(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-12
(45)【発行日】2025-03-21
(54)【発明の名称】アボカドの評価方法及び評価装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20250313BHJP
G01N 21/01 20060101ALI20250313BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
G01N21/01 D
(21)【出願番号】P 2024139595
(22)【出願日】2024-08-21
【審査請求日】2024-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2024044892
(32)【優先日】2024-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】524111905
【氏名又は名称】KMT株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】524109119
【氏名又は名称】馬場 嘉朗
(73)【特許権者】
【識別番号】524111916
【氏名又は名称】株式会社ディーエムアール
(73)【特許権者】
【識別番号】524109120
【氏名又は名称】TRIF合同会社
(73)【特許権者】
【識別番号】524109131
【氏名又は名称】SSE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬場 嘉朗
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】寺井 藤雄
(72)【発明者】
【氏名】小関 浩史
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0181496(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107064056(CN,A)
【文献】ULLAH, R. et al.,Non-invasive assessment of mango ripening using fluorescence spectroscopy,Optik,2016年,Vol.127,pp.5186-5189,http://dx.doi.org/10.1016/j.ijleo.2016.03.049
【文献】LAI, A. et al.,Analysis of the main secondary metabolites produced in tomato (Lycopersicon esculentum, Mill.) epica,Postharvest Biology and Technology,2007年,Vol.43,pp.335-342,doi:10.1016/j.postharvbio.2006.09.016
【文献】斎藤嘉人、外7名,励起蛍光マトリクスを用いたアボカド(Persea americana)の脂質量予測,農業食料工学会誌,2021年,第83巻第4号,第300頁-第302頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/74
G01N 21/84 - G01N 21/958
G01N 33/00 - G01N 33/46
A01G 5/00 - A01G 7/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光をアボカドの表皮に照射して前記アボカドの表皮に含まれる自家蛍光物質を励起する励起工程と、
励起された前記自家蛍光物質から発せられる蛍光を測定する測定工程と、
前記蛍光における第一波長域の蛍光強度及び第二波長域の蛍光強度に基づいて前記アボカドを評価する評価工程と、を含み、
前記第一波長域はクロロフィルの蛍光領域を含み、前記第二波長域はカロテノイドの蛍光領域を含み、
前記評価工程において、
前記第一波長域におけるクロロフィル由来の二以上の蛍光ピークに基づいて算出される第一蛍光強度比と、前記第一波長域におけるクロロフィル由来の蛍光ピーク及び前記第二波長域におけるカロテノイド由来の蛍光ピークに基づいて算出される第二蛍光強度比と、を算出して前記アボカドを評価する、アボカドの評価方法。
【請求項2】
前記励起光は、中心波長が410nm以上480nm未満である、請求項1に記載のアボカドの評価方法。
【請求項3】
前記測定工程は、前記励起光の中心波長よりも10nm以上長い波長の蛍光を測定する工程である、請求項2に記載のアボカドの評価方法。
【請求項4】
複数の励起光源と、受光部と、評価部と、表示部と、を備え、
前記受光部は、クロロフィルの蛍光領域を含む第一波長域の蛍光強度及びカロテノイドの蛍光領域を含む第二波長域の蛍光強度を測定可能に構成され、
前記評価部は、
前記第一波長域におけるクロロフィル由来の二以上の蛍光ピークに基づいて算出される第一蛍光強度比と、前記第一波長域におけるクロロフィル由来の蛍光ピーク及び前記第二波長域におけるカロテノイド由来の蛍光ピークに基づいて算出される第二蛍光強度比と、を算出してアボカドの評価結果を算出可能に構成され、
前記表示部は、前記評価結果を表示可能に構成されている、評価装置。
【請求項5】
