(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-12
(45)【発行日】2025-03-21
(54)【発明の名称】マラリアワクチン及びマラリア予防・治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/285 20060101AFI20250313BHJP
A61P 33/06 20060101ALI20250313BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20250313BHJP
A61K 39/23 20060101ALI20250313BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20250313BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250313BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20250313BHJP
C12N 15/30 20060101ALI20250313BHJP
C12N 15/863 20060101ALI20250313BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20250313BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20250313BHJP
A61K 39/015 20060101ALI20250313BHJP
【FI】
A61K39/285
A61P33/06
A61K35/76
A61K39/23
A61K48/00
A61P43/00 121
A61P37/04
C12N15/30
C12N15/863 Z
C12N15/864 100Z
C12N7/01
A61K39/015 ZNA
(21)【出願番号】P 2024501407
(86)(22)【出願日】2023-02-15
(86)【国際出願番号】 JP2023005232
(87)【国際公開番号】W WO2023157880
(87)【国際公開日】2023-08-24
【審査請求日】2024-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2022024221
(32)【優先日】2022-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022131078
(32)【優先日】2022-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(73)【特許権者】
【識別番号】505246789
【氏名又は名称】学校法人自治医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】592263207
【氏名又は名称】志田 壽利
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 栄人
(72)【発明者】
【氏名】伊從 光洋
(72)【発明者】
【氏名】志田 壽利
(72)【発明者】
【氏名】志田 壽利
(72)【発明者】
【氏名】水上 浩明
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-151617(JP,A)
【文献】特表2010-535466(JP,A)
【文献】特表2017-512498(JP,A)
【文献】特表2017-527293(JP,A)
【文献】特表2017-502674(JP,A)
【文献】国際公開第2007/091624(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/059911(WO,A1)
【文献】BAUZA K. et al.,Efficacy of a Plasmodium vivax Malaria Vaccine Using ChAd63 and Modified Vaccinia Ankara Expressing,Infection and Immunity,2014年,Vol.82, No.3,p.1277-1286
【文献】HILL A. V. S. et al,Prime-boost vectored malaria vaccines: progress and prospects,Human Vaccines,2010年,Vol.6, No.1,p.78-83
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含むマラリアワクチン組成物;
(1)prime用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えワクシニアウイルス、ここで、該CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及び該s25のアミノ酸配列をコードする遺伝子は、ヒンジ配列をコードする遺伝子を介して連結している、
(2)boost用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルス、ここで、該CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及び該s25のアミノ酸配列をコードする遺伝子は、ヒンジ配列をコードする遺伝子を介して連結している。
【請求項2】
CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えワクシニアウイルスを含むマラリアワクチンであって、ここで、該CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及び該s25のアミノ酸配列をコードする遺伝子は、ヒンジ配列をコードする遺伝子を介して連結しており、
さらに、該組換えワクシニアウイルスは、CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子、s25のアミノ酸配列をコードする遺伝子並びに該CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及び該s25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を連結するヒンジ配列をコードする遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルスをヒト又は動物に投与する前に、該ヒト又は動物に投与することを特徴とする、
マラリアワクチン。
【請求項3】
CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルスを含むマラリアワクチンであって、ここで、該CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及び該s25のアミノ酸配列をコードする遺伝子は、ヒンジ配列をコードする遺伝子を介して連結しており、
さらに、該組換えアデノ随伴ウイルスは、CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子、s25のアミノ酸配列をコードする遺伝子並びに該CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及び該s25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を連結するヒンジ配列をコードする遺伝子を含む組換えワクシニアウイルスをヒト又は動物に投与した後に、該ヒト又は動物に投与することを特徴とする、
マラリアワクチン。
【請求項4】
前記ワクシニアウイルスがB5R遺伝子を欠失したLC16株である、請求項1に記載のマラリアワクチン組成物。
【請求項5】
前記ワクシニアウイルスがB5R遺伝子を欠失したLC16株である、請求項2又は3に記載のマラリアワクチン。
【請求項6】
マラリア感染防御及びマラリア伝播阻止用である、請求項1又は4に記載のマラリアワクチン組成物。
【請求項7】
マラリア感染防御及びマラリア伝播阻止用である、
請求項2又は3に記載のマラリアワクチン。
【請求項8】
以下を含む、接種者に生涯免疫を賦与するマラリアワクチン組成物:
(1)prime用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えワクシニアウイルス、ここで、該CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及び該s25のアミノ酸配列をコードする遺伝子は、ヒンジ配列をコードする遺伝子を介して連結している
(2)boost用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルス、ここで、該CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及び該s25のアミノ酸配列をコードする遺伝子は、ヒンジ配列をコードする遺伝子を介して連結している
ここで、prime用である該組換えワクシニアウイルス及びboost用である該組換えアデノ随伴ウイルスの組み合わせ接種を接種者に2回以上行われることを特徴とする、
マラリアワクチン組成物。
【請求項9】
前記マラリアは、三日熱マラリアである、請求項1に記載のマラリアワクチン組成物。
【請求項10】
オオキネート転換阻害用である、請求項1又は4に記載のマラリアワクチン組成物。
【請求項11】
前記ヒンジ配列はG
nS配列であり、ここで、
nは2以上である、
請求項1に記載のマラリアワクチン組成物。
【請求項12】
前記G
nS配列はG
6Sである、請求項11に記載のマラリアワクチン組成物。
【請求項13】
前記ヒンジ配列はG
nS配列であり、ここで、
nは2以上である、
請求項2に記載のマラリアワクチン。
【請求項14】
前記G
nS配列はG
6Sである、請求項13に記載のマラリアワクチン。
【請求項15】
前記ヒンジ配列はG
nS配列であり、ここで、
nは2以上である、
請求項3に記載のマラリアワクチン。
【請求項16】
前記G
nS配列はG
6Sである、請求項15に記載のマラリアワクチン。
【請求項17】
前記ヒンジ配列はG
nS配列であり、ここで、
nは2以上である、
請求項8に記載のマラリアワクチン組成物。
【請求項18】
前記G
nS配列はG
6Sである、請求項17に記載のマラリアワクチン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、primeに組換えワクシニアウイルスを含みかつboostに組換えアデノ随伴ウイルスを含むマラリアワクチン組成物及び概組成物を使用したマラリア予防・治療方法に関する。
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願2022-24221号及び日本出願2022-131078号優先権を請求する。
【背景技術】
【0002】
マラリアは毎年2億人以上が感染し、50万人が死亡する世界3大感染症の一つである。治療薬はあるが、感染者全てを治療できる体制には程遠い。さらに、薬剤耐性のマラリア原虫の出現が危惧されている。そこで感染防御ワクチンの開発が待望されている。また、社会をマラリア感染から守る方法として、人から蚊そして人への伝播経路を遮断する方法の開発も嘱望されている。
Phase III臨床試験まで行われた感染防御ワクチンとしてGSK社のRTS,Sワクチン(マラリア抗原であるPfCSPとHBsAgとの融合タンパクと特殊アジュバントAS01を使用)があるが、わずか30%の有効率しかなかった。さらに、RTS,Sは3~4回の接種が必要である。ベッドネットでさえ使用率が低い地域において、3~4回ものワクチン接種を受けるための接種保健体制を確立するにはさらに莫大な費用が掛かる点も問題である。
また、大阪大学グループが開発中のBK-SE36ワクチン(Phase-I)は、赤血球期原虫を標的にしており症状軽減に主眼を置いている(非特許文献1)。一方、本発明のワクチンは、スポロゾイト・肝臓期原虫をターゲットとし、完全な感染防御(無症状)を目指している。
SANARIA社はマラリア原虫(sporozoite)を不活化したPfSPZワクチンを開発したが、4回以上の接種が必要である上に感染阻止率がわずか~30%であり、さらに保存と運搬にcold chainが不可欠であるため接種対象が軍隊、旅行者に限られる。
マラリア抗原を発現するチンパンジーアデノウイルスベクターで初回免疫(prime)し、ワクシニアウイルスMVA株(哺乳類で増殖できないワクシニアウイルス)で追加免疫(boost)する方法が報告されている。しかし、マウスで感染防御をするも、臨床実験ではわずか5~15%しか防御できなかった(非特許文献2)。さらに、フィールドトライアルで感染防御効果がないことが示された(非特許文献3)。
伝播阻止ワクチンとして、マラリア原虫の抗原タンパク質pfs25を用いたサブユニットワクチンが試みられている。しかし、短期間しか効果が持続しない。また、使用するアジュバント(IMX313)が独特であるために他のワクチン、例えばRTS,S(AS01をアジュバントとして使用)と混ぜて使用することができない。
2018年に本発明者らは、増殖できないvaccinia株(DIs, MVA)よりもずっと強い免疫をマウスに誘導するLC16m8Δ株(非特許文献4)と他のウイルスベクターを組み合わせた感染防御法を開発した(特許文献1)。
【0003】
(マラリアワクチンの開発状況)
現在、効果のあるマラリア対策は、殺虫剤を施した蚊帳で眠ること及びアルテミシニンベース混合治療(ACT: artemisinin-based combination therapy)である。
しかし、殺虫剤耐性蚊、アルテミシニン耐性原虫の出現の報告もあり、早急にマラリアワクチンの開発が必要とされている(参照:非特許文献5)。
現在最も開発が進んでいるマラリアワクチンとしてRTS,S(MosquirixTM)が知られている。RTS,Sは、熱帯熱マラリア原虫が宿主となるヒトの血流に初めて入る時、あるいは原虫が肝細胞に感染する時に、免疫を活性化することで原虫からヒトを守ることを目的として開発されている。RTS,Sは、マラリア原虫の感染、成熟、肝臓での増殖を妨げるように設計されており、肝臓で増殖した原虫が再度血流に入り赤血球への感染を経てマラリアを発症するリスクを軽減する(参照:非特許文献6)。
しかし、RTS,Sの第III相臨床試験の有効率はわずか30%であるので、新しい戦略・コンセプトのマラリアの開発が求められている(参照:非特許文献9)。
【0004】
(三日熱マラリアの感染拡大とワクチン開発の遅れ)
ヒトが罹患するマラリアには5種類あるが、熱帯熱マラリア95%以上、三日熱マラリア3%以上でこれら2つがマラリア感染症の大部分を占めている。研究が先行している熱帯熱マラリアは、短期間のうちに重症化し、死亡に至ることがある。一方、三日熱マラリアは症状がマイルドであり、また三日熱マラリア原虫の赤血球侵入においてレセプターとなるDuffy抗原がアフリカ人では陰性であるために感染症例が少ない、と考えられてきた。このためワクチン研究は大きく立ち遅れている。しかし近年、グローバル化、地球規模の温暖化、変異体の出現、さらには診断技術の向上により、感染地域が東南アジア・ブラジルからアフリカへと広がってきている(PLoS NeglTrop Dis 2019)。熱帯熱マラリアのみならず三日熱マラリアにも効果のある次世代マラリアワクチンの開発が求められているが(WHO MalariaReport 2020)、最も開発が進んでいる熱帯熱マラリアワクチンRTS,Sワクチン(GSK社)のアフリカでの第III相臨床試験の結果は、わずか31%の有効率で、7年間には効果が完全に消失。RTS,Sワクチン技術を三日熱マラリアワクチンに応用することは断念され、両方のマラリアに効くワクチン開発は遥か先との落胆的な予測となっている。
【0005】
(マラリアの治療方法)
マラリアの治療方法、特にマラリアワクチンに関して、下記の複数の報告がある。
【0006】
(特許文献2)
特許文献2は、「以下を含む組換えバキュロウイルスを含むマラリアワクチンであって、(1)マラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子及びDAFのアミノ酸配列をコードする遺伝子、又は、マラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子、(2)該遺伝子を発現可能なプロモーター、さらに、該組換えバキュロウイルスは、該マラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含むバキュロウイルス以外の組換えウイルス、該マラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子が導入されたプラスミドDNA、又は該マラリア抗原のアミノ酸配列を有するタンパク質を患者に投与した後に、該患者に投与することを特徴とする、該組換えバキュロウイルスを含むマラリアワクチン」を開示している。
しかし、特許文献2は、「本発明のマラリアワクチン組成物の構成」を開示又は示唆していない。
【0007】
(特許文献3)
特許文献3は、「一方が脊椎動物プロモーターで、他方がバキュロウイルスのプロモーターである連結したデュアル・プロモーターの下流に、少なくとも一つのウイルス粒子の構成成分になり得るタンパク質をコードする遺伝子と、少なくとも一つの免疫原性外来遺伝子とを含む融合遺伝子を連結することを特徴とする、デュアル・プロモーターと融合遺伝子が組み込まれた構造体を含むトランスファーベクターの製造方法」を開示している。
しかし、特許文献3は、「本発明のマラリアワクチン組成物の構成」を開示又は示唆していない。
【0008】
(特許文献4)
特許文献4は、「組換えオートグラファ核多角体病ウイルス(AcNPV)を有効成分とする医薬組成物であって、該組換えAcNPVが、少なくともポリヘドリンプロモーター及びCAGプロモーターが連結したデュアルプロモーターの制御下に以下のいずれかの融合遺伝子を含有することを特徴とする、医薬組成物」を開示している。
しかし、特許文献4は、「本発明のマラリアワクチン組成物の構成」を開示又は示唆していない。
【0009】
(特許文献5)
特許文献5は、「(a)ウイルスの外来エンベロープタンパク質をコーディングするヌクレオチド配列と、(b)前記エンベロープコーディング配列に作動的に連結された第1プロモーターと、(c)抗原タンパク質をコーディングするヌクレオチド配列と、(d)前記抗原コーディング配列に作動的に連結された第2プロモーターとを含む組換えバキュロウイルス」を開示している。
しかし、特許文献5は、「本発明のマラリアワクチン組成物の構成」を開示又は示唆していない。
【0010】
(特許文献6)
特許文献6は、「下記第1構成要素および第2構成要素を含み、前記第1構成要素および第2構成要素が、任意に、薬学的に許容可能な担体をさらに含む、キット。a)1以上の外来タンパク質、もしくは、前記外来タンパク質をコードする核酸、又は、それらの機能的部分を含む第1構成要素;および、b)組換え修飾ワクシニアウィルスアンカラ(MVA)を含み、前記MVAは、融合タンパク質をコードする核酸配列を有し、前記融合タンパク質は、ユビキチン又はその機能的部分、および、1以上の外来タンパク質又はそれらの機能的部分を含む、第2構成要素。」を開示している。
しかし、特許文献6は、「本発明のマラリアワクチン組成物の構成」を開示又は示唆していない。
【0011】
(特許文献7)
特許文献7は、「C4bpドメイン又はその変異体若しくはその断片をコードする核酸配列と、対象とする抗原をコードする核酸配列とを含むウイルスベクターを含む免疫原性組成物」を開示している。
しかし、特許文献7は、「本発明のマラリアワクチン組成物の構成」を開示又は示唆していない。
【0012】
(非特許文献7)
非特許文献7は、「Priming-boosting法により、アデノウイルスワクチン(ChAd63)接種後にワクシニアウイルスワクチン(MVA)を接種することによりマラリア感染防御効果が40%に達したこと」を開示している。
しかし、非特許文献7は、「本発明のマラリアワクチン組成物の構成」を開示又は示唆していない。
【0013】
(非特許文献8)
非特許文献8は、「FP9-CS(鶏痘ウイルスにCSPを組込んだ組換えウイルス)接種後にMVA-CS(ワクシニアウイルスにCSPを組込んだ組換えウイルス)を接種することによりマラリア感染防御効果が90%に達したこと」を開示している。
しかし、非特許文献8に記載の方法では、アジュバントを使用しており、当該アジュバントを使用しなかった場合には、マラリア感染防御効果が35%まで低下する。
さらに、非特許文献8は、「本発明のマラリアワクチン組成物の構成」を開示又は示唆していない。
【0014】
以上により、現状のマラリア感染防御効果は不十分であり、さらに向上させる必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【文献】PLoS ONE.8(5), e64073, 2013
【文献】J. Inf. Dis.211:1076-1086, 2015
【文献】PLoS ONE.13(12), e0208328, 2018
【文献】Proc.Natl. Acad. Sci. 102: 4152-4157 2005; Vaccine 27:966-971, 2009
【文献】ReviewArticle Malariain developing countries, (2007),2-5.doi:10.3855/jidc.4610
【文献】グラクソ・スミスクライン株式会社、"GSKのマラリアワクチンMosquirixTM(RTS,S)、 サハラ以南のアフリカ諸国における幼児でのマラリア予防について欧州の規制当局から承認勧告を受領"、[online]、2015年7月31日、[平成30年3月2日検索]、インターネット<URL:jp.gsk.com/jp/media/press-releases/2015/20150731-malaria_1/>
【文献】Infect.Immu. 82(3):1277-1286,2014
【文献】Hum. Vaccin.6(1):78-83,2010
【文献】N Engl JMed 367:2284-95,2012.
