IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人順天堂の特許一覧 ▶ シスメックス株式会社の特許一覧

特許7649506疾患鑑別支援方法、疾患鑑別支援装置、及び疾患鑑別支援コンピュータプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-12
(45)【発行日】2025-03-21
(54)【発明の名称】疾患鑑別支援方法、疾患鑑別支援装置、及び疾患鑑別支援コンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20250313BHJP
   G01N 15/14 20240101ALI20250313BHJP
【FI】
G01N33/48 Z
G01N33/48 M
G01N15/14 C
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020060956
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021162323
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001759
【氏名又は名称】弁理士法人よつ葉国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【識別番号】100168468
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 曜
(74)【代理人】
【識別番号】100166176
【弁理士】
【氏名又は名称】加美山 豊
(72)【発明者】
【氏名】大坂 顯通
(72)【発明者】
【氏名】田部 陽子
(72)【発明者】
【氏名】木村 考伸
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-237001(JP,A)
【文献】特開2004-170368(JP,A)
【文献】特開2019-195304(JP,A)
【文献】特表2018-534605(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0037806(US,A1)
【文献】特表2016-510418(JP,A)
【文献】特表2018-510340(JP,A)
【文献】米国特許第10304188(US,B1)
【文献】特表2016-506519(JP,A)
【文献】国際公開第2020/011487(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾患の鑑別を支援するための疾患鑑別支援方法であって、
被検者から採取した試料に含まれる細胞画像を解析することによって得られた、異常形態を有する細胞の数に関する第1パラメータを取得し、
前記試料に含まれる細胞の種類ごとの数に関する第2パラメータを取得し、
予め訓練されたコンピュータアルゴリズムを用いて、前記第1パラメータ及び前記第2パラメータに基づいて疾患の鑑別を支援するための鑑別支援情報を生成し、
前記第1パラメータを取得することは、前記画像を解析する第1細胞画像解析装置の解析に基づく前記第1パラメータを取得することを含み、
前記第2パラメータを取得することは、前記試料に含まれる細胞から得られる光学的シグナル又は電気的シグナルを解析する第1血球計数装置の解析に基づく前記第2パラメータを取得することを含み、
前記コンピュータアルゴリズムは、第2細胞画像解析装置の解析に基づき取得された複数種のパラメータから選別された訓練用第1パラメータと、第2血球計数装置の解析に基づき取得された複数種のパラメータから選別された訓練用第2パラメータと、疾患を表す疾患ラベルと、に基づいて予め訓練されており、
前記訓練用第1パラメータは、前記第2細胞画像解析装置の解析に基づき取得された前記複数種のパラメータのそれぞれについて、疾患群間の有意差検定を行った結果に基づいて選別されたパラメータであり、
前記訓練用第2パラメータは、前記第2血球計数装置の解析に基づき取得された前記複数種のパラメータのそれぞれについて、前記疾患群間の有意差検定を行った結果に基づいて選別されたパラメータであり、
前記第1パラメータと前記訓練用第1パラメータとは同種のパラメータであり、
前記第2パラメータと前記訓練用第2パラメータとは同種のパラメータであり、
前記第1細胞画像解析装置と前記第2細胞画像解析装置とは同じ又は同種の別の装置であり、
前記第1血球計数装置と前記第2血球計数装置とは同じ又は同種の別の装置である、
疾患鑑別支援方法。
【請求項2】
前記第1細胞画像解析装置は、撮像部により撮像した前記画像を解析する、
請求項1に記載の疾患鑑別支援方法。
【請求項3】
前記第1血球計数装置は、検出部により得られる前記光学的シグナル又は前記電気的シグナルを解析する、
請求項1又は2に記載の疾患鑑別支援方法。
【請求項4】
前記検出部は、フローサイトメータを含み、
前記第1血球計数装置は、前記フローサイトメータにより得られる前記光学的シグナルを解析する、
請求項に記載の疾患鑑別支援方法。
【請求項5】
前記異常形態が、核形態異常、顆粒異常、細胞の大きさ異常、細胞奇形、細胞破壊、空胞、幼若細胞、封入体の存在、デーレ小体、衛星現象、核網異常、花弁様核、N/C比大、ブレッブ様形態、スマッジ、及びヘアリー細胞様形態から選択される少なくとも1つを含む、
請求項1に記載の疾患鑑別支援方法。
【請求項6】
前記核形態異常が、過分葉、低分葉、偽ペルゲル核異常、輪状核、球形核、楕円形核、アポトーシス、多核、核崩壊、脱核、裸核、核辺縁不整、核断片化、核間橋、複数核、切れ込み核、核分裂、及び核小体異常から選択される少なくとも一種を含み、
前記顆粒異常が、脱顆粒、顆粒分布異常、中毒性顆粒、アウエル小体、ファゴット細胞、及び偽Chediak-Higashi顆粒様顆粒から選択される少なくとも一種を含み、
前記細胞の大きさ異常が、巨大血小板を含む、
請求項に記載の疾患鑑別支援方法。
【請求項7】
前記第1パラメータが、異型リンパ球の数、及び比率の少なくとも1つに関連するパラメータ;又は好中球、好酸球、血小板、リンパ球、単球、好塩基球、後骨髄球、骨髄球、前骨髄球、芽球、形質細胞、幼若好酸球、幼若好塩基球、赤芽球、及び巨核球から選択される少なくとも一種の異常形態を有する細胞の種類ごとの数、及び当該異常形態を有する細胞の種類ごとの比率の少なくとも1つに関連するパラメータを含む、
請求項1からのいずれか一項に記載の疾患鑑別支援方法。
【請求項8】
前記第2パラメータが、前記細胞の種類ごとの数又は前記細胞の種類ごとの比率に関連するパラメータを含む、
請求項1からのいずれか一項に記載の疾患鑑別支援方法。
【請求項9】
前記第2パラメータが、赤血球、有核赤血球、小型赤血球、血小板、網状赤血球、幼若顆粒球、好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、及び単球から選択される少なくとも一種の細胞の種類ごとの数、及び当該細胞の種類ごとの比率の少なくとも1つに関連するパラメータを含む、
請求項1からのいずれか一項に記載の疾患鑑別支援方法。
【請求項10】
前記コンピュータアルゴリズムが、機械学習アルゴリズムを含む、
請求項1からのいずれか一項に記載の疾患鑑別支援方法。
【請求項11】
前記機械学習アルゴリズムが、木、回帰、サポートベクターマシン、ベイズ、クラスタリング、及びランダムフォレストから選択されるアルゴリズムを含む、
請求項1に記載の疾患鑑別支援方法。
【請求項12】
前記機械学習アルゴリズムが、勾配ブースティング木アルゴリズムを含む、
請求項1に記載の疾患鑑別支援方法。
【請求項13】
前記第1パラメータを取得することは、前記画像を、ニューラルネットワーク構造を有する深層学習アルゴリズムにより解析することを含む、
