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特許7650206タイヤ管理装置、プログラム及びタイヤ管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-13
(45)【発行日】2025-03-24
(54)【発明の名称】タイヤ管理装置、プログラム及びタイヤ管理方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20250314BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20250314BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021122740
(22)【出願日】2021-07-27
(65)【公開番号】P2023018538
(43)【公開日】2023-02-08
【審査請求日】2024-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】勝野 弘之
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第112572067(CN,A)
【文献】特開2021-037885(JP,A)
【文献】特開2010-285066(JP,A)
【文献】特開2005-028950(JP,A)
【文献】国際公開第2004/085968(WO,A1)
【文献】特開平05-281097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00 -17/10
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複輪を有する鉱山車両に取付けられたタイヤを管理するタイヤ管理装置であって、
前記鉱山車両の走行データを取得するデータ取得部と、
1つの前記タイヤにおいて2か所以上の算出位置を定めて、取得した前記走行データに基づいて、定められた前記算出位置のそれぞれにおける前記タイヤの摩耗状態を算出する摩耗状態算出部と、
前記算出位置が前記複輪の装着外側又は装着内側である場合に、算出された前記摩耗状態を摩耗が大きくなるように補正を行う摩耗状態補正部と、を備える、タイヤ管理装置。
【請求項2】
前記走行データは、前記鉱山車両が走行する環境に関するデータを含み、
前記摩耗状態補正部は、前記環境に関するデータに基づいて前記補正で用いられる補正係数を調整する、請求項1に記載のタイヤ管理装置。
【請求項3】
前記環境に関するデータは、降雨の有無を含む天気情報を含み、
前記摩耗状態補正部は、前記天気情報に基づいて、降雨が有ると判定する場合に、摩耗が大きくなるように前記補正係数を調整する、請求項2に記載のタイヤ管理装置。
【請求項4】
前記環境に関するデータは、前記鉱山車両が走行する路面情報を含み、
前記摩耗状態補正部は、前記路面情報に基づいて、路面の性質に応じて前記補正係数を調整する、請求項2又は3に記載のタイヤ管理装置。
【請求項5】
複輪を有する鉱山車両に取付けられたタイヤを管理するタイヤ管理装置に、
前記鉱山車両の走行データを取得することと、
1つの前記タイヤにおいて2か所以上の算出位置を定めて、取得した前記走行データに基づいて、定められた前記算出位置のそれぞれにおける前記タイヤの摩耗状態を算出することと、
前記算出位置が前記複輪の装着外側又は装着内側である場合に、算出された前記摩耗状態を摩耗が大きくなるように補正を行うことと、を実行させる、プログラム。
【請求項6】
複輪を有する鉱山車両に取付けられたタイヤを管理するタイヤ管理装置が実行するタイヤ管理方法であって、
前記鉱山車両の走行データを取得することと、
1つの前記タイヤにおいて2か所以上の算出位置を定めて、取得した前記走行データに基づいて、定められた前記算出位置のそれぞれにおける前記タイヤの摩耗状態を算出することと、
