IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<図1>
  • -実装ずれ対処方法および実装システム 図1
  • -実装ずれ対処方法および実装システム 図2
  • -実装ずれ対処方法および実装システム 図3
  • -実装ずれ対処方法および実装システム 図4
  • -実装ずれ対処方法および実装システム 図5
  • -実装ずれ対処方法および実装システム 図6
  • -実装ずれ対処方法および実装システム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-12
(45)【発行日】2025-03-21
(54)【発明の名称】実装ずれ対処方法および実装システム
(51)【国際特許分類】
   H05K 13/04 20060101AFI20250313BHJP
【FI】
H05K13/04 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021081446
(22)【出願日】2021-05-13
(65)【公開番号】P2022175215
(43)【公開日】2022-11-25
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敏也
【審査官】中田 誠二郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-169730(JP,A)
【文献】特開2015-188038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/30
13/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実装処理で基板に実装される部品の実装ずれに対処する実装ずれ対処方法であって、
(a)過去の実装処理で実装された部品の情報として、部品の実装位置とサイズとを含む情報を検査結果としての実装ずれ量に対応付けた実装実績情報を蓄積するステップと、
(b)新たな実装処理で実装される部品の情報として、部品の実装位置とサイズとを含む実装予定情報を取得するステップと、
(c)前記実装実績情報と前記実装予定情報とを用いて、少なくとも部品の実装位置とサイズとを説明変数とし実装ずれ量を目的変数とする統計分析を行うことにより、前記新たな実装処理の開始前に部品の実装ずれ量を予測するステップと、
(d)前記予測された実装ずれ量の影響を抑制するように、所定の対応処理を行うステップと、
を含む実装ずれ対処方法。
【請求項2】
請求項1に記載の実装ずれ対処方法であって、
前記ステップ(d)では、前記新たな実装処理時における前記対応処理として、前記予測された実装ずれ量を補正するための補正量を設定し、該設定した補正量で実装位置を補正して前記新たな実装処理を行う
実装ずれ対処方法。
【請求項3】
請求項2に記載の実装ずれ対処方法であって、
(e)前記実装処理の開始後に、該実装処理で実装された部品の前記実装実績情報を取得するステップと、
(f)前記実装処理中に、前記ステップ(a)の前記実装実績情報に代えて前記ステップ(e)の前記実装実績情報を用いて前記統計分析を行うことにより、実装ずれ量を再予測するステップと、を含み、
前記ステップ(d)では、前記再予測された実装ずれ量に基づき前記補正量を更新する
実装ずれ対処方法。
【請求項4】
請求項2に記載の実装ずれ対処方法であって、
(e)前記実装処理の開始後に、該実装処理で実装された部品の前記実装実績情報を取得するステップと、
(g)前記実装処理中に、前記ステップ(a)の前記実装実績情報に前記ステップ(e)の前記実装実績情報を加えて前記統計分析を行うことにより、実装ずれ量を再予測するステップと、を含み、
前記ステップ(d)では、前記再予測された実装ずれ量に基づき前記補正量を更新する
実装ずれ対処方法。
【請求項5】
請求項1に記載の実装ずれ対処方法であって、
前記ステップ(d)では、基板設計時における前記対応処理として、前記予測された実装ずれ量による部品同士の干渉を回避するように部品の実装位置を修正させる
実装ずれ対処方法。
【請求項6】
基板に部品を実装する実装処理を行う実装システムであって、
過去の実装処理で実装された部品の情報として、部品の実装位置とサイズとを含む情報を検査結果としての実装ずれ量に対応付けた実装実績情報を蓄積する蓄積部と、
新たな実装処理で実装される部品の情報として、部品の実装位置とサイズとを含む実装予定情報を取得する取得部と、
前記実装実績情報と前記実装予定情報とを用いて、少なくとも部品の実装位置とサイズとを説明変数とし実装ずれ量を目的変数とする統計分析を行うことにより、前記新たな実
装処理の開始前に部品の実装ずれ量を予測する予測部と、
前記予測された実装ずれ量の影響を抑制するように、所定の対応処理を行う対応処理部と、
