(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-13
(45)【発行日】2025-03-24
(54)【発明の名称】熱伝導性シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20250314BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20250314BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20250314BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20250314BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20250314BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20250314BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H05K7/20 F
C08K7/00
C08L101/00
B32B7/027
B32B27/20 Z
(21)【出願番号】P 2021550591
(86)(22)【出願日】2020-09-16
(86)【国際出願番号】 JP2020035142
(87)【国際公開番号】W WO2021065522
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2019179010
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】313001332
【氏名又は名称】積水ポリマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】工藤 大希
(72)【発明者】
【氏名】石原 実歩
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-204570(JP,A)
【文献】特開2014-027144(JP,A)
【文献】国際公開第2017/187940(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/179318(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H05K 7/20
C08K 7/00
C08L 101/00
B32B 7/027
B32B 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子マトリクス中に鱗片状充填材と繊維状充填材とを含む熱伝導性シートであって、
前記鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と、前記繊維状充填材の繊維軸方向とが同じ方向
で厚さ方向に配向しており、
鱗片状充填材と繊維状充填材との質量割合(鱗片状充填材/繊維状充填材)が55/45以上である熱伝導性シート。
【請求項2】
前記鱗片状充填材と前記繊維状充填材との質量割合(鱗片状充填材/繊維状充填材)が60/40~95/5である請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
前記鱗片状充填材と前記繊維状充填材との質量割合(鱗片状充填材/繊維状充填材)が65/35~95/5である請求項
2に記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
厚さ方向を第1の方向とし、第1の方向に垂直な方向を第2の方向とし、第1の方向及び第2の方向に垂直な方向を第3の方向とした場合に、第1の方向の熱伝導率が11W/mK以上である請求項1
~3のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項5】
前記鱗片状充填材が鱗片状黒鉛粉末である請求項1~
4のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項6】
前記繊維状充填材が炭素繊維である請求項1~
5のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項7】
前記鱗片状充填
材の鱗片面の法線方向が所定の方向に揃っている請求項1~
6のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項8】
複数の単位層からなり、それぞれの単位層が、前記鱗片状充填材と前記繊維状充填材とを含み、シートの面方向に沿う一方向に沿って積層される請求項1~
7のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項9】
前記繊維状充填材の平均繊維長が20~500μmである請求項1~8のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項10】
前記繊維状充填材は、縮合多環炭化水素化合物、PAN、縮合複素環化合物のいずれかを原料とする黒鉛化炭素繊維である請求項1~9のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項11】
高分子マトリクス中に鱗片状充填材と繊維状充填材とを含む熱伝導性シートの製造方法であって、
高分子マトリクスの前駆体である樹脂と鱗片状充填材と繊維状充填材とを含む混合物を調製する混合物調製工程と、
前記混合物を所定形状にする際に流動配向処理により、前記鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と前記繊維状充填材の繊維軸方向とを同じ方向に配向させる配向処理工程とを含む熱伝導性シートの製造方法。
【請求項12】
高分子マトリクス中に鱗片状充填材と繊維状充填材とを含む熱伝導性シートの製造方法であって、
高分子マトリクスの前駆体である樹脂と鱗片状充填材と繊維状充填材とを含む混合物を調製する混合物調製工程と、
前記混合物をシート状にする際に流動配向処理により、前記鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と前記繊維状充填材の繊維軸方向とを同じ方向に配向させる配向処理工程と、
前記配向処理工程を経て得られた1次シートを複数用意し、前記複数の1次シートを積層させて積層ブロックを形成する工程と、
前記積層ブロックを積層方向に沿ってシート状になるように切断する切断工程と、を含む熱伝導性シートの製造方法。
【請求項13】
前記鱗片状充填材と前記繊維状充填材との質量割合(鱗片状充填材/繊維状充填材)を55/45以上とする請求項
11又は
12に記載の熱伝導性シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シート、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ、自動車部品、携帯電話等の電子機器では、半導体素子や機械部品等の発熱体から生じる熱を放熱するためにヒートシンクなどの放熱体が一般的に用いられる。放熱体への熱の伝熱効率を高める目的で、発熱体と放熱体の間には、熱伝導性シートが配置されることが知られている。
【0003】
熱伝導性シートは、一般的には、高分子マトリクスと、高分子マトリクス中に分散された熱伝導性充填材とを含有する。また、熱伝導性シートは、特定の方向の熱伝導性を高めるために、形状に異方性を有する熱伝導性繊維のような異方性充填材を一方向に配向させることがある。
【0004】
異方性充填材が一方向に配向された熱伝導性シートとしては、例えば、高分子マトリックスに熱伝導性繊維及び非繊維状熱伝導性充填剤を分散した高熱伝導性組成物に磁力線を印加する磁場配向により、熱伝導性繊維を一定方向に配向した熱伝導性シートが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし近年の電子機器は小型化及び高性能化が進むに伴い発熱量がより増加しており、特許文献1の熱伝導性シートよりもさらに熱伝導率を高めた熱伝導性シートが望まれている。また、特許文献1のような熱伝導性シートはその厚み方向に良好な熱伝導性を示すが、今後要求される高性能化に十分対応できるかは不明である。
