(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-12
(45)【発行日】2025-03-21
(54)【発明の名称】歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20250313BHJP
【FI】
F16H1/32 A
(21)【出願番号】P 2021057411
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】岸本 幸夫
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0211904(US,A1)
【文献】特開昭63-246534(JP,A)
【文献】特表2021-503063(JP,A)
【文献】特開2017-89712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏心体を有するクランク軸と、
前記偏心体によって揺動する外歯歯車と、
前記外歯歯車と噛み合う内歯歯車と、を備える歯車装置であって、
前記外歯歯車は、複数の外歯を備え、
前記複数の外歯の全体は、Nを3以上の自然数としたとき、外周形状において、N角形状をなし、
前記外歯の外周形状は、N角形の隣り合う頂点を結んだ線に対して径方向外側に凸となる円弧状をな
し、
前記内歯歯車は、内周形状において、(N+1)角形の個々の辺に沿った線状をなす複数の内歯を備え
る歯車装置。
【請求項2】
前記複数の内歯は、周方向に分かれた複数の内歯部材で構成され、
前記内歯歯車は、前記複数の内歯部材が着脱可能に固定される歯車本体を備える請求項
1に記載の歯車装置。
【請求項3】
前記外歯は、前記内歯よりも硬い請求項
1または
2に記載の歯車装置。
【請求項4】
偏心体を有するクランク軸と、
前記偏心体によって揺動する外歯歯車と、
前記外歯歯車と噛み合う内歯歯車と、を備える歯車装置であって、
前記外歯歯車は、複数の外歯を備え、
前記複数の外歯の全体は、Nを3以上の自然数としたとき、外周形状において、N角形状をなし、
前記外歯の外周形状は、N角形の隣り合う頂点を結んだ線に対して径方向外側に凸となる円弧状をな
し、
前記外歯歯車は、共通の偏心位相を持って揺動する第1外歯歯車及び第2外歯歯車を含み、
前記第1外歯歯車及び前記第2外歯歯車の位相は、互いに360/(N×2)[°]ずれてい
る歯車装置。
【請求項5】
前記第1外歯歯車及び前記第2外歯歯車と前記偏心体との間に配置される規制部材を備え、
前記第1外歯歯車と前記第2外歯歯車は、前記規制部材によって相対回転を規制するように連結されている請求項
4に記載の歯車装置。
【請求項6】
偏心体を有するクランク軸と、
前記偏心体によって揺動する外歯歯車と、
前記外歯歯車と噛み合う内歯歯車と、を備える歯車装置であって、
前記外歯歯車は、複数の外歯を備え、
前記複数の外歯の全体は、Nを3以上の自然数としたとき、外周形状において、N角形状をなし、
前記外歯の外周形状は、N角形の隣り合う頂点を結んだ線に対して径方向外側に凸となる円弧状をな
し、
前記外歯の噛合い部の軸方向外側に配置されるフランジ体と、
前記フランジ体に挿通され、前記外歯歯車の自転成分と同期するピン部材と、を備え、
前記ピン部材は、軸方向から見て、前記噛合い部の径方向外側に配置され
る歯車装置。
【請求項7】
偏心体を有するクランク軸と、
前記偏心体によって揺動する外歯歯車と、
前記外歯歯車と噛み合う内歯歯車と、を備える歯車装置であって、
前記外歯歯車は、複数の外歯を備え、
前記複数の外歯の全体は、Nを3以上の自然数としたとき、外周形状において、N角形状をなし、
前記外歯の外周形状は、N角形の隣り合う頂点を結んだ線に対して径方向外側に凸となる円弧状をな
し、
少なくとも一つの前記外歯歯車を有する複数の外歯歯車ユニットと、
前記外歯歯車ユニットに挿通され、前記外歯歯車ユニットの自転成分と同期するピン部材と、
隣り合う前記外歯歯車ユニットの間に配置され、前記ピン部材を回転自在に支持する中間キャリヤと、を備え
る歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、歯車機構として遊星歯車機構を組み込んだ歯車装置を開示する。この種の歯車装置は、通常、高速軸と一体的に回転する太陽歯車と、太陽歯車と噛み合う複数の遊星歯車と、遊星歯車と噛み合う内歯歯車とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歯車機構として遊星歯車機構を用いる場合、内歯歯車の内側に太陽歯車と遊星歯車を配置する必要がある。このため、高速軸の軸方向に直交する断面において、歯車の個数が多くなり、大重量化を招くという問題点がある。
【0005】
本開示の目的の1つは、軽量化を図ることができる歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の歯車装置は、偏心体を有するクランク軸と、前記偏心体によって揺動する外歯歯車と、前記外歯歯車と噛み合う内歯歯車と、を備える歯車装置であって、前記外歯歯車は、複数の外歯を備え、前記複数の外歯の全体は、Nを3以上の自然数としたとき、外周形状において、N角形状をなし、前記外歯の外周形状は、N角形の隣り合う頂点を結んだ線に対して径方向外側に凸となる円弧状をなす。
【発明の効果】
【0007】
本開示の歯車装置によれば、軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】第1外歯歯車の動作軌跡を示す第1説明図である。
【
