(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-13
(45)【発行日】2025-03-24
(54)【発明の名称】グルコース吸着剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20250314BHJP
A23L 33/185 20160101ALI20250314BHJP
A61K 36/899 20060101ALI20250314BHJP
A61K 38/38 20060101ALI20250314BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20250314BHJP
【FI】
A23L33/105
A23L33/185
A61K36/899
A61K38/38
A61P3/10
(21)【出願番号】P 2020112034
(22)【出願日】2020-06-29
【審査請求日】2023-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2019152718
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 日登美
(72)【発明者】
【氏名】山口 勇将
(72)【発明者】
【氏名】濱田 彩
(72)【発明者】
【氏名】杉本 千晶
(72)【発明者】
【氏名】小堤 大介
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/029728(WO,A1)
【文献】特開平10-279496(JP,A)
【文献】Kampeebhorn BOONLOH et al.,Rice bran protein hydrolysates attenuate diabetic nephropathy in diabetic animal model,European Journal of Nutrition,2016年12月21日,Vol. 57, No. 2,pp. 761-772,DOI: 10.1007/s00394-016-1366-y
【文献】M. Wang et al.,Preparation and Functional Properties of Rice Bran Protein Isolate,Journal of Agricultural and Food Chemistry,1998年12月24日,Vol. 47, No. 2,pp. 411-416
【文献】Shigenobu INA et al.,Rice (Oryza sativa japonica) Albumin Suppresses the Elevation of Blood Glucose and Plasma Insulin Levels after Oral Glucose Loading,Journal of Agricultural and Food Chemistry,2016年06月06日,Vol. 64, No. 24,pp.4882-4890,DOI: 10.1021/acs.jafc.6b00520
【文献】Lee, Seung-Min et al.,Effect of stabilized rice bran-added high sucrose diet on glucose control in C57BL/6 mice,Asian Pacific Journal of Tropical Biomedicine,2014年,pp. 157-166
【文献】BhagavathiSundaramSIVAMARUTHI et al.,A comprehensive reviewon anti-diabetic property of rice bran,Asian PacificJournal of Tropical Biomedicine,2018年,Vol. 8, No. 1,pp.79-84,DOI: 10.4103/2221-1691.221142
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
米糠アルブミン画分を含む、グルコース吸着剤。
【請求項2】
食後の血糖値の上昇を抑制するため
のものである、請求項1に記載の剤。
【請求項3】
グルコースを含む食品と共に摂取させるための、請求項1または2に記載の剤。
【請求項4】
米糠アルブミン画分のグルコース吸着量が、700mg/g以上である、請求項
1~3
のいずれか1項に記載の剤。
【請求項5】
米糠アルブミン画分が、22kDaまたは30kDaのタンパク質を含有する、請求項1~
4のいずれか1項に記載の剤。
【請求項6】
米糠から、水性溶媒により水溶性の画分を得る工程を含む、グルコースを吸着するための食品素材または医薬品素材の製造方法
であって、食品素材または医薬品素材が、米糠アルブミンを含有する、製造方法。
【請求項7】
米糠が中糠を含む、請求項
6に記載の製造方法。
【請求項8】
米糠から、水性溶媒により水溶性の画分を得る工程において、糖質分解酵素が使用される、請求項6
または7に記載の製造方法。
【請求項9】
糖質分解酵素が、ヘミセルラーゼおよびα-アミラーゼを含む、請求項
8に記載の製造方法。
【請求項10】
食品素材または医薬品素材が、食後の血糖値の上昇を抑制するためのものである、請求項6~
9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
一日量として20mg以上の米糠アルブミンを摂取させるための、食品組成物、または医薬組成物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米糠アルブミン画分を含む食品組成物、その利用、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食後血糖値の急激な上昇は糖尿病などのリスクを高め老化を加速させるため、血糖値上昇を抑え、糖尿病を予防する“食”への関心は大きくなっている。最近では、血糖値を制御しつつ豊かな食生活を維持するため、味や栄養価をなるべく保持したまま糖質をカットした食品や、糖質の吸収を緩やかにする食品素材が登場し、豊食と健康の両立が可能となりつつある。このような糖質制限食品に関連した市場は既に3,000億円の規模を越えたとされ、健康への意識が高まっている昨今の状況を鑑みれば、今後ますます市場規模は拡大すると推測される。また、WHOも糖類摂取を減らすことを推奨しており糖質制限は日本のみならず世界的な潮流となっている。これらのニーズに対して糖質の吸収を穏やかにする食品素材の探索および評価は重要な研究課題に位置付けられる。
【0003】
