(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-13
(45)【発行日】2025-03-24
(54)【発明の名称】硫化錫結晶のコロイド粒子、およびその利用
(51)【国際特許分類】
C01G 19/00 20060101AFI20250314BHJP
H10F 10/00 20250101ALI20250314BHJP
H10F 30/00 20250101ALI20250314BHJP
H10F 30/20 20250101ALI20250314BHJP
【FI】
C01G19/00 Z
H10F10/00
H10F30/00
H10F30/20
(21)【出願番号】P 2021031126
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2024-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ビスリ サトリア
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 義宏
(72)【発明者】
【氏名】ミランティー レッノー
(72)【発明者】
【氏名】松下 伸広
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-076940(JP,A)
【文献】特開2012-012263(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0020838(US,A1)
【文献】鈴木義和,水溶液プロセスを用いた量子ドット増感太陽電池の作製,スマートプロセス学会誌,日本,JST,2012年,1, 5,204-207
【文献】HICKEY, S. G., et al.,Size and Shape Control of Colloidally Synthesized IV-VI Nanoparticulate Tin(II) Sulfide,J. Am. Chem. Soc.,米国,American Chemical Society,2008年,130,14978-14980
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 19/00-19/08
H10F 10/00-10/19;30/00-30/298
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径が9nm以下であ
り、
π型結晶相を有している、硫化錫結晶のコロイド粒子。
【請求項2】
空間群P2
1
3に属するπ型結晶構造を有し、
格子面間隔d=5.76ÅにおけるX線回折パターンの信頼度因子R
WP
が、1.0以下のπ型硫化錫結晶である、請求項1に記載の硫化錫結晶のコロイド粒子。
【請求項3】
個数基準における直径分布のピークにおける半値幅が、±1.5nm以下である、請求項1又は2に記載の硫化錫結晶のコロイド粒子。
【請求項4】
バンドギャップが、1.53eV以上である、請求項1~3の何れか一項に記載の硫化錫結晶のコロイド粒子。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の硫化錫結晶のコロイド粒子の集合体。
【請求項6】
請求項
5に記載の硫化錫結晶のコロイド粒子の集合体を層として備え、前記層に接触する少なくとも2つの電極を有する、光電素子。
【請求項7】
請求項6に記載の光電素子を備える、光センサ。
【請求項8】
請求項5に記載の硫化錫結晶のコロイド粒子の集合体を含む、太陽電池材料。
【請求項9】
請求項8に記載の太陽電池材料を備える、太陽電池。
【請求項10】
不活性ガス雰囲気下において、金属の錯体と、硫黄源とを含む反応液中で硫化金属結晶のコロイド粒子を生成する工程と、
不活性ガス雰囲気下において、前記硫化金属結晶のコロイド粒子が生成した前記反応液を、溶媒を加えることで急冷する工程と、を包含し、
前記金属は、ゲルマニウム、錫、鉛、ニッケル、鉄、亜鉛、銀、銅、水銀、チタン、マンガン、マグネシウムからなる群から選択され、
前記急冷する工程では、10K/秒の冷却速度で、前記反応液を
15~40℃まで急冷する、硫化金属結晶のコロイド粒子の製造方法。
【請求項11】
前記反応液の体積量に対し、少なくとも7倍の体積量の前記溶媒を加える、請求項10に記載の硫化金属結晶のコロイド粒子の製造方法。
【請求項12】
前記溶媒の温度が、-5~10℃の範囲内である、請求項10又は11に記載の硫化金属結晶のコロイド粒子の製造方法。
【請求項13】
前記金属の錯体は、
前記金属と、不飽和脂肪族アミンとの錯体である、請求項10~12の何れか一項に記載の硫化金属結晶のコロイド粒子の製造方法。
【請求項14】
請求項10~13の何れか一項に記載の製造方法を行ない、硫化金属結晶のコロイド粒子を得る工程と、
前記硫化金属結晶のコロイド粒子の集合体を形成する工程と、を包含し、
前記集合体を形成する工程では、スピンコート法、ディップコート法、または、気相液相界面集積法により、前記集合体を形成する、光電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化錫結晶のコロイド粒子、およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子に代わる光電素子の材料として、無機化合物の量子ドットが研究されている。量子ドットは、有機EL素子と比較して長い寿命が期待できる。また、量子ドットは一般的には、直径が10nm以下のコロイド粒子であり、このような小さい直径に依存する量子閉じ込め効果を発揮することが期待される。また、量子ドットは、半値幅の小さい、極めてシャープな吸光度特性を有するものとしても期待されている。
【0003】
例えば、特許文献1~6、非特許文献1~14には、錫オレイン酸錯体および錫トリオクチルホスフィンを錫前駆体として使用し、チオアセトアミドを硫黄源として用いて得られる、硫化錫結晶のコロイド粒子の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019/047469号
【文献】中国特許明細書第100587977C号
【文献】特許公開2018-052788号公報
【文献】中国特許公開第102503161A号公報
【文献】韓国特許公開第10-2018-0113079号公報
【文献】韓国特許公開第10-2019-0033383号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】E. C. Greyson, J. E. Barton, T. W. Odom. “Tetrahedral Zinc Blende Tin Sulfide Nano-and Microcrystals”. Small, 2, 368-371 (2006).
【文献】Y. Xu, N. Al-Salim, C.W. Bumby, R. D. Tilley. “Synthesis of SnS Quantum Dots”. Journal of American Chemical Society 131, 15990 (2009).
【文献】Z. Deng, D. Han, Y. Liu, “Colloidal synthesis of metastable zinc-blende IV-VI SnS nanocrystals with tunable sizes”. Nanoscale 3, 4346 (2011).
【文献】A. Kergommeaux, J. Faure-Vincent, A. Pron, R. de Bettignies, B. Malaman, P. Reiss. “Surface Oxidation of Tin Chalcogenide Nanocrystals Revealed by 119Sn-Mossbauer Spectroscopy,” Journal of American Chemical Society 134, 11659 (2012).
【文献】B. K. Patra, S. Sarkar, A. K. Guria, N. Pradhan. “Monodisperse SnS Nanocrystals: In Just 5 Seconds”. Journal of Physical Chemistry Letters, 4, 3929 (2013).
【文献】A. Kergommeaux, M. Lopez-Haro, S. Puget, J.-M. Zuo, C. Lebrun, F. Chandezon, D. Aldakov, P. Reiss. “Synthesis, Internal Structure, and Formation Mechanism of Monodisperse Tin Sulfide Nanoplatelets,” Journal of American Chemical Society 137, 9943 (2015).
【文献】A. Rabkin, S. Samuha, R. E. Abutbul, V. Ezersky, L. Meshi, Y. Golan. “New Nanocrystalline Materials: A Previously Unknown Simple Cubic Phase in the SnS Binary System”. Nano Letters, 15, 2174 (2015).
【文献】J. Breternitz, R. Gunder, H. Hempel, S. Binet, I. Ahmet, S. Schorr. “Facile Bulk Synthesis of π-Cubic SnS”. Inorganic Chemistry, 56, 11455 (2017).
【文献】R. E. Abutbul, E. Segev, U. Argaman, A. Tegze, G. Makov, Y. Golan. “Stability of cubic tin suphide nanocrystals: role of ammonium chloride surfactant headgroups”. Nanoscale 11, 17104 (2019).