図4】第1外歯歯車の動作軌跡を示す第2説明図である。
【
図7】第1外歯歯車と第2外歯歯車の動作状態を示す第1説明図である。
【
図8】第1外歯歯車と第2外歯歯車の動作状態を示す第2説明図である。
【
図9】実施形態の第1外歯歯車セットを示す図である。
【
図11】
図1のD-D断面の一部を示す図である。
図1のD-D断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を説明する。同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、適宜、構成要素を省略、拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。
【0010】
図1を参照する。歯車装置10は、少なくとも一つの偏心体12A、12Bを有するクランク軸14と、偏心体12A、12Bによって揺動する外歯歯車16A~16Dと、外歯歯車16A~16Dと噛み合う内歯歯車18A~18Dと、を備える。歯車装置10は、外歯歯車16A~16D及び内歯歯車18A~18Dを経由する動力伝達経路を介してクランク軸14と接続される低速軸20と、外歯歯車16A~16Dを収容するケーシング22と、を備える。
【0011】
クランク軸14及び低速軸20の一方は、駆動源(不図示)から回転動力が入力される入力軸となり、それらの他方は、被駆動装置に回転動力を出力する出力軸となる。本実施形態ではクランク軸14が入力軸となり、低速軸20が出力軸となる。駆動源は、例えば、モータ、ギヤモータ、エンジン等である。入力軸が回転したとき、クランク軸14は相対的に高速で回転する高速軸となり、低速軸20は相対的に低速で回転する。以下、説明の便宜から、クランク軸14の軸方向Xの一方側(
図1の右側)を入力側といい、それとは反対側を反入力側という。
【0012】
偏心体12A、12Bは、クランク軸14の軸方向Xの途中位置に設けられる。偏心体12A、12Bの軸芯C1は、クランク軸14の回転中心線CL1から偏心量e1の分だけ偏心している。偏心体12A、12Bは、軸芯C1を中心とする円形状を呈する。
【0013】
本実施形態では、少なくとも一つの偏心体12A、12Bとして、入力側に配置される第1偏心体12Aと、反入力側に配置される第2偏心体12Bとを備える。複数の偏心体12A、12Bは、互いに異なる偏心位相を持つ。ここでの偏心位相とは、クランク軸14の回転中心線CL1から偏心体12A、12Bの軸芯C1に向かう偏心方向の回転中心線CL1周りの位相をいう。複数の偏心体12A、12Bの偏心位相は、偏心体12A、12Bの個数をM個(Mは2以上の自然数)としたとき、360°/Mの分だけずれている。本実施形態ではMが2となるため、第1偏心体12Aと第2偏心体12Bの偏心位相は180°(=360°/2)の分だけずれている。
【0014】
クランク軸14は、クランク軸14を軸方向Xに分割した形状を持つ複数の軸部材24A、24B、24Cによって構成される。複数の軸部材24A、24B、24Cは、個別の偏心体12A、12Bが設けられる分割軸部材24A、24Bと、隣り合う分割軸部材24A、24Bを連結する連結軸部材24Cと、を備える。分割軸部材24A、24Bは、第1偏心体12Aが設けられる第1分割軸部材24Aと、第2偏心体12Bが設けられる第2分割軸部材24Bとを含む。分割軸部材24A、24Bと連結軸部材24Cはスプライン嵌合等によって一体回転可能に接続される。
【0015】
クランク軸14は、クランク軸受26A、26Bによって回転可能に支持される。クランク軸受26A、26Bは、ケーシング22とクランク軸14との間に配置される第1クランク軸受26Aと、低速軸20とクランク軸14との間に配置される第2クランク軸受26Bとを含む。
【0016】
低速軸20は、低速軸受28によって回転可能に支持される。低速軸受28は、ケーシング22と低速軸20との間に配置される。
【0017】
歯車装置10は、少なくとも一つの外歯歯車16A~16Dを有する複数の外歯歯車ユニット30A、30Bを備える。複数の外歯歯車ユニット30A、30Bのそれぞれは、個別の偏心体12A、12Bによって揺動する。複数の外歯歯車ユニット30A、30Bは、第1偏心体12Aによって揺動する第1外歯歯車ユニット30Aと、第2偏心体12Bによって揺動する第2外歯歯車ユニット30Bとを含む。第1外歯歯車ユニット30Aは、入力側に配置される第1外歯歯車16Aと、反入力側に配置される第2外歯歯車16Bとを備える。第2外歯歯車ユニット30Bは、入力側に配置される第3外歯歯車16Cと、反入力側に配置される第4外歯歯車16Dとを備える。
【0018】
外歯歯車ユニット30A、30Bは、外歯歯車16A~16Dの他に、外歯歯車16B~16Dと一体化されるフランジ体32A~32Cを備える。フランジ体32A~32Cは、第1外歯歯車ユニット30Aの一部となり、第2外歯歯車16Bと一体化される第1フランジ体32Aを含む。この他に、フランジ体32A~32Cは、第3外歯歯車16Cと一体化される第2フランジ体32Bと、第4外歯歯車16Dと一体化される第3フランジ体32Cとを含む。第2フランジ体32B及び第3フランジ体32Cは、第2外歯歯車ユニット30Bの一部となる。本実施形態のフランジ体32A~32Cは、フランジ体32A~32Cと一体化する外歯歯車16B~16Dと同じ部材の一部として設けられるが、その外歯歯車16B~16Dとは別体に設けられてもよい。フランジ体32A~32Cは、フランジ体32A~32Cと一体化する外歯歯車16B~16Dの外歯40の噛合い部40aに対して軸方向外側に配置され、その噛合い部40aから径方向外側に突き出るように設けられる(
