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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-12
(45)【発行日】2025-03-21
(54)【発明の名称】電気化学セル
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/19 20210101AFI20250313BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20250313BHJP
   C25B 9/63 20210101ALI20250313BHJP
   H01M 8/1226 20160101ALI20250313BHJP
   H01M 8/1213 20160101ALI20250313BHJP
   C25B 1/042 20210101ALN20250313BHJP
   C25B 1/23 20210101ALN20250313BHJP
   C25B 11/052 20210101ALN20250313BHJP
   C25B 9/00 20210101ALN20250313BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20250313BHJP
【FI】
C25B9/19
C25B9/23
C25B9/63
H01M8/1226
H01M8/1213
C25B1/042
C25B1/23
C25B11/052
C25B9/00 A
C25B9/00 Z
H01M8/12 101
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2024559499
(86)(22)【出願日】2023-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2023046416
(87)【国際公開番号】W WO2024143271
(87)【国際公開日】2024-07-04
【審査請求日】2024-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2022209929
(32)【優先日】2022-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 真司
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-512651(JP,A)
【文献】特開2017-220299(JP,A)
【文献】国際公開第2014/156152(WO,A1)
【文献】特開2019-046570(JP,A)
【文献】特開2008-098145(JP,A)
【文献】特開2009-099562(JP,A)
【文献】特開2016-012413(JP,A)
【文献】特開2017-111962(JP,A)
【文献】国際公開第2020/091358(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0027918(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 9/19
C25B 9/23
C25B 9/63
H01M 8/1226
H01M 8/1213
C25B 1/042
C25B 1/23
C25B 11/052
C25B 9/00
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層及び前記第2電極層の間に配置される電解質層とを有するセル本体部と、
第1主面と、第2主面と、前記第1主面に形成された凹部と、前記第2主面と前記凹部の底面に連なる複数の供給孔とを有する金属支持体と、
を備え、
前記第1電極層の少なくとも一部は、前記凹部内に配置され、
前記セル本体部は、前記複数の供給孔のうち少なくとも1つの供給孔内に配置され、第1電極層に連なる触媒層を有する、
電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属支持体によってセル本体部が支持された構造を有する電気化学セル(電解セル、燃料電池など)が知られている。例えば、特許文献1に記載された電気化学セルは、第1電極層、電解質層、及び第2電極層がこの順で金属支持体の主面上に積層されたセル本体部を備える。金属支持体は、例えばステンレス鋼などの金属材料によって構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-155337号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属支持体の耐熱性が低いため、金属支持体の主面上に第1電極層を高温で成膜することは困難である。従って、第1電極層の多孔質微構造の強度を向上させるにも限界があるため、第1電極層に損傷(クラックや剥離)が生じやすい。
【0005】