複数の前記励起光源は、前記受光部を囲むように、且つ、各前記励起光源の投光軸が、前記受光部の側に傾斜するように配置されている、請求項
4に記載の評価装置。
【請求項6】
複数の前記励起光源及び前記受光部を被覆するように配置された遮光部材を更に備え、前記遮光部材は、複数の前記励起光源から見た投光方向及び前記受光部から見た受光方向を開放するように配置されている、請求項
5に記載の評価装置。
【請求項7】
前記励起光源は、その光源中心波長が410nm以上480nm未満である、請求項
4に記載の評価装置。
【請求項8】
前記受光部は、光学フィルタを有し、前記光学フィルタは、前記励起光源の光源中心波長よりも10nm以上長い波長の光を透過させるロングパスフィルタを含む、請求項
7に記載の評価装置。
【請求項9】
前記表示部は、前記評価結果として、前記第一波長域及び前記第二波長域におけるピーク強度を表示可能な、請求項
4に記載の評価装置。
【請求項10】
前記表示部は、前記評価結果として、前記評価結果に基づく所定の色彩を表示可能な、請求項5~
9の何れかに記載の評価装置。
【請求項11】
前記励起光源の投光軸の傾斜角度は、10°以上20°未満であり、
前記遮光部材の長さは、25mm以上35mm未満である、請求項
6に記載の評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に光学的手法によって青果を非侵襲的、非破壊的に評価、検査する方法、及び、そのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
青果は、その鮮度(熟度)や食味等を事前に評価した上で、適正な値付けや流通が行われることが好ましい。しかし、実食や抽出検査のために青果が侵襲、破壊されてしまった時点で、その青果の商品価値は大きく下がってしまうことに加え、このような方法では全数検査ができない。
【0003】
このため、従来、青果の鮮度や食味等は、人の目による外観、触れた又は持った感触、軽く叩いた際の音声、発せられる匂い、等に基づいて、非侵襲的且つ簡易的に評価、推定されてきた。
【0004】
上記したような手法は、一消費者による青果の購買判断には非常に有用である一方、属人的な技能によるところが大きく、青果の鮮度や食味等の評価をより厳密に行うには不十分な側面があった。
【0005】
こういった状況から、主に光学的手法によって青果の鮮度や食味等を非侵襲的且つ定量的に評価、検査する方法や、そのための装置が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、ブドウに励起光を照射した際の蛍光に基づく指標から、糖度、カラーチャート値、クロロフィル濃度等の特性値を決定し、出荷時期の判断を行うための評価デバイスや評価方法が記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、野菜に含まれるクロロフィルを励起した際に発せられる蛍光に基づいて野菜の鮮度や熟度を検知することが可能な鮮度検知部を備える、食品保管庫(冷蔵庫)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2023-109722号公報
【文献】特開2023-180924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、青果に含まれるクロロフィルを励起して発せられる蛍光に基づいて、その濃度や含有量を調べて青果の非破壊評価を行う手法が存在するが、クロロフィルのみを指標とした場合、正確な評価が困難な青果もいくつか存在する。
【0010】
例えば、非破壊では正確な評価が困難な青果の一つにアボカドが挙げられる。
ブドウやマンゴー等の一般的な果実の表皮が薄く柔らかいのに対し、アボカドは厚く硬い表皮で覆われていることが特徴である。
即ち、表皮の柔らかい果実に対しては、光源光を内部に進入させて内部情報を多く得られるのに対し、アボカドのような厚く硬い表皮を持つ果実に対しては、光源光を内部に進入させることができず内部情報が得られない、という問題があった。
【0011】
本発明は上記したような問題に鑑みてなされたものであり、より正確なアボカドの非破壊評価を行う方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、下記[1]~[13]に示す技術思想である。
[1]励起光をアボカドの表皮に照射して前記アボカドの表皮に含まれる自家蛍光物質を励起する励起工程と、励起された前記自家蛍光物質から発せられる蛍光を測定する測定工程と、前記蛍光における第一波長域の蛍光強度及び第二波長域の蛍光強度に基づいて前記アボカドを評価する評価工程と、を含み、前記第一波長域はクロロフィルの蛍光領域を含み、前記第二波長域はカロテノイドの蛍光領域を含む、アボカドの評価方法。
[2]前記励起光は、中心波長が410nm以上480nm未満である、[1]に記載のアボカドの評価方法。
[3]前記測定工程は、前記励起光の中心波長よりも10nm以上長い波長の蛍光を測定する工程である、[1]又は[2]に記載のアボカドの評価方法。
[4]前記評価工程において、前記第一波長域における蛍光ピーク及び前記第二波長域における蛍光ピークの蛍光強度比に基づいて、前記アボカドを評価する、[1]~[3]の何れかに記載のアボカドの評価方法。
