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7650086サッカロマイセス・セレビシエを用いた簡単な前駆体原料からのカンナビノイドの持続可能な生成
<図1>
  • -サッカロマイセス・セレビシエを用いた簡単な前駆体原料からのカンナビノイドの持続可能な生成 図1
  • -サッカロマイセス・セレビシエを用いた簡単な前駆体原料からのカンナビノイドの持続可能な生成 図2
  • -サッカロマイセス・セレビシエを用いた簡単な前駆体原料からのカンナビノイドの持続可能な生成 図3A
  • -サッカロマイセス・セレビシエを用いた簡単な前駆体原料からのカンナビノイドの持続可能な生成 図3B
  • -サッカロマイセス・セレビシエを用いた簡単な前駆体原料からのカンナビノイドの持続可能な生成 図4
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  • -サッカロマイセス・セレビシエを用いた簡単な前駆体原料からのカンナビノイドの持続可能な生成 図6
  • -サッカロマイセス・セレビシエを用いた簡単な前駆体原料からのカンナビノイドの持続可能な生成 図7
  • -サッカロマイセス・セレビシエを用いた簡単な前駆体原料からのカンナビノイドの持続可能な生成 図8
  • -サッカロマイセス・セレビシエを用いた簡単な前駆体原料からのカンナビノイドの持続可能な生成 図9
  • -サッカロマイセス・セレビシエを用いた簡単な前駆体原料からのカンナビノイドの持続可能な生成 図10-1
  • -サッカロマイセス・セレビシエを用いた簡単な前駆体原料からのカンナビノイドの持続可能な生成 図10-2
  • -サッカロマイセス・セレビシエを用いた簡単な前駆体原料からのカンナビノイドの持続可能な生成 図11
  • -サッカロマイセス・セレビシエを用いた簡単な前駆体原料からのカンナビノイドの持続可能な生成 図12
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-13
(45)【発行日】2025-03-24
(54)【発明の名称】サッカロマイセス・セレビシエを用いた簡単な前駆体原料からのカンナビノイドの持続可能な生成
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/19 20060101AFI20250314BHJP
   C12P 7/42 20060101ALI20250314BHJP
   C12P 17/06 20060101ALI20250314BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20250314BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20250314BHJP
   C12R 1/865 20060101ALN20250314BHJP
【FI】
C12N1/19 ZNA
C12P7/42
C12P17/06
C12N9/10
C12N15/54
C12R1:865
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022521614
(86)(22)【出願日】2020-10-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-21
(86)【国際出願番号】 SG2020050584
(87)【国際公開番号】W WO2021071439
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-08-18
(31)【優先権主張番号】62/914,058
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507421865
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティ オブ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】リム,ケヴィン ジー ハン
(72)【発明者】
【氏名】ゴー,メイベル ダーリーン コー
(72)【発明者】
【氏名】ユー,ウェン シャン
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/200888(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/183152(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/014490(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0334692(US,A1)
【文献】国際公開第2019/173770(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/19
C12P
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数の核酸をそのゲノム内に含む、サッカロマイセス・セレビシエの組換え細胞であって、
前記組換え細胞により基質の存在下でカンナビノイドが生成され、
前記複数の核酸の少なくとも1つが
配列番号8~11のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を含む、NphBプレニルトランスフェラーゼ;
コエンザイムA(CoA)リガーゼ;
マロニルCoAシンセターゼ(MCS);
オリベトールシンターゼ(OLS);および
オリベトール酸シクラーゼ(OAC)
をコードする、
組換え細胞。
【請求項2】
前記コエンザイムA(CoA)リガーゼが、ニコチアナ・タバカムの4-クマリルCAリガーゼ、ロドシュードモナス・パルストリの安息香酸CoAリガーゼ、およびストレプトマイセス・コエリカラーのフェニル酢酸CoAリガーゼからなる群から選択される、請求項1に記載の組換え細胞。
【請求項3】
前記CoAリガーゼが、配列番号1~3のうちのいずれか1つのアミノ酸配列からなる、請求項に記載の組換え細胞。
【請求項4】
前記MCSが、配列番号5のアミノ酸配列からなる、請求項に記載の組換え細胞。
【請求項5】
記基質が、表1に列挙された前記基質から選択される、請求項1に記載の組換え細胞。
【請求項6】
記基質が、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、またはオクタン酸である、請求項に記載の組換え細胞。