図11参照)。ここでの外歯40の噛合い部40aとは、内歯歯車18B~18Dの内歯48と噛合う箇所をいう。
【0019】
外歯歯車16A~16Dは、偏心軸受34によって偏心体12A、12Bに回転可能に支持される。偏心軸受34は、クランク軸14の偏心体12A、12Bと、偏心体12A、12Bに対応する外歯歯車ユニット30A、30Bの外歯歯車16A~16Dに形成される貫通孔36との間に配置される。偏心軸受34は、コロ軸受、玉軸受等の転がり軸受である。本実施形態では、一つの外歯歯車ユニット30A、30Bに属する複数の外歯歯車16A~16Dと偏心体12A、12Bとの間に共通する偏心軸受34が配置される。
【0020】
歯車装置10は、少なくとも一つの内歯歯車18A~18Dからなる複数の内歯歯車ユニット38A、38Bを備える。複数の内歯歯車ユニット38A、38Bは、複数の外歯歯車ユニット30A、30Bに個別に対応しており、その対応する外歯歯車ユニット30A、30Bの外歯歯車16A~16Dと噛み合う。複数の内歯歯車ユニット38A、38Bは、第1外歯歯車ユニット30Aと対応する第1内歯歯車ユニット38Aと、第2外歯歯車ユニット30Bと対応する第2内歯歯車ユニット38Bとを含む。第1内歯歯車ユニット38Aは、第1外歯歯車16Aと噛み合う第1内歯歯車18Aと、第2外歯歯車16Bと噛み合う第2内歯歯車18Bとを備える。第2内歯歯車ユニット38Bは、第3外歯歯車16Cと噛み合う第3内歯歯車18Cと、第4外歯歯車16Dと噛み合う第4内歯歯車18Dとを備える。内歯歯車18A~18Dは、ケーシング22と一体化される。
【0021】
外歯歯車16A~16D及び内歯歯車18A~18Dの一方は自転する自転歯車となり、他方は自転が拘束された拘束歯車となる。本実施形態では外歯歯車16A~16Dが自転歯車となり、内歯歯車18A~18Dが拘束歯車となる。この場合、歯車装置10により駆動される被駆動装置とは別体の外部部材にケーシング22を固定することで、内歯歯車18A~18Dを自転が拘束された拘束歯車として機能させる。また、自転歯車となる外歯歯車16A~16Dは、後述するキャリヤ74A、74Bとピン部材76A、76Bによって、自転歯車の自転成分と低速軸20とを同期させるよう連結される。
【0022】
図2を参照する。以下の断面図では、偏心軸受34を模式的に示し、内歯歯車18A~18Dは外観形状を主に示す。また、ここでは、第1外歯歯車16A、第1内歯歯車18Aを図示のうえ、他の外歯歯車16B~16D、内歯歯車18B~18Dに共通する内容を説明する。
【0023】
外歯歯車16A~16Dは、複数の外歯40を備える。複数の外歯40の全体は、Nを3以上の有限の自然数としたとき、外周形状において、N角形状をなす。本明細書での「状」とは、言及している形状に幾何学的に厳密に一致する形状のみではなく、言及している形状に似た形状も含む。本実施形態でのNは3であり、複数の外歯40の全体は、外周形状において、ルーローのN角形状(詳しくはルーローの三角形状)、つまり、奇数角形状をなす。この条件は、クランク軸14の軸方向Xに直交する断面において満たされる。
【0024】
複数の外歯40のなすN角形は、N個の頂点42を備える。N個の頂点42は、N角形の中心C2からの距離が等しく、かつ、360°/N(本実施形態では120°)の分だけ中心角をずらした位置に設けられる。外歯40は、複数の外歯40のなすN角形の個々の辺によって構成され、その外歯数はN個(本実施形態では3個)となる。なお、N角形の中心C2は、外歯歯車16A~16Dの軸芯C2となる。
【0025】
複数の外歯40それぞれの外周形状は、N角形の隣り合う頂点42を結んだ線L1に対して径方向外側に凸となる円弧状をなす。この条件を満たすうえで、外歯40の外周形状は、単数の曲線の他に、互いに曲率の異なる複数の曲線を組み合わせてもよいし、曲線と直線を組み合わせてもよい。
【0026】
内歯歯車18A~18Dは、内周形状において、(N+1)角形44の個々の辺46に沿った線状をなす複数の内歯48を備える。内歯歯車18A~18Dの内歯数は、(N+1)角形44の辺の数と同数となり、N+1個(本実施形態では4個)となる。ここでの(N+1)角形44は、(N+1)個の辺46の他に、(N+1)個の頂点50を備える。(N+1)個の頂点50は、(N+1)角形44の中心C3からの距離が等しく、かつ、360°/(N+1)(本実施形態では90°)の分だけ中心角をずらした位置に設けられる。本実施形態でのNは3であることから、(N+1)角形44は四角形、つまり、偶数角形状となる。(N+1)角形44の辺46は全体として直線状であればよく、単数の直線により表される形状の他に、直線と曲線を組み合わせた形状でもよい。この条件は、クランク軸14の軸方向Xに直交する断面において満たされる。なお、(N+1)角形の中心C3は、内歯歯車18A~18Dの軸芯C3となる。
【0027】
内歯48の内周形状は、(N+1)角形44の辺46に対して少なくとも部分的に重なっている。内歯48の内周形状が辺46に対して重なる重なり範囲は、本実施形態では、(N+1)角形44の頂点部を除く範囲となっている。この重なり範囲は、例えば、(N+1)角形44の辺46の長さの3/4以上の範囲となる。この他にも、内歯48の内周形状は、(N+1)角形44の辺46に対して全長さの範囲で重なっていてもよい。内歯48の内周形状は、(N+1)角形44の辺46と同様に全体として直線状をなすことになる。
【0028】
以上の歯車装置10の動作を説明する。ここでは、自転歯車が外歯歯車16A~16D、拘束歯車が内歯歯車18A~18D、クランク軸14が入力軸、低速軸20が出力軸となる場合の動作を説明する。
