(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-13
(45)【発行日】2025-03-24
(54)【発明の名称】置換終了時の判定方法、基板処理方法および基板処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20250314BHJP
F26B 5/00 20060101ALI20250314BHJP
【FI】
H01L21/304 651Z
H01L21/304 648G
F26B5/00
(21)【出願番号】P 2021011986
(22)【出願日】2021-01-28
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】墨 周武
【審査官】今井 聖和
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-243776(JP,A)
【文献】特開2007-152195(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173861(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
F26B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内で超臨界状態の処理流体により置換対象液を置換する処理における、置換終了時の判定方法であって、
前記チャンバ内に前記置換対象液が存在しない状態から、前記チャンバ内が前記超臨界状態の処理流体により満たされるように定められた給排レシピに従って前記チャンバに対し前記流体を供給および排出することで、前記チャンバ内の前記処理流体を超臨界状態に維持しながら、前記チャンバ内の前記処理流体の密度の時間変化を表す密度プロファイルを取得する第1工程と、
前記チャンバ内に前記置換対象液が存在する状態から、前記給排レシピに従って前記チャンバに対し前記処理流体を供給および排出することで、前記チャンバ内の前記処理流体を超臨界状態に維持しながら、前記密度プロファイルを取得する第2工程と、
前記第1工程および前記第2工程のそれぞれで取得された前記密度プロファイルに基づき前記置換終了時を判定する第3工程と
を備え、
前記第3工程では、前記第1工程および前記第2工程のそれぞれで取得された前記密度プロファイルを比較して、前記第2工程で取得された前記密度が前記第1工程で取得された前記密度よりも大きくなった後、前記第1工程および前記第2工程のそれぞれで取得された前記密度が実質的に等しくなる時を、前記処理流体による前記置換対象液の置換が終了した時と判定する、置換終了時の判定方法。
【請求項2】
前記第1工程は乾燥した基板を前記チャンバ内に収容した状態で行われる一方、前記第2工程は前記置換対象液で濡れた基板を前記チャンバ内に収容した状態で行われる請求項1に記載の置換終了時の判定方法。
【請求項3】
前記チャンバからの前記処理流体の排出経路に配置した質量流量計の計測結果に基づき、前記処理流体の密度を検出する請求項1または2に記載の置換終了時の判定方法。
【請求項4】
置換対象液の液膜で表面が覆われた基板を超臨界状態の処理流体で置換して前記基板を乾燥させる基板処理方法において、
前記液膜を有する前記基板をチャンバ内に収容する工程と、
所定の給排レシピに基づき前記チャンバに対し前記処理流体を供給および排出して、前記チャンバ内を超臨界状態の前記処理流体で満たす工程と、
前記超臨界状態を所定時間継続した後、前記処理流体を前記チャンバから排出して前記基板を乾燥させる工程と
を備え、前記所定時間は、
前記チャンバ内に前記置換対象液が存在する状態から、前記給排レシピに従って前記チャンバに対し前記処理流体を供給および排出することで前記チャンバ内の前記処理流体を超臨界状態に維持したときの前記処理流体の密度が、前記チャンバ内に前記置換対象液が存在しない状態から、前記給排レシピに従って前記チャンバに対し前記処理流体を供給および排出することで前記チャンバ内の前記処理流体を超臨界状態に維持したときの前記処理流体の密度よりも大きくなった後で実質的に等しくなる時に応じて決定される、基板処理方法。
【請求項5】
前記所定時間は、請求項1ないし3のいずれかに記載の置換終了時の判定方法を予め実行し、その結果に基づき決定される請求項4に記載の基板処理方法。
【請求項6】
置換対象液の液膜で表面が覆われた基板を超臨界状態の処理流体で置換して前記基板を乾燥させる基板処理方法において、
前記液膜を有する前記基板をチャンバ内に収容する工程と、
所定の給排レシピに基づき前記チャンバに対し前記処理流体を供給および排出して、前記チャンバ内を超臨界状態の前記処理流体で満たす工程と、
前記チャンバ内の前記処理流体の密度を検出し、その検出値に基づいて前記置換が終了した時を判定する工程と、
前記置換が終了したと判定された後、前記処理流体を前記チャンバから排出して前記基板を乾燥させる工程と
を備え、
前記チャンバ内に前記置換対象液が存在しない状態から前記給排レシピに従って前記チャンバに対し前記処理流体を供給および排出することで前記チャンバ内の前記処理流体を超臨界状態に維持しながら予め計測された、前記チャンバ内の前記処理流体の密度変化と、前記検出値とに基づき前記置換が終了した時を判定する、基板処理方法。
【請求項7】
予め、請求項1ないし3のいずれかに記載の置換終了時の判定方法を実行して、前記置換が終了したとみなされる時の前記チャンバ内の圧力または前記密度の値を求めておき、前記検出値が当該値と実質的に等しくなった時に、前記置換が終了したと判定する請求項6に記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記基板の種類、前記液膜を構成する前記置換対象液の量、前記給排レシピの少なくとも1つが変更されたときに、前記基板の乾燥処理に先立って、前記置換終了時の判定方法を実行する請求項5または7に記載の基板処理方法。
【請求項9】
置換対象液の液膜で表面が覆われた基板を超臨界状態の処理流体で置換して前記基板を乾燥させる基板処理装置において、
前記液膜を有する前記基板を内部に収容するチャンバと、
所定の給排レシピに基づき、前記チャンバに対し前記処理流体の供給および排出を行う給排部と、
前記チャンバ内の前記処理流体の密度を検出する密度検出部と、
前記チャンバ内に前記置換対象液が存在しない状態から前記給排レシピに従って前記チャンバに対し前記処理流体を供給および排出することで前記チャンバ内の前記処理流体を超臨界状態に維持しながら予め前記密度検出部により検出された、前記チャンバ内の前記処理流体の密度変化と、前記密度検出部により検出される前記密度の検出値とに基づき前記置換が終了した時を判定する制御部と
を備える基板処理装置。
【請求項10】