請求項1から1のいずれか一項に記載の疾患鑑別支援方法。
【請求項14】
前記第1パラメータを取得することは、前記深層学習アルゴリズムから出力される細胞の分類結果と、当該細胞に分類される確率と、に基づいて前記第1パラメータを取得することを含む、
請求項1に記載の疾患鑑別支援方法。
【請求項15】
前記疾患が、造血系疾患である、
請求項1から1のいずれか一項に記載の疾患鑑別支援方法。
【請求項16】
前記造血系疾患が、骨髄増殖性腫瘍である、
請求項1に記載の疾患鑑別支援方法。
【請求項17】
前記骨髄増殖性腫瘍が、真性多血症、本態性血小板血症、又は原発性骨髄線維症を含む、
請求項1に記載の疾患鑑別支援方法。
【請求項18】
前記造血系疾患が、白血病、骨髄異型性症候群、リンパ腫、又は骨髄腫である、
請求項1に記載の疾患鑑別支援方法。
【請求項19】
疾患の鑑別を支援するための疾患鑑別支援装置であって、
検者から採取した試料に含まれる細胞画像を解析することによって得られた、異常形態を有する細胞の数に関する第1パラメータを取得し、前記試料に含まれる細胞の種類ごとの数に関する第2パラメータを取得し、予め訓練されたコンピュータアルゴリズムを用いて、前記第1パラメータ及び前記第2パラメータに基づいて疾患の鑑別を支援するための鑑別支援情報を生成する処理部を備え
前記処理部は、前記画像を解析する第1細胞画像解析装置の解析に基づく前記第1パラメータを取得し、前記試料に含まれる細胞から得られる光学的シグナル又は電気的シグナルを解析する第1血球計数装置の解析に基づく前記第2パラメータを取得し、
前記コンピュータアルゴリズムは、第2細胞画像解析装置の解析に基づき取得された複数種のパラメータから選別された訓練用第1パラメータと、第2血球計数装置の解析に基づき取得された複数種のパラメータから選別された訓練用第2パラメータと、疾患を表す疾患ラベルと、に基づいて予め訓練されており、
前記訓練用第1パラメータは、前記第2細胞画像解析装置の解析に基づき取得された前記複数種のパラメータのそれぞれについて、疾患群間の有意差検定を行った結果に基づいて選別されたパラメータであり、
前記訓練用第2パラメータは、前記第2血球計数装置の解析に基づき取得された前記複数種のパラメータのそれぞれについて、前記疾患群間の有意差検定を行った結果に基づいて選別されたパラメータであり、
前記第1パラメータと前記訓練用第1パラメータとは同種のパラメータであり、
前記第2パラメータと前記訓練用第2パラメータとは同種のパラメータであり、
前記第1細胞画像解析装置と前記第2細胞画像解析装置とは同じ又は同種の別の装置であり、
前記第1血球計数装置と前記第2血球計数装置とは同じ又は同種の別の装置である、
患鑑別支援装置。
【請求項20】
コンピュータに
被検者から採取した試料に含まれる細胞画像を解析することによって得られた、異常形態を有する細胞の数に関する第1パラメータを取得するステップと、
前記試料に含まれる細胞の種類ごとの数に関する第2パラメータを取得するステップと、
予め訓練されたコンピュータアルゴリズムを用いて、前記第1パラメータ及び前記第2パラメータに基づいて疾患の鑑別を支援するための鑑別支援情報を生成するステップと
を実行させ、
前記第1パラメータを取得するステップは、前記画像を解析する第1細胞画像解析装置の解析に基づく前記第1パラメータを取得するステップを含み、
前記第2パラメータを取得するステップは、前記試料に含まれる細胞から得られる光学的シグナル又は電気的シグナルを解析する第1血球計数装置の解析に基づく前記第2パラメータを取得するステップを含み、
前記コンピュータアルゴリズムは、第2細胞画像解析装置の解析に基づき取得された複数種のパラメータから選別された訓練用第1パラメータと、第2血球計数装置の解析に基づき取得された複数種のパラメータから選別された訓練用第2パラメータと、疾患を表す疾患ラベルと、に基づいて予め訓練されており、
前記訓練用第1パラメータは、前記第2細胞画像解析装置の解析に基づき取得された前記複数種のパラメータのそれぞれについて、疾患群間の有意差検定を行った結果に基づいて選別されたパラメータであり、
前記訓練用第2パラメータは、前記第2血球計数装置の解析に基づき取得された前記複数種のパラメータのそれぞれについて、前記疾患群間の有意差検定を行った結果に基づいて選別されたパラメータであり、
前記第1パラメータと前記訓練用第1パラメータとは同種のパラメータであり、
前記第2パラメータと前記訓練用第2パラメータとは同種のパラメータであり、
前記第1細胞画像解析装置と前記第2細胞画像解析装置とは同じ又は同種の別の装置であり、
前記第1血球計数装置と前記第2血球計数装置とは同じ又は同種の別の装置である、
ンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、疾患鑑別支援方法、疾患鑑別支援装置、及び疾患鑑別支援コンピュータプログラムが開示される。
【背景技術】
【0002】
疾患の鑑別は、被験者から取得した検体を検査することにより行われる。例えば、非特許文献1には、次世代シーケンシングで取得される遺伝子発現に基づき、「骨髄増殖性腫瘍」(Myeloproliferative neoplasms: MPN)における、真性多血症(PV)、本態性血小板血症(ET)、原発性骨髄線維症(PMF)の鑑別を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Manja Meggendorfer et al., Deep Learning Algorithms Support Distinction of PV, PMF, and ET Based on Clinical and Genetic Markers, Blood 2017 130:4223
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の疾患鑑別のための検査は、複雑な検査工程を要するものであり、熟練の検査者による検査を必要としていたため、新たな疾患鑑別の支援方法が求められていた。
【0005】
本発明は、疾患の鑑別を支援することを可能とする、新たな疾患鑑別支援方法、疾患鑑別支援装置、及び疾患鑑別支援コンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書には、疾患の鑑別を支援するための疾患鑑別支援方法が開示される。前記疾患鑑別支援方法では、被検者から採取した試料に含まれる細胞を含む画像を解析することによって得られた第1パラメータを取得し、前記試料に含まれる細胞の数に関する第2パラメータを取得し、コンピュータアルゴリズムを用いて、前記第1パラメータ、及び前記第2パラメータに基づいて疾患の鑑別を支援するための鑑別支援情報を生成する。
【0007】
本明細書には、疾患の鑑別を支援するための疾患鑑別支援方法が開示される。前記疾患鑑別支援方法では、被検者から採取した試料に含まれる細胞を含む画像を解析することによって得られた第1パラメータと、前記試料に含まれる細胞の数に関する第2パラメータと、に基づいて、コンピュータアルゴリズムを用いて、疾患の鑑別を支援するための鑑別支援情報を生成する。
【0008】
本明細書には、疾患の鑑別を支援するための疾患鑑別支援装置(200A,200B,100B)が開示される。疾患鑑別支援装置(200A,200B,100B)は、処理部(20A,20B,10B)を備える。処理部(20A,20B,10B)は、被検者から採取した試料に含まれる細胞を含む画像を解析することによって得られた第1パラメータを取得し、前記試料に含まれる細胞の数に関する第2パラメータを取得し、コンピュータアルゴリズムを用いて、前記第1パラメータ、及び前記第2パラメータに基づいて疾患の鑑別を支援するための鑑別支援情報を生成する。
【0009】
