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  • 特許-水性接着剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-12
(45)【発行日】2025-03-21
(54)【発明の名称】水性接着剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/08 20060101AFI20250313BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20250313BHJP
   B31C 99/00 20090101ALI20250313BHJP
   A47G 21/18 20060101ALN20250313BHJP
【FI】
C09J133/08
C09J11/08
B31C99/00
A47G21/18
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023124049
(22)【出願日】2023-07-31
(62)【分割の表示】P 2019063985の分割
【原出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2023129714
(43)【公開日】2023-09-14
【審査請求日】2023-08-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】391047558
【氏名又は名称】ヘンケルジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100138885
【弁理士】
【氏名又は名称】福政 充睦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 良夫
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-136335(JP,A)
【文献】特開2002-188069(JP,A)
【文献】特開2001-072952(JP,A)
【文献】特開2000-119621(JP,A)
【文献】特開平10-195407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
B32B
A47G21/00-23/16
B31B50/00-70/99;B31C;B31D
A47K10/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類のモノマーが、安定化剤としてカルボキシル基を有する共重合体の存在下、重合することで得られる共重合体を含む水性接着剤であって、
安定化剤であるカルボキシル基を有する共重合体は、酸価が100~300mgKOH/gのスチレン・α-メチルスチレン・アクリル酸共重合体であり、
該複数種類のモノマーは、n-ブチルアクリレート及び2-エチルヘキシルアクリレートから選択される少なくとも1種と、スチレンとを含み、
該複数種類のモノマー総質量100質量部に対し、スチレンの含有量が20~50質量部であり、
紙材に塗布され、紙材から紙管を製造するための水性接着剤。
【請求項2】
該複数種類のモノマー総質量100質量部に対し、10~50質量部の安定化剤を含む、請求項に記載の水性接着剤。
【請求項3】
安定化剤の存在下、該複数種類のモノマーが重合することで得られる共重合体のガラス転移温度が-40~0℃である、請求項1又は2に記載の水性接着剤。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の水性接着剤が塗布された紙材を有する紙管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙製ストロー等に利用される紙管およびそのような紙管に塗布される水性接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、大部分のストローはプラスチック製であり、1本当たりの体積が大きくないものの、1日に使用される数が非常に多い。それゆえ、毎日極めて膨大な量のストロー廃棄物が世界で生ずる。
【0003】
プラスチック製ストローは、自然に分解できず、廃棄処理が困難である。プラスチック製ストローを焼却すると、ダイオキシンが発生し、空気が汚染される可能性がある。近年では、捨てられたプラスチック製ストローが海洋に入り、マイクロレベルの小さなゴミに成り、これを海洋中の魚類が食べ、その魚類を人間が食べる可能性が問題になりつつある。
【0004】
このような問題を解決するため、市場には繰り返し使用できるステンレス製ストローまたはガラス製ストローが出現している。しかしながら、これらのストローは、コストが高く、洗浄、消毒を経なければ繰り返し使用できず、携帯用としても不便であるため、プラスチック製ストローの代替品として有用ではない。
【0005】
このような問題を考慮し、廃棄処分が容易な紙製ストローが検討されている(特許文献1及び2参照)。