本発明の課題は、第1電極層の損傷を抑制可能な電気化学セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の側面に係る電気化学セルは、セル本体部と、金属支持体とを備える。セル本体部は、第1電極層と、第2電極層と、第1電極層及び第2電極層の間に配置される電解質層とを有する。金属支持体は、第1主面と、第2主面と、第1主面に形成された凹部と、第2主面と凹部の底面に連なる複数の供給孔を有する。第1電極層の少なくとも一部は、凹部内に配置される。
【0007】
本発明の第2の側面に係る電気化学セルは、第1の側面に係り、金属支持体の厚み方向に沿った断面において、凹部の側周面と底面の境界部は、R形状である。
【0008】
本発明の第3の側面に係る電気化学セルは、第1又は第2の側面に係り、セル本体部は、複数の供給孔のうち少なくとも1つの供給孔内に配置され、第1電極層に連なる触媒層を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、第1電極層の損傷を抑制可能な電気化学セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態に係る電解セルの平面図である。
図2図2は、図1のA-A断面図である。
図3図3は、変形例1に係る電解セルの断面図である。
図4図4は、変形例2に係る電解セルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(電解セル100)
図1は、実施形態に係る電解セル100の平面図である。図2は、図1のA-A断面図である。電解セル100は、いわゆるメタルサポート型の電解セルである。電解セル100は、本発明に係る「電気化学セル」の一例である。
【0012】
電解セル100は、X軸方向及びY軸方向に広がる板状に形成される。本実施形態において、電解セル100は、平面視においてY軸方向に延びる長方形に形成されているが、電解セル100の平面形状は特に限られず、長方形以外の多角形、楕円形、円形などであってもよい。
【0013】
図2に示すように、電解セル100は、金属支持体10、セル本体部20、及び流路部材30を備える。
【0014】
(金属支持体10)
金属支持体10は、セル本体部20を支持する。金属支持体10は、板状に形成される。金属支持体10は、平板状であってもよいし、曲板状であってもよい。金属支持体10は電解セル100の強度を保つことができればよく、その厚みは特に制限されないが、例えば0.1mm以上2.0mm以下とすることができる。
【0015】
図2に示すように、金属支持体10は、第1主面11、第2主面12、凹部13、及び複数の供給孔14を有する。
【0016】
第1主面11は、セル本体部20側の主面である。第1主面11は、平面状に形成される。第1主面11には、セル本体部20が接合される。第1主面11には、凹部13が形成されている。そのため、第1主面11は、平面視において環状に形成されている。
【0017】
第2主面12は、セル本体部20と反対側の主面であり、第1主面11の反対側に設けられている。第2主面12は、平面状に形成される。第2主面12には、流路部材30が接合される。
【0018】
凹部13は、第1主面11に形成される。凹部13は、第1主面11に開口する。凹部13は、いわゆる有底凹部である。凹部13内には、後述する水素極層1が配置される。凹部13は、底面S1及び側周面S2を有する。
【0019】
底面S1は、水素極層1と接触する。底面S1は、水素極層1の金属支持体10側を覆う。底面S1は、Z軸方向において、第1主面11と第2主面12の間に配置される。Z軸方向は、X軸方向及びY軸方向それぞれに垂直な方向であり、本発明に係る「厚み方向」の一例である。本実施形態において、底面S1は、平面状に形成されている。
【0020】
側周面S2は、底面S1の外縁と第1主面11の内縁とに連なる。側周面S2は、環状に形成される。側周面S2は、水素極層1と接触する。側周面S2は、水素極層1の側周を覆う。
【0021】
図2に示すように、金属支持体10の厚み方向に沿った断面において、底面S1と側周面S2の境界部13aは、R形状である。従って、側周面S2は、底面S1と滑らかに連なっている。底面S1と側周面S2の間には、変曲点が存在しない。そのため、底面S1と側周面S2の境界は明確ではないが、第1主面11と平行な領域を底面S1と見なし、底面S1以外の領域を側周面S2と見なしてよい。
【0022】
また、図2に示すように、側周面S2は、面方向外側に湾曲している。具体的には、側周面S2の輪郭は、面方向外側に向かって突状に形成されている。面方向とは、Z軸方向(厚み方向)に垂直な方向である。面方向外側とは、面方向において、金属支持体10の中央から離れる向きを意味する。
【0023】
Z軸方向における凹部13の深さは特に制限されないが、Z軸方向における金属支持体10の厚みの1%以上50%以下とすることができる。
【0024】
複数の供給孔14は、第2主面12と凹部13の底面S1に連なる。各供給孔14は、第2主面12から底面S1まで金属支持体10を貫通する。各供給孔14は、第2主面12及び底面S1それぞれに開口する。底面S1側の供給孔14の開口は、水素極層1によって覆われている。すなわち、各供給孔14は、底面S1のうち水素極層1が接合される領域に形成されている。底面S1と反対側の供給孔14の開口は、金属支持体10と流路部材30の間に形成された流路30aに繋がる。各供給孔14には、後述する触媒層2が配置されている。