【文献】R. Abutbul, E. Toutian, A. Galili, Y. Golan. “Beneficial Impurities and Phase Control in Colloidal Synthesis of Tin Monoselenide”. Langmuir, 35, 15855 (2019).
【文献】R. D. Septianto, L. Liu, F. Iskandar, N. Matsushita, Y. Iwasa, S. Z. Bisri. “On-demand tuning of charge accumulation and carrier mobility in quantum dot solids for electron transport and energy storage devices” NPG Asia Materials 12, 33 (2020).
【文献】K. Szendrei, F. Cordella, M. V. Kovalenko, M. Boberl, G. Hesser, M. Yarema, D. Jarzab, O. V. Mikhnenko, A. Gocalinska, M. Saba, F. Quochi, A. Mura, G. Bongiovanni, P.W.M. Blom, W. Heiss, Maria A. Loi. “Solution‐processable near‐IR photodetectors based on electron transfer from PbS nanocrystals to fullerene derivatives”. Advanced Materials 21, 683 (2009).
【文献】Z. Deng, D. Cao, J. He, S. Lin, S.M. Lindsay, Y. Liu, “Solution Synthesis of Ultrathin Single-Crystalline SnS Nanoribbbons for Photodetectors via Phase Transition and Surface Processing”. ACS Nano, 6, 6197 (2012).
【文献】Reiss. P. et. al. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 11659-11666. Reiss. P. et. al. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 9943-9952.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1~6、及び非特許文献1~14に記載の硫化錫結晶のコロイド粒子は、直径分布におけるピークに相当する直径が10nm以上であることが示されている。これら文献の硫化錫結晶のコロイド粒子も、量子ドットとしての機能を発揮することが期待されるが、さらに直径が小さい硫化錫結晶のコロイド粒子の製造は達成されていなかった。
【0007】
すなわち、本願発明者らは、上記の問題について鋭意検討し、量子閉じ込め効果を発生させる新規なコロイド粒子、及びその製造方法を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための、本発明の一態様に係る硫化錫結晶のコロイド粒子は、その直径が9nm以下である。
【0009】
また、本発明の一態様に係る硫化金属結晶のコロイド粒子の製造方法は、不活性ガス雰囲気下において、金属の錯体と、硫黄源とを含む反応液中で硫化金属結晶のコロイド粒子を生成する工程と、不活性ガス雰囲気下において、前記硫化金属結晶のコロイド粒子が生成した前記反応液を、溶媒を加えることで冷却する工程と、を包含し、前記冷却する工程では、10K/秒の冷却速度で、前記反応液を急冷する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、量子閉じ込め効果を発生させる新規なコロイド粒子、およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、オレイルアミン(Oleylamine)を配位子として備える、本発明の一態様に係るπ型硫化錫結晶のコロイド粒子、及びその結晶構造の概略を説明する図である。
【
図2】
図2は、実施例1のπ型硫化錫結晶のコロイド粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像(上側画像)、及びその直径分布のグラフ(上側グラフ)、並びに、比較例1のπ型硫化錫結晶のコロイド粒子の透過型電子顕微鏡画像(下側画像)、及びその直径分布のグラフ(下側グラフ)である。コロイド粒子の直径は、この直径分布のグラフのピークの位置から決定する。
図2中、各画像は、5分間の反応時間(5 min growth time)で合成したコロイド粒子を示し、各グラフ中において、縦軸は個数(Count)、横軸は直径(Diameter)に該当する。
【
図3】
図3のグラフは、実施例1(One Pot法,New methods)のπ型硫化結晶のコロイド粒子、及び比較例1(Hot Injection法,conventional)の硫化錫結晶のコロイド粒子の反応時間と、コロイド粒子の直径との関係を示すグラフであり、縦軸がコロイド粒子の直径(Diameter)であり、横軸は、反応時間(分)(Reaction time(min))である。また、
図3のaおよびbは、
図3のグラフの反応時間5分におけるコロイド粒子のTEM写真および直径分布のプロットに相当し、
図3のcおよびdは、
図3のグラフの反応時間10分におけるコロイド粒子のTEM写真および直径分布のプロットに相当し、
図3のeおよびfは、
図3のグラフの反応時間15分におけるコロイド粒子のTEM写真および直径分布のプロットに相当し、
図3のgおよびhは、
図3のグラフの反応時間20分におけるコロイド粒子のTEM写真および直径分布のプロットに相当する。
【
図4】
図4は、実施例1のπ型硫化錫結晶のコロイド粒子のX線回折パターンを、4種類の直径に対して示す図である。
図4のa、b、cのX線回折パターンにおいて、縦軸は強度(Intensity)を示す。
【
図5】
図5は、実施例1のπ型硫化錫結晶の透過型電子顕微鏡(TEM)画像である(左側倍率150万倍、右側倍率500万倍)。
【
図6】
図6は、実施例1のπ型硫化錫結晶のコロイド粒子の吸光度分析に基づく、実施例1のπ型硫化錫のコロイド粒子の直径と、光バンドギャップとの関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例3及び実施例4の光電素子の製造に用いられた素子(SiO
2/Si基板)を示す写真である。
【
図8】
図8は、気相液相界面集積法による光電素子を製造方法の概略を説明する図である。
【
図9】
図9は、透過型電子顕微鏡(TEM)により撮影した実施例3の光電素子に堆積された単層のπ型SnS粒子の画像(左側)を示し、実施例4の光電素子に堆積された単層のSnS粒子の画像(右側)を示す。
【
図10】
図10は、実施例3及び実施例4のフォトダイオードの受光感度の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<硫化錫結晶のコロイド粒子>
本発明の一態様に係る硫化錫結晶のコロイド粒子は、個々の粒子における直径が9.0nm以下であり、より好ましくは、π型硫化錫結晶のコロイド粒子である。
