(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-12
(45)【発行日】2025-03-21
(54)【発明の名称】組織構造体、組織構造体形成装置、および組織構造体の形成方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/38 20060101AFI20250313BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20250313BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20250313BHJP
A61L 27/24 20060101ALI20250313BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20250313BHJP
A61F 2/04 20130101ALI20250313BHJP
A61F 2/06 20130101ALI20250313BHJP
C12N 5/074 20100101ALN20250313BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20250313BHJP
A61K 9/00 20060101ALN20250313BHJP
【FI】
A61L27/38 200
A61K35/545
A61K35/28
A61L27/24
A61L27/36 130
A61F2/04
A61F2/06
C12N5/074
C12M1/00 A
A61K9/00
(21)【出願番号】P 2024104713
(22)【出願日】2024-06-28
【審査請求日】2024-09-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518383828
【氏名又は名称】バイオチューブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】中山 泰秀
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-034880(JP,A)
【文献】特許第6813923(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00-27/60
A61K 35/00-35/768
C12N 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織を含む環境のなかに留置された区画壁
によって形成される組織構造体であって、
前記区画壁が、中空部を囲う内面と、前記内面に開口した複数の貫通孔と、を備え、
前記生体組織のなかの細胞が前記貫通孔を通じて前記中空部に侵入するように前記区画壁が構成され、
多能性幹細胞が、多能性幹細胞マーカーSSEA3、および多能性幹細胞マーカーSSEA4の少なくとも一方を発現する幹細胞と、間葉系幹細胞と、を含み、
前記組織構造体は、
前記生体組織のなかの細胞が前記貫通孔を通じて前記中空部に侵入するように、前記環境のなかに前記区画壁を配置することと、
前記内面に接する一側面を有した膜状の線維性結合組織を形成すると共に、前記多能性幹細胞を集積した膜状の疎線維性組織が前記一側面とは反対側の他側面の全体に広がるように、前記環境のなかに前記区画壁を留置することと、
前記線維性結合組織が前記中空部を埋める前の所定期間を経過したときに前記生体組織から前記区画壁を取り出して前記区画壁の前記内面から前記一側面を剥離することと、
を含む形成方法によって形成され、
前記組織構造体は、
前記内面に接した前記一側面を有する膜状の前記線維性結合組織と、
前記一側面とは反対側の前記他側面の全体に広がり、かつ前記多能性幹細胞を集積した膜状の前記疎線維性組織と、を備え、
前記区画壁の厚さが0.1mm以上2.0mm以下であり、
前記内面における前記貫通孔の開口寸法が0.3mm以上3.0mm以下であり、
前記内面において相互に隣り合う前記貫通孔の間の長さが0.3mm以上5.0mm以下であり、
前記内面における開口の占有率が30%以上70%以下であり、
前記線維性結合組織の前記一側面が、前記貫通孔の形状に準じた凸部を備え、
前記中空部の深さが2mm以上10mm以下であり、
前記線維性結合組織の厚さは、0.05mm以上0.5mm以下であり、前記線維性結合組織よりも線維密度が低い前記疎線維性組織の厚さが1.0mm以上であり、前記線維性結合組織に含有される総コラーゲンのなかのI型コラーゲンの比率が、前記疎線維性組織に含有される総コラーゲンのなかのI型コラーゲンの比率よりも高く、前記疎線維性組織におけるIII型コラーゲンの含有量が、前記線維性結合組織におけるIII型コラーゲンの含有量よりも高い、
ことを特徴とする組織構造体。
【請求項2】
前記内面が扁平の楕円筒面であり、
前記線維性結合組織は、前記楕円筒面の軸方向に切り開かれた膜状を有する、
請求項1に記載の組織構造体。
【請求項3】
前記線維性結合組織の厚さが0.05mm以上0.5mm以下である、
請求項1に記載の組織構造体。
【請求項4】
中空部を囲う内面と、
前記内面に開口した複数の貫通孔と、を備える区画壁を備え、
生体組織を含む環境のなかに前記区画壁を留置されて、前記生体組織のなかの細胞が前記貫通孔を通じて前記中空部に侵入するように構成された組織構造体形成装置であって、
組織構造体は、
前記内面に接する一側面を有した膜状の線維性結合組織と、
前記一側面とは反対側の他側面の全体に広がり、かつ多能性幹細胞を集積した膜状の疎線維性組織と、を備え、
前記多能性幹細胞は、
多能性幹細胞マーカーSSEA3、および多能性幹細胞マーカーSSEA4の少なくとも一方を発現する幹細胞と、
間葉系幹細胞と、を含み、
前記区画壁の厚さは、0.1mm以上2.0mm以下であり、
前記貫通孔の開口寸法は、0.3mm以上3.0mm以下であり、
前記貫通孔同士の間隔である孔間距離は、0.3mm以上5.0mm以下であり、
前記内面における前記貫通孔の開口占有率は、30%以上70%以下であり、
前記中空部の深さは、2mm以上10mm以下であり、
前記貫通孔は、前記線維性結合組織の前記一側面において前記貫通孔の形状に準ずる凸部に埋め込まれるように構成され、
前記線維性結合組織の厚さは、0.05mm以上0.5mm以下であり、前記線維性結合組織よりも線維密度が低い前記疎線維性組織の厚さが1.0mm以上であり、前記線維性結合組織に含有される総コラーゲンのなかのI型コラーゲンの比率が、前記疎線維性組織に含有される総コラーゲンのなかのI型コラーゲンの比率よりも高く、前記疎線維性組織におけるIII型コラーゲンの含有量が、前記線維性結合組織におけるIII型コラーゲンの含有量よりも高い、
ことを特徴とする組織構造体形成装置。
【請求項5】
生体組織を含むヒト以外の環境のなかに区画壁を留置することによって前記区画壁に組織構造体を形成する組織構造体の形成方法であって、
前記区画壁が、中空部を囲う内面と、前記内面に開口した複数の貫通孔と、を備え、
多能性幹細胞が、多能性幹細胞マーカーSSEA3、および多能性幹細胞マーカーSSEA4の少なくとも一方を発現する幹細胞と、間葉系幹細胞と、を含み、
前記生体組織のなかの細胞が前記貫通孔を通じて前記中空部に侵入するように、前記環境のなかに前記区画壁を配置することと、
前記内面に接する一側面を有した膜状の線維性結合組織を形成すると共に、前記多能性幹細胞を集積した膜状の疎線維性組織が前記一側面とは反対側の他側面の全体に広がるように、前記環境のなかに前記区画壁を留置することと、
前記線維性結合組織が前記中空部を埋める前の所定期間を経過したときに前記生体組織から前記区画壁を取り出して前記区画壁の前記内面から前記一側面を剥離することと、を含み、
前記区画壁の厚さが0.1mm以上2.0mm以下であり、
前記内面における前記貫通孔の開口寸法が0.3mm以上3.0mm以下であり、
前記内面において相互に隣り合う前記貫通孔の間の長さが0.3mm以上5.0mm以下であり、
前記内面における開口の占有率が30%以上70%以下であり、
前記線維性結合組織の前記一側面が、前記貫通孔の形状に準じた凸部を備え、
前記中空部の深さが2mm以上10mm以下であり、
前記線維性結合組織の厚さは、0.05mm以上0.5mm以下であり、前記線維性結合組織よりも線維密度が低い前記疎線維性組織の厚さが1.0mm以上であり、前記線維性結合組織に含有される総コラーゲンのなかのI型コラーゲンの比率が、前記疎線維性組織に含有される総コラーゲンのなかのI型コラーゲンの比率よりも高く、前記疎線維性組織におけるIII型コラーゲンの含有量が、前記線維性結合組織におけるIII型コラーゲンの含有量よりも高い、
ことを特徴とする組織構造体の形成方法。
【請求項6】
前記内面が扁平の楕円筒面であり、
前記内面から剥離された前記線維性結合組織を前記楕円筒面の軸方向に切り開くことを含む、
請求項
5に記載の組織構造体の形成方法。
【請求項7】
前記中空部の深さが2mm以上10mm以下であり、
所定期間にわたり前記区画壁を留置することは、前記線維性結合組織の厚さを0.05mm以上0.5mm以下にする、
請求項
5に記載の組織構造体の形成方法。
