(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-13
(45)【発行日】2025-03-24
(54)【発明の名称】中間シャフト及びステアリング装置
(51)【国際特許分類】
F16D 3/06 20060101AFI20250314BHJP
F16D 1/02 20060101ALI20250314BHJP
B62D 1/18 20060101ALI20250314BHJP
【FI】
F16D3/06 A
F16D1/02 210
F16D3/06 E
B62D1/18
(21)【出願番号】P 2021018772
(22)【出願日】2021-02-09
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】523207386
【氏名又は名称】NSKステアリング&コントロール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森山 誠一
(72)【発明者】
【氏名】狩野 哲也
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-106599(JP,A)
【文献】特開2010-096308(JP,A)
【文献】特開2017-219085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/06
F16D 1/02
B62D 1/16- 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状を成す金属製のアウタチューブと、
前記アウタチューブが延在する方向と平行な軸方向に延在し、一部が前記アウタチューブに収容される金属製のインナシャフトと、
前記アウタチューブの内周面に被覆され、前記アウタチューブの内周面と前記インナシャフトの外周面との間に配置される樹脂層と、
前記アウタチューブの内周面と前記インナシャフトの外周面との間に複数配置される金属製のボールと、
を備え、
前記インナシャフトの外周面には、径方向外側に突出し、前記軸方向に延びる複数の凸条部が設けられ、
前記凸条部は、前記インナシャフトの前記外周面の全周に亘って周方向に等間隔で配置され、
前記アウタチューブの内周面には、
径方向外側に窪み、前記軸方向に延び、かつ内部に前記凸条部が入り込む複数の凹条面と、
径方向外側に窪み、前記軸方向に延びる複数のアウタボール溝面と、
が設けられ、
前記アウタボール溝面は、複数の前記凸条部の間に設けられた複数の窪みのうちの1つであるインナボール溝面と径方向に対向し、
前記ボールは、前記インナボール溝面と前記アウタボール溝面との間に締め代を有した状態で当接し、前記アウタチューブと前記インナシャフトとの相対回転が不能となっており、
前記樹脂層は、前記凹条面の内周側を被覆し、かつ前記アウタチューブ及び前記インナシャフトが周方向に回転していない中立状態で前記凸条部に対して径方向の隙間と周方向の微小隙間を有している
中間シャフト。
【請求項2】
前記インナシャフトの一端部は、前記アウタチューブの他端部に挿入されて収容され、
前記アウタチューブの他端部には、前記アウタボール溝面から前記ボールが脱落することを防止するアウタ脱落防止部が設けられ、
前記インナシャフトの一端部には、前記インナボール溝面から前記ボールが脱落することを防止するインナ脱落防止部が設けられている
請求項
1に記載の中間シャフト。
【請求項3】
前記アウタボール溝面と前記インナボール溝面は、それぞれ2つずつ設けられ、
2つの前記アウタボール溝面は、180°間隔で配置され、
2つの前記インナボール溝面は、180°間隔で配置されている
請求項1
又は請求項2に記載の中間シャフト。
【請求項4】
前記アウタボール溝面と前記インナボール溝面は、それぞれ3つずつ設けられ、
3つの前記アウタボール溝面は、120°間隔で配置され、
3つの前記インナボール溝面は、120°間隔で配置されている
請求項1
又は請求項2に記載の中間シャフト。
【請求項5】
前記インナシャフトは、筒状を成している
請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の中間シャフト。
【請求項6】
請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の中間シャフトを備えたステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、中間シャフト及びステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ステアリング装置に用いられる軸部品として、中間シャフトが挙げられる。中間シャフトは、ステアリングホイールからステアリングシャフトに伝達された操舵トルクを、ピニオンシャフトに伝達するための部品である。また、中間シャフトは、車両の走行時に車体に発生した歪みを吸収するため、及びに他の部品との組み付けの利便性を図るため、伸縮自在となっている。
【0003】
具体的に従来の中間シャフトは、筒状を成す金属製のアウタチューブと、アウタチューブに収容される金属製のインナシャフトと、を備えている。アウタチューブの内周面には、雌スプライン部が設けられている。インナシャフトの外周面には、雌スプライン部にスプライン嵌合する雄スプライン部が設けられている。これにより、アウタチューブとアウタチューブは、互いに相対回転不能、かつ軸方向に摺動自在に連結している。そして、雌スプライン部と雄スプライン部との滑りにより、中間シャフトが伸縮する。
【0004】
また、特許文献1の中間シャフトは、アウタチューブとインナシャフトの他に、雄スプライン部の外周面に被覆された樹脂層を備えている。これによれば、雌スプライン部と雄スプライン部とは、樹脂層を介して接するようになり、摺動抵抗が小さくなる。さらに、雌スプライン部と雄スプライン部との間に回転方向の隙間があると、ラトル音が生じる。よって、樹脂層は、雌スプライン部に対し隙間なく接するように膜厚が調整されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、樹脂層の線膨張係数は、金属(アウタチューブとインナシャフト)の線膨張係数よりも大きい。また、中間シャフトが配置される車両の車体前部構造には、エンジン、エンジンの排気系部品、及びにターボ過給機など、高温の装置が配置されている。つまり、中間シャフトは、高温環境下に置かれており、熱膨張が生じ易い。中間シャフトが熱膨張している場合、樹脂層は、アウタチューブの内周面に当接している。しかしながら、中間シャフトが常温となった場合、樹脂層の収縮量はアウタチューブの収縮量よりも大きい。このため、樹脂層の外周面とアウタチューブの内周面との間に、ラトル音の原因となる隙間が生じる。