本明細書には、疾患の鑑別を支援するためのコンピュータプログラムが開示される。前記コンピュータプログラムは、コンピュータに実行させたときに、被検者から採取した試料に含まれる細胞を含む画像を解析することによって得られた第1パラメータを取得するステップと、前記試料に含まれる細胞の数に関する第2パラメータを取得するステップと、コンピュータアルゴリズムを用いて、前記第1パラメータ、及び前記第2パラメータに基づいて疾患の鑑別を支援するための鑑別支援情報を生成するステップと、を備える処理を実行する。
【0010】
本明細書に開示される疾患の鑑別支援方法、鑑別支援装置、及びコンピュータプログラムは、日常的に臨床検査室等で行われている検査方法によって得られる情報を利用し、疾患の鑑別を支援することができる。
【発明の効果】
【0011】
新たな疾患鑑別支援方法、疾患鑑別支援装置、及び疾患鑑別支援コンピュータプログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】疾患の鑑別を支援するための方法の概要を示す。
図2】第1パラメータ群の例を示す。
図3】第2パラメータ群の例を示す。
図4】訓練データの例を示す。
図5】疾患鑑別支援システム1の構成例を示す。
図6】細胞画像解析装置の構成の概略を示す。
図7】光学的検出部を備える血球計数装置の構成例を示す。
図8】電気抵抗方式検出部を備える血球計数装置の構成例を示す。
図9】訓練装置100A、及び疾患鑑別支援装置100Bのハードウエア構成を示す。
図10】訓練装置100Aの機能構成例を示す。
図11】訓練プログラムの処理の流れを示す。
図12】疾患鑑別支援装置200A,200B及び端末装置200Cのハードウエア構成を示す。
図13】疾患鑑別支援装置200Aの機能構成例を示す。
図14】疾患の鑑別を支援するためのコンピュータプログラムの処理の流れを示す。
図15】疾患鑑別支援システム2の構成例を示す。
図16】疾患鑑別支援装置200Bの機能構成例を示す。
図17】疾患鑑別支援システム3の構成例を示す。
図18】疾患鑑別支援装置100Bの機能構成例を示す。
図19】機械法による疾患の予測結果と医師の診断の比較を示す。
図20】機械法によるPVの予測結果のROC曲線を示す。
図21】機械法によるETの予測結果のROC曲線を示す。
図22】機械法によるPMFの予測結果のROC曲線を示す。
図23】機械法の予測精度を示す。
図24】非特許文献1に記載のアルゴリズムによる予測結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の概要及び実施の形態を、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面において、同じ符号は同じ又は類似の構成要素を示すこととし、よって、同じ又は類似の構成要素に関する説明を省略する。
【0014】
1.疾患の鑑別を支援するための方法
1-1.支援方法の概要
本実施形態は、疾患の鑑別を支援するための疾患鑑別支援方法(以下、単に「支援方法」とする)に関する。支援方法は、被検者から採取された細胞を含む試料から、細胞に関する複数種の第1パラメータと複数種の第2パラメータを取得し、コンピュータアルゴリズムを用いて、前記複数種の第1パラメータ、及び前記複数種の第2パラメータに基づいて疾患の鑑別を支援するための鑑別支援情報を生成する。
【0015】
第1パラメータは、被検者から採取した試料に含まれる細胞を含む画像を解析することによって得られる解析結果から取得される。また、第2パラメータは、細胞の数に関するパラメータであり、前記試料に含まれる細胞から得られる光学的シグナル又は電気的シグナルを解析することによって得られる解析結果から取得される。本明細書において、細胞の数に関するパラメータは、細胞数に加え、細胞数に基づいて算出した値である、特定の細胞の所定量の試料当たりの濃度(例えば、1μL当たりの赤血球の濃度)、及び、特定の細胞の、ある細胞に対する比率(例えば、白血球100個当たりの好酸球の比率)を含む。
図1に、支援方法の概要を示す。図1に示すように、被験者から採取された試料Sは、工程Aでの解析に用いられる検体S1と、工程Bでの解析に用いられる検体S2とに分割される。工程Aにおいて、細胞画像解析装置400により検体S1に含まれる細胞を撮像し、得られた細胞画像Pを解析することにより、異常所見に関するパラメータを含む複数種の第1パラメータから成る第1パラメータ群を取得する。工程Bにおいて、血球計数装置450により検体S2に含まれる細胞から光学的シグナルS又は電気的シグナルを取得し、得られた光学的シグナルL又は電気的シグナルを解析することにより、細胞の種類ごとの数又は比率等を含む複数種の第2パラメータから成る第2パラメータ群を取得する。工程Cにおいて、予め訓練されたコンピュータアルゴリズムCAに複数種の第1パラメータから成る第1パラメータ群及び複数種の第2パラメータから成る第2パラメータ群を入力し、疾患の鑑別を支援するための鑑別支援情報を生成する。
【0016】
本実施形態において、試料に含まれる細胞は、所定の細胞群に属する。所定の細胞群は、ヒトの各器官を構成する細胞群である。所定の細胞群には、正常の場合、組織学的な顕微鏡観察や細胞学的な顕微鏡観察により形態学的に分類される複数の細胞の種類が含まれる。形態学的な分類(「形態分類」ともいう)は、細胞の種類の分類と細胞の形態学的な特徴の分類を含む。好ましくは、解析対象の細胞は、所定の細胞群に属する所定の細胞系統に属する細胞群である。所定の細胞系統とは、ある一種の組織幹細胞から分化した同じ系統に属する細胞群である。所定の細胞系統として好ましくは、造血系であり、造血系細胞としてより好ましくは末梢血細胞又は骨髄細胞である。
【0017】
一般的に、血液検査で、被検者から採取された造血系の試料Sを使って、血球計数装置において、赤血球数、白血球数、血小板数、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値、赤血球恒数、白血分類値等が測定される。また、特に血液系の疾患が疑われる場合には、血球計数装置を用いた、血球検査に加え、試料Sから塗抹標本を作製し実際に血球細胞の形態観察を行い、細胞の形態学的な異常の有無を検査する。
【0018】
(1)第1パラメータ群
本実施形態では、図1に示す工程Aにおいて、第1パラメータを取得するため、検体S1から作成した塗抹標本上の1つ1つの細胞について、顕微鏡下にてあるいはスライドスキャナにより取り込まれた画像中の細胞から形態学的な特徴の抽出を行う。
【0019】
形態学的な特徴の抽出には、明視野染色を施した標本を用いることが好ましい。明視野染色は、ライト染色、ギムザ染色、ライトギムザ染色及びメイギムザ染色から選択することが好ましい。より好ましくはメイギムザ染色である。標本は、所定の細胞群に属する各細胞の形態を個々に観察できる限り制限されない。例えば、塗抹標本、及び捺印標本等を挙げることができる。好ましくは、末梢血又は骨髄を試料とした塗抹標本である。
【0020】
細胞からの形態学的な特徴の抽出において、標本上の個々の細胞の形態学的な分類を行う。また細胞に、異常所見がある場合には、異常所見の分類を行う。細胞の形態学的な分類により、細胞の種類と、試料に含まれる同種の細胞の比率の少なくとも1つが、細胞の形態学的分類に関するパラメータとして取得される。また、異常所見の分類により、異常所見の種類と、同種の異常所見を呈する細胞の比率の少なくとも1つが異常所見に関するパラメータとして取得される。第1パラメータは、形態学的分類に関するパラメータと異常所見に関するパラメータの少なくとも1つである。第1パラメータ群は、1回の観察で検出された第1パラメータの群であることが好ましい。第1パラメータ群の例を図2に示す。
【0021】
