(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-13
(45)【発行日】2025-03-24
(54)【発明の名称】電動機評価指標提示装置、電動機出力評価システム、および電動機評価指標提示方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/007 20060101AFI20250314BHJP
【FI】
G01M17/007 A
(21)【出願番号】P 2024205962
(22)【出願日】2024-11-27
【審査請求日】2024-11-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】317005022
【氏名又は名称】独立行政法人自動車技術総合機構
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【氏名又は名称】横田 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【氏名又は名称】長谷川 太一
(72)【発明者】
【氏名】田中 信壽
【審査官】川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-219354(JP,A)
【文献】特開平8-075831(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113281597(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00-17/10
B60L 3/00
G01R 31/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される電動機の出力(以下、評価対象出力)を評価するための評価指標を提示する電動機評価指標提示装置であって、
前記電動機の出力もしくは該電動機を搭載した前記車両の出力を測定する出力測定器、および/または、前記電動機の表面温度を測定する温度測定器と、
前記電動機における前記評価対象出力に対する余裕度の大小を判定するための余裕度判定用データを生成しアウトプットする余裕度データ生成器と、
を備え、
前記電動機を、前記評価対象出力を含む出力領域で所定時間(以下、試験時間)駆動させた後において前記余裕度データ生成器は、
前記出力測定器が設けられている場合には、前記電動機の出力、または該電動機を搭載した前記車両の出力の低下量のデータを前記余裕度判定用データとして生成し、
前記温度測定器が設けられている場合には、前記電動機における前記表面温度のデータを前記余裕度判定用データとして生成する電動機評価指標提示装置。
【請求項2】
車両に搭載される電動機の出力(以下、評価対象出力)を評価するための電動機出力評価システムであって、
請求項1に記載の電動機評価指標提示装置と、
前記余裕度の大小を判定する余裕度判定装置と、
を備え、
前記電動機評価指標提示装置は前記出力測定器を有し、
前記余裕度判定装置は、
前記余裕度判定用データを取得する余裕度データ取得部と、
前記余裕度判定用データを参照し、前記電動機、または該電動機を搭載した前記車両の出力の低下量が所定の閾値(以下、出力閾値)未満となっている場合に前記余裕度が大きく、前記電動機、または該電動機を搭載した前記車両の出力の低下量が前記出力閾値以上となっている場合に前記余裕度が小さいと判定する判定部と、
を有する電動機出力評価システム。
【請求項3】
車両に搭載される電動機の出力(以下、評価対象出力)を評価するための電動機出力評価システムであって、
請求項1に記載の電動機評価指標提示装置と、
前記余裕度の大小を判定する余裕度判定装置と、
を備え、
前記電動機評価指標提示装置は前記温度測定器を有し、
前記余裕度判定装置は、
前記余裕度判定用データを取得する余裕度データ取得部と、
前記余裕度判定用データを参照し、前記電動機の前記表面温度の値が所定の閾値(以下、温度閾値)未満となっている場合に前記余裕度が大きく、前記電動機の前記表面温度の値が前記温度閾値以上となっている場合に前記余裕度が小さいと判定する判定部と、
を有する電動機出力評価システム。
【請求項4】
前記余裕度判定装置は、前記試験時間が経過する前に、前記電動機、または該電動機を搭載した前記車両の出力の低下量が前記出力閾値以上となっている場合に前記余裕度が小さいと判定して、前記電動機の駆動停止を指示する停止指示部をさらに有する請求項2に記載の電動機出力評価システム。
【請求項5】
前記余裕度判定装置は、前記試験時間が経過する前に、前記電動機の表面温度の値が所定の閾値(以下、温度閾値)以上となっている場合に前記余裕度が小さいと判定して、前記電動機の駆動停止を指示する停止指示部をさらに有する請求項3に記載の電動機出力評価システム。
【請求項6】
前記車両を走行させる走行試験装置をさらに備え、
前記出力測定器は、前記車両の出力を測定するように構成され、
前記余裕度判定用データは、前記走行試験装置によって、前記評価対象出力を発揮する速度(以下、評価出力対応速度)で前記車両を前記試験時間の間走行させる走行試験を行った際の前記車両の出力の低下量のデータとなっている請求項2に記載の電動機出力評価システム。
【請求項7】
前記車両を走行させる走行試験装置をさらに備え、
前記余裕度判定用データは、前記走行試験装置によって、前記評価対象出力を発揮する速度(以下、評価出力対応速度)で前記車両を前記試験時間の間走行させる走行試験を行った際の前記電動機の前記表面温度のデータとなっている請求項3に記載の電動機出力評価システム。
【請求項8】
前記走行試験では、前記評価出力対応速度のうち低速側の速度を第一速度とし、高速側の速度を第二速度としたとき、
前記第一速度および前記第二速度で前記車両を走行させる請求項6または7に記載の電動機出力評価システム。
【請求項9】
前記走行試験は、前記第二速度での前記車両の走行を所定時間継続する第一試験段階、前記第一速度での前記車両の走行を所定時間継続した後に前記第二速度での前記車両の走行を所定時間継続する第二試験段階、および前記第一速度での前記車両の走行を所定時間継続する第三試験段階を含む請求項8に記載の電動機出力評価システム。
【請求項10】
前記第二試験段階は、前記第一速度での前記車両の走行時間が徐々に長くなる複数の段階を含む請求項9に記載の電動機出力評価システム。
【請求項11】
前記走行試験では、前記評価出力対応速度での試験と、該評価出力対応速度よりも低い第三速度での試験を交互に行う請求項6または7に記載の電動機出力評価システム。
【請求項12】
前記走行試験では、前記評価出力対応速度は、低速側を第一速度、および高速側の第二速度を有し、
前記第三速度は、前記第一速度と前記第二速度との間の速度である請求項11に記載の電動機出力評価システム。
【請求項13】