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2019-151617号公報
【文献】国際公開2016/059911号公報
【文献】国際公開2007/091624号公報
【文献】国際公開2009/020236号公報
【文献】国際公開2009/088256号公報
【文献】国際公開2006/077161号公報
【文献】国際公開2008/122817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の課題は、従来のマラリアワクチンと比較して、感染防御効果だけでなくマラリア伝播阻止効果にも優れたマラリアワクチン及びマラリア予防・治療方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために研究した結果、CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えワクシニアウイルスをprimeに用い、CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルスをboostに用いることにより、感染防御効果だけでなくマラリア伝播阻止効果にも優れたマラリアワクチン組成物であることを見出して、本発明を完成した。
【0019】
本発明は以下の通りである。
1.以下を含むマラリアワクチン組成物。
(1)prime用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えワクシニアウイルス
(2)boost用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルス
2.CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えワクシニアウイルスを含むマラリアワクチンであって、
さらに、該組換えワクシニアウイルスは、CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルスをヒト又は動物に投与する前に、該ヒト又は動物に投与することを特徴とする、
マラリアワクチン。
3.CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルスを含むマラリアワクチンであって、
さらに、該組換えアデノ随伴ウイルスは、CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えワクシニアウイルスをヒト又は動物に投与した後に、該ヒト又は動物に投与することを特徴とする、
マラリアワクチン。
4.前記ワクシニアウイルスがB5R遺伝子を欠失したLC16株である、前項1に記載のマラリアワクチン組成物。
5.前記ワクシニアウイルスがB5R遺伝子を欠失したLC16株である、前項2又は3に記載のマラリアワクチン。
6.マラリア感染防御及びマラリア伝播阻止用である、前項1又は4に記載のマラリアワクチン組成物。
7.マラリア感染防御及びマラリア伝播阻止用である、前項2、3又は5に記載のマラリアワクチン。
8.以下を含む接種者に生涯免疫を賦与するマラリアワクチン組成物:
(1)prime用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えワクシニアウイルス
(2)boost用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルス
ここで、prime用である該組換えワクシニアウイルス及びboost用である該組換えアデノ随伴ウイルスの組み合わせ接種を接種者に2回以上行うことを特徴とする、
マラリアワクチン組成物。
9.前記マラリアは、三日熱マラリアである、前項1に記載のマラリアワクチン組成物。
10.以下の工程を含む、マラリアの予防及び/又は治療方法:
1)prime用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えワクシニアウイルスをヒト又は動物に投与する工程;及び
2)boost用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルスを該ヒト又は該動物に投与する工程。
11.前記ワクシニアウイルスがB5R遺伝子を欠失したLC16株である、前項10に記載の方法。
12.マラリア感染防御及びマラリア伝播阻止用である、前項10に記載の方法。
13.前記マラリアは、三日熱マラリアである、前項10に記載の方法。
14.以下の工程を含む、接種者に生涯免疫を賦与する方法:
1)prime用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えワクシニアウイルスを接種者に投与する工程;及び
2)boost用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルスを該接種者に投与する工程、
ここで、prime用である該組換えワクシニアウイルス及びboost用である該組換えアデノ随伴ウイルスの組み合わせ接種を該接種者に2回以上行うことを特徴とする、
方法。
15.前記ワクシニアウイルスがB5R遺伝子を欠失したLC16株である、前項14に記載の方法。
16.マラリア感染防御及びマラリア伝播阻止用である、前項14に記載の方法。
17.前記マラリアは、三日熱マラリアである、前項14に記載の方法。
18.以下の(1)及び(2)をマラリアワクチン組成物の製造としての使用。
(1)prime用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えワクシニアウイルス
(2)boost用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルス
19.以下の(1)及び(2)を接種者に生涯免疫を賦与するマラリアワクチン組成物の製造としての使用。
(1)prime用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えワクシニアウイルス
(2)boost用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルス
20.オオキネート転換阻害用である、前項1又は4に記載のマラリアワクチン組成物。
【発明の効果】
【0020】
本発明のマラリアワクチンは、従来のマラリアワクチンと比較して、下記のいずれか1以上の効果を有する。
(1)高いマラリア感染防御効果
(2)高いマラリア感染防御効果及びマラリア伝播阻止効果
(3)boost後短期間でのマラリア感染防御効果
(4)長時間継続するマラリア感染防御効果
(5)2回接種での効果
(6) 接種者に生涯免疫を賦与する効果
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1~
図6はm8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)熱帯熱マラリアワクチン、
図7~
図11はm8Δ/AAV1-Pv(s25-CSP-S/P)三日熱マラリアワクチン、
図12~
図15はm8Δ/AAV5-Pf(s25-CSP)熱帯熱マラリアワクチンの記載を示す。
【
図1】m8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)ワクチン構成ならびに該ワクチンを接種後に行われた低用量PfCSP/Pbスポロゾイトチャレンジ試験における感染防御効果を示す。 (a) Pfs25-PfCSP融合タンパク質[Pf(s25-CSP)]を発現するm8Δ及びAAV1の構成を示す。 HAはヘマグルチニン、p7.5はp7.5プロモーター、pCMVieはサイトメガロウイルス最初期プロモーター、Sはシグナル配列、FはFLAGエピトープタグ、G6SはGGGGGGSヒンジ配列、Gは水疱性口内炎ウイルスGタンパク質膜貫通領域、ならびにWPREはwoodchuck hepatitis virus posttranscriptional regulatory elementを意味する。 (b) m8Δ-Pf(P7.5-CSP)-HA、m8Δ-Pf(P7.5-s25-CSP)-HA、AAV1-PfCSPあるいはAAV1-Pf(s25-CSP)で形質導入されたHEK293T細胞を溶解後、タンパク質をSDS-PAGEで分離した。モノクローナル抗体2A10(抗PfCSP抗体)及び4B7(抗Pfs25抗体)を用いて、該SDS-PAGEゲルからウエスタンブロットされたメンブレン上のバンドに対する反応性を調べた。 (c)
Balb/cマウスにm8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)(n = 10)及びm8Δ/AAV1-PfCSP(n= 10)を免疫し、感染防御効果をPBS対照群マウス(n =10)と比較した。感染防御効果は、最終免疫後28日目のマウスにPfCSP/Pbスポロゾイト1,000匹をチャレンジ後、血液塗抹標本を作製し、1%寄生虫血症に到達する日までの日数をもって評価した。P値(
**** P<0.0001)はLog-Rank(Mantel-Cox)検定を用いて計算した。 (d) 上記
図1(c)
のマウスにおけるm8Δ初回免疫後41日目(Priming;P)及びAAV1追加免疫後27日目(Boosting; B)の末梢血を用い、PfCSP及びPfs25に対するIgG抗体価を測定した。P値(
**** P<0.0001)は、マン・ホイットニーのU検定を用いて計算した。 (e) ICRマウスにm8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)(n= 10)を免疫し、感染防御効果をPBS対照群マウス(n =10)と比較した。感染防御効果は、最終免疫後40日目のマウスにPfCSP/Pbスポロゾイト1,000匹をチャレンジ後、血液塗抹標本を作製し、1%寄生虫血症に到達する日までの日数をもって評価した。P値(
**** P<0.0001)はLog-Rank(Mantel-Cox)検定を用いて計算した。 (f) 上記
図1(e)
のマウスにおけるm8Δ初回免疫後41日目(Priming;P )及びAAV1追加免疫後39日目(Boosting; B)の末梢血を用い、PfCSP及びPfs25に対するIgG抗体価を測定した。P値(
**** P<0.0001)は、マン・ホイットニーのU検定を用いて計算した。
【
図2】m8Δ/AAV1-s25-CSPワクチンを接種後に行われた高用量PfCSP/Pbスポロゾイトチャレンジ試験における感染防御効果を示す。 (a) (b) Balb/cマウスにm8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)(短期及び長期の両方でn = 10)及びAd /AAV1-Pf(s25-CSP)(短期n = 10、長期n = 7)を免疫し、感染防御効果をPBS対照群マウス(短期及び長期の両方でn= 10)と比較した。感染防御効果は、最終免疫後29日目(a、短期)と102日目(b、長期)のマウスにPfCSP/Pbスポロゾイト2,500匹をチャレンジ後、血液塗抹標本を作製し、1%寄生虫血症に到達する日までの日数をもって評価した。P値(
**** P<0.0001)はLog-Rank(Mantel-Cox)検定を用いて計算した。 (c) (d) 上記
図2(a)で感染防御したマウスの最終免疫後210日目まで定期的に採取された末梢血を用い、PfCSP(c)及びPfs25(d)に対するIgG抗体価を測定した。P値(
* p <0.05)は、Sidakの多重比較検定を使用した反復測定二元配置分散分析によって計算された。
【
図3】m8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)ワクチンの伝搬阻止効果を示す。 (a) (b) Balb/cマウスにm8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)(短期n = 3、長期n = 5)を免疫し、伝搬阻止効果をワクチン非接種対照群マウス(短期n = 3、長期n = 5)と比較した。伝搬阻止効果は、最終免疫後37日目(a、短期)と236日目(b、長期)のマウスにPb-Pfs25DR3(Pfs25遺伝子を導入したネズミマラリア原虫)の感染赤血球を接種して感染させた後、蚊を吸血させた。該吸血後10~12日目に、蚊の中腸を解剖し、オーシスト数を測定した。各データポイントは、単一の吸血蚊からのオーシスト数を表し、水平線は平均数を示す。伝搬抑制活性(TRA)は、該ワクチン接種マウスから吸血した蚊において非接種マウスから吸血した蚊と比較したオーシスト数の減少を示す。伝搬阻止活性(TBA)は、該ワクチン接種マウスから吸血した蚊において非接種マウスから吸血した蚊と比較したオーシスト陰性率を示す。
【
図4】m8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)ワクチンの複数回スポロゾイトチャレンジ試験に対する感染防御効果と伝搬阻止効果。 (a) Balb/cマウスにm8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)(n= 10)を免疫し、感染防御効果をPBS対照群マウス(n =10)と比較した。感染防御効果は、最終免疫後26日目のマウスにPfCSP-Tc/Pbスポロゾイト感染蚊を吸血チャレンジ(マウス1頭当たり3匹≦該感染蚊≦7匹)後、血液塗抹標本を作製し、1%寄生虫血症に到達する日までの日数をもって評価した(1回目感染防御)。P値(
**** P<0.0001)はLog-Rank(Mantel-Cox)検定を用いて計算した。 (b)上記
図4(a)で感染防御したマウス(n = 10)は、最終免疫後86日目(上記
図4(a)の吸血チャレンジの34日後)にPfCSP-Tc/Pbスポロゾイト2,500匹をチャレンジ後、血液塗抹標本を作製し、1%寄生虫血症に到達する日までの日数をもって2回目感染防御効果を評価した。P値(
**** P<0.0001)はLog-Rank(Mantel-Cox)検定を用いて計算した。 (c) 上記
図4(b)で感染防御したマウス(n = 10)は、最終免疫後100日目(上記
図4(b)のスポロゾイトチャレンジの40日後)にPfCSP/Pbスポロゾイト10,000匹をチャレンジ後、血液塗抹標本を作製し、1%寄生虫血症に到達する日までの日数をもって3回目感染防御効果を評価した。P値(
**** P<0.0001)はLog-Rank(Mantel-Cox)検定を用いて計算した。 (d) 上記
図4(c)で感染防御したマウス(n = 5、10頭より任意の5頭を選別)の伝搬阻止効果をワクチン非接種対照群マウス(n = 4)と比較した。伝搬阻止効果は、最終免疫後276日目(上記
図4(c)のスポロゾイトチャレンジの176日後)にPb-Pfs25DR3の感染赤血球を接種して感染させた後、蚊を吸血させた。該吸血後10~12日目に、蚊の中腸を解剖し、オーシスト数を測定した。各データポイントは、単一の吸血蚊からのオーシスト数を表し、水平線は平均数を示す。TRAのP値(
**** P<0.0001)はマン・ホイットニーのU検定を用いて計算した。TRAのP値(
**** P<0.0001)はフィッシャーの正確確率検定を用いて計算した。 (e)上記
図4(a)-(d)の該ワクチン免疫マウスの各チャレンジ前及び伝搬阻止実験前までに採取された末梢血を用い、PfCSP及びPfs25に対するIgG抗体価を測定した。P値(
*** P<0.001、
** P<0.01、
* P<0.05)は、各データポイントと最終免疫後25日目のデータを比較するために、ダネットの多重比較検定を使用した一元配置分散分析を用いて計算した。
【
図5】m8Δマラリアワクチンによる哺乳細胞表面上での抗原遺伝子発現を示す。HEK293T細胞はm8Δ-Pf(P7.5-CSP)-HAあるいはm8Δ-Pf(P7.5-s25-CSP)-HAで24時間形質導入された(それぞれMOI = 5)。 (a)該形質導入細胞は、メタノールで固定された後、Alexa Fluor 488が標識された2A10(抗PfCSP抗体)及びAlexa Fluor 594が標識された4B7(抗Pfs25抗体)で染色され、蛍光シグナルを蛍光顕微鏡で検出した。 (b)該形質導入細胞を回収後、FITCで標識された2A10(抗PfCSP抗体)及びHiLyteFluor
TM647で標識された4B7(抗Pfs25抗体)で染色し、フローサイトメトリーによって細胞表面上での抗原遺伝子発現を確認した。 (c)上記
図5(c)における該形質導入細胞のPfCSPに対する平均蛍光強度(MFI)を示す(n = 5)。 (d)上記
図5(c)における該形質導入細胞のPfs25に対する平均蛍光強度(MFI)を示す(n = 5)。
【
図6】上記
図1から
