(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-13
(45)【発行日】2025-03-24
(54)【発明の名称】制振構造
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20250314BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20250314BHJP
【FI】
F16F15/02 C
E04H9/02 341E
(21)【出願番号】P 2021005884
(22)【出願日】2021-01-18
【審査請求日】2023-12-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 耕司
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-225776(JP,A)
【文献】特開2009-155801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00-15/36
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の階層で形成された建物と、
異なる前記階層における柱梁架構の構面内に
、複数階層に亘ってそれぞれ配置され、
高さの違いにより質量を異ならせた複数の質量体と、
前記構面内に配置され、複数の前記質量体をそれぞれ揺動可能に吊り下げる複数の吊り材と、
を有し、
高さが高い前記質量体を吊り下げる前記吊り材は、高さが低い前記質量体を吊り下げる前記吊り材よりも長い、
制振構造。
【請求項2】
前記質量体の移動方向を前記柱梁架構の構面内に制限する制限部材を備えている、
請求項1に記載の制振構造。
【請求項3】
前記質量体は、前記建物における複数の振動モードにおいて振幅が最大となる階層にそれぞれ配置され
ると共に、
異なる振動モードに対応する前記質量体及び前記吊り材がそれぞれ配置された階層を有し、
同一階層にそれぞれ配置された、異なる振動モードに対応する前記質量体及び前記吊り材は、平面位置をずらして配置され、かつ、平面視で偏りが生じないように配置されている、
請求項1
又は2に記載の制振構造。
【請求項4】
低次振動モードにおいて振幅が最大となる階層に設置された前記吊り材の長さは、高次振動モードにおいて振幅が最大となる階層に設置された前記吊り材の長さより長い、
請求項3に記載の制振構造。
【請求項5】
低次振動モードにおいて振幅が最大となる階層に設置された前記質量体の質量は、高次振動モードにおいて振幅が最大となる階層に設置された前記質量体の質量より大きい、
請求項3に記載の制振構造。
【請求項6】
前記質量体は、前記建物における複数の振動モードにおいて振幅が最大となる階層にそれぞれ配置されている、
請求項1に記載の制振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、小さな振幅の振動に対応できるだけでなく、大きな振幅の振動にも対応できる吊り曲げ支持によるTMD(Tuned Mass Damper)が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のTMDは、質量体を支持架構から吊り下げて形成されている。そして、このTMDは、建物の上部に配置され、強風時の建物の揺れを低減している。ここで、地震による振動を抑制するためには、風による振動を抑制する場合と比較して、質量体の質量を大きくしなければならない。しかしながら、質量が大きい質量体を備えたTMD(制振装置)を一つの階に設置すると、その制振装置の体積が大きくなるため、設置された一つの階が平面的、空間的に狭くなる虞がある。
【0005】
本発明は、制振装置を一つの階だけに設置する場合と比較して、制振装置が設置された階が他の階に対して極端に狭くなることを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の制振構造は、複数の階層で形成された建物と、
異なる前記階層における柱梁架構の構面内に、複数階層に亘ってそれぞれ配置され、高さの違いにより質量を異ならせた複数の質量体と、
前記構面内に配置され、複数の前記質量体をそれぞれ揺動可能に吊り下げる複数の吊り材と、
を有し、
高さが高い前記質量体を吊り下げる前記吊り材は、高さが低い前記質量体を吊り下げる前記吊り材よりも長い。
【0007】