前記走行試験では、前記第三速度の試験が複数回実行されるとともに、回ごとに、徐々に前記第三速度を小さくする請求項12に記載の電動機出力評価システム。
【請求項14】
前記走行試験で使用される前記評価出力対応速度を算出する速度演算装置をさらに備え、
前記速度演算装置は、
前記走行試験装置によって前記車両を走行させて得た前記車両の走行速度と前記電動機の回転数との関係を示す車両速度-回転数特性を入力する車両速度-回転数特性入力部と、
予め入手した前記電動機の出力と該電動機の回転数との関係を示す電動機出力-回転数特性を入力する電動機出力-回転数特性入力部と、
前記車両速度-回転数特性および前記電動機出力-回転数特性から、前記電動機の出力と前記車両の走行速度との関係を示す電動機出力-車両速度特性を生成する電動機出力-車両速度特性生成部と、
前記電動機出力-車両速度特性から、前記評価出力対応速度を算出する速度算出部と、
を有する請求項6または7に記載の電動機出力評価システム。
【請求項15】
前記走行試験で使用される前記評価出力対応速度を算出する速度演算装置をさらに備え、
前記速度演算装置は、
前記走行試験装置によって前記車両を走行させて得た前記車両の出力と該車両の走行速度との関係を示す車両出力-車両速度特性を入力する車両出力-車両速度特性入力部と、
前記車両出力-車両速度特性に対して前記車両における駆動ロス分に基づく補正を行うことで、電動機出力-車両速度特性を算出するロス補正部と、
前記電動機出力-車両速度特性から、前記評価出力対応速度を算出する速度算出部と、
を有する請求項6または7に記載の電動機出力評価システム。
【請求項16】
前記余裕度判定装置は、前記電動機の出力と前記車両の走行速度との関係を示す電動機出力-車両速度特性を参照し、前記電動機の最大出力が前記評価対象出力以下となっている場合に、前記余裕度が小さいと判定して前記走行試験を行わないよう指示する試験不実施指示部をさらに有する請求項6または7に記載の電動機出力評価システム。
【請求項17】
車両に搭載される電動機の出力(以下、評価対象出力)を評価するための評価指標を提示する電動機評価指標提示方法であって、
前記電動機の出力もしくは該電動機を搭載した前記車両の出力を測定する出力測定ステップ、および/または、前記電動機の表面温度を測定する温度測定ステップと、
前記電動機における前記評価対象出力に対する余裕度の大小を判定するための余裕度判定用データを生成しアウトプットする余裕度データ生成ステップと、
を備え、
前記電動機を、前記評価対象出力を含む出力領域で所定時間(以下、試験時間)駆動させた後において前記余裕度データ生成ステップでは、
前記出力測定器が設けられている場合には、前記電動機の出力、または該電動機を搭載した前記車両の出力の低下量のデータを前記余裕度判定用データとして生成し、
前記温度測定器が設けられている場合には、前記電動機における前記表面温度のデータを前記余裕度判定用データとして生成する電動機評価指標提示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された電動機の出力を評価するための評価指標を提示する電動機評価指標提示装置、これを備えた電動機出力評価システム、および電動機評価指標提示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新たな移動手段として電動キックボードやミニカー、電動バイク等の小型の電動モビリティが注目を集めている。この手の移動手段は小型であるため小回りが利くことや、電動であるため環境性能が非常に高く、今後さらなる普及が期待されている。
【0003】
ここで電動モビリティに搭載されている電動機には「定格出力」というものが存在している。この定格出力は求める仕事に対して使用に耐え得るか否かを示す指標であるため、例えば非特許文献1に示すように、公称しようとする仕事率以上の出力性能を電動機が有しているか否かを判断する定格出力試験というものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】独立行政法人自動車技術総合機構(NALTEC),TRIAS 99-017-02,電動機最高出力及び定格出力試験,[令和6年9月23日検索],インターネット(URL:https://www.naltec.go.jp/publication/regulation/fkoifn0000000ljx-att/fkoifn0000000ysy.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで実際、電動機の定格出力を所定の出力以下とするように制度上の制限がかけられる場合が存在する。具体的には、上述した小型の電動モビリティを所定の車両区分に登録しようとするような場合が想定される。例えば特定小型原動機付自転車の区分に登録する場合には、電動機の定格出力を600W以下に抑える必要がある。
【0006】
ここで定格出力は、電動機のメーカ等が自由に決定できる値となっていることから、上記のように制度上求められる定格出力に対して過度な余裕度を持った電動機を搭載した車両であっても、所定の区分(例えば特定小型原動機付自転車の区分)に登録できてしまう可能性がある。この場合、「定格出力を実質的に超える性能を有する電動機を搭載した車両の登録を排除する」といった制度本来の目的を達成できないことになってしまう。
【0007】
しかしながら上述のように定格出力はもともと電動機の出力がある一定以上の能力を有しているか否かの指標となるものである。よって電動機の製造コストを抑えるといった観点からメーカ等は電動機が搭載される車両に定められた定格出力に対して過度な余裕度をもった出力特性を有する電動機をわざわざ製造するようなことは考えにくく、この出力の余裕度はできるだけ小さくしたいといったモチベーションが働くものと推定されることから、従来は電動機の出力の余裕度を評価するといった必要性があまり高くなく、非特許文献1に示すような試験が存在する一方で、出力の余裕度を評価するための試験方法は確率されていなかった。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、簡易な構造、および手法によって電動機の出力の余裕度を評価することのできる電動機評価指標提示装置、電動機出力評価システム、および電動機評価指標提示方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る電動機評価指標提示装置は、車両に搭載される電動機の出力(以下、評価対象出力)を評価するための評価指標を提示する電動機評価指標提示装置であって、前記電動機の出力もしくは該電動機を搭載した前記車両の出力を測定する出力測定器、および/または、前記電動機の表面温度を測定する温度測定器と、前記電動機における前記評価対象出力に対する余裕度の大小を判定するための余裕度判定用データを生成しアウトプットする余裕度データ生成器と、を備え、前記電動機を、前記評価対象出力を含む出力領域で所定時間(以下、試験時間)駆動させた後において前記余裕度データ生成器は、前記出力測定器が設けられている場合には、前記電動機の出力、または該電動機を搭載した前記車両の出力の低下量のデータを前記余裕度判定用データとして生成し、前記温度測定器が設けられている場合には、前記電動機における前記表面温度のデータを前記余裕度判定用データとして生成する。
