(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-13
(45)【発行日】2025-03-24
(54)【発明の名称】二次電池用電極
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20250314BHJP
H01M 4/60 20060101ALI20250314BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250314BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20250314BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/60
H01M4/62 Z
H01M4/139
(21)【出願番号】P 2020098768
(22)【出願日】2020-06-05
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】304000836
【氏名又は名称】学校法人 名古屋電気学園
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】森田 靖
(72)【発明者】
【氏名】村田 剛志
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/042706(WO,A1)
【文献】特開2019-175681(JP,A)
【文献】特開2000-077103(JP,A)
【文献】特開2009-054318(JP,A)
【文献】特開2007-207535(JP,A)
【文献】特表2020-507893(JP,A)
【文献】特開平08-138678(JP,A)
【文献】特開平01-311561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M10/05-10/0587
H01M10/36-10/39
C07B31/00-63/04
C07C1/00-409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質としての式(1)および式(2)で示されるトリオキソトリアンギュレン(TOT)誘導体の少なくとも1種、導電助剤としてのBET法で測定した表面積が200m
2/g~4000m
2/gの多孔質炭素材料、および高分子固体電解質を含
み、
前記式(1)および式(2)で示されるトリオキソトリアンギュレン(TOT)誘導体の少なくとも1種と前記導電助剤と前記高分子固体電解質との合計100重量%中、前記式(1)および式(2)で示されるトリオキソトリアンギュレン(TOT)誘導体の少なくとも1種の含有量は20~40重量%であり、前記多孔質炭素材料の含有量は5~30重量%である二次電池用電極。
【化1】
(式中、Xは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、(ヘテロ)アリール基、アラルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、またはシリル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。実線と破線からなる二重結合は非局在化した二重結合を意味しており、式中、●で表される不対電子および(-)で表される負電荷は、この非局在化二重結合中に存在する。式中、M(+)はアルカリ金属イオンを示す。)
【請求項2】
Xが水素原子である、請求項1に記載の二次電池用電極。
【請求項3】
導電助剤としてさらに繊維状炭素材料を含有する請求項1または2に記載の二次電池用電極。
【請求項4】
導電助剤としてさらに黒鉛系炭素材料を含有する請求項1ないし3のいずれかに記載の二次電池用電極。
【請求項5】
高分子固体電解質が高分子とアルカリ金属塩との混合物である、請求項1ないし4のいずれかに記載の二次電池用電極。
【請求項6】
アルカリ金属塩がリチウム塩であり、かつ式(2)におけるM(+)がリチウムイオンである、請求項5に記載の二次電池用電極。
【請求項7】
TOT誘導体および高分子固体電解質を溶解可能な溶媒を用いて各成分を混合し、スプレー塗布した後に乾燥させることにより形成する、請求項1ないし
6のいずれかに記載の二次電池用電極の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし
