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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-12
(45)【発行日】2025-03-21
(54)【発明の名称】既設基礎の撤去方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 9/02 20060101AFI20250313BHJP
   E02D 19/16 20060101ALI20250313BHJP
   E02D 19/04 20060101ALI20250313BHJP
【FI】
E02D9/02
E02D19/16
E02D19/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021136236
(22)【出願日】2021-08-24
(65)【公開番号】P2023030860
(43)【公開日】2023-03-08
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】大久保 憲二
【審査官】七字 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-048665(JP,A)
【文献】特開2021-042580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 19/04
E02D 7/00-13/10
E02D 19/16
E02D 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中の既設の中空基礎の撤去方法であって、
基礎の径よりも大きなサイズのケーシングパイプを、前記基礎の下端よりも下方まで、前記基礎の周囲の地盤に配置する工程aと、
前記基礎の下方の地盤であって、前記ケーシングパイプの内部を地盤改良する工程bと、
前記ケーシングパイプの内部から水を汲み出し、前記基礎の内部から土質材料と水の少なくとも一方を取り出す工程cと、
前記基礎の内部に、吊り用部材を固定する工程dと、
前記ケーシングパイプと前記基礎との間に流体を注入又は流入させて前記基礎に浮力を付与しつつ、前記基礎を地盤から引き抜く工程eと、
を具備することを特徴とする既設基礎の撤去方法。
【請求項2】
前記基礎は頂版を有し、
前記工程cの前に、前記頂版を削孔する工程fを具備することを特徴とする請求項1記載の既設基礎の撤去方法。
【請求項3】
前記工程a及び前記工程fは、同一の全周回転掘削機を用いて行い、
前記工程fは、前記頂版を、前記基礎の径よりも小さな径の標準ケーシングパイプによって削孔し、
前記工程aは、前記標準ケーシングパイプに前記ケーシングパイプを接続して、前記基礎の外周に配置することを特徴とする請求項2記載の既設基礎の撤去方法。
【請求項4】
前記基礎は底版を有し、
前記工程dは、前記底版に前記吊り用部材を取り付ける工程であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の既設基礎の撤去方法。
【請求項5】
前記基礎はニューマチックケーソンであり、
前記底版には、シャフト孔が形成されており、
前記吊り用部材は、止水部材を介して前記シャフト孔を塞ぐように配置され、
前記吊り用部材と前記底版とを固定する少なくとも一つの固定部材が、前記シャフト孔に充填された中埋めコンクリートに接合されることを特徴とする請求項4記載の既設基礎の撤去方法。
【請求項6】
水中の既設の中空基礎の撤去方法であって、
基礎の径よりも大きなサイズのケーシングパイプを、前記基礎の下端よりも下方まで、前記基礎の周囲の地盤に配置する工程aと、
前記基礎の内部に、吊り用部材を固定するとともに、前記基礎の内部の止水性を確保する工程dと、
前記ケーシングパイプと前記基礎との間に流体を注入又は流入させて前記基礎に浮力を付与し、前記基礎の内部の水量を調整しつつ、前記基礎を地盤から引き抜く工程eと、
を具備することを特徴とする既設基礎の撤去方法。