【請求項7】
請求項1に記載の組換え細胞を基質と接触させること、および前記組換え細胞を培養すること、を含む、カンナビノイドを生成するための方法。
【請求項8】
記基質が、表1に列挙された前記基質から選択される、請求項に記載の方法。
【請求項9】
記基質が、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、またはオクタン酸である、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記コエンザイムA(CoA)リガーゼが、ニコチアナ・タバカムの4-クマリルCAリガーゼ、ロドシュードモナス・パルストリの安息香酸CoAリガーゼ、およびストレプトマイセス・コエリカラーのフェニル酢酸CoAリガーゼからなる群から選択される、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記CoAリガーゼが、配列番号1~3のうちのいずれか1つのアミノ酸配列からなる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記MCSが、配列番号5のアミノ酸配列からなる、請求項に記載の方法。
【請求項13】
配列番号8~11のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を有する、プレニルトランスフェラーゼ。
【請求項14】
配列番号8~11のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を有するプレニルトランスフェラーゼをコードする、核酸。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
背景
本来は、植物カンナビス・サティバ(Cannabis. sativa)から単離される化合物であるフィトカンナビノイドの研究的および治療的使用は、大部分が法的および社会的問題により阻まれてきた。植物中の他のカンナビノイドとの混合物として生成されるΔ-テトラヒドロカンナビノール(THC)などの幾つかのカンナビノイドは、精神活性であることが見出されている。しかし、C.サティバから単離される少なくとも113種の公知のカンナビノイドが存在し(Aizpurua-Olaizola et al., J. Nat. Prod., 2016, 79(2):324-331)、そのほとんどが非精神活性であり、はっきりと異なる薬理学的特性を有する。
【0002】
ヒトカンナビノイド受容体の広範囲の発現から、これらの化合物がヒトの身体に幅広い影響を有することが暗示される。主な2クラスの受容体が存在し、CB受容体は、主に中枢神経系で発現され、一方でCB受容体は、主として末梢免疫系に見出される。加えて研究では、心臓、副腎、肺、脾臓および扁桃腺などの様々なヒト組織中のこれらの受容体の発現に及んでいない(Galiegue et al., Eur. J. Biochem., 1995, 232(1):54-61)。カンナビノイドとこれらの受容体との関連性が、ヒトの体内の生物系の広範囲に潜在的に影響を及ぼし得るシグナル伝達経路を作動させる。
【0003】
フィトカンナビノイドは、米国食品医薬品局により集中化学療法の癌処置を受ける患者への制吐薬として(THC and Dronabinol; Pertwee, Forsch. Komplementarmed., 1999, Suppl 3:12-15)、そして英国では他の薬物療法に非応答性の多発性硬化症の患者の痙性への高度に効果的な処置として(Flachenecker et al, Eur. Neurol., 2014, 71(5-6):271-279)、臨床での使用が認可されている。様々な試験で、抗腫瘍薬(Velasco et al., Nat. Rev. Cancer, 2012, 12(6):436-444; Maria Pyszniak et al., Onco. Targets Therapy, 2016,.9:4323-4336)、およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の複数の菌株に効果的になり得る抗菌剤(Appendino et al., J. Nat. Prod., 2008, 71(8):1427-1430)として、フィトカンナビノイドの治療能力も示されている。
【0004】
カンナビノイド研究におけるこれらの近年の発展に照らせば、法的カンナビスの市場は現在、国際的には77億米ドルに値すると推定され、これは2021年までに314億米ドル前後に成長すると予期されている (Zhang, Forbes, 2017)。
【0005】
現在、研究的または治療的使用のためのカンナビノイドのほとんどが、C.サティバ抽出物から生成されている。C.サティバの中の混合物として生成されるTHCなどの精神活性成分は高濃度であるため、植物抽出物の違法使用に関連する法的および社会的意味合いは、伝統的栽培が直面した最大の難題を提起している。C.サティバの栽培で生成されるカンナビノイドの選択性の制御は限定されている。さらに、治療能力に関する研究のためにカンナビジバリン(CBDV)およびカンナビシクロール(CBL)などの微量のカンナビノイドを生成するC.サティバ系統については市場に大きな格差がある。
【0006】
これらの植物の栽培は、環境因子を制御するために高度にエネルギー集約的な工程が必要であるため高費用になるだけでなく、それは環境的に持続可能でない。Lawrence Berkeley National LaboratoryのEnergy & Resourcesグループにより2012年に実行された研究では、米国のみでのカンナビノイド栽培の屋内実践からのエネルギー消費コストが、年間60億米ドル前後であると推定された。さらに、最終生成物を1キログラム生成するためのこの実践からの温室効果ガス排出量は、車300万台のそれに相当する(Mills, Energy Policy, 2012, 46:58-67)。
【0007】
先に記載された複雑な問題を回避するカンナビノイド生成の代替手段が、求められている。
【発明の概要】
【0008】
概要
提示された要求を満たすために、カンナビノイドがカンナビノイド前駆体基質の存在下で組換え細胞により生成されるように、それぞれがカンナビノイド生合成経路遺伝子をコードする複数の核酸をそのゲノム内に含有するサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の組換え細胞が、提供される。カンナビノイド生合成経路遺伝子の少なくとも1つは、カンナビス・サティバ由来でない。
【0009】