図3、
図4を参照する。
図3、
図4は、クランク軸14が半周分回転したときの第1外歯歯車16Aの動作軌跡を示し、
図3は、その前半分の動作軌跡を示し、
図4は、その後半分の動作軌跡を示す。
【0029】
駆動装置から入力軸(クランク軸14)に回転動力が伝達されると、入力軸の回転方向Daの回転に追従して、偏心体12A、12Bによって、偏心体12A、12Bに対する相対回転を伴い外歯歯車16A~16Dが揺動する。ここでの揺動とは、クランク軸14の回転中心線CL1に対して偏心した状態で外歯歯車16A~16Dの軸芯C2が回転中心線CL1周りの回転方向Daに回転する動きをいう。
【0030】
偏心体12A、12Bに対する相対回転を伴い外歯歯車16A~16Dが揺動する過程で、外歯歯車16A~16Dは、内歯歯車18A~18Dに対する噛合位置をクランク軸14の周方向(方向Db)に変えるように動く。この過程で、外歯歯車16A~16Dは、内歯歯車18A~18Dに対して転がるように動くともいえる。このとき、
図5に示すように、外歯歯車16A~16Dと内歯歯車18A~18Dとが互いに噛み合うことで、自転歯車(外歯歯車16A~16D)に回転力Faが作用する。この回転力Faは、外歯歯車16A~16Dが自転歯車となる場合、入力軸の回転方向Daとは逆向きに作用する。この結果、外歯歯車16A~16Dが揺動すると、その動きに追従して、自転歯車に作用する回転力Faによって、自転歯車(外歯歯車16A~16D)が自転する。自転歯車が自転すると、自転歯車の自転成分が出力軸(低速軸20)に伝達されることで、出力軸(低速軸20)が回転する。
【0031】
以上のように、入力軸が回転したとき、外歯歯車16A~16Dの揺動を伴い、外歯歯車16A~16Dと内歯歯車18A~18Dの噛合位置を変えることで、出力軸が回転する。ここで、入力軸に対する出力軸の回転速度の比である変速比は、自転歯車の歯数となる。本実施形態では、自転歯車となる外歯歯車16A~16Dの歯数が3であり、低速軸20が出力軸となるため、変速比としての減速比は3となる。内歯歯車18A~18Dが自転歯車となる場合、変速比としての減速比は4となる。
【0032】
以上の歯車装置10の効果を説明する。
【0033】
歯車機構としてN角形状をなす外歯歯車16A~16Dを用いる場合、内歯歯車18A~18Dの内側に外歯歯車16A~16Dを配置するだけで済む。よって、遊星歯車機構を用いる場合と比べ、クランク軸14の軸方向に直交する断面において、歯車の個数を削減でき、その分、歯車装置10の軽量化を図ることができる。
【0034】
外歯歯車16A~16Dの外歯40の外周形状は、N角形の隣り合う頂点42を結んだ線L1に対して径方向外側に凸となる円弧状をなす。よって、外歯40の外周形状は、全体として大きく凹となる箇所のない形状、つまり、インボリュート歯形でいう歯元のない形状となり、歯元強度の考慮を不要にできる。
【0035】
内歯歯車18A~18Dの内歯48は、(N+1)角形44の辺46に沿った線状をなす。インボリュート歯形同士が噛み合う場合は、比較的に大きい曲率を持つ曲線状の外歯及び内歯が互いに噛み合うことになり、それらの噛み合い箇所での曲率が大きくなる。これに対して、本実施形態によれば、円弧状(曲線状)の外歯40と直線に近い線状の内歯48とが噛み合うことになり、それらの噛み合い箇所の曲率が大幅に小さくなる。ひいては、外歯40と内歯48の接触応力(ヘルツ応力)を小さくでき、大トルクの伝達に有利となる。
【0036】
次に、歯車装置10の他の特徴を説明する。
【0037】
図2、
図6を参照する。第1外歯歯車ユニット30Aの第1外歯歯車16A、第2外歯歯車16Bは、共通の偏心位相を持って揺動する。第1外歯歯車16A、第2外歯歯車16Bの軸芯C2は、同じ偏心量、かつ、同じ偏心方向に偏心した状態で、クランク軸14の回転中心線CL1周りの同じ向きに回転するように動くということである。この条件を満たすうえで、本実施形態の第1外歯歯車16A、第2外歯歯車16Bは、共通の第1偏心体12Aによって揺動する。この他にも、この条件を満たすうえで、互いに別体かつ共通の偏心位相を持つ複数の偏心体によって第1外歯歯車16A、第2外歯歯車16Bを揺動してもよい。第1外歯歯車16Aと第2外歯歯車16Bは、相対回転を規制するように、連結部材としての規制部材56(後述する)によって連結されている。
【0038】
第1外歯歯車ユニット30Aの第1外歯歯車16A、第2外歯歯車16Bの位相は、互いに360/(N×2)[°]ずれている。ここでの外歯歯車16A~16Dの位相とは、外歯歯車16A~16Dの軸芯C2周りの位相をいう。本実施形態では、N=3であるため、第1外歯歯車16A、第2外歯歯車16Bの位相は60°ずれている。
【0039】
第1内歯歯車ユニット38Aの第1内歯歯車18A、第2内歯歯車18Bの位相は、互いに360/{(N+1)×2}[°]ずれている。ここでの内歯歯車18A~18Dの位相とは、内歯歯車18A~18Dの軸芯C3周りの位相をいう。本実施形態では、N=3であるため、第1内歯歯車18A、第2内歯歯車18Bの位相は45°ずれている。
【0040】
以上の利点を説明する。
図7、
図8を参照する。
図8は、
図7の状態から第1偏心体の偏心位相が45°ずれた状態を示す。外歯歯車16A、16Bの外歯40は、N角形の頂点42に近い箇所で内歯歯車18A、18Bと噛み合うことができる。この一方で、外歯歯車16A、16Bの外歯40は、隣り合う頂点42の中央にある中点52に近い箇所では内歯歯車18A、18Bと噛み合うことができない。