図5の各実験計画を図示する。AAV1-Pf(s25-CSP)による追加免疫時点を0日目に設定した。抗体価測定用の血清採取は、AAV1-Pf(s25-CSP)免疫、スポロゾイトチャレンジあるいは感染赤血球感染の前日、もしくは、感染防御後定期的に行われた。T.s. (tail scarification immunization) はマウス尾部での二又針による接種、i.m.は筋肉内接種、i.v.は静脈内投与ならびにi.p. は腹腔内投与を意味する。
【
図7】Pv(s25-CSP-S/P)の構造を示す(参照:配列番号8、9)。 (a) Pv(s25-CSP(S/P)人工合成遺伝子配列を示す。Pv(s25-CSP-S/P)遺伝子は、哺乳動物細胞で効率的に発現するようコドンを最適化している。a:GDRADGQPA, b:GDRAAGQPA, c:GAGNQPGAN。 (b) 組換えm8Δのコンストラクトを示す。7.5プロモーター下にPv(s25-CSP-S/P)遺伝子を挿入した。 (c) 組換えAAVのコンストラクトを示す。Pv(s25-CSP-S/P)遺伝子とVSV-Gタンパク質の膜貫通領域(G)を融合させ、その下流にWPREを挿入した。S, gp64シグナル配列; P7.5, 7.5プロモーター; pCMV, CMVプロモーター; F, フラグエピトープタグ; G
6S, GGGGGGSヒンジシークエンス; G, VSV-GTM; WPRE, woodchuck hepatitis virus posttranscriptional regulatory element。 CSP-Sal(配列番号10:CSP-Sal from Plasmodiumvivax)及びCSP-PNG(配列番号11:CSP-PNG from Plasmodiumvivax)は、
Plasmodium vivax由来を使用した。
【
図8】m8Δ/AAV1-Pv(s25-CSP-S/P)ワクチンのウエスタンプロッティングと間接蛍光抗体法の結果を示す。 (a) (b) ウエスタンプロッティングを用いたm8Δ/AAV1-Pv(s25-CSP-S/P)を導入した哺乳類細胞におけるPvCSP-Sal(a)およびPvCSP-PNG(b)の発現確認を示す。HEK293T細胞にMOI=1のm8Δ-Pv(P7.5-s25-CSP-S/P)-HA又はMOI=10
5のAAV1-Pv(s25-CSP-S/P)ワクチンを感染させた。24時間後に細胞を溶解し、10%SDS-PAGEゲルにロードし、抗PvCSP-Sal 抗体2F2(a)及び抗PvCSP-PNG抗体2E10E9 (b)でイムノブロットした。 (c) 間接蛍光抗体法を用いたm8Δ/AAV1-Pv(s25-CSP-S/P)を導入した哺乳類細胞におけるPvs25及びPvCSP-Sal, -PNG発現の局在を示す。HEK293T細胞にMOI=0.04のm8Δ-Pv(P7.5-s25-CSP-S/P)-HAワクチン及びMOI=10
5のAAV1-Pv(s25-CSP-S/P)ワクチンにより感染させ24時間後にPFAにより固定し、R-PhycoerythrinLK23で標識した2F2 抗体、FluoresceinLK01で標識した2E10E9抗体 あるいはHiLyteFlour
TM 647 LK13で標識した抗Pvs25ポリクローナル抗体を用い、蛍光免疫染色を行った。細胞核はDAPIで可視化した。スケールバー=20μm。
【
図9】m8Δ/AAV1-Pv(s25-CSP-S/P)ワクチンの抗体価の結果を示す。 m8Δ/AAV1-Pv(s25-CSP-S/P)ワクチン免疫後の抗PvCSP-Sal IgG抗体価(a)及びPvs25 IgG抗体価(b)を示す。最終免疫前及び感染実験前に各免疫マウスから血清を回収し、ELISAにより測定した。有意差はKruskal Wallis testによって評価した。
**** p<0.0001
【
図10】m8Δ/AAV1-Pv(s25-CSP-S/P)ワクチンの感染防御効果の結果を示す。 m8Δ/AAV1-Pv(s25-CSP-S/P)ワクチン免疫マウスのスポロゾイトに対する感染防御効果を示す。最終免疫28日後に遺伝子組換え三日熱マラリア原虫 (PvCSP-Sal/Pb) 1,000匹を尾静脈投与によるチャレンジ感染実験を行い、感染防御効果を評価した (N=10)。感染防御効果は赤内期感染率が1%に達した時の割合として示した。有意差は、多重比較検定 (ANOVA)を用いて算出した。
**** p<0.0001
【
図11】m8Δ/AAV1-Pv(s25-CSP-S/P)ワクチンの伝播阻止効果の結果を示す。 最終免疫28日後の血清を用いてDMFAを実施した。各ドットはDMFAにより吸血した1匹の蚊中腸内のオーシスト数を示し、横線は平均数を示す。また、血清の希釈率に対するTRA及びTBAを示す。
【
図12】AAV5-Pf(s25-CSP)ワクチン構成ならびに該ワクチンのウエスタンプロッティングの結果を示す。 (a) Pfs25-PfCSP融合タンパク質[Pf(s25-CSP)]を発現するAAV5-Pf(s25-CSP)の構成を示す。 pCMVieはサイトメガロウイルス最初期プロモーター、Sはシグナル配列、FはFLAGエピトープタグ、HはGGGGGGSヒンジ配列、Gは水疱性口内炎ウイルスGタンパク質膜貫通領域、ならびにWPREはwoodchuck hepatitis virus posttranscriptional regulatory elementを意味する。 (b) ウエスタンプロッティングを用いたAAV5-Pf(s25-CSP)を導入した哺乳類細胞におけるPfs25及びPfCSP発現確認を示す。HEK293T細胞にMOI=10
5のAAV5-Pf(s25-CSP)ワクチンにより感染させた。24時間後に細胞を溶解し、10%SDS-PAGEゲルにロードし、2A10抗体及び4B7抗体でイムノブロットした。m8Δはm8Δ-Pf(P7.5-s25-CSP)-HA(
図1b)と同じサンプルを示す。
【
図13】m8Δ/AAV5-Pf(s25-CSP)ワクチンの抗体価の結果を示す。 Balb/cマウス(n=9)にm8Δ-Pf(P7.5-s25-CSP)-HAワクチン初回免疫Prime 6週間後にAAV5-Pf(s25-CSP)ワクチンを追加免疫Boostし、各時点での抗体価を測定した。Primeはm8Δ-Pf(P7.5-s25-CSP)-HAワクチン初回免疫6週間後の抗体価、BoostはAAV5-Pf(s25-CSP)ワクチンを追加免疫4週間後の抗PfCSP抗体価(a)、抗Pfs25抗体価(b)を示す。
【
図14】m8Δ/AAV5-Pf(s25-CSP)ワクチンの感染防御効果の結果を示す。 Balb/cマウスにm8Δ/AAV5-Pf(s25-CSP)(n= 9)を免疫し、感染防御効果をPBS対照群マウス(n =10)と比較した。感染防御効果は、最終免疫後40日目のマウスにPfCSP-Tc/Pbスポロゾイト2,500匹をチャレンジ後、血液塗抹標本を作製し、1%寄生虫血症に到達する日までの日数をもって評価した。P値(
**** P<0.0001)はLog-Rank(Mantel-Cox)検定を用いて計算した。
【
図15】m8Δ/AAV5-Pf(s25-CSP)ワクチンの伝播阻止効果の結果を示す。 最終免疫28日後の血清を用いてDMFAを実施した。各ドットはDMFAにより吸血した1匹の蚊中腸内のオーシスト数を示し、横線は平均数を示す。また、血清の希釈率に対するTRA及びTBAを示す。
【
図17】サル血液検査データ14項目の結果を示す。
【
図18】(a)サルでの抗PfCSP抗体価の結果を示す。(b)12wでの抗Pfs25抗体価の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(本発明のマラリアワクチン及びマラリアワクチン組成物)
本発明の「マラリアワクチン」は、以下を対象とする。
CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含むマラリアワクチンのprime用である組換えワクシニアウイルス又は該ウイルスを含むprime用マラリアワクチン。
CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含むマラリアワクチンのboost用である組換えアデノ随伴ウイルス又は該ウイルスを含むboost用マラリアワクチン。
本発明の「マラリアワクチン組成物」は、以下を含む。
(1)prime用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えワクシニアウイルス
(2)boost用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルス
以下に本発明のマラリアワクチン及びマラリアワクチン組成物を説明する。
【0023】
(遺伝子)
本明細書において、遺伝子(DNA分子)とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖及びアンチセンス鎖という各1本鎖DNAを包含する趣旨であり、またその長さに制限されるものではない。
従って、本発明のマラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子(ポリヌクレオチド)には、特に言及しない限り、ゲノムDNAを含む2本鎖DNA及びcDNAを含む1本鎖DNA(センス鎖)並びに該センス鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(アンチセンス鎖)及び合成DNA、それらの断片のいずれもが含まれる。
【0024】
(マラリア抗原のアミノ酸配列を有するタンパク質)
本発明で使用する「CSPのアミノ酸配列を有するタンパク質」は、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルスが提示する(提示可能な)CSPのアミノ酸配列と同じアミノ酸配列又は同じ機能を有しかつ相同性が90%以上、95%以上、98%以上、99%以上であれば、特に限定されない。さらに、自体公知の方法により、該アミノ酸配列に修飾等をしても良い。
本発明で使用する「s25のアミノ酸配列を有するタンパク質」は、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルスが提示する(提示可能な)s25のアミノ酸配列と同じアミノ酸配列又は同じ機能を有しかつ相同性が90%以上、95%以上、98%以上、99%以上であれば、特に限定されない。さらに、自体公知の方法により、該アミノ酸配列に修飾等をしても良い。
【0025】
(CSP)
CSP(CircumsporozoiteProtein)は、蚊から人に侵入するスポロゾイト期原虫の主要膜タンパク質である。約50kDaの分子量で、中央部には高い抗原性を有する4~8つのアミノ酸配列の10~40回の繰り返し配列が存在する。繰り返し配列に対するモノクローナル抗体をスポロゾイトと混ぜて肝細胞に振りかける侵入阻害実験により非常に高い侵入阻害を示すことから、CSPは肝細胞への侵入に重要な役割を果たしていると考えられている。
数あるマラリアの抗原の中でもCSPは、特にワクチン候補抗原として期待されており長年研究されている。熱帯熱マラリアのワクチンとして最も開発の進んでいるRTS,Sも熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)のCSP抗原(PfCSP)ワクチン抗原としている。また、PfCSPは4つのシステインで、立体構造を維持しており、この立体構造がマラリア原虫の肝臓侵入機構に重要な働きをしているという報告もある。
本発明で使用するCSPは、好ましくは、熱帯熱マラリア原虫由来の塩基配列であるPfCSP(配列番号1:Plasmodium falciparum)又はシグナル配列とGPIアンカーを欠損したLeu19-Val377のアミノ酸領域をコードする塩基配列を哺乳類細胞で発現するためにコドンを最適化したsPfCSP2(配列番号2:sPfCSP2 derived from Plasmodium falciparum)を用いるが、他のマラリア原虫CSP遺伝子(たとえば、三日熱マラリア原虫PvCSP遺伝子)でも使用可能である。
また、マラリア原虫の複数の原虫株に対応した複数種のCSP遺伝子を連結しても良い。
【0026】
加えて、本発明で使用するCSPは、以下も含む。
(1)CSPの保護化誘導体、糖鎖修飾体、アシル化誘導体、又はアセチル化誘導体。
(2)CSPと90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の相同性を有し、かつCSPと実質的同質の作用を持つタンパク質。
(3)CSPにおいて、100~10個、50~30個、40~20個、10~5個、5~1個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつCSPと実質的同質の作用を持つタンパク質。
さらに、本発明で使用するCSP遺伝子は、以下を含む。
(1)CSPのアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子。
(2)CSPのアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつCSPと実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(3)CSPのアミノ酸配列と90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の相同性を有し、かつCSPと実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
【0027】
(s25)
s25(sexual-stage 25-kDaタンパク質)は、マラリア原虫のオオキネート期のsexual-stage抗原に対する多段階標的抗原のタンパク質である{参照:MizutaniM. et al. "Baculovirus-vectored multistage Plasmodium vivax vaccineinduces both protective and transmission-blocking immunities against transgenicrodent malaria parasites." Infection and immunity (2014): IAI-02040.}。
本発明で使用するs25は、好ましくは、熱帯熱マラリア原虫由来の塩基配列を哺乳類に塩基配列を最適化したsPfs25(配列番号3:sPfs25 derived from Plasmodium falciparum、アミノ酸配列:配列番号4:sPfs25 derived from Plasmodium falciparum)を用いるが、他のマラリア原虫s25遺伝子(たとえば、三日熱マラリア原虫Pvs25遺伝子)でも使用可能である。
【0028】
加えて、本発明で使用するs25は、以下も含む。
(1)s25の保護化誘導体、糖鎖修飾体、アシル化誘導体、又はアセチル化誘導体。
(2)s25と90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の相同性を有し、かつs25と実質的同質の作用を持つタンパク質。
(3)s25において、100~10個、50~30個、40~20個、10~5個、5~1個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつs25と実質的同質の作用を持つタンパク質。
さらに、本発明で使用するs25遺伝子は、以下を含む。
(1)s25のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子。
(2)s25のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつs25と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(3)s25のアミノ酸配列と90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の相同性を有し、かつs25と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
【0029】
上記変異を有するタンパク質は、天然に存在するものであってよく、また天然由来の遺伝子に基づいて変異を導入して得たものであってもよい。変異を導入する手段は自体公知であり、例えば、部位特異的変異導入法、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法又はポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCRと略称する)などを単独で又は適宜組み合わせて使用できる。