異常所見に関するパラメータとして、例えば、核形態異常、顆粒異常、細胞の大きさ異常、細胞奇形、細胞破壊、空胞、幼若細胞、封入体の存在、デーレ小体、衛星現象、核網異常、花弁様核、N/C比大、ブレッブ様形態、スマッジ、及びヘアリー細胞様形態から選択される少なくとも1つに関連する値を挙げることができる。
【0022】
核形態異常には、過分葉、低分葉、偽ペルゲル核異常、輪状核、球形核、楕円形核、アポトーシス、多核、核崩壊、脱核、裸核、核辺縁不整、核断片化、核間橋、複数核、切れ込み核、核分裂、及び核小体異常から選択される少なくとも一種を含み得る。
【0023】
顆粒異常には、脱顆粒、顆粒分布異常、中毒性顆粒、アウエル小体、ファゴット細胞、及び偽Chediak-Higashi顆粒様顆粒から選択される少なくとも一種を含み得る。
細胞の大きさ異常には、巨大血小板を含みうる。
【0024】
細胞の形態学的分類に関するパラメータには、好中球、好酸球、血小板、リンパ球、単球、好塩基球、後骨髄球、骨髄球、前骨髄球、芽球、形質細胞、異型リンパ球、幼若好酸球、幼若好塩基球、赤芽球、及び巨核球から選択される少なくとも一種の細胞の種類ごとの数に関連する値、及び好中球、好酸球、血小板、リンパ球、単球、好塩基球、後骨髄球、骨髄球、前骨髄球、芽球、形質細胞、異型リンパ球、幼若好酸球、幼若好塩基球、赤芽球、及び巨核球から選択される少なくとも一種の細胞の種類ごとの比率の少なくとも1つに関連する値を含み得る。
【0025】
第1パラメータの取得方法は、上述した形態学的分類に関するパラメータ及び/又は異常所見に関するパラメータを取得できる限り制限されない。例えば、第1パラメータの取得は、検査者が行ってもよいが、後述する細胞画像解析装置300,400を使用することが好ましい。
【0026】
第1パラメータの取得は、米国特開公開2019-0347467号公報等に記載の深層学習アルゴリズムを用いて行ってもよい。米国特開公開2019-0347467号公報は、本明細書に組み込まれる。第1パラメータの取得方法において使用される鑑別器は、図1に示すように、ニューラルネットワーク構造を有する複数の深層学習アルゴリズムを含む。鑑別器は、第1の深層学習アルゴリズムDL1と、第2の深層学習アルゴリズムDL2を含み、第1の深層学習アルゴリズムDL1は細胞の特徴量を抽出し、第2の深層学習アルゴリズムDL2は、第1の深層学習アルゴリズムが抽出した特徴量に基づいて、前記解析対象の細胞を識別する。第2の深層学習アルゴリズムDL2は、形態学的な分類結果、及びその分類に該当する確率、又は、異常所見の分類、及びその分類に該当する確率を、細胞ごとに出力する。第1の深層学習アルゴリズムDL1は、コンボリューションコネクトのニューラルネットワークであり、第1の深層学習アルゴリズムの下流に位置する第2の深層学習アルゴリズムDL2は、フルコネクトのニューラルネットワークである。
【0027】
(2)第2パラメータ
本実施形態では、図1に示す工程Bにおいて、検体S2を、血球計数装置を用いて測定し、第2パラメータを取得する。
【0028】
第2パラメータは、血球計数装置350,450によって検出された光学的シグナル又は電気的シグナルに基づいて取得されるパラメータであり、細胞の種類ごとの数、細胞の種類ごとの比率、細胞の大きさ、及び細胞に含まれる成分の濃度の少なくとも1つに関連する値である。第2パラメータの取得は、米国特開公開2014-0051071号公報等に記載の深層学習アルゴリズムを用いて行ってもよい。米国特開公開2014-0051071号公報は、本明細書に組み込まれる。
血球計数装置350,450から取得されるパラメータの例を図3に示す。
【0029】
第2パラメータとして、好ましくは、(i)赤血球、有核赤血球、小型赤血球、血小板、ヘモグロビン、網状赤血球、幼若顆粒球、好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、及び単球から選択される少なくとも一種の細胞の種類ごとの数に関連する値、(ii)赤血球、有核赤血球、小型赤血球、血小板、ヘモグロビン、網状赤血球、幼若顆粒球、好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、及び単球から選択される少なくとも一種の細胞の種類ごとの比率に関連する値、及び(iii)ヘマトクリット、平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)、平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)、平均血小板容積(MPV)から選択される少なくとも1つに関連する値を挙げることができる。第2パラメータは、(i)、(ii)、及び(iii)から選択される少なくとも1つのパラメータを含み得る。
【0030】
(3)疾患の鑑別
本実施形態では、第1パラメータ群、及び前記第2パラメータ群に基づいて疾患の鑑別を支援するための鑑別支援情報を生成する。
【0031】
本実施形態で鑑別される疾患は、ヒトの疾患である限り制限されない。好ましくは、造血疾患である。造血系疾患は、骨髄増殖性腫瘍、白血病、骨髄異型性症候群、リンパ腫、及び骨髄腫等を含み得る。骨髄増殖性腫瘍は、好ましくは真性多血症、本態性血小板血症、又は原発性骨髄線維症等を含み得る。白血病は、好ましくは急性骨髄芽球性白血病、急性骨髄芽球性白血病、急性前骨髄球性白血病、急性骨髄単球性白血病、急性単球性白血病、赤白血病、急性巨核芽球性白血病、急性骨髄性白血病、急性リンパ球性白血病、リンパ芽球性白血病、慢性骨髄性白血病、及び慢性リンパ球性白血病等を含み得る。リンパ腫は、ホジキンリンパ腫、及び非ホジキンリンパ腫等を含み得る。骨髄腫は、多発性骨髄腫等を含み得る。
【0032】
疾患を鑑別するための支援情報の生成は、後述する処理部20が、コンピュータアルゴリズムを用いて行う。コンピュータアルゴリズムには、機械学習アルゴリズム、及び深層学習アルゴリズム等を含み得る。
【0033】
機械学習アルゴリズムには、木、回帰、サポートベクターマシン、ベイズ、クラスタリング、及びランダムフォレスト等のアルゴリズムを含み得る。機械学習アルゴリズムとして好ましくは、勾配ブースティング木アルゴリズムである。勾配ブースティング木はとして、さらに好ましくは、Multimodal deep neural networks (MultimodalDNN)である。
深層学習アルゴリズムは、ニューラルネットワーク構造を有する。
コンピュータアルゴリズムは、下記方法にしたがって訓練され、疾患の鑑別器として機能する。
【0034】
1-2.鑑別器の生成
訓練データは、訓練用第1パラメータ群と訓練用第2パラメータ群を同じ階層のマトリクスとしてならべ、さらに疾患名を示すラベル(以下、「疾患名のラベル」ともいう)を紐付けることにより生成される。訓練用第1パラメータ群は、訓練用塗抹標本から取得される。図4に訓練データの例を示す。例えば、図4の第1列はパラメータ群のカテゴリーを示す。図4の第2列は、行番号を示す。図4の第3列は各パラメータの名称(ラベル)を示し、第4列は、各パラメータを示す。パラメータは、例えば細胞種や異常所見を有する細胞の比率であれば%で、濃度であれば例えばg/dLで、細胞数であれば10^4/uL(×10個/μL)等の単位で表される。これらの単位は、血球検査等で一般的に使用されている単位である。第1パラメータは、深層学習アルゴリズムDL2を使用し、形態学的な分類結果、又は異常所見の分類の結果を計数し、得られた計数結果に対して、その分類に該当する確率により重み付けすることにより得られる。例えば、好中球桿状核球に分類された細胞が、100個の細胞中1個であり、好中球桿状核球に分類された細胞が、好中球桿状核球に分類される確率が90%である場合は、1個に90%を乗じて、0.9個とする。図4の第5列は、疾患名を示すラベルである。
【0035】
