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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-13
(45)【発行日】2025-03-24
(54)【発明の名称】ボイラ
(51)【国際特許分類】
   F22B 3/00 20060101AFI20250314BHJP
   F22B 1/18 20060101ALI20250314BHJP
   F24V 30/00 20180101ALI20250314BHJP
【FI】
F22B3/00
F22B1/18 Z
F24V30/00 302
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022508267
(86)(22)【出願日】2021-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2021009676
(87)【国際公開番号】W WO2021187285
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2023-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2020045122
(32)【優先日】2020-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004082
【氏名又は名称】弁理士法人北大阪特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100141092
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 英生
(73)【特許権者】
【識別番号】512261078
【氏名又は名称】株式会社クリーンプラネット
(74)【代理人】
【識別番号】100141092
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 英生
(72)【発明者】
【氏名】大谷 和之
(72)【発明者】
【氏名】石崎 信行
【審査官】大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/021638(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第2003-0079052(KR,A)
【文献】韓国登録特許第10-1683567(KR,B1)
【文献】特許第4423722(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2004/0142291(US,A1)
【文献】特開昭60-001500(JP,A)
【文献】国際公開第2015/008859(WO,A2)
【文献】特開平06-257864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22B1/00-37/78
F24V30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝熱管と、
水素吸蔵金属類からなる金属ナノ粒子が表面に設けられており、前記金属ナノ粒子内に水素原子が吸蔵され過剰熱を発生させる反応体と、を備え、
前記反応体に水素系ガスを供給し、当該反応体が発する熱を用いて前記伝熱管を加熱するボイラであって、
前記伝熱管と前記反応体を加熱するバーナを備えたことを特徴とするボイラ。
【請求項2】
前記反応体および前記伝熱管を囲むように設けられた壁と、
複数の前記伝熱管からなり、前記バーナの噴射方向に沿った伝熱管列と、を備え、
前記反応体は、二つの前記伝熱管列に挟まれて配置され、
前記伝熱管列の一方において前記バーナから燃焼ガスが噴射され、前記燃焼ガスは前記壁に沿って前記伝熱管列の他方へ回り込むように形成されたことを特徴とする請求項1に記載のボイラ。
【請求項3】
少なくとも二つの前記反応体を備えた請求項2に記載のボイラであって、
前記反応体は、それぞれ二つの前記伝熱管列に挟まれて配置され、
前記二つの反応体の間のスペースにおいて前記バーナの燃焼ガスが噴出されるように形成されたことを特徴とするボイラ。
【請求項4】
前記バーナは、水素焚きバーナであり、