例えば成書に記載の方法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー;村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社)に準じて、あるいはそれらの方法を改変して実施することができ、ウルマーの技術(ウルマー(Ulmer, K.M.)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666-671)を利用することもできる。ペプチドの場合、変異の導入において、当該ペプチドの基本的な性質(物性、機能、生理活性又は免疫学的活性等)を変化させないという観点からは、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸及び芳香族アミノ酸等)の間での相互の置換は容易に想定される。
【0030】
CSP遺伝子及びs25遺伝子は、好ましくは、ヒンジ配列を介して連結して導入することができる。このようなヒンジ配列は、CSP及びs25の細胞表面での発現に影響を与えなければ、特に限定されないが、配列番号6(Hinge sequence for Pfs25 and PfCSP)からなるアミノ酸配列が好ましく、配列番号7(Hinge sequence for Pfs25 and PfCSP)からなる塩基配列が好ましい。
そこで、本発明では、s25とCSPの間にヒンジ配列(例えば、配列番号6)を導入することが好ましい。さらに、本発明では、s25の立体構造保持を考慮して、[N末-s25-ヒンジ-CSP-VSG膜アンカー]の順番で融合することが好ましい。
【0031】
(組換えアデノ随伴ウイルス及びその製造方法)
アデノ随伴ウイルスは、自己増殖能はなく、パルボウイルス科の一属に分類され、一本鎖DNAからなるウイルスである。
本発明に用いるアデノ随伴ウイルス(ベクター)は、例えば、ヒトアデノ随伴ウイルス1型(AAV1)、AAV8、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV9{参照:Nieto et al. AAV Vectors Vaccines Against Infectious Diseases. FrontImmunol. 5 (2014)}、他のヒトアデノウイルス血清型あるいは他の動物種(たとえば、チンパンジー、ゴリラ)由来のアデノ随伴ウイルスを挙げることができ、特に限定されないが、骨格筋において導入遺伝子を長期間高発現するアデノ随伴ウイルス1型(AAV1)と皮内投与に適しているAAV5ベクターが好ましい。AAVベクターは病原性が低いため、安全性が高く、実用化までの課題が少ない。
マラリアワクチン開発では長期免疫持続性も不可欠な機能として要求される。AAVは非病原性ウイルスで、長期にわたり外来遺伝子を発現することができる。
組換えアデノ随伴ウイルスの製造方法として、CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子、及び必要に応じてウイルス粒子の構成成分になり得るタンパク質のアミノ酸配列をコードする遺伝子を自体公知(市販)のアデノ随伴ウイルスベクター作製用プラスミドに導入し、導入後のプラスミドを公知の方法によりヒト胎児腎臓由来細胞に形質導入し、培養する。次に、培養上清、あるいは培養細胞から、CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を発現する組換えアデノ随伴ウイルスを得る。
【0032】
(組換えワクシニアウイルス及びその製造方法)
本発明に用いるワクシニアウイルス(ベクター)は、その安全性に加え、人に対して好適な免疫反応を誘発する点において優れている。例えば、LC16株、LC16m8株、LC16mO株、DIs株、MVA株などを挙げることができるが、特に、それらのB5R遺伝子において1又は複数のヌクレオチドが置換、付加、挿入及び/又は欠失されていて正常な機能を有するB5R遺伝子産物を産生しないワクシニアウイルスベクターを用いるのが好ましい。
この様な正常な機能を有するB5R遺伝子産物を産生しないワクシニアウイルスベクターには、B5R遺伝子を欠失したLC16株、m8ΔB5R(LC16m8Δ株、LC16m8Δ2株)、mOΔB5R(LC16mOΔ株)、m8proB5RdTM、mOproB5RdTMなどがあるが、中でもB5R遺伝子を欠失したLC16株、m8ΔB5R(LC16m8Δ株、LC16m8Δ2株)及びmOΔB5R(LC16mOΔ株)を用いることが特に好ましい(参照:国際公開2012/053646号公報)。
なお、本明細書では、LC16mO株には、LC16mO株自体だけでなく、LC16mO株由来の株であるLC16m8Δ2株、LC16m8株、LC16mOΔ株、LC16m8Δ株、LC16m8ΔVNC110株(参照:Vaccines (Basel). 2014 Dec;2(4): 755-771.)等が含まれ、好ましくは、LC16m8Δ2株である。
ワクシニアウイルスLC16m8は国内で10万人以上の乳幼児に接種された安全性と有効性が保証された天然痘生ワクチンで、厚生省に認可されている。LC16m8Δはその安全性をさらに高めたワクチンベクターとして本発明者である志田博士と共同研究者木所博士により開発された (Kidokoro M and Shida H., Vaccines 2014, 2,755-771;doi:10.3390/vaccines2040755)。
本発明に用いるマラリア抗原のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えワクシニアウイルスの製造方法は、導入すべきマラリア抗原のポリペプチドをコードする遺伝子を連結したプラスミド(トランスファーベクター)を作製し、該プラスミドを、ワクシニアウイルスを感染させた細胞の中に導入し、その細胞の中で相同組み換えを生じさせることにより作製することができる。また、別の方法としては、導入すべきマラリア抗原のポリペプチドをコードする遺伝子断片を制限酵素で消化して、同酵素で消化したワクシニアウイルスゲノムに直接連結し、この組換えワクシニアウイルスゲノムを、ウイルス感染細胞に導入することによっても、作製することができる。
ワクシニアウイルスベクターの作製において、使用することができるプラスミドとしては、例えば、pSFJ1-10、pSFJ2-16、pMM4、pGS20、pSC11、pMJ601、p2001、pBCB01-3,06、pTKgpt-F1-3s、pTM1、pTM3、pPR34、pPR35、pgpt-ATA18-2、pHES1-3、pJW322、pVR1、pCA、pBHARなどを挙げることができる。
マラリア抗原のポリペプチドをコードする遺伝子の導入領域は、ワクシニアウイルスの生活環に必須でない遺伝子領域であり、例えば、赤血球凝集素(HA)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、B5R遺伝子(B4R遺伝子とB6R遺伝子の間)、Fフラグメントなどの領域を挙げることができる。例えば、HA遺伝子中にマラリア抗原のポリペプチドをコードする遺伝子が導入された組換え体では、HA遺伝子が導入された外来遺伝子によって分断され、機能を失う。そのためプラークはニワトリの赤血球を吸着しなくなるため白く見えるようになるので、組換え体を容易に選別することができる。なお、導入する遺伝子は、1又は複数のヌクレオチドが置換、付加、挿入及び/又は欠失させることによりウイルスの形質を変化させ、組換え体の選択が容易になるものが望ましい。
ワクシニアウイルスベクターを感染させる細胞としては、RK13細胞、Vero細胞、HeLa細胞、CV1細胞、COS細胞、BHK細胞、初代ウサギ腎細胞、BSC-1細胞、HTK-143細胞、Hep2細胞、MDCK細胞等を例示することができる(参照:国際公開2012/053646号公報)。
マラリア抗原のポリペプチドをコードする遺伝子を導入する際、該ペプチドをコードする遺伝子の上流に適当なプロモーターを機能し得る形で連結させることができる。そのようなプロモーターは特に限定されないが、例えば、7.5プロモーター(P7.5と称する場合がある)、ELプロモーター(ELと称する場合がある)、AT1プロモーター、SFJ1-10プロモーター(SFJと称する場合がある)、SFJ2-16プロモーター、7.5プロモーターの改良型プロモーター(7.5E)、mPH5プロモーター、11Kプロモーター、T7.10プロモーター、CPXプロモーター、HFプロモーター、H6プロモーター、T7ハイブリッドプロモーター等を例示することができる。
【0033】
(ワクチン抗原タンパクを感染細胞表面で発現させるための膜アンカー構成成分になり得るタンパク質)
本発明の組換えウイルスは、本発明で用いるウイルスがワクチン抗原タンパクを感染細胞表面で発現させるための膜アンカー構成成分になり得るタンパク質のアミノ酸をコードする遺伝子を含んでもよい。
本発明で用いるウイルスでワクチン抗原を感染細胞で発現させるための膜アンカー構成成分になり得るタンパク質のアミノ酸をコードする遺伝子としては、例えば、gp64タンパク質(GenBank Accession No. L22858)、水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質G(glycoprotein G)(VSV-G:GenBank Accession No. M21416 )、単純ヘルペスウイルス糖タンパク質(KOS:GenBank Accession No. K01760)、1型ヒト免疫不全ウイルスgp120 (GenBank AccessionNo.U47783)、ヒト呼吸器合胞体ウイルス膜糖タンパク質(GenBank Accession No.M86651)、A型インフルエンザウイルスヘマグルチニンタンパク質(GenBank AccessionNo. U38242)などの遺伝子又は該遺伝子の一部、あるいはバキュロウイルスに近縁のウイルスエンベロープタンパク質などの遺伝子又は該遺伝子の一部を例示でき、VSV-Gの膜貫通領域(VSV-G TM)(配列番号5:Vesicular stomatitis virus)が好ましい。
【0034】
(CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルス)
本発明のCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルスに含まれる遺伝子がコードするアミノ酸配列の組み合わせ及び順序は、特に限定されないが、好ましくはN末端側から順に、s25、ヒンジ配列、CSP及び水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質Gタンパク質の膜貫通領域(VSV-G TM)を含み、より好ましくはN末端側から順に、s25、ヒンジ配列、CSP及びVSV-G TMを含む。
【0035】
(組換えウイルスのワクチンとしての使用例)
本発明の組換えウイルスのワクチンとしての使用方法(予防・治療方法)としては、priming-boosting法を例示することができる。該方法では、以下の組み合せの組換えワクチンを接種者{ヒト又は動物(特に、哺乳動物を含む脊椎動物、例、愛玩動物、ウマ、ウシ、イヌ、ネコ、ウサギ、競馬ウマ)}に筋肉内、経鼻的、又は経気道的等に1回又は複数回投与する。
【0036】
ヒトへの投与方法は、すでに知られている投与方法も採用することができ、以下を例示することができるが、特に限定されない。
GSKのRTS,S/AS01ワクチンの第三相臨床試験 (N Engl JMed 367:2284-95, 2012)を基にして行う。
1回目免疫:対象であるヒトに皮下接種 CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えワクシニアウイルス (1×105~1×1010 pfu)
2回目免疫:6週間後に筋肉注射 CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルス(1×109~1×1014 vg)
なお、RTS,S/AS01ワクチンは3~4回の接種が必要であるが、本発明のマラリアワクチン組成物は原則2回の接種のみで効果を有する。
【0037】
(マラリアワクチン又はマラリアワクチン組成物)
本発明のマラリアワクチン又はマラリアワクチン組成物の組み合わせは、以下を例示することができるが特に限定されない。
prime用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含むワクシニアウイルス並びにboost用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含むアデノ随伴ウイルス
ここで、CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子としてはPfCSP又はPvCSPが好ましく、s25のアミノ酸配列をコードする遺伝子としてはPfs25又はPvs25が好ましく、組換えワクシニアウイルスとしてはm8ΔB5R (LC16m8ΔとLC16m8Δ2)が好ましく、組換えアデノ随伴ウイルスとしてはAAV1あるいはAAV5が好ましい。
本発明のマラリアワクチン又はマラリアワクチン組成物は、下記の実施例により、以下の用途に適していることを確認している。
CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含むワクシニアウイルスをprimeとし、CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含むアデノ随伴ウイルスをboostとして使用することにより優れた感染防御効果及び優れたマラリア伝播阻止効果を有する。
【0038】
本発明のマラリアワクチン組成物は、下記の実施例の結果より、アジュバントと併用することなく高い防御効果を示したので、アジュバントを必須の成分とする必要はないが、含めても良い。
本発明のマラリアワクチン組成物(マラリアワクチンも含む)は、PBS(リン酸緩衝化生理食塩水)又は生理食塩水等に懸濁した組換えウイルス懸濁液を局所(例えば、肺組織内、肝臓内、筋肉内及び脳内など)に直接注入、経皮膚的、経鼻的、経気道的に吸入、又は血管内(例えば、動脈内、静脈内及び門脈内)に投与できる。
【0039】
(マラリアの予防方法及び治療方法)
本発明では、マラリアの予防方法及び治療方法も対象とする。より詳しくは、prime/boost免疫法により、CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えワクシニアウイルスを、CSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルスを投与対象者(マラリア患者(マラリア発症前の予防対象者も含む))に筋肉内、経鼻的、又は経気道的に1回又は複数回投与する前に、該患者に筋肉内、経鼻的、又は経気道的に1回又は複数回投与する。
【0040】
(本発明のマラリアワクチン組成物の特徴)
本発明において、組換えアデノ随伴ウイルス及び組換えワクシニアウイルスを脊椎動物に投与すると組換えアデノ随伴ウイルス及び組換えワクシニアウイルス感染細胞表面に提示されたCSPタンパク質及びs25タンパク質がコンポーネントワクチンとして機能する。さらにCSPタンパク質及びs25タンパク質が哺乳動物の細胞内で産生され、その免疫賦活作用により、マラリア感染症の予防ないし治療剤として機能する。
【0041】
蚊から注入されたスポロゾイト期マラリア原虫は、血流に乗って肝臓に達し、侵入して増殖する。肝臓に達するまでのスポロゾイト期原虫には液性免疫応答が有効であり、肝臓に侵入してからの肝臓期原虫には細胞性免疫応答が必要である。1週間後に肝臓から出て、赤血球期へと移行する。赤血球期からある頻度でガメトサイトと呼ばれる生殖母体が生まれ、これを蚊が吸血すると蚊のステージが新たに始まる。本発明のLC16m8Δ/AAVワクチンはスポロゾイト~肝臓期及び蚊期を標的としており、スポロゾイト・肝臓期表面抗原CSPと蚊期表面抗原s25に対する液性・細胞性両免疫のハイブリッド型応答誘導が効果的に誘導できるようにデザインされており、以下の実施例の結果より「感染防御効果」及び「伝播阻止効果」を発揮する2価ワクチンである。
【0042】
(生涯免疫を賦与するマラリアワクチン組成物)
本発明のマラリアワクチン組成物は、下記の実施例の結果により、prime用である組換えワクシニアウイルス及びboost用である組換えアデノ随伴ウイルスの組み合わせ接種を接種者が2回以上(2回、3回、3回以上、4回、4回以上、5回又は5回以上)受けることにより、該接種者に生涯免疫を賦与することができる。
より詳しくは、該接種者は、免疫状態を1年、5年、10年、15年、20年、30年又は50年維持することができる。
【0043】
(三日熱マラリアの生活環とワクチン標的抗原)
三日熱マラリア原虫の特徴的な生活環は、ヒプノゾイトと呼ばれる肝臓休眠期であり、この休眠期にある原虫が数ヶ月から数年を経て肝臓から飛び出し、マラリアの再発が起こる。ヒプノゾイトには現行のマラリア特効薬アルテミニシンは効かない。唯一の薬剤であるプリマキンには、禁忌、副作用、耐性原虫出現等々の問題点があり使用が制限されており、診断や治療の遅延により重篤な病態や死亡につながる重大事例が報告されている。上述のアフリカでの広がりと合わせて、ワクチン開発の重要度は熱帯熱マラリアに匹敵する状況である。これにより、本発明のワクチン組成物では、ワクチン標的抗原は「感染防御ワクチン」としてスポロゾイト期PvCSP抗原および感染者から蚊への感染を防ぐ「伝搬阻止ワクチン」として蚊オオキネート期Pvs25抗原である。