[5]複数の励起光源と、受光部と、評価部と、表示部と、を備え、前記受光部は、クロロフィルの蛍光領域を含む第一波長域の蛍光強度及びカロテノイドの蛍光領域を含む第二波長域の蛍光強度を測定可能に構成され、前記評価部は、前記第一波長域の蛍光強度及び前記第二波長域の蛍光強度に基づいてアボカドの評価結果を算出可能に構成され、前記表示部は、前記評価結果を表示可能に構成されている、アボカドの評価装置。
[6]複数の前記励起光源は、前記受光部を囲むように、且つ、各前記励起光源の投光軸が、前記受光部の側に傾斜するように配置されている、[5]に記載の評価装置。
[7]複数の前記励起光源及び前記受光部を被覆するように配置された遮光部材を更に備え、前記遮光部材は、複数の前記励起光源から見た投光方向及び前記受光部から見た受光方向を開放するように配置されている、[5]又は[6]に記載の評価装置。
[8]前記励起光源は、その光源中心波長が410nm以上480nm未満である、[5]~[7]の何れかに記載の評価装置。
[9]前記受光部は、光学フィルタを有し、前記光学フィルタは、前記励起光源の光源中心波長よりも10nm以上長い波長の光を透過させるロングパスフィルタを含む、[5]~[8]の何れかに記載の評価装置。
[10]前記表示部は、前記評価結果として、前記第一波長域及び前記第二波長域におけるピーク強度を表示可能な、[5]~[9]の何れかに記載の評価装置。
[11]前記表示部は、前記評価結果として、前記評価結果に基づく所定の色彩を表示可能な、[5]~[10]の何れかに記載の評価装置。
[12]前記第一波長域は、680nm以上750nm未満である、[2]に記載のアボカドの評価方法。
[13]前記励起光源の投光軸の傾斜角度は、10°以上20°未満であり、前記遮光部材の長さは、25mm以上35mm未満である、[7]に記載の評価装置。
【0013】
[1]のような方法により、アボカドの表皮が含有するクロロフィル及びカロテノイドの各々に由来する蛍光を複合的な評価指標として、より正確なアボカドの非破壊評価を行うことができる。
特に、アボカドのような厚く硬い表皮を持つ果実に対しては、光源光を内部に進入させることが難しいが、[1]のような方法によれば、表皮から得られる情報に基づいて、アボカド内部の熟度等をより正確に評価することができる。
【0014】
[2]に記載の波長域の光を励起光に用いる方法は、紫外光を長く照射した場合のような不可逆的損傷をアボカドに与えるリスクを抑え、クロロフィル及びカロテノイドの由来の蛍光と励起光を弁別でき、且つ、励起に十分なエネルギーをクロロフィル及びカロテノイドに与えることができる。
【0015】
[3]のような方法は、クロロフィル由来の蛍光及びカロテノイド由来の蛍光の同時検出を比較的容易に行うことができる。
【0016】
[4]のような方法により、クロロフィル由来の蛍光強度をリファレンスとして、カロテノイド由来の蛍光強度に基づく評価をより正確に行うことができる。
【0017】
[5]のような装置は、本発明のアボカドの評価方法を容易に行うことができる。
【0018】
[6]に記載の励起光源の配置は、近距離に対する励起光照射において、充分な光量が確保できる点で有利である。
【0019】
[7]のような装置は、光源と評価対象の間において、励起光を評価対象に集中させ、且つ、自然光の影響を抑制し、精度の良い評価を行うことができる。
【0020】
[8]に記載の波長域の光を励起光源に用いる装置は、紫外光を長く照射した場合のような不可逆的損傷をアボカドに与えるリスクを抑え、クロロフィル及びカロテノイドの由来の蛍光と励起光を比較的容易に弁別でき、且つ、励起に十分なエネルギーをクロロフィル及びカロテノイドに与えることができる。
【0021】
[9]のような装置は、クロロフィル由来の蛍光及びカロテノイド由来の蛍光の同時検出を比較的容易に行うことができる。
【0022】
[10]のような装置の使用者は、表示部に表示された第一波長域及び第二波長域におけるピーク強度に基づいて、装置による評価結果を検証することができる。
【0023】
[11]のような装置は、評価結果を視覚的に迅速に得ることができるため、大量のアボカドの非破壊評価に好適である。
【0024】
[12]のような方法は、クロロフィル由来の蛍光のみならず、熟度に伴う脂肪酸割合の変化に由来する蛍光強度の変化も考慮して、アボカドの熟度をより正確に評価することができる。
【0025】
[13]のような装置は、分光器直下に光源光が集中するため、光源光が進入しにくいアボカドのような果実の表皮からも、蛍光強度を高い効率で得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、クロロフィル由来の蛍光のみならず、カロテノイド由来の蛍光も評価指標に含め、より正確なアボカドの非破壊評価を行うことが可能な評価方法及び評価装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態に係る評価方法を説明するフローチャートである。
【
図2】本発明の励起光源波長とロングパスフィルタについて説明する図である。
【
図3】本発明の励起光源波長とロングパスフィルタについて説明する図である。
【
図4】蛍光強度比とアボカドの熟度の相関性を説明する図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る評価装置の機能構成を説明する図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る評価装置を説明する図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る評価装置を説明する図である。
