(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-12
(45)【発行日】2025-03-21
(54)【発明の名称】抗菌・抗ウイルス剤組成物、物品、及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01N 33/12 20060101AFI20250313BHJP
D06M 13/46 20060101ALI20250313BHJP
D06M 15/39 20060101ALI20250313BHJP
A01N 55/10 20060101ALI20250313BHJP
A01N 25/24 20060101ALI20250313BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20250313BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20250313BHJP
【FI】
A01N33/12 101
D06M13/46
D06M15/39
A01N55/10 100
A01N25/24
A01P1/00
A01P3/00
(21)【出願番号】P 2021060775
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2024-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】坂下 真一
(72)【発明者】
【氏名】上田 香奈
(72)【発明者】
【氏名】堀口 泰士郎
(72)【発明者】
【氏名】梅村 深雪
(72)【発明者】
【氏名】柘植 好揮
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-071007(JP,A)
【文献】特開2019-210563(JP,A)
【文献】特開2014-076985(JP,A)
【文献】特開2007-186815(JP,A)
【文献】特表2020-515374(JP,A)
【文献】特開2012-092490(JP,A)
【文献】特開2000-129575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 33/
D06M 13/
D06M 15/
A01N 55/
A01N 25/
A01P 1/
A01P 3/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌・抗ウイルス剤組成物であって、
グリオキザール樹脂と抗菌・抗ウイルス剤とを含有し、
前記グリオキザール樹脂は、下記一般式(1)で表される構造を有し、
前記抗菌・抗ウイルス剤
は、化合物A1と化合物A2との混合物を含み、
前記化合物A1は、下記一般式(2-2)において、R
11
が炭素数12のアルキル基であり、R
12
がメチル基及びヒドロキシエチル基であり、jが1であり、kが3(3つのR
12
のうち2つがメチル基、1つがヒドロキシエチル基)であり、lが1であり、Z
2
がジブチルリン酸である化合物であり、
前記化合物A2は、下記一般式(2-2)において、R
11
が炭素数12のアルキル基であり、R
12
がメチル基及びヒドロキシエチル基であり、jが1であり、kが3(3つのR
12
のうち2つがメチル基、1つがヒドロキシエチル基)であり、lが2であり、Z
2
がブチルリン酸である化合物である、
抗菌・抗ウイルス剤組成物。
【化1】
式(1)において、
R
1
は水素、メトキシ基又はヒドロキシ基であり、
R
2
は水素、メトキシ基又はヒドロキシ基であり、
R
3
は水素又はメチル基であり、
nは0~5である。
【化2】
【請求項2】
請求項
1に記載の抗菌・抗ウイルス剤組成物が付着している、
物品。
【請求項3】
抗菌・抗ウイルス性を付与する対象物に、請求項
1に記載の抗菌・抗ウイルス剤組成物を付着させて、抗菌・抗ウイルス性を有する物品を得ること、
を含む、物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は抗菌・抗ウイルス剤組成物、物品、及び物品の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2には、第4級アンモニウムカチオン基を有する抗菌防臭剤を繊維に付与した後、高温でキュアリングを行う方法が開示されている。特許文献3には、合成繊維に対して、第4級アンモニウム塩とメラミン樹脂とを含む処理剤を付与して抗菌防臭性繊維を製造する方法が開示されている。特許文献4には、硫酸塩界面活性剤の存在下において第4級アンモニウム塩によって合成繊維を処理することで、合成繊維に抗菌性を付与する方法が開示されている。特許文献5には、メトキシシラン系第4級アンモニウム塩を含む抗ウイルス剤と、アクリル酸/アクリル酸エステル共重合ポリマーと、低級アルコールと、水とを含む組成物によって布帛を処理することで、抗菌・抗ウイルス性布帛を製造する方法が開示されている。特許文献6には、少なくとも表面にカルボキシル基を有する樹脂成分を含む物品に対して、エトキシシラン系第4級アンモニウム塩を含む抗菌剤を付与することで、当該物品に抗菌性を付与する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平1-085367号公報
【文献】特開平4-034075号公報
【文献】特開平4-241171号公報
【文献】特開昭62-177284号公報
【文献】特開2019-077638号公報