【0007】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、高温環境下で使用してもラトル音が生じ難い中間シャフト及びステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様に係る中間シャフトは、筒状を成す金属製のアウタチューブと、前記アウタチューブが延在する方向と平行な軸方向に延在し、一部が前記アウタチューブに収容される金属製のインナシャフトと、前記インナシャフトの外周面に被覆され、前記アウタチューブの内周面と前記インナシャフトの外周面との間に配置される樹脂層と、前記アウタチューブの内周面と前記インナシャフトの外周面との間に複数配置される金属製のボールと、備える。前記アウタチューブの内周面には、径方向外側に窪み、前記軸方向に延びる複数の凹条面が設けられる。前記凹条面は、前記アウタチューブの前記内周面の全周に亘って周方向に等間隔で配置される。前記インナシャフトの外周面には、径方向外側に突出し、前記軸方向に延び、かつ前記凹条面の内部に入り込む複数の凸条部と、径方向内側に窪み、前記軸方向に延びる複数のインナボール溝面と、が設けられる。前記インナボール溝面は、複数の前記凹条面のうちの1つであるアウタボール溝面と径方向に対向する。前記ボールは、前記インナボール溝面と前記アウタボール溝面との間に締め代を有した状態で当接し、前記アウタチューブと前記インナシャフトとの相対回転が不能となっている。前記樹脂層は、前記凸条部の外周側を被覆し、かつ前記アウタチューブ及び前記インナシャフトが周方向に回転していない中立状態で前記凹条面に対して径方向の隙間と周方向の微小隙間を有している。
【0009】
ボールは、締め代を有した状態でアウタチューブとインナシャフトとの間に組み付けられる。よって、ボールの周方向のガタつきが抑制される。また、前記した中間シャフトは、樹脂層と凹条面との間に周方向の微小隙間が設けられているものの、ボールを介してアウタチューブとインナシャフトとの相対回転が不能となっている。よって、凸条部と凹条面とが接触してラトル音が生じる、ということが抑制される。また、前記中間シャフトが高温環境下に置かれたとしても、ボールは、直接、インナボール溝面とアウタボール溝面に当接している。よって、中間シャフトが熱膨張し、その後に常温に戻って収縮したとしても、同じ金属製から成るボールとインナボール溝面とアウタボール溝面との間に隙間が生じない。よって、高温環境下で使用された後も、アウタチューブとインナシャフトとの相対回転不能が保持され、ラトル音の発生が抑制される。また、常温時に中間シャフトが伸縮すると、ボールが転動する。一方で、樹脂層と凹条面との間に径方向の隙間と周方向の微小隙間があり、樹脂層と凹条面との滑りが生じない。よって、アウタチューブとインナシャフトとの摺動抵抗が小さい。また、高温環境下に中間シャフトが置かれると、樹脂層が熱膨張し、周方向の微小隙間がなくなる。よって、樹脂層の一部が凹条面と当接する。そして、中間シャフトが伸縮すると、ボールの転動以外に、樹脂層の一部と凹条面との滑りも生じる。よって、常温時によりもアウタチューブとインナシャフトとの摺動抵抗が大きくなる。ただし、高温時に凹条面に当接する樹脂層の一部は、常温時に凹条面に対し微小隙間を有しているため、常温時から既に樹脂層が凹条面と当接している場合よりも、凹条面に対する樹脂層の面圧が低い。つまり、高温時におけるアウタチューブとインナシャフトとの摺動抵抗の増加が低く抑えられる。そして、中間シャフトにトルクが伝達された場合、中間シャフトが撓むような曲げ荷重が作用する。これにより、インナシャフトは、アウタチューブに対し傾き、周方向の微小隙間がなくなる。そして、樹脂層を介して凸条部と部の凹条面とが当接し、トルクが伝達される。また、複数の凹条面のうちの1つをアウタボール溝面としている。よって、アウタチューブの内周面にアウタボール溝面を形成するための加工が不要となり、アウタチューブの製造が容易となる。また、アウタチューブは、内周面の全周に亘って凹条面が設けられ、インナシャフトに対して組み付けるための位相がない。よって、アウタチューブの組付けが容易となり、中間シャフトの生産性が向上する。また、前記した中間シャフトによれば、樹脂層は、アウタチューブの内周面でなく、インナシャフトの外周面に設けられている。よって、溶融した樹脂槽にインナシャフトを浸漬し、その後、樹脂層を成形する加工が容易となる。また、樹脂層を成形の際、インナボール溝面を覆っている樹脂層を併せて除去でき、樹脂層の製造が容易となる。
【0010】
また、上記の目的を達成するため、本開示の一態様に係る中間シャフトは、筒状を成す金属製のアウタチューブと、前記アウタチューブが延在する方向と平行な軸方向に延在し、一部が前記アウタチューブに収容される金属製のインナシャフトと、前記アウタチューブの内周面に被覆され、前記アウタチューブの内周面と前記インナシャフトの外周面との間に配置される樹脂層と、前記アウタチューブの内周面と前記インナシャフトの外周面との間に複数配置される金属製のボールと、を備える。前記インナシャフトの外周面には、径方向外側に突出し、前記軸方向に延びる複数の凸条部が設けられている。前記凸条部は、前記インナシャフトの前記外周面の全周に亘って周方向に等間隔で配置されている。前記アウタチューブの内周面には、径方向外側に窪み、前記軸方向に延び、かつ内部に前記凸条部が入り込む複数の凹条面と、径方向外側に窪み、前記軸方向に延びる複数のアウタボール溝面と、が設けられている。前記アウタボール溝面は、複数の前記凸条部の間に設けられた複数の窪みのうちの1つであるインナボール溝面と径方向に対向している。前記ボールは、前記インナボール溝面と前記アウタボール溝面との間に締め代を有した状態で当接し、前記アウタチューブと前記インナシャフトとの相対回転が不能となっている。前記樹脂層は、前記凹条面の内周側を被覆し、かつ前記アウタチューブ及び前記インナシャフトが周方向に回転していない中立状態で前記凸条部に対して径方向の隙間と周方向の微小隙間を有している。
【0011】
