(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-13
(45)【発行日】2025-03-24
(54)【発明の名称】核酸構築物、及び該核酸構築物を含むミスマッチ修復欠損がんの治療剤又は診断剤
(51)【国際特許分類】
C12N 15/63 20060101AFI20250314BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20250314BHJP
C12Q 1/6886 20180101ALI20250314BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20250314BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20250314BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250314BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20250314BHJP
【FI】
C12N15/63 Z
C12N15/62 Z
C12Q1/6886 Z ZNA
A61K38/02
A61P35/02
A61P35/00
A61K48/00
(21)【出願番号】P 2022500487
(86)(22)【出願日】2021-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2021005382
(87)【国際公開番号】W WO2021162121
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2023-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2020023874
(32)【優先日】2020-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】足立 典隆
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/009361(WO,A1)
【文献】特開2013-230141(JP,A)
【文献】特表2005-517453(JP,A)
【文献】特開2017-201978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C12Q 1/00- 3/00
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロモーター領域と、タンパク質をコードする遺伝子配列の5'側領域及び3'側領域とを含む核酸構築物であって、前記5'側領域の下流側に第1の相同領域が、前記3'側領域の上流側に第2の相同領域がそれぞれ連結され、第1の相同領域及び第2の相同領域が互いに相同であ
り、前記5'側領域及び前記3'側領域は、タンパク質をコードする遺伝子配列を互いにオーバーラップする領域を持たせて2つに分割して設計された領域であり、前記5'側領域内の3'末部分に存在するオーバーラップ領域が前記第1の相同領域であり、前記3'側領域内の5'末部分に存在するオーバーラップ領域が前記第2の相同領域である、核酸構築物。
【請求項2】
核酸構築物は、プロモーター領域の下流に前記5'側領域及び前記3'側領域を含む環状の核酸構築物、若しくは該環状の核酸構築物を前記5'側領域及び前記3'側領域の間で切断した直鎖状の核酸構築物、又は、プロモーター領域の下流に前記5'側領域及び前記3'側領域を含む直鎖状の核酸構築物である、請求項1記載の核酸構築物。
【請求項3】
プロモーター領域と、タンパク質をコードする遺伝子配列の5'側領域及び3'側領域と、前記5'側領域の下流側に連結された第1の相同領域と、前記3'側領域の上流側に連結された第2の相同領域とが、異なる2つの核酸分子に配置されてなる、核酸構築物であって、第1の核酸分子が、前記プロモーター領域の下流に前記5'側領域及び第1の相同領域を含み、第2の核酸分子が、前記3'側領域及び第2の相同領域を含
み、前記5'側領域及び前記3'側領域は、タンパク質をコードする遺伝子配列を互いにオーバーラップする領域を持たせて2つに分割して設計された領域であり、前記5'側領域内の3'末部分に存在するオーバーラップ領域が前記第1の相同領域であり、前記3'側領域内の5'末部分に存在するオーバーラップ領域が前記第2の相同領域である、核酸構築物。
【請求項4】
前記3'側領域の下流にポリA付加シグナルを含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載の核酸構築物。
【請求項5】
前記第1の相同領域及び第2の相同領域の鎖長が4塩基~10000塩基である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の核酸構築物。
【請求項6】
前記第1の相同領域と前記第2の相同領域との間の相同性が40%~100%である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の核酸構築物。
【請求項7】
前記遺伝子配列は、細胞の生存率を低下させる作用を有するタンパク質、又は細胞内での発現を検出可能なタンパク質をコードする遺伝子配列である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の核酸構築物。
【請求項8】
前記遺伝子配列が、自殺遺伝子、DNA損傷誘発遺伝子、DNA修復阻害遺伝子、発光酵素遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、細胞表面抗原遺伝子、分泌タンパク質遺伝子、又は膜タンパク質遺伝子の配列である、請求項
7記載の核酸構築物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の核酸構築物を含む、ミスマッチ修復欠損がんの治療剤であって、前記遺伝子配列は、細胞の生存率を低下させる作用を有するタンパク質をコードする遺伝子配列である、治療剤。
【請求項10】
前記遺伝子配列が、自殺遺伝子、DNA損傷誘発遺伝子、又はDNA修復阻害遺伝子の配列である、請求項
9記載の治療剤。
【請求項11】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の核酸構築物を含む、ミスマッチ修復欠損がんの診断剤。
【請求項12】
前記遺伝子配列が、細胞内での発現を検出可能なタンパク質をコードする遺伝子配列である、請求項
11記載の診断剤。
【請求項13】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の核酸構築物を含む、ミスマッチ修復欠損がんに対する抗がん剤の効果を予測するためのコンパニオン診断剤。
【請求項14】
前記抗がん剤が免疫チェックポイント阻害薬である、請求項
13記載のコンパニオン診断剤。
【請求項15】
前記遺伝子配列が、細胞内での発現を検出可能なタンパク質をコードする遺伝子配列である、請求項
13又は
14記載のコンパニオン診断剤。
【請求項16】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の核酸構築物を、がん患者のがん細胞に導入すること;及び
前記タンパク質の発現を測定すること
を含む、ミスマッチ修復欠損がんを検出するための方法であって、前記がん細胞は、前記がん患者から分離された細胞であり、がん細胞への核酸構築物の導入が生体外で行われる、方法。
【請求項17】
前記タンパク質の活性を直接又は間接的に測定することにより、前記タンパク質の発現を測定する、請求項
16記載の方法。
【請求項18】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の核酸構築物を、がん患者のがん細胞に導入すること;及び
前記タンパク質の発現を測定すること
を含む、ミスマッチ修復欠損がんに対する抗がん剤の効果を予測するための方法であって、前記がん細胞は、前記患者から分離された細胞であり、がん細胞への核酸構築物の導入が生体外で行われる、方法。
【請求項19】
前記抗がん剤が免疫チェックポイント阻害薬である、請求項
18記載の方法。
【請求項20】
請求項3に記載された核酸構築物の製造方法であって、前記プロモーター領域、前記タンパク質をコードする遺伝子配列、及びポリA付加シグナルを含む、前記タンパク質の発現ベクターを鋳型とし、プロモーターの上流に設定したフォワードプライマー1-1と、遺伝子配列中の部分領域αに設定したリバースプライマー1-2とのセット1を用いたPCRにより、前記第1の核酸分子を増幅すること、並びに、前記発現ベクターを鋳型とし、遺伝子配列中の別の部分領域であって、部分領域αよりも上流側の部分領域βに設定したフォワードプライマー2-1と、ポリA付加シグナルの下流又は遺伝子配列とポリA付加シグナルの間に設定したリバースプライマー2-2とのセット2を用いたPCRにより、前記第2の核酸分子を増幅することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸構築物、及び該核酸構築物を含むミスマッチ修復欠損がんの治療剤又は診断剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ミスマッチ修復は、細胞が備えているDNA損傷修復機構の一つであり、ゲノムの安定性維持に重要な役割を果たしている(非特許文献1、2)。ヒト細胞では、MSH2、MSH6、MLH1、PMS2などの遺伝子にコードされるタンパク質がミスマッチ修復に関与しており、これらの因子を欠損した細胞はミスマッチ修復活性を失う。これらのミスマッチ修復タンパク質の遺伝子発現に影響を与える因子の異常もミスマッチ修復欠損の原因となる。
【0003】
ミスマッチ修復の欠損は、さまざまながんを引き起こす(DNA中の塩基の不対合(ミスマッチ)が修復されずに残っているとゲノム変異が蓄積し、これが高発がん性の原因となる。)。家族性(遺伝性)腫瘍としてリンチ症候群(別名:遺伝性非ポリポーシス大腸がん(HNPCC))が有名であるが、散発性(非遺伝性)のさまざまながん(特に大腸がんや子宮内膜がん)においてもミスマッチ修復因子の欠損が多数報告されている(非特許文献3)。
【0004】
ミスマッチ修復欠損がんの診断は、マイクロサテライト不安定性(MSI)もしくは上記4因子の免疫染色によって行われている。ただし、両者の結果の一致率は100%ではない(非特許文献4)。また、特に後者の方法では4因子以外の異常を原因とするミスマッチ修復欠損を見逃してしまう恐れがある(これは4因子の遺伝子診断においても同様である)。いずれの方法も診断には数日から数週間を要する。
【0005】
治療に関しては、ごく最近ミスマッチ修復欠損がんに対する免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体など)の奏効率が高いことが見いだされ、大きな注目を集めている(非特許文献3、5)。ただし、免疫チェックポイント阻害薬には免疫抑制に起因する自己免疫疾患の副作用があり、致死的な例もあることが報告されており、より安全かつ安価な治療法の開発も重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Jiricny J (2006) The multifaceted mismatch-repair system. Nat Rev Mol Cell Biol7(5):335-346.
【文献】Harfe BD and Jinks-Robertson S (2000) DNA mismatch repair and genetic instability. Annu Rev Genet 34:359-399.
【文献】Le DT et al. Science. 2017 Jul 28;357(6349):409-413
【文献】Hampel H et al. N Engl J Med 352:1851-1860, 2015
【文献】Le DT et al. N Engl J Med 2015; 372: 2509-2520.
【文献】Stark JM et al. Mol Cell Biol. 2004 Nov;24(21):9305-9316.
【文献】Mendez-Dorantes C et al. Genes Dev. 2018 Apr 1;32(7-8):524-536.
【文献】Ochiai H et al. Genes Cells. 2010 Aug;15(8):875-885.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
細胞や組織、個体におけるミスマッチ修復活性の有無を簡便迅速に検出できるようになれば、がん種を問わず、リンチ症候群も含めたミスマッチ修復欠損がんの診断・治療にきわめて有用な方法になると期待される。例えば、免疫チェックポイント阻害薬によるがん治療においては、事前にミスマッチ修復が正常か否かの診断ができれば、奏効率の低い患者に投与して重篤な副作用を発現させてしまうリスクを回避できる。
【0008】
従って、本発明の目的は、ミスマッチ修復活性の有無を簡便迅速に検出することを可能にし、ミスマッチ修復欠損がんの診断や治療に有用な手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、タンパク質をコードする遺伝子配列を2つの断片に分割し、2つの断片に互いに相同な領域を持たせて発現ベクターに組み込んだ核酸構築物を設計し、該核酸構築物を細胞内に導入すると、ミスマッチ修復活性が損なわれている細胞内において一本鎖アニーリング(SSA)機構により遺伝子配列が再現され、これにコードされるタンパク質の活性が発現されることを見出し、本願発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、プロモーター領域と、タンパク質をコードする遺伝子配列の5'側領域及び3'側領域とを含む核酸構築物であって、前記5'側領域の下流側に第1の相同領域が、前記3'側領域の上流側に第2の相同領域がそれぞれ連結され、第1の相同領域及び第2の相同領域が互いに相同である、核酸構築物、及び該核酸構築物の利用に関する発明であり、以下の態様を包含する。
【0011】
[1] プロモーター領域と、タンパク質をコードする遺伝子配列の5'側領域及び3'側領域とを含む核酸構築物であって、前記5'側領域の下流側に第1の相同領域が、前記3'側領域の上流側に第2の相同領域がそれぞれ連結され、第1の相同領域及び第2の相同領域が互いに相同である、核酸構築物。