発明者らは、これまで、無味・無臭で加工しやすく、食経験のある米粉由来アルブミンがデンプンおよびグルコース摂取後の血糖値上昇を抑制することを見出した(特許文献1)。さらに、この機序は、体内の消化酵素によって分解を受けた16 kDaのタンパク質から生じる14 kDaのタンパク質が腸内で食物繊維様にグルコースを吸着するためであることを見出した(非特許文献1)。
【0004】
一方、玄米から精米する際に得られる米糠を、機能性の素材として用いることが検討されている。例えば、特許文献2は、可溶化画分、不溶化画分、酵素処理され安定化された米ぬか及びそれらの混合物からなる群より選択された安定化された米ぬか誘導体を摂取する工程、これにより哺乳類の血清ブドウ糖レベルを低下する工程を含む、哺乳類において血清ブドウ糖レベルを管理する方法を提案する。また特許文献3は、有色素米の糠を極性溶媒で抽出する工程と、当該抽出物からヘキサン可溶成分を除去する工程と、ヘキサン可溶成分が除去された残留物から酢酸エチルで抽出する工程とから得られた抽出物からなるα-グルコシダーゼ阻害剤を提供する。
【0005】
さらに特許文献4は、米糠抽出物を含有する脂質代謝異常改善組成物であって、該米糠抽出物が、米糠と中性乃至弱アルカリ性の水溶液とを混合し、可溶化された米糠タンパク質を含有する米糠抽出液を分離し、該米糠抽出液を酸沈殿し、沈殿を分離して取得される、タンパク質を50質量%以上含有する米糠抽出物であることを特徴とする組成物を提供する。また特許文献5は、市販の米糠タンパク質に水を加えて水溶液とし、この水溶液に硫酸を加えてpH5.7にした後に加熱処理し、加熱処理後の水溶液から分離したタンパク質画分の摂取により、非肥満自然発症2型糖尿病モデルラットにおいて、尿中アルブミン排泄の抑制が見られたこと、および腎糸球体の障害が有意に抑制されたことに基づき、米糠タンパク質を含むことを特徴とする糖尿病性腎症進展抑制用栄養組成物を提供する。特許文献6は、もち米糠の摂取により、2型糖尿病患者(男性、2名)において、高インスリン正常血糖クランプ法によりグルコースの抹消取り込み速度が大幅に向上したことに基づき、もち米糠を含有する、血糖値低下用組成物を提供する。ここでは、2型糖尿病患者(24名)を対象とした試験も行われており、この発明のもち米糠を含む組成物を摂取した群では、米糠を含む組成物(比較例1)、白米を含む組成物(比較例2)それぞれを摂取した群に比較して、平均血糖値が有意に低く、平均血糖値のSDが有意に小さく、また平均血糖変動幅(MAGE)が有意に低かったこと等が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開WO2012/029728(特許第6061270号)
【文献】国際公開WO99/10002(特表2001-513571)
【文献】特開2002-316939号公報(特許第4865955号)
【文献】国際公開WO2007/029631(特許第5189365号)
【文献】特開2014-233266号公報
【文献】特開2015-209385号公報(特許第6378926号)
【非特許文献】
【0007】
【文献】Ina, S.; Ninomiya, K.; Mogi, T.; Hase, A.; Ando, T.; Matsukaze, N.; Ogihara, J.; Akao, M.; Kumagai, H.; Kumagai, H. Rice (Oryza sativa japonica) albumin suppresses the elevation of blood glucose and plasma insulin levels after oral glucose loading. J. Agric. Food Chem. 2016, 64, 4882-4890.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、血糖値の上昇抑制作用を有する素材の探索ならびに評価研究を行ってきたが、今般、米糠よりグルコースを吸着能に優れた成分を見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下を提供する。
[1]米糠アルブミン画分を含む、食後の血糖値の上昇を抑制するための剤。
[2]食後の血糖値の上昇の抑制が、糖質の吸着による、1に記載の剤。
[3]糖質がグルコースを含む、2に記載の剤。
[4]米糠アルブミン画分を含む、グルコース吸着剤。
[5]米糠アルブミン画分のグルコース吸着量が、700mg/g以上である、3または4に記載の剤。
[6]米糠アルブミン画分が、22kDaのタンパク質を含有する 、1~5のいずれか1項に記載の剤。
[7]米糠から、水性溶媒により水溶性のタンパク質を抽出して米糠アルブミン画分を得る工程を含む、米糠アルブミン含有食品素材または医薬品素材の製造方法。
[8]米糠が中糠を含む、7に記載の製造方法。
[9]米糠から、水性溶媒により水溶性のタンパク質を抽出して米糠アルブミン画分を得る工程において、糖質分解酵素が使用される、7または8に記載の製造方法。
[10]糖質分解酵素が、ヘミセルラーゼおよびα-アミラーゼを含む、9に記載の製造方法。
[11]食品素材または医薬品素材が、食後の血糖値の上昇を抑制するためのものである、7~9のいずれか1項に記載の製造方法。
[12]一日量当たり、20mg以上の米糠アルブミンを含む、食品組成物、または医薬組成物。
[13]対象に糖質を含む食事とともに米糠アルブミンを摂取させることを含む、対象における食後の血糖値の上昇を抑制する方法(医療行為を除く。)。
[14]食後の血糖値の上昇を抑制するための食品組成物または医薬組成物の製造における、米糠の使用。
[15]米糠アルブミンを用いる、糖質の吸着方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の剤は、摂取した食物中の糖質を吸着することにより、特にグルコース、フルクトース等の単糖を吸着することにより、食後の血糖値の上昇を抑制できる。
【0011】
本発明により、米糠、特に日本酒製造の際の副産物である中糠を原料として、血糖値の上昇抑制のための機能性の素材を製造できる。原料は入手しやすく、また副産物であるために、環境への負荷やコストを低減できる点でも好ましい。
【0012】
また、本発明により食後の血糖値の上昇を抑制することにより、生活習慣病の発症リスクの低減、予防、治療などを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】血糖値上昇抑制作用を有する米アルブミンと糠抽出物のSDS-PAGEにおけるバンドパターンの比較。A:米アルブミン、B: 赤糠アルブミン画分、C: 中糠アルブミン画分
【
図3】米アルブミン(RA)、赤糠アルブミン画分(Red-Bran albumin fraction)、中糠アルブミン画分(Middle-Bran albumin fraction)の消化酵素処理後のSDS-PAGEにおけるバンドパターンの比較