前記算出位置が前記複輪の装着外側又は装着内側である場合に、算出された前記摩耗状態を摩耗が大きくなるように補正を行うことと、を含む、タイヤ管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タイヤ管理装置、プログラム及びタイヤ管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、走行中の車両のデータを取得して、タイヤへの影響を推定するシステムが知られている。例えば、特許文献1は、走行モードの各区間における摩擦エネルギーを演算し、タイヤの全摩耗量を予測するシステムを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-156295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、車両のうち鉱山車両は、鉱山作業に用いられるダンプトラック等であって、一般的なトラックに比べて格段に大きな車体を有する。また、鉱山車両は、未舗装の悪路を走行する。鉱山車両のタイヤの摩耗状態を予測する場合に、通常の車両を対象とするシステムを用いて予測すると、実際の摩耗状態との乖離が大きくなることがあった。
【0005】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、鉱山車両のタイヤの摩耗状態を精度よく算出できるタイヤ管理装置、プログラム及びタイヤ管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態に係るタイヤ管理装置は、複輪を有する鉱山車両に取付けられたタイヤを管理するタイヤ管理装置であって、前記鉱山車両の走行データを取得するデータ取得部と、1つの前記タイヤにおいて2か所以上の算出位置を定めて、取得した前記走行データに基づいて、定められた前記算出位置のそれぞれにおける前記タイヤの摩耗状態を算出する摩耗状態算出部と、前記算出位置が前記複輪の装着外側又は装着内側である場合に、算出された前記摩耗状態を摩耗が大きくなるように補正を行う摩耗状態補正部と、を備える。
この構成により、鉱山車両のタイヤの摩耗状態を精度よく算出でき、鉱山車両に取付けられたタイヤの状態を適切に管理することができる。
【0007】
本開示の一実施形態として、前記走行データは、前記鉱山車両が走行する環境に関するデータを含み、前記摩耗状態補正部は、前記環境に関するデータに基づいて前記補正で用いられる補正係数を調整する。
この構成により、鉱山車両の走行環境によるタイヤ摩耗への影響を、適切にタイヤの摩耗状態の算出に反映することができる。
【0008】
本開示の一実施形態として、前記環境に関するデータは、降雨の有無を含む天気情報を含み、前記摩耗状態補正部は、前記天気情報に基づいて、降雨が有ると判定する場合に、摩耗が大きくなるように前記補正係数を調整する。
この構成により、降雨によるタイヤ摩耗への影響を、適切にタイヤの摩耗状態の算出に反映することができる。
【0009】
本開示の一実施形態として、前記環境に関するデータは、前記鉱山車両が走行する路面情報を含み、前記摩耗状態補正部は、前記路面情報に基づいて、路面の性質に応じて前記補正係数を調整する。
この構成により、路面の性質によるタイヤ摩耗への影響を、適切にタイヤの摩耗状態の算出に反映することができる。
【0010】
本開示の一実施形態に係るプログラムは、複輪を有する鉱山車両に取付けられたタイヤを管理するタイヤ管理装置に、前記鉱山車両の走行データを取得することと、1つの前記タイヤにおいて2か所以上の算出位置を定めて、取得した前記走行データに基づいて、定められた前記算出位置のそれぞれにおける前記タイヤの摩耗状態を算出することと、前記算出位置が前記複輪の装着外側又は装着内側である場合に、算出された前記摩耗状態を摩耗が大きくなるように補正を行うことと、を実行させる。
この構成により、鉱山車両のタイヤの摩耗状態を精度よく算出でき、鉱山車両に取付けられたタイヤの状態を適切に管理することができる。
【0011】
本開示の一実施形態に係るタイヤ管理方法は、複輪を有する鉱山車両に取付けられたタイヤを管理するタイヤ管理装置が実行するタイヤ管理方法であって、前記鉱山車両の走行データを取得することと、1つの前記タイヤにおいて2か所以上の算出位置を定めて、取得した前記走行データに基づいて、定められた前記算出位置のそれぞれにおける前記タイヤの摩耗状態を算出することと、前記算出位置が前記複輪の装着外側又は装着内側である場合に、算出された前記摩耗状態を摩耗が大きくなるように補正を行うことと、を含む。