【請求項7】
前記基礎はモノパイル基礎であり、
前記モノパイル基礎の上端は水上に露出し、
前記吊り用部材は、前記モノパイル基礎の上端の径よりも小さく縮径させて内部に挿入可能であり、前記モノパイル基礎の内部で前記吊り用部材を拡径させて、前記モノパイル基礎の下端近傍に、前記モノパイル基礎の内部の止水性を確保可能なように固定されることを特徴とする請求項6記載の既設基礎の撤去方法。
【請求項8】
前記工程eにおいて、前記流体は、水よりも比重の重い流体であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の既設基礎の撤去方法。
【請求項9】
前記工程eにおいて、前記基礎を上方に引き上げながら、前記流体の液面を、前記基礎の上端を超えない範囲で徐々に上昇させることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の既設基礎の撤去方法。
【請求項10】
前記工程eにおいて、前記基礎を水上で切断しながら上方に引き上げることを特徴とする請求項9記載の既設基礎の撤去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設基礎の撤去方法および既設基礎の撤去システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、各種インフラ設備の更新が進められているが、河川や海域などに設置された水上橋では水中の基礎を撤去する必要がある。従来、例えばケーソン基礎は、基礎の周りに二重締切等の仮締切を設置し、ドライアップして基礎の上部を露出させた後、オールケーシング工法によって基礎に円柱状の孔を連続して削孔する方法で撤去していた。また、杭基礎では、杭基礎の内部の土砂を排出し、杭基礎の水底以深の部分に複数の小孔を形成した後、杭基礎の頭部を閉塞して内部に圧縮空気を供給しつつ杭基礎を引き抜く方法があった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6457871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のケーソン基礎の撤去方法では、ケーシングパイプ内に切削塊が残ってしまうことや、現地での破砕となるため騒音の問題がある。また杭基礎の撤去方法では、圧縮空気を供給するための設備が必要であった。
【0005】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とすることは、水中の既設の中空基礎を短期間で確実に撤去できる既設基礎の撤去方法および既設基礎の撤去システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達成するために第1の発明は、水中の既設の中空基礎の撤去方法であって、基礎の径よりも大きなサイズのケーシングパイプを、前記基礎の下端よりも下方まで、前記基礎の周囲の地盤に配置する工程aと、前記基礎の下方の地盤であって、前記ケーシングパイプの内部を地盤改良する工程bと、前記ケーシングパイプの内部から水を汲み出し、前記基礎の内部から土質材料と水の少なくとも一方を取り出す工程cと、前記基礎の内部に、吊り用部材を固定する工程dと、前記ケーシングパイプと前記基礎との間に流体を注入又は流入させて前記基礎に浮力を付与しつつ、前記基礎を地盤から引き抜く工程eと、を具備することを特徴とする既設基礎の撤去方法である。
【0007】
第1の発明では、ケーシングパイプの内部を地盤改良し、ケーシングパイプと基礎との間に流体を注入又は流入させることにより、基礎の周囲の摩擦抵抗を大幅に減少させることができる。また、基礎に浮力を付与しつつ基礎を引き抜くことができる。そのため、基礎を短期間で確実に撤去することができる。また、現地での基礎の破砕が無く、現地での騒音問題を回避することができる。
【0008】