【0044】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明に係る技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
すべての動物の飼育及び取り扱い手順は金沢大学動物衛生審査委員会によって承認済みである。すべての動物実験は動物の苦しみを最小限に抑えるように適切に処置した。
【実施例1】
【0046】
本実施例では、熱帯熱マラリアを対象とした。詳細は、以下の通りである。
<材料と方法>
(pVR1-Pf(P7.5-s25-CSP)-HA-VVプラスミドの構築)
pENTR-CAG-sPfCSP2-G2-sWPRE内のpfcsp遺伝子の下流には細胞膜発現アンカーであるvsv-g遺伝子の膜貫通領域が配列されているが、vsv-g遺伝子内にワクシニアウイルス転写ターミネータ“TTTTTCT”(T5NT)配列が存在する。
“TTTTTCT”配列を同一アミノ酸をコードするコドン配列“TTCTTCT”配列に置換するため、両端にPst IならびにHindIIIサイトを有し、かつ、“TTCTTCT”配列を有するvsv-g遺伝子を人工合成し、これをPstI/Hind IIIで切断後、Pst I/Hind IIIで切断したpENTR-CAG-sPfCSP2-G2-sWPREのvsv-g遺伝子と置換しpENTR-CAG-sPfCSP2-G2-sWPRE-Nheを作製した。
pENTR-CAG-sPfCSP2-G2-sWPRE-Nhe内のopen reading frameならびにwpre配列をpVR1トランスファーベクターに挿入するため、両端にAge IならびにMun Iサイトを有する組換え用プラスミドpUC57-Simple-sPfCSP2-VVを作製した。すなわち、両端にAge IならびにMunIサイトを有しNco Iサイトが直前に付与されたwpre配列を人工合成したpUC57-Simple-VV-WPREを作製後、Nco Iで切断されたpENTR-CAG-sPfCSP2-G2-sWPRE-Nheのopen reading frameならびにwpre配列をpUC57-Simple-VV-WPREのNcoIサイトに配置し、これをpUC57-Simple-sPfCSP2-VVとした。
m8ΔトランスファーベクターであるpVR1をXmaI/Eco RIで切断し、同部位にAge I/Mun Iサイトで切断したpUC57-Simple-sPfCSP2-VVのopen reading frameならびにwpre配列を配置し、これをpVR1-Pf(P7.5-CSP)-HA-VVとした。pVR1-Pf(P7.5-CSP)-HA-VVからWPRE配列を除去するため、Xma I/Fse Iサイトを両端に有するvsv-g遺伝子をPCR法で増幅した。
PCRのプライマーとしてpVSV-G-F1(CACCCGGGCGTTCGAACATCCTCACATTCAAGAC) ならびにpVSV-G-R7(TTTTTGGCCGGCCTTACTTTCCAAGTCGGTTCATC) を使用し、増幅した遺伝子産物はpCR2.1-TOPOベクターに挿入後、Xma I/Fse Iで切断した。vsv-g遺伝子を含む切断片はpVR1-sPfCSP2-VVのXma I/Fse Iサイトに挿入した。その結果、wpre配列が消失したpVR1-Pf(P7.5-CSP) -WPRE(-)-HA-VVを作製した。pVR1-Pf(P7.5-CSP) -WPRE(-)-HA-VVはm8Δ-Pf(P7.5-CSP)-G-WPRE(-)-HA(以後、m8Δ-Pf(P7.5-CSP)-HAと称する)ウイルス作製用のトランスファーベクターとして使用した。pVR1-Pf(P7.5-CSP) -WPRE(-)-HA-VVのEcoRI/XmaIサイトにpENTR-CAG-sPfs25-sPfCSP-G2-sWPREをEcoRI/XmaIで切断して得られたDNA断片を挿入してpVR1-Pf(P7.5-s25-CSP)-HA-VVを構築した。pVR1-Pf(P7.5-s25-CSP)-HA-VVはm8Δ-Pf(P7.5-s25-CSP)-HAウイルス作製用のトランスファーベクターとして使用した。
【0047】
(ワクシニアウイルスの作製)
組換えワクシニアウイルスm8Δ-Pf(P7.5-s25-CSP)-HAウイルスの作製方法
BHK細胞(ベビーハムスター細胞)に、トリポックスウイルスであるcanarypoxを感染させた後、リポフェクション法で、上記プラスミド[pVR1-Pf(P7.5-s25-CSP)-HA-VV)]と上記ワクシニアウイルスのゲノムを同時に遺伝子導入した。生じた子孫ウイルスをRK13細胞単層培養に感染させてプラークを作らせ、ニワトリ赤血球を用いたHA testによってHA(-)プラークを採取し、組換えワクシニアウイルスを分離した。
【0048】
(組換えアデノ随伴ウイルス及び組換えアデノウイルスの作製)
組換えアデノ随伴ウイルスAAV1-Pf(s25-CSP)ウイルス及び組換えヒトアデノウイルス5型AdHu5-Pf(s25-CSP)ウイルスの作製方法
AAV1-Pf(s25-CSP)ウイルス及びAdHu5-Pf(s25-CSP)ウイルスは、文献“Sci Rep 8, 3896,doi:10.1038/s41598-018-21369-y (2018)”、“Front Immunol10, 730, doi:10.3389/fimmu.2019.00730 (2019)”及び“FrontImmunol 10, 2412, doi:10.3389/fimmu.2019.02412 (2019)”を参照して、作製した。
【0049】
(イムノブロッティング)
ヒト胎児腎細胞HEK293T細胞を、48well-plateに播種した24時間後に、1の感染多重度(MOI)のm8Δ-Pf(P7.5-s25-CSP)-HA及びm8Δ-Pf(P7.5-CSP)-HA又はMOI=105のAAV1-Pf(s25-CSP)及びAAV1-PfCSPワクチンにより感染させた。感染の24時間後に細胞上清を除き、PBSで1回洗浄してから細胞溶解物(レムリバッファー)50μl/well加え29G針付きインシュリンシリンジで裁断してから95℃で5分間ボイルし、イムノブロッティングに供した。該細胞溶解物に2-メルカプトエタノールを加えた還元サンプルと、加えない非還元サンプルを用意した。10%ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミド(SDS-PAGE)ゲル上で電気泳動した。試料をImmobilon FL(登録商標)PVDF膜(MerckMillipore社)上に電気泳動的に展開した。該膜を0.1%Tween 20を含有するPBS(PBS-T)中の5%スキムミルクを用いて1時間ブロッキングした。還元サンプルを泳動・転写したPVDF膜には5%スキムミルクで1:10,000に希釈した抗PfCSP抗体2A10モノクローナル抗体(mAb)と共にインキュベートした。非還元サンプルを泳動・転写したPVDF膜には5%スキムミルクで1:10,000に希釈した抗Pfs25抗体4B7mAbと共にインキュベートした。PBS-Tで洗浄した後、ブロットを、5%スキムミルクで1:20,000に希釈したIRDye 800(Rockland Immunochemicals社)で標識したヤギ抗マウス二次抗体でプローブした。該膜をOdyssey infrared imager(LI-COR社)を用いて可視化した。分子量予測は、ExPASyサーバを用いて行った。
【0050】
{HEK293T細胞を用いたIndirect fluorescent assay (IFA)}
HEK293T細胞を、8well-chamberスライドに播種した24時間後に、MOI=0.02のm8Δ-Pf(P7.5-s25-CSP)-HAワクチンにより感染させた。感染の24時間後に細胞上清を除き、PBSで洗浄後にホルマリン液(non-permeabilizationbuffer)で室温20分間静置して固定した。PBSで2分間2回洗浄し、10% Normal Goat Serum(NGS)(Sigma-Aldrich Co. LLC)/PBSで1時間ブロッキングした。その後、10% NGS/PBSでAlexa Fluor 594で標識した4B7及びAlexa Fluor 488で標識した2A10をそれぞれ100倍及び200倍希釈し、各wellに加えて1時間遮光しながら放置した。PBS-Tで2分間5回洗浄し、Vectashield containing4,6’-diamidino2-phenylindole(DAPI;Vector Laboratories)で封入した。該スライドをLSM710 inverted laserscanning microscope (Carl Zeiss社)で可視化した。
【0051】
(HEK293T細胞を用いたFlow cytometry)
HEK293T細胞を、24well-plateに播種した24時間後に、MOI=5のm8Δ-Pf(P7.5-s25-CSP)-HA及びm8Δ-Pf(P7.5-CSP)-HAワクチンにより感染させた。感染の24時間後に細胞を回収し、細胞液を1%FBS/PBS溶液に置換し、Fluoresceinで標識した4B7及びAllophycocyaninで標識した2A10をそれぞれ100倍希釈した溶液を該細胞に加えて1時間遮光しながら放置した。該細胞は1%FBS/PBS溶液で洗浄後、4%パラホルムアルデヒド溶液で固定化し、FACSVerseTM; Flow Cytometer(BD社)で蛍光強度を定量した。
【0052】
(使用した哺乳動物及び原虫)
使用した哺乳動物及び原虫は、以下の通りである。
マウス:BALB/c雌マウス6週齢ならびにICR雌マウス6週齢を日本エスエルシー株式会社から入手し、1週間後に使用した。
マウスマラリア原虫:遺伝子組換えネズミマラリア{PfCSP発現P. berghei(Pb)PfCSP-Tc/Pb}(Insect Mol. Biol.2013, 22:41に記載) に感染したハマダラカ(Anopheles stephensi SDA500 strain)の唾液腺を解剖し、遺伝子組換えネズミマラリア原虫スポロゾイトを単離した。RPMI 1640 Medium(Gibco, Life Technologies社)を加えてホモジェナイズした後、遠心して上清を回収し、光学顕微鏡を用いてスポロゾイト数を計測した。1,000、2,500あるいは10,000スポロゾイト/匹(body)となるように調製した。
【0053】
(ワクチン接種)
SLCから購入したBalb/cマウス(7週齢雌)を各群10匹で使用した。m8Δワクチン(m8Δ-Pf(P7.5-CSP)-HA及びm8Δ-Pf(P7.5-s25-CSP)-HAは1× 107 pfu/100 μL/mouse、AAV1ワクチン(AAV-PfCSP及びAAV-Pf(s25-CSP))は1 × 1010 vg/100 μL/mouse、AdHu5ワクチン(AdHu5-s25-CSP)は5 × 107 pfu/100 μL/mouseになるようにPBSで希釈した。各m8Δワクチンは二叉針を用いた種痘接種法(ts)でマウス尾部根元に免疫し、AAV1ワクチンあるいはAdHu5ワクチンは29G針付きインシュリンシリンジを用いた左大腿部筋肉接種(im)で免疫した。免疫は異種 prime-boost法により、m8ΔワクチンあるいはAdHu5ワクチンを初回免疫し(Prime)、6週後にAAV1ワクチンで追加免疫(Boost)を行った。
【0054】
{Enzyme-linkedimmunosorbent assay (ELISA)}
抗PfCSP抗体価を、文献{Iyori M, Yamamoto DS, Sakaguchi M,Mizutani M, Ogata S, Nishiura H., et al. DAF-shielded baculovirus-vectoredvaccine enhances protection against malaria sporozoite challenge in mice. MalarJ (2017) 16(1):390. doi:10.1 186/s12936-017-2039-x.}に記載されたようにELISAによって定量化した。
抗Pfs25抗体価に関しては、m8Δ及びAAV1各ワクチンに使用されているのと同じpfs25遺伝子を用いて構築されたPfs25抗原を、コムギ胚芽無細胞(WGCF)タンパク質発現系(CellFreeSciences社)を用いて産生した{Miura K, Takashima E,Deng B, Tullo G, Diouf A, Moretz SE., et al. Functional comparison of Plasmodiumfalciparum transmission-blocking vaccine candidates by the standardmembrane-feeding assay. Infect Immun (2013)81(12):43 77. doi:10.1128/IAI.01056-13}。400 ng/ウェルのPfCSP又は200 ng/ウェルのPfs25をプレコートされたCostar(登録商標)EIA/RIAポリスチレンプレート(Corning Inc社)をPBS中の1%ウシ血清アルブミン(BSA)でブロッキングし、次いで連続希釈した血清試料、陰性対照及び陽性対照(それぞれmAb 2A10又はmAb 4B7)をインキュベートした。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)(Bio-Rad lab, Inc社)でコンジュゲート化した抗マウスIgGを二次抗体として使用した。洗浄後、ABTS (2’-azino-bis (3-ethylbenzothiazoline-6-sulphonicacid)(SIGMA)及びH2O2を加えたクエン酸リン酸バッファーによって吸収波長414 nmで検出した。エンドポイント力価は、陰性対照の値(<0.1)を0.15 U上回る414 nmでの光学密度を得られる最終希釈の逆数として表した。実験で使用したすべてのマウスは、免疫前に血清陰性であった。
【0055】
{チャレンジ感染試験}
(スポロゾイト投与によるチャレンジ試験)
PfCSP-Tc/Pb に感染したAnopheles stephensiハマダラカの唾液腺よりスポロゾイトを摘出した。これをRPMI-1640培地(Gibco, Life Technologies社)に懸濁した。AAV1-Pf(s25-CSP)ワクチンを追加免疫したマウスは26日後に1,000匹もしくは2,500匹のスポロゾイトを含む100 μLの培地を尾静脈投与された。感染の有無は尾から得られた薄い血液塗抹標本のギムザ染色により、4日目から14日目までモニターした。感染防御効果は、スポロゾイト投与後、原虫血症が1%に到達した日数(1%原虫血症)ならびに完全感染防御効率を用いて計算された。完全感染防御効率(sterile protective efficacy)は、チャレンジ後14日目の原虫血症の完全な欠如として定義された。
完全感染防御効率は以下の式を用いて算出した。
%完全感染防御効率=[1-(ワクチン群における感染マウスの数/ワクチン群におけるマウスの総数)/(非免疫群における感染マウスの数/非免疫群におけるマウスの総数)]×100
【0056】
(感染蚊吸血によるチャレンジ試験及び複数回チャレンジ試験)
PfCSP-Tc/Pb に感染した7匹のハマダラカで各マウスを20分間吸血させた後、吸血したすべての蚊の唾液腺を解剖し、スポロゾイト陽性の蚊の数が3匹以上となるまで吸血感染を繰り返した(3≦吸血感染蚊≦7)。感染防御したマウスに対して、最終免疫日から86日目に2,500匹のスポロゾイト、100日目に10,000匹のスポロゾイトを投与した。各チャレンジ試験時において1%原虫血症及び完全感染防御効率が計算された。
【0057】
{伝搬阻止試験}
(直接吸血試験)
AAV1-Pf(s25-CSP)ワクチンを追加免疫したマウスは22日後に6 mg/mlのフェニルヒドラジン溶液(Sigma社)200 μLが腹腔内投与され、3日後1×106個のPb-Pfs25DR3感染赤血球が腹腔内投与された。その3日後、該マウスは約60匹の飢餓状態のハマダラカによって吸血された。吸血後10日目から12日目において該吸血蚊の中腸が解剖され、中腸中のオーシストの数が定量された。
伝搬抑制活性(TRA)は次の式を用いて算出した。
%オーシスト形成抑制率(伝搬抑制活性:TRA)={1-(ワクチン群マウスを吸血した蚊のオーシスト数)/(対照群マウスを吸血した蚊のオーシスト数の平均値)}×100。
伝搬阻止活性(TBA)は次の式を用いて算出した。
%オーシスト非形成率(伝搬阻止活性:TBA)=[1-(ワクチン群マウスを吸血しオーシストを形成していない蚊の数/ワクチン群マウスを吸血した蚊の総数)/(対照群マウスを吸血しオーシストを形成していない蚊の数/対照群マウスを吸血した蚊の総数)]×100。
