(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-12
(45)【発行日】2025-03-21
(54)【発明の名称】核酸オリゴマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07H 21/02 20060101AFI20250313BHJP
C07H 21/04 20060101ALI20250313BHJP
【FI】
C07H21/02
C07H21/04 A
(21)【出願番号】P 2022515300
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2021014013
(87)【国際公開番号】W WO2021210408
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2020072233
(32)【優先日】2020-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(72)【発明者】
【氏名】森山 悠也
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-043772(JP,A)
【文献】特表2003-531827(JP,A)
【文献】特表2023-515218(JP,A)
【文献】国際公開第2018/141908(WO,A1)
【文献】特開平07-170981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 21/02
C07H 21/04
C12N 15/09
C12N 15/11
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JMEDPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆相カラムクロマトグラフィーから溶離した画分であって、式(1):
【化1】
(式中、
B
Cは、それぞれ独立して同一又は相異なる核酸塩基を表し、
Rは、それぞれ独立して同一又は相異なって、水素原子、フッ素原子またはOQ基を表し、
Qは、それぞれ独立して同一又は相異なって、水素原子、メチル基、2-メトキシエチル基、リボースの4’位の炭素原子と結合しているメチレン基、リボースの4’位の炭素原子と結合しているエチレン基、またはリボースの4’位の炭素原子と結合しているエチリデン基を表し、
Xは、それぞれ独立して同一又は相異なって、酸素原子または硫黄原子を表し、
Yは、水素原子または水酸基の保護基を表し、
Gは、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、水素イオンまたはヒドロキシアルキルアンモニウムイオンを表し、
nは、式(2):
60≦n (2)
を満たす整数であり、かつ、n個あるXの20%までが、硫黄原子である。)
で示される核酸オリゴマーを含む溶液に接する雰囲気を酸素濃度10%以下の不活性ガス雰囲気と
し、
ここで、核酸オリゴマーを含む溶液としての溶離画分に、不活性ガスを供給することを特徴とする核酸オリゴマーの安定化方法。
【請求項2】
ホスホロアミダイト法により生成する前記式(1)で示される核酸オリゴマーの粗生成物を逆相カラムクロマトグラフィーに付し、式(1)の核酸オリゴマーを含む精製された溶離画分を得る工程、および請求項1に記載の前記溶離画分と接する雰囲気を酸素濃度10%以下の不活性ガス雰囲気とする工程を含む安定化した精製核酸オリゴマー溶液の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の工程により精製核酸オリゴマー溶液を製造する工程と、前記の精製核酸オリゴマー溶液から精製された核酸オリゴマーを単離する工程をさらに含む精製核酸オリゴマーの製造方法。
【請求項4】
酸素濃度が5%以下である、請求項1~3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
酸素濃度が2.5%以下である、請求項1~4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記逆相カラムクロマトグラフィーが、移動相として、モノアルキルアンモニウム塩及びジアルキルアンモニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1つのアンモニウム塩を含む移動相を使用する逆相カラムクロマトグラフィーである、請求項2~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記逆相カラムクロマトグラフィーが、移動相として、ジアルキルアンモニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1つのアンモニウム塩を含む移動相を使用する逆相カラムクロマトグラフィーである、請求項2~6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記逆相カラムクロマトグラフィーが、移動相として、アルコール系水溶性有機溶媒及びニトリル系水溶性有機溶媒からなる群から選ばれる少なくとも一つの水溶性有機溶媒を含む移動相を使用する逆相カラムクロマトグラフィーである、請求項2~7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記の安定化した精製核酸オリゴマー溶液と、酸素原子を少なくとも1つ有するC1-C4の有機溶媒とを混合して、析出した核酸オリゴマーを単離することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記式(1)において、Rが、それぞれ独立して、ヒドロキシ基またはメトキシ基である、請求項1~9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
Rが、ヒドロキシ基である、請求項1~9の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、日本国特許出願2020-072233号(2020年4月14日出願)に基づくパリ条約上の優先権および利益を主張するものであり、ここに引用することによって、上記出願に記載された内容の全体が本明細書中に組み込まれるものとする。
【0002】
本発明は、核酸オリゴマーの製造方法に関する。本発明は、さらに詳しくは、ホスホロチオエートを含む核酸オリゴマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、核酸オリゴマーの医療分野への応用に関心が高まっている。例えば、アンチセンス核酸、アプタマー、リボザイム、およびsiRNAなどのRNA干渉(RNAi)を誘導する核酸などが挙げられ、これらは核酸医薬品と呼ばれている。