前記密度検出部は、前記チャンバからの前記処理流体の排出経路上に配置された質量流量計を有し、前記質量流量計の計測結果に基づき前記処理流体の密度を検出する請求項9に記載の基板処理装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記置換が終了したと判定すると、前記チャンバ内の前記処理流体を排出して前記基板を乾燥させる請求項9または10に記載の基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チャンバ内で超臨界状態の処理流体により置換対象液を置換する技術に関するものであり、特に置換が終了した時を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板、表示装置用ガラス基板等の各種基板の処理工程には、基板の表面を各種の処理流体によって処理するものが含まれる。処理流体として薬液やリンス液などの液体を用いる処理は従来から広く行われているが、近年では超臨界流体を用いた処理も実用化されている。特に、表面に微細パターンが形成された基板の処理においては、液体に比べて表面張力が低い超臨界流体はパターンの隙間の奥まで入り込むため効率よく処理を行うことが可能であり、また乾燥時において表面張力に起因するパターン倒壊の発生リスクを低減することができる。
【0003】
例えば特許文献1には、基板に付着した液体を超臨界流体によって置換し、基板の乾燥処理を行う基板処理装置が記載されている。より具体的には、特許文献1には、超臨界処理流体として二酸化炭素を、これにより置換される置換対象液としてIPA(Isopropyl alcohol;イソプロピルアルコール)を用いた場合の乾燥処理の流れが詳しく記載されている。この処理では、基板を収容したチャンバ内が超臨界流体で満たされ、置換された置換対象液を含む超臨界流体が排出された後に、チャンバを減圧し超臨界流体を気化させることで基板が乾燥される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
チャンバ内に置換対象液が残留している状態で超臨界流体の気化が開始されると、置換対象液が基板に再付着してしまい乾燥不良を惹き起こすおそれがある。このため、置換対象液がチャンバから完全に排出されてから超臨界流体の気化が始まるように、処理レシピを構成する必要がある。しかしながら、高圧チャンバ内で置換対象液の排出が完了した時期を見極める方法はこれまで確立されていない。そのため、排出が完了するであろう時間よりも長く超臨界状態を維持することで、置換対象液が基板に再付着するという問題の回避を図っているのが現状である。上記従来技術においても、臨界圧力を下回らない範囲で昇圧と降圧とを繰り返しながら段階的に圧力を低下させる構成となっているが、どの時点で置換対象液の排出が完了したと言えるかについては明確な記載がない。
【0006】
このような従来技術では、処理に要する時間および処理流体の消費量において無駄が生じており、処理コストおよび環境負荷が大きくなるという問題がある。このことから、チャンバ内で置換処理が終了したタイミングを把握するための技術が確立されることが望まれる。
【0007】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、チャンバ内で超臨界状態の処理流体により置換対象液を置換するのに際して、置換の終了時期を適切に判定することのできる技術を提供することを第1の目的とする。また、この技術を用いた基板処理により、処理に要する時間および処理流体の消費量の低減を図ることを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の一の態様は、チャンバ内で超臨界状態の処理流体により置換対象液を置換する処理における、置換終了時の判定方法である。この発明は、上記第1の目的を達成するため、前記チャンバ内に前記置換対象液が存在しない状態から、前記チャンバ内が前記超臨界状態の処理流体により満たされるように定められた給排レシピに従って前記チャンバに対し前記流体を供給および排出することで、前記チャンバ内の前記処理流体を超臨界状態に維持しながら、前記チャンバ内の前記処理流体の密度の時間変化を表す密度プロファイルを取得する第1工程と、前記チャンバ内に前記置換対象液が存在する状態から、前記給排レシピに従って前記チャンバに対し前記処理流体を供給および排出することで、前記チャンバ内の前記処理流体を超臨界状態に維持しながら、前記密度プロファイルを取得する第2工程と、前記第1工程および前記第2工程のそれぞれで取得された前記密度プロファイルに基づき前記置換終了時を判定する第3工程とを備えている。
【0009】
そして、前記第3工程では、前記第1工程および前記第2工程のそれぞれで取得された前記密度プロファイルを比較して、前記第2工程で取得された前記密度が前記第1工程で取得された前記密度よりも大きくなった後、前記第1工程および前記第2工程のそれぞれで取得された前記密度が実質的に等しくなる時を、前記処理流体による前記置換対象液の置換が終了した時と判定する。
【0010】
このように構成された発明では、超臨界状態の処理流体による置換対象液の置換が終了した時期を適切に把握することが可能である。その理由は以下の通りである。詳しくは後述するが、本願発明者が得た知見によれば、所定の給排レシピに従ってチャンバへの処理流体の供給および排出を行いつつチャンバ内の流体の密度変化を計測すると、次のような特徴が示される。
【0011】
まず、チャンバ内に置換対象液が存在しない状態、つまりチャンバ内が処理流体のみで満たされる状態では、チャンバに供給される処理流体の量とチャンバから排出される処理流体の量とのバランスによって定まる密度変化が現れる。一方、チャンバ内に予め置換対象液が存在する状態で処理流体の供給および排出を行うと、当初は置換対象液が存在しない状態よりも密度が高い状態が続くが、ある時点で密度差はなくなり、それ以後の密度変化はほぼ同じとなる。
【0012】
ここで、処理流体中に含まれる置換対象液の量を評価すると、置換対象液が存在しない状態よりも密度が大きい状態では処理流体に置換対象液が含まれる一方、密度差がなくなって以降は処理流体中に置換対象液が含まれていない。言い換えれば、密度差がある期間は処理流体中に置換対象液が残留しており、密度差が解消された時点で置換対象液の残留がなくなっていると考えることができる。
【0013】
したがって、チャンバ内に置換対象液が存在しない状態での密度プロファイルを測定しておけば、チャンバ内に置換対象液が存在する状態での密度プロファイルを測定し、置換対象液が存在しない状態での密度プロファイルと比較することで、両者が一致する、つまり置換対象液が存在しなくなる時期を把握することが可能となる。
【0014】
具体的には、チャンバ内に置換対象液が存在する状態での密度プロファイルが、置換対象液が存在しない状態での密度プロファイルよりも高い密度を示した後、両者に有意な差がなくなった時を以って、置換が終了したとみなすことができる。このようにすることで、置換の終了時期を適切に判定することが可能である。