【0010】
また本発明の一態様に係る電動機出力評価システムは、車両に搭載される電動機の出力(以下、評価対象出力)を評価するための電動機出力評価システムであって、上記の電動機評価指標提示装置と、前記余裕度の大小を判定する余裕度判定装置と、を備え、前記電動機評価指標提示装置は前記出力測定器を有し、前記余裕度判定装置は、前記余裕度判定用データを取得する余裕度データ取得部と、前記余裕度判定用データを参照し、前記電動機、または該電動機を搭載した前記車両の出力の低下量が所定の閾値(以下、出力閾値)未満となっている場合に前記余裕度が大きく、前記電動機、または該電動機を搭載した前記車両の出力の低下量が前記出力閾値以上となっている場合に前記余裕度が小さいと判定する判定部と、を有する。
【0011】
また本発明の他の態様に係る電動機出力評価システムは、車両に搭載される電動機の出力(以下、評価対象出力)を評価するための電動機出力評価システムであって、上記の電動機評価指標提示装置と、前記余裕度の大小を判定する余裕度判定装置と、を備え、前記電動機評価指標提示装置は前記温度測定器を有し、前記余裕度判定装置は、前記余裕度判定用データを取得する余裕度データ取得部と、前記余裕度判定用データを参照し、前記電動機の前記表面温度の値が所定の閾値(以下、温度閾値)未満となっている場合に前記余裕度が大きく、前記電動機の前記表面温度の値が前記温度閾値以上となっている場合に前記余裕度が小さいと判定する判定部と、を有する。
【0012】
また上記電動機出力評価システムでは、前記余裕度判定装置は、前記試験時間が経過する前に、前記電動機、または該電動機を搭載した前記車両の出力の低下量が前記出力閾値以上となっている場合に前記余裕度が小さいと判定して、前記電動機の駆動停止を指示する停止指示部をさらに有してもよい。
【0013】
また上記電動機出力評価システムでは、前記余裕度判定装置は、前記試験時間が経過する前に、前記電動機の表面温度の値が所定の閾値(以下、温度閾値)以上となっている場合に前記余裕度が小さいと判定して、前記電動機の駆動停止を指示する停止指示部をさらに有してもよい。
【0014】
また上記電動機出力評価システムは、前記車両を走行させる走行試験装置をさらに備え、前記出力測定器は、前記車両の出力を測定するように構成され、前記余裕度判定用データは、前記走行試験装置によって、前記評価対象出力を発揮する速度(以下、評価出力対応速度)で前記車両を前記試験時間の間走行させる走行試験を行った際の前記車両の出力の低下量のデータとなっていてもよい。
【0015】
また上記電動機出力評価システムは、前記車両を走行させる走行試験装置をさらに備え、前記余裕度判定用データは、前記走行試験装置によって、前記評価対象出力を発揮する速度(以下、評価出力対応速度)で前記車両を前記試験時間の間走行させる走行試験を行った際の前記電動機の前記表面温度のデータとなっていてもよい。
【0016】
また上記電動機出力評価システムでは、前記走行試験では、前記評価出力対応速度のうち低速側の速度を第一速度とし、高速側の速度を第二速度としたとき、前記第一速度および前記第二速度で前記車両を走行させてもよい。
【0017】
また上記電動機出力評価システムでは、前記走行試験は、前記第二速度での前記車両の走行を所定時間継続する第一試験段階、前記第一速度での前記車両の走行を所定時間継続した後に前記第二速度での前記車両の走行を所定時間継続する第二試験段階、および前記第一速度での前記車両の走行を所定時間継続する第三試験段階を含んでもよい。
【0018】
また上記電動機出力評価システムでは、前記第二試験段階は、前記第一速度での前記車両の走行時間が徐々に長くなる複数の段階を含んでもよい。
【0019】
また上記電動機出力評価システムでは、前記走行試験では、前記評価出力対応速度での試験と、該評価出力対応速度よりも低い第三速度での試験を交互に行ってもよい。
【0020】
また上記電動機出力評価システムでは、前記走行試験では、前記評価出力対応速度は、低速側を第一速度、および高速側の第二速度を有し、前記第三速度は、前記第一速度と前記第二速度との間の速度であってもよい。
【0021】
また上記電動機出力評価システムでは、前記走行試験では、前記第三速度の試験が複数回実行されるとともに、回ごとに、徐々に前記第三速度を小さくしてもよい。
【0022】
また上記電動機出力評価システムは、前記走行試験で使用される前記評価出力対応速度を算出する速度演算装置をさらに備え、前記速度演算装置は、前記走行試験装置によって前記車両を走行させて得た前記車両の走行速度と前記電動機の回転数との関係を示す車両速度-回転数特性を入力する車両速度-回転数特性入力部と、予め入手した前記電動機の出力と該電動機の回転数との関係を示す電動機出力-回転数特性を入力する電動機出力-回転数特性入力部と、前記車両速度-回転数特性および前記電動機出力-回転数特性から、前記電動機の出力と前記車両の走行速度との関係を示す電動機出力-車両速度特性を生成する電動機出力-車両速度特性生成部と、前記電動機出力-車両速度特性から、前記評価出力対応速度を算出する速度算出部と、を有してもよい。
【0023】
また上記電動機出力評価システムは、前記走行試験で使用される前記評価出力対応速度を算出する速度演算装置をさらに備え、前記速度演算装置は、前記走行試験装置によって前記車両を走行させて得た前記車両の出力と該車両の走行速度との関係を示す車両出力-車両速度特性を入力する車両出力-車両速度特性入力部と、前記車両出力-車両速度特性に対して前記車両における駆動ロス分に基づく補正を行うことで、電動機出力-車両速度特性を算出するロス補正部と、前記電動機出力-車両速度特性から、前記評価出力対応速度を算出する速度算出部と、を有してもよい。
【0024】
また上記電動機出力評価システムでは、前記余裕度判定装置は、前記電動機の出力と前記車両の走行速度との関係を示す電動機出力-車両速度特性を参照し、前記電動機の最大出力が前記評価対象出力以下となっている場合に、前記余裕度が小さいと判定して前記走行試験を行わないよう指示する試験不実施指示部をさらに有してもよい。
【0025】