【0004】
核酸オリゴマーは、固相合成法により合成可能であり、固相担体上で核酸を伸長して合成された核酸オリゴマーは、固相担体から切り出し、次いで、例えば、リボースを含む核酸オリゴマーは、リボースの2’位の水酸基の保護基を脱保護して除いて、目的とする核酸オリゴマーが製造されている。ホスホロチオエート結合を有する核酸オリゴマーも有用な化合物として知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ホスホロチオエート結合を有する核酸オリゴマーは、ホスホジエステル結合のみからなる核酸オリゴマーとくらべると、安定性が問題となることがある。本発明は、ホスホロチオエート結合を有する核酸オリゴマーの安定化方法、および当該方法で安定化した核酸オリゴマーを単離する工程を含む前記核酸オリゴマーの効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ホスホロアミダイト法により生成する、ホスホロチオエート結合を有する核酸オリゴマーの粗生成物を逆相カラムクロマトグラフィーに付して、該核酸オリゴマーを含む精製された溶離画分を得て、次いで、得られた溶離画分と接する雰囲気を一定濃度以下の不活性ガス雰囲気とすることによって、該ホスホロチオエート結合を有する核酸オリゴマーを安定化することができることを見出した。本発明は、ホスホロチオエート結合を有する核酸オリゴマーの安定化方法、および当該方法で安定化した核酸オリゴマーを単離する工程を含む、ホスホロチオエート結合を有する核酸オリゴマーの効率的な製造方法を提供する。
【0008】
本発明は、以下の態様を包含するが、これらに限定されるものではない。
項1. 逆相カラムクロマトグラフィーから溶離した画分であって、式(1):
【化1】
【0009】
(式中、
BCは、それぞれ独立して同一又は相異なる核酸塩基を表し、
Rは、それぞれ独立して同一又は相異なって、水素原子、フッ素原子またはOQ基を表し、
Qは、それぞれ独立して同一又は相異なって、水素原子、メチル基、2-メトキシエチル基、リボースの4’位の炭素原子と結合しているメチレン基、リボースの4’位の炭素原子と結合しているエチレン基、またはリボースの4’位の炭素原子と結合しているエチリデン基を表し、
Xは、それぞれ独立して同一又は相異なって、酸素原子または硫黄原子を表し、
Yは、水素原子または水酸基の保護基を表し、
Gは、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、水素イオンまたはヒドロキシアルキルアンモニウムイオンを表し、
nは、式(2):
60≦n (2)
を満たす整数であり、かつ、n個あるXの20%までが、硫黄原子である。)
で示される核酸オリゴマーを含む溶液に接する雰囲気を、酸素濃度10%以下の不活性ガス雰囲気とすることを特徴とする、核酸オリゴマーの安定化方法。
項2. ホスホロアミダイト法により生成する前記式(1)で示される核酸オリゴマーの粗生成物を逆相カラムクロマトグラフィーに付し、式(1)の核酸オリゴマーを含む精製された溶離画分を得る工程、および項1に記載の前記溶離画分と接する雰囲気を酸素濃度10%以下の不活性ガス雰囲気とする工程を含む、安定化した精製核酸オリゴマー溶液の製造方法。
項3. 前項2に記載の工程により精製核酸オリゴマー溶液を製造する工程と、前記の精製核酸オリゴマー溶液から精製された核酸オリゴマーを単離する工程をさらに含む、精製核酸オリゴマーの製造方法。
項4. 酸素濃度が5%以下である、前項1~3の何れか一項に記載の方法。
項5. 酸素濃度が2.5%以下である、前項1~4の何れか一項に記載の方法。
項6. 前記逆相カラムクロマトグラフィーが、移動相として、モノアルキルアンモニウム塩及びジアルキルアンモニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1つのアンモニウム塩を含む移動相を使用する逆相カラムクロマトグラフィーである、前項2~5の何れか一項に記載の方法。
項7. 前記逆相カラムクロマトグラフィーが、移動相として、ジアルキルアンモニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1つのアンモニウム塩を含む移動相を使用する逆相カラムクロマトグラフィーである、前項2~6の何れか一項に記載の方法。
項8. 前記逆相カラムクロマトグラフィーが、移動相として、アルコール系水溶性有機溶媒及びニトリル系水溶性有機溶媒からなる群から選ばれる少なくとも一つの水溶性有機溶媒を含む移動相を使用する逆相カラムクロマトグラフィーである、前項2~7の何れか一項に記載の方法。
項9. 前記の安定化した精製核酸オリゴマー溶液と、酸素原子を少なくとも1つ有するC1-C4の有機溶媒とを混合して、析出した核酸オリゴマーを単離することを含む、前項3に記載の方法。
項10. 前記式(1)において、Rが、それぞれ独立して、ヒドロキシ基またはメトキシ基である、前項1~9の何れか一項に記載の方法。
項11.Rが、ヒドロキシ基である、前項2~9の何れか一項に記載の製造方法。
【0010】
本発明は、更に以下の態様を包含するが、これらに限定されるものではない。
項1A. ホスホロアミダイト法により生成する式(1):
【化2】
【0011】
(式中、
B
Cは、それぞれ独立して同一又は相異なる核酸塩基を表し、
Rは、それぞれ独立して同一又は相異なって、水素原子、フッ素原子またはOQ基を表し、
Qは、それぞれ独立して同一又は相異なって、水素原子、メチル基、2-メトキシエチル基、リボースの4’位の炭素原子と結合しているメチレン基、リボースの4’位の炭素原子と結合しているエチレン基、またはリボースの4’位の炭素原子と結合しているエチリデン基を表し、
Xは、それぞれ独立して同一又は相異なって、酸素原子または硫黄原子を表し、
Yは、水素原子または水酸基の保護基を表し、
Gは、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、水素イオンまたはヒドロキシアルキルアンモニウムイオンを表し、
nは、式(2):
60≦n (2)
を満たす整数であり、かつ、n個あるXの20%までが、硫黄原子である。)
で示される核酸オリゴマーの粗生成物を逆相カラムクロマトグラフィーに付して、式(1)の核酸オリゴマーを含む精製された溶離画分を得る工程、および
前記溶離画分と接する雰囲気を酸素濃度10%以下の不活性ガス雰囲気として、安定化した精製核酸オリゴマー溶液を得る工程、を含む、
核酸オリゴマーの製造方法。
