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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-13
(45)【発行日】2025-03-24
(54)【発明の名称】発音装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 7/12 20060101AFI20250314BHJP
   H04R 7/24 20060101ALI20250314BHJP
   H04R 9/00 20060101ALI20250314BHJP
   H04R 9/06 20060101ALI20250314BHJP
【FI】
H04R7/12 Z
H04R7/24
H04R9/00 B
H04R9/06 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020044101
(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公開番号】P2021145286
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-12-22
【審判番号】
【審判請求日】2024-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000101732
【氏名又は名称】アルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮
【合議体】
【審判長】伊藤 隆夫
【審判官】坂本 聡生
【審判官】高橋 宣博
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-194460号公報(JP,A)
【文献】特開2019-110439号公報(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 7/12
H04R 7/24
H04R 9/00
H04R 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性シートで形成された振動シートと、前記振動シートを支持する支持部と、前記振動シートに振動力を与える駆動機構と、が設けられた発音装置において、
前記振動シートは、縦方向の両端に位置する固定側端部および駆動側端部と、前記縦方向に向けて互いに平行に延びる両縁部と、を有し、
弾性変形可能な発泡材料で形成された弾性補強部材が設けられ、前記弾性補強部材が、自由状態で前記縦方向に向けて湾曲した湾曲面を有、自由状態で平面形状の前記振動シートが前記縦方向に湾曲させられて、前記振動シートの少なくも前記両縁部に沿って前記弾性補強部材の前記湾曲面が固着されており、
前記支持部には、湾曲した前記振動シートの前記固定側端部が固定される端部固定部と、前記駆動側端部に振動力を与える前記駆動機構を支持する駆動機構固定部と、前記両縁部を拘束することなく前記両縁部に対向する一対の側壁部と、が設けられ、
前記駆動機構から前記駆動側端部に対して、前記振動シートのシート面に沿う振動力が与えられることを特徴とする発音装置。
【請求項2】
前記弾性補強部材の前記縦方向の両端部が前記支持部に接着されて固定されている請求項1記載の発音装置。
【請求項3】
前記弾性補強部材が、前記振動シートの幅寸法とほぼ同じ幅寸法に形成されている請求項1または2記載の発音装置。
【請求項4】
前記振動シートの前記縁部と前記側壁部は、微小隙間を介して対向している請求項1ないし3のいずれかに記載の発音装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湾曲した振動シートを振動させて音圧を発生する発音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に万能スピーカに関する発明が記載されている。
この万能スピーカは湾曲振動板を有している。特許文献1の段落[0040]には、湾曲振動板の材料は、カーボン紙などの紙、ポリイミドやポリエステルなどの可撓性を有するプラスチック、バルサ材などの木材、アルミやベリリウム、ボロンなどの金属を用いることができる、と記載されている。
【0003】
湾曲振動板は、筐体の開口部を被覆するように設けられ、一方の端部が筐体に固定されている。筐体にドライバが固定されている。ドライバはムービングマグネット型であり、マグネットが設けられたポールピースにバネ弾性を有する挟持具が固定されている。湾曲振動板の他方の端部が挟持具で挟持され、湾曲振動板とポールピースとが連結されている。ドライバのポールピースが駆動されると、挟持具を介して湾曲振動板に振動が与えられる。
【0004】