【請求項8】
前記区画壁が中空の筒状部材であり、
前記中空部が前記区画壁のみで区切られる、
請求項
5から
7のいずれか一項に記載の組織構造体の形成方法。
【請求項9】
前記区画壁の前記内面から剥離した前記線維性結合組織と前記疎線維性組織とをすり潰して流動化させることをさらに含む、
請求項
5に記載の組織構造体の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多能性幹細胞を集積した組織構造体、組織構造体形成装置、および組織構造体の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体が備える自己防衛機能は、生体内に侵入した異物の周辺にマクロファージなどを集積させる。マクロファージは、異物の表面に吸着すると共に、単球によるTGF-βの産生を通じて、線維芽細胞によるコラーゲンの産生を促す。生体内に侵入した異物は、線維芽細胞とコラーゲンとを含む結合組織に覆われて生体内で隔離される。
【0003】
失われた組織や器官を蘇らせる医療技術である再生医療技術の1つは、損傷した組織構造体を生体由来の組織構造体に置換する。生体由来の組織構造体を形成する技術の1つは、生体組織のなかに異物である組織構造体形成装置を留置した後、生体組織の自己防衛機能を利用して生体由来の組織構造体を組織構造体形成装置に形成させる(例えば、特許文献1~4を参照)。
【0004】
こうした組織構造体形成装置の例は、相互に対向する2つの結合組織形成面を備える。2つの結合組織形成面は、平板状の空間、円筒状の空間、弁形状の空間などの様々な形状を有する中空部を区切る。2つの結合組織形成面の間に侵入する線維芽細胞は、空間内を埋めるように結合組織体を形成する(例えば、特許文献5~8を参照)。
【0005】
再生医療技術において目的の組織を再生したり修復したりするうえで、幹細胞は重要な材料である。一方、倫理的な検討が必要とされる胚性幹細胞や、安全性の確立が必要とされる人工多能性幹細胞は、再生医療技術に用いる根幹が依然として確立されていない。他方、生体内に存在する多能性幹細胞は、生体組織に存在する数が少ないながらも、開発段階を経て臨床段階に移行している。生体内に存在する多能性幹細胞を集積する技術の1つは、生体組織のなかに異物である組織構造体形成装置を留置した後、組織構造体形成装置に生体組織のなかの多能性幹細胞を集積させる。
【0006】
こうした組織構造体形成装置の例は、装置の中空部のなかに多能性幹細胞を集積する。組織構造体形成装置は、中空部を囲うための枠体を備える。枠体は、2つの柱状部材によって柱状部材の延びる方向に延在する開口を区切る。枠体が囲う中空部は、生体内の環境に開口を通じて連通する。枠体における2.5mm以上の開口幅と、中空部における2mm以上の深さとは、線維性結合組織のなかで開口と対向する部位に凹部を形成するように、線維芽細胞に線維性結合組織で中空部内を埋めさせる。線維性結合組織のなかで開口と対向する部位は、開口から中空部に向かって窪む。生体内に存在する多能性幹細胞は、こうした窪みのなかに集積される(例えば、特許文献9を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-37763号公報
【文献】特開2007-312821号公報
【文献】特開2008-237896号公報
【文献】特開2010-094476号公報
【文献】特開2014-030598号公報
【文献】特開2017-169778号公報
【文献】特許第6727637号公報
【文献】特許第6755052号公報
【文献】特許第6813923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、生体内に存在する多能性幹細胞の機能を疾患治療に用いる再生医療技術は、開発段階を経て臨床段階に移行している。様々な用量による、有益な効果と望ましくない効果とに関する情報は、有効性や安全性の確保をより確実なものとするうえで不可欠である。この点、上述した技術では、生体内に存在する多能性幹細胞の集積が線維性結合組織の窪みのなかに限られるため、臨床段階の疾患部位に多能性幹細胞を投与させやすくするうえでは、さらなる改善を切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための組織構造体は、生体組織を含む環境のなかに留置された区画壁によって形成される組織構造体であって、前記区画壁が、中空部を囲う内面と、前記内面に開口した複数の貫通孔と、を備え、前記生体組織のなかの細胞が前記貫通孔を通じて前記中空部に侵入することによって、前記組織構造体が前記中空部に形成され、多能性幹細胞が、多能性幹細胞マーカーSSEA3、および多能性幹細胞マーカーSSEA4の少なくとも一方を発現する幹細胞と、間葉系幹細胞と、を含み、前記組織構造体は、前記内面から剥離された一側面を有する膜状の線維性結合組織と、前記一側面とは反対側の他側面の全体に広がり、かつ前記多能性幹細胞を集積した膜状の疎線維性組織と、を備える。
【0010】
上記課題を解決するための組織構造体形成装置は、中空部を囲う内面と、前記内面に開口した複数の貫通孔と、を備える区画壁を備え、生体組織を含む環境のなかに前記区画壁を留置されて、前記生体組織のなかの細胞が前記貫通孔を通じて前記中空部に侵入することによって、前記中空部に組織構造体を形成する組織構造体形成装置である。前記組織構造体は、前記内面に接する一側面を有した膜状の線維性結合組織と、前記一側面とは反対側の他側面の全体に広がり、かつ多能性幹細胞を集積した膜状の疎線維性組織と、を備える。多能性幹細胞は、多能性幹細胞マーカーSSEA3、および多能性幹細胞マーカーSSEA4の少なくとも一方を発現する幹細胞と、間葉系幹細胞と、を含む。前記区画壁の厚さは、0.1mm以上2.0mm以下であり、前記貫通孔の開口寸法は、0.3mm以上3.0mm以下であり、前記貫通孔同士の間隔である孔間距離は、0.3mm以上5.0mm以下であり、前記内面における前記貫通孔の開口占有率は、30%以上70%以下であり、前記中空部の深さは、2mm以上10mm以下である。
【0011】
上記課題を解決するための組織構造体の形成方法は、生体組織を含む環境のなかに区画壁を留置することによって前記区画壁に組織構造体を形成する組織構造体の形成方法であって、前記区画壁が、中空部を囲う内面と、前記内面に開口した複数の貫通孔と、を備え、多能性幹細胞が、多能性幹細胞マーカーSSEA3、および多能性幹細胞マーカーSSEA4の少なくとも一方を発現する幹細胞と、間葉系幹細胞と、を含み、前記生体組織のなかの細胞が前記貫通孔を通じて前記中空部に侵入するように、前記環境のなかに前記区画壁を配置することと、前記内面に接する一側面を有した膜状の線維性結合組織を形成すると共に、前記多能性幹細胞を集積した膜状の疎線維性組織が前記一側面とは反対側の他側面の全体に広がるように、前記環境のなかに前記区画壁を留置することと、前記線維性結合組織が前記中空部を埋める前の所定期間を経過したときに前記生体組織から前記区画壁を取り出して前記区画壁の前記内面から前記一側面を剥離すること、を含む。
【0012】
上記各構成によれば、生体組織を含む環境のなかに留置された区画壁では、生体組織由来の細胞や血漿タンパク質などが、貫通孔を通して、区画壁に区切られた中空部のなかに入り込む。中空部に入った生体組織由来の細胞などは、区画壁の内面を足場として、疎線維性組織を形成する。留置期間の経過に伴うコラーゲンの産生などは、疎線維性組織から線維性結合組織を形成する。そして、留置期間の経過に伴い、区画壁の内面に、膜状を有した線維性結合組織の一側面が形成され、かつ線維性結合組織の他側面に、膜状を有した疎線維性組織が形成され続ける。中空部のなかに入り込む生体組織由来の多能性幹細胞は、疎線維性組織に集積され続けると共に、疎線維性組織で増殖する。これにより、膜状を有した線維性結合組織の他側面の全体に、多能性幹細胞の集積部位が広がる。膜状を有した組織構造体の貼付などは、広い疾患部位に多くの多能性幹細胞を投与する。
【0013】
上記組織構造体において、前記内面が扁平の楕円筒面であり、前記線維性結合組織は、前記楕円筒面の軸方向に切り開かれた膜状を有してもよい。
上記組織構造体の形成方法において、前記内面が扁平の楕円筒面であり、前記内面から剥離された前記線維性結合組織を前記楕円筒面の軸方向に切り開くことを含めてもよい。
【0014】
上記各構成によれば、内面が平面状に広がる場合と比べて、内面が楕円筒面である分だけ、多能性幹細胞の集積に要する平面視での面積を縮小できる。そして、平面視の面積が限られた環境のなかでも、多能性幹細胞の集積部位として広い面積を確保できる。
【0015】
上記組織構造体において、前記中空部の深さが2mm以上10mm以下であり、前記線維性結合組織の厚さが0.05mm以上0.5mm以下でもよい。
上記組織構造体の形成方法において、前記中空部の深さが2mm以上10mm以下であり、所定期間にわたり前記区画壁を留置することは、前記線維性結合組織の厚さを0.05mm以上0.5mm以下にしてもよい。
【0016】
上記構成によれば、膜状を有した線維性結合組織の強度が確保されるため、多能性幹細胞の投与に際して、組織構造体の取り扱いが容易である。また、中空部の深さが線維性結合組織の厚さよりも十分に大きいため、多能性幹細胞を集積するための空間が中空部のなかに確保されやすい。
