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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-12
(45)【発行日】2025-03-21
(54)【発明の名称】絶縁電線の製造方法及び絶縁電線の製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/16 20060101AFI20250313BHJP
【FI】
H01B13/16 B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022507192
(86)(22)【出願日】2021-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2021009073
(87)【国際公開番号】W WO2021182418
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2020040494
(32)【優先日】2020-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309019534
【氏名又は名称】住友電工ウインテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】中澤 善洋
(72)【発明者】
【氏名】岩本 昂大
【審査官】小林 秀和
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-252870(JP,A)
【文献】特開平09-327886(JP,A)
【文献】特開2014-073638(JP,A)
【文献】特開2014-002888(JP,A)
【文献】特開2014-001420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状の導体をその軸方向に走行させつつ、絶縁材料及び溶媒を含むワニスをこの導体に塗布する工程と、
上記塗布する工程で塗布された上記ワニスをその溶媒の沸点未満の温度に維持しつつ昇温する工程と、
上記昇温する工程後に上記ワニスの温度と上記溶媒の沸点との温度差を維持しつつ上記溶媒を蒸発させる工程と、
上記蒸発させる工程後に上記絶縁材料を硬化させる工程と
を備える絶縁電線の製造方法。
【請求項2】
上記昇温する工程で誘導加熱器を用いて上記導体を加熱する請求項1に記載の絶縁電線の製造方法。
【請求項3】
上記硬化させる工程で誘導加熱器を用いて上記導体を加熱する請求項1又は請求項2に記載の絶縁電線の製造方法。
【請求項4】
上記蒸発させる工程での上記溶媒の蒸発を上記昇温する工程で加熱した上記導体の余熱により行う請求項1、請求項2又は請求項3に記載の絶縁電線の製造方法。
【請求項5】
線状の導体をその軸方向に走行させつつ、絶縁材料及び溶媒を含むワニスをこの導体に塗布する塗布部と、
上記塗布部より上記導体の走行方向下流側に設置され、上記ワニスを上記溶媒の沸点未満の温度に維持しつつ昇温させる第1誘導加熱器と、
上記第1誘導加熱器より上記導体の走行方向下流側に設置され、上記ワニスに含まれる絶縁材料を硬化可能な第2誘導加熱器と
を備え、
上記第1誘導加熱器と上記第2誘導加熱器とが離間して配置されており、
上記第1誘導加熱器と上記第2誘導加熱器との間の領域で、上記ワニスの温度と上記溶媒の沸点との温度差を維持しつつ上記溶媒を蒸発させる絶縁電線の製造装置。
【請求項6】
上記第1誘導加熱器と上記第2誘導加熱器との離間距離が50cm以上である請求項5に記載の絶縁電線の製造装置。
【請求項7】
軸方向に走行させる線状の導体の走行方向上流側から下流側へ直列に配置される1又は複数の第1製造ユニット及び1又は複数の第2製造ユニットと、
上記第1製造ユニット及び上記第2製造ユニットを制御する制御部と
を備え、
上記第1製造ユニット及び上記第2製造ユニットが、それぞれ
上記導体を走行させつつ、絶縁材料及び溶媒を含むワニスをこの導体に塗布する塗布部と、
上記塗布部より上記導体の走行方向下流側に設置され、上記ワニスを加熱可能な第1加熱部と
を有し、
上記第1製造ユニットが、上記導体の走行方向最下流側に設置され、上記ワニスに含まれる絶縁材料を硬化可能な第2加熱部をさらに有し、
上記制御部が、ワニスをその溶媒の沸点未満の温度に維持しつつ昇温するように上記第1加熱部を制御し、上記第1誘導加熱部の下流側で、上記ワニスの温度と上記溶媒の沸点との温度差を維持しつつ上記溶媒を蒸発させ、その後上記絶縁材料を硬化させるように上記第2加熱部を制御する絶縁電線の製造装置。
【請求項8】
上記第1製造ユニットの第1加熱部及び第2加熱部のうち少なくとも一方が誘導加熱器である請求項7に記載の絶縁電線の製造装置。
【請求項9】
上記第1製造ユニット及び上記第2製造ユニットが、それぞれ上記第1加熱部より上記導体の走行方向下流側に設置され、上記溶媒を蒸発可能な第3加熱部を有し、
上記制御部が、上記ワニスの温度と上記溶媒の沸点との上記第1加熱部での温度差を維持しつつ上記溶媒を蒸発させるように上記第3加熱部を制御する請求項7又は請求項8に記載の絶縁電線の製造装置。
【請求項10】
上記第1製造ユニットが、上記導体の走行方向最下流側に配置されている請求項7、請求項8又は請求項9に記載の絶縁電線の製造装置。
【請求項11】
上記第1製造ユニットが、上記導体の走行方向最上流側に配置されている請求項7から請求項10のいずれか1項に記載の絶縁電線の製造装置。
【請求項12】
1又は2の上記第1製造ユニットで構成される第1製造ユニット群と、
1又は複数の上記第2製造ユニットで構成され、上記第1製造ユニット群に連続して配置される第2製造ユニット群と
を有する請求項7から請求項11のいずれか1項に記載の絶縁電線の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、絶縁電線の製造方法及び絶縁電線の製造装置に関する。
本出願は、2020年3月10日出願の日本出願第2020-040494号に基づく優先権を主張し、上記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