【0013】
すなわち、本発明の一態様に係る硫化錫結晶のコロイド粒子は、ホットインジェクション法といった従来の製造方法により製造される硫化錫結晶のコロイド粒子よりも、小さい直径を有している。このように直径が小さい硫化錫結晶のコロイド粒子の製造は、従来の製造方法では達成されておらず、それ故に、直径が、9.0nm以下である硫化錫結晶のコロイド粒子において量子閉じ込め効果が確認されていなかった。
【0014】
本発明の一態様に係る硫化錫結晶のコロイド粒子は、個数基準の直径が9.0nm以下の粒子であり、好ましくは、8.0nm以下の粒子であり、より好ましくは、6.0nm以下の粒子である。また、硫化錫結晶は、個数基準の直径が1.0nm以上であり、例えば、2.0nm以上であり得る。ここで、硫化錫結晶のコロイド粒子の直径とは、当該コロイド粒子の核となる硫化錫結晶の直径である。硫化錫結晶は、9.0nm以下の直径を有するコロイド粒子であることにより、量子閉じ込め効果を発現し、サイズ、言い換えれば、直径に依存する光バンドギャップを有している。つまり、硫化錫結晶のコロイド粒子は、その直径毎に異なる吸収端波長、および光学的なバンドギャップを有している。
【0015】
硫化錫結晶のコロイド粒子のバンドギャップのサイズ依存性は、以下に示す通りである。ここで、バンドギャップと、各直径における粒子の吸収端波長との関係は、以下の式により、算出される。
hν=hc/eλ=1239.8/λ
ここで、hνが光子エネルギー(Energy)[eV]に相当し、λが吸収端波長[nm]に相当する。
【0016】
【0017】
以上は、π型硫化錫結晶のコロイド粒子の例であり、直径分布のピークに相当する直径が、9.0nmよりも小さいときにおいて1.53eVよりも高いバンドギャップを有していることが、実施例において確認されている。すなわち、本願発明者らは、π型を始めとする硫化錫結晶のコロイド粒子が、直径9.0nm以下であることにより、量子閉じ込め効果により飛躍的にバンドギャップを高めることができることを見出した。また、硫化錫結晶のコロイド粒子は錫化合物を材料とできるため、大量に使用でき、毒性が低い。すなわち、環境負荷が少なく、かつ安価に原料を入手し、製品を提供できる点においても優れている。
【0018】
硫化錫結晶のコロイド粒子は粒子全体として、個数基準の直径分布におけるピークにおける粒子の直径が、9.0nm以下であり、好ましくは、8.0nmであり得る。また、個数基準の直径分布におけるピークにおける粒子の直径は、2.0nm以上であり得る。
また、硫化錫結晶のコロイド粒子は粒子全体として、硫化錫結晶のコロイド粒子の個数基準の直径分布の幅は、9.0nm以下の範囲内であることが好ましく、8.0nm以下の範囲内であることが好ましく、6.0nm以下の範囲内であることがより好ましい。
【0019】
硫化錫結晶のコロイド粒子の個数基準における直径分布の半値幅は、±1.5nm以下であり得、±1.0nm以下であることが好ましい。直径分布の半値幅が、±1.5nm以内であることにより、量子ドットとして、半値幅の小さい、極めてシャープな吸光特性と、光伝導性とを発揮することができる。
【0020】
硫化錫結晶のコロイド粒子は、5~50個程度の硫化錫(SnS
2)から構成されている。硫化錫結晶のコロイド粒子は、リートベルト法による多相解析により結晶多形を定量できる。ここで、硫化錫結晶のコロイド粒子は、ブラッグの条件で計算される格子面間隔d=5.76ÅにおけるX線回折パターンが信頼度因子R
WP=0.61にて立方晶系(空間群P2
13)に属する結晶構造を有するπ型硫化錫結晶に相当することが確認されている。すなわち、コロイド粒子を構成するπ型硫化錫結晶は、ヘルツェンベルグ鉱(α硫化錫結晶)のような直方晶系でなく、立方晶系であるπ型結晶相を多く含有している。ここで、π型硫化錫結晶の格子面間隔d=5.76ÅにおけるX線回折パターンの信頼度因子R
WPは、1.0以下であることがより好ましい。コロイド粒子に含まれる結晶がπ型結晶相を有していることにより、サイズに依存する量子閉じ込め効果と併せ、
図1に概略として示すように、α硫化錫結晶のコロイド粒子と異なり、結晶粒子の形状が等方的な形状ないしは球状になる傾向を示す。このため、硫化錫結晶のコロイド粒子の結晶構造、及び物性の分析が容易になり、これにより光電素子として設計し易くなると期待される。
【0021】
硫化錫結晶のコロイド粒子は、キャッピング剤を配位させた状態で、溶媒に溶解又は分散し、安定に保存できる。キャッピング剤は、後述する脂肪族アミン及び脂肪酸等であり得、溶媒は後述する希釈溶媒であり得る。
【0022】
<硫化金属結晶のコロイド粒子の製造方法>
本発明の一態様に係る硫化金属結晶の製造方法は、不活性ガス雰囲気下において、金属の錯体と、硫黄源とを含む反応液中で硫化金属結晶のコロイド粒子を生成する工程と、不活性ガス雰囲気下において、前記硫化金属結晶のコロイド粒子が生成した前記反応液を、溶媒を加えることで冷却する工程と、を包含している。
【0023】
これにより、硫化金属結晶のコロイド粒子を生成する反応を速やかに抑制又は停止することができ、反応に伴い結晶が成長することを速やかに抑制又は停止することができる。よって、個数基準における直径分布のピークに相当する直径が極めて小さく、例えば、10.0nm以下である、硫化金属結晶を好適に製造することができる。
【0024】
硫化金属結晶の製造方法において、硫化金属結晶のコロイド粒子を生成する工程は、金属の錯体を準備する工程と、硫黄源を準備する工程とを包含し得る。
【0025】
従って、本発明の一態様に係る硫化金属結晶の製造方法は、(1)金属の錯体を準備する工程、(2)硫黄源を準備する工程、(3)金属の錯体と、硫黄源とを含む反応液中で硫化金属結晶のコロイド粒子を生成する工程、及び、(4)硫化金属結晶のコロイド粒子を含む反応液を、溶媒を加えることで冷却する工程(冷却する工程)を包含し得る。また、本発明の一態様に係る硫化金属結晶の製造方法は、(5)配位子を置換する工程を含んでいてもよい。これら(1)~(5)の工程のうち、(1)~(4)の工程を、窒素ガス、及びアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガス雰囲気下で、硫化金属結晶の製造方法を行なうことにより、副生成物としての金属酸化物の生成を防止できる。このような観点から、少なくとも、(3)金属の錯体と、硫黄源とを含む反応液中で硫化金属結晶のコロイド粒子を生成する工程において、反応液に含まれる、酸素の量は、1ppm以下であることが好ましい。
【0026】
また、本発明の一態様に係る硫化金属結晶の製造方法は、上述の(1)~(4)の工程を、不活性ガス雰囲気下で行うことにより、反応液に含まれる水分量が1ppm以下の条件を好適に維持できる。これにより、後述するチオアセトアミドが、反応液に含まれる水分により加水分解し、硫化水素が発生することを好適に抑制することができる。
【0027】
よって、酸素及び水分が、反応液を始めとする反応系に混入することを回避するために、硫化金属結晶の製造方法は、上述の(1)から(4)の工程を、不活性ガスで置換されたグローブボックス内において行うことが好ましい。
【0028】
(1)金属の錯体を準備する工程
金属の錯体を準備する工程では、金属塩、及び配位子を反応溶媒に溶解し、金属の錯体を準備する。配位子により金属を錯体化することで、前駆体である金属のナノコロイド粒子を安定に反応溶媒中に分散させることができる。
【0029】