項2A. 前記の安定化した精製核酸オリゴマー溶液から、精製された核酸オリゴマーを単離する工程をさらに含む、項1A記載の核酸オリゴマーの製造方法。
項3A. 酸素濃度が5%以下である、項1Aまたは項2Aのいずれかに記載の核酸オリゴマーの製造方法。
項4A. 酸素濃度が2.5%以下である、項1Aまたは項2Aのいずれかに記載の核酸オリゴマーの製造方法。
項5A. 前記逆相カラムクロマトグラフィーの移動相が、モノアルキルアンモニウム塩及びジアルキルアンモニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1つのアンモニウム塩を含む移動相である、前項1A~4Aの何れか一項に記載の製造方法。
項6A. 前記逆相カラムクロマトグラフィーの移動相が、ジアルキルアンモニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1つのアンモニウム塩を含む移動相である、前項1A~4Aの何れか一項に記載の製造方法。
項7A. 前記逆相カラムクロマトグラフィーが、移動相として、アルコール系水溶性有機溶媒及びニトリル系水溶性有機溶媒からなる群から選ばれる少なくとも一つの水溶性有機溶媒を含む移動相を使用する逆相カラムクロマトグラフィーである、前項1A~6Aの何れか一項に記載の製造方法。
項8A. 前記の安定化した精製核酸オリゴマー溶液と、酸素原子を少なくとも1つ有するC1-C4の有機溶媒とを混合して、析出した核酸オリゴマーを単離することを含む、前項2Aに記載の製造方法。
項9A. 前記式(1)において、Rが、それぞれ独立して、ヒドロキシ基またはメトキシ基である、前項1A~8Aの何れか一項に記載の製造方法。
項10A. Rが、ヒドロキシ基である、前項1A~8Aの何れか一項に記載の製造方法。
項11A. 逆相カラムクロマトグラフィーから溶離した画分であって、式(1):
【化3】
【0012】
(式中、
各基の定義は、項[1A]と定義する通りである)
で示される核酸オリゴマーを含む溶液に接する雰囲気を、酸素濃度10%以下の不活性ガス雰囲気とすることを特徴とする、核酸オリゴマーの安定化方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、ホスホロチオエート結合を有する核酸オリゴマーが安定化され、その効率的な製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、ホスホロアミダイト法による核酸オリゴマーの合成の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
逆相カラムクロマトグラフィーから溶離した分画であって、前記式(1)で示される核酸オリゴマーを含む溶液と接する雰囲気を酸素濃度10%以下の不活性ガス雰囲気とすることを特徴とする核酸オリゴマーの安定化方法について説明する。
前記式(1)において、BCで表される核酸塩基(以下、「塩基」と記すこともある。)は、天然または非天然の核酸塩基であってもよい。かかる非天然の核酸塩基としては、天然または非天然の核酸塩基の修飾アナログが例示される。核酸塩基としては、典型的には、プリン化合物及びピリミジン化合物が例示され、例えば、米国特許第3,687,808号、「Concise Encyclopedia Of Polymer Scie nce And Engineering」,858~859頁,クロシュビッツ ジェー アイ(Kroschwitz J.I.)編、John Wiley&Sons、1 990、及びイングリッシュら(Englischら)、Angewandte Che mie、International Edition,1991,30巻,p.613 に開示される核酸塩基が例示される。
【0016】
具体的には、例えば、アデニン、イソグアニン、キサンチン、ヒポキサンチン及びグアニン等のプリン塩基;及び、シトシン、ウラシル及びチミン等のピリミジン塩基等が例示される。
【0017】
さらに、BCで表される核酸塩基としては、例えば、2-アミノアデニン、2-アミノプリン、2,6-ジアミノプリン等のアミノ誘導体;5-メチルウラシル、5-メチルシトシン、7-メチルグアニン、6-メチルプリン、2-プロピルプリン等のアルキル誘導体;5-ハロウラシル及び5-ハロシトシン;5-プロピニルウラシル及び5-プロピニルシトシン;6-アザウラシル、6-アザシトシン及び6-アザチミン;5-ウラシル(シュードウラシル)、4-チオウラシル、5-(2-アミノプロピル)ウラシル、5-アミノアリルウラシル;8-ハロ化、アミノ化、チオール化、チオアルキル化、ヒドロキシル化及び他の8-置換プリン;5-トリフルオロメチル化及び他の5-置換ピリミジン;6-アザピリミジン;N-2、N-6及びO-6置換プリン(2-アミノプロピルアデニンを含む);ジヒドロウラシル;3-デアザ-5-アザシトシン;7-デアザアデニン;N6-メチルアデニン、N6,N6-ジメチルアデニン;5-アミノ-アリル-ウラシル;N3-メチルウラシル;置換1,2,4-トリアゾール;2-ピリジノン;5-ニトロインドール;3-ニトロピロール;5-メトキシウラシル;ウラシル-5-オキシ酢酸;5-メトキシカルボニルメチルウラシル;2-チオウラシル、5-メチル-2-チオウラシル;5-メトキシカルボニルメチル-2-チオウラシル;5-メチルアミノメチル-2- チオウラシル;3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウラシル;3-メチルシトシン;N4-アセチルシトシン;2-チオシトシン;N6-メチルアデニン;N6-イソペンチルアデニン;2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン;N-メチルグアニン;O-アルキル化塩基等が例示される。
【0018】
RがOQ基を表し、Qがリボースの4’位の炭素原子と結合しているメチレン基、リボースの4’位の炭素原子と結合しているエチレン基またはリボースの4’位の炭素原子と結合しているエチリデン基を表すとき、当該構造は、下記の式(3)において示すLNA-1、LNA-2およびLNA-3の構造で示される。
【0019】
【0020】
(式中、Bcは、前記のとおりの核酸塩基を表す。)
【0021】
Yで示される水酸基の保護基としては、アミダイト法において、保護基として機能し得るものであれば特に制限なく使用することができ、例えば、アミダイト化合物に対して使用される公知の保護基を広く使用することができる。Yで示される水酸基の保護基は、好ましくは、以下の基である。
【0022】
【0023】
(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して、同一又は相異なって水素又はアルコキシ基を表す。)
