系原料に含まれるセルロースの1級水酸基がカルボキシ基に酸化されて酸化セルロースが生成する。本発明における酸化セルロースは、セルロース系原料の酸化物である酸化セルロースともいえる。また、セルロース系原料を次亜塩素酸またはその塩で酸化して酸化セルロースを得る場合、該酸化セルロースは、次亜塩素酸又はその塩によるセルロース系原料の酸化物である酸化セルロースともいえる。該酸化セルロースのカルボキシ基量は特に限定されないが、次工程で酸化セルロースを解繊してナノ化させてナノセルロースを製造するに際し、酸化セルロース1g当たりのカルボキシ基量は、0.2mmol/g以上3.0mmol/g以下であることが好ましく、0.35mmol/g以上3.0mmol/g以下であることがより好ましく、0.4mmol/g以上3.0mmol/g以下であることが更に好ましく、0.5mmol/g以上3.0mmol/g以下であることが一層好ましく、0.55mmol/g以上2.0mmol/g以下であることがより一層好ましい。また、前記酸化反応は2段階に以上に分けて実施してもよい。
【0056】
また、ナノセルロースを含むスラリーの粘度安定性を高めるためには、ナノセルロース中のカルボキシ基量は高いほど好ましく、0.4mmol/g以上であることが好ましい。酸化反応でのコストが高くなることから、0.8mmol/g以下であることが好ましい。
なお、酸化セルロースまたはナノセルロース中のカルボキシ基量は、次の方法で測定することができる。
【0057】
酸化セルロースまたはナノセルロースの0.5質量%スラリーに純水を加えて60mlに調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5にした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が穏やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下記式を用いて算出する。
カルボキシ基量(mmol/g酸化セルロースまたはナノセルロース)=a(ml)×0.05/酸化セルロース質量またはナノセルロース質量(g)
【0058】
なお、セルロース系原料にはタンパク質分が含まれる場合があるが、前記酸化反応が終了した後にろ過および水洗を行うことで混在するタンパク質分を取り除くことができる。ろ過および水洗の方法は、公知の方法が適用できる。
また、水洗水と水洗排水の導電率値などを比較することで、洗浄の終点到達の目安とすることができる。
【0059】
上記ろ過等の単離処理の前に、単離処理のろ過性や収率を向上させる観点から、酸化セルロースまたはナノセルロースを含む溶液に酸を添加し、例えばpHを4.0以下とし、酸化によって生成したカルボキシ基の少なくとも一部の塩型(-COO:Xはナトリウム、リチウム等の陽イオンを指す)からプロトン型(-COO+)とすることができる。
なお、赤外吸収スペクトルにおいて、プロトン型は1720cm-1付近に、塩型は1600cm-1付近にピークが見られることから、それらを区別することができる。
【0060】
酸化セルロースまたはナノセルロースを含む溶液において、単離処理のためにpHを4.0以下としていた場合には、その後の用に供する際の取り扱い性を向上させるために、例えば塩基を添加してpHを6.0以上とし、カルボキシ基の少なくとも一部を塩型(-COO:Xはナトリウム、リチウム等の陽イオンを指す)とすることができる。また、酸化セルロースまたはナノセルロースを含む溶液は、その溶媒を置換等することによって、酸化セルロースまたはナノセルロースを含む組成物としてもよい。酸化セルロースまたはナノセルロースを含む組成物においても、例えばpHを10以上のアルカリ条件とし、カルボキシ基の少なくとも一部を塩型(-COO:Xはナトリウム、リチウム等の陽イオンを指す)とすることができる。
【0061】
