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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-13
(45)【発行日】2025-03-24
(54)【発明の名称】調理器
(51)【国際特許分類】
   A47J 27/00 20060101AFI20250314BHJP
   H05B 6/12 20060101ALI20250314BHJP
【FI】
A47J27/00 103A
H05B6/12 308
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021110273
(22)【出願日】2021-07-01
(65)【公開番号】P2023007182
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2024-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002473
【氏名又は名称】象印マホービン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】倉 拓海
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 晋平
【審査官】杉浦 貴之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2021/0186249(US,A1)
【文献】特開2004-242912(JP,A)
【文献】特開2017-113102(JP,A)
【文献】特開平05-253058(JP,A)
【文献】特開2019-180530(JP,A)
【文献】特開2002-065455(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 27/00
H05B 6/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底壁部、筒状の周壁部、及び前記底壁部と前記周壁部に連なる連続部を有する有底筒状の鍋と、
前記鍋の外面側に間隔をあけて配置された加熱部と
を備え、
前記加熱部は、
前記周壁部以外の少なくとも前記底壁部を誘導加熱するように、前記周壁部よりも前記鍋の軸線側に配置された内側コイルと、
少なくとも前記周壁部を誘導加熱するように、前記軸線に対して前記内側コイルよりも外側に配置された外側コイルと
を有し、
前記内側コイルの形状と前記外側コイルの形状とは異なっており、
前記底壁部は、中央部と、前記中央部の外側に連なる外周部とを有し、
前記内側コイルは、前記中央部から前記連続部に跨がった領域に対応するように配置され、
前記外側コイルは、前記外周部から前記周壁部に跨がった領域に対応するように配置されている、調理器。
【請求項2】
底壁部、筒状の周壁部、及び前記底壁部と前記周壁部に連なる連続部を有する有底筒状の鍋と、
前記鍋の外面側に間隔をあけて配置された加熱部と
を備え、
前記加熱部は、
前記周壁部以外の少なくとも前記底壁部を誘導加熱するように、前記周壁部よりも前記鍋の軸線側に配置された内側コイルと、
少なくとも前記周壁部を誘導加熱するように、前記軸線に対して前記内側コイルよりも外側に配置された外側コイルと
を有し、
前記内側コイルの形状と前記外側コイルの形状とは異なっており、
前記軸線が延びる方向から見た前記鍋の形状は円形であり、
前記軸線が延びる方向から見た前記内側コイルは、前記鍋の径方向に延びる長軸と、前記鍋の周方向に延びる短軸とを有する非円形状であり、
前記軸線が延びる方向から見た前記外側コイルは、前記鍋の周方向に延びる長軸と、前記鍋の径方向に延びる短軸とを有する非円形状である、調理器。
【請求項3】
前記外側コイルの前記長軸が延びる方向の寸法は、前記内側コイルの前記短軸が延びる方向の寸法よりも大きい、請求項に記載の調理器。
【請求項4】
前記内側コイルは、
前記軸線側に配置されて前記鍋の周方向に延びる内側部と、
前記内側部の両端から前記鍋の径方向外側にそれぞれ延び、互いに近づく向きに傾斜した一対の延在部と
を有する、請求項又はに記載の調理器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、本体内に収容した鍋を複数のコイルによって誘導加熱する電気炊飯器(調理器)が開示されている。特許文献2には、平坦な加熱面上に配置した鍋を複数のコイルによって誘導加熱する誘導加熱調理器が開示されている。また、特許文献2には、周方向に間隔をあけて配置した複数のコイルのうち2個を一組のコイル群とし、複数組のコイル群を個別に制御する調理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-242912号公報
【文献】特開2013-149470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2の調理器では、形状が同じコイルを鍋の周方向に並べて配置しているだけであるため、誘導加熱によって生じる鍋内での対流の流動方向は鍋の径方向のみである。また、引用文献2のように、対向する2個のコイルを一組のコイル群として制御した場合、2個のコイルによる2つの対流が互いに打ち消し合い、かえって調理物の撹拌効率を低下させる場合がある。よって、引用文献1,2の調理器には、鍋内で発生する対流による調理物の撹拌効率について改善の余地がある。
【0005】