この構成により、鉱山車両のタイヤの摩耗状態を精度よく算出でき、鉱山車両に取付けられたタイヤの状態を適切に管理することができる。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、鉱山車両のタイヤの摩耗状態を精度よく算出できるタイヤ管理装置、プログラム及びタイヤ管理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本開示の一実施形態に係るタイヤ管理装置の構成例を示す図である。
図2図2は、図1のタイヤ管理装置を備えるタイヤ管理システムの構成例を示す図である。
図3図3は、摩擦エネルギーと摩耗速度との関係を例示する図である。
図4図4は、タイヤの算出位置及び補正について説明するための図である。
図5図5は、本開示の一実施形態に係るタイヤ管理方法の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本開示の一実施形態に係るタイヤ管理装置及びタイヤ管理方法が説明される。各図中、同一又は相当する部分には、同一符号が付されている。本実施形態の説明において、同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0015】
図1は、本実施形態に係るタイヤ管理装置10の構成例を示す。図2は、図1のタイヤ管理装置10を備えるタイヤ管理システム1の構成例を示す。タイヤ管理装置10は、車両20に取付けられたタイヤ30を管理する装置である。タイヤ管理装置10は、タイヤ30の状態の管理として、摩耗状態(一例として摩耗速度)を算出してユーザに提示することができる。ここで、ユーザは、タイヤ管理装置10又はタイヤ管理システム1の利用者であるが、特に車両20の運転者を含む。
【0016】
本実施形態において、車両20は鉱山車両である。鉱山車両は、鉱山作業に用いられるダンプトラック等であって、一般的なトラックに比べて格段に大きな車体を有する。鉱山車両は未舗装の悪路も走行する。本実施形態において、タイヤ管理装置10は、複輪(ダブルタイヤ)を有する鉱山車両を対象とする。複輪とは、車両20の車軸の片側において、2つのタイヤ30が設けられた状態をいう。本実施形態において、車両20である鉱山車両は、後輪のみが複輪であるとして説明するが、別の例として前輪も複輪であってよい。
【0017】
タイヤ管理装置10は、通信部11と、記憶部12と、制御部13と、を備える。制御部13は、データ取得部131と、摩耗状態算出部132と、摩耗状態補正部133と、出力部134と、を備える。タイヤ管理装置10は、ハードウェア構成として、例えばサーバのようなコンピュータであってよい。タイヤ管理装置10の構成要素の詳細については後述する。
【0018】
タイヤ管理装置10は、ネットワーク40で接続される端末装置50及びサーバ60の少なくとも1つとともに、タイヤ管理システム1を構成してよい。ネットワーク40は、例えばインターネットであるが、LAN(Local Area Network)であってよい。
【0019】
端末装置50は、例えばスマートフォン又はタブレット端末等の汎用の移動端末であるが、これらに限定されない。端末装置50は、ユーザによって所持される。端末装置50は、車両20の走行データを取得して、ネットワーク40を介して、タイヤ管理装置10に送信してよい。また、端末装置50は、タイヤ管理装置10からの摩耗状態などの情報を、ネットワーク40を介して取得して、ユーザに表示する表示装置として機能してよい。端末装置50は、車両20に通信機能を備える装置が搭載されている場合に、その装置と無線通信することによって走行データを取得してよい。
【0020】
サーバ60は、例えばタイヤ管理装置10とは別のコンピュータである。サーバ60は、例えば車両20の点検施設に設置されてよい。サーバ60は、車両20の走行データを取得して、ネットワーク40を介して、タイヤ管理装置10に送信してよい。また、サーバ60は、タイヤ管理装置10からの摩耗状態などの情報を、ネットワーク40を介して取得して、サーバ60に接続されたディスプレイなどの表示装置に表示させてよい。サーバ60は、車両20に通信機能を備える装置が搭載されている場合に、その装置と無線通信することによって走行データを取得してよい。
【0021】
また、車両20に搭載された装置が直接的にネットワーク40に接続可能であって、走行データをタイヤ管理装置10に送信してよい。また、車両20に搭載された装置はディスプレイを備えてよい。車両20に搭載された装置は、タイヤ管理装置10からの摩耗状態などの情報を、ネットワーク40を介して取得して、ディスプレイに表示させてよい。車両20に搭載された装置は、例えば無線通信機能を有する運転支援装置であってよいが、特に限定されない。