線状の導体を絶縁塗料(ワニス)で被覆した絶縁電線が知られている。この絶縁電線は、線状の導体をその軸方向に走行させつつ、導体の外周面へのワニスの塗布及び焼付を絶縁被膜が所定の厚さに達するまで繰り返し行うことで製造される。
【0003】
このワニスの塗布及び焼付には、一般に熱風循環式の焼付装置が用いられている(例えば特開平9-35556号公報、特開2003-187658号公報等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-35556号公報
【文献】特開2003-187658号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様に係る絶縁電線の製造方法は、線状の導体をその軸方向に走行させつつ、絶縁材料及び溶媒を含むワニスをこの導体に塗布する工程と、上記塗布する工程で塗布された上記ワニスをその溶媒の沸点未満の温度に維持しつつ昇温する工程と、上記昇温する工程後に上記ワニスの温度と上記溶媒の沸点との温度差を維持しつつ上記溶媒を蒸発させる工程と、上記蒸発させる工程後に上記絶縁材料を硬化させる工程とを備える。
【0006】
本開示の別の一態様に係る絶縁電線の製造装置は、線状の導体をその軸方向に走行させつつ、絶縁材料及び溶媒を含むワニスをこの導体に塗布する塗布部と、上記塗布部より上記導体の走行方向下流側に設置され、上記ワニスを加熱可能な第1誘導加熱器と、上記第1誘導加熱器より上記導体の走行方向下流側に設置され、上記ワニスに含まれる絶縁材料を硬化可能な第2誘導加熱器とを備え、上記第1誘導加熱器と上記第2誘導加熱器とが離間して配置されている。
【0007】
本開示のさらに別の一態様に係る絶縁電線の製造装置は、軸方向に走行させる線状の導体の走行方向上流側から下流側へ直列に配置される1又は複数の第1製造ユニット及び1又は複数の第2製造ユニットと、上記第1製造ユニット及び上記第2製造ユニットを制御する制御部とを備え、上記第1製造ユニット及び上記第2製造ユニットが、それぞれ上記導体を走行させつつ、絶縁材料及び溶媒を含むワニスをこの導体に塗布する塗布部と、上記塗布部より上記導体の走行方向下流側に設置され、上記ワニスを加熱可能な第1加熱部とを有し、上記第1製造ユニットが、上記導体の走行方向最下流側に設置され、上記ワニスに含まれる絶縁材料を硬化可能な第2加熱部をさらに有し、上記制御部が、ワニスをその溶媒の沸点未満の温度に維持しつつ昇温するように上記第1加熱部を制御し、上記絶縁材料を硬化させるように上記第2加熱部を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の一態様に係る絶縁電線の製造方法を示すフロー図である。
図2図2は、本開示の一態様に係る絶縁電線の製造装置の模式的構成図である。
図3図3は、図2の絶縁電線の製造装置の塗布部、第1誘導加熱器及び第2誘導加熱器の配置関係を示す模式図である。
図4図4は、図3の塗布部における塗布装置の詳細構成を示す模式図である。
図5図5は、図2とは異なる態様に係る絶縁電線の製造装置の模式的構成図である。
図6図6は、図5の絶縁電線の製造装置の第1製造ユニット、第2製造ユニット及び制御部の配置関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示が解決しようとする課題]
熱風循環式の焼付装置を用いた絶縁電線の製造方法では、熱風からの伝熱により導体を比較的緩やかに加熱することで、絶縁電線を製造している。この従来の製造方法では、ワニスの発泡を抑止できるものの、加熱が緩やかであるため製造に時間を要し、製造効率が低い。
【0010】
本開示は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、ワニスの発泡を抑止しつつ、製造効率を高めた絶縁電線の製造方法及び絶縁電線の製造装置の提供を目的とする。
【0011】
[本開示の効果]
本開示の絶縁電線の製造方法及び絶縁電線の製造装置は、ワニスの発泡を抑止しつつ、製造効率を高められる。
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
本開示の一態様に係る絶縁電線の製造方法は、線状の導体をその軸方向に走行させつつ、絶縁材料及び溶媒を含むワニスをこの導体に塗布する工程と、上記塗布する工程で塗布された上記ワニスをその溶媒の沸点未満の温度に維持しつつ昇温する工程と、上記昇温する工程後に上記ワニスの温度と上記溶媒の沸点との温度差を維持しつつ上記溶媒を蒸発させる工程と、上記蒸発させる工程後に上記絶縁材料を硬化させる工程とを備える。
【0013】
当該絶縁電線の製造方法では、導体に塗布後のワニスをその沸点未満の温度に維持しつつ昇温した後、上記沸点との温度差を維持しつつ溶媒を蒸発させる。当該絶縁電線の製造方法では、このような温度プロファイルとすることで、ワニスの発泡を抑止することができる。また、当該絶縁電線の製造方法では、昇温する工程での加熱速度を高めることで溶媒が蒸発するまでの時間を短縮できるので、製造効率を高められる。
【0014】
上記昇温する工程で誘導加熱器を用いて上記導体を加熱するとよい。このように上記工程での加熱に誘導加熱器を用いることで、加熱速度を容易に高められるので、製造効率をさらに高められる。
【0015】
上記硬化させる工程で誘導加熱器を用いて上記導体を加熱するとよい。このように上記工程での加熱に誘導加熱器を用いることで、加熱速度を容易に高められるので、製造効率をさらに高められる。
【0016】
上記蒸発させる工程での上記溶媒の蒸発を上記昇温する工程で加熱した上記導体の余熱により行うとよい。このように上記蒸発させる工程での上記溶媒の蒸発を上記昇温する工程で加熱した上記導体の余熱により行うことで、製造コストを低減できる。
【0017】
本開示の別の一態様に係る絶縁電線の製造装置は、線状の導体をその軸方向に走行させつつ、絶縁材料及び溶媒を含むワニスをこの導体に塗布する塗布部と、上記塗布部より上記導体の走行方向下流側に設置され、上記ワニスを加熱可能な第1誘導加熱器と、上記第1誘導加熱器より上記導体の走行方向下流側に設置され、上記ワニスに含まれる絶縁材料を硬化可能な第2誘導加熱器とを備え、上記第1誘導加熱器と上記第2誘導加熱器とが離間して配置されている。