【0041】
ここで、前述の条件を満たすことで、
図7に示すように、第1外歯歯車16Aの中点52に近い箇所P1で第1内歯歯車18Aと噛み合うことができないときでも、第2外歯歯車16Bの頂点42に近い箇所P2で第2内歯歯車18Bと噛み合うことができる。また、
図8に示すように、第2外歯歯車16Bの中点52に近い箇所P3で第2内歯歯車18Bと噛み合うことができないときも同様、第1外歯歯車16Aの頂点42に近い箇所P4で第1内歯歯車18Aと噛み合うことができる。つまり、第1外歯歯車16Aと第2外歯歯車16Bとを交互に第1内歯歯車ユニット38Aの内歯歯車18A、18Bと噛み合わせることができる。これにより、入力軸の回転位相によらず、第1外歯歯車ユニット30A全体として第1内歯歯車ユニット38Aの内歯歯車18A、18Bと噛み合う状態を維持することができる。ひいては、外歯歯車ユニット30A、30Bと内歯歯車ユニット38A、38Bとの間でトルクを安定して継続的に伝達することができる。
【0042】
ここで第1外歯歯車ユニット30Aに関して説明した前述の位相関係は、第2外歯歯車ユニット30Bの第3外歯歯車16C、第4外歯歯車16Dでも同様に満たされる。また、第1内歯歯車ユニット38Aに関して説明した前述の位相関係は、第2内歯歯車ユニット38Bの第3内歯歯車18C、第4内歯歯車18Dでも同様に満たされる。よって、前述したトルクを安定して継続的に伝達するという効果は、第2外歯歯車ユニット30Bと第2内歯歯車ユニット38Bとの間でも得ることができる。
【0043】
図1、
図9を参照する。2つの外歯歯車ユニット30A、30Bは、互いに異なる外歯歯車ユニット30A、30Bに属する2つの外歯歯車16A~16Dからなる2つの歯車セット54A、54Bを備える。2つの歯車セット54A、54Bは、第1歯車セット54Aと、第2歯車セット54Bとを含む。第1歯車セット54Aは、第1外歯歯車ユニット30Aに属する第1外歯歯車16Aと、第2外歯歯車ユニット30Bに属する第4外歯歯車16Dとからなる。第2歯車セット54Bは、第1外歯歯車ユニット30Aに属する第2外歯歯車16Bと、第2外歯歯車ユニット30Bに属する第3外歯歯車16Cとからなる。
【0044】
第1歯車セット54Aの2つの外歯歯車16A、16Dは、2つの偏心体12A、12Bの偏心位相差と同じ大きさの位相差、つまり、互いに180°(=360/2)の位相差を持つ。第1歯車セット54Aの2つの外歯歯車16A、16Dと噛み合う2つの内歯歯車18A、18Dも同様に180°の位相差を持つ。ここでの位相とは、内歯歯車18A、18Dの軸芯C3周りの位相をいう。なお、
図9では、2つの内歯歯車18A、18Dは回転対称(4回対称)の位置にあるため、180°の位相差は見かけ上に現れない。ここで第1歯車セット54Aに関して説明した位相関係は、図示しないものの、第2歯車セット54Bに関しても同様に満たされる。
【0045】
これにより、歯車セット54A、54Bの個々の外歯歯車16A~16Dを個別の内歯歯車18A~18Dに同時にかみ合わせることができる。よって、個々の歯車16A~16D、18A~18Dの負担を軽減させることで伝達容量の増大を図ることができる。また、個別の偏心体12A、12Bの軸芯C1に作用する荷重と偏心体12A、12Bの偏心とに起因するクランク軸14の径方向のモーメントを相殺でき、クランク軸14の回転バランスを良好にできる。
【0046】
図1、
図2、
図6を参照する。歯車装置10は、第1外歯歯車ユニット30Aの複数の外歯歯車16A、16Bと第1偏心体12Aとの間に配置される規制部材56を備える。本実施形態の規制部材56はリング部材である。本実施形態の規制部材56は、偏心軸受34とは別体に設けられる。規制部材56の内側には、偏心軸受34の外輪34aが締まり嵌めにより取り付けられる。
【0047】
規制部材56は、規制部材56の外周部に設けられる外周嵌合部58を備える。複数の外歯歯車16A、16Bは、規制部材56の外周嵌合部58が嵌め合わされる内周嵌合部60を備える。内周嵌合部60は、外歯歯車16A、16Bの貫通孔36の内周部に設けられる。外周嵌合部58と内周嵌合部60は、互いに周方向に当たることで回転力を伝達可能に嵌め合う形状である。この条件を満たす形状として、本実施形態では雄スプラインと雌スプラインの組み合わせが用いられる。この他にも、例えば、キーとキー溝の組み合わせが用いられてもよい。複数の外歯歯車16A、16Bは、共通の規制部材56によって、相対回転を規制するように連結されている。
【0048】
このように、第1偏心体12Aと外歯歯車16A、16Bとの間のスペースに配置される規制部材56を利用して複数の外歯歯車16A、16Bを連結できる。よって、複数の外歯歯車16A、16Bを連結する連結部材(例えば、ピン)を設けるために外歯歯車16A、16Bの他の箇所にスペースを確保せずに済む。ひいては、外歯歯車16A、16Bの外径寸法の小型化を図ることができる。
【0049】
なお、ここで規制部材56に関して説明した構成は、第2外歯歯車ユニット30Bと第2偏心体12Bでも同様に満たされる。第2外歯歯車ユニット30Bの複数の外歯歯車16C、16Dと第2偏心体12Bとの間にも同様の規制部材56が配置されるということである。
【0050】
図2を参照する。ここでは、複数の内歯歯車18A~18Dに共通する構成に関して、第1内歯歯車18Aを参照して説明する。内歯歯車18A~18Dは、内歯48が設けられる内歯部材62と、内歯部材62と一体化される歯車本体64と、を備える。本実施形態の内歯部材62は、複数の内歯48のそれぞれが個別に設けられる複数の内歯部材62を含む。複数の内歯48は、周方向に分かれた複数の内歯部材62で構成されることになる。内歯部材62は、全体として、(N+1)角形44の辺46に沿った方向に延びる板状をなす。