【0015】
また、この発明の他の態様は、置換対象液の液膜で表面が覆われた基板を超臨界状態の処理流体で置換して前記基板を乾燥させる基板処理方法であって、上記第2の目的を達成するため、前記液膜を有する前記基板をチャンバ内に収容する工程と、所定の給排レシピに基づき前記チャンバに対し前記処理流体を供給および排出して、前記チャンバ内を超臨界状態の前記処理流体で満たす工程と、前記超臨界状態を所定時間継続した後、前記処理流体を前記チャンバから排出して前記基板を乾燥させる工程とを備えている。
【0016】
ここで、前記所定時間は、前記チャンバ内に前記置換対象液が存在する状態から、前記給排レシピに従って前記チャンバに対し前記処理流体を供給および排出することで前記チャンバ内の前記処理流体を超臨界状態に維持したときの前記処理流体の密度が、前記チャンバ内に前記置換対象液が存在しない状態から、前記給排レシピに従って前記チャンバに対し前記処理流体を供給および排出することで前記チャンバ内の前記処理流体を超臨界状態に維持したときの前記処理流体の密度よりも大きくなった後で実質的に等しくなる時に応じて決定される。
【0017】
また、この発明の他の態様は、置換対象液の液膜で表面が覆われた基板を超臨界状態の処理流体で置換して前記基板を乾燥させる基板処理方法であって、上記第2の目的を達成するため、前記液膜を有する前記基板をチャンバ内に収容する工程と、所定の給排レシピに基づき前記チャンバに対し前記処理流体を供給および排出して、前記チャンバ内を超臨界状態の前記処理流体で満たす工程と、前記チャンバ内の前記処理流体の密度を検出し、その検出値に基づいて前記置換が終了した時を判定する工程と、前記置換が終了したと判定された後、前記処理流体を前記チャンバから排出して前記基板を乾燥させる工程とを備えている。
【0018】
この方法では、前記チャンバ内に前記置換対象液が存在しない状態から前記給排レシピに従って前記チャンバに対し前記処理流体を供給および排出することで前記チャンバ内の前記処理流体を超臨界状態に維持しながら予め計測された、前記チャンバ内の前記処理流体の密度変化と、前記検出値とに基づき前記置換が終了した時を判定する。
【0019】
また、この発明の他の態様は、置換対象液の液膜で表面が覆われた基板を超臨界状態の処理流体で置換して前記基板を乾燥させる基板処理装置であって、上記第2の目的を達成するため、前記液膜を有する前記基板を内部に収容するチャンバと、所定の給排レシピに基づき、前記チャンバに対し前記処理流体の供給および排出を行う給排部と、前記チャンバ内の前記処理流体の密度を検出する密度検出部と、前記チャンバ内に前記置換対象液が存在しない状態から前記給排レシピに従って前記チャンバに対し前記処理流体を供給および排出することで前記チャンバ内の前記処理流体を超臨界状態に維持しながら予め前記密度検出部により検出された、前記チャンバ内の前記処理流体の密度変化と、前記密度検出部により検出される前記密度の検出値とに基づき前記置換が終了した時を判定する制御部とを備えている。
【0020】
このように構成された発明では、上記原理により、処理流体による置換対象液の置換が終了するタイミングを適切に把握することができるので、置換対象液がチャンバ内に残留した状態で処理流体が気化してしまうことに起因する乾燥不良を確実に防止しつつ、超臨界状態を必要以上に継続することに起因する無駄を抑え、処理時間や処理流体の消費量の低減を実現することが可能になる。
【発明の効果】
【0021】
上記のように、本発明では、チャンバ内の処理流体の密度変化に基づき置換処理の終了時を判定することで、置換対象液が排除された時期を適切に把握することができる。またその知見を利用することで、基板処理における処理時間および処理流体の消費量の低減を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る基板処理装置の概略構成を示す図である。
【
図2】この基板処理装置により実行される処理の概要を示すフローチャートである。
【
図3】超臨界処理における各部の状態変化を示すタイミングチャートである。
【
図4】本実施形態における置換終了時の判定処理を示すフローチャートである。
【
図5】超臨界乾燥処理の変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は本発明に係る基板処理装置の概略構成を示す図である。この基板処理装置1は、例えば半導体基板のような各種基板の表面を、超臨界流体を用いて処理するための装置であり、本発明に係る置換終了時の判定方法および基板処理方法を実行するのに好適な装置構成を有するものである。以下の説明において方向を統一的に示すために、
図1に示すようにXYZ直交座標系を設定する。ここで、XY平面は水平面であり、Z方向は鉛直方向を表す。より具体的には、(-Z)方向が鉛直下向きを表す。
【0024】
本実施形態における「基板」としては、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などの各種基板を適用可能である。以下では主として円盤状の半導体ウエハの処理に用いられる基板処理装置を例に採って図面を参照して説明する。しかしながら、上に例示した各種の基板の処理にも同様に適用可能である。また基板の形状についても各種のものを適用可能である。
【0025】
基板処理装置1は、処理ユニット10、移載ユニット30、供給ユニット50および制御ユニット90を備えている。処理ユニット10は、超臨界乾燥処理の実行主体となるものである。移載ユニット30は、図示しない外部の搬送装置により搬送されてくる未処理基板Sを受け取って処理ユニット10に搬入し、また処理後の基板Sを処理ユニット10から外部の搬送装置に受け渡す。供給ユニット50は、処理に必要な化学物質、動力およびエネルギー等を、処理ユニット10および移載ユニット30に供給する。
【0026】
制御ユニット90は、これら装置の各部を制御して所定の処理を実現する。この目的のために、制御ユニット90は、CPU91、メモリ92、ストレージ93、およびインターフェース94などを備えている。CPU91は、各種の制御プログラムを実行する。メモリ92は、処理データを一時的に記憶する。ストレージ93は、CPU91が実行する制御プログラムを記憶する。インターフェース94は、ユーザや外部装置と情報交換を行う。後述する装置の動作は、CPU91が予めストレージ93に書き込まれた制御プログラムを実行し、装置各部に所定の動作を行わせることにより実現される。
【0027】
処理ユニット10は、台座11の上に処理チャンバ12が取り付けられた構造を有している。処理チャンバ12は、いくつかの金属ブロックの組み合わせにより構成され、その内部が空洞となって処理空間SPを構成している。処理対象の基板Sは処理空間SP内に搬入されて処理を受ける。処理チャンバ12の(-Y)側側面には、X方向に細長く延びるスリット状の開口121が形成されている。開口121を介して、処理空間SPと外部空間とが連通している。処理空間SPの断面形状は、開口121の開口形状と概ね同じである。すなわち、処理空間SPはX方向に長くZ方向に短い断面形状を有し、Y方向に延びる空洞である。