金属の錯体を準備する工程において使用される金属には、第IVA族の金属、第IIIB族から第IIB族に属する遷移金属、第IIA族の金属の金属等が挙げられる。ここで、第IVA族の金属には、例えば、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、鉛(Pb)等が挙げられ、遷移金属には、例えば、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、銅(Cu)、水銀(Hg)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)等が挙げられ、第IIA族の金属には、例えば、マグネシウム(Mg)等が挙げられる。これらの金属は、例えば、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の金属塩として入手し、反応に使用するとよい。金属塩には、例えば、塩化第二錫(SnCl2)、塩化第二鉛(PbCl2)、塩化第二鉄(FeCl2)、塩化第一銅(CuCl)、硫酸ニッケル(Ni2SO4)等が挙げられる。これらの金属塩は、無水物であることが好ましい。
【0030】
金属の錯体を得るために使用する金属塩の濃度は、限定されるものではないが、より直径の小さいコロイド粒子を得るという観点から、0.1~5.0mmol(ミリモル)程度の金属塩を、1~10mL程度のオクタデセン等の不飽和炭化水素で溶解することがより好ましい。ここで、金属塩の量が多くなる程、不飽和炭化水素の量を多くすることがより好ましい。
【0031】
金属塩を錯体化するための配位子とは、上述のキャッピング剤のことを指す。当該配位子には、例えば、不飽和脂肪族アミンを使用するとよい。不飽和脂肪族アミンには、典型的にはオレイルアミンが挙げられる。不飽和二重結合を有する不飽和脂肪族アミンに金属塩を溶解させ、当該金属塩に含まれる金属の配位子として使用することで、硫黄源との反応の前において、金属の前駆体としての金属の錯体を反応溶媒中に安定に溶解又は分散させることができる。また、オレイルアミンは、後述するチオアセトアミドを好適に溶解できる。よって、金属塩と硫黄源との反応を促進させることができる。
【0032】
金属の錯体、つまり、金属の前駆体を調製するために用いられる反応溶媒には、例えば、不飽和炭化水素等が挙げられる。反応溶媒として不飽和炭化水素を使用することで、金属の錯体を好適に溶解することができる。不飽和炭化水素は、好ましくは、炭素数が6以上の不飽和炭化水素であり、直鎖状、分枝状、又は環状の不飽和炭化水素であってよく、例えば、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、及び1-エイコセン等が挙げられる。なかでも、入手が容易であることから、1-オクタデセンが好ましい。
【0033】
金属の錯体を含む前駆体溶液は、後述する硫黄源との反応を行なう前に、予め酸素の濃度が1ppm以下になるまで脱酸素処理を行うことが好ましい。これにより、酸素が、金属イオンと反応し、硫黄との反応を阻害することを防止できる。
【0034】
また、金属錯体を含む反応液は、予め水分の濃度が1ppm以下になるまで脱水処理を行うことが好ましい。
【0035】
金属の錯体の準備における加熱温度は、金属塩、配位子、反応溶媒の種類に応じ、適宜設計すればよいが、60~100℃の範囲内であることが好ましく、60~100℃の範囲内で低い温度であることがより好ましい。これにより、配位子を金属イオンに配位させることができる。
【0036】
(2)硫黄源を準備する工程
硫黄源を準備する工程では、金属の錯体との反応に使用する硫黄源を準備する。硫黄源は、当該硫黄源、配位子、及び反応溶媒を含む、溶液として使用するとよい。
【0037】
硫黄源には、例えば、チオアミド化合物が挙げられ、チオアミド化合物には、例えば、チオアセトアミド、チオプロピオンアミド、チオイソブチルアミド、トリメチルチオアセトアミド、チオヘキサノアミド等が挙げられる。これらチオアミド化合物は、アルキル鎖に、例えば、塩素に例示されるハロゲン等の置換基を有していてもよい。なかでも、硫黄源には、チオアセトアミドが好ましく使用される。その他の硫黄源には、例えば、ビス(トリメチルシリル)スルフィド(TMS)が挙げられる。
【0038】
溶液に含まれる配位子及び反応溶媒は、金属の錯体を準備する工程に使用される配位子及び反応溶媒と同じものを採用できるため、その説明を省略する。
【0039】
硫黄源の量は、限定されるものではないが、0.1~5.0mmol(ミリモル)程度の金属の錯体に対し、0.5~25molの範囲内であり、5倍程度のモル量であることが好ましい。
【0040】
硫黄源は、配位子及び反応溶媒に相溶していればよい。ただし、不活性ガス雰囲気下において準備することが好ましいことは留意されるべきである。
【0041】
(3)硫化金属結晶のコロイド粒子を生成する工程
硫化金属結晶のコロイド粒子を生成する工程では、不活性ガス雰囲気下において、金属の錯体を準備する工程で得られた金属の錯体と、硫黄源を準備する工程で得られた硫黄源とを混合し、反応を開始するとよい。ここで、金属の錯体を含む溶液は、撹拌条件下において、硫黄源を含む溶液と混合されることが好ましい。金属の錯体を含む溶液の撹拌は、例えば、5.0~50.0mL程度のスケールにおいて、撹拌子(スターラー)により、500~1100rpmの回転速度で攪拌することが好ましく、600~1000rpmの回転速度で攪拌することがより好ましい。なお、当該回転速度の撹拌は、後述する冷却する工程の終了まで維持することが好ましい。
【0042】
金属の錯体と硫黄源との反応温度は、限定されるものではないが、60~110℃の範囲内であることが好ましく、100℃前後であることがより好ましい。
【0043】
また、金属の錯体と硫黄源との反応時間は、限定されるものではないが、硫化金属結晶のコロイド粒子の直径をより小さくするという観点から、1分間~1時間の範囲内であることが好ましく、1分間~30分間の範囲内であることがより好ましい。
【0044】
硫化金属結晶のコロイド粒子を生成する工程は、不活性ガス雰囲気下において、酸素、及び水分が混入しないようにして行なわれ得る。これにより、酸素、水分による副反応による副生成物の生成を防止できる。また、金属塩として、例えば、錫塩を使用する場合、π型結晶相を有する硫化金属結晶のコロイド粒子を好適に製造することができる。
【0045】
(4)冷却する工程
冷却する工程は、不活性ガス雰囲気下、硫化金属結晶のコロイド粒子を含む反応液を、溶媒を加えることで冷却する工程である。これにより、金属の錯体と硫黄源との反応を速やかに抑制又は停止することができ、反応に伴い結晶が成長することを速やかに抑制又は停止することができる。このため、9nm以下の直径を有する、硫化金属結晶のコロイド粒子を好適に製造できる。また、冷却する工程では、以下に説明するように溶媒を加えることで、10K/秒という冷却速度で、反応液を急冷できる。よって、硫化金属を構成する金属の種類によらず、硫化金属の反応液を急冷し、硫化物金属結晶の成長を制御できる。
【0046】
反応液を冷却するための溶媒は、反応液を希釈する溶媒であるという側面を有する。よって、以下では、反応液を冷却するための溶媒を希釈溶媒と記載する。
【0047】