本発明は、コイルによる誘導加熱によって鍋内に生じる対流による調理物の撹拌効率を向上できる調理器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、底壁部、筒状の周壁部、及び前記底壁部と前記周壁部に連なる連続部を有する有底筒状の鍋と、前記鍋の外面側に間隔をあけて配置された加熱部とを備え、前記加熱部は、前記周壁部以外の少なくとも前記底壁部を誘導加熱するように、前記周壁部よりも前記鍋の軸線側に配置された内側コイルと、少なくとも前記周壁部を誘導加熱するように、前記軸線に対して前記内側コイルよりも外側に配置された外側コイルとを有し、前記内側コイルの形状と前記外側コイルの形状とは異なっている、調理器を提供する。
【0007】
形状と配置が異なる内側コイルと外側コイルを有し、内側コイルによって周壁部以外の少なくとも底壁部が誘導加熱され、外側コイルによって少なくとも周壁部が誘導加熱される。内側コイルによる誘導加熱によって生じる対流の流動方向は、鍋の軸線に沿う方向になり、外側コイルによる誘導加熱によって生じる対流の流動方向は、鍋の径方向に沿う方向になる。このように流動方向が異なる2種の対流は、互いに打ち消し合うことなく、衝突後には分流する。その結果、コイルによる誘導加熱によって鍋内に生じる対流による調理物の撹拌効率を向上できる。
【0008】
前記底壁部は、中央部と、前記中央部の外側に連なる外周部とを有し、前記内側コイルは、前記中央部から前記連続部に跨がった領域に対応するように配置され、前記外側コイルは、前記外周部から前記周壁部に跨がった領域に対応するように配置されている。
【0009】
内側コイルは底壁部の中央部から連続部にかけて延び、外側コイルは底壁部の外周部から周壁部にかけて延びている。そのため、鍋の径方向に非加熱領域が生じることを抑制できるとともに、流動方向が異なる2種の対流を確実に生じさせることができる。
【0010】
前記軸線が延びる方向から見た前記鍋の形状は円形であり、前記軸線が延びる方向から見た前記内側コイルは、前記鍋の径方向に延びる長軸と、前記鍋の周方向に延びる短軸とを有する非円形状であり、前記軸線が延びる方向から見た前記外側コイルは、前記鍋の周方向に延びる長軸と、前記鍋の径方向に延びる短軸とを有する非円形状である。
【0011】
内側コイルは鍋の径方向に延びる長軸と鍋の周方向に延びる短軸とを有する非円形状であり、外側コイルは鍋の周方向に延びる長軸と鍋の径方向に延びる短軸とを有する非円形状である。このように、周方向の寸法が短い内側コイルを鍋の内側に配置し、周方向の寸法が長い外側コイルを鍋の外側に配置しているため、鍋の外面側に内側コイルと外側コイルを敷き詰めるように配置できる。よって、鍋に非加熱領域が生じることを抑制できる。
【0012】
前記外側コイルの前記長軸が延びる方向の寸法は、前記内側コイルの前記短軸が延びる方向の寸法よりも大きい。
【0013】
外側コイルの長軸側の寸法が内側コイルの短軸側の寸法よりも大きい。よって、底壁部よりも大径の周壁部に対する外側コイルの配置面積を確保できるため、鍋の周壁部に非加熱領域が生じることを抑制できる。
【0014】
前記内側コイルは、前記軸線側に配置されて前記鍋の周方向に延びる内側部と、前記内側部の両端から前記鍋の径方向外側にそれぞれ延び、互いに近づく向きに傾斜した一対の延在部とを有する。
【0015】
内側コイルは、鍋の周方向に延びる内側部と、内側部の両端から鍋の径方向外側に延びる一対の延在部とを有する。周方向に延びる内側部の場合、巻線の巻回角度が緩やかになるため、単位面積当たりの配線密度を高くすることが可能である。よって、内側コイルによる鍋の中央部分の加熱効率を向上できる。
【0016】
前記内側コイルと前記外側コイルは、前記軸線を挟んで前記鍋の対向位置に配置され、前記軸線まわりに並べて複数設けられている。
【0017】
内側コイルと外側コイルが鍋の対向位置に配置され、軸線まわりに並べて複数設けられている。これにより、鍋の外面側に内側コイルと外側コイルを敷き詰めて配置できるため、鍋全体を確実に誘導加熱できる。
【0018】
前記鍋の対向位置にある前記内側コイルと前記外側コイルを一組のコイル群とし、複数組の前記コイル群を個別に制御する制御部を備える。
【0019】
鍋の対向位置にある内側コイルと外側コイルを一組のコイル群とし、制御部が複数組のコイル群を個別に制御するため、調理物を2種の対流によって効率的に撹拌しながら調理できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の調理器では、コイルによる誘導加熱によって鍋内に生じる対流による調理物の撹拌効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1実施形態に係る調理器を示す概略断面図。
図2】鍋に対するコイルの配置と制御部の構成を示すブロック図。
図3図2の内側コイルの正面図。
図4図2の外側コイルの正面図。
図5A】内側コイルと外側コイルに通電した際の対流を示す模式的な断面図。
図5B図5Aの対流を上方から見た模式図。
図6A】同じコイルを周方向に配置した調理器の対流を示す模式的な断面図。
図6B図6Aの対流を上方から見た模式図。
図7】第2実施形態のコイルの配置を示す底面図。
図8図7の外側コイルの正面図。
図9】第1変形例のコイルの配置を示す底面図。