【
図8】本発明の実施例に係るアボカドの外観写真である。
【
図9】本発明の実施形態に係る評価装置の使用態様を説明する図である。
【
図10】評価対象のアボカドにおける蛍光強度比に基づく散布図である。
【
図11】評価対象のアボカドにおける蛍光強度比に基づく散布図である。
【
図12】従来の評価装置と本発明の評価装置を比較する概念図である。
【
図13】励起光源の角度及び遮光部材の長さの調整について説明する図である。
【
図14】蛍光スペクトル分析及びGC/FIDの対象アボカドの外観写真である。
【
図15】
図14に示した各アボカドの3次元蛍光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を用いて本発明の実施形態に係るアボカドの評価方法及び評価装置を説明する。なお、以下に示す実施形態は本発明の一例であり、本発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、本発明の実施形態に係る評価装置を、符号Xで示す。
【0029】
[アボカドの評価方法]
以下、
図1~3を用いて、本発明の実施形態に係るアボカドの評価方法を詳細に説明する。
【0030】
<励起工程>
励起工程S10は、励起光ELをアボカドFVの表皮に照射してアボカドFVの表皮に含まれる自家蛍光物質(クロロフィルやカロテノイド等)を励起する工程である。
【0031】
励起工程S10において、アボカドFVの表皮に含まれるクロロフィル及びカロテノイドを、中心波長が同等の励起光ELで同時に励起するために、中心波長が410nm以上480nm未満の励起光ELが好適に用いられる。なお、この理由については後述する。
【0032】
<測定工程>
測定工程S20は、励起工程S10で励起された自家蛍光物質から発せられる蛍光FLを測定する工程である。
測定工程S20において、特に励起光ELとカロテノイド由来の蛍光FLと、を弁別するために、励起光ELの中心波長よりも10nm以上長い波長の蛍光FLが好適に測定される。このような測定工程S20は、励起光ELの中心波長よりも10nm以上長い波長の光を透過させるロングパスフィルタを用いる蛍光測定により実現することができる。
【0033】
以下、
図2、
図3を用いて、励起光源波長とロングパスフィルタの選択について説明する。
【0034】
図2は、UV光源(波長365nm)と、青色可視光源(波長450nm)と、を用いて測定された、アボカド(アボカドFV)の反射蛍光プロファイルを比較する図である。
図2(A)に示すように、UV光源励起による反射蛍光プロファイルは、波長500nm付近(510nm、550nm)のカロテノイド由来のピークは検出できているが、波長700nm付近(688nm、740nm)のクロロフィル由来のピークは検出できていない。
一方で、
図2(B)に示すように、青色可視光源励起による反射蛍光プロファイルによれば、波長700nm付近(688nm、740nm)のクロロフィル由来のピークは検出できているが、波長500nm(510nm、550nm)付近のカロテノイド由来のピークは励起光のピークと区別がつかなくなっている。
【0035】
図3は、青色可視光源(波長450nm)を用いて測定されるアボカドの表皮蛍光プロファイル(500~800nm)について、ロングパスフィルタ(波長460nm以上の光を透過)の有無を比較する図である。
図3(A)に示すように、ロングパスフィルタを用いない測定では、波長700nm付近のクロロフィル由来のピークは検出できているが、波長500nm付近のカロテノイド由来のピークは励起光のピークと区別がつかなくなっている(
図2(B)に相当)。
一方で、
図3(B)に示すように、波長460nm以上の光を透過させるロングパスフィルタを用いた場合、バックグラウンドの強度が半分程度となり、全体の感度が低下していることに加え、波長500~600nmのプロファイルが大きく変化する。
具体的に、励起光の影響が抑制され、波長520nm付近にカロテノイド系の光吸収に由来する谷が見られ、波長550nm付近にカロテノイド由来の蛍光ピークが見られるようになる。
【0036】
以上の通り、アボカドFVの表皮に含まれるクロロフィル及びカロテノイドを、中心波長が同等の励起光で同時に励起するために、中心波長が410nm以上480nm未満の励起光ELが好適に用いられる。
また、励起光ELとカロテノイド由来の蛍光FLと、を弁別するために、励起光ELの中心波長よりも10nm以上長い波長の蛍光FLが好適に測定される。
【0037】
<評価工程>
評価工程S30は、測定工程S20において測定された蛍光FLにおける第一波長域の蛍光強度及び第二波長域の蛍光強度に基づいてアボカドFVを評価する工程である。
本実施形態では、第一波長域:680~750nm、第二波長域:480~550nmがそれぞれ設定される。
なお、第一波長域の蛍光強度及び第二波長域は、実験環境や対象のアボカドFVの種類等により、上記と異なる波長領域が設定されてもよい。
【0038】
以下、具体的な評価方法について説明する。
【0039】
本発明者らは、600個のアボカドについて、熟練者による熟度官能検査と、第一波長域及び第二波長域における蛍光強度の測定を行った(励起工程S10及び測定工程S20の方法に準ずる)。