【0017】
上記組織構造体において、前記区画壁の厚さが0.1mm以上2.0mm以下であり、前記内面における前記貫通孔の開口寸法が0.3mm以上3.0mm以下であり、前記内面において相互に隣り合う前記貫通孔の間の長さが0.3mm以上であり、前記内面における開口の占有率が30%以上70%以下であり、前記一側面は、前記貫通孔に対応した部位に毛細血管を有してもよい。
【0018】
上記構成によれば、開口寸法が0.3mm以上であるため、生体組織由来の細胞や血漿タンパク質などは、区画壁の貫通孔を通して、区画壁に区切られた中空部のなかに入り込みやすい。開口寸法が3.0mm以下であるため、線維性結合組織のなかで貫通孔と対向する部位に窪みや孔が形成されにくい。そして、相互に隣り合う貫通孔の間の長さが0.3mm以上であり、開口の占有率が30%以上70%以下であるため、内面を足場として、線維性結合組織が成長しやすい。このため、生体組織由来の細胞に適した環境が、貫通孔に対応した部位の毛細血管を通して、中空部のなかに構築されやすい。
【0019】
上記組織構造体の形成方法において、前記区画壁が中空の筒状部材であり、前記中空部が前記区画壁のみで区切られてもよい。
上記構成によれば、中空部の深さが十分に得られるため、多能性幹細胞を集積するための空間が中空部のなかに確保されやすい。
【0020】
上記組織構造体の形成方法は、前記区画壁の前記内面から剥離した前記線維性結合組織と前記疎線維性組織とをすり潰して流動化させることをさらに含めてもよい。
上記構成によれば、多能性幹細胞を集積させた組織構造体が注射などによって疾患部位に投与される。
【発明の効果】
【0021】
本開示における組織構造体、組織構造体形成装置、および組織構造体の形成方法によれば、疾患部位に多能性幹細胞を投与させやすい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、組織構造体形成装置を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、組織構造体の形成過程を示す断面図である。
【
図4】
図4は、組織構造体の形成過程を示す断面図である。
【
図5】
図5は、組織構造体の形成過程を示す断面図である。
【
図6】
図6は、組織構造体形成装置の断面図である。
【
図8】
図8は、組織構造体の厚さを示すグラフである。
【
図9】
図9は、線維性結合組織のHE染色結果を示す画像である。
【
図10】
図10は、線維性結合組織のMT染色結果を示す画像である。
【
図11】
図11は、線維性結合組織のSR染色結果を示す画像である。
【
図12】
図12は、疎線維性組織のHE染色結果を示す画像である。
【
図13】
図13は、疎線維性組織のMT染色結果を示す画像である。
【
図14】
図14は、疎線維性組織のSR染色結果を示す画像である。
【
図15】
図15は、線維性結合組織のCD90染色結果を示す画像である。
【
図16】
図16は、線維性結合組織のCD105染色結果を示す画像である。
【
図17】
図17は、疎線維性組織のCD90染色結果を示す画像である。
【
図18】
図18は、疎線維性組織のCD105染色結果を示す画像である。
【
図19】
図19は、線維性結合組織のSSEA3染色結果を示す画像である。
【
図20】
図20は、線維性結合組織のSSEA4染色結果を示す画像である。
【
図21】
図21は、疎線維性組織のSSEA3染色結果を示す画像である。
【
図22】
図22は、疎線維性組織のSSEA4染色結果を示す画像である。
【
図23】
図23は、変更例の組織構造体形成装置を示す斜視図である。
【
図24】
図24は、変更例の組織構造体形成装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[組織構造体形成装置10の概要]
図1が示すように、組織構造体形成装置10は、中空部11を区切る区画壁12を備える。区画壁12は、複数の貫通孔13を備える。区画壁12の内面14は、貫通孔13の開口を縁取る。組織構造体形成装置10は、所定期間にわたり生体組織の存在する環境に留置される。組織構造体形成装置10を留置する期間は、組織構造体20を形成するための試験等に基づいて予め設定される。
【0024】
組織構造体形成装置10が生体組織の存在する環境に留置されるとき、生体組織由来の細胞や血漿タンパク質などは、区画壁12の貫通孔13を通して、区画壁12に区切られた中空部11のなかに環境から入り込む。中空部11に入った生体組織由来の細胞などは、貫通孔13の開口を縁取る内面14を足場として、中空部11の内方に向かって膜状の線維性結合組織21を成長させる。また、中空部11に入った生体組織由来の細胞などは、線維性結合組織21よりもさらに内方に膜状の疎線維性組織22を成長させると共に、疎線維性組織22に多能性幹細胞23を集積させる。
【0025】
図2が示すように、組織構造体20は、線維性結合組織21と疎線維性組織22とを備える。膜状の線維性結合組織21は、区画壁12の内面14から剥離された第1面21Aを有する。膜状の疎線維性組織22は、線維性結合組織21の第1面21Aとは反対側の第2面21Bの全体にわたり形成されている。所定の留置期間にわたる組織構造体形成装置10の留置は、中空部11に、膜状の線維性結合組織21を形成すると共に、線維性結合組織21に支持される膜状の疎線維性組織22を形成する。多能性幹細胞23を含む細胞集団、あるいは多能性幹細胞23は、疎線維性組織22に集積される。本開示は、本発明者らが見出したこのような知見に基づくものである。
【0026】
なお、生体組織を含む環境は、生体組織を含む生体内でもよい。生体組織を含む生体内は、疾患モデル動物の体内でもよい。生体組織を含む環境は、生体内から取り出された生体組織を含むin vitro培養系でもよい。生体組織を含む環境は、生体内の生体組織を模倣して生体外に構築された人工環境でもよい。生体組織は、外胚葉系組織でもよいし、中胚葉系組織でもよいし、内胚葉系組織でもよい。生体組織は、健常状態で多能性幹細胞23が存在する組織でもよい。生体組織は、傷害部、あるいは欠損部のように、組織修復に必要とされる多能性幹細胞23が存在する組織でもよい。生体組織は、線維芽細胞を含む皮下組織でもよい。生体組織は、多能性幹細胞23の入手起源となり得るヒト、あるいはヒト以外の任意の動物のものでもよい。生体組織を含む生体内は、ヒトの体内でもよいし、ヒト以外の生物における体内でもよい。ヒト以外の生物は、サルやチンパンジーなどのヒト以外の霊長類でもよい。ヒト以外の生物は、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ラット、マウスなどの哺乳類でもよいし、鳥類、魚類、両生類でもよい。生体組織を含む生体内は、四肢部、肩部、背部、腹部などの皮下でもよいし、腹腔でもよい。
【0027】
組織構造体20は、分化を誘導されることなく、適切な生体組織、あるいは機能に低下を生じている生体組織などに疎線維性組織22を接触させるように、貼り付けられる。すなわち、組織構造体20における多能性幹細胞23を含む細胞集団、あるいは多能性幹細胞23は、適切な生体組織、あるいは機能に低下を生じている生体組織などに直接投与される。
【0028】
組織構造体20、多能性幹細胞23を含む細胞集団、および多能性幹細胞23は、生体組織外で目的とする細胞に分化を誘導されてから、生体組織などに投与されてもよい。組織構造体20、多能性幹細胞23を含む細胞集団、あるいは多能性幹細胞23は、凍結保存の後、所望の時期に投与されてもよい。また、多能性幹細胞23は、疎線維性組織22から単離されてもよい。多能性幹細胞23の単離は、生体組織を含む環境から取り出された組織構造体形成装置10の酵素処理を用いてもよい。多能性幹細胞23の単離は、膜フィルターやメッシュフィルターなどを用いる濾過処理を用いてもよい。疎線維性組織22から単離された多能性幹細胞23は、培養、および増殖されてもよいし、培養、および増殖されなくてもよい。疎線維性組織22から部分精製された多能性幹細胞23を含む細胞集団は、培養、および増殖されてもよいし、培養、および増殖されなくてもよい。
【0029】
組織構造体20、多能性幹細胞23を含む細胞集団、あるいは多能性幹細胞23は、疾患部位に投与されて、組織修復、組織再生、組織または臓器の障害修復、組織または臓器の機能低下の修復などの、再生医療用に用いられてもよい。組織構造体20、多能性幹細胞23を含む細胞集団、あるいは多能性幹細胞23は、in vitro培養系で組織構築、あるいは細胞分化に用いられてもよい。組織構造体20、多能性幹細胞23を含む細胞集団、あるいは多能性幹細胞23は、ex vivo系で組織構築、あるいは細胞分化に用いられてもよい。
【0030】
組織構造体20は、線維性結合組織21と疎線維性組織22とをすり潰した流動体として用いられてもよい。組織構造体20は、疎線維性組織22のみをすり潰した流動体として用いられてもよい。流動化された組織構造体20は、注射などによって疾患部位に投与されてもよい。
【0031】
[組織構造体形成装置10の構成]