図10】第2変形例のコイルの配置を示す底面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0023】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る調理器の1つである炊飯器1を示す。炊飯器1は、炊飯鍋10と、炊飯鍋10を収容する炊飯器本体20と、炊飯器本体20に開閉可能に取り付けられた蓋体30とを備え、炊飯鍋10の加熱部50として複数のコイル51,55を炊飯器本体20内に配置したマルチコイル式である。本実施形態では、形状が異なる2種のコイル51,55を炊飯鍋10の径方向の異なる位置に配置することで、炊飯鍋10内で発生する対流による飯米(調理物)の撹拌効率向上を図る。
【0024】
まず、炊飯器1の概要について説明する。
【0025】
図1を参照すると、炊飯鍋10は、底壁部11、筒状の周壁部12、及び底壁部11と周壁部12に連なる連続部13を有する有底筒状であり、炊飯鍋10の軸線Aが延びる方向から見て円形状である。この炊飯鍋10は磁性材料からなり、プレス加工又は鋳造によって成形されている。
【0026】
図1及び図2を参照すると、底壁部11は、中央部11aと、中央部11aの外側に連なる外周部11bとを有する。
【0027】
中央部11aは、軸線Aが延びる方向から見て円形状であり、中心が軸線A上に位置し、水平方向に平坦に延びている。平坦に延びる中央部11aとは、幾何学的に厳密な意味で平坦に延びる構成に限られず、加熱によって発生する対流が、軸線Aに沿って流動する範囲であれば、多少湾曲していてもよい。
【0028】
外周部11bは、軸線Aが延びる方向から見て円環状であり、径方向の内側から外側に向けて上側へ傾斜している。外周部11bは、本実施形態では下向きに若干膨出した曲面形状であるが、下端から上端まで直線状に延びる逆円錐形状であってもよい。中央部11aに対する外周部11bの傾斜角度は5度以上30度以下である。湾曲した外周部11bの傾斜角度とは、外周部11bの下端と上端を結ぶ仮想線(図示せず)が、中央部11aに対して傾斜する角度として定義される。また、若干膨出した曲面形状とは、直線に近似した曲率であることを意味する。
【0029】
周壁部12は、底壁部11の外形に対応する形の筒状であり、拡開部12aと、拡開部12aの上端に連なる上側部12bとを有する。
【0030】
拡開部12aは、下端から上端まで直径が漸増した筒状である。拡開部12aは、本実施形態では径方向外向きに若干膨出した曲面形状であるが、下端から上端まで直線状に延びる逆円錐筒状であってもよい。中央部11aに対する拡開部12aの傾斜角度は60度以上90度以下である。湾曲した拡開部12aの傾斜角度とは、拡開部12aの下端と上端を結ぶ仮想線(図示せず)が、中央部11aに対して傾斜する角度として定義される。拡開部12aの上端は、後述する水位線14の最大炊飯容量位置14aよりも高い。
【0031】
上側部12bは、直径が一様な円筒状であり、上端に径方向外向きに突出したフランジ部を備える。但し、上側部12bは、下側から上側に向けて直径が漸増した逆円錐筒状であってもよいし、径方向外向きに若干膨出した曲面形状であってもよい。
【0032】
連続部13は、下側から上側に直径が漸増した筒状であり、内周部が底壁部11の外周部11bに連なり、外周部が拡開部12aに連なっている。連続部13の断面形状は、下向きかつ径方向外向きに膨出した円弧状である。
【0033】
このように構成された炊飯鍋10の内面には水位線14が設けられている。最大炊飯容量(本実施形態では5Cup)の位置14aは、炊飯鍋10の全高に対して50%(1/2)以上66%(2/3)以下の位置に設定することが好ましく、本実施形態では60%(3/5)の位置に設定されている。
【0034】
図1を参照すると、炊飯器本体20は、図1において右側に位置する背部にヒンジ接続軸22を有する外装体21を備える。外装体21の上面には円形状の開口が形成され、この開口の下側に炊飯鍋10を着脱可能に収容する収容部23が形成されている。収容部23は、炊飯鍋10の平面視形状と対応する円筒状で金属製の内胴24と、内胴24の下端を塞ぐ受皿状で樹脂(非導電性材料)製の保護枠25とを備える有底筒状である。この収容部23内に炊飯鍋10を配置することで、保護枠25の軸線と炊飯鍋10の軸線Aとが一致する。
【0035】
保護枠25の内面形状と外面形状は、炊飯鍋10の形状に対応している。具体的には、保護枠25は、炊飯鍋10の底壁部11に沿う形状の底部25a、炊飯鍋10の拡開部12aに沿う形状の外周部25b、及び炊飯鍋10の連続部13に沿う形状の連続部25cを備える。
【0036】
引き続いて図1を参照すると、外装体21の内部には、炊飯鍋10を誘導加熱するための加熱部50が設けられている。加熱部50は、2種かつそれぞれ複数のコイル51,55からなる。これらのコイル51,55は、炊飯鍋10の外面側に間隔をあけて位置するように、保護枠25の外装体21側の外側面に取り付けられている。具体的には、コイル51,55の外側にはフェライトコアを保持したホルダ(図示せず)が配置され、このホルダと保護枠25の間にコイル51,55が保持されている。なお、コイル51,55の具体的構成については後で詳述する。
【0037】
蓋体30は、外装体21のヒンジ接続軸22に回転可能に取り付けられている。蓋体30は、炊飯鍋10を臨む内面側(図1において下側)に放熱板31を備える。放熱板31の下面には、炊飯鍋10の上端開口を閉塞する内蓋32が取り付けられている。放熱板31の上面には、放熱板31を介して内蓋32を加熱し、内蓋32に付着した露を蒸発させる蓋ヒータ33が配設されている。また、蓋体30には、炊飯鍋10内の蒸気を外部に排出するための排気通路34が形成されている。
【0038】
図1において左側に位置する炊飯器本体20の正面側には、ホルダ40を介して制御基板41が配置されている。図2を参照すると、制御基板41には、電気部品を制御する制御部42、及び加熱部50に電力を供給するためのインバータ回路43と切換部44が設けられている。但し、制御部42、インバータ回路43、及び切換部44は、2つ又は3つの制御基板に分けて設けられてもよい。