[2] 核酸構築物は、プロモーター領域の下流に前記5'側領域及び前記3'側領域を含む環状の核酸構築物、若しくは該環状の核酸構築物を前記5'側領域及び前記3'側領域の間で切断した直鎖状の核酸構築物、又は、プロモーター領域の下流に前記5'側領域及び前記3'側領域を含む直鎖状の核酸構築物である、[1]記載の核酸構築物。
[3] プロモーター領域と、タンパク質をコードする遺伝子配列の5'側領域及び3'側領域と、前記5'側領域の下流側に連結された第1の相同領域と、前記3'側領域の上流側に連結された第2の相同領域とが、異なる2つの核酸分子に配置されてなる、核酸構築物であって、第1の核酸分子が、前記プロモーター領域の下流に前記5'側領域及び第1の相同領域を含み、第2の核酸分子が、前記3'側領域及び第2の相同領域を含む、核酸構築物。
[4] 前記5'側領域及び前記3'側領域は、タンパク質をコードする遺伝子配列を互いにオーバーラップする領域を持たせて2つに分割して設計された領域であり、前記5'側領域内の3'末部分に存在するオーバーラップ領域が前記第1の相同領域であり、前記3'側領域内の5'末部分に存在するオーバーラップ領域が前記第2の相同領域である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の核酸構築物。
[5] 前記第1の相同領域及び前記第2の相同領域は、非コード配列又は前記タンパク質とは異なるタンパク質をコードする配列の少なくとも一部からなる、[1]~[3]のいずれか1項に記載の核酸構築物。
[6] 前記3'側領域の下流にポリA付加シグナルを含む、[1]~[5]のいずれか1項に記載の核酸構築物。
[7] 前記第1の相同領域及び第2の相同領域の鎖長が4塩基~10000塩基である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の核酸構築物。
[8] 前記第1の相同領域と前記第2の相同領域との間の相同性が40%~100%である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の核酸構築物。
[9] 前記遺伝子配列は、細胞の生存率を低下させる作用を有するタンパク質、又は細胞内での発現を検出可能なタンパク質をコードする遺伝子配列である、[1]~[8]のいずれか1項に記載の核酸構築物。
[10] 前記遺伝子配列が、自殺遺伝子、DNA損傷誘発遺伝子、DNA修復阻害遺伝子、発光酵素遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、細胞表面抗原遺伝子、分泌タンパク質遺伝子、又は膜タンパク質遺伝子の配列である、[9]記載の核酸構築物。
[11] [1]~[10]のいずれか1項に記載の核酸構築物を含む、ミスマッチ修復欠損がんの治療剤であって、前記遺伝子配列は、細胞の生存率を低下させる作用を有するタンパク質をコードする遺伝子配列である、治療剤。
[12] 前記遺伝子配列が、自殺遺伝子、DNA損傷誘発遺伝子、又はDNA修復阻害遺伝子の配列である、[11]記載の治療剤。
[13] [1]~[10]のいずれか1項に記載の核酸構築物を含む、ミスマッチ修復欠損がんの診断剤。
[14] 前記遺伝子配列が、細胞内での発現を検出可能なタンパク質をコードする遺伝子配列である、[13]記載の診断剤。
[15] [1]~[10]のいずれか1項に記載の核酸構築物を含む、ミスマッチ修復欠損がんに対する抗がん剤の効果を予測するためのコンパニオン診断剤。
[16] 前記抗がん剤が免疫チェックポイント阻害薬である、[15]記載のコンパニオン診断剤。
[17] 前記遺伝子配列が、細胞内での発現を検出可能なタンパク質をコードする遺伝子配列である、[15]又は[16]記載のコンパニオン診断剤。
[18] [1]~[10]のいずれか1項に記載の核酸構築物であって、前記遺伝子配列が細胞の生存率を低下させる作用を有するタンパク質をコードする遺伝子配列である核酸構築物を、ミスマッチ修復欠損がんを有する患者に投与することを含む、ミスマッチ修復欠損がんの治療方法。
[19] [1]~[10]のいずれか1項に記載の核酸構築物を、がん患者のがん細胞に導入すること;及び
前記タンパク質の発現を測定すること
を含む、ミスマッチ修復欠損がんの診断方法。
[20] 前記タンパク質の活性を直接又は間接的に測定することにより、前記タンパク質の発現を測定する、[19]記載の方法。
[21] 前記がん細胞は、前記がん患者から分離された細胞であり、がん細胞への核酸構築物の導入が生体外で行われる、[19]又は[20]記載の方法。
[22] 前記タンパク質が、細胞内での発現をシグナルとして検出可能なタンパク質であり、前記がん細胞への核酸構築物の導入が、前記がん患者に核酸構築物を投与することにより行われ、がん病巣部から前記タンパク質のシグナルが検出されるかどうかを調べる、[19]又は[20]記載の方法。
[23] 前記タンパク質が、細胞内での発現を検出可能な分泌型のタンパク質であり、前記がん細胞への核酸構築物の導入が、前記がん患者に核酸構築物を投与することにより行われ、核酸構築物投与後の患者から分離された血液中の前記タンパク質の活性を測定する、[19]又は[20]記載の方法。
[24] [1]~[10]のいずれか1項に記載の核酸構築物を、がん患者のがん細胞に導入すること;及び
前記タンパク質の発現を測定すること
を含む、ミスマッチ修復欠損がんに対する抗がん剤の効果を予測する方法。
[25] 前記抗がん剤が免疫チェックポイント阻害薬である、[24]記載の方法。
[26] 前記がん細胞は、前記患者から分離された細胞であり、がん細胞への核酸構築物の導入が生体外で行われる、[24]又は[25]記載の方法。
[27] 前記タンパク質が細胞内での発現をシグナルとして検出可能なタンパク質であり、前記がん細胞への核酸構築物の導入が、前記患者に核酸構築物を投与することにより行われ、がん病巣部から前記タンパク質のシグナルが検出されるかどうかを調べる、[24]又は[25]記載の方法。
[28] 前記タンパク質が、細胞内での発現を検出可能な分泌型のタンパク質であり、前記がん細胞への核酸構築物の導入が、前記がん患者に核酸構築物を投与することにより行われ、核酸構築物投与後の患者から分離された血液中の前記タンパク質の活性を測定する、[24]又は[25]記載の方法。
[29] [3]に記載された核酸構築物の製造方法であって、前記プロモーター領域、前記タンパク質をコードする遺伝子配列、及びポリA付加シグナルを含む、前記タンパク質の発現ベクターを鋳型とし、プロモーターの上流に設定したフォワードプライマー1-1と、遺伝子配列中の部分領域αに設定したリバースプライマー1-2とのセット1を用いたPCRにより、前記第1の核酸分子を増幅すること、並びに、前記発現ベクターを鋳型とし、遺伝子配列中の別の部分領域であって、部分領域αよりも上流側の部分領域βに設定したフォワードプライマー2-1と、ポリA付加シグナルの下流又は遺伝子配列とポリA付加シグナルの間に設定したリバースプライマー2-2とのセット2を用いたPCRにより、前記第2の核酸分子を増幅することを含む、方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、一本鎖アニーリングを利用してミスマッチ修復欠損を検知できる核酸構築物が提供される。本発明の核酸構築物によれば、ミスマッチ修復活性の有無を一過性発現系にてごく短時間で検出できる。自殺遺伝子等の、細胞の生存率を低下させる作用を有するタンパク質をコードする遺伝子配列を利用することで、ミスマッチ修復を欠損したがん細胞を効率的に殺傷することができる。また、ルシフェラーゼ遺伝子や蛍光タンパク質遺伝子等の、細胞内での発現を検出可能なタンパク質をコードする遺伝子配列を利用することで、ミスマッチ修復欠損がんを検出することができる。本発明は、がん種を問わず、リンチ症候群も含めた様々なミスマッチ修復欠損がんの診断・治療に大いに貢献する。また、本発明の核酸構築物は、ミスマッチ修復や一本鎖アニーリングの反応を正又は負に制御する因子や阻害剤・活性化剤などの探索や、がん患者で同定された遺伝子変異がミスマッチ修復活性を損なわせる変異であるかどうかの予測にも応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1-1】実施例の1-1.で作製した、自殺遺伝子DT-Aを利用した核酸構築物(一体型)の構造及びメカニズムを説明する図である。
【
図1-2】実施例の1-1.で作製した、ルシフェラーゼ遺伝子を利用した核酸構築物(一体型)の構造及びメカニズムを説明する図である。
【
図2】実施例においてプラスミドベクター型の核酸構築物の作製に使用したpIRESの構造図である(ClontechのpIRES Vector Informationの構造図を一部改変)。
【
図3】実施例で作製した、自殺遺伝子DT-Aを利用し相同領域(オーバーラップ領域)の相同性を100%とした一体型の核酸構築物の構造図である。
【
図4】実施例で作製した、自殺遺伝子DT-Aを利用し相同領域(オーバーラップ領域)の相同性を低下させた一体型の核酸構築物の構造図である。
【
図5】実施例で作製した、ルシフェラーゼ遺伝子を利用した一体型の核酸構築物の構造図である。
【
図6】自殺遺伝子DT-Aを用いて作製した一体型の核酸構築物(SA-DTAコンストラクト)の殺細胞効果をコロニー形成法により調べた結果である。
【
図7】一体型のSA-DTAコンストラクトの殺細胞効果を増殖阻害試験により調べた結果である。
【
図8】一体型のSA-DTAコンストラクトの殺細胞効果を増殖阻害試験により調べた結果である。
【
図9】ルシフェラーゼ遺伝子を用いて作成した一体型の核酸構築物(SA-Nlucコンストラクト)をNalm-6細胞にトランスフェクションし、ルシフェラーゼアッセイを行なった結果である。
【
図10】一体型のSA-NlucコンストラクトをNalm-6細胞にトランスフェクションし、ルシフェラーゼアッセイを行なった結果である。
【
図11】相同領域間の相同性を変化させた一体型のSA-Nlucコンストラクトを使った実験結果の一例である。
【
図12】一体型のSA-DTAコンストラクトにおける相同領域のサイズの違いが殺細胞効果に及ぼす影響を調べた結果である。
【
図13】一体型のpCMV-SA-Nluc-spacerコンストラクトをNalm-6細胞及びそのMSH2復帰細胞(Nalm-6 +MSH2)にトランスフェクションし、ルシフェラーゼアッセイを行った結果の一例である。
【
図14】一体型のpCMV-SA-Nluc-spacerコンストラクトをHCT116細胞及びそのMLH1復帰細胞(HCT116 +MLH1)にトランスフェクションし、ルシフェラーゼアッセイを行った結果の一例である。
【
図15】SA-Nlucコンストラクトの一体型(pCMV-SA-Nluc)及び分割型(pCMV-5'Nluc + 3'Nluc-pA)をそれぞれNalm-6細胞にトランスフェクションし、ルシフェラーゼアッセイを行った結果の一例である。
【
図16】相同領域の相同性を低下させた分割型のSA-NlucコンストラクトをNalm-6細胞にトランスフェクションし、ルシフェラーゼアッセイを行った結果の一例である。
【
図17】SA-DTAコンストラクトの一体型(pCMV-SA-DTA)及び分割型(pCMV-5'DTA + 3'DTA-pA)をそれぞれNalm-6細胞にトランスフェクションし、コロニー形成法により殺細胞効果を評価した結果の一例である。
【
図18】実施例で作製した、自殺遺伝子HSV-TKを利用した一体型pCMV-SA-TKコンストラクトの構造図である。
【
図19】一体型pCMV-SA-TKコンストラクトをNalm-6細胞にトランスフェクションし、増殖阻害試験により殺細胞効果を評価した結果の一例である。遺伝子導入6日後の細胞の生存率を、ガンシクロビル(GANC)非添加時を100とした場合の相対値で示す。
【
図20】一体型pCMV-SA-TKコンストラクトをNalm-6細胞にトランスフェクションし、コロニー形成法により殺細胞効果を評価した結果の一例である。
【
図21】分泌型ルシフェラーゼ遺伝子を利用した一体型のpCMV-SA-SecNlucコンストラクトを細胞にトランスフェクションし、培養上清を用いてルシフェラーゼアッセイを行った結果の一例である。
【
図22】相同領域の鎖長を40bpとし、相同領域間の相同性を低下させたSA-Nlucコンストラクト(相同性100%, 90%, 70%, 60%, 50%)をNalm-6細胞にトランスフェクションし、ルシフェラーゼアッセイを行った結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の核酸構築物は、プロモーター領域と、タンパク質をコードする遺伝子配列の5'側領域及び3'側領域とを含む。5'側領域の下流側には第1の相同領域が連結され、3'側領域の上流側には第2の相同領域が連結される。第1の相同領域及び第2の相同領域は互いに相同な塩基配列を有する。
【0015】
本発明の核酸構築物には、1つの核酸分子で構成される一体型の核酸構築物、及び、2つの核酸分子で構成される分割型の核酸構築物が包含される。
【0016】
一体型の核酸構築物では、[プロモーター領域]、[5'側領域+第1の相同領域]、及び[第2の相同領域+3'側領域]が、同一の核酸分子上に配置される。3'側領域の下流には、ポリA付加シグナルが配置されていてもよいし、配置されていなくてもよい。ヒストンのmRNAのように、ポリAを持たずに適切に機能するmRNAが知られており、本発明の核酸構築物においてもポリA付加シグナルを省略することは可能である。
【0017】
分割型の核酸構築物では、[プロモーター領域]、[5'側領域+第1の相同領域]、及び[第2の相同領域+3'側領域]が、異なる2つの核酸分子に配置される。第1の核酸分子は、[プロモーター領域]及び[5'側領域+第1の相同領域]を含み、プロモーター領域の下流に5'側領域+第1の相同領域が配置される。第2の核酸分子は、[第2の相同領域+3'側領域]を含む。[第2の相同領域+3'側領域]の下流にはポリA付加シグナルが配置されていてもよいし、配置されていなくてもよい。一体型のコンストラクト同様、ポリA付加シグナルは省略可能である。
【0018】
以下、本明細書において、単に「本発明の核酸構築物」といった場合には、一体型及び分割型の両方を包含する。
【0019】