図1に戻り、区画壁12は、扁平の楕円筒状を有した筒状部材である。中空部11を囲む内面14は、扁平の楕円筒面状を有する。
【0032】
区画壁12の形状は、筒状でもよいし、扁平の中空直方体状でもよい。中空部11を囲む内面14は、筒面状を有してもよいし、扁平の直方体状を有してもよい。生体組織の空間の大きさに限りがあるから、多能性幹細胞23の集積範囲が拡大を要求される場合、区画壁12の形状には、平板状に比べて、膜状の線維性結合組織21が三次元的に広がる筒状や扁平の直方体状が好ましい。また、生体組織を含む環境のなかで区画壁12の位置が安定を要求される場合、区画壁12の形状には、円筒状に比べて、扁平の楕円筒状が好ましい。
【0033】
筒状の区画壁12における筒端は、キャップによって閉ざされる。キャップは、複数の通気孔を有する。通気孔は、生体組織を含む環境のなかに留置される中空部11を減圧するために用いられる。生体組織を含む環境のなかで区画壁12の形状が安定を要求される場合、区画壁12の筒端がキャップに支持される構成が好ましい。膜状の線維性結合組織21における厚さが均一化を要求される場合、キャップの通気孔が区画壁12の近傍で貫通孔13として機能することが好ましい。
【0034】
区画壁12の構成材料は、生体組織適合性を有する。区画壁12の構成材料は、ステンレス、チタン、チタンニッケル合金、コバルトクロム合金などの金属材料でもよいし、シリコン樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、PEEK、アクリル樹脂、ナイロン、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルフォン系樹脂などの合成樹脂でもよい。区画壁12の構成材料は、金属材料と合成樹脂との積層体でもよい。
【0035】
区画壁12の内面14は、線維性結合組織21の形成を促すための柔らかさ、および水の接触角を有してもよい。線維性結合組織21の形成を促すことは、線維性結合組織21による疎線維性組織22の支持を安定させて、組織構造体20における疎線維性組織22の取り扱いを容易にする。線維性結合組織21の形成促進が要求される場合、内面14の構成材料は、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリフルオロエチレン系樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、シリコン樹脂、これらと他の樹脂成分との混合樹脂からなる群から選択されるいずれか1つであることが好ましい。
【0036】
貫通孔13は、区画壁12の内面14から外面まで貫通する円形孔である。貫通孔13は、区画壁12の全体に散在している。貫通孔13の開口は、内面14において円形状を有し、内面14の全体に散在している。貫通孔13は、区画壁12の周方向、および区画壁12の延在方向に、それぞれ等間隔を空けて配置されている。
【0037】
貫通孔13は、円形孔に限られず、楕円形孔でもよいし、多角形孔でもよいし、不定形孔でもよい。貫通孔13の開口は、内面14において楕円形状を有してもよいし、多角形状を有してもよいし、不定形状を有してもよい。線維性結合組織21の剥離が円滑化を要求される場合、貫通孔13の孔内面は、曲面であることが好ましく、貫通孔13には、円形孔が好ましい。
【0038】
貫通孔13の開口は、区画壁12の内面14と外面とに規則的に配置されてもよいし、無秩序に配置されてもよい。膜状を有した線維性結合組織21の厚さが所定範囲で均一化を要求されたり、多能性幹細胞23の分布が所定範囲で均一化を要求されたりする場合、貫通孔13の開口には、内面14における所定範囲で規則的な配置が好ましい。
【0039】
生体組織を含む環境のなかに留置された組織構造体形成装置10は、以下のように組織形成を進めると考えられるが、組織構造体形成装置10による組織形成は、この推論に限定されるものではない。
【0040】
図3が示すように、生体組織を含む環境に組織構造体形成装置10が留置されたとき、生体組織は中空部11の外方に位置する。生体組織由来の細胞外基質などの液性成分25は、貫通孔13を通じて、中空部11に侵入する。組織構造体形成装置10の中空部11は、生体組織由来の液性成分25に満たされる。
【0041】
組織構造体形成装置10の中空部11が液性成分25に満たされると、生体組織由来の多能性幹細胞23や線維芽細胞などの細胞が、貫通孔13を通じて、中空部11に侵入する。中空部11に侵入した線維芽細胞は、貫通孔13の開口を縁取る内面14を足場として、区画壁12の表面から中空部11の内方に向けて、疎線維性組織22を形成しはじめる。
【0042】
図4が示すように、内面14を足場として形成された疎線維性組織22は、異物として認識されやすい内面14で、疎線維性組織22に蓄積された細胞によるコラーゲンなどの産生を促す。これにより、内面14を足場として形成された疎線維性組織22は、貫通孔13の開口縁を起点に、内面14から中空部11の内方に向けて、疎線維性組織22よりも緻密な線維性結合組織21を成長させる。
【0043】
中空部11の外方よりも異物として認識されやすい中空部11の内方は、線維芽細胞や多能性幹細胞23の侵入をさらに促す。中空部11に侵入し続ける線維芽細胞や多能性幹細胞23は、線維性結合組織21の成長する過程において、線維性結合組織21よりも内方に疎線維性組織22を形成する。中空部11に侵入する多能性幹細胞23は、疎線維性組織22に集積され続ける。
【0044】
図5が示すように、中空部11に入り込み続ける線維芽細胞や多能性幹細胞23は、貫通孔13の開口縁同士を線維性結合組織21によって繋げるように、内面14の全体に広がる膜状の線維性結合組織21を形成する。中空部11に入り込み続ける線維芽細胞や多能性幹細胞23は、線維性結合組織21の広がりに追従するように膜状の疎線維性組織22や毛細血管24を形成する。
【0045】
中空部11の外方よりも異物として認識されやすい中空部11の内方は、線維性結合組織21が膜状に形成される間も、疎線維性組織22に多能性幹細胞23を集積し続ける。疎線維性組織22に蓄積される多能性幹細胞23は、疎線維性組織22のなかで増殖する。これにより、中空部11に入った生体組織由来の細胞などは、膜状の線維性結合組織21よりもさらに内方に膜状の疎線維性組織22を成長させると共に、疎線維性組織22に多くの多能性幹細胞23を集積させる。
【0046】
組織構造体形成装置10は、線維性結合組織21が中空部11を埋め尽くす前に、生体組織を含む環境から取り出される。生体組織を含む環境のなかに留置された組織構造体形成装置10は、所定の留置期間にわたり、線維性結合組織21の成長する過程において、疎線維性組織22を形成すると共に、疎線維性組織22に多能性幹細胞23を集積し続ける。
【0047】
[区画壁12の構成]
図6が示すように、区画壁12の厚さT12は、貫通孔13の深さである。区画壁12の厚さT12は、区画壁12の変形を生体組織のなかで抑制するための大きさを有する。区画壁12の厚さT12は、貫通孔13の配置される範囲においてほぼ等しい大きさを有する。区画壁12の厚さT12は、生体組織のなかの細胞などを中空部11のなかに入り込ませるための大きさを有する。
【0048】
貫通孔13の開口寸法WTは、内面14において貫通孔13の開口が有する寸法である。貫通孔13の開口寸法WTは、生体組織のなかの細胞などに貫通孔13を通過させる大きさを有する。生体組織のなかの細胞などが通過できる開口寸法WTの最小値は、0.01mm程度である。貫通孔13が円形孔である場合、貫通孔13の開口寸法WTは、円形孔の直径である。貫通孔13が楕円形孔である場合、貫通孔13の開口寸法WTは、楕円形孔の長径である。貫通孔13の開口が多角形である場合、あるいは貫通孔13の開口が不定形状である場合、開口寸法WTは、当該開口に外接する円の直径である。
【0049】
1つの区画壁12が備える複数の貫通孔13は、相互に等しい開口寸法WTを有してもよい。1つの区画壁12が備える複数の貫通孔13は、相互に異なる開口寸法WTを有してもよい。1つの区画壁12のなかで相互に等しい開口寸法WTを有する複数の貫通孔13は、1つのまとまりとして相互に隣り合うように区画壁12に配置されてもよい。1つの区画壁12において、相互に異なる開口寸法WTを有した複数の貫通孔13は、貫通孔13の並ぶ方向において、開口寸法WTが交互に異なるように配置されてもよい。
【0050】
生体組織の存在する環境に組織構造体形成装置10が留置されるとき、区画壁12の内面14は、生体組織由来の細胞の足場として機能する大きさを有する。内面14における孔間距離は、相互に隣り合う貫通孔13の間における内面14での最短の長さである。内面14の孔間距離は、相互に隣り合う貫通孔13の間の平面である内面14が生体組織のなかの細胞などの足場として機能するような大きさを有する。
【0051】
1つの区画壁12において相互に隣り合う貫通孔13の隙間は、相互に等しい孔間距離を有してもよい。1つの区画壁12において相互に隣り合う貫通孔13の隙間は、相互に異なる孔間距離を有してもよい。1つの区画壁12において相互に等しい孔間距離を有する複数の貫通孔13は、1つのまとまりとして区画壁12に配置されてもよい。1つの区画壁12において、相互に異なる孔間距離を有した複数の貫通孔13は、貫通孔13の並ぶ方向において、孔間距離が交互に異なるように配置されてもよい。