【0025】
各供給孔14は、機械加工(例えば、パンチング加工)、レーザ加工、或いは、化学加工(例えば、エッチング加工)などによって形成することができる。本実施形態において、各供給孔14は、Z軸方向に沿って直線状に形成されているが、Z軸方向に沿っていなくてもよいし、直線状でなくてもよい。例えば、金属支持体10が多孔質金属によって構成される場合、各供給孔14は、多孔質金属に形成された三次元網目状の開気孔であってもよい。
【0026】
金属支持体10は、金属材料によって構成される。例えば、金属支持体10は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成される。このような金属材料としては、Fe-Cr系合金鋼(ステンレス鋼など)やNi-Cr系合金鋼などが挙げられる。金属支持体10におけるCrの含有率は特に制限されないが、4質量%以上30質量%以下とすることができる。
【0027】
金属支持体10は、Ti(チタン)やZr(ジルコニウム)を含有していてもよい。金属支持体10におけるTiの含有率は特に制限されないが、0.01mol%以上1.0mol%以下とすることができる。金属支持体10におけるAlの含有率は特に制限されないが、0.01mol%以上0.4mol%以下とすることができる。金属支持体10は、TiをTiO(チタニア)として含有していてもよいし、ZrをZrO(ジルコニア)として含有していてもよい。
【0028】
金属支持体10は、金属支持体10の構成元素が酸化することによって形成される酸化皮膜を表面に有していてよい。酸化皮膜としては、例えば酸化クロム膜が代表的である。酸化クロム膜は、金属支持体10の表面の少なくとも一部を覆う。酸化クロム膜は、各供給孔14の内周面の少なくとも一部を覆っていてもよい。
【0029】
(セル本体部20)
セル本体部20は、水素極層1(カソード)、複数の触媒層2、電解質層3、反応防止層4、及び酸素極層5(アノード)を有する。水素極層1、電解質層3、反応防止層4、及び酸素極層5は、X軸方向及びY軸方向に垂直なZ軸方向において、この順で金属支持体10側から積層されている。
【0030】
水素極層1は、本発明に係る「第1電極層」の一例である。酸素極層5は、本発明に係る「第2電極層」の一例である。水素極層1、電解質層3、及び酸素極層5は必須の構成要素であり、触媒層2及び反応防止層4は任意の構成要素である。
【0031】
[水素極層1]
水素極層1は、金属支持体10の凹部13内に配置されている。これによって、水素極層1は、金属支持体10の凹部13に保持される。本実施形態において、水素極層1は、凹部13に充填されている。すなわち、水素極層1の全部が凹部13内に配置されている。従って、図2に示すように、水素極層1は、凹部13の輪郭に沿うように形成されている。
【0032】
水素極層1は、凹部13の底面S1及び側周面S2それぞれと接触する。従って、凹部13の底面S1及び側周面S2それぞれは、水素極層1と金属支持体10の界面である。本実施形態において、水素極層1の表面S3は、平面状に形成されているが、部分的又は全体的に湾曲或いは屈曲していてもよい。
【0033】
水素極層1は、凹部13の底面S1に形成された各供給孔14を覆う。水素極層1には、各供給孔14を介して、流路30aから原料ガスが供給される。原料ガスは少なくともHOを含む。
【0034】
原料ガスがHOのみを含む場合、水素極層1は、下記(1)式に示す水電解の電気化学反応に従って、原料ガスからHを生成する。
・水素極層1:HO+2e→H+O2-・・・(1)
【0035】
原料ガスがHOに加えてCOを含む場合、水素極層1は、下記(2)、(3)、(4)式に示す共電解の電気化学反応に従って、原料ガスからH、CO及びO2-を生成する。
・水素極層1:CO+HO+4e→CO+H+2O2-・・・(2)
・HOの電気化学反応:HO+2e→H+O2-・・・(3)
・COの電気化学反応:CO+2e→CO+O2-・・・(4)
【0036】
水素極層1は、電子伝導性を有する多孔質材料によって構成される。水素極層1は、酸化物イオン伝導性を有していてよい。水素極層1は、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、ガドリニウムドープセリア(GDC)、サマリウムドープセリア(SDC)、(La,Sr)(Cr,Mn)O、(La,Sr)TiO、Sr(Fe,Mo)、(La,Sr)VO、(La,Sr)FeO、及びこれらのうち2つ以上を組み合わせた混合材料、或いは、これらのうち1つ以上とNiOとの複合物によって構成することができる。
【0037】
水素極層1の気孔率は特に制限されないが、例えば5%以上70%以下とすることができる。水素極層1の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0038】
水素極層1の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法(溶射法、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法など)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを用いることができる。