【0039】
制御部42は、単一又は複数のマイクロコンピュータ、及びその他の電子デバイスにより構成されている。制御部42は、記憶部(メモリ)42aと計時部(タイマ)42bを備える。記憶部42aには、炊飯処理と保温処理を実行するためのプログラム、及びプログラムに用いられる設定値(温度や時間)等が記憶されている。計時部42bは、炊飯処理及び保温処理での時間を計測する。
【0040】
炊飯処理では、制御部42は、2つの温度センサ45A,45B(図1参照)の検出結果に基づいて、予熱工程、中ぱっぱ工程(昇温工程)、沸騰維持工程、炊き上げ工程及びむらし工程をこの順で実行し、炊飯鍋10内の飯米を炊き上げる。保温処理では、制御部42は、2つの温度センサ45A,45Bの検出結果に基づいて、炊き上げた米飯(炊飯鍋10)を定められた温度に温調する。なお、温度センサ45Aは、炊飯鍋10の温度を検出する鍋センサであり、本実施形態では周壁部12(拡開部12a)の温度を検出するサイドセンサとしている。温度センサ45Bは、放熱板31を介して炊飯鍋10内の温度を検出する蓋センサである。
【0041】
インバータ回路43は、制御部42に電気的に接続されており、コイル51,55に電力を投入する。インバータ回路43は、コイル51,55の数に応じて設けられた複数のパワートランジスタ(例えばIGBT)を備える。
【0042】
切換部44は、制御部42とインバータ回路43に電気的に接続されている。切換部44は、例えばコイル51,55の数に応じて設けられた複数のスイッチ(例えばリレー)によって構成され、制御部42の指令に従ってインバータ回路43と複数のコイル51,55との接続状態を切り換える。具体的には、切換部44は、複数のコイル51,55のうち、定められた1以上のコイルに高周波電流を通電し、残りのコイルへの通電が遮断されるように接続状態を切り換える。
【0043】
次に、加熱部50を構成するコイル51,55について具体的に説明する。
【0044】
図1及び図2を参照すると、加熱部50は、形状が異なる内側コイル51と外側コイル55を備え、高周波電流が通電されることで渦電流を発生させ、炊飯鍋10を誘導加熱する。
【0045】
内側コイル51と外側コイル55はいずれも、軸線Aまわりに並べて複数配置されている。本実施形態では、内側コイル51と外側コイル55がいずれも3個ずつ配置されている。周方向に隣り合う内側コイル51は互いに間隔をあけて配置され、周方向に隣り合う外側コイル55は互いに間隔をあけて配置されている。また、径方向に隣り合う内側コイル51と外側コイル55は、互いに間隔をあけて配置されている。これらの間隔は、隣り合うコイル51,55による炊飯鍋10の加熱領域の一部が重なり合う距離である。
【0046】
内側コイル51と外側コイル55は、複数の巻線を巻回して形成されている。本実施形態では、単位面積当たりの巻線の密度が均一になるように形成されている。これにより、図3に示すように、内側コイル51を正対する方向から見ると、内周部51aと外周部51bは並行に延び、内側コイル51の幅は全周において概ね一様になっている。また、図4に示すように、外側コイル55を正対する方向から見ると、内周部55aと外周部55bは並行に延び、外側コイル55の幅は全周において概ね一様になっている。
【0047】
図1及び図2を参照すると、内側コイル51は、炊飯鍋10のうち周壁部12以外の底壁部11と連続部13を誘導加熱するように、周壁部12よりも軸線A側に配置されている。より具体的には、内側コイル51は、炊飯鍋10のうち底壁部11の中央部11aから連続部13に跨がった領域に対応するように、保護枠25の底部25aと連続部25cの外側面に配置されている。
【0048】
図2に最も明瞭に示すように、炊飯鍋10の軸線Aが延びる方向から見ると、内側コイル51は、炊飯鍋10の径方向に延びる長軸La1と、炊飯鍋10の周方向に延びる短軸Sa1とを有する非円形状である。本実施形態の内側コイル51は、短軸Sa1の位置が長軸La1の中央よりも軸線A側に位置する概ね凧形状を呈する。
【0049】
図3を参照すると、内側コイル51のうち、長軸La1が延びる方向の寸法はSL1であり、短軸Sa1が延びる方向の寸法はSS1である。図2を併せて参照すると、長軸La1側の寸法SL1は、炊飯鍋10のうち、底壁部11の半径r1よりも大きく、連続部13の外側の半径r2よりも小さい。例えば、底壁部11の半径r1が65mmで、連続部13の半径r2が85mmの場合、内側コイル51の長軸La1側の寸法SL1は75mmに設定される。また、内側コイル51の短軸Sa1側の寸法SS1は65mmに設定される。
【0050】
より具体的には、図2及び図3に示すように、内側コイル51は、炊飯鍋10の軸線A側に配置される内側部52と、内側部52から炊飯鍋10の径方向外側に延在する外側部53とを備える。内側部52と外側部53は、所定曲率で湾曲した一対の湾曲部54を介して連なっている。
【0051】
内側部52は、一対の延在部52aと1つの湾曲部52bとで構成され、全体として炊飯鍋10の周方向に延びている。外側部53は、一対の延在部53aと1つの湾曲部53bとで構成され、全体として炊飯鍋10の径方向に延びている。内側部52の延在部52aは外側部53の延在部53aよりも短尺である。内側部52の一対の延在部52aは、それぞれ湾曲部54を介して外側部53に連なり、互いに近づく向きに傾斜している。外側部53の一対の延在部53aは、それぞれ湾曲部54を介して内側部52に連なり、互いに近づく向きに傾斜している。