【0052】
区画壁12の内面14における開口の密度は、生体組織由来の細胞の入り込みが線維性結合組織21に阻害されない大きさを有する。区画壁12の内面14における開口の密度は、線維性結合組織21が膜状を形成する程度の大きさを有する。内面14の開口占有率は、内面14の単位面積に対する、当該単位面積のなかで貫通孔13の開口が占有する総面積の割合である。
【0053】
中空部11の深さは、中空深さD11である。中空深さD11は、線維性結合組織21の成長する過程において、線維芽細胞や多能性幹細胞23の侵入が促されて線維性結合組織21の形成よりも疎線維性組織22の形成が進みやすくなるように、十分な大きさを有する。
【0054】
中空深さD11は、内面14における貫通孔13の開口から貫通孔13の深さ方向に延びる中空部11の深さである。貫通孔13の深さ方向は、貫通孔13の周囲における区画壁12の厚さ方向である。中空部11のなかに支持部材15などの異物が存在する場合、中空深さD11は、貫通孔13の深さ方向における内面14と異物との間の距離である。中空部11のなかに異物が存在しない場合であって、筒状の内面14のように、貫通孔13の深さ方向において内面14の一部と他部とが相互に対向する場合、中空深さD11は、貫通孔13の深さ方向における内面14の一部と他部との間の距離の半分である。
【0055】
区画壁12は、下記条件1~条件5を満たしてもよい。例えば、区画壁12の厚さT12が0.1mm、開口寸法WTが0.3mm、孔間距離が0.3mm、開口占有率が30%、および中空深さD11が2mmでもよい。例えば、区画壁12の厚さT12が2.0mm、開口寸法WTが3.0mm、孔間距離が5.0mm、開口占有率が70%、および中空深さD11が10mmでもよい。例えば、区画壁12の厚さT12が1.0mm、開口寸法WTが1.0mm、孔間距離が3.0mm、開口占有率が50%、および中空深さD11が4mmでもよい。
【0056】
1つの区画壁12のなかか開口寸法WT、および孔間距離は、条件2、3を満たす範囲のなかの相互に異なる値の組み合わせでもよい。例えば、1つの区画壁12は、0.5mmの開口寸法WTを有した貫通孔13と、1.5mmの開口寸法WTを有した貫通孔13とを備えてもよい。例えば、1つの区画壁12は、0.5mmの孔間距離を有した複数の貫通孔13と、1.5mmの孔間距離を有した複数の貫通孔13とを備えてもよい。例えば、1つの区画壁12は、0.5mmの孔間距離を有して0.5mmの開口寸法WTを有した複数の貫通孔13と、1.5mmの孔間距離を有して1.5mmの開口寸法WTを有した複数の貫通孔13とを備えてもよい。例えば、1つの区画壁12は、1.5mmの孔間距離を有して0.5mmの開口寸法WTを有した複数の貫通孔13と、0.5mmの孔間距離を有して1.5mmの開口寸法WTを有した複数の貫通孔13とを備えてもよい。例えば、1つの区画壁12は、0.3mmの孔間距離を有して0.5mmの開口寸法WTを有した複数の円形孔として貫通孔13を備え、さらに、5.0mmの孔間距離を有して1.5mmの開口寸法WTを有した複数の楕円形孔として貫通孔13を備えてもよい。
【0057】
(条件1)区画壁12の厚さT12は、0.1mm以上2.0mm以下である。
(条件2)貫通孔13の開口寸法WTは、0.3mm以上3.0mm以下である。
(条件3)内面14の孔間距離は、0.3mm以上5.0mm以下である。
(条件4)内面14の開口占有率は、30%以上70%以下である。
(条件5)中空深さD11は、2mm以上10mm以下である。
【0058】
組織構造体形成装置10におけるコラーゲンの産生は、区画壁12の外面と、中空部11のなかとで競争して起こり得る。仮に、開口占有率が相互に等しい構造であっても、開口の数量が少なく、かつ開口の大きさが大きい場合には、孔間距離が過度に大きいことに起因して、区画壁12の外面が異物として認識されやすく、区画壁12の外面が結合組織で覆われやすい。その結果、組織構造体20が中空部11に形成される前に、貫通孔13の開口が結合組織で閉ざされやすい。あるいは、血漿タンパク質、線維芽細胞、血管内皮細胞、間葉系細胞などの多能性幹細胞23が中空部11に入り難く、線維性結合組織21の形成、および疎線維性組織22の形成を遅くさせる。
【0059】
これに対して、条件1~5が満たされる場合、貫通孔13の数量が適度に多く、かつ開口寸法WTが適度に小さい。このため、区画壁12の外面においては、孔間距離が小さい分だけ、貫通孔13の開口がコラーゲンで覆われにくい。また、区画壁12の内面14においては、線維性結合組織21の形成される起点が線維性結合組織21を膜状に形成できる程度に多く確保される。
【0060】
多能性幹細胞23の集積は、生体組織のなかの多能性幹細胞23が中空部11に侵入すること、また進入した多能性幹細胞23が中空部11で増殖することによって実現される。多能性幹細胞23の侵入は、所定の留置期間の殆どにおいて、貫通孔13が開口し続けること、および疎線維性組織22の形成される空間が中空部11のなかに存在し続けることによって促される。条件1~5が満たされる場合、線維性結合組織21の成長よりも疎線維性組織22の成長を促すことができ、かつ貫通孔13の開口と対向する大きな窪みや孔が線維性結合組織21に形成されない程度に、線維芽細胞や多能性幹細胞23の侵入を促すことができる。そして、膜状を有した線維性結合組織21が形成されやすく、線維性結合組織21の成長が促されることに伴い、線維性結合組織21よりも内方に多能性幹細胞23が集積されやすくなる。特に、生体組織を含む環境が疾患モデル動物の生体内である場合、線維性結合組織21の成長が遅れやすいため、多能性幹細胞23を集積できる確度が高まる。
【0061】
区画壁12の厚さT12が2.0mm以下、かつ貫通孔13の開口寸法WTが0.3mm以上である場合、線維性結合組織21によって貫通孔13が若干狭窄されても、生体組織のなかの細胞などが中空部11に入り込める。貫通孔13が線維性結合組織21によって塞がれにくいため、0.05mm以上0.5mm以下の厚さまで線維性結合組織21が成長しやすく、疎線維性組織22に多能性幹細胞23を集積しやすい。
【0062】
区画壁12の厚さT12が2.0mm以下、かつ貫通孔13の開口寸法WTが3.0mm以下である場合、線維性結合組織21のなかで貫通孔13と対向する部位に大きな窪みや孔が形成されにくい。線維性結合組織21において大きな窪みの形成を抑えることは、線維性結合組織21における部分的な脆弱部位の形成を抑えて、膜状の組織構造体20における取り扱いを容易にする。
【0063】
区画壁12の厚さT12が0.1mm以上、かつ貫通孔13の開口寸法WTが3.0mm以下、かつ開口占有率が70%以下である場合、区画壁12の機械的な強度が得られやすい。このため、区画壁12の変形が生体組織のなかで抑制されやすい。
【0064】
孔間距離が0.3mm以上である場合、線維性結合組織21が内面14を足場として成長しやすい。孔間距離が5.0mm以下である場合、1つの貫通孔13の開口周囲から成長する線維性結合組織21と、他の貫通孔13の開口周囲から成長する線維性結合組織21とが繋がりやすい。線維性結合組織21における貫通孔13の開口周囲同士が繋がることは、線維性結合組織21における部分的な脆弱部位の形成を抑えて、膜状の組織構造体20における取り扱いを容易にする。さらに、開口占有率が30%以上70%以下である場合、線維性結合組織21が内面14の全体にわたり膜状に広がりやすい。
【0065】
組織構造体形成装置10の留置期間は、組織構造体形成装置10の留置に要した切開などによる炎症が治まり、かつ留置開始から4週間程度の短い期間であることが好ましい。一方、生体組織を含む環境が疾患モデル動物の生体内などの場合、線維性結合組織21の成長が健常な状態と比べて遅くなりやすい。区画壁12の厚さT12が2.0mm以下、かつ貫通孔13の開口寸法WTが3.0mm以下である場合、こうした環境においても、留置期間の経過後に、線維性結合組織21のなかで貫通孔13と対向する部位に大きな窪みや孔が形成されにくい。また、開口占有率が30%以上70%以下である場合、線維性結合組織21が内面14の全体にわたり膜状に広がりやすい。そして、貫通孔13が線維性結合組織21によって塞がれにくい。
【0066】
また、中空深さD11が2mm以上である場合、好適な留置期間において中空部11が線維性結合組織21に埋められることが際立って抑えられて、十分な厚さの疎線維性組織22と、当該疎線維性組織22に集積される多能性幹細胞23とが得られやすい。特に、生体組織を含む環境が疾患モデル動物の生体内である場合、線維性結合組織21の成長が遅れやすいため、多能性幹細胞23を集積できる確度が高まる。
【0067】
図1に戻り、組織構造体形成装置10は、中空部11のなかに支持部材15を備える。支持部材15は、区画壁12の延在方向における両端部を支持してもよい。支持部材15は、例えば区画壁12の延在方向において中空部11の両端部を閉じるように、区画壁12の筒端に嵌合されてもよい。支持部材15は、例えば中空部11のなかから内面14の一部分に当接するように、区画壁12の筒内に差し込まれてもよい。支持部材15による区画壁12の支持は、生体組織のなかで中空部11の形状を安定させる。