【0022】
ここで、タイヤ管理システム1は図2に示される構成に限定されない。例えば、タイヤ管理システム1はサーバ60を省略した構成であってよい。例えば、タイヤ管理システム1は、車両20に搭載された装置がネットワーク40を介して走行データをタイヤ管理装置10に送信し、端末装置50がネットワーク40を介してタイヤ管理装置10からの摩耗状態などの情報をユーザに表示する構成であってよい。
【0023】
以下、タイヤ管理装置10の構成要素の詳細が説明される。通信部11は、ネットワーク40に接続する1つ以上の通信モジュールを含んで構成される。通信部11は、例えば4G(4th Generation)、5G(5th Generation)などの移動体通信規格に対応する通信モジュールを含んでよい。通信部11は、例えば有線のLAN規格(一例として1000BASE-T)に対応する通信モジュールを含んでよい。通信部11は、例えば無線のLAN規格(一例としてIEEE802.11)に対応する通信モジュールを含んでよい。
【0024】
記憶部12は、1つ以上のメモリである。メモリは、例えば半導体メモリ、磁気メモリ、又は光メモリ等であるが、これらに限られず任意のメモリとすることができる。記憶部12は、例えばタイヤ管理装置10に内蔵されるが、任意のインターフェースを介してタイヤ管理装置10に外部からアクセスされる構成も可能である。
【0025】
記憶部12は、制御部13が実行する各種の算出において使用される各種のデータを記憶する。また、記憶部12は、制御部13が実行する各種の算出の結果及び中間データを記憶してよい。
【0026】
本実施形態において、記憶部12は、摩耗状態算出部132によるタイヤ30の摩耗状態の算出などで用いられる関数(数値モデル)を記憶する。数値モデルの詳細については後述する。
【0027】
制御部13は、1つ以上のプロセッサである。プロセッサは、例えば汎用のプロセッサ、又は特定の処理に特化した専用プロセッサであるが、これらに限られず任意のプロセッサとすることができる。制御部13は、タイヤ管理装置10の全体の動作を制御する。
【0028】
ここで、タイヤ管理装置10は、以下のようなソフトウェア構成を有してよい。タイヤ管理装置10の動作の制御に用いられる1つ以上のプログラムが記憶部12に記憶される。記憶部12に記憶されたプログラムは、制御部13のプロセッサによって読み込まれると、制御部13をデータ取得部131、摩耗状態算出部132、摩耗状態補正部133及び出力部134として機能させる。
【0029】
データ取得部131は、車両20の走行データを取得する。走行データは、車両20の走行の状態に関するデータを含む。また、走行データは、車両20が走行する環境に関するデータを含んでよい。車両20の走行の状態に関するデータは、例えば車両20の加速度、速度、位置などを含んでよい。本実施形態において、走行データは車両20の加速度データを含む。また、環境に関するデータは、例えば車両20が走行している場所の気温、季節、降雨の有無を含む天気情報、路面情報などを含んでよい。本実施形態において、走行データは降雨の有無を含む天気情報及び路面情報を含む。
【0030】
加速度は、例えば車両20が備える加速度センサによって測定されてよい。車両20の加速度データは、例えば車両20のECU(Electronic Control Unit)から、CAN(Controller Area Network)などの車載ネットワーク、車両20に搭載された通信機能を備える装置及びネットワーク40を介して取得されてよい。データ取得部131は、加速度データを例えば時系列データとして取得してよい。
【0031】
ここで、加速度データは、車両20の正面側(前方)への加速度成分又は車両20の正面反対側(後方)への加速度成分だけでなく、車両20の横方向への加速度成分の情報を含む。車両20の加速度は、前方又は後方への加速度成分と横方向への加速度成分とを同時に測定可能なように、2次元以上の加速度センサによって測定されてよい。車両20の加速度の測定は、一例として1秒毎に行われるが、特に限定されない。
【0032】