【0039】
[触媒層2]
複数の触媒層2それぞれは、各供給孔14内に配置され、水素極層1に連なる。各触媒層2は、面方向において、各供給孔14の底面S1側の開口に係止されている。
【0040】
各触媒層2は、触媒を含有する多孔体である。触媒としては、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、貴金属などを用いることができる。触媒としてNiを用いる場合、Niは、電子伝導物質として機能するとともに、水素極層1において生成されるHと原料ガスに含まれるCOとの熱的反応を促進して適切なガス組成を維持する熱触媒としても機能するため好ましい。Niは、電解セル100の作動中、基本的には金属Niの状態で存在しているが、一部はNiOの状態で存在していてもよい。
【0041】
各触媒層2は、酸化物イオン伝導性材料を含有していてもよい。酸化物イオン伝導性材料としては、水素極層1用の酸化物イオン伝導性材料として挙げたものを用いることができる。
【0042】
各触媒層2の気孔率は特に制限されないが、例えば5%以上70%以下とすることができる。Z軸方向における各触媒層2の深さは特に制限されないが、Z軸方向における各供給孔14の長さの10%以上100%以下とすることができる。
【0043】
各触媒層2の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0044】
[電解質層3]
電解質層3は、水素極層1及び酸素極層5の間に配置される。本実施形態では、電解質層3と酸素極層5の間に反応防止層4が配置されているので、電解質層3は、水素極層1と反応防止層4の間に配置され、水素極層1及び反応防止層4それぞれに接続される。
【0045】
電解質層3は、水素極層1の表面S3を覆っている。本実施形態において、水素極層1は、金属支持体10の凹部13に充填されているため、電解質層3は、凹部13の外に配置される。
【0046】
電解質層3の外縁は、金属支持体10の第1主面11に接続される。本実施形態において、第1主面11の一部は電解質層3から露出しているが、第1主面11の全部が電解質層3に覆われていてもよい。
【0047】
電解質層3は、水素極層1において生成されたO2-を酸素極層5側に伝達させる。電解質層3は、酸化物イオン伝導性を有する緻密質材料によって構成される。電解質層3は、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア、例えば8YSZ)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウム固溶セリア)、LSGM(ランタンガレート)などによって構成することができる。
【0048】
電解質層3の気孔率は特に制限されないが、例えば0.1%以上7%以下とすることができる。電解質層3の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0049】
電解質層3の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0050】
[反応防止層4]
反応防止層4は、電解質層3と酸素極層5の間に配置される。反応防止層4は、電解質層3を基準として水素極層1の反対側に配置される。反応防止層4は、電解質層3の構成元素が酸素極層5の構成元素と反応して電気抵抗の大きい層が形成されることを抑制する。
【0051】
反応防止層4は、酸化物イオン伝導性材料によって構成される。反応防止層4は、例えば、GDC、SDCなどによって構成することができる。
【0052】
反応防止層4の気孔率は特に制限されないが、例えば0.1%以上50%以下とすることができる。反応防止層4の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上50μm以下とすることができる。
【0053】
反応防止層4の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0054】
[酸素極層5]
酸素極層5は、電解質層3を基準として水素極層1の反対側に配置される。本実施形態では、電解質層3と酸素極層5の間に反応防止層4が配置されているので、酸素極層5は反応防止層4に接続される。電解質層3と酸素極層5の間に反応防止層4が配置されない場合、酸素極層5は電解質層3に接続される。
【0055】
酸素極層5は、下記(5)式の化学反応に従って、水素極層1から電解質層3を介して伝達されるO2-からOを生成する。
・酸素極層5:2O2-→O+4e・・・(5)
【0056】
酸素極層5は、酸化物イオン伝導性及び電子伝導性を有する多孔質材料によって構成される。酸素極層5は、例えば(La,Sr)(Co,Fe)O、(La,Sr)FeO、La(Ni,Fe)O、(La,Sr)CoO、及び(Sm,Sr)CoOのうち1つ以上と酸化物イオン伝導材料(GDCなど)との複合材料によって構成することができる。
【0057】
酸素極層5の気孔率は特に制限されないが、例えば20%以上60%以下とすることができる。酸素極層5の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0058】