特許文献1のストローは、紙材からなる紙管であり、螺旋状に巻かれた内側の内部紙材と、この内部紙材の外面に巻かれた外部紙材とで形成されている。内部紙材と外部紙材とは、コーティング剤(例えば、パラフィンにポリビニルアルコール樹脂を溶かした溶液)によって僅かにずれた状態で接着されている(特許文献1[0007][0012][図1][図2]参照)。
特許文献2は、1枚の紙シートを複数層にわたって重ね巻きして形成されたストローを開示する(特許文献2[請求項1][0026][図1][図2]参照)。
【0006】
紙製ストローを製造する際、紙材を貼り合わせる接着剤として、安全性を考慮し、耐水性に優れた樹脂を用いることが必要である。特許文献1及び2に示されるように、紙製ストローの紙材には、水に溶けにくく、安全性が高い樹脂として、ポリビニルアルコール樹脂又は酢酸ビニル樹脂等がコーティングされている(特許文献1[請求項1][0007]、特許文献2[0024]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-133840号公報
【文献】実用新案登録第3218847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び2の紙製ストローは、近年の厳しい安全性への要求を十分に満たしているとは言えない。特に食品業界では、顧客の安全性への要求が年々高まっており、食器やストローについて、人体や環境に悪影響を及ぼす要因を可能な限り排除していく傾向にある。
従って、紙製ストローに塗工される樹脂組成物は、特許文献1に開示された溶剤系接着剤よりも水系接着剤が好ましいと考えられ、更により高いレベルの耐水性を持ち、水性媒体中での重合体の安定性(即ち、エマルションの安定性)に優れることが望まれている。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、耐水性や安定性に優れ、紙管に塗布される水性接着剤、人体や環境に有用な紙製ストロー等に利用される紙管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述の課題を解決するため、鋭意検討した結果、複数種類の特定モノマーを重合することで得られる共重合体を含むエマルションは耐水性および安定性に優れ、この共重合体エマルションを含む水性接着剤及びその水性接着剤が塗布された紙管が本課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本明細書は、下記の態様を含む。
1.複数種類のモノマーが重合することで得られる共重合体を含む水性接着剤であって、
該モノマーが(メタ)アクリル酸エステルを含み、
紙管に塗布される、水性接着剤。
2.モノマーは、さらに、スチレンを含む、1に記載の水性接着剤。
3.モノマー総質量100質量部に対し、スチレンの含有量が20~50質量部である、2に記載の水性接着剤。
4.共重合体のガラス転移温度が30℃以下である、1~3のいずれか1つに記載の水性接着剤。
5.共重合体は、安定剤としてカルボキシル基を有する重合体の存在下、複数種類のモノマーが重合することで得られる、1~4のいずれか1つに記載の水性接着剤。
6.モノマー総質量100質量部に対し、10~50質量部の安定剤を含む、5に記載の水性接着剤。
7.安定剤の酸価が100~300mgKOH/gである、5または6に記載の水性接着剤。
8.安定剤が(メタ)アクリル樹脂に由来する化学構造を有する、5~7のいずれか1つに記載の水性接着剤。
9.1~8のいずれか1つに記載の水性接着剤が塗布された紙管。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態の水性接着剤は、複数種類のモノマーが重合することで得られる共重合エマルションを含み、紙管に塗布され、該モノマーが(メタ)アクリル酸エステルを有することによって、耐水性および安定性に優れたものとなる。
その水性接着剤が塗布された紙管は、紙製ストロー等に利用され、人体に安全で、廃棄し易く、環境的に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施形態の紙管として、紙製ストローを模式的に斜視図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態の水系接着剤は、複数種類のモノマーが重合することで得られる共重合体エマルションを含み、紙管、例えば紙製ストロー等に塗布される水性接着剤である。
本発明の実施形態において、上記モノマーは(メタ)アクリル酸エステルを含む。
【0015】
本明細書では、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の双方を示し、アクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも1種を含むことを意味する。
「(メタ)アクリル酸エステル」とは(メタ)アクリル酸のエステル、すなわち(メタ)アクリレートをいう。(メタ)アクリレートとは、アクリレート、メタクリレートの双方を示し、アクリレート及びメタクリレートの少なくとも1種を含むことを意味する。