6のいずれかに記載の二次電池用電極を有する二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池用電極、特に全固体リチウムイオン二次電池用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池(LIB)はモバイル機器電源や電気自動車用バッテリーなどに実用化されているが、電解液として可燃性の有機溶媒を用いており、さらに正極活物質として過充電すると結晶構造が壊れて発熱する金属酸化物が用いられているため、安全性に問題がある。またこのような金属酸化物の構成元素はレアメタルであり資源埋蔵量や入手性に問題がある。
【0003】
これら安全性、コスト、入手性の問題解決のため有機ラジカル化合物を正極活物質として用いる技術が開発されており、高容量LIBが得られることが知られている(非特許文献1)。しかし活物質であるトリオキソトリアンギュレン(TOT)誘導体が徐々に電解液に溶出するためサイクル寿命が十分ではなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Y.Morita,et al., Nature Materials, 2011, Vol.10, p.947, “Organic tailored batteries materials using stable open-shell molecules with degenerate frontier orbitals”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、サイクル寿命に優れる二次電池用電極および二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決し得た本発明の構成は、以下の通りである。
[1]活物質としての式(1)および式(2)で示されるトリオキソトリアンギュレン(TOT)誘導体の少なくとも1種、導電助剤としてのBET法で測定した表面積が200m
2/g~4000m
2/gの多孔質炭素材料、および高分子固体電解質を含む二次電池用電極。
【化1】
(式中、Xは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、(ヘテロ)アリール基、アラルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、またはシリル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。実線と破線からなる二重結合は非局在化した二重結合を意味しており、式中、●で表される不対電子および(-)で表される負電荷は、この非局在化二重結合中に存在する。式中、M(+)はアルカリ金属イオンを示す。)
[2] Xが水素原子である、[1]に記載の二次電池用電極。
[3] 導電助剤としてさらに繊維状炭素材料を含有する[1]または[2]に記載の二次電池用電極。
[4] 導電助剤としてさらに黒鉛系炭素材料を含有する[1]ないし[3]のいずれかに記載の二次電池用電極。
[5] 高分子固体電解質が高分子とアルカリ金属塩との混合物である、[1]ないし[4]のいずれかに記載の二次電池用電極。
[6] アルカリ金属塩がリチウム塩であり、かつ式(2)におけるM(+)がリチウムイオンである、[5]に記載の二次電池用電極。
[7] TOT誘導体および高分子固体電解質を溶解可能な溶媒を用いて各成分を混合し、スプレー塗布した後に乾燥させることにより形成する、[1]ないし[6]のいずれかに記載の二次電池用電極の製造方法。
[8] 請求項1ないし6のいずれかに記載の二次電池用電極を有する二次電池。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、活物質である特定の構造を有するTOT誘導体が導電助剤としての特定の多孔質炭素材料と強固に結びつくためサイクル寿命に優れた二次電池用電極が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は実施例で製造した第1の二次電池のサイクル特性を示すグラフである。
【
図2】
図2は実施例で製造した第2の二次電池のサイクル特性を示すグラフである。
【
図3】
図3は実施例で製造した第3の二次電池のサイクル特性を示すグラフである。
【
図4】
図4は実施例で製造した第4の二次電池のサイクル特性を示すグラフである。
【
図5】
図5は実施例で製造した第5の二次電池のサイクル特性を示すグラフである。
【
図6】
図6は実施例で製造した第6の二次電池のサイクル特性を示すグラフである。
【
図7】
図7は比較例で製造した第7の二次電池のサイクル特性を示すグラフである。
【
図8】
図8は実施例で製造した第8の二次電池のサイクル特性を示すグラフである。
【
図9】