上記した中間シャフトであれば、ボールは、締め代を有した状態でアウタチューブとインナシャフトとの間に組み付けられており、周方向のガタつきが抑制される。ボールを介してアウタチューブとインナシャフトとの相対回転が不能となっている。よって、凸条部と凹条面とが接触してラトル音が生じる、ということが抑制される。また、高温環境下で使用された後も、アウタチューブとインナシャフトとの相対回転不能が保持され、ラトル音の発生が抑制される。また、樹脂層と凸条部との滑りが生じないため、アウタチューブとインナシャフトとの摺動抵抗が小さい。また、高温環境下に中間シャフトが置かれると、樹脂層が熱膨張し、周方向の微小隙間がなくなる。よって、樹脂層の一部が凸条部と当接する。そして、中間シャフトが伸縮すると、ボールの転動以外に、樹脂層の一部と凸条部との滑りも生じる。よって、常温時によりもアウタチューブとインナシャフトとの摺動抵抗が大きくなる。ただし、高温時に凸条部に当接する樹脂層の一部は、常温時に凸条部に対し微小隙間を有しているため、常温時から既に樹脂層が凸条部と当接している場合よりも、凸条部に対する樹脂層の面圧が低い。つまり、高温時におけるアウタチューブとインナシャフトとの摺動抵抗の増加が低く抑えられる。また、中間シャフトにトルクが伝達された場合、中間シャフトが撓むような曲げ荷重が作用する。これにより、インナシャフトは、アウタチューブに対し傾き、周方向の微小隙間がなくなる。樹脂層を介して凸条部と凹条面とが当接し、トルクが伝達される。また、複数の凸条部の間に設けられた複数の窪みのうちの1つをインナボール溝面としている。よって、インナシャフトの内周面にインナボール溝面を形成するための加工が不要となり、インナシャフトの製造が容易となる。また、インナシャフトは、内周面の全周に亘って凸条部が設けられ、アウタチューブに対して組み付けるための位相がない。よって、インナシャフトの組付けが容易となり、中間シャフトの生産性が向上する。また、前記した中間シャフトによれば、樹脂層の製造は、溶融した樹脂槽にアウタチューブを浸漬し、その後、樹脂層を成形する加工を行う。樹脂層を成形の際、アウタボール溝面を覆っている樹脂層を併せて除去でき、樹脂層の製造が容易となる。
【0012】
また、上記の中間シャフトの望ましい態様として、前記インナシャフトの一端部は、前記アウタチューブの他端部に挿入されて収容される。前記アウタチューブの他端部には、前記アウタボール溝面から前記ボールが脱落することを防止するアウタ脱落防止部が設けられる。前記インナシャフトの一端部には、前記インナボール溝面から前記ボールが脱落することを防止するインナ脱落防止部が設けられている。
【0013】
前記構成によれば、アウタボール溝面及びインナボール溝面からボールが脱落しない。よって、ボールの脱落を防止する留め具が不要となり、部品点数が削減する。
【0014】
また、上記の中間シャフトの望ましい態様として、前記アウタボール溝面と前記インナボール溝面は、それぞれ2つずつ設けられる。2つの前記アウタボール溝面は、180°間隔で配置される。2つの前記インナボール溝面は、180°間隔で配置されている。
【0015】
前記構成によれば、弾性変形しながらボールを支持する部分(アウタボール溝面及びインナボール溝面)がアウタチューブの軸を中心に点対称となる位置に配置される。つまり、アウタチューブ及びインナシャフトに対し、応力が作用する位置が分散する。よって、応力の集中が回避され、耐久性が向上する。
【0016】
また、上記の中間シャフトの望ましい態様として、前記アウタボール溝面と前記インナボール溝面は、それぞれ3つずつ設けられる。3つの前記アウタボール溝面は、120°間隔で配置される。3つの前記インナボール溝面は、120°間隔で配置されている。
【0017】
前記構成によれば、弾性変形しながらボールを支持する部分(アウタボール溝面及びインナボール溝面)が3分割され、かつ、等間隔となるように配置される。つまり、アウタチューブ及びインナシャフトに対し、応力が作用する位置が分散する。よって、応力の集中が回避され、耐久性が向上する。
【0018】
また、上記の中間シャフトの望ましい態様として、前記インナシャフトは、筒状を成している。
【0019】
上記構成によれば、インナシャフトは、筒状を成し、中実のものよりも弾性変形し易い。よって、インナシャフトは、断面視で径方向に撓みやすく、ボールに付与する予圧を小さくすることができる。よって、ボールの転がり抵抗(アウタチューブとインナシャフトとの摺動抵抗)を小さくすることができる。さらに、インナシャフトの剛性を下げることができることから、締め代の大きなボールの使用が可能となる。これによれば、ボールが摩耗してもインナボール溝面とアウタボール溝面との間に隙間が生じ難くなる。
【0020】
また、上記の目的を達成するため、本開示の一態様に係るステアリング装置は、上記した中間シャフトを備える。
【0021】
上記構成によれば、高温環境下で使用してもラトル音が生じ難い中間シャフト中間シャフトを備える。
【発明の効果】
【0022】
本開示の中間シャフト及びステアリング装置によれば、高温環境下で使用してもラトル音が生じ難い。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、実施形態1のステアリング装置の模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態1のステアリング装置の斜視図である。
【
図3】
図3は、中間シャフトを軸方向に切った断面図である。
【
図5】
図5は、
図4のインナボール溝面及びアウタボール溝面の近傍を抽出して拡大した拡大図である。
【
図6】
図6は、実施形態2の中間シャフトの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本開示が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0025】
(実施形態1)
図1は、実施形態のステアリング装置の模式図である。
図2は、実施形態のステアリング装置の斜視図である。
図3は、中間シャフトを軸方向に切った断面図である。
図4は、
図3のIV-IV線矢視断面図である。
図5は、
図4のインナボール溝面及びアウタボール溝面の近傍を抽出して拡大した拡大図である。
【0026】
ステアリング装置80の基本的な構造について、
図1、