本発明の核酸構築物において、プロモーターは特に限定されず、細胞内(典型的にはヒト細胞等の哺乳動物細胞)でプロモーター活性を発揮できるものであればいかなるものであってもよい。一般には、本発明の核酸構築物を導入する細胞内で恒常的に強いプロモーター活性を発揮するものを好ましく用いることができるが、一定の条件下でプロモーター活性を発揮する誘導性のプロモーターを用いてもよい。下記実施例では、細胞内で恒常的に強いプロモーター活性を発揮するヒトサイトメガロウイルスプロモーターを利用しているが、これに限定されない。ウイルス由来のプロモーターにも限定されず、細胞内において、好ましくはヒト細胞内において、プロモーター活性を有する配列であればよく、由来は問わない。
【0020】
本発明の核酸構築物に採用する遺伝子配列は、タンパク質をコードする遺伝子配列であれば特に限定されない。以下、本明細書において、この遺伝子配列にコードされるタンパク質をタンパク質Aと呼ぶことがある。タンパク質Aは、発現量の測定を迅速簡便に行うことができるタンパク質であることが好ましく、例えば、タンパク質の生産量ないしは蓄積量そのものを測定するのではなく、タンパク質の活性を直接的に、又は、タンパク質の活性により細胞に生じる表現型の変化などを指標として間接的に測定できるものをタンパク質Aとして用いることが好ましい。そのようなタンパク質の例として、基質との反応による発光やタンパク質自体の蛍光等のシグナルにより、細胞内での発現を検出可能なタンパク質を挙げることができる。別の例として、細胞の生存率を低下させる作用を有するタンパク質を挙げることができ、この場合、細胞生存率の低下としてタンパク質の活性を間接的に測定することができる。
【0021】
「タンパク質Aの発現(発現量)を測定する」という語には、タンパク質Aの生産量ないしは蓄積量を測定すること、及びタンパク質Aの活性を測定することが包含される。上述したように、本発明においては、タンパク質Aの活性を直接的又は間接的に測定することにより、タンパク質Aの発現を測定すること、すなわち、その活性を直接的又は間接的に測定可能なタンパク質をタンパク質Aとして採用することが好ましい。
【0022】
細胞の生存率を低下させる作用を有するタンパク質をコードする遺伝子の具体例としては、自殺遺伝子、DNA損傷誘発遺伝子、DNA修復阻害遺伝子等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0023】
自殺遺伝子には、それ自体が細胞に対する毒性ないしは傷害性を有するタンパク質をコードする遺伝子、他の化合物に作用して毒性物質を発生させるタンパク質をコードする遺伝子、及び、ドミナントネガティブ効果により、内在性のタンパク質を阻害することで細胞毒性を発揮する天然または非天然のタンパク質をコードする遺伝子が包含される。自殺遺伝子の具体例としては、ジフテリア毒素Aフラグメント遺伝子(DT-A)(DT-Aタンパク質自体が細胞に対する毒性を有し、細胞を殺傷する)、ヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼ遺伝子(HSV-tk)(HSV-tkタンパク質がガンシクロビルや5-iodo-2'-fluoro-2'deoxy-1-beta-D-arabino-furanosyl-uracil(FIAU)などに作用し、DNA合成阻害活性を有する毒性物質に変化させる;この遺伝子を自殺遺伝子として用いる場合、細胞をガンシクロビルやFIAUなどで処理する必要がある)、p53遺伝子(過剰発現により細胞の増殖周期の停止又はアポトーシスが誘導され、細胞が死滅する)等を挙げることができる。自殺遺伝子のさらなる具体例として、制限酵素やメガヌクレアーゼに代表される天然のヌクレアーゼ、および、ZFNやTALEN、CRISPRシステムに代表される人工ヌクレアーゼを挙げることができる(これらはDNA損傷誘発遺伝子の具体例にも該当する)。もっとも、自殺遺伝子はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0024】
細胞内での発現を検出可能なタンパク質をコードする遺伝子としては、ルシフェラーゼ遺伝子(分泌型ルシフェラーゼをコードする遺伝子を包含する)等の発光酵素遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子(GFP、CFP、OFP、RFP、YFP、及びこれらの改変型などを包含する、天然又は人工の蛍光タンパク質をコードする遺伝子)、細胞表面抗原遺伝子、分泌タンパク質遺伝子、膜タンパク質遺伝子を挙げることができるが、これらに限定されない。発光酵素遺伝子及び蛍光タンパク質遺伝子は、細胞内での発現を発光又は蛍光等のシグナルとして検出可能なタンパク質をコードする遺伝子であり、本発明で好ましく使用できる遺伝子の一例である。
【0025】
本発明の核酸構築物は、一体型、分割型のどちらも、第1及び第2の相同領域のタイプにより2つの態様に大別できる。
【0026】
第1の態様では、第1及び第2の相同領域は、5'側領域及び3'側領域が由来する遺伝子配列の一部に由来する。すなわち、第1及び第2の相同領域は、タンパク質Aをコードする遺伝子配列の一部、又はこれと一定以上の相同性を有する塩基配列を有する。この態様において、5'側領域及び3'側領域は、タンパク質をコードする遺伝子配列を互いにオーバーラップする領域を持たせて2つに分割して設計することができる。5'側領域内の3'末部分に存在するオーバーラップ領域が第1の相同領域として機能し、3'側領域内の5'末部分に存在するオーバーラップ領域が第2の相同領域として機能する。下記実施例のA-1-1~A-1-3、B-1-1~B-1-4、及びC-1は、この第1の態様の核酸構築物である。
【0027】
第2の態様では、第1及び第2の相同領域は、5'側領域及び3'側領域が由来する遺伝子配列とは異なる塩基配列に由来し、非コード配列、又はタンパク質Aとは異なるタンパク質をコードする配列の少なくとも一部からなる。後者の場合、タンパク質Aとは異なるタンパク質は、核酸構築物を導入する細胞、ないしは核酸構築物を投与する対象の生物種において、天然には存在しないタンパク質であってもよいし、当該生物種において天然に存在するタンパク質であってもよい。非コード配列は、天然には存在しない人工的な配列であってもよい。
【0028】
いずれの態様においても、第1の相同領域と第2の相同領域の間の相同性は、両者の間で一本鎖アニーリングが生じるのに十分なだけの相同性を有していればよい。下記実施例に示すように、本発明の核酸構築物は、相同領域のサイズを20bpまで短くし、かつ相同性を85%まで落としても機能することから、相同領域の中に、相同性が85%以上、例えば90%以上、95%以上、又は100%である少なくとも20bpの連続領域が含まれていれば、核酸構築物は機能する。従って相同性の数値は全く制限されない。相同領域全長で比較した場合の相同領域間の相同性は、特に限定されないが、例えば、40%~100%、45%~100%、51%~100%、52%~100%、53%~100%、54%~100%、55%~100%、56%~100%、57%~100%、58%~100%、59%~100%、60%~100%、65%~100%、70%~100%、75%~100%、80%~100%、85%~100%、90%~100%、又は95%~100%であってよいし、相同性の上限値は100%未満、例えば98%以下、97%以下、96%以下、又は95%以下であってもよい。また、相同領域のサイズも特に限定されず、細胞内で一本鎖アニーリングが生じるのに十分なだけの鎖長があればよく、例えば4塩基以上、10塩基以上、又は15塩基以上であってよい。上限も特に限定されないが、通常は10,000塩基以下であり、例えば5,000塩基以下、1,000塩基以下、700塩基以下、500塩基以下、又は200塩基以下とすることができる。なお、本発明において、核酸の鎖長の単位は「塩基」と表現するが、核酸が二本鎖核酸の場合は「塩基対」を意味する。
【0029】
一本鎖アニーリングが生じない場合に、タンパク質Aの活性を発揮できるタンパク質A断片が5'側領域から発現しないように、5'側領域に採用するタンパク質A遺伝子配列の鎖長を設定する必要がある。タンパク質Aの種類に応じて5'側領域のサイズを適宜設定すればよいが、一般には、5'側領域に採用するタンパク質A断片のサイズはタンパク質A全長の35/100以下、例えば30/100以下、25/100以下、又は20/100以下とすればよい。
【0030】
本発明の核酸構築物に利用する5'側領域及び3'側領域は、タンパク質Aをコードする遺伝子が組み込まれた公知のプラスミドや、タンパク質Aを発現する生物種の培養細胞又はcDNAライブラリーより、適当なプライマーを用いたPCRによって増幅して調製することができる。タンパク質Aをコードする2つの遺伝子断片の3'末には、終止コドンを導入する。PCR増幅の際には、終止コドンの他、本発明の核酸構築物をクローニングする際に利用する適当なアダプター配列等を2つの遺伝子断片に導入してもよい。3'側領域の下流には、通常、ポリA付加シグナルが配置される。分割型の核酸構築物では、通常、第2の核酸分子にポリA付加シグナルが配置される。もっとも、上述したように、ポリA付加シグナルは必須のエレメントではない。
【0031】
本発明の核酸構築物は、プラスミドベクターに5'側領域等の各エレメントが組み込まれたものであってもよいし、ウイルスベクターに5'側領域等の各エレメントが組み込まれたものであってもよく、また、各エレメントがベクターに組み込まれていない核酸断片の形態であってもよい。分割型の核酸構築物の場合、2つの核酸分子のうち、両方がベクターに組み込まれた形態でもよく、両方がベクターに組み込まれていない核酸断片の形態でもよく、また、一方がベクターに組み込まれ他方がベクターに組み込まれていない形態であってもよい。
【0032】
一体型の核酸構築物は、ベクター中に5'側から下流側に向かって[プロモーター領域]-[5'側領域+第1の相同領域]-[第2の相同領域+3'側領域]の順序に配置される。ポリA付加シグナルを含む場合、通常、3'側領域の下流に配置される。ベクターに組み込まれていない核酸断片の形態である場合も、5'側からの各エレメントの配置は上記と同様である。治療剤や診断剤等の各種用途に用いる場合、プラスミドベクターを利用した一体型の核酸構築物は、プロモーター領域の下流に[5'側領域+第1の相同領域]及び[第2の相同領域+3'側領域]をこの順番で含む環状の核酸構築物の形態のままで用いてもよいし、この環状の核酸構築物を[5'側領域+第1の相同領域]と[第2の相同領域+3'側領域]の間で切断して直鎖状とした形態で用いてもよい。ウイルスベクターを利用したバージョン1の核酸構築物は、プロモーター領域の下流に[5'側領域+第1の相同領域]及び[第2の相同領域+3'側領域]をこの順番で含む直鎖状の核酸構築物であってよい。また、ベクターに組み込まれていない形態の一体型核酸構築物は、プロモーター領域の下流に[5'側領域+第1の相同領域]及び[第2の相同領域+3'側領域]をこの順番で含む直鎖状の核酸構築物であってよい。
【0033】
分割型の核酸構築物における各エレメントの配置は上述の通りである。第1の核酸分子では、5'側から下流側に向かってプロモーター領域及び5'側領域+第1の相同領域が配置され、第2の核酸分子は、第2の相同領域+3'側領域を含み、その下流にはポリA付加シグナルが配置されていてよい。第1の核酸分子が環状である場合、環状のまま各種用途に使用してもよいし、第1の相同領域の下流側の任意の位置(第1の相同領域の3'末端より数百塩基~2000塩基程度以上離れた位置でもよい)にて切断して直鎖状としたものを用いてもよい。第2の核酸分子が環状である場合、環状のまま各種用途に使用してもよいし、第2の相同領域の上流側の任意の位置(第2の相同領域の5'末端より数百塩基~2000塩基程度以上離れた位置でもよい)にて切断して直鎖状としたものを用いてもよい。
【0034】
本発明の核酸構築物は、DNAでもRNAでもよい。一般に、プラスミドベクター型の核酸構築物の場合はDNAが好ましい。ウイルスベクター型の核酸構築物の典型例としては、ウイルス発現プラスミドの形態の二本鎖DNAである核酸構築物を挙げることができるが、ウイルス発現プラスミドから発現されたウイルスもウイルスベクター型の核酸構築物に包含される。ウイルス発現プラスミドから発現されたウイルスである核酸構築物は、RNAウイルスベクターであればRNAであり、DNAウイルスベクターであればDNAである。ベクターに組み込まれていない形態の場合、通常はDNAである。また、本発明の核酸構築物は、一部にヌクレオチドアナログを含んでいてもよい。ヌクレオチドアナログの例として、LNA, ENA, PNAなどの架橋化核酸や、Super T(登録商標), Super G(登録商標)等の修飾塩基を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0035】
分割型の核酸構築物の簡便な製造方法として、例えば、上流側から順にプロモーター、タンパク質Aをコードする遺伝子配列、ポリA付加シグナルを含む通常のタンパク質A発現ベクターを鋳型とし、適当な位置に設定したプライマーを用いて2つの核酸分子を増幅する、という方法が考えられる。プライマーは、プロモーターの上流に設定したフォワードプライマー1-1と、遺伝子配列中の適当な部分領域αに設定したリバースプライマー1-2とのセット1、並びに、遺伝子配列中の別の部分領域であって、部分領域αよりも上流側の部分領域βに設定したフォワードプライマー2-1と、ポリA付加シグナルの下流又は遺伝子配列とポリA付加シグナルの間に設定したリバースプライマー2-2とのセット2をそれぞれ使用すればよい。プライマーセット1を用いたPCRにより第1の核酸分子を、プライマーセット2を用いたPCRにより第2の核酸分子を、それぞれ増幅することができる。プライマーセット2において、リバースプライマー2-2としてポリA付加シグナルの下流に設定したプライマーを用いれば、ポリA付加シグナルを含む第2の核酸分子が得られ、リバースプライマー2-2として遺伝子配列とポリA付加シグナルの間に設定したプライマーを用いれば、ポリA付加シグナルを含まない第2の核酸分子が得られる。部分領域αと部分領域βの設定領域の選び方により、相同領域のサイズを調整できる。また、リバースプライマー1-2及びフォワードプライマー2-1の少なくともいずれか一方に変異を入れておくことで、相同領域の相同性を低下させた核酸分子を容易に調製できる。
【0036】