【0018】
当該絶縁電線の製造装置は、導体に塗布されたワニスを、その溶媒の沸点未満の温度に維持しつつ第1誘導加熱器を用いて昇温させることができる。また、当該絶縁電線の製造装置では、第1誘導加熱器で昇温されたワニスが、第1誘導加熱器と第2誘導加熱器との離間領域を通過する際に、導体の余熱により上記溶媒を蒸発させることができる。さらに、当該絶縁電線の製造装置では、第2誘導加熱器で、上記溶媒が蒸発した絶縁材料を硬化させることができる。従って、当該絶縁電線の製造装置を用いることで、ワニスの発泡を抑止しつつ、製造効率を高めることができる。
【0019】
上記第1誘導加熱器と上記第2誘導加熱器との離間距離としては、50cm以上が好ましい。このように上記第1誘導加熱器と上記第2誘導加熱器との離間距離を上記下限以上とすることで、ワニスに含まれる溶媒をより確実に蒸発させることができる。
【0020】
本開示のさらに別の一態様に係る絶縁電線の製造装置は、軸方向に走行させる線状の導体の走行方向上流側から下流側へ直列に配置される1又は複数の第1製造ユニット及び1又は複数の第2製造ユニットと、上記第1製造ユニット及び上記第2製造ユニットを制御する制御部とを備え、上記第1製造ユニット及び上記第2製造ユニットが、それぞれ上記導体を走行させつつ、絶縁材料及び溶媒を含むワニスをこの導体に塗布する塗布部と、上記塗布部より上記導体の走行方向下流側に設置され、上記ワニスを加熱可能な第1加熱部とを有し、上記第1製造ユニットが、上記導体の走行方向最下流側に設置され、上記ワニスに含まれる絶縁材料を硬化可能な第2加熱部をさらに有し、上記制御部が、ワニスをその溶媒の沸点未満の温度に維持しつつ昇温するように上記第1加熱部を制御し、上記絶縁材料を硬化させるように上記第2加熱部を制御する。
【0021】
当該絶縁電線の製造装置は、第1製造ユニット及び第2製造ユニットの第1加熱部で、制御部がワニスの発泡を抑止しつつ加熱速度を高めることで、溶媒が蒸発するまでの時間を短縮できる。また、当該絶縁電線の製造装置は、ワニスに含まれる絶縁材料を硬化させる第2加熱部を有する第1製造ユニットと、第2加熱部を有さない第2製造ユニットとを直列に配置することで、導体に最適な熱量を供給することが可能となる。従って、当該絶縁電線の製造装置は、製造効率を高めつつ、低電力化を図ることができる。
【0022】
上記第1製造ユニットの第1加熱部及び第2加熱部のうち少なくとも一方が誘導加熱器であるとよい。このように第1製造ユニットの第1加熱部及び第2加熱部のうち少なくとも一方を誘導加熱器とすることで、加熱速度を容易に高められるので、導体の走行距離を短くすることができ、当該絶縁電線の製造装置を小型化できるとともに製造効率をさらに高められる。
【0023】
上記第1製造ユニット及び上記第2製造ユニットが、それぞれ上記第1加熱部より上記導体の走行方向下流側に設置され、上記溶媒を蒸発可能な第3加熱部を有し、上記制御部が、上記ワニスの温度と上記溶媒の沸点との上記第1加熱部での温度差を維持しつつ上記溶媒を蒸発させるように上記第3加熱部を制御するとよい。このように第3加熱部を設けて上記ワニスの温度と上記溶媒の沸点との上記第1加熱部での温度差を維持しつつ上記溶媒を蒸発させることで、さらに製造効率を高めることができる。
【0024】
上記第1製造ユニットが、上記導体の走行方向最下流側に配置されているとよい。このように上記第1製造ユニットを上記導体の走行方向最下流側に配置することで、最後に絶縁材料を硬化させることができるので、製造される絶縁電線の品質の安定性を確保し易い。
【0025】
上記第1製造ユニットが、上記導体の走行方向最上流側に配置されているとよい。このように上記第1製造ユニットを上記導体の走行方向最上流側に配置することで、最初に絶縁材料を硬化させることができるので、導体と絶縁材料との密着性を高め易い。
【0026】
1又は2の上記第1製造ユニットで構成される第1製造ユニット群と、1又は複数の上記第2製造ユニットで構成され、上記第1製造ユニット群に連続して配置される第2製造ユニット群とを有するとよい。このように1又は2の第1製造ユニットを離散的に配置することで、低電力化を図りつつ、製造される絶縁電線の厚さ方向の品質の均一性を高め易い。
【0027】
なお、溶媒の「沸点」とは、101.3kPa(1気圧)下での沸点を意味する。なお、ワニスの場合、溶媒に溶けている絶縁材料の濃度によりその沸騰する温度が変化する、いわゆる沸点上昇が生じるが、上記溶媒の「沸点」とは、この沸点上昇が生じている状態の温度を指す。つまり、上記溶媒の「沸点」は、ワニスの濃度に応じて変化する。
【0028】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態に係る絶縁電線の製造方法及び絶縁電線の製造装置について図面を参照しつつ詳説する。
【0029】
〔第1実施形態〕
図1に示す絶縁電線の製造方法は、線状の導体をその軸方向に走行させつつ、絶縁材料及び溶媒を含むワニスをこの導体に塗布する工程S1と、上記塗布する工程後にワニスをその溶媒の沸点未満の温度に維持しつつ昇温する工程S2と、上記昇温する工程後に上記ワニスの温度と上記溶媒の沸点との温度差を維持しつつ上記溶媒を蒸発させる工程S3と、上記蒸発させる工程後に上記絶縁材料を硬化させる工程S4とを備える。当該絶縁電線の製造方法は、図2に示すように、それ自体が本開示の一実施形態である絶縁電線の製造装置を用いて行うことができる。
【0030】
<絶縁電線の製造装置>
図2に示す絶縁電線の製造装置1は、平行に配設され、1又は複数周回架け渡される線状の導体Wを走行させる一対のドラム10(第一ドラム10a及び第二ドラム10b)と、線状の導体Wをその軸方向に走行させつつ、絶縁材料及び溶媒を含むワニスをこの導体Wに塗布する塗布部20と、塗布部20より導体Wの走行方向下流側に設置され、上記ワニスを加熱可能な第1誘導加熱器30と、第1誘導加熱器30より導体Wの走行方向下流側に設置され、上記ワニスに含まれる絶縁材料を硬化可能な第2誘導加熱器40と、導体Wを第一ドラム10aに送り出す送出部50と、絶縁層を形成された導体W、つまり絶縁電線を巻き取る巻取部60とを備える。
【0031】
(導体)