【0028】
処理チャンバ12の(-Y)側側面には、開口121を閉塞するように蓋部材13が設けられている。蓋部材13が処理チャンバ12の開口121を閉塞することにより、気密性の処理容器が構成される。これにより、内部の処理空間SPで基板Sに対する高圧下での処理が可能となる。蓋部材13の(+Y)側側面には平板状の支持トレイ15が水平姿勢で取り付けられている。支持トレイ15の上面151は、基板Sを載置可能な支持面となっている。蓋部材13は図示を省略する支持機構により、Y方向に水平移動自在に支持されている。
【0029】
蓋部材13は、供給ユニット50に設けられた進退機構53により、処理チャンバ12に対して進退移動可能となっている。具体的には、進退機構53は、例えばリニアモータ、直動ガイド、ボールねじ機構、ソレノイド、エアシリンダ等の直動機構を有している。このような直動機構が蓋部材13をY方向に移動させる。進退機構53は制御ユニット90からの制御指令に応じて動作する。
【0030】
蓋部材13が(-Y)方向に移動することにより処理チャンバ12から離間し、点線で示すように支持トレイ15が処理空間SPから開口121を介して外部へ引き出されると、支持トレイ15へのアクセスが可能となる。すなわち、支持トレイ15への基板Sの載置、および支持トレイ15に載置されている基板Sの取り出しが可能となる。一方、蓋部材13が(+Y)方向に移動することにより、支持トレイ15は処理空間SP内へ収容される。支持トレイ15に基板Sが載置されている場合、基板Sは支持トレイ15とともに処理空間SPに搬入される。
【0031】
蓋部材13が(+Y)方向に移動し開口121を塞ぐことにより、処理空間SPが密閉される。蓋部材13の(+Y)側側面と処理チャンバ12の(-Y)側側面との間にはシール部材122が設けられ、処理空間SPの気密状態が保持される。シール部材122は例えばゴム製である。また、図示しないロック機構により、蓋部材13は処理チャンバ12に対して固定される。このように、この実施形態では、蓋部材13は、開口121を閉塞して処理空間SPを密閉する閉塞状態(実線)と、開口121から大きく離間して基板Sの出し入れが可能となる離間状態(点線)との間で切り替えられる。
【0032】
処理空間SPの気密状態が確保された状態で、処理空間SP内で基板Sに対する処理が実行される。この実施形態では、供給ユニット50に設けられた流体供給部57から、処理流体として、超臨界処理に利用可能な物質の処理流体、例えば二酸化炭素が送出される。処理流体は、気体、液体または超臨界の状態で処理ユニット10に供給される。二酸化炭素は、比較的低温、低圧で超臨界状態となり、また基板処理に多用される有機溶剤をよく溶かす性質を有するという点で、超臨界乾燥処理に好適な化学物質である。二酸化炭素が超臨界状態となる臨界点は、気圧(臨界圧力)が7.38MPa、温度(臨界温度)が31.1℃である。
【0033】
処理流体は処理空間SPに充填され、処理空間SP内が適当な温度および圧力に到達すると、処理空間SPは超臨界状態の処理流体で満たされる。こうして基板Sが処理チャンバ12内で超臨界流体により処理される。供給ユニット50には流体回収部55が設けられており、処理後の流体は流体回収部55により回収される。流体供給部57および流体回収部55は、制御ユニット90により制御されている。
【0034】
処理空間SPは、支持トレイ15およびこれに支持される基板Sを受け入れ可能な形状および容積を有している。すなわち、処理空間SPは、水平方向には支持トレイ15の幅よりも広く、鉛直方向には支持トレイ15と基板Sとを合わせた高さよりも大きい概略矩形の断面形状と、支持トレイ15を受け入れ可能な奥行きとを有している。このように処理空間SPは支持トレイ15および基板Sを受け入れるだけの形状および容積を有している。ただし、支持トレイ15および基板Sと、処理空間SPの内壁面との間の隙間は僅かである。したがって、処理空間SPを充填するために必要な処理流体の量は比較的少なくて済む。
【0035】
支持トレイ15が処理空間SPに収容された状態では、処理空間SPは支持トレイ15の上方の空間と下方の空間とに大きく二分される。支持トレイ15に基板Sが載置されている場合には、処理空間SPは、基板Sの上面よりも上方の空間と、支持トレイ15の下面よりも下方の空間とに区分されることになる。
【0036】
流体供給部57は、基板Sの(+Y)側端部よりもさらに(+Y)側で、処理空間SPのうち基板Sよりも上方の空間と、支持トレイ15よりも下方の空間とのそれぞれに対して処理流体を供給する。一方、流体回収部55は、基板Sの(-Y)側端部よりもさらに(-Y)側で、処理空間SPのうち基板Sよりも上方の空間と、支持トレイ15よりも下方の空間とからそれぞれ処理流体を排出する。これにより、処理空間SP内では、基板Sの上方と支持トレイ15の下方とのそれぞれに、(+Y)側から(-Y)側に向かう処理流体の層流が形成されることになる。
【0037】
処理空間SPから流体回収部55に至る処理流体の排出経路となる配管には、処理空間SPから排出される処理流体の密度を検出する密度検出部171,172が設けられている。具体的には、処理空間SPのうち支持トレイ15よりも上方の空間から処理流体を排出する配管に密度検出部171が、支持トレイ15よりも下方の空間から処理流体を排出する配管に密度検出部172がそれぞれ設けられている。
【0038】
密度検出部171,172としては、例えばコリオリ流量計を用いることができる。密度検出部171,172により、処理空間SP内の処理流体の密度を検出することができる。チャンバ内の流体の密度を計測するという目的からは、処理空間SPから密度検出部171,172に至る処理流体の流路を構成する配管については圧力損失の小さいものであることが望ましい。また、処理空間SPに直接臨むように密度検出部が配置されてもよい。
【0039】
移載ユニット30は、外部の搬送装置と支持トレイ15との間における基板Sの受け渡しを担う。この目的のために、移載ユニット30は、本体31と、昇降部材33と、ベース部材35と、複数のリフトピン37とを備えている。昇降部材33はZ方向に延びる柱状の部材であり、図示しない支持機構により、本体31に対してZ方向に移動自在に支持されている。昇降部材33の上部には、略水平の上面を有するベース部材35が取り付けられている。ベース部材35の上面から上向きに、複数のリフトピン37が立設されている。リフトピン37の各々は、その上端部が基板Sの下面に当接することで基板Sを下方から水平姿勢に支持する。基板Sを水平姿勢で安定的に支持するために、上端部の高さが互いに等しい3以上のリフトピン37が設けられることが望ましい。
【0040】
