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特許7649628容器詰めチューハイテイスト飲料、容器詰めチューハイテイスト飲料の製造方法、及び、容器詰めチューハイテイスト飲料の香味向上方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-12
(45)【発行日】2025-03-21
(54)【発明の名称】容器詰めチューハイテイスト飲料、容器詰めチューハイテイスト飲料の製造方法、及び、容器詰めチューハイテイスト飲料の香味向上方法
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/05 20190101AFI20250313BHJP
   C12G 3/04 20190101ALI20250313BHJP
【FI】
C12G3/05
C12G3/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020089300
(22)【出願日】2020-05-22
(65)【公開番号】P2021182880
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 斉
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-184697(JP,A)
【文献】特開2007-060990(JP,A)
【文献】国際公開第2007/037262(WO,A1)
【文献】特開2015-204775(JP,A)
【文献】特開2008-212070(JP,A)
【文献】特開2007-189934(JP,A)
【文献】カクテル「スクリュードライバー」とは?美味しい飲み方、作り方徹底解説,エキサイトニュース [online],日本,2020年03月31日,[2024年9月24日検索]<URL:https://www.excite.co.jp/news/article/Nomooo_155561/>
【文献】各種果実飲料に含まれるγ一アミノ酪酸(GABA)の濃度と保存安定性,日本食品保蔵科学会誌,日本,2008年,Vol.34 No.3,145-149
【文献】「チューハイ」と「カクテル」の違いは何ですか?,サントリー お客様センター [online],2010年07月04日,[2024年9月24日検索]<URL:http://web.archive.org/web/20100704020234/https://www.suntory.co.jp/customer/faq/001812.html>
【文献】ソフト清酒用酵母の育種とそれを用いたソフト清酒の開発,秋田県総合食品研究所報告,日本,秋田県総合食品研究所,2000年06月,第36~44頁
【文献】311 清酒醪における酵母のGABA取り込みについて,平成12年度 日本生物工学会大会 講演論旨集,日本,日本生物工学会,2012年08月03日,第62頁
【文献】アルコール0%の本格梅酒テイスト「酔わないThe CHOYA 本格梅酒仕込み」2020年3月10日(火)全国発売開始,CHOYA ニュースリリース,日本,2020年03月04日,URL:https://www.choya.co.jp/news/1750/
【文献】山形県工業技術センター,県産ぶどうを用いた極甘口ワインの製造試験について,山形県工業技術センター報告,日本,2016年03月,第62~64頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G1/00-3/08
C12H6/00-6/04
C12C1/00-13/10
C12F3/00-5/00
C12H1/00-3/04
C12J1/00-1/10
C12L3/00-11/00
A23L2/00-2/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GABAと甘味料とを含有する容器詰めチューハイテイスト飲料(梅果汁を含むものと、トマト果汁を含むものと、ぶどう果汁を含むものと、を除く)であって、
前記甘味料の含有量がショ糖換算で4.0w/v%以上であり、
前記GABAの含有量が0.010~3.000w/v%であり、
前記甘味料が果糖ブドウ糖液糖を含む容器詰めチューハイテイスト飲料
【請求項2】
酸味料を含有し、
酸度が0.30w/v%以上である請求項1に記載の容器詰めチューハイテイスト飲料
【請求項3】
アルコール度数が0.1~1.0v/v%である請求項1又は請求項2に記載の容器詰めチューハイテイスト飲料