第1の発明では、例えば、前記基礎が頂版を有し、前記工程cの前に、前記頂版を削孔する工程fを具備する。この場合、前記工程a及び前記工程fは、同一の全周回転掘削機を用いて行い、前記工程fは、前記頂版を、前記基礎の径よりも小さな径の標準ケーシングパイプによって削孔し、前記工程aは、前記標準ケーシングパイプに前記ケーシングパイプを接続して、前記基礎の外周に配置することが望ましい。
【0009】
工程cの前に頂版を削孔すれば、基礎の内部から土質材料や水を取り出す工程cや基礎の内部に吊り用部材を固定する工程dを容易に実施できる。また、基礎よりも小さな径の標準ケーシングパイプに基礎よりも大きな径のケーシングパイプを接続することにより、工程aと工程fとを同一の全周回転掘削機を用いて実施できる。
【0010】
また、前記基礎が底版を有し、前記工程dは、前記底版に前記吊り用部材を取り付ける工程であってもよい。この場合、例えば前記基礎はニューマチックケーソンであり、前記底版には、シャフト孔が形成されており、前記吊り用部材は、止水部材を介して前記シャフト孔を塞ぐように配置され、前記吊り用部材と前記底版とを固定する少なくとも一つの固定部材が、前記シャフト孔に充填された中埋めコンクリートに接合される。
【0011】
底版に吊り用部材を取り付ければ、吊り用部材を基礎の内部に簡単に固定することができる。また、基礎がニューマチックケーソンである場合、止水部材を介してシャフト孔を塞ぐように吊り用部材を配置することにより、基礎の内部の止水性を確保することができる。
【0012】
第2の発明は、水中の既設の中空基礎の撤去方法であって、基礎の径よりも大きなサイズのケーシングパイプを、前記基礎の下端よりも下方まで、前記基礎の周囲の地盤に配置する工程aと、前記基礎の内部に、吊り用部材を固定するとともに、前記基礎の内部の止水性を確保する工程dと、前記ケーシングパイプと前記基礎との間に流体を注入又は流入させて前記基礎に浮力を付与し、前記基礎の内部の水量を調整しつつ、前記基礎を地盤から引き抜く工程eと、を具備することを特徴とする既設基礎の撤去方法である。
【0013】
第2の発明では、ケーシングパイプと基礎との間に流体を注入又は流入させることにより、基礎の周囲の摩擦抵抗を大幅に減少させることができる。また、止水性を確保した基礎の内部の水量を調整することにより、基礎に適切な大きさの浮力を付与しつつ基礎を引き抜くことができる。そのため、基礎を短期間で確実に撤去することができる。
【0014】
第2の発明では、例えば前記基礎はモノパイル基礎であり、前記モノパイル基礎の上端は水上に露出し、前記吊り用部材は、前記モノパイル基礎の上端の径よりも小さく縮径させて内部に挿入可能であり、前記モノパイル基礎の内部で前記吊り用部材を拡径させて、前記モノパイル基礎の下端近傍に、前記モノパイル基礎の内部の止水性を確保可能なように固定される。
これにより、吊り用部材をモノパイル基礎の上端から挿入し、下端近傍に止水性を確保しつつ固定することができる。
【0015】
第1、第2の発明では、前記工程eにおいて、前記流体は、水よりも比重の重い流体であることが望ましい。これにより、水を用いた場合よりも基礎に大きな浮力を付与することができる。
【0016】
また、前記工程eにおいて、前記基礎を上方に引き上げながら、前記流体の液面を、前記基礎の上端を超えない範囲で徐々に上昇させることが望ましい。これにより、基礎への流体の流入を防ぎつつ、基礎に付与する浮力を維持することができる。
【0017】
さらに、前記工程eにおいて、前記基礎を水上で切断しながら上方に引き上げてもよい。これにより、基礎を重量を減らしつつ引き上げることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、水中の既設の中空基礎を短期間で確実に撤去できる既設基礎の撤去方法および既設基礎の撤去システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ケーソン2の撤去方法を示す図。
図2】ケーソン2の撤去方法を示す図。
図3】ケーソン2の撤去方法を示す図。
図4】ケーソン2の撤去方法を示す図。
図5】ケーソン2の撤去方法を示す図。
図6】ケーソン2の撤去方法を示す図。