図2を参照しながら説明する。ステアリング装置80は、操作者から加えられた力(操舵トルク)が伝達する順に、ステアリングホイール81、ステアリングシャフト82、操舵力アシスト機構83、第1ユニバーサルジョイント84、中間シャフト85、及び第2ユニバーサルジョイント86を備える。
【0027】
操舵力アシスト機構83は、ECU(Electronic Control Unit)90と、減速装置92と、電動モータ93と、トルクセンサ94と、図示しないトーションバーと、を備える。ECU90には、イグニッションスイッチ98がオンの状態で、電源装置99(例えば車載のバッテリ)から電力が供給される。なお、本実施形態の中間シャフト85は、操舵力アシスト機構83を備えたステアリング装置80(電動パワーステアリング装置)に適用した例を挙げているが、本開示の中間シャフト及びステアリング装置は、操舵力アシスト機構83を備えていないステアリング装置に適用してもよい。
【0028】
ステアリングシャフト82は、入力軸82aと、出力軸82bと、を備える。入力軸82aの一方の端部は、ステアリングホイール81と連結している。また、入力軸82aの他方の端部は、操舵力アシスト機構83のトーションバー(不図示)を介して、出力軸82bの一方の端部と連結している。操舵トルクにより入力軸82aが回転すると、トーションバーが捻じれ、入力軸82aと出力軸82bとの回転に角度差が生じる。
【0029】
トルクセンサ94は、入力軸82aと出力軸82bとの角度差を検出し、その結果をECU90に送信する。ECU90は、車両の車速センサ95から車両の走行速度を取得する。ECU90は、入力軸82aと出力軸82bとの角度差と、車両の走行速度とに基づいて、電動モータ93を駆動させる。減速装置92は、電動モータ93の出力軸に連結する図示しないウォームと、出力軸82bと連結する図示しないウォームホイールと、を備える。よって、電動モータ93が駆動すると、減速装置92を介して出力軸82bに操舵補助トルクが付与され、入力軸82aと出力軸82bとの回転に角度差がなくなる。
【0030】
図2に示すように、出力軸82bの他方の端部は、第1ユニバーサルジョイント84を介して、中間シャフト85の一方の端部と連結している。中間シャフト85の他方の端部は、第2ユニバーサルジョイント86を介して、ピニオンシャフト87の一方の端部と連結している。ピニオンシャフト87の他方の端部は、ピニオン88aを備える。ピニオン88aは、ラック88bと噛み合っている。ステアリングギヤ88は、ピニオン88aに伝達された回転運動をラック88bで直進運動に変換する。ラック88bは、タイロッド89に連結される。ラック88bが移動することで車輪の角度が変化する。
【0031】
次に、中間シャフト85の詳細について説明する。以下の説明では、最初に中間シャフト85にトルクが作用していない状態(インナシャフト1及びアウタチューブ2が周方向に回転していない中立状態)を説明する。その次に、中間シャフト85の動作について説明する。
【0032】
図3に示すように、中間シャフト85は、第1ユニバーサルジョイント84(
図2参照)と接合されるインナシャフト1と、第2ユニバーサルジョイント86(
図2参照)と接合されるアウタチューブ2と、インナシャフト1の外周面とアウタチューブ2の内周面との間に介在する複数のボール3と、インナシャフト1の外周側に被覆された樹脂層4(
図4を参照)と、を備える。インナシャフト1とアウタチューブ2とボール3は、それぞれ金属製であり、機械構造用炭素鋼(Carbon Steel for Machine Structural Use)で製造されている。
【0033】
以下、インナシャフト1が延在する方向を軸方向と称する。インナシャフト1から視て第1ユニバーサルジョイント84が配置される方向を第1方向X1と称する。インナシャフト1から視て第2ユニバーサルジョイント86が配置される方向を第2方向X2と称する。
【0034】
インナシャフト1及びアウタチューブ2は、それぞれ、筒状の部品である。インナシャフト1の第2方向X2の端部寄りの部分は、インナ被収容部10となっている。また、アウタチューブ2の第1方向X1の端部寄りの部分は、アウタ収容部20となっている。インナ被収容部10は、アウタチューブ2の第1方向X1の端部に挿入され、アウタチューブ2に収容される部分である。また、アウタ収容部20は、インナ被収容部10を収容する部分である。
【0035】
図4に示すように、インナ被収容部10の内周面11は、中心軸O1を中心に円形状を成している。一方で、インナ被収容部10の外周面12には、複数の凸条部13と、複数のインナボール溝面14と、複数の標準外周面15と、が設けられている。
【0036】
インナ被収容部10の標準外周面15は、外周面12のうち凸条部13とインナボール溝面14とが設けられていない部分である。つまり、標準外周面15は、凸条部13とインナボール溝面14の間を延在したり、又はインナボール溝面14同士の間を延在したりする、中心軸O1を中心とする円弧状の面である。
【0037】
インナ被収容部10の凸条部13は、標準外周面15よりも径方向外側に突出する突起である。凸条部13は、断面視で径方向外側に向かうにつれて周方向の幅が狭くなる台形状を成している。また、凸条部13は、同一形状で軸方向に延びている。
【0038】
凸条部13は、周方向に等間隔で配置されている。つまり、凸条部13の頂面の周方向の中央部13aと、中心軸O1と、を結ぶ仮想線L1を各凸条部13に引いた場合、周方向に隣り合う仮想線L1同士が成す角度は全てθ1となる。
【0039】
図5に示すように、インナ被収容部10のインナボール溝面14は、標準外周面15よりも径方向内側に窪む溝面である。インナボール溝面14は、断面視で略V字状を成している。具体的には、インナボール溝面14は、最も径方向内側に位置するインナ溝底部14aと、インナ溝底部14aから径方向外側に向かうにつれて互いに周方向に離隔するように傾斜するインナ第1傾斜面14b及びインナ第2傾斜面14cと、を有する。
【0040】
インナ溝底部14aと中心軸O1とを結ぶ仮想線L2を引いた場合、インナボール溝面14と周方向に隣り合う凸条部13の頂面の中央部13aを通る仮想線L1と、仮想線L2と、が成す角度はθ2である。この角度θ2は、凸条部13が配置される角度θ1と同じ角度である。よって、インナ被収容部10の外周面12には、凸条部13とインナ溝底部14aとが周方向に等間隔で配置されている。
【0041】
インナ第1傾斜面14bとインナ第2傾斜面14cは、ボール3と当接する面である。なお、本実施形態のインナボール溝面14は、断面視で略V字状を成しているが、ゴシックアーク形状であってもよい。また、