環境に関するデータは、例えば車両20に搭載された装置がネットワーク40を介して取得する情報であってよい。このような装置が、例えばGPS(Global Positioning System)機能によって車両20の位置を特定して、位置情報に基づいて、天気情報及び路面情報などを、ネットワーク40を介して取得してよい。さらに車両20に搭載された装置が、取得した環境に関するデータを、データ取得部131に出力してよい。ここで、路面情報は、鉱山車両である車両20が走行する鉱山における鉱物の種類(例えば石炭、鉄、銅など)を含んでよい。また、路面情報は、路面の強度を示すコーン指数を含んでよい。
【0033】
データ取得部131が取得する走行データは、車両20又は車両20の運転者と紐づけられて、記憶部12に蓄積されてよい。また、タイヤ管理装置10は、定期的に摩耗状態を算出してよい。このとき、データ取得部131は定期的に走行データを取得してよい。
【0034】
摩耗状態算出部132は、取得した上記の走行データに基づいて、タイヤ30の摩耗状態を算出する。本実施形態において、摩耗状態算出部132は、タイヤ30の摩耗状態として摩耗速度を算出する。摩耗速度は、所定走行距離あたりの摩耗量である。ここで、タイヤ30の摩耗状態は、摩耗速度に限定されず、別の例として摩耗量、摩耗寿命までの走行可能距離、後述する摩耗寿命期待値TIなどであってよい。
【0035】
ここで、従来からタイヤ30の摩耗は、車両20の走行によってタイヤ30にかかる力に影響されることが知られている。例えば特開平11-326143号公報に記載される摩擦エネルギーEwに基づいて、タイヤ30の摩耗速度を算出することができる。摩擦エネルギーEwは、タイヤ30の摩耗し易さを示すパラメータである。摩擦エネルギーEwが大きいほどタイヤ30の摩耗速度が大きくなり、摩耗寿命が短くなる。
【0036】
本実施形態において、摩耗状態算出部132は、走行データに基づいて摩擦エネルギーEwを算出する。摩擦エネルギーEwは以下の式(1)で表される。また、摩擦エネルギーEwを用いて、以下の式(2)で表されるタイヤ30の摩耗寿命期待値TIを算出することができる。例えば摩耗状態算出部132がタイヤ30の摩耗情報として摩耗寿命までの走行可能距離を算出する場合に、摩耗寿命期待値TIにタイヤ30の種類で定められる係数を乗じることによって走行可能距離を推定することが可能である。
Ew=Ewf+Ewa+Ews+Ewd+Ewb … 式(1)
TI=(Gl/Ew)×(NSD-1.6) … 式(2)
【0037】
式(1)において、Ewfはフリーローリング時のタイヤ30の摩擦エネルギー成分である。Ewaはトー角が付与されている状態でのタイヤ30の摩擦エネルギー成分である。Ewsは横力(左右力)が付与されている状態でのタイヤの摩擦エネルギー成分である。Ewdは駆動力が付与されている状態でのタイヤの摩擦エネルギー成分である。Ewbは制動力が付与されている状態でのタイヤの摩擦エネルギー成分である。また、式(2)において、Glは摩耗抵抗指数であって、タイヤ30におけるトップゴムの摩耗性能を示す指数である。NSDはタイヤ30の溝深さ(mm)である。「1.6」はタイヤ30の棄却限界とされている残溝1.6(mm)に相当する。
【0038】
式(1)のEws、Ewd及びEwbは、横力、駆動力及び制動力による摩擦エネルギー成分であるため、車両20の走行の状態によって変化する。横力、駆動力及び制動力は、車両20の横方向、前方及び後方への加速度に基づいて求められる。摩耗状態算出部132は、本実施形態のように走行データが加速度データを含む場合には、加速度データから車両20の横方向、前方及び後方への加速度を得ることができる。このように、摩耗状態算出部132は、走行データに基づいて、摩擦エネルギーEwを算出することができる。
【0039】
摩耗状態算出部132は、タイヤ30の種類に応じて、記憶部12から適する関数を読み出す。本実施形態において、関数は図3に示すような摩擦エネルギーEwと摩耗速度の関係を示す数値モデルである。タイヤ30に対する摩擦エネルギーEwと摩耗速度とは比例関係にある。図3の例では、2種類のタイヤ30のそれぞれの摩耗速度を算出するための数値モデルであるCx0及びCy0が示されている。Cx0及びCy0は、例えば過去の実測データに基づいて定められてよい。摩耗状態算出部132は、例えば図3のCx0を読み出して、算出した摩擦エネルギーEwを入力することによってタイヤ30の摩耗速度(補正前の摩耗速度)を算出する。
【0040】