【文献】国際公開第2013/047642号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術においては抗菌・抗ウイルス性物品を水等で洗浄した場合に当該物品から抗菌・抗ウイルス剤が脱落し易い。すなわち、物品の耐久抗菌性及び耐久抗ウイルス性について改善の余地がある。特に、耐久抗ウイルス性については十分な検討がなされていない。物品に対して耐久抗菌性及び耐久抗ウイルス性を付与可能な新たな組成物が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
抗菌・抗ウイルス剤組成物であって、
グリオキザール樹脂と抗菌・抗ウイルス剤とを含有し、
前記抗菌・抗ウイルス剤が、第4級アンモニウムカチオン基を有する、
抗菌・抗ウイルス剤組成物
を開示する。
【0006】
本開示の抗菌・抗ウイルス剤組成物において、
前記抗菌・抗ウイルス剤が、下記一般式(2-2)で示される化合物を含むものであってもよい。
【0007】
【化1】
式(2-2)において、
R
11はヒドロキシ基を有していてもよい炭素数10~20のアルキル基又はアリール基であり、
R
12は炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基、ベンジル基、又は、(AO)
pHで表される基であり、AOは炭素数2~4のアルキレンオキサイドであり、pは1~10の整数であり、
jは1又は2であり、
kは2又は3であり、
j+kは4であり、
lは1又は2であり、
Z
2はモノアルキルリン酸、ジアルキルリン酸、ハロゲン、メチル硫酸、エチル硫酸又は芳香族アニオンである。
【0008】
本開示の抗菌・抗ウイルス剤組成物において、
前記グリオキザール樹脂が、下記一般式(1)で示される構造を有するものであってもよい。
【0009】
【化2】
式(1)において、
R
1は水素、メトキシ基又はヒドロキシ基であり、
R
2は水素、メトキシ基又はヒドロキシ基であり、
R
3は水素又はメチル基であり、
nは0~5の整数である。
【0010】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
上記本開示の抗菌・抗ウイルス剤組成物が付着している、物品
を開示する。
【0011】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
抗菌・抗ウイルス性を付与する対象物に、上記本開示の抗菌・抗ウイルス剤組成物を付着させて、抗菌・抗ウイルス性を有する物品を得ること、を含む物品の製造方法
を開示する。
【発明の効果】
【0012】
本開示の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、物品に対して優れた耐久抗菌性及び耐久抗ウイルス性を付与可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.抗菌・抗ウイルス剤組成物
本開示の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、グリオキザール樹脂と抗菌・抗ウイルス剤とを含有する。前記抗菌・抗ウイルス剤は、第4級アンモニウムカチオン基を有する。
【0014】
1.1 グリオキザール樹脂
グリオキザール樹脂としては、従来公知のものを使用することができる。グリオキザール樹脂としては、グリオキザールに尿素又はその誘導体を反応させ、更に該反応混合物にホルムアルデヒドを反応させて得られる樹脂;グリオキザールと尿素又はその誘導体とホルムアルデヒドとを反応させて得られる樹脂;これらの方法で得た樹脂に更にアルコールを反応させて得られる化合物;グリオキザールと多価アルコールとを反応させて得られる樹脂などが挙げられる。
【0015】
グリオキザールと反応させる多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブタンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトール及びこれらの縮合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0016】
このようなグリオキザール樹脂としては、一般に低ホルマリン系樹脂と呼ばれているジメチロールグリオキザール尿素系樹脂、ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素系樹脂、ジメチロールジヒドロキシプロピレン尿素系樹脂、一般にノンホルマリン樹脂と呼ばれている1,3-ジメチル-4,5-ジヒドロキシエチレン尿素などのジメチルグリオキザール尿素系樹脂が挙げられる。
【0017】
これらの樹脂の官能基は、他の官能基で置換されていてもよい。このようなグリオキザール樹脂としては、例えば、DIC株式会社製のベッカミンN-80、ベッカミンNS-11、ベッカミンLF-K、ベッカミンNS-19、ベッカミンLF-55Pコンク、ベッカミンNS-210L、ベッカミンNS-200、及びベッカミンNF-3、ユニオン化学工業株式会社製のユニレジンGS-20E、三木理研工業株式会社製のリケンレジンRGシリーズ、及びリケンレジンMSシリーズなどが挙げられる。
【0018】