図7】ケーソン2aに吊り用部材18aを固定した状態を示す図。
図8】モノパイル2bの撤去方法を示す図。
図9】モノパイル2bの撤去方法を示す図。
図10】モノパイル2bの撤去方法を示す図。
図11】モノパイル2bの撤去方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の第1の実施形態について詳細に説明する。図1から図6はケーソン2の撤去方法を示す図である。図1(a)は撤去対象のケーソン2を示す図であり、地盤1の鉛直方向の断面図である。
【0023】
図1(a)に示すように、ケーソン2は水中の既設の中空基礎であり、橋脚9を支持する。ケーソン2は水平断面が例えば略円形のニューマチックケーソンであり、頂版コンクリート3、側壁コンクリート4、底版コンクリート5、刃口部6等からなる。ケーソン2は、底版コンクリート5のシャフト孔19および刃口部6内に中埋めコンクリート7が充填される。また、頂版コンクリート3と側壁コンクリート4と底版コンクリート5とで囲まれた空間内に中埋め材8が充填される。中埋め材8は中詰め砂等の土質材料または水である。
【0024】
図1(b)はケーシングパイプ10を配置する工程を示す図である。ケーソン2を地盤1から撤去するには、図1(b)に示すように、全周回転掘削機13の標準ケーシングパイプ11にケーソン2の径よりも大きなサイズ(大径)のケーシングパイプ10を連結材12を用いて接続する。連結材12は、板状や棒状の部材であり、標準ケーシングパイプ11からケーシングパイプ10に回転力を確実に伝達できるものとする。そして、全周回転掘削機13を用いてケーシングパイプ10を地盤1に回転圧入して地盤1をケーソン2の下端27よりも下方まで削孔し、ケーシングパイプ10をケーソン2の外周の地盤1に配置する。ケーシングパイプ10は、下端がケーソン2の下端27より2m程度下方に位置し、上端が水面から2m程度露出することが望ましい。
【0025】
図2(a)はケーシングパイプ10の下方の地盤1を改良する工程を示す図である。ケーシングパイプ10を地盤1に配置したら、全周回転掘削機13、標準ケーシングパイプ11および連結材12を撤去する。そして、図2(a)に示すように地盤改良施工機14に取り付けた注入ロッド15でケーシングパイプ10とケーソン2との間の地盤1を削孔して先端部31をケーソン2の下方に到達させ、ケーシングパイプ10の内部の地盤改良を行って改良地盤16を形成する。このとき、注入ロッド15をケーシングパイプ10の内面に沿って複数の個所に移動させて、ケーシングパイプ10の下端付近が改良地盤16で閉塞されるように地盤改良を行う。
【0026】
図2(b)は頂版コンクリート3を削孔する工程を示す図である。改良地盤16を形成したら、地盤改良施工機14および注入ロッド15を撤去する。そして図2(b)に示すようにケーシングパイプ10の内部を抜水し、全周回転掘削機13および標準ケーシングパイプ11で頂版コンクリート3を削孔する。標準ケーシングパイプ11はケーソン2よりも径が小さく、頂版コンクリート3は標準ケーシングパイプ11の先端に取り付けられた図示しないケーシングビットで切削される。
【0027】
図3(a)は頂版コンクリート3を撤去する工程を示す図である。頂版コンクリート3を削孔したら、図3(a)に示すように標準ケーシングパイプ11の内側の頂版コンクリート3を橋脚9とともに撤去する。頂版コンクリート3と橋脚9は、図示しない起重機船等で吊り上げて撤去される。
【0028】
図3(b)はケーソン2の内部から中埋め材8を取り出す工程を示す図である。頂版コンクリート3等を撤去したら、ケーソン2内から中埋め材8を取り出す。例えば、中埋め材8が中詰め砂である場合には図3(b)に示すようにハンマーグラブ17により中埋め材8を掘削して撤去する。中埋め材8が水である場合にはケーソン2内をポンプ等により抜水する。
【0029】
図4(a)はケーソン2の内部に吊り用部材18を固定する工程を示す図、図4(b)は図4(a)の範囲Aの拡大図、図4(c)は吊り用部材18の概要図である。ケーソン2の内部から中埋め材8を取り出したら、標準ケーシングパイプ11の先端に止水用鉄板を溶接した吊り用部材18を、図4(a)に示すようにケーソン2の内部に取り付ける。