ここで、摩耗状態算出部132は、鉱山車両であるに車両20に取付けられたタイヤ30のそれぞれについて摩耗速度を算出する。例えば前輪と後輪とでタイヤ30の種類が異なる場合に、摩耗状態算出部132は、それぞれのタイヤ30の種類に応じて、記憶部12から適する関数を読み出す。また、例えば複輪を構成する2つのタイヤ30の種類が異なる場合にも、摩耗状態算出部132は、それぞれのタイヤ30の種類に応じて、記憶部12から適する関数を読み出す。さらに、摩耗状態算出部132は、1つのタイヤ30において2か所以上の算出位置(図4のPf1、Pf2、Pr1及びPr2参照)を定めて、定められた算出位置のそれぞれにおけるタイヤ30の摩耗状態を算出する。算出位置は、タイヤ30のトレッド幅方向で異なる2か所以上に定められる。鉱山車両は一般的なトラックに比べて、タイヤ30の幅も大きく、また、後述するように摩耗状態に偏りが生じ得る。そのため、摩耗状態算出部132は、1つのタイヤ30につき2か所以上の算出位置での摩耗状態を求める。
【0041】
ここで、本発明者が摩耗速度の算出について、さらなる精度向上のための方途について鋭意究明したところ、鉱山車両の複輪を構成するタイヤ30において、摩耗状態に偏りが生じることが判明した。図4に示すように、鉱山車両である車両20は、例えば前輪の2つのタイヤ30-1、30-2と、後輪の4つのタイヤ30-3、30-4、30-5、30-6と、を備える。図4の例において、左側の後輪の複輪は、タイヤ30-3及び30-4で構成される。また、右側の後輪の複輪は、タイヤ30-5及び30-6で構成される。本発明者の解析によれば、複輪の装着外側(図4のSout)及び複輪の装着内側(図4のSin)において、摩耗速度(摩耗量)が大きくなることがわかった。例えばタイヤ30-3(又はタイヤ30-6)について、複輪の装着外側であるSoutの領域における摩耗速度は、同じタイヤ30のSoutに含まれない領域の摩耗速度の1.1~2.0倍の大きさであった。また、例えばタイヤ30-4(又はタイヤ30-5)について、複輪の装着内側であるSinの領域における摩耗速度は、同じタイヤ30のSinに含まれない領域の摩耗速度の1.1~2.0倍の大きさであった。ここで、複輪でない前輪のタイヤ30-1、30-2について、摩耗状態の偏りはほとんどなかった。また、摩耗速度(摩耗量)は、路面の強度などによって差が生じることがあった。例えば硬い路面ではタイヤ30が削られることによって摩耗速度が大きくなりやすいと考えられる。
【0042】
摩耗状態算出部132は、上記の摩耗状態の偏りを摩耗速度の算出に反映するために、2か所以上の算出位置について、少なくとも1つの算出位置が装着内側の領域(又は装着外側の領域)に含まれ、少なくとも別の1つの算出位置がその領域に含まれないように定める。図4の例において、摩耗状態算出部132は、後輪の4つのタイヤ30-3、30-4、30-5、30-6のそれぞれについて、2か所の算出位置であるPr1とPr2とを定めている。例えばタイヤ30-3について、摩耗状態算出部132は、Pr1が複輪の装着外側であるSoutに含まれ、Pr2がSoutに含まれないように定めている。また、例えばタイヤ30-4について、摩耗状態算出部132は、Pr2が複輪の装着内側であるSinに含まれ、Pr1がSinに含まれないように定めている。ここで、摩耗状態算出部132は、前輪の2つのタイヤ30-1、30-2のそれぞれについても、2か所の算出位置であるPf1とPf2とを定めている。摩耗状態算出部132は、取得した走行データに基づいて、定められた算出位置のそれぞれにおけるタイヤ30の摩耗状態(摩耗速度)を算出する。ここで、摩耗状態算出部132は、同じタイヤ30の2か所の算出位置における、一方の摩耗速度を、他方の算出結果で定めてよい。例えば摩耗状態算出部132は、例えばタイヤ30-6について、Pr1における摩耗速度を算出して、Pr2における摩耗速度も同じであるとしてよい。つまり、補正前の摩耗速度は、1つのタイヤ30において、全ての算出位置で同じであってよい。
【0043】
摩耗状態補正部133は、上記の摩耗状態の偏りを摩耗速度の算出に反映するために、算出位置が複輪の装着外側又は装着内側である場合に、算出された摩耗状態を摩耗が大きくなるように補正を行う。摩耗状態補正部133は、摩耗状態算出部132によって定められた算出位置のうち、複輪の装着外側又は装着内側に含まれるものについて、その摩耗速度を補正する。図4の例において、黒い丸で示されるタイヤ30-3のPr1、タイヤ30-4のPr2、タイヤ30-5のPr1及びタイヤ30-6のPr2の摩耗速度が補正される。