【0007】
以上から、本発明は、より高い熱伝導性を有する熱伝導性シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、高分子マトリクス中に鱗片状充填材と繊維状充填材とを含み、鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と、繊維状充填材の繊維軸方向とを同じ方向に配向させることで、さらなる熱伝導率の向上を試みた。しかし、鱗片状充填材を含有させると、材料の粘度が上昇してしまい、特許文献1のような磁場配向での配向は難しい場合があった。そこで、配向方法として流動配向を採用し、かつ、鱗片状充填材の含有量を所定の範囲にすることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[10]を提供する。
【0009】
[1] 高分子マトリクス中に鱗片状充填材と繊維状充填材とを含む熱伝導性シートであって、前記鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と、前記繊維状充填材の繊維軸方向とが同じ方向に配向しており、鱗片状充填材と繊維状充填材との質量割合(鱗片状充填材/繊維状充填材)が55/45以上である熱伝導性シート。
[2] 前記鱗片状充填材と前記繊維状充填材との質量割合(鱗片状充填材/繊維状充填材)が65/35~95/5である[1]に記載の熱伝導性シート。
[3] 厚さ方向を第1の方向とし、第1の方向に垂直な方向を第2の方向とし、第1の方向及び第2の方向に垂直な方向を第3の方向とした場合に、第1の方向の熱伝導率が11W/mK以上である[1]又は[2]に記載の熱伝導シート。
[4] 前記鱗片状充填材が鱗片状黒鉛粉末である[1]~[3]のいずれかに記載の熱伝導性シート。
[5] 前記繊維状充填材が炭素繊維である[1]~[4]のいずれかに記載の熱伝導性シート。
[6] 前記鱗片状充填剤の鱗片面の法線方向が所定の方向に揃っている[1]~[5]のいずれかに記載の熱伝導性シート。
[7] 複数の単位層からなり、それぞれの単位層が、前記鱗片状充填材と前記繊維状充填材とを含み、シートの面方向に沿う一方向に沿って積層される[1]~[6]のいずれかに記載の熱伝導性シート。
[8] 高分子マトリクス中に鱗片状充填材と繊維状充填材とを含む熱伝導性シートの製造方法であって、高分子マトリクスの前駆体である樹脂と鱗片状充填材と繊維状充填材とを含む混合物を調製する混合物調製工程と、前記混合物を所定形状にする際に流動配向処理により、前記鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と前記繊維状充填材の繊維軸方向とを同じ方向に配向させる配向処理工程とを含む熱伝導性シートの製造方法。
[9] 高分子マトリクス中に鱗片状充填材と繊維状充填材とを含む熱伝導性シートの製造方法であって、高分子マトリクスの前駆体である樹脂と鱗片状充填材と繊維状充填材とを含む混合物を調製する混合物調製工程と、前記混合物をシート状にする際に流動配向処理により、前記鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と前記繊維状充填材の繊維軸方向とを同じ方向に配向させる配向処理工程と、前記配向処理工程を経て得られた1次シートを複数用意し、前記複数の1次シートを積層させて積層ブロックを形成する工程と、前記積層ブロックを積層方向に沿ってシート状になるように切断する切断工程と、を含む熱伝導性シートの製造方法。
[10] 前記鱗片状充填材と前記繊維状充填材との質量割合(鱗片状充填材/繊維状充填材)を55/45以上とする[8]又は[9]に記載の熱伝導性シートの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、より高い熱伝導性を有する熱伝導性シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る熱伝導性シートを示す模式的な斜視図である。
【
図2】実施形態に係る熱伝導性シートの製造方法の一例を示す模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態(本実施形態)に係る熱伝導性シートについて詳しく説明する。
本実施形態の熱伝導性シートは、高分子マトリクス中に鱗片状充填材と繊維状充填材とを含み、鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と、繊維状充填材の繊維軸方向とが同じ方向に配向している。このように同じ方向に配向していることで、例えばシートの厚み方向に配向している場合は、厚み方向の熱伝導率を大きくすることができる。また、1の繊維状充填材と他の繊維状充填材との間に、上記鱗片状充填材が存在することで、熱伝導パスが良好に形成されて、より高い熱伝導性が得られる。
【0013】
ところで、繊維状充填材とともに鱗片状充填材を配合した樹脂組成物は、繊維状充填材だけ、あるいは繊維状充填材と球状充填材とを配合した樹脂組成物に比べて増粘しやすい。このような樹脂組成物はその高い粘度のため、磁場配向では、鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と、繊維状充填材の繊維軸方向とを同じ方向に配向させることが難しい。そこで、本発明では、流動配向を採用して鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と、繊維状充填材の繊維軸方向とを同じ方向に配向させ、鱗片状充填材と繊維状充填材との質量割合(鱗片状充填材/繊維状充填材)を55/45以上とすることで、より高い熱伝導性の実現に成功した。
【0014】
すなわち、本実施形態を別の側面から説明すると、高分子マトリクス中に鱗片状充填材と繊維状充填材とを含む熱伝導性シートであって、流動配向処理により、鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と繊維状充填材の繊維軸方向とが同じ方向に配向しており、鱗片状充填材と繊維状充填材との質量割合(鱗片状充填材/繊維状充填材)が55/45以上である熱伝導性シートといえる。
なお、「鱗片状充填材と繊維状充填材との質量割合(鱗片状充填材/繊維状充填材)が55/45以上である」とは、鱗片状充填材の質量割合が55/45と同じか、それよりも大きいことを意味する。
【0015】
図1に、本実施形態の熱伝導性シートの一例を示す。
図1の熱伝導性シート10は、高分子マトリクス11中に鱗片状充填材12と繊維状充填材13とを含み、鱗片状充填材12の鱗片面の長軸方向と、繊維状充填材13の繊維軸方向とが同じ方向、具体的には厚さ方向(第1の方向)に配向している。熱伝導シート10は後述の製造方法により、複数の単位層14からなり、それぞれの単位層14が、鱗片状充填材12と繊維状充填材13とを含み、シート10の面方向に沿う一方向(第1の方向に垂直な方向:第3の方向)に沿って積層されている。
【0016】
また、
図1に示すように厚さ方向を第1の方向とし、第1の方向に垂直な方向を第2の方向とし、第1の方向及び第2の方向に垂直な方向を第3の方向とした場合に、第1の方向は、鱗片状充填材12の鱗片面の長軸方向と、繊維状充填材13の繊維軸方向とが同じ方向に配向しているため、高い熱伝導性が示される。具体的には、当該熱伝導率は8W/mK以上であることが好ましく、11W/mK以上であることがより好ましく、13W/mK以上であることがさらに好ましく、16W/mK以上であることが特に好ましい。なお、熱伝導率はASTM D5470-06に準拠した方法で測定するものとする。
【0017】
また、第2の方向では、鱗片状充填材12の鱗片面の短軸方向と繊維状充填材13の繊維幅方向とが同じ方向に配向しているため、この方向に対しても高い熱伝導性が示される。すなわち、
図1に示す熱伝導性シートは、第1の方向及び第2の方向に高い熱伝導性が示される、2方向熱伝導性シートとなる。
なお、第2の方向の熱伝導率は3W/mK以上であることが好ましく、4W/mK以上であることがより好ましく、6W/mK以上であることがさらに好ましい。
【0018】