同じく開示されるのは、組換え細胞をカンナビノイド前駆体基質と接触させること、および組換え細胞を培養すること、によりカンナビノイドを生成するための方法である。
【0010】
1つまたは複数の実施形態の詳細を、この記載および以下の実施例に表される。他の特色、目的、および利点は、詳細な記載から、図面から、そして添付の特許請求の範囲からも明白となろう。
【0011】
以下の発明の記載は、添付の図面を参照している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、カンナビノイドの生合成経路を示す。ポリケチド経路は、黒色に色付けられ、イソプレノイド経路は、薄灰色に色付けられている。経路になされた修飾は、濃灰色に色付けられている。
図2図2は、アミノ酸配列中の予測された6つの膜内外領域を示したゲラニルピロリン酸:オリベトール酸ゲラニルトランスフェラーゼについての膜内外領域予測ウェブサーバー(TMHMM)からの結果を示す。
図3A図3Aは、経路(レベル2)の生物学的部分(レベル0)からの組み立てからのクローニング手順を示したYeastFab経路アッセイシステムの概略的表示である。Guo et al., Nucleic Acids Res., 2015,. 43(13):e88からの撮影画像。
図3B図3Bは、レベル2経路までの組み立てのためのレベル1転写単位(POT)プレフィックスおよびサフィックスの配列を示す。
図4図4は、S.セレビシエ中で生成されたカンナビノイドのLC-MS分析の抽出されたイオンカウント(左側)および質量スペクトル(右側)を示す:(1段目)4CLおよびMCSを発現する陰性対照構築物4ME;(2段目)4CL、MCS、OLSおよびOACを発現する構築物4MOO;ならびに(最下段)OLA標準。
図5図5は、インビトロ酵素アッセイのLC-MS分析の抽出されたイオンカウントおよび質量スペクトルを示す:GPPおよびOLAでの酵素不含の陰性対照(一段目)、GPPおよびOLAでの酵素GOT(2段目)、GPPおよびOLAでの酵素NphB(3段目)、ならびにCBGA標準(最下段)。
図6図6は、S.セレビシエ中のゲラニオール生合成と共にモノテルペン前駆体IPP、DMAPPおよびGPPを過剰発現する単純化されたメバロン酸経路を示す(Zhao et al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 2016, 100(10):4561-4571)。本発明のシステムにおいてGPPを生成するように適合された遺伝子に下線を付している。
図7図7は、S.セレビシエ中で生成されたカンナビノイドのLC-MS分析の抽出されたイオンカウントおよび質量スペクトルを示す:陰性対照は、カンナビノイド遺伝子のみを発現する構築物4MOON pMKU+Empty pCKL(1段目)であり、pMKUベクター上のカンナビノイド遺伝子およびpCKL上のメバロン酸遺伝子を発現する(2段目)、ならびにCBGA標準を発現する(最下段)構築物4MOON pMKU+IHUE pCKL。
図8図8は、OLAとDVAの炭素鎖長の差を示す(Groom et al., Acta Crystallogr. B Struct. Sci. Cryst. Eng. Mater, 2016, 72(Pt 2):171-179)。
図9図9は、異なるスターター単位およびサッカロマイセス・セレビシエ構築物を用いたOLA類似体の生成を示す。
図10-1】図10は、抽出されたイオンカウントLC-MS分析により同定されたE.コリ中で生成された新規なオリベトール酸類似体の構造を3列目に示す。E.コリは、1列目に示された生合成経路を発現し、2列目に示された基質とインキュベートされた。4MOO=4-クマリルCoAリガーゼ、マロニルCoAシンセターゼ(MCS)、オリベトールシンターゼ(OLS)、およびオリベトール酸シクラーゼ(OAC);BMOO=安息香酸CoAリガーゼ、MCS、OLS、およびOAC;CMOO=シンナミルCoAリガーゼ、MCS、OLS、およびOAC;ならびにPMOO=フェニル酢酸CoAリガーゼ、MCS、OLS、およびOAC。
図10-2】同上。
図11図11は、提案されたOLS反応メカニズムを示す。
図12図12は、OLS構造内にドッキングされた3,5-ジオキソデカノイルCoA中間体(青色)(左パネル)および重ね合わせられたマロニルCoA単位(黄色)とドッキングされた3,5-ジオキソデカノイルCoA中間体(青色)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
先に要約された通り、提供された組換え細胞は、それぞれがカンナビノイド生合成経路遺伝子をコードする複数の核酸をそのゲノム内に含有する。例示的組換え細胞において、カンナビノイド生合成経路遺伝子は、カンナビス・サティバ以外の生物体由来である。
【0014】
本発明に包含される特定の組換え細胞は、コエンザイムA(CoA)リガーゼをコードする核酸を含有する。CoAリガーゼは、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)の4-クマリルCoAリガーゼ(配列番号:1)、ロドシュードモナス・パルストリ(Rhodopseudomonas palstri)の安息香酸CoAリガーゼ(配列番号:2)、およびストレプトマイセス・コエリカラー(Streptomyces coelicolor)のフェニル酢酸CoAリガーゼ(配列番号:3)であり得るが、これらに限定されない。CoAリガーゼは、酵素活性を保持しながら、上述の配列に対して70%以上の(例えば、70%、75%、80%、85%、90%、95%、および99%の、またはより大きな)同一性を有し得る。
【0015】
さらに組換え細胞は、マロニルCoAシンセターゼ(MCS)、オリベトールシンターゼ(OLS)、およびオリベトール酸シクラーゼ(OAC)のそれぞれをコードする核酸を含み得る。個々の組換え細胞において、MCSは、アシル活性化酵素(AAE)に置き換えられている。
【0016】
MCSは、配列番号:5のアミノ酸配列を有し得、OLSは、配列番号:6のアミノ酸配列を有し得、OACは、配列番号:7のアミノ酸配列を有し得、AAEは、配列番号:4のアミノ酸配列を有し得る。
【0017】
あるいはMCS、OLS、OAC、およびAAEは、対応する配列番号のアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し得る。
【0018】