図4に示すように、インナボール溝面14は、それぞれ2つずつ設けられ、180°間隔で配置されている。
【0042】
図4に示すように、アウタ収容部20の外周面21は、中心軸O1を中心に円形状を成している。一方で、アウタ収容部20の内周面22には、複数の凹条面23と、標準内周面25と、が設けられている。
【0043】
アウタ収容部20の標準内周面25は、内周面22のうち凹条面23が設けられていない部分である。つまり、標準内周面25は、凹条面23同士の間を延在する、中心軸O1を中心とする円弧状の面である。
【0044】
アウタ収容部20の凹条面23は、標準内周面25よりも径方向外側に窪む溝状の面である。凹条面23は、凸条部13と相似形であり、断面視で径方向外側に向かうにつれて周方向の幅が狭くなる台形状を成している。また、凹条面23は、同一形状で軸方向に延びている。
【0045】
凹条面23は、アウタ収容部20の内周面22の全周に亘って周方向に等間隔で配置されている。言い換えると凹条面23の底面の周方向の中央部23aと、中心軸O1と、を結ぶ仮想線L3を各凹条面23に引いた場合、周方向に隣り合う仮想線L3が成す角度は、全てθ3となる。
【0046】
凹条面23が配置される角度θ3は、凸条部13とインナボール溝面14とが配置される角度θ1、θ2と一致している。つまり、仮想線L3は、仮想線L1、L2と重なっている。よって、複数の凹条面23のうち2つの凹条面23は、インナボール溝面14と径方向に対向している。また、残りの凹条面23は、凸条部13と径方向に互いに対向している。そして、凸条部13は、凹条面23の内部に入り込んでいる。ただし、凸条部13は、凹条面23と接触していない。また、標準内周面25は、標準外周面15と径方向に互いに対向している。以下、インナボール溝面14と径方向に対向する凹条面23を、アウタボール溝面24と称する。
図5に示すように、アウタボール溝面24は、周方向に延びる底面24aと、アウタ第1傾斜面24bと、アウタ第2傾斜面24cと、を有している。
【0047】
図4に示すように、樹脂層4は、インナ被収容部10の外周面12に溶着されたコーティング層である。詳細には、樹脂層4は、インナ被収容部10の外周面12のうち、複数の凸条部13と、複数の標準外周面15とを覆っている。よって、樹脂層4は、インナボール溝面14を覆っていない。また、樹脂層4の膜厚は、周方向に均一に設けられている。よって、樹脂層4の外周側の形状は、凸条部13と標準外周面15に沿った形状となっている。また、樹脂層4は、凸条部13と標準外周面15が径方向に対向する凹条面23と標準内周面25と径方向に対向している。
【0048】
図5に示すように、樹脂層4は、凹条面23及び標準内周面25と離隔している。つまり、樹脂層4は、凹条面23に対し、径方向の隙間S1を有している。また、樹脂層4は、凸条部13を基準として周方向の両側に周方向の微小隙間S2、S3を有している。さらに、樹脂層4は、標準内周面25に対し径方向の隙間S4を有している。隙間S1、S4の間隔は、微小隙間S2、S3の間隔よりも大きい。微小隙間S2、S3の間隔は、凡そ3μm以上15μm未満である。
【0049】
次に樹脂層4の微小隙間S2、S3の形成方法の一例を説明する。最初に、インナシャフト1のインナ被収容部10の外周面12の全周に樹脂層4を設ける。樹脂層4のうち凹条面23の側面と対向する部分は、凹条面23の側面に当接し、かつ微小の締め代(周方向の締め代)を有するように厚みを調整する。また、同時に隙間S1、S4を形成するため、樹脂層4のうち凹条面23の底面と標準内周面25とに対向する部分は、凹条面23の底面と標準内周面25に当接することなく、径方向の隙間を有するように厚みを調整する。次に、インナ被収容部10をアウタ収容部20の内部に挿入し、インナシャフト1及びアウタチューブ2を嵌合させる。次に、嵌合したインナシャフト1及びアウタチューブ2を加熱する。加熱温度は、中間シャフト85が置かれる高温環境下の温度であり、例えば100℃から150℃である。この加熱により、インナシャフト1とアウタチューブ2と樹脂層4が熱膨張する。
【0050】
次に、インナシャフト1及びアウタチューブ2を大気中に放置して冷却する。この冷却により、インナシャフト1とアウタチューブ2と樹脂層4が収縮する。ここで樹脂層4の線膨張係数は、金属(インナシャフト1及びアウタチューブ2)よりも大きい。つまり、樹脂層4は、アウタチューブ2よりも収縮量の方が大きい。よって、アウタチューブ2の凹条面23の側面と、樹脂層4のうち凹条面23の側面に当接する部分との間には、周方向の微小隙間S2、S3が発生する。なお、凹条面23の底面及び標準内周面25と、樹脂層4のうち凹条面23の底面及び標準内周面25に対向する部分との間は、熱処理後も変わらずに径方向の隙間S1、S4を有している。最後に、樹脂層4のうちインナボール溝面14を覆っている部分を除去し、樹脂層4が製造される。なお、隙間S1、S4を微小隙間S2、S3よりも大きい隙間とするため、樹脂層4を切削してもよい。
【0051】
なお、本開示の樹脂層は、上記した製造方法により製造されたものに限定されない。ただし、上記した製造方法により製造された樹脂層4によれば、一度、高温環境下で変形(クリープ)しているため、次に高温環境下に置かれた場合の熱膨張は緩やかである。
【0052】
複数のボール3は、軸方向に並べられてインナボール溝面14とアウタボール溝面24との間に配置される(
図3参照)。ボール3は、インナボール溝面14に対し、インナ第1傾斜面14bとインナ第2傾斜面14cとに接触している。また、ボール3は、アウタボール溝面24に対し、アウタ第1傾斜面24bとアウタ第2傾斜面24cとに接触している。つまり、ボール3は、インナボール溝面14とアウタボール溝面24とに対し4点接触している。さらに、ボール3は、インナボール溝面14とアウタボール溝面24に対し、締め代を有するような大きさとなっている。このため、ボール3には、予圧が付与された状態で組み付けられている。
【0053】
なお、本実施形態のインナシャフト1は、筒状を成し、中実のものよりも弾性変形し易い。よって、インナシャフト1は、断面視で径方向に撓みやすく、ボール3に付与する予圧を小さく調整することか可能である。言い換えると、ボール3の転がり抵抗(インナシャフト1とアウタチューブ2との摺動抵抗)を小さくすることができる。そのほか、インナシャフト1の剛性を小さくできるため、締め代を大きなボール3を使用することができる。これによれば、ボール3が摩耗したとしても、インナボール溝面14とアウタボール溝面24との間に隙間が生じ難くなる。