【請求項4】
GABAと甘味料とを含有する容器詰めチューハイテイスト飲料(梅果汁を含むものと、トマト果汁を含むものと、ぶどう果汁を含むものと、を除く)の製造方法であって、
GABAと甘味料とを含有させ、前記甘味料の含有量をショ糖換算で4.0w/v%以上とし、前記GABAの含有量を0.010~3.000w/v%とする工程を含み、
前記甘味料が果糖ブドウ糖液糖を含む容器詰めチューハイテイスト飲料の製造方法。
【請求項5】
GABAを含有する容器詰めチューハイテイスト飲料(梅果汁を含むものと、トマト果汁を含むものと、ぶどう果汁を含むものと、を除く)のGABA特有の塩味を低減させる香味向上方法であって、
前記容器詰めチューハイテイスト飲料に甘味料を含有させ、前記甘味料の含有量をショ糖換算で4.0w/v%以上とし、前記GABAの含有量を0.010~3.000w/v%とし、
前記甘味料が果糖ブドウ糖液糖を含む容器詰めチューハイテイスト飲料の香味向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器詰めチューハイテイスト飲料、容器詰めチューハイテイスト飲料の製造方法、及び、容器詰めチューハイテイスト飲料の香味向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の健康志向の高まりに伴い、アルコール飲料においても、消費者の健康を考えたアルコール飲料やその製造方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、大豆タンパク分解物又はその調製物を窒素原料或いは窒素原料の一部とし、ビール酵母を用いて発酵する発酵アルコール飲料の製造方法において、発酵前溶液中の総アミノ酸量及び低分子ペプチドの総量を工程管理指標として、発酵前溶液を調整し、発酵アルコール飲料中の大豆ペプチド含有率を向上し、発酵アルコール飲料の風味・味覚を増進させたことを特徴とする、大豆ペプチド入り発酵アルコール飲料の製造方法が記載されている。
そして、特許文献1では、健康機能に優れ、風味・味覚に優れた発酵アルコール飲料を提供できると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-238877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、特許文献1の健康機能に優れる大豆タンパク分解物ではなく、精神面での消費者の健康をサポートすべく、抗ストレス作用を有することが知られている「GABA」に着目した。
【0006】
そして、本発明者は、このGABAをアルコール飲料に含有させて、香味を詳細に検討した結果、アルコールとGABAとの組み合わせによって、GABA特有の塩味が生まれてしまうことを確認した。
【0007】
そこで、本発明は、GABA特有の塩味が低減された容器詰めチューハイテイスト飲料、容器詰めチューハイテイスト飲料の製造方法、及び、容器詰めチューハイテイスト飲料の香味向上方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)GABAと甘味料とを含有する容器詰めチューハイテイスト飲料(梅果汁を含むものと、トマト果汁を含むものと、ぶどう果汁を含むものと、を除く)であって、前記甘味料の含有量がショ糖換算で4.0w/v%以上であり、前記GABAの含有量が0.010~3.000w/v%であり、前記甘味料が果糖ブドウ糖液糖を含む容器詰めチューハイテイスト飲料
(2)酸味料を含有し、酸度が0.30w/v%以上である前記1に記載の容器詰めチューハイテイスト飲料
)アルコール度数が0.1~1.0v/v%である前記1又は前記2に記載の容器詰めチューハイテイスト飲料
)GABAと甘味料とを含有する容器詰めチューハイテイスト飲料(梅果汁を含むものと、トマト果汁を含むものと、ぶどう果汁を含むものと、を除く)の製造方法であって、GABAと甘味料とを含有させ、前記甘味料の含有量をショ糖換算で4.0w/v%以上とし、前記GABAの含有量を0.010~3.000w/v%とする工程を含み、前記甘味料が果糖ブドウ糖液糖を含む容器詰めチューハイテイスト飲料の製造方法。
)GABAを含有する容器詰めチューハイテイスト飲料(梅果汁を含むものと、トマト果汁を含むものと、ぶどう果汁を含むものと、を除く)のGABA特有の塩味を低減させる香味向上方法であって、前記容器詰めチューハイテイスト飲料に甘味料を含有させ、前記甘味料の含有量をショ糖換算で4.0w/v%以上とし、前記GABAの含有量を0.010~3.000w/v%とし、前記甘味料が果糖ブドウ糖液糖を含む容器詰めチューハイテイスト飲料の香味向上方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る容器詰めチューハイテイスト飲料は、GABA特有の塩味が低減している。