先に表された組換え細胞は、カンナビノイド前駆体基質の存在下でカンナビノイドを生成することになる。カンナビノイド前駆体基質は、例えば酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、およびオクタン酸であり得る。追加的なカンナビノイド前駆体基質を、以下の表1に示す。
【0019】
【表1】
【0020】
概要の節に表された通り、先に記載された組換え細胞を使用するカンナビノイドを生成するための方法が、開示される。該方法は、組換え細胞をカンナビノイド前駆体基質と接触させること、および組換え細胞を培養すること、により実行される。
【0021】
例示的な方法において、組換え細胞は、CoAリガーゼ、マロニルCoAシンセターゼ、オリベトールシンターゼ、およびオリベトール酸シクラーゼを発現し、カンナビノイド前駆体基質は、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、またはオクタン酸である。先の表1に示された追加的カンナビノイド前駆体基質もまた、この方法で用いられ得る。
【0022】
サッカロマイセス・セレビシエなどの微生物の中で合成的に再構成されたカンナビノイド生合成経路が、多量および微量のカンナビノイドのバイオプロダクションに用いられる。このバイオプロダクションの方法は、C.サティバの栽培により生成されるカンナビノイドの混合物に比較して、該当する特異的カンナビノイドの生成を容易にする。さらに、微量のカンナビノイドが、高収率で生成され得る。加えて、カンナビノイド生合成経路における酵素が、操作され、微生物中で発現されて、治療能力を有する新規かつ特有のカンナビノイドを生成することができる。
【0023】
当業者は、さらなる労作がなくとも、本明細書の開示に基づけば、本開示を最も完全な程度に利用し得ると考えられる。それゆえ以下の具体的実施例は、単に記載としてとらえられ、本開示の残り部分の限定ととらえるべきでない。本明細書で引用された全ての発行物は、全体として参照により組み入れられる。
【実施例
【0024】
実施例1:カンナビノイド生合成経路の改変
微生物中のカンナビノイド生合成経路を再構築するためには、最初にこの経路の各ステップを触媒するC.サティバ中に存在する酵素を理解する必要がある。図1参照。
【0025】
上流の生合成経路は、2つの機能的部分、つまりオリベトール酸(OLA)を最終生成物として生成するポリケチド経路、およびゲラニルピロリン酸(GPP)を生成するイソプレノイド経路に分類され得る。
【0026】
ポリケチドOLA生成
ポリケチド経路(図1の赤色を参照)は、基質のヘキサン酸およびマロニルCoAで開始する。CsAAE1(配列番号:4)と命名されたアシル活性化酵素が、C.サティバのトリコーム中のヘキサン酸へのコエンザイムA部分の付加を担う(Stout et al., Plant J., 2012, 71(3):353-365)。オリベトールシンターゼ(OLS:配列番号:6)と命名されたIII型ポリケチドシンターゼはその後、1単位のヘキサノイルCoAおよび3単位のマロニルCoAを利用することにより、テトラケチドチオエステル(3,5,7-トリオキソドデカノイルCoA)の形成を触媒する(Taura et al., FEBS Lett,, 2009, 583(12):2061-2066)。最後に、オリベトール酸シクラーゼ(OAC;配列番号:7)は、C2~C7アルドール縮合環化ステップを触媒して、OLAを生成する(Gagne et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2012, 109(31):12811-12816)。
【0027】
イソプレノイドGPP生成
C.サティバ中では、ジメチルアリルピロリン酸(DMAPP)およびイソペンテニルピロリン酸(IPP)などのイソプレノイドが、2-C-メチル-D-エリトリトール4-リン酸(MEP)経路を通して生成される(図1の青色を参照)(Van Bakel et al., Genome Biol., 2011, 12(10):R102)。推定的ゲラニルピロリン酸シンターゼはその後、1単位のDMAPPと1単位のIPPを組み合わせて、ゲラニルピロリン酸(GPP)を生成する。イソプレノイドはまた、酵母および幾つかの細菌などの微生物中により共通して存在するメバロン酸経路を通して自然に生成され得る(Buhaescu et al., Clin. Biochem., 2007, 40(9-10):575-584)。
【0028】
エンドポイントのカンナビノイド
OLAおよびGPPが生成されると、芳香族プレニルトランスフェラーゼ酵素であるゲラニルピロリン酸:オリベトール酸ゲラニルトランスフェラーゼ(GOT)はその後、GPP中のC10プレニル基をオリベトール酸のCに転移することにより、最初のカンナビノイドであるカンナビゲロール酸(CBGA) の生成を触媒する(Fellermeier et al., FEBS Lett., 1998, 427(2):283-285;図1参照)。テトラヒドロカンナビノール酸(THCA)およびカンナビジオール酸(CBDA)などの異なるカンナビノイドの生合成はその後、それぞれのシンターゼ(即ち、THCAシンターゼおよびCBDAシンターゼ)により、GPPから前もって転移されたCBGA上のC10炭素鎖を異なった方法で環化すること(図1の黒色を参照)により実行され得る。
【0029】
カンナビノイド生合成経路の修飾
カンナビノイド生合成になされる修飾を、図1に緑色で示す。分子ツールキットは、4つの異なるアシルCoAリガーゼを利用して様々な官能基を有するアシルCoAチオエステルを生成するように過去に確立された(Go et al., Biochemistry, 2012, 51(22):4568-4579)。植物ニコチアナ・タバカムから単離された4-クマリルCoAリガーゼ(4CL)(配列番号:1)、グラム陰性菌ロドシュードモナス・パルストリ由来の安息香酸CoAリガーゼ(BZL)(配列番号:2)およびグラム陽性菌ストレプトマイセス・コエリカラー由来のフェニル酢酸CoAリガーゼ(PCL)(配列番号:3)は、それぞれOLSのネイティブ基質ヘキサン酸をはじめとするカルボン70種(先の表1参照)の多様な範囲に対して基質無差別性(substrate-promiscuous)であることが決定された。さらに土壌菌リゾビウム・トリフォリー由来のマロニルCoAシンセターゼ(MCS)は、CoA部分を有する複数のマロン酸をプライミングして、OLSなどのIII型ポリケチドシンターゼのためのエクステンダー単位として作用する。これらの特徴がはっきりした基質無差別性のCoAリガーゼをC.サティバ由来のCsAAE1の代わりにこの経路で用いると、多様なカンナビノイドの下流生成が容易になる。
【0030】