このようなグリオキザール樹脂を用いる場合には、反応を促進させる観点から、触媒を更に含むことが好ましい。このような触媒としては、通常用いられる触媒であれば特に制限されず、例えば、ホウ弗化アンモニウム、ホウ弗化亜塩等のホウ弗化化合物;塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム等の中性金属塩触媒;燐酸、塩酸、ホウ酸等の無機酸などが挙げられる。これら触媒には、必要に応じて、助触媒として、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、乳酸等の有機酸などを併用することもできる。このような触媒としては、例えば、DIC株式会社製のキャタリストACX、キャタリスト376、キャタリストO、キャタリストM、キャタリストG(GT)、キャタリストX-110、キャタリストGT-3、及びキャタリストNFC-1、ユニオン化学工業株式会社製のユニカキャタリスト3-P、及びユニカキャタリストMC-109、三木理研工業株式会社製のリケンフィクサーRCシリーズ、リケンフィクサーMXシリーズ、及びリケンフィクサーRZ-5などが挙げられる。
【0019】
数あるグリオキザール樹脂の中でも、特に、下記一般式(1)で示される構造を有するグリオキザール樹脂が採用された場合に、耐久抗菌性及び耐久抗ウイルス性が一層向上し易い。
【0020】
【0021】
式(1)において、R1は水素、メトキシ基又はヒドロキシ基であり、R2は水素、メトキシ基又はヒドロキシ基であり、R3は水素又はメチル基であり、nは0~5の整数である。特にR1及びR2がヒドロキシ基であり、R3が水素であり、nが0である場合に、より高い効果が得られる。
【0022】
1.2 抗菌・抗ウイルス剤
本開示の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、上記のグリオキザール樹脂と抗菌・抗ウイルス剤とを含む。抗菌・抗ウイルス剤は第4級アンモニウムカチオン基を有する。
【0023】
第4級アンモニウムカチオン基を有する化合物は物品の表面において抗菌及び抗ウイルス性を発現し得る。抗菌及び抗ウイルス性を有する第4級アンモニウムカチオン基としては、シラン系のアンモニウムカチオン基や、ポリオキシアルキレンアルキルアンモニウムカチオン基や、アルキルアンモニウムカチオン基等が挙げられる。抗菌・抗ウイルス剤は、第4級アンモニウムカチオン基を少なくとも一つ有していればよく、低分子化合物であってもよいし、高分子化合物であってもよい。第4級アンモニウムカチオン基を有する化合物の具体例については後述する。
【0024】
第4級アンモニウムカチオン基の対イオンであるアニオンの種類は特に限定されるものではない。例えば、モノアルキルリン酸、ジアルキルリン酸、ハロゲン、メチル硫酸、エチル硫酸又は芳香族アニオンであってよい。芳香族アニオンとしては、例えば、パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、安息香酸又はアルキルベンゼンスルホン酸等が挙げられる。
【0025】
抗菌・抗ウイルス剤は、下記一般式(2-1)で示される化合物、下記一般式(2-2)で示される化合物及び下記一般式(2-3)で示される化合物のうちの少なくとも一つの化合物であってよい。より高い性能を確保する観点からは、抗菌・抗ウイルス剤は、下記一般式(2-1)で示される化合物及び下記一般式(2-2)で示される化合物のうちの少なくとも一つの化合物を含むものであってよく、下記一般式(2-2)で示される化合物を含むものであってよい。
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
式(2-1)において、R4は炭素数10~22のアルキル基であり、R5はメチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基であり、R6はメチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基であり、R7は炭素数2~4のアルキレン基であり、R8はメチル基又はエチル基であり、R9はメチル基又はエチル基であり、R10はメチル基又はエチル基であり、Z1はハロゲンである。
【0030】
R4の具体例としては、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ウンエイコシル基、ドエイコシル基、トリエイコシル基、テトラエイコシル基等が挙げられる。R5とR6とは、互いに同じ基であってもよい。また、R8~R10は、互いに同じ基であってもよい。Z1は塩素であっても、臭素であっても、これ以外のハロゲンであってもよいが、特に塩素である場合に高い性能が期待できる。式(2-2)におけるハロゲン、式(2-3)におけるハロゲンについても同様である。
【0031】
式(2-1)で表されるシラン系第4級アンモニウム塩のうち、メトキシシラン系第4級アンモニウム塩の具体例としては、オクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ドデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ドデシルジイソプロピル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジエチル(3-トリメトキシシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジ-n-プロピル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジエチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジ-n-プロピル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジエチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジ-n-プロピル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジエチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジ-n-プロピル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド等が挙げられる。中でも、テトラデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドは、抗菌・抗ウイルス性が良好となる。