本発明に係る容器詰めチューハイテイスト飲料の製造方法は、GABA特有の塩味が低減された容器詰めチューハイテイスト飲料を製造することができる。
本発明に係る容器詰めチューハイテイスト飲料の香味向上方法は、GABAを含有する容器詰めチューハイテイスト飲料のGABA特有の塩味を低減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るアルコール飲料、アルコール飲料の製造方法、及び、アルコール飲料の香味向上方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0011】
[アルコール飲料]
本実施形態に係るアルコール飲料は、GABAと甘味料とを含有し、甘味料の含有量がショ糖換算で所定値以上である。また、本実施形態に係るアルコール飲料は、GABAと甘味料とを含有し、エキス分が所定値以上である。
ここで、アルコール飲料とは、アルコールを含有する飲料であり、特定の種類の飲料に限定されないものの、例えば、チューハイテイスト飲料が挙げられる。そして、このチューハイテイスト飲料とは、チューハイのような味わいを呈する飲料、つまり、チューハイの香味が感じられるように香味設計された飲料である。また、チューハイの香味には、サワーやカクテルといった香味も含まれる。
なお、アルコール飲料の中でもビール様の香味を奏するように調製されたビールテイスト飲料(酒税法で定義される「発泡性酒類」の「ビール」、「発泡酒」、「その他の発泡性酒類」に分類され、ビール様の香味を呈するもの)は、本発明が課題とするGABA特有の塩味がビール様の香味に隠れてしまう(適応してしまう)と想定される。よって、本実施形態に係るアルコール飲料には、厳密には、ビールテイスト飲料は含まれない。
以下、本実施形態に係るアルコール飲料を構成する各要素について説明する。
【0012】
(GABA)
GABA(Gamma Amino Butyric Acid:γ-アミノ酪酸)とは、緊張の緩和やストレスの軽減などの作用が報告されている物質である。
そして、本発明者は、このGABAをアルコール飲料に含有させたところ、アルコールの香味にGABAの香味が組み合わさることによって、GABA特有の塩味を生じさせてしまうことを確認した。
ここで、「GABA特有の塩味」とは、食塩が奏するような立ち上がりが早く丸みのある塩味とは異なり、立ち上がりが遅くうま味に近い香味である。そして、このGABA特有の塩味は、嫌な後味を残し、ドリンカビリティを悪くしてしまうとともに、飲料としての味のバランスを崩すおそれがある。
【0013】
GABAは、アルコール飲料に含有されていれば本発明の課題であるGABA特有の塩味(以下、適宜、単に「塩味」ともいう)は生じてしまうことから、含有量については特に限定されないものの、例えば、以下のとおりである。
GABAの含有量は、0.010w/v%以上が好ましく、0.016w/v%以上、0.020w/v%以上、0.030w/v%以上、0.032w/v%以上がより好ましい。GABAの含有量が所定値以上であることによって、本発明の課題(塩味)がより明確化する。
GABAの含有量は、3.000w/v%以下が好ましく、2.000w/v%以下、1.500w/v%以下、1.000w/v%以下、0.080w/v%以下、0.060w/v%以下がより好ましい。GABAの含有量が所定値以下であることによって、後記する甘味料に基づく効果(特に塩味の低減効果)を十分に発揮させることができる。
【0014】
なお、GABAの含有量は、例えば、アミノ酸自動分析計や高速液体クロマトグラフ(HPLC)等で既知の方法により測定することができる。
【0015】
(甘味料)
甘味料は、甘味を付与するための物質である。そして、甘味料は、例えば、果糖ブドウ糖液糖、ブドウ糖果糖液糖といった異性化液糖や、果糖(フルクトース)、ブドウ糖(グルコース)、ガラクトースといった単糖類、ショ糖(スクロース)、マルトース、ラクトースといった二糖類、アセスルファムK、ネオテーム、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームといった高甘味度甘味料、さらには、オリゴ糖、糖アルコールなどが含まれる。なお、果糖ブドウ糖液糖とは、「異性化液糖及び砂糖混合異性化液糖の日本農林規格」に規定されているとおりであって、果糖含有率が50%以上90%未満のものである。