酸素極層5の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0059】
[流路部材30]
流路部材30は、金属支持体10の第2主面12に接合される。流路部材30は、金属支持体10との間に流路30aを形成する。流路30aには、原料ガスが供給される。流路30aに供給された原料ガスは、金属支持体10の各供給孔14を介して、セル本体部20の触媒層2及び水素極層1に順次供給される。
【0060】
流路部材30は、例えば、合金材料によって構成することができる。流路部材30は、金属支持体10と同様の材料によって形成されていてもよい。この場合、流路部材30は、金属支持体10と実質的に一体であってよい。
【0061】
流路部材30は、枠体31及びインターコネクタ32を有する。枠体31は、流路30aの側周を取り囲む環状の板部材である。枠体31は、金属支持体10の第2主面12に接合される。インターコネクタ32は、外部電源又は他の電解セルを電解セル100と電気的に直列に接続するための板部材である。インターコネクタ32は、枠体31に接合される。
【0062】
本実施形態では、枠体31とインターコネクタ32が別々の部材となっているが、枠体31とインターコネクタ32は一体の部材であってもよい。
【0063】
(特徴)
【0064】
(1)金属材料によって構成される金属支持体10の耐熱性が低く、水素極層1を高温で成膜することは困難であるため、水素極層1の多孔質微構造の強度を向上させるにも限界がある。
【0065】
そこで、本実施形態では、水素極層1が、金属支持体10の第1主面11に形成された凹部13内に配置されている。これによって、水素極層1を凹部13内に保持できるため、面方向における外力が水素極層1にかかったとしても、水素極層1の変形を低減させることができる。また、水素極層1が第1主面11上に配置される場合に比べて、水素極層1と金属支持体10の接触面積を大きくすることができる。その結果、水素極層1に損傷(クラックや剥離)が生じることを抑制できる。
【0066】
さらに、水素極層1の変形を低減させられる分、水素極層1の厚みを厚くすることもできるため、水素極層1内における面方向のガス拡散性を向上させることができる。その結果、水素極層1の電極抵抗を低下させることができる。
【0067】
(2)金属支持体10の厚み方向に沿った断面において、側周面S2と底面S1の境界部13aは、R形状である。従って、水素極層1に角部が形成されないため、水素極層1に欠けが生じることを抑制できる。
【0068】
(3)セル本体部20は、各供給孔14に配置され、水素極層1に連なる触媒層2を有する。これによって、金属支持体10に対する触媒層2のアンカー効果によって、面方向における水素極層1の変形を更に低減させることができる。
【0069】
(実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0070】
[変形例1]
上記実施形態において、水素極層1は、その全部が金属支持体10の凹部13内に配置されることとしたが、図3に示すように、水素極層1の少なくとも一部が凹部13内に配置されていればよい。
【0071】
[変形例2]
上記実施形態において、電解質層3は、凹部13の外に配置されることとしたが、図4に示すように、水素極層1の厚みが凹部13の深さより小さい場合には、電解質層3は、凹部13内に配置されていてもよい。
【0072】
[変形例3]
上記実施形態において、側周面S2と底面S1の境界部13aは、R形状であることとしたが、これに限られない。側周面S2は、底面S1に対して屈曲するように配置されていてもよい。
【0073】
[変形例4]
上記実施形態において、セル本体部20は、触媒層2を有することとしたが、触媒層2を有していなくてもよい。
【0074】
[変形例5]
上記実施形態において、複数の供給孔14それぞれに触媒層2が配置されることとしたが、これに限られない。触媒層2は、複数の供給孔14のうち少なくとも1つの供給孔14に配置されていればよい。
【0075】
[変形例6]
上記実施形態において、水素極層1はカソードとして機能し、酸素極層5はアノードとして機能することとしたが、水素極層1がアノードとして機能し、酸素極層5がカソードとして機能してもよい。この場合、水素極層1と酸素極層5の構成材料を入れ替えるとともに、水素極層1の外表面に原料ガスを流すことになる。
【0076】
[変形例7]
上記実施形態では、電気化学セルの一例として電解セル100について説明したが、電気化学セルは電解セルに限られない。電気化学セルとは、電気エネルギーを化学エネルギーに変えるため、全体的な酸化還元反応から起電力が生じるように一対の電極が配置された素子と、化学エネルギーを電気エネルギーに変えるための素子との総称である。従って、電気化学セルには、例えば、酸化物イオン或いはプロトンをキャリアとする燃料電池が含まれる。
【符号の説明】
【0077】
100 電解セル
10 金属支持体
11 第1主面
12 第2主面
13 凹部
S1 底面
S2 側周面
13a 境界部
14 供給孔
20 セル本体部
1 水素極層
2 触媒層
3 電解質層
4 反応防止層
5 酸素極層
30 流路部材
30a 流路
図1
図2
図3
図4