訓練用第1パラメータ群と訓練用第2パラメータ群は、医師による疾患名の確定診断がついた患者から採取した試料(以下、「訓練用試料」ともいう)から試料ごとに生成される。そして、試料ごとに、訓練用第1パラメータ群と訓練用第2パラメータ群からなるマトリクスが疾患名と対応付けられて、訓練データとなる。
【0036】
図4の例では、行方向に訓練用第1パラメータ群と訓練用第2パラメータ群が並んでいるが、列方向に並べてもよい。また、図4のように各パラメータは略称で表されてもよく、ラベル値で表されてもよい。また疾患名のラベルも、ラベル値で表されてもよい。
【0037】
ここで、訓練用第1パラメータ群と訓練用第2パラメータ群は、所定の統計解析を行って、疾患と関連性の高いパラメータを選択してもよい。所定の統計解析として、例えば、一次元分散解析(ANOVA)、ピアソンの相関、スピアマンの順位相関等を挙げることができる。好ましくは、一次元分散解析である。統計学的なパラメータの選別を行うことにより、鑑別精度を高めることができる。
【0038】
次に、訓練データを、コンピュータアルゴリズムに入力し、コンピュータアルゴリズムを訓練し鑑別器を生成する。ここで、機械学習アルゴリズムを使用する場合には、疾患ごとに1つのアルゴリズムを訓練する。一方、深層学習アルゴリズムを使用する場合には、1つのアルゴリズムで、複数の疾患について訓練することができる。
【0039】
コンピュータアルゴリズムの訓練は、Python等のソフトウエアを使用して行うことができる。
【0040】
訓練されたコンピュータアルゴリズムは、疾患の鑑別器として、疾患の鑑別を支援するために使用される。
【0041】
1-3.解析データの生成と鑑別支援情報の生成
解析データは、被検者から採取した解析対象試料から、解析用第1パラメータ群と解析用第2パラメータ群を取得し、これらを組み合わせて生成される。解析用第1パラメータ群と解析用第2パラメータ群は、それぞれ訓練用第1パラメータ群と訓練用第2パラメータ群と同様に生成されることが好ましい。また、解析データに含まれるパラメータも、訓練データに含まれるパラメータと同種であることが好ましい。解析データは、解析用第1パラメータ群と解析用第2パラメータ群を同じ階層として、好ましくは訓練データと同じ順でマトリクス化して生成することが好ましい。
【0042】
次に解析データを上記1-2.において訓練された鑑別器に入力し、疾患の鑑別を支援するための情報を生成する。前記情報は、解析データから予測された、被検者が鑑別器に対応する疾患を有する確率を示す値である。さらに、前記確率に基づいて、患者の疾患名を示すラベルを出力してもよい。
【0043】
2.疾患鑑別支援システム1
本開示におけるある実施形態は、疾患鑑別支援システム1に関する。
図5を参照し、疾患鑑別支援システム1の構成について説明する。疾患鑑別支援システム1は、訓練装置100Aと、疾患鑑別支援装置200Aとを備える。ベンダ側装置100は訓練装置100Aとして機能し、ユーザ側装置200は疾患鑑別支援装置200Aとして動作する。
【0044】
訓練装置100Aは細胞画像解析装置300と血球計数装置350とに接続されている。訓練装置100Aは、細胞画像解析装置300から訓練用第1パラメータ群を取得し、血球計数装置350から訓練用第2パラメータ群を取得する。
【0045】
疾患鑑別支援装置200Aは、細胞画像解析装置400と血球計数装置450とに接続されている。疾患鑑別支援装置200Aは、細胞画像解析装置400から解析用第1パラメータ群を取得し、血球計数装置350から解析用第2パラメータ群を取得する。
【0046】
記録媒体98は、例えばDVD-ROMやUSBメモリ等の、コンピュータで読み取り可能であって不揮発性の記録媒体である。
以下に各構成について説明する。
【0047】
2-1.細胞画像解析装置
図6を参照し、細胞画像解析装置300の構成を説明する。細胞画像解析装置300は、少なくとも、撮像部304を備え、撮像部304は、標本を乗せるためのステージ309と、顕微鏡等の拡大鏡部302と、鏡験画像を撮像するための撮像素子301とを備える。ステージ309上にセットされた訓練用標本308上の各細胞の画像を取得する。細胞画像解析装置300は、取得した画像から第1パラメータ群の取得を行う。細胞画像解析装置300は、情報処理ユニット305を添えており、情報処理ユニット305が第1パラメータ群の取得、及び書き出し、並びに訓練装置100Aとの通信を行う。
【0048】
次に細胞画像解析装置400の構成を説明する。細胞画像解析装置400の構成は、細胞画像解析装置300と基本的に同じであり、撮像部404を備え、撮像部404は、標本を乗せるためのステージ409と、顕微鏡等の拡大鏡部402と、鏡験画像を撮像するための撮像素子401とを備える。細胞画像解析装置400は、ステージ409上にセットされた解析用標本408上の各細胞の画像を取得する。細胞画像解析装置400は、取得した画像から解析用第1パラメータ群の取得を行う。細胞画像解析装置400は、情報処理ユニット405を備えており、情報処理ユニット405が第1パラメータ群の取得、及び書き出し、並びに疾患鑑別支援装置200との通信を行う。
【0049】
細胞画像解析装置300,400として、例えばシスメックス株式会社製のAutomated Digital Cell Morphology Analyzer DI-60等を使用することができる。
【0050】
2-2.血球計数装置
図7及び図8を用いて、血球計数装置350の構成を説明する。血球計数装置350は、図7に示すフローセルを備えた光学的シグナルを検出するための光学的検出部411を備えるフローサイトメータ等である。
図7において、光源4111であるレーザダイオードから出射された光は、照射レンズ系4112を介してフローセル4113内を通過する細胞に照射される。
【0051】
本実施形態において、フローサイトメータの光源4111は特に限定されず、蛍光色素の励起に好適な波長の光源4111が選択される。そのような光源4111としては、例えば赤色半導体レーザ及び/又は青色半導体レーザを含む半導体レーザ、アルゴンレーザ、ヘリウム-ネオンレーザ等の気体レーザ、水銀アークランプなどが使用される。特に半導体レーザは、気体レーザに比べて非常に安価であるので好適である。
【0052】
図7に示されるように、フローセル4113を通過する粒子から発せられる前方散乱光は、集光レンズ4114とピンホール部4115を介して前方散乱光受光素子4116によって受光される。前方散乱光受光素子4116はフォトダイオード等であり得る。側方散乱光は、集光レンズ4117、ダイクロイックミラー4118、バンドパスフィルタ4119、及びピンホール部4120を介して側方散乱光受光素子4121によって受光される。側方散乱光受光素子4121は、フォトダイオード、フォトマルチプライヤ等であり得る。側方蛍光は、集光レンズ4117及びダイクロイックミラー4118を介して側方蛍光受光素子4122によって受光される。側方蛍光受光素子4122は、アバランシェフォトダイオード、フォトマルチプライヤ等であり得る。
【0053】
各受光部4116、4121及び4122から出力された受光信号は、それぞれ、アンプ4151、4152及び4153を有するアナログ処理部によって増幅及び波形処理などのアナログ処理が施され、測定ユニット制御部480に送られる。
【0054】
測定ユニット制御部480は情報処理ユニット351と接続されており、情報処理ユニット351は光学的検出部411において取得された光学的シグナルに基づいて、第2パラメータを取得する。
【0055】