【0051】
歯車本体64は、ケーシング22と一体化される。本実施形態の歯車本体64は、ケーシング22とは別体であり、ケーシング22の内側に配置される。歯車本体64は、ケーシング22に着脱可能に固定される。これを実現するうえで、本実施形態では、上下で対となる一対のケーシング部材68によってケーシング22を構成し、複数のケーシング部材68をボルトによって着脱可能に連結している。複数のケーシング部材68を分解することで、ケーシング22から歯車本体64を脱離可能となる。
【0052】
歯車本体64は、固定具70を収容する収容穴72を備える。収容穴72は、歯車本体64において内歯部材62とは径方向反対側に開口している。固定具70は、例えば、ボルトであり、内歯部材62にねじ込まれることで、内歯部材62を歯車本体64に着脱可能に固定する。これにより、内歯部材62は、歯車本体64に着脱可能に固定されることになる。以上の構成により、他の内歯部材62は残したまま、交換を要する内歯部材62だけ交換できるようになる。
【0053】
以上の外歯歯車16A~16Dの外歯40は、内歯48よりも硬い。外歯40の表面硬さは内歯48の表面硬さよりも硬いということである。ここでの表面硬さとは、例えば、JIS Z2244に準拠した方法により測定されるビッカース硬さのことをいう。この条件は、少なくとも一つの外歯40と、少なくとも一つの内歯48との間で満たされていればよい。本実施形態では、一の外歯歯車16Aの全ての外歯40は、一の内歯歯車18Aの全ての内歯48よりも硬い。
【0054】
これにより、外歯歯車16A~16Dと内歯歯車18A~18Dとの噛み合いに起因して疲労が生じたとしても、その発生箇所を外歯40よりも硬さの低い内歯48にとどめることができる。ひいては、噛み合いに起因する疲労が生じたとしても、外歯歯車16A~16Dと比べて簡易な構成の内歯48の設けられる内歯部材62を交換するだけで交換作業を済ませることができる。
【0055】
図1を参照する。歯車装置10は、外歯歯車ユニット30A、30Bの軸方向側方に配置されるキャリヤ74A、74Bと、外歯歯車ユニット30A、30Bに挿通されるピン部材76A、76Bとを備える。
【0056】
キャリヤ74A、74Bは、隣り合う外歯歯車ユニット30A、30Bの間に配置される中間キャリヤ74Aと、複数の外歯歯車ユニット30A、30Bに対して軸方向外側に配置される端側キャリヤ74Bと、を含む。端側キャリヤ74Bは、低速軸20と一体化している。本実施形態の端側キャリヤ74Bは、低速軸20と同じ部材の一部として一体に設けられるが、低速軸20とは別体に設けられてもよい。端側キャリヤ74Bは、低速軸20から径方向外側に突き出るように設けられる。端側キャリヤ74Bとケーシング22との間には軸受78が配置される。
【0057】
ピン部材76A、76Bは、側方部材80A、80Bに対して、外歯歯車ユニット30A、30Bの自転成分と同期可能に外歯歯車ユニット30A、30Bを連結する。この側方部材80A、80Bとは、外歯歯車ユニット30A、30Bに対して軸方向側方に配置される部材をいい、本実施形態ではキャリヤ74A、74Bとなる。ここでの「自転成分と同期可能に連結」とは、ゼロを含めた数字範囲内で、言及している二つの対象の自転成分を同じ大きさに維持することをいう。ピン部材76A、76Bは、外歯歯車16A~16Dが自転歯車になる場合、ゼロ超の数字範囲内で外歯歯車ユニット30A、30Bと側方部材80A、80Bの自転成分を同じ大きさに維持する。ピン部材76A、76Bは、自転しない拘束歯車に外歯歯車16A~16Dがなる場合、外歯歯車ユニット30A、30Bと側方部材80A、80Bの自転成分をゼロに維持する。この場合、外歯歯車ユニット30A、30Bの自転成分を側方部材80A、80Bとピン部材76A、76Bによって拘束することで、外歯歯車16A~16Dを拘束歯車として機能させることになる。
【0058】
本実施形態のピン部材76A、76Bは、第1側方部材80Aとしての中間キャリヤ74Aに第1外歯歯車ユニット30Aを連結する中間ピン部材76Aと、第2側方部材80Bとしての端側キャリヤ74Bに第2外歯歯車ユニット30Bを連結する端側ピン部材76Bとを含む。本実施形態の中間ピン部材76Aは、中間キャリヤ74Aの他に、第2外歯歯車ユニット30Bも、第1外歯歯車ユニット30Aの自転成分と同期可能に連結している。端側ピン部材76Bは、端側キャリヤ74Bを、第2外歯歯車ユニット30Bの自転成分と同期可能に連結している。この結果、すべての外歯歯車ユニット30A、30Bの自転成分と各キャリヤ74A、74Bの自転成分が同期するよう、中間ピン部材76A及び端側ピン部材76Bによって連結されることになる。
【0059】
図1、
図10を参照する。中間ピン部材76Aは、内歯歯車18A~18Dの軸芯C3周りに間隔を空けて設けられる。中間ピン部材76Aは、中間キャリヤ74Aに挿通される中間キャリヤピン部82と、外歯歯車ユニット30A、30Bに挿通される歯車ピン部84A、84Bと、を備える。歯車ピン部84A、84Bは、第1外歯歯車ユニット30Aに挿通される第1歯車ピン部84Aと、第2外歯歯車ユニット30Bに挿通される第2歯車ピン部84Bと、を含む。
【0060】
中間キャリヤ74Aは、中間キャリヤピン部82が相対回転自在に挿通される中間キャリヤピン孔86を備える。中間キャリヤピン孔86と中間キャリヤピン部82との間には軸受88が配置される。中間キャリヤピン部82は、軸受88を介して、中間キャリヤ74Aによって回転自在に支持されている。