請求項1の制振構造では、建物の異なる階層の柱梁架構の構面内にそれぞれ質量体が配置され、この質量体は、吊り材で揺動可能に吊り下げられている。これにより、地震時には質量体が揺れることで制振装置として機能する。
【0008】
また、質量体を一つの階だけに設置する制振構造と比較して、質量体一つあたりの質量を小さくできる。このため、制振装置が設置された階が他の階に対して極端に狭くなることを抑制できる。
一態様の制振構造は、少なくとも1つの前記質量体は、他の前記質量体と質量が異なる。
【0009】
請求項2の制振構造は、請求項1に記載の制振構造において、前記質量体の移動方向を前記柱梁架構の構面内に制限する制限部材を備えている。
【0010】
請求項2の制振構造では、制限部材を設けることで、質量体が地震時に揺動した際に、質量体が柱梁架構の構面外に移動することが抑制される。このため、質量体を壁体の中に収めることができる。また、柱梁架構の構面外に質量体の可動域を確保する必要がない。このため、質量体が設置された階が狭くなることを抑制できる。
【0011】
一態様の制振構造は、複数の前記質量体の少なくとも一個は、前記建物の複数階層に亘って配置されている。
【0012】
一態様の制振構造では、質量体が建物の複数階層に亘って配置されている。このため、質量体が一つの階層だけに配置されている場合と比較して、一つの階層あたりに配置される質量体を小さくできる。
【0013】
請求項3の制振構造は、請求項1又は2に記載の制振構造において、前記質量体は、前記建物における複数の振動モードにおいて振幅が最大となる階層にそれぞれ配置されている。
【0014】
請求項3の制振構造では、建物における複数の振動モードにおいて振幅が最大となる階層にそれぞれ質量体が配置されている。このため、様々な振動モードにおける建物の揺れを効率的に制振できる。
請求項4の制振構造は、請求項3に記載の制振構造において、低次振動モードにおいて振幅が最大となる階層に設置された前記吊り材の長さは、高次振動モードにおいて振幅が最大となる階層に設置された前記吊り材の長さより長い。
請求項5の制振構造は、請求項3に記載の制振構造において、低次振動モードにおいて振幅が最大となる階層に設置された前記質量体の質量は、高次振動モードにおいて振幅が最大となる階層に設置された前記質量体の質量より大きい。
請求項6の制振構造は、請求項1に記載の制振構造において、複数の階層で形成された建物と、異なる前記階層における柱梁架構の構面内にそれぞれ配置された複数の質量体と、前記構面内に配置され、複数の前記質量体をそれぞれ揺動可能に吊り下げる複数の吊り材と、を有し、前記質量体は、前記建物における複数の振動モードにおいて振幅が最大となる階層にそれぞれ配置されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、制振装置を一つの階だけに設置する場合と比較して、制振装置が設置された階が他の階に対して極端に狭くなることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(A)は本発明の実施形態に係る制振構造を示す立面図であり、(B)は1次振動モード、2次振動モード及び3次振動モードにおける建物の変形状態を示した模式図である。
【
図2】(A)は建物10における制振装置20の平面配置の一例を示した平面図であり、(B)は別の一例を示した平面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る制振装置を示した立面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る制振構造の変形例を示す立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る制振構造について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。但し、明細書中に特段の断りが無い限り、各構成要素は一つに限定されず、複数存在してもよい。
【0018】
また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において構成を省略する又は異なる構成と入れ替える等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
各図において矢印X、Yで示す方向は水平面に沿う方向であり、互いに直交している。また、矢印Zで示す方向は鉛直方向(上下方向)に沿う方向である。各図において矢印X、Y、Zで示される各方向は、互いに一致するものとする。