【0054】
図3に示すように、インナボール溝面14の軸方向のうち第2方向X2の端部には、インナ脱落防止部16が設けられている。インナ脱落防止部16は、インナボール溝面14から径方向外側に突出している。インナ脱落防止部16は、インナシャフト1の第2方向X2の端面1aを加締めることで生成されている。これにより、ボール3が第2方向X2に移動してもインナボール溝面14の第2方向X2の端部から脱落しない。
【0055】
また、アウタボール溝面24の軸方向のうち第1方向X1の端部には、アウタ脱落防止部26が設けられている。アウタ脱落防止部26は、アウタボール溝面24から径方向内側に突出している。アウタ脱落防止部26は、アウタチューブ2の第1方向X1の端面2aを加締めることで生成されている。これにより、ボール3が第1方向X1に移動してもアウタボール溝面24の第1方向X1の端部から脱落しない。
【0056】
なお、本実施形態のインナ脱落防止部16及びアウタ脱落防止部26は、加締めにより生成されているが、本開示においては、肉盛り溶接によりインナ脱落防止部16及びアウタ脱落防止部26を生成してもよく、特に限定されない。
【0057】
以上の中間シャフト85によれば、ボール3は、周方向へ移動しないに拘束され、ボール3の周方向へのガタつきが抑制されている。また、インナシャフト1は、ボール3にインナ第1傾斜面14bとインナ第2傾斜面14cと当接し、ボール3に対して相対回転しないように抑制されている。同様に、アウタチューブ2は、ボール3にアウタ第1傾斜面24bとアウタ第2傾斜面24cと当接し、ボール3に対して相対回転しないように抑制されている。よって、インナシャフト1とアウタチューブ2は相対回転しない。以上から、インナシャフト1とアウタチューブ2の相対回転により微小隙間S2、S3(
図5参照)がなくなること、言い換えると、樹脂層4を介して凸条部13が凹条面23に接触してラトル音が生じるということ、が回避される。
【0058】
さらに、ボール3とインナボール溝面14の間と、ボール3とアウタボール溝面24の間とには樹脂層4が介在していない。つまり、ボール3は、直接、インナシャフト1及びアウタチューブ2に当接している。よって、中間シャフト85が熱膨張し、その後に常温に戻って収縮したとしても、同じ金属製から成るボール3とインナボール溝面14とアウタボール溝面24との間に隙間が生じない。このため、高温環境下で使用された後も、インナシャフト1とアウタチューブ2の相対回転不能が保持され、ラトル音の発生が抑制される。
【0059】
次に、中間シャフト85の動作について説明する。車両の走行中、路面から伝達する振動により車体が歪む。これにより、ステアリング装置80の中間シャフト85には、軸方向の荷重が作用する(
図2の矢印A1参照)。
【0060】
中間シャフト85が置かれる環境が常温の場合、中間シャフト85は熱膨張していない。つまり、樹脂層4とアウタ収容部20の内周面22との間には、隙間S1、S4と微小隙間S2、S3とが設けられ、樹脂層4とアウタ収容部20との滑りが生じないようになっている。よって、中間シャフト85の伸縮時、各ボール3が転動し、インナシャフト1とアウタチューブ2との摺動抵抗が小さい。
【0061】
また、中間シャフト85が置かれる環境が高温である場合、中間シャフト85の各構成部品が熱膨張する。これにより、隙間量が小さい微小隙間S2、S3がなくなり、樹脂層4の外周面の一部がアウタ収容部20の内周面22と当接する。なお、隙間S1、S4の隙間量が大きいため、樹脂層4が熱膨張しても隙間S1、S4はなくならない。そして、中間シャフト85が伸縮すると、各ボール3が転動し、樹脂層4の一部とアウタ収容部20の内周面22との間で滑りが生じる。よって、常温時よりもインナシャフト1とアウタチューブ2との摺動抵抗が大きくなる。
【0062】
ただし、高温時に内周面22に当接する樹脂層4の一部は、常温時にアウタ収容部20の内周面22との間に、微小隙間S2、S3を有している。よって、常温時から既に樹脂層4がアウタ収容部20の内周面と当接している場合よりも、アウタ収容部20の内周面22に対する樹脂層4の面圧が低い。このため、高温環境下において、インナシャフト1とアウタチューブ2の摺動抵抗の増加が低く抑えられている。
【0063】
その他、上記したように、樹脂層4は、一度加熱処理され、緩やかに熱膨張する。よって、中間シャフト85が高温環境下に置かれる時間が短い場合には、微小隙間S2、S3がなくならずに確保され、インナシャフト1とアウタチューブ2との摺動抵抗の増加が回避される。
【0064】
また、車両の走行中、ステアリングホイール81が操作されると、出力軸82bに連結するインナシャフト1にトルク(操作トルク)が入力される(
図2の矢印A2参照)。また、トルクの伝達時、中間シャフト85には、曲げ荷重が作用する。これにより、インナシャフト1は、アウタチューブ2に対し傾く。つまり、アウタチューブ2の中心軸に対し、インナシャフト1の中心軸が傾く。よって、インナシャフト1のインナ被収容部10が径方向に移動する(
図4の矢印A3を参照)。これにより、微小隙間S2、S3がなくなり、樹脂層4を介してインナボール溝面14とアウタボール溝面24とが当接する。この結果、インナシャフト1からアウタチューブ2にトルクが伝達される。なお、トルクの伝達時、ボール3を介してインナシャフト1からアウタチューブ2のトルクが伝達されるものの、主にインナボール溝面14とアウタボール溝面24との当接により伝達される。
【0065】
以上、実施形態のステアリング装置80は、中間シャフト85を備える。中間シャフト85は、筒状を成す金属製のアウタチューブ2と、アウタチューブ2が延在する方向と平行な軸方向に延在し、一部がアウタチューブ2に収容される金属製のインナシャフト1と、インナシャフト1の外周面に被覆され、アウタチューブ2の内周面とインナシャフト1の外周面との間に配置される樹脂層4と、アウタチューブ2の内周面とインナシャフト1の外周面との間に複数配置される金属製のボール3と、を備える。アウタチューブ2の内周面には、径方向外側に窪み、軸方向に延びる複数の凹条面23が設けられる。凹条面23は、アウタチューブ2の内周面の全周に亘って周方向に等間隔で配置される。インナシャフト1の外周面には、径方向外側に突出し、軸方向に延び、かつ凹条面23の内部に入り込む複数の凸条部13と、径方向内側に窪み、軸方向に延びる複数のインナボール溝面14と、が設けられる。インナボール溝面14は、複数の凹条面23のうち1つであるアウタボール溝面24と径方向に対向する。ボール3は、インナボール溝面14とアウタボール溝面24との間に締め代を有した状態で当接し、アウタチューブ2とインナシャフト1との相対回転が不能となっている。樹脂層4は、凸条部13の外周側を被覆し、かつアウタチューブ2及びインナシャフト1が周方向に回転していない中立状態で凹条面23に対して径方向の隙間S1、S4と周方向の微小隙間S2、S3を有している