特許文献1の図8などに記載されているように、筐体に設けられた一対の側板の対向面に湾曲したガイド凸部が固定されており、湾曲振動板の両側部の内面がそれぞれのガイド凸部に支えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5668233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された万能スピーカは、湾曲振動板が、紙、プラスチック、木材、金属の板材の単体で形成されている。そのため、全体の剛性を適正な状態に管理するのが難しく、ドライバから板面に沿う振動が与えられたときに、不要な変形や捩じり振動などが発生しやすい。また湾曲振動板の両側部の内面がガイド凸部に支えられているため、振動中の湾曲振動板とガイド凸部との間に摩擦抵抗が生じやすい。そのため、湾曲振動板の振動特性が不安定になりやすい。
【0007】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、湾曲している振動シートの剛性を最適に設定し、振動時の不要な変形や捩じり振動などを抑制できるようにして、発音特性を向上できるようにした発音装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、可撓性シートで形成された振動シートと、前記振動シートを支持する支持部と、前記振動シートに振動力を与える駆動機構と、が設けられた発音装置において、
前記振動シートは、縦方向の両端に位置する固定側端部および駆動側端部と、前記縦方向に向けて互いに平行に延びる両縁部と、を有し、
弾性変形可能な発泡材料で形成された弾性補強部材が設けられ、前記弾性補強部材が、自由状態で前記縦方向に向けて湾曲した湾曲面を有、自由状態で平面形状の前記振動シートが前記縦方向に湾曲させられて、前記振動シートの少なくも前記両縁部に沿って前記弾性補強部材の前記湾曲面が固着されており、
前記支持部には、湾曲した前記振動シートの前記固定側端部が固定される端部固定部と、前記駆動側端部に振動力を与える前記駆動機構を支持する駆動機構固定部と、前記両縁部を拘束することなく前記両縁部に対向する一対の側壁部と、が設けられ、
前記駆動機構から前記駆動側端部に対して、前記振動シートのシート面に沿う振動力が与えられることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の発音装置は、前記弾性補強部材の前記縦方向の両端部が前記支持部に接着されて固定されていることが好ましい。また、前記弾性補強部材が、前記振動シートの幅寸法とほぼ同じ幅寸法に形成されているものであってもよい。
【0010】
本発明の発音装置は、前記振動シートの前記縁部と前記側壁部が、微小隙間を介して対向していることが好ましい。
【0011】
本発明の発音装置の前記振動シートは、樹脂シートの表面に金属膜が形成されたものであることが好ましい。
【0012】
本発明の発音装置では、前記駆動機構は、前記駆動側端部において前記振動シートのシート面に形成された平面巻きのコイル層と、前記駆動機構固定部に固定されて前記コイル層に対向する磁界発生部、とを有しているものとして構成できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の発音装置は、前記振動シートに、少なくもその両縁部に沿って弾性補強部材が固着されているため、振動シートの剛性を最適に設定することができ、余分な変形や捩じり振動などの発生を抑制できて、周波数特性などの音響特性を安定させやすくなる。特に、前記弾性補強部材に湾曲面が設けられて、振動シートが湾曲面に固着されているものであると、振動シートを常に湾曲形状に維持できるようになり、振動特性をさらに安定させやすくなる。
【0014】
また、前記振動シートが、FPCなどのように樹脂シートの表面に金属膜が形成されたものであると、振動シートの単体での剛性を高めることができ、振動中に振動シートに不要な変形が生じるのを防止できるようになる。
【0015】
さらに、前記駆動機構を、振動シートのシート面に形成された平面巻きのコイル層と、コイル層に対向する磁界発生部とで構成すると、駆動機構を薄型にでき、コイル層によってシート面に沿う方向の振動力を直接に発生させることができ、振動の駆動効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態の発音装置を前方から見た斜視図、
図2図1に示した発音装置をII-II線で切断した半断面斜視図、
図3図1に示した発音装置をII-II線で切断した断面図、
図4図1に示した発音装置の分解斜視図、
図5図1に示した発音装置を図3に示すV-V線で切断した断面図、
図6図5に示した発音装置の断面図の一部を拡大した拡大断面図、
図7】(A)(B)は弾性補強部材の変形例を示す図5と同等の断面を示す拡大断面図、
図8】本発明の発音装置の変形例を示す図3に相当する断面図、
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1などに示される実施形態の発音装置1は、Z1方向が前方でZ2方向が後方、Y1方向が上方でY2方向が下方、X1方向が左方向でX2方向が右方向である。