また、血球計数装置350は、図8に示す電気抵抗方式検出部412を備えていてもよい。図8は電気抵抗方式検出部412がシースフロー式電気抵抗検出部412である場合を示す。シースフロー式電気抵抗検出部412はチャンバ壁412aと、細胞の電気抵抗を測定するアパチャー部412bと、試料を供給する試料ノズル412cとアパチャー部412bを通過した細胞を回収する回収管412dを備える。チャンバ壁412a内の試料ノズル412cと回収管412dの周りはシース液で満たされている。符号412sで表される破線矢印はシース液が流れる方向を示している。試料ノズルから排出された赤血球412e及び血小板412fは、シース液の流れ412sに包まれながらアパチャー部412bを通過する。アパチャー部412bには一定電圧の直流電圧がかけられており、シース液のみが流れている間は、一定の電流が流れるように制御されている。細胞は、電気を通しにくい、すなわち電気抵抗が大きいため、細胞がアパチャー部412bを通過すると電気抵抗が変わり、アパチャー部412bにおいて、細胞が通過した回数とその電気抵抗を検出することができる。電気抵抗は、細胞の体積に比例して大きくなるため、測定ユニット情報処理部481は、電気抵抗値に関するシグナル強度からアパチャー部412bを通過した細胞の容積を算出し、容積毎の細胞のカウント数をヒストグラムとして情報処理ユニット351に送ることができる。
血球計数装置350は訓練用試料を測定し、訓練用第2パラメータ群を取得する。
【0056】
血球計数装置450の構成も血球計数装置350と同様である。血球計数装置450は、訓練用試料を測定し、解析用第2パラメータ群を取得する。
血球計数装置350,450として、例えばシスメックス株式会社製のXN-2000の血球計数装置を挙げることができる。
【0057】
2-3.訓練装置
訓練装置100Aは、訓練用第1パラメータ群及び訓練用第2パラメータ群と、これらに紐付く疾患名を訓練データとしてコンピュータアルゴリズムを訓練し鑑別器を生成する。訓練装置100Aは、細胞画像解析装置300から記録媒体98又はネットワーク99を通じて第1パラメータを取得する。訓練装置100Aは、血球計数装置350から記録媒体98又はネットワーク99を通じて第2パラメータを取得する。訓練装置100Aは、生成した鑑別器を疾患鑑別支援装置200Aに提供する。鑑別器の提供は、記録媒体98又はネットワーク99を通じて行われる。疾患鑑別支援装置200Aは、鑑別器を用いて、疾患の鑑別を支援するための鑑別支援情報を生成する。
【0058】
(1)訓練装置のハードウエア構成
図9を用いて、訓練装置100Aのハードウエアの構成を説明する。訓練装置100Aは、処理部10(10A)と、入力部16と、出力部17とを備える。訓練装置100Aは、例えば汎用コンピュータで構成されている。
【0059】
処理部10は、後述するデータ処理を行うCPU(Central Processing Unit)11と、データ処理の作業領域に使用するメモリ12と、後述するプログラム及び処理データを記録する記憶部13と、各部の間でデータを伝送するバス14と、外部機器とのデータの入出力を行うインタフェース部15と、GPU(Graphics Processing Unit)19とを備えている。入力部16及び出力部17は、処理部10に接続されている。例示的には、入力部16はキーボード、タッチパネル又はマウス等の入力装置であり、出力部17は液晶ディスプレイ等の表示装置である。GPU19は、CPU11が行う演算処理(例えば、並列演算処理)を補助するアクセラレータとして機能する。すなわち以下の説明においてCPU11が行う処理とは、CPU11がGPU19をアクセラレータとして用いて行う処理も含むことを意味する。
【0060】
また、処理部10は、以下の図11で説明する訓練処理を行うためのコンピュータプログラム、及びコンピュータアルゴリズムを、例えば実行形式で記憶部13に予め記録している。実行形式は、例えばプログラミング言語からコンパイラにより変換されて生成される形式である。処理部10は、記憶部13に格納されたオペレーションシステムと協働して、訓練処理を行うためのコンピュータプログラム(以下、単に「訓練プログラム」と呼ぶことがある)を使用して、コンピュータアルゴリズムの訓練処理を行う。
【0061】
以下の説明においては、特に断らない限り、処理部10が行う処理は、記憶部13又はメモリ12に格納された訓練処理を行うためのコンピュータプログラム、及びコンピュータアルゴリズムに基づいて、CPU11が行う処理を意味する。CPU11はメモリ12を作業領域として必要なデータ(処理途中の中間データ等)を揮発性に一時記憶し、記憶部13に演算結果等の長期保存するデータを不揮発性に適宜記録する。
【0062】
(2)訓練装置の機能構成
図10を参照すると、訓練装置100Aの処理部10Aは、訓練データ生成部101と、訓練データ入力部102とアルゴリズム更新部103として機能する。これらの機能は、コンピュータに訓練処理を実行させる訓練プログラム(例えばPython等)を、処理部10Aの記憶部13又はメモリ12にインストールし、このプログラムをCPU11が実行することにより実現される。訓練データデータベース(DB)104には、処理部10Aが細胞画像解析装置300から取得した訓練用第1パラメータ群と、血球計数装置350から取得した訓練用第2パラメータ群が格納される。また、訓練データDB104には、パラメータに対応する疾患名のラベルも格納される。アルゴリズムデータベース(DB)105には、訓練前のコンピュータアルゴリズム及び訓練後のコンピュータアルゴリズムが格納されうる。
【0063】
訓練データ生成部101は、後述するステップS11に対応し、訓練データ入力部102はステップS12に対応し、アルゴリズム更新部103はステップS15に対応する。
【0064】
(3)訓練プログラムの処理
訓練装置100Aの処理部10Aは、図11に示す訓練プログラムの各ステップを実行する。
【0065】
処理部10Aは、オペレータが入力部16から入力した訓練データ取得処理開始指令を受け付け、ステップS11において、細胞画像解析装置300から訓練用第1パラメータ群を取得し記憶部13内の訓練データDB104に格納する。また、処理部10Aは、血球計数装置350から訓練用第2パラメータ群を取得し記憶部13内の訓練データDB104に格納する。処理部10Aは、上記1-2.に記載した方法にしたがって、訓練用第1パラメータ群及び訓練用第2パラメータ群と疾患名のラベルを紐付けて訓練データを生成し、記憶部13内の訓練データデータベース104に格納する。各パラメータ群に対応する疾患名のラベルは、各パラメータ群に対してオペレータが入力部16から入力したものを受け付けて、訓練用第1パラメータ群及び訓練用第2パラメータ群と紐付けてもよい。あるいは、細胞画像解析装置300又は血球計数装置350において各パラメータを取得した際に、患者情報と各パラメータと紐付け、その情報を処理部10Aが読み込んでもよい。
【0066】
処理部10Aは、オペレータが入力部16から入力した訓練処理開始指令を受け付け、ステップS12において、記憶部13内のアルゴリズムDB105に格納されたコンピュータアルゴリズムを読み出し、さらに訓練データDB10から訓練データを読み出し、コンピュータアルゴリズムに訓練データを入力する。
【0067】
処理部10Aは、ステップS13において、すべての訓練データを使ってコンピュータアルゴリズムを訓練したかを判定し、すべての訓練データを使ってコンピュータアルゴリズムを訓練していない場合(「No」の場合)にはステップS14に進み、次の訓練データを訓練データDB10から読み出し、ステップS12に戻って処理を続ける。
【0068】
処理部10Aは、ステップS13において、すべての訓練データを使ってコンピュータアルゴリズムを訓練した場合(「Yes」の場合)には、ステップS15に進み、訓練したコンピュータアルゴリズムを記憶部13内のアルゴリズムDB105に記録する。
【0069】
訓練したコンピュータアルゴリズムが、疾患の鑑別を支援するための鑑別支援情報を生成する鑑別器として機能する。
【0070】
2-4.疾患鑑別支援装置