【0020】
<制振構造>
本発明の実施形態に係る制振構造50は、
図1(A)に示す建物10と、建物10に設置された複数の制振装置20と、を備えた制振機構である。また、制振構造50は、
図3に示すように、制限部材14C、ダンパー36及び緩衝材38を備えている。
図1(A)に示す建物10は複数の階層で形成された高層建築物であり、低層建築物と比較して、強風時や地震時などにおける振動が大きい。このため、この振動を抑制するために制振装置20が用いられる。
【0021】
建物10は、柱12及び梁14を用いて形成された柱梁架構の建築物である。また、制振装置20は、質量体30と、吊り材40と、を備えて形成されている。以下の説明においては、柱12及び梁14を鉄骨製のものとして説明しているが、これらの柱12及び梁14は鉄筋コンクリート製や鉄骨鉄筋コンクリート製としてもよい。
【0022】
<制振装置の配置の概略>
制振装置20は複数設けられており、それぞれの制振装置20(制振装置20A、20B、20C)は、建物10の異なる階層において、柱12及び梁14で形成される柱梁架構の構面H(構面HA、HB、HC)内に配置されている。
【0023】
なお、「柱梁架構の構面H」とは、柱12及び梁14で囲まれた鉛直面であり、本実施形態においては、
図1(A)に示すX方向及びZ方向に沿う面である。また、構面Hは、
図2(A)、(B)に示す梁14の中心線(X方向に沿う中心線)CL1上の面である。
【0024】
なお、構面Hには、
図1(A)に示すX方向と直交する紙面前後方向(Y方向)及びZ方向に沿う面であり、かつ、
図2(A)、(B)に示す梁14の中心線(Y方向に沿う中心線)CL2上の面も含まれる。
【0025】
さらに、「柱梁架構の構面H内に配置されている」とは、それぞれの制振装置20が、平面視で構面Hと重ねて配置されることを示している。なお、本実施形態においては、制振装置20は、平面視で梁14より外側(梁14の軸方向と交わる方向の外側)へ突出しないように配置されている。
【0026】
<制振装置の構成>
図3に示すように、制振装置20は、構面H内に配置された質量体30と、構面H内に配置され、質量体30を梁14から揺動可能に吊り下げる吊り材40と、を備えたダイナミックダンパ(動吸振器、所謂TMD)である。
【0027】
(吊り材)
吊り材40は、上端部が梁14にピン接合され、下端部が質量体30にピン接合された鋼棒である。
【0028】
ここで、吊り材40が吊り下げられる梁14は、H形鋼を用いて形成され、下フランジの下面に、下向きに突出した鋼製のガセットプレート14Aが、2枚溶接されている。ガセットプレート14Aには、接合ピンP1を、梁14の軸方向と直交する方向へ挿通可能な貫通孔が形成されている。なお、接合ピンP1及び後述する接合ピンP2は、構面Hと直交する方向に沿って配置される鋼棒である。
【0029】
ガセットプレート14Aの上方において、梁14の上下フランジ間には、補強プレート14Bが設けられている。補強プレート14Bは、梁14のウェブ及び上下フランジに溶接されている。
【0030】
吊り材40の上端部には、クレビス42が固定されている。クレビス42は、ガセットプレート14Aを挟んで配置される略U字形状(X方向に沿う方向から見てU字形状)の部材である。
【0031】
クレビス42には、ガセットプレート14Aと同様に、接合ピンP1を梁14の軸方向と直交する方向へ挿通可能な貫通孔が形成されている。そして、クレビス42は、接合ピンP1を用いて、ガセットプレート14Aに固定されている。これにより、吊り材40は、梁14にピン接合され、また、接合ピンP1を中心に回転することができる。
【0032】
同様に、吊り材40の下端部にも、クレビス42が固定されている。また、吊り材40に吊り下げられる質量体30の上面には、上向きに突出したプレート30Aが、2枚固定されている。
【0033】
2枚のプレート30Aは、梁14における2枚のガセットプレート14Aと、X方向における位置が等しい。換言すると、2枚のプレート30AのX方向における間隔は、梁14における2枚のガセットプレート14AのX方向における間隔と等しい。
【0034】
吊り材40の下端部に固定されたクレビス42は、接合ピンP2を用いて、プレート30Aに固定されている。これにより、質量体30は吊り材40にピン接合され、吊り材40及び質量体30は、接合ピンP2を中心に相対的に回転することができる。また、質量体30は、吊り材40から揺動可能に吊り下げられる。
【0035】