【0032】
式(2-1)で表されるシラン系第4級アンモニウム塩のうち、エトキシシラン系第4級アンモニウム塩の具体例としては、上記メトキシシラン系第4級アンモニウム塩として例示したものにおいて、トリメトキシシリル基に替えてトリエトキシシリル基を有するものが挙げられる。
【0033】
式(2-2)において、R11はヒドロキシ基を有していてもよい炭素数10~20のアルキル基又はアリール基であり、R12は炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基、ベンジル基、又は、(AO)pHで表される基であり、AOは炭素数2~4のアルキレンオキサイドであり、pは1~10の整数であり、jは1又は2であり、kは2又は3であり、j+kは4であり、lは1又は2であり、Z2はモノアルキルリン酸、ジアルキルリン酸、ハロゲン、メチル硫酸、エチル硫酸又は芳香族アニオンである。
【0034】
式(2-2)において、R11の炭素数が小さ過ぎても、大き過ぎても、抗菌・抗ウイルス性が低下し易い。R11の炭素数は10以上であり、12以上であってもよく、20以下であり、18以下であってもよい。また、上述の通り、R11は、その一部に置換基としてヒドロキシ基を有するものであってもよい。
【0035】
式(2-2)において、R11が複数ある場合(j=2の場合)、一のR11と他のR11とは同じ基であっても異なる基であってもよい。R12についても同様であり、一のR12と他のR12とは同じ基であっても異なる基であってもよい。
【0036】
式(2-2)において、Z2がモノアルキルリン酸又はジアルキルリン酸である場合、抗菌・抗ウイルス性に一層優れる。モノアルキルリン酸、ジアルキルリン酸のアルキル基としては炭素数1~12のアルキル基を挙げることができる。その中でも炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数2~4のアルキル基がより好ましい。
【0037】
式(2-2)において、Z2となり得る芳香族アニオンの具体例としては、パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、安息香酸又はアルキルベンゼンスルホン酸等が挙げられる。
【0038】
抗菌・抗ウイルス剤は、第4級アンモニウムカチオンを複数有する高分子化合物であってもよい。例えば、抗菌・抗ウイルス剤として上記式(2-3)で示されるような高分子化合物が採用され得る。
【0039】
式(2-3)において、R13は炭素数1~4のアルキレン基であってよく、R14はメチル基又はエチル基であってよく、R15はメチル基又はエチル基であってよく、R16は炭素数3又は4のアルキレン基であってよく、R17はメチル基又はエチル基であってよく、R18はメチル基又はエチル基であってよく、R19は炭素数1~4のアルキレン基であってよく、Z3はハロゲンであってよく、mは任意の自然数であってよい。式(2-3)で示される高分子化合物の重量平均分子量は、例えば、2,000以上又は6,000以上であってよく、200,000以下又は80,000以下であってよい。
【0040】
1.3 組成比
本開示の抗菌・抗ウイルス剤組成物において、グリオキザール樹脂と抗菌・抗ウイルス剤との割合は特に限定されるものではない。例えば、グリオキザール樹脂と抗菌・抗ウイルス剤との合計を100質量%として、グリオキザール樹脂の含有量が15質量%以上又は30質量%以上であってもよく、90質量%以下又は80質量%以下であってもよい。
【0041】
1.4 付着量
本開示の抗菌・抗ウイルス剤組成物において、物品と、物品に付着したグリオキザール樹脂及び抗菌・抗ウイルス剤の合計と、の割合は特に限定されるものではない。例えば、物品100質量部に対して、グリオキザール樹脂と抗菌・抗ウイルス剤との合計が0.1質量部以上付着していてもよく、10質量部以下付着していてもよい。
【0042】
1.5 その他
本開示の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、上記のグリオキザール樹脂と抗菌・抗ウイルス剤とに加えて、その他の成分を含んでいてもよい。例えば、本開示の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、界面活性剤及び水を含んでいてもよく、界面活性剤、有機溶媒及び水を含んでいてもよい。また、本開示の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、酸成分、アルカリ成分、キレート剤、防腐剤、メラミン樹脂、イソシアネート化合物、消泡剤、撥水剤、柔軟剤、吸水剤等を含んでいてもよい。
【0043】
2.物品
上記本開示の抗菌・抗ウイルス剤組成物が付着した物品は、耐久抗菌性及び耐久抗ウイルス性に優れる。
【0044】