を備える実装システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、実装ずれ対処方法および実装システムを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の実装システムとしては、部品供給装置により供給位置に供給された部品をノズルに吸着させて基板に実装させる実装処理を行う際に、必要な補正を行うものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このシステムでは、ノズルに吸着された部品の位置と姿勢を計測した計測値を蓄積していき、その計測値の集合に回帰分析等の統計分析を行い、その結果に基づく補正量(調整量)を算出し、算出した補正量に基づいて部品の供給位置を補正する。これにより、部品供給装置の誤差特性に応じた補正を行うことができ、ノズルに部品を適正に吸着させて、基板への部品の実装精度を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-46100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した実装システムでは、部品供給装置の誤差特性を補正するものの、部品の実装ずれが他の要因によって生じる場合もある。他の要因に対しては、実装後の基板を検査した検査結果を蓄積していき、その検査結果の集合に統計分析を行って、その結果に基づく補正量で対応することが考えられる。しかし、検査結果が蓄積されるまでの間は適正な調整ができないため、実装ずれが頻発するおそれがあり、好ましくない。
【0005】
本開示は、実装処理で部品を実装する前に、部品の実装ずれを予測して適切に対処することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本開示の実装ずれ対処方法は、
実装処理で基板に実装される部品の実装ずれに対処する実装ずれ対処方法であって、
(a)過去の実装処理で実装された部品の情報として、部品の実装位置とサイズとを含む情報を検査結果としての実装ずれ量に対応付けた実装実績情報を蓄積するステップと、
(b)新たな実装処理で実装される部品の情報として、部品の実装位置とサイズとを含む実装予定情報を取得するステップと、
(c)前記実装実績情報と前記実装予定情報とを用いて、少なくとも部品の実装位置とサイズとを説明変数とし実装ずれ量を目的変数とする統計分析を行うことにより、前記新たな実装処理の開始前に部品の実装ずれ量を予測するステップと、
(d)前記予測された実装ずれ量の影響を抑制するように、所定の対応処理を行うステップと、
を含むことを要旨とする。
【0008】
本開示の実装ずれ対処方法は、過去の実装処理で実装された部品の実装実績情報と、新たな実装処理で実装される部品の実装予定情報とを用いて、少なくとも部品の実装位置とサイズとを説明変数とし実装ずれ量を目的変数とする統計分析を行うことにより、新たな実装処理の開始前に部品の実装ずれ量を予測する。そして、予測された実装ずれ量の影響を抑制するように、所定の対応処理を行う。これにより、実装処理前に、部品の実装ずれ量を予測して適切に対処することができるから、実装ずれが頻発するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実装システム10の構成の概略を示す構成図。
図2】実装装置20の構成の概略を示す構成図。
図3】実装装置20と実装検査装置30と管理サーバ40の電気的な接続関係を示す説明図。
図4】実装実績情報45の一例を示す説明図。
図5】実装時管理処理の一例を示すフローチャート。
図6】実装システム10の各制御装置で行われる各処理の順序を示す説明図。
図7】設計時管理処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本開示の実施の形態を図面を用いて説明する。図1は実装システム10の構成の概略を示す構成図であり、図2は実装装置20の構成の概略を示す構成図であり、図3は実装装置20と実装検査装置30と管理サーバ40の電気的な接続関係を示す説明図である。なお、図1図2の左右方向がX方向であり、前後方向がY方向であり、上下方向がZ方向である。
【0011】
実装システム10は、図1に示すように、印刷装置12と、印刷検査装置14と、複数の実装装置20と、実装検査装置30と、管理サーバ40とを備え、これらがネットワークとしてのLAN18に接続されている。印刷装置12は、スクリーンマスクに形成されたパターン孔にはんだを押し込むことで基板S(図2参照)に印刷する。印刷検査装置14は、印刷装置12で印刷されたはんだの状態を検査する。実装装置20は、基板Sの搬送方向(X方向)に沿って複数台配置され、基板Sに部品を実装する。実装検査装置30は、実装装置20で基板Sに実装された部品の実装状態を検査する。管理サーバ40は、各種情報の管理や実装システム10の全体の管理を行う。印刷装置12と印刷検査装置14と複数の実装装置20と実装検査装置30とは、この順で基板Sの搬送方向に並べて設置されて生産ラインを構成する。なお、生産ラインが、これらの装置以外に、部品が実装された基板Sのリフロー処理を行うリフロー装置などを備えてもよく、実装検査装置30がリフロー装置の下流側に配置されていてもよい。