【0044】
図3の例において、補正前の摩耗速度がCx0を用いて算出される場合に、摩耗状態補正部133はCx1で示される摩耗速度に補正してよい。図3のように摩擦エネルギーEwとタイヤ30の摩耗状態(摩耗速度)とが線形関係にある場合に、摩耗状態補正部133は補正前の値に、補正係数を乗じることによって補正してよい。補正係数は1より大きい値であって、例えば補正前の値を1.1~2.0倍にするものであってよい。補正係数の値は、タイヤ30の位置などによって変動してよい。例えば、タイヤ30-3のPr1での補正係数が1.3であって、タイヤ30-4のPr2での補正係数が1.5であってよい。補正係数の値は、過去の摩耗状態の偏りの実績データなどから、算出位置毎に定められてよい。
【0045】
上記のように、走行データは車両20が走行する環境に関するデータを含み得る。摩耗状態補正部133は、環境に関するデータに基づいて、補正で用いられる補正係数を調整してよい。図3の例において、補正前の摩耗速度がCx0を用いて算出されて、環境に関するデータに基づく調整をしていない摩耗速度がCx1で示される場合に、摩耗状態補正部133はCx2で示される摩耗速度になるように調整してよい。図3のように摩擦エネルギーEwとタイヤ30の摩耗状態(摩耗速度)とが線形関係にある場合に、摩耗状態補正部133は補正前の値に補正係数を乗じることによって補正するが、その補正係数の値を、環境に関するデータに基づいて調整してよい。
【0046】
本実施形態において、環境に関するデータは、降雨の有無を含む天気情報を含む。摩耗状態補正部133は、天気情報に基づいて、降雨が有ると判定する場合に、摩耗が大きくなるように補正係数を調整してよい。降雨が有ると、鉱山車両のタイヤ30は空転することによって、タイヤ30の表面が路面によって削られやすくなり、摩耗速度が大きくなると考えられる。そのため、例えば調整前の補正係数の値が1.5(すなわち、補正前の摩耗速度を1.5倍にする)である場合に、摩耗状態補正部133は、補正係数の値を1.6に調整してよい。ここで、舗装道路を走行する一般車両では、降雨が有ると摩耗が小さくなる。一般車両と鉱山車両とでは、降雨によるタイヤ30の摩耗への影響が正反対であり、摩耗状態補正部133が鉱山車両用の降雨に対する補正を実行することによって予測精度が大きく向上すると考えられる。
【0047】
また、本実施形態において、環境に関するデータは、鉱山車両が走行する路面情報を含む。摩耗状態補正部133は、路面情報に基づいて、路面の性質に応じて補正係数を調整してよい。例えば、車両20が走行する鉱山における鉱物の種類が、鉄又は銅でなく石炭である場合に、比較的、摩耗速度は小さくなる。そのため、例えば調整前の補正係数の値が鉄を基準とする1.5である場合に、摩耗状態補正部133は、補正係数の値を1.4に調整してよい。ここで、摩耗状態補正部133は、鉱物の種類に代えてコーン指数を用いて、補正係数を調整してよい。
【0048】
このように、摩耗状態補正部133は、摩耗状態の算出位置が複輪の装着外側又は装着内側である場合に、算出された摩耗状態を摩耗が大きくなるように補正を行うことによって、鉱山車両のタイヤ30における摩耗状態の偏りを反映することができる。また、摩耗状態補正部133は、鉱山車両が走行する環境に応じて補正量を調整できる。そのため、算出する摩耗速度の精度を高めることができる。
【0049】
出力部134は、摩耗状態算出部132が算出した摩耗速度を、表示装置などに対して出力する。摩耗状態補正部133によって補正が行われた場合に、出力部134は、補正後の摩耗速度を、表示装置などに対して出力する。上記のように、端末装置50及びサーバ60のディスプレイなどが、ユーザに摩耗速度を表示する表示装置として機能し得る。例えば端末装置50の画面に、摩耗状態(本実施形態においては摩耗速度)とともに、摩耗状態に関する情報が表示されてよい。摩耗状態に関する情報は、摩耗状態に基づくタイヤ30を管理するための情報であって、例えばタイヤ30の交換のアドバイスなどであってよい。例えば摩耗速度が大きい場合に、摩耗耐性の高いタイヤ30への変更の提案が表示されてよい。摩耗状態に関する情報は、例えば記憶部12に定型文などで記憶されており、出力部134によって選択されてよい。また、点検施設に設置されたディスプレイなどに摩耗状態が表示される場合に、その情報に基づいて車両20のタイヤ30の交換時期が決定されてよいし、タイヤ30の装着位置(前輪と後輪、複輪の装着外側と装着内側など)の変更の提案が行われてよい。