【0068】
支持部材15は、区画壁12の内面14に支持部材15の外面を沿わせるように、扁平の楕円柱状を有する。区画壁12の内面14が円筒面状を有する場合、支持部材15は円柱状を有してもよい。区画壁12の内面14が扁平の直方体状を有する場合、支持部材15は直方体状を有してもよい。支持部材15は、区画壁12の内面14と支持部材15の外面との間に、所定間隔である中空深さD11を空ける。区画壁12が生体組織のなかで変形しにくい強度を有する場合、組織構造体形成装置10は、支持部材15を割愛してもよい。
【0069】
支持部材15の構成材料は、生体組織適合性を有する。支持部材15の構成材料は、区画壁12の構成材料と同じでもよいし、区画壁12の構成材料とは異なってもよい。支持部材15の構成材料は、ステンレス、チタン、チタンニッケル合金、コバルトクロム合金などの金属材料でもよいし、シリコン、PEEK、アクリル、ナイロン、ポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリメチルペンテン、ポリテトラフルオロエチレンなどの合成樹脂でもよい。区画壁12の構成材料は、金属材料と構成樹脂との積層体でもよい。
【0070】
貫通孔13の形成方法は、区画壁12のエッチングでもよいし、区画壁12のレーザー穿孔でもよい。
[組織構造体20]
図2に戻り、線維性結合組織21は、疎線維性組織22よりも高い線維密度を有し、疎線維性組織22よりも少ない細胞を含む。線維性結合組織21は、線維性コラーゲンなどの膠原線維と、線維芽細胞とを含む。線維性結合組織21は、膠原線維束を含有してもよい。線維性結合組織21の膠原線維は、I型コラーゲンを含むことが好ましい。線維性結合組織21に含有される総コラーゲンのなかのI型コラーゲンの比率は65重量%以上90重量%以下でもよい。線維性結合組織21に含有される総コラーゲンのなかのI型コラーゲンの比率は、疎線維性組織22に含有される総コラーゲンのなかのI型コラーゲンの比率よりも高い。
【0071】
線維性結合組織21の厚さH21は、0.05mm以上0.5mm以下でもよい。線維性結合組織21の厚さが0.05mm以上0.5mm以下である場合、膜状を有する線維性結合組織21の強度が確保されるため、多能性幹細胞23の投与に際して、組織構造体20の取り扱いが容易である。中空部11の深さが2mm以上10mm以下であり、かつ線維性結合組織21の厚さが0.05mm以上0.5mm以下である場合、中空部11の深さが線維性結合組織21の厚さよりも十分に大きい。このため、多能性幹細胞23を集積するための空間が中空部11のなかに確保されやすい。多能性幹細胞23の集積に確度の向上を要求される場合、中空部11の深さが3mm以上10mm以下であることが好ましく、4mm以上10mm以下であることがより好ましく、5mm以上10mm以下であることがさらに好ましい。
【0072】
線維性結合組織21は、貫通孔13に対応した部位に貫通孔13の形状に準じた凸部21Tを備えてもよい。凸部21Tの厚さHTは、貫通孔13の深さ以下である。線維性結合組織21は、凸部21Tを割愛されてもよい。線維性結合組織21は、貫通孔13に対応した部位に疎線維性組織22まで広がる毛細血管24を有してもよい。毛細血管24は、組織構造体20の形成に際し、貫通孔13を通じて中空部11のなかに新生される。
【0073】
疎線維性組織22は、線維性結合組織21よりも低い線維密度を有し、線維性結合組織21よりも多くの細胞を線維のなかに散在させている。疎線維性組織22は、線維芽細胞、線維性コラーゲンなどの膠原線維、血管内皮細胞、線維素、および間葉系細胞などの多能性幹細胞23を含む。疎線維性組織22は、III型コラーゲンを含有してもよいし、III型コラーゲン以外の線維性コラーゲンを含有してもよい。疎線維性組織22におけるIII型コラーゲンの含有量は、線維性結合組織21におけるIII型コラーゲンの含有量よりも高い。
【0074】
疎線維性組織22に含まれる多能性幹細胞23は、多能性幹細胞マーカーを発現する。多能性幹細胞23は、少なくとも1つの多能性幹細胞マーカーを発現してもよいし、少なくとも1つの間葉系幹細胞マーカーを発現してもよい。疎線維性組織22に含まれる多能性幹細胞23は、間葉系幹細胞を含有してもよい。
【0075】
疎線維性組織22に含まれる多能性幹細胞23は、多能性幹細胞マーカーSSEA3、および多能性幹細胞マーカーSSEA4の両方を発現してもよい。疎線維性組織22に含まれる多能性幹細胞23は、多能性幹細胞マーカーSSEA3、または多能性幹細胞マーカーSSEA4を発現してもよい。
【0076】
疎線維性組織22に含まれる多能性幹細胞23は、間葉系幹細胞マーカーCD90、および間葉系幹細胞マーカーCD105の両方を発現してもよい。疎線維性組織22に含まれる多能性幹細胞23は、間葉系幹細胞マーカーCD90、または間葉系幹細胞マーカーCD105を発現してもよい。疎線維性組織22に含まれる多能性幹細胞23は、間葉系幹細胞マーカーCD90と多能性幹細胞マーカーSSEA3との両方を発現してもよい。
【0077】
疎線維性組織22は、間葉系幹細胞マーカーCD105を発現している幹細胞、および間葉系幹細胞マーカーCD105と多能性幹細胞マーカーSSEA3との両方を発現している幹細胞を含有してもよい。
【0078】
疎線維性組織22は、高い血管新生能を有する幹細胞を含有してもよい。疎線維性組織22は、高い血管新生能を有する幹細胞として、増殖因子マーカーVEGFを発現している幹細胞、または増殖因子マーカーVEGFと多能性幹細胞マーカーSSEA3の両方を発現している幹細胞を含有してもよい。
【0079】
疎線維性組織22は、増殖因子マーカーHGFを発現している幹細胞を含有してもよい。
疎線維性組織22に含まれる全細胞数に対する、疎線維性組織22に含まれる多能性幹細胞23の全細胞数の比率は、幹細胞比率である。幹細胞比率は、0.25%コラゲナーゼタイプI溶液のなかで疎線維性組織22を37℃で1.5時間処理したときの、分解された組織から回収された細胞の数を、全細胞数として算出できる。幹細胞比率は、間葉系幹細胞マーカーCD90、間葉系幹細胞マーカーCD105、多能性幹細胞マーカーSSEA3、および多能性幹細胞マーカーSSEA4からなる群から選択される少なくとも1つを発現している細胞の数を多能性幹細胞数として算出できる。疎線維性組織22の幹細胞比率は、5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上である。疎線維性組織22の幹細胞比率は、60%以下、50%以下、40%以下、または30%以下の比率で含有してもよい。
【0080】
疎線維性組織22に含まれる多能性幹細胞数に対する、疎線維性組織22に含まれる間葉系幹細胞数の比率は、間葉系幹細胞比率である。間葉系幹細胞比率は、間葉系幹細胞マーカーCD90、または間葉系幹細胞マーカーCD105を発現している細胞の数を間葉系幹細胞数として算出できる。間葉系幹細胞比率は、間葉系幹細胞マーカーCD90、間葉系幹細胞マーカーCD105、多能性幹細胞マーカーSSEA3、または多能性幹細胞マーカーSSEA4を発現している細胞の数を多能性幹細胞数として算出できる。間葉系幹細胞比率は、5%以上でもよいし、10%以上でもよい。間葉系幹細胞比率は、60%以下でもよいし、50%以下でもよい。
【0081】
[試験例]
まず、生体組織を含む環境として疾患モデル動物である糖尿病モデルのブタ、あるいは高齢のブタにおける背部を用いた。次に、ブタを麻酔して背部の皮下に下記装置構造例を有した組織構造体形成装置10を埋設し、ブタの背部を縫合した。所定の留置期間にわたり組織構造体形成装置10を留置した後、ブタを麻酔して皮下の組織構造体形成装置10を取り出した。皮下から取り出された組織構造体形成装置10における中空部11のほぼ全体が軟組織に埋められていた。
[装置構造例]
・区画壁12の軸方向における長さ:5cm
・区画壁12の周方向における長さ:6cm
・区画壁12の構成材料:ステンレス製プレート
・区画壁12の厚さT12:1mm
・中空深さD11:1mm、2mm、4mm
・開口寸法WT:1.0mm
・孔間距離:3.0mm
・開口占有率:50%
・留置期間:2週間、4週間、6週間、8週間、11週間
【0082】
図7が示すように、楕円筒面である区画壁12の内面14から膜状の組織構造体20を剥離した。そして、区画壁12の軸方向に沿った切断線20Kによって組織構造体20を切り開くことによって、平らな膜状を有する組織構造体20を得た。組織構造体20の外表面には、貫通孔13の開口に対応する位置に、多数の凸部21Tを含む凹凸20Tが認められた。
【0083】
[染色評価]
中空深さD11が相違する組織構造体形成装置10による各留置期間の試験例を用いて、膜状を有した組織構造体20の面方向における中央と縁とについて、組織構造体20のパラフィン包埋ブロックを作成した。また、切片の短手方向における厚さが3μm以上5μm以下になるように、固定された組織構造体20のパラフィン包埋ブロックをミクロトームによって切り出して切片を作成した。次に、各切片にヘマトキシリン・エオシン(HE)染色、マッソン・トリクローム(MT)染色、エラスチカ・ワンギーソン(EVG)染色、およびシリウスレッド(SR)染色を行い、顕微鏡で観察した。