【0061】
外歯歯車ユニット30A、30Bは、中間ピン部材76Aの歯車ピン部84A、84Bが相対回転自在に挿通される歯車ピン孔90を備える。本実施形態において、歯車ピン孔90は、第1外歯歯車ユニット30Aの第1フランジ体32A及び第2外歯歯車ユニット30Bの第2フランジ体32Bに形成される。中間ピン部材76Aは、第1フランジ体32A及び第2フランジ体32Bに挿通されることになる。歯車ピン孔90と歯車ピン部84A、84Bとの間には軸受92が配置される。歯車ピン孔90は、フランジ体32A~32Cに代えて、外歯歯車ユニット30A、30Bの外歯歯車16A、16Bに形成されてもよい。
【0062】
第1歯車ピン部84Aの軸芯C4は、中間キャリヤピン部82の軸芯C5から偏心量e2の分だけ偏心している。この偏心方向及び偏心量e2は、第1外歯歯車ユニット30Aを揺動させる第1偏心体12Aの偏心方向及び偏心量e1と同じ大きさとなる。この条件は全ての中間ピン部材76Aにおいて満たされる。
【0063】
第2歯車ピン部84Bの軸芯C6は、中間キャリヤピン部82の軸芯C5から偏心量e2の分だけ偏心している。この偏心方向及び偏心量e2は、第2外歯歯車ユニット30Bを揺動させる第2偏心体12Bの偏心方向及び偏心量e2と同じ大きさとなる。この条件は全ての中間ピン部材76Aにおいて満たされる。
【0064】
これにより、中間キャリヤピン部82の軸芯C5周りに歯車ピン部84A、84Bの軸芯C4、C6が回転するように中間ピン部材76Aを揺動させることができる。ひいては、中間キャリヤ74Aによって中間ピン部材76Aを支持した状態のまま、外歯歯車ユニット30A、30Bの揺動に追従して、前述のように中間ピン部材76Aも揺動させることができる。
【0065】
このように、歯車装置10は、中間ピン部材76Aを回転自在に支持する中間キャリヤ74Aを備える。これによれば、第1外歯歯車ユニット30Aの第1偏心体12Aによる揺動を許容しつつ、中間キャリヤ74Aによって中間ピン部材76Aを支持できるようになる。また、偏心位相の異なる第1外歯歯車ユニット30Aと第2外歯歯車ユニット30Bを中間ピン部材76Aによって連結しつつ、各外歯歯車ユニット30A、30Bの偏心体12A、12Bによる揺動を許容できる利点もある。
【0066】
図1を参照する。端側ピン部材76Bは、内歯歯車18A~18Dの軸芯C3周りに間隔を空けて設けられる。端側ピン部材76Bは、端側キャリヤ74Bに挿通される端側キャリヤピン部96と、第2外歯歯車ユニット30Bに挿通される第3歯車ピン部98とを備える。本実施形態において、歯車ピン部98は、第2外歯歯車ユニット30Bの第3フランジ体32Cに挿通される。
【0067】
第3歯車ピン部98の軸芯C7は、端側キャリヤピン部96の軸芯C8から偏心量e2の分だけ偏心している。この偏心方向及び偏心量e2は、第2外歯歯車ユニット30Bを揺動させる第2偏心体12Bの偏心方向及び偏心量e1と同じ大きさとなる。この条件は全ての端側ピン部材76Bにおいて満たされる。これにより、端側キャリヤピン部96の軸芯C8周りに第3歯車ピン部98の軸芯C7が回転するように端側ピン部材76Bを揺動させることができる。ひいては、端側ピン部材76Bによって第2外歯歯車ユニット30Bを支持した状態のまま、第2外歯歯車ユニット30Bの揺動に追従して、端側ピン部材76Bも揺動させることができる。
【0068】
図11を参照する。ピン部材76Aは、クランク軸14の軸方向Xから見て、ピン部材76Aが挿通されるフランジ体32Aと一体化し、かつ、そのフランジ体32Aと隣り合う外歯歯車16Bの噛合い部40aの径方向外側に配置される。この位置条件は、フランジ体32Aに挿通される複数のピン部材76Aのうちの少なくとも一つが満たしていればよい。また、この位置条件は、ピン部材76Aにおいてフランジ体32Aに挿通されている箇所(本実施形態では歯車ピン部84A)が満たしていればよい。この位置条件を満たすうえで、ピン部材76Aの一部が外歯歯車16Bの径方向外側に配置されていればよく、その全体が外歯歯車16Bの径方向外側に配置されることは必須ではない。以上の位置条件は、本実施形態では、計8個のピン部材76Aのうち7個のピン部材76Aが満たしている。このうち、3個のピン部材76A、76Bは、そのフランジ体32Aに挿通されている箇所(歯車ピン部84A)全体が外歯歯車16Bの噛合い部40aの径方向外側に配置される。
【0069】
これにより、外歯歯車16Bの自転成分と同期するピン部材76Aを用いるうえで、外歯歯車16Bそのものにピン部材76Aを挿通させる場合と比べ、外歯歯車16Bの外径寸法を小型化できる。
【0070】
ここで説明した位置条件は、中間ピン部材76A、第2フランジ体32B、第3外歯歯車16Cでも同様に成立している。また、この位置条件は、端側ピン部材76B、第3フランジ体32C、第4外歯歯車16Dでも同様に成立している。これらに関しても、外歯歯車16C、16Dそのものにピン部材76A、76Bを挿通させる場合と比べ、外歯歯車16C、16Dの外径寸法を小型化できるということである。
【0071】
各構成要素の他の変形形態を説明する。
【0072】
ここまで、自転歯車が外歯歯車16A~16D、拘束歯車が内歯歯車18A~18Dとなる場合の動作を説明した。この他にも、自転歯車が内歯歯車18A~18D、拘束歯車が外歯歯車16A~16Dとなってもよい。この場合、外部部材に固定された側方部材80A、80Bにピン部材76A、76Bを挿通することで、外歯歯車16A~16Dの自転を拘束すればよい。この場合、入力軸が回転すると、外歯歯車16A~16D(拘束歯車)は、自転が拘束された状態で揺動する。また、この場合、自転歯車となる内歯歯車18A~18Dの自転成分と低速軸20とを同期させるよう連結する連結手段として、例えば、ケーシング22を用いてもよい。