導体Wとしては、特に材質及び構成が限定されるわけではないが、例えば銅線、錫めっき銅線、アルミ線、アルミ合金線、鋼心アルミ線、カッパーフライ線、ニッケルめっき銅線、銀めっき銅線、銅覆アルミ線等を用いることができる。また、導体Wの断面形状としては、特に制限されず、円形状(丸線)、楕円形状、及び四角形状(平角線)等の多角形状等とすることができる。
【0032】
(送出部)
送出部50は、リールに巻かれた導体Wを第一ドラム10aに送り出す。送出部50のリールは、駆動式としてもよく、非駆動式としてもよい。送出部50のリールを駆動式とする場合は、第一ドラム10aとの間の導体Wに過度な弛みや張力が発生しないように、送出部50の駆動を制御することが好ましい。送出部50の駆動には、サーボモーター及びステッピングモーター等の公知のモーターを用いることができる。
【0033】
(ドラム)
第一ドラム10aと第二ドラム10bとは、塗布部20、第1誘導加熱器30及び第2誘導加熱器40を挟んで上下方向に対向して配置されており、下側に第一ドラム10aが配置され、上側に第二ドラム10bが配置されている。この第一ドラム10aと第二ドラム10bとは、導体Wを周回させる。この第一ドラム10a及び第二ドラム10bは、図2の紙面に垂直な方向に延伸しており、導体Wを掛ける位置をドラム10の軸方向で紙面奥側に1周毎に一定間隔ずらすことで導体Wを周回させることができるようになっている。第一ドラム10a及び第二ドラム10b間を一定回数周回させて表面に絶縁層が形成された導体W、即ち、絶縁電線は、最終的には導体Wの走行方向下流側に設けられた巻取部60に巻き取られる。ドラム10の材質としては、金属や樹脂等を用いることができる。第一ドラム10aは、駆動ドラムであり、図示しない駆動部によって回転駆動する。第二ドラム10bは、回転自在に支持されており、導体Wの走行に伴って回転する。
【0034】
第一ドラム10aと第二ドラム10bとに挟まれて設置されている塗布部20、第1誘導加熱器30及び第2誘導加熱器40の構成例を図3に示す。
【0035】
上述のように導体Wは、第一ドラム10a及び第二ドラム10b間を一定回数周回し、周回の都度、塗布部20に設けられた塗布装置21及び第1誘導加熱器30をこの順で通過する。また、図3に示す絶縁電線の製造装置では、導体Wは、塗布部20内の塗布装置21及び第1誘導加熱器30を3回連続で通過した後に第2誘導加熱器40を通過するように構成されている。
【0036】
当該絶縁電線の製造装置1では、塗布装置21で塗布したワニスの溶媒を第1誘導加熱器30で昇温して蒸発させることでワニスを乾燥させ、第2誘導加熱器40で上記ワニスに含まれる絶縁材料を加熱して硬化させる。この場合、上述のように塗布装置21及び第1誘導加熱器30で導体Wへの塗布及び乾燥を一定回数繰り返した後に、第2誘導加熱器40で硬化を行う構成とすることで、硬化に要する時間を短縮できる。これにより絶縁層の絶縁性の低下を抑止しつつ、絶縁電線の製造能力を向上できる。
【0037】
図3では、導体Wが周回毎に異なる塗布装置21を通過するように塗布部20が構成されているが、例えば同一種類で同一濃度のワニスを塗布する場合であれば、導体Wが周回毎に同一の塗布装置21を通過する構成とすることもできる。また、導体Wの周回数よりも少ない複数の塗布装置21を備え、1つの塗布装置21に対し1回又は複数回、導体Wが通過する構成としてもよい。
【0038】
逆に図3では、導体Wが周回毎に同一の第1誘導加熱器30を通過するように当該絶縁電線の製造装置1が構成されているが、例えば周回毎に温度管理を行う場合であれば、導体Wが周回毎に異なる第1誘導加熱器30を通過する構成とすることもできる。また、導体Wの周回数よりも少ない複数の第1誘導加熱器30を備え、1つの第1誘導加熱器30に対し、導体Wが1回又は複数回通過する構成としてもよい。
【0039】
(塗布部)
塗布部20に設けられる塗布装置21は、図4に示すように、第一ドラム10a及び第二ドラム10bを周回する導体Wの外周面にワニスを塗布する。塗布装置21は、ワニスを貯留するワニス槽21aと、ワニス槽21aの導体Wの走行方向下流側に設けられ、ワニス槽21aを通過した導体Wが挿通される塗布ダイス21bとを備える。
【0040】
ワニス槽21aの底部には、導体Wを貫通させる貫通孔が設けられており、貫通孔を貫通した導体Wの外周面にはワニス槽21aのワニスが塗布される。なお、1つの塗布装置21に対し導体Wの通過回数が複数である場合は、この貫通孔は、導体Wが周回し易いように所望の間隔を空けて上記通過回数だけ配列される。
【0041】
導体Wの外周面に塗布されたワニスは、導体Wが塗布ダイス21bに挿通されることでダイス孔の径に応じてほぼ均一な厚さに整えられる。この塗布ダイス21bは、1つの塗布装置21に対し導体Wの通過回数に関わらず、導体Wの周回ごとに設けられる。つまり、導体Wの通過回数と同数の塗布ダイス21bが設けられる。塗布ダイス21bのダイス孔の径は、導体Wの走行方向下流側に位置する塗布ダイス21bほど大きくされる。このように塗布ダイス21bの径を下流側に向かって徐々に大きくすることで、導体Wの外周面に形成される被覆を徐々に厚くし、一定の厚さの絶縁層を形成することができる。
【0042】
従って、塗布ダイス21bの個数は、1回当たりに形成される絶縁層の厚さと、必要な絶縁層の総厚とから決定される。そして、導体Wの周回回数は、この塗布ダイス21bの個数と同数とできる。
【0043】
上記ワニスとしては、絶縁層を構成する樹脂(絶縁材料)を溶媒で溶解したものが用いられる。この構成樹脂としては、絶縁性が高く、耐熱性が高い樹脂であれば特に限定されない。具体的には、例えばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド等を挙げることができる。また、溶媒としては、例えばピロリドンやクレゾール等を用いることができる。
【0044】
(第1誘導加熱器)
第1誘導加熱器30は、磁界の変化(交流磁界)により導体Wに発生する電磁誘導電流を用いて直接導体Wを加熱する。第1誘導加熱器30の周波数(交流磁界を発生させるための電流の周波数)としては、加熱効率や設備費用の観点から適宜決定されるが、例えば10kHz以上10MHz以下とできる。
【0045】