【0012】
実装装置20は、図2図3に示すように、基板Sを搬送する基板搬送装置21と、部品を供給する部品供給装置22と、部品を吸着するノズル24が昇降可能に配設されたヘッド23と、ヘッド23をXY方向に移動させるヘッド移動装置25とを備える。基板搬送装置21は、図2の前後に間隔を開けて設けられ左右方向に架け渡されたコンベアベルトを2対有しており、各コンベアベルトにより基板Sを図中左から右へと搬送する。部品供給装置22は、例えば部品が所定ピッチで収容されたテープを送り出すことで部品を供給するテープフィーダであり、複数種類の部品を供給可能となるように実装装置20に複数セットされている。なお、部品供給装置22から供給される部品には、部品本体から延び出たリードを有する部品がある。また、実装装置20は、この他にマークカメラ26やパーツカメラ27、実装装置20の全体を制御する実装制御装置29などを備える。マークカメラ26は、ヘッド23に取り付けられ、基板Sに付された基準マークや基板IDなどを上方から撮像する。パーツカメラ27は、部品供給装置22と基板搬送装置21との間に設置され、ノズル24に吸着されている部品を下方から撮像する。
【0013】
実装制御装置29は、周知のCPUやROM、RAMなどで構成されている。実装制御装置29は、基板搬送装置21やヘッド23、ヘッド移動装置25などに駆動信号を出力する。実装制御装置29には、マークカメラ26やパーツカメラ27からの画像が入力される。実装制御装置29は、例えば、マークカメラ26で撮像された基板Sの画像を処理して基板IDを取得したり、基板Sに付された基板マークの位置を認識することにより基板Sの位置を認識したりする。また、実装制御装置29は、パーツカメラ27で撮像された画像に基づいてノズル24に吸着されている部品の吸着姿勢を判定する。
【0014】
実装検査装置30は、図3に示すように、部品が実装された基板Sを搬送する基板搬送装置32と、部品の実装状態を検査するための検査用画像を撮像する検査カメラ34と、検査カメラ34をXY方向に移動させるカメラ移動装置36と、実装検査装置30の全体を制御する検査制御装置39とを備える。基板搬送装置32とカメラ移動装置36は、それぞれ、実装装置20の基板搬送装置21とヘッド移動装置25と同様の構成である。
【0015】
検査制御装置39は、周知のCPUやROM、RAMなどで構成されている。検査制御装置39は、基板搬送装置32やカメラ移動装置36への駆動信号や検査カメラ34への撮像信号を出力する。また、検査制御装置39は、検査カメラ34からの画像が入力され、その画像を処理して部品の実装状態を検査する。また、検査制御装置39は、実装制御装置29や管理サーバ40の管理制御装置42とLAN18を介して通信可能に接続されており、検査結果に関する情報などを送信する。
【0016】
管理サーバ40は、図3に示すように、管理制御装置42と、記憶部44と、入力デバイス46と、ディスプレイ48とを備える。管理制御装置42は、周知のCPUやROM、RAMなどで構成されている。記憶部44は、各種処理プログラムやデータなどの各種情報を記憶するHDDなどの装置である。入力デバイス46は、作業者が各種指令を入力するキーボードおよびマウスなどを含む。ディスプレイ48は、各種情報を表示する液晶表示装置である。
【0017】
管理サーバ40の記憶部44には、実装実績情報45や生産プログラムなどが記憶されている。実装実績情報45の詳細は後述するが、検査制御装置39から受信した検査結果を含む情報である。生産プログラムは、どの基板Sにどの部品を実装するか、また、そのように実装した基板Sを何枚生産するかなどを定めたプログラムであり、作業者の操作などにより記憶部44に保存される。管理制御装置42は、生産プログラムに基づいて、各実装装置20で実装する各部品の実装順や部品種、実装位置や実装角度、サイズ、リードの有無などの情報や、各部品を供給する部品供給装置22の情報、各部品を吸着するノズル24の情報、基板Sの生産枚数の情報などを定めたジョブを作成する。
【0018】
また、管理制御装置42は、実装制御装置29とLAN18を介して通信可能に接続されており、実装制御装置29から実装状況に関する情報を受信したり、実装制御装置29にジョブなどの生産指示を送信したりする。また、管理制御装置42は、検査制御装置39とLAN18を介して通信可能に接続されており、検査制御装置39から検査状況や検査結果に関する情報を受信したり、検査制御装置39に検査対象の基板Sの情報を送信したりする。管理制御装置42は、この他に印刷装置12や印刷検査装置14の図示しない各制御装置とLAN18を介して通信可能に接続されており、各制御装置から作業状況に関する情報を受信したり、各制御装置に作業指示を送信したりする。
【0019】
以下は、こうして構成された実装システム10の動作の説明である。まず、実装装置20における実装処理と、実装検査装置30における検査処理の概要を説明する。
【0020】