物品の種類は特に限定されるものではなく、耐久抗菌性及び耐久抗ウイルス性が必要とされるものであればよい。物品の具体例としては、例えば、繊維製品が挙げられる。或いは、本開示の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、繊維製品以外の物品に付与されてもよい。
【0045】
物品が繊維製品である場合、当該繊維製品を構成する繊維の種類は特に限定されるものではなく、天然繊維であってもよいし化学繊維であってもよい。繊維の具体例としては、綿、麻、絹、羊毛等の天然繊維、レーヨン、アセテート等の半合成繊維、ポリアミド(ナイロン等)、ポリエステル、ポリウレタン、ポリプロピレン等の合成繊維、及びこれらの複合繊維、混紡繊維が挙げられる。ポリアミドとしてはナイロン6、ナイロン6,6等が挙げられる。ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸等が挙げられる。繊維は、糸、編物(交編を含む)、織物(交織を含む)、不織布、紙、木材などの形態を採るものであってもよい。繊維は染色されたものであってもよい。繊維は、その表面に何らかの修飾処理が施されたものであってもよい。
【0046】
尚、従来技術においては、合成繊維に対して耐久抗ウイルス性を発現させることは難しい。これに対し、本開示の抗菌・抗ウイルス剤組成物は合成繊維に対しても良好な耐久抗ウイルス性を発現させることができる。すなわち、本開示の物品は合成繊維を含む繊維製品であることが好ましい。
【0047】
3.物品の製造方法
本開示の技術は、抗菌性及び抗ウイルス性を有する物品を製造する方法としての側面も有する。すなわち、本開示の物品の製造方法は、抗菌・抗ウイルス性を付与する対象物に、上記本開示の抗菌・抗ウイルス剤組成物を付着させて、抗菌・抗ウイルス性を有する物品を得ること、を含む。上述したように、対象物は繊維であってもよく、合成繊維であってもよく、物品は繊維製品であってもよく、合成繊維を含む繊維製品であってもよい。
【0048】
物品に上記の抗菌・抗ウイルス剤組成物を付着させる方法としては、特に限定されるものではない。例えば、本開示の方法は、抗菌・抗ウイルス剤組成物を含む処理液(溶液であってもよいし、分散液であってもよい)に対象物を接触させることで、当該対象物に当該抗菌・抗ウイルス剤組成物を付着させてもよい。処理液による処理を行うタイミングは特に限定されるものではない。
【0049】
処理液は、例えば、上記のグリオキザール樹脂と上記の抗菌・抗ウイルス剤とを含むものであればよい。また、処理液は、酸成分、アルカリ成分、界面活性剤、キレート剤等のその他の成分を含んでいてもよい。処理液のpHは、特に限定されないが、例えば、2以上7以下であってもよい。耐久性を一層向上させたい場合には、抗菌・抗ウイルス剤組成物が含まれる処理液で対象物を処理する上述の工程において、メラミン樹脂、イソシアネート化合物などを併用し、処理液を対象物に付着させてこれを加熱する工程を含む方法によって、対象物を処理することもできる。
【0050】
処理液で対象物を処理する方法の具体例としては、パディング処理、浸漬処理、スプレー処理、コーティング処理等が挙げられる。このときの処理液の濃度や付与後の熱処理等の処理条件は、その目的や性能等の諸条件を考慮して、適宜調整すればよい。処理液で対象物を処理した後は、余分な抗菌・抗ウイルス剤を除去するために、水洗等の洗浄処理を行ってもよい。また、処理液が水を含有する場合は、対象物に処理液を付着させた後に水を除去するために、乾燥処理を行ってもよい。乾燥方法としては、特に制限はなく、乾熱法、湿熱法のいずれであってもよい。乾燥温度や乾燥時間も特に制限されず、例えば、室温~200℃で10秒~数日間乾燥させればよい。40~160℃で20秒~10分がさらに好ましい。必要に応じて、乾燥後に100~190℃の温度で10秒~5分間程度加熱処理してもよい。130~190℃で30秒~5分がさらに好ましい。
【0051】
4.効果
以上の通り、本開示の抗菌・抗ウイルス剤組成物は、所定の抗菌・抗ウイルス剤とともにグリオキザール樹脂を含有することで、物品に対して優れた耐久抗菌性及び耐久抗ウイルス性を付与可能である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を示しつつ本開示の技術による効果等について、より詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
1.グリオキザール樹脂の準備
1.1 調整例1
下記式(1-1)で表されるグリオキザール樹脂(1)を準備した。具体的には、反応容器に尿素60質量部、40%グリオキサール水溶液145質量部、ホルムアルデヒド60質量部、水130質量部を仕込み、95℃で4時間反応させ、グリオキザール樹脂(1)を45質量%含む水分散液395質量部を得た。
【0054】
【0055】
1.2 調整例2
下記式(1-2)で表されるグリオキザール樹脂(2)を準備した。具体的には、反応容器に尿素60質量部、40%グリオキサール水溶液145質量部、ホルムアルデヒド60質量部、水130質量部を仕込み、95℃で4時間反応させ、グリオキザール樹脂(1)を45質量%含む水分散液395質量部を得た。得られたグリオキザール樹脂(1)の水分散液395質量部を減圧度20mmHg、40℃で3時間濃縮し、濃縮液198質量部を得た。この中にメタノール128質量部を加え、均一に混合した後、30℃に冷却して濃硫酸1.5ccを加えた。このときのpHは2.3であった。30℃で1時間反応させ、10N-NaOH4.8ccを加えてpH7.5に調節し、生成した芒硝を濾別後、未反応のメタノールを蒸留し、水182質量部を加えて、グリオキザール樹脂(2)を45質量%含む水分散液371質量部を得た。