一体型の核酸構築物において、第1の相同領域の3'末端と第2の相同領域の5'末端との間には、適当なスペーサー配列が配置されてよい。分割型の核酸構築物の場合には、第1の核酸分子において、第1の相同領域の3'末端に第1のスペーサー配列が連結され、かつ、第2の核酸分子において、第2の相同領域の5'末端に第2のスペーサー配列が連結されていてよい。このスペーサー配列には、核酸構築物の切断のための適当な制限酵素部位や、生体内での切断のための配列が含まれていてよい。スペーサー配列の長さや塩基配列は何ら限定されるものではなく、様々な長さ及び配列のスペーサーを用いることができる。スペーサー配列の長さは、例えば、100塩基以上、500塩基以上、1000塩基以上、1500塩基以上、2000塩基以上、2500塩基以上、3000塩基以上、3500塩基以上、又は4000塩基以上であってよい。長さの上限も特に限定されないが、通常は10000塩基以下である。
【0037】
本発明の核酸構築物は、ミスマッチ修復欠損がんの治療剤又は診断剤や、ミスマッチ修復欠損がんに対する抗がん剤の効果を予測するためのコンパニオン診断剤として好ましく用いることができる。
【0038】
ミスマッチ修復欠損がんは、さまざまながんにおいて報告されている。具体例を挙げると、これまでに大腸がん、子宮内膜がん、胃がん、食道がん、卵巣がん、乳がん、膵臓がん、肝胆道がん、尿路がん、小腸がん、前立腺がん、肝臓がんにおいてミスマッチ修復欠損がんが報告されており(非特許文献3など)、今後これら以外の様々ながん(非ヒト動物も含む様々な動物種のがんを包含する)においてもミスマッチ修復欠損がんが発見されることが予想される。EGFR阻害薬やBRAF阻害薬などの分子標的がん治療によりミスマッチ修復活性が低下するという報告もなされている(Science 20 Dec 2019: Vol. 366, Issue 6472, pp. 1473-1480, DOI: 10.1126/science.aav4474)。さらに、ミスマッチ修復欠損がんの有名な例として、家族性(遺伝性)のリンチ症候群(別名:遺伝性非ポリポーシス大腸がん(HNPCC))が挙げられる。本発明の核酸構築物を治療剤や診断剤等として用いる場合に対象となるミスマッチ修復欠損がんには、上記の具体例を含めた様々ながんが包含される。本発明において、単に「大腸がん」といった場合には、遺伝性ではない大腸がんの他、リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸がん)も包含される。
【0039】
ミスマッチ修復欠損がんの治療剤として本発明の核酸構築物を用いる場合、タンパク質Aをコードする遺伝子配列としては、細胞の生存率を低下させる作用を有するタンパク質をコードする遺伝子配列を用いればよい。ミスマッチ修復が欠損していないがんの場合には、核酸構築物の一本鎖アニーリングがミスマッチ修復機構によりブロックされるため、タンパク質Aをコードする遺伝子配列が細胞内で再現されず、タンパク質Aも発現しない。一方、ミスマッチ修復が欠損したがんの場合には、細胞内で核酸構築物の一本鎖アニーリングが生じてタンパク質Aをコードする遺伝子配列が細胞内で再現されるので、タンパク質Aが発現し、がん細胞が効率的に殺傷される。ミスマッチ修復欠損がんでない場合には、がん細胞を殺傷する効果も得られないため、本発明の治療剤を投与する前に、例えば本発明の診断剤を用いて、ミスマッチ修復欠損がんであるか否かを調べた上で、ミスマッチ修復欠損がんと診断された患者に対して本発明の治療剤を投与することとしてもよい。タンパク質Aが他の化合物に作用して毒性物質を発生させるタンパク質である場合には、作用対象となる化合物も患者に投与する。例えば、タンパク質AがHSV-tkである場合には、本発明の核酸構築物と組み合わせてガンシクロビルやFIAU等を投与すればよい。
【0040】
ミスマッチ修復欠損がんの診断剤として本発明の核酸構築物を用いる場合、本発明の核酸構築物を、がん患者のがん細胞に導入し、タンパク質Aの発現を測定する。タンパク質Aの発現測定は、上述したように、タンパク質Aの活性を直接的又は間接的に測定することにより行うことが好ましい。5'側領域及び3'側領域に採用する、タンパク質Aをコードする遺伝子配列としては、細胞内での発現を検出可能なタンパク質をコードする遺伝子配列を好ましく使用できるが、細胞の生存率を低下させる作用を有するタンパク質をコードする遺伝子配列も利用可能である。細胞内でミスマッチ修復が欠損していない場合、核酸構築物の一本鎖アニーリングがミスマッチ修復機構によりブロックされるため、タンパク質Aをコードする遺伝子配列が細胞内で再現されず、タンパク質Aの活性が検出されない。一方、細胞内でミスマッチ修復が欠損している場合には、核酸構築物の一本鎖アニーリングが生じてタンパク質Aをコードする遺伝子配列が細胞内で再現されるので、タンパク質Aの活性が検出される。
【0041】
ミスマッチ修復欠損がんの診断剤の1つの態様では、がん細胞は、がん患者から分離された細胞であり、がん細胞への核酸構築物の導入が生体外で行われる。後述する使用態様のうち、(1)、(3)がこの態様の具体例である。この態様では、タンパク質Aとして、細胞内での発現を検出可能なタンパク質、細胞の生存率を低下させる作用を有するタンパク質のどちらも採用可能であるが、前者がより好ましい。この態様では、がん患者には、固形がん患者と血液がん患者が包含される。がん患者から生検又は外科手術により分離したがん組織の細胞や、白血病の場合には、がん患者から採取した血液中のがん細胞を用いることができる。がん細胞は所望により濃縮してから核酸構築物を導入してもよい。核酸構築物の導入は一過性でよい。
【0042】
核酸構築物を導入後、がん細胞におけるタンパク質Aの発現、好ましくはタンパク質Aの活性を測定する。タンパク質Aが細胞内での発現を検出可能なタンパク質である場合には、タンパク質Aのシグナルを測定することにより、タンパク質Aの発現(活性)を測定できる。タンパク質Aが細胞の生存率を低下させる作用を有するタンパク質の場合、核酸構築物を導入後のがん細胞の生存率を測定することにより、タンパク質Aの発現(活性)を測定できる。がん細胞におけるタンパク質Aの発現を測定する際には、正常なミスマッチ修復活性を有する、ないしはミスマッチ修復活性を欠損していない細胞をMMR非欠損コントロールとして使用し、がん細胞及びコントロール細胞に核酸構築物を導入後、タンパク質Aの発現をがん細胞とコントロール細胞との間で比較することが好ましい。
【0043】
コントロール細胞の好ましい例として、同じがん患者から採取した非がん細胞(ミスマッチ修復活性を欠損していない細胞)が挙げられる。また、ミスマッチ修復活性を欠損していない公知の細胞株をコントロール細胞として利用することも可能である。MMR関連遺伝子(MSH2、MSH6、MLH1、PMS2、EPCAM、MSH3、PMS1、MLH3、ARID1A、SETD2、EXO1、RPA1、RPA2、RPA3、POLD、LIG1、LIG3等)に変異を有しない、多くの公知の野生型哺乳動物細胞株が知られており、そのような公知の株のいずれでも、MMR非欠損のコントロール細胞として使用可能である。正常なミスマッチ修復活性を有する公知の哺乳動物細胞株の具体例として、例えばヒトの細胞株では、HT1080(ヒト線維肉腫細胞株)、U2OS(ヒト骨肉腫由来細胞株)、HeLa(ヒト子宮頸部癌由来細胞株)、MCF-7(ヒト乳腺癌由来細胞株)、HAP1(ヒト慢性骨髄性白血病由来細胞株)、HEK293(ヒト胎児腎由来細胞株)、TIG-7, TIG-3(ヒト肺由来細胞株)、iPS細胞(ヒト人工多能性幹細胞;ヒト正常細胞から樹立)、ES細胞(ヒト胚性幹細胞)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0044】
また、所望により、ミスマッチ修復活性を欠損した細胞をさらなるコントロールとして使用してもよい。そのようなMMR欠損コントロール細胞としては、例えば、ミスマッチ修復欠損がんに由来する細胞株を用いることができる。上記したMMR関連遺伝子に変異を有するミスマッチ修復欠損がん由来細胞株が種々知られており、いずれの細胞でもMMR欠損のコントロール細胞として利用可能である。あるいは、1つ又は2つ以上のMMR関連遺伝子に変異を導入して作出した細胞株を利用することも可能である。遺伝子ノックアウトの技術は確立しているので、正常なミスマッチ修復活性を有する哺乳動物培養細胞において1つ又は2つ以上のMMR関連遺伝子をノックアウトすることにより、様々な動物種のMMR欠損細胞を調製することができる。公知のMMR欠損細胞株の具体例を挙げると、例えばヒトの細胞株では、MSH2を欠損している、Nalm-6(ヒトB細胞白血病由来細胞株)、LoVo(ヒト結腸腺癌由来細胞株)、Jurkat(ヒトT細胞白血病由来細胞株)、及びC-33 A(ヒト子宮頸癌由来細胞株);MLH1を欠損している、HCT116(ヒト結腸腺癌由来細胞株)、SK-OV-3(ヒト卵巣癌由来細胞株)、及びDU-145(ヒト前立腺癌由来細胞株);MSH6を欠損している、DLD-1(ヒト結腸腺癌由来細胞株);並びに、Horizon Discoveryより入手可能なMMR欠損ヒト細胞株(遺伝子改変済みHAP1細胞株(ヒト慢性骨髄性白血病由来細胞株)として次の遺伝子欠損細胞が入手可能:MSH2欠損株、MLH1欠損株、MSH6欠損株、PMS2欠損株)等を挙げることができる。また、非ヒト動物の細胞株の具体例として、The NCI Mouse Repositoryより入手可能なMMR欠損マウス(凍結胚)(Msh2欠損マウス、Mlh1欠損マウス、Msh6欠損マウス);イヌ癌細胞株TYLER2(Dodd G. Sledge et al., Proceedings of the 103rd Annual Meeting of the American Association for Cancer Research; 2012 Mar 31-Apr 4; Chicago, IL. Philadelphia (PA): AACR; Cancer Res 2012;72(8 Suppl):Abstract nr 5258. doi:1538-7445.AM2012-5258)、MMR欠損イヌ細胞Angus(MSH6欠損)(Sunetra Das et al., Mol Cancer Ther. Author manuscript; available in PMC 2020 Feb 1. Published in final edited form as: Mol Cancer Ther. 2019 Aug; 18(8): 1460-1471. Published online 2019 Jun 7. doi: 10.1158/1535-7163.MCT-18-1346)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0045】
がん細胞におけるタンパク質Aの発現レベル/活性レベルがMMR非欠損コントロール細胞におけるタンパク質Aの発現レベル/活性レベルよりも高い場合、当該がん患者のがんがミスマッチ修復欠損がんであることが示される。タンパク質Aが細胞内での発現をシグナルとして検出可能なタンパク質の場合は、がん細胞においてMMR非欠損コントロール細胞よりもタンパク質Aのシグナルが高く検出されたときに、当該がん患者のがんがミスマッチ修復欠損がんであることが示される。タンパク質Aが細胞の生存率を低下させる作用を有するタンパク質の場合は、がん細胞の生存率がMMR非欠損コントロール細胞の生存率よりも低いときに、当該がん患者のがんがミスマッチ修復欠損がんであることが示される。
【0046】
がん細胞におけるタンパク質Aの発現レベル/活性レベルがMMR非欠損コントロール細胞におけるタンパク質Aの発現レベル/活性レベルと比べて高くない(同程度、又は低い)場合、当該がん患者のがんがミスマッチ修復欠損がんではないことが示される。タンパク質Aが細胞内での発現をシグナルとして検出可能なタンパク質の場合は、がん細胞においてMMR非欠損コントロール細胞と同程度以下のシグナルが検出されたときに、当該がん患者のがんがミスマッチ修復欠損がんではないことが示される。タンパク質Aが細胞の生存率を低下させる作用を有するタンパク質の場合は、がん細胞の生存率がMMR非欠損コントロール細胞の生存率と同程度以上のときに、当該がん患者のがんがミスマッチ修復欠損がんではないことが示される。
【0047】
ミスマッチ修復欠損がんの診断剤の別の態様では、タンパク質Aが、細胞内での発現をシグナルとして検出可能なタンパク質であり、がん細胞への核酸構築物の導入は、がん患者に核酸構築物を投与することにより行われ、がん病巣部からタンパク質Aのシグナルが検出されるかどうかを調べる。後述する使用態様のうち、(2)がこの態様の具体例である。核酸構築物は、がん患者の腫瘍内又は腫瘍近傍に局所投与してもよいし、全身投与してもよいが、局所投与がより好ましい。この態様では、がん患者は典型的には固形がん患者である。がん患者体内のがん病巣部からのタンパク質Aのシグナルを検出する観点から、タンパク質Aとしては、基質との反応なしでシグナルを生じるタンパク質、例えば蛍光タンパク質を採用することが好ましい。がん病巣部からタンパク質Aのシグナルが検出された場合(例えば、腫瘍周辺の非がん部位からのシグナルと比べて、がん病巣部からのシグナルが明らかに高い場合)、当該がん患者のがんはミスマッチ修復欠損がんであることが示される。がん病巣部からタンパク質Aのシグナルが検出されなかった場合、又は腫瘍周辺の非がん部位と同程度の低いシグナルが検出された場合、当該がん患者のがんはミスマッチ修復欠損がんではない可能性があることが示される。所望により、患者よりがん細胞を採取してin vitroで核酸構築物を導入し、ミスマッチ修復欠損がんであるかどうかをさらに確認してもよい。
【0048】