発音装置は、前方(Z1方向)と上方(Y1方向)が、主な音圧の発生方向である。
【0018】
図1図2に示されるように、発音装置1は支持部2を有している。支持部2は支持筐体または支持基台である。支持部2は底壁部3と後壁部4を有している。図2に示されるように、底壁部3と後壁部4は一体に形成されている。支持部2には左右方向(X1-X2方向)で対向する左側壁部5と右側壁部6が設けられている。図5に示されるように、左側壁部5は対向内面5aを有し、右側壁部6は対向内面6bを有している。対向内面5aと対向内面6aは、底壁部3と後壁部4の左右両側面に固定されており、左側壁部5と右側壁部6とが平行に対向している。
【0019】
図2図3に示されるように、支持部2の後壁部4の上部には前方(Z1方向)に突出する支持リブ7が一体に形成されており、支持リブ7の上面が端部固定部7aとなっている。底壁部3の前端部は肉厚部8となっており、肉厚部8の前方(Z1方向)に向く端面が駆動機構固定部8aとなっている。後壁部4の中央部に円形穴である開口部9が形成されている。支持部2は、少なくとも両側壁部5,6および端部固定部7aと駆動機構固定部8aとで構成されている。
【0020】
図1に示されるように、支持部2の左側壁部5と右側壁部6との間では、端部固定部7aから駆動機構固定部8aにかけて振動シート10が設けられている。振動シート10はV1-V2方向が縦方向である。振動シート10は、縦方向の長さ寸法が、縦方向(V1-V2方向)と直交する横方向の幅寸法よりも大きい。ただし、振動シート10は、縦方向の長さ寸法が、横方向の幅寸法よりも小さくてもよい。
【0021】
図4に示されるように、振動シート10は、縦方向の上方(V1方向)の端部が固定側端部11で、縦方向の下方(V2方向)の端部が駆動側端部12となっている。また、振動シート10は、縦方向(V1-V2方向)に向けて互いに平行に延びる左縁部13と右縁部14を有している。
【0022】
振動シート10は弾性を有する可撓性シートであり、合成樹脂材料で形成された樹脂シートを基本として構成されている。振動シート10は、ポリイミド樹脂やPET樹脂で形成された樹脂シート(ベースフィルム)の表面に金属膜として銅箔層が積層されたいわゆるフレキシブル回路基板(FPC)で構成することが好ましい。振動シート10は、少なくとも、固定側端部11と駆動側端部12を除くほぼ全域に銅箔層が設けられていることが好ましく、あるいは、駆動側端部12を除く全域に銅箔層が設けられていることが好ましい。または、振動シート10は少なくとも湾曲している領域の全域に銅箔層が設けられていることが好ましい。振動シート10を構成する可撓性シートをFPCで形成することで、振動シート10を薄く形成しながらも剛性と弾性を高くでき、振動中の余計な変形を防止しやすくなる。
【0023】
図4図5に示されるように、振動シート10の後方に向く内面10aには、左縁部13と右縁部14に沿うように一対の弾性補強部材15が固着されている。弾性補強部材15は、発泡ゴム材料や発泡樹脂材料など、比較的質量が小さく且つ弾性変形可能な発泡材料で形成されている。弾性補強部材15は、自由状態で、縦方向(V1-V2方向)に向けて湾曲した状態に形成されており、前方(Z1方向)に向く面が前方に向けて凸形状の湾曲面15cとなっている。なお、弾性補強部材15は、前方に向く湾曲面15cを有していれば、前後方向(Z1-Z2方向)の奥行寸法が場所によって相違しているものであってもよい。湾曲面15cは縦方向(V1-V2方向)に曲率を有している。よって弾性補強部材15の湾曲面15cが固着された振動シート10は、縦方向にのみ曲率を有して湾曲しており、縦方向と直交する横方向には曲率を有していない。
【0024】
振動シート10は自由状態では平面形状(平坦形状)であり、内面10aにおいて、左縁部13と右縁部14に沿って弾性補強部材15の湾曲面15cを接着固定することで、縦方向(V1-V2方向)へ曲率を有する湾曲形状を維持できるようになる。図5に示されるように、左縁部13は弾性補強部材15の左側面に一致し、右縁部14は弾性補強部材15の右側面に一致するように、各弾性補強部材15と振動シート10とが接着されることが好ましい。ただし、振動シート10の左縁部13が弾性補強部材15から左方向にわずかに突出し、右縁部14が弾性補強部材15から右方向にわずかに突出していてもよい。
【0025】
図1に示されるように、発音装置1の前方の下部に駆動機構20が設けられている。図4に示されるように、駆動機構20は、振動シート10の駆動側端部12に設けられたコイル層18と、図2図3にも示されるように、支持部2の駆動機構固定部8aに固定された磁界発生部21とで構成されている。
【0026】