尚、ビニル基と酸素が結合した構造を有するビニルエステル、例えば酢酸ビニル等は、本明細書において、(メタ)アクリレートに含まれない。
【0016】
(メタ)アクリレートの具体例として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ベヘニル及びドコシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等を例示できる。
これらは単独で又は2種以上併せて用いることができる。
【0017】
本発明の実施形態において、(メタ)アクリル酸エステルとして、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、より具体的には、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートを含むのが好ましく、特にn-ブチルアクリレート若しくは、2-エチルヘキシルアクリレートを含むことが好ましい。n-ブチルアクリレート及び2-エチルヘキシルアクリレートは、それらのホモポリマーのガラス転移温度(以下、Tg)が低い。
【0018】
共重合体を、n-ブチルアクリレート又は2-エチルヘキシルアクリレートと、その他のモノマーを重合して得ることが好ましく、この場合共重合体のTgを低く調整することができ、水性接着剤の耐水性を向上させ得る。
【0019】
本発明の実施形態において、モノマーは、(メタ)アクリル酸エステルの他に、他のモノマーを含んでよい。本発明の実施形態の水性接着剤を得られる限り、他のモノマーは特に制限されることはない。他のモノマーとして、スチレンを含むことが好ましい。スチレンのホモポリマーのTgは100℃である。Tgの低い(メタ)アクリル酸エステル(例えば、n-ブチルアクリレートのホモポリマーのTgは-54℃、2-エチルヘキシルアクリレートのホモポリマーのTgは-70℃)と、スチレンが重合されて得られる共重合エマルションは、スチレンの配合量によってTgが容易に調整され、その結果、水性接着剤の耐水性制御を容易にする。
【0020】
他のモノマーの含有量は特に制限されることはないが、例えば、スチレン含有量は、モノマー総質量100質量部に対し、20~50質量部であることが好ましい。スチレン含有量が上記範囲にあることによって、共重合体のTgが容易に調整され、水性接着剤の耐水性制御が容易となる。
【0021】
共重合体のTgは、30℃以下であることが好ましく、特に―40℃~15℃であることが好ましく、さらには、-40℃~0℃であることが好ましく、-35℃~―20℃であることが最も望ましい。共重合体のTgが上記範囲にある場合、本発明の実施形態の水性接着剤の安定性と耐水性および安定性により優れたものとなる。
【0022】
本明細書では、共重合体のガラス転移温度は、共重合体の原料となるモノマーが単独重合したときに得られるホモポリマーのガラス転移温度(以下「ホモポリマーTg」ともいう)から算出される。このホモポリマーTgと、各モノマーの混合比(質量部)を考慮して決める。具体的には、共重合体のTgは、下記式(1)を用いて計算することによって求めることができる。
【0023】
式(1):
1/Tg=C/Tg+C/Tg+・・・+C/Tg
[算出式(1)において、Tgは、共重合体の理論Tg、Cは、n番目のモノマーnが単量体混合物中に含まれる質量割合、Tgは、n番目のモノマーnのホモポリマーTg、nは、共重合体を構成する単量体の数であり、正の整数。]
【0024】
ホモポリマーTgは、文献に記載されている値を用いることができる。そのような文献として、例えば、「POLYMER HANDBOOK」(第4版;John Wiley & Sons,Inc.発行)がある。一例として、POLYMER HANDBOOKに記載されたモノマーのホモポリマーTgを以下に示す。
【0025】
メチルメタクリレート(「MMA」、Tg=105℃)
n-ブチルアクリレート(「n-BA」、Tg=-54℃)
2-エチルへキシルアクリレート(「2EHA」、Tg=-70℃)
スチレン(「St」、Tg=100℃)
アクリル酸(「AA」、Tg=106℃)
メタクリル酸(「MAA」、Tg=130℃)
n-ブチルメタクリレート(「BMA」、Tg=20℃)
【0026】
本明細書では、上記モノマーの単独重合で得られるホモポリマーのTgの他に、他のモノマーの単独重合で得られるホモポリマーのガラス転移温度(Tg)も式(1)に適用可能である。
【0027】
本発明の実施形態において、共重合体は、n-ブチルアクリレート及び2-エチルヘキシルアクリレートの少なくとも1種と、スチレンとを重合して得られるものが好ましい。共重合体は、上記成分を含むことで、Tgが30℃以下に調整され易くなり、本発明の実施形態の水性接着剤の耐水性を向上させることになる。
【0028】
また、本発明の実施形態において、共重合体は、エマルションの形態で製造することができる。共重合体エマルションの固形分濃度は、特に限定されないが、共重合エマルション成分中、5~70質量%であることが好ましい。なお、エマルションの固形分とは、エマルションを105℃で3時間乾燥して得られる固形分のことをいう。