冷却する工程において使用する希釈溶媒は、反応液に含まれる硫化金属結晶のコロイド粒子を分散又は溶解することができ、後述する光電素子の製造方法において、蒸発等により首尾よく除去できる溶媒であることが好ましい。このような観点から、希釈溶媒は、炭化水素系溶媒、塩素系溶媒、及び芳香族系溶媒等であることが好ましい。炭化水素系溶媒には、例えば、ペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、n-オクタン、ノナン等が挙げられ、例えば、ミネラルスピリット等の石油系炭化水素溶媒、イソパラフィン系炭化水素溶媒であってもよい。また、塩素系溶媒には、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等が挙げられる。芳香族系溶媒には、例えば、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0048】
冷却する工程において使用する希釈溶媒は、速やかに反応液を冷却する観点から、-5~10℃の範囲内の温度に冷却されていることが好ましい。また、冷却する工程では、反応液の体積量に対し、少なくとも、7倍量以上の希釈溶媒を加えることが好ましく、9倍量以上の希釈溶媒を加えることがより好ましい。なお、冷却する工程における希釈溶媒の添加は、上述の撹拌条件を維持しつつ、速やかに行うことが好ましい。これにより、例えば、アイスバスによって反応液を冷却する従来の製造方法と比較して、急速かつ均一に反応液を冷却できる。よって、直径が小さく、直径分布の幅が小さい、硫化金属結晶のコロイド粒子を製造することができる。
【0049】
冷却する工程では、十分に硫化金属結晶の成長を停止させるために、反応液に希釈溶媒を加えた後の温度が、室温、つまり約15~40℃程度に冷却されていることが好ましい。また、反応液に希釈溶媒を加えた後、1分間~5分間程度撹拌条件を維持すことが好ましい。
【0050】
(5)配位子を置換する工程
硫化金属結晶のコロイド粒子の製造方法は、配位子を置換する工程を含んでいてもよい。配位子を置換する工程では、配位子である脂肪族アミンを、脂肪酸に置換する工程であり得る。
【0051】
配位子を置換する工程は、例えば、希釈溶媒により希釈された硫化金属結晶のコロイド粒子を含む溶液を撹拌する工程、及び、撹拌した溶液にクロロホルム及びエタノールの混合溶媒を加え、遠心分離する工程と、を包含し得る。撹拌する工程と、遠心分離する工程とは、一連の工程として交互に、例えば、5~6回程度行なわれることが好ましい。当該一連の工程は、脂肪族アミンが脂肪酸に十分に置換されるまで行うことよい。
【0052】
撹拌する工程は、例えば、エタノールを加えての撹拌操作とすればよく、遠心分離する工程は、例えば、クロロホルムを加えての遠心分離操作とすればよい。ここで、使用するエタノール:クロロホルムの比が、2:1~4:1の比として、範囲内であればよい。混合溶媒に使用されるクロロホルムは、上述の希釈溶媒を用いてもよく、エタノールに代えて、メタノール、イソプロパノール等の他のアルコール系溶媒を用いてもよく、他の溶媒として、例えば、ケトン系溶媒等を用いてもよい。ケトン系溶媒には、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。最終的に遠心分離により得られた、沈降物に硫化金属結晶のコロイド粒子が含まれ得る。得られた沈降物を、希釈溶媒に希釈することで、硫化金属結晶のコロイド粒子を溶液として保存することができる。また、希釈溶媒に希釈した状態において、配位子である脂肪族アミンは、脂肪酸に置換されており、これにより、硫化金属結晶のコロイド粒子の溶液を安定に保存できる。
【0053】
<光電素子>
本発明の一態様に係る光電素子は、本発明の一態様に係るπ型硫化錫結晶のコロイド粒子の集合体から形成された層、又は、本発明の一態様に係る硫化金属結晶のコロイド粒子の製造方法で製造された硫化金属結晶のコロイド粒子の集合体から形成された層の何れか一方、又は両方を活性層として備え、当該層に接触する少なくとも2つの電極を備えている。すなわち、本発明の一態様に係る光電素子は、光伝導素子(フォトコンダクタ)であり得る。
【0054】
以下では、便宜上、本発明の一態様に係るπ型硫化錫結晶のコロイド粒子と、本発明の一態様に係る硫化金属結晶のコロイド粒子の製造方法で製造された硫化金属結晶のコロイド粒子とを、「硫化金属結晶のコロイド粒子」と総称する。光伝導素子は、半導体素子の電極間にかけるバイアス電圧によって電極に到達するキャリアによる電流あるいは電荷を検出する。「硫化金属結晶のコロイド粒子」は、層状、言い換えれば、薄膜状の集合体といて、光電素子の一部を構成し得る。
【0055】
本発明の一態様に係る光電素子において、硫化金属結晶のコロイド粒子が含む、配位子としての脂肪族アミン、又は脂肪酸は、後述するように他の配位子に置換され得る。
【0056】
光電素子が光伝導素子である場合、硫化金属結晶のコロイド粒子を含む活性層(薄膜)は、シリコン基板、若しくは、ガラス基板、アクリル樹脂等の透明樹脂基板等の基板上に形成され得る。ここで活性層は、保護層によって保護されていてもよい。また、光伝導素子は、活性層と基板との間に、空乏層が設けられていてもよい。
【0057】
光伝導素子において、硫化金属結晶のコロイド粒子を含む活性層に接触する2つの電極は、互いにかみ合う櫛歯状の電極であり、これら電極によりバイアス電圧を印加し得る。当該櫛歯状の電極は、金及び銅等の金属により形成されていればよい。また、櫛歯状の電極における、チャンネル長さ及びチャンネル幅は適宜設計すればよい。
【0058】
本発明の一態様に係る光伝導素子は、硫化金属結晶のコロイド粒子を含む層を活性層として備える。このため、60Vの操作電圧条件において、2A/W以上という高い受光感度を有している。よって、本発明の一態様に係る光電素子は、光センサとして好適に使用できる。
【0059】
また、光電素子は、例えば、フォトダイオード、フォトトランジスタであってもよく、フォトダイオードである場合、PIN型フォトダイオードあってもよく、PN型フォトダイオードであってもよい。光電素子が、フォトダイオードである場合、当該フォトダイオードは、太陽電池材料の一実施形態であり得る。光電素子がフォトトランジスタである場合、硫化金属結晶のコロイド粒子を含む層を備え、上述の電極をソース電極、及びドレイン電極として備え、さらにゲート電極を備え得る。
【0060】
<太陽電池材料及び太陽電池>
本発明の一態様に係る太陽電池材料は、硫化金属結晶のコロイド粒子を量子ドット増感剤として含む、太陽電池材料であり得る。
【0061】
硫化金属結晶のコロイド粒子は、例えば、硫化錫結晶のコロイド粒子である場合、すでに説明した812nm以下という短い吸収端波長に由来して、広い波長吸収領域を有し、さらに1.53eV以上という高い光バンドギャップを有し得る。このため、硫化金属結晶のコロイド粒子は、太陽電池材料の量子ドット増感剤として好適に使用することができると期待される。よって、硫化金属結晶のコロイド粒子を含む、太陽電池材料、及び当該太陽電池材料を備える太陽電池も、本発明の範疇である。
【0062】
<光電素子の製造方法>
本発明の一態様に係る光電素子の製造方法は、本発明の一態様に係る硫化金属結晶のコロイド粒子の製造方法を行ない、硫化金属結晶のコロイド粒子を得る工程と、硫化金属結晶のコロイド粒子の薄膜を形成する工程と、を包含し、薄膜を形成する工程では、スピンコート法、ディップコート法、または、気相液相界面集積法により、前記薄膜を形成する。
【0063】
光電素子の製造方法は、硫化金属結晶のコロイド粒子の薄膜を基板上に積層する工程と、基板上に積層された硫化金属結晶のコロイド粒子と、硫化金属結晶のコロイド粒子が備える配位子を置換する工程とを包含し得る。
【0064】