図4に示されるように、コイル層18は、駆動側端部12において振動シート10のシート面に沿って導体層が周回する平面巻き形状である。平面巻きのコイル層18は、駆動側端部12のシート表面と直交する向きの仮想の中心線の周りを周回するように多重に巻かれている。コイル層18は、上方において左右方向に延びる上部通電部18aと、下方において左右方向に延びる下部通電部18bを有している。上部通電部18aと下部通電部18bとでは、ボイス電流が左右方向で互いに逆向きに流れる。図4に示されるように、振動シート10の駆動側端部12には、コイル層を構成する導体層の一端に導通する端子部19aと、導体層の他端に導通する端子部19bが形成されている。この端子部19a,19bは振動シート10の銅箔層をエッチングすることで形成されている。
【0027】
コイル層18は、予め細い導線を平面的に周回させて平面巻きコイル構造とし、このコイル層18を駆動側端部12において振動シート10のシート表面に接着して構成される。あるいは、FPCで構成されている振動シート10の銅箔層をエッチングして、この銅箔層で平面巻きコイル層18の導体を形成してもよい。また、コイル層18は、振動シート10の後方(Z2方向)に向く面のみに設けられていてもよいし、前方(Z1方向)に向く面のみに設けられていてもよい。あるいは、図1にも示されるように、後方に向く面と前方に向く面の双方に設けられていてもよい。
【0028】
図2図3および図4に示されるように、磁界発生部21は、磁性材料で形成された対向ヨーク22を有している。対向ヨーク22は、支持部2の底壁部3の先端面である駆動機構固定部8aに固定されている。対向ヨーク22の前方に磁石組立体26が設けられている。磁石組立体26は、磁性材料で形成された下部ヨーク23と、その上の重ねられた磁石24と、さらにその上に位置する磁性材料で形成された上部ヨーク25とで構成されている。また、対向ヨーク22と磁石組立体26との間に一対のスペーサ27が介在している。スペーサ27も磁性材料で形成されており、左右のスペーサ27には互いに対向する方向に延びる薄板部27aが一体に形成されている。
【0029】
図2図3などに示されるように、磁界発生部21は、駆動機構固定部8aに固定された対向ヨーク22の前面に、左右のスペーサ27の薄板部27aが位置し、さらにその前方に磁石組立体26が位置する。対向ヨーク22とスペーサ27の薄板部27aおよび磁石組立体26は、磁石24から発せられる磁界の力で互いに密着して組み立てられる。また、対向ヨーク22と磁石組立体26との間にスペーサ27の薄板部27aが介在することで、対向ヨーク22と磁石組立体26との間に、図2図3に示される微小な間隔の磁気ギャップGが形成される。
【0030】
図1図2に示すように、支持部(支持筐体)2の左側壁部5と右側壁部6との間に振動シート10が設置され、支持部2の前方(Z1方向)と上方(Y1方向)が振動シート10で塞がれている。振動シート10の上端部には固定側端部11が後方に向けて折り曲げられ、固定側端部11が、支持部2の支持リブ7の上面である端部固定部7aに接着されて固定されている。図2図3に示されるように、振動シート10の下端部に設けられた駆動側端部12は、磁界発生部21の磁気ギャップG内に挿入される。駆動側端部12に設けられたコイル層18は、上部通電部18aが、対向ヨーク22と上部ヨーク25とが対向するギャップ内に位置し、下部通電部18bが、対向ヨーク22と下部ヨーク23とが対向するギャップ内に位置する。
【0031】
磁気ギャップG内では、対向ヨーク22と駆動側端部12との間、および磁石組立体26と駆動側端部12との間に、薄い弾性シートやグリースあるいは磁気粘性流体などが介在して。コイル層18と磁界発生部21とが直接に擦れないようにすることが好ましい。
【0032】
図3に示されるように、振動シート10の左右両側に接着されている弾性補強部材15の上端部15aは、支持部2に設けられた支持リブ7の前端面7bに接着されて固定されており、弾性補強部材15の下端部15bは、対向ヨーク22の上面22aに接着固定されている。すなわち、弾性補強部材15の上端部15aと下端部15bは、支持部2側に固定されている。図5図6に示されるように、支持部2の右側壁部6の対向内面6aと、振動シート10の右縁部14(および弾性補強部材15の右側面)との間に隙間δが形成されている。同様に、支持部2の左側壁部5の対向内面5aと、振動シート10の左縁部13(および弾性補強部材15の左側面)との間に隙間δが形成されている。すなわち、左側壁部5と右側壁部6は、振動シート10の縁部13,14を拘束することなく、縁部13,14に対向している。
【0033】
振動シート10に固着されている弾性補強部材15の上端部15aと下端部15bが支持部2側に固定されているため、支持部2に支持されている振動シート10は、湾曲形状を維持でき、振動シート10の駆動側端部12に設けられたコイル層18と磁界発生部21の磁気ギャップGとの相対位置を正確に設定できるようになる。また、弾性補強部材15は柔軟な弾性力を発揮でき軽量な発泡材料で形成されているため、弾性補強部材15の存在が振動シート10の振動の負荷を増大させることもない。また、図5図6に示されるように、振動シート10の縦方向(V1-V2方向)でのほぼ全長において、左側壁部5および右側壁部6と、振動シート10の縁部13,14との間に微小な隙間δが形成されているため、左側壁部5および右側壁部6と、縁部13,14との間に擦れが発生することなく、振動シート10を振動させることができる。