以下、本実施形態に係る熱伝導性シートを構成する各材料などについて説明する。
(高分子マトリクス)
高分子マトリクスは、鱗片状充填材及び繊維状充填材等を保持する部材であり、柔軟なゴム状弾性体でなることが好ましい。高分子マトリクスは、その前駆体である樹脂から形成される。鱗片状充填材と繊維状充填材とを配向した状態で高分子マトリクス中に含有させるためには、配向させる工程の際に樹脂が流動性を有していることが要求される。例えば、高分子マトリクスの前駆体である樹脂が熱可塑性樹脂であれば、加熱して可塑化した状態で鱗片状充填材と繊維状充填材とを配向させることができる。また、反応性液状樹脂であれば、硬化前に鱗片状充填材と繊維状充填材とを配向させて、その状態を維持したまま硬化すれば、鱗片状充填材と繊維状充填材とが配向した硬化物を得ることができる。前者は比較的粘度が高く、また低粘度になるまで可塑化すると樹脂が熱劣化するおそれがあるため、後者の樹脂を採用することが好ましい。
【0019】
反応性液状樹脂としては、反応前は液状であり、所定の条件で硬化して架橋構造を形成するゴムまたはゲルを用いることが好ましい。架橋構造とはポリマーの少なくとも一部が3次元的に架橋し、加熱によって溶融しない硬化体を形成しているものをいう。また、液状樹脂に鱗片状充填材と繊維状充填材とを加えた混合組成物を作製し、流動性のある液状樹脂中でこれらを配向させるため、低粘度であることが好ましく、配向後には所定の条件で硬化可能な性質を備えるものが好ましい。
【0020】
こうした反応性液状樹脂の硬化方法としては例えば、熱硬化性や光硬化性のものを例示できるが、光を遮蔽する鱗片状充填材及び繊維状充填材を多量に含むため、熱硬化性のゴムやゲルを用いることが好ましい。より具体的には、シリコーン樹脂、ポリオールとイソシアネートの反応を利用するウレタンゴム、アクリレートのラジカル反応やカチオン反応を利用するアクリルゴム等を例示することができるが、シリコーン樹脂を用いることが好ましい。
【0021】
シリコーン樹脂は、オルガノポリシロキサンであれば特に限定されないが、硬化型シリコーン樹脂を使用することが好ましい。シリコーン樹脂は、硬化型である場合には、硬化性シリコーン組成物を硬化することで得られるものである。シリコーン樹脂は、付加反応型のものを使用してもよいし、それ以外のものを使用してもよい。付加反応型の場合、硬化性シリコーン組成物は、主剤となるシリコーン化合物と、主剤を硬化させる硬化剤とからなることが好ましい。
【0022】
主剤として使用されるシリコーン化合物は、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンが好ましく、具体的には、ビニル基含有ポリジメチルシロキサン、ビニル基含有ポリフェニルメチルシロキサン、ビニル基含有ジメチルシロキサン-ジフェニルシロキサンコポリマー、ビニル基含有ジメチルシロキサン-フェニルメチルシロキサンコポリマー、ビニル基含有ジメチルシロキサン-ジエチルシロキサンコポリマーなどのビニル基含有オルガノポリシロキサンなどが挙げられる。
【0023】
硬化剤としては、上記した主剤であるシリコーン化合物を硬化できるものであれば、特に限定されないが、ヒドロシリル基(SiH)を2つ以上有するオルガノポリシロキサンである、オルガノハイドロジェンポリシロキサンが好ましい。
硬化剤は、ヒドロシリル基の数や分子量、主剤に対する配合量比を適宜調整することで、後述する1次シートの硬さを調整できる。具体的には、1分子中のヒドロシリル基が少ないか、分子量の大きい硬化剤を用いたり、主剤に対する硬化剤の配合量比を少なくすることで、1次シートの硬さを低くできる。
【0024】
高分子マトリクスの前駆体である樹脂の含有量は、体積%(充填率)で表すと、熱伝導性シート全量に対して、好ましくは15~50体積%、より好ましくは25~45体積%である。
【0025】
図1に示す熱伝導性シート10において、隣接する単位層14、14同士は、互いに接着されるものであるが、各単位層14は、隣接する単位層14に、直接固着されることが好ましい。すなわち、隣接する単位層14、14は、接着剤等の単位層以外の材料を介さずに直接接着されることが好ましい。このような構成により、各単位層14は、例えば、マトリクスの前駆体である樹脂としてシリコーン樹脂が好ましく使用される場合、各単位層14のシリコーン樹脂同士が接着されることになる。
【0026】
シリコーン樹脂同士は、一般的に高い接着力で接着することは困難であるが、本実施形態では、後述するように、単位層14の接着面をVUV照射することで表面が活性化されるので、比較的高い接着力で、隣接する単位層14、14同士が接着される。したがって、単位層14間の界面で剥離が生じたりすることはない。また、別の部材を介在させず、さらには、硬化などを利用せずに単位層14、14同士が接着されるので、熱伝導性シート10は、柔軟性が損なわれない。
【0027】
(鱗片状充填材)
鱗片状充填材は、シートの厚さ方向に配向させやすくして熱伝導性を高める観点から、アスペクト比が、3以上であることが好ましく、6~50であることがより好ましく、8~15であることがさらに好ましい。
アスペクト比は、鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向の長さ/厚さを意味する。
【0028】
また、鱗片状充填材の平均粒径(平均長軸長)は、10~400μmが好ましく、15~300μmがより好ましい。また、20~200μmが特に好ましい。平均粒径を10μm以上とすることで、熱伝導性シートにおいて充填材同士が接触しやすくなり、熱の伝達経路が確保され、熱伝導性シートの熱伝導性が良好になる。一方、平均粒径を400μm以下とすると、鱗片状充填材の嵩が低くなり、マトリックス中の高充填にすることが可能になる。
なお、鱗片状充填材の平均粒径は、顕微鏡で観察して長軸方向の長さを直径として算出することができる。より具体的には、電子顕微鏡や光学顕微鏡、X線CT装置を用いて、任意の鱗片状充填材50個の長軸方向の長さを測定して、その平均値(相加平均値)を平均粒径とすることができる。
また、鱗片状充填材の厚さについても同様に電子顕微鏡や光学顕微鏡、X線CT装置を用いて測定することができる。
【0029】
鱗片状充填材としては、鱗片状炭素粉末、鱗片状炭化ケイ素粉末、鱗片状窒化アルミニウム粉末、鱗片状窒化ホウ素粉末、鱗片状酸化アルミニウム粉末等が挙げられる。なかでも、鱗片状黒鉛粉末が好ましい。
鱗片状黒鉛粉末は、グラファイトの結晶面が鱗片面の面内方向に連なっており、その面内方向に高い熱伝導率を備える。そのため、その鱗片面を所定の方向に揃えることで、特定方向の熱伝導率を高めることができる。鱗片黒鉛粉末は、高い黒鉛化度をもつものが好ましい。
【0030】
(繊維状充填材)
繊維状充填材は、その繊維軸方向をシートの厚さ方向に配向させやすくして熱伝導性を高める観点から、アスペクト比が、4以上であることが好ましく、7~100であることがより好ましく、15~50であることがさらに好ましい。
アスペクト比は、繊維状充填材の繊維軸方向の長さ(繊維長)/繊維の直径を意味する。
【0031】
繊維状充填材の平均繊維長は、好ましくは20~500μm、より好ましくは80~400μmである。平均繊維長を20μm以上とすると、熱伝導性シートにおいて充填材同士が適切に接触して、熱の伝達経路が確保され、熱伝導性シートの熱伝導性が良好になる。一方、平均繊維長を500μm以下とすると、繊維状充填材の嵩が低くなり高充填できるようになる。また、繊維状充填材に導電性を有するものを使用しても、熱伝導性シートの導電性が必要以上に高くなることが防止される。
なお、上記の平均繊維長は、繊維状充填材を顕微鏡で観察して算出することができる。例えば、熱伝導性シートのマトリクス成分を溶かして分離した繊維状充填材について、電子顕微鏡や光学顕微鏡を用いて、任意の繊維状充填材50個の繊維長を測定して、その平均値(相加平均値)を平均繊維長とすることができる。この際、繊維を粉砕しないように大きなシェアがかからないようにする。また、熱伝導性シートから繊維状充填材を分離することが難しい場合は、X線CT装置を用いて、繊維状充填材の繊維長を測定して、平均繊維長を算出してもよい。
また、繊維状充填材の直径についても同様に電子顕微鏡や光学顕微鏡、X線CT装置を用いて測定することができる。
なお、本発明において、任意のものとは無作為に選んだものをいう。