硫化金属結晶のコロイド粒子の薄膜を基板上に積層する工程は、少なくとも1回行なうことが好ましく、伝導性を損なわない限り、積層する工程の回数は多い方がより好ましく、例えば、100層程度の単層を重ね合わせてもよい。これにより硫化金属結晶のコロイド粒子の薄膜の厚さを制御でき、受光感度を制御することができる。
【0065】
硫化金属結晶のコロイド粒子が備える配位子を置換する工程では、上述のキャッピング剤としての配位子を、他の配位子に置換する工程である。ここで、他の配位子には、例えば、メルカプトカルボン酸、及びジチオール等のメルカプト化合物が挙げられ、例えば、メルカプトカルボン酸には、例えば、チオ酢酸、β―メルカプトプロピオン酸、α―メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、チオシュウ酸、メルカプトコハク酸、メルカプト安息香酸等が挙げられる。また、ジチオールには、例えばエチレンジチオール、プロピレンジチオール、ヘキサメチレンジチオール、デカメチレンジチオール、トリレン-2,4-ジチオールまたはキシレンジチオール等が挙げられる。これらメルカプト化合物を配位させることにより、硫化金属結晶のコロイド粒子を基板上に好適に固定し、かつ硫化金属結晶のコロイド粒子同士の間において架橋構造を形成することができる。また、配位子が、例えば、メルカプトカルボン酸である場合、メルカプトカルボン酸はカルボキシル基で、硫化金属結晶のコロイド粒子をキャッピングしつつ、キャッピングした硫化金属結晶のコロイド粒子を、メルカプト基を介して基板の表面に化学結合する、アンカーとしての機能を有し得る。
【0066】
例えば、光電素子の製造方法は、例えば、スピンコート法、又はディッピング法により、硫化金属結晶のコロイド粒子の薄膜を基板上に積層する工程を行なう場合、当該薄膜を基板上に積層する工程と、基板上に形成された薄膜に含まれる硫化金属結晶のコロイド粒子の配位子を置換する工程とを交互に行なうとよい。
【0067】
また、光電素子の製造方法は、例えば、気相液相界面集積法により、基板上に硫化金属結晶のコロイド粒子の薄膜を形成する場合、基板上に薄膜を堆積する前に、支持溶媒と大気との界面において硫化金属結晶のコロイド粒子を集積させ、当該界面において配位子を置換するとよい。気相液相界面集積法において、硫化金属結晶のコロイド粒子を集積させる支持溶媒は、硫化金属結晶のコロイド粒子を実質的に溶解せず、支持溶媒の表面にて集積できる溶媒であればよい。支持溶媒には、例えば、非プロトン性極性溶媒、及び水溶性有機溶媒が挙げられ、非プロトン性極性溶媒には、例えば、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。また、水溶性有機溶媒には、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール系溶媒が挙げられる。
【0068】
硫化金属結晶のコロイド粒子の薄膜の形成では、例えば、π型硫化錫結晶のコロイド粒子を用い、単層、または2~12層の薄膜構成により、2A/W以上という受光感度が達成されており、さらには、200A/W以上という受光感度も達成できる。よって、硫化金属結晶のコロイド粒子を用いて光電素子を製造する製造方法も本発明の範疇である。
【0069】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0070】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0071】
〔1.π型硫化錫結晶のコロイド粒子の調製〕
〔実施例1〕
実施例1として、錫の前駆体と硫黄の前駆体との反応液を希釈する溶媒にクロロホルムを用いてπ型硫化錫結晶のコロイド粒子(以下、πSnS粒子と略記する)を製造した。
【0072】
πSnS粒子に用いた材料は、以下に示す通りである。
【0073】
(1)材料
以下に示す、各材料は、シグマ・アルドリッチ社から入手した。
・塩化錫(II)・無水物(純度>99.9%)
・チオアセトアミド(純度>99%)
・オレイルアミン(純度>70%)
・オレイン酸(純度>90%)
・トリオクチルホスフィン(純度>97%)
・オクタデセン(純度>90%)
・クロロホルム(純度>99.5%,無水)
・ヘキサン(純度>99.8%,無水)
・エタノール(純度>99.5%)
(2)前駆体の合成
錫を含む前駆体を調製するために、窒素雰囲気に置換したグローブボックス内において、100mLのビーカーに2.25mLのオレイルアミン(OLA)を準備し、当該オレイルアミンに190mg(1mmol)の塩化錫(II)・無水物を溶解した。さらに、塩化錫(II)・無水物を溶解したオレイルアミンに4mLのオクタデセンを加え、スターラーにより回転速度800rpmの条件で撹拌しながら、60℃で加熱した。これにより、錫を含む前駆体として、錫オレイルアミン錯体を合成した。
【0074】
別途、上述の窒素雰囲気に置換したグローブボックス内において、100mLのビーカーに3.5mLのオクタデセンと1mLのオレイルアミンとを加えて混合し、得られた混合物に37.5mgのチオアセトアミド(TAA)を溶解した。これにより、硫黄源としてのチオアセトアミドと、オレイルアミンとを含む前駆体を得た。
【0075】
(3)π型SnS粒子の合成
窒素雰囲気下における錫オレイルアミン錯体の溶液を60℃から100℃で1分間加熱した。続いて、100℃に加熱し、スターラーによって回転速度800rpmの条件で撹拌しつつ、上述の硫黄源を含む前駆体を速やかに加え、これにより反応を開始した。当該反応は、100℃における加熱を維持しつつ、5分間行なった。次いで、反応により得られた生成物を含む10mLの反応液をビーカーに残し、回転速度800rpmの条件で撹拌しつつ、溶媒として3℃に冷却した90mLのクロロホルムを速やかに加え、これにより、室温(約23℃程度)にまで反応液を冷却した。冷却後、10分間、回転速度800rpmの撹拌を行ない、反応を終了した。
【0076】
(4)π型SnS粒子の配位子(キャッピング剤)の置換
上述の〔実施例1〕の(3)で得られたπ型SnSのコロイド粒子を含む溶液をテストチューブに20mL採取し、2mLのオレイン酸を加えた(操作1)。このオレイン酸を加えた反応液22mLに対し、回転速度350rpmの条件による撹拌を30分~12時間行った(操作2)。その後、44mLのエタノールを加えて、全66mLを回転速度12000rpmの遠心分離を30分間行なった(操作3)。その後、上澄みとなる溶媒をすべて除去し沈殿物のみ回収し、その沈殿物に22mLのクロロホルムを加え、回転速度350rpmの条件による撹拌を10分間行った(操作4)。以上の操作3から操作4までを1セットの操作として、当該操作を5~6セット繰り返して行なった。これら撹拌および遠心分離の全操作後、溶媒すべてを除去し、沈降物をクロロホルムで溶解した。これにより、実施例1として、オレイン酸が配位したπ型SnS粒子のクロロホルム溶液を得た。
【0077】
図3の下段に、オレイン酸が配位したπ型SnS粒子のクロロホルム溶液のサンプルを示す。
【0078】
実施例1におけるπ型SnS粒子の製造では、錫を含む前駆体と、硫黄源を含む前駆体との反応時間を5~20分の間で変化させ、複数のサンプルを製造した。
【0079】
〔実施例2〕
実施例2として、反応液を希釈する溶媒をクロロホルムからヘキサンに変更した以外は、実施例1と同じ条件に従って、オレイルアミンが配位した、π型SnS粒子のヘキサン溶液を製造した。
【0080】
〔比較例1〕
比較例1として、ホットインジェクション法により、硫化錫結晶のコロイド粒子(以下、SnS粒子と略記する)を製造した。