図9は実施例で製造した第9の二次電池のサイクル特性を示すグラフである。
【
図10】
図10は実施例で製造した第10の二次電池のサイクル特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の二次電池用電極は、活物質としての式(1)および式(2)で示されるトリオキソトリアンギュレン誘導体の少なくとも1種、導電助剤としてのBET法で測定した表面積が200m
2/g~4000m
2/gの多孔質炭素材料、および高分子固体電解質を構成成分とする。
【化2】
(式中、Xは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、(ヘテロ)アリール基、アラルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、またはシリル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。実線と破線からなる二重結合は非局在化した二重結合を意味しており、式中、●で表される不対電子および(-)で表される負電荷は、この非局在化二重結合中に存在する。式中、M(+)はアルカリ金属イオンを示す。)
【0010】
上記式(1)で示されるTOT誘導体は中性ラジカルであり、不対電子が分子内のπ電子系に広く非局在化しているため室温で大気中でも安定である。また式(2)で示されるTOT誘導体はモノアニオンであり、式(1)のTOT中性ラジカルを1電子還元することにより得られる。逆に式(2)のTOTモノアニオンを1電子酸化すると可逆的に式(1)のTOT中性ラジカルを得ることができる。TOT誘導体を活物質として使用することで、レアメタルへの依存度を下げることができ(特にレアメタルを不使用とすることも可能であり)、活物質の入手性やコストに優れる。
上記式中、電池の充放電容量を大きくできる点でXは水素原子、ハロゲン原子(好ましくは塩素原子)、アミノ基、チオール基が好ましく、水素原子が最も好ましい。式中のMとしてはリチウム、ナトリウム、カリウムなどを使用できるが、電池特性に優れる点でリチウムが好ましい。
【0011】
導電助剤としてBET法で測定した表面積が200m2/g~4000m2/gの多孔質炭素材料を使用する。ここでBET法とは固体表面に不活性ガス(例えば、窒素ガス)を単分子層吸着させた場合の吸着量を理論式に基づいて算出する方法であり、物質の比表面積、すなわち単位重量あたりの表面積を求めることができる。表面積が200m2/g~4000m2/gの多孔質炭素材料としては例えば東洋炭素株式会社製のクノーベル(登録商標)、ソニー株式会社製のトリポーラス(登録商標)、株式会社MCエバテック製のマックスソーブ(登録商標)、キャボット社製のNORIT(登録商標)やDARCO(登録商標)、賦活処理した活性炭などがあげられる。このような多孔質炭素材料は細孔を有しており、この細孔内にTOT誘導体と高分子電解質を充填させることにより電極内の電子移動およびイオン伝導を効率よく行うことが可能となる。TOT誘導体は縮合多環系π電子化合物であるため炭素材料表面とのπ-π相互作用により吸着するが、この吸着量が多いほど充放電のサイクル寿命が長くなる。したがって多孔質炭素材料の表面積が大きいほどサイクル特性が良好となる。一方表面積が大きくなりすぎると導電助剤自身の導電性が低下することから、導電助剤としての多孔質炭素材料の表面積としては250m2/g~3800m2/gが好ましく、300m2/g~3500m2/gがより好ましい。TOT誘導体が効率よく細孔内に入り込んで吸着できる点でマクロ細孔(直径50nm以上)とメソ細孔(直径2-50nm)とを併せ持つ多孔質炭素材料が好ましく、クノーベル(登録商標)およびマックスソーブ(登録商標)がより好ましい。マクロ細孔とメソ細孔の合計容積は、全細孔容積からミクロ孔容積を差し引いた値として計算可能であり、好ましくは0.1~5.0mL/g、より好ましくは0.2~3.0mL/gである。
【0012】
導電助剤として多孔質炭素材料に加えて繊維状炭素材料を含有することが好ましい。繊維状炭素材料としては例えばカーボンナノチューブ(CNT)、昭和電工株式会社製の気相成長炭素繊維(VGCF(登録商標))、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維などがあげられる。繊維状炭素材料は上記多孔質炭素材料を橋架けるようにつないで電極内の電子移動の効率化に寄与する。この電子移動効率が高い点でCNTおよびVGCF(登録商標)が好ましい。繊維状炭素材料を使用する場合の添加量は導電性向上の効果の点で、多孔質炭素材料100重量部に対して5~200重量部が好ましく、10~150重量部がより好ましい。
【0013】