【0052】
図3に最も明瞭に示すように、内側部52の一対の延在部52aがなす角αは、外側部53の一対の延在部53aがなす角βよりも大きい。内側部52の延在部52aと外側部53の延在部53aとがなす角は、なす角αよりも小さく、なす角βよりも大きい。これらの角度は、内側コイル51を形成する治具の形状に依存している。治具は内側コイル51の内周部51aの形状と同じ形状の外周部を有し、この治具に巻線を巻き付けることで、内側コイル51が形成されている。
【0053】
炊飯鍋10の周方向に延びるようにした内側部52の場合、巻線の巻回角度が緩やかになるため、内側コイル51を構成する単位面積当たりの巻線密度の確保が容易である。しかも、本実施形態の炊飯器1では、炊飯鍋10の温度を検出するためにサイドセンサ45Aを採用しているため、内側コイル51を可能な限り軸線Aに近づけることができる。そのため、内側コイル51による炊飯鍋10の中央部分の加熱効率を向上できる。
【0054】
本実施形態のように3個の内側コイル51を配置する場合、内側部52のなす角αは、100度以上140度以下に設定することが好ましい。なす角αを過度に小さくした場合、隣り合う内側コイル51の間隔が広くなるため、炊飯鍋10の底壁部11に非加熱領域が生じ易くなる。なす角αを過度に大きくした場合、隣り合う内側コイル51が重ならないように配置すると、湾曲部52bが軸線Aから離れるため、炊飯鍋10の底壁部11の中央に非加熱領域が生じ易くなる。これらの不都合を防ぐために、内側部52のなす角αは上記定められた範囲に設定することが好ましく、本実施形態では120度に設定されている。
【0055】
本実施形態のようにそれぞれ3個のコイル51,55を配置する場合、外側部53のなす角βは、30度以上70度以下に設定することが好ましい。なす角βを過度に小さくした場合、炊飯鍋10の周方向に隣り合う内側コイル51と外側コイル55の間隔が広くなるため、炊飯鍋10の底壁部11(外周部11b)に非加熱領域が生じ易くなる。なす角βを過度に大きくした場合、隣り合う内側コイル51と外側コイル55が重ならないように配置すると、長軸La1側の寸法を短くする必要があるため、炊飯鍋10の底壁部11に非加熱領域が生じ易くなる。これらの不都合を防ぐために、外側部53のなす角βは上記定められた範囲に設定することが好ましく、本実施形態では60度に設定されている。
【0056】
図1及び図2を参照すると、外側コイル55は、炊飯鍋10のうち底壁部11の中央部11a以外を誘導加熱するように、軸線Aに対して内側コイル51よりも径方向外側に配置されている。より具体的には、外側コイル55は、炊飯鍋10のうち底壁部11の外周部11bから周壁部12の拡開部12aに跨がった領域と対応するように、保護枠25の底部25aから外周部25bまでの外側面に配置されている。
【0057】
図2に最も明瞭に示すように、炊飯鍋10の軸線Aが延びる方向から見ると、外側コイル55は、炊飯鍋10の周方向に延びる長軸La2と、炊飯鍋10の径方向に延びる短軸Sa2とを有する非円形状である。図4を参照すると、本実施形態の外側コイル55は、短軸Sa2が長軸La2の中央に位置する楕円形状を呈する。この外側コイル55の形状は、内側コイル51と同様に、外側コイル55を形成する治具の形状に依存している。
【0058】
より具体的には、外側コイル55は、曲率が小さい一対の大径部56と、曲率が大きい一対の小径部57とを有する。一対の大径部56は、短軸Sa2が延びる方向に対向している。一対の小径部57は、長軸La2が延びる方向に対向し、一対の大径部56それぞれに連なっている。
【0059】
引き続いて図4を参照すると、外側コイル55のうち、長軸La2が延びる方向の寸法はSL2である。図2及び図3を併せて参照すると、長軸La2側の寸法SL2は、内側コイル51の短軸Sa1側の寸法SS1よりも大きい。例えば、前述のように内側コイル51の短軸Sa1側の寸法SS1が65mmである場合、外側コイル55の長軸La2側の寸法SL2は130mmに設定される。
【0060】
より具体的には、外側コイル55の長軸La2側の寸法SL2は、炊飯鍋10を誘導加熱する軸線Aまわりの角度範囲に基づいて設定されている。外側コイル55の生産性を考慮すると、炊飯鍋10に対する角度範囲が90度になる寸法SL2で外側コイル55を形成することが好ましい。炊飯鍋10の加熱性を考慮すると、炊飯鍋10に対する角度範囲が120度になる寸法SL2で外側コイル55を形成することが好ましい。本実施形態では、外側コイル55の生産性を優先し、炊飯鍋10に対する角度範囲が90度になる寸法SL2で外側コイル55が形成されている。
【0061】
外側コイル55のうち、短軸Sa2が延びる方向の寸法はSS2である。図2及び図4を参照すると、短軸Sa2側の寸法SS2は、炊飯鍋10に対する径方向の沿面距離に基づいて設定されている。例えば、底壁部11の中央部11aの半径r3が45mmで、周壁部12の拡開部12aの外側の半径r3が97.5mmの炊飯鍋10の場合、短軸Sa2側の寸法SS2は60mmに設定される。
【0062】
より具体的には、図1に示すように、外側コイル55の寸法SS2は、まず炊飯鍋10に対する外側コイル55の最高位置を決定し、必要な最低位置までの距離に基づいて設定される。外側コイル55の最高位置は、炊飯鍋10の全高に対して20%(1/5)以上33%(1/3)以下の位置に設定することが好ましく、本実施形態では25%(1/4)の位置に設定されている。ここで、炊飯鍋10の全高に対して25%の高さ位置とは、最大炊飯容量(つまり最大水位14aの高さ)に対して40%の位置に相当する。一方、外側コイル55の最低位置は、底壁部11の外周部11b内に配置されている。これにより、外側コイル55と内側コイル51の間隔が過度に広くなることを防ぎ、加熱領域の確保を図っている。