各CoAリガーゼは、CoA部分をマロン酸上に付加することを担うマロニルCoAシンセターゼ(MCS)と対合される。
【0031】
異種系の中でC.サティバ由来のプレニルトランスフェラーゼ、即ちGOTを発現するのは、難題である。事実、この酵素は、バイオインフォマティクスの予測ツールTMEMMにより示された通り、固有の膜内外領域を有する膜結合タンパク質であると予測される(Carvalho et al., FEMS Yeast Res., 2017, 17(4))。図2参照。
【0032】
ストレプトマイセスsp(Streptomyces sp.)由来の可溶性プレニルトランスフェラーゼ、即ちNphBは、E.コリ(E. coli)などの細菌系の中でOLAをプレニルアクセプターとして受容し得ることが過去に示された(Kuzuyama et al., Nature, 2005, 435(7044):983-987;Yang et al., Biochemistry, 2012, 51(12):2606-2618)。この酵素は、カンナビノイド生合成経路の中でプレニルトランスフェラーゼの異種発現のためのGOTの代替物として用いられた。
【0033】
実施例2:サッカロマイセス・セレビシエ中での構築物の組み立て
S.セレビシエ中での構築物作製のための分子クローニング方策が、YeastFabシステムとして知られるプラスミドのGolden-Gate Assemblyを基にした一式である。この組み立てシステムは、プロモータおよびターミネータなどの転写単位からオープンリーディングフレーム(ORF)をモジュール式に組み立てて、続いて最大6つの異なる転写単位の発現カセットを組み立てることができる。
【0034】
YeastFabプラスミドの一式は、最大8つの転写単位のまとめて組み立てることができるように拡張された。アセンブリのモジュール性は、有利にはプロモータおよびターミネータなどの転写調節単位を取り換えて生合成経路で異なった方法で各遺伝子の発現を調節するのが比較的容易であるため、下流の最適化を容易にする。経路組み立てのこの方法では、IIS型制限酵素(例えば、BsaIおよびBsmBI)は、酵素認識部位の付近を切断して、制限酵素およびDNAリガーゼの両方をワンポット消化-ライゲーション反応で作用させる。図3Aを参照されたい。
【0035】
プロモータ、オープンリーディングフレームおよびターミネータなどの標準的な生物学的部分は、個々のプラスミド(レベル0)に個別にクローニングされる。ワンポット消化-ライゲーション反応の第一ラウンドの後、それらは、POTと呼ばれる個々の転写単位(レベル1)に組み立てられる。各POTはその後、次の反応で別のPOTと合わさって、図3Bに表された通り一緒にアライメントされるプレフィックスおよびサフィックスを通して、最大8つの転写単位をまとめて経路(レベル2)を組み立てるように設計される。
【0036】
酵母の構成型プロモータのライブラリが、過去に相対的強度に従って特徴づけられた。生合成経路において各酵素を発現し、相対的反応速度および発現宿主への毒性を反映するように、様々な強度のプロモータおよびターミネータの組を選択した。各ORFが(以下の表2参照)、酵母内の互いに接近した相同配列の間で頻繁に起こる相同組換えを予防するように、異なるプロモータおよびターミネータを割り付けた(Orr-Weaver et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1981, 78(10):6354-6358)。
【0037】
【表2】
【0038】
割り付けられたプロモータおよびターミネータでの転写単位の組み立ての後、それらを、単一プラスミド中の多数の遺伝子で経路に組み立てた。酵母では、追加的IPPをGPPに付加することによりGPPのC15バージョンとなるファルネシルピロリン酸(FPP)を、酵素Erf20pにより内因的に生成する。過去の試験では、酵素の二重変異体、即ちErg20pWW(F96W-N127W)の発現が内因性GPPレベルを上昇させることが示された(Ignea et al., ACS Synth. Biol., 2014, 3(5):298-306)。この二重突然変異体を、アビエス・グランディス由来のゲラニル二リン酸シンターゼ(Ag-GPPase)(Burke et al., Arch. Biochem. Biophys., 2002, 405(1):130-136)およびキメラGPPシンターゼ(Chi-GPPase)と共に用いて、構築物中でGPPを生成して、反応を前進させた。
【0039】
実施例3:カンナビノイドのバイオプロダクション
発現遺伝子を意図したプラスミドに組み立てた後、それらを、意図した生成物のバイオプロダクションのために単一生物体(S.セレビシエ)の中に形質転換した。アミノ酸メチオニン、ロイシン、ヒスチジンおよびウラシルに対して栄養素要求性である酵母株BY4741(Brachmann et al., Yeast, 1998, 14(2):115-132)を、カンナビノイドのバイオプロダクションに用いた。各プラスミドで形質転換された酵母が次に確実に機能的酵素を発現するように、予防的手段として段階的アプローチをとることができる。各ステップの生成物(例えば、OLA、CBGA、およびCBDA)をその後、液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC-MS)を用いて検出した後、生合成経路の次のステップに移行した。
【0040】
S.セレビシエ培養物を、静止期まで生育して、酵素を発現させた。基質、即ちヘキサン酸およびマロン酸を培養物に添加し、その後25℃で一晩インキュベートした。培養物をスピンダウンして、ペレットを上清培地から分離した。細胞ペレットおよび上清培地の両方を、LC-MSにより意図する生成物の存在についてチェックした。
【0041】
LC-MS分析のための試料を調製するために、上清培地をpH<2.0に酸性化した後、それを酢酸エチルで3回抽出した。抽出された酢酸エチルをロータリー真空濃縮機を用いて乾燥させ、メタノールに再懸濁させ、LC-MSにより分析した。最初にガラスビーズでの物理的剪断により、または化学的溶解により細胞を溶解することにより、細胞ペレットを意図した生成物の存在についてもチェックした。結果的に溶解物は、酸性化、有機抽出およびLC-MS分析の類似のステップを受けた。
【0042】
実施例4:新規カンナビノイドの生合成
カンナビノイドライブラリの多様化を実行して、コンピュータ解析に情報提供される3種の異なるアプローチにより、新規で人為的なカンナビノイドを生成することができる。
【0043】