【0056】
【0057】
1.3 調整例3
グリオキザール樹脂(3)としてユニオン化学工業株式会社製のユニレジンGS-20E(商品名)を用意した。
【0058】
2.抗菌・抗ウイルス剤の準備
本実施例で用いた抗菌・抗ウイルス剤は以下の通りである。
【0059】
化合物A:下記一般式(2-2)において、R11が炭素数12のアルキル基であり、R12がメチル基及びヒドロキシエチル基であり、jが1であり、kが3(3つのR12のうち2つがメチル基、1つがヒドロキシエチル基)であり、lが1であり、Z2がジブチルリン酸である化合物A1と、下記一般式(2-2)において、R11が炭素数12のアルキル基であり、R12がメチル基及びヒドロキシエチル基であり、jが1であり、kが3(3つのR12のうち2つがメチル基、1つがヒドロキシエチル基)であり、lが2であり、Z2がブチルリン酸である化合物A2との混合物(化合物A1と化合物A2とのモル比は1:1)。
【0060】
化合物B:下記一般式(2-2)において、R11が炭素数16のアルキル基であり、R12がメチル基であり、jが1であり、kが3であり、lが1であり、Z2がメチル硫酸である化合物。
【0061】
化合物C:下記一般式(2-1)において、R4が炭素数14のアルキル基であり、R5がメチル基であり、R6がメチル基であり、R7がプロピレン基であり、R8がメチル基であり、R9がメチル基であり、R10がメチル基であり、Z1が塩素である化合物。
【0062】
化合物D:下記一般式(2-1)において、R4が炭素数18のアルキル基であり、R5がメチル基であり、R6がメチル基であり、R7がプロピレン基であり、R8がメチル基であり、R9がメチル基であり、R10がメチル基であり、Z1が塩素である化合物。
【0063】
化合物E:下記一般式(2-2)において、R11が炭素数12のアルキル基であり、R12がメチル基及びヒドロキシエチル基であり、jが1であり、kが3(3つのR12のうち1つがメチル基、2つがヒドロキシエチル基)であり、lが1であり、Z2がメチル硫酸である化合物。
【0064】
化合物F:下記一般式(2-2)において、R11が炭素数12のアルキル基であり、R12がヒドロキシエチル基であり、jが1であり、kが3であり、lが1であり、Z2がジブチルリン酸である化合物F1と、下記一般式(2-2)において、R11が炭素数12のアルキル基であり、R12がヒドロキシエチル基であり、jが1であり、kが3であり、lが2であり、Z2がブチルリン酸である化合物F2との混合物(化合物F1と化合物F2とのモル比は1:1)。
【0065】
化合物G:下記一般式(2-2)において、R11が炭素数18のアルキル基であり、R12がメチル基及びヒドロキシエチル基であり、jが1であり、kが3(3つのR12のうち2つがメチル基、1つがヒドロキシエチル基)であり、lが1であり、Z2がジブチルリン酸である化合物G1と、下記一般式(2-2)において、R11が炭素数18のアルキル基であり、R12がメチル基及びヒドロキシエチル基であり、jが1であり、kが3(3つのR12のうち2つがメチル基、1つがヒドロキシエチル基)であり、lが2であり、Z2がブチルリン酸である化合物G2との混合物(化合物G1と化合物G2とのモル比は1:1)。
【0066】
【0067】
【0068】
上記化合物A~Gの合成条件は以下の通りとした。尚、以下の合成条件から明らかなように、化合物A、B、E~Gの各々は、当該化合物を15重量%含む溶液として使用し、化合物C、Dの各々は、当該化合物を40重量%含む溶液として使用した。
【0069】
2.1 化合物Aの合成条件
n-ブタノール3モルと無水リン酸1モルとから調整したモノ体/ジ体の混合比が約1/1のアルキルリン酸エステル143質量部と水497質量部を反応容器に仕込み、ドデシルジメチルアミン260質量部を加えて中和した。この中和物のなかにエチレンオキサイド100質量部を仕込み、100℃で3時間反応させ、ドデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-ブチルリン酸エステル塩を45.3質量%含む組成物1000質量部を得た。これをドデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-ブチルリン酸エステル塩が15重量%となるように調整した。
【0070】
2.2 化合物Bの合成条件
反応容器にヘキサデシルジメチルアミン216質量部を仕込んだ。反応容器を50℃に冷却しながら、ジメチル硫酸100質量部を滴下しながら徐々に添加した。滴下終了後に1時間50℃にて反応させた後、水684質量部を加えて、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム-メチル硫酸塩を31.6質量%含む組成物1000質量部を得た。これをヘキサデシルトリメチルアンモニウム-メチル硫酸塩が15重量%となるように調整した。
【0071】
2.3 化合物Cの合成条件
反応容器にトリメトキシシリルプロピルクロライド199質量部、ジメチルテトラデシルアミン240質量部、トリエチレングリコールモノメチルエーテル661質量部を入れ、窒素雰囲気下、150℃で20時間反応させ、テトラデシル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]ジメチルアンモニウムクロライドが40重量%の溶液1100質量部を得た。
【0072】
2.4 化合物Dの合成条件