誘導加熱では、磁界を生じさせるためコイルに流す電流の大きさに比例して磁界が強まり、磁界の強度に比例して導体Wに誘導される電流も大きくなる。導体Wの発熱量は、この誘導電流の2乗に比例するから、第1誘導加熱器30では、磁界を生じさせるためのコイルに流す電流の2乗に比例して導体Wを加熱することができる。このため、必要な走行速度に比例した発熱を生ずるように電流を増やすことで、導体Wが第1誘導加熱器30内部を通過する距離(第1誘導加熱器30の加熱距離)を伸ばすことなく、導体Wに必要な加熱が可能となる。また、直接加熱であるため、設備の耐熱性に起因して加熱温度が制約されることが生じ難い。
【0046】
第1誘導加熱器30は、導体Wの加熱温度を独立して制御可能な複数の加熱領域を有する構成とすることもできる。このように複数の加熱領域を有することで、きめ細かい加熱温度の制御が可能となる。
【0047】
(第2誘導加熱器)
第2誘導加熱器40としては、第1誘導加熱器30と同様のものを用いることができる。
【0048】
第1誘導加熱器30と第2誘導加熱器40とは離間して配置されている。第1誘導加熱器30と第2誘導加熱器40との離間距離(図3の距離D)は、第1誘導加熱器30から送出された導体Wの余熱により上記溶媒の蒸発が完了するに足る距離とされる。
【0049】
具体的には、第1誘導加熱器30と第2誘導加熱器40との離間距離Dの下限としては、50cmが好ましく、1mがより好ましい。このように第1誘導加熱器30と第2誘導加熱器40との離間距離Dを上記下限以上とすることで、ワニスに含まれる溶媒をより確実に蒸発させることができる。一方、上記離間距離Dの上限としては、特に限定されないが、離間距離Dを大きくとると、溶媒の蒸発効率が低下するうえに装置の全長が長くなり装置が不必要に大型化するため、例えば5mとされる。
【0050】
第1誘導加熱器30と第2誘導加熱器40との離間領域で、適度な風速及び風向を有する風を当てることで、溶媒の蒸発効率を高めることができる。上記風向としては、導体Wの軸方向に対して垂直方向が好ましい。
【0051】
上記風速の上限としては、3m/秒が好ましい。上記風向及び上記風速を上述のようにすることで、風を当てるためのエネルギーの増加を抑止しつつ、溶媒の蒸発効率を高められる。なお、上記風速の下限は、特に限定されず、0m/秒、つまり風を当てない条件とすることも可能である。
【0052】
また、上記風の温度(風温)の下限としては、10℃が好ましく、20℃がより好ましい。一方、上記風温の上限としては、200℃が好ましく、180℃がより好ましく、150℃がさらに好ましい。上記風温が上記下限未満であると、導体Wが冷え過ぎて溶媒が十分に蒸発しないおそれがある。逆に、風温が上記上限を超えると、風温で溶媒が加熱され過ぎて沸点を超えるおそれや、エネルギーが不必要に増加するおそれがある。なお、エネルギー消費の観点から、上記風温を室温、つまり加熱しない自然の温度としてもよい。
【0053】
(巻取部)
巻取部60は、導体Wを引っ張ってリールに巻き取る。この巻取部60の引張力によって、導体Wが塗布部20、第1誘導加熱器30及び第2誘導加熱器40間を周回する。巻取部60の駆動には、サーボモーター及びステッピングモーター等の公知のモーターを用いることができる。
【0054】
<塗布する工程>
塗布する工程S1では、線状の導体Wをその軸方向に走行させつつ、絶縁材料及び溶媒を含むワニスをこの導体Wに塗布する。具体的には、導体Wを送出部50から送り出し、第一ドラム10aを経由させ、塗布装置21を走行させる。
【0055】
導体Wは、ワニス槽21aの底部の貫通穴から挿入され、ワニス槽21aに貯留されたワニス中を通過することによって外周面に絶縁ワニスが塗布される。そして、導体Wの外周面に塗布されたワニスは、導体Wが塗布ダイス21bに挿通されることでダイス孔の径
に応じてほぼ均一な厚さに整えられる。
【0056】
<昇温する工程>
昇温する工程S2では、塗布する工程S1で塗布された上記ワニスをその溶媒の沸点未満の温度に維持しつつ昇温する。上記ワニス及び導体Wの昇温後の温度が、所望値となるまで継続される。
【0057】
当該絶縁装置の製造方法では、昇温する工程S2で第1誘導加熱器30を用いて導体Wを加熱する。具体的には、塗布ダイス21bを通過した導体Wを第1誘導加熱器30を走行させる。このように昇温する工程S2での加熱に第1誘導加熱器30を用いることで、加熱速度を容易に高められるので、絶縁電線の製造効率をさらに高められる。
【0058】
上記ワニス及び導体Wの昇温後の温度は、上記溶媒の沸点未満の範囲で、上記沸点に近いほどよい。導体Wの昇温後の温度と上記溶媒の沸点との温度差の上限としては、10℃が好ましく、7℃がより好ましい。上記温度差が上記上限を超えると、溶媒の蒸発効率が低下するおそれがある。一方、上記温度差の下限としては、特に限定されず、0℃であってもよいが、温度の制御誤差を吸収できるように5℃であることが好ましい。
【0059】
上記ワニス及び導体Wの平均昇温速度の下限としては、50℃/秒が好ましく、100℃/秒がより好ましい。このように上記ワニス及び導体Wの平均昇温速度を上記下限以上とすることで、絶縁電線の製造効率をさらに高められる。一方、上記ワニス及び導体Wの平均昇温速度の上限としては、特に限定されないが、制御性やエネルギー効率の観点から、例えば500℃/秒とされる。
【0060】
<蒸発させる工程>
蒸発させる工程S3では、昇温する工程S2後に上記ワニスの温度と上記溶媒の沸点との温度差を維持しつつ上記溶媒を蒸発させる。この工程は溶媒が蒸発し終える(例えばワニスに対する残留溶媒が、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下になる)まで継続される。
【0061】
当該絶縁電線の製造方法では、蒸発させる工程S3での上記溶媒の蒸発を昇温する工程S2で加熱した導体Wの余熱により行う。つまり、この工程は、第1誘導加熱器30と第2誘導加熱器40との離間領域で行われる。このように蒸発させる工程S3での上記溶媒の蒸発を昇温する工程S2で加熱した導体Wの余熱により行うことで、製造コストを低減できる。
【0062】