【
図4】米糠および米粉から得られるアルブミン画分がグルコース吸着能に及ぼす影響
【
図5】グルコース拡散モデルを用いた米糠および米粉から得られるアルブミン画分のグルコース吸着量の比較
【
図6】中糠に対して各種酵素処理を経て抽出されたタンパク質量
【
図7】中糠に対して各種酵素処理をして生成した還元糖の量
【
図8】各種酵素処理をした中糠タンパク質のSDS-PAGE。(1)ヘミセルラーゼ・α-アミラーゼ処理、(2)ヘミセルラーゼ・α-アミラーゼ・トリプシン処理 (トリプシン添加量5 mg)、(3)ヘミセルラーゼ・α-アミラーゼ・トリプシン処理 (トリプシン添加量10 mg)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は米糠から得られる水溶性タンパク質(アルブミン)を有効成分とする、食後の血糖値の上昇を抑制するための剤、糖質吸着剤、グルコース吸着剤に関する。
【0015】
(有効成分)
本発明の剤は、有効成分として米糠アルブミン画分を含む。米糠アルブミン画分とは、米糠から得られる水溶性のタンパク質(米糠アルブミン)を含む画分をいう。米糠アルブミン画分は、典型的には、米糠を原料とし、米糠に含まれる水溶性のタンパク質を、該タンパク質が溶解可能な水性溶媒を用いて抽出し、得られた抽出液を塩析し、生じた沈殿を所望により透析することにより得られる。なお、アルブミンとは、水溶性のタンパク質群を指し、米糠アルブミンとは、米糠から得られる水溶性のタンパク質群を指す。
【0016】
原料となる米糠は、玄米を精米、精白、またはとう精する際に副生するものであり、果皮、種皮、糊粉層、および胚芽を含む。本発明の米糠アルブミン画分は、通常の精米工程において副生される米糠(精米歩合100~92%)から得られるものでもよく、清酒醸造のためのとう精工程で副生される、赤糠(精米歩合 90%以上100%以下)から得られる赤糠アルブミン画分、または中糠(精米歩合 80%以上90%未満)から得られる中糠アルブミン画分であってもよい。精米歩合とは、白米(玄米から糠、胚芽等の表層部を取り去った状態の米をいい、米麹の製造に使用する白米を含む。)のその玄米に対する質量の割合をいう。
【0017】
米糠アルブミン画分は、複数のタンパク質を含みうる。米糠アルブミン画分は、14kDaのタンパク質、16kDaのタンパク質、および22kDaのタンパク質からなる群より選択される少なくとも一を含み、好ましくは14kDaのタンパク質、16kDaのタンパク質、および22kDaのタンパク質を含む。本発明に関し、XkDaのタンパク質というときは、SDS-PAGEを行った際に、分子量Xkの位置にバンドが現れるタンパク質を指す。例えば、16kDaのタンパク質とは、SDS-PAGEを行った際に、分子量約16kの位置にバンドが現れるタンパク質を指す。
【0018】
米糠アルブミン画分に含まれるタンパク質はまた、難消化性のタンパク質を含みうる。難消化性であるか否かは、ペプシン、およびパンクレアチンからなる群より選択される消化酵素の少なくとも一方、より好ましくは体内と同様にペプシン、次いでパンクレアチンの順で作用させたときに、完全には分解されずにSDS-PAGEで検出できる程度の大きさ、例えば14kの大きさで残るか否かで、判断することができる。赤糠アルブミン画分、および中糠アルブミン画分を、ペプシン、次いでパンクレアチンで処理すると、これらの消化酵素では分解が困難な、難消化性の14kDaのタンパク質が生じうる。
【0019】
米糠アルブミン画分はまた、難消化性の30kDaのタンパク質を含んでいてもよい。本発明者らの検討によると、このような難消化性の30kDaのタンパク質は、米の胚乳からは検出されない。
【0020】
米糠アルブミン画分は、水溶液、濃縮液、乾燥物等の状態でありうる。なお、本発明に関し、米糠アルブミン画分の質量を示す場合は、特に記載した場合を除き、乾燥物(固形分)としての質量である。
【0021】
本発明に用いられる米糠アルブミン画分の特に好ましい例は、中糠アルブミン画分である。本発明者らの検討によると、中糠アルブミン画分は、難消化性のタンパク質をより多く含み、また後述するグルコース吸着量がより高い。
【0022】
米から得られる米アルブミン(非特許文献1、特許文献1)もまた、難消化性のタンパク質を含んでいる。この観点からは、米糠アルブミン画分に含まれるタンパク質のあるものは、米アルブミンに含まれるタンパク質とアミノ酸配列において類似している可能性があるが、翻訳後修飾や立体構造などの点において異なる可能性がある。
【0023】
米糠アルブミン画分は、米アルブミンとは、含まれるタンパク質の組成において異なるといえる。例えば、16kDaのタンパク質は、中糠アルブミン画分においてはタンパク質全体の11~12%を占めるが、米アルブミンでは14~15%である。その一方で、赤糠アルブミン画分、および中糠アルブミン画分は、16kDaのタンパク質に加え、米アルブミンにはほとんど認められない22kDaを含めたより高分子のタンパク質を含んでいる。本発明者らの検討によると、米糠アルブミン画分は、米から得られる米アルブミンよりも、単位質量(固形分として)あたりより多くのグルコースを吸着することができる。22kDaを含めたより高分子のタンパク質が高い吸着能に寄与している可能性がある。
【0024】
本発明に用いられる米糠アルブミン画分のグルコース吸着量は、700mg/g以上であることが好ましい。また、米糠アルブミン画分として赤糠アルブミン画分を用いる場合、そのグルコース吸着量は、800mg/g以上であることが好ましく、840mg/g以上であることがより好ましい。米糠アルブミン画分として中糠アルブミン画分を用いる場合、そのグルコース吸着量は、900mg/g以上であることが好ましく、930mg/g以上であることがより好ましい。なお、米アルブミンのグルコース吸着量は、590±100mg/gである(非特許文献1)。
【0025】
水溶性であり、比較的高分子である被験物質のグルコース吸着量は、グルコース拡散モデルにより評価することができる。グルコース核酸モデルによる評価方法の詳細は、
図1および実施例の項に示されている。
【0026】
本発明に関し、グルコース吸着量として示す値は、特に記載した場合を除き、
図1および実施例の項に記載したグルコース拡散モデルによる評価方法において、上部チャンバーのグルコースの透析開始時の濃度を100mMとした場合の値である。
【0027】
米糠アルブミン画分はまた、増粘性をほとんど示さないため、食品素材または医薬品素材として利用しやすいものである。また、米糠アルブミン画分は水溶性で無味無臭であり、しかも加熱耐性であるため、加工しやすく、種々の食品に利用することができる。さらに米糠アルブミン画分は、米アルブミンがそれ自体が食品としても利用される米粉を原料とするのに対して、廃棄されることもある副産物の米糠を原料とする。そのため、環境負荷を減らし、低いコストで製造できる点でも好ましい。