【0030】
吊り用部材18の先端は、例えば、図4(c)に示すような円盤状の鉄板であり、複数の固定用孔22を有する。吊り用部材18は、図4(b)に示すように止水部材20を介してシャフト孔19を塞ぐように配置され、吊り金具を兼ねたアンカボルトである固定部材21を固定用孔22に取り付けることによってケーソン2内に固定される。固定部材21のうち少なくとも一つは中埋めコンクリート7に接合され、残りは底版コンクリート5に接合される。ケーソン2の内部はドライアップされているので、吊り用部材18は人力での気中作業によって取付可能である。
【0031】
図5(a)は、ケーソン2の周囲の地盤1を泥水23で置換する工程を示す図である。ケーソン2に吊り用部材18を固定したら、図5(a)に示すように地盤改良施工機14の注入ロッド15でケーシングパイプ10とケーソン2との間に泥水23を攪拌噴射する。これにより、ケーシングパイプ10とケーソン2との間の地盤1が泥水23で置換され、ケーソン2の周囲の摩擦抵抗が減少する。泥水23は周囲の水又は海水よりも比重の重い流体であり、地盤1を泥水23で置換することによりケーソン2に浮力が付与される。
【0032】
ここで、図5(a)に示すように、既設基礎撤去システム30は、標準ケーシングパイプ11が取り付けられた全周回転掘削機13と、標準ケーシングパイプ11よりも径が大きいケーシングパイプ10と、ケーシングパイプ10の内面に沿って配置され、ケーシングパイプ10の内側に泥水23等の流体を噴射することが可能な注入ロッド15とからなる。ケーシングパイプ10は図1(b)に示すように標準ケーシングパイプ11の先端に接続可能である。
【0033】
図5(b)は、ケーソン2の底部の縁切りをする工程を示す図である。ケーソン2の周囲を泥水23で置換したら、泥水23による浮力を効かせた状態で、図5(b)に示すようにケーソン2および標準ケーシングパイプ11を全周回転掘削機13で引き上げる。これによりケーソン2の底部と地盤1との付着が切れる。引き上げ時には必要に応じて矢印に示すように回転力も与える。
【0034】
図6(a)は、ケーソン2を引き抜く工程を示す図である。ケーソン2の底部を縁切りしたら、全周回転掘削機13を撤去する。そして、ケーソン2に泥水23による浮力を付与しつつ、図示しない起重機船等を用いて図6(a)に示すように標準ケーシングパイプ11およびケーソン2を吊環24で吊り上げ、地盤1から引き抜く。ケーソン2を上方に引き上げる間は、水、海水又は泥水等の流体をケーシングパイプ10に注入しながら、泥水23の液面25をケーソン2の上端26を超えない範囲で徐々に上昇させることにより、泥水23による浮力を維持する。泥水23は、水や海水で希釈された状態でも水等より比重が重い流体である。
【0035】
図6(b)は、地盤1を埋め戻す工程を示す図である。ケーソン2を引き抜いて撤去したら、図6(b)に示すようにケーシングパイプ10内に埋め戻し用の砂28を投入し、地盤1の表面まで埋め戻しを行う。また、ケーシングパイプ10内の泥水23を水や海水と置換する。その後、全周回転掘削機13によりケーシングパイプ10を引き抜く。
【0036】
このように、第1の実施形態によれば、ケーシングパイプ10の内部に改良地盤16を形成し、ケーシングパイプ10とケーソン2との間に水や海水よりも比重の重い泥水23を注入することにより、ケーソン2の周囲の摩擦抵抗を大幅に減少させることができる。また、泥水23によってケーソン2に浮力を付与しつつケーソン2を引き抜くことができる。そのため、ケーソン2を短期間で確実に撤去することができ、地盤1内の空間開発の自由度を広げることができる。
【0037】
第1の実施形態では、止水部材20を介してシャフト孔19を塞ぐように吊り用部材18を配置し、少なくとも一つの固定部材21をシャフト孔19に充填された中埋めコンクリート7に接合することにより、ケーソン2の内部の止水性を確保しつつ吊り用部材18を底版コンクリート5に固定することができる。