【0058】
(統計解析)
感染防御効果の検定において、1%原虫血症に到達する日までの日数の比較には各免疫群間及び陰性対照群との有意差をLog-Rank(Mantel-Cox)検定を用いて計算した。完全感染防御効果の検定にはフィッシャーの正確確率検定を用いて計算した。IgG抗体価の検定において、2群間の検定にはマン・ホイットニーのU検定、ならびに、3群以上の検定にはダネットの多重比較検定を使用した一元配置分散分析を用いて計算した。定期的に採取された末梢血のIgG抗体価の検定においては、各免疫群間の有意差をSidakの多重比較検定を使用した反復測定二元配置分散分析によって計算した。伝搬阻止効果の検定においては、TRAはマン・ホイットニーのU検定を用いて計算し、TBAはフィッシャーの正確確率検定を用いて計算した。すべての検定においてP 値< 0.05の時に有意差があるものとした。統計解析にはPrism version 8(GraphPad Software Inc., La Jolla, CA)を用いた。
【0059】
〇ワクチンの構築の確認
本実施例では、ヒンジG
6Sリンカーを使用した融合タンパク質としてPfs25とPfCSPを発現するLC16m8Δ(m8Δ)とアデノ随伴ウイルス1型 (AAV1)に基づく二価ワクチンを構築した(
図1a)。
ウエスタンブロット法では、両方のウイルスベクターがPfs25-PfCSP融合タンパク質を発現することができたことを確認し(
図1b) 、さらにPfCSP及びPfs25の細胞表面発現を確認した(
図5)。
【0060】
〇感染防御効果の確認
m8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)ワクチン接種の感染防御効果は、PfCSP-Tc/Pbスポロゾイトに対する完全感染防御によって判定した。Balb/cマウスにおいて、10頭すべての対照群マウスはスポロゾイト1,000匹を静脈内投与した後に感染したが、m8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)投与群では10頭中10頭(100%、p<0.0001)が完全感染防御し、m8Δ/AAV1-PfCSP群では10頭中9頭(90%、p=0.0001)が完全感染防御した(
図1c)。
m8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)ワクチンならびにm8Δ/AAV1-PfCSPワクチンは、いずれもm8Δワクチン単回接種と比較し、追加免疫効果として顕著に高い抗PfCSP抗体応答を誘導した(
図1d、p<0.0001)。m8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)ワクチンは該抗PfCSP抗体価に加えて、追加免疫効果を伴う抗Pfs25抗体応答も誘導した(
図1d、p<0.0001)。
全個体が同種のMHCハプロタイプを発現する近交系のBalb/cマウスに比較して、クローズドコロニーのICRマウスは個体間で異なるMHCハプロタイプを発現する。このような多様性に対してm8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)ワクチンが有効性を保てるか調べるためにICRマウスを用いたところ、該ワクチン接種によってスポロゾイト1,000匹に対して10頭のマウス中9頭(90%、p=0.0001)が完全感染防御し(
図1e)、追加免疫効果を伴う抗PfCSP抗体応答ならびに抗Pfs25抗体応答が誘導された(
図1f、p<0.0001)。
上記から、本発明のm8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)ワクチンは、PfCSPに加えてPfs25抗原遺伝子を発現させ得るにも関わらず、PfCSP単独発現型ワクチンであるm8Δ/AAV1-PfCSP(90%)に優る完全感染防御効果(100%)を発揮することを確認した。さらに、m8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)ワクチンは公知のワクチン(例:AdHu5/AAV1-Pf(s25-CSP))で有効性が確認されていない、多様なMHCハプロタイプを有するICRマウスにおいても顕著な効果を確認した。
【0061】
m8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)の感染防御効果を、以前に完全感染防御効果と長期間持続する抗体応答が確認されたアデノウイルスを基にしたワクチンであるAdHu5/AAV1-Pf(s25-CSP)と比較した。チャレンジ試験ではスポロゾイト2,500匹(高投与量)を使用した。該ワクチンの最終免疫後、短期間(29日間)経過時でのスポロゾイトチャレンジ試験では、m8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)群では10頭中10頭のマウス(100%、p<0.0001)が完全感染防御したが、AdHu5/AAV1-Pf(s25-CSP)群では10頭中7頭(70%、p=0.0031) が完全感染防御した(
図2a)。該ワクチンの最終免疫後、長期間(102日間)経過時でのスポロゾイトチャレンジ試験ではm8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)群では10頭中9頭のマウス(90%、p=0.0001)が完全感染防御したが、AdHu5/AAV1-Pf(s25-CSP)群では7頭中2頭のマウス(29%、p=0.1544)が完全感染防御した(
図2b)。
完全感染防御したマウスの抗PfCSP抗体価ならびに抗Pfs25抗体価の両抗体応答を長期間観察したところ、m8Δ/AAV1-s25-CSP群はAdHu5/AAV1-Pf(s25-CSP)群に比較して最終免疫後210日目まで両抗体応答は有意に高く維持された(
図2c-d)。
これにより、公知のワクチン接種後の感染で生じる71% (100%-29%)の有病率を10% (100%-90%)まで減少せしめ、その差約7倍(71%÷10%)の顕著な効果を確認するとともに、有意に高い抗体応答の長期間持続という顕著な効果を確認した。
【0062】
〇伝搬阻止効果の確認
伝搬阻止効果の確認は、該ワクチンの最終免疫後に短期間(37日間)及び長期間(236日間)経過時に実施した。短期間経過時のTRA及びTBAは、それぞれ、99.99%(p<0.0001)及び97.94% (p < 0.0001)であった(
図3a)。長期間経過時のTRA及びTBAは、それぞれ、97.16%(p<0.0001)及び60.08% (p < 0.0001)であった(
図3b)。
【0063】
〇反復感染に対する感染防御効果の確認
マラリア流行地域住人においては、生涯のうちで複数回マラリア原虫に感染することが一般的であるため、複数回のマラリア原虫暴露に対して有効性を示すワクチン開発が重要である。本発明のワクチンが、複数回のスポロゾイトチャレンジ試験に対して感染防御効果を示すかを確認した。
Balb/cマウスにおいて、10頭すべての対照群マウスはPfCSP/Pbスポロゾイト感染蚊による吸血チャレンジ後に感染したが、最終免疫後26日目のm8Δ/AAV1-s25-CSP群では10頭中10頭(100%、p<0.0001)が完全感染防御した(
図4a)。最終免疫後86日目及び100日目において、同じマウスにそれぞれ2,500匹のスポロゾイト及び10,000匹のスポロゾイトを静脈内投与した。すべてのワクチン接種マウス(100%、p<0.0001)は完全感染防御したが、対照マウスはすべて感染した(
図4b、4c)。
該感染防御マウスのうち任意の5頭について、最終免疫後276日目に伝搬阻止効果を調べた。TRAは99.43% (p<0.0001)であり、TBAは85.02% (p<0.0001)であった(
図4d)。
PfCSP-Tc/Pbスポロゾイトの複数回曝露により末梢血中の抗PfCSP抗体価は、最終免疫後25日目の631,750と比較して、175日目では1,280,500まで有意に増加した(
図4e、p=0.0279)。一方、抗Pfs25抗体価は最終免疫後25日目では721,540であり、175日目では194,507と有意に減少した(
図4e、p=0.0044)。抗Pfs25抗体価は伝播阻止実験直前の272日目では68,195まで低下した(
図4e、p<0.0001)が、高い伝搬阻止効果が維持されたことを確認した(
図4d)。
【実施例2】
【0064】
本実施例では、三日熱マラリアを対象とした。詳細は、以下の通りである。
【0065】
<材料と方法>
(pVR1-Pv(s25-CSP-S/P)-HA-VVプラスミドの構築)
世界に蔓延している三日熱マラリア原虫には2つの遺伝子型(サルバドール株VK210, パプアニューギニア株VK247)が存在しており、PvCSP遺伝子間には中央部繰返し配列に大きな違いがある。混在感染している地域があり、2種類の株に有効なワクチンを設計する必要がある。LC16m8Δ/AAV三日熱ワクチンは、この遺伝子多型に対応できるように設計した。三日熱マラリア原虫の融合抗原遺伝子Pv(s25-CSP-S/P)がクローニングされたpUC57-Simple-Pv(s25-CSP-S/P)をフナコシ(株)に外部委託し、人工合成した。そのDNA遺伝子配列を配列番号8(Pv(s25-CSP-S/P))に、アミノ酸配列を配列番号9(Pv(s25-CSP-S/P))に示す。また、構造を
図7aに示す。
Pv(s25-CSP-S/P)の構造は、三日熱マラリア原虫のPvs25遺伝子の3’末にヒンジ(GlyGlyGlyGlyGlyGlySer)をコードしたDNA配列を連結し、VK210 サルバドール株由来のPvCSP遺伝子を連結した。さらにVK247 パプアニューギニア株由来のPvCSP遺伝子の繰り返し領域3回を挿入した。m8ΔトランスファーベクターであるpVRをEcoR I/Xma Iで切断し、同部位にEcoR I/Xma Iサイトで切断したpUC57-Simple-Pv(s25-CSP-S/P)のopen reading frameを配置し、これをpVR1-Pv(P7.5-s25-CSP-S/P)-HA-VVとした。pVR1-Pv(P7.5-s25-CSP-S/P)-HA-VVはm8Δ-Pv(P7.5-s25-CSP-S/P)-HAウイルス作製用のトランスファーベクターとして使用した。
【0066】
(ワクシニアウイルスの作製)
組換えワクシニアウイルスm8Δ-Pv(P7.5-s25-CSP-S/P)-HAウイルス(
図7b)の作製方法
BHK細胞(ベビーハムスター細胞)に、トリポックスウイルスであるcanarypoxを感染させた後、リポフェクション法で、上記プラスミドpVR1-Pv(P7.5-s25-CSP-S/P)-HA-VVと上記ワクシニアウイルスのゲノムを同時に遺伝子導入した。生じた子孫ウイルスをRK13細胞単層培養に感染させてプラークを作らせ、ニワトリ赤血球を用いたHA testによってHA(-)プラークを採取し、組換えワクシニアウイルスを分離した。
【0067】
(組換えアデノ随伴ウイルスの作製)
組換えアデノ随伴ウイルスAAV1-Pv(s25-CSP-S/P)ウイルス(
図7c)の作製方法
AAV1-Pv(s25-CSP-S/P)ウイルスは、文献“Sci Rep 8, 3896, doi:10.1038/s41598-018-21369-y (2018)”、“Front Immunol 10, 730, doi:10.3389/fimmu.2019.00730 (2019)”を参照して、作製した。
【0068】
(イムノブロッティング)
ヒト胎児腎細胞HEK293T細胞を、48well-plateに播種した24時間後に、1の感染多重度(MOI)のm8Δ-Pv(P7.5-s25-CSP-S/P)-HA又はMOI=10
5のAAV1-Pv(s25-CSP-S/P)ワクチンにより感染させた。感染の24時間後に細胞上清を除き、PBSで1回洗浄してから細胞溶解物(レムリバッファー)50 μl/well加え29G針付きインシュリンシリンジで裁断してから95℃で5分間ボイルし、イムノブロッティングに供した。該細胞溶解物に2-メルカプトエタノールを加えた還元サンプルと、加えない非還元サンプルを用意した。10%ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミド(SDS-PAGE)ゲル上で電気泳動した。試料をImmobilon FL(登録商標)PVDF膜(Merck Millipore社)上に電気泳動的に展開した。該膜を0.1%Tween 20を含有するPBS(PBS-T)中の5%スキムミルクを用いて1時間ブロッキングした。還元サンプルを泳動・転写したPVDF膜には5%スキムミルクで1:10,000に希釈した抗PvCSP-Sal抗体2F2モノクローナル抗体(mAb)(
図8a)又は1:1,000に希釈した抗PvCSP-PNG抗体2E10E9 mAb(
図8b)と共にインキュベートした。非還元サンプルを泳動・転写したPVDF膜には5%スキムミルクで1:2,000に希釈した抗Pvs25抗体NHH10 mAbと共にインキュベートした。PBS-Tで洗浄した後、ブロットを、5%スキムミルクで1:20,000に希釈したIRDye 800(RocklandImmunochemicals社)で標識したヤギ抗マウス二次抗体でプローブした。該膜をOdyssey infraredimager(LI-COR社)を用いて可視化した。分子量予測は、ExPASyサーバを用いて行った。
【0069】
{HEK293T細胞を用いたIndirect fluorescentassay (IFA)}
HEK293T細胞を、8well-chamberスライドに播種した24時間後に、MOI=0.04のm8Δ-Pv(P7.5-s25-CSP-S/P)-HAワクチン及びMOI=10
5のAAV1-Pv(s25-CSP-S/P)ワクチンにより感染させた。感染の24時間後に細胞上清を除き、PBSで洗浄後にホルマリン液(non-permeabilizationbuffer)で室温20分間静置して固定した。PBSで2分間2回洗浄し、10% Normal Goat Serum(NGS)(Sigma-Aldrich Co. LLC)/PBSで1時間ブロッキングした。その後、10% NGS/PBSでR-Phycoerythrin LK23で標識した2F2及びFluorescein LK01で標識した2E10E9及びHiLyte Flour
TM647 LK13で標識した抗Pvs25ポリクローナル抗体をそれぞれ1000倍希釈し、各wellに加えて1時間遮光しながら放置した。PBS-Tで2分間5回洗浄し、Vectashield containing4,6’-diamidino2-phenylindole(DAPI; Vector Laboratories)で封入した。該スライドをLSM710inverted laser scanning microscope (Carl Zeiss社)で可視化した(
図8c)。
【0070】
(使用した哺乳動物及び原虫)
使用した哺乳動物及び原虫は、以下の通りである。
マウス:BALB/c雌マウス6週齢を日本エスエルシー株式会社から入手し、1週間後に使用した。
マウスマラリア原虫:遺伝子組換えネズミマラリア{PvCSP-Sal発現P. berghei(Pb)PvCSP-Sal}(Sal/Pb; Infect Immun.2014, 82. 10に記載) に感染したハマダラカ(Anophelesstephensi SDA500 strain)の唾液腺を解剖し、遺伝子組換えネズミマラリア原虫スポロゾイトを単離した。RPMI 1640 Medium(Gibco, LifeTechnologies社)を加えてホモジェナイズした後、遠心して上清を回収し、光学顕微鏡を用いてスポロゾイト数を計測した。1,000スポロゾイト/匹(body)となるように調製した。
【0071】
(ワクチン接種)
SLCから購入したBalb/cマウス(7週齢雌)を各群10匹で使用した。m8Δワクチン[m8Δ- Pv(P7.5-s25-CSP-S/P)-HA]は1 × 107pfu/10 μl/mouse、AAV1ワクチン[AAV1-Pv(s25-CSP-S/P)]は1 × 1010vg/100 μL/mouseになるようにPBSで希釈した。各m8Δワクチンは二叉針を用いた種痘接種法(ts)でマウス尾部根元に免疫し、AAV1ワクチンは29G針付きインシュリンシリンジを用いた左大腿部筋肉接種(im)で免疫した。免疫は異種 prime-boost法により、m8Δワクチンを初回免疫し(Prime)、6週後にAAV1ワクチンで追加免疫(Boost)を行った。
【0072】
{Enzyme-linkedimmunosorbent assay (ELISA)}
抗PvCSP-Sal及びPvs25抗体価を、文献{Infect Immun. 2014, 82.10. doi: 10.1128/IAI.02040-14}に記載されたようにELISAによって定量化した。