なお、吊り材40の上端部及び下端部は、クレビス42を用いずに、それぞれ梁14及び質量体30に剛接合又は半剛接合してもよい。すなわち、吊り材40の梁14及び質量体30に対する固定度は任意に選択することができる。
【0036】
(質量体)
質量体30は、構面Hに沿って配置された平板状のマスであり、
図4に示すように、コンクリートで形成されたマス本体32と、マス本体32の両面に固定された鋼板34と、を備えている(所謂SC構造)。なお、鋼板34は、鋼板34に溶接された頭付きスタッド(不図示)等によってマス本体32に固定されている。
【0037】
質量体30の厚みW1は、梁14の幅W2より小さい。質量体30は、吊り材40(
図3参照)に吊り下げられた状態で、梁14の軸方向と交わる方向(
図4ではY方向)において、梁14から突出しないように配置される。
【0038】
図3に示すように、質量体30の上面には、2枚のプレート30Aが固定されている。それぞれのプレート30Aは、下端部がマス本体32(
図4参照)に埋設され、頭付きスタッド(不図示)等によってマス本体32に固定されている。このプレート30Aには、上述したように、吊り材40が相対的に回転可能に固定されている。
【0039】
また、質量体30の下面には、2枚のプレート30Bが固定されている。それぞれのプレート30Bは、梁14の軸方向(
図3ではX方向)及びZ方向に沿う鋼製の平板であり、上端部がマス本体32に埋設され、頭付きスタッド(不図示)等によってマス本体32に固定されている。なお、プレート30Bは1枚でもよい。
【0040】
(制限部材)
質量体30の直下に配置される梁14は、H形鋼を用いて形成され、上フランジの上面に、上向きに突出した制限部材14Cが固定されている。
【0041】
制限部材14Cは、質量体30の可動域を制限するスライダーである。制限部材14Cは、梁14の軸方向(
図3ではX方向)及びZ方向に沿う鋼製の平板であり、
図4に示すように、梁14の軸方向から見てプレート30Bを挟んで配置される2枚を一組として用いられる。
【0042】
なお、プレート30Bと制限部材14Cとの間及びプレート30Bと梁14との間には、隙間が設けられている。プレート30Bと制限部材14Cとの隙間には、プレート30Bと制限部材14Cとの接触を抑制するためのスペーサを配置してもよい。このスペーサとしては、摩擦係数が鋼材より少ない樹脂材料等を用いることが好適である。
【0043】
制限部材14Cには、梁14の軸方向と交わる方向(
図4ではY方向)に沿う補強プレート14Dが溶接されている。補強プレート14Dは梁14における上フランジの上面にも溶接されたリブ材である。
【0044】
補強プレート14Dの下方において、梁14の上下フランジ間には、補強プレート14Eが設けられている。補強プレート14Eは、梁14のウェブ及び上下フランジに溶接されている。
【0045】
(ダンパー)
質量体30と柱12との間には、ダンパー36が設けられている。このダンパー36としては、例えばオイルダンパーが用いられる。ダンパーの一端は質量体30の側面に固定され、他端は柱12の側面に固定されている。地震時や強風時に質量体30が構面Hに沿って揺れた際、ダンパー36はX方向に沿って伸縮し、この揺れを減衰させる。
【0046】
(緩衝材)
質量体30と柱12との間には、緩衝材38が設けられている。緩衝材38は、ゴムなどを用いて形成され、質量体30の側面に固定されている。緩衝材38は、地震時や強風時に質量体30が揺れた際、質量体30が柱12に衝突した際の衝撃を低減する。また、緩衝材38は、塑性変形することで衝突エネルギーを吸収するものとしてもよい。
【0047】
<制振装置の配置>
(立面配置)
図3に示すように、制振装置20は、建物10において上下に隣り合う複数の階層に亘って配置することができる。
図3では、一例として、制振装置20を2階層に亘って配置した例を示している。
【0048】
また、
図1(A)に示すように、建物10において制振装置20は複数設けられており、それぞれの制振装置20(制振装置20A、20B、20C)は、建物10の異なる階層に配置されている。
【0049】
ここで、
図1(B)には、建物10の1次振動モード、2次振動モード及び3次振動モードにおける変形状態が、曲線L1、L2、L3によって模式的に示されている。振動モードの次数が大きくなると、振幅が最大になる箇所数が多くなる一方、最大振幅は小さくなる。また、次数が大きくなると、短周期の振動となる。
【0050】