昇降部材33は、供給ユニット50に設けられた昇降機構51により昇降移動可能となっている。具体的には、昇降機構51は、例えばリニアモータ、直動ガイド、ボールねじ機構、ソレノイド、エアシリンダ等の直動機構を有しており、このような直動機構が昇降部材33をZ方向に移動させる。昇降機構51は制御ユニット90からの制御指令に応じて動作する。
【0041】
昇降部材33の昇降によりベース部材35が上下動し、これと一体的に複数のリフトピン37が上下動する。これにより、移載ユニット30と支持トレイ15との間での基板Sの受け渡しが実現される。より具体的には、
図1に点線で示すように、支持トレイ15がチャンバ外へ引き出された状態で基板Sが受け渡される。この目的のために、支持トレイ15にはリフトピン37を挿通させるための貫通孔152が設けられている。ベース部材35が上昇すると、リフトピン37の上端は貫通孔152を通して支持トレイ15の支持面151よりも上方に到達する。この状態で、外部の搬送装置により搬送されてくる基板Sが、リフトピン37に受け渡される。リフトピン37が下降することにより、基板Sはリフトピン37から支持トレイ15へ受け渡される。基板Sの搬出は、上記と逆の手順により行うことができる。
【0042】
図2はこの基板処理装置により実行される処理の概要を示すフローチャートである。この基板処理装置1は、超臨界乾燥処理、すなわち前工程において洗浄液により洗浄された基板Sを乾燥させる処理を実行する。具体的には以下の通りである。処理対象の基板Sは、基板処理システムを構成する他の基板処理装置で実行される前工程において、洗浄液により洗浄される。その後、例えばイソプロピルアルコール(IPA)などの有機溶剤による液膜が表面に形成された状態で、基板Sは基板処理装置1に搬送される。
【0043】
例えば基板Sの表面に微細パターンが形成されている場合、基板Sに残留付着している液体の表面張力によってパターンの倒壊が生じるおそれがある。また、不完全な乾燥によって基板Sの表面にウォーターマークが残留する場合がある。また、基板S表面が外気に触れることで酸化等の変質を生じる場合がある。このような問題を未然に回避するために、基板Sの表面(パターン形成面)を、液体または固体の表面層で覆った状態で搬送することがある。
【0044】
例えば洗浄液が水を主成分とするものである場合には、これより表面張力が低く、かつ基板に対する腐食性が低い液体、例えばIPAやアセトン等の有機溶剤により液膜を形成した状態で、搬送が実行される。すなわち、基板Sは、水平状態に支持され、かつその上面に液膜が形成された状態で、基板処理装置1に搬送されてくる。
【0045】
図示しない搬送装置により搬送されてきた基板Sは処理チャンバ12に収容される(ステップS101)。具体的には、基板Sは、パターン形成面を上面にして、しかも該上面が薄い液膜に覆われた状態で搬送されてくる。
図1に点線で示すように、蓋部材13が(-Y)側へ移動し支持トレイ15が引き出された状態で、リフトピン37が上昇する。搬送装置は基板Sをリフトピン37へ受け渡す。リフトピン37が下降することで、基板Sは支持トレイ15に載置される。支持トレイ15および蓋部材13が一体的に(+Y)方向に移動すると、基板Sを支持する支持トレイ15が処理チャンバ12内の処理空間SPに収容されるとともに、開口121が蓋部材13により閉塞される。
【0046】
この状態で、処理流体としての二酸化炭素が、気相の状態で処理空間SPに導入される(ステップS102)。基板Sの搬入時に処理空間SPには外気が侵入するが、気相の処理流体を導入することで、これを置換することができる。さらに気相の処理流体を注入することで、処理チャンバ12内の圧力が上昇する。
【0047】
なお、処理流体の導入過程において、処理空間SPからの処理流体の排出は継続的に行われる。すなわち、流体供給部57により処理流体が導入されている間にも、流体回収部55による処理空間SPからの処理流体の排出が実行されている。これにより、処理に供された処理流体が処理空間SPに対流することなく排出され、処理流体中に取り込まれた残留液体などの不純物が基板Sに再付着することが防止される。
【0048】
処理流体の供給量が排出量よりも多ければ、処理空間SPにおける処理流体の密度が上昇しチャンバ内圧が上昇する。逆に、処理流体の供給量が排出量よりも少なければ、処理空間SPにおける処理流体の密度は低下しチャンバ内は減圧される。このような処理流体の処理チャンバ12への供給および処理チャンバ12からの排出については、予め作成された給排レシピに基づいて行われる。すなわち、制御ユニット90が給排レシピに基づき流体供給部57および流体回収部55を制御することによって、処理流体の供給・排出タイミングやその流量等が調整される。
【0049】
処理空間SP内で処理流体の圧力が上昇し臨界圧力を超過すると、処理流体はチャンバ内で超臨界状態となる。すなわち、処理空間SP内での相変化により、処理流体が気相から超臨界状態に遷移する。なお、超臨界状態の処理流体は外部から供給されてもよい。処理空間SPに超臨界流体が導入されることで、基板Sを覆うIPAなどの有機溶剤が超臨界流体により置換される。基板Sの表面から遊離した有機溶剤は処理流体に溶け込んだ状態で処理流体と共に処理チャンバ12から排出され、基板Sから除去される。すなわち、超臨界状態の処理流体は、基板Sに付着する有機溶剤を置換対象液としてこれを置換し、処理チャンバ12外へ排出する機能を有する。
【0050】
処理チャンバ12内での超臨界流体による置換対象液の置換が終了すると(ステップS103)、処理空間SP内の処理流体を排出して基板Sを乾燥させる。具体的には、処理空間SPからの流体の排出量を増大させることで、超臨界状態の処理流体で満たされた処理チャンバ12内を減圧する(ステップS104)。このとき処理流体の供給は停止されてもよく、また少量の処理流体が継続して供給される態様でもよい。処理空間SPが超臨界流体で満たされた状態から減圧されることで、処理流体は超臨界状態から相変化して気相となる。気化した処理流体を外部へ排出することで、基板Sは乾燥状態となる。このとき、急激な温度低下により固相および液相を生じることがないように、減圧速度が調整される。これにより、処理空間SP内の処理流体は、超臨界状態から直接気化して外部へ排出される。したがって、乾燥後の表面が露出した基板Sに気液界面が形成されることは回避される。
【0051】
このように、この実施形態の超臨界乾燥処理では、処理空間SPを超臨界状態の処理流体で満たした後、気相に相変化させて排出することにより、基板Sに付着する液体を効率よく置換し、基板Sへの残留を防止することができる。しかも、不純物の付着による基板の汚染やパターン倒壊等、気液界面の形成に起因して生じる問題を回避しつつ基板を乾燥させることができる。
【0052】