前記反応体と前記水素焚きバーナへの水素系ガスの供給元を、共通としたことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のボイラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラに関する。本願は、2020年3月16日に日本に出願された特願2020-045122号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、工業用や商業用を含め様々な用途にボイラが広く利用されている。ボイラにおいては加熱を行うための発熱手段が設けられる。
【0003】
発熱手段の具体的形態は種々挙げられるが、その一例として、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金からなる複数の金属ナノ粒子が表面に形成された反応体を利用するものが、発熱システムとして特許文献1に開示されている。特許文献1によれば、この発熱システムにおいて、発熱に寄与する水素系ガスが容器内に供給されることで金属ナノ粒子内に水素原子が吸蔵され、過剰熱を発することが記載されている。
【0004】
なお特許文献1においても説明されているとおり、パラジウムで作製した発熱体を容器内部に設け、この容器内部に重水素ガスを供給しつつ、容器内部を加熱することによって発熱反応が生じた旨の発表がなされている。また、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を利用して過剰熱(入力エンタルピーより高い出力エンタルピー)を発生させる発熱現象に関し、過剰熱を発するメカニズムの詳細については各国の研究者の間で議論されており、発熱現象が発生したことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6448074号公報
【文献】米国特許第9,182,365号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発熱手段として上記の反応体を採用したボイラにおいては、過剰熱を発する反応を適切に生じさせるため、反応体へ水素系ガスを供給するとともに、反応体の温度を所定の反応温度以上とする必要がある。特にボイラの運転開始時においては、反応体を加熱して反応温度以上にすることでようやく反応が始まり、徐々に過剰熱を発生させることが可能となる。
【0007】
そのため当該ボイラにおいては、適度な過剰熱を発生させ得るまでに上記の過程を経る必要があり、反応体や伝熱管の温度が十分に高まるまでの時間が長くなり過ぎる虞がある。本発明は上記課題に鑑み、発熱手段として過剰熱を発する反応体が採用されながらも、反応体や伝熱管の温度を早く高めることが可能となるボイラの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るボイラは、伝熱管と、水素吸蔵金属類からなる金属ナノ粒子が表面に設けられており、前記金属ナノ粒子内に水素原子が吸蔵され過剰熱を発生させる反応体と、を備え、前記反応体に水素系ガスを供給し、当該反応体が発する熱を用いて前記伝熱管を加熱するボイラであって、前記伝熱管と前記反応体を加熱するバーナを備えた構成とする。
【0009】
本構成によれば、発熱手段として過剰熱を発する反応体が採用されながらも、反応体や伝熱管の温度を早く高めることが可能となる。なお本願における水素系ガスは、重水素ガス、軽水素ガス、或いはこれらの混合ガスのことであり、水素焚きバーナは、当該水素系ガスを用いて燃焼炎を噴出すバーナのことである。また本願での「水素吸蔵金属類」は、Pd,Ni,Pt,Ti等の水素吸蔵金属、或いはこれらを1種以上含む水素吸蔵合金を意味する。
【0010】
また上記構成としてより具体的には、前記反応体および前記伝熱管を囲むように設けられた壁と、複数の前記伝熱管からなり、前記バーナの噴射方向に沿った伝熱管列と、を備え、前記反応体は、二つの前記伝熱管列に挟まれて配置され、前記伝熱管列の一方において前記バーナから燃焼ガスが噴射され、前記燃焼ガスは前記壁に沿って前記伝熱管列の他方へ回り込むように形成された構成としても良い。
【0011】
また上記構成としてより具体的には、少なくとも二つの前記反応体を備えた上記構成のボイラであって、前記反応体は、それぞれ二つの前記伝熱管列に挟まれて配置され、前記二つの反応体の間のスペースにおいて前記バーナの燃焼ガスが噴出されるように形成された構成としても良い。また上記構成としてより具体的には、前記バーナは、水素焚きバーナであり、前記反応体と前記水素焚きバーナへの水素系ガスの供給元を、共通とした構成としても良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るボイラによれば、発熱手段として過剰熱を発する反応体が採用されながらも、反応体や伝熱管の温度を早く高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係るボイラ1の概略的な全体構成図である。