【0050】
図5は、本実施形態に係るタイヤ管理装置10において実行されるタイヤ管理方法を例示するフローチャートである。
【0051】
データ取得部131は、複輪を有する鉱山車両である車両20の走行データを取得する(ステップS1)。
【0052】
摩耗状態算出部132は、算出位置のそれぞれにおけるタイヤ30の摩耗状態を算出する(ステップS2)。上記のように、1つのタイヤ30において2か所以上の算出位置が定められる。1つのタイヤ30において、算出位置の少なくとも1つが摩耗状態に偏りが生じ得る領域(複輪の装着外側又は装着内側)に含まれ、算出位置の少なくとも別の1つがその領域外に含まれる。
【0053】
摩耗状態補正部133は、算出位置のそれぞれについて、補正が必要か否か(補正要否)を判定して、補正が必要であれば補正を行う。摩耗状態補正部133は、1つの算出位置を選択して、選択した算出位置が複輪の装着外側又は装着内側である場合に(ステップS3のYes)、ステップS4の処理に進む。摩耗状態補正部133は、選択した算出位置が複輪の装着外側又は装着内側でない場合に(ステップS3のNo)、補正を行わず、ステップS7の処理に進む。
【0054】
摩耗状態補正部133は、降雨が有る又は路面の性質が前提と大きく異なる場合など、環境に関するデータに基づく調整が必要な場合に(ステップS4のYes)、補正係数を調整する(ステップS5)。摩耗状態補正部133は、環境に関するデータに基づく調整が必要でない場合に(ステップS4のNo)、補正係数の調整を行わない。そして、摩耗状態補正部133は、摩耗状態算出部132によって算出された摩耗状態を摩耗が大きくなるように補正する(ステップS6)。
【0055】
摩耗状態補正部133が全ての算出位置について補正要否を判定した場合には(ステップS7のYes)、ステップS8の処理が行われる。摩耗状態補正部133は、補正要否を判定していない算出位置がある場合に(ステップS7のNo)、別の算出位置を選択して、ステップS3の処理に戻る。
【0056】
出力部134は、摩耗状態算出部132によって算出された、又は、摩耗状態補正部133によって補正されたタイヤ30の算出位置毎の摩耗状態を、表示装置などに対して出力する(ステップS8)。上記のように、摩耗状態とともに、摩耗状態に関する情報が表示されてよい。
【0057】
以上のように、本実施形態に係るタイヤ管理装置10及びタイヤ管理方法は、上記の構成によって、鉱山車両のタイヤの摩耗状態を精度よく算出できる。また、精度の高いタイヤ30の摩耗状態が示されることによって、適切なタイミングでのタイヤ30の交換など、適切な管理をすることができる。
【0058】
本開示の実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行されるプログラム又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0059】
上記の実施形態において、摩耗状態算出部132は、摩擦エネルギーEwを用いてタイヤ30の摩耗状態を算出するが、摩擦エネルギーEwとは別のパラメータが用いられてよい。また、摩耗状態算出部132は、機械学習によって生成されたモデルを用いて、タイヤ30の摩耗状態を算出してよい。
【0060】
補正係数は、上記の実施形態のように線形関係の傾きを与えるものに限定されない。摩耗状態補正部133は、環境に関するデータに基づいて、補正係数に代えて追加補正量を調整してよい。追加補正量は、例えば摩耗状態算出部132が算出した摩耗状態を補正した値に、さらに加減算されるものであってよい。
【0061】
また、タイヤ管理装置10の構成は任意である。例えば、上記の実施形態において1台のコンピュータであるタイヤ管理装置10が実行する処理は、複数台のコンピュータの分散処理によって実行されてよい。例えばタイヤ管理システム1におけるサーバ60が、タイヤ管理装置10の一部の処理(例えばデータ取得部131の処理)を実行してよい。
【符号の説明】
【0062】
1 タイヤ管理システム
10 タイヤ管理装置
11 通信部
12 記憶部
13 制御部
20 車両
30 タイヤ
40 ネットワーク
50 端末装置
60 サーバ
131 データ取得部
132 摩耗状態算出部
133 摩耗状態補正部
134 出力部
図1
図2
図3
図4
図5