【0032】
繊維状充填材としては、炭素繊維、金属繊維、セラミックス繊維、ポリパラフェニレンベンゾオキサゾール繊維等が挙げられる。なかでも炭素繊維が好ましい。
炭素繊維としては、黒鉛化炭素繊維が好ましい。黒鉛化炭素繊維は、グラファイトの結晶面が繊維軸方向に連なっており、その繊維軸方向に高い熱伝導率を備える。そのため、その繊維軸方向を所定の方向に揃えることで、特定方向の熱伝導率を高めることができる。黒鉛化炭素繊維は、高い黒鉛化度をもつものが好ましい。
【0033】
上記した黒鉛化炭素繊維などの黒鉛化炭素材料としては、以下の原料を黒鉛化したものを用いることができる。例えば、ナフタレン等の縮合多環炭化水素化合物、PAN(ポリアクリロニトリル)、ピッチ等の縮合複素環化合物等が挙げられるが、特に黒鉛化度の高い黒鉛化メソフェーズピッチやポリイミド、ポリベンザゾールを用いることが好ましい。例えばメソフェーズピッチを用いることにより、後述する紡糸工程において、ピッチがその異方性により繊維軸方向に配向され、その繊維軸方向へ優れた熱伝導性を有する黒鉛化炭素繊維を得ることができる。
黒鉛化炭素繊維におけるメソフェーズピッチの使用態様は、紡糸可能ならば特に限定されず、メソフェーズピッチを単独で用いてもよいし、他の原料と組み合わせて用いてもよい。ただし、メソフェーズピッチを単独で用いること、すなわち、メソフェーズピッチ含有量100%の黒鉛化炭素繊維が、高熱伝導化、紡糸性及び品質の安定性の面から最も好ましい。
【0034】
黒鉛化炭素繊維は、紡糸、不融化及び炭化の各処理を順次行い、所定の粒径に粉砕又は切断した後に黒鉛化したものや、炭化後に粉砕又は切断した後に黒鉛化したものを用いることができる。黒鉛化前に粉砕又は切断する場合には、粉砕で新たに表面に露出した表面において黒鉛化処理時に縮重合反応、環化反応が進みやすくなるため、黒鉛化度を高めて、より一層熱伝導性を向上させた黒鉛化炭素繊維を得ることができる。一方、紡糸した炭素繊維を黒鉛化した後に粉砕する場合は、黒鉛化後の炭素繊維が剛いため粉砕し易く、短時間の粉砕で比較的繊維長分布の狭い炭素繊維粉末を得ることができる。
【0035】
ここで、鱗片状充填材と繊維状充填材との質量割合(鱗片状充填材/繊維状充填材)は、既述のとおり、55/45以上であり、好ましくは60/40~95/5であり、より好ましくは65/45~90/10である。質量割合が55/45未満であると、厚み方向の熱伝導率の充分に高められないおそれがある。また、鱗片状充填剤の法線方向を揃えた場合であっても、第2の方向の熱伝導率が低くなってしまう。
【0036】
熱伝導性シートにおける鱗片状充填材と繊維状充填材との合計含有量は、マトリクスの前駆体である樹脂100質量部に対して10~500質量部であることが好ましく、50~350質量部であることがより好ましい。また、上記の合計含有量は、体積基準の充填率(体積充填率)で表すと、熱伝導性シート全量に対して、好ましくは2~40体積%、より好ましくは8~30体積%である。
合計含有量を10質量部以上とすることで、熱伝導性を高めやすくなり、500質量部以下とすることで、後述する液状組成物の粘度が適切になりやすく、各充填材の配向性が良好となる。
【0037】
鱗片状充填材及び繊維状充填材は、特に限定されないが、異方性を有する方向(すなわち、長軸方向、繊維軸方向)に沿う熱伝導率が、一般的に30W/m・K以上であり、好ましくは100W/m・K以上である。当該熱伝導率は、その上限が特に限定されないが、例えば2000W/m・K以下である。熱伝導率の測定方法は、レーザーフラッシュ法である。
【0038】
また、鱗片状充填材及び繊維状充填材は、導電性を有していてもよいし、絶縁性を有していてもよい。鱗片状充填材及び繊維状充填材が絶縁性を有すると、熱伝導性シートの厚さ方向の絶縁性を高めることができるため、電気機器において好適に使用することが可能になる。なお、本発明において導電性を有するとは例えば体積抵抗率が1×109Ω・cm以下の場合をいうものとする。また、絶縁性を有するとは例えば体積抵抗率が1×109Ω・cmを超える場合をいうものとする。
【0039】
鱗片状充填材及び繊維状充填材は、それぞれ1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。例えば、鱗片状充填材又は繊維状充填材として、少なくとも2つの互いに異なる平均粒径または平均繊維長を有する充填材を使用してもよい。大きさの異なる充填材を使用すると、相対的に大きな充填材の間に小さな充填材が入り込むことにより、これら充填材をマトリクス中に高密度に充填できるとともに、熱の伝導効率を高めるられると考えられる。
【0040】
図1に示す例では、鱗片状充填材12と繊維状充填材13は、各単位層14において熱伝導性シートの厚さ方向(第1の方向)に配向している。鱗片状充填材12と繊維状充填材13の厚さ方向の配向をより具体的に説明する。まず、鱗片状充填材12は、熱伝導性シート10の厚さ方向に対して鱗片状状充填材の鱗片面の長軸方向のなす角度が30°未満の鱗片状充填材の数の割合が、鱗片状充填材全量に対して、50%を超える状態にあることをいい、該割合は、好ましくは80%を超えるものとすることができる。換言すれば、熱伝導性シートのシート面に対して、鱗片面の長軸方向の法線方向のなす角度が30°未満の鱗片状充填材の数の割合が、鱗片状充填材全量に対して、50%を超える状態にあることをいい、該割合は、好ましくは80%を超える。
また、繊維状充填材13は、熱伝導性シート10の厚さ方向に対して繊維状充填材の長軸のなす角度が30°未満の繊維状充填材の数の割合が、繊維状充填材全量に対して、50%を超える状態にあることをいい、該割合は、好ましくは80%を超える。
なお、鱗片状充填材12及び繊維状充填材13の配向方向は、熱伝導率を高める観点からは厚さ方向に対する繊維状充填材の繊維軸方向のなす角度、又は鱗片面の長軸方向なす角度を0°以上5°未満とすることが好ましい。一方、熱伝導性シート10を圧縮したときの荷重を低くすることができるという点で、5°以上30°未満の範囲で傾斜させることもできる。なお、これら角度は、一定数(例えば、任意の鱗片状充填材12又は繊維状充填材13を50個)の鱗片状充填材12又は繊維状充填材13の配向角度の平均値である。
【0041】
また、鱗片状充填材は、さらに、鱗片面の法線方向が所定の方向に揃っていることが好ましく、具体的には、
図1に示す第3方向に向くことが好ましい。このようにすることで、第1の方向及び第2の方向に良好な熱伝導性を有する、既述の2方向熱伝導性シートとすることができる。2方向熱伝導性シートとするには、後述の製造方法の説明にある第1の方法を採用すればよい。
【0042】
(非異方性充填材)
本実施形態においては、マトリクス中に鱗片状充填材及び繊維状充填材以外の非異方性充填材を含有してもよい。当該非異方性充填材は、鱗片状充填材及び繊維状充填材とともに熱伝導性シートに熱伝導性を付与する材料である。非異方性充填材が含有されることで、配向した鱗片状充填材及び繊維状充填材の間に当該充填材が介在し、熱伝導率のより高い熱伝導性シートが得られる。
非異方性充填材は、形状に異方性を実質的に有しない充填材であり、後述する剪断力作用下など、鱗片状充填材及び繊維状充填材が所定の方向に配向する環境下においても、その所定の方向に配向しない充填材である。
【0043】
非異方性充填材は、そのアスペクト比が2未満であり、1.5以下であることがより好ましい。アスペクト比を2未満とすることで、後述する液状組成物の粘度が上昇するのを防止して、高充填にすることが可能になる。
【0044】
非異方性充填材は、導電性を有してもよいが、絶縁性を有することが好ましく、熱伝導性シートにおいては、鱗片状充填材、繊維状充填材及び非異方性充填材が絶縁性を有することが好ましい。これらが絶縁性であると、熱伝導性シートの厚さ方向の絶縁性をより一層高めやすくなる。
【0045】
非異方性充填材は、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、炭素材料、金属以外の酸化物、窒化物、炭化物などが挙げられる。また、非異方性充填材の形状は、球状、不定形の粉末などが挙げられる。