さらなる別の態様では、タンパク質Aが、細胞内での発現を検出可能な分泌型のタンパク質であり、がん細胞への核酸構築物の導入は、がん患者に核酸構築物を投与することにより行われ、核酸構築物投与後の患者から分離された血液中のタンパク質Aの活性を測定する。後述する使用態様のうち、(4)がこの態様の具体例である。核酸構築物は、がん患者の腫瘍内又は腫瘍近傍に局所投与してもよいし、全身投与してもよいが、局所投与がより好ましい。この態様では、がん患者は典型的には固形がん患者である。患者のがんがミスマッチ修復を欠損している場合には、がん細胞内で再現されたタンパク質A遺伝子から分泌型のタンパク質Aが発現し、がん細胞外に分泌されるので、がん患者の血液検体を用いてタンパク質Aの活性を検出することができる。血液中に分泌されたタンパク質Aの活性をin vitroで検出することから、基質との反応によりシグナルを生じるタンパク質も好ましく用いることができ、典型例として分泌型発光酵素、特に分泌型ルシフェラーゼを挙げることができる。分泌型ルシフェラーゼ等の分泌型タンパク質をコードする遺伝子配列は、公知の分泌型タンパク質コード配列をそのまま利用してもよいし、タンパク質コード配列に分泌シグナルをコードする配列を付加して調製してもよい。ネガティブコントロールサンプルとして、例えば、核酸構築物を投与する前の患者から採取した血液検体や、ミスマッチ修復が欠損していない動物細胞株に核酸構築物を導入して培養した培養上清を用いることができる。また、ポジティブコントロールとして、例えば、ミスマッチ修復活性が欠損した細胞株(例えば、ミスマッチ修復欠損がんに由来する細胞株)に核酸構築物を導入して培養した培養上清を使用してもよい。血液検体でタンパク質Aのシグナルが検出された場合(例えば、ネガティブコントロールサンプルよりも高いタンパク質Aのシグナルが血液検体で検出された場合)、当該患者のがんがミスマッチ修復欠損がんであることが示される。血液検体でタンパク質Aのシグナルが検出されなかった場合、特に、ネガティブコントロールよりも高いシグナルが検出されなかった場合(すなわち、ネガティブコントロールサンプルと同程度以下のシグナルが検出された場合)、当該がん患者のがんがミスマッチ修復欠損がんではない可能性があることが示される。所望により、患者よりがん細胞を採取してin vitroで核酸構築物を導入し、ミスマッチ修復欠損がんであるかどうかをさらに確認してもよい。
【0049】
本発明によるミスマッチ修復欠損がんの診断技術により、ミスマッチ修復欠損がんと診断された患者に対しては、免疫チェックポイント阻害薬が有効である可能性が高いため、免疫チェックポイント阻害薬を好ましく投与することができる。ミスマッチ修復欠損がんではないと診断された患者は、免疫チェックポイント阻害薬によるがん治療効果が十分に得られないのに副作用が強くでてしまう可能性が高いため、免疫チェックポイント阻害薬以外の抗がん剤を好ましく投与することができる。
【0050】
本発明の診断剤の態様としては、以下のような態様が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
(1) がん患者から採取したがん細胞を培養し、これに本発明の核酸構築物を導入して、タンパク質Aのシグナルが検出できるかどうかを調べる(あるいは、タンパク質Aによる殺細胞効果が見られるかどうかを調べる)。所望により、同じがん患者から採取した非がん細胞(末梢血細胞など)をコントロールとして用いてもよい。タンパク質Aがルシフェラーゼの場合、ルシフェラーゼの基質を添加して検出反応を行なう。タンパク質Aが蛍光タンパク質の場合には、ルミノメータ等を用いて蛍光シグナルを検出すればよい。タンパク質Aのシグナルが検出された場合(特に、コントロールの非がん細胞と比べてタンパク質Aのシグナルが高く検出された場合)、その患者のがんはミスマッチ修復を欠損していると判断できる。タンパク質Aのシグナルが検出されない、又はコントロールの非がん細胞と同程度の低いシグナルが検出された場合、その患者のがんはミスマッチ修復を欠損していないと判断できる。
細胞生存率の測定方法はこの分野で周知であり、市販のキット等を用いて容易に測定できる。核酸構築物を導入したがん細胞の生存率が低下した場合(特に、コントロールの非がん細胞よりも生存率が低い場合)、その患者のがんはミスマッチ修復を欠損していると判断できる。がん細胞の生存率の低下が認められない場合、又はコントロールの非がん細胞と同程度の生存率であった場合、その患者のがんはミスマッチ修復を欠損していないと判断できる。
【0052】
(2) 本発明の核酸構築物を患者に投与し、がん病巣部からタンパク質Aのシグナルが検出されるかどうかを調べる。シグナルが検出された場合に患者のがんはミスマッチ修復を欠損していると判断でき、シグナルが検出されなかった場合に患者のがんはミスマッチ修復を欠損していない可能性があると判断できる。この態様では、タンパク質Aとして、細胞内での発現を検出可能なタンパク質を用いるが、生体毒性が十分に低いタンパク質を採用する必要がある。
【0053】
(3) 血中に存在するがん細胞を患者より分離し、必要に応じて濃縮して、本発明の核酸構築物を導入し、タンパク質Aのシグナルが検出されるかどうか(あるいは、タンパク質Aによる殺細胞効果(細胞生存率の低下)が見られるかどうか)を調べる(白血病の場合)。
【0054】
(4) タンパク質Aをコードする遺伝子配列として分泌型のルシフェラーゼをコードする遺伝子配列を採用した核酸構築物を患者に投与し、その後、血液検体を採取して、血液検体にてルシフェラーゼ反応の有無を調べる。患者のがんがミスマッチ修復を欠損している場合には、がん細胞内で再現されたルシフェラーゼ遺伝子から分泌型ルシフェラーゼが生成し、細胞外に分泌されるので、血液検体を用いてルシフェラーゼ反応を検出することができる。患者のがんがミスマッチ修復を欠損していない場合には、分泌型ルシフェラーゼが生成されないため、血液検体でルシフェラーゼ反応が検出されない。
【0055】
また、本発明の診断剤は、ミスマッチ修復欠損がんに対する抗がん剤の効果を予測するためのコンパニオン診断剤としても有用である。抗がん剤の例として、免疫チェックポイント阻害薬を挙げることができる。免疫チェックポイント阻害薬の具体例としては、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、スパルタリズマブ、セミプリマブ等の抗PD-1抗体;アベルマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ等の抗PD-L1抗体;イピリムマブ、トレメリムマブ等の抗CTLA-4抗体等が挙げられるが、これらに限定されない。コンパニオン診断剤としての使用態様の具体例は、上記した診断剤と同様である。すなわち、本発明の核酸構築物をコンパニオン診断剤として用いて、ミスマッチ修復欠損がんに対する抗がん剤の効果を予測する場合も、上記したミスマッチ修復欠損がんの診断技術と同様に、本発明の核酸構築物を、がん患者のがん細胞に導入し、タンパク質Aの発現(好ましくはタンパク質Aの活性)を測定し、患者がミスマッチ修復欠損がんであるか否かを診断すればよい。患者がミスマッチ修復欠損がんと診断された場合には、免疫チェックポイント阻害薬等のミスマッチ修復欠損がんに対する抗がん剤により望ましい抗がん効果が得られる可能性の高い患者と判断(すなわち、当該患者において免疫チェックポイント阻害薬等のミスマッチ修復欠損がんに対する抗がん剤が有効であると予測)できる。従って、そのようながん患者に対しては、がん治療のために免疫チェックポイント阻害薬を好ましく投与することができる。免疫チェックポイント阻害薬には重篤な副作用の報告もある。事前にミスマッチ修復欠損がんか否かを調べることにより、治療効果が得られず副作用を生じてしまうおそれのある患者を回避して免疫チェックポイント阻害薬を投与することができる。
【0056】
また、本発明の核酸構築物は、ミスマッチ修復や一本鎖アニーリングの反応を正又は負に制御する因子や阻害剤・活性化剤などの探索や、がん患者で同定された遺伝子変異がミスマッチ修復活性を損なわせる病的変異であるかどうかの予測にも応用できる。相同領域間の相同性が100%の核酸構築物をコントロールとし、低相同性の核酸構築物と組み合わせて用いることで、ミスマッチ修復活性に影響を与えている薬剤ないしは変異を同定できる。例えば、病的変異の予測では、がん患者のがん細胞において、ある遺伝子X(この遺伝子Xは、好ましくはMMR関連遺伝子である)に変異が同定された場合に、同じ変異を有する変異型遺伝子Xを発現する発現ベクターと、変異のない野生型の遺伝子Xを発現する発現ベクターを構築し、これらの発現ベクターを遺伝子X欠損細胞(遺伝子Xのノックアウトにより作出した細胞でもよいし、遺伝子Xの機能を完全に欠損していることが判明している公知の細胞株が存在する場合には、そのような公知の細胞株を利用してもよい)に導入するとともに、本発明の核酸構築物(相同性100%の構築物、及び低相同性の構築物)を導入し、細胞内のタンパク質Aの発現レベルを測定すればよい。相同性100%の核酸構築物を導入した細胞と低相同性の核酸構築物を導入した細胞との間、変異型遺伝子Xを導入した細胞と野生型遺伝子Xを導入した細胞との間でタンパク質Aの発現を比較することで、変異がミスマッチ修復活性を損なわせる病的変異であるかどうかを予測することができる。
【0057】
本発明の剤を患者に投与する場合、投与経路は経口投与でも非経口投与でもよいが、一般には静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、筋肉内投与等の非経口投与が好ましい。全身投与でもよいし、腫瘍内又は腫瘍近傍への投与でもよく、腫瘍所属リンパ節への投与でもよい。投与量は、特に限定されないが、患者に対し1日当たりの核酸構築物量として1pg~10g程度、例えば0.01mg~100mg程度であってよい。1日の投与は1回でもよいし、数回に分けて投与しても良い。毎日投与してもよいし、又は数日、数週おきに投与してもよい。
【0058】
患者に投与する本発明の剤の剤形は特に限定されず、各投与経路に応じて、薬剤的に許容される担体、希釈剤、賦形剤等の添加剤を本発明の核酸構築物と適宜混合させて製剤することができる。製剤形態としては、点滴剤、注射剤、座剤、吸入剤などの非経口剤や、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などの経口剤などを挙げることができる。製剤方法及び使用可能な添加剤は、医薬製剤の分野において周知であり、いずれの方法及び添加剤をも用いることができる。
【0059】
生体外で用いる診断剤の場合、細胞を処理する際の使用量は、例えば、100万個の細胞に対して核酸構築物量として10pg~1mg程度、例えば0.1ng~100μg程度であればよい。剤形としては、核酸構築物の安定性等のために有用な添加剤等を所望により添加した液体状の剤であってもよいし、核酸構築物を凍結乾燥等させた粉末状の剤であってもよい。
【0060】
本発明の核酸構築物を治療剤や診断剤等として用いる場合、対象となるがん患者には、ヒト、イヌ、ネコ、フェレット、ハムスター、マウス、ラット、ウマ、ブタ等の様々な哺乳動物のがん患者が包含される。本発明の核酸構築物は、プロモーターの由来を必要に応じて変更する以外に構成を変更することなく、様々な動物種に適用可能である。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0062】
A. 実験1
A-1. ベクター(DNAコンストラクト)の作製方法
相同領域を持たせて遺伝子を2つに分割し、一本鎖アニーリング(SSA)により遺伝子が再生することで遺伝子の機能が発現するコンストラクト(
図1-1、1-2)を以下の通りに構築した。
A-1-1. オーバーラップ領域100 bpのコンストラクトの作製
A-1-1-1. pCMV-SA-DTAコンストラクト(相同領域間の相同性100%、オーバーラップ100 bp)の構築
まず、pMC1DT-ApA(KURABO、日本国大阪)を鋳型としたPCRにより、2つの不完全なDT-A遺伝子断片として、132 bpの5'DT-A断片(配列番号9に示すDT-A遺伝子ORFの塩基配列中の第1位~第132位の領域; 配列番号11、12)と、556 bpの3'DT-A断片(配列番号9に示すDT-A遺伝子ORFの塩基配列中の第33位~第588位の領域; 配列番号13、14)を得た。PCRのポリメラーゼにはPrimeSTAR HS(商品名) DNA Polymerase(タカラバイオ、日本国大津)を使用した。使用したプライマーを下記表1に示す。5'DT-A断片の増幅にはDTA-Fw(配列番号1)及びSSA-5'DTA-Rv(配列番号2)を用いることで、132 bpの5'DT-A断片の3'末にTGA TAGGGATAACAGGGTAATGC(終止コドン+I-SceI認識部位+GC、配列番号15)が連結され、かつ、両末端にIn-Fusion反応のための配列が付加された構造のDNA断片を増幅した。3'DT-A断片の増幅にはSSA-3'DTA-Fw(配列番号3)及びDTA-Rv(配列番号4)を用いることで、556 bpの3'DT-A断片の3'末に終止コドンが連結され、かつ、両末端にIn-Fusion反応のための配列が付加された構造のDNA断片を増幅した。次いで、pIRES(タカラバイオ、
図2)をNheIとXbaIで消化し、IRES領域を除去してCMVプロモーターとポリA付加シグナルを含む断片を回収した。In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて、CMVプロモーターの下流(IRES領域が存在した部位)に5'DT-A断片と3'DT-A断片を挿入することにより、[CMVプロモーター]-[5'DT-A断片]-[3'DT-A断片]-[ポリA付加シグナル]が連結した構造を含むプラスミドコンストラクトpCMV-SA-DTA(相同性100%)を得た。作製したプラスミドは、Qiagen Plasmid Plus Midi Kit (Qiagen K.K., 日本国東京) を用いて精製し、I-SceI (New England Biolabs, 米国MA州Ipswich)で切断してリニア化してからトランスフェクションに用いた。pCMV-SA-DTAのI-SceIによる切断箇所は
図3の通りであり、[5'DT-A断片]と[3'DT-A断片]の間で切断される。[5'DT-A断片]-[3'DT-A断片]部分の塩基配列を配列番号16に示す。
【0063】
A-1-1-2. 相同領域間の相同性を低下させたpCMV-SA-DTAコンストラクト(オーバーラップ100 bp)の構築
相同領域間の相同性を低下させたpCMV-SA-DTAを作製するため、5'DT-Aと相同なDNA配列 (100 bp)にサイレント変異を導入した3'DT-AのDNA断片を人工遺伝子合成により作製した(GenScript社の人工合成遺伝子サービスを利用。ベクターに挿入された状態で納品。)。サイレント変異は、5'DT-Aとの相同性がそれぞれ95%(5ヶ所、配列番号17)、90%(10ヶ所、配列番号18)、80%(20ヶ所、配列番号19)、70%(30ヶ所、配列番号20)となるように導入した。人工遺伝子合成した異なる変異をもつ4つの3'DT-A断片はPflMIで消化し、変異をもつ3'DT-Aを含む断片をベクターから切り出し回収した。次いで、pCMV-SA-DTA(相同性100%)をPflMIで消化して3'DT-A断片の前後で切断することにより、相同性100%の3'DT-A断片を除去してCMVプロモーターと5'DT-A断片及びポリA付加シグナルを含む断片を回収した。DNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ)を用いて、回収した断片の5'DT-A断片の下流(相同性100%の3'DT-A断片が存在した部位)に各変異をもつ3'DT-A断片をそれぞれ挿入することにより、[CMVプロモーター]-[5'DT-A断片]-[各変異をもつ3'DT-A断片]-[ポリA付加シグナル]が連結したpCMV-SA-DTA95(相同性95%)、pCMV-SA-DTA90(相同性90%)、pCMV-SA-DTA80(相同性80%)、pCMV-SA-DTA70(相同性70%)をそれぞれ得た。変異型の各コンストラクトも、I-SceI消化により、[5'DT-A断片]と[各変異をもつ3'DT-A断片]の間で切断される(