図2】ボイラ1の伝熱管近傍における概略的な構成図である。
図3】本実施形態に係る反応体の構成例に関する説明図である。
図4】水素焚きバーナの排ガスの流れ等に関する説明図である。
図5】水経路に熱媒体を流すボイラ1aの模式的な構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態に係るボイラについて、各図面を参照しながら以下に説明する。以降の説明において、燃焼ガスとは、燃料ガスの燃焼反応が完了したものおよび燃焼反応中の燃料ガスの少なくとも一方を含む概念であり、燃料ガスの燃焼反応が完了したものおよび燃焼反応中の燃料ガスの両方を有する場合、燃焼反応中の燃料ガスのみを有する場合、燃料ガスの燃焼反応が完了したもののみを有する場合の、いずれをも含む概念である。
【0015】
図1は、本実施形態に係るボイラ1の概略的な全体構成図であり、図2は、ボイラ1の伝熱管近傍における概略的な構成図である。また以下に説明する上下、左右、および前後の各方向(互いに直交する方向)は図1および図2に示すとおりであり、本実施形態の例では上下方向は鉛直方向に一致する。
【0016】
図1における缶体壁11およびその内部の様子は、缶体壁11を前後に二分する平面で切断した場合の概略的な断面図として表されており、図1ではガス経路14等の図示を省略している。また図2は、缶体壁11を上下に二分する平面で切断した場合の概略的な断面図として表されている。
【0017】
図1および図2に示すようにボイラ1は、缶体壁11、反応体12、ガス受入部13、ガス経路14、ガス供給管15、第1ガス供給弁15a、第2ガス供給弁15b、ガスポンプ16、ガスフィルタ17、水素焚きバーナ18、セパレータ21、水経路22、水受入部23、および水ポンプ24を備えている。
【0018】
なおボイラ1は、基本的に前後対称に構成されており、反応体12、ガス経路14、第1ガス供給弁15a、ガスポンプ16、およびガスフィルタ17については、図2に示すように同等のもの二つが前後対称に設けられている。以下、これらに関しては一方のみを説明し、他方の説明を省略することがある。
【0019】
缶体壁11は、反応体12および伝熱管22aを前後左右に囲む壁として形成されており、右端の前後両端近傍には二つの排気口11aが設けられている。なお、缶体壁11の上下それぞれには後述する下部ヘッダ22bと上部ヘッダ22cが設けられ、缶体壁11、下部ヘッダ22b、および上部ヘッダ22cに囲まれた空間は、排気口11aを除いてほぼ密閉した空間となっている。缶体壁11の内側には、反応体12、伝熱管22a、および水素焚きバーナ18が配置されている。
【0020】
反応体12は、水素系ガスを用いた反応によって過剰熱を発するように形成された発熱手段である。反応体12と缶体壁11の内壁との間、および、前後二つの反応体12同士の間にはスペースが形成されている。反応体12は一例として、図3に示すように構成することが可能である。この例の反応体12は、コア部12aがカバー部12bの内部に配置された略板状の構成となっており、上方視により左右へ延びた形状に形成されている。
【0021】
コア部12aは、全体が細かい網目状に形成されている担持体の表面に、多数の金属ナノ粒子を設けて構成されている。この担持体は、素材として水素吸蔵合金類(水素吸蔵金属、或いは水素吸蔵合金)が適用されており、カバー部12bよりも少し小さく、内部が空洞であって左端が開口した形状に形成されている。カバー部12bは、内部を密封する筐体状に形成されており、左右両端がガス経路14に連接している。カバー部12bの左側の内壁にはコア部12aの左端が固定されている。
【0022】
図3に点線矢印で示すように、反応体12においては、右側に連接したガス経路14からカバー部12b内にガスが流入すると、そのガスはコア部12aの網目状の隙間を介してその内部に流入した後、左側に連接したガス経路14へ送出される。なお反応体12は、ガス経路14から流入する水素系ガスと反応して適切に過剰熱を発し得る限り、その具体的形態は問わない。例えば、反応体12は、左右に伸びる筒状に形成されても良く、上下方向に複数個並ぶように設けられても良い。