非異方性充填材において、金属としては、アルミニウム、銅、ニッケルなど、金属酸化物としては、アルミナに代表される酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛など、金属窒化物としては窒化アルミニウムなどを例示することができる。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウムが挙げられる。さらに、炭素材料としては球状黒鉛などが挙げられる。金属以外の酸化物、窒化物、炭化物としては、石英、窒化ホウ素、炭化ケイ素などが挙げられる。
これらの中でも、酸化アルミニウムやアルミニウムは、熱伝導率が高く、球状のものが入手しやすい点で好ましく、水酸化アルミニウムは入手し易く熱伝導性シートの難燃性を高めることができる点で好ましい。
絶縁性を有する非異方性充填材としては、上記した中でも、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、金属炭化物が挙げられるが、特に酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムが好ましい。
非異方性充填材は、上記したものを1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
非異方性充填材の平均粒径は0.1~50μmであることが好ましく、0.5~35μmであることがより好ましい。また、1~15μmであることが特に好ましい。平均粒径を50μm以下とすることで、鱗片状充填材及び繊維状充填材の配向を乱すなどの不具合が生じにくくなる。また、平均粒径を0.1μm以上とすることで、非異方性充填材の比表面積が必要以上に大きくならず、多量に配合しても液状組成物の粘度は上昇しにくく、非異方性充填材を高充填しやすくなる。
なお、非異方性充填材の平均粒径は、電子顕微鏡等で観察して測定できる。より具体的には、鱗片状充填材及び繊維状充填材における測定と同様に電子顕微鏡や光学顕微鏡、X線CT装置を用いて、任意の非異方性充填材50個の粒径を測定して、その平均値(相加平均値)を平均粒径とすることができる。
【0047】
熱伝導性シートにおける非異方性充填材の含有量は、高分子マトリクスの前駆体である樹脂100質量部に対して、50~1500質量部の範囲であることが好ましく、200~800質量部の範囲であることがより好ましい。50質量部以上とすることで、鱗片状充填材及び繊維状充填材の隙間に介在する非異方性充填材の量が一定量以上となり、熱伝導性が良好になる。一方、1500質量部以下とすることで、含有量に応じた熱伝導性を高める効果を得ることができ、また、非異方性充填材により鱗片状充填材及び繊維状充填材による熱伝導を阻害したりすることもない。また、200~800質量部の範囲内にすることで、熱伝導性シートの熱伝導性に優れ、液状組成物の粘度も好適となる。
なお、非異方性充填材の含有量は、体積%で表すと、熱伝導性シート全量に対して、10~75体積%が好ましく、30~60体積%がより好ましい。
なお、
図1における各単位層14は、実質的に同一の組成を有する。したがって、各単位層における鱗片状充填材、繊維状充填材、非異方性充填材、及び高分子マトリクスの前駆体である樹脂の含有量は、熱伝導性シートにおける含有量と同様であり、各単位層における鱗片状充填材、繊維状充填材、非異方性充填材、及び高分子マトリクスの前駆体である樹脂の含有量も、上記で述べたとおりとなる。
【0048】
(添加成分)
熱伝導性シートにおいて、高分子マトリクスには、さらに熱伝導性シートとしての機能を損なわない範囲で種々の添加剤を配合させてもよい。添加剤としては、例えば、分散剤、カップリング剤、粘着剤、難燃剤、酸化防止剤、着色剤、沈降防止剤などから選択される少なくとも1種以上が挙げられる。
また、硬化性シリコーン組成物を硬化させる場合には、添加剤として硬化を促進させる硬化触媒などが配合されてもよい。硬化触媒としては、白金系触媒が挙げられる。
【0049】
(熱伝導性シートのその他の特性)
熱伝導性シートのタイプE硬さは、例えば70以下である。熱伝導性シートは、タイプE硬さが70以下となることで、柔軟性が担保され、例えば、発熱体と放熱体などに対する追従性が良好となり、放熱性が良好となりやすい。柔軟性を向上させて、追従性などを優れたものとする観点から、熱伝導性シートのタイプE硬さは、好ましくは40以下である。より好ましくはタイプOO硬さで50以下である。
熱伝導性シートの硬さの下限は、特に限定されないが、例えばタイプOO硬さで15以上、好ましくは25以上である。また、タイプE硬さで20以上であることが特に好ましい。熱伝導性シートの硬さが柔らかいほど、圧縮したときに発熱体や放熱体またはそれらが配置される基板等への応力を小さくできるため好ましいが、硬さをタイプOO硬さで15以上とすることで、熱伝導性シートが所定の取扱性を備えるものとすることができる。特にE硬さで20以上とすれば、取扱性と柔らかさのバランスに優れるものとすることができる。
なお、上記タイプE硬さおよびタイプOO硬さはASTM D2240-05に規定された方法に従って、所定のデュロメータを用いて測定される値である。
【0050】
本実施形態では、熱伝導シートの両面のそれぞれにおいて、鱗片状充填材及び繊維状充填材の少なくつともいずれかが露出する。また、露出した鱗片状充填材及び繊維状充填材の少なくつともいずれかは、両面のそれぞれより突出していてもよい。熱伝導性シートは、両面に鱗片状充填材及び繊維状充填材の少なくともいずれかが露出することで、その露出面が非粘着面となる。なお、熱伝導性シートは、後述する刃物による切断により、両面が切断面となるので、通常は両面において鱗片状充填材及び繊維状充填材の少なくつともいずれかが露出する。
ただし、両面のいずれか一方又は両方は、鱗片状充填材及び繊維状充填材が露出せずに粘着面となってもよい。
【0051】
熱伝導性シートの厚さは、熱伝導性シートが搭載される電子機器の形状や用途に応じて、適宜変更される。熱伝導性シートの厚さは、特に限定されないが、例えば0.1~5mmの範囲で使用されるとよい。
また、各単位層の厚さは、特に限定されないが、0.1~5.0mmが好ましく、0.3~3.0mmがより好ましい。なお、単位層の厚さは、
図1でいえば、第3の方向に相当する長さ14Lである。
【0052】
本実施形態の係る熱伝導性シートは、電子機器内部などにおいて使用される。具体的には、熱伝導性シートは、発熱体と放熱体との間に介在させられ、発熱体で発した熱を熱伝導して放熱体に移動させ、放熱体から放熱させる。ここで、発熱体としては、電子機器内部で使用されるCPU、パワーアンプ、電源などの各種の電子部品が挙げられる。また、放熱体は、ヒートシンク、ヒートポンプ、電子機器の金属筐体などが挙げられる。熱伝導性シートは、その両面それぞれが、発熱体及び放熱体それぞれに密着し、かつ圧縮して使用される。
【0053】
<熱伝導性シートの製造方法>
本発明の熱伝導性シートの製造方法は、高分子マトリクス中に鱗片状充填材と繊維状充填材とを含む熱伝導性シートの製造方法であって、高分子マトリクスの前駆体である樹脂と鱗片状充填材と繊維状充填材とを含む混合物を調製する混合物調製工程と、前記混合物を所定形状にする際に流動配向処理により、前記鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と前記繊維状充填材の繊維軸方向とを同じ方向に配向させる配向処理工程とを含む熱伝導性シートの製造方法である。当該製造方法では、前記鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と前記繊維状充填材の繊維軸方向とを同じ方向に配向させるために流動配向を用いているため、磁場配向よりも確実に所望の配向状態を得ることができる。
なお、上記「所定形状」とはシート状、柱状等の特定の形状をいう。また、高い熱伝導性を得る観点から、鱗片状充填材と繊維状充填材との質量割合(鱗片状充填材/繊維状充填材)は55/45以上とすることが好ましい。
【0054】
当該熱伝導性シートの製造方法における好ましい態様としては、下記の第1~第8の方法が挙げられる。
【0055】
(第1の方法)