また、得られた蛍光強度に基づいて未熟・適熟・過熟群のそれぞれについて、クロロフィルに由来する蛍光ピーク(波長740nm)とクロロフィルに由来する蛍光ピーク(波長685nm)の蛍光強度比A
1と、カロテノイドに由来する蛍光ピーク(波長550nm)とクロロフィルに由来する蛍光ピーク(波長685nm)の蛍光強度比A
2を算出すると共に、これらに基づいてクロロフィル含有量及びカロテノイド含有量を算出した。これらの結果をまとめたものを
図4に示した。
【0040】
図4(A)によれば、蛍光強度比A
1は、未熟群において1.12、適熟群において1.01、過熟群において1.11という値をそれぞれ示しており、熟度とクロロフィル量の間には、未熟時と過熟時に比較して適熟時にクロロフィル量が少なくなる傾向があることが見て取れる。
【0041】
よって、アボカドの未熟・適熟・過熟群への分類評価において、クロロフィル由来の蛍光強度比A1のみを指標とした場合、即時的には適熟か否かのみを評価することができる。
【0042】
一方で、未熟又は過熟を評価する場合、一個体に対する経時的な測定が必要となり、即時的な評価が困難であることが推察される。
【0043】
図4(B)によれば、蛍光強度比A
2は、未熟群において0.02、適熟群において0.07、過熟群において0.11という値をそれぞれ示しており、熟度とカロテノイド量の間に正の相関があることが見てとれる。
【0044】
よって、未熟・適熟・過熟群について、上記した各値に基づいてA2の閾値や基準範囲を設定した評価基準を作成することで、評価対象のアボカドを各群に分類評価することができる。
【0045】
例えば、
図4(B)に示す結果に基づいて、A
2<0.05の場合は未熟、0.05≦A
2≦0.09の場合は適熟、0.09<A
2の場合は過熟、のように評価基準を設定することができる。
【0046】
なお、適熟と分類されるアボカドについては、出荷された後の追熟を考慮に入れた出荷時点の適熟(出荷適熟)及び購入後の喫食を想定した購入時点の適熟(購入適熟)の閾値や基準範囲を更に評価基準として含んでもよい。
【0047】
例えば、
図4(B)に示す結果に基づいて、A
2<0.05の場合は未熟、0.05≦A
2≦0.07の場合は出荷適熟、0.07<A
2≦0.09の場合は購入適熟、0.09<A
2の場合は過熟、のように評価基準を設定することができる。
このようにすることで、出荷と購入の両方の場面において、適切な評価を行うことができる。
【0048】
即ち、評価工程S30は、評価対象としたいアボカド群について予め定められた第一波長域における蛍光ピーク強度と第二波長域における蛍光ピーク強度の比を未熟・適熟・過熟等の官能指標と関連付けた判定基準を用い、評価対象のアボカドについて測定された第一波長域における蛍光ピーク強度と第二波長域における蛍光ピーク強度の比をその判定基準に照らすことで、評価対象のアボカドを評価する工程である。
【0049】
(アボカドが熟して)クロロフィルの消費が進むと、相対的にカロテノイドの蛍光ピーク強度比が増加するため、表皮におけるクロロフィル及びカロテノイドの蛍光ピーク強度比から、内部の熟度を推定評価することが可能となる。
【0050】
[アボカドの評価装置]
以下、
図5~7を用いて、本発明の実施形態に係るアボカドの評価装置を詳細に説明する。
【0051】
図5は、評価装置Xの機能構成を示すブロック図である。
図5に示すように、評価装置Xは、励起光源1と、受光部2と、評価部3と、表示部4と、を備える。
【0052】
複数の励起光源1は、その各々の光源中心波長が410nm以上480nm未満である、単色LEDである。特に、光源中心波長が450nm付近の青色LEDが好適に用いられる。
【0053】
受光部2は、光学フィルタ21を有する分光測定器であって、クロロフィルの蛍光領域における蛍光強度及びカロテノイドの蛍光領域である第二波長域の蛍光強度を測定可能である。
【0054】
光学フィルタ21は、励起光源1の光源中心波長よりも10nm以上長い波長の光を透過させるロングパスフィルタである。
なお、評価装置Xにおいては、光源中心波長が450nm付近の青色LEDが励起光源1として好適に用いられるため、波長460nm以上の波長の光を透過させるロングパスフィルタが光学フィルタ21として好適に用いられる。
【0055】
評価部3は、第一波長域における蛍光強度及び第二波長域における蛍光強度を含む分光測定結果に基づいてアボカドFVの評価結果を算出可能である。なお、評価結果としては、数値等の定量的な結果や、「未熟、適熟(出荷適熟、購入適熟)、過熟」等の定性的な結果を算出可能である。
【0056】
なお、評価部3の例としては、CPU(Central Processing Unit)、MPU(MicroProcessing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)やFPGA(Field Programmable GateArray)を含む回路等が挙げられる。
【0057】
また、評価部3は、更に記憶部(図示せず)を有してもよい。記憶部の例としては、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、SSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disk Drive)などが挙げられる。