そして、本発明者は、GABAを含有するアルコール飲料に対して甘味料を所定量以上含有させることによって、アルコールとGABAとの組み合わせによって生じるGABA特有の塩味を低減させることができることを見出した。
【0016】
甘味料の含有量はショ糖換算で4.0w/v%以上が好ましく、5.0w/v%以上、6.0w/v%以上、6.5w/v%以上、7.0w/v%以上、7.5w/v%以上、7.7w/v%以上がより好ましい。甘味料の含有量がショ糖換算で所定値以上であることによって、GABA特有の塩味を低減させることができる。また、甘味料の含有量がショ糖換算で所定値以上であることによって、厚味と味のボリュームも増強させることができる。
甘味料の含有量はショ糖換算で20.0w/v%以下が好ましく、18.0w/v%以下、16.0w/v%以下、14.0w/v%以下、13.0w/v%以下、12.0w/v%以下、11.7w/v%以下、11.0w/v%以下、10.0w/v%以下、9.0w/v%以下、8.0w/v%以下がより好ましい。甘味料の含有量がショ糖換算で所定値以下であることによって、飲料としての味のバランスを良くすることができるとともに、後味のしまりが悪くなり過ぎるといった事態を回避することができる。
【0017】
ショ糖換算の甘味料の含有量とは、飲料中の甘味料の含有量をショ糖の含有量に換算したものである。具体的には、ショ糖換算の甘味料の含有量は、「甘味料の含有量」に対して「甘味料の甘味度/ショ糖の甘味度(100)」を乗じることにより算出することができる。例えば、マルトースを1.0w/v%含有する飲料の場合、マルトースの濃度「1.0w/v%」に「33/100」(=マルトースの甘味度/ショ糖の甘味度)を乗じた「0.33w/v%」がショ糖換算の甘味料の含有量となる。
なお、各甘味料の甘味度については、例えば、果糖ブドウ糖液糖:100、ブドウ糖果糖液糖:80、果糖:150、ブドウ糖:75、ラクトース:16、ガラクトース:32、マルトース:33、ショ糖:100、アセスルファムK:20000、スクラロース:60000、ネオテーム:1000000、サッカリンナトリウム:50000、ステビア:25000という値を用いればよい。また、オリゴ糖の甘味度については、フラクトオリゴ糖:45、ガラクトオリゴ糖:20、キシロオリゴ糖:45、乳果オリゴ糖:60、ラフィノース:20、イソマルトオリゴ糖:30、大豆オリゴ糖:70という値を用い、糖アルコールの甘味度については、ソルビトール:65、マンニトール:60、マルチトール:85、キシリトール:60、還元パラチノース:45、エリスリトール:75という値を用いればよい。また、飲料中の甘味料の含有量については、高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて測定することができる。
【0018】
なお、一例として、甘味料として果糖ブドウ糖液糖を使用した場合における果糖ブドウ糖液糖の含有量は以下のとおりである。
果糖ブドウ糖液糖の含有量は、4.0w/v%以上、5.0w/v%以上、6.0w/v%以上、6.5w/v%以上、7.0w/v%以上、7.5w/v%以上、7.7w/v%以上であり、20.0w/v%以下、18.0w/v%以下、16.0w/v%以下、14.0w/v%以下、13.0w/v%以下、12.0w/v%以下、11.7w/v%以下、11.0w/v%以下、10.0w/v%以下、9.0w/v%以下、8.0w/v%以下である。
【0019】
(エキス分)
本実施形態に係るアルコール飲料は、前記した「甘味料の含有量(ショ糖換算)」の代わりに(または、併用して)、エキス分を特定してもよい。
ここで、エキス分とは、温度15℃のときにおいて原容量百立方センチメートル中に含有する不揮発性成分のグラム数である。そして、このエキス分は、主に前記した甘味料の含有量が反映される数値であり、甘味料の含有量が多いと当該数値は高くなり、甘味料の含有量が少ないと当該数値は低くなる。
そして、本発明者は、GABAを含有するアルコール飲料に対して甘味料を含有させエキス分を所定値以上とすることによって、アルコールとGABAとの組み合わせによって生じるGABA特有の塩味を低減させることができることを見出した。
【0020】
エキス分は、4.0w/v%以上が好ましく、4.5w/v%以上、5.0w/v%以上、5.8w/v%以上、6.0w/v%以上がより好ましい。エキス分が所定値以上であることによって、GABA特有の塩味を低減させることができる。また、エキス分が所定値以上であることによって、厚味と味のボリュームも増強させることができる。