具体的には、曲線L1で示される1次振動モードにおいて、建物10は、高さH1の階層において振幅が最大となる。
【0051】
曲線L2で示される2次振動モードにおいて、建物10は、高さH1、H2の階層において振幅が最大となる。2次振動モードの最大振幅は、1次振動モードの最大振幅より小さく、2次振動モードの振動周期は、1次振動モードの振動周期より短い。
【0052】
曲線L3で示される3次振動モードにおいて、建物10は、高さH1、H2、H3、H4の階層において振幅が最大となる。3次振動モードの最大振幅は、2次振動モードの最大振幅より小さく、3次振動モードの振動周期は、2次振動モードの振動周期より短い。
【0053】
なお、本実施形態においては、高さH1において、各振動モードでの振幅が最大となっている。しかし、各振動モードにおいて振幅が最大になる高さ及び最大振幅は、建物10の構造条件によって異なる。このため、必ずしも各振動モードにおいて振幅が最大になる高さが一致するとは限らない。
【0054】
本実施形態においては、1次振動モードの振幅が最大となる高さH1の階層に、制振装置20Aが設置されている。また、2次振動モードの振幅が最大となる高さH2の階層に、制振装置20Bが設置されている。さらに、3次振動モードの振幅が最大となる高さH3の階層に、制振装置20Cが設置されている。
【0055】
なお、制振装置20が設置されている階層とは、制振装置20における吊り材40の上端部が固定される梁14を床梁とする階層である。
【0056】
制振装置20Aにおける吊り材40の長さT(
図3参照。長さTは、接合ピンP1、P2間の距離)は、1次振動モードの振動周期によって決定される。長さTを長くすると、質量体30が揺れる周期が長くなる。
【0057】
そこで、制振装置20Aにおける質量体30が揺れる周期は、1次振動モードの振動周期と略一致させることが好適である。1次振動モードの振動周期は、2次、3次振動モードの振動周期より長い。このため、制振装置20Aにおける吊り材40の長さTは、制振装置20B、20Cにおける吊り材40の長さTより長くすることが好適である。
【0058】
また、制振装置20Aにおける質量体30の質量は、1次振動モードの振動エネルギーによって決定される。質量体30の質量を大きくすると、質量体30の揺動エネルギーが大きくなる。これにより、大きな振動エネルギーを吸収し、揺れを低減できる。
【0059】
1次振動モードの振動時において振幅が最大となる高さH1の階層に作用する振動エネルギーは、2次、3次振動モードの振動時において振幅が最大となる高さH2、H3の階層に作用する振動エネルギーより大きい。このため、制振装置20Aにおける質量体30の質量は、制振装置20B、20Cにおける質量体30の質量より大きくすることが好適である。
【0060】
質量体30の質量は、質量体30の幅や厚みによって調整できるが、本実施形態においては、質量体30の高さによって調整されている。
【0061】
以上の構成から、制振装置20A、20B及び20Cを比較すると、吊り材40の長さは、制振装置20A、20B、20Cの順に長く、また、質量体30の高さは、制振装置20A、20B、20Cの順に高い。この構成を成立させるために、制振装置20Aは4階層に亘って配置され、制振装置20Bは3階層に亘って配置され、制振装置20Cは2階層に亘って配置されている。
【0062】
なお、制振装置20A、20B、20Cが跨って配置される階層数は、1階層当たりの階高、各振動モードの振動周期、振動エネルギー等に応じて、適宜変更される。このため、それぞれの階層数は、4階層、3階層、2階層に限定されるものではなく、例えば1階層でもよい。
【0063】
(平面配置)
制振装置20は、
図2(A)、(B)に示すように、平面視で偏りが生じないように配置することが好ましい。具体的には、X方向に沿う質量体30及びY方向に沿う質量体30の双方を、建物10の重心である点Oに対して点対称となる位置に配置している。これにより、建物10の捩じれを抑制する。
【0064】
(立面配置の変形例)
上記の実施例においては、3次振動モードにおいて、制振装置20Cを高さH3の階層のみに配置しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。
【0065】
例えば
図5に示すように、制振装置20Cは、3次振動モードにおいて振幅が最大となる高さH1、H2、H3、H4の階層の全てに配置してもよい。この場合、例えば高さH1の階層において、制振装置20Cは、制振装置20Aと平面位置をずらして配置する。また、この場合においても、制振装置20Cは、平面視で偏りが生じないように配置することが好ましい。