【0066】
実施形態によれば、ボール3の周方向のガタつきが抑制されている。また、ボール3を介してインナシャフト1とアウタチューブ2との相対回転が不能となっている。よって、凸条部13と凹条面23とが接触してラトル音が生じる、ということが抑制されている。また、中間シャフト85が高温環境下に置かれたとしても、ボール3とインナボール溝面14とアウタボール溝面24との間に隙間が生じない。よって、高温環境下で使用された後も、インナシャフト1とアウタチューブ2との相対回転不能が保持され、ラトル音の発生が抑制される。また、常温時に中間シャフト85が伸縮すると、ボール3が転動し、摺動抵抗が小さい。また、高温環境下で中間シャフト85が伸縮すると、ボール3の転動以外に、樹脂層4の一部と凹条面23との滑りも生じるものの、上記したように凹条面23に対する樹脂層4の面圧が低い。よって、高温時の摺動抵抗の増加が低く抑えられている。また、複数の凹条面23のうちの1つをアウタボール溝面24としている。よって、アウタチューブ2の内周面にアウタボール溝面24を形成するための加工が不要となり、アウタチューブ2の製造が容易となる。また、アウタチューブ2は、内周面の全周に亘って凹条面23が設けられ、インナシャフト1に対して組み付けるための位相がない。よって、アウタチューブ2の組付けが容易となり、中間シャフト85の生産性が向上する。また、樹脂層4は、アウタチューブ2の内周面でなく、インナシャフト1の外周面に設けられている。これによれば、溶融した樹脂槽にインナシャフト1を浸漬し、その後、樹脂層4を成形する加工が容易となる。また、樹脂層4を成形の際、インナボール溝面14を覆っている樹脂層4を併せて除去でき、樹脂層4の製造が容易となる。
【0067】
また、実施形態の中間シャフト85において、インナシャフト1の一端部は、アウタチューブ2の他端部に挿入されて収容されている。アウタチューブ2の他端部には、アウタボール溝面24からボール3が脱落することを防止するアウタ脱落防止部26が設けられている。インナシャフト1の一端部には、インナボール溝面14からボール3が脱落することを防止するインナ脱落防止部16が設けられている。
【0068】
実施形態によれば、アウタボール溝面24及びインナボール溝面14からボール3が脱落することを防止するための留め具が不要となる。よって、さらに部品点数を削減することができる。
【0069】
また、実施形態の中間シャフト85において、アウタボール溝面24とインナボール溝面14は、それぞれ2つずつ設けられている。2つのアウタボール溝面24は、180°間隔で配置されている。2つの前記インナボール溝面14は、180°間隔で配置されている。
【0070】
実施形態によれば、弾性変形しながらボール3を支持する部分(アウタボール溝面24及びインナボール溝面14)がアウタチューブ2の軸を中心に点対称となる位置に配置される。つまり、インナシャフト1及びアウタチューブ2に対して、応力が作用する位置が分散する。よって、応力の集中が回避され、耐久性が高い。
【0071】
また、実施形態の中間シャフト85は、筒状を成している。
【0072】
これによれば、ボール3に付与する予圧を小さく調整することか可能である。また、締め代を大きなボール3を使用することができる。
【0073】
以上、実施形態について説明したが、本開示の中間シャフト及びステアリング装置は、実施形態で示した例に限定されない。例えば、実施形態のアウタボール溝面24とインナボール溝面14は、それぞれ2つずつ設けられているが、それぞれ複数あればよく、それぞれ3つずつ又は4つずつであってもよい。また、アウタボール溝面24とインナボール溝面14は、それぞれ3つずつ設けられている場合、3つのアウタボール溝面24は、120°間隔で配置され、3つのインナボール溝面14は、120°間隔で配置されるのが好ましい。このように、アウタボール溝面24とインナボール溝面14が等間隔で配置されていると、弾性変形により応力が作用するアウタボール溝面24とインナボール溝面14が周方向に均等に分散する。よって、応力の集中が回避され、インナシャフト1及びアウタチューブ2の耐久性を向上できるからである。ただし、本開示の中間シャフト及びステアリング装置は、アウタボール溝面24とインナボール溝面14が等間隔で配置されていないものであってもよい。
【0074】
また、本実施形態において、インナシャフト1が入力軸となっており、アウタチューブ2が出力軸となっているが、本開示の中間シャフト及びステアリング装置は、インナシャフト1が出力軸となっており、アウタチューブ2が入力軸となっていてもよい。また、実施形態1では、インナシャフト1の外周面に樹脂層4が設けられているが、本開示は、アウタチューブ2の内周面に樹脂層4を設けてもよい。以下、詳細に説明する。なお、以下の説明においては、上述した実施形態1で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0075】
(実施形態2)
図6は、実施形態2の中間シャフトの断面図である。
図6に示すように、実施形態2のインナシャフト1において、インナ被収容部10の外周面12には、複数の凸条部13と、複数の標準外周面15と、が設けられている。凸条部13は、インナ被収容部10の外周面12の全周に亘って周方向に等間隔で配置されている。また、複数の凸条部13の間は、径方向内側に窪む窪み17となっている。
【0076】
実施形態2のアウタチューブ2において、アウタ収容部20の内周面22には、複数の凹条面23と、アウタボール溝面28と、標準内周面25と、が設けられている。アウタボール溝面28は、凹条面23の底面よりも径方向外側に窪む溝面である。アウタボール溝面28は、断面視で略V字状を成している。つまり、アウタボール溝面28は、最も径方向外側に位置するアウタ溝底部28aと、アウタ溝底部28aから径方向内側に向かうにつれて互いに周方向に離隔するように傾斜するアウタ第1傾斜面28b及びアウタ第2傾斜面28cと、を有する。