【0063】
このように構成された内側コイル51と外側コイル55は、図2に示すように、炊飯鍋10の軸線Aまわりに間隔をあけて3個ずつ配置されている。以下の説明では、3個の内側コイルを51A,51B,51Cと区別していい、3個の外側コイルを55A,55B,55Cと区別していうことがある。
【0064】
引き続いて図2を参照すると、制御部42は、インバータ回路43と切換部44によって、炊飯鍋10の対向位置にある内側コイル51Aと外側コイル55A、内側コイル51Bと外側コイル55B、及び内側コイル51Cと外側コイル55Cをそれぞれ一組のコイル群とし、3組のコイル群を個別に制御する。一組の内側コイル51と外側コイル55は、軸線Aを挟んで炊飯鍋10の対向位置に配置されるように、保護枠25の外側面に取り付けられている。一組の内側コイル51及び外側コイル55それぞれの図心は、炊飯鍋10の径方向に延びる基準線(図示せず)上に位置する。
【0065】
制御部42は、複数のコイル群のうち、1つに高周波電流を通電し、残りへの通電を遮断する通電モードを繰り返し行う。具体的には、コイル51A,55Aに高周波電流を通電し、コイル51B,51C,55B,55Cへの通電を遮断する第1通電モード、コイル51B,55Bに高周波電流を通電し、コイル51A,51C,55A,55Cへの通電を遮断する第2通電モード、及びコイル51C,55Cに高周波電流を通電し、コイル51A,51B,55A,55Bへの通電を遮断する第3通電モードを、繰り返し行う。
【0066】
図5A及び図5Bは、本実施形態の内側コイル51と外側コイル55によって炊飯鍋10を誘導加熱した場合の対流を示す。図6A及び図6Bは、本発明とは異なる1種のコイル60によって炊飯鍋10を誘導加熱した場合の対流を示す。
【0067】
図6の比較例のコイル60は、正対する方向から見て楕円形状であり、底壁部11の中央部11aから周壁部12の拡開部12aまでの領域を加熱するように、保護枠25に配置されている。
【0068】
まず、図6A及び図6Bに示すように、比較例のコイル60に高周波電流を通電すると、炊飯鍋10の底壁部11から周壁部12までの周方向の一部、より具体的には通電されるコイル60が配置された角度範囲が局所的に誘導加熱される。炊飯鍋10内において、コイル60による加熱領域の近傍に位置する水は間接的に加熱され、加熱領域から離れた水は加熱されない。加熱水と非加熱水の温度差によって炊飯鍋10内には対流が発生し、沸騰温度に近くなると、加熱領域から発生する気泡が伴うため対流速度は早くなる。コイル60による加熱によって生じる対流は、周壁部12に沿って上向きに流動した後、水面において炊飯鍋10の中央に向けて径方向に流れて収束する。その後、コイル60と対向する位置に向けて径方向に流動する。
【0069】
図6Bを参照すると、対向する2個のコイル60を同時に通電した場合、2個のコイル60による2つの対流が互いに打ち消し合う。また、図6Aを参照すると、炊飯鍋10の底中央に位置する飯米は、上から下に向けた対流によって底壁部11に押し付けられるため、撹拌作用は得られない。
【0070】
一方、本実施形態のように形状と配置が異なるコイル51,55を用いた場合、炊飯鍋10内で発生する対流は以下のようになる。
【0071】
図5A及び図5Bに示すように、内側コイル51Aに高周波電流を通電すると、炊飯鍋10の底壁部11と連続部13のうち、内側コイル51Aが配置された角度範囲が局所的に誘導加熱される。また、外側コイル55Aに高周波電流を通電すると、炊飯鍋10の稜部、つまり外周部11b、連続部13、及び拡開部12aのうち、外側コイル55Aが配置された角度範囲が局所的に誘導加熱される。炊飯鍋10内において、内側コイル51Aによる内側加熱領域の近傍に位置する水は加熱され、内側加熱領域から離れた水は加熱されない。また、外側コイル55Aによる外側加熱領域の近傍に位置する水は加熱され、外側加熱領域から離れた水は加熱されない。なお、コイル51B,55Bに通電した場合、及びコイル51C,55Cに通電した場合も同様である。
【0072】
炊飯鍋10内では、加熱水と非加熱水の温度差によって対流が生じ、水が沸騰温度に近くなると、加熱領域から発生する気泡が伴って対流の流速が早くなる。図5Aを参照すると、内側コイル51による加熱によって生じる対流の流動方向は、内側コイル51が周壁部12よりも内側に位置しているため、炊飯鍋10の軸線Aに沿う方向になる。外側コイル55による加熱によって生じる対流は、周壁部12に沿って上向きに流動した後、水面において炊飯鍋10の中央に向けて径方向に流れて収束する。その後、外側コイル55と対向する位置に向けて径方向に流動する。このように、形状と配置が異なる2種のコイル51,55によれば、それぞれ流動方向が異なる2種の対流を生じさせることができる。
【0073】
そのため、一組の内側コイル51と外側コイル55を同時に通電した場合、前述のように流動方向が異なる2種の対流が炊飯鍋10内に同時に発生する。図5Bに最も明瞭に示すように、2種の対流は、互いに打ち消し合うことなく、衝突後には分流する。
【0074】
内側コイル51による下から上に向けた対流によって、炊飯鍋10の底壁部11の中央に溜まった飯米は、水面側へ持ち上げられる。また、外側コイル55による周壁部12に沿った対流によって、炊飯鍋10の外周部11bに溜まった飯米が水面側へ持ち上げられ、その後、径方向の対向位置に向けた対流によって横向きに流される。2種の対流の衝突後は、外側コイル55による対流によって、内側コイル51による対流によって持ち上げられた飯米が周壁部12側へ押し込まれ、その後には周壁部12に沿って外側コイル55側へ流動する。