導電助剤としてさらに黒鉛系炭素材料を含有することが好ましい。黒鉛系炭素材料は上記多孔質炭素材料の表面に付着して小さな隙間を埋めることにより電極内の導電性向上に寄与する。黒鉛系炭素材料としては例えば鱗片状黒鉛、球状黒鉛、膨張化黒鉛、鱗状黒鉛、半鱗状黒鉛、土状黒鉛などの天然黒鉛、コークス、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック、C60、C70などのフラーレンがあげられる。これらのうち導電性に優れる点でAB、ケッチェンブラックが好ましい。黒鉛系炭素材料を使用する場合の添加量は導電性向上の効果の点で、多孔質炭素材料100重量部に対して5~150重量部が好ましく、10~100重量部がより好ましい。
黒鉛系炭素材料は、繊維状炭素材料と共に多孔質炭素材料に加えられることが好ましい。
【0014】
高分子固体電解質としては親水性高分子とアルカリ金属塩との混合物を使用することが好ましい。親水性高分子としては例えばポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMAA)などのポリ(メタ)アクリル酸;ポリ2-ヒドロキシエチルアクリレート、ポリ2-ヒドロキシエチルメタクリレートなどのヒドロキシ基含有ポリ(メタ)アクリレート;ポリアクリルアミド(PAAm)、ポリメタクリルアミド(PMAm)などのポリ(メタ)アクリルアミド;ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)などのポリエーテル;およびこれらの共重合体を使用することができる。これらのうち入手性とイオン伝導性の点でポリ(メタ)アクリル酸、ヒドロキシ基含有ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリエーテルおよびこれらの共重合体が好ましく、PAA、PMAA、ポリ2-ヒドロキシエチルアクリレート、ポリ2-ヒドロキシエチルメタクリレート、PAAm、PMAm、PEOおよびこれらの共重合体がより好ましい。
【0015】
アルカリ金属塩としてはリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などを用いることができるが、電池の充放電特性が優れる点でリチウム塩およびカリウム塩が好ましく、リチウム塩がより好ましい。リチウム塩としては特に限定されないが、入手性の点でLiPF6、LiClO4、LiBF4、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド(LiTFSI)が好ましく、電池の充放電特性が優れる点でLiFSIおよびLiTFSIがより好ましい。また使用するアルカリ金属塩の金属と、上記式(2)におけるM(+)の金属が同一であることが好ましい。
【0016】
本発明の二次電池用電極を製造する方法としては特に限定されず、上記式(1)および式(2)で示されるトリオキソトリアンギュレン誘導体の少なくとも1種、多孔質炭素材料、および高分子固体電解質を混合し、塗布あるいは成形することにより得られる。混合する方法としては全ての成分を一度に混ぜてもよく、順次加えながら混ぜても良い。効率よく混合できる点で溶媒を添加することが好ましい。溶媒としては特に限定されず、例えば水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、N-メチルピロリドン(NMP)、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチルなどを使用することができる。溶媒としてTOT誘導体および高分子固体電解質を溶解可能な溶媒を用いると、多孔質炭素材料の細孔内へこれら構成成分を溶液として含浸・充填できるため電池特性が向上する。このようなTOT誘導体および高分子固体電解質を溶解可能な溶媒としては水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどが好ましく、水、メタノール、エタノールがより好ましい。
【0017】
各成分を溶解・混合させる際、各種攪拌装置、ボールミル、ミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機などを用いると効率よく分散液を得ることができる。分散効率が高い点で超音波分散機の使用が特に好ましい。多孔質炭素材料の細孔内にTOT誘導体と高分子電解質を効率よく充填できる点で、多孔質炭素材料をまず減圧雰囲気におき、その状態でTOT誘導体および高分子電解質を溶解させた溶液を添加する方法が好ましい。
【0018】