【0077】
凸条部13と凹条面23は径方向に互いに対向しており、凸条部13と凹条面23との配置角度が一致している。また、凸条部13は、凹条面23の内部に入り込んでいる。ただし、凸条部13は、凹条面23と接触していない。アウタボール溝面28は、複数の窪み17のうちの1つの窪み17と径方向に対向している。以下、アウタボール溝面28と径方向に対向する窪み17をインナボール溝面18と称する。インナボール溝面18は、周方向に延びる底面18aと、インナ第1傾斜面18bと、インナ第2傾斜面18cと、を有している。
【0078】
樹脂層4Aは、アウタ収容部20の内周面22に溶着されている。詳細には、樹脂層4Aは、アウタ収容部20の内周面22のうち、複数の凹条面23と、複数の標準内周面25とを覆っている。よって、樹脂層4Aは、アウタボール溝面28を覆っていない。また、樹脂層4Aの膜厚は、周方向に均一に設けられている。よって、樹脂層4Aの外周側の形状は、凹条面23と標準内周面25に沿った形状となっている。
【0079】
樹脂層4Aは、凸条部13及び標準外周面15と離隔している。つまり、樹脂層4Aは、凸条部13に対し、径方向の隙間S1を有している。また、樹脂層4Aは、凸条部13を基準として周方向の両側に周方向の微小隙間S2、S3を有している。さらに、樹脂層4Aは、標準外周面15に対し径方向の隙間S4を有している。
【0080】
複数のボール3は、軸方向に並べられてインナボール溝面18とアウタボール溝面28との間に配置される。ボール3は、インナボール溝面18に対し、インナ第1傾斜面18bとインナ第2傾斜面18cとに接触している。ボール3は、アウタボール溝面28に対し、アウタ第1傾斜面28bとアウタ第2傾斜面28cとに接触している。つまり、ボール3は、インナボール溝面18とアウタボール溝面28とに対し4点接触している。さらに、ボール3は、インナボール溝面18とアウタボール溝面28に対し、締め代を有するような大きさとなっている。このため、ボール3には、予圧が付与された状態で組み付けられている。
【0081】
以上、実施形態2の中間シャフト85Aは、筒状を成す金属製のアウタチューブ2と、アウタチューブ2が延在する方向と平行な軸方向に延在し、一部がアウタチューブ2に収容される金属製のインナシャフト1と、アウタチューブ2の内周面に被覆され、アウタチューブ2の内周面とインナシャフト1の外周面との間に配置される樹脂層4Aと、アウタチューブ2の内周面とインナシャフト1の外周面との間に複数配置される金属製のボール3と、を備える。インナシャフト1の外周面には、径方向外側に突出し、軸方向に延びる複数の凸条部13が設けられている。凸条部13は、インナシャフト1の外周面の全周に亘って周方向に等間隔で配置されている。アウタチューブ2の内周面には、径方向外側に窪み、軸方向に延び、かつ内部に凸条部13が入り込む複数の凹条面23と、径方向外側に窪み、軸方向に延びる複数のアウタボール溝面28と、が設けられている。アウタボール溝面28は、凸条部13の間に設けられた複数の窪み17のうちの1つであるインナボール溝面18と径方向に対向している。ボール3は、インナボール溝面18とアウタボール溝面28との間に締め代を有した状態で当接し、アウタチューブ2とインナシャフト1との相対回転が不能となっている。樹脂層4Aは、凹条面23の内周側を被覆し、かつアウタチューブ2及びインナシャフト1が周方向に回転していない中立状態で凸条部13に対して径方向の隙間S1、S4と周方向の微小隙間S2、S3を有している。
【0082】
実施形態2の中間シャフト85Aであっても、実施形態1の中間シャフト85と同様な効果を生じる。つまり、ボール3は、締め代を有した状態でアウタチューブ2とインナシャフト1との間に組み付けられている。よって、ボール3の周方向のガタつきが抑制される。また、ボール3を介してアウタチューブ2とインナシャフト1との相対回転が不能となっている。よって、凸条部13と凹条面23とが接触してラトル音が生じる、ということが抑制される。また、高温環境下で使用された後も、アウタチューブ2とインナシャフト1との相対回転不能が保持され、ラトル音の発生が抑制される。また、樹脂層4Aと凸条部13との滑りが生じないため、アウタチューブ2とインナシャフト1との摺動抵抗が小さい。また、高温環境下に中間シャフト85Aが置かれると、樹脂層4Aが熱膨張し、周方向の微小隙間S2、S3がなくなる。よって、樹脂層4Aの一部が凸条部13と当接する。そして、中間シャフト85Aが伸縮すると、ボール3の転動以外に、樹脂層4Aの一部と凸条部13との滑りも生じる。ただし、高温時に凸条部13に当接する樹脂層4Aの一部は、常温時に凸条部13に対し微小隙間S2、S3を有しているため、常温時から既に樹脂層4Aが凸条部13と当接している場合よりも、凸条部13に対する樹脂層4Aの面圧が低い。よって、高温時におけるアウタチューブ2とインナシャフト1との摺動抵抗の増加が低く抑えられる。また、中間シャフト85Aにトルクが伝達された場合、中間シャフト85Aが撓むような曲げ荷重が作用する。これにより、インナシャフト1は、アウタチューブ2に対し傾き、周方向の微小隙間S2、S3がなくなる。樹脂層4Aを介して凸条部13と凹条面23とが当接し、トルクが伝達される。また、インナシャフト1は、内周面の全周に亘って凸条部13が設けられ、アウタチューブ2に対して組み付けるための位相がない。よって、インナシャフト1の組付けが容易となり、中間シャフト85Aの生産性が向上する。また、インナシャフト1を製造する際も全周に亘って同一形状であり、製造が容易である。また、樹脂層4Aの製造は、溶融した樹脂槽にアウタチューブ2を浸漬し、その後、樹脂層4Aを成形する加工を行う。樹脂層4Aを成形の際、アウタボール溝面28を覆っている樹脂層を併せて除去でき、樹脂層4Aの製造が容易となる。
【符号の説明】
【0083】
1 インナシャフト
2 アウタチューブ
3 ボール
4、4A 樹脂層
10 インナ被収容部
11 内周面
12 外周面
13 凸条部
14、18 インナボール溝面
15 標準外周面
16 インナ脱落防止部
17 窪み
20 アウタ収容部
21 外周面
22 内周面
23 凹条面
24、28 アウタボール溝面
25 標準内周面
26 アウタ脱落防止部
80 ステアリング装置
85、85A 中間シャフト