エキス分は、15.0w/v%以下が好ましく、12.0w/v%以下、10.0w/v%以下、9.0w/v%以下、8.0w/v%以下、7.0w/v%以下、6.5w/v%以下がより好ましい。エキス分が所定値以下であることによって、飲料としての味のバランスを良くすることができるとともに、後味のしまりが悪くなり過ぎるといった事態を回避することができる。
【0021】
(アルコール)
本実施形態に係るアルコール飲料は、アルコールを含有している。
アルコールは飲用することができるアルコールであればよく、本発明の効果が阻害されない範囲であれば、種類、製法、原料などに限定されることがないが、蒸留酒又は醸造酒であることが好ましい。蒸留酒としては、例えば、焼酎、ブランデー、ウォッカ、ウイスキー等の各種スピリッツ、原料用アルコール等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。醸造酒としては、例えば、ビール、発泡酒、果実酒、甘味果実酒などを1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、本明細書においてアルコールとは、特に明記しない限り、エタノールのことをいう。
【0022】
(アルコール度数)
本実施形態に係るアルコール飲料のアルコール度数は、0.05v/v%以上であるのが好ましく、0.1v/v%以上、0.3v/v%以上、0.4v/v%以上、0.5v/v%以上がより好ましい。アルコール度数が所定値以上であることによって、本発明の課題(塩味)がより明確化する。
本実施形態に係るアルコール飲料のアルコール度数は、10v/v%以下が好ましく、8v/v%以下、6v/v%以下、5.2v/v%以下、2.0v/v%以下、1.2v/v%以下、1.0v/v%以下、0.8v/v%以下、0.6v/v%以下がより好ましい。アルコール度数が所定値以下(特に、1.0v/v%以下の低アルコール度数)であることによって、塩味の低減効果をより強く発揮させることができる。
【0023】
本実施形態に係るアルコール飲料のアルコール度数は、例えば、国税庁所定分析法(訓令)3清酒3-4アルコール分(振動式密度計・ガスクロマトグラフ分析法)に基づいて測定することができる。
【0024】
(酸味料)
酸味料とは、酸味を付与するための物質である。そして、酸味料は、例えば、クエン酸、アジピン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、リン酸、酢酸などを用いることができる。
そして、本発明者は、酸味料が前記した甘味料の効果(塩味の低減効果)をさらに強くできることを見出した。
【0025】
本実施形態に係るアルコール飲料の酸度(クエン酸換算の酸度)は、以下のとおりである。
酸度は、0.25w/v%以上が好ましく、0.30w/v%以上、0.35w/v%以上、0.40w/v%以上がより好ましい。酸度が所定値以上であることによって、塩味の低減効果を更に強く発揮させることができる。
酸度は、3.00w/v%以下が好ましく、2.00w/v%以下、1.00w/v%以下、0.70w/v%以下、0.50w/v%以下がより好ましい。酸度が所定値以下であることによって、飲料としてのバランスをより良くすることができる。
【0026】
なお、本明細書における酸度(クエン酸換算の酸度:クエン酸相当量として換算した酸度の値)は、果実飲料の日本農林規格(平成28年2月24日農林水産省告示第489号)に定められた方法で求めることができる。具体的には、飲料を水酸化ナトリウム溶液(0.1mol/L)で中和滴定し、中和滴定において必要となった水酸化ナトリウム溶液の「滴定量(ml)」、滴定に使用した飲料の「重量(g)」、「0.0064」(0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液1mLに相当するクエン酸の重量(g))という定数などを用いて算出すればよい。
また、酸度は、前記の酸味料によって調整することができる。
【0027】
(発泡性)
本実施形態に係るアルコール飲料は、炭酸ガスを含有する発泡性のもの、つまり、炭酸飲料であるのが好ましい。ここで、本実施形態における発泡性とは、20℃におけるガス圧(スニフト有り)は、0.10MPa以上が好ましく、0.13MPa以上、0.15MPa以上、0.18MPa以上がより好ましい。
【0028】
(その他)