200 ng/ウェルのPvCSP-Sal又は400 ng/ウェルのPvs25をプレコートしたCostar(登録商標)EIA/RIAポリスチレンプレート(Corning Inc社)をPBS中の1%ウシ血清アルブミン(BSA)でブロッキングし、次いで連続希釈した血清試料、陰性対照及び陽性対照(それぞれmAb 2A10又はmAb NHH10)をインキュベートした。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)(Bio-Rad lab, Inc社)でコンジュゲート化した抗マウスIgGを二次抗体として使用した。洗浄後、ABTS (2’-azino-bis (3-ethylbenzothiazoline-6-sulphonicacid) (SIGMA)及びH
2O
2を加えたクエン酸リン酸バッファーによって吸収波長414 nmで検出した。エンドポイント力価は、陰性対照の値(<0.1)を0.15 U上回る414 nmでの光学密度を得られる最終希釈の逆数として表した。実験で使用したすべてのマウスは、免疫前に血清陰性であった。
図9aは抗PvCSP-Sal抗体価、
図9bは抗Pvs25抗体価を示す。
【0073】
{チャレンジ感染試験}
(スポロゾイト投与によるチャレンジ試験)
PvCSP-Sal/Pbに感染した
Anopheles stephensiハマダラカの唾液腺よりスポロゾイトを摘出した。これをRPMI-1640培地(Gibco, LifeTechnologies社)に懸濁した。AAV1-Pv(s25-CSP-S/P)ワクチンを追加免疫したマウスは28日後に1,000匹のスポロゾイトを含む100 μLの培地を尾静脈投与された。感染の有無は尾から得られた薄い血液塗抹標本のギムザ染色により、4日目から14日目までモニターした。感染防御効果は、スポロゾイト投与後、原虫血症が1%に到達した日数(1%原虫血症)ならびに完全感染防御効率を用いて計算された。完全感染防御効率(sterileprotective efficacy)は、チャレンジ後14日目の原虫血症の完全な欠如として定義された(
図10)。
完全感染防御効率は以下の式を用いて算出した。
%完全感染防御効率=[1-(ワクチン群における感染マウスの数/ワクチン群におけるマウスの総数)/(非免疫群における感染マウスの数/非免疫群におけるマウスの総数)]×100
【0074】
{伝搬阻止試験}
三日熱マラリア患者から採血を行い、血液塗抹標本を作製しの配偶子(ガメトサイト)の存在を確認した。血液を2,000 rpmで5分間遠心分離し、パスツールピペットで血漿を除去した。RPMI1640(濃縮血液と等量)を加え、血液と軽く混ぜる。1.5 mL チューブに 5 本取り、それぞれを次のように識別した(Control、1:5、1:10、 1:50) 。
糖液のみで飼育していた生後3~5日のメス蚊を分離(約120匹または200匹)(砂糖は実験の約24時間前に除去する)し、容器に入れた。
直接メンブレン吸血アッセイ(DMF: DirectMembrane Feeding Assay)の感染実験システムは、37℃のウォーターバスと血液サンプルに接続された水循環システムで構成されている。パラフィルム(5cm × 5cm)をよく伸ばしたものを500 μlのガラス製フィーダーに巻き、ガラス製フィーダー、ホース、ウォーターポンプを水槽に入れ、回路を組み立てた。最後のホースを見て、水の流れが連続的であることを確認した。雌蚊の入った各プラスチックポットにフィーダーをテープで固定した(各ポットには対照群または処理群を明記する)。サンプルの血液をそれぞれガラスピペットで各フィーダーに加え、30-120分間完全給餌させた。給餌後、給餌したメスアノフェレスのみを大きめのケージに移し、10%糖液で飼育し、解剖時まで感染室内で待機させた。感染7日後、感染室から雌蚊を取り出し、解剖室に運び、捕獲器を用いてケージから取り出し、冷凍庫-20℃の中で3~5分寝かせた。睡眠後、蚊を 70%アルコールの入ったシャーレに入れ、すぐに 1× PBS で洗浄した。顕微鏡を使用し蚊腹部より中腸を摘出した。その後、中腸に2%マーキュロクローム色素を1滴滴下し、5-8分染色した後に顕微鏡でオーシストを数えた(
図11)。
TRA(Transmission reducing activity)については、下記の次の式で算出した。
TRA (%) =100× {1-(テスト群の平均オーシスト数/コントロール群の平均オーシスト数)}
TBA(Transmission blocking activity)については 下記の次の式で算出した。
TBA (%) =100× {1-(テスト群のオーシストが確認された蚊数/コントロール群のオーシスト確認された蚊数)}
【0075】
(統計解析)
感染防御効果の検定において、1%原虫血症に到達する日までの日数の比較には各免疫群間及び陰性対照群との有意差をLog-Rank(Mantel-Cox)検定を用いて計算した。完全感染防御効果の検定にはフィッシャーの正確確率検定を用いて計算した。IgG抗体価の検定において、2群間の検定にはマン・ホイットニーのU検定、ならびに、3群以上の検定にはダネットの多重比較検定を使用した一元配置分散分析を用いて計算した。定期的に採取された末梢血のIgG抗体価の検定においては、各免疫群間の有意差をSidakの多重比較検定を使用した反復測定二元配置分散分析によって計算した。伝搬阻止効果の検定においては、TRAはマン・ホイットニーのU検定を用いて計算し、TBAはフィッシャーの正確確率検定を用いて計算した。すべての検定においてP 値< 0.05の時に有意差があるものとした。統計解析にはPrismversion 8 (GraphPad Software Inc., La Jolla, CA)を用いた。
【0076】
〇ワクチンの構築の確認
本実施例では、ヒンジG
6Sリンカーを使用した融合タンパク質としてPvs25とPvCSP-S/Pを発現するm8ΔとAAVに基づく感染防御・伝播阻止ワクチンを構築した(
図7)。
ウエスタンブロット法では、両方のウイルスベクターがPv(s25-CSP-S/P)融合タンパク質を発現することができたことを確認し(
図8a, b) 、さらにPvCSP-S/Pの細胞表面発現を確認した(
図8c )。
【0077】
〇感染防御効果の確認
m8Δ/AAV1-Pv(s25-CSP-S/P)ワクチン接種により高いレベルの抗PvCSP-Sal抗体価(
図9a)および抗Pvs25抗体価(
図9b)が誘導された。感染防御効果は、PvCSP-Sal/Pbスポロゾイトに対する完全感染防御(1,000匹を静脈内投与)によって判定した。Balb/cマウスにおいて、m8Δ/AAV1-Pv(s25-CSP-S/P)投与群では10頭中9頭(90%、p<0.0001)が完全感染防御した。非接種対照群マウスは全て感染した(
図10)。
【0078】
〇伝搬阻止効果の確認
伝搬阻止効果の確認は、該ワクチンの最終免疫後28日経過時に実施した。TRA及びTBAは、それぞれ、93.0%及び73.0%であった(
図11)。
【実施例3】
【0079】
本実施例では追加免疫ワクチンとしてのAAV5の効果を示し、実施例1で使用したAAV1との効果の対比を検証した。詳細は、以下の通りである。
<材料と方法>
(ワクシニアウイルスの作製)
組換えワクシニアウイルスm8Δ-Pf(P7.5-s25-CSP)-HAウイルスの作製方法は実施例1に記載されている。
【0080】
(組換えアデノ随伴ウイルスの作製)
組換えアデノ随伴ウイルスAAV5-Pf(s25-CSP)ウイルスの作製方法はAAV1を用いたAAV1-Pf(s25-CSP)ウイルス(実施例1)に記載されている。異なる点はAAV5を用いることだけである。
【0081】
(イムノブロッティング)
ヒト胎児腎細胞HEK293T細胞を、48well-plateに播種した24時間後に、MOI=105のAAV5-Pf(s25-CSP)により感染させた。詳細な方法は実施例1に記載されている。
【0082】
{HEK293T細胞を用いたIndirect fluorescentassay (IFA)}
HEK293T細胞を、8well-chamberスライドに播種した24時間後に、MOI=105のAAV5-Pf(s25-CSP)により感染させた。詳細な方法は実施例1に記載されている。
【0083】
(使用した哺乳動物及び原虫)
使用した哺乳動物及び原虫は、実施例1に記載されている。
【0084】
(ワクチン接種)
SLCから購入したBalb/cマウス(7週齢雌)を各群10匹で使用した。m8Δワクチン[m8Δ-Pf(P7.5-s25-CSP)-HA]は1 × 107 pfu/100 μL/mouse、AAV5ワクチン[AAV5-Pf(s25-CSP)]は1 × 1010 vg/100 μL/mouseになるようにPBSで希釈した。m8Δワクチンは二叉針を用いた種痘接種法(ts)でマウス尾部根元に免疫し、AAV5ワクチンは29G針付きインシュリンシリンジを用いた左大腿部筋肉接種(im)で免疫した。免疫は異種 prime-boost法により、m8Δワクチンを初回免疫し(Prime)、6週後にAAV5ワクチンで追加免疫(Boost)を行った。詳細な方法は、実施例1に記載されている。
【0085】
{Enzyme-linkedimmunosorbent assay (ELISA)}
抗PfCSP抗体価を、文献{Iyori M, Yamamoto DS,Sakaguchi M, Mizutani M, Ogata S, Nishiura H., et al. DAF-shieldedbaculovirus-vectored vaccine enhances protection against malaria sporozoitechallenge in mice. Malar J (2017) 16(1):390. doi:10.1 186/s12936-017-2039-x.}に記載されたようにELISAによって定量化した。詳細な方法は、実施例1に記載されている。
【0086】
{チャレンジ感染試験}
(スポロゾイト投与によるチャレンジ試験)
PfCSP-Tc/Pb に感染したAnopheles stephensiハマダラカの唾液腺よりスポロゾイトを摘出した。これをRPMI-1640培地(Gibco, Life Technologies社)に懸濁した。AAV5-Pf(s25-CSP)ワクチンを追加免疫したマウスは40日後に2,500匹のスポロゾイトを含む100 μLの培地を尾静脈投与された。感染の有無は尾から得られた薄い血液塗抹標本のギムザ染色により、4日目から14日目までモニターした。詳細な方法は、実施例1に記載されている。
【0087】
{伝搬阻止試験}
(直接吸血試験)
AAV5-Pf(s25-CSP)ワクチンを追加免疫したマウスは29日後に6 mg/mlのフェニルヒドラジン溶液(Sigma社)200 μLが腹腔内投与され、3日後に1×106個のPb-Pfs25-DR3感染赤血球が腹腔内投与された。さらにその3日後、該マウスは約60匹の飢餓状態のハマダラカによって吸血された。吸血後10日目から12日目において該吸血蚊の中腸が解剖され、中腸中のオーシストの数が定量された。詳細な方法は、実施例1に記載されている。
【0088】
(統計解析)
感染防御効果の検定において、1%原虫血症に到達する日までの日数の比較には各免疫群間及び陰性対照群との有意差をLog-Rank(Mantel-Cox)検定を用いて計算した。完全感染防御効果の検定にはフィッシャーの正確確率検定を用いて計算した。IgG抗体価の検定において、2群間の検定にはマン・ホイットニーのU検定、ならびに、3群以上の検定にはダネットの多重比較検定を使用した一元配置分散分析を用いて計算した。詳細な方法は、実施例1に記載されている。
【0089】
〇ワクチンの構築の確認
本実施例では、ヒンジG
6Sリンカーを使用した融合タンパク質としてPfs25とPfCSPを発現するAAV5に基づくワクチンを構築した(
図12a)。構造は
図1aと同じであるが、使用したAAVはAAV5である。
ウエスタンブロット法では、AAV5-Pf(s25-CSP)がPfs25-PfCSP融合タンパク質を発現することを確認し(
図12b) 、さらにPfCSP及びPfs25の細胞表面発現を確認した(
図12b)。
【0090】
〇感染防御効果の確認
m8Δ/AAV5-Pf(s25-CSP)ワクチン接種の感染防御効果は、PfCSP/Pbスポロゾイトに対する完全感染防御によって判定した。Balb/cマウスにおいて、10頭すべての対照群マウスはスポロゾイト2,500匹を静脈内投与した後に感染したが、m8Δ/AAV5-Pf(s25-CSP)投与群では9頭中9頭(100%)が完全感染防御した(
図14)。この効果はAAV1を用いたm8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)ワクチン(100%)と同様の完全感染防御であった。
m8Δ/AAV5-Pf(s25-CSP)ワクチンは、AAV5-Pf(s25-CSP)による追加免疫効果として高い抗PfCSP抗体応答を誘導した(
図13a、2.71 × 10
6)。m8Δ/AAV5-Pf(s25-CSP)ワクチンは該抗PfCSP抗体価に加えて、追加免疫効果を伴う抗Pfs25抗体応答も誘導した(
図13b、7.17 × 10
5)。これら抗PfCSP抗体価及び抗Pfs25抗体価はこの効果はAAV1を用いたm8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)ワクチンと同様の高い抗体価であった。
上記から、本発明のAAV5を用いたm8Δ/AAV5-Pf(s25-CSP)ワクチンはAAV1を用いたm8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)ワクチン(実施例1)と同等の完全感染防御効果(100%)を発揮することを確認した。
【0091】
〇伝搬阻止効果の確認
伝搬阻止効果の確認は、該ワクチンの最終免疫後に35日間経過時に実施した。TRA及びTBAは、それぞれ99.94% (p<0.0001)及び95.27% (p<0.0001)であった(
図15)。このTRA及びTBA効果はAAV1を用いたm8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)ワクチンと同様の高い伝播阻止効果であった。
本発明のAAV5を用いたm8Δ/AAV5-Pf(s25-CSP)ワクチンはAAV1を用いたm8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)ワクチン(実施例1)と同等の高い伝播阻止効果を発揮することを確認した。
【実施例4】
【0092】
本実施例ではヒトに近い霊長類の動物モデルとしてアカゲザルでのワクチンの安全性、免疫原性、感染防御及び伝播阻止効果について検証した。詳細は、以下の通りである。
【0093】
<材料と方法>
(ワクシニアウイルスとアデノ随伴ウイルス)
組換えワクシニアウイルスm8Δ-Pf(P7.5-s25-CSP)-HAの作製方法は実施例1に記載されており、組換えアデノ随伴ウイルス1型AAV1-Pf(s25-CSP)の作製方法は実施例1に記載されている。
【0094】
(使用したサル及び原虫)
使用したサル及び原虫は、以下の通りである。
アカゲザル:京都大学医生物学研究所で飼育されていたインド産アカゲザル4頭を使用した。詳細は下記の通りである。
【0095】
【0096】
マウスマラリア原虫:遺伝子組換えネズミマラリア{PfCSP発現P. berghei(Pb)PfCSP-Tc/Pb}(Insect Mol. Biol.2013, 22:41に記載) を使用した。
【0097】
(ワクチン接種)
m8Δワクチン[m8Δ-Pf(P7.5-s25-CSP)-HA]は1×108 pfu/10 μL、AAV1ワクチン(AAV1-Pf(s25-CSP))は3.3×1012 vg/100 μLになるようにPBSで希釈した。m8Δワクチンは二叉針を用いた種痘接種法(ts)で脱毛した背中上部に初回免疫した。8週後に、AAV1ワクチンを29G針付きインシュリンシリンジを用いた左大腿部筋肉接種(im)で追加免疫した。
【0098】
(採血のスケジュールおよびIgGの精製方法)
図16に示すスケジュールに従って、EDTA存在下で上腕より採血(10~20mL)した。採血した血液は以下の血液検査又は遠心で血球成分を除去した血漿として使用するまで-20℃で保存した。サル血漿からのIgGの精製はHiTrap Protein G HP(cytiva社)を用いて行った。
【0099】
(血液検査による安全性試験)
免疫前(0w)、m8Δワクチン初回接種1週後(1w)、AAV1ワクチン追加接種1週後(9w)又は3週後(11w)に採血した血液を図面17に示す項目で血液検査を行った。
【0100】
{Enzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)}