実装処理では、実装制御装置29は、ジョブで定められた実装順に従って部品をノズル24に順次吸着させて、各部品を目標の実装位置および実装角度で基板Sに実装させる。目標の実装位置および実装角度は、ジョブで定められた実装位置および実装角度に対して、後述する回帰分析で予測された実装ずれ量を補正するための補正量でそれぞれ補正した位置および角度である。なお、実装制御装置29は、ヘッド23をパーツカメラ27の上方に移動させて、ノズル24に吸着された部品をパーツカメラ27で撮像した画像に基づいてノズル24に対する部品の位置ずれや角度ずれを算出し、それらのずれ量を補正してもよい。その場合、実装制御装置29は、ノズル24に対する部品の位置ずれや角度ずれが解消されるように、ヘッド23(ノズル24)の移動位置やノズル24の回転角度を補正して、当該部品を目標の実装位置や実装角度に実装する。
【0021】
検査処理では、検査制御装置39は、部品が実装された基板Sを検査カメラ34で撮像し、その画像を処理して各部品の実装ずれとしての位置ずれや角度ずれ、欠品などを検査する。検査制御装置39は、各部品の位置ずれや角度ずれとして、目標の実装位置に対するX方向の位置ずれ量ΔXとY方向の位置ずれ量ΔYとを検出すると共に目標の基準角度に対する角度ずれ(回転ずれ)量Δθを検出する。検査制御装置39は、検出した実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθを部品の実装位置(X,Y)などの情報に対応付けた検査結果を管理サーバ40に送信する。
【0022】
管理サーバ40では、検査結果を受信すると、実装実績情報45に記憶する。図4は、実装実績情報45の一例を示す説明図である。実装実績情報45では、各部品の実装位置情報と、部品情報と、検査結果情報とが対応付けて登録されている。実装位置情報は、部品の実装位置(X,Y)と、実装角度θとを含む。部品情報は、幅Wと奥行きWを示す部品サイズ(W,D)と、部品高さHと、リードLの有無とを含む。検査結果情報は、位置ずれ量(ΔX,ΔY)と角度ずれ量Δθとを含む。実装実績情報45は、実装ずれ量の予測や、予測した実装ずれ量の影響を抑制するための管理処理に用いられる。なお、本実施形態では、実装システム10や管理サーバ40を新たに設置して実装処理が行われていない場合でも、実装実績情報45が予め記憶されているものとする。例えば、実装システム10の製造会社の社内で行われた実装テストの検査結果情報などを含む実装実績情報45が、出荷時に記憶部44に記憶されていてもよい。その場合、実装システム10で実装処理が行われれば、記憶部44の実装実績情報45に情報が順次蓄積されていくことになるが、出荷時に記憶されていた情報に加えて新たな情報が記憶されてもよいし、出荷時に記憶されていた情報に上書きして新たな情報が記憶されてもよい。
【0023】
図5は、実装時管理処理の一例を示すフローチャートであり、図6は、実装システム10の各制御装置で行われる各処理の順序を示す説明図である。実装時管理処理では、管理サーバ40の管理制御装置42は、まず、生産プログラムからジョブを作成して各実装装置20の実装制御装置29に伝送する(S100,図6(1))。次に、管理制御装置42は、今回のジョブから各部品の実装位置情報と部品情報とを説明変数として取得する(S110)。S110では、各部品の実装位置(X,Y)や実装角度θ、部品サイズ(W,D)、部品高さH、リードLの有無が取得される。
【0024】
次に、管理制御装置42は、実装位置情報である実装位置(X,Y)や実装角度θと部品情報である部品サイズ(W,D)や部品高さH、リードLの有無とを説明変数とし検査結果情報である実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθを目的変数とする回帰分析により、今回のジョブの実装ずれ量を予測する(S120,図6(2))。
【0025】
S120では、位置ずれ量ΔX,ΔYが次式(1),(2)によりそれぞれ算出され、角度ずれ量Δθが次式(3)により算出される。回帰分析では、まず、上述した各説明変数の係数a~gがそれぞれ決定される。例えば次式(1)の場合、位置ずれ量ΔXと、各説明変数との相関を分析することにより、実装位置Xの係数a1、実装位置Yの係数b1、実装角度θの係数c1、部品サイズWの係数d1、部品サイズDの係数e1、部品高さHの係数f1、リードLの有無の係数g1がそれぞれ決定される。同様に、次式(2),(3)でも、それぞれの説明変数の係数が決定される。管理制御装置42は、次式(1)~(3)の各係数を決定すると、今回のジョブから取得した各説明変数を次式(1)~(3)にそれぞれ代入して計算することにより、各部品の実装位置毎に予測される実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθをそれぞれ算出する。過去の実装実績は、今回のジョブと実装位置情報や部品情報が全く同一ではないものの、実装システム10における部品の実装位置やサイズなどによる実装ずれ量の傾向を現している。このため、S120では、その傾向を反映した実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθを予測することができる。なお、上述したように、出荷時から実装実績情報45が記憶されているため、実装システム10の実装実績が十分に蓄積されてない状態でも、実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθを適切に予測することができる。