【0028】
(製造方法)
米糠アルブミン画分は、米糠を原料とし、米糠に含まれる水溶性のタンパク質を、該タンパク質が溶解可能な水性溶媒を用いて抽出することにより得られる。
【0029】
米糠を得る米の品種は特に限定されず、酒米であっても、食用米であってもよい。酒米の品種の例として、吟風、華吹雪、吟ぎんが、蔵の華、秋田酒こまち、出羽燦々、ひたち錦、若水、さけ武蔵、山田錦、五百万石、夢山水、美山錦、ひだほまれ、祝、八反錦1号、オオセト、しずく媛、吟の夢、レイホウ、楽風舞、彗星、華想い、ぎんおとめ、夢の香、舞風、雄山錦、石川酒52号、ひとごこち、誉富士、夢吟香、神の穂、吟吹雪、露葉風、強力、雄町、西都の雫、夢一献、さがの華、華錦、はなかぐら、きたしずく、結の香、出羽の里、楽風舞、富の香、越の雫、玉栄、金紋錦、玉栄、フクノハナ、八反35号、風鳴子、および西海134号が挙げられる。食用米の品種の例として、コシヒカリ、ひとめぼれ、ヒノヒカリ、あきたこまち、ななつぼし、はえぬき、キヌヒカリ、まっしぐら、あさひの夢、ゆめぴりか、こしいぶき、きぬむすめ、つや姫、夢つくし、つがるロマン、あいちのかおり、ふさこがね、彩のかがやき、きらら397、およびハツシモが挙げられる。
【0030】
水溶性のタンパク質が溶解可能な水性溶媒は、例えば、水または水性緩衝液であり、好ましくは水性緩衝液である。水性緩衝液の例は、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液である。米糠に水性溶媒を加える際には、米糠に対して質量で1~20倍程度、好ましくは、2~10倍程度の水性溶媒を加える。水性溶媒のpHは3.0~8.0、好ましくは4.0~6.5である。
【0031】
米糠アルブミン画分の製造方法は、塩析工程、および脱塩のための透析工程を含んでもよい。塩析は、硫酸アンモニウムを用いて、好ましくはpH4.0~6.5の条件下で、行うことができる。塩析により得られた沈殿は、水に溶解し、透析を行うことにより精製することができる。他の精製方法として、限外濾過、ゲル濾過クロマトグラフィー等が挙げられる。所望により、殺菌のため、透析後に60~100℃、好ましくは70~90℃の温度で、1~60分間、好ましくは10~30分間の加熱を行うことができる。
【0032】
米糠アルブミン画分の製造方法はまた、得られた米糠アルブミン画分を、さらに精製して、14~16kDaのタンパク質または22kDaのタンパク質を得る工程を含んでいてもよい。さらなる精製は、限外濾過またはゲル濾過クロマトグラフィー等の手段により行うことができる。
【0033】
米糠アルブミン画分の製造方法はまた、濃縮工程、乾燥工程を含んでもよい。
【0034】
米糠アルブミン画分はまた、食品素材または医薬品素材として利用されるものであるので、上述した米糠アルブミン画分の製造方法は、米糠から、水性溶媒により水溶性のタンパク質を抽出して米糠アルブミン画分を得る工程を含む、米糠アルブミン含有食品素材または医薬品素材の製造方法として実施することができる。
【0035】
(酵素を用いる製造方法)
米糠アルブミン画分の製造方法は、原料米糠に対して酵素を作用させる工程を含んでいてもよい。米糠アルブミン画分は、酵素を用いることにより、より特定すると糖質を分解する酵素(糖質分解酵素)を用いることにより、米糠からより効率的に抽出することができる。
【0036】
糖質分解酵素の例として、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、マンナナーゼ、α‐アミラーゼ、耐熱α‐アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ、グルコアミラーゼ/プルラナーゼ、マルトトリオヒドロラーゼ、シクロマルトデキストリナーゼ、グルカノトランスフェラーゼ、トランスグルコシダーゼ、4-α-グルカノトランスフェラーゼ、デキストラナーゼが挙げられる。本発明には、これらの中から選択されたいずれか1つ、または2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
米糠アルブミン画分の製造方法の好ましい態様の一つにおいては、糖質分解酵素として、ヘミセルラーゼ、α-アミラーゼ、およびグルコアミラーゼ(γ-アミラーゼ)からなる群より選択されるいずれか1つ、または2つ以上を組み合わせて用いることが好ましく、少なくともヘミセルラーゼとα-アミラーゼを組み合わせて用いることがより好ましい。ヘミセルラーゼおよびαーアミラーゼはエンド型の酵素であって、米糠に含まれる多糖内部の、それぞれβ-1,4グリコシド結合、およびα-1,4グリコシド結合を切断することにより、目的の画分の効率的な抽出に適するからである。
【0038】
米糠アルブミン画分の製造方法においてヘミセルラーゼを使用する場合、市販のヘミセルラーゼ酵素製剤を使用してもよい。市販のヘミセルラーゼ酵素製剤の例として、ヘミセルラーゼ「アマノ」90G(最適pH:4.5、最適温度:50℃)、ヘミセルラーゼGM「アマノ」が挙げられる。ヘミセルラーゼの使用量は、当業者であれば、用いる原料米糠の量等に応じ、適宜設計することができる。例えば、原料0.001~1kgに対して4.5~18000単位(u)用いることができ、9.0~9000u用いることが好ましく、45~4500u用いることがより好ましい。また、市販の酵素剤(至適pHにおいて90,000u/g以上)を用いる場合、原料1質量部に対して0.00005~0.2質量部用いることができ、0.0001~0.1質量部用いることが好ましく、0.0005~0.05質量部用いることがより好ましい。他の酵素剤を用いる場合の使用量は、酵素活性に応じ、ここに示した使用量範囲から換算することができる。なお本明細書において、酵素に関し、単位(u、unit、units)をいうときは、特に示した場合を除き、1uは、至適条件下で毎分1μmolの基質を変化させることができる酵素量をいう。
【0039】
米糠アルブミン画分の製造方法においてα-アミラーゼを使用する場合、市販のα-アミラーゼ酵素製剤を使用してもよい。市販のα-アミラーゼ酵素製剤の例としてクライスターゼP8、クライスターゼ SD8、クライスターゼ E5CC、クライスターゼ T10S、ビオザイム A、ビオザイム LCが挙げられる。α-アミラーゼの使用量は、当業者であれば、用いる原料米糠の量等に応じ、適宜設計することができる。例えば、原料0.001~1kgに対して0.33~1300単位(u)用いることができ、0.65~650u用いてもよく、3.3~330u用いてもよい。また、市販の酵素剤(至適pHにおいて6,500u/g以上)を用いる場合、原料1~1000質量部に対して0.00005~0.2質量部用いることができ、0.0001~0.1質量部用いてもよく、0.0005~0.05質量部用いてもよい。他の酵素剤を用いる場合の使用量は、酵素活性に応じ、ここに示した使用量範囲から換算することができる。