また本発明の一態様に係る電動機評価指標提示方法は、車両に搭載される電動機の出力(以下、評価対象出力)を評価するための評価指標を提示する電動機評価指標提示方法であって、前記電動機の出力もしくは該電動機を搭載した前記車両の出力を測定する出力測定ステップ、および/または、前記電動機の表面温度を測定する温度測定ステップと、前記電動機における前記評価対象出力に対する余裕度の大小を判定するための余裕度判定用データを生成しアウトプットする余裕度データ生成ステップと、を備え、前記電動機を、前記評価対象出力を含む出力領域で所定時間(以下、試験時間)駆動させた後において前記余裕度データ生成ステップでは、前記出力測定器が設けられている場合には、前記電動機の出力、または該電動機を搭載した前記車両の出力の低下量のデータを前記余裕度判定用データとして生成し、前記温度測定器が設けられている場合には、前記電動機における前記表面温度のデータを前記余裕度判定用データとして生成する。
【発明の効果】
【0026】
上記の電動機評価指標提示装置、電動機出力評価システム、および電動機評価指標提示方法によれば、簡易な構造、および手法によって電動機の出力の余裕度を評価することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態に係る電動機出力評価システムの全体構成を示す側面図である。
【
図2】上記評価システムの余裕度判定装置の機能ブロック図である。
【
図3】車両の走行速度と、車両の(または電動機単体の)出力との関係を示すグラフである。
【
図4】上記評価システムの速度演算装置の機能ブロック図である。
【
図5】上記評価システムを用いた電動機の出力評価方法を示すフロー図である。
【
図6】上記評価システムによる効果を説明するため、電動機の出力評価を行った結果を示すグラフである。
【
図7】上記評価システムの第一変形例における走行試験の条件および試験の手順を示す図である。
【
図8】上記評価システムの第二変形例の第一の例における走行試験の条件および試験の手順を示す図である。
【
図9】上記評価システムの第二変形例の第一の例における走行試験の結果を想定したグラフである。
【
図10】上記評価システムの第二変形例の第二の例における走行試験の条件および試験の手順を示す図である。
【
図11】上記評価システムの第三変形例における速度演算装置の機能ブロック図である。
【
図12】評価システムの第三変形例において実施される第二プレ走行試験の様子について、要部のみを概略的に示す図である。
【
図13】評価システムの第三変形例を用いた電動機の出力評価方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の第一実施形態に係る電動機出力評価システム100について、添付図面を参照して説明する。
【0029】
<全体構成>
電動機出力評価システム(以下、評価システム)100は、車両200に搭載される電動機210の出力を評価する装置となっている。ここでいう車両200は、電動キックボード等の小型の電動モビリティを想定しているが特に限定されるものではない。また本実施形態では一例として、評価システム100によって評価される対象となる電動機210の出力(評価対象出力)は、電動機210メーカ等が公称する「定格出力」であるとするが、電動機210の評価対象出力は特に限定されるものではなく、様々に設定可能である。
【0030】
図1に示すように評価システム100は、車両200に搭載された状態で電動機210の表面温度Tsを測定する温度測定器1と、車両200の出力Pcを測定する出力測定器2と、温度測定器1および出力測定器2に電気的に接続された余裕度判定装置3と、電動機210を搭載した車両200を走行させる走行試験装置4と、走行試験装置4によって走行試験を行う際に必要なデータを演算する速度演算装置5とを備えている。
【0031】
温度測定器1は例えばサーモグラフィカメラを含み、電動機210に対向配置されて電動機210の表面温度Tsを連続的に測定可能となっている。本実施形態では温度測定器1によって車両200の走行中に電動機210の表面において最も温度が高くなる部位(最発熱部位)を特定し、この部位の温度変化を連続的に測定するようになっている。
【0032】
出力測定器2は詳しく後述する走行試験装置4に設けられており、車両200の出力Pcを連続的に測定するようになっている。
【0033】
走行試験装置4は例えばシャシダイナモメータ等であって、電動機210を搭載した車両200のタイヤ220が接触するローラ40、およびローラ40に接続されたダイナモ(負荷調整器)として機能する測定用電動機41を有し、車両200の実際の走行時にタイヤ220にかかる負荷と同様の負荷をタイヤ220に与えるものとなっている。上述のように走行試験装置4には出力測定器2が設けられ、走行試験装置4においてタイヤ220にかかる負荷(測定用電動機41の回生電力等)から車両200の出力を測定するようにしている。
【0034】
余裕度判定装置3は、車両200を所定時間(以下、試験時間tとする)の間走行させる走行試験において、電動機210を試験時間tだけ駆動させた際に電動機210における定格出力Prに対する余裕度の大小を判定するものであって、プロセッサ等を含むコンピュータCOMによって実現される。なお余裕度判定装置3には、同様にコンピュータCOMによって実現される余裕度データ生成器3aが設けられ、電動機210を、定格出力Prを含む出力領域で試験時間tの間駆動させた後において、すなわち走行試験装置4によって車両200を試験時間tの間、定格出力Prを発揮する速度(以下、評価出力対応速度)で走行させる走行試験を行った後において、車両200の出力Pcの低下量のデータを余裕度判定用データとして生成する。そして余裕度判定装置3は、
図2に示すように電動機210の表面温度Tsのデータを取得する温度データ取得部30と、車両200の出力Pcの低下量のデータ(余裕度判定用データ)を取得する出力データ取得部(余裕度判定用データ取得部)31と、車両200の出力Pcの低下量のデータを参照し電動機210の定格出力Prに対する余裕度を判定する判定部32と、試験時間tが経過する前に後述する所定の条件下で電動機210の駆動停止を指示する停止指示部33と、走行試験の開始前に後述する所定の条件下で走行試験を行わないよう指示する試験不実施指示部34と、を備えている。
【0035】
温度データ取得部30は、温度測定器1で測定した電動機210の表面温度Tsのデータを連続的に取得する。
出力データ取得部31は、出力測定器2で測定した車両200の出力Pcのデータを連続的に取得するともに、出力Pcの低下量のデータとなる余裕度判定用データを取得する。
【0036】
判定部32は、余裕度データ生成器3aから取得した車両200の出力Pcの低下量に基づき、電動機210の定格出力Prに対する余裕度を判定する。
【0037】
ところで車両200の走行速度Vと、車両200の出力Pc(または電動機210単体の出力Pm)との関係は一般には