電極を形成する方法としては特に限定されず、集電体となる金属箔や金属板に上記分散液を塗布し、乾燥させればよい。塗布法としては例えばバーコーティング、スピンコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、スクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷などがあげられる。これらのうちバーコーティングおよびスプレーコーティングが簡便性の点で好ましく、さらに緻密な電極が得られる点でスプレーコーティングがより好ましい。塗布後、適宜加熱したり減圧したりして溶媒を除去して乾燥させる。乾燥中あるいは乾燥後にプレスして電極の密度を大きくすることも可能である。溶媒を使用せずに混合した場合には、得られた混合物を直接プレスしてシート状に成形して電極としても良い。集電体となる金属箔や金属板の種類は特に限定されず、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄などを使用でき、形状もホイル状、シート状、メッシュ状など任意のものを使用可能である。
【0019】
本発明の電極の膜厚は特に限定されないが薄いと電池容量が小さくなり、厚いと高速充放電特性が悪くなる。両者のバランスの点で5μm~300μmの範囲が好ましく、20μm~150μmの範囲がより好ましい。
【0020】
本発明の二次電池用電極において各成分の含有量は特に限定されないが、電池の充放電特性に優れる点でTOT誘導体は、TOT誘導体と導電助剤と高分子電解質との合計100重量%中、10~95重量%含まれていることが好ましく、20~85重量%含まれていることがより好ましい。TOT誘導体が多く含まれるほど電池の理論容量は大きくなるが、多すぎると電子やイオンの移動効率が下がるため高速充放電特性が悪化する。導電助剤は電子伝導性の確保と電池容量の最大化のバランスをとるためTOT誘導体と導電助剤と高分子電解質との合計100重量%中、1~40重量%含まれていることが好ましく、5~30重量%含まれていることがより好ましい。高分子電解質はイオン伝導性の確保と電池容量の最大化のバランスをとるため3~70重量%含まれていることが好ましく、10~60重量%含まれていることがより好ましい。高分子電解質として高分子とアルカリ金属塩との混合物を用いる場合、両者の含有比は特に限定されないが、イオン伝導性に優れる点で重量比で高分子:アルカリ金属塩=50:50~95:5の範囲が好ましく、60:40~90:10の範囲がより好ましい。
【0021】
本発明の電極を作製する際、集電体および各成分同士の接着性を高める目的でバインダーを併用しても良いが、通常は高分子電解質がバインダーの役割を果たすために不要である。バインダーが必要な場合には例えばポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリロニトリルなどを使用することができる。
【0022】
本発明の電極を用いて二次電池を作製することができる。この二次電池において本発明の二次電池用電極は通常正極を構成する。負極としては例えばアルカリ金属箔、炭素、チタン酸リチウムなどリチウムイオン二次電池の負極として一般的に用いられている電極を使用することができる。炭素負極を用いる場合にはリチウムイオンがプリドープされていると充放電容量が大きくなるため好ましい。また本発明の電極よりも電気化学ポテンシャルが正となる材料を活物質として用いる場合には、該電極を正極とし、本発明の電極を負極として使用することも可能である。
【0023】
本発明の二次電池用電極を正極として負極と組合せる場合、セパレータとしては高分子電解質を使用することが好ましい。特に本発明の電極に使用する高分子電解質と同様の構造を有する高分子電解質をセパレータとして使用することがより好ましい。このような高分子電解質はアルカリ金属塩が予め混合されたフィルム形状となっていることがより好ましい。
【0024】
本発明の二次電池用電極を用いて二次電池を構成する場合、電解液を使用してもよい。電解液としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸ジエチル(DEC)、またはこれらの混合液に、LiPF6などの電解質を溶解させたものを用いることができる。
一方、本発明の二次電池用電極を用いて二次電池を構成する場合、電解液を使用しない全固体電池にすることが好ましい。引火性のある電解液の使用を避けることで、二次電池の安全性向上が期待できる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例に従って本発明を説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合しうる範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0026】