反応容器にトリメトキシシリルプロピルクロライド199質量部、ジメチルオクタデシルアミン298質量部、エタノール744質量部を入れ、窒素雰囲気下、150℃で20時間反応させ、オクタデシル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]ジメチルアンモニウムクロライドが40重量%の溶液1241質量部を得た。
【0073】
2.5 化合物Eの合成条件
反応容器にN,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ドデシルアミン273質量部を仕込んだ。反応容器を50℃に冷却しながら、ジメチル硫酸126質量部を滴下しながら徐々に添加した。滴下終了後に1時間50℃にて反応させた後、水601質量部を加えて、N、N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ドデシルメチルアミン-メチル硫酸塩を40質量%含む組成物1000質量部を得た。これをN、N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ドデシルメチルアミン-メチル硫酸塩が15重量%となるように調整した。
【0074】
2.6 化合物Fの合成条件
n-ブタノール3モルと無水リン酸1モルとから調整したモノ体/ジ体の混合比が約1/1のアルキルリン酸エステル158質量部と水500質量部を反応容器に仕込み、N、N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ドデシルアミン273質量部を加えて中和した。この中和物のなかにエチレンオキサイド88質量部を仕込み、100℃で3時間反応させ、トリス(2-ヒドロキシエチル)ドデシルアンモニウム-ブチルリン酸エステル塩を46.6質量%含む組成物1019質量部を得た。これをトリス(2-ヒドロキシエチル)ドデシルアンモニウム-ブチルリン酸エステル塩が15重量%となるように調整した。
【0075】
2.7 化合物Gの合成条件
n-ブタノール3モルと無水リン酸1モルとから調整したモノ体/ジ体の混合比が約1/1のアルキルリン酸エステル158質量部と水500質量部を反応容器に仕込み、ジメチルオクタデシルアミン298質量部を加えて中和した。この中和物のなかにエチレンオキサイド88質量部を仕込み、100℃で3時間反応させ、2-ヒドロキシエチルジメチルオクタデシルアンモニウム-ブチルリン酸エステル塩を47.9質量%含む組成物1044質量部を得た。これを2-ヒドロキシエチルジメチルオクタデシルアンモニウム-ブチルリン酸エステル塩が15重量%となるように調整した。
【0076】
3.イソシアネート化合物の水分散液の調製
3.1 イソシアネート化合物の合成
反応容器に、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート体(旭化成ケミカルズ社製、デュラネート24A-100、イソシアネート基数3、含有量100%)239質量部と、メチルイソブチルケトン5質量部とを添加し、60~70℃まで加熱した。次いで、3,5-ジメチルピラゾール144質量部をゆっくりと仕込み、60~70℃で赤外分光光度計にて確認されるイソシアネート含量がゼロになるまで反応させることにより、ピラゾールブロックドポリイソシアネートを98.7質量%含む無色透明粘稠液状組成物を得た。
【0077】
3.2 界面活性剤の合成
一方で、ステアリルアルコール270質量部(1モル)と苛性ソーダ3.0質量部とをオートクレーブに仕込み、加熱昇温して約130℃にした後、エチレンオキサイド1232質量部(28モル)を加えて、温度155~165℃ 、圧力0.39MPa以下にて反応させた。アルキレンオキサイド付加反応終了後冷却し、氷酢酸にてpH7に中和して固体状の非イオン界面活性剤を得た。
【0078】
3.3 水分散液の調製
得られた無色透明粘稠液状組成物を180質量部、有機溶剤としてジブチルジグリコールを140質量部、上記の界面活性剤を20質量部混合し、均一化した。撹拌しながら徐々に水を仕込んだ後、30MPaにてホモジナイザー処理を行い、不揮発分20質量%のピラゾールブロックドポリイソシアネート水分散液を得た。この水分散液中の粒子の平均粒径は0.35μmであった。
【0079】
4.処理液(抗菌・抗ウイルス剤組成物)の調製
上記のグリオキザール樹脂の水分散液と、上記の抗菌・抗ウイルス剤の溶液と、触媒(ユニオン化学工業株式会社製ユニカキャタリストMC-109)と、任意にイソシアネート化合物の水分散液と、リンゴ酸とを、下記表1に示される所定の比率にて混合して処理液を得た。
【0080】
5.物品に対する抗菌・抗ウイルス性の付与
5.1 実施例1~5、参考例6~11、実施例12
綿ニット(目付165g/m2、株式会社色染社製)又はポリエステルニット(目付120g/m2、株式会社色染社製)を上記の処理液に浸漬させ、絞り率90%(綿)又は110%(ポリエステル)にて処理し、次いで、150℃で2分間熱処理することで、抗菌・抗ウイルス性を有する繊維製品を得た。
【0081】
5.2 比較例1
グリオキザール樹脂の水分散液及び触媒を混合しなかったこと以外は、実施例2と同様にして処理液を得て、上記と同様の処理を行い、抗菌・抗ウイルス性を有する繊維製品を得た。処理液の組成は表2に示される通りである。
【0082】
5.3 比較例2