なお、導体Wの余熱により蒸発させるため、ワニスの温度と溶媒の沸点との温度差は、厳密にはわずかに広がるが、導体Wの比熱によりその大きさは小さく、上記温度差は実質的に維持される。ここで、温度差が「実質的に維持される」とは、温度差の変化が5℃以下、好ましくは3℃以下、さらに好ましくは1℃以下であることを指す。この温度差は、第1誘導加熱器30と第2誘導加熱器40との離間距離Dや、風を当てる場合にあっては、風向、風速及び風温により制御することができる。
【0063】
<硬化させる工程>
硬化させる工程S4では、蒸発させる工程S3後に上記絶縁材料を硬化させる。
【0064】
当該絶縁装置の製造方法では、硬化させる工程S4で第2誘導加熱器40を用いて導体Wを加熱する。この加熱により絶縁材料を硬化させる。具体的には、第1誘導加熱器30と第2誘導加熱器40との離間領域を通過した導体Wを第2誘導加熱器40を走行させる。このように硬化させる工程S4での加熱に第2誘導加熱器40を用いることで、加熱速度を容易に高められるので、絶縁電線の製造効率をさらに高められる。
【0065】
これにより蒸発させる工程S3で溶媒が蒸発した後のワニスに含まれる樹脂(絶縁材料)が硬化し、導体Wの外周に絶縁被覆が形成される。
【0066】
硬化させる工程S4での導体Wの温度は、ワニスに含まれる樹脂を硬化できる温度であり、例えば150℃以上600℃以下である。
【0067】
なお、塗布する工程S1、昇温する工程S2、蒸発させる工程S3及び硬化させる工程S4は、この順に繰り返し行ってもよい。
【0068】
以上の工程を経て、導体Wの外周に絶縁層が形成され、絶縁電線を製造することができる。
【0069】
<利点>
当該絶縁電線の製造方法では、導体Wに塗布後のワニスをその沸点未満の温度に維持しつつ昇温した後、上記沸点との温度差を維持しつつ溶媒を蒸発させる。当該絶縁電線の製造方法では、このような温度プロファイルとすることで、ワニスの発泡を抑止することができる。また、当該絶縁電線の製造方法では、昇温する工程S2での加熱速度を高めることで溶媒が蒸発するまでの時間を短縮できるので、製造効率を高められる。
【0070】
当該絶縁電線の製造装置1は、導体Wに塗布されたワニスを、その溶媒の沸点未満の温度に維持しつつ第1誘導加熱器30を用いて昇温させることができる。また、当該絶縁電線の製造装置1では、第1誘導加熱器30で昇温されたワニスが、第1誘導加熱器30と第2誘導加熱器40との離間領域を通過する際に、導体Wの余熱により上記溶媒を蒸発させることができる。さらに、当該絶縁電線の製造装置1では、第2誘導加熱器40で、上記溶媒が蒸発した絶縁材料を硬化させることができる。従って、当該絶縁電線の製造装置1を用いることで、ワニスの発泡を抑止しつつ、製造効率を高めることができる。
【0071】
〔第2実施形態〕
図5及び図6に示す絶縁電線の製造装置2は、平行に配設され、1又は複数周回架け渡される線状の導体Wを走行させる一対のドラム10(第一ドラム10a及び第二ドラム10b)と、軸方向に走行させる線状の導体Wの走行方向上流側から下流側へ直列に配置される複数の第1製造ユニット群70及び複数の第2製造ユニット群80と、第1製造ユニット群70に含まれる第1製造ユニット70a及び第2製造ユニット群80に含まれる第2製造ユニット80aを制御する制御部90と、導体Wを第一ドラム10aに送り出す送出部50と、絶縁層を形成された導体W、つまり絶縁電線を巻き取る巻取部60とを備える。
【0072】
<導体、ドラム、送出部、巻取部>
導体W、ドラム10、送出部50及び巻取部60は、第1実施形態の絶縁電線の製造装置1と同様であるので、同一符号を付して詳細説明を省略する。
【0073】
<塗布部>
第1製造ユニット70a及び第2製造ユニット80aは、それぞれ導体Wを走行させつつ、絶縁材料及び溶媒を含むワニスをこの導体Wに塗布する塗布部20を有する。塗布部20は、第1実施形態の絶縁電線の製造装置1と同様に構成できるので、同一符号を付して詳細説明を省略する。なお、塗布部20は、図6に示すように、全ての第1製造ユニット70a及び第2製造ユニット80aに対して共通に設けてもよいし、製造ユニットごとに設けてもよい。
【0074】
<加熱部>
第1製造ユニット70aは、図6に示すように、塗布部20より導体Wの走行方向下流側に設置され、上記ワニスを加熱可能な第1加熱部71と、導体Wの走行方向最下流側に設置され、上記ワニスに含まれる絶縁材料を硬化可能な第2加熱部72と、第1加熱部71より導体Wの走行方向下流側に設置され、上記溶媒を蒸発可能な第3加熱部73とを有する。つまり、第1製造ユニット70aは、導体Wの走行方向下流側に向かって塗布部20、第1加熱部71、第3加熱部73及び第2加熱部72をこの順に有している。
【0075】
第2製造ユニット80aは、図6に示すように、塗布部20より導体Wの走行方向下流側に設置され、上記ワニスを加熱可能な第1加熱部81と、第1加熱部81より導体Wの走行方向下流側に設置され、上記溶媒を蒸発可能な第3加熱部83とを有する。つまり、第2製造ユニット80aは、導体Wの走行方向下流側に向かって塗布部20、第1加熱部81及び第3加熱部83をこの順に有している。
【0076】
第1製造ユニット70aの第1加熱部71、第2加熱部72及び第3加熱部73と、第2製造ユニット80aの第1加熱部81及び第3加熱部83とに用いられる加熱器としては、特に限定されず、加熱炉や誘導加熱器等の各種加熱器を用いることができる。
【0077】
第1製造ユニット70aの第1加熱部71及び第2加熱部72のうち少なくとも一方が誘導加熱器であるとよい。このように第1製造ユニット70aの第1加熱部71及び第2加熱部72のうち少なくとも一方を誘導加熱器とすることで、加熱速度を容易に高められるので、導体Wの走行距離を短くすることができ、当該絶縁電線の製造装置2を小型化できるとともに製造効率をさらに高められる。
【0078】
また、第2製造ユニット80aの第1加熱部81が誘導加熱器であるとよい。このように第2製造ユニット80aの第1加熱部81を誘導加熱器とすることで、加熱速度を容易に高められるので、導体Wの走行距離を短くすることができ、当該絶縁電線の製造装置2を小型化できるとともに製造効率をさらに高められる。
【0079】