【0026】
ΔX=a1・X+b1・Y+c1・θ+d1・W+e1・D+f1・H+g1・L ・・・(1)
ΔY=a2・X+b2・Y+c2・θ+d2・W+e2・D+f2・H+g2・L ・・・(2)
Δθ=a3・X+b3・Y+c3・θ+d3・W+e3・D+f3・H+g3・L ・・・(3)
【0027】
こうして実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθを予測すると、管理制御装置42は、実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθをそれぞれ打ち消すように補正量Xc,Yc,θcを設定し、設定した補正量Xc,Yc,θcを各実装装置20の実装制御装置29に伝送して(S130,図6(3))、実装処理を開始させる(図6(4))。このように、予測された実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθに基づいて補正量Xc,Yc,θcを設定してから実装処理を開始させるのである。このため、今回の実装処理の検査結果が蓄積されるまで補正量を設定しないものに比して、実装処理の開始当初から実装ずれを抑制することができる。なお、管理制御装置42は、各補正量Xc,Yc,θcを設定してからジョブと共に伝送してもよい。
【0028】
各実装装置20で実装処理が開始されると、各実装装置20で基板Sを順次搬送しながら各部品が基板Sに実装される。各部品が実装された基板Sが実装検査装置30に搬送されると、検査処理が行われる(図6(5))。検査制御装置39は、検査処理を行った検査結果として、実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθを実装位置に対応付けて管理制御装置42に送信する(図6(6))。
【0029】
そして、管理制御装置42は、検査制御装置39からの検査結果を受信したか否かを判定し(S140)、検査結果を受信していないと判定すると、S195に進む。一方、管理制御装置42は、検査結果を受信したと判定すると、受信した検査結果に含まれる実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθを実装位置情報と部品情報とに対応付けて実装実績情報45に登録する(S150)。
【0030】
次に、管理制御装置42は、補正量を更新可能であるか否かを判定し(S160)、更新可能でないと判定するとS195に進む。例えば、管理制御装置42は、今回の実装処理で実装された基板Sの検査結果の受信数が所定数以上となるなど、今回の実装処理の傾向を反映させるのに十分な数の検査結果が登録されていれば、更新可能と判定する。
【0031】
一方、管理制御装置42は、S160で補正量を更新可能であると判定すると、今回の実装処理の検査結果を独立して分析するか否かを判定する(S170)。S170では、今回の実装処理の検査結果だけで分析するか、今回の実装処理の検査結果と過去の実装処理の検査結果とを合わせて分析するかが判定される。なお、管理制御装置42が、前者の分析を行う第1分析モードと、後者の分析を行う第2分析モードとのうち、いずれかのモードの選択を作業者から受け付け、受け付けたモードに設定してもよい。そして、S170では、管理制御装置42は、設定されている分析モードに基づいて判定してもよい。
【0032】
管理制御装置42は、S170で今回の実装処理の検査結果を独立して分析すると判定すると、過去の実装処理の検査結果を除き、今回の実装処理の検査結果を含む実装実績情報45を用いて回帰分析を再度行って、実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθを再予測する(S180A,図6(7))。一方、管理制御装置42は、S170で今回の実装処理の検査結果を独立して分析しないと判定すると、過去の実装処理の検査結果と今回の実装処理の検査結果とを含む実装実績情報45を用いて回帰分析を再度行って、実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθを再予測する(S180B,図6(7))。なお、S180A,Bは、分析に用いられる情報が異なる点以外は、S120と同様に行われる。
【0033】