前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基が例示される。
【0024】
式(1)の核酸オリゴマーの鎖長は、例えば、n≧60、n≧80またはn≧100のものが例示される。鎖長の上限としては、例えば、n≦200が例示される。前記核酸オリゴマーにおいては、n個あるXの20%(20%を含む)までが、硫黄原子である。好ましくは、式(1)の核酸オリゴマーは1つ以上のホスホロチオエート結合を有し、さらに好ましくは3つ以上のホスホロチオエート結合を有する。
【0025】
式(1)の核酸オリゴマーは、例えば、DNAまたはRNAオリゴマー、あるいはこれらのオリゴマーに非天然型の核酸塩基を含むものであってもよい。前記核酸オリゴマーは、典型的には、一本鎖のDNAまたはRNAオリゴマーである。前記式(1)の核酸オリゴマーにおいて、置換基Rは、好ましくは、それぞれ独立して、ヒドロキシ基またはメトキシ基である。本願発明の方法は、置換基Rが、それぞれ独立して、ヒドロキシ基またはメトキシ基である式(1)の核酸オリゴマーであるRNAに好適である。さらに詳しくは、置換基R がヒドロキシ基であるヌクレオチドとメトキシ基であるヌクレオチドの両方を含む核酸オリゴマーの製造に好適である。
【0026】
<逆相カラムクロマトグラフィーによる核酸オリゴマーの精製方法>
逆相カラムクロマトグラフィーによる分離は、充填剤を含むカラムに、アルキルアンモニウム塩を含む移動相を通液し、次いで同移動相にホスホロアミダイト法を用いて合成された核酸オリゴマーを含む反応生成物を溶解した溶液を通液し、前記核酸オリゴマーをカラム内に吸着結合させ、移動相中の有機溶媒濃度を順次増大させる勾配(グラジエント)により前記核酸オリゴマーに含まれる不純物と目的とする核酸分子とを分離して溶離させることにより実施される。
【0027】
逆相カラムクロマトグラフィーにより得られる溶離画分は、一般的に核酸の分離分析に用いるクロマトグラフィーの条件下で、波長260nmのUV吸収で、組成を分析して、選択され集められる。集められた画分から、精製された目的物である所定量のホスホロチオエート結合を有する核酸オリゴマーが得られる。前記分析法としては、たとえば、非特許文献(Handbook of Analysis of Oligonucleotides and Related Products, CRC Press)に記載の方法を用いることができる。
【0028】
前記逆相カラムクロマトグラフィーの充填剤としては、疎水性の固定相となるシリカまたはポリマーとして、例えば、フェニル基、炭素数1~20のアルキル基およびシアノプロピル基から選ばれるいずれか1種以上が固定されたシリカまたはポリマーが例示される。かかる充填剤であるシリカまたはポリマーとしては、例えば、粒子径が、2μm以上、あるいは、5μm以上のものが使用される。
【0029】
逆相カラムクロマトグラフィーにおいて、溶離して分画液として得られるのは、水溶性の移動相であり、移動相となる溶媒系としては、アルコール系有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノールもしくはn-プロパノール)、ニトリル系有機溶媒(例えば、アセトニトリル)、および水が例示される。アルコール系有機溶媒としてはC1-C3アルコールが好ましく、なかでもメタノールがより好ましい。ニトリル系有機溶媒としてはアセトニトリルが好ましい。各有機溶媒は、一種単独で用いても二種以上を併用しても良い。
【0030】
前記逆相カラムクロマトグラフィーの移動相には、通常、アルキルアンモニウム塩を含む移動相が使用され、溶離液にもこれらのアルキルアンモニウム塩が含まれる。前記アルキルアンモニウム塩としては、通常、モノアルキルアンモニウム塩、ジアルキルアンモニウム塩およびトリアルキルアンモニウム塩が使用され、好ましくはモノアルキルアンモニウム塩およびジアルキルアンモニウム塩、より好ましくはジアルキルアンモニウム塩が使用される。モノアルキルアンモニウム塩を形成するモノアルキルアミンの炭素数は、好ましくは3~10であり、より好ましくは4~6であり、さらに好ましくはヘキシルアミンである。ジアルキルアンモニウム塩を形成するジアルキルアミンの炭素数は、好ましくは4~10であり、より好ましくは5~9である。好ましいジアルキルアミンは、ジブチルアミンである。トリアルキルアンモニウム塩を形成するトリアルキルアミンは、炭素数6~12のものが好ましく6~9のものがより好ましく、具体的にはトリエチルアミンが例示される。
【0031】
前記モノアルキルアンモニウム塩、ジアルキルアンモニウム塩およびトリアルキルアンモニウム塩を形成する酸としては、例えば、炭酸、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸およびプロピオン酸が例示される。
【0032】
前記アンモニウム塩の濃度としては、通常、1~200mMであり、好ましくは5~150mMであり、より好ましくは20~100mMである。
【0033】
移動相のpH範囲は、通常、pH:6~8であり、好ましくは6.5~7.5である。
【0034】
逆相カラムクロマトグラフィーの温度は、通常、20~100℃であり、好ましくは30~80℃であり、より好ましくは40~70℃である。
【0035】
逆相カラムクロマトグラフィーで得られた溶離液画分には、通常、水、アルコール系有機溶媒、ニトリル系有機溶媒、前記アルキルアンモニウム塩および式(1)の核酸オリゴマーが含まれる。上記溶離液中の水の量は、通常、90%~30%であり、好ましくは80%~40%であり、より好ましくは70%~40%である。上記溶離液中のアルコール系有機溶媒の量は、通常、0~20%であり、好ましくは0~15%であり、より好ましくは0%~10%である。上記溶離液中のニトリル系有機溶媒の量は、通常、10~70% であり、好ましくは20~60%であり、より好ましくは30~50%である(以上%は、すべて質量%を表す。)
【0036】
上記溶離画分中のアルキルアンモニウム塩のモル濃度は、通常、1mM~200mMであり、好ましくは10mM~100mMである。
【0037】
上記上記溶離画分中の核酸オリゴマーの濃度は、通常、0.05mg/mL~5mg/mLであり、好ましくは0.05mg/mL~1mg/mLであり、より好ましくは0.1 mg/mL~0.5mg/mLである。
【0038】
<逆相クロマトグラフィーで得られた核酸オリゴマーを含む溶離画分の安定化工程>
酸素濃度が10%以下の不活性ガス雰囲気は、例えば、核酸オリゴマーを含む容器に所定の酸素濃度以下の不活性ガスを供給し、容器内の雰囲気中の酸素濃度が前記設定濃度範囲内であることを測定して確認することにより調整してもよい。具体的には、容器内の雰囲気にアルゴンもしくは窒素などの高純度の不活性ガス、または酸素濃度を所定の濃度に調製した不活性ガスを流通させるか、あるいは容器内の雰囲気を前記不活性ガスまたは濃度調整した不活性ガスで置換することによって調整することができる。