特許文献3(特開平4-241171号公報)に記載された方法にしたがって、抗菌性を有する繊維製品を得た。具体的には、化合物Aの溶液が30g/L、ユニカレジン380-K(メラミン樹脂:ユニオン化学製)1.5g/L、ユニカカタリストP-3(触媒:ユニオン化学製)0.5g/Lとなるように処理液を調整し、処理浴を準備した。綿ニット又はポリエステルニットを処理浴に浸漬させ、絞り率90%(綿)又は110%(ポリエステル)にて処理し、次いで、150℃で2分間熱処理することで、抗菌・抗ウイルス性繊維を得た。処理液の組成は表2に示される通りである。
【0083】
5.4 比較例3
グリオキザール樹脂の水分散液及び触媒を混合しなかったこと以外は、実施例1と同様にして処理液を得て、熱処理温度を180℃に変更したこと以外は上記と同様の処理を行い、抗菌・抗ウイルス性を有する繊維製品を得た。処理液の組成は表2に示される通りである。
【0084】
5.5 比較例4
抗菌・抗ウイルス剤の溶液を混合しなかったこと以外は、実施例1と同様にして処理液を得て、上記と同様の処理を行い、抗菌・抗ウイルス性を有する繊維製品を得た。処理液の組成は表2に示される通りである。
【0085】
5.6 比較例5
特許文献5(特開2019-077638号公報)に記載された方法にしたがって、抗菌性を有する繊維製品を得た。具体的には、化合物Dの溶液が30g/L、アクリル酸/アクリル酸エステル共重合物が30g/Lとなるように処理液を調整し、処理浴を準備した。綿ニット又はポリエステルニットを処理浴に浸漬させ、絞り率90%(綿)又は110%(ポリエステル)にて処理し、次いで、150℃で2分間熱処理することで、抗菌・抗ウイルス性繊維を得た。尚、アクリル酸/アクリル酸エステル共重合物は、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸をモル比率でそれぞれ42%、17%、41%となるように共重合させたアクリル酸エステル共重合物の水分散物であり、固形分が30%である。処理液の組成は表2に示される通りである。
【0086】
5.7 比較例6
特許文献4(特開昭62-177284号公報)に記載された方法にしたがって、抗菌性を有する繊維製品を得た。具体的には、化合物Dの溶液が30g/L、ラウリルアルコールエチレンオキサイド3モル付加物の硫酸エステルNa塩が5g/Lとなるように処理液を調整し、処理浴を準備した。綿ニット又はポリエステルニットを処理浴に浸漬させ、絞り率90%(綿)又は110%(ポリエステル)にて処理し、次いで、150℃で2分間熱処理することで、抗菌・抗ウイルス性繊維を得た。処理液の組成は表2に示される通りである。
【0087】
6.洗濯
JIS L1930(2014) C4G法に準じて、繊維製品を洗濯した。洗剤はJAFET標準配合洗剤(繊維評価技術評議会)を使用し、洗濯液の洗剤濃度を1.33g/Lとして使用した。前記条件により、繰り返し洗濯を10回行った。
【0088】
7.耐久抗菌性の評価
JIS L1902(2015)定量試験(8.2菌液吸収法)により抗菌活性値を測定し、洗濯前後における繊維製品の抗菌性能を評価した。使用菌として黄色ぶどう球菌Staphylococcus aureus NBRC12732および、肺炎桿菌Klebsiella pneumoniae NBRC13277を用いた。結果を下記表1、2に示す。表1、2に示される活性値が高いもの程、抗菌性に優れる。
【0089】
8.耐久抗ウイルス性の評価
JIS L1922(2016)により抗ウイルス活性値を測定し、繊維製品の抗ウイルス性能を評価した。使用ウイルスとして、A型インフルエンザウイルス(H3N2) ATCC VR-1679を使用した。抗ウイルス活性値=log(Va)-log(Vc)として評価した。結果を下記表1、2に示す。抗菌性と同様に、表1、2に示される活性値が高いものほど抗ウイルス性に優れる。尚、JISにおいては、抗ウイルス性の活性値が2.0以上の場合を効果ありとしているが、活性値2.0以下でもウイルス感染価は減少する。
【0090】
【0091】
【0092】
表1、2に示される結果から明らかなように、抗菌・抗ウイルス剤組成物として、グリオキザール樹脂と所定の抗菌・抗ウイルス剤とを含むものを用いた場合、洗濯前後において、抗菌性及び抗ウイルス性のいずれについても高い活性値を維持でき、高い耐久抗菌性及び耐久抗ウイルス性を確保できる(実施例1~5、参考例6~11、実施例12)。
【0093】
一方で、抗菌・抗ウイルス剤組成物がグリオキザール樹脂を含まない場合、洗濯前と洗濯後とで、繊維製品の抗菌性及び抗ウイルス性が大きく低下する(比較例1)。特に抗ウイルス性については、洗濯後に実質的に失われてしまう。グリオキザール樹脂を含まない場合、抗菌・抗ウイルス剤の付着量を増加させ、且つ、熱処理温度を上昇させたとしても、耐久抗菌性及び耐久抗ウイルス性は改善されない(比較例3)。
【0094】
また、抗菌・抗ウイルス剤組成物が抗菌・抗ウイルス剤を含まない場合、抗菌性及び抗ウイルス性が発現しない(比較例4)。
【0095】
さらに、抗菌・抗ウイルス化合物とともに、メラミン樹脂や硫酸塩界面活性剤やポリアクリル酸/アクリルエチル共重合体を併用した場合、繊維に対する抗菌・抗ウイルス化合物の定着性が向上するものの、十分な耐久抗菌性及び耐久抗ウイルス性は確保できず、抗ウイルス性については、洗濯後に実質的に失われてしまう(比較例2、5、6)。特に、合成繊維において、耐久抗ウイルス性を確保することができない。
【0096】
以上のことから、以下の要件を満たす抗菌・抗ウイルス剤組成物によって、物品に対して優れた耐久抗菌性及び耐久抗ウイルス性を付与することが可能であるといえる。
(1)抗菌・抗ウイルス剤組成物が、グリオキザール樹脂を含有すること。
(2)抗菌・抗ウイルス剤組成物が、第4級アンモニウムカチオン基を有する抗菌・抗ウイルス剤を含有すること。