【0084】
観察の結果、HE染色による桃色が組織構造体20の全体に認められた。MT染色による青色が組織構造体20の全体に認められた。これにより、コラーゲン線維が組織構造体20に豊富に含まれていることが認められた。また、SR染色による赤色が組織構造体20の全体に認められた。これにより、コラーゲンが組織構造体20に豊富に含まれていることが認められた。
【0085】
図9が示すように、組織構造体20の厚さ方向において、第1面21Aから約0.1mmまでは、第1面21Aの面方向の全体にわたり、HE染色による濃染が認められた。また、
図10が示すように、第1面21Aから約0.1mmまでは、MT染色にも濃染が認められた。これにより、組織構造体20の厚さ方向において、密性組織である線維性結合組織21が、第1面21Aから約0.1mmまで形成されていることが認められた。
図11の明色部分が示すように、第1面21Aから約0.1mmまでは、SR染色による黄色や橙色が偏光顕微鏡の観察によって認められた。これにより、線維性結合組織21がI型コラーゲンを多く含むことも認められた。
【0086】
図12が示すように、組織構造体20の厚さ方向において、線維性結合組織21から約2mmまでは、第1面21Aの面方向の全体にわたり、HE染色に淡染が認められた。また、
図13が示すように、線維性結合組織21から約2mmまでは、MT染色にも、淡染が認められた。これにより、疎線維性組織22が線維性結合組織21の内方に形成されていることが認められた。
図14の明色部分が示すように、線維性結合組織21から約2mmまでは、SR染色による緑色が偏光顕微鏡の観察によって認められた。これにより、疎線維性組織22がIII型コラーゲンを含むことも認められた。
【0087】
なお、EVG染色による黒色が組織構造体20の全体に認められなかった。これにより、組織構造体20が弾性線維をほとんど含まないことが認められた。
次に、一次抗体に抗CD90抗体(abcam社製)を用い、二次抗体にヤギ抗マウスIgG H&L(abcam社製)を用いて、間葉系幹細胞マーカーCD90を検出した。一次抗体に抗CD105抗体(abcam社製)を用い、二次抗体にヤギ抗ウサギIgG H&L(abcam社製)を用いて、間葉系幹細胞マーカーCD105を検出した。
【0088】
また、一次抗体に抗SSEA4抗体(abcam社製)を用い、二次抗体にProLong Gold Antifade Mountant with DAPI(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、多能性幹細胞マーカーSSEA4を検出した。一次抗体に抗SSEA3抗体(Bioss社製)を用い、二次抗体に抗FITCマイクロビーズ(Miltenyi Biotec社製)を用いて、多能性幹細胞マーカーSSEA3を検出した。
【0089】
図15が示すように、間葉系幹細胞マーカーCD90の検出結果において、線維性結合組織21に染色が認められなかった。また、
図16が示すように、間葉系幹細胞マーカーCD105の検出結果において、線維性結合組織21に染色が認められなかった。これに対して、
図17が示すように、間葉系幹細胞マーカーCD90の検出結果において、疎線維性組織22の全体にわたる多数の細胞に染色が認められた。また、
図18が示すように、間葉系幹細胞マーカーCD105の検出結果において、疎線維性組織22の全体にわたる多数の細胞に染色が認められた。
【0090】
図19が示すように、多能性幹細胞マーカーSSEA3の検出結果において、線維性結合組織21に染色が認められなかった。また、
図20が示すように、多能性幹細胞マーカーSSEA4の検出結果において、線維性結合組織21に染色が認められなかった。これに対して、
図21が示すように、多能性幹細胞マーカーSSEA3の検出結果において、疎線維性組織22の全体にわたる多数の細胞に染色が認められた。また、
図22が示すように、多能性幹細胞マーカーSSEA4の検出結果において、疎線維性組織22の全体にわたる多数の細胞に染色が認められた。
【0091】
次に、一次抗体に抗VEGFA抗体(abcam社製)を用い、二次抗体に細胞染色バッファー(BioLegend社製)を用いて、血管内皮増殖因子マーカー(VEGF)を検出した。一次抗体に抗HGF抗体(abcam社製)を用い、二次抗体にFITC標識抗CD90抗体(BioLegend社製)を用いて、肝細胞増殖因子マーカー(HGF)を検出した。
【0092】
血管内皮増殖因子マーカーの検出結果において、疎線維性組織22に発現が認められ、疎線維性組織22のなかでも線維性結合組織21とは反対側に高い発現が認められた。血管内皮増殖因子マーカーの検出結果において、疎線維性組織22に発現が認められ、疎線維性組織22のなかでも線維性結合組織21とは反対側に高い発現が認められた。
【0093】
次に、多能性幹細胞マーカーSSEA3と間葉系幹細胞マーカーCD90との二重染色、および多能性幹細胞マーカーSSEA3と間葉系幹細胞マーカーCD105との二重染色を行った。また、多能性幹細胞マーカーSSEA3と多能性幹細胞マーカーSSEA4との二重染色、多能性幹細胞マーカーSSEA3と血管内皮増殖因子マーカーとの二重染色を行った。
【0094】
二重染色の結果、二重陽性細胞の他に、各マーカーの単独陽性の細胞が見られた。疎線維性組織22を構成している細胞が、未分化度の異なる、階層性を持った細胞集団であることが認められた。また、一部の細胞は多能性幹細胞マーカーSSEA4とSSEA3を同時に発現しており、これはES細胞などのより未分化な多能性幹細胞の特徴と一致する。また、VEGFがSSEA3陽性細胞で特に高く発現したことから、疎線維性組織22の組織に存在する未分化性の高い幹細胞は高い血管新生能を有していると考えられる。
【0095】
[厚さ評価]
中空深さD11が相違する組織構造体形成装置10による各留置期間の試験例を用いて、組織構造体20における線維性結合組織21の厚さ、および組織構造体20の厚さを計測した。線維性結合組織21の厚さH21、および疎線維性組織22の厚さH22は、それぞれ膜状を有した組織構造体20の面方向における中央と縁との平均値とした。
【0096】
中空深さD11が1mm、および2mmの組織構造体形成装置10による測定結果を
図8に示す。なお、
図8では、中空深さD11が1mmの組織構造体形成装置10による線維性結合組織21の厚さを白抜き三角印で示し、組織構造体20の厚さを白抜き丸印で示す。また、
図8では、中空深さD11が2mmの組織構造体形成装置10による線維性結合組織21の厚さを黒抜き四角印で示し、組織構造体20の厚さを黒抜き丸印で示す。
【0097】
図8の白抜き丸印が示すように、中空深さD11が1mmである場合、2週間の留置期間が経過すると、組織構造体20の厚さは、中空深さD11のおよそ2/3である0.6mmに成長する。
図8の白抜き三角印が示すように、2週間の留置期間が経過すると、線維性結合組織21の厚さは、中空深さD11のおよそ1/3程度に成長する。すなわち、2週間の留置期間が経過したとき、組織構造体20は、中空深さD11の1/3程度の厚さを有した線維性結合組織21と、中空深さD11の1/3程度の厚さを有した薄い疎線維性組織22とを有する。
【0098】
一方、4週間以上の留置期間が経過すると、組織構造体20の厚さは、中空深さD11の全体まで成長する。線維性結合組織21の厚さも、中空深さD11の全体まで成長する。すなわち、4週間の留置期間が経過したとき、組織構造体20は、疎線維性組織22を有さず、中空深さD11の厚さを有した線維性結合組織21から構成される。
【0099】
このように、中空深さD11が1mmである場合、多能性幹細胞23の蓄積された膜状の疎線維性組織22は、2週間の留置によって得られる。ただし、この留置期間は、留置による炎症を治めるような好適な留置期間よりも若干短い。疎線維性組織22の得られる期間の裕度も、1週間未満のように短い。そして、疎線維性組織22の厚さは、0.5mm未満である。
【0100】
これに対し、
図8の黒抜き丸印が示すように、中空深さD11が2mmである場合、2週間の留置期間が経過すると、組織構造体20の厚さは、中空深さD11のおよそ1/2である1.1mmに成長する。一方、
図8の黒抜き四角印が示すように、2週間の留置期間が経過すると、線維性結合組織21の厚さは、中空深さD11のおよそ1/8程度に成長する。すなわち、2週間の留置期間が経過したとき、組織構造体20は、中空深さD11の1/2の厚さを有した線維性結合組織21と、1.0mm以上の厚い疎線維性組織22とを有する。
【0101】
また、4週間以上の留置期間が経過すると、組織構造体20の厚さは、中空深さD11の9/10程度まで成長する。他方、線維性結合組織21の厚さは、2週間の留置期間の経過時と同じく、中空深さD11のおよそ1/8程度を維持している。このように、組織構造体20の厚さが中空深さD11のほぼ全体である一方、線維性結合組織21の厚さが中空深さD11のおよそ1/4以下に止まる傾向は、8週間の留置期間が経過するまで認められる。そして、11週間の留置期間が経過したとき、組織構造体20は、疎線維性組織22を有さず、中空深さD11の厚さを有した線維性結合組織21から構成される。