【0040】
米糠アルブミン画分の製造方法においてグルコアミラーゼを使用する場合、市販のグルコアミラーゼ酵素製剤を使用してもよい。市販のグルコアミラーゼ酵素製剤の例としてグルクザイム NLPC、グルクザイム AF6、グルクザイム NL4.2が挙げられる。グルコアミラーゼの使用量は、当業者であれば、用いる原料米糠の量等に応じ、適宜設計することができる。例えば、原料0.001~1kgに対して0.060~240u用いることができ、0.12~120u用いることが好ましく、0.60~60u用いることがより好ましい。また、市販の酵素剤(至適pHにおいて1,200u/mL以上)を用いる場合、原料1~1000質量部に対して0.00005~0.2質量部用いることができ、0.0001~0.1質量部用いることが好ましく、0.0005~0.05質量部用いることがより好ましい。他の酵素剤を用いる場合の使用量は、酵素活性に応じ、ここに示した使用量範囲から換算することができる。
【0041】
原料米糠に対して酵素を作用させる際の温度、時間、pH等の条件は、酵素に応じ、適宜とすることができる。複数の酵素を用いる場合、複数の酵素を同時に原料米糠に作用させてもよく、順に作用させてもよい。順番に作用させることにより各々の酵素に適した温度等の条件を設定できるとの観点からは、順に作用させることが好ましい。順に作用させる際は、一の酵素を作用させた後、同じ系に他の酵素を添加すればよい。
【0042】
米糠アルブミン画分の製造方法が酵素を用いる工程を含む場合、用いた酵素を失活させる工程を含んでいてもよい。
【0043】
ヘミセルラーゼとα-アミラーゼを用いる場合、酵素を用いる工程は、典型的には次のように行うことができる。1~50倍量の水系溶媒に懸濁した米糠100質量部に対して、市販のヘミセルラーゼ製剤0.01~5質量部を混合し、30~60℃で10~360分間、必要に応じ撹拌しながら、作用させる。その後、市販のα-アミラーゼ製剤0.01~5質量部を混合し、40~80℃で、3~300分間、必要に応じ攪拌しながら作用させる。その後、必要に応じ、酵素が失活するまで加熱し、必要に応じ、不溶性のものを除き、米糠アルブミンを含む画分(液体)を得る。
【0044】
米糠アルブミン画分の製造方法においては、糖質分解酵素を作用させた後、さらに有効成分である16kDaのタンパク質は分解しないが、夾雑するタンパク質を分解することができる、タンパク質分解酵素を作用させてもよい。このようなタンパク質分解酵素の例は、トリプシンである。夾雑タンパク質を分解できれば、目的のグルコースを吸着し、血糖値上昇抑制作用を有するタンパク質を、さらに高純度で得ることができる。トリプシンの使用量は、当業者であれば、用いる原料米糠の量等に応じ、適宜設計することができる。例えば、原料0.001~1kgに対して0.0090~36u用いることができ、0.018~18u用いることが好ましく、0.090~9.0u用いることがより好ましい。また、市販の酵素剤(180u/mg以上)を用いる場合、原料1~1000質量部に対して0.00005~0.2質量部用いることができ、0.0001~0.1質量部用いることが好ましく、0.0005~0.05質量部用いることがより好ましい。なお、至適pH、至適温度において、0.01mol/L カルシウムイオンの存在下で1分間に1μmolのNα-p-トシル-L-アルギニンメチルエステル(TAME)を加水分解する酵素量を1uとする。他の酵素剤を用いる場合の使用量は、酵素活性に応じ、ここに示した使用量範囲から換算することができる。
【0045】
本発明の米糠アルブミン画分の製造方法において、糖質分解酵素を作用させた後、さらに有効成分である16kDaのタンパク質は分解しないが、夾雑するタンパク質を分解することができる、タンパク質分解酵素を作用させる工程を経ることにより、米糠1gから、0.1mg以上、好ましい区は0.3mg以上、より好ましくは0.5~2.5mgの、目的の有効成分である16kDaのタンパク質を得ることができる。
【0046】
(用途)
米糠アルブミン画分、および米糠アルブミンは、食後の血糖値の上昇を抑制するための剤、グルコース吸着剤等の有効成分として用いることができる。以下では、米糠アルブミン画分と米糠アルブミンのうち、米糠アルブミンを例に説明することがあるが、その説明は、特に説明した場合を除き、米糠アルブミン画分にも当てはまる。
【0047】
本発明者らの検討によると、米糠アルブミンは、グルコースを吸着することができる。また、米糠アルブミンは、グルコース以外の糖質(食物繊維を除く炭水化物。糖質には、単糖、オリゴ糖、多糖が含まれる。)を吸着することも期待できる。したがって、本発明の剤は、単糖吸着剤、および糖質吸着剤であり得る。グルコース以外の糖質の例として、ガラクトース、マンノース、フルクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、イソマルトース、デンプンが挙げられる。
【0048】
従来知られている小麦アルブミンや難消化性デキストリン等を有効成分とする血糖値の上昇抑制剤は、アミラーゼ等の糖質分解酵素の阻害あるいは酵素分解物の吸収経路の阻害により食後の血糖値の上昇を抑えるものであるため、グルコース、フルクトース等の単糖や、スクロース等のオリゴ糖を摂取した場合には食後血糖値の上昇を抑制することはできない。しかしながら、本発明の剤によれば、単糖やオリゴ糖を摂取した場合であっても、血糖値の上昇を抑制しうる。
【0049】
本発明の剤はまた、食後の血糖値の上昇を抑制することが好ましい疾患または状態の処置のために、用いることができる。このような疾患または状態には、糖尿病(1型糖尿病および2型糖尿病)、生活習慣病、肥満、およびメタボリックシンドローム等が含まれる。本発明の剤は、インスリン分泌促進系の血糖降下剤ではないため、多くの疾患または状態に対して使用することができると考えられる。例えば、体重の減量のため、肥満の予防のためにも用いうる。
【0050】
(剤、組成物)
本発明の剤は、食品組成物または医薬組成物とすることができる。食品および医薬品は、特に記載した場合を除き、ヒトのためのもののみならず、ヒト以外の動物のためのものを含む。食品は、特に記載した場合を除き、一般食品、機能性食品、栄養組成物を含み、また治療食(治療の目的を果たすもの。医師が食事箋を出し、それに従い栄養士等が作成した献立に基づいて調理されたもの。)、食事療法食、成分調整食、介護食、治療支援用食品を含む。食品は、特に記載した場合を除き、固形物のみならず、液状のもの、例えば飲料、ドリンク剤、流動食、およびスープを含む。機能性食品とは、生体に所定の機能性を付与できる食品をいい、例えば、特定保健用食品(条件付きトクホ[特定保健用食品]を含む)、機能性表示食品、栄養機能食品を含む保健機能食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント(例えば、錠剤、被覆錠、糖衣錠、カプセル、液剤等の各種の剤形のもの)、美容食品(例えば、ダイエット食品)等の、健康食品の全般を包含している。また、本発明において「機能性食品」とは、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康食品を包含している。