酸化セルロースまたはナノセルロースの製造方法は、酸化セルロースの物性を制御するため、得られた酸化セルロースまたはナノセルロースと、修飾基を有する化合物とを混合する工程をさらに含んでもよい。修飾基を有する化合物としては、酸化セルロースまたはナノセルロースが有するカルボキシ基や水酸基とイオン結合又は共有結合を形成し得る修飾基を有する化合物であれば、特に限定されない。イオン結合を形成し得る修飾基を有する化合物として、例えば第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、第4級アンモニウム化合物、及びホスホニウム化合物が挙げられる。共有結合を形成し得る修飾基を有する化合物として、例えばアルコール、イソシアネート化合物、及びエポキシ化合物が挙げられる。
以上のとおり、酸化セルロースまたはナノセルロースは、塩型、プロトン型、及び修飾基による変性型の態様を包含する。
【0062】
平均繊維長、平均繊維幅、繊維長の標準偏差、尖度、歪度、および範囲、繊維幅の標準偏差、尖度、歪度、および範囲などを本発明の範囲に調整する観点から、撹拌の際に反応系を均一に混ぜられるプロペラ型撹拌羽根等を使用することが好ましい。また、プロペラ型撹拌羽根の回転数は、50rpm以上500rpm以下の範囲とすることが好ましく、80rpm以上200rpm以下の範囲とすることが好ましい。
【0063】
<酸化セルロースを解繊処理してナノセルロースを製造する工程>
前記で得られた酸化セルロースは、解繊してナノ化することにより、ナノセルロースを製造することができる。本発明のナノセルロースには、セルロースナノクリスタルなどセルロースをナノ化したものを含む。
前記酸化セルロースを解繊する方法では、溶媒中でスターラーなどの弱い撹拌や、機械的解繊を行うことで、解繊時間の短縮が可能になる。ただし、機械的解繊が強すぎると、ナノセルロースが折れたり、切れたりする場合がある。
【0064】
前記機械的解繊の方法は、特に限定されないが、例えば、酸化セルロースを十分に溶媒で洗浄した後、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、二重円筒型ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、水流対抗衝突型分散機、ビーター、ディスク型リファイナー、コニカル型リファイナー、ダブルディスク型リファイナー、グラインダー、一軸または多軸混錬機などの公知の混合・撹拌装置が挙げられ、これらを単独または2種類以上組合せて溶媒中で処理することで、酸化セルロースをナノ化して、ナノセルロースを製造することができる。
平均繊維長、平均繊維幅、繊維長の標準偏差、尖度、歪度、および範囲、繊維幅の標準偏差、尖度、歪度、および範囲などを本発明の範囲に調整する観点から、超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
超高圧ホモジナイザーにより解繊を行う場合、解繊処理時の圧力は、好ましくは100MPa以上であり、より好ましくは120MPa以上であり、さらに好ましくは150MPa以上である。解繊処理回数は特に限定されないが、解繊を十分に進行させる観点から好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上である。
また、機械解繊時の解繊処理回数、酸化セルロース分散液の酸化セルロースの濃度などの解繊条件を調整することで、平均繊維長、平均繊維幅、繊維長の標準偏差、尖度、歪度、および範囲、繊維幅の標準偏差、尖度、歪度、および範囲などを本発明の範囲とすることができる。
【0065】
解繊処理に使用する溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、水、アルコール類、エーテル類、ケトン類、炭酸エステル類、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイドなどが挙げられ、これらを単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0066】
前記アルコール類としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、メチルセロソルブ、エチレングリコールおよびグリセリン等が挙げられる。
前記エーテル類としては、エチレングリコールジメチルエーテル、1,4-ジオキサンおよびテトラヒドロフラン等が挙げられる。
前記ケトン類としては、アセトンおよびメチルエチルケトン等が挙げられる。