【0066】
また、高さH4の階層において制振装置20Cは、制振装置20Bと平面位置をずらして配置する。この場合においても、制振装置20Cは、平面視で偏りが生じないように配置することが好ましい。
【0067】
さらに、図示は省略するが、制振装置20Bを、2次振動モードにおいて振幅が最大となる高さH1、H2の階層のそれぞれに配置してもよい。
【0068】
またさらに、4次以上の振動モードにおいて振幅が最大となる高さの各階層にも、制振装置を配置してもよい。このように、制振装置を配置する階数を増やすことで、制振効果を高めることができる。
【0069】
<作用及び効果>
本発明の実施形態に係る制振構造50では、
図1(A)に示すように、建物10の異なる階層の柱梁架構の構面HA、HB、HC内にそれぞれ質量体30が配置され、この質量体30は、吊り材40で梁14から揺動可能に吊り下げられている。これにより、地震時には質量体30が揺れることで制振装置20として機能する。
【0070】
また、質量体30を一つの階だけに設置する制振構造と比較して、質量体30一つあたりの質量を小さくできる。このため、制振装置が設置された階が他の階に対して極端に狭くなることを抑制できる。
【0071】
また、本発明の実施形態に係る制振構造50では、
図3、
図4に示すように、制限部材14Cを設けることで、質量体30が地震時に揺動した際に、質量体30が柱梁架構の構面外に移動することが抑制される。
【0072】
このため、質量体30を壁体の中に収めることができる。また、柱梁架構の構面外に質量体30の可動域を確保する必要がない。これにより、質量体30が設置された階が狭くなることを抑制できる。
【0073】
なお、本実施形態においては、質量体30の厚みW1を、梁14の幅W2より小さく形成して質量体30を壁体の中に収めているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば質量体30の厚みW1を、梁14の幅W2より大きく形成してもよい。
【0074】
質量体30をこのように形成しても、制限部材14Cを設ければ、質量体30の可動域を制限することができる。
【0075】
さらに、制限部材14Cは、適宜省略することもできる。制限部材14Cを省略しても、吊り材40がクレビス42を備えているため、質量体30の移動方向を、構面Hの面内方向に規制することができる。
【0076】
また、本実施形態においては、質量体30を、コンクリートで形成されたマス本体32と、マス本体32の両面に固定された鋼板34と、で形成している。これにより、コンクリートのみで形成した質量体と比較して、比重を大きくすることができる。また、鋼板34はコンクリートを打設する際の型枠を兼用することができるので、型枠の撤去等にかかる手間を削減できる。
【0077】
また、鋼板のみで質量体を形成する場合、質量体の厚みを薄くできる一方、鋼板同士をボルト固定する作業が必要になる場合が多く、施工手間がかかる。これに対して、質量体30では、鋼板34とマス本体32とが頭付きスタッドで固定されるため、鋼板34同士をボルト固定する必要がない。
【0078】
また、本発明の実施形態に係る制振構造50では、
図1に示すように、質量体30が建物10の複数階層に亘って配置されている。このため、質量体30が一つの階層だけに配置されている場合と比較して、一つの階層あたりに配置される質量体30を小さくできる。
【0079】
また、本発明の実施形態に係る制振構造50では、建物における複数の振動モードにおいて振幅が最大となる高さ(高さH1、H2、H3)の階層にそれぞれ質量体30が配置されている。このため、様々な振動モードにおける建物10の揺れを効率的に制振できる。
【0080】
なお、質量体30が配置される階層は、必ずしも、ある振動モードにおいて振幅が最大となる高さ(高さH1、H2、H3等)の階層である必要はない。例えば、ある振動モードにおいて振幅が最大となる高さから1層~3層程度ずらした高さの階層に配置してもよい。
【0081】
このような配置においても、振幅が「最小」となる高さの階層に配置するより、制振効果を得ることができる。質量体30の立面上の配置については、地震の振幅は必ずしも考慮する必要はなく、建物10の構造計画によって適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0082】
10 建物
30 質量体
40 吊り材
14C 制限部材
50 制振構造