【0023】
ガス受入部13は、外部の供給元から水素系ガス(重水素ガス、軽水素ガス、或いはこれらの混合ガス)の供給を受けるようになっており、供給された水素系ガスをガス供給管15内へ流入させる。例えば、水素系ガスを予め貯留したタンクからガス受入部13へ水素系ガスが供給される場合、このタンクが水素系ガスの供給元となる。
【0024】
ガス経路14は、反応体12を一部として含むガスの循環経路(以下、「循環経路S」と称することがある。)を形成するものであり、一方の端部は反応体12の左端に連接し、他方の端部は反応体12の右端に連接している。より詳細に説明すると、ガス経路14は、反応体12の左端から、ガスポンプ16およびガスフィルタ17を順に介して、反応体12の右端に至るまで延びている。ガス経路14への水素系ガスの供給量は、第1ガス供給弁15aの制御により調節可能である。なお本実施形態では、図2に示すように二つの循環経路Sが設けられているが、これらを共通化して一つの循環経路としても良い。
【0025】
ガス供給管15は、ガス受入部13から延びるものであり、途中で三方向へ分岐して、前後のガス経路14および水素焚きバーナ18のそれぞれに連接するように延びている。より詳細に説明すると、分岐したガス供給管15の一つは、前側の第1ガス供給弁15aを介して前側のガス経路14の所定位置(ガスポンプ16の上流側の位置)に連接し、他の一つは、後側の第1ガス供給弁15aを介して後側のガス経路14の所定位置(ガスポンプ16の上流側の位置)に連接し、更に他の一つは、第2ガス供給弁15bを介して水素焚きバーナ18に連接している。このようにボイラ1では、反応体12と水素焚きバーナ18への水素系ガスの供給元が共通とされており、水素系ガスの管理等が容易となっている。
【0026】
ガスポンプ16は、例えばインバータ制御により回転数が制御され、この回転数に応じた流量で、ガス経路14内のガスが上流側から下流側へ(すなわち、図2に点線矢印で示す方向へ)流れるようにする。なお、循環経路Sでのガスの循環量は、ガスポンプ16の回転数を制御することにより調節可能である。
【0027】
ガスフィルタ17は、ガス経路14内のガスに含まれる不純物(特に、反応体12における過剰熱を発生させる反応の阻害要因となるもの)を除去する。セパレータ21は、伝熱管22aを通る際に水が加熱されて生じた蒸気を受け入れ、この蒸気に対して気水分離(当該蒸気に含まれるドレンの分離)がなされるようにする。セパレータ21において気水分離された蒸気は、ボイラ1の外部へ供給することが可能である。
【0028】
水素焚きバーナ18は、ガス供給管15から供給される水素系ガスを燃焼させて、燃焼炎を噴出すように形成されている。図2に示すように、水素焚きバーナ18は、缶体壁11の右側の内壁における前後方向中央位置に設置されており、後述する第2伝熱管列A2と第3伝熱管列A3の間のスペースにおいて左方へ燃焼炎を噴出すようになっている。水素焚きバーナ18への水素系ガスの供給量は、第2ガス供給弁15bの制御により調節可能である。
【0029】
水経路22は、水受入部23からセパレータ21まで繋がる水の経路である。水経路22には、缶体壁11の内部に設けられた複数本の伝熱管22a、下部ヘッダ22b、および上部ヘッダ22cが含まれる。より詳細に説明すると、水経路22は、水受入部23から水ポンプ24、下部ヘッダ22b、複数本の伝熱管22a、および上部ヘッダ22cを順に介してセパレータ21まで延びている。なお水経路22のうち、伝熱管22aよりも上流側の経路では、水受入部23から供給された液体の水が流れ、伝熱管22aよりも下流側の経路では、伝熱管22aで加熱されて気化した水(蒸気)が流れることになる。
【0030】
水受入部23は、外部から蒸気の元となる水の供給を適宜受けるようになっており、供給された水を水経路22内へ流入させる。水ポンプ24は、水経路22内の水を上流側から下流側へ向けて(すなわち、図1に実線矢印で示す方向へ)流すようにする。
【0031】
下部ヘッダ22bは缶体壁11の下側に設けられており、上部ヘッダ22cは缶体壁11の上側に設けられている。下部ヘッダ22bと上部ヘッダ22cは、概ね同じ形状および寸法に設定されており、上方視で重なるように配置されている。
【0032】