最初に、構築物に供給された異なる基質の利用を含む前駆体駆動型コンビナトリアル生合成の伝統的アプローチは、系の中の酵素の基質無差別性プロファイルの探求を容易にするであろう。各ステップで形成された独特で新規な生成物はその後、その経路の次のステップの新しい基質として役立ち、こうして生成された生成物の多様性が上昇する。各酵素は、結合ポケットでの立体的制約および相互作用により許容できる基質に対して生来の特異性を有する。インシリコドッキングなどのコンピュータ計算によるアプローチは、好適な結合親和性を有する基質を同定し、その後、実験的にテストする高処理能力の手法で、低分子化合物の大規模ライブラリのスクリーニングを可能にする。
【0044】
第二に、酵素構造への基質のインシリコドッキングは、活性部位の微小環境での空間的制約および基質の相互作用をはっきりと解明することになる。その後、この情報を利用して、タンパク質エンジニアリングを駆動する。各酵素が許容し得る基質の多様性を上昇させ得る特異的突然変異を合理的に設計するために、酵素の結合ポケットへの基質の重要な相互作用を理解することが不可欠である。
【0045】
最後に、こうして導入された突然変異は、タンパク質構造全体のアーキテクチャを非意図的に変更してタンパク質の不安定性および不活性をもたらし得るため、各酵素に適用され得るタンパク質エンジニアリングの度合いには限定がある。各生合成ステップを実行する酵素の異なる生物体からのオーソログを同定して、経路に組み込むことができる。The Enzyme Similarity Tool from the Enzyme-Function Initiative(EFI-EST)は、タンパク質クエリー配列のオーソログの同定を支援するバイオインフォマティクスウェブサーバである(Gerlt et al., Biochim. Biophys. Acta, 2015, 1854(8):1019-1037)。このウェブツールは、UniProtデータベースを利用して、触媒された機能および反応に関するクエリー配列に関係する現存するアミノ酸配列を同定する。それは、非常に異なる基質特異性プロファイルを有し得る多様なファミリーからタンパク質を同定する配列類似性ネットワークを作成することにより、それらの関連性の視覚化を容易にする。こうして同定された、作用し得る基質の全体的に異なる組みを有するオーソログは、カンナビノイド生合成経路の個々のステップの適切な交換体として役立つことができ、結果的に独特で新規なカンナビノイド製品を生成させることができる。
【0046】
実施例5:S.セレビシエにおけるカンナビノイドのバイオプロダクション
転写単位を、先の実施例2に記載された通りPOTに組み立てた。それぞれ酵母の低または高コピーの複製起点CENおよび2ミクロンに加え、URA3選択マーカを含有するレベル2アッセンブリプラスミドpCKUおよびpMKUに、プラスミドを挿入した。組み立てられたプラスミドを、過去に記載された酢酸リチウム法を利用してS.セレビシエBY4741の個々の菌株に形質転換した(Gietz et al., Nat. Protoc., 2007, 2(1):35-37)。これらの菌株を一晩生育させた後、基質ヘキサン酸およびマロン酸を培養物に添加した。基質との25℃で一晩のインキュベーションの後、培養物を回収し、各培養物からの生育培地を酢酸エチルで抽出した。結果を図4に示す。
【0047】
カンナビノイド経路において4種の酵素、即ちCoAリガーゼ、MCS、OLS、およびOACを発現する酵母の培養上清から、OLAのものに対応する223.100のm/z値(誤差11.7ppm)を有する約4分で溶出したピークが実証された。図4の最上段および最下段を参照されたい。このピークは、ポリケチドシンターゼおよびポリケチドシクラーゼ、OLSおよびOACが欠如した酵母からの陰性対照上清では認められなかった。図4の最上段を参照されたい。
【0048】
この経路の次のステップでは、CBGAが生成される。それを実行するために、OLAを生成する上述の最初の4つの遺伝子を、GPPシンターゼ酵素(Erg20pWW、AgGPPase、またはChiGPPase)およびプレニルトランスフェラーゼ、即ちGOTまたはNphBと一緒にレベル2アッセンブリプラスミドpCKUおよびpMKUを組み立てた。転写単位の組み立ておよび宿主酵母株への形質転換の後、培養上清を先に記載された通りLC-MSにより分析した。CBGA生成物は、組み立てられた構築物の全てにおいて、細胞内または細胞外で観察されなかった。理論に結び付けるわけではないが、幾つかの培養物中のCBGAの欠如が、プレニルトランスフェラーゼ(GOTまたはNphB)の極わずかの酵素発現、または反応に入手可能な基質(OLAまたはGPP)の欠如から生じた可能性がある。
【0049】
プレニルトランスフェラーゼ酵素の活性をテストするために、GOTおよびNphBプレニルトランスフェラーゼの転写単位を発現するレベル1POTプラスミドを、別々にBY4741細胞に形質転換した。先に記載された通り、培養物を静止期で生育および溶解した。その後、溶解物の分取物を、基質OLAおよびGPPで設定されたインビトロ酵素アッセイに別々に添加した。陰性対照もまた、溶解物を水に置き換えることにより設定した。30℃でのインキュベーションの後、LC-MS検出の前に酸性化および有機抽出を実施した。結果を図5に示す。
【0050】
CBGAに対応する小さなピークが、陰性対照(酵素が添加されていない)およびGOTを含有する溶解物中で観察された。図5の1段目および2段目を参照されたい。このデータから、OLA上へのゲラニル部分のプレニル化が酵素触媒を用いない自然な工程として起こることが示唆され、OLAおよびGPPが混合物中に存在すれば、少量が観察されるであろう。S.セレビシエBY4741中で発現されたGOTは、CBGAに対応するピーク面積が陰性対照のものと類似していたため、不活性であると決定された。
【0051】
その一方でNphB含有溶解物では、陰性対照のピークより大きなCBGAのピーク面積が示され、NphBが活性であることが示された。図5の3段目を参照されたい。0.1分後に溶出された二次ピークもまた、NphBにより触媒された試料中で、CBGAと同じm/z値で観察された。このピークは、CBGAと異なる部位でプレニル化されたOLAの非特異的生成物、即ち2-O-ゲラニルオリベトール酸であることが過去に報告された(Zirpel et al., J. Biotechnol., 2017, 259:204-212)。NphBは、酵母株BY4741中で発現されると機能することが示されているため、CBGAの極わずかの生成は、構築物中でのOLAおよびGPPの供給にどうしても左右される。理論に結び付けるのではないが、OLAに対応するピークは、全ての構築物中で検出されたため、GPPの不充分な収量が、CBGAの低収量の原因である可能性が最も高い。