前記炭酸エステル類としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネートおよびエチルメチルカーボネート等が挙げられる。
【0067】
溶媒として有機溶剤を選択することにより、前記工程で得られた酸化セルロースおよびそれを解繊して得られたナノセルロースの単離が容易となる。また、有機溶剤中に分散したナノセルロースが得られるため、有機溶剤に溶解する樹脂やその樹脂原料モノマー等との混合が容易となる。
【実施例
【0068】
以下、実施例および比較例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
<粘度安定性の評価方法>
石原産業社製酸化チタンR-820(5質量%)および各種ナノセルロースを含む水系スラリー(50g)について、スラリーの初期粘度が、以下に記載する方法で粘度測定した際に300mPa・sとなるようにナノセルロース添加量を変えて作製した。スラリーを作製するための混合ではシンキー社のミキサー「あわとり練太郎ARE-310」(ミックスモード、公転:2000rpm、自転:800rpm、20分間)を使用した。
そして、作製直後(初期粘度)と1週間静置後の粘度を測定し、下記式より粘度変化率を算出すると共に、以下の判定基準に従って粘度安定性を判定した。
粘度変化率(%)=(1週間静置後のスラリーの粘度)/(作製直後のスラリー粘度)×100
粘度安定性の判定基準(粘度変化率の絶対値)
A:105%未満
B:105%以上、110%未満
C:110%以上、115%未満
D:115%以上
なお、静置は室内(23±2℃)とした。
【0070】
<粘度測定方法>
スラリーの初期粘度は、スパチュラで泡が入らない程度の速さで撹拌した後、東機産業社のE型粘度計(TV-22)にて25℃、100rpm(せん断速度200s-1)の条件で測定した。1週間静置後の粘度も、上記機器にて同条件で測定した。
【0071】
<ナノセルロースの繊維長と繊維幅の測定方法>
得られたナノセルロース分散液を純水で1000~1000000倍に希釈し、それをマイカ基材上で自然乾燥させ、オックスフォード・アサイラム製走査型ブローブ顕微鏡「MFP-3D infinity」を用いて、ACモードで、ナノセルロースの形状観察を行った。
繊維長については、得られた画像を画像処理ソフトウェア「ImageJ」を用いて二値化し解析を行った。繊維100本以上について、繊維長=「周囲長」÷2として数平均繊維長を求めた。
繊維幅については、「MFP-3D infinity」に付属されているソフトウェアを用いて、繊維50本以上について、形状像の断面高さ=繊維幅として数平均繊維幅を求めた。
【0072】
<実施例1>
セルロース系原料として、針葉樹パルプ(SIGMA-ALDRICH社 NIST RM 8495, bleached kraft pulp)を5mm角にハサミで切断し、大阪ケミカル社製「ワンダーブレンダーWB-1」にて、25,000rpmで1分間処理して、綿状に機械解繊した。
ビーカーに、有効塩素濃度が42質量%である次亜塩素酸ナトリウム5水和物結晶を350g入れ、純水を加えて撹拌し有効塩素濃度を21質量%とした。そこへ、35質量%塩酸を加えて撹拌し、pH11の水溶液とした。
前記次亜塩素酸ナトリウム水溶液を新東科学社製の撹拌機(スリーワンモータ、BL600)にてプロペラ型撹拌羽根を使用して100rpmで撹拌しながら恒温水浴にて30℃に加温した後、前記セルロース系原料を50g加えた。
セルロース系原料を供給後、同じ恒温水槽で30℃に保温しながら、48質量%水酸化ナトリウムを添加しながら反応中のpHを11に調整して、30分間、撹拌機にて同条件で撹拌を行った。
反応終了後、目開き20μmのPTFE製メッシュフィルターを使用して、吸引ろ過により生成物を固液分離し、得られた酸化セルロースを純水で洗浄した。
酸化セルロースに純水を加え5%分散液を作製し、スギノマシン社製の超高圧ホモジナイザー「スターバースト ラボ HJP-25005」にて200MPaで、10パス処理し、ナノセルロース水分散体を得た。
なお、超高圧ホモジナイザーでは、内蔵された超高圧解繊部に酸化セルロース水分散液を循環通液させて解繊を進める。その解繊部への通液1回分を1パスと呼んでいる。