疾患鑑別支援装置200Aは、解析用第1パラメータ群及び解析用第2パラメータ群と、鑑別器を取得し、疾患の鑑別を支援するための鑑別支援情報を生成する。疾患鑑別支援装置200Aは、細胞画像解析装置400から記録媒体98又はネットワーク99を通じて解析用第1パラメータを取得する。疾患鑑別支援装置200Aは、血球計数装置450から記録媒体98又はネットワーク99を通じて解析用第2パラメータを取得する。
【0071】
(1)疾患鑑別支援装置のハードウエア構成
図12を用いて、疾患鑑別支援装置200Aのハードウエアの構成を説明する。疾患鑑別支援装置200Aの構成は、基本的に訓練装置100Aと同様である。ただし、訓練装置100Aの処理部10(10A)、入力部16、出力部17は、疾患鑑別支援装置200Aにおいて、処理部20(20A)、入力部26、出力部27と読み替えるものとする。
【0072】
また、訓練装置100AのCPU11と、メモリ12と、記憶部13と、バス14とインタフェース部15と、GPU19は、疾患鑑別支援装置200Aにおいて、CPU21と、メモリ22と、記憶部23と、バス24とインタフェース部25と、GPU29と読み替えるものとする。
【0073】
また、処理部20は、以下の図14で説明する各ステップの処理を行うためのコンピュータプログラムを、例えば実行形式で記憶部13に予め記録している。実行形式は、例えばプログラミング言語からコンパイラにより変換されて生成される形式である。処理部10は、記憶部13に記録した疾患の鑑別を支援するためのコンピュータプログラムと、訓練装置100Aが生成した鑑別器を使用して、疾患の鑑別を支援するための鑑別支援情報を生成する。
【0074】
また、処理部20は、以下の疾患解析処理で説明する各ステップの処理を行うために、後述する疾患の鑑別を支援するためのコンピュータプログラム及び鑑別器を、例えば実行形式で記憶部23に予め記録している。実行形式は、例えばプログラミング言語からコンパイラにより変換されて生成される形式である。処理部20は、記憶部23に格納されたオペレーションシステムと協働して、疾患の鑑別を支援するためのプログラム及び鑑別器を使用して疾患の鑑別を支援するための鑑別支援情報の生成処理を行う。
【0075】
以下の説明においては、特に断らない限り、処理部20が行う処理は、記憶部23又はメモリ22に格納された疾患の鑑別を支援するためのコンピュータプログラム及び鑑別器に基づいて、実際には処理部20のCPU21が行う処理を意味する。CPU21はメモリ22を作業領域として必要なデータ(処理途中の中間データ等)を揮発性に一時記憶し、記憶部23に演算結果等の長期保存するデータを不揮発性に適宜記録する。
【0076】
(2)疾患鑑別支援装置の機能構成
図13を参照すると、疾患鑑別支援装置200Aの処理部20Aは、解析データ取得部201と、解析データ入力部202と、解析部203と、解析データデータベース(DB)204と、鑑別器データベース(DB)205として機能する。これらの機能は、コンピュータに鑑別支援情報の生成処理を実行させるコンピュータプログラム(例えばPython等)を、処理部20Aの記憶部23又はメモリ22にインストールし、このコンピュータプログラムと鑑別器を含む疾患の鑑別を支援するためのコンピュータプログラムをCPU21が実行することにより実現される。解析データデータベース(DB)204には、処理部10Aが細胞画像解析装置400から取得した解析用第1パラメータ群と、血球計数装置450から取得した解析用第2パラメータ群が格納される。鑑別器データベース(DB)205には、訓練装置100から取得した鑑別器が格納される。
【0077】
解析データ取得部201は、後述するステップS21に対応し、解析データ入力部202はステップS22及びステップS23に対応し、解析部203はステップS24に対応する。
【0078】
(3)疾患の鑑別を支援するためのコンピュータプログラムの処理
疾患鑑別支援装置200Aの処理部20Aは、図14に示す各ステップを実行する。
【0079】
処理部20Aは、オペレータが入力部26から入力した解析データ取得処理開始指令を受け付け、ステップS21において、細胞画像解析装置400から解析用第1パラメータ群を取得し、記憶部23内の解析データDB204に格納する。また、処理部20Aは、血球計数装置450から解析用第2パラメータ群を取得し、記憶部23内の解析データDB204に格納する。
【0080】
処理部20Aは、オペレータが入力部26から入力した鑑別器取得処理開始指令を受け付け、ステップS22において、訓練装置100Aから鑑別器を取得する。あるいは、鑑別器が予め記憶部23内の鑑別器データベース205に格納されている場合には、格納された鑑別器を読み出す。
【0081】
処理部20Aは、オペレータが入力部26から入力した解析処理開始指令を受け付け、ステップS23において、鑑別器にステップS21で取得した解析用第1パラメータ群と解析用第2パラメータ群を、解析データDB204から呼び出し、鑑別器に入力する。
【0082】
処理部20Aは、ステップS24において、疾患の鑑別を支援するための鑑別支援情報として、各疾患の確率を示す値を生成し、記憶部23内に記録する。
【0083】
処理部20Aは、ステップS25において、ステップS24にて生成した結果を出力部27に出力する。
【0084】
3.疾患鑑別支援システム2
図15及び図16を用いて、疾患鑑別支援システムの別の態様について説明する。図15に疾患鑑別支援システム2の構成例を示す。疾患鑑別支援システム2は、ユーザ側装置200と、細胞画像解析装置400と、血球計数装置450と、を備え、ユーザ側装置200が、訓練と疾患鑑別支援の両方を行う疾患鑑別支援装置200Bとして動作する。疾患鑑別支援装置200Bは、訓練装置100A及び疾患鑑別支援装置200Aの両方の機能を担う。疾患鑑別支援装置200Bは細胞画像解析装置400及び血球計数装置450に接続されている。
【0085】
(1)疾患鑑別支援装置200Bのハードウエア構成
疾患鑑別支援装置200Bのハードウエア構成は、図12に示すユーザ側装置200のハードウエア構成と同様である。図12中、処理部20Aを疾患鑑別支援装置200Bでは、処理部20Bと読み替えるものとする。
【0086】
(2)疾患鑑別支援装置200Bの機能構成
図16に、疾患鑑別支援装置200Bの機能構成を示す。疾患鑑別支援装置200Bの処理部20Bは、訓練データ生成部101と、訓練データ入力部102と、アルゴリズム更新部103と、解析データ取得部201と、解析データ入力部202と、解析部203と、パラメータデータベース(DB)304と、アルゴリズムデータベース(DB)305として機能する。パラメータデータベース(DB)304は、上記2-3.(2)で述べた訓練データDB104と、上記2-4.(2)で述べた解析データDB204の機能を兼ね備える。また、アルゴリズムデータベース(DB)305は、上記2-3.(2)で述べアルゴリズムDB105と、上記2-4.(2)で述べた鑑別器DB205の機能を兼ね備える。すなわち、パラメータDB304には、処理部20Bが細胞画像解析装置400から取得した訓練用第1パラメータ群及び解析用第1パラメータ群と、血球計数装置450から取得した訓練用第2パラメータ群と解析用第2パラメータ群とが格納される。アルゴリズムDB305には、訓練前のコンピュータアルゴリズム及び訓練後のコンピュータアルゴリズムである鑑別器が格納される。
【0087】
疾患鑑別支援装置200Bの処理部20Bは、訓練時には、上記2-3.(3)及び図11に示す処理を行う。訓練データ生成部101は、上記2-3.(3)で述べたステップS11に対応し、訓練データ入力部102はステップS12に対応し、アルゴリズム更新部103はステップS15に対応する。ここで、上記2-3.(3)に記載の「処理部10Aの記憶部13」、「訓練データDB104」、「アルゴリズムDB105」は、それぞれ「処理部20Bの記憶部23」、「パラメータDB304」、「アルゴリズムDB305」と読み替えるものとする。