本実施形態に係るアルコール飲料は、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で飲料として通常配合される酸化防止剤、香料、塩類、食物繊維など(以下、適宜「添加剤」という)を含有していてもよい。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを用いることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどを用いることができる。食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン、ペクチン、ポリデキストロース、グアーガム分解物などを用いることができる。
【0029】
本実施形態に係るアルコール飲料は、チューハイテイスト飲料とする場合、フルーツフレーバー(フルーツ様の香りを付与するフレーバー)、果汁(果実を搾った汁)、果実エキス(果実又は果汁から水やアルコールなどを用いて当該果実の有効成分を抽出した抽出物)を含有させることもできる。そして、果汁としては、例えば、濃縮果汁、還元果汁、ストレート果汁といった各種果汁、果実ピューレ(火を通した果実あるいは生の果実をすりつぶしたり裏ごししたりした半液体状のもの)、これらの希釈液、濃縮液、混合液などを用いることができる。
果汁の由来となる果実(および、果実フレーバーや果実エキスの果実種)は、柑橘類果実である、レモン、ライム、ミカン、オレンジ、グレープフルーツ、ユズ、シークワーサー等や、バラ科果実である、梅、リンゴ、イチゴ、桃等、これら以外にも、ぶどう、プラム、ざくろ、ブルーベリー、カシス、クランベリー、マキベリー、いちご、アップル、マンゴー、パイナップル、キウイ、梨等といった従来公知の果実も挙げることができる。
なお、本発明の効果(GABA特有の塩味の低減)は、フレーバー・果汁・果実エキスの香味タイプや香味の強弱から直接的な影響は受けず、少なくとも、当該効果が消失してしまうといったことはないと考えることから、フレーバーなどによる香味タイプは前記のとおり多様であってもよく、含有量についても特に限定されない。
【0030】
(容器詰めアルコール飲料)
本実施形態に係るアルコール飲料は、各種容器に入れて提供することができる。各種容器にアルコール飲料を詰めることにより、長期間の保管による品質の劣化を好適に防止することができる。
そして、容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル、紙容器、パウチ容器などを適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。
【0031】
以上説明したように、本実施形態に係るアルコール飲料は、GABA特有の塩味が低減されている。
また、本実施形態に係るアルコール飲料は、厚味と味のボリュームが増強されており、飲料としての味のバランスも良くなっている。
【0032】
[アルコール飲料の製造方法]
次に、本実施形態に係るアルコール飲料の製造方法を説明する。
本実施形態に係るアルコール飲料の製造方法は、混合工程と、後処理工程と、を含む。
【0033】
混合工程では、混合タンクに、水、GABA、甘味料、酸味料、飲用アルコール、添加剤などを適宜投入して混合後液を製造する。
この混合工程において、甘味料の含有量や酸度などが前記した所定範囲内となるように各原料を混合し、調整すればよい。
【0034】
そして、後処理工程では、例えば、ろ過、殺菌、炭酸ガスの付加、容器への充填などの処理を必要に応じて選択的に行う。
なお、後処理工程のろ過処理は、一般的なフィルター又はストレーナーによって行うことができる。また、後処理工程の殺菌処理は、処理速度等の観点から、プレート殺菌によって行うのが好ましいが、同様の処理を行うことができるのであればこれに限定されることなく適用可能である。また、後処理工程の充填処理は、飲料品の製造において通常行われる程度にクリーン度を保ったクリーンルームにおいて充填するのが好ましい。そして、後処理工程での各処理の順序は特に限定されない。
【0035】
なお、混合工程及び後処理工程において行われる各処理は、RTD飲料などを製造するために一般的に用いられている設備によって行うことができる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態に係るアルコール飲料の製造方法は、GABA特有の塩味が低減されたアルコール飲料を製造することができる。
また、本実施形態に係るアルコール飲料の製造方法は、厚味と味のボリュームが増強されており、飲料としての味のバランスも良いアルコール飲料を製造することができる。
【0037】
[アルコール飲料の香味向上方法]
次に、本実施形態に係るアルコール飲料の香味向上方法を説明する。