【0039】
酸素濃度が10%以下の不活性ガス雰囲気の調製は、前記溶離画分を容器に供給する前、または供給中、または容器に供給した後、のいずれの段階で行っても良い。また、それらを組み合わせて行っても良い。
【0040】
上記不活性ガスとは、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
容器内の雰囲気置換方法は、減圧置換、加圧置換、フロー置換、バブリングによる置換、または凍結脱気による置換が挙げられ、その際超音波をかけても加熱してもよい。より好ましい方法は、フロー置換である。
【0042】
前記不活性ガス雰囲気下の酸素濃度は、好ましくは10%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは2.5%以下であり、更により好ましくは0.1%以下である。
【0043】
前記不活性ガス雰囲気下では、得られた溶離画分を、通常、0℃~80℃、好ましくは10℃~70℃、より好ましくは20℃~60℃で保管してもよい。
【0044】
逆相クロマトグラフィーで得られた核酸オリゴマーを含む溶離画分は、例えば、保管の後に、核酸オリゴマーを単離するため再沈殿工程、分液工程、限外濾過工程、脱保護工程、および凍結乾燥工程といった後処理工程から選ばれる単一もしくは複数の工程に付してもよい。
【0045】
再沈殿工程では、安定化した溶液を、貧溶媒と接触させ、核酸オリゴマーを析出させ、単離することができる。必要であれば、固液分離した状態から、液体部を除去し、次いでろ過等により析出した核酸オリゴマーを集めて単離してもよい。再沈殿工程の貧溶媒としては、酸素原子を少なくとも1つ有するC1-C4の有機溶媒(例えば、C1-C4アルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン)が挙げられる。かかる溶媒としては、エタノールまたはイソプロパノールが好ましい。
【0046】
分液工程では、安定化した溶液に酢酸ナトリウム水溶液等の酸性水溶液、水、および食塩水等のうちの少なくとも一種を混合し、さらに水と混和しない有機溶媒を加えることで水層と有機層に分液し、所望の核酸オリゴマーを含む水層を取得することができる。
【0047】
限外濾過工程では、限外濾過膜を用いて保管工程後の溶液中に存在する核酸オリゴマーを所望の分子量以下の低分子成分と分離することができる。
【0048】
核酸オリゴマーの5’末端部位に保護基がある場合は、これを脱保護するため、保管工程後の溶液に酢酸水溶液等の酸性水溶液、もしくは酢酸等の酸性物質を有機溶媒に溶解した溶液を混合することで、核酸オリゴマーの保護基を脱保護することができる。
【0049】
凍結乾燥工程では、凍結させた核酸オリゴマーの水溶液を減圧することで水を昇華させ、核酸オリゴマーと水分を分離することができる。
【0050】
ホスホロアミダイト法による核酸オリゴマーの合成は、公知の方法(例えば、前記の特許第5157168号公報または特許第5554881号公報に記載の方法)に従って、核酸伸長反応を行うことができる。ホスホロアミダイト法による核酸オリゴマーの製造については、
図1に示すスキームのRNAの合成を例に挙げて、以下に示す反応経路(縮合反応、酸化、脱保護)を参照しながら核酸オリゴマーの製造方法について説明する。
【0051】
反応経路を示す前記化学式中、Baは、保護されていてもよい核酸塩基;Trは保護基;であり、Xは、前記定義のとおりであり、SPは無機多孔質担体のヌクレオシド構造以外の部分をそれぞれ表している。
【0052】
ヌクレオシド構造を有する無機多孔質担体(Sp-Nu)およびアミダイトモノマー(Am-1)のヌクレオシドを構成する核酸塩基は、前記のとおりの核酸塩基もしくは保護基で保護された核酸塩基である。
【0053】
好適なアミダイトモノマー(Am-1)の例としては、下記化学式(Am-1’)で表される化合物において、Rが、保護された水酸基を表すとき、具体的な保護基としては、tert-ブチルジメチルシリル(TBDMS)基、ビス(2-アセトキシ)メチル(ACE)基、(トリイソプロピルシリロキシ)メチル(TOM)基、(2-シアノエトキシ)エチル(CEE)基、(2-シアノエトキシ)メチル(CEM)基、パラ-トルイルスルホニルエトキシメチル(TEM)基、(2-シアノエトキシ)メトキシメチル(EMM)基などで保護された、TBDMSアミダイト(TBDMS RNA Amidites、商品名、ChemGenes Corporation)、ACEアミダイト、TOM アミダイト、CEEアミダイト、CEMアミダイト、TEMアミダイト(Chakhmakhcheva の総説:Protective Groups in the Chemical Synthesis of Oligoribonucleotides、Rus sian Journal of Bioorganic Chemistry, 2013, Vol. 39, No. 1, pp. 1-21.)、EMM アミダイト(国際公開第2013/027843号に記載)等が例示される。
【0054】
【0055】
(式中、Rは、前記のとおりの基を表し、Baは、保護されていてもよい核酸塩基を示す。)
【0056】
[RNAの固相合成]
無機多孔質担体(Sp-Nu)のTr基を脱保護して、固相担体(Am-2)を得る。この後、アミダイトモノマー(Am-1)と、固相担体(Am-2)とを縮合反応させて、反応生成物(Am-3)を得る。この後、反応生成物(Am-3)を酸化して、生成物(Am-4)を得る。この後、生成物(Am-4)を脱保護(-Tr)して、生成物(Am-5)を得る。次いで、アミダイトモノマー(Am-1)と生成物(Am-5)とを更に縮合反応させて、ホスホジエステル結合を伸長していく。このように、伸長したオリゴヌクレオチド鎖末端の5’位のヒドロキシル基を、所望の配列となるように、一連の脱保護、縮合反応、酸化のサイクルを必要なだけ繰り返し、この後、固相担体から切り出すことにより、所望の配列の核酸分子を製造することができる。かかる合成は、ホスホロアミダイト法を採用する核酸自動合成装置等を用いて行ってもよい。ここでは、RNAを例に挙げ説明するが、リボヌクレオチド以外のヌクレオチドを含む核酸化合物にも適用できるものである。
【0057】
Tr基を脱保護する工程では、固相担体上に担持されるRNA鎖末端の5’位のヒドロキシル基の保護基を脱保護する。保護基としては、トリチル系保護基(典型的には、DMTr基)が用いられる。脱保護は、酸を用いて行うことができる。脱保護用の酸としては、例えば、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、塩酸、酢酸、p-トルエンスルホン酸等が挙げられる。