【0051】
(対象)
本発明の剤は、食後の血糖値の上昇を抑制したい対象に、摂取させる・投与するのに適している。
【0052】
(投与経路)
本発明の剤は、それを非経口的に、例えば経管的(胃瘻、腸瘻)に投与してもよいし、経鼻的に投与してもよいし、経口的に投与してもよいが、経口的に投与することが好ましい。
【0053】
(有効成分の含有量・用量)
本発明の剤における、有効成分である米糠アルブミンの含有量は、目的の効果が発揮される量であればよい。組成物は、その被験体の年齢、体重、症状等の種々の要因を考慮して、その投与量または摂取量を適宜設定することができるが、一日量あたりの米糠アルブミンの投与量は、例えば20mg以上とすることができ、25mg以上とすることが好ましく、30mg以上とすることがより好ましい。一日量あたりの米糠アルブミンの投与量の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、5000 mg以下とすることができ、2500 mg以下とすることが好ましく、1000 mg以下とすることがより好ましく、500 mg以下とすることが特に好ましい。
【0054】
一日量あたりの米糠アルブミンの投与量は、より高い効果を期待して、より多く設計することもできる。このような場合の一日量あたりの米糠アルブミンは、例えば0.5g~25gとすることができ、好ましくは2.5g~10gとすることができる。
【0055】
本発明の剤は、一日1回の投与・摂取としてもよいし、一日複数回、例えば食事毎の3回の投与としてもよい。本発明の剤は、グルコース吸着能を有し、体内でのグルコースの吸収を穏やかにすることができることから、食事の前、食事中、または食事後に、摂取・投与することが好ましいであろう。本発明の剤は、呈味に与える影響がほとんどないため、食事の前に摂取・投与した場合であっても、食事をおいしく感じられなくなるという不都合がほとんどないと考えられる。本発明の剤は、繰り返し、または長期間にわたって摂取してもよく、例えば1週間以上、好ましくは4週間以上、続けて投与・摂取することができる。
【0056】
(他の成分、添加剤)
本発明の剤は、食品または医薬品として許容可能な他の有効成分や栄養成分を含んでいてもよい。そのような成分の例は、アミノ酸類(例えば、リジン、アルギニン、グリシン、アラニン、グルタミン酸、ロイシン、イソロイシン、バリン)、糖質(グルコース、ショ糖、果糖、麦芽糖、トレハロース、エリスリトール、マルチトール、パラチノース、キシリトール、デキストリン)、電解質(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム)、ビタミン(例えば、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビオチン、葉酸、パントテン酸およびニコチン酸類)、ミネラル(例えば、銅、亜鉛、鉄、コバルト、マンガン)、抗生物質、食物繊維、タンパク質、脂質等である。
【0057】
また本発明の剤は、食品または医薬として許容される添加物をさらに含んでいてもよい。そのような添加物の例は、不活性担体(固体や液体担体)、賦形剤、界面活性剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解補助剤、懸濁化剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、緩衝剤、pH調整剤、乳化剤、安定剤、甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、天然物である。より具体的には、水、他の水性溶媒、製薬上で許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、水溶性デキストリン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、クエン酸、乳酸、りんご酸、酒石酸、リン酸、酢酸、果汁、野菜汁等である。
【0058】
(剤形・形態)
本発明の剤を医薬組成物とするとき、経口投与に適した、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤等の固形製剤、液剤、懸濁剤等の液体製剤、ジェル剤、エアロゾル剤等の任意の剤形にすることができる。
【0059】
本発明の剤を食品組成物とするとき、固体、液体、混合物、懸濁液、粉末、顆粒、ペースト、ゼリー、ゲル、カプセル等の任意の形態に調製されたものであってよい。また、本発明に係る食品組成物は、乳製品、サプリメント、菓子、飲料、ドリンク剤、調味料、加工食品、惣菜、スープ等の任意の形態にすることができる。より具体的には、本発明の組成物は、乳飲料、清涼飲料、乳酸菌飲料、発酵乳、乳性飲料、ヨーグルト、アイスクリーム、タブレット、チーズ、パン、ビスケット、クッキー、チョコレート、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、流動食、病者用食品、栄養食品、冷凍食品、加工食品、無菌包装米飯、レトルト米飯、業務用米、おにぎり、総菜等の形態とすることができ、また飲料や食品に混合して摂取するための、顆粒、粉末、ペースト、濃厚液等の形態とすることができる。
【0060】
本発明の剤を食品組成物とするとき、米糠アルブミンの顆粒または粉末を1回摂取量毎にスティック包装またはピロー包装として、水等の飲料に溶かして飲用できる形態としてもよい。米糠アルブミンの顆粒または粉末は、所望により茶抽出物、コーヒー抽出物等の飲料成分抽出物の顆粒または粉末とともに、スティック包装またはピロー包装の形態としてもよい。このような形態の組成物は、さらに酸化防止剤(例えばビタミンC)、矯味剤、着色料、香料等を含むことができる。
【0061】
(その他)
本発明の剤、食品または医薬品原料、組成物の製造において、有効成分の配合の段階は、適宜選択することができる。有効成分の特性を著しく損なわない限り配合の段階は特に制限されない。例えば、製造の初期の段階に、原材料に混合して配合することができる。
【0062】