評価部3が、記憶部を有する場合、所定件数の評価結果や評価条件等を記憶しておくことができる。
【0058】
表示部4は、液晶画面41と、色彩表示部42と、を有する。
【0059】
液晶画面41は、評価装置XによるアボカドFVの評価結果として、第一波長域における蛍光ピーク強度及び第二波長域における蛍光ピーク強度を、表示することができる。
【0060】
なお、液晶画面41としては、OLED(Organic Light Emitting Diode)と呼ばれる有機ELディスプレイが好適に用いられるが、文字や数値の描画と表示が可能な任意の素子を用いることができる。
【0061】
色彩表示部42は、評価装置XによるアボカドFVの評価結果に基づいて、所定の色彩を呈することができる。
例えば、評価装置XによるアボカドFVの評価結果が「未熟」であれば緑、「適熟」であれば青、「過熟」であれば赤といったように、色彩表示部42は、色彩を呈することができる。
【0062】
あるいは、評価装置XによるアボカドFVの評価結果が「未熟」であれば緑、「出荷適熟」であれば青、「購入適熟」であれば黄、「過熟」であれば赤といったように、色彩表示部42は、色彩を呈することができる。
【0063】
なお、色彩表示部42は、多色LED、あるいは単色LEDの組合せ等により好適に実現されるが、評価装置XによるアボカドFVの評価結果に基づいて、所定の色彩を呈することが可能であれば、LEDに限らず任意の素子を用いることができる。
また、色彩表示部42は、液晶画面41に含まれてもよい。
【0064】
図5に沿って、評価装置Xを用いたアボカドFVの評価方法を説明する。
まず、励起光源1からアボカドFVの表皮に対する励起光ELの照射によって、アボカドFVの表皮に含まれる自家蛍光物質(クロロフィルやカロテノイド等)が励起される(励起工程S10)。
励起された自家蛍光物質において、励起状態の電子が基底状態に戻る際に蛍光FLが発せられ、この蛍光FLを、受光部2が光学フィルタ21を通して受光し、分光測定する(測定工程S20)。
分光測定の結果から、特に第一波長域における蛍光強度及び第二波長域における蛍光強度に基づいて、評価部3がアボカドFVの評価結果を算出する(評価工程S30)
なお、評価装置XによりアボカドFVの評価を行った場合、その評価結果は表示部4の液晶画面41若しくは色彩表示部42又はその両方において、定量的(例:数値)若しくは定性的(例:未熟、適熟(出荷適熟、購入適熟)、過熟)又はその両方の形式で表示されうる。
【0065】
図6はそれぞれ、評価装置Xの(A)斜視図、(B)平面図、(C)底面図、である。
図6に示すように、評価装置Xは、励起光源1と、受光部2と、表示部4と、遮光部材5と、
図6に示していない内部の構成として評価部3を備える。
【0066】
図6(C)に示すように、複数の励起光源1は受光部2を囲むように設けられている。
また、遮光部材5は複数の励起光源1及び受光部2を被覆するように設けられている。
【0067】
なお、評価装置Xは、任意の起動用スイッチSと、給電やデータ授受等に用いられる任意のポートPと、を更に備えてもよい。
【0068】
図7は、評価装置Xの内部及び、励起光源1の配置や遮光部材5等の技術的意義等を説明する図である。なお、
図7では光軸を直線矢印にて示した。
【0069】
図7に示すように、複数の励起光源1は、その各々の投光軸が受光部2の側に傾斜するように設けられている。
受光部2を囲む複数の励起光源1の各々の投光軸が受光部2の側に傾斜するように設けられていることで、近距離に対する励起光照射において、充分な光量が確保できる。
本実施形態において、励起光源1の角度θは、10°~20°に設定される。
【0070】
遮光部材5は、複数の励起光源1から見た投光方向及び受光部2から見た受光方向を開放するように、これら複数の励起光源1と受光部2を被覆する。
即ち、遮光部材5は、励起光源1と評価対象のアボカドFVの間において、励起光ELをアボカドFVの表皮に集中させ、且つ、自然光の影響を抑制し、精度の良い評価を補助することができる。
本実施形態において、遮光部材5の長さLは、25~35mmの間、好ましくは30mmに設定される。
【0071】
<励起光源角度θ及び遮光部材長さLの最適化>
図12は、従来の光学デバイスと、本発明の評価装置Xの差異を説明する図である。上下の図は、光源及び遮光部材の設計と、これに対応する蛍光強度の位置分布を概念的に示す図である。
図12(a)に示すように、従来の光学デバイスは、光源1’を多数配置して積分領域を広くとり、積分領域内での蛍光強度の均一化を目的とした設計がなされていた。また、遮光部材5’は単に外光の遮断を意図したものであり、その長さの最適化まではなされていなかった。
一方、
図12(b)に示すように、本発明の評価装置Xは、積分領域は狭いものの、分光器直下の蛍光強度が最大となるように、分光器直下に複数の光源光を集中させるため、遮光部材5の長さと励起光源1の角度が最適化されている。
即ち、励起光源1の角度θ及び遮光部材5の長さLは、光源光が進入しにくいアボカドのような果実からも、蛍光強度を高い効率で得るために最適化された角度と長さとなっている。
【0072】
例えば、本発明の評価装置Xにおいて、励起光源角度θ及び遮光部材長さLは、下記の通り調整、最適化される。
まず、