図3に示すように、低速域から徐々に出力が増加した後に最大出力となり、その後高速域で再び出力が低下するような関係を示す。よって上記の定格出力Prを例えば600Wとした場合には、この定格出力Prを発揮する車両200の速度、すなわち評価出力対応速度としては、低速側の第一速度V
minと、高速側の第二速度V
maxとが存在し得る。本実施形態ではこれら第一速度V
minおよび第二速度V
maxは後述する速度演算装置5によって算出される。
【0038】
そして電動機210の定格出力Prは、制度上要求される電動機210の出力の上限値に一致する。例えば車両200が特定小型原動機付自転車である場合には定格出力Prは600〔W〕となる。ところで車両200には動力伝達機構や制御装置(ECU:Electronic Control Unit)等が設けられているため、
図3にも示すように車両200の出力Pcと電動機210単体の出力Pmとの間には差が生じており、これら車両200の出力Pcと電動機210のPmとは必ずしも一致しない。このため本実施形態では出力測定器2で測定した車両200の出力Pcから直接的に第一速度V
minおよび第二速度V
maxを算出することができないため、詳しく後述する速度演算装置5を設けている。
【0039】
判定部32では、走行試験終了時に、車両200の出力Pcの低下量が所定の閾値(以下、出力閾値Pth)未満となっている場合に定格出力Prに対する余裕度が大きく、車両200の出力Pcの低下量が出力閾値Pth以上となっている場合に余裕度が小さいと判定する。具体的には、例えば走行試験開始から終了までの車両200の出力Prの低下量が4%未満である場合に、定格出力Prに対する余裕度が大きいと判定し、出力Prの低下量が4%以上である場合に、定格出力Prに対する余裕度が小さいと判定する。
【0040】
停止指示部33は、試験時間tが終了する前に、車両200の出力Pcの低下量が出力閾値Pth以上となっている場合、または、電動機210の表面温度Tsの値が所定の閾値(以下、温度閾値Tth)以上となっている場合に電動機210の駆動停止、すなわち車両200の走行試験終了を指示する。この際、電動機210の定格出力Prの余裕度が小さいと判定される。
【0041】
試験不実施指示部34は、電動機210の出力Pmと車両200の走行速度Vとの関係を示す電動機出力-車両速度特性を参照し、電動機210の最大出力が定格出力Pr以下となっている場合に、定格出力Prに対して余裕度が小さいと判定して走行試験を行わないよう指示する。なお試験不実施指示部34が参照する電動機出力-車両速度特性は、後述する速度演算装置5において生成される。
【0042】
速度演算装置5は、例えば余裕度判定装置3を構成する上記コンピュータCOMによって実現され(
図1参照)、走行試験装置4によって車両200を走行させる走行試験において使用されるデータを演算する。具体的に速度演算装置5は、電動機210の定格出力Prを発揮するための車両200の評価出力対応速度となる第一速度V
minと第二速度V
maxを算出する。
【0043】
すなわちこの速度演算装置5は、
図4に示すように車両速度-回転数特性生成部49と、車両速度-回転数特性入力部50と、電動機出力-回転数特性入力部51と、電動機出力-車両速度特性生成部52と、速度算出部53とを有している。
【0044】
車両速度-回転数特性生成部49は、走行試験装置4によって車両200を走行させて得た車両200の走行速度Vと、この走行速度Vに対応する電動機210の回転数との関係を示す車両速度-回転数特性を生成する。より具体的に速度演算装置5には走行試験装置4に設けられた回転計10および車速計11が電気的に接続されており(
図1参照)、車両速度-回転数特性生成部49は回転計10および車速計11からの測定データを取得し、車両速度-回転数特性を生成する。回転計10は例えばレーザー光等を用いた光学的な非接触式回転計が好適に使用される。車両速度-回転数特性を生成する際には、走行試験装置4によって車両速度-回転数特性を生成することのみを目的としてプレ走行試験を行う。なお車両速度-回転数特性が予め入手可能である場合には車両速度-回転数特性生成部49は設けなくともよい。
【0045】
車両速度-回転数特性入力部50では、上記の車両速度-回転数特性が入力される。車両速度-回転数特性が予め入手可能である場合には、車両速度-回転数特性は例えば走行試験実施者によって手入力されてもよい。
【0046】
電動機出力-回転数特性入力部51では、電動機210のメーカ等から予め入手した電動機210の出力と電動機210の回転数との関係を示す電動機出力-回転数特性が入力される。電動機出力-回転数特性は、例えば走行試験実施者が手入力する。
【0047】
電動機出力-車両速度特性生成部52は、入力された車両速度-回転数特性および電動機出力-回転数特性から、電動機210の出力と車両200の走行速度Vとの関係を示す電動機出力-車両速度特性を生成する。
【0048】
速度算出部53は、電動機出力-車両速度特性生成部52で生成された電動機出力-車両速度特性から、評価出力対応速度となる第一速度Vminおよび第二速度Vmaxを算出する。
【0049】
<定格出力の余裕度の大小判定の手順>
次に電動機210における定格出力Prに対する余裕度の大小判定の手順、すなわち電動機210の出力評価方法について説明する。
図5に示すように、ます走行試験装置4を用いて車両200のプレ走行試験を実施し、車両200の走行速度Vと電動機210の回転数との関係を示す車両速度-回転数特性を生成する(ステップS1)。
ここでプレ走行試験の条件としては、走行試験装置4および車両200を室温22度、かつ無風の試験環境に設置し、電動機210へは車両200に搭載されたバッテリ(不図示)からではなく、定電圧で電力を供給可能な直流安定化電源から給電するようにする。この際、車両200には直流安定化電源を接続可能な端子を増設する改造を行ってもよい。そしてプレ走行試験ではまず準備試験として車両200の暖機運転を行う。この準備試験は電動機210の表面温度Tsが40度になった時点で終了し、その後電動機210の表面温度Tsが30度となるまで冷却し、その後プレ走行試験の本試験を実施して車両速度-回転数特性を生成する。
【0050】
そして上述したように車両速度-回転数特性から電動機出力-車両速度特性を算出する(ステップS2)。その後、電動機出力-車両速度特性から定格出力Prよりも大きな出力が電動機210に存在するか否か、すなわち電動機210の最大出力が定格出力Prよりも大きいか否かを判定する(ステップS3)。ステップS3において定格出力Prより大きな出力が電動機210に存在する場合には「YES」と判定されてステップS4に進む。一方、ステップS3において定格出力Prより大きな出力が電動機210に存在しない場合(電動機210の最大出力が定格出力Pr以下となっている場合)には「NO」と判定されて定格出力Prの余裕度が小さいとされ、走行試験を実施することなくフローを終了する。
【0051】