【0052】
S.セレビシエにおいてGPP由来のモノテルペンを過剰発現するための方法は、当該技術分野で周知である。高い商業的価値により酵母内で改善されたモノテルペン生成を実現する際の作業を記載した発表論文は豊富に存在する。GPP収量を改善するための1つのアプローチは、酵母宿主によって生じた代謝負荷を低減することである。メバロン酸経路に関与する4種の遺伝子、およびそれぞれのモノテルペンシンターゼ、ゲラニオールシンターゼを過剰発現することにより、過去に操作された酵母株に比較してゲラニオール収量の7倍増加が実現される(Zhao et al.)。
【0053】
図6を参照すると、イソプレノイド二リン酸イソメラーゼ(IDI1)は、DMAPPとIPPの間の異性化を触媒する。これは、GPP生成に好適な前駆体の比率の改善を援助する(Liu et al., J. Biotechnol., 2013, 168(4):446-451)。HMG-CoAは、メバロン酸経路の重要な律速段階として同定され、この遺伝子のトランケート型tHMG1を過剰発現すると、この経路のメバロン酸供給が増加する (Asadollahi et al., Biotechnol. Bioeng., 2010, 106(1):86-96; Scalcinati et al., Metab Eng, 2012. 14(2): p. 91-103)。UPC2は、ステロール生合成の調節に関与する転写因子であり、突然変異体UPC2-1を過剰発現すると、ステロール取り込むを好気的に増進し、その結果、メバロン酸生成を増進する(Davies et al., Mol. Cell. Biol., 2005, 25(16):7375-7385)。
【0054】
IDI1、tHMG1、およびUPC2-1遺伝子を先に記載された通りYeastFabシステムを利用して過去に記載されたGPPシンターゼ、Erg20pWWと共にレベル1POTに組み立てて、次に栄養素要求性マーカLEU2を発現するレベル2アッセンブリプラスミド(pCKL/pMKL)に組み立てた。これにより、組み立てられて酵母株に形質転換された各プラスミドの長さを低減するために、カンナビノイドおよびイソプレノイドのための遺伝子発現を別のプラスミドに維持することができる。
【0055】
一連の中等度~強いプロモータおよびターミネータを、ロイシン栄養素要求性マーカ(LEU2)を用いてpCKL/pMKLプラスミドに維持されたGPP生成用の4種の遺伝子を過剰発現するように個別に割り付け、一方でプロモータおよびターミネータの異なる組を、別のプラスミドpCKU/pMKUに維持されたカンナビノイド遺伝子内の酵素に割り付けた。以下の表3を参照されたい。
【0056】
【表3】
【0057】
カンナビノイド(pCKU/pMKU)およびメバロン酸遺伝子の両方の組み立てが実現された後、両方のプラスミドをその後、酵母株BY4741に形質転換し、ウラシルおよびロイシンの両方が欠如した培地で生育して、形質転換について選択した。同じバイオプロダクション手順を、両方のプラスミドを発現する構築物で実行した。溶解された細胞ペレットの有機抽出を実行した後に、微量のCBGAを細胞内で検出した。結果を図7に示す。約6.7分の溶出時間および359.2223のm/z値(誤差-1.34ppm)を有するピークは、CBGA標準のピークに対応する。
【0058】
酵母内で発現された経路により生成されたCBGAの収量をさらに増加させるために、コンピュータ計算によるタンパク質エンジニアリングを野生型NphBで実行して、副生物2-O-ゲラニルオリベトール酸の代わりにCBGAを生成することにおける選択性を改善した。正しい部位のGPPからのゲラニル部分を使用してオリベトール酸をプレニル化してCBGAを生成することに高い特異性がある4種の突然変異体、即ちV49W/Y288A(配列番号:8)、V49W/Y288P(配列番号:9)、V49W/Y288A/Q295F(配列番号:10)、およびV49W/Y288P/Q295F(配列番号:11)を作製した。CBGA収量の有意な増加を示しながら副生物を全く生成しないこれらの突然変異体を、次に経路に取り込み、CBGA力価が、インビボで有意に改善した。
【0059】
実施例6:カンナビノイドの多様化
カンナビノイド合成経路における分岐点を活用して、新規なカンナビノイド化合物を生成することができる。先の構築物中で用いられたアシルCoAリガーゼおよびポリケチドシンターゼ、即ちOLSの無差別性により、ヘキサン酸(C6)の代わりに基質として異なる短鎖~中鎖脂肪酸(C3~C10)を利用して、オリベトール酸の類似体を生成することができる。C.サティバにおける例は、カンナビノイドのテトラヒドロカンナビバリン(THCV)およびカンナビジバリン酸(CBDVA)の生成であり、両者とも経路において同じ酵素により生成される。微量で生成されたこれらのカンナビノイドは、OLAの代わりにポリケチド前駆体ジバリン酸(DVA)を利用する。OLA中のC5鎖の代わりに芳香族環のC上にC3鎖長を有するDVA(図8参照)はまた、ヘキサン酸(C6)の代わりにスターター単位として酪酸(C4)を用いて、C.サティバの中のCsAAE1酵素により生成される。
【0060】
ヘキサン酸(C6)の代わりに異なるスターター単位(C3~C10)を利用することにより、OLSおよびOACを基質無差別性についてテストした。結果を図9に示す。
【0061】
特定のOLA類似体、即ち(C3、C9、C10)は、S.セレビシエ内で生成しなかったが、E.コリの中で同じ生合成経路構築物を利用して生成した。図10を参照されたい。これは、E.コリ中に存在して、プロピオン酸、ノナン酸およびデカン酸などの基質で作用し得るS.セレビシエの中に存在しない内在性アシルCoAリガーゼの存在による可能性がある。そのような内在性リガーゼは、作用するポリケチドシンターゼOLSの基質としてプライミングされたアシルCoAチオエステルを提供することができる。
【0062】
実施例7:カンナビノイド生成の更なる多様化
前駆体駆動型コンビナトリアル生合成の伝統的方法は、新しい生成物が形成されたかどうかを実験的に検出するために、基質の大規模ライブラリの骨の折れるスクリーニングを含む。好適な基質を同定するためにとられた時間および資金を縮小するために、ドッキングなどのコンピュータ法を予測モデルとして用いて、酵素の結合ポケットにフィットすることが可能で活性部位への好適な結合親和性を有する基質を同定する。これは、高処理能力の手法で何千もの基質ライブラリのスクリーニングを促進して、実験的テストのための最も好適な基質のランクづけリストを生成する。
【0063】