処理後の基板Sは後工程へ払い出される(ステップS105)。すなわち、蓋部材13が(-Y)方向へ移動することで支持トレイ15が処理チャンバ12から外部へ引き出され、移載ユニット30を介して外部の搬送装置へ基板Sが受け渡される。このとき、基板Sは乾燥した状態となっている。後工程の内容は任意である。次に処理すべき基板がなければ(ステップS106においてNO)、処理は終了する。他に処理対象基板がある場合には(ステップS106においてYES)、ステップS101に戻って新たな基板Sが受け入れられ、上記処理が繰り返される。
【0053】
1枚の基板Sに対する処理の終了後、引き続き次の基板Sの処理が行われる場合には、以下のようにすることでタクトタイムを短縮することができる。すなわち、支持トレイ15が引き出されて処理済みの基板Sが搬出された後、新たに未処理基板Sが載置されてから支持トレイ15を処理チャンバ12内に収容する。また、こうして蓋部材13の開閉回数を低減させることにより、外気の進入に起因する処理チャンバ12内の温度変化を抑制する効果も得られる。
【0054】
次に、超臨界流体による置換対象液の置換がどの時点で終了したとみなすかを決める方法について説明する。上記のように、超臨界流体による置換対象液の置換が終了した後、チャンバ内が減圧され処理流体が気化することにより基板の乾燥が行われる。ここで、もし処理空間SP内に置換対象液が残留した状態で処理流体が気化してしまうと、置換対象液が基板Sに再付着し乾燥不良を生じるおそれがある。これを回避するために、処理流体による置換が終了した状態、つまり処理空間SPから置換対象液が完全に排出された状態で、処理流体の気化が起こるようにする必要がある。
【0055】
そのためには、チャンバ内で置換処理が終了したタイミングを適切に把握する必要がある。しかしながら、高圧下の処理チャンバ12内で置換対象液が完全に排出されたかどうかを見極める方法はこれまで知られていなかった。そのため、これまでは、置換処理を完了させるのに必要と推定される期間よりも長く超臨界状態を維持することで、置換対象液の残留を確実に回避するという方法が採られてきた。
【0056】
この場合、置換対象液が完全に排出されて以降も超臨界状態が維持されるため、処理時間および処理流体の消費量が大きくなってしまう。また、置換が確実に終了していることが保証されるものでもない。このことから、置換処理の終了時期をより確実に把握することが求められる。以下、その1つの手法について具体的に説明する。
【0057】
図3は超臨界処理における各部の状態変化を示すタイミングチャートである。より具体的には、
図3は、給排レシピに基づく処理流体の供給および排出のタイミングと、これに伴う処理チャンバ12内の状態変化との関係を示す図である。まず、処理流体の供給および排出のタイミングおよびその量を規定した給排レシピについて説明する。
【0058】
初期状態では、処理チャンバ12に基板Sを収容するために蓋部材13が開かれ、処理空間SPは大気開放されている。すなわちチャンバ内圧力はほぼ大気圧Paであり、臨界圧力Pcより十分に小さい。一方、処理流体としての二酸化炭素の臨界温度Tcが室温に近いことから、チャンバ内温度は臨界温度Tcに近い温度となっている。図ではチャンバ内温度が臨界温度Tcよりも少し高いが、臨界温度Tcより低いケースもあり得る。
【0059】
基板Sの収容後、時刻T1において気相の処理流体が所定の流量で処理空間SPに導入開始される。このとき、一定量での排出も行われる。排出流量に対して供給流量を大きくすることで、チャンバ内圧力が次第に上昇する。チャンバ内圧力が臨界圧力Pcに達する時刻T2において、チャンバ内温度が臨界温度Tcを上回っていれば処理流体は超臨界状態に相転移する。
【0060】
時刻T3において、処理流体の供給量がチャンバ内圧力を略一定に維持する量に調整される。そして、時刻T4において減圧が開始される。すなわち、処理流体の供給量が大きく減らされる一方で排出量が大きく増やされることで排出過多となり、チャンバ内圧力が急激に低下する。処理流体の急激な膨張に伴ってチャンバ内温度も低下する。
【0061】
チャンバ内圧力が臨界圧力Pcを下回る、またはチャンバ内温度が臨界温度Tcを下回る時刻T5において、処理流体は気相に相転移する。チャンバ内圧力がほぼ大気圧Paまで低下する時刻T6以降、処理空間SPを大気開放して基板Sを搬出することができる。超臨界状態の処理流体が液相を介することなく気相に転移するように、減圧速度が設定される。
【0062】
本願発明者は、このような一連の処理におけるチャンバ内の密度変化を観測し、以下のような知見を得た。観測された密度変化の例が
図3下部に示されている。初期状態でチャンバ内に置換対象液が存在しない状態での密度変化が実線で示される。チャンバ内の流体の密度はチャンバ内の温度と圧力とに依存し、温度変化が小さければ概ね圧力変化に倣って推移すると言える。
【0063】
一方、予めチャンバ内に置換対象液を存在させた状態で同様に処理流体の給排を行うと、図に破線および点線で示すように、置換対象液が存在しない状態よりも密度は高くなり、その後は密度差が次第に減少して、ある時刻Tx以降は置換対象液が存在しない状態とほぼ同じような推移となる。破線に示すように当初より高い密度を示すケースと、点線で示すように密度増加の立ち上がりが遅れるケースとがあり得るが、いずれも最終的には置換対象液が存在しない状態よりも高密度となる。これは、超臨界状態となった処理流体が置換対象液を溶存させることで、同じ圧力、温度で置換対象液を含まない処理流体よりも密度が高くなったものと考えられる。
【0064】
処理流体の供給と排出とを継続することで、チャンバ内の置換対象液の濃度は次第に低下し、最終的には残留量がゼロとなる。上記した経時的な密度差の減少と、時刻Tx以降における密度変化の推移とは、この状況に対応したものと考えることができる。
【0065】
言い換えれば、処理空間SP内に置換対象液が存在しない状態と存在する状態とのそれぞれで、上記のようなチャンバ内流体の密度の時間変化を表す密度プロファイルを計測し、それらを比較すれば、処理空間SP内から置換対象液が完全に除去される、つまり処理流体による置換が終了する時期を把握することが可能となる。この原理に基づく置換終了時の判定方法につき、以下に説明する。
【0066】
図4は本実施形態における置換終了時の判定処理を示すフローチャートである。この処理は、(1)チャンバ内に置換対象液がない状態での密度プロファイル取得(ステップS201~S205)、(2)チャンバ内に置換対象液がある状態での密度プロファイル取得(ステップS206~S210)、および(3)密度プロファイルの比較に基づく置換終了時の判定(ステップS211)、の各工程を含む。以下の説明においては、「チャンバ内に置換対象液がない状態」を「ドライ状態」、「チャンバ内に置換対象液がある状態」を「ウェット状態」と称することがある。
【0067】