本発明の組成物には、食後の血糖値の上昇抑制のために用いることができる旨を表示することができ、また特定の対象に対して摂取を薦める旨を表示することができる。表示は、直接的にまたは間接的にすることができ、直接的な表示の例は、製品自体、パッケージ、容器、ラベル、タグ等の有体物への記載であり、間接的な表示の例は、ウェブサイト、店頭、パンフレット、展示会、商談資料、メディアセミナー、チラシ、ポスター、書籍、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、郵送物、電子メール、音声等の、場所または手段による、広告・宣伝活動を含む。
【0063】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲は、これら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0064】
[実験1]
[材料]
・赤糠 (精米歩合 100%以下90%以上)
・中糠 (精米歩合 90%未満80%以上)
【0065】
[方法]
<アルブミン画分の抽出>
各米糠(酒米由来)、および米粉(日本晴、滋賀県産)をpH 6のクエン酸緩衝液に溶解しタンパク質を抽出後、60℃で加熱し遠心分離することにより夾雑タンパク質を除去した。次に、1 Lの溶液に対して243 gの硫酸アンモニウムを加えて4℃で穏やかに撹拌することにより沈殿化し、得られた沈殿を脱イオン水に対して透析を行い、この上清を凍結乾燥したもの(ほんのり薄く黄色がかったほぼ白色の粉末)をアルブミン画分とした。
【0066】
<電気泳動によるバンドパターンの確認>
得られたタンパク質の試料濃度を揃えた溶液をSDS-PAGEで分離し、CBB染色にて各種米糠から得られたタンパク質のバンドパターンを比較した。
【0067】
<消化耐性の確認>
抽出した赤糠および中糠アルブミン画分を50 mL 容遠沈管に50 mg量り取り,5 mLのペプシン溶液で溶解した。なおペプシン溶液は、2500 unit/mgのペプシン(ブタ胃由来、富士フイルム和光純薬、165-18711)を0.1mg/mLとなるようにpH2のHCl溶液に溶解することにより調整した。その後,37℃,100回/minで振とうしながら2時間インキュベートし25 μL分取した。分取後,50 mL 容遠沈管に50 mgの重炭酸ナトリウムを加え,ペプシンの反応を停止した。ここに,パンクレアチン(ブタ膵臓由来、Sigma Aldrich、P3292-25G)5 mgを添加し,再び37℃,100回/minで振とうしながら6時間インキュベートした。インキュベート開始から2時間ごとに25 μL分取した。分取したサンプル25 μLに超純水100 μL,2×sample buffer(pH 6.8)を125 μL加え,これをSDS-PAGE用サンプルとした。また,すでに消化耐性が報告されている米アルブミン(RA)(米糠アルブミン画分と同様に抽出した。)を比較対象として同様の実験を行った。さらに,赤糠および中糠アルブミン画分,米アルブミンを2 mg/mLとなるよう超純水に溶解し,この溶液と2×sample buffer(pH 6.8)を1:1で混合し,5分間煮沸したものを酵素未処理サンプルとしてSDS-PAGEに供した。
【0068】
<グルコース吸着能の評価>
抽出した赤糠および中糠アルブミン画分を20 mg量り取り、超純水1 mLで溶解し、15,000×g、4℃で15分間遠心分離を行い上清を回収した。上清を超純水で10倍または20倍希釈し、タンパク質濃度を測定した。上清をグルコース溶液と混合し、終濃度が100 mMグルコース、8 mg/mLタンパク質(米糠アルブミン画分)となるように調整した。このグルコースと米糠アルブミン画分の混合液250 μLを、37℃の振とう恒温槽中で保温したチャンバーの上部に分注し、下部チャンバーに加えた純水に対して透析した(
図1)。グルコースと米糠アルブミン画分の混合液を上部チャンバーに分注後、30分ごとに150分まで、下部チャンバーの溶液を採取し、グルコースCIIテストワコーを用いて、下部チャンバー中の溶液のグルコース濃度を測定した。コントロールとして、米糠アルブミン画分を含まない100 mMグルコース溶液250 μLを使用した。
【0069】
グルコース吸着量の算出
米糠アルブミン画分1 gあたりのグルコース吸着量は,グルコース拡散モデルにより算出した。
【0070】
米糠アルブミン画分に質量mのグルコースが吸着している上部チャンバー中のバルクのグルコース濃度をC1,溶液体積をV1,下部チャンバーのグルコース濃度をC2,溶液体積をV2,透析膜の厚みをL,膜中のグルコースの拡散係数をDと定義する。
【0071】
膜中のグルコースの拡散は,Fickの法則から(1)式のように表される。
【0072】
【0073】
また,下部チャンバー内のグルコースのマスバランスから,(2)式が得られ,
【0074】
【0075】
系内のグルコースの総和,M0は(3)式のように表される。
【0076】
【0077】
これらの(1)から(3)式を連立して解くと,下部チャンバーのグルコース濃度C2の経時変化に関する(4)が得られる。
【0078】
【0079】
ここでαは,(5)式で示すように,膜中の拡散係数Dを含む定数である。
【数5】
【0080】
上部チャンバーにグルコースのみを入れたコントロールから,傾きα,拡散係数Dを求め,その値を用いて,(5)式に回帰することにより,サンプルの見かけのグルコース吸着量mを算出した。本モデルでは米糠アルブミン画分,その比較対象として、過去に報告のある米粉から得られるアルブミン,カルボキシメチルセルロース(CMC)(Sigma Aldrich、C4888-500G)およびグァーガム( Sigma Aldrich、G4129-250G)の吸着量を算出した。
【0081】
[結果]
赤糠および中糠10 gより、アルブミン画分は、赤糠で11.92 mg、中糠で17.00 mg、得られた。血糖値上昇抑制作用を有する米アルブミンは16 kDaであるため、SDS-PAGEにて米糠3種より抽出したアルブミン画分のバンドパターンを比較し、目的のアルブミンが含まれているか確認した。その結果、赤糠、中糠に16 kDaのバンドが確認できた(
図2)。赤糠、中糠には22 kDaのバンドも確認できた(
図2)
【0082】
16 kDaのバンドは赤糠よりも中糠で濃く見え、糠10 gより得られた抽出物質量は、赤糠よりも中糠で多かった。
【0083】
次に、16 kDa等のバンドが確認できた赤糠および中糠アルブミン画分を用いて消化耐性を評価した。各アルブミン画分に対してペプシン、次いでパンクレアチンで処理することにより、体内での消化を再現した。その結果を