【0073】
ここまで、クランク軸14が入力軸、低速軸20が出力軸となる減速装置として歯車装置10を用いる場合を説明した。この他にも、低速軸20が入力軸、クランク軸14が出力軸となる増速装置として歯車装置10を用いてもよい。この場合、増速装置としての歯車装置10は、例えば、風力発電機等として用いてもよい。
【0074】
クランク軸14は、内歯歯車18A~18Dの軸芯C3上に設けられる例を説明した。この他にも、クランク軸14は、内歯歯車18A~18Dの軸芯C3からオフセットした位置において径方向に間隔を空けて設けられてもよい。
【0075】
ここまで、外歯歯車16A~16Dの外周形状は奇数角形状をなし、内歯歯車18A~18Dの内周形状は偶数角形状をなす例を説明した。これに限定されず、外歯歯車16A~16Dの外周形状は偶数角形状をなし、内歯歯車18A~18Dの内周形状は奇数角形状をなしてもよい。いずれにしても、外歯歯車16A~16Dの外周形状はN角形状をなし、内歯歯車18A~18Dの内周形状は(N+1)角形状をなしていてもよい。また、Nは3以上であればよく、その数は特に限定されず、4以上の数でもよい。
【0076】
外歯歯車ユニット30A、30Bの外歯歯車16A~16Dの個数は特に限定されない。例えば、外歯歯車ユニット30A、30Bの外歯歯車16A~16Dの数は単数でもよいし、三つ以上でもよい。また、歯車装置10に用いられる外歯歯車16A~16Dの個数は特に限定されない。外歯歯車16A~16Dは、例えば、1つでもよいし、5つ以上でもよい。
【0077】
歯車セット54A、54Bに属する二つの外歯歯車16A~16Dの位相関係は特に限定されない。例えば、二つの外歯歯車16A~16Dは任意の位相ずれていてもよい。
【0078】
内歯歯車18A~18Dの複数の内歯48は、(N+1)角形44の辺46に沿った線状をなしていなくともよい。複数の内歯48は、例えば、インボリュート歯形、トロコイド歯形等をなしていてもよい。
【0079】
複数の内歯48を周方向に分かれた複数の内歯部材62で構成するうえで、個々の内歯部材62に設けられる内歯48の個数は特に限定されない。例えば、実施形態のように一つの内歯部材62に一つの内歯48を設ける場合の他に、一つの内歯部材62に複数の内歯48を設けてもよい。
【0080】
歯車本体64に対して内歯部材62を着脱可能に固定するための手段は特に限定されない。内歯部材62は、例えば、圧入等によって、歯車本体64に対して着脱可能に固定されてもよい。内歯歯車18A~18Dの複数の内歯48は単数の内歯部材62によって構成されてもよい。
【0081】
内歯部材62とケーシング22との間には内歯48の位置を調整するためのシムを配置してもよい。シムは、シムの厚みを調整することで、外歯歯車16A~16Dと内歯歯車18A~18Dとの間のバックラッシを調整するために用いられる。
【0082】
内歯歯車18A~18Dの歯車本体64は、ケーシング22とは別体である例を説明したが、ケーシング22が兼ねていてもよい。この他にも、歯車本体64は、複数の内歯48のそれぞれに対応して個別に設けられてもよい。
【0083】
外歯40と内歯48の硬さ関係は特に限定されない。外歯40は、内歯48と同じ硬さでもよいし、内歯48よりも柔らかくともよい。
【0084】
規制部材56は、複数の外歯歯車16A~16Dの相対回転を規制するよう連結できればよく、その具体例はリング部材に限定されない。規制部材56は、この他にも、複数の外歯歯車16A~16Dを貫通するピン部材でもよい。規制部材56は、偏心軸受34とは別体に構成される例を説明したが、偏心軸受34の外輪34aによって構成されてもよい。
【0085】
ピン部材76A、76Bは、外歯歯車ユニット30A、30Bの自転成分と側方部材80A、80Bを同期させるうえで外歯歯車16A~16Dと側方部材80A、80Bを直接に連結してもよい。ピン部材76A、76Bによって外歯歯車ユニット30A、30Bと連結される側方部材80A、80Bは、キャリヤ74A、74Bに限定されない。側方部材80A、80Bは、例えば、ケーシング22等でもよい。
【0086】
歯車装置10は中間キャリヤ74Aを備えなくともよい。
【0087】
以上の実施形態及び変形形態は例示である。これらを抽象化した技術的思想は、実施形態及び変形形態の内容に限定的に解釈されるべきではない。実施形態及び変形形態の内容は、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態」との表記を付して強調している。しかしながら、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。実施形態及び変形形態において言及している構造には、製造誤差等を考慮すると同一とみなすことができる誤差の分だけずれた構造も当然に含まれる。
【符号の説明】
【0088】
10…歯車装置、12A、12B…偏心体、14…クランク軸、16A~16D…外歯歯車、16A…第1外歯歯車、16B…第2外歯歯車、18A~18D…内歯歯車、30A、30B…外歯歯車ユニット、32A~32C…フランジ体、40…外歯、42…頂点、44…(N+1)角形、46…辺、48…内歯、50…頂点、56…規制部材、62…内歯部材、64…歯車本体、74A…中間キャリヤ、76A、76B…ピン部材。