最初に、チャンバ内に置換対象液がないドライ状態での密度プロファイルが取得される。具体的には、表面に液膜が形成されていない基板Sをチャンバ内に収容し(ステップS201)、予め定められた給排レシピに従い処理流体をチャンバ内に導入する(ステップS202)。この間、各時刻におけるチャンバ内の流体の密度が検出され(ステップS203)、これにより流体の密度の時間変化を表す密度プロファイルが取得される。
【0068】
チャンバ内の流体の密度の検出は、処理チャンバ12からの処理流体の排出経路に設けられた密度検出部171,172により行うことが可能である。密度検出部171,172として例えばコリオリ流量計のような質量流量計を用いることで、流通する流体の質量流量を計測し、流体の密度を求めることができる。この場合の密度検出には、2つの密度検出部171,172のいずれか一方の検出結果が用いられてもよく、またそれぞれの検出結果の平均値が用いられてもよい。
【0069】
給排レシピに基づく処理流体の給排が終了すると(ステップS204)、チャンバ内が減圧され、最終的に大気開放されて基板Sが搬出される(ステップS205)。ここまでの処理により、ドライ状態での密度プロファイルが得られる。
【0070】
給排レシピとしては、例えば
図3のように実際の超臨界乾燥処理を想定したものを用いることができるが、より簡便には、超臨界状態を維持することができる限りにおいて、例えば一定量での処理流体の供給および排出を持続するようにしてもよい。ただし、実処理時の状態に即したデータを取得するという意味においては、超臨界乾燥処理における給排レシピに倣ったものとすることが望ましい。
【0071】
なお、後述するように、ここでの処理結果を用いて給排レシピを最適化することができるから、特にチャンバ内の減圧を開始する時刻以降の過程については実際の処理レシピを考慮する必要はない。また、ここではチャンバ内に液膜が形成されていない基板Sを収容して密度プロファイルを取得しているが、より簡便には、基板Sを収容せずに密度プロファイルの取得を行うことも可能である。
【0072】
次に、チャンバ内に置換対象液があるウェット状態での密度プロファイルが取得される。具体的には、表面に置換対象液による液膜が形成された基板Sをチャンバ内に収容し(ステップS206)、上記と同一の給排レシピに従い処理流体をチャンバ内に導入する(ステップS207)。レシピが終了するまでの間、各時刻におけるチャンバ内の流体の密度が検出され(ステップS208、S209)、これによりチャンバ内に置換対象液がある状態での密度プロファイルが求められる。その後、チャンバ内が減圧されて基板Sが搬出される(ステップS210)。
【0073】
こうしてドライ状態とウェット状態とでそれぞれ取得された密度プロファイルに基づき、当該給排レシピに沿った処理における置換終了時を判定する(ステップS211)。具体的には、両プロファイルを処理開始時からの経過時間が同じとなる時刻同士で比較し、ウェット状態での密度がドライ状態での密度を有意に上回った後、両者の差が実質的にゼロとなる時刻(
図3における時刻Tx)を特定する。「有意に上回る」事象および「差が実質的にゼロになる」事象については、ウェット状態とドライ状態との密度差に対してそれぞれ適宜に設定された閾値と比較することにより判定可能である。
【0074】
このようにして置換終了時が特定されると、以下のようにして
図3の給排レシピを改定し処理を最適化することが可能である。すなわち、時刻Txにおいて超臨界処理流体による置換対象液の置換は完了しており、置換対象液は処理空間SPから除去されている。したがって、この時刻Tx以降は処理流体を気化させて排出してよく、超臨界状態を維持する必要はない。
【0075】
すなわち、現状は時刻T4に設定されているチャンバ内の減圧を時刻Txに前倒ししてよく、これにより処理時間の短縮および処理流体の消費量の削減を図ることが可能になる。具体的には、
図2のフローチャート中ステップS103における、置換が終了したか否かの判定を、「時刻Txを超過したか否か」により行うことができる。また、時刻Txにおけるチャンバ内の圧力あるいは流体密度の値を予め求めて閾値としておき、処理中に検出されるそれらの値が閾値に達したことを以って「置換が終了した」と判定するようにしてもよい。
【0076】
このようにすることで、超臨界状態を不必要に長く維持することが回避され、処理時間の短縮および処理流体の消費量の削減を図ることができる。なお、測定誤差や処理のばらつきを考慮して、これらの閾値に幾らかのマージンを持たせるようにしてもよい。この場合でも、置換が終了する時期が特定されていることから、必要以上に大きなマージンを与えることによる処理時間および流体消費量の増大を抑えることが可能である。
【0077】
さらに、時刻Txにおいて超臨界状態が維持されていればよいという観点からは、時刻Txよりも早く減圧を開始し、時刻Txを経過した時点で処理流体の気化が開始されるようにしてもよい。ただし、時刻Tx以前における給排レシピが変更されることになるから、時刻Tx自体が変動することがあり得る。このため、そのように変更された給排レシピにおいても超臨界処理が良好に進行するか否かについては別途検証する必要がある。具体的には、変更された給排レシピにおける置換終了時Txにおいて超臨界状態が維持されていることを確認することが必要である。そのためには、変更後の給排レシピについて
図4の判定処理を実行して置換終了時Txを特定し、その時のチャンバ内圧力および温度が臨界点を上回っているか否かを判定すればよい。もしこの時点で超臨界状態を脱している場合には、減圧の開始時刻を遅らせる必要がある。
【0078】
上記した置換終了時の判定とそれに基づく給排レシピの調整については、基板処理装置1の供用開始時に行う必要があり、装置個体ごとに実行されることが好ましい。また、基板Sや置換対象液の種類が変更された場合や、給排レシピが変更された場合のように、何らかの処理条件に変更があった際には当然に改めて行う必要がある。また、装置のメンテナンス時などにも定期的に実行されることが望ましい。
【0079】
なお、上記実施形態では、置換終了時刻Txを予め求めておき、当該時刻Txの経過または圧力等の検出値が時刻Txに対応する値となったことを以って超臨界処理の終期としている。これに対して、超臨界乾燥処理を以下のように変形すれば、予め置換終了時刻Txを求めておかなくても同様の効果を得ることが可能である。この処理の前提として、事前に
図4のステップS201~S205が実行され、ドライ状態での密度プロファイルが予め求められているものとする。
【0080】
図5は超臨界乾燥処理の変形例を示すフローチャートである。チャンバ内に基板Sを収容し、所定の給排レシピに従って処理流体を導入する点については上記実施形態と同じである(ステップS301、S302)。置換処理の終了時を判定する方法が、上記実施形態とは異なっている。この変形例では、チャンバ内の処理流体の密度を検出し(ステップS303)、予め取得されているドライ状態の密度プロファイルにおいて対応する時刻の検出値と比較される(ステップS304)。
【0081】