【0029】
本発明の実施形態の共重合体エマルションは、複数種類のモノマーを乳化重合させて得られる。乳化重合は、水又は水性媒体を媒体とし、乳化剤を用いるラジカル重合であり、公知の方法を用いることができる。
【0030】
乳化剤は、重合中又は重合後はポリマー粒子の表面に固定化して粒子の分散安定性を図る。乳化剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤等を例示できる。
また、耐水性、耐アルカリ性、及び防水性の向上のために乳化剤の一分子内にラジカル重合可能な二重結合を有する「反応性界面活性剤」を使用するのが好ましい。
【0031】
本発明の実施形態の共重合体エマルションは、安定化剤(例えば、カルボキシル基を有する重合体、水酸基を有する重合体)等が水性媒体に存在する状態で、複数種類のモノマーを乳化重合させて得られることが好ましい。安定化剤は、水性媒体中でエマルションの固形分を安定して分散させる作用を有し、カルボキシル基を有する重合体が好ましい。
【0032】
ここで、「水性媒体」とは、水道水、蒸留水又はイオン交換水等の一般的な水をいうが、水性媒体に溶解可能な有機溶剤であって、単量体等の本発明の実施形態の共重合体の原料と反応性の乏しい有機溶剤、例えば、アセトン及び酢酸エチル等を含んでもよく、更に水性媒体に溶解可能な単量体、オリゴマー、プレポリマー及び/又は樹脂等を含んでもよく、また後述するように水系の樹脂又は水溶性樹脂を製造する際に通常使用される、乳化剤、重合性乳化剤、重合反応開始剤、鎖延長剤及び/又は各種添加剤等を含んでもよい。
【0033】
本発明の実施形態において、安定化剤となるカルボキシル基を有する重合体としては、(メタ)アクリル樹脂に由来する化学構造を有することが好ましく、変性(メタ)アクリル樹脂であることが好ましい。
本発明の実施形態では、変性(メタ)アクリル樹脂とは、(メタ)アクリル酸、及び(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種が重合することで得られる、カルボキシル基を有する合成樹脂である。すなわち、本明細書において、変性(メタ)アクリル樹脂とは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種と、その他のモノマーが共重合して得られる共重合体である。
【0034】
変性アクリル樹脂としては、例えば、スチレン/アクリル酸共重合体、スチレン/アクリル酸/アクリル酸エステル共重合体、スチレン/メタクリル酸共重合体、スチレン/メタクリル酸/メタクリル酸エステル共重合体が挙げられる。上述の変性アクリル樹脂を安定化剤として用いると、本発明の実施形態の水性接着剤は、安定性および耐水性により優れる。
【0035】
本発明の実施形態において、安定剤は、モノマー総質量100質量部に対し、10~50質量部配合されることが好ましい。安定剤の配合量が上記範囲にあることによって、共重合体エマルションの粒子(固形部分)が水性媒体中で安定して分散することができる。共重合エマルションの分散が安定すると、本発明の実施形態の水性接着剤は安定性および耐水性により優れる。
【0036】
本発明の実施形態のカルボキシル基を有する重合体の酸価は、100~300mgKOH/gであることが好ましく、さらに150~250mgKOH/gであることが好ましく、180~220mgKOH/gであることが特に好ましく、190~210mgKOH/gであることが最も望ましい。カルボキシル基を有する重合体の酸価が上記範囲にあることによって、水性接着剤の耐水性がより向上する。
【0037】
尚、本発明の実施形態のカルボキシル基を有する共重合体の「酸価」は、共重合体1g中に含まれる酸基が全て遊離した酸であると仮定して、それを中和するために必要な水酸化カリウムのmg数の計算値で表す。従って、実際の系内で塩基として存在しているとしても、遊離した酸として考慮する。
【0038】
これは、カルボキシル基を有する重合体の原料となるモノマー(以下、「原料モノマー」)が含む酸基と対応する。本発明の実施形態において「酸価」は、下記式(2)で求めることができる。
【0039】
式(2):
酸価=((原料モノマーの質量/原料モノマーの分子量)×原料モノマー1モルに含まれる酸基のモル数×KOHの式量×1000/(A)カルボキシル基を有する重合体の質量)
【0040】
本発明の実施形態の水性接着剤は、エマルションの形態を有し、それは、共重合体をエマルションの形態で含んでよく、安定化剤を含んでよく、安定化剤はカルボキシル基を有する重合体を含んでよく、添加剤として、更に、架橋剤、粘性調整剤、可塑剤、消泡剤、防腐剤、着色剤等を有していてもよい。これら添加剤は、共重合体エマルションを合成後、配合しても良く、共重合体エマルションの原料であるモノマーに配合しておいても良く、エマルション形態の水性接着剤に加えても良い。共重合体エマルションで記載したことは、本発明の実施形態のエマルション形態の水性接着剤に、参照することができる。