図4)。
【0064】
A-1-1-3. pCMV-SA-Nlucコンストラクト(相同領域間の相同性100%、オーバーラップ99 bp)の構築
pCMV-SA-Nluc(相同性100%)に使用する2つのNluc遺伝子の断片、すなわち、345-bpの5'Nluc断片(配列番号21に示すNluc遺伝子の塩基配列中の第1位~第345位の領域; 配列番号23、24)を含む5'側遺伝子断片と、267-bpの3'Nluc断片(配列番号21に示すNluc遺伝子の塩基配列中の第247位~第513位の領域; 配列番号25、26)を含む3'側遺伝子断片は、pNL1.1[Nluc]Vector(Promega、米国WI州Madison)を鋳型としたPCRにより増幅して得た。PCRのポリメラーゼにはPrimeSTAR HS(商品名) DNA Polymerase(タカラバイオ)を使用した。使用したプライマーを下記表1に示す。5'Nluc断片の増幅にはNluc-Fw(配列番号5)及びSSA-5'Nluc-Rv(配列番号6)を用いることで、345-bpの5'Nluc断片の3'末に終止コドンが連結され、かつ、両末端にIn-Fusion反応のための配列が付加された構造の5'側断片を増幅した。3'Nluc断片の増幅にはSSA-3'Nluc-Fw(配列番号7)及びNluc-Rv(配列番号8)を用いることで、267-bpの3'Nluc断片(終止コドンtaaを含む鎖長は270-bp)の両末端にIn-Fusion反応のための配列が付加された構造の3'側断片を増幅した。次いで、pIRES(タカラバイオ、
図2)をNheIとXbaIで消化し、IRES領域を除去してCMVプロモーターとポリA付加シグナルを含む断片を回収した。In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて、回収した断片のCMVプロモーターの下流(IRES領域が存在した部位)に5'Nluc断片と3'Nluc断片を挿入することにより、[CMVプロモーター]-[5'Nluc断片]-[3'Nluc断片]-[ポリA付加シグナル]が連結した構造を含むプラスミドコンストラクトpCMV-SA-Nluc(相同性100%)を得た。作製したプラスミドは、Qiagen Plasmid Plus Midi Kit (Qiagen K.K.) を用いて精製し、NsiI(タカラバイオ)で切断してリニア化してからトランスフェクションに用いた。pCMV-SA-NlucのNsiIによる切断箇所は
図1-2の通りであり、[5'Nluc断片]と[3'Nluc断片]の間で切断される。[5'Nluc断片]-[3'Nluc断片]部分の塩基配列を配列番号27に示す。
【0065】
A-1-1-4. 相同領域間の相同性を低下させたpCMV-SA-Nlucコンストラクト(オーバーラップ100 bp)の構築
相同領域間の相同性を低下させたpCMV-SA-Nlucを作製するため、5'Nlucと相同なDNA配列 (100 bp)にサイレント変異を導入した3'NlucのDNA断片を人工遺伝子合成により作製した(GenScript社の人工合成遺伝子サービスを利用。ベクターに挿入された状態で納品。)。サイレント変異は、5'Nlucとの相同性がそれぞれ95%(5ヶ所、配列番号28)、90%(10ヶ所、配列番号29)、78%(22ヶ所、配列番号30)、68%(32ヶ所、配列番号31)となるように導入した。人工遺伝子合成した異なる変異をもつ4つの3'Nluc断片はNsiIとPpuMIで消化し、変異をもつ3'Nlucを含む断片をベクターから切り出し回収した。次いで、pCMV-SA-Nluc(相同性100%)をNsiIとPpuMIで消化して3'Nluc断片の前後で切断することにより、相同性100%の3'Nluc断片を除去してCMVプロモーターと5'Nluc断片及びポリA付加シグナルを含む断片を回収した。DNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ)を用いて、回収した断片の5'Nluc断片の下流(相同性100%の3'Nluc断片が存在した部位)に各変異をもつ3'Nluc断片をそれぞれ挿入することにより、[CMVプロモーター]-[5'Nluc断片]-[各変異をもつ3'Nluc断片]-[ポリA付加シグナル]が連結したpCMV-SA-Nluc95(相同性95%)、pCMV-SA-Nluc90(相同性90%)、pCMV-SA-Nluc78(相同性78%)、pCMV-SA-Nluc68(相同性68%)をそれぞれ得た。変異型の各コンストラクトも、NsiI消化により、[5'Nluc断片]と[各変異をもつ3'Nluc断片]の間で切断される。
【0066】
【0067】
A-1-2. オーバーラップ領域40 bpのコンストラクトの作製
自殺遺伝子DT-Aを用いて、オーバーラップ領域を40 bpに短縮したコンストラクトを作製した。
A-1-2-1. pCMV-SA-DTA40コンストラクト(相同領域間の相同性100%、オーバーラップ40 bp)の構築
オーバーラップ40 bpの3'DT-A断片として、配列番号9に示すDT-A遺伝子ORF配列中の第93位~第588位の領域(496 bp; 配列番号32)を採用した。プライマーとしてSSA-3'DTA-40bp-100-Fw(TAGGGATAACAGGGTAATGCATTCAAAAAGGTATACAAAAGCC、配列番号38)及びDTA-Rv(配列番号4)を用いて、pMC1DT-ApA(KURABO、日本国大阪)を鋳型としたPCRを行ない、496 bpの3'DT-A断片にIn-Fusion反応のための配列などが付加された構造のDNA断片を増幅した。pCMV-SA-DTA(相同性100%)をNsiIとXbaIで消化して3'DT-A断片の前後で切断することにより、相同性100%の3'DT-A断片を除去してCMVプロモーターと5'DT-A断片及びポリA付加シグナルを含む断片を回収した。In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて、回収した断片の5'DT-A断片の下流(相同性100%の3'DT-A断片が存在した部位)に3'DT-A断片を挿入することにより、[CMVプロモーター]-[5'DT-A断片]-[オーバーラップ40bp-3'DT-A断片]-[ポリA付加シグナル]が連結した構造を含むプラスミドコンストラクトpCMV-SA-DTA40を得た。
【0068】
A-1-2-2. pCMV-SA-DTA40-92.5コンストラクト(相同領域間の相同性92.5%、オーバーラップ40 bp)の構築
5'DT-A断片の相同領域との相同性を92.5%とした3'DT-A断片(配列番号33)は、pMC1DT-ApA(KURABO、日本国大阪)を鋳型としたPCRにより増幅して得た。プライマーとしてSSA-3'DTA-40bp-92.5-Fw(TAGGGATAACAGGGTAATGCATTCAAAAAGGAATACAAAAACCAAAATCAGGTACAC、配列番号39)及びDTA-Rv(配列番号4)を用いて、pMC1DT-ApA(KURABO、日本国大阪)を鋳型としたPCRを行ない、3'DT-A断片中の40 bpオーバーラップ領域の3箇所にサイレント変異をもつ496 bpの3'DT-A断片にIn-Fusion反応のための配列等を付加した構造のDNA断片を増幅した。1-2-1と同様の手順で、[CMVプロモーター]-[5'DT-A断片]-[オーバーラップ40bp-3'DT-A(相同性92.5%)断片]-[ポリA付加シグナル]が連結した構造を含むプラスミドコンストラクトpCMV-SA-DTA40-92.5を得た。
【0069】
A-1-3. オーバーラップ領域20 bpのコンストラクトの作製
自殺遺伝子DT-Aを用いて、オーバーラップ領域を20 bpに短縮したコンストラクトを作製した。
A-1-3-1. pCMV-SA-DTA20コンストラクト(相同領域間の相同性100%、オーバーラップ20 bp)の構築
オーバーラップ20 bpの3'DT-A断片として、配列番号9に示すDT-A遺伝子ORF配列中の第113位~第588位の領域(476 bp; 配列番号34)を採用した。プライマーとしてSSA-3'DTA-20bp-100-Fw(TAGGGATAACAGGGTAATGCATAGCCAAAATCTGGTACACAAGGA、配列番号40)及びDTA-Rv(配列番号4)を用いて、pMC1DT-ApA(KURABO、日本国大阪)を鋳型としたPCRを行ない、476 bpの3'DT-A断片にIn-Fusion反応のための配列などが付加された構造のDNA断片を増幅した。1-2-1と同様の手順で、[CMVプロモーター]-[5'DT-A断片]-[オーバーラップ20bp-3'DT-A断片]-[ポリA付加シグナル]が連結した構造を含むプラスミドコンストラクトpCMV-SA-DTA20を得た。
【0070】
A-1-3-2. pCMV-SA-DTA20-95、pCMV-SA-DTA20-90、pCMV-SA-DTA20-85コンストラクト(相同領域間の相同性95%, 90%, 85%; オーバーラップ20 bp)の構築
3'DT-A断片中の20 bpオーバーラップ領域の1箇所、2箇所又は3箇所にサイレント変異を導入し、5'DT-A断片の相同領域との間の相同性をそれぞれ95%, 90%又は85%とした3'DT-A断片(配列番号35, 36, 37)は、pMC1DT-ApA(KURABO、日本国大阪)を鋳型としたPCRによりそれぞれ増幅した。プライマーとして相同性95%の3'DT-A断片の増幅にはSSA-3'DTA-20bp-95-Fw(TAGGGATAACAGGGTAATGCATAGCCAAAATCAGGTACACAAGGA、配列番号41)及びDTA-Rv(配列番号4)を、相同性90%の3'DT-A断片の増幅にはSSA-3'DTA-20bp-90-Fw(TAGGGATAACAGGGTAATGCATAGCCAAAGTCAGGTACACAAGGA、配列番号42)及びDTA-Rv(配列番号4)を、相同性85%の3'DT-A断片の増幅にはSSA-3'DTA-20bp-85-Fw(TAGGGATAACAGGGTAATGCATAGCCAAAGTCAGGCACACAAGGA、配列番号43)及びDTA-Rv(配列番号4)を用いた。1-2-1と同様の手順で、[CMVプロモーター]-[5'DT-A断片]-[オーバーラップ20bp-3'DT-A(相同性95%, 90%又は85%)断片]-[ポリA付加シグナル]が連結した構造を含むプラスミドコンストラクトpCMV-SA-DTA20-95、pCMV-SA-DTA20-90、pCMV-SA-DTA20-85を得た。
【0071】
A-2. ヒト細胞における殺細胞効果の評価とルシフェラーゼアッセイの方法
ヒトpre-B細胞株Nalm-6(ミスマッチ修復機構を欠損したがん細胞)およびその派生細胞は、5%CO2インキュベーター内で37℃で培養した(So et al. (2004) Genetic interactions between BLM and DNA ligase IV in human cells. J. Biol. Chem. 279: 55433-55442)。
Msh2復帰細胞(Msh2+細胞)の取得は、ヒトpre-B細胞株Nalm-6(ミスマッチ修復機構を欠損したがん細胞;Msh2-)に MSH2 cDNAをノックインすることにより行った。具体的な方法は既報(Restoration of mismatch repair functions in human cell line Nalm-6, which has high efficiency for gene targeting. Suzuki T, Ukai A, Honma M, Adachi N, Nohmi T. PLoS One. 2013 Apr 15;8(4):e61189. doi: 10.1371/journal.pone.0061189.)の通り。Msh2+細胞では、MSH2のノックインによりミスマッチ修復機構が回復している。Msh2-細胞とMsh2+細胞との間で、ルシフェラーゼ活性や殺細胞効果(すなわち組換え効率)の差が大きいコンストラクトは、ミスマッチ修復の有無に鋭敏に反応するコンストラクトであると評価することができる。
【0072】
Nalm-6細胞およびその派生細胞への遺伝子導入は、既報(Saito S, Maeda R, Adachi N. Nat Commun. 2017 Jul 11;8:16112. doi: 10.1038/ncomms16112.)に従いエレクトロポレーション法により行った。2 x 106 個の細胞に各コンストラクト(1 μg)をトランスフェクションした後、以下のいずれかの方法で殺細胞効果を調べた。
(1) 増殖阻害試験
遺伝子導入後の細胞を 1 x 105 cells/mlで24穴ディッシュに植え込み、CellTiter-Glo(CellTiter-Glo(登録商標) Luminescent Cell Viability Assay、Promega)を使用して24時間ごとに細胞の生存率を測定した。
(2) コロニー形成法
遺伝子導入24時間後に、200個または5,000個の細胞を60 mm ディッシュに植え込み、17日間コロニー形成を行い、コロニー数を計測した。
【0073】
ルシフェラーゼアッセイは、以下の要領で行った。2 x 106個のNalm-6細胞に各コンストラクト(1 μg)をトランスフェクションした。遺伝子導入後の細胞を 5 x 105 cells/mlで12穴ディッシュに植え込み、Nano-Glo Luciferase Assay System (Promega)を用いて経時的にルシフェラーゼ活性(RLU値)を測定した。
【0074】
A-3. 結果
自殺遺伝子DT-Aを用いて作製したコンストラクトの殺細胞効果を調べた結果を
図6(コロニー形成法)、