第1の方法は、配向処理工程において、前記混合物をシート状にする際に流動配向処理により、前記鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と前記繊維状充填材の繊維軸方向とを同じ方向に配向させ、この配向処理工程を経て得られた1次シートを複数用意し、前記複数の1次シートを積層させて積層ブロックを形成する工程と、前記積層ブロックを積層方向に沿ってシート状になるように切断する切断工程と、を含む熱伝導性シートの製造方法である。
【0056】
(第2の方法)
第2の方法は、混合物を押し出し成形、射出成形、又はプレス成形によって鱗片状充填材及び繊維状充填材を配向させながら板状に成形し、この成形された板を、鱗片状充填材及び繊維状充填材の配向方向を軸にして巻回し、これよって得られた成形体を、弾性体によって周囲から包囲する。その後、巻回の軸に垂直な面に沿って切断して板状の熱伝導性シートとする熱伝導性シートの製造方法である。
【0057】
(第3の方法)
第3の方法は、混合物を押し出し成形、射出成形、又はプレス成形によって鱗片状充填材及び繊維状充填材を配向させながら板状に成形し、この成形された板を、鱗片状充填材及び繊維状充填材の配向方向に沿って複数の板に切断し、該切断後の複数の板を上記配向方向を揃えて積層する。得られた成形体を、弾性体によって周囲から包囲し、配向方向に垂直な面に沿って切断して板状の熱伝導性シートとする熱伝導性シートの製造方法である。
【0058】
(第4の方法)
第4の方法は、前記混合物をシート状にする際に流動配向処理により、前記鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と前記繊維状充填材の繊維軸方向とを同じ方向に配向させる際に、混合物を成形ダイス内に設けられた配向部と圧縮部を通過させて熱伝導性シートとする熱伝導性シートの製造方法である。具体的には、複数の構造からなるダイスに通過させて、配向成形を行うものである。混合物はダイス内に設けられた複数のスリット又は円、又は多角形形状を持つ流路を通過することで混合物に配合された鱗片状充填材及び繊維状充填材をシートの厚さ方向に配向させ、引き続き、構成されたダイス内に設けた圧縮エリアを通過することで異方性を有する無機粒子の配向状態を乱すことなく成形させた後、金型出口よりブロック体として押し出される。成形体は樹脂に適した方法で硬化させた後、シートの幅方向で切断することで、熱伝導性シートが製造される。
【0059】
(第5の方法)
第5の方法は、まず混合物を押出機で押出して、押出方向に沿って鱗片状充填材及び繊維状充填材が配向した細長柱状の仮成型体を成型し、複数の上記仮成型体を長手方向と直交する方向に隣接するように整列させ、上記整列させた複数の仮成型体を上記整列方向と略直交する方向に配設させた積層体を得る。この積層体を硬化させることにより、上記積層体を構成する複数の仮成型体同士が一体化した本成型体を成型する。その後、上記本成型体を、上記仮成型体の長手方向と直交する方向に、所定の寸法に切断して熱伝導性シートとする熱伝導性シートの製造方法である。
【0060】
(第6の方法)
第6の方法は、まず、混合物に圧力をかけて、鱗片状充填材及び繊維状充填材の配向方向を、主たる面に対してほぼ平行な方向として1次シートを作製する。この1次シートを積層して積層体とする。この積層体の1次シート面から出る法線に対し5~40°の角度でスライスしてシート化して、前記鱗片状充填材の面方向が、熱伝導シートの表面に対して5~40°の範囲で傾いて配向している熱伝導シートを形成するか、又は、前記積層体を、1次シート面から出る法線に対しほぼ垂直の角度でスライスしてシート化した後、スライスシートをロールプレスすることで、前記鱗片状充填材の面方向が、熱伝導シートの表面に対して5~40°の範囲で傾いて配向している熱伝導シートを形成する熱伝導性シートの製造方法である。
【0061】
(第7の方法)
第7の方法は、まず、混合物に圧力をかけて、鱗片状充填材及び繊維状充填材の配向方向を、主たる面に対してほぼ平行な方向に配向した1次シートを作製する。この1次シートを前記鱗片状の黒鉛の配向方向を軸にして捲回して積層体とする。この積層体の1次シート面から出る法線に対し5~40°の角度でスライスしてシート化して、前記鱗片状の黒鉛の面方向が、熱伝導シートの表面に対して5~40°の範囲で傾いて配向している熱伝導シートを形成するか、又は、前記積層体を、前記1次シート面から出る法線に対しほぼ垂直の角度でスライスしてシート化した後、スライスシートをロールプレスすることで、前記鱗片状の黒鉛の面方向が、熱伝導シートの表面に対して5~40°の範囲で傾いて配向している熱伝導シートを形成する形成する熱伝導性シートの製造方法である。
【0062】
(第8の方法)
第8の方法は、連続する上下方向の隙間Xの第一ギャップ及び上下方向の隙間Yの第二ギャップを有するTダイを用い(ただし、X<Y)、厚み方向に鱗片状充填材及び繊維状充填材が配向した熱伝導性シートの製造方法である。具体的には、混合物を、前記第一ギャップ通過させて、鱗片状充填材及び繊維状充填材面方向に配向した樹脂成形前駆体を得る第一工程と、第二ギャップにおいて、第一ギャップを通過した樹脂成形前駆体を、押出方向に対して略垂直な方向に折り畳みながら融着させて樹脂成形品を得る第二工程と、を有する熱伝導性シートの製造方法である。ここで、記第一ギャップは0.5mm以上5.0mm以下であることが好ましく、第二ギャップは前記第一ギャップの2倍以上20倍以下であることが好ましい。
【0063】
上記の第1~第8の方法の中でも、
図1に示すような熱伝導性シートを作製することを考慮すると、第1の方法が好ましい。当該第1の方法について
図2を参照しながら説明する。
【0064】
(混合物調製工程、配向処理工程)
まず、高分子マトリクスの前駆体である樹脂(例えば硬化性シリコーン組成物)と、鱗片状充填材と繊維状充填材とを含む混合物(液状組成物)を調製する。液状組成物は、通常スラリーとなる。液状組成物には必要に応じて適宜添加成分がさらに混合されてもよい。ここで、液状組成物を構成する各成分の混合は、例えば公知のニーダー、混練ロール、ミキサーなどを使用するとよい。
【0065】
液状組成物の粘度は、シート成形の手段及び所望されるシートの厚みに応じて決定することができる。液状組成物を基材に塗工することによりシート成形を行う場合、液状組成物の粘度は50~10000Pa・sであることが好ましい。粘度を50Pa・s以上とすることで、剪断力を付与することにより、鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と、繊維状充填材の繊維軸方向とを1次シートの面方向に配向しやすくなる。また、10000Pa・s以下とすることで塗工性が良好となる。
なお、粘度とは、回転粘度計(ブルックフィールド粘度計DV-E、スピンドルSC4-14)を用いて、回転速度10rpmで測定された粘度であり、測定温度は液状組成物の塗工時の温度である。
【0066】
例えば、液状組成物である硬化性シリコーン組成物の場合は、通常、液体となるものであり、硬化性シリコーン組成物を構成する各成分(アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサンなど)の分子量などを適宜調整することで、上記粘度とするとよい。また、液状組成物には、上記粘度に調製するために必要に応じて有機溶剤が配合されてもよいが、有機溶剤は配合されないほうが好ましい。
【0067】
次に、液状組成物を、剪断力を付与しながらシート状に成形することにより、鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と、繊維状充填材の繊維軸方向とをシート面と平行な方向(すなわち、面方向)に配向させる。ここで、液状組成物は、例えば、バーコータ又はドクターブレード等の塗布用アプリケータ、もしくは、押出成形やノズルからの吐出等により、基材フィルム上に塗工するとよく、このような方法により、液状組成物の塗工方向に沿った剪断力を与えることができる。この剪断力を受けて、液状組成物中の鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と、繊維状充填材の繊維軸方向は塗工方向に配向する。
【0068】
(積層ブロックを形成する工程)