【0041】
架橋剤として、例えば、酢酸亜鉛、酸化亜鉛、酢酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム等が例示できる。これらの架橋剤は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0042】
粘性調整剤として、例えば、尿素、尿素化合物、ジシアンジアミド等の窒素含有物質、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸3ナトリウム、リン酸水素2アンモニウム、硼砂、フッ化ナトリウム、水ガラス、アンモニア水等を例示できる。
可塑剤として、例えば、グリセリン;エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール類;ショ糖、ソルビトール等の糖類;セロソルブ類等の有機溶剤類等を例示できる。
【0043】
消泡剤として、例えば、
ジメチルポリシロキサン、ポリオキシアルキレン変性シリコーン、有機変性ポリシロキサン、フッ素シリコーン等のシリコーン系消泡剤;
ヒマシ油、ゴマ油、アマニ油、動植物油等の油脂系消泡剤;
ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸等の脂肪酸系消泡剤;
イソアミルステアリン酸、ジグリコールラウリン酸、ジステアリルコハク酸、ジステアリン酸、ソルビタンモノラウリン酸、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン、モノラウリン酸ブチルステアレート、ショ糖脂肪酸エステル、スルホン化リチノール酸のエチル酢酸アルキルエステル、天然ワックス等の脂肪酸エステル系消泡剤;
ポリオキシアルキレングリコールとその誘導体、ポリオキシアルキレンアルコール水和物、ジアミルフェノキシエタノール、3-ヘプタノール、2-エチルヘキサノール等のアルコール系消泡剤;
3-ヘプチルセルソルブ、ノニルセルソルブ-3-ヘプチルカルビトール等のエーテル系消泡剤;
トリブチルホスフェート、オクチルリン酸ナトリウム、トリス(ブトキシエチル)ホスフェート等のリン酸エステル系消泡剤;
ジアミルアミン等のアミン系消泡剤;
ポリアルキレンアマイド、アシレイトポリアミン、ジオクタデカノイルピペリジン等のアマイド系消泡剤;
ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸カリウム、ウールオレインのカルシウム塩等の金属石鹸系消泡剤;
ラウリルスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸エステル系消泡剤等を例示することができる。
【0044】
本発明の実施形態の水性接着剤は、紙管を製造する際に利用することができる。紙管は紙材が巻かれ、紙材表面に本発明の実施形態の水性接着剤が塗布されて得られる。
図1は、本発明の実施形態の紙管として、例えば、紙製ストローを模式的に示す。図1に示されるように、紙管(紙製ストロー)1は、螺旋状に巻かれた内側の内部紙材2と、この内部紙材2の外面に巻かれた外部紙材3を含み、内部紙材2と外部紙材3とは僅かにずれた状態で、水性接着剤(図示せず)によって接着されている。
【0045】
本発明の実施形態の紙製ストロー1は、図1に示される形態の他に、様々の形態であってよく、例えば、一枚のシート状の紙材が複数層にわたって重ね巻きされた形態であってもよい。
尚、本発明の実施形態の紙管は、耐水性に優れるので、紙製ストローの他に、トイレットペーパー、情報紙、カレンダー、フィルム、テープやカーペットの芯、段ボールの代替として梱包資材等にも利用可能である。
【実施例
【0046】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的かつ詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
尚、実施例の記載において、特に記載がない限り、溶媒を考慮しない部分を、質量部及び質量%の基準としている。
【0047】
本発明の実施形態の水性接着剤を、(A)安定化剤、(B)モノマー(エチレン性二重結合を有する重合性単量体)および(C)エチレン酢酸ビニル(EVA)共重合体エマルションから調製した。
【0048】
表1に記載した割合で成分(A)、成分(B)、成分(C)を用い、実施例1~4、参考例5及び比較例1~2の水性接着剤を製造した。成分(A)~(C)の詳細を以下に示す。
(A)安定化剤
(A-1)カルボキシル基を有する重合体(BASFジャパン株式会社製のJONCRYL679(商品名)) 酸価200mgKOH/g
(A-2)カルボキシル基を有する重合体 (Hanwha Chemical 社製のSOLURYL 820(商品名)) 酸価205mgKOH/g
(A-3)水酸基を有する重合体 (日本合成化学 株式会社製のOKS-8041(商品名)) 酸価0mgKOH/g
(A-4)水酸基を有する重合体 (デンカ株式会社製のデンカポバールB-17(商品名)) 酸価0mgKOH/g