抗PfCSP抗体価を、文献{Iyori M, Yamamoto DS, Sakaguchi M, Mizutani M, Ogata S, Nishiura H., et al. DAF-shielded baculovirus-vectored vaccine enhances protection against malaria sporozoite challenge in mice. Malar J (2017) 16(1):390. doi:10.1 186/s12936-017-2039-x.}に記載されたようにELISAによって定量化した。測定した血漿サンプルは0, 4, 8, 12, 16, 20, 24, 28wであった。
抗Pfs25抗体価に関し、m8Δ及びAAV1各ワクチンに使用されているのと同じpfs25遺伝子を用いて構築されたPfs25抗原を、コムギ胚芽無細胞(WGCF)タンパク質発現系(CellFree Sciences社)を用いて産生した{Miura K, Takashima E, Deng B, Tullo G, Diouf A, Moretz SE., et al. Functional comparison of Plasmodium falciparum transmission-blocking vaccine candidates by the standard membrane-feeding assay. Infect Immun (2013)81(12):43 77. doi: 10.1128/IAI.01056-13}。400 ng/ウェルのPfCSP又は200 ng/ウェルのPfs25をプレコートされたCostar(登録商標)EIA/RIAポリスチレンプレート(Corning Inc社)をPBS中の1%ウシ血清アルブミン(BSA)でブロッキングし、次いで連続希釈した血漿および精製IgG試料をインキュベートした。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)でコンジュゲート化した抗ヒトIgG(Bio-Rad lab, Inc社)を二次抗体として使用した。洗浄後、ABTS (2'-azino-bis (3-ethylbenzothiazoline-6-sulphonicacid) (SIGMA)及びH2O2を加えたクエン酸リン酸バッファーによって吸収波長414 nmで検出した。エンドポイント力価は、陰性対照の値(<0.1)を0.15 U上回る414 nmでの光学密度を得られる最終希釈の逆数として表した。測定した血漿サンプルは0, 12wであった。
実験で使用したアカゲザル4頭はすべて免疫前にPfCSPおよびPfs25抗体陰性(<1:1,000)であった。
【0101】
(in vitroスポロゾイト中和試験)
文献{Kumar KA., et al. Quantitative Plasmodium sporozoite neutralization assay (TSNA). Journal of Immunological Methods, 293:157-164. doi.org/10.1016/j.jim.2004.06.017.}に記載されたようにin vitroスポロゾイト中和試験によって定量化した。具体的には、ヒト肝癌由来HepG2細胞を6×104細胞/300 μL/ウェルになるように48ウェルプレートに播種し、37℃のインキュベーター中で24時間培養した。組換えマラリア原虫 (PfCSP-Tc/Pb) 感染蚊を解剖し、唾液腺をバイオマッシャーカラム (バイオマッシャーIII)に加えホモジナイズし、8,000rpm, 40s, 4℃で遠心し、C-CHIP (NanoEnTek) を用いてカウントした。免疫及び免疫前のサルIgG終濃度がそれぞれ1,000 μg/mL、500 μg/mL、100 μg/mLになるようにRPMI (血清を含まない) で希釈した溶液を50 μLと、10,000 スポロゾイト/50 μLになるようにRPMI (血清を含まない) で希釈した溶液を準備した。IgG溶液とspz溶液を1.5mLマイクロチューブ内で混合し、氷上で40分間静置した。培養終了後にIgGとスポロゾイトの混合液をウェルに加え、1,000rpm, 5min, 室温で遠心し、37℃のインキュベーター中で24時間培養した。培養終了後、ウェルから細胞上清を除き、RPMI (血清を含まない) を300 μL/ウェル加え、37℃のインキュベーター中で24時間培養した。培養終了後、RNA抽出及びqRT-PCRを行い、原虫由来ribosomal RNA(rRNA)量を測定した。反応データはGraphPad Prism (GraphPad Software社)を用いて解析した。中和活性は、抗体を反応させないスポロゾイトを感染させた細胞における原虫由来rRNA量を100%とした場合の各濃度の抗体を含むスポロゾイト感染細胞のrRNA量の割合(パーセンテージ)として求めた。回帰直線からスポロゾイト侵入を50%阻害する抗体の濃度を計算した。
【0102】
(伝播阻止試験)
文献(Mlambo G, Maciel J, Kumar N. Murine model for assessment of Plasmodium falciparum transmission-blocking vaccine using transgenic Plasmodium berghei parasites expressing the target antigen Pfs25. Infect Immun. 2008 May;76(5):2018-24. doi: 10.1128/IAI.01409-07. Epub 2008 Mar 3. )に記載されたように、サル抗体をマラリア感染マウスへ移入し、その後蚊に吸血させることにより、サル抗体の蚊内におけるマラリア発育阻止効果を評価した。具体的には、精製されたサルIgG:10mgをs25発現マウスマラリア(Pb/Pfs25DR3)に感染させたマウスへ静脈内投与した。抗体投与後約1時間後にマウスを蚊に吸血させた。コントロールとして、同一個体から採取された免疫前血清より精製されたIgGを用いた。吸血24時間後に吸血していない蚊を除去し、吸血後10-12日後に蚊中腸内のオオシスト数を計測した。コントロール抗体群との比較により、抗体の原虫発育阻止効果を算出した。
【0103】
(in vitroオオキネート転換阻害試験)
文献 (Blagborough AM, Sinden RE. Plasmodium berghei HAP2 induces strong malaria transmission-blocking immunity in vivo and in vitro. Vaccine. 2009 Aug 20;27(38):5187-94. doi: 10.1016/j.vaccine.2009.06.069. Epub 2009 Jul 9.)に記載されたように、マラリア感染マウス血とサル抗体の混合物を培養することにより、オオキネートの形成(転換)阻害効果を評価した。具体的にはPfs25を遺伝子組換えにより挿入されたネズミマラリア 原虫(Pfs25-DR3/Pb)に感染したマウスから心臓採血で感染血を採取した。24ウェルプレートの各ウェルに400 μl培地と20 μl感染血及び100 μlの血清+PBS混合物を加えて19℃で24時間培養した。抗体濃度はそれぞれ500 μg/mL、250 μg/mL、100 μg/mLとし、コントロールには伝播阻止試験同様、免疫前の同一個体より採取されたIgGを用いた。培養終了後、ウェル内の混合物をエッペンチューブに移し、500gで5分間遠心した。上清を取り除き、500倍に希釈した蛍光抗体を加え混和し室温で10分静置したものを蛍光顕微鏡で観察した。円形のガメトサイト とバナナ状のオオキネートの数を数え、ガメトサイトのオオキネートへの変換効率を算出した。
【0104】
(統計解析)
感染防御効果の検定において、1%原虫血症に到達する日までの日数の比較には各免疫群間及び陰性対照群との有意差をLog-Rank(Mantel-Cox)検定を用いて計算した。完全感染防御効果の検定にはフィッシャーの正確確率検定を用いて計算した。IgG抗体価の検定において、2群間の検定にはマン・ホイットニーのU検定、並びに、3群以上の検定にはダネットの多重比較検定を使用した一元配置分散分析を用いて計算した。
【0105】
〇ワクチンの安全性の確認
図17に示した14項目の血液検査すべてにおいて、ワクチン接種の前後で基準値を超える異常値・危険値は4頭すべてのサルで見られなかった。この結果は、本ワクチンの安全性を立証するものである。
【0106】
〇ワクチンの免疫原性の確認
AAV1ワクチンによる追加免疫 (8w) 後には抗PfCSP抗体価は急激に上昇し、16wで>1:500,000のピークに達し、その後も高値を維持し続けて観察が終了する32wでもすべてのサルで1:100,000前後を維持していた。本ワクチンが長期間にわたり、感染防御に効果的な抗PfCSP抗体を誘導できることを立証した(
図18(1))。伝播阻止に関与する抗Pfs25抗体価もAAV1ワクチンによる追加免疫 4w後(12w)に200,000~500,000に達した(
図18(2))。本ワクチンが感染防御・伝播阻止両効果発揮に必要な高い抗体産生を誘導することを立証した。
【0107】
〇感染防御効果の確認
in vitroスポロゾイト中和試験の結果を
図19に示す。免疫前サルIgGと比較して免疫サルIgGの4頭全てでInfection ratioが大幅に低下した。特に1,000 μg/mLでは5.0%(サルMM638)、0.03% (サルMM641)、12.7%(サルMM651)、0.44%(サルMM633)であった。免疫サルIgGは高い侵入防御効果(中和活性)が確認された。
【0108】
〇伝搬阻止効果の確認
伝播阻止試験の結果を
図20に示す。吸血後の蚊におけるマラリア陽性率は、コントロール群と比較して、免疫群でそれぞれ67.9%(サルMM651)、90.3% (サルMM641)、53.9%(サルMM633)、23.4%(サルMM638)まで減少した。
【0109】
○in vitroオオキネート転換阻害効果の確認
オオキネート転換阻害試験の結果を
図21に示す。 コントロール群と比較して免疫群での転換阻害率は各濃度でそれぞれ4頭の平均で47.8%(500 μg/mL群)、23.1%(250 μg/mL群)、23.5%(200 μg/mL群)3.9%(100 μg/mL群)-4.1%(50 μg/mL群)であり、500 μg/mL群とその他の群、および250 μg/mL群と50 μg/mL群、200 μg/mL群と100 μg/mL群および50 μg/mL群、では優位な転換阻害効果が確認された。
【0110】
(本発明のマラリアワクチン組成物の構成例)
本発明のマラリアワクチン組成物の各構成の組み合わせを以下に例示するが、限定されない。
1)(1)prime用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えワクシニアウイルス、及び(2)boost用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルス
2)(1)prime用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えワクシニアウイルスLC16株、及び(2)boost用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えヒトアデノ随伴ウイルス1型
3)(1)prime用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えワクシニアウイルスLC16株、及び(2)boost用であるCSPのアミノ酸配列をコードする遺伝子及びs25のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えヒトアデノ随伴ウイルス5型
さらに、本明細書に記載の各ウイルス型を適宜変更したマラリアワクチン組成物も例示される。
【0111】
(総論)
本発明のワクチンは、上記の実施例等により、以下を確認している。
1)本発明のワクチンは、PfCSP/Pbスポロゾイトに対する100%の防御効果が得られるだけでなく、Pb-Pfs25DR3原虫の蚊への移動を99%以上阻害する伝搬阻止効果も得られる。
2)本発明のワクチンは、7カ月以上持続するワクチン誘発性免疫応答効果を有し、寄生虫の複数回感染に対する完全感染防御効果を得られる。
3)本発明のワクチンは、ヒンジ配列を介して、Pfs25とPfCSPをコードする遺伝子を融合タンパク質として発現できていることを確認し、さらに、前赤血球期ワクチン(PEV)だけでなく、伝搬阻止ワクチン(TBV)としても機能することを確認した。
4)本発明のワクチンは、1,000匹のスポロゾイトチャレンジに対して90~100%の完全感染防御効果を示したほか、2,500匹のスポロゾイトチャレンジ及び感染蚊による吸血チャレンジに対しても100%の完全感染防御効果を示した。
5)本発明のワクチンでは、迅速かつ強力な体液性免疫応答を誘導でき、AAVによる持続的な抗原発現は該応答を持続的に増強し、長期的な抗PfCSP抗体応答ならびに抗Pfs25抗体応答を維持した。本発明のワクチン接種による長期的に持続する該抗体応答は、公知のAdHu5/AAV1ワクチン接種によるものよりも有意に優れていた(
図2c、2d)。
6)本発明のワクチンは、最終免疫後26日目、86日目ならびに100日間に反復して行われたスポロゾイトチャレンジに対して、いずれも100%の完全感染防御効果を示した(
図4a-c)。さらに同じマウスは最終免疫後276日目において高い伝搬阻止効果を示した(
図4d)。
7) 99%以上の伝搬阻止効果を有する本発明のワクチン[m8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)]は、伝搬阻止効果を有さないm8Δ/AAV1-PfCSPよりも高い感染防御効果を示したことから、PfCSPとPfs25の両抗原発現によりワクチンの相乗効果が示された。
8)本発明のワクチンは、公知のワクチン(特に、AdHu5/AAV1-Pf(s25-CSP)と比較して、約7倍(71%÷10%)の顕著な有病率抑制効果を有する。
9)以上により、本発明のワクチンは、m8Δ-Pf(P7.5-s25-CSP)-HAとAAV1-Pf(s25-CSP)の計2回接種以上により、ヒトに生涯免疫が賦与させる能力を持つと考えられる。より詳しくは、実施例の結果(1)免疫後210日目まで抗体応答は持続する(
図2c、2d)、(2)複数回の原虫暴露によって抗体応答は上昇する(
図4e)、(3)免疫後276日目までワクチン効果が持続する及び(4)マラリアでは幼齢期の致死率が高いがその時期を大幅に超えて長期間効果が持続する、さらに、感染流行地域ではワクチン以外にも流行している原虫が感染することで追加免疫効果が得られる、並びに、マウスの寿命を考慮すれば、本発明のワクチンは、マウスと同様にヒトでも生涯免疫を賦与させることができる。
10)本発明のワクチンは伝搬阻止抗原Pvs25遺伝子と感染防御抗原PvCSP-S/P遺伝子とを融合したPv(s25-PvCSP-S/P)遺伝子を導入したm8Δ/AAV1-Pv(s25-CSP-S/P)三日熱マラリアワクチンである。このワクチンは三日熱マラリア原虫の2つのPvCSP遺伝子多型(サルバドール株VK210, パプアニューギニア株VK247)を発現している。マウスに接種したところ十分に高い抗Pvs25および抗PvCSP-Sal抗体価を誘導することを確認した。感染防御効果(90%)及び伝播阻止効果(>93%)の両効果を同時に誘導することに成功した。加えて、2種類の株にも効果があると考えられる。
11)本発明のAAV5を用いたm8Δ/AAV5-Pf(s25-CSP)ワクチンは、上記記載のAAV1を用いたm8Δ/AAV1-Pf(s25-CSP)ワクチンと同様な効果を有する。
12)本発明のワクチンは、サルモデルにおいて安全性が確認された。
13)本発明のワクチンは、AAV1ワクチン追加免疫後には全頭のサルで非常に高い抗PfCSP抗体価(50万倍以上)が誘導された。その抗体価は半年間たっても維持されることより2回接種のマラリアワクチンとしての有用性を示した。
14) 本発明のワクチンにより誘導される抗PfCSP抗体は非常に強いin vitroスポロゾイト中和活性を示した。本発明のワクチンは、マラリア感染防御ワクチンとしての有用性を示している。
15)本発明のワクチンは、AAV1ワクチン追加免疫後には全頭のサルで非常に高い抗Pfs25抗体価(20~50万倍)が誘導された。該抗体には非常に強い伝播阻止活性を示した。本発明のワクチンは、マラリア伝播阻止ワクチンとしての有用性を示している。
16)上記12)~15)により、本発明のワクチンは、m8Δ-Pf(P7.5-s25-CSP)-HAとAAV1-Pf(s25-CSP)の計2回接種により、ヒトに生涯免疫が賦与させる能力を持つと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
従来のマラリアワクチンと比較して、感染防御効果に優れたワクチンを提供することができる。さらにマラリア伝播阻止効果を併せ持つ全く新規のワクチンであり、マラリア独特の感染経路であるヒトと蚊の伝播も断ち切ることができる画期的なワクチンである。
【配列表】