【0038】
第1の実施形態では、既設基礎撤去システム30を用いることにより、大径のケーシングパイプ10をケーソン2の周囲の地盤1に配置する工程と、ケーソン2の頂版コンクリート3を削孔する工程とを、同一の全周回転掘削機13で実施することができる。
【0039】
なお、第1の実施形態ではニューマチック式のケーソン2を撤去対象としたが、オープン式のケーソンやモノパイル等を撤去対象としてもよい。
【0040】
オープン式のケーソン2aは、図7に示すように側壁コンクリート4aを地盤1に沈下して配置し、底部に底版コンクリート5aを打設して構築される。オープン式のケーソン2aでは、図4に示す工程で吊り用部材18の代わりに吊り用部材18aを固定する。図7に示すように、吊り用部材18aの先端は、底版コンクリート5aに沿って配置される円盤部181と、側壁コンクリート4aに沿って配置される筒状部184とからなる。吊り用部材18aは、固定部材21aの少なくとも1つが底版コンクリート5aに接続され、残りの固定部材21aが側壁コンクリート4aに接続されることにより、底版コンクリート5aに取り付けられる。ケーソン2aの止水性が確保されている場合には、吊り用部材18aは図7(a)に示すようにケーソン2aの内部に直接固定される。ケーソン2aの止水性が確保されていない場合には、吊り用部材18aは図7(b)に示すように止水部材20aを介してケーソン2aの内部に固定される。
【0041】
次に、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態では第1の実施形態と異なる点について説明し、同様の構成については図等で同じ符号を付すなどして説明を省略する。
【0042】
図8から図11はモノパイル基礎の撤去方法を示す図である。第2の実施形態では、第1の実施形態と同様の既設基礎撤去システム30(図11(a))を用いて鋼製のモノパイル2bを撤去する。
【0043】
図8(a)は撤去対象のモノパイル2bを示す図であり、地盤1の鉛直方向の断面図である。図8(a)に示すように、モノパイル2bは洋上風力発電施設等に用いられる既設の中空基礎である。モノパイル2bは下端27aが水底の地盤1中に配置され、上端26aが水上に露出する。
【0044】
図8(b)はケーシングパイプ10を配置する工程を示す図である。モノパイル2bを地盤1から撤去するには、図8(b)に示すように、モノパイル2bよりも大径のケーシングパイプ10を用いて地盤1をモノパイル2bの下端27aよりも下方まで削孔し、ケーシングパイプ10をモノパイル2bの外周の地盤1に配置する。
【0045】
図9(a)はモノパイル2b内の地盤1を掘削する工程を示す図である。ケーシングパイプ10を地盤1に配置したら、図9(a)に示すようにハンマーグラブ17によりモノパイル2b内の地盤1を掘削して撤去する。
【0046】
図9(b)はモノパイル2bの内部に吊り用部材18bを固定する工程を示す図である。モノパイル2b内の地盤1を掘削したら、標準ケーシングパイプ11の先端に吊り用部材18bを溶接し、図9(b)に示すように吊り用部材18bをモノパイル2bの内部に取り付ける。
【0047】
図10(a)は図9(b)の範囲Bの拡大図、図10(b)、図10(c)は吊り用部材18bの概要図である。図10に示すように、吊り用部材18bは、円盤部181と、ヒンジ部183によって円盤部181の外縁に接続された開閉部182とを有する。吊り用部材18bは、図10(b)に示すように開閉部182を閉じるとモノパイル2bの上端26aの径よりも小さく縮径し、図10(c)に示すように開閉部182を開くとモノパイル2bの下端27a付近の径と略同等に拡径する。
【0048】
吊り用部材18bは、縮径した状態でモノパイル2bの上端26aから挿入され、拡径した状態で図10(a)に示すようにモノパイル2bの下端近傍(例えば、モノパイル2bの海底ケーブル取出し孔の上部)に固定される。吊り用部材18bとモノパイル2bとの間はパッキングゴム等の止水部材20bをモノパイル2bの内周面に押し付けることで止水される。モノパイル2b内には水が満たされているため、吊り用部材18bは開閉部182を機械式の遠隔操作により拡径可能とし、水中無人作業でモノパイル2b内に固定する。