【0081】
(1)前駆体の調製
まず、錫を含む前駆体を調製するために、大気雰囲気下、温度計及び冷却管を取り付けた100mLの三口フラスコに2.25mLのオレイン酸(OA)、2mLのオクタデセン、1.5mLのトリオクチルホスフィン(TOP)を準備し、190mg(1mmol)の塩化錫(II)・無水物を溶解し、反応液を調製した。続いて、反応液を、減圧環境下、撹拌しながら、60℃、2時間の条件で加熱した。これにより、錫オレイン酸錯体と錫トリオクチルホスフィン錯体とを含む、錫の前駆体を調製した。
【0082】
別途、窒素雰囲気に置換したグローブボックス内において、100mLのビーカーに1mLのオクタデセン(ODE)、2mLのオレイルアミン(OLA)、及び1mLのトリオクチルホスフィン(TOP)を加えて混合し、得られた混合物に37.5mgのチオアセトアミド(TAA)を溶解した。これにより、硫黄源としてのチオアセトアミド、オレイルアミン及びトリオクチルホスフィンを含む前駆体を得た。
【0083】
(2)SnS粒子の調製
錫の前駆体として、錫オレイン酸錯体と錫トリオクチルホスフィン錯体とを含む三口フラスコを窒素雰囲気に置換し、当該錫の前駆体の加熱温度を60℃から100℃に上昇した。続いて、錫の前駆体を撹拌しつつ、硫黄源としてのチオアセトアミド、オレイルアミン及びトリオクチルホスフィンを含む前駆体をシリンジに採取し、三口フラスコ内に注入した。錫の前駆体と、硫黄の前駆体との反応液の温度を100℃に維持し、3分間撹拌した。その後、反応液を含む三口フラスコをアイスバスによって冷却することで、当該反応液を室温(約23℃程度)にまで冷却した。これにより、比較例1のSnS粒子を調製した。
【0084】
なお、比較例1のSnS粒子の製造では、錫の前駆体と、硫黄の前駆体との反応時間を3~15分の間で変化させ、複数のサンプルを製造した。
【0085】
[TEMによるπSnS粒子の観察、および直径分布の評価〕
図2に実施例1のπSnS粒子及び比較例1のSnS粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)により撮影した画像(倍率30万倍)と、当該画像から求められたπSnS粒子の直径分布の評価結果のグラフとを示す。なお、πSnS粒子の直径分布は、JEM―1230(JEOL社製)によって、電子顕微鏡画像に写るSnS粒子の面積から円相当径としての直径を算出し、算出された各粒子の直径を個数基準の直径分布として求めた。なお、直径分布のことを粒度分布と称することもある。
【0086】
また、実施例1のπ型SnS粒子及び比較例1のSnS粒子のそれぞれにおける、反応時間に変化に伴う、得られたSnS粒子の直径分布の変化を
図3上段のグラフに示す。
図3のグラフに示すように、実施例1のπ型SnSの直径分布は、反応時間によらず、5nm程度であり安定していることを確認した。これに対し、比較例1のコロイド粒子では、直径分布も広く、かつ、反応時間が長くなる程に、SnS粒子の粒径が大きくなる傾向が示されていた。
【0087】
〔結晶構造の評価〕
実施例1のSnS粒子(SnS NCs)の結晶構造をX線回折法により評価した。
図4に評価結果を示す。
図4の左側には、π型硫化錫結晶のコロイド粒子の4種類の直径に対して観察されるX線回折パターンが示されている。対して、
図4の右下側のデータには、実施例1の直径6.2nmのSnS粒子のX線回折パターンの、π型構造(Our sample structure)へのフィッティングの評価結果が示されており、信頼度因子R
WP=0.61にて立方晶系(cubic,空間群P2
13)に属する結晶構造を有するπ型硫化錫結晶に相当することを確認した。これに対し、
図4の右上側に示すように、α型のSnSの結晶構造へのフィッティングでは、直径6.2nmのSnS粒子におけるX線回折パターンが信頼度因子R
WP=1.74と高く、実施例1のSnS粒子が、ヘルツェンベルグ鉱(Herzenbergite,α硫化錫結晶)のような直方晶系(orthorhombic,斜方晶系ともいう)に属する結晶構造を実質的に有していないことを確認した。
【0088】
併せて、
図5に実施例1のπ型SnS粒子の結晶を透過型電子顕微鏡(TEM)により撮影した画像を示す。透過型電子顕微鏡(TEM)による電子線回折の評価結果からも、実施例1のπ型SnS粒子の結晶が立方晶系(空間群P2
13)に属する結晶構造を有することを確認した。
【0089】
〔バンドギャップの評価〕
実施例1のπ型SnS粒子について、紫外線分光光度計UV3600+(株式会社島津製作所製)により、π型SnS粒子の直径毎の吸収端波長を求め、これに基づき、π型SnS粒子の直径毎にバンドギャップを算出した。
図6上段及び中段に示すように、π型SnS粒子直径と、バンドギャップとのサイズ依存性を評価した。
図6上段には、直径分布のピークに相当する直径が、4.8nmのものが実線、5.8nmのものが破線、6.2nmのものが、線、8.5nmのものが2点鎖線で示されている。また、
図6中段には、バンドギャップの算出に用いたTaucプロットを示す。Y軸に(αhν)
1/2を、X軸に光子エネルギー(Energy)をプロットし、得られた曲線を直線近似でX軸に外挿したときのX軸との交点、つまり切片をバンドギャップ(Eg)として求めた。
αhν
1/2=A(hν-Eg)
図6にπ型SnS粒子の直径と、バンドギャップとのサイズ依存性を評価した。以下の表2に、各π型SnS粒子の直径ごとの吸収端波長を示す。
【0090】
【0091】
図6下段のグラフに示すように、光学的なバンドギャップ(Optical Bandgap)は、直径(Diameter)9.0nm以下で、光バンドギャップが飛躍的に大きくなることを確認した。このことは、π型SnS粒子のサイズに依存する量子閉じ込め効果によるものと判断される。
【0092】
〔2.光電素子の製造〕
〔実施例3〕
実施例3として、実施例1のπ型SnS粒子を用い、光伝導素子を製造した。光伝導素子の製造では、まず、実施例1のπ型SnS粒子を用いて、スピンコート法によって、光電素子を作製した。
【0093】
(1)スピンコート法による光電素子の製造
実施例3として、実施例1のπ型SnS粒子を用い、スピンコート法によって、光電素子として光伝導素子を製造した。スピンコート法では、π型SnS粒子と、メルカプトプロピオン酸、及び/又はエタンジチオールと、を交互にスピンコートすることで、SiO2/Si基板上において、π型SnSのコロイド粒子にメルカプトプロピオン酸とエタンジチオールとを配位させた。
【0094】
(材料)
・オレイン酸が配位したπ型SnS粒子のクロロホルム溶液(濃度5mg/mL)
・メルカプトプロピオン酸(以下、MPAと略記)のアセトニトリル溶液(1体積%)
・1,2-エタンジチオール(以下、EDTと略記)のアセトニトリル溶液(1体積%)
・SiO
2/Si基板(
図7を参照)
SiO
2の薄膜と、櫛歯状の金電極とが形成されたn型ドープシリコン基板
SiO
2の厚み:230nm,チャンネル長さ:10mm,チャンネル幅:10μm
(ステップ1)MPAの塗布-1
SiO
2/Si基板を、100μLのMPAのアセトニトリル溶液を滴下し、回転速度1400rpm、20秒間、引き続き、回転速度4000rpm、60秒間の条件にてSiO
2/Si基板を回転させることでMPAをスピンコートした。続いて、当該SiO
2/Si基板に100μLのメタノールを滴下しつつ、60秒間、回転速度4000rpmの条件にて回転させることで、SiO
2/Si基板上に残る余分のMPAを除去した。
【0095】