【0058】
縮合工程では、前記の脱保護する工程により脱保護したRNA鎖末端の5’位のヒドロキシル基に対して、ヌクレオシドホスホロアミダイトを結合させて、ホスファイトを生成する。前記ヌクレオシドホスホロアミダイトとしては、5’位のヒドロキシル基が保護基(例えばDMTr基)で保護されたものを用いる。
【0059】
また、縮合工程は、前記ヌクレオシドホスホロアミダイトを活性化する活性化剤を用いて行うことができる。活性化剤としては、例えば、5-ベンジルチオ-1H-テトラゾール(BTT)、1H-テトラゾール、4,5-ジシアノイミダゾール(DCI)、5-エチルチオ-1H-テトラゾール(ETT)、N-メチルベンズイミダゾリウムトリフラート(N-MeBIT)、ベンズイミダゾリウムトリフラート(BIT)、N-フェニルイミダゾリウムトリフラート(N-PhIMT)、イミダゾリウムトリフラート(IMT)、5-ニトロベンズイミダゾリウムトリフラート(NBT)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)、および5-(ビス-3,5-トリフルオロメチルフェニル)-1 H-テトラゾール(Activator-42)等が挙げられる。
【0060】
縮合工程の後は、適宜、未反応の5’位のヒドロキシル基をキャッピングしてもよい。キャッピングは、無水酢酸-テトラヒドロフラン溶液、フェノキシ酢酸無水物/N-メチルイミダゾール溶液等の公知のキャッピング溶液を用いて行うことができる。
【0061】
酸化工程は、前記縮合工程により形成されたホスファイトを酸化する工程である。酸化工程は、酸化剤を用いて行うことができる。酸化剤としては、ヨウ素、m-クロロ過安息香酸、tert-ブチルヒドロペルオキシド、2-ブタノンペルオキシド、ビス(トリメチルシリル)ペルオキシド、1,1-ジヒドロペルオキシシクロドデカン、および過酸化水素等が挙げられる。
【0062】
亜リン酸トリエステル基をチオリン酸トリエステル基に変換する場合には、「酸化剤」として、例えば、硫黄、3H-1,2-ベンゾジチオール-3-オン-1,1-ジオキシド(Beaucage試薬)、3-アミノ-1,2,4-ジチアゾール-5-チオン(A DTT)、5-フェニル-3H-1,2,4-ジチアゾール-3-オン(POS)、[( N,N-ジメチルアミノメチリデン)アミノ]-3H-1,2,4-ジチアゾリン-3- チオン(DDTT)、およびフェニルアセチルジスルフィド(PADS)を使用することができる。該酸化剤は、0.001~2Mの濃度になるように適当な溶媒で希釈して使用することができる。反応に使用する溶媒としては、反応に関与しなければ特に限定されないが、例えば、ジクロロメタン、アセトニトリル、ピリジン又はこれらの任意の割合の混合溶媒が挙げられる。
【0063】
酸化工程は、前記キャッピング操作の後で行ってもよいし、逆に、酸化工程の後でキャッピング操作を行ってもよいし、この順番は限定されない。
【0064】
酸化工程後は、脱保護工程に戻り、合成すべき核酸オリゴマーのヌクレオチド配列に応じて、上記の縮合反応、酸化、脱保護の一連の工程を繰り返すことにより、所望の配列を有するRNAを合成することができる。
【0065】
所望の配列を有する核酸オリゴマーの合成が完了した後は、アンモニアまたはアミン化合物を用いて、固相担体からRNA鎖を切断して回収する。
【0066】
ここでのアミン化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、イソプロピルアミン、エチレンジアミン、ジエチルアミン、およびトリエチルアミン等が挙げられる。
【0067】
かくして得られる核酸オリゴマーの鎖長は、例えば、n≧60、n≧80またはn≧100、かつ、n≦200のものが例示される。
【0068】
リン酸保護基を脱保護する工程は、所望の配列を有する核酸の合成が完了した後は、リン酸部分の保護基を脱保護するためにアミン化合物を作用させる。アミン化合物としては、例えば、記載されるジエチルアミン等が挙げられる。
【0069】
リボースの2’位もしくは3’位の水酸基の保護基がある場合は、国際公開第2006/ 022323号公報)、国際公開第2013/027843号公報、または国際公開第2019/208571号公報に記載の方法に従って除くことができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0071】
測定方法
以下の試験で用いた各測定方法を以下に示す。
(測定方法1:RNAの純度の測定方法)
逆相クロマトグラフィーで溶離した分画溶液中のRNAの純度の測定は、HPLCにより行った。分取したRNAをHPLC(波長260nm、カラムDNAPacTM PA 200、4.0mm×250mm、8.0μm)によって各成分に分離し、得られたクロマトグラムの総面積値における主生成物の面積値からRNAの純度を算出した。HPLC 測定条件を下記表1に示す。
【0072】
【0073】
(測定方法2:酸素濃度の測定)
逆相クロマトグラフィーで溶離した分画溶液に接する雰囲気の酸素濃度はIIJIMA ELECTRONICS CORP.製のPACK KEEPER(Residual Oxygen Meter)を用いて測定した。酸素濃度測定前には空気中及び純窒素中酸素濃度の測定により装置を校正後、装置に付属の針をセプタムなどで蓋をしたフラスコなどの容器に突き刺し、系中気相部分の酸素濃度を測定した。酸素濃度の測定値はリアルタイムで表示され、測定値が安定した所をその雰囲気の酸素濃度とした。
【0074】
[参考例1]
RNAのアミダイト法による固相合成
以下に示すIの核酸配列を有するRNAを合成した。当該鎖は103塩基長からなる。
【0075】
鎖I:A*U*A*ACUCAAUUUGUAAAAAAGUUUUAGAGCUAGAAAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGCUUUU*U*U*U (5'-3') (配列番号1)
前記配列の表記において、配列の説明中、Uはウリジンを、Cはシチジンを、Aはアデノシンを、またはGはグアノシンを表す。ヌクレオチドの間の記号*は、ヌクレオチドを繋ぐリン酸結合が、ホスホロチオエートであることを表す。