次に、シート状に成形された液状組成物を硬化させ、1次シートを得る。1次シートでは、上記のとおり、面方向に沿って鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と、繊維状充填材の繊維軸方向とが配向される。液状組成物の硬化は、液状組成物に含まれる硬化性シリコーン組成物を硬化することで行う。液状組成物の硬化は、加熱により行うとよいが、例えば、50~150℃程度の温度で行うとよい。また、加熱時間は、例えば10分~3時間程度である。
なお、液状組成物に溶剤が配合される場合には、溶剤は硬化時の加熱により揮発させるとよい。
【0069】
硬化により得られた1次シートの厚さは、0.1~5.0mmの範囲であることが好ましい。1次シートの厚さを上記範囲内とすることで、鱗片状充填材と繊維状充填材とを剪断力により面方向に適切に配向できるようになる。また、1次シートの厚さを0.1mm以上とすることで、基材フィルムから容易に剥離することができる。さらに、1次シートの厚さを5.0mm以下とすることで、1次シートが自重により変形したりすることを防止する。これら観点から1次シートの厚さは、より好ましくは0.3~3.0mmである。
【0070】
1次シートのタイプOO硬さは、6以上であることが好ましい。6以上とすることで、1次シートを積層する際に加圧しても1次シートがあまり広がらず、十分な厚さを有する積層ブロックを作製できる。そのような観点から、1次シートのタイプOO硬さは、10以上がより好ましく、15以上がさらに好ましい。
また、得られる熱伝導性シートの柔軟性を確保する観点から、1次シートのタイプE硬さは、70以下が好ましく、40以下がより好ましい。また、タイプOO硬さで50以下であることがさらに好ましい。
【0071】
(VUV照射工程)
ここで、硬化された1次シートの少なくとも一方の面に対して、VUV照射を行うことが好ましい。VUVとは、真空紫外線であり、波長が10~200nmの紫外線を意味する。VUVの光源としては、エキシマXeランプ、エキシマArFランプなどが挙げられる。
硬化された1次シートは、上記したようにシリコーン樹脂(オルガノポリシロキサン)を含むものであり、VUVを照射すると、VUVが照射された面は活性化される。1次シートは、後述するように、その活性化された一方の面が重ね合わせ面となるように、他の1次シートと重ね合わせることで、1次シート間が強固に接着されることになる。
その原理は定かではないが、シリコーン樹脂は、VUVが照射されると、オルガノポリシロキサンのC-Si結合が、Si-OHなどのSi-O結合に変化し、そのSi-O結合により、1次シート間が強固に接着されると推定される。すなわち、1次シートと1次シート(単位層14、14)は、オルガノポリシロキサンの分子間で結合が生じることで接着される。
VUV照射条件は、1次シートの表面を活性化できる条件であれば特に限定されないが、例えば積算光量が5~100mJ/cm2、好ましくは積算光量が10~50mJ/cm2となるようにVUVを照射するとよい。
【0072】
次に、複数の1次シート21を、
図2(a)及び(b)に示すように、鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と、繊維状充填材の繊維軸方向との配向方向が同じになるように積層する。ここで、各1次シート21は、上記したとおり、互いに接触する重ね合わせ面のいずれか一方の面が、予めVUV照射されていればよい。一方の面がVUV照射されていることで、その活性化された一方の面により隣接する1次シート21、21同士が接着される。また、接着性をより向上させる観点から、重ね合わせ面の両方がVUV照射されていることが好ましい。
すなわち、
図2(a)に示すように、1次シート21は、VUV照射された一方の面21Aを、他の1次シート21に接触するように重ね合わせるとよいが、この際、一方の面21Aに接触する、他の1次シート21の他方の面21BもVUV照射されることが好ましい。
【0073】
1次シート21は、上記のように重ね合わせるだけで接着可能であるが、より強固に接着させるために、1次シート21の積層方向xに加圧してもよい。加圧は、1次シート21が大きく変形しない程度の圧力で行うとよく、例えばローラやプレスを用いて加圧することができる。一例として、ローラを用いるときは、圧力を0.3~3kgf/50mmとすることが好ましい。
積層された1次シート21は、例えば加圧するときなどに適宜加熱されてもよいが、VUV照射により活性化された1次シート21は、加熱しなくても接着できるので、積層された1次シート21は、加熱しないことが好ましい。したがって、プレス時の温度は、例えば0~50℃、好ましくは10~40℃程度である。
【0074】
(切断工程)
次に、
図2(c)に示すように、刃物18によって、積層ブロック22を1次シート21の積層方向xに沿って切断し、熱伝導性シート10を得る。この際、積層ブロック22は、鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と、繊維状充填材の繊維軸方向との配向方向と直交する方向に切断するとよい。刃物18としては、例えば、カミソリ刃やカッターナイフ等の両刃や片刃、丸刃、ワイヤー刃、鋸刃等を用いることができる。積層ブロック22は、刃物18を用いて、例えば、押切、剪断、回転、摺動等の方法により切断される。
【0075】
なお、以上の製造方法では、シリコーン樹脂の原料として、加熱することで硬化される硬化性シリコーン組成物を使用した例を説明したが、シリコーン樹脂の原料は硬化性を有するものに限定されず、硬化性を有しないものを使用してもよい。そのような場合には、液状組成物は、シリコーン樹脂、鱗片状充填材、繊維状充填材、及びその他必要に応じて配合される添加成分の混合物を有機溶剤で希釈したものを使用するとよい。有機溶剤で希釈された液状組成物は、シート状に成形して、乾燥することで1次シートとして、その乾燥により得られた1次シートに対して、VUV照射を行うとよい。
【0076】
以上の説明では、熱伝導性シートにおける各単位層は、いずれも実質的に同一の組成を有する態様について説明したが、各単位層の組成は互いに異なっていてもよい。
また、各単位層は、鱗片状充填材及び繊維状充填材の含有量が互いに同一である必要はなく、一部の単位層における鱗片状充填材又は繊維状充填材の含有量を、他の単位層における鱗片状充填材又は繊維状充填材の含有量と異ならせてもよい。また、一部の単位層における鱗片状充填材又は繊維状充填材の種類を、他の単位層における鱗片状充填材又は繊維状充填材の種類と異ならせてもよい。
【0077】
以上のように、各単位層において鱗片状充填材や繊維状充填材の含有量、種類などを適宜調整することで、一部の単位層の熱伝導率が、他の単位層の熱伝導率より高くなるようにしてもよい。このような場合、熱伝導率が高い単位層と、熱伝導率が低い単位層とは、交互に並べてもよいが、交互に並べる必要もない。
【0078】
同様に、一部の単位層の導電率が、他の単位層の導電率より低くなるようにしてもよい。このような場合も、導電率が高い単位層と、導電率が低い単位層とは、交互に並べてもよいが、交互に並べる必要もない。単位層の一部の導電率を他の単位層より低くすることで、導電率が低い一部の単位層によって、第3の方向(
図1参照)に沿う導電が妨げられる。そのため、熱伝導性シート全体でも、第3の方向における導電率が低くなり、絶縁性を確保しやすくなる。なお、絶縁性をより確保しやすくするためには、導電率が低い単位層には、熱伝導性充填材を含有させないことが好ましい。
【0079】
また、複数の単位層のうち一部を熱伝導性を有する単位層とし、他の一部を光透過性を有する単位層としてもよい。熱伝導性を有する単位層は、上記のように熱伝導性充填材、好ましくは鱗片状充填材及び繊維状充填材と非異方性充填材を含有する層である。一方で、光透過性を有する単位層は、例えば、熱伝導性充填材を含有しない層とすればよい。このような構成によれば、熱伝導性シート全体でも、厚さ方向に沿って一定の熱伝導性と光透過性を有することになる。熱伝導性を有する単位層と、光透過性を有する単位層とは交互に並べてもよいが、交互に並べる必要もない。
【0080】
勿論、導電性充填材以外の構成を、単位層ごとに変更してもよい。例えば、一部の単位層のシリコーン樹脂の種類を、他の単位層のシリコーン樹脂の種類と変更してもよい。また、一部の単位層における添加成分の含有の有無、添加成分の種類、量などを、他の単位層と異ならせてもよい。