【0075】
以上のように、本実施形態の炊飯器1では、内側コイル51による対流によって炊飯鍋10の底の飯米を水面側へ持ち上げた後、外側コイル55による対流によって飯米を径方向と周方向に流動させることができる。よって、飯米の撹拌効率を飛躍的に向上できる。
【0076】
このように構成した炊飯器1は、以下の特徴を有する。
【0077】
形状と配置が異なる内側コイル51と外側コイル55を有し、内側コイル51によって周壁部12以外の少なくとも底壁部11が誘導加熱され、外側コイル55によって少なくとも周壁部12が誘導加熱される。内側コイル51による加熱によって生じる対流の流動方向と、外側コイル55による加熱によって生じる対流の流動方向は異なり、これらの対流は、互いに打ち消し合うことなく衝突後には分流する。その結果、炊飯鍋10内で発生する対流による飯米(調理物)の撹拌効率を向上できる。
【0078】
内側コイル51は底壁部11の中央部11aから連続部13にかけて延び、外側コイル55は底壁部11の外周部11bから周壁部12にかけて延びている。そのため、炊飯鍋10の径方向に非加熱領域が生じることを抑制できるとともに、流動方向が異なる2種の対流を確実に生じさせることができる。
【0079】
内側コイル51は炊飯鍋10の径方向に延びる長軸La1と炊飯鍋10の周方向に延びる短軸Sa1とを有する非円形状であり、外側コイル55は炊飯鍋10の周方向に延びる長軸La2と炊飯鍋10の径方向に延びる短軸Sa2とを有する非円形状である。このように、周方向の寸法SS1が短い内側コイル51を炊飯鍋10の内側に配置し、周方向の寸法SL2が長い外側コイル55を炊飯鍋10の外側に配置しているため、炊飯鍋10の外面側に内側コイル51と外側コイル55を敷き詰めるように配置できる。よって、炊飯鍋10に非加熱領域が生じることを抑制できる。
【0080】
外側コイル55の長軸La2側の寸法SL2が内側コイル51の短軸Sa1側の寸法SS1よりも大きい。よって、底壁部11よりも大径の周壁部12に対する外側コイル55の配置面積を確保できるため、炊飯鍋10の周壁部12に非加熱領域が生じることを抑制できる。
【0081】
内側コイル51は、炊飯鍋10の周方向に延びる内側部52と、内側部52の両端から炊飯鍋10の径方向外側に延びる一対の延在部53aとを有する。周方向に延びる内側部52の場合、巻線の巻回角度が緩やかになるため、単位面積当たりの配線密度を高くすることが可能である。よって、内側コイル51による炊飯鍋10の中央部分の加熱効率を向上できる。
【0082】
内側コイル51と外側コイル55が炊飯鍋10の対向位置に配置され、軸線Aまわりに並べて複数設けられている。これにより、炊飯鍋10の外面側に内側コイル51と外側コイル55を敷き詰めて配置できるため、炊飯鍋10全体を確実に誘導加熱できる。
【0083】
炊飯鍋10の対向位置にある内側コイル51と外側コイル55を一組のコイル群とし、制御部42が複数組のコイル群を個別に制御するため、飯米(調理物)を2種の対流によって効率的に撹拌しながら炊飯(調理)できる。
【0084】
以下、本発明の他の実施形態並びに種々の変形例を説明するが、これらの説明において、特に言及しない点は第1実施形態と同様である。以下で言及する図面において、第1実施形態と同一の要素には同一の符号を付している。
【0085】
(第2実施形態)
図7は第2実施形態の炊飯器1の内側コイル51と外側コイル55を示す。第2実施形態の炊飯器1は、外側コイル55を構成する一対の大径部56のうちの一方(以下、大径部56Aという)に、炊飯鍋10の軸線Aに向けて突出する突出部56aを設けた点で、第1実施形態の炊飯器1と相違する。
【0086】
図7及び図8を参照すると、突出部56aは、炊飯鍋10の径方向内側に位置する一対の内側コイル51それぞれの延在部53aに大径部56Aを沿って配置し、外側コイル55と内側コイル51の隙間を一様にするために設けられている。具体的には、大径部56Aは、一対の小径部57にそれぞれ連なり、互いに近づくように傾斜した一対の延在部56bを備える。一対の延在部56bは、内側コイル51の延在部53aに沿って延び、所定曲率で湾曲した突出部56aを介して連なっている。
【0087】
一対の延在部56bがなす角γは、周方向に隣り合う内側コイル51の延在部53a間の角度に基づいて設定される。つまり、外側コイル55のなす角γは、内側コイル51のなす角βに基づいて設定される。本実施形態のようにそれぞれ3個のコイル51,55を配置する場合、なす角γは、120度以上180度以下に設定することが好ましい。なす角γを過度に小さくした場合、炊飯鍋10の周方向に隣り合う内側コイル51と外側コイル55の間隔が広くなるため、炊飯鍋10の底壁部11に非加熱領域が生じ易くなる。なす角γを過度に大きくした場合、隣り合う内側コイル51と外側コイル55が重ならないように配置すると、外側コイル55の短軸Sa2側の寸法を短くする必要があるため、炊飯鍋10の底壁部11に非加熱領域が生じ易くなる。これらの不都合を防ぐために、外側コイル55のなす角γは上記定められた範囲に設定することが好ましく、本実施形態では170度に設定されている。
【0088】
このように構成された第2実施形態の炊飯器1では、第1実施形態と同様の作用及び効果を得ることができるうえ、炊飯鍋1に非加熱領域が生じることを効果的に抑制できる。
【0089】
(実験例)