OLSの2.2Å分解構造で開始して、この酵素のネイティブ基質であるヘキサノイルCoAおよびマロニルCoAを最初にドッキングして、陽性対照として役立たせた。OLSは、図11および12に示された通り、OLSのCys157に付着されたヘキサノイル中間体上にアセチル-ケトン基を付着させることにより、CoA部分により活性部位にシャトリングされた異なるR基を有する2種の基質、つまりヘキサノイルCoAスターター単位と、そのスターター単位を反復的に伸長する3つのマロニルCoAエクステンダー単位と、を使用する。
【0064】
マロニルCoAなどのエクステンダー単位を利用して同じ3つの延長ステップを実施し得る異なるスターター単位を同定するために、OLSに依然として共有結合で付着されている最後の中間体状態、即ち、トリケチド中間体の3,5-ジオキソデカノイルCoA(2単位のマロニルCoAでの伸長の後)、GOLDを用いてドッキングした(Groom et al.;図12の左パネル参照)。これにより、多数の延長ステップを実施する反応メカニズムを収容する空間的制約の描写が可能になる。結合ポケットが、対応するスターター単位の最後の供給結合で付着された中間体状態にフィットすることが可能ならば、最初の2、3ラウンドの延長を実施することが可能なはずである。
【0065】
最後のマロニルCoA単位をその後、マメ科メディカゴ・サティバ(Medicago sativa)由来の相同性タンパク質カルコンシンターゼ(CHS2)(PDBコード:1CML)と複合体化された結晶化マロニルCoAリガンドを利用して重ね合わせた(Ferrer et al., Nat. Struct. Biol., 1999, 6(8):775-784)。重ね合わせられたマロニルCoAリガンド(図12の右パネルの黄色リガンド)を、タンパク質局在化最適化プログラム(PLOP)を利用してOLS構造の中にドッキングされた3,5-ジオキソデカノイルCoA中間体(図12の青色リガンド)を用いてエネルギー最小化した(Jacobson et al., J. Phys. Chem. B, 2002, 106(44):11673-11680; Jacobson et al., Proteins, 2004, 55(2):351-367; Zhao et al., Proteins, 2011, 79(10):2920-2935; Zhu et al., Proteins, 2006, 65(2):438-452; Zhu et al., J. Chem. Theory Comput., 2007, 3(6):2108-2119.)。この最後の重ね合わせステップは、より嵩張るR基を有していてOLS結合ポケット内で最後のマロニルCoAリガンドと立体衝突を生じ、それにより最後の伸長ステップを妨害し得るスターター単位を同定する。これらの候補物質は次に、排除される。図12の左および右パネルの陽性対照から観察された通り、ヘキサノイルCoAスターター単位からのドッキングされた3,5-ジオキソデカノイルCoA中間体と、エネルギー最小化されたマロニルCoAの両方の位置が、最後の伸長ステップのために2つの基質を一緒にプライミングする。
【0066】
上述の通り、70のアシルCoAスターター単位(Go et al.)および12の異なるアシルCoAエクステンダー単位(Go et al., ACS Catalysis, 2015, 5(7):4033-4042)のライブラリが、利用可能である。まとめるとこれは、OLSなどのIII型ポリケチドシンターゼの基質として役立ち得るスターター単位とエクステンダー単位の合計840の組み合わせとなる。これらを、OLS構造にドッキングされる基質ライブラリとして使用する。ドッキングの結果のアウトプットを適切にランクづけして、実験結果と比較し、予測モデルの正確さをチェックする。OLSの基質無差別性のこの実験的テストは、様々な鎖長またはR基を有するオリベトール酸を生成し、その後、それを用いて、オリベトール酸-カンナビノイド足場のC上の様々なR基を有するカンナビノイドを生成することができる(図8参照)。
【0067】
実施例8:タンパク質エンジニアリング
タンパク質エンジニアリングは、酵素を特異的な所望の特徴にエンジニアリングする旧来の分野である。それにもかかわらず、良好な選択法を用いなければ、莫大な量の配列空間が、生成物の多様性を呈する突然変異を選択する際に予測モデルを必要とする。
【0068】
上述の通り、NphB突然変異体を、任意の副生成物を有さずにCBGAを生成するための高い選択性を持って設計した。このプレニルトランスフェラーゼが異なる基質を許容し、これにより異なる所望のカンナビノイド生成物を生成するように、異なるNphB突然変異体を設計した。
【0069】
カンナビノイド生合成経路における最後の環化ステップは、予めGPPから移行されたC10鎖を環化する(図1参照)。CBGA類似体は、より長いプレニル鎖長を持って提供され、より長い鎖長を利用可能であるためより多様な構造の前駆体として役立つ。GPPのC15鎖長類似体であるファルネシルピロリン酸(FPP)およびC20鎖長類似体であるゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)が、GPPの適切な交換物として用いられて、C15またはC20プレニル鎖のCBGAを生成する。同じコンピュータ計算でのタンパク質エンジニアリングアプローチを利用して、より長いFPPおよびGPPへのより良好な親和性を与えるNphB酵素上の特異的突然変異を同定することができる。これらの突然変異をテストして、次にCBGA類似体を生成することができる。
【0070】
カンナビノイドシンターゼのオーソログライブラリをCBGA類似体を生成する株に対してスクリーニングして、様々なカンナビノイド化学構造の生成についてテストし、次に生物活性についてテストする。
【0071】
他の実施形態
本明細書に開示された特色の全ては、任意の組み合わせで組み合わせられてもよい。本明細書に開示された各特色は、同一、均等、または類似の目的を果たす代替的特色により置き換えられてもよい。したがって他に明確に述べられない限り、開示された各特色は、均等な、または類似の特色の包括的な集まりの例に過ぎない。
【0072】
先の記載から、当業者は、本発明の本質的特色を容易に確認することができ、その主旨および範囲を逸脱することなく、本発明の様々な変更および改良を行って、様々な用途および条件にそれを適合させることができる。したがって他の実施形態もまた、以下の特許請求の範囲に含まれる。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図11
図12
【配列表】
0007650086000001.app