本実施形態に係るアルコール飲料の香味向上方法は、GABAを含有するアルコール飲料のGABA特有の塩味を低減させる香味向上方法であって、アルコール飲料に甘味料を含有させ、甘味料の含有量をショ糖換算で所定値以上とする方法である。
なお、各成分の含有量等については、前記した「アルコール飲料」において説明した値と同じである。
【0038】
以上説明したように、本実施形態に係るアルコール飲料の香味向上方法は、GABAを含有するアルコール飲料のGABA特有の塩味を低減させることができる。
また、本実施形態に係るアルコール飲料の香味向上方法は、アルコール飲料の厚味と味のボリュームを増強させることができ、飲料としての味のバランスを良くすることができる。
【実施例
【0039】
[事前試験]
まずは、GABAをアルコール飲料に含有させた際に生じる塩味について、事前に行った試験内容を説明する。
【0040】
(サンプルの準備)
ウォッカ、GABA、食塩、果糖ブドウ糖液糖、酸味料(クエン酸(無水))、レモン香料、炭酸水、純水を適宜配合してサンプル0-1~0-9を準備した。
なお、サンプル0-1~0-9について、ウォッカの添加量(アルコール度数)、GABAの添加の有無、食塩の添加の有無以外の条件(表に示していない条件)は全て統一した。
そして、各サンプルの20℃におけるガス圧(スニフト有り)は0.18MPaとした。
【0041】
(試験内容)
前記の方法により製造した各サンプルについて、訓練された識別能力のあるパネルが飲んで香味を確認し、香味に関してコメントした。
【0042】
以下の表に、各サンプルのアルコール度数などの指標を示す。
なお、表のGABAについて「有」とは、GABAの含有量が0.0504w/v%であることを示しており、食塩について「有」とは、食塩の含有量が0.056w/v%であることを示している。
【0043】
【表1】
【0044】
(結果の検討)
GABAを含有させたサンプル0-2~0-5に対しては、「ミドル~ラストに塩味(うま味のような塩味)」を感じたとのコメントがパネルから得られた。
一方、食塩を含有させたサンプル0-6~0-9に対しては、「ミドルから丸みのある塩味」を感じたとのコメントがパネルから得られた。
これらのコメントから、GABAに由来する塩味は、食塩に由来する塩味と異なり、サンプルを飲んですぐに感じるというものではなく、中盤から後半において感じるものであって、当該塩味の立ち上がりが遅いことが確認できた。
【0045】
また、GABAを含有させたサンプル0-2~0-5に対しては、「ミドル~ラストに塩味(うま味のような塩味)」を感じたが、アルコール度数が高くなるに伴い(サンプル0-4→0-5)、当該塩味がアルコールの香味に隠れてしまうというコメントもパネルから得られた。
これらのコメントから、本発明の課題(GABA特有の塩味)は、特に、低アルコールの飲料(例えば、アルコール度数1v/v%以下)において際立って明確となることが確認できた。
【0046】
[本試験]
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明について説明する。
【0047】
(サンプルの準備)
表2~4に示す量となるように、ウォッカ、GABA、果糖ブドウ糖液糖、酸味料(クエン酸(無水))、レモン香料、炭酸水、純水を適宜配合してサンプルを準備した。
なお、表4の一部のサンプルのみ、酸味料の添加量を調整して表に示す酸度とした。
そして、各サンプルの20℃におけるガス圧(スニフト有り)は0.18MPaとした。
【0048】
[試験内容]
前記の方法により製造した各サンプルについて、訓練された識別能力のあるパネル6名が下記評価基準に則って「塩味」、「厚味」、「味のボリューム」、「後味のしまり」、「飲料としての味のバランス」について、1~5点の5段階評価で独立点数付けし、その平均値を算出した。
なお、全ての評価は、サンプルを飲んで評価した。
【0049】
(塩味:評価基準)
塩味の評価は、サンプル1-1の1点を基準とし、「GABA特有の塩味を非常に弱く感じる(サンプル1-1と同程度であって、ほぼ感じない)」場合を1点、「GABA特有の塩味を非常に強く感じる」場合を5点と評価した。そして、塩味については、点数が低いほど、好ましいと判断できる。
ここで、「GABA特有の塩味」とは、立ち上がりの遅い塩味(うま味に近い香味)である。
【0050】
(厚味:評価基準)
厚味の評価は、サンプル1-1の1点を基準とし、「厚味を非常に弱く感じる(サンプル1-1と同程度である)」場合を1点、「厚味を非常に強く感じる」場合を5点と評価した。そして、厚味については、点数が高いほど、好ましいと判断できる。