本発明者らは、形状と配置が異なるコイル51,55を用いた誘導加熱による撹拌効率を確認するために、図5Bに示す第1実施形態のコイル51,55を用いた炊飯器と、図6Bに示す比較例のコイル60を用いた炊飯器とを用意して、実験を行った。
【0090】
第1の実験では、赤く着色した飯米1.5CUPを炊飯鍋10にセットし、その上に青く着色した飯米0.5CUPをセットして炊飯し、炊上がった米飯の上面を写真撮影し、画像処理によって赤米青米の比率を解析し、赤米の存在率を撹拌率として算出した。その結果、比較例のコイル60を用いた場合の撹拌率が43%であったのに対して、第1実施形態のコイル51,55を用いた場合、撹拌率は57%であった。
【0091】
第2の実験では、通常の飯米を炊飯し、炊き上がった米飯のBrix値(甘み成分濃度)を測定した。その結果、第1実施形態のコイル51,55を用いた場合のBrix値は、比較例のコイル60を用いた場合のBrix値よりも24%アップした。
【0092】
以上の実験結果から、比較例の炊飯器に比べて本実施形態の炊飯器1では、炊きムラ無く、全体的に甘く均一な仕上がりで炊飯できることを確認できた。
【0093】
なお、本発明は、前記実施形態の構成に限定されず、種々の変更が可能である。
【0094】
例えば、内側コイル51と外側コイル55それぞれの数は、3個ずつに限られず、図9及び図10に示すように、4個ずつ配置してもよい。また、内側コイル51と外側コイル55は、それぞれ2個配置されてもよいし、5個以上配置されてもよい。
【0095】
図9を参照すると、第1変形例では、炊飯鍋10の軸線Aが延びる方向から見て、概ね直角二等辺三角形状の内側コイル51と、楕円形状の外側コイル55とが、炊飯鍋10の周方向に間隔をあけてそれぞれ4個ずつ配置されている。内側コイル51は、3つの頂部(角部)のうちの直角部分の頂部が炊飯鍋10の軸線A側に配置されている。外側コイル55A~55Dは、内側コイル51A~51Dに対してそれぞれ対向する位置に配置されている。このように構成された第1変形例の炊飯器では、第1実施形態と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0096】
図10を参照すると、第2変形例では、炊飯鍋10の軸線Aが延びる方向から見て、概ね正方形状の内側コイル51と、楕円形状の外側コイル55とが、炊飯鍋10の周方向に間隔をあけてそれぞれ4個ずつ配置されている。内側コイル51は、4つの頂部(角部)のうちの1つが炊飯鍋10の軸線A側に配置されている。炊飯鍋10の径方向において、外側コイル55Aは内側コイル51C,51Dの外側に配置され、外側コイル55Bは内側コイル51A,51Dの外側に配置され、外側コイル55Cは内側コイル51A,51Bの外側に配置され、外側コイル55Dは内側コイル51B,51Cの外側に配置されている。つまり、コイル51Aと55A、51Bと55B、51Cと55C、及び51Dと55Dは、いずれも炊飯鍋10の対向位置に配置されているが、いずれの組も図心は炊飯鍋10の径方向に延びる同じ基準線(図示せず)上には配置されていない。このように構成された第2変形例の炊飯器でも、第1実施形態と概ね同様の作用及び効果を得ることができる。
【0097】
また、本発明の炊飯器1は、以下のように構成されてもよい。
【0098】
例えば、内側コイル51は、炊飯鍋10の底壁部11だけを誘導加熱するように保護枠25に配置され、外側コイル55は、炊飯鍋10の周壁部12だけを誘導加熱するように保護枠25に配置されてもよい。
【0099】
制御部42は、対向する内側コイル51と外側コイル55を一組のコイル群として制御する構成に限られず、複数の内側コイル51を一組のコイル群とし、複数の外側コイル55を一組のコイル群とし、これらのコイル群を個別に制御してもよい。また、複数の内側コイル51と複数の外側コイル55を、それぞれ個別に制御してもよい。
【0100】
炊飯鍋10の温度を検出する温度センサ45Aは、サイドセンサに限られず、保護枠25の中央に配置するセンタセンサであってもよい。
【0101】
前記実施形態では炊飯器1を例に挙げて説明したが、焼く、蒸す、揚げるといった種々の調理が可能なマルチクッカーであってもよく、本発明は、有底筒状の鍋の外面側に複数のコイルを配置する調理器であれば適用可能であり、同様の作用および効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0102】
1 炊飯器(調理器)
10 炊飯鍋(鍋)
11 底壁部
11a 中央部
11b 外周部
12 周壁部
12a 拡開部
12b 上側部
13 連続部
14 水位線
14a 最大炊飯容量位置
20 炊飯器本体
21 外装体
22 ヒンジ接続軸
23 収容部
24 内胴
25 保護枠
25a 底部
25b 外周部
25c 連続部
30 蓋体
31 放熱板
32 内蓋
33 蓋ヒータ
34 排気通路
40 ホルダ
41 制御基板
42 制御部
42a 記憶部
42b 計時部
43 インバータ回路
44 切換部
45A,45B 温度センサ
50 加熱部
51,51A~51C 内側コイル
51a 内周部
51b 外周部
52 内側部
52a 延在部
52b 湾曲部
53 外側部
53a 延在部
53b 湾曲部
54 連続部
55,55A~55C 外側コイル
55a 内周部
55b 外周部
56,56A 大径部
56a 突出部
56b 延在部
57 小径部
60 比較例のコイル
La1 内側コイルの長軸
Sa1 内側コイルの短軸
La2 外側コイルの長軸
Sa2 外側コイルの短軸
A 鍋の軸線
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10