複数本の伝熱管22aは、それぞれ下部ヘッダ22bと上部ヘッダ22cの間において上下方向に伸びるように配置されている。また複数本の伝熱管22aは、図2に示すように、前側の反応体12の前側の面に沿って左右へ並ぶように配置された第1伝熱管列A1、前側の反応体12の後側の面に沿って左右へ並ぶように配置された第2伝熱管列A2、後側の反応体12の前側の面に沿って左右へ並ぶように配置された第3伝熱管列A3、および、後側の反応体12の後側の面に沿って左右へ並ぶように配置された第4伝熱管列A4からなる。各伝熱管列A1~A4においては、左右に隣り合う伝熱管22a同士の隙間はフィン状部材25により閉塞されている。また伝熱管列A1と伝熱管列A2の左端の伝熱管22a同士の隙間、および右端の伝熱管22a同士の隙間も、フィン状部材25により閉塞されている。更に伝熱管列A3と伝熱管列A4の左端の伝熱管22a同士の隙間、および右端の伝熱管22a同士の隙間も、フィン状部材25により閉塞されている。これらのフィン状部材25は、伝熱管22aとともに反応体12を囲むように配置され、水素焚きバーナ18から噴出される燃焼ガス(図4を参照)が反応体12に直接当たらないようにする防ぐ役割を果たす。なお、伝熱管列A1および伝熱管列A4における右端から4個分の伝熱管22aには、燃焼ガスからの熱回収を増やす平板状伝熱フィン26が設けられている。
【0033】
複数本の伝熱管22aそれぞれの内部空間は、下側において下部ヘッダ22bの内部空間に連接しており、上側において上部ヘッダ22cの内部空間に連接している。すなわち、下部ヘッダ22bは複数本の伝熱管22aすべての下端と接続されており、上部ヘッダ22cは複数本の伝熱管22aすべての上端と接続されている。
【0034】
次に、ボイラ1の動作について説明する。ボイラ1では、外部の供給元からガス受入部13へ水素系ガスが供給され、上下の各循環経路Sに水素系ガスが充満される。充満された水素系ガスはガスポンプ16の作用により、循環経路Sにおいて図2に点線矢印で示す方向へ循環する。
【0035】
このとき反応体12においては、上流側のガス経路14から水素系ガスが流入し、更に当該水素系ガスが反応体12(コア部12a)の網目状の隙間を介してその内部に流入した後、下流側のガス経路14に送出される。このように、水素系ガスが反応体12に供給された状態で、反応体12の温度が所定の反応温度Tよりも高くなっていると、反応体12に設けた金属ナノ粒子に水素原子が吸蔵され、反応体12は過剰熱を発生させることになる。
【0036】
このように反応体12は、過剰熱を発生させる反応が行われることにより、発熱体として機能する。この過剰熱を発生させる反応の原理は、例えば特許文献1に開示された過剰熱を発生させる反応の原理と同様である。
【0037】
循環経路S内の水素系ガスは、ガスフィルタ17を通る際に不純物が除去される。そのため、不純物が除去された純度の高い水素系ガスが、反応体12へ継続的に供給される。これにより、純度の高い水素系ガスを反応体12へ安定的に与え、過剰熱の出力を誘発し易い状態を維持して、反応体12を効果的に発熱させることが可能となっている。
【0038】
また、上記の反応体12を発熱させる動作と並行して、外部から水受入部23へ水が供給される。この供給された水は、水ポンプ24の作用により、水経路22内を図1に実線矢印で示す方向へ流される。
【0039】
水経路22内を流れる水は、伝熱管22aを通る際に、反応体12が発する熱によって加熱される。すなわち反応体12の発する熱は、缶体壁11内の気体による対流(熱伝達)、熱伝導および輻射によって伝熱管22aへ伝わり、これにより高温となった伝熱管22aによってその内部を流れる水が加熱される。
【0040】
このようにして、水経路22を流れる水は伝熱管22aを通る際に加熱されて温度が上昇し、最終的には蒸気となる。この蒸気はセパレータ21に送り込まれ、気水分離により乾き度が高められた後、ボイラ1の外部へ供給されることになる。
【0041】
セパレータ21から外部へ供給する蒸気の量は、外部からの蒸気の要求量(蒸気負荷)等に応じて調整可能としても良い。このような調整は、外部へ供給する蒸気の量が適正量より少ないときは、反応体12の発熱量を増大させて蒸気の発生量を増やし、適正量より多いときは、反応体12の発熱量を減少させて蒸気の発生量を減らすことで実現可能である。
【0042】
また反応体12の発熱量は、循環経路Sにおけるガスの循環量の調節により制御可能であり、当該循環量を増やすほど、反応体12の発熱量を増大させることができる。なお反応体12の発熱量を増大させるために、水素焚きボイラ18の燃焼炎を適宜利用しても良い。またボイラ1においては、外部へ蒸気を供給した分だけ、つまり水が減少した分だけ水受入部23へ逐次水が供給されるようになっており、継続的に蒸気を発生させて外部へ供給することが可能である。