図13(a)に示すような、白色アクリル板の下にカメラ等光学センサが設置された評価ツールを用意する。
次に、上記ツールのアクリル板部分に対して、評価装置Xの遮光部材5の端部を合わせて励起光源1を発光させると、
図13(b1)や
図13(b2)に示すように、励起光源1の角度θ及び遮光部材5の長さLに対応する輝度パターンが得られる。
この輝度パターンにおいて、複数の励起光源1のフォーカスが均一に、かつ、より中心に集まるように励起光源角度θ及び遮光部材長さLを調整することで、これらを最適化することができる。
【0073】
[実施例]
以下に示す方法(実施例、比較例)で、
図8に示すアボカドP、Q、Rを含む360個のアボカドを評価対象とした。なお、本実施例における評価の後に、官能検査を行った結果、P:未熟、Q:適熟、R:過熟と評価された。
【0074】
<実施例>
励起光源1として、各出力200mW程度の青色LED光源(波長450nm)を4個用いて、アボカド(FV)の表皮に対して励起光ELを照射した(励起工程S10)。
次に、アボカドの表皮から発せられる蛍光FLについて、波長460nm以上の光を透過させるロングパスフィルタを透過させた後、受光部2(分光器)を用いて蛍光プロファイルを測定した(測定工程S20)。
なお、
図9は、評価装置Xを用いて上記励起工程S10及び測定工程S20を行う様子を示す図である。
次に、アボカドを、各々得られた蛍光プロファイルにおける第一波長域:680~750nm、第二波長域:480~550nmのピーク強度に基づいて、それぞれ評価した(評価工程S30)。
具体的には、測定工程S20で得られた蛍光強度に基づいて、クロロフィルに由来する蛍光ピーク(波長740nm)とクロロフィルに由来する蛍光ピーク(波長685nm)の蛍光強度比A
1と、カロテノイドに由来する蛍光ピーク(波長550nm)とクロロフィルに由来する蛍光ピーク(波長685nm)の蛍光強度比A
2を算出し、その値に基づいてアボカドを分類評価した(
図10)。
図10に示すように、A
2<0.05の場合は未熟、0.05≦A
2≦0.09の場合は適熟、0.09<A
2の場合は過熟、のように評価基準を設定した場合、
図10に示すように、各アボカドはP:未熟、Q:適熟、R:過熟と評価され、事後の官能検査結果と一致した。
なお、例えば、評価装置Xを用いる場合、使用者は、励起光源1及び受光部2をアボカドFVの表皮に向けた状態で起動用スイッチSをオンにするだけで、励起工程S10、測定工程S20、及び評価部3にて行われる評価工程S30を含む本発明の評価方法を行うことができる。加えて、評価装置Xは、起動用スイッチSがオンになったとき、励起工程S10、測定工程S20、及び評価工程S30の後に表示部4にて評価結果を表示するところまでを一連の流れとして自動的に行うことができる。
【0075】
このように、本発明の方法によれば、外観やクロロフィル含有量等からは判断しにくいアボカド(アボカドFV)の熟度について、カロテノイド由来の蛍光を含む指標を用いてより正確な評価を行うことができる。
【0076】
<比較例>
比較例では、実施例と同様の励起工程S10及び測定工程S20の後、アボカドP、Q、Rを、各々得られた蛍光プロファイルにおける第一波長域:680~750nmのピーク強度に基づいて、それぞれ評価した(評価工程S30)。
具体的には、測定工程S20で得られた蛍光強度に基づいて、クロロフィルに由来する蛍光ピーク(波長740nm)とクロロフィルに由来する蛍光ピーク(波長685nm)の蛍光強度比A
1に基づいてアボカドを分類評価した(
図11)。
図11に示すように、A
1を評価指標として用いる場合、A
1≦1.10の場合は適熟、1.10<A
1の場合は未熟又は過熟、のような評価基準を設定すれば、各アボカドはP:未熟又は過熟、Q:適熟、R:未熟又は過熟と一応の評価を下すことができる。
しかし、アボカドP、Rのように、評価対象の未熟と過熟を区別することができなければ、評価対象が未熟であり追熟させるべきものか、あるいは過熟であり腐敗以前に処分すべきものなのかを、評価者は判断することができない。
【0077】
よって、クロロフィル由来の蛍光を指標とする従来方法と比較し、カロテノイド由来の蛍光を含む指標を用いる本発明の方法によれば、外観やクロロフィル含有量等からは判断しにくいアボカド(アボカドFV)の熟度について、より正確な評価を行うことができる。
また、カロテノイド由来の蛍光とクロロフィル由来の蛍光の両方を評価指標として用いる本発明の評価方法は、カロテノイド由来の蛍光に基づいて未熟、適熟、過熟を判定し、
クロロフィル由来の蛍光に基づいて適熟、未熟又は過熟を判定することができるため、カロテノイド由来の蛍光のみを指標とした場合よりも適熟判定の信頼性が高い。
【0078】
なお、上記の実施形態、実施例等において示した各構成や機能は、あくまでも一例であって、設計要求や実際的事情等に基づき種々変更可能である。
【0079】
<アボカドが含有する脂肪酸の割合と蛍光強度の関係>
本発明者らは、
図14に示すアボカドA~E(未熟~過熟)のヘタ部分(実線枠内)及び胴部分(破線枠内)について、下記の測定条件で3次元蛍光スペクトル分析を行った。
(測定条件)
測定装置:Fluorolog 3-22(HORIBA Jobin Yvon)
光源:キセノンランプ
検出器:光電子増倍管(PMT)
励起波長:250~750 nm(10 nm毎)
観測波長:~850 nm(2 nm毎)