ステップS4では、定格出力Prに対応する評価出力対応速度、すなわち第一速度Vminおよび第二速度Vmaxが算出され、その後、第一速度Vminを使用した走行試験を開始する(ステップS5)。本実施形態の走行試験では車両200を第一速度Vminで例えば1時間走行させるようにする。走行試験装置4では不図示の制御装置に試験条件となる試験時間tおよび第一速度Vmin等のデータを入力し走行試験を実施する。なお走行試験においては上記プレ走行試験と同様の環境において電動機210へは直流安定化電源から給電するようにし、アクセル全開で走行させる。
【0052】
そしてステップS5で走行試験を開始後、予め定めた試験時間tが終了する前に車両200の出力Pcの低下量が出力閾値Pth未満となっているか否か、または、電動機210の表面温度Tsの値が温度閾値Tth未満となっているか否かを判定する(ステップS6)。ステップS6で車両200の出力の低下量が出力閾値Pth未満となっている場合、または、電動機210の表面温度の値が所定の温度閾値Tth未満となっている場合には「YES」と判定されて走行試験を継続し、走行試験開始から試験時間tの経過後に走行試験を終了する(ステップS7)。
【0053】
ステップS7において走行試験開始から試験時間tの経過後に走行試験を終了した後、車両200の出力Pcの低下量が出力閾値Pth未満となっているか否かを判定する(ステップS8)。ステップS8で車両200の出力Pcの低下量が出力閾値Pth未満となっている場合には、電動機210の定格出力Prに対する余裕度が大きいと判定しフローを終了する。一方で、ステップS8で車両200の出力Pcの低下量が出力閾値Pth以上となっている場合には、電動機210の定格出力Prに対する余裕度が小さいと判定しフローを終了する。
【0054】
ここでステップS6に戻って、車両200の出力Pcの低下量が出力閾値Pth未満となっていない(出力閾値Pth以上となっている)場合、または、電動機210の表面温度Tsの値が温度閾値Tth未満となっていない(温度閾値Tth以上となっている)場合には「NO」と判定され、ステップS60に進む。ステップS60では電動機210の定格出力Prに対する余裕度が小さいと判定して、試験時間tが経過する前に走行試験を途中で終了するよう、すなわち電動機210の駆動を停止するように指示がなされ、その後フローを終了する。
【0055】
なお本実施形態において上記出力Pcの低下量の出力閾値Pthの値は上記の4%に限定されるものではなく、適宜変更可能である。また温度閾値Tthは、例えば電動機210の電気絶縁部(巻き線部等)の許容温度(例えば耐熱クラスに該当する温度)に設定されるが、こちらも特に限定されるものではない。なお温度閾値Tthを設定する際、電動機210のメーカや車両200のメーカには、電動機210の耐熱クラスや電動機210における電気絶縁部の許容温度を示す資料、電動機210の連続運転中に温度測定が可能な部位であってかつ最も発熱する電動機210の表面の部位を示す資料、電動機210の電気絶縁部の温度が耐熱クラスの許容温度を超えた場合の電動機210の表面の最発熱部位の温度を示す資料、および電動機210の電気絶縁部の許容温度と電動機210の表面の最発熱部位の許容温度との差の根拠を示す資料等を提出させるようにしてもよい。
【0056】
<作用効果>
以上説明した本実施形態の評価システム100によれば、定格出力Prを含む出力領域で電動機210を駆動するように車両200を所定時間(試験時間t)の間走行させることで電動機210を所定時間(試験時間t)の間駆動させ、その後に余裕度判定装置3によって車両200の出力Pcの低下量が所定の出力閾値Pth未満となっている場合に、電動機210の定格出力Prに対する余裕度が大きく、車両200の出力Pcの低下量が出力閾値Pth以上となっている場合に余裕度が小さいと判定される。
【0057】
ここで車両200の出力Pcの低下量に関して実空間でのイメージを説明すると、登り坂をアクセル全開の状態で定格出力を発揮させ、かつ定速で走行するようにした場合に、走行開始時と同じ速度を維持するためには時間経過とともに登り坂の傾斜を緩くする必要が生じるが、この「登り坂の傾斜を緩くする」ということが「出力Pcが低下する」ことと等価となり、この場合に定格出力に対する余裕度が小さいということになる。逆に「登り坂の傾斜を緩くする必要が無い場合には出力Pcは低下しない」ということになり、定格出力に対する余裕度が大きいということになる。
【0058】
このように車両200の出力Pcの低下量に基づいて定格出力Prに対する余裕度を判定するといった非常に簡易な構造、手法を用いることで、電動機210における出力の評価が可能となる。よって制度上求められる定格出力Prを実質的に超える性能を有する電動機210を搭載した車両200の登録を排除することが可能となる。
【0059】
ここで
図6には、実際に定格出力Prの公称値が1000〔W〕でかつ定格電圧が48〔V〕の電動機Xと、定格出力Prの公称値が400〔W〕でかつ定格電圧が24〔V〕の電動機Yの二つの異なる電動機を一時間、試験前の初期状態で600〔W〕を発揮する回転数で連続駆動させる試験を行って、電動機の出力Pmの経時変化をグラフ化したものを示す。なお
図6の試験において電動機の評価対象出力は定格出力ではなく600〔W〕に設定し、定格出力の異なる二つの電動機X、Yについて余裕度の評価を行っている。その結果
図6に示すように、定格出力Prの公称値が400〔W〕の電動機Yの方が定格出力Prの公称値が1000〔W〕の電動機Xよりも出力Pmの低下量が大きく、また電動機Yの方が電動機の表面温度Tsも高くなった。よって、定格出力Prの公称値が400〔W〕の電動機Yの方が、定格出力Prの公称値が1000〔W〕の電動機Xよりも余裕度が大きいということになってしまっており、定格出力Prの公称値が400〔W〕の電動機Yが「定格出力を実質的に超える性能を有する電動機」に該当し得る。この点、本実施形態の評価システム100を使用することで、このような事態の発生を避けることができる。
【0060】
また本実施形態では走行試験装置4を用いて車両200を走行させることにより、電動機210の定格出力Prに対する余裕度の評価を行うようにしている。このため車両200を分解して電動機210を取り出して電動機210単体で余裕度の評価を行うような必要がなく、余裕度評価に要する手間を削減することができる。
【0061】
また余裕度判定装置3が停止指示部33を有することで、車両200の出力Pcの低下量が所定の出力閾値Pth以上となっている場合、または電動機210の表面温度Tsの値が所定の温度閾値Tth以上となっている場合に余裕度が小さいと判定し、電動機210の駆動停止を指示するようにしている。よって走行試験中において電動機210が過負荷となって焼損してしまうような事態の発生を避けることができる。
【0062】