【0088】
疾患鑑別支援装置200Bの処理部20Bは、鑑別支援情報の生成処理の時には、上記2-4.(3)及び図14に示す処理を行う。解析データ取得部201は、上記2-4.(3)で述べたステップS21に対応し、解析データ入力部202はステップS22及びステップS23に対応し、解析部203はステップS24に対応する。ここで、上記2-4.(3)に記載の「解析データDB204」、「鑑別器DB205」は、それぞれ、「パラメータDB304」、「アルゴリズムDB305」と読み替えるものとする。
【0089】
4.疾患鑑別支援システム3
図17及び図18用いて、疾患鑑別支援システムの別の態様について説明する。図17に疾患鑑別支援システム3の構成例を示す。疾患鑑別支援システム3は、ベンダ側装置100と、ユーザ側装置200とを備える。ベンダ側装置100は、処理部10(10B)と、入力部16と、出力部17とを備える。ベンダ側装置100は上記疾患鑑別支援装置200Bと同様に、訓練処理と鑑別支援情報生成処理の両方を行う疾患鑑別支援装置100Bとして動作する。一方、ユーザ側装置200は端末装置200Cとして動作する。
【0090】
ここで、疾患鑑別支援装置100Bは、例えば汎用コンピュータ等で構成されるクラウドサーバ側の装置である。疾患鑑別支援装置100Bは細胞画像解析装置300及び血球計数装置350と通信可能に接続されている。また、疾患鑑別支援装置100Bは、端末装置200Cと、ネットワーク99を通じて通信可能に接続されている。
端末装置200Cは、汎用コンピュータ等であり、細胞画像解析装置400及び血球計数装置450と通信可能に接続されている。
【0091】
(1)疾患鑑別支援装置100Bのハードウエア構成
疾患鑑別支援装置100Bのハードウエア構成は、図10に示すベンダ側装置100のハードウエア構成と同様である。図10中、処理部10Aを疾患鑑別支援装置100Bでは、処理部10Bと読み替えるものとする。
【0092】
(2)疾患鑑別支援システム3の機能構成
図18に、疾患鑑別支援システム3の機能構成を示す。疾患鑑別支援装置100Bの機能構成は、上記3.(2)及び図16と同様である。
【0093】
端末装置200Cは、細胞画像解析装置400から解析用第1パラメータを取得し、血球計数装置450から解析用第2パラメータを取得し、ネットワーク99を通じて疾患鑑別支援装置100Bにこれらの解析パラメータを送信する。疾患鑑別支援装置100Bは、端末装置200Cから送信された解析パラメータから、鑑別支援情報を生成し、端末装置200Cに送信する。
【0094】
5.コンピュータプログラム
本開示の別実施形態は、上記2-3.(3)及び図11に示すステップS11からS15を含む訓練処理をコンピュータに実行させる、コンピュータプログラムに関する。
【0095】
また、本開示の別実施形態は、上記2-4.(3)及び図14に示すステップS21からS25を含む疾患の鑑別を支援するための処理をコンピュータに実行させる、コンピュータプログラムに関する。
【0096】
前記コンピュータプログラムは、前記コンピュータプログラムを記憶した、記録媒体等のプログラム製品として提供されてもよい。前記コンピュータプログラムは、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等の記録媒体に記憶される。前記記録媒体へのプログラムの記憶形式は、前記処理部が前記プログラムを読み取り可能である限り制限されない。前記記録媒体への記憶は、不揮発性であることが好ましい。
【0097】
6.効果の検証
本明細書に開示される疾患の鑑別の支援方法の効果を検証した。
【0098】
6-1.試料
(1)訓練用試料
2017年2月から同年9月の間に順天堂大学附属病院を受診し、既に診断がついている真性多血症(PV) 34名、本態性血小板血症(ET) 168名、及び原発性骨髄線維症(PMF) 69名の患者から末梢血をEDTA採血し、訓練用試料として用いた。
【0099】
(2)検証用試料
順天堂大学病院を受診し、既に診断がついている真性多血症(PV) 9名、本態性血小板血症(ET) 53名、及び原発性骨髄線維症(PMF) 12名の患者から末梢血をEDTA採血し検証用試料として用いた。
【0100】
6-2.各パラメータの取得と選別
(1)第1パラメータ群の取得
末梢血の塗抹標本を作製し、Automated Digital Cell Morphology Analyzer DI-60(シスメックス株式会社)を用いて、異常所見に関するパラメータを取得した。異常所見は、細胞の種類と分類値17項目、異常形態特徴164項目の計181項目について取得した。
【0101】
(2)第2パラメータ群の取得
血球計数装置XNシリーズを用いて、174項目の血球検査項目の測定値を取得した。
【0102】
(3)第1パラメータ及び第2パラメータの選別
上記第1パラメータ群及び第2パラメータ群について、疾患鑑別とより関係性の強い項目を選別するため、一次元分散解析(ANOVA)による選定を行った。
【0103】
ANOVAの帰無仮説H0は、「群間に差は無い」とし、対立仮説H1は、「群間に差がある」とした。有意水準p値は0.05とし、p<0.05であった項目を疾患との関連性が高い項目として抽出した。ANOVAによる有意差検定により第1パラメータ群から44項目、第2パラメータ群から121項目を抽出した。抽出した項目とp値の例を表1に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
6-3.訓練
それぞれの訓練用試料について、上記6-2.(3)において選定された第1パラメータ群と第2パラメータ群を取得し、これらを同じ階層として並べたマトリクスを訓練用試料ごとに生成した。訓練用試料を採血した各患者の疾患ラベルを各マトリクスに紐付け訓練データを作成した。作成した訓練データを勾配ブースティング木に入力し、アルゴリズムを訓練し鑑別器を生成した。ソフトウエアは、Pythonを使用した。
【0106】
6-4.検証
それぞれの検証用試料について、上記6-2.(3)において選定された第1パラメータ群と第2パラメータ群を取得し、これらを同じ階層として並べたマトリクスを検証用試料ごとに生成し、これを各検証用試料の解析データとした。生成した各解析データを鑑別器に入力し、鑑別結果を取得した。
【0107】
図19に、鑑別器を使用した機械法と、医師による確定診断の結果の比較を示す。医師によってPVと診断された患者9名は、機械法でもすべてPVと予測された。医師によって、ETと診断された患者53名のうち、49名が機械法でもETと予測され、2名が機械法でPVと予測され、2名がPMFと予測された。また、医師によってPMFと診断された患者12名のうち、10名が機械法でもPMFと予測され、1名はPVと予測され、1名がETと予測された。
【0108】
図20図21図22にそれぞれ、機械法で予測したPV、ET、PMFのROC曲線を示す。また、図23に各ROC曲線から得られた感度、特異度、AUC値を示す。いずれの疾患も、感度及び特異度は、90%を超えており良好であった。また、AUC値も0.96を超えており、良好であった。
【0109】
6-5.従来法との比較
図24に非特許文献1のFigure B)の図を示す。非特許文献1の方法では、PMFにおいて、ET又はPTと判定されるか、判定できないケースが多く見られる。このことから本明細書に開示される疾患の鑑別の支援方法の方が、疾患の鑑別支援には適していると考えられた。
【符号の説明】
【0110】
200A,200B,100B 疾患鑑別支援装置
20A,20B,10B 処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24