続いて、管理制御装置42は、再予測した実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθに基づいて補正量Xc,Yc,θcを再設定し、再設定した補正量Xc,Yc,θcを各実装装置20の実装制御装置29に伝送する(S190,図6(8))。各実装装置20の実装制御装置29は、再設定された補正量Xc,Yc,θcを用いて実装位置や実装角度を補正しながら実装処理を行う。そして、管理制御装置42は、基板Sの生産が終了したか否かを判定し(S195)、生産が終了してないと判定すると、S140に戻る。一方、管理制御装置42は、基板Sの生産が終了したと判定すると、実装時管理処理を終了する。
【0034】
次に、基板設計時の処理について説明する。図7は、設計時管理処理の一例を示すフローチャートである。設計時管理処理では、管理制御装置42は、まず、設計が完了した基板Sの設計データを入力し(S200)、設計データから各部品の実装位置情報と部品情報とを説明変数として取得する(S210)。次に、管理制御装置42は、実装実績情報45の検査結果情報である実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθを目的変数とする回帰分析を行うことにより、今回の設計データにおける各部品の実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθを予測する(S220)。S210,S220は、実装時管理処理のS110,S120と同様に行われるため、説明は省略する。
【0035】
続いて、管理制御装置42は、各部品の実装位置(X,Y)や実装角度θ、部品サイズ(W,D)、予測される実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθから、実装ずれによる部品同士の干渉の有無をそれぞれ確認し(S230)、干渉する部品があるか否かを判定する(S240)。管理制御装置42は、干渉する部品がないと判定すると、データチェック完了を報知して(S250)、設計時管理処理を終了する。S250では、管理制御装置42は、例えばディスプレイ48にデータチェックが正常に完了した旨のメッセージを表示する。
【0036】
一方、管理制御装置42は、S240で干渉する部品があると判定すると、警告を報知して干渉する部品の実装位置の修正を指示して(S260)、設計時管理処理を終了する。なお、S260では、管理制御装置42は、例えば部品が干渉する旨の警告メッセージや、干渉する部品の実装位置(X,Y)、サイズ(W,D)などの情報をディスプレイ48に表示して、実装位置の修正を作業者に対して指示する。作業者は、部品の実装位置を修正すると、修正後の設計データを設計時管理処理で再チェックさせることにより、干渉が回避できたか否かを確認することができる。
【0037】
ここで、本実施形態の構成要素と本開示の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の実装時管理処理のS150がステップ(a)に相当し、S110がステップ(b)に相当し、S120がステップ(c)に相当し、S130がステップ(d)に相当する。また、S150がステップ(e)に相当し、S180Aがステップ(f)に相当する。S180Bがステップ(g)に相当する。設計時管理処理のS210がステップ(b)に相当し、S220がステップ(c)に相当し、S230,S260がステップ(d)に相当する。また、S150を実行する管理制御装置42と記憶部44が蓄積部に相当し、S110やS210を実行する管理制御装置42が取得部に相当し、S120やS220を実行する管理制御装置42が予測部に相当し、S130やS230,S260を実行する管理制御装置42が対応処理部に相当する。
【0038】
以上説明した本実施形態の実装システム10における実装ずれ対処方法では、過去の実装処理の実装実績情報45と、新たなジョブから取得した実装位置情報および部品情報(実装予定情報)とを用いて、回帰分析を行う。回帰分析は、実装位置(X,Y)や部品サイズ(W,D)などを説明変数とし、実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθを目的変数として行われ、実装処理の開始前に各部品の実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθが予測される。そして、予測された実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθに基づく補正量Xc,Yc,θcを設定して実装処理を開始するから、実装ずれが頻発するのを抑制することができる。また、実装処理の開始当初即ち実装処理の検査結果が蓄積される前に部品の実装ずれが頻発するのを抑制することができる。
【0039】
また、実装処理の開始後に、過去の実装実績情報45に代えて、新たに検査結果が登録された実装実績情報45を用いて回帰分析を行うことにより、実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθを再予測して、補正量Xc,Yc,θcを更新する。このため、実装処理が開始されれば、その実装処理の実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθに基づく補正量Xc,Yc,θcで実装位置を補正するから、実装ずれをより適切に抑制することができる。