例えば、一部の単位層のシリコーン樹脂の種類又は量、熱伝導性充填材の種類又は量の少なくとも一部を、他の単位層と異ならせることで、一部の単位層の硬さ(タイプOO硬さ)を他の単位層の硬さと異ならせてもよい。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0082】
本実施例では、以下の方法により液状組成物(混合物)の粘度を測定し、熱伝導性シートの熱伝導率を評価した。
[液状組成物(混合物)の粘度の測定]
各例の液状組成物の粘度を、粘度計(BROOKFIELD製の回転粘度計DV-E)で、スピンドルSC4-14の回転子を用い、回転速度10rpm、測定温度25℃で測定した。結果を表1および表2に示す。
[熱伝導率]
作製した熱伝導性シートの厚み方向(
図1の第1の方向)の熱伝導率をASTM D5470-06に準拠した方法で測定した。また
図1の第2の方向及び第3の方向の熱伝導率もASTM D5470-06に準拠した方法で測定した。結果を表1および表2に示す。
なお、第2の方向の熱伝導率は、後述の各例の積層ブロックを、第2の方向が厚さ方向となるように切断した試験片(厚さ2mm)を測定した熱伝導率であり、第3の方向の熱伝導率は、各例の1次シート(
図2の1次シート21に相当、厚さ2mm)を測定した熱伝導率である。
また、
図1に示すような第2の方向の熱特性のレベルを百分率で示した。
具体的には、第1の方向と同等を“100%”、第3の方向と同等を“0%”となるように下記(1)式で計算した。
第2の方向の熱特性レベル=(λ2-λ3)/(λ1-λ3) ・・・・式(1)
λ1:第1の方向の熱伝導率
λ2:第2の方向の熱伝導率
λ3:第3の方向の熱伝導率
【0083】
[実施例1]
硬化性シリコーン組成物として、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(主剤)とハイドロジェンオルガノポリシロキサン(硬化剤)(合計で100質量部、体積充填率40体積%)と、鱗片状充填材として鱗片状黒鉛粉末(平均長軸長80μm、アスペクト比4~8、熱伝導率400W/m・K)71.5質量部(体積充填率12体積%)と、繊維状充填剤として黒鉛化炭素繊維(平均繊維長100μm、アスペクト比10、熱伝導率500W/m・K)58.5質量部(体積充填率10体積%)と、酸化アルミニウム(球状、平均粒径3μm、アスペクト比1.0)400質量部(体積充填率39体積%)と、を混合して、スラリー状の液状組成物(混合物)を得た。液状組成物の25℃における粘度は245Pa・sであった。
【0084】
液状組成物を、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の基材フィルム上に、25℃で塗布用アプリケータとしてバーコータを用いて一方向に塗布した。鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と、繊維状充填材の繊維軸方向は塗布方向に向き、塗布面の法線方向に短軸が向いていた。次に、塗布した液状組成物を、120℃で0.5時間加熱することで、液状組成物を硬化させることで、厚さ2mmの1次シートを得た。
【0085】
得られた1次シートそれぞれの両面に対して、VUV照射装置(商品名エキシマMINI、浜松ホトニクス社製)を用いて、室温(25℃)、大気中で1次シートの表面に積算光量20mJ/cm2の条件でVUVを照射した。次に、VUVを照射した1次シートを、100枚積層して、25℃の環境下、ローラにより1.6kgf/50mmの圧力で加圧して、積層ブロックを得た。得られた積層ブロックをカッター刃により、積層方向に平行で、かつ鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と、繊維状充填材の繊維軸方向の配向方向に垂直にスライスして、各単位層の厚さが2mmで、シート厚さが2mmの熱伝導性シートを得た。
【0086】
(実施例2~6,8、比較例1~4)
鱗片状充填材と繊維状充填剤との配合を表1および表2に示すように変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。なお、実施例8及び比較例4においては鱗片状充填材として平均長軸長40μmの鱗片状黒鉛粉末(アスペクト比3~6、熱伝導率400W/m・K)を用いた。
各実施例2~4において液状組成物の25℃における粘度は、いずれも267Pa・s以上であった。また、実施例5、実施例6、比較例3は、600Pa・sよりも高粘度であった。より詳しくは、経験的に600Pa・sを超えた程度から試料が回転子に追従できなくなり、回転子が空回りしてしまうため、適正な粘度が測定できなくなるため、「>600Pa・s」と表記した。
また、得られた熱伝導性シートは厚さが2mmで、各単位層の厚さは2mmであった。
【0087】
(実施例7)
鱗片状炭素粉末を窒化ホウ素粉末(平均長軸長40μm、アスペクト比4~8、熱伝導率100W/m・K)に変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。得られた熱伝導性シートは厚さが2mmで、各単位層の厚さは2mmであった。窒化ホウ素粉末の充填率が51.4体積%、黒鉛化炭素繊維の充填率が27.3体積%、シリコーン樹脂の充填率が36体積%、酸化アルミニウムの充填率が36体積%であった。なお、窒化ホウ素粉末及び黒鉛化炭素繊維は、鱗片面の法線方向が積層方向に向いていた。液状組成物の25℃における粘度は、325Pa・sであった。得られた熱伝導性シートは厚さが2mmで、各単位層の厚さは500μmであった。
【0088】
(比較例5)
実施例1と同じ液状組成物を、ブロック形状の型に流し込み、型内の成形材料に振動を与えながら、黒鉛化炭素繊維と鱗片状炭素粉末が型の上下方向に配向するように磁場発生装置内で10テスラの磁場を印加した。続いて、磁場発生装置から取り出した型を90℃で60分加熱して、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとハイドロジェンオルガノポリシロキサンを反応硬化させた後に、型から配向ブロックを取り出した。続いて、得られた配向ブロックをカッター刃により、配向方向(第1の方向)に垂直にスライスして、厚さ2mmの熱伝導性シートを得た。また、第2の方向の熱伝導率を測定する試験片は、前記第1の方向に垂直な任意の方向でスライスして作製し、第3の方向の熱伝導率を測定する試験片は、前記第1の方向および第2の方向の双方に垂直な断面でスライスして作製した。
【0089】
【0090】
実施例1~6、比較例1~3を比較すると、鱗片状充填剤/繊維状充填剤が55/45以上の割合で用いている実施例1~6は、いずれも黒鉛化炭素繊維と鱗片黒鉛粉末を併用していない比較例2または比較例3よりも第1の方向の熱伝導率が高いことがわかった。また、特に鱗片状充填剤/繊維状充填剤が60/40~95/5の範囲で優れた熱伝導率を備え、65/35~90/10の範囲で熱伝導率が最大となった。
【0091】
実施例1~6、比較例2および比較例3の粘度を比較すると、鱗片状充填剤の割合が大きいほど粘度が高くなることがわかった。一方、高粘度である実施例4および5においても高い熱伝導率を備えていることから、流動配向によって製造された熱伝導性シートは高粘度となる配合においても黒鉛化炭素繊維および鱗片黒鉛粉末を配向させることができることがわかった。
【0092】
実施例1~6、比較例2および比較例3の第2の方向の熱伝導率を比較すると、鱗片状充填剤の割合が大きいほど、第2の方向の熱伝導率が高まることがわかった。
【0093】
実施例7は、熱伝導率が13.5W/mKであった。例えば、繊維状充填剤を単独で用いた比較例2よりも優れた特性を備えており、窒化ホウ素を用いた場合でも、熱伝導率を高めることができることがわかった。
【0094】
実施例1と比較例5を比較すると、組成物としては同じ配合であるものの、第1の方向の熱伝導率に大きな差が生じることがわかった。鱗片状充填剤/繊維状充填剤が55/45であるこれらの試料は245Pa・sと高粘度であることから、磁場配向では鱗片状充填材の鱗片面の長軸方向と、繊維状充填材の繊維軸方向とが充分に配向しなかったものと思われる。
【符号の説明】
【0095】
10 熱伝導性シート
11 マトリクス
12 鱗片状充填材
13 繊維状充填剤
14 単位層