当該RNAは、ホスホロアミダイト法に基づき、核酸合成機(AKTA oligopi lot plus100 GEヘルスケア社)を用いて3’側から5’側に向かって合成した。合成は63μmolスケールにて実施した。また、当該合成にはRNAアミダイトとして、それぞれ下記の式のウリジンEMMアミダイト(国際公開第2013/0278 43号の実施例2に記載)、シチジンEMMアミダイト(同実施例3に記載)、アデノシンEMMアミダイト(同実施例4に記載)、及びグアノシンEMMアミダイト(同実施例5に記載)を使用し、固相担体として多孔質ガラスを使用し、デブロッキング溶液としてジクロロ酢酸トルエン溶液を使用し、縮合剤として5-ベンジルチオ-1H-テトラゾールを使用し、酸化剤としてヨウ素溶液を使用し、硫化剤として3-アミノ-1,2,4- ジチアゾール-5-チオンを使用し、キャッピング溶液として無水フェノキシ酢酸溶液とN-メチルイミダゾール溶液とを使用して行った。核酸伸長終了後担体上の核酸にジエチルアミン溶液を作用させることでリン酸部分のシアノエチル保護基を選択的に脱保護した。ここで、EMMは、(2-シアノエトキシ)メトキシメチル基の略号である。
【0076】
【0077】
固相合成後の固相担体からの切出しと脱保護は、国際公開第2013/027843号に記載の方法に従った。すなわち、アンモニア水溶液とエタノールとを加え、しばらく静置した後に固相担体をろ過し、溶媒を留去した。その後、テトラブチルアンモニウムフルオリドを用いて水酸基の脱保護を行った。得られたRNAを、注射用蒸留水を用いて所望の濃度となるように溶解した。
【0078】
RNAの分取精製
下記表2の条件で合成したRNAのカラムクロマトグラフィー精製を行った。ただし、精製前にカラム内に移動相Aを流速4.7mL/minで12.5分間通液したのちにサンプルを添加した。保持時間94.2分-95.8分までを分取し、得られた溶液をHPLCにて分析した。なお、前記測定方法1に記載の方法で純度を算出した。その結果、分取された画分中のRNAの純度は94%であった。
【0079】
【0080】
分取溶液の保存安定性の確認
[実施例1]
前記参考例1で分取精製したRNAを含む画分の溶液0.5mLを容量10mLのガラス製ヘッドスペースバイアル(GLサイエンス社)に入れ、セプタム及びクリンプキャップ(GLサイエンス社)にて密封した。更に密封した系内に窒素ボンベから窒素を吹き付ける針と、吹き付けた窒素を抜くための針、更にOxygen Meterの測定用針をセプタムに突き刺し、窒素をフローすることで系内雰囲気を窒素に置換し、雰囲気中の酸素濃度を0.0%とした。ここで、酸素濃度は、前記測定方法2に記載の方法を用いて測定した。更に分取溶液の入ったガラス製ヘッドスペースバイアルを60℃に温調されたインキュベータ(ケニス社)に入れ、8時間静置した。静置後、インキュベータから取り出したヘッドスペースバイアルを室温まで冷却し、前記測定方法1に記載の方法でRNAの純度を算出すると、83%であった。
【0081】
[実施例2]
前記参考例1で分取精製したRNAを含む画分の溶液0.5mLを容量10mLのガラス製ヘッドスペースバイアル(GLサイエンス社)に入れ、セプタム及びクリンプキャップ(GLサイエンス社)にて密封した。更に密封した系内に窒素ボンベから窒素を吹き付ける針と、吹き付けた窒素を抜くための針、更にOxygen Meterの測定用針をセプタムに突き刺し、窒素をフローすることで系内を窒素に置換し、雰囲気中の酸素濃度を2.1% とした。ここで、酸素濃度は、前記測定方法2に記載の方法を用いて測定した。更に分取溶液の入ったガラス製ヘッドスペースバイアルを60℃に温調されたインキュベータ(ケニス社)に入れ、8時間静置した。静置後、インキュベータから取り出したヘッドスペースバイアルを室温まで冷却し、前記測定方法1に記載の方法でRNAの純度を算出すると、77%であった。
【0082】
[実施例3]
前記参考例1で分取精製したRNAを含む画分の溶液0.5mLを容量10mLのガラス製ヘッドスペースバイアル(GLサイエンス社)に入れ、セプタム及びクリンプキャップ(GLサイエンス社)にて密封した。更に密封した系内に窒素ボンベから窒素を吹き付ける針と、吹き付けた窒素を抜くための針、更にOxygen Meterの測定用針をセプタムに突き刺し、窒素をフローすることで系内を窒素に置換し、雰囲気中の酸素濃度を7.3% とした。ここで、酸素濃度は、前記測定方法2に記載の方法を用いて測定した。更に分取溶液の入ったガラス製ヘッドスペースバイアルを60℃に温調されたインキュベータ(ケニス社)に入れ、8時間静置した。静置後、インキュベータから取り出したヘッドスペースバイアルを室温まで冷却し、前記測定方法1に記載の方法でRNAの純度を算出すると、73%であった。
【0083】
[比較例1]
前記参考例1で分取精製したRNAを含む画分の溶液0.5mLを容量10mLのガラス製ヘッドスペースバイアル(GLサイエンス社)に入れ、雰囲気を窒素置換せずにセプタム及びクリンプキャップ(GLサイエンス社)にて密封した。更に分取溶液の入ったガラス製ヘッドスペースバイアルを60℃に温調されたインキュベータ(ケニス社)に入れ、8時間静置した。静置後、インキュベータから取り出したヘッドスペースバイアルを室温まで冷却した後、前記測定方法1に記載の方法で画分中のRNAの純度を算出すると、純度は60%であった。
【0084】
【表3】
1)参考例1で分取精製した核酸(RNA)の60℃で8時間、所定の酸素濃度条件で静置保存した後、HPLCで測定した核酸の純度(%)
2)核酸の保持率(%)=保存後の核酸のHPLC純度/参考例2で分取精製時の核酸の純度
【0085】
保存した分取溶液からのRNAの回収
[実施例4]
実施例1で雰囲気の酸素濃度を0.0%にし、8時間静置した溶液0.4mLを容量15mLのポリプロピレン製コニカルチューブ(Corning社)に入れ、酢酸ナトリウム水溶液(3M、pH=5.2)を0.2mL、エタノールを1.2mL追加した。得られたスラリー溶液を10分間、3000g、25℃で遠心し、上澄みを除去した。続いて70%エタノール水溶液を1mL入れ、10分間、3000g、25℃で遠心し、上澄みを除去する操作を2回繰り返して、沈殿としてRNAを得た。得られたRNAを水0.4mLに溶解し、前記測定方法1に記載の方法で画分中のRNAの純度を算出すると、純度は77%であった。
【0086】
[比較例2]
比較例1で8時間静置した分取溶液0.4mLを容量15mLのポリプロピレン製コニカルチューブ(Corning社)に入れ、酢酸ナトリウム水溶液(3M、pH=5.2)を0.2mL、エタノールを1.2mL追加した。得られたスラリー溶液を10分間、3000g、25℃で遠心し、上澄みを除去した。続いて70%エタノール水溶液を1mL入れ、10分間、3000g、25℃で遠心し、上澄みを除去する操作を2回繰り返してRNAを得た。得られたRNAを水0.4mLに溶解し、前記測定方法1に記載の方法で画分中のRNAの純度を算出すると、純度は64%であった。
【0087】
[参考例2]
RNAのアミダイト法による固相合成
以下に示すIIの核酸配列を有するRNAを合成した。当該鎖は67塩基長からなる。
【0088】