また余裕度判定装置3が試験不実施指示部34を有することで、不要な走行試験を行うことがなくなる。
【0063】
(変形例1)
次に上記実施形態の変形例1について説明する。変形例1の評価システム100では、余裕度を評価する際の走行試験として、車両200の評価出力対応速度となる第一速度Vminおよび第二速度Vmaxで車両200を走行させる。
【0064】
具体的には
図7に示すように、走行試験として、上記の試験時間tの間に互いに条件の異なる第一試験段階D1、第二試験段階D2、および第三試験段階D3を実施する。
第一試験段階D1では第二速度V
maxでの走行を所定時間継続する。第二試験段階D2では第一速度V
minでの走行を所定時間継続した後に第二速度V
maxでの走行を所定時間継続する。第三試験段階D3では第一速度V
minでの走行を所定時間継続する。また第二試験段階D2は、第二速度でV
maxでの走行時間が徐々に短くなる一方、第一速度V
minでの走行時間が徐々に長くなる複数の段階を含んでいる。本実施形態では第二試験段階D2は初回第二試験段階D2aおよび二回目第二試験段階D2bの二つの段階を含んでいる。各試験段階の条件の一例は以下の通りである。
【0065】
・第一試験段階D1:
第一速度Vminでの走行時間:0〔min〕
第二速度Vmaxでの走行時間:5〔min〕
・初回第二試験段階D2a:
第一速度Vminでの走行時間:1〔min〕
第二速度Vmaxでの走行時間:4〔min〕
・二回目第二試験段階D2b:
第一速度Vminでの走行時間:3〔min〕
第二速度Vmaxでの走行時間:2〔min〕
・第三試験段階D3:
第一速度Vminでの走行時間:5〔min〕
第二速度Vmaxでの走行時間:0〔min〕
【0066】
そして上記の第一試験段階D1~第三試験段階D3の各々は複数サイクル(例えば12サイクル)を実行するようにしてもよい。第一試験段階D1を例えば12サイクル実施する場合、5〔min〕×12=1〔h〕の間、車両200を連続運転する。同様に各試験段階D2a、D2b、D3をそれぞれ5〔min〕×12=1〔h〕実施する。一つの試験段階を12サイクル実施した後に電動機210の冷却時間を設け、温度測定器1で測定する電動機210の表面温度Tsがおおむね30度以下となるまで冷却を行った後に、次の試験段階に移るようにする。
【0067】
ここで上記サイクルでの走行試験を実施する場合、余裕度判定装置3の停止指示部33は各試験段階の間において電動機210の冷却を行う前に、車両200の出力Pcの低下量が出力閾値Pth以上となっている場合、または、電動機210の表面温度Tsの値が温度閾値Tth以上となっている場合に、電動機210の駆動停止を指示するようにしてもよい。
【0068】
このようなサイクルでの走行試験を実施することで、負荷的に非常に厳しい第一速度Vminのみでの走行試験を行う場合に比べて、負荷的に厳しい条件に徐々に移行しつつ走行試験を実施できるため、走行試験中に電動機210が過負荷となって焼損してしまうような事態の発生を避けることができる。
【0069】
(変形例2)
次に上記実施形態の変形例2について説明する。変形例2の評価システム100では、余裕度を評価する際の走行試験として、車両200の評価出力対応速度となる第一速度Vminまたは第二速度Vmaxと、第一速度Vminまたは第二速度Vmaxよりも低速の第三速度Vloadで車両200を走行させる。
【0070】
変形例2における第一の例として、
図8に示すように、走行試験では第一速度V
minの試験段階D11と、第一速度V
minよりも低速の第三速度V
loadの試験段階D12とを交互に実施する。この場合、第三速度V
loadに対応する電動機210の出力Pmは、第一速度V
minでの電動機210の出力となる定格出力Prよりも低出力になるが(
図3参照)、その一方で電流値は大きくなり電動機210にとっては高負荷の状態となる。すなわち第一速度V
minから第三速度V
loadに速度を落とすことは電動機210の回転軸をつまんで車両200の速度を落とすイメージに近い。もしくは車両200が登り坂を走行する際に、一旦登り坂の勾配を大きくするイメージに近い。
【0071】
このような第三速度V
loadを用いた走行試験を組み込むことで、単に第一速度V
minのみで走行試験を行う場合に比べて余裕度を判定するまでのトータルの試験時間tを短くすることが可能となる。また第三速度V
loadの試験を加えることで時間経過によって電動機210が「へたる」状態となるため、第三速度V
loadの試験から第一速度V
minの試験に戻った際には、前回の第一速度V
minの試験よりも電動機210の出力Pmが低下した状態での試験開始となり得る。具体的には
図9に破線で示すように第三速度V
loadから第一速度V
min(第二速度V
maxの場合も同様)に戻る度に第一速度V
minでの車両200の出力Pcが低下していく。このため各段階の開始時において電動機210のベースの出力Pmが低下した状態で次の第三速度V
loadの試験に入ることになり、電動機210にさらに負荷がかかる状態となり、余裕度評価に要する試験時間tを短縮可能である。
【0072】
また変形例2における第二の例として、
図10に示すように、走行試験では第二速度V
maxの試験段階D21と、第二速度V
maxよりも低速の第三速度V
loadの試験段階D22とを交互に実施する。この場合の第三速度V
loadは第一速度V
minと第二速度V
maxとの間の速度、すなわち第一速度V
minよりも高速で、かつ第二速度V
maxよりも低速に設定しているが、第三速度V
loadは第一速度V
minよりも低速であってもよい。なお第三速度V
loadを第一速度V
minよりも高速で、かつ第二速度V
maxよりも低速に設定する場合は、第三速度V
loadでの電動機210の出力Pmが定格出力Prを超えているため、電動機210の定格出力に対する余裕度評価を行う場合よりも、定格出力と異なる予め定めた評価対象出力に対する余裕度を評価する場合に好適である。
【0073】
第三速度V
loadに対応する電動機210の出力Pmは第二速度V
maxでの電動機210の出力となる定格出力Prよりも高出力になり(
図3参照)、かつ電流値も大きくなり、単に第二速度V
maxのみで走行試験を行う場合に比べて、余裕度を判定するまでのトータルの試験時間tを短くすることが可能となる。さらには電動機210の出力Pm、電流値ともに低い領域となる第二速度V
maxでの試験をベースとしながら第三速度V
loadの試験を含めることで、電動機210の焼損等の可能性を低減しながら試験時間tを短縮できるといったメリットも得られる。また第三速度V
loadの試験が第二速度V
maxの試験と交互で複数回実行される際、回ごとに、徐々に第三速度V
loadを、V
load1→V
load2→・・・と小さくしていく。この場合、第三速度V