(ステップ2)π型SnSのコロイド粒子の塗布-1
ステップ1の処理を行なったSiO2/Si基板上にオレイン酸が配位したπ型SnSのコロイド粒子のクロロホルム溶液(濃度5mg/mL)を40mL滴下しつつ、まず、回転速度1400rpm、20秒間、引き続き、回転速度4000rpm、60秒間の条件で回転させることで、SiO2/Si基板に塗布されたMPAの上にπ型SnSのコロイド粒子をスピンコートした。
【0096】
(ステップ3)MPAの塗布-2
ステップ2の処理を行なったSiO2/Si基板を100μLのMPAのアセトニトリル溶液に浸し、その後、まず、回転速度4000rpm、60秒間の条件にてSiO2/Si基板を回転させることでMPAをスピンコートした。続いて、MPAをスピンコートしたSiO2/Si基板に100μLのメタノールを滴下しつつ、回転速度4000rpm、60秒間の条件にて回転させることで、πSnS粒子の上にMPAの層を形成した。
【0097】
(ステップ4)π型SnS粒子の塗布-2
ステップ3の処理を行なったSiO2/Si基板にオレイン酸が配位したπ型SnSのコロイド粒子のクロロホルム溶液(濃度5mg/mL)を40mL滴下しつつ、まず、回転速度1400rpm、20秒間、引き続き、回転速度4000rpm、60秒間の条件にて回転させることで、SiO2/Si基板上のMPAの薄膜の上にπSnSのコロイド粒子の薄膜を形成した。
【0098】
(ステップ5)EDTの塗布
ステップ4の処理を行なったSiO2/Si基板を、100μLのEDTのアセトニトリル溶液に60秒間浸し、その後、回転速度4000rpm、60秒間、引き続き、回転速度4000rpm、60秒間の条件にてSiO2/Si基板を回転させることでEDTをスピンコートした。続いて、当該SiO2/Si基板に100μLのメタノールを滴下しつつ、回転速度4000rpm、60秒間の条件にて回転させることで、SiO2/Si基板のπSnSのコロイド粒子の薄膜の上にEDTの薄膜を形成した。
【0099】
上記のステップ4及びステップ5を4~11回繰り返し、得られたサンプルを100℃、30分間の条件で加熱した。これにより、MPA及びEDTが配位したπSnSの薄膜を備えるSiO2/Si基板(光伝導素子)を製造した。
【0100】
〔実施例4〕
実施例4として、実施例2のπ型SnS粒子を用い、気相液相界面集積法により平面型光伝導素子を製造した。なお、実施例2のπ型SnS粒子についても、希釈溶媒としてヘキサンを用いた以外は、実施例1のπ型SnS粒子の場合と同じ手順に従って、配位子(キャッピング剤)をオレイン酸に置換し、その後、光伝導素子の製造を行なった。
【0101】
(材料)
・オレイン酸が配位したπ型SnS粒子のヘキサン溶液(濃度4mg/mL)
・EDTのテトラヒドロフラン(THF)溶液(4mol/L)
・アセトニトリル(ACN)-集積を補助するための支持液体
・SiO
2/Si基板(実施例3と同じ)
(ステップ1)
図8に示すように、SiO
2/Si基板(SiO
2/Si substrate)をテフロン(登録商標)製の容器(Teflon bath)内に配置し、当該容器に当該SiO
2/Si基板全体が浸るようにアセトニトリル(ACN)を注入した。ついで、オレイン酸が配位したπSnSのコロイド粒子のヘキサン溶液(濃度4mg/mL)を40μL滴下し(SnS NCs drop in Hexane)、
図8左上段に示すように、アセトニトリルの液面にπ型SnSのコロイド粒子を拡散させた(The nanocrystals will spread freely on top of solvent.)。次いで、容器をスライドグラス(Glass slide)で塞ぎ、30分間(30 minutes)静置した。
図8右上段に示すように、これによりオレイン酸が配位したπSnSのコロイド粒子をアセトニトリルの液面に集積した(Oleic acid capped π-SnS nanocrystal assembly)。
【0102】
(ステップ2)
図8の左中段に示すように、スライドグラスを開放し、アセトニトリルの液面に集積したπ型SnSのコロイド粒子の薄膜(Oleic acid cappedπ-SnS nanocrystal assembly)を壊さないように、静かに10μLのEDTのテトラヒドロフラン溶液(4mol/L)を滴下し、10分間(10 minutes)静置した。
図8右中段に示すように、これにより、アセトニトリルの液面において、π型SnSのコロイド粒子における配位子をオレイン酸から、EDTに置換し、EDTが配位したπ型SnSのコロイド粒子の集積膜(EDT-cappedπ-SnS nanocrystal assembly)を得た。
【0103】
(ステップ3)
ステップ2の処理を行なった後、容器の底部に設けられた排出口に、バキュームシリンジを接続し、速やかにアセトニトリルを吸引除去した(ACN is sucked out.
図8左下段)。これにより、アセトニトリルの液面に集積したπSnSのコロイド粒子の単層の薄膜を、SiO
2/Si基板の上に堆積させた(π-SnS NC Assembly deposited on substrate.
図8の右下段)。続いて、容器からSiO
2/Si基板を取り出し、メタノールを用いて、SiO
2/Si基板の上に堆積したSnSのコロイド粒子の薄膜を洗浄し、SiO
2/Si基板上に残る過剰な配位子を除去した。
【0104】
上記のステップ1~3を2回繰り返し、2つの単層からなるSnSのコロイド粒子の層をSiO2/Si基板上に形成した。得られたSiO2/Si基板を100℃、30分間の条件で加熱し、実施例4の光伝導素子を得た。
【0105】
〔TEMによる観察〕
図9の左側に、透過型電子顕微鏡(TEM)により撮影した実施例3の光伝導素子に堆積された単層のπ型SnS粒子の画像を示し、
図9の右側に実施例4の光伝導素子に堆積された単層のSnS粒子の画像を示す。
【0106】
〔受光感度の評価〕
実施例3の光電素子、及び実施例4の光電素子のそれぞれについて、受光感度(A/W)の評価を行なった。
【0107】
受光感度(A/W)の評価は、室温、窒素雰囲気のグローブボックス中で、ハロゲンランプを光源とし、3100K、800,000Luxの条件で行なった。
【0108】
図10に実施例3及び実施例4の光伝導素子におけるResponsibity(受光感度 A/W)の評価結果を示す。
図10には、実施例3の光電素子のうち、スピンコートにより5層のπ型SnS粒子を堆積させたもの(Spin coating 5 layer)を点線で示し、スピンコートにより12層のπ型SnS粒子を堆積させたもの(Spin coating 12 layer)を破線で示し、気相液相界面集積法により1層のπ型SnS粒子を堆積させたもの(Liquid air Assembly 1 layer)を2点鎖線で示し、気相液相界面集積法により2層のπ型SnS粒子を堆積させたもの(Liquid air Assembly 2 layer)を実線で示す。実施例3及び実施例4の光伝導素子の何れにおいても、硫化錫コロイド粒子集合体が、印加されたバイアス電圧(Voltage)に対して、優れた受光感度(A/W)を示すことを確認した。また、実施例4の光伝導素子においては、π型SnS粒子が単層、及び2層のいずれにおいても、特に優れた受光感度(A/W)を示すことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、例えば、光センサ、太陽電池の構成材料、トランジスタ、熱電素子、光触媒などの材料に利用することができる。