特に第1製造ユニット70aの第1加熱部71及び第2加熱部72と、第2製造ユニット80aの第1加熱部81を共に誘導加熱器とすることで、製造効率をさらに高めることができる。
【0080】
一方、第1製造ユニット70aの第3加熱部73及び第2製造ユニット80aの第3加熱部83は、加熱炉であるとよい。上記第3加熱部は、溶媒を蒸発させることを目的とし、導体Wが上記第3加熱部を通過する間、その温度が一定となるように加熱される。上記第3加熱部を加熱炉とすることで、温度を一定とする制御を容易化できる。
【0081】
なお、各加熱部は必ずしも同一の種類である必要はない。例えば第1製造ユニット70aの第1加熱部71は、ユニットによって異なる種類の加熱器を用いることもできる。
【0082】
<制御部>
制御部90は、ワニスをその溶媒の沸点未満の温度に維持しつつ昇温するように第1製造ユニット70aの第1加熱部71及び第2製造ユニット80aの第1加熱部81を制御し、上記絶縁材料を硬化させるように第1製造ユニット70aの第2加熱部72を制御する。また、制御部90は、上記ワニスの温度と上記溶媒の沸点との上記第1加熱部での温度差を維持しつつ上記溶媒を蒸発させるように第1製造ユニット70aの第3加熱部73及び第2製造ユニット80aの第3加熱部83を制御する。
【0083】
制御部90は、例えば各加熱部に設置された温度測定器と、この温度測定器の測定結果に基づいて各加熱部の出力を調整するコントローラにより構成することができる。
【0084】
<第1製造ユニット及び第2製造ユニットの配置>
第1製造ユニット70a及び第2製造ユニット80aの配置は、製造する絶縁電線の種類等に応じて適宜決定されるが、図6に示すように、当該絶縁電線の製造装置2が、1又は2の第1製造ユニット70aで構成される第1製造ユニット群70と、1又は複数の第2製造ユニット80aで構成され、第1製造ユニット群70に連続して配置される第2製造ユニット群80とを有する。このように1又は2の第1製造ユニット70aを離散的に配置することで、低電力化を図りつつ、製造される絶縁電線の厚さ方向の品質の均一性を高め易い。
【0085】
図6に示す絶縁電線の製造装置2では、複数の第1製造ユニット群70及び複数の第2製造ユニット群80を有するが、第1製造ユニット群70及び第2製造ユニット群80の配置数は1であってもよい。また、図6に示す絶縁電線の製造装置2では、全ての第1製造ユニット群70に含まれる第1製造ユニット70aの配置数は1であるが、第1製造ユニット70aの配置数は2であってもよく、あるいは1と2とが混在してもよい。以下、図6に示す絶縁電線の製造装置2の構成をもとに説明する。
【0086】
第2製造ユニット群80に含まれる第2製造ユニット80aの配置数は、複数であることが好ましく、隣接する第1製造ユニット群70の第1製造ユニット70aの配置数より多いことが、より好ましい。これにより、第1製造ユニット70aの配置数が相対的に少なくなるため、低電力化できる。
【0087】
第2製造ユニット群80の第2製造ユニット80aの配置数の下限としては、2が好ましく、3がより好ましい。一方、上記配置数の上限としては、10が好ましく、5がより好ましい。上記配置数が上記下限未満であると、低電力化の効果が不十分となるおそれがある。逆に、上記配置数が上記上限を超えると、絶縁電線の厚さ方向の品質の均一性が低下するおそれがある。
【0088】
また、第2製造ユニット群80の第2製造ユニット80aの配置数は、同数であることが好ましい。このように上記配置数を同数とすることで、絶縁電線の厚さ方向の品質の均一性をさらに高められる。
【0089】
第1製造ユニット70aが、導体Wの走行方向最下流側に配置されているとよい。つまり、第1製造ユニット群70が導体Wの走行方向最下流側に配置されているとよい。このように第1製造ユニット70aを導体Wの走行方向最下流側に配置することで、最後に絶縁材料を硬化させることができるので、製造される絶縁電線の品質の安定性を確保し易い。
【0090】
また、第1製造ユニット70aが、導体Wの走行方向最上流側に配置されているとよい。つまり、第1製造ユニット群70が導体Wの走行方向最上流側に配置されているとよい。このように第1製造ユニット70aを導体Wの走行方向最上流側に配置することで、最初に絶縁材料を硬化させることができるので、導体Wと絶縁材料との密着性を高め易い。
【0091】
<絶縁電線の製造方法>
当該絶縁電線の製造装置2を用いて、図1に示す絶縁電線の製造方法により絶縁電線を製造することができる。すなわち、当該絶縁電線の製造方法は、線状の導体Wをその軸方向に走行させつつ、絶縁材料及び溶媒を含むワニスをこの導体Wに塗布する工程S1と、上記塗布する工程で塗布された上記ワニスをその溶媒の沸点未満の温度に維持しつつ昇温する工程S2と、上記昇温する工程後に上記ワニスの温度と上記溶媒の沸点との温度差を維持しつつ上記溶媒を蒸発させる工程S3と、上記蒸発させる工程後に上記絶縁材料を硬化させる工程S4とを備える。
【0092】
(塗布する工程)
塗布する工程S1は、第1製造ユニット70a及び第2製造ユニット80aの塗布部20で行われる。この工程は、第1実施形態の塗布する工程S1と同様に行うことができる。
【0093】
(昇温する工程)
昇温する工程S2は、第1製造ユニット70aの第1加熱部71及び第2製造ユニット80aの第1加熱部81で行われる。このとき、制御部90は、ワニスをその溶媒の沸点未満の温度に維持しつつ昇温するように上記第1加熱部を制御する。
【0094】
上記ワニス及び導体Wの昇温後の温度及び平均昇温速度は、第1実施形態の昇温する工程S2と同様とすることができる。
【0095】
(蒸発させる工程)
蒸発させる工程S3は、第1製造ユニット70aの第3加熱部73及び第2製造ユニット80aの第3加熱部83で行われる。このとき、制御部90は、上記ワニスの温度と上記溶媒の沸点との上記第1加熱部での温度差を維持しつつ上記溶媒を蒸発させるように上記第3加熱部を制御する。
【0096】
第2製造ユニット80aでは、蒸発させる工程S3の後、導体Wは、次の製造ユニット(第1製造ユニット70a又は第2製造ユニット80a)へ移動する。つまり、第2製造ユニット80aでは、塗布する工程S1、昇温する工程S2及び蒸発させる工程S3が繰り返される。これらの工程を繰り返すことで、導体Wに均質に絶縁材料を積層することができる。