含有量ないし使用量を表す%および部は、特に記載ない限り重量基準である。
TOT中性ラジカル誘導体(式(1)においてXが水素原子である化合物。以下、H3TOTという場合がある)およびTOTモノアニオン誘導体のリチウム塩(式(2)においてXが水素原子であり、M(+)がリチウムイオンである化合物。以下、LiH3TOTという場合がある)は、2-ヨードトルエンを出発原料として非特許文献1に記載の方法で合成した。アセチレンブラック(AB)はデンカ製デンカブラック(登録商標)(比表面積68m2/g)、カーボンナノチューブ(CNT)はSigma-Aldrich社から販売されている単層カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維(VGCF(登録商標))は昭和電工製、ポリエチレンオキシド(PEO)は大阪ソーダ製を用いた。充放電試験はCR2032コインセルを用いてバイオロジック社製充放電試験機BCS-810で実施した。充放電試験においてレートの単位Cは1/C時間で充電および1/C時間で放電する速度をあらわす。
【0027】
(実施例1)
H
3TOT(40mg)、比表面積1500m
2/gの東洋炭素製多孔質炭素クノーベル(登録商標)MH(細孔容積1.7mL/g、ミクロ孔容積0.5mL/g)((8mg)、VGCF(登録商標)(2mg)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド(LiTFSI)(14mg)、PEO(36mg)、エタノール(1.10g)を遊星式撹拌脱泡装置で混合した後超音波照射し、H
3TOT/MH/VGCF(登録商標)/LiTFSI/PEO(40:8:2:14:36)(重量比)のスラリーを得た。このスラリー適量をφ15mmのステンレス円盤上にスピンコートして乾燥させ正極とした。
上記正極、セパレータとして大阪ソーダ製LiTFSI含有PEOフィルム(φ16mm)、負極としてリチウム箔(φ15mm)をバネと共にCR2032コインセルの中に入れてかしめることにより電池を作製した。充放電特性を評価した結果を
図1に示す(60℃、レート×サイクル数は0.1C×5→0.5C×5→1C×5→5C×5→10C×5→0.1C×5)。いずれのレートにおいてもサイクルに伴う大きな放電容量の劣化は認められなかった。
【0028】
(実施例2)
実施例1のH
3TOTをLi
+H
3TOT
-に、MHを比表面積1100m
2/gの東洋炭素製多孔質炭素クノーベル(登録商標)MJ-010(細孔容積2.0mL/g、ミクロ孔容積0.4mL/g)に代えて同様の操作によりLi
+H
3TOT
-/MJ-010/VGCF/LiTFSI/PEO(40:8:2:14:36)(重量比)の電極を作製した。この電極を用いた以外は実施例1と同様にして電池を作製して充放電特性を評価した(60℃、レート×サイクル数は0.1C×5→0.5C×5→1C×5→5C×5→10C×5)。充放電曲線を
図2に示す。0.1Cのレートにおいて理論容量81.7mAh/gの64%の初期放電容量を示し、10Cという高速充放電でもサイクル劣化なく動作した。
【0029】
(実施例3)
比表面積300m
2/gの東洋炭素製多孔質炭素クノーベル(登録商標)MJ-150(細孔容積0.4mL/g、ミクロ孔容積0.1mL/g)(4mg)を100mL二口フラスコに秤量し、真空ポンプで減圧した。ここにLi
+H
3TOT
-(20mg)をEtOH(3.5g)に溶解させた溶液をシリンジで添加した。フラスコ内を常圧に戻し、VGCF(登録商標)(1mg)、LiTFSI(7mg)、PEO(18mg)を加えた。超音波照射により各成分を分散させて得られた分散液をφ15mmのステンレス円盤上にスピンコートして乾燥させて正極を作製した。各成分の含有比(重量比)はLi
+H
3TOT
-/MJ-150/VGCF/LiTFSI/PEO(40:8:2:14:36)であった。
上記正極、セパレータとして大阪ソーダ製LiTFSI含有PEOフィルム(φ16mm)、負極としてリチウム箔(φ15mm)をバネと共にCR2032コインセルの中に入れてかしめることにより電池を作製した。60℃でレート×サイクル数0.1C×5→0.5C×5→1C×5→5C×5→10C×5→0.1C×5の条件で充放電試験を行った結果を
図3に示す。大きなサイクル劣化なく、高速充放電も可能であった。
【0030】
(実施例4)
実施例3のMJ-150を比表面積1500m
2/gの東洋炭素製多孔質炭素クノーベル(登録商標)MHに替えて同様の実験を実施した。充放電結果を
図4に示す。MJ-150を用いた実施例3と比較すると若干放電容量が小さいがほぼサイクル劣化なく動作した。