図7(増殖阻害試験)、
図8(増殖阻害試験)に示す。相同性を低下させると組換えの効率が低下することがわかった。相同領域間の相同性を5%低下させた基質(pCMV-SA-DTA95)において、Msh2-細胞とMsh2+細胞との間の殺細胞効果、すなわち組換え効率の差が最も大きく、ミスマッチ修復の有無の影響を最も受けやすいことがわかった。このような基質を利用することで、ミスマッチ修復を欠損した細胞のみを効果的に殺傷できる可能性を高めることができる。
【0075】
SA-Nlucコンストラクトを使った実験結果の一例を
図9、10に示す。トランスフェクション後2時間以内に(30分で)ルシフェラーゼ活性(=相同領域間での組換え頻度)を検出できた。したがって、ベクター導入後速やかに染色体外で組換え反応が起こること、またこの組換えで生成された正常型遺伝子の一過性発現を簡便迅速かつ高感度で定量的に測定できることがわかった。また、効率は低下するものの、NsiIでリニア化していない環状のコンストラクトを細胞にトランスフェクションした場合でも組換え反応が起き(
図10のpCMV-SA-Nluc)、ルシフェラーゼ活性を検出できることが確認された。
【0076】
相同領域間の相同性を変化させたSA-Nlucコンストラクトを使った実験結果の一例を
図11に示す。ルシフェラーゼ遺伝子Nluc間の相同性を低下させるにつれ組換え効率が低下することがわかった。この傾向はMsh2-細胞よりもMsh2+細胞において顕著であり、特に相同領域間の相同性を32%低下させた基質(pCMV-SA-Nluc68)では、Msh2-細胞とMsh2+細胞との間のルシフェラーゼ活性、すなわち組換え効率に約100倍の差があることがわかった。このような基質を利用することで、ミスマッチ修復を欠損した細胞を効果的に検出できることが示された。
【0077】
SA-DTAコンストラクトにおける相同領域のサイズの違いが殺細胞効果に及ぼす影響を調べた。2×106個のNalm-6細胞(WT)にMaxCyte(OC-25 x 3, 2回目)を用いて、各コンストラクト(2μg)をトランスフェクションした。遺伝子導入から24時間後、200個又は5000個の細胞を60 mmディッシュに植え込み、コロニー形成させた。ポジティブコントロールであるpCMV-Nlucを導入した際のPEを1として、各コンストラクトを導入した際のPEの相対値を算出した。
【0078】
自殺遺伝子DT-A間の相同領域を短くしたコンストラクトの殺細胞効果を調べた結果を
図12に示す。相同領域の長さが100 bpのときと同様に、40 bp、20 bpにおいても相同性を低下させると組換え効率が低下することがわかった。相同領域の長さが20 bpの場合、相同領域間の相同性を5%低下させた基質(pCMV-SA-DTA20-95)において、Msh2-細胞とMsh2+細胞との間の殺細胞効果、すなわち組換え効率の差が最も大きく、ミスマッチ修復の有無の影響を最も受けやすいことがわかった。このような基質を利用することで、ミスマッチ修復を欠損した細胞のみを効果的に殺傷できる可能性を高めることができる。
【0079】
B. 実験2
B-1. ベクター(DNAコンストラクト)の作製方法
B-1-1. pCMV-SA-Nluc-spacerコンストラクトの構築
相同配列間にスペーサーが挿入されたベクターを作製するため、pJB1(Gravells et al. (2015) Use of the HPRT gene to study nuclease-induced DNA double-strand break repair. Hum. Mol. Genet.24: 7097-7110)を鋳型としたPCRによりスペーサー断片(3,952 bp、配列番号52;第1985位~第2002位がI-SceIの認識配列である)を増幅した。PCRのポリメラーゼにはPrimeSTAR HS(商品名) DNA Polymerase(タカラバイオ)を、プライマーにはNluc-spacer-Fw(配列番号44)とNluc-spacer-Rv(配列番号45)を用いた。次いで、上記A-1-1-3.で調製したpCMV-SA-Nluc(相同性100%)、並びに上記A-1-1-4.で調製したpCMV-SA-Nluc95(相同性95%)、pCMV-SA-Nluc90(相同性90%)、pCMV-SA-Nluc78(相同性78%)、pCMV-SA-Nluc68(相同性68%)をそれぞれNsiIで消化し、In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて、5'Nluc断片と各変異をもつ3'Nluc断片の間にそれぞれスペーサー断片を挿入することにより、[CMVプロモーター]-[5'Nluc断片]-[スペーサー]-[各変異をもつ3'Nluc断片]-[ポリA付加シグナル]が連結したpCMV-SA-Nluc-spacer(相同性100%)、pCMV-SA-Nluc95-spacer(相同性95%)、pCMV-SA-Nluc90-spacer(相同性90%)、pCMV-SA-Nluc78-spacer(相同性78%)、pCMV-SA-Nluc68-spacer(相同性68%)をぞれぞれ得た。作製したプラスミドは、Qiagen Plasmid Plus Midi Kit (Qiagen K.K.) を用いて精製し、I-SceI(New England Biolabs)で切断してリニア化してからトランスフェクションに用いた。
【0080】
B-1-2. 分割型pCMV-SA-Nlucコンストラクトの構築
pCMV-5'Nlucに使用するNluc遺伝子の断片(345-bpの5'Nluc断片、配列番号23)は、pNL1.1[Nluc]Vector(Promega、米国WI州Madison)を鋳型としたPCRにより増幅して得た。PCRのポリメラーゼにはPrimeSTAR HS(商品名) DNA Polymerase(タカラバイオ)を、プライマーにはNluc-Fw(配列番号5)及びSA-5'Nluc-Rv2(配列番号46)を用いた。次いで、pCMV-Nluc(Saito S, et al. Nature Commun. 8:16112, 2017)をNheIとBamHIで消化し、CMVプロモーターを含む断片を回収した。In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて、CMVプロモーターの下流に5'Nluc断片を挿入することにより、[CMVプロモーター]-[5'Nluc断片]が連結したpCMV-5'Nlucを得た。作製したプラスミドは、Qiagen Plasmid Plus Midi Kit(Qiagen K.K.)を用いて精製し、NsiI(タカラバイオ)で切断して(5'Nluc断片の3'末部分に導入したNsiIサイトで切断される)リニア化してからトランスフェクションに用いた。
3'Nluc断片とポリA付加シグナルが連結した断片(582-bp、配列番号53; この塩基配列中の第21位~第290位がNlucの配列、第339位~第460位がポリA付加シグナルである)は、上記A-1-1-3.で調製したpCMV-SA-Nlucを鋳型としたPCRにより増幅して得た。PCRのポリメラーゼにはTks Gflex(商品名) DNA Polymerase(タカラバイオ)を、プライマーにはSSA-3'Nluc-Fw(配列番号7)及びSV40-pA-Rv(配列番号47)を用いた。増幅したDNA断片は、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いて精製し、トランスフェクションに用いた。
【0081】
B-1-3. 分割型pCMV-SA-DTAコンストラクトの構築
pCMV-5'DTAに使用するDT-A遺伝子の断片(132-bpの5'DTA断片、配列番号11)は、pMC1DT-ApA(KURABO、日本国大阪)を鋳型としたPCRにより増幅して得た。PCRのポリメラーゼにはPrimeSTAR HS(商品名) DNA Polymerase(タカラバイオ)を、プライマーにはDTA-Fw(配列番号1)及びSA-5'DTA-Rv2(配列番号48)を用いた。次いで、pCMV-NlucをNheIとClaIで消化し、CMVプロモーターを含む断片を回収した。In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて、CMVプロモーターの下流に5'DTA断片を挿入することにより、[CMVプロモーター]-[5'DTA断片]が連結したpCMV-5'DTAを得た。作製したプラスミドは、Qiagen Plasmid Plus Midi Kit(Qiagen K.K.)を用いて精製し、I-SceI(New England Biolabs)で切断してリニア化してからトランスフェクションに用いた。
3'DTA断片とポリA付加シグナルが連結した断片(866-bp、配列番号54; この塩基配列中の第25位~第582位がDTAの配列、第623位~第744位がポリA付加シグナルである)は、上記A-1-1-1.で調製したpCMV-SA-DTAを鋳型としたPCRにより増幅して得た。PCRのポリメラーゼにはTks Gflex(商品名) DNA Polymerase(タカラバイオ)を、プライマーにはSA-3'DTA-Fw2(配列番号49)及びSV40-pA-Rv(配列番号47)を用いた。増幅したDNA断片は、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いて精製し、トランスフェクションに用いた。
【0082】
B-1-4. pCMV-SA-TKコンストラクトの構築
自殺遺伝子としてHSV-TK遺伝子を利用した一体型コンストラクトを構築した。
まず、HSV-TK遺伝子を発現させるためのベクター(pCMV-TK)を作製するため、HSV-TK遺伝子断片 (GenBank:V00470.1, Kobayashi et al. (2001) Decreased topoisomerase IIalpha expression confers increased resistance to ICRF-193 as well as VP-16 in mouse embryonic stem cells. Cancer Lett. 166(1): 71-77; HSV-TK遺伝子のコード領域の塩基配列及びコードされるTKタンパク質のアミノ酸配列を配列番号55、56に示す)を鋳型としたPCRによりHSV-TK遺伝子のORFを増幅した。PCRのポリメラーゼにはPrimeSTAR HS(商品名) DNA Polymerase(タカラバイオ)を、プライマーにはTK-Fw(配列番号66)及びTK-Rv(配列番号67)を用いた。次いで、pIRES(タカラバイオ、
図2)をNheIとXbaIで消化し、CMVプロモーターとポリA付加シグナルを含む断片を回収した。In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて、CMVプロモーターの下流にTK遺伝子断片を挿入することにより、[CMVプロモーター]-[HSV-TK遺伝子断片]-[ポリA付加シグナル]が連結したpCMV-TKを得た。作製したプラスミドは、Qiagen Plasmid Plus Midi Kit (Qiagen K.K.) を用いて精製し、トランスフェクションに用いた。
【0083】
pCMV-SA-TKに使用する5'TKの一部を含む断片(HSV-TK遺伝子の塩基配列中の第27位~第124位の領域を含む断片)は、HSV-TK遺伝子断片(GenBank:V00470.1)を鋳型としたPCRにより増幅して得た。PCRのポリメラーゼにはPrimeSTAR HS(商品名)DNA Polymerase(タカラバイオ)を、プライマーにはSA-TK-Fw(配列番号50)及びSA-TK-Rv(配列番号51)を用いた。次いで、PCRにより増幅した5'TKの一部を含む断片をMluIで消化した後、DNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ)を用いて、pCMV-TKのMluIサイト(HSV-TK遺伝子のORF中に存在)に挿入した。これにより、[CMVプロモーター]-[5'TK断片]-[3'TK断片]-[ポリA付加シグナル]が連結したpCMV-SA-TKを得た。このコンストラクトは、
図18に示すように、[5'TK断片]と[3'TK断片]の間(配列はTGA TTCTCGAGTAGGGATAACAGGGTAATGCAT、配列番号61)にI-SceI認識部位を有している。作製したプラスミドは、Qiagen Plasmid Plus Midi Kit(Qiagen K.K.)を用いて精製し、I-SceI(New England Biolabs)で切断してリニア化してからトランスフェクションに用いた。
【0084】
【0085】
B-2. 細胞と遺伝子導入
ヒトpre-B細胞株Nalm-6(ミスマッチ修復機構を欠損したがん細胞)およびその派生細胞は、5%CO2インキュベーター内で37℃で培養した(So et al. (2004) Genetic interactions between BLM and DNA ligase IV in human cells. J. Biol. Chem. 279: 55433-55442)。Nalm-6細胞のトランスフェクションは、既報(Saito et al. (2017) Dual loss of human POLQ and LIG4 abolishes random integration. Nat. Commun. 8: 16112)に従いエレクトロポレーション法により行った。
ヒト大腸癌由来細胞株HCT116(Horizon Discovery, 英国Cambridge)及びそのMLH1復帰細胞(HCT116 +MLH1)(Horizon Discovery)は、5%CO2インキュベーター内で37℃で培養した。培地は、ダルベッコ変法イーグル培地 (日水製薬、日本国東京) に仔牛血清 (グローバルライフサイエンステクノロジーズジャパン、日本国東京、イーグルMEM 500mlあたり50 mlを添加)とL(+)-グルタミン (富士フイルム和光純薬、日本国大阪、終濃度2 mMとなるように添加)を加えたものを使用した。トランスフェクションは、製造会社のプロトコルに従い、jetPEI(Polyplus-transfection, 仏国Illkirch)により行った。
【0086】
B-3. 殺細胞効果の評価
2x 106個のNalm-6細胞に各コンストラクト(1μg)をトランスフェクションし、増殖阻害試験法またはコロニー形成法のいずれかの方法で殺細胞効果を調べた。
(1) 増殖阻害試験法