【0102】
すなわち、中空深さD11が2mmである場合、(a)留置による炎症を治めるような好適な留置期間に、多能性幹細胞23の蓄積された膜状の疎線維性組織22が得られる。また、中空深さD11が2mmである場合、(b)疎線維性組織22の得られる期間の裕度も、2週間以上のように長い。そして、疎線維性組織22の厚さが1.0mm以上であるため、(c)多くの多能性幹細胞23が膜状の疎線維性組織22のなかに均一に蓄積されやすい。
【0103】
なお、中空深さD11が4mmである場合、中空深さD11が2mmである場合と同じく、2週間の留置期間が経過すると、組織構造体20の厚さは1.2mmに成長し、線維性結合組織21の厚さは0.2mm程度に成長する。4週間の留置期間が経過すると、これも中空深さD11が2mmである場合と同じく、組織構造体20の厚さは2.0mmに成長し、線維性結合組織21の厚さは0.2mm程度の厚さを維持する。そして、6週間から11週間の留置期間において、組織構造体20の厚さは4.0mmに成長し、線維性結合組織21の厚さは0.2mm程度の厚さを維持する。
【0104】
すなわち、中空深さD11が4mmである場合も、留置による炎症を治めるような好適な留置期間に、多能性幹細胞23の蓄積された膜状の疎線維性組織22が得られる。疎線維性組織22の得られる期間の裕度も、2週間以上のように長い。そして、疎線維性組織22の厚さが1.0mm以上であるため、多くの多能性幹細胞23が膜状の疎線維性組織22のなかに均一に蓄積されやすい。
【0105】
このように、疎線維性組織22の形成において、中空深さD11に2mm以上を定めることは、(i)線維性結合組織21と疎線維性組織22との間に成長速度の差異が存在する、という新たな技術的な知見を要する。また、中空深さD11に2mm以上を定めることは、(ii)所定の中空深さD11を超えると、成長速度の差異と中空深さD11との間の相関関係が変わる、という新たな技術的な知見も要する。そして、中空深さD11に2mm以上を定めることは、線維性結合組織21の成長よりも疎線維性組織22の成長を高めるように中空深さD11を定める、という観点からはじめて導き出される。なお、上記(i)(ii)の知見に示す傾向は、条件1~条件4を満たす区画壁12において、より明確に認められた。
【0106】
これにより、中空深さD11に2mm以上を定めることは、留置による炎症を治めるような好適な留置期間を経て、膜状の線維性結合組織21に支持された膜状の疎線維性組織22を得られるという効果を奏する。そして、中空深さD11に2mm以上を定めることは、留置による炎症を治めるような好適な留置期間を経て、多くの多能性幹細胞23が膜状の疎線維性組織22のなかに均一に蓄積されるという効果を奏する。また、中空深さD11に2mm以上を定めることは、留置による炎症を治めるような好適な留置期間に、当該期間に裕度をもって、多くの多能性幹細胞23が均一に蓄積された膜状の疎線維性組織22をはじめて得られる、という異質、かつ際立った効果を奏する。
【0107】
以上、上記実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)中空部11に入った生体組織由来の細胞などは、内面14を足場とした線維性結合組織21の一側面を形成する。生体組織のなかの多能性幹細胞23は、線維性結合組織21の成長と共に、線維性結合組織21の他側面で膜状の疎線維性組織22に集積される。膜状を有した線維性結合組織21の他側面の全体に、多能性幹細胞23の集積部位が広がるため、膜状を有した組織構造体20の貼付などによって、疾患部位に多能性幹細胞23を投与させやすい。
【0108】
(2)扁平の楕円筒面である内面14から剥離された線維性結合組織21が楕円筒面の軸方向に切り開かれる場合、膜状の組織構造体20が平面状の内面14で形成される場合と比べて、限られた生体組織のなかで、多能性幹細胞23の集積部位がさらに広がる。
【0109】
(3)中空深さD11が2mm以上である場合、留置による炎症を治めるような好適な留置期間に、多能性幹細胞23の蓄積された膜状の疎線維性組織22が得られる。また、中空深さD11が2mmである場合、疎線維性組織22の得られる期間の裕度も、2週間以上のように長い。また、疎線維性組織22の厚さが1.0mm以上であるため、多くの多能性幹細胞23が膜状の疎線維性組織22のなかに均一に蓄積されやすい。
【0110】
(4)中空部11の深さが2mm以上10mm以下であり、線維性結合組織21の厚さが0.05mm以上0.5mm以下である場合、膜状を有する線維性結合組織21の強度が確保される。このため、多能性幹細胞23の投与に際して、組織構造体20の取り扱いが容易である。また、中空部11の深さが線維性結合組織21の厚さよりも十分に大きいため、多能性幹細胞23を集積するための空間が中空部11のなかに確保されやすい。
【0111】
(5)開口寸法WTが0.3mm以上である場合、生体組織由来の細胞や血漿タンパク質などは、区画壁12の貫通孔13を通して、中空部11のなかに入り込みやすい。開口寸法WTが3.0mm以上である場合、線維性結合組織21のなかで貫通孔13と対向する部位に窪みや孔が形成されにくい。孔間距離が0.3mm以上であり、開口の占有率が30%以上70%以下である場合、内面14を足場として、線維性結合組織21が成長しやすい。このため、生体組織由来の細胞に適した環境が、貫通孔13に対応した部位の毛細血管24を通して、中空部11のなかに構築されやすい。
【0112】
上記実施形態は、以下のように変更してもよい。
・筒状の区画壁12における筒端は、キャップに閉ざされずに開放されてもよい。あるいは、区画壁12の筒端を閉じるキャップは、筒端のほとんどを開放する大きな通期孔を備えてもよい。
【0113】
この変更例において、支持部材15などの異物が中空部11のなかに存在する場合、支持部材15の外面は、筒端から中空部11に入る生体組織由来の細胞などの足場として機能する。そして、線維性結合組織21が、内面14から中空部11に向けて形成され、また支持部材15の外面から中空部11に向けて形成される。この場合、中空部11に形成される組織構造体20は、内面14に接する線維性結合組織21と、支持部材15の外面に接する線維性結合組織21と、に疎線維性組織22が挟まれた、三層構造を有する。すなわち、多能性幹細胞23を蓄積した膜状の疎線維性組織22は、膜状の線維性結合組織21に挟まれてもよい。筒端のほとんどが開放されて、支持部材15などの異物が線維性結合組織21を形成するための足場として機能する場合、中空深さD11は、貫通孔13の深さ方向における内面14と異物との間の距離の半分である。
【0114】
なお、組織構造体20は、三層構造における疎線維性組織22の層内剥離を経て、支持部材15の外面に接した線維性結合組織21と、当該線維性結合組織21に接する疎線維性組織22との二層構造に加工されてもよい。また、組織構造体20は、三層構造における疎線維性組織22の層内剥離を経て、内面14に接した線維性結合組織21と、当該線維性結合組織21に接する疎線維性組織22との二層構造に加工されてもよい。
【0115】
・
図23が示すように、筒状を有した区画壁12は、軸方向に延びる1以上の突リブを備えてもよい。1以上の突リブは、区画壁12における軸方向の厚さを部分的に厚くする。1以上の突リブは、区画壁12に加えられる応力に対する機械的な耐久性を高めて、中空部11の形状を安定化させる。
【0116】
・
図24が示すように、筒状を有した区画壁12は、軸方向に延び、かつ周方向に旋回する突リブを備えてもよい。この突リブも、区画壁12における軸方向の厚さを部分的に厚くする。螺旋状の突リブも、区画壁12に加えられる応力に対する機械的な耐久性を高めて、中空部11の形状を安定化させる。
【0117】
すなわち、区画壁12は、その一部に厚さの厚い補強リブを備えてもよい。補強リブは、貫通孔13を避けるように配置されてもよいし、貫通孔13の一部を塞ぐように配置されてもよい。組織構造体20の厚さに均一性を要求される場合、補強リブは、貫通孔13の配置における規則性を損なわないように、貫通孔13を避けるように配置されることが好ましい。
【符号の説明】
【0118】
WT…開口寸法
10…組織構造体形成装置
11…中空部
12…区画壁
13…貫通孔
14…内面
20…組織構造体
21…線維性結合組織
21A…第1面
21B…第2面
22…疎線維性組織
23…多能性幹細胞
24…毛細血管
【要約】
【課題】疾患部位に多能性幹細胞を投与させやすくする組織構造体、および組織構造体の形成方法を提供する。
【解決手段】生体組織を含む環境のなかに留置された区画壁12によって形成される組織構造体であって、区画壁12が、中空部11を囲う内面14と、内面14に開口した複数の貫通孔13を備え、生体組織のなかの細胞が貫通孔を通じて中空部11に侵入することによって、組織構造体が中空部11に形成され、組織構造体は、内面14から剥離された一側面を有する膜状の線維性結合組織と、一側面とは反対側の他側面の全体に広がり、かつ多能性幹細胞を集積した疎線維性組織と、を備える。
【選択図】
図1