【0031】
(実施例5)
比表面積300m
2/gの東洋炭素製多孔質炭素クノーベル(登録商標)MJ-150(7mg)、AB(5mg)、CNT(7mg)、VGCF(登録商標)(1mg)を100mL二口フラスコに秤量し、真空ポンプで減圧した。ここにLi
+H
3TOT
-(40mg)をEtOH(18g)に溶解させた溶液をシリンジで添加した。フラスコ内を常圧に戻し、LiTFSI(11mg)、PEO(29mg)を加えた。超音波照射により各成分を分散させて得られた分散液をアルミシート上にスプレー塗布して乾燥させ、φ15mmの円形に打ち抜いて正極を作製した。各成分の含有比(重量比)はLi
+H
3TOT
-/MJ-150/AB/CNT/VGCF(登録商標)/LiTFSI/PEO(40:7:5:7:1:11:29)であった。
上記正極、セパレータとして大阪ソーダ製LiTFSI含有PEOフィルム(φ16mm)、負極としてリチウム箔(φ15mm)をバネと共にCR2032コインセルの中に入れてかしめることにより電池を作製した。60℃でレート×サイクル数0.1C×5→0.5C×5→1C×5→5C×5→10C×5→0.1C×5の条件で充放電試験を行った結果を
図5に示す。0.1Cの初期放電容量は100mA/gに到達していた。
【0032】
(実施例6)
実施例5のMJ-150を比表面積1500m
2/gの東洋炭素製多孔質炭素クノーベル(登録商標)MHに替えて同様の実験を実施した。充放電結果を
図6に示す。MJ-150を用いた実施例5と比較すると若干放電容量が小さいがほぼサイクル劣化なく動作している。
【0033】
(比較例1)
活物質としてLiCoO2を含む電極を以下のようにして作製した。LiCoO2/AB/ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を重量比で85.5:9.5:5となるように混合し、N-メチルピロリドン(NMP)を加えて遊星式撹拌脱泡装置で混練した。ギャップ300μmのバーコーターを用いてアルミ箔(膜厚20μm)に塗布し、120℃で1時間乾燥後、ロールプレス機で800kg/cm2の圧力でプレスして、厚み57μm(アルミ箔を含む)の正極シートを得た。このシートをφ15mmの円形に打ち抜いて正極とした。この正極にLiTFSI(2mg/mL)とPEO(5mg/mL)とを含むアセトニトリル溶液56μLを含浸し乾燥させた。
【0034】
上記正極、実施例1に記載のセパレータ、φ15mmの円形に打ち抜いたリチウム箔をステンレス金属板で挟み、バネと共にCR2032コインセルの中に入れてかしめることにより電池を作製した。この電池を電圧範囲4.2-3.5V、レート0.1Cで60℃で充放電させたが、放電容量は5mAh/gしかなかった。
【0035】
(比較例2)
Li+H3TOT-(40mg)、AB(8mg)、VGCF(登録商標)(2mg)、LiTFSI(14mg)、PEO(36mg)、エタノール(10g)を遊星式撹拌脱泡装置で混合した後超音波照射し、Li+H3TOT-/AB/VGCF(登録商標)/LiTFSI/PEO(40:8:2:14:36)(重量比)の分散液を得た。この分散液をアルミシート上にスプレー塗布したのち乾燥し、φ15mmの円形に打ち抜いて正極とした。
【0036】
上記正極、セパレータとして大阪ソーダ製LiTFSI含有PEOフィルム(φ16mm)、負極としてリチウム箔(φ15mm)をバネと共にCR2032コインセルの中に入れてかしめることにより電池を作製した。充放電評価結果を
図7に示す(3.8-2.5V、60℃、0.1C×5→0.5C×5→1C×5→5C×5→10C×5→0.1C×5)。0.1Cで充放電したときにはサイクル毎の容量低下が大きく、また10Cで高速充放電したときにはほとんど充放電していなかった。
【0037】
(実施例7)
実施例5の正極の組成(重量比)をLi
+H
3TOT
-/MJ-150/AB/CNT/VGCF/LiTFSI/PEO(20:10:8:10:2:16:34)に変えて同様の実験を行った。充放電結果を
図8に示す。
【0038】
(実施例8)
実施例6の正極の組成(重量比)をLi
+H
3TOT
-/MH/AB/CNT/VGCF/LiTFSI/PEO(20:10:8:10:2:16:34)に変えて同様の実験を行った。充放電結果を
図9に示す。放電容量が大きく、サイクル劣化もほとんど認められなかった。
【0039】
(実施例9)
実施例8の電池を用いて電圧範囲を3.8-1.4Vに設定して同様の充放電試験を行った。結果を
図10に示す。0.1Cでは約400mAh/g、10Cの高速充放電でも150mAh/g程度の大きな容量を示し、サイクル劣化も認められなかった。