loadをどこまで低くすることができるか、といった点も余裕度評価の指標として用いることができる。
【0074】
(変形例3)
上記実施形態の変形例3に係る評価システム100について説明する。変形例3の評価システム100では、速度演算装置5Cの構成が上述の速度演算装置5と異なっている。
速度演算装置5Cは、
図11に示すように車両出力-車両速度特性生成部55と、車両出力-車両速度特性入力部56と、ロス補正部57と、速度算出部58とを有している。
【0075】
車両出力-車両速度特性生成部55は、プレ走行試験において車両200を走行させて得た車両200の走行速度Vと、この走行速度Vに対応する車両200の出力Pcとの関係を示す車両速度-車両出力特性を生成する。この際得られる車両速度-車両出力特性は、上記のプレ走行試験の試験条件(試験環境等の条件)下で得られるデータであって、プレ走行試験の試験条件が変われば異なるデータとなり得る。よって上記のプレ走行試験の試験条件は、余裕度評価の基準となる車両速度-車両出力特性を特定するための一例であり、他の試験条件をプレ走行試験に設定してもよい。なお車両出力-車両速度特性が予め入手可能である場合には車両出力-車両速度特性生成部55は設けなくともよい。
【0076】
車両出力-車両速度特性入力部56では、上記の車両出力-車両速度特性が入力される。車両出力-車両速度特性を予め入手可能である場合には、車両出力-車両速度特性は例えば走行試験実施者によって手入力されてもよい。
【0077】
ロス補正部57は、上記の車両出力-車両速度特性に対して車両200における駆動ロス等に起因する機械損失分に基づく補正を行うことで、電動機出力-車両速度特性を算出する。車両200におけるロス分に基づく補正値は、第二プレ走行試験を事前に行うことで取得し、ロス補正部57に入力、記憶しておく。
【0078】
具体的に第二プレ走行試験では電動機210の電源入力端子を開放状態(バッテリから切り離した状態)とし、
図12に示すように走行試験装置4のローラ40を測定用電動機41によって駆動させることでローラ40によってタイヤ220を回転させる。このようにして電動機210を空転させる際に要する仕事率の速度特性を駆動ロスとして算出する。この駆動ロスは主に車両200のドライブトレイン230において生じるロス分であって、ロス補正部57はこのロス分に基づく補正値を求める。
【0079】
なおロス分に基づく補正は必ずしも上述したような第二プレ走行試験に基づかなくともよく、上記の車両出力-車両速度特性に対して一律の割合で補正値を乗ずる(または加算する)ことによって行ってもよい。
【0080】
速度算出部58は、上記の通りロス分を補正することで得られる電動機出力-車両速度特性から評価出力対応速度となる第一速度Vminおよび第二速度Vmaxを算出する。
【0081】
このような速度演算装置5Cを採用した場合、電動機210における定格出力Prに対する余裕度の大小判定の手順は
図13に示す通りである。すなわち電動機出力-車両速度特性から定格出力Prよりも大きな出力が電動機210に存在するか否かを判定するステップS3の前に、プレ走行試験で車両出力-車両速度特性を生成するステップS1´と、車両出力-車両速度特性を補正して電動機出力-車両速度特性を算出するステップS2´を実行する。
【0082】
このような速度演算装置5Cを採用することにより、電動機210のメーカ等から電動機210のスペック(上述した電動機出力-回転数特性等)の情報が得られなくとも、評価出力対応速度となる第一速度Vminおよび第二速度Vmaxを算出することが可能となる。
【0083】
本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、走行試験装置4に代えて、電動機210を単体で駆動させる試験装置を準備し、電動機210単体で定格出力Prに対する余裕度の評価を行ってもよい。
【0084】
また出力Pc、Pmの低下量から余裕度を判定するのではなく、電動機210の表面温度Tsが所定の閾値未満となっている場合に余裕度が大きく、電動機210の表面温度Tsが所定の閾値以上となっている場合に余裕度が小さいと判定してもよい。
【0085】
さらに、上記の温度測定器1および/または出力測定器2と、上記余裕度の大小を判定するための余裕度判定用データ(出力Pc、Pmの低下量のデータや、電動機210の表面温度Tsのデータ)を生成しアウトプットする余裕度データ生成器3aと、を備える電動機評価指標提示装置も本発明に含まれる。すなわち上記構成の評価システム100では余裕度の「評価」までを行うようにしているが、本発明はこれに限定されることなく、電動機評価指標提示装置によって余裕度の評価を行うための評価指標を提示し、余裕度の評価自体は例えば人間が行う等の他の手法を採用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、簡易な構造、および手法によって電動機の出力の余裕度を評価することが可能である。
【符号の説明】
【0087】
1…温度測定器
2…出力測定器
3a…余裕度データ生成器
3…余裕度判定装置
4…走行試験装置
5、5C…速度演算装置
30…温度データ取得部
31…出力データ取得部
32…判定部
33…停止指示部
34…試験不実施指示部
49…車両速度-回転数特性生成部
50…車両速度-回転数特性入力部
51…電動機出力-回転数特性入力部
52…電動機出力-車両速度特性生成部
53…速度算出部
55…車両出力-車両速度特性生成部
56…車両出力-車両速度特性入力部
57…ロス補正部
58…速度算出部
100…電動機出力評価システム
200…車両
210…電動機
D1…第一試験段階
D2…第二試験段階
D3…第三試験段階
Pc…車両の出力
Pm…電動機の出力
Pr…定格出力
Pth…出力閾値
Ts…表面温度
Tth…温度閾値
V…走行速度
Vload…第三速度
Vmax…第二速度
Vmin…第一速度
t…試験時間
【要約】
【課題】簡易な構造、および手法によって電動機の出力の余裕度を評価することのできる電動機評価指標提示装置等を提供する。
【解決手段】
電動機210の出力もしくは電動機210を搭載した車両200の出力を測定する出力測定器2、および/または、電動機210の表面温度を測定する温度測定器1と、電動機210における所定の評価対象出力に対する余裕度の大小を判定するための余裕度判定用データを生成しアウトプットする余裕度データ生成器3aとを備え、電動機210を上記評価対象出力を含む出力領域で所定時間駆動させた後において上記余裕度データ生成器3aは、出力測定器2が設けられている場合には電動機210の出力または電動機210を搭載した車両200の出力の低下量のデータを上記余裕度判定用データとして生成し、温度測定器1が設けられている場合には電動機210における表面温度のデータを上記余裕度判定用データとして生成する。
【選択図】
図1