ナノセルロース中のN-オキシル化合物由来の残留窒素成分は、微量全窒素分析装置(三菱ケミカルアナリテック社製、装置名:TN-2100H)を用いて窒素量として測定し、原料パルプからの増加分を算出した結果、1ppm以下であった。
【0073】
<実施例2>
超高圧ホモジナイザーでのパス回数を15パスにした以外は実施例1と同条件とした。
【0074】
<実施例3>
セルロース系原料として、日本製紙社製の粉末セルロース(KCフロックW-100GK)を使用した以外は実施例1と同条件とした。
【0075】
<実施例4>
セルロース系原料として、ティーディーアイ社の粉末セルロース(VP-1)を使用した以外は実施例1と同条件とした。
【0076】
<実施例5>
解繊する際の酸化セルロース分散液の酸化セルロース濃度を2質量%にした以外は実施例1と同条件とした。
【0077】
<実施例6>
解繊する際の酸化セルロース分散液の酸化セルロース濃度を2質量%にした以外は実施例3と同条件とした。
【0078】
<実施例7>
解繊する際の酸化セルロース分散液の酸化セルロース濃度を2質量%に、超高圧ホモジナイザーでのパス回数を8パスにした以外は、実施例3と同条件とした。
【0079】
<実施例8>
解繊する際の酸化セルロース分散液の酸化セルロース濃度を3質量%にした以外は実施例3と同条件とした。
【0080】
<比較例1>
酸化反応時の撹拌をスターラーで撹拌させたこと、酸化セルロースに純水を加えて1%分散液を作製し、ヒールッシャー社製の超音波ホモジナイザー「UP-400S」にてCYCLE0.5、AMPLIYUDE50の条件で10分間解繊した以外は実施例1と同条件とした。
なお、超音波ホモジナイザーでは、容器に入れた酸化セルロース水分散液に超音波発振部を浸漬し、発振される超音波にて解繊を進めた。
【0081】
<比較例2>
酸化反応の時間を20分にした以外は、実施例4と同条件とした。
【0082】
<比較例3(TEMPO酸化)>
ビーカーに、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシラジカル(TEMPO、Sigma-Aldrich社)0.8g、臭化ナトリウム(富士フィルム和光純薬社)5gを入れ、純水5000mLを加えて新東科学社製の撹拌機(スリーワンモータ、BL600)にてプロペラ型撹拌羽根を使用して200rpmで撹拌し溶解させた。
恒温水浴にて25℃に加温した後、セルロース系原料として、針葉樹パルプ(SIGMA-ALDRICH社 NIST RM 8495, bleached kraft pulp)を綿状に機械解繊したものを50g加え、0.1M-水酸化ナトリウム溶液を加え、pH10の水溶液とした。次いで、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(工業用グレード)131.5gを加え反応を開始させた。次亜塩素酸ナトリウム水溶液を供給後、同じ恒温水槽で25℃に保温しながら、0.1M水酸化ナトリウムを添加しながら反応中のpHを10に調整して、120分間、撹拌機にて同条件で撹拌を行った。
反応終了後、目開き20μmのPTFE製メッシュフィルターを使用して、吸引ろ過により生成物を固液分離し、得られた酸化セルロースを純水で洗浄した。
酸化セルロースに純水を加え0.5%分散液を作製し、スギノマシン社製の超高圧ホモジナイザー「スターバーストラボ」にて200MPaで3パス処理し、ナノセルロース水分散体を得た。なお、ナノセルロース中のN-オキシル化合物由来の残留窒素成分は、実施例1と同様の条件で窒素量として測定し、原料パルプからの増加分を算出した結果、5ppmであった。
【0083】
実施例1~8および比較例1~3で得られたナノセルロースについて、下記表1に結果をまとめた。
なお、表1におけるセルロース系原料は以下のとおりである。
・針葉樹:針葉樹パルプ(SIGMA-ALDRICH社 NIST RM 8495, bleached kraft pulp)を綿状に機械解繊したもの
・KC:日本製紙社製の粉末セルロース(KCフロックW-100GK)
・VP:ティーディーアイ社の粉末セルロース(VP-1)
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】