(A-5)水酸基を有する重合体 (デンカ株式会社製のデンカポバールB-24T(商品名)) 酸価0mgKOH/g
【0049】
(B)モノマー(エチレン性二重結合を有する重合性単量体)
(B-1)アクリル酸ブチル(n-ブチルアクリレート)
(B-2)アクリル酸2-エチルヘキシル(2-エチルへキシルアクリレート)
(B-3)スチレン
(B-4)メタクリル酸メチル(メチルメタクリレート)
(B-5)酢酸ビニル(ビニルアセテート)
【0050】
(C)エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)エマルション
(C-1); スミカフレックス 408HQE(住友化学社製)
【0051】
実施例1の水性接着剤の製造
攪拌翼、温度計及び還流冷却器を備えた4つ口フラスコ内に、100質量部の蒸留水、40質量部の(A-1)、及び7質量部の25%アンモニア水を加えた。4つ口フラスコ内に窒素ガスを吹き込みながら攪拌し、液温を70℃に保った。
一方、75質量部の(B-1)及び25質量部の(B-2)混合物、並びに1.3質量部の過硫酸ナトリウム及び19質量部の水からなる水溶液を用意した。
上述の混合物の約4体積%と上述の水溶液の約30体積%の各々を、上述の四つ口フラスコ内に加えて攪拌し、乳化重合を開始させた後、混合物の残部(約96体積%)と水溶液の残部(約70体積%)を同時に約4時間かけて四つ口フラスコ内に滴下して加えた。
滴下終了後、更に液温を70℃に保ちつつ約1時間半攪拌を続けた後、得られた反応混合物を室温に冷却した。アンモニア水を加えてpHを8に調整し、水性接着剤とした。この水性接着剤は、乳濁しているので乳濁液であり、従って、エマルション組成物である。表1に記載された(B)の共重合体のガラス転移温度は、(B)のモノマーのホモポリマーのTgに基づいて理論計算した値である。
得られた水性接着剤の試験結果を表1に示す。
【0052】
実施例2~の水性接着剤の製造
各成分を表1のように替えた以外、実施例1の方法と同様の方法を用いて、実施例2~の水性接着剤を製造した。得られた水性接着剤の試験結果を表1に示す。
【0053】
比較例1
各成分を表1のように変え、常法によって、ポリビニルアルコールを安定剤とする酢酸ビニルエマルションを製造した。具体的には、ヘンケルジャパン株式会社製の225-1025を使用した。
【0054】
比較例2
エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)エマルションとして住友化学株式会社製 スミカフレックス408HQEをそのまま使用した。
【0055】
得られた水性接着剤の評価は以下の様に行った。
1.安定性
合成後の水性接着剤を、100mLずつに小分けして100mlの蒸留水にて希釈し試料を準備した。室温で24時間保管後の状態を目視で観察した。評価基準は以下のとおりである。
◎:全ての試料について、(B)共重合体の凝集、沈殿、及び分離等が認められず、均一なエマルションであった。
○:試料の30%未満で(B)共重合体の凝集、沈殿、又は分離などが認められた。
×:試料の30%以上で(B)共重合体の凝集、沈殿、又は分離などが認められた。
【0056】
2.耐水性
一般上質紙上にバーコーターを用いて水性接着剤を塗工し、直後に未塗工の上質紙を貼り合わせ、その後、105℃で5分間乾燥させて貼り合わせサンプルを作製した。この貼り合わせサンプルを2.5cm各に裁断し、60℃で50mlの蒸留水に浸漬し、その後の状態を観察した。評価基準は以下のとおりである。
○:1時間後接着面同士がはがれず、手で剥離すると上質紙が材料破壊する。
△:1時間後接着面同士がはがれないが、手で剥離すると上質紙が接着界面ではがれる。
×:1時間後接着面同士がはがれる。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示されるように、実施例1~の水性接着剤は、複数種類のモノマーの共重合体を有し、この共重合体が(メタ)アクリル酸エステルに由来する化学構造を含むので、安定性および耐水性の双方に優れる。
【0059】
比較例1の水性接着剤は、酢酸ビニルのホモポリマーを含み、(メタ)アクリル酸エステルに由来する化学構造を含む共重合体を含まない。比較例2の水性接着剤は、市販のエチレン-酢酸ビニル共重合体を含むが、(メタ)アクリル酸エステルに由来する化学構造を含まない。
従って、比較例1及び2の水性接着剤は、耐水性が著しく劣る。比較例2の水性接着剤に至っては、安定性も劣る。
【0060】
実施例の水性接着剤と比較例の水性接着剤を参照すれば明らかなように、実施例の水性接着剤は、(メタ)アクリル酸エステルの重合体に由来する化学構造を有することで、安定性および耐水性の双方に優れることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、紙管に塗布される水性接着剤を提供できる。本発明の実施形態の水性接着剤が紙材に塗布され、紙材から紙管(例えば紙製ストロー等)が製造される。
【符号の説明】
【0062】
1…紙管(紙製ストロー)
2…内部紙材
3…外部紙材
図1