【0034】
次に、発音装置1の発音動作を説明する。
図4に示されるように、振動シート10の駆動側端部12に設けられた端子部19a,19bを介してコイル層18にボイス電流が与えられると、上部通電部18aと下部通電部18bにおいて左右の逆向きに流れる電流と、磁気ギャップG内で上部通電部18aおよび下部通電部18bを互いに逆向きに横断する磁束とによる電磁力によって、振動シート10に、シート面に沿う縦方向(V1-V2方向)の振動が与えられる。
【0035】
振動シート10の振動によって、振動シート10の前方(Z1方向)および上方(Y1方向)の空間に音圧が発生し、振動シート10の後方(Z2方向)の空間にも音圧が発生する。ただし、振動シート10の後方は、左右が左側壁部5と右側壁部6で区切られているため、さらには、底壁部3と後壁部4も存在しているため、前方および上方の空間の音圧と、後方の空間の音圧とが干渉しにくくなっており、低音域の再生能力を高くすることができる。
【0036】
図5図6に示されるように、振動シート10の左右縁部13,14と、両側壁部5,6の対向内面5a,6aとの間に隙間δが形成されているが、隙間δが微小であるため、振動シート10の後方の空間の音圧が隙間δを通過しにくくなっている。よって隙間δが存在しても、前方および上方の空間の音圧と、後方の空間の音圧とが干渉しにくく、低音域の再生能力を高く維持することができる。しかも、前記隙間δを設けることによって、振動シート10の両縁部13,14に対する拘束力が実質的に無くなり、振動シート10の両縁部13,14と両側壁部5,6との摩擦も生じないため、振動シート10に外力による変形や余分な振動などが生じにくくなる。
【0037】
振動シート10には、弾性補強部材15が固定されているため、振動シート10の剛性を高めることができ、振動シート10を、変形や捩じりなどが生じにくい状態で振動させることができる。また、弾性補強部材15は軽量な発泡材料で形成されて柔軟に変形できるため、振動シート10を振動させる際の負荷も小さくなっている。特に、弾性補強部材15の振動シート10に固着する面が予め湾曲面15cになっており、弾性補強部材15の上端部15aと下端部15bが支持部2側に固定されているため、振動シート10が振動中も湾曲形状を維持できるようになり、振動シート10に板厚方向に向くに余分な振動などが発生しにくくなる。
【0038】
さらに振動シート10を構成する可撓性シートとして、樹脂シート(ベースフィルム)に金属膜として銅箔層が全面に積層されたFPCを使用しているため、振動シート10の振動時に凹みや捩じれなどの不規則な変形が生じにくく、振動特性を安定させやすく、高音域の再生音質を良好にできる。
【0039】
図4に示されるように、駆動機構20を構成するコイル層18は、振動シート10の駆動側端部12において、シート面に沿って平面巻き形状とされているため、駆動機構20を薄型に構成できる。また振動シート10にコイル層18が直接に設けられているため、駆動機構20から振動シート10への振動の伝達効率が良く、省電力化にも寄与できる。
【0040】
図7には、弾性補強部材の変形例が示されている。
図7(A)に示される発音装置101では、振動シート10の後面に接着されている弾性補強部材115が、振動シート10の幅寸法とほぼ同じ幅寸法に形成されている。ただし、振動シート10の両縁部13,14に沿う部分で弾性補強部材115が肉厚部115aとなっている。両側部に肉厚部115aを設けることにより、振動シート10への補強能力が高くなり、しかも弾性補強部材115を軽量化できる。ただし、図7(B)に示される発音装置201のように、弾性補強部材215の厚さ寸法が幅方向の全域にかけて均一であってもよい。
【0041】
図8に変形例となる発音装置301が示されている。
この発音装置301は、図1に示される発音装置と同じ構造のものが一対連結されている。駆動機構320には、共通の磁石組立体26の前後にそれぞれ対向ヨーク22が設けられ、磁石組立体26を挟んで2つの磁気ギャップGが形成されている。支持部2と振動シート10は対向して一対設けられ、それぞれの振動シート10の駆動側端部12がそれぞれの磁気ギャップG内に介在している。
【符号の説明】
【0042】
1,101,201,301 発音装置
2 支持部
5 左側壁部
6 右側壁部
7a 端部固定部
8a 駆動機構固定部
10 振動シート
11 固定側端部
12 駆動側端部
13 左縁部
14 右縁部
15 弾性補強部材
15c 湾曲面
18 コイル層
20 駆動機構
21 磁界発生部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8