鎖II:Am*Gm*Cm*AmUmAmGmCAAGUUAmAAAUAAGGmC*U*AmG*U*C*CmGUUAUCAAmCmUmUmGmAmAmAmAmAmGmUmGGCACmCmGmAGUCGGmUmGmCm*Um*Um*U (5'-3')(配列番号2)
前記配列の表記において、ヌクレオチドの間の記号*は、ヌクレオチドを繋ぐリン酸結合が、ホスホロチオエートであることを表す。アルファベットAm, Um, Cm, Gmは2’水酸基がメトキシ基に置き換わったヌクレオチドを示す。当該RNAは、ホスホロアミダイト法に基づき、核酸合成機(AKTA oligopi lot plus100 GEヘルスケア社)を用いて3’側から5’側に向かって合成した。合成は53μmolスケールにて実施した。また、当該合成にはRNAアミダイトとして、ウリジンEMMアミダイト(国際公開第2013/0278 43号の実施例2に記載)、シチジンEMMアミダイト(同実施例3に記載)、アデノシンEMMアミダイト(同実施例4に記載)、およびグアノシンEMMアミダイト(同実施例5に記載)と、それぞれ下記の式のウリジン2’OMeアミダイト、シチジン2’OMeアミダイト、アデノシン2’OMeアミダイト、およびグアノシン2’OMeアミダイトを使用し、固相担体として多孔質ガラスを使用し、デブロッキング溶液としてジクロロ酢酸トルエン溶液を使用し、縮合剤として5-ベンジルチオ-1H-テトラゾールを使用し、酸化剤としてヨウ素溶液を使用し、硫化剤として3-アミノ-1,2,4-ジチアゾール-5-チオンを使用し、キャッピング溶液として無水フェノキシ酢酸溶液とN-メチルイミダゾール溶液とを使用して行った。核酸伸長終了後担体上の核酸にジエチルアミン溶液を作用させることでリン酸部分のシアノエチル保護基を選択的に脱保護した。ここで、EMMは、(2-シアノエトキシ)メトキシメチル基の略号である。
【0089】
【0090】
固相合成後の固相担体からの切出しと脱保護は、国際公開第2013/027843号に記載の方法に従った。すなわち、アンモニア水溶液とエタノールとを加え、しばらく静置した後に固相担体をろ過し、溶媒を留去した。その後、テトラブチルアンモニウムフルオリドを用いて水酸基の脱保護を行った。得られたRNAを、注射用蒸留水を用いて所望の濃度となるように溶解した。
【0091】
RNAの分取精製
下記表4の条件でカラムクロマトグラフィー精製を行った。ただし、精製前にカラム内に移動相Aを流速4.7mL/minで12.5分間通液したのちにサンプルを添加した。保持時間66.7分-70.9分までを分取し、得られた溶液をHPLCにて分析した。なお、前記測定方法1に記載の方法で純度を算出した。その結果、純度94%であった。この分取精製したRNA溶液を用いて以下の実施例および比較例の実験を行った。
【0092】
【0093】
分取溶液の保存安定性の確認
[実施例5]
前記参考例2で分取精製したRNAを含む画分の溶液0.5mLを容量10mLのガラス製ヘッドスペースバイアル(GLサイエンス社)に入れ、セプタム及びクリンプキャップ(GLサイエンス社)にて密封した。更に密封した系内に窒素ボンベから窒素を吹き付ける針と、吹き付けた窒素を抜くための針、更にOxygen Meterの測定用針をセプタムに突き刺し、窒素をフローすることで系内雰囲気を窒素に置換し、雰囲気中の酸素濃度を0.0%とした。ここで、酸素濃度は、前記測定方法2に記載の方法を用いて測定した。更に分取溶液の入ったガラス製ヘッドスペースバイアルを60℃に温調されたインキュベータ(ケニス社)に入れ、8時間静置した。静置後、インキュベータから取り出したヘッドスペースバイアルを室温まで冷却し、前記測定方法1に記載の方法でRNAの純度を算出すると、87%であった。
【0094】
[実施例6]
前記参考例2で分取精製したRNAを含む画分の溶液0.5mLを容量10mLのガラス製ヘッドスペースバイアル(GLサイエンス社)に入れ、セプタム及びクリンプキャップ(GLサイエンス社)にて密封した。更に密封した系内に窒素ボンベから窒素を吹き付ける針と、吹き付けた窒素を抜くための針、更にOxygen Meterの測定用針をセプタムに突き刺し、窒素をフローすることで系内を窒素に置換し、雰囲気中の酸素濃度を2.1% とした。ここで、酸素濃度は、前記測定方法2に記載の方法を用いて測定した。更に分取溶液の入ったガラス製ヘッドスペースバイアルを60℃に温調されたインキュベータ(ケニス社)に入れ、8時間静置した。静置後、インキュベータから取り出したヘッドスペースバイアルを室温まで冷却し、前記測定方法1に記載の方法でRNAの純度を算出すると、84%であった。
【0095】
[実施例7]
前記参考例2で分取精製したRNAを含む画分の溶液0.5mLを容量10mLのガラス製ヘッドスペースバイアル(GLサイエンス社)に入れ、セプタム及びクリンプキャップ(GLサイエンス社)にて密封した。更に密封した系内に窒素ボンベから窒素を吹き付ける針と、吹き付けた窒素を抜くための針、更にOxygen Meterの測定用針をセプタムに突き刺し、窒素をフローすることで系内を窒素に置換し、雰囲気中の酸素濃度を4.5% とした。ここで、酸素濃度は、前記測定方法2に記載の方法を用いて測定した。更に分取溶液の入ったガラス製ヘッドスペースバイアルを60℃に温調されたインキュベータ(ケニス社)に入れ、8時間静置した。静置後、インキュベータから取り出したヘッドスペースバイアルを室温まで冷却し、前記測定方法1に記載の方法でRNAの純度を算出すると、83%であった。
【0096】
[比較例3]
前記参考例2で分取精製したRNAを含む画分の溶液0.5mLを容量10mLのガラス製ヘッドスペースバイアル(GLサイエンス社)に入れ、雰囲気を窒素置換せずにセプタム及びクリンプキャップ(GLサイエンス社)にて密封した。更に分取溶液の入ったガラス製ヘッドスペースバイアルを60℃に温調されたインキュベータ(ケニス社)に入れ、8時間静置した。静置後、インキュベータから取り出したヘッドスペースバイアルを室温まで冷却した後、前記測定方法1に記載の方法で画分中のRNAの純度を算出すると、純度は79%であった。
【0097】
【表5】
1)参考例2で分取精製した核酸(RNA)の60℃で8時間、所定の酸素濃度条件で静置保存した後、HPLCで測定した核酸の純度(%)
2)核酸の保持率(%)=保存後の核酸のHPLC純度/参考例2で分取精製時の核酸の純度
【産業上の利用可能性】
【0098】
逆相クロマトグラフィーの溶離画分中のホスホロチオエート結合を有する核酸オリゴマーを安定化させることができ、精製された、ホスホロチオエート結合を有する核酸オリゴマー(例えば、RNA)を効率よく製造できる。
【配列表フリーテキスト】
【0099】
配列表の配列番号1および2は、本発明の製造方法に従って製造されるオリゴヌクレオチドの塩基配列を表す。
【配列表】