遺伝子導入後の細胞を1 x 105cells/mlで24穴ディッシュに植え込み、24時間後に500 nMの終濃度でガンシクロビル(富士フイルム和光純薬)を添加し、CellTiter-Glo(CellTiter-Glo(登録商標) Luminescent Cell Viability Assay、Promega)を使用して48時間ごとに細胞の生存率を測定した。
(3) コロニー形成法
遺伝子導入24時間後に、200個または5,000個の細胞を60 mm ディッシュに植え込み、コロニー形成を行った。pCMV-SA-TKを導入した場合には、遺伝子導入された200個または5,000個の細胞を500 nMのガンシクロビルを含む寒天培地中に播種した。17日間培養した後、生育したコロニーをカウントし、生存率を算出した。
【0087】
B-4. ルシフェラーゼアッセイ
Nalm-6細胞及びその派生細胞株におけるルシフェラーゼアッセイは、以下の要領で行った。2 x 106個のNalm-6細胞に各コンストラクト(2 μg, 1 μg, 0.2 μg, 0.02 μg, 0.002 μgのいずれかの量)をトランスフェクションした。遺伝子導入後の細胞を5 x 105 cells/mlで24穴ディッシュに植え込み、Nano-Glo Luciferase Assay System (Promega)を使用して、遺伝子導入直後(0時間後)、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、24時間後にルシフェラーゼ活性(RLU値)を測定した。
HCT116細胞及びそのMLH1復帰細胞(HCT116 +MLH1)細胞におけるルシフェラーゼアッセイは、以下の要領で行った。5 x 104個の細胞を24穴ディッシュに植え込み、一晩培養した後、各コンストラクト(1 μg)をトランスフェクションした。遺伝子導入から24時間後に細胞数を測定し、Nano-Glo Luciferase Assay System (Promega)を使用して、ルシフェラーゼ活性(RLU値)を測定した。
【0088】
B-5. 結果
pCMV-SA-Nluc-spacerコンストラクトを使った実験結果の一例として、Nalm-6細胞及びそのMSH2復帰細胞(Nalm-6 +MSH2)でルシフェラーゼアッセイを行った結果を
図13に示す。スペーサーを挿入していないpCMV-SA-Nlucコンストラクト(
図13の左側)と比べて、長いスペーサーを挿入したCMV-SA-Nluc-spacerコンストラクトの方が、ミスマッチ修復欠損細胞と非欠損細胞との間の組み換え効率の差がより明確に現れる傾向があった。
【0089】
pCMV-SA-Nluc-spacerコンストラクトを使った実験結果の別の一例として、HCT116細胞とそのMLH1復帰細胞(HCT116 +MLH1)でルシフェラーゼアッセイを行った結果を
図14に示す。MSH2を原因とするミスマッチ修復欠損の有無と同様に、MLH1を原因とするミスマッチ修復欠損の有無によっても、相同性を低下させることによって遺伝子発現の差が広がることが確認できた。この結果は、本発明のコンストラクトがミスマッチ修復欠損の原因には影響されないことを示唆している。
【0090】
分割型SA-Nlucコンストラクトを使ったルシフェラーゼアッセイの結果の一例を
図15、
図16に示す。分割型コンストラクト(pCMV-5'Nluc + 3'Nluc-pA)でも、一体型(pCMV-SA-Nluc)と同程度の効果が認められた(
図15)。また、分割型コンストラクトでも、相同性を低下させることによって遺伝子発現の差が明確になることが確認された(
図16)。
【0091】
分割型SA-DTAコンストラクトをNalm-6細胞にトランスフェクションし、コロニー形成法により殺細胞効果を評価した結果の一例を
図17に示す。SA-DTAの5'断片と3'断片を分割して遺伝子導入した場合でも、一体型とほぼ同等の殺細胞効果があることが確認された。
【0092】
一体型pCMV-SA-TKコンストラクトの構造を
図18に、該コンストラクト及びNalm-6細胞を使った殺細胞効果の評価結果の一例を
図19(増殖阻害試験、遺伝子導入6日後の細胞の生存率を、ガンシクロビル(GANC)非添加時を100とした場合の相対値で示す)、
図20(コロニー形成法)に示す。HSV-TKを自殺遺伝子に用いた場合も、DT-Aを用いたコンストラクトと同様の効果が得られることが確認された。
【0093】
C. 実験3
C-1. pCMV-SA-SecNlucコンストラクトの構築
分泌シグナルを付加したNluc遺伝子を発現するベクターを作製するため、ヒトインターロイキン6(IL6)由来の分泌シグナル配列を人工遺伝子合成により作製した(pIL6-Nluc)。人工遺伝子合成したpIL6-NlucをSmaIとEcoNIで消化し、分泌シグナル配列を含む断片を回収した。回収した分泌シグナル配列を含む断片と、pCMV-NlucをSmaIとEcoNIで消化したDNA断片を混合し、DNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ)を用いて、Nluc遺伝子の上流に分泌シグナル配列を含む断片を挿入することにより、[CMVプロモーター]-[分泌シグナル]-[Nluc遺伝子]-[ポリA付加シグナル]が連結したpCMV-SecNlucを得た。[分泌シグナル]-[Nluc遺伝子]部分(SecNluc遺伝子)の塩基配列及びこれにコードされるアミノ酸配列を配列番号62、63に示す。配列番号62のSecNluc遺伝子配列中の第1位~第87位が分泌シグナルをコードするDNA配列、配列番号63のアミノ酸配列中の第1番~第29番アミノ酸が分泌シグナルのアミノ酸配列である。
【0094】
pCMV-SA-Nluc(相同性100%)の5'Nluc遺伝子およびpCMV-SA-Nluc68(相同性68%)の5'Nluc遺伝子に分泌シグナル配列を付加するため、pCMV-SecNlucをXhoIとEcoNIで消化し、分泌シグナル配列を含む断片を回収した。次に、pCMV-SA-Nluc(相同性100%)およびpCMV-SA-Nluc68(相同性68%)をそれぞれXhoIとEcoNIで消化し、CMVプロモーターを含む断片を回収した。最後に、回収した分泌シグナル配列を含む断片と、CMVプロモーターを含む断片を混合し、DNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ)を用いて、5'Nluc遺伝子の上流に分泌シグナル配列を含む断片を挿入することにより、[CMVプロモーター]-[分泌シグナル]-[5'Nluc断片]-[3'Nluc断片]-[ポリA付加シグナル]が連結したpCMV-SA-SecNluc(相同性100%)および[CMVプロモーター]-[分泌シグナル]-[5'Nluc断片]-[変異をもつ3'Nluc断片]-[ポリA付加シグナル]が連結したpCMV-SA-SecNluc68(相同性68%)を得た。[分泌シグナル]-[5'Nluc断片]部分(5'SecNluc断片)の塩基配列及びこれにコードされるアミノ酸配列を配列番号64、65に示す。
【0095】
C-2. 細胞と遺伝子導入、ルシフェラーゼアッセイ
C-2-1. 細胞と遺伝子導入
ヒトpre-B細胞株Nalm-6およびその派生細胞は、5%CO2インキュベーター内で37℃で培養した(So et al. (2004) Genetic interactions between BLM and DNA ligase IV in human cells. J. Biol. Chem. 279: 55433-55442)。Nalm-6細胞のトランスフェクションは、既報(Saito et al. (2017) Dual loss of human POLQ and LIG4 abolishes random integration. Nat. Commun. 8: 16112)に従いエレクトロポレーション法により行った。
ヒト大腸癌由来細胞株HCT116(Horizon Discovery, 英国Cambridge)及びそのMLH1復帰細胞(HCT116 +MLH1)(Horizon Discovery)は、5%CO2インキュベーター内で37℃で培養した。培地は、ダルベッコ変法イーグル培地 (日水製薬、日本国東京) に仔牛血清 (グローバルライフサイエンステクノロジーズジャパン、日本国東京、イーグルMEM 500mlあたり50 mlを添加)とL(+)-グルタミン (富士フイルム和光純薬、日本国大阪、終濃度2 mMとなるように添加)を加えたものを使用した。トランスフェクションは、製造会社のプロトコルに従い、jetPEI(Polyplus-transfection, 仏国Illkirch)により行った。
【0096】
C-2-2. ルシフェラーゼアッセイ
Nalm-6細胞及びその派生細胞株におけるルシフェラーゼアッセイは、以下の要領で行った。2 x 106個のNalm-6細胞に各コンストラクト(2 μg)をトランスフェクションした。遺伝子導入後の細胞を5 x 105 cells/mlで24穴ディッシュに植え込み、Nano-Glo Luciferase Assay System (Promega)を使用して、遺伝子導入から2時間後と24時間後に細胞培養液の上清(50 μl)を用いて、ルシフェラーゼ活性(RLU値)を測定した。
【0097】
C-3. 結果
培養上清を用いてルシフェラーゼ活性を測定した結果を
図21に示す。非分泌型ルシフェラーゼのコンストラクトと同様の結果が得られた。分泌型ルシフェラーゼを利用すれば、細胞溶解の処理が不要であり、培養上清を用いて簡便にアッセイできる。
【0098】
D. 実験4
D-1. ベクターの作製
40-bpの長さの相同領域をもつpCMV-SA-Nluc-40(相同性100%)に使用する2つのNluc遺伝子の断片(121-bpの5'Nluc-40断片(配列番号74)、432-bpの3'Nluc-40断片(配列番号79))は、pNL1.1[Nluc]Vector(Promega、米国WI州Madison)を鋳型としたPCRにより増幅して得た。PCRのポリメラーゼにはPrimeSTAR HS(商品名) DNA Polymerase(タカラバイオ)を使用した。使用したプライマーを下記表3に示す。5'Nluc断片の増幅にはNluc-Fw(配列番号5)及びSA-5'Nluc-40-Rv(配列番号68)を、3'Nluc断片の増幅にはSA-3'Nluc-40-Fw(配列番号69)及びNluc-Rv(配列番号8)を用いた。次いで、pIRES(タカラバイオ、
図2)をNheIとXbaIで消化し、CMVプロモーターとポリA付加シグナルを含む断片を回収した。In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて、CMVプロモーターの下流に5'Nluc-40断片と3'Nluc-40断片を挿入することにより、[CMVプロモーター]-[5'Nluc-40断片]-[3'Nluc-40断片]-[ポリA付加シグナル]が連結したpCMV-SA-Nluc-40(相同性100%)を得た。作製したプラスミドは、Qiagen Plasmid Plus Midi Kit (Qiagen K.K.) を用いて精製し、NsiI(タカラバイオ)で[5'Nluc-40断片]と[3'Nluc-40断片]の間を切断してリニア化してからトランスフェクションに用いた。
【0099】
次に、相同配列間の相同性を低下させたベクターを作製するため、3'Nluc-40の配列のうち5'Nluc-40と相同なDNA配列(40-bp、配列番号79中の第1位~第40位の領域)にサイレント変異を導入したDNA断片をPCRにより増幅した。サイレント変異は、5'Nluc-40との相同性がそれぞれ90%(4ヶ所)、70%(12ヶ所)、60%(16ヶ所)、50%(20ヶ所)となるように導入した(ただし、Nluc遺伝子の第33番アミノ酸(フェニルアラニン)と第37番アミノ酸(グリシン)をコードするDNA配列についてはサイレント変異だけでなく、それぞれロイシンまたはグリシンに置換される変異の導入も利用した。なお、この2つのアミノ酸の置換は、Nlucタンパク質のルシフェラーゼ活性に影響を与えないことがわかっている。)。PCRのポリメラーゼにはPrimeSTAR HS(商品名) DNA Polymerase(タカラバイオ)を使用した。使用したプライマーを下記表3に示す。3'Nluc-40(相同性90%)(配列番号80)の増幅にはSA-3'Nluc-40-90%-Fw(配列番号70)及びNluc-Rv(既出)を、3'Nluc-40(相同性70%)(配列番号81)の増幅にはSA-3'Nluc-40-70%-Fw(配列番号71)及びNluc-Rv(配列番号8)を、3'Nluc-40(相同性60%)(配列番号82)の増幅にはSA-3'Nluc-40-60%-Fw(配列番号72)及びNluc-Rv(配列番号8)を、3'Nluc-40(相同性50%)(配列番号83)の増幅にはSA-3'Nluc-40-50%-Fw(配列番号73)及びNluc-Rv(配列番号8)を用いた。次いで、pIRES(タカラバイオ)をNheIとXbaIで消化し、CMVプロモーターとポリA付加シグナルを含む断片を切り出した。In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて、CMVプロモーターの下流に5'Nluc-40断片と各変異をもつ3'Nluc-40断片をそれぞれ挿入することにより、[CMVプロモーター]-[5'Nluc-40断片]-[各変異をもつ3'Nluc-40断片]-[ポリA付加シグナル]が連結したpCMV-SA-Nluc-40(相同性90%)、pCMV-SA-Nluc-40(相同性70%)、pCMV-SA-Nluc-40(相同性60%)、pCMV-SA-Nluc-40(相同性50%)をそれぞれ得た。作製したプラスミドは、Qiagen Plasmid Plus Midi Kit (Qiagen K.K.) を用いて精製し、NsiI(タカラバイオ)で[5'Nluc-40断片]と[3'Nluc-40断片]の間を切断してリニア化してからトランスフェクションに用いた。
【0100】
【0101】
D-2. 方法
上記C-2と同様にして、Nalm-6細胞及びその派生細胞株を用いてルシフェラーゼアッセイを行った。
【0102】
D-3. 結果
図22に示す通り、コンストラクト中の相同領域におけるDNAの相同性を低下させるにつれMsh2欠損の影響が見られた(60%のコンストラクトで差が最大)。ただし、相同性を50%まで低下させると組換えが起こらなくなる可能性が示唆された。
【配列表】