【0040】
また、実装処理の開始後に、過去の実装実績情報45と新たに検査結果が登録された実装実績情報45とを用いて回帰分析を行うことにより、実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθを再予測して、補正量Xc,Yc,θcを更新する。このため、実装処理が開始されれば、その実装処理の実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθも反映させた補正量Xc,Yc,θcで実装位置を補正するから、実装ずれをより適切に抑制することができる。
【0041】
また、基板設計時には、部品同士の干渉を回避するために部品の実装位置(X,Y)を修正させるから、基板設計時に実装位置(X,Y)を適切に設計して、実装ずれによる干渉を防止することができる。また、実装ずれによる干渉を回避するために、例えば実装処理時にノズル24の下降速度を下げて実装するなどの特別な対応をとる必要がないから、実装処理の難易度を抑えた適切な基板設計を行うことができる。
【0042】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0043】
例えば、上述した実施形態では、基板設計時管理処理で、部品同士の干渉を回避するために実装位置(X,Y)の修正指示を作業者に出力したが、これに限られない。例えば、自動で基板設計を行う設計装置などに修正指示を出力して、実装位置(X,Y)を自動で修正させてもよい。あるいは、自動で基板設計を行う設計装置が実装実績情報45を取得して部品同士の干渉の有無を判定し、干渉があればそれを回避するように実装位置(X,Y)の修正を自動で行ってもよい。
【0044】
実施形態では、実装処理の開始後に検査結果を取得すると、過去の実装実績情報45(検査結果)に代えて今回の実装実績情報45(検査結果)を用いて分析するS180Aと、過去の実装実績情報45(検査結果)と今回の実装実績情報45(検査結果)とを用いて分析するS180Bの処理とのうち、いずれかを行うものを例示したが、これに限られない。例えば、今回の検査結果の数が所定数未満であるなど十分な検査結果が得られてない場合にS180Bの処理を行い、十分な検査結果が得られている場合にはS180Aの処理を行うものとしてもよい。あるいは、S180A,S180Bをいずれも実行可能な構成に限られず、いずれか一方のみを実行するように構成されていてもよい。
【0045】
実施形態では、実装処理の開始後に実装ずれ量ΔX,ΔY,Δθを再予測して補正量Xc,Yc,θcを更新したが、これに限られない。実装処理の開始前に設定した補正量Xc,Yc,θcを更新することなく、実装処理が完了するまで用いてもよい。
【0046】
実施形態では、基板設計時と実装処理時の対応処理を両方行うものを例示したが、これに限られず、基板設計時の対応処理のみを行ってもよいし、実装処理時の対応処理のみを行ってもよい。
【0047】
実施形態では、実装位置情報として実装位置(X,Y)と実装角度θとを例示し、部品情報として部品サイズ(W,D)と部品高さHとリードLの有無とを例示して、これらを説明変数に含めたが、これに限られない。例えば、これら以外に、部品情報に部品の重量などが含まれてもよい。また、これらの情報のいずれかが含まれなくてもよく、少なくとも実装位置(X,Y)と部品サイズ(W,D)とを説明変数に含めればよい。
【0048】
実施形態では、実装システム10が備える実装装置20の種類の違いや同じ種類の実装装置20の個体(識別番号)の違いなどを区別することなく実装実績情報45に検査結果情報を記憶したが、これに限られない。例えば、部品を実装した実装装置20の種類の情報を検査結果情報に対応付けて実装実績情報45に記憶してもよいし、種類だけでなく実装装置20の個体の情報を検査結果情報に対応付けて実装実績情報45に記憶してもよい。そのようにする場合、実装装置20の種類毎や個体毎に回帰分析を行い、実装装置20の種類毎や個体毎に補正値を設定するなどの対応処理を行えばよい。
【0049】
実施形態では、管理サーバ40の管理制御装置42が実装実績情報45を管理して回帰分析を行ったが、これに限られない。実装制御装置29が実装実績情報を管理して回帰分析を行ってもよいし、検査制御装置39が実装実績情報を管理して回帰分析を行ってもよい。また、実装制御装置29と検査制御装置39と管理制御装置42などのうち2以上の制御装置が共同で実装実績情報の管理と回帰分析とを行ってもよい。
【0050】
実施形態では、実装システム10の管理サーバ40で実装実績情報45を管理したが、これに限られない。例えば、実装実績情報の管理サーバを実装システム10外に設け、その管理サーバと1または複数の実装システム10とを通信ネットワークを介して通信可能に構成してもよい。また、その管理サーバが、複数の実装システム10から受信した実装実績情報をまとめて記憶しておき、その実装実績情報と各実装システム10の実装処理における実装位置情報や部品情報とに基づいて回帰分析を行い、実装ずれ量やその補正量を各実装システム10に送信すればよい。複数の実装システム10の実装実績情報をまとめて管理することで、情報量を増やして回帰分析の信頼性を高めることができる。なお、複数の実装システム10の管理サーバ40同士が通信を行うことにより、他の実装システム10の実装実績情報を含めて回帰分析を行うようにしてもよい。