前記したように、ウェット状態では流体の密度は当初ドライ状態より高くなり、その後密度差が小さくなってある時刻Tx以降はほぼ差がなくなる。したがって、ドライ状態との実質的な密度差がなくなれば(ステップS305)、置換処理は終了したとみなせる。つまり、この変形例では、処理中の流体の密度を常時検出し、その密度変化が予め取得されたドライ状態の密度プロファイルと一致した時を以って置換終了とみなす。こうすることによっても、上記実施形態と同様に、超臨界状態を不必要に長く維持することを回避し処理時間の短縮および処理流体の消費量の削減を図ることができる。
【0082】
置換が終了した後の処理は上記実施形態と同様である。すなわち、チャンバ内を減圧して基板を搬出した後、必要に応じ上記処理を繰り返すことで複数基板に対する処理を実行する(ステップS306~S308)。
【0083】
以上のように、この実施形態では、チャンバ内に置換対象液が存在しないドライ状態で取得された密度プロファイルと、チャンバ内に置換対象液があるウェット状態における密度プロファイルとに基づき、処理流体による置換対象液の置換終了時が判定される。このため、従来は乾燥不良を防止するために長めに設定されていた、超臨界状態を維持する時間の長さを最適化することができ、これにより処理時間の短縮および処理流体の消費量の削減を図ることが可能である。
【0084】
予めドライ状態とウェット状態とのそれぞれで密度プロファイルを求めて置換終了時を特定しておけば、その知見に基づいて超臨界乾燥処理の処理レシピを最適化することで、以後の超臨界乾燥処理を効率的かつ良好に行うことが可能になる。また、ドライ状態で求めた密度プロファイルと、実処理時の密度検出結果とに基づき超臨界乾燥処理を実行するようにしても、同様の効果を得ることが可能である。
【0085】
以上説明したように、この実施形態においては、処理チャンバ12が本発明の「チャンバ」として機能しており、密度検出部171,172が本発明の「密度検出部」および「質量流量計」に相当している。また、流体供給部57および流体回収部55が一体として、本発明の「給排部」として機能している。また、制御ユニット90が本発明の「制御部」として機能している。
【0086】
そして、
図4のフローチャートにおけるステップS201~S205が本発明の「第1工程」に、ステップS206~S210が本発明の「第2工程」に、ステップS211が本発明の「第3工程」にそれぞれ相当している。一方、
図5に示す超臨界乾燥処理の変形例においては、
図4におけるステップS201~S205が本発明の「第1工程」に相当し、
図5におけるステップS303が本発明の「第2工程」に相当し、ステップS304~S305が本発明の「第3工程」に相当することとなる。
【0087】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態では、本発明に係る置換終了時の判定方法を、超臨界乾燥処理の処理レシピを最適化する目的に適用している。しかしながら、この方法の適用対象はこれに限定されるものではない。例えば、置換処理の終了後に次の処理工程を実行する際に、その終了時の判定のために本発明が利用されてもよい。
【0088】
また例えば、上記実施形態の基板処理装置1では、処理流体の排出経路に密度検出部171,172が設けられているが、チャンバ内の流体の密度を検出することができる限りにおいて、これらの配設位置は上記に限定されない。また、上記実施形態では処理空間SPのうち支持トレイ15の上部空間と下部空間とにそれぞれ排出経路が接続され、それらの排出経路にそれぞれ密度検出部が配置されているが、排出経路の位置やその数については任意であり、密度検出部の配置もそれに応じて適宜変更することが可能である。また、密度検出部はコリオリ流量計に限定されるものでもない。
【0089】
また、予め置換終了時Txを特定しこれに基づき処理レシピを最適化する態様では、実際の超臨界乾燥処理において密度検出を行うことは必須の要件ではない。このため、置換終了時Txを求める予備実験の時だけ密度検出部が配置されるようにしてもよい。
【0090】
また、上記実施形態の処理で使用される各種の化学物質は一部の例を示したものであり、上記した本発明の技術思想に合致するものであれば、これに代えて種々のものを使用することが可能である。
【0091】
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、本発明に係る置換終了時の判定方法においては、第1工程は乾燥した基板をチャンバ内に収容した状態で行う一方、第2工程は置換対象液で濡れた基板をチャンバ内に収容した状態で行うことができる。このような構成によれば、置換対象液の有無以外の条件を同じにすることで、精度のよい判定が可能となる。
【0092】
また例えば、処理流体の密度については、チャンバからの処理流体の排出経路に配置した質量流量計の計測結果に基づき検出することが可能である。
【0093】
また、本発明に係る置換終了時の判定方法は、本発明に係る基板処理方法に適用することが可能である。すなわち、本発明の基板処理方法の第1の態様における「所定時間」については、本発明に係る置換終了時の判定方法を予め実行し、その結果に基づき決定することが可能である。また、本発明の基板処理方法の第2の態様では、本発明に係る置換終了時の判定方法を予め実行して置換が終了したとみなされる時のチャンバ内圧力または流体の密度の値を求めておき、実処理時の検出値が当該値と実質的に等しくなった時に、置換が終了したと判定することができる。
【0094】
また、本発明の基板処理方法において、本発明に係る置換終了時の判定方法は、基板の種類、液膜を構成する置換対象液の量、給排レシピの少なくとも1つが変更されたときに、基板の乾燥処理に先立って実行されることが望ましい。こうすることにより、実際の基板の処理における処理時間や流体消費量の無駄を抑えることが可能になる。
【0095】
また、本発明に係る基板処理装置および基板処理方法においては、置換が終了したと判定すると、チャンバ内の処理流体を排出して基板を乾燥させる処理を実行するように構成されてもよい。置換が終了して以降は超臨界状態を維持する必要はないから、置換の終了後に速やかに乾燥処理に移行することで、処理時間の短縮および処理流体の消費量の低減が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
この発明は、チャンバ内に導入した処理流体を用いて置換対象液を置換する処理全般に適用することができる。例えば、半導体基板等の基板を超臨界流体によって乾燥させる基板乾燥処理に適用することができる。
【符号の説明】
【0097】
1 基板処理装置
12 処理チャンバ(チャンバ)
55 流体回収部(給排部)
57 流体供給部(給排部)
90 制御ユニット(制御部)
171,172 密度検出部(密度検出部、質量流量計)
S 基板
S201~S205 第1工程
S206~S210、S303 第2工程
S211、S304~S305 第3工程
SP 処理空間