ここで、「厚味」とは、サンプルを飲んでいる最中に感じる味の厚味(ボディ感)である。
【0051】
(味のボリューム:評価基準)
味のボリュームの評価は、サンプル1-1の1点を基準とし、「味のボリュームを非常に弱く感じる(サンプル1-1と同程度である)」場合を1点、「味のボリュームを非常に強く感じる」場合を5点と評価した。そして、味のボリュームについては、点数が高いほど、好ましいと判断できる。
ここで、「味のボリューム」は、味の奥行と広がり、及び、飲みごたえという3つの観点に基づく総合的な指標である。
【0052】
(後味のしまり:評価基準)
後味のしまりの評価は、サンプル1-1の3点を基準とし、「後味のしまりを非常に弱く感じる」場合を1点、「後味のしまりを非常に強く感じる」場合を5点と評価した。そして、後味のしまりについては、点数が高いほど、好ましいと判断できる。
ここで、「後味のしまり」は、後味におけるキレとも言い換えることができる。
【0053】
(飲料としての味のバランス:評価基準)
飲料としての味のバランスの評価については、「飲料としての味のバランスが非常に悪いと感じる」場合を1点、「飲料としての味のバランスが非常に良いと感じる」場合を5点と評価した。
【0054】
以下の表に、各サンプルの配合量等を示すとともに、各評価の結果を示す。なお、表に示す各成分の数値は、最終製品における含有量である。
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
(結果の検討)
表2のサンプル1-1、1-2の結果から、アルコール飲料に対してGABAを含有させると塩味が発生してしまうことが確認できた。
また、表2のサンプル1-2~1-4の結果から、GABAを含有するアルコール飲料のアルコール度数が、発生した塩味の強さに影響を与えることが確認できた。詳細には、サンプル1-2~1-4のいずれでも、塩味が発生したが、特に、サンプル1-3について塩味が強くなることを確認できた。
【0059】
表3のサンプル2-1~2-3、サンプル3-1~3-3、サンプル4-1~4-3の結果から、各アルコール度数において、甘味料の含有量のショ糖換算の値(又は、エキス分の値)が大きくなるに従い、塩味が低減されていることが確認できた。
そして、各アルコール度数の中でも、サンプル3-1~3-3における塩味の低減度合いが最も大きく、次いで、サンプル2-1~2-3における塩味の低減度合いが大きい、という結果が得られた。
つまり、本発明における塩味の低減という効果は、低アルコールの飲料において、最も強くなることが確認できた。
【0060】
表3の結果から、甘味料の含有量のショ糖換算の値(又は、エキス分の値)が大きくなるに従い、厚味が強く感じられるようになり(3.5点以上)、味のボリュームも強く感じられるようになる(3.5点以上)ことが確認できた。
また、表3の結果から、飲料としての味のバランスについては、各アルコール度数の中でも、サンプル3-1~3-3が非常に良い評価が得られ、これらのサンプルの中でも、サンプル3-2が最も良い評価が得られた。
【0061】
表4の結果から、GABAを含有し、かつ、甘味料の含有量のショ糖換算の値(又は、エキス分の値)が所定値以上となるアルコール飲料において、酸度が上昇すると、塩味の低減効果が強く発揮されるだけでなく、厚味、味のボリュームも増強し、更には、後味のしまりについても好ましい結果(2.5点以上)が得られることが確認できた。
【0062】
[本試験:補足]
次に、補足として、GABAの含有量(及び、アルコール度数)を変更させたサンプルについて香味の確認を行った。
【0063】
(サンプルの準備)
表に示す量となるように、ウォッカ、GABA、果糖ブドウ糖液糖、酸味料(クエン酸(無水)、クエン酸三ナトリウム)、レモン香料、炭酸水、純水を適宜配合してサンプルを準備した。
そして、各サンプルの20℃におけるガス圧(スニフト有り)は0.18MPaとした。
【0064】
(試験内容)
前記の方法により製造した各サンプルについて、訓練された識別能力のあるパネルが飲んで香味を確認し、香味に関してコメントした。
【0065】
以下の表に、各サンプルの配合量等を示すとともに、各評価の結果を示す。なお、表に示す各成分の数値は、最終製品における含有量である。
【0066】
【表5】
【0067】
(結果の検討)
サンプル6-1~6-4はいずれも、GABAと甘味料を含有し、甘味料の含有量のショ糖換算の値(又は、エキス分の値)が所定値以上となっていたことから、GABAの含有量が変動しようとも、各サンプルの香味はアルコール飲料として問題のない香味となる、ことが確認できた。