【0049】
図11(a)は、モノパイル2bの周囲の地盤1を泥水23で置換する工程を示す図である。モノパイル2bに吊り用部材18bを固定したら、図11(a)に示すように地盤改良施工機14の注入ロッド15でケーシングパイプ10とモノパイル2bとの間に泥水23を攪拌噴射する。これにより、ケーシングパイプ10とモノパイル2bとの間の地盤1が泥水23で置換され、モノパイル2bの周囲の摩擦抵抗が減少する。
【0050】
図11(b)は、モノパイル2bを引き抜く工程を示す図である。モノパイル2bの周囲を泥水23で置換したら、泥水23による浮力を効かせた状態で、モノパイル2bおよび標準ケーシングパイプ11を全周回転掘削機13で引き上げて地盤1との縁切りをし、図示しないクレーンで図11(a)に示すようにモノパイル2bおよび標準ケーシングパイプ11を吊り上げ、地盤1から引き抜く。鋼製のモノパイル2bは、内部をドライアップすると泥水23による浮力で完全に浮いてしまうため、モノパイル2bを吊り上げる間は、モノパイル2bの内部の水量を調整することによって内部の水を含むモノパイル2bの重量と泥水23による浮力とのバランスを取り、モノパイル2bに適切な大きさの浮力を付与する。第2の実施形態ではケーシングパイプ10とモノパイル2bとの間にケーシングパイプ10の下端側から海水が流入することがあるが、海水で希釈された泥水23も水より比重が重い流体である。
【0051】
モノパイル2bを引き抜いて撤去したら、ケーシングパイプ10内に埋め戻し用の砂を投入して地盤1の表面まで埋め戻しを行い、必要に応じてケーシングパイプ10内の泥水23を海水と置換する。その後、全周回転掘削機13によりケーシングパイプ10を引き抜く。
【0052】
このように、第2の実施形態によれば、ケーシングパイプ10とモノパイル2bとの間に泥水23を注入することにより、モノパイル2bの周囲の摩擦抵抗を大幅に減少させることができる。また、モノパイル2bに吊り用部材18bを固定して止水性を確保した状態で内部の水量を調整することにより、適切な大きさの浮力を付与しつつモノパイル2bを引き抜くことができる。そのため、モノパイル2bを短期間で確実に撤去することができ、地盤1内の空間開発の自由度を広げることができる。なお、モノパイル2bの撤去の場合にも、ケーソンの場合と同様に地盤改良及びモノパイル2b内部のドライアップによって、吊り用部材をモノパイルに固定してもよい。
【0053】
また、第1、第2の実施形態では、ケーソン2、2aやモノパイル2bを地盤1から引き抜く際に、水上で切断しながら上方に引き上げてもよい。また、ケーソン2、2aやモノパイル2bは、全体を撤去せず、所定の位置まで引き抜いて水中に残置してもよい。
【0054】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0055】
1………地盤
2、2a………ケーソン
2b………モノパイル
3………頂版コンクリート
4、4a………側壁コンクリート
5、5a………底版コンクリート
6………刃口部
7………中埋めコンクリート
8………中埋め材
9………橋脚
10………ケーシングパイプ
11………標準ケーシングパイプ
12………連結材
13………全周回転掘削機
14………地盤改良施工機
15………注入ロッド
16………改良地盤
17………ハンマーグラブ
18、18a、18b………吊り用部材
19………シャフト孔
20、20a、20b………止水部材
21、21a………固定部材
22………固定用孔
23………泥水
24………吊環
25………液面
26、26a………上端
27、27a………下端
28………砂
30………既設基礎撤去システム
31………先端部
181………円盤部
182………開閉部
183………ヒンジ部
184………筒状部
図1
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