図3に示す。赤糠および中糠アルブミン画分の酵素未処理サンプルのバンドパターンは,米アルブミンの酵素未処理サンプルのバンドパターンと類似していた。酵素処理により,米アルブミンからは14 kDa の難消化性ペプチドが生成するのに対し,赤糠アルブミン画分では,14 kDa のバンドは確認できたものの,米アルブミンよりバンドが薄く,消化酵素でほぼ分解された。一方,中糠アルブミン画分では消化後に米アルブミンと同様に14 kDaのバンドが確認でき,難消化性ペプチドを含んでいることが明らかとなった。また,
図3の米アルブミンのレーンEでは,14 kDaのバンドが1本に見えるのに対し,同じく,中糠アルブミン画分のレーンEの14 kDaのバンドは2本に見える。中糠は赤糠よりも胚乳に近いため,中糠アルブミン画分は米粉から得られる米アルブミンとタンパク質の構成が類似していると考えられるが,各タンパク質の翻訳後修飾や立体構造などは異なる可能性がある。
【0084】
米糠および米粉から得られるアルブミン画分がグルコース吸着能を有するか検討した。その結果、赤糠アルブミン画分のグルコース拡散抑制効果は,米アルブミンおよびCMCより高い値を示した(
図4)。さらに,中糠アルブミン画分のグルコース拡散抑制効果は,赤糠アルブミンよりも高くグアーガムとほぼ同等であった。さらに,赤糠および中糠アルブミン画分の両者で,上部チャンバー中のグルコース濃度の増加に伴い,アルブミン画分1 gあたりのグルコースの吸着量は増加した(
図5)。なお、グアーガムは増粘性が非常に高い素材であるが、中糠アルブミン画分、赤糠アルブミン画分はいずれも増粘性をほとんど示さないため、食品に利用しやすい。
【0085】
[総括]
中糠アルブミン画分は米粉から得られるアルブミンや、赤糠アルブミン画分よりもグルコースを吸着し、さらに難消化性であることが明らかとなった。これらの結果より、中糠アルブミン画分は経口摂取した後、in vivoにおいても血糖値上昇抑制作用を示すと考えられる。
【0086】
[実験2]
[材料]
・中糠 (精米歩合 90-80%、明治ライスデリカ株式会社)
・α-アミラーゼ (クライスターゼP8、天野エンザイム株式会社) pH 5.0において 6,500 u/g 以上
・グルコアミラーゼ (グルクザイム NLPC、天野エンザイム株式会社) pH 4.5において 1,200 u/mL 以上
・ヘミセルラーゼ (ヘミセルラーゼ「アマノ」90、天野エンザイム株式会社) pH 4.5において90,000 u/g 以上
・トリプシン (ウシ膵臓由来、富士フイルム和光純薬株式会社) 180 TAME units/mg 以上
【0087】
[方法]
<酵素を用いたアルブミン画分の抽出>
50 mL遠沈管に100 mMクエン酸buffer (pH 6.0) を10 mL添加し50℃の恒温湯浴中で保温した。そこにヘミセルラーゼを20 mg、中糠を2 g加え、50℃で60分間撹拌した。その後、α-アミラーゼを20 mg加え70℃で30分間撹拌し、さらに、グルコアミラーゼを20 μL加え60℃で30分間撹拌した。続いて、5分間煮沸し酵素を失活させ、10,000g、4℃で15分遠心分離を行い、上清を一定量回収した。さらに、夾雑タンパク質を分解する場合は、得られた上清3 mLに対して5 mgもしくは10 mgのトリプシンを加え、37℃で1時間撹拌した。なお、グルコアミラーゼを使用しない場合は、α-アミラーゼを加えて撹拌した後に煮沸した。
【0088】
<酵素の分解能力の評価>
得られた上清を25 μL取り、BCA法によりタンパク質量を測定した。吸光波長は540 nmを用いた。また、得られた上清を1000倍希釈し試験管に1 mL取り、Somogyi-Nelson法にて還元糖量を測定した。吸光波長は660 nmを用いた。
【0089】
<電気泳動によるバンドパターンの確認>
得られた上清をSDS-PAGEで分離し、CBB染色にてタンパク質のバンドパターンを比較した。
【0090】
<統計処理>
数値は3回計測して得られた平均値±S.D.で表し、統計解析はTukey's testを用いた。図において、異なるアルファベットは統計的に有意差があることを示す (p < 0.01)。
【0091】
[結果と考察]
<酵素を用いた効率的なタンパク質抽出方法の検討>
酵素を使用せずに中糠2 gからタンパク質を抽出した場合、得られたタンパク質は約7 mgで (
図6)、同じく還元糖量は約26 mgだった (
図7)。これに対して、酵素を使用した場合にはタンパク質および還元糖量は増加した。抽出工程において、まず、pH 6.0のクエン酸水溶液を用いて中糠から水溶性タンパク質を抽出するが、このときに至適pHが4.5であるヘミセルラーゼを共存させると、抽出されるタンパク質は約13 mgに増え、還元糖量も298 mgに増えた。これは、中糠に含まれる食物繊維がヘミセルラーゼによって分解され、還元糖が生成するとともに、食物繊維によって妨げられていたタンパク質の溶出が可能になったためであると考えられる。さらに、ヘミセルラーゼで処理後、α-アミラーゼで処理すると、同様にタンパク質および還元糖量がそれぞれ、21 mgおよび687 mgに増加した。この結果から、糠に含まれるタンパク質は、食物繊維だけではなく、テンプンを含めた多糖類によってその溶出が妨げられていたことがわかった。一方で、α-アミラーゼ処理後にグルコアミラーゼで処理した場合には還元糖量は増加したにも関わらず、タンパク質量は有意に増加しなかった。これは、タンパク質の溶出にはデンプンがオリゴ糖程度に分解されていればよく、単糖まで分解される必要はないことを示唆している。
【0092】
図8に中糠から抽出されたタンパク質の電気泳動図を示す。(1)のレーンはヘミセルラーゼとα-アミラーゼで処理した後に得られた上清に含まれるタンパク質のバンドを示す。
【0093】
ヘミセルラーゼとα-アミラーゼで処理後は、16 kDaのタンパク質以外にも複数のバンドが見られた。このため、この画分の経口投与により血糖値上昇抑制効果を得るには多量の摂取が必要になると予想される。前年度までの研究で、米糠に含まれる16 kDaのタンパク質はトリプシンに対して耐性があることがわかっている。このため、トリプシン処理により他の夾雑タンパク質を分解できれば、グルコースを吸着し、血糖値上昇抑制作用を有する難消化性タンパク質を高純度で得ることが可能となる。そこで、(2)や(3)のように、ヘミセルラーゼとα-アミラーゼを処理した後にトリプシンで処理すると、(1)で見られていた複数のバンドが消失し、主に14 kDaと30 kDaのバンドが見られるようになった。この後の透析などの操作により夾雑タンパク質の分解産物を除去することで、消化耐性が高く、グルコース吸着能を有すると予測されるタンパク質を高含有する抽出物の作製が可能であることが示された。
【0094】
[総括]
中糠をヘミセルラーゼとα-アミラーゼ、トリプシンで処理することにより、血糖値上昇抑制効果のある16 kDaのタンパク質を効率的に抽出できることが示された。また、胚乳には見られない、消化耐性の高い30 kDaのタンパク質が中糠には存在することが明らかになった。