スリット幅:励起側、観測側、共に 2 nm
時定数:0.02 s
【0080】
図15は、各アボカドA~Eについて、縦軸に励起波長、横軸に蛍光波長をとり、これらに対応する蛍光強度をヒートマップ形式で示した、3次元蛍光スペクトルである。
【0081】
また、表1は、アボカドA~Eの3次元蛍光スペクトル分析において、励起波長と蛍光波長で分類した発光成分L1~L6の発光強度を数値で示したものである。
【0082】
【0083】
ここで、発光成分L1は芳香環アミノ酸やタンパク質に、発光成分L2はビタミン類やカロテン等に、発光成分L4~L7はクロロフィルに、それぞれ由来するものと考えられる。
また、
図15及び表1より、熟したアボカドEにおいては、クロロフィル由来と考えられた発光成分L4~L7が他と比較してもやや高い傾向にあり、特に発光成分L4,L5が比較的高い強度を示している。
【0084】
よって、発光成分L4~L7の変化からは、単にクロロフィル含量の増加のみに留まらない、何らかの発光特性の変化が予想された。
【0085】
また、本発明者らは、
図14に示すアボカドA、E(未熟、過熟)について、下記の条件でGC/FID分析を行い、含有脂肪酸(パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸)の定量を行った。
(測定条件)
パルミチン酸標準品:富士フイルム和光純薬 試薬特級(純度98.2%)
オレイン酸標準品:富士フイルム和光純薬 生化学用(純度99.1%)
リノール酸標準品:富士フイルム和光純薬 和光一級(純度89.4%)
測定装置:GC6890(Agilent technologies)
分析カラム:TG-5SILMS(Thermo Fisher Scientific)
注入口温度:300 ℃
昇温プログラム(標準溶液):170 ℃→230 ℃
昇温プログラム(試料溶液):170 ℃→320 ℃
スプリット比:20
注入口ガス流量:2 mL/min(ヘリウム、定流量モード)
注入量:1 μL
検出器温度:300 ℃
【0086】
表2は、アボカドA、Eにおけるパルミチン酸、オレイン酸、リノール酸の各々のGC/FID分析について、分析条件及び各脂肪酸の試料中濃度を数値で示したものである。
【0087】
【0088】
また、表3は、GC/FID分析に基づく、アボカドA、Eにおけるパルミチン酸、オレイン酸、リノール酸の各々の定量値の概算を質量パーセント濃度で示したものである。
【0089】
【0090】
表3の数値に従い、アボカドA、Eにおける脂肪酸3成分の組成割合を概算すると、下記のようになる。
A:パルミチン酸14% オレイン酸76% リノール酸12%
E:パルミチン酸24% オレイン酸62% リノール酸14%
【0091】
即ち、アボカドA、Eの熟度及びGC/FID分析の結果から、アボカドが熟するにつれてオレイン酸の割合が減少し、パルミチン酸の割合が増加する傾向にあることが示唆された。
オレイン酸はアボカドが熟するにつれて、加水分解、遊離、酸化・分解を経て、揮発成分の一部となることで減少すると考えられる。
また、これに伴いパルミチン酸の割合が増加することが、アボカドをハイオイルな熟した状態に近づけると考えられる。
【0092】
ここで、3次元蛍光スペクトルにおける発光成分L4~L7(特に発光成分L4,L5)の変化から予想された、アボカドの発光特性の変化は、上記検討から、オレイン酸の減少及び/又はパルミチン酸の増加を伴う成分の変化に関連があると予想される。
【0093】
オレイン酸割合の減少及びパルミチン酸割合の増加は、一波長の変化でとらえることは難しいが、蛍光スペクトルの変化と脂肪酸の割合の変化の相関を解析することにより、アボカドの熟度をさらに正確に把握することができる。
【0094】
そして、脂肪酸割合による変化がよく表れた発光成分L4、L5の励起波長及び蛍光波長は、本発明におけるクロロフィルの励起蛍光領域(第一波長域:励起波長410~480nm、蛍光波長680~750nm)に重なるため、第一波長域の蛍光強度の変化は、アボカドの脂肪酸割合の変化を少なからず反映することが推定される。
【0095】
クロロフィル及びカロテノイド由来の蛍光に基づく直接的な熟度予測が成り立つ(
図4等)ことに加え、第一波長域の蛍光強度の変化にはアボカドの脂肪酸割合の変化を少なからず反映されることが上記の通り推定された。
従って、蛍光における第一波長域の蛍光(クロロフィル由来)及び第二波長域の蛍光(カロテノイド由来)に基づいてアボカドを評価する本発明は、脂肪酸割合というアボカド特有の要素も考慮し、一波長の変化に基づく評価手法よりも、さらに正確なアボカドの評価手法を提供することができる。
【符号の説明】
【0096】
X 評価装置
1 励起光源
2 受光部
21 光学フィルタ
3 評価部
4 表示部
41 液晶画面
42 色彩表示部
5 遮光部材
FV アボカド
EL 励起光
FL 蛍光
【要約】
【課題】より正確なアボカドの非破壊評価を行う方法を提供する。
【解決手段】励起光ELをアボカドFVに照射してアボカドFVに含まれる自家蛍光物質を励起する励起工程S10と、励起された自家蛍光物質から発せられる蛍光FLを測定する測定工程S20と、蛍光FLにおける第一波長域の蛍光強度及び第二波長域の蛍光強度に基づいて前記アボカドを評価する評価工程S30と、を含み、第一波長域はクロロフィルの蛍光領域を含み、第二波長域はカロテノイドの蛍光領域を含む。
【選択図】
図4