【0097】
(硬化させる工程)
第1製造ユニット70aでは、蒸発させる工程S3に続けて硬化させる工程S4が行われる。この工程は、第2加熱部72で行われる。このとき、制御部90は、上記絶縁材料を硬化させるように第2加熱部72を制御する。
【0098】
これにより蒸発させる工程S3で溶媒が蒸発した後のワニスに含まれる樹脂(絶縁材料)が硬化し、導体Wの外周に絶縁被覆が形成される。
【0099】
硬化させる工程S4での導体Wの温度は、ワニスに含まれる樹脂を硬化できる温度であり、例えば150℃以上600℃以下である。
【0100】
以上の工程により、第1製造ユニット70aを通過するごとに導体Wの外周に硬化した絶縁層が順に積層され、絶縁電線を製造することができる。
【0101】
<利点>
当該絶縁電線の製造装置2は、第1製造ユニット70a及び第2製造ユニット80aの第1加熱部で、制御部90がワニスの発泡を抑止しつつ加熱速度を高めることで、溶媒が蒸発するまでの時間を短縮できる。また、当該絶縁電線の製造装置2は、ワニスに含まれる絶縁材料を硬化させる第2加熱部72を有する第1製造ユニット70aと、第2加熱部を有さない第2製造ユニット80aとを直列に配置することで、導体Wに最適な熱量を供給することが可能となる。従って、当該絶縁電線の製造装置2は、製造効率を高めつつ、低電力化を図ることができる。
【0102】
また、第1製造ユニット70a及び第2製造ユニット80aに第3加熱部を設けて上記ワニスの温度と上記溶媒の沸点との上記第1加熱部での温度差を維持しつつ上記溶媒を蒸発させることで、さらに製造効率を高めることができる。
【0103】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0104】
上記第1実施形態では、昇温する工程及び硬化させる工程での加熱に誘導加熱器を用いる場合を説明したが、その一方あるいは両方に誘導加熱器以外の加熱装置を用いる場合も本開示の意図するところである。
【0105】
上記第1実施形態では、蒸発させる工程での溶媒の蒸発を昇温する工程で加熱した導体の余熱により行う場合を説明したが、保温装置あるいは加熱装置により温度制御しつつ溶媒を蒸発させてもよい。この場合、ワニスの温度と溶媒の沸点との温度差は、溶媒の沸点を超えない範囲で徐々に小さくなってもよい。つまり、蒸発させる工程で上記ワニス及び上記導体は緩加熱されていてもよい。上記ワニス及び上記導体が緩加熱されている場合、その平均昇温速度は、昇温する工程での上記ワニス及び上記導体の平均昇温速度より小さくされる。具体的には、蒸発させる工程での上記ワニス及び上記導体の平均昇温速度は、昇温する工程での上記ワニス及び上記導体の平均昇温速度に対して1/10以下が好ましく、1/20以下がより好ましい。このように緩加熱がなされている場合であっても、ワニスの温度がその溶媒の沸点未満の温度に維持されている限り、本開示は効果を奏する。
【0106】
上記第2実施形態では、第1製造ユニット及び第2製造ユニットが第3加熱部を有する場合を説明したが、第1製造ユニット及び第2製造ユニットの一部又は全てが第3加熱部を有さない構成とすることもできる。例えば第3加熱部を有さない第1製造ユニットとして、第1加熱部と第2加熱部とを離間して配置し、第1加熱部と第2加熱部との離間距離を、第1加熱部から送出された導体の余熱により溶媒の蒸発が完了するに足る距離とする構成を採用してもよい。
【0107】
上記第2実施形態では、図6に示す絶縁電線の製造装置の構成をもとに説明したが、本開示は図6に示す絶縁電線の製造装置の構成に限定されるものではない。例えば第1製造ユニットが3以上連続していてもよい。
【0108】
あるいは、当該絶縁電線の製造装置が、3以上の第1製造ユニット及び3以上の第2製造ユニットを有し、1の上記第1製造ユニットが上記導体の走行方向最下流側に配置され、1の上記第2製造ユニットが上記導体の走行方向最上流側に配置され、隣合う上記第1製造ユニット間に、同数の上記第2製造ユニットが配置される構成とすることもできる。この構成によれば、製造効率をさらに高めることができる。なお、この構成では、最上流の第1製造ユニットより上流側に1又は複数の第2製造ユニットが配置される。この最上流の第1製造ユニットより上流側に配置される第2製造ユニットの配置数は、隣合う上記第1製造ユニット間の第2製造ユニットの配置数と異なってもよく、少ないことが好ましい。
【0109】
当該絶縁電線の製造装置は、1又は複数の第1製造ユニットが上記導体の走行方向最上流側に配置され、上記1又は複数の第1製造ユニットの下流側に第2製造ユニットのみが配置される構成とすることもできる。この構成によれば、導体と絶縁材料との密着性を高め易い。具体的には、絶縁電線の基本的な特性は、主に第2製造ユニットの熱量で決めることができ、最上流側に配置される、つまり導体に接する側の絶縁材料を加熱する第1製造ユニットにより導体と絶縁材料との密着性を高めることができる。上記第1製造ユニットの配設数としては、密着性を高めつつ低電力化を図る観点から、1又は2が好ましい。
【0110】
当該絶縁電線の製造装置は、1又は複数の第1製造ユニットが上記導体の走行方向最下流側に配置され、上記1又は複数の第1製造ユニットの上流側に第2製造ユニットのみが配置される構成とすることもできる。この構成によれば、製造される絶縁電線の柔軟性を高め易い。具体的には、絶縁電線の基本的な特性は、主に第2製造ユニットの熱量で決めることができ、最下流側に配置される第1製造ユニットによる加熱で、導体の柔軟性を高めることができる。上記第1製造ユニットの配設数としては、密着性を高めつつ低電力化を図る観点から、1又は2が好ましい。
【符号の説明】
【0111】
1、2 絶縁電線の製造装置
10 ドラム
10a 第一ドラム
10b 第二ドラム
20 塗布部
21 塗布装置
21a ワニス槽
21b 塗布ダイス
30 第1誘導加熱器
40 第2誘導加熱器
50 送出部
60 巻取部
70 第1製造ユニット群
70a 第1製造ユニット
71 第1加熱部
72 第2加熱部
73 第3加熱部
80 第2製造ユニット群
80a 第2製造ユニット
81 第1加熱部
83 第3加熱部
90 制御部
W 導体
図1
図2
図3
図4
図5
図6