【0043】
ここで反応体12に適度な過剰熱を発生させるためには、反応体12を適度に加熱することが重要であり、反応体12の温度が反応温度Tよりも低い状況では、少なくとも反応体12が反応温度Tに達するまで加熱する必要がある。特にボイラ1の運転開始時においては、反応体12の温度が低い上に伝熱管22aも温まっておらず、早く起蒸させるためには、伝熱管22aと反応体12の両方を同時に加熱することが望ましい。
【0044】
そこでボイラ1は、水素焚きバーナ18を用いて、伝熱管22aと反応体12の両方を同時に加熱することができるように構成されている。特に本実施形態では、水素焚きバーナ18の燃焼炎だけでなく、その排ガスの熱も極力有効に利用できるように、缶体壁11内での配置形態が工夫されている。
【0045】
すなわち図4に示すように、水素焚きバーナ18に水素系ガスが供給されると、前後の発熱体12同士の間のスペースにおいて、水素焚きバーナ18は左向きに燃焼ガスFを噴出す。水素焚きバーナ18が燃焼ガスFを噴出すことにより、その近傍に位置する伝熱管22a(主に、第2伝熱管列A2と第3伝熱管列A3)および反応体12の部分(主に、前側の反応体12の後側部分と後側の反応体12の前側部分)を、燃焼ガスFの直火および輻射熱で効果的に加熱することが可能である。
【0046】
また図4に実線矢印で示すように、水素焚きバーナ18の噴射方向(左向き)に進む水素焚きバーナ18の燃焼ガスは、缶体壁11の左側の内壁に当たることで前後へ進路を変えた後、前後の内壁に沿って右向きへ進み、排気口11aから缶体壁11の外部へ排気される。これにより、前後の各反応体12と缶体壁11の内壁との間のスペースを燃焼ガスが通り、その近傍に位置する伝熱管22a(主に、第1伝熱管列A1と第4伝熱管列A4)および反応体12の部分(主に、前側の反応体12の前側部分と後側の反応体12の後側部分)も、燃焼ガスの熱を利用して効率良く加熱することが可能である。
【0047】
以上のように缶体壁11内においては、反応体12を前後に挟む両側のスペースそれぞれにおいて、上下に延びる複数本の伝熱管22aが左右へ並ぶように設けられており、当該両側のスペースの一方において水素焚きバーナ18が左方へ燃焼ガスFを噴出し、他方において水素焚きバーナ18の排ガス(燃焼ガス)が通るように形成されている。より具体的には、当該両側のスペースの一方において発生した水素焚きバーナ18の排ガスが、缶体壁11の内壁に沿って他方へ回り込むように形成されている。
【0048】
また本実施形態のボイラ1は図4に示すとおり、前後へ並ぶ二つの反応体12を備えており、これらの反応体12の間のスペースにおいて、水素焚きバーナ18が燃焼ガスFを噴出すようになっている。更に、前側の反応体12の前側のスペースおよび後側の反応体12の後側のスペースにおいて、缶体壁11の内壁に沿って回り込んできた水素焚きバーナ18の排ガスが通るように形成されている。
【0049】
そのため、前後二つの反応体12およびこれらの近傍に配置された伝熱管22aを加熱する手段として、一つの水素焚きバーナ18を共用することができ、ボイラ1は構成の簡素化や小型化等の点でも有利となっている。なお、本発明に係るボイラに備えられる反応体の個数は特に限定されるものではなく、1個あるいは3個以上の反応体が備えられるようにしても良い。
【0050】
4.その他
以上に説明した本実施形態のボイラ1は、反応体12に水素系ガスを供給し、反応体12が発する熱を用いて伝熱管22a内の水(流体の一例)を加熱するボイラであって、伝熱管22aと反応体12を加熱する水素焚きバーナ18を備えている。そのため、発熱手段として過剰熱を発する反応体12が採用されながらも、反応体12と水の温度を早く高めることが可能となっている。
【0051】
更にボイラ1では、過剰熱を発生させるために水素系ガスが用いられることから、伝熱管22aと反応体12を加熱する手段として、同じ水素系ガスを燃料とする水素焚きバーナ18を採用している。そのため水素系ガスとは別の燃料を要することはなく、燃料管理の負担増大や燃料調達のコスト増大等は極力抑えられるようになっており、ボイラ1のシステム効率を極力落とさずに反応体や水の温度を早く高めることが可能となっている。また既に説明したとおり、反応体12は伝熱管22aとフィン状部材25により囲まれており、水素焚きバーナ18の燃焼ガスが反応体12に直接当たることは回避される。これにより反応体12は、水素焚きバーナ18によって間接的に加熱されることになる。なお、水素焚きバーナ18の