【0051】
実施形態では、回帰分析を例示したが、これに限られず、統計分析を行うものであればよく、回帰分析以外の分析を行うものでもよい。また、出荷時から実装実績情報45が記憶されているものとしたが、これに限られず、出荷時には記憶されていなくてもよい。また、蓄積されている過去の実装実績情報45の全てを用いて処理するものに限られず、所定期間以内の実装実績情報45を用いて処理するものとしてもよい。なお、所定期間は、作業者などが設定可能な期間としてもよい。
【0052】
ここで、本開示の実装ずれ対処方法は、以下のようにしてもよい。例えば、本開示の実装ずれ対処方法において、前記ステップ(d)では、前記実装処理時における前記対応処理として、前記予測された実装ずれ量を補正するための補正量を設定し、該設定した補正量で実装位置を補正して前記実装処理を行うものとしてもよい。こうすれば、過去の実装ずれ量を考慮することなく実装処理を開始する場合に比して、実装処理で部品の実装ずれが生じるのを抑制することができる。
【0053】
本開示の実装ずれ対処方法において、(e)前記実装処理の開始後に、該実装処理で実装された部品の前記実装実績情報を取得するステップと、(f)前記実装処理中に、前記ステップ(a)の前記実装実績情報に代えて前記ステップ(e)の前記実装実績情報を用いて前記統計分析を行うことにより、実装ずれ量を再予測するステップと、を含み、前記ステップ(d)では、前記再予測された実装ずれ量に基づき前記補正量を更新するものとしてもよい。こうすれば、実装処理が開始されれば、その実装処理の実装ずれ量に基づく補正量で実装位置を補正するから、実装ずれをより適切に抑制することができる。
【0054】
本開示の実装ずれ対処方法において、(e)前記実装処理の開始後に、該実装処理で実装された部品の前記実装実績情報を取得するステップと、(g)前記実装処理中に、前記ステップ(a)の前記実装実績情報に前記ステップ(e)の前記実装実績情報を加えて前記統計分析を行うことにより、実装ずれ量を再予測するステップと、を含み、前記ステップ(d)では、前記再予測された実装ずれ量に基づき前記補正量を更新するものとしてもよい。こうすれば、実装処理が開始されれば、その実装処理の実装ずれ量も反映させた補正量で実装位置を補正するから、実装ずれをより適切に抑制することができる。
【0055】
本開示の実装ずれ対処方法において、前記ステップ(d)では、基板設計時における前記対応処理として、前記予測された実装ずれ量による部品同士の干渉を回避するように部品の実装位置を修正させるものとしてもよい。こうすれば、基板設計時に実装位置を適切に設計して、実装ずれによる影響を抑制することができる。
【0056】
本開示の実装システムは、
基板に部品を実装する実装処理を行う実装システムであって、
過去の実装処理で実装された部品の情報として、部品の実装位置とサイズとを含む情報を検査結果としての実装ずれ量に対応付けた実装実績情報を蓄積する蓄積部と、
新たな実装処理で実装される部品の情報として、部品の実装位置とサイズとを含む実装予定情報を取得する取得部と、
前記実装実績情報と前記実装予定情報とを用いて、少なくとも部品の実装位置とサイズとを説明変数とし実装ずれ量を目的変数とする統計分析を行うことにより、前記新たな実装処理の開始前に部品の実装ずれ量を予測する予測部と、
前記予測された実装ずれ量の影響を抑制するように、所定の対応処理を行う対応処理部と、
を備えることを要旨とする。
【0057】
本開示の実装システムでは、上述した実装ずれ対処方法と同様に、実装処理前に部品の実装ずれ量を予測して適切に対処することができるから、実装ずれが頻発するのを抑制することができる。なお、この実装システムにおいて、上述した実装ずれ対処方法の各ステップを実現するような機能を追加してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本開示は、部品の実装処理の技術分野などに利用可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 実装システム、12 印刷装置、14 印刷検査装置、18 LAN、20 実装装置、21,32 基板搬送装置、22 部品供給装置、23 ヘッド、24 ノズル、25 ヘッド移動装置、26 マークカメラ、27 パーツカメラ、29 実装制御装置、30 実装検査装置、34 検査カメラ、36 カメラ移動装置、39 検査制御装置、40 管理サーバ、42 管理制御装置、44 記憶部、45 実装実績情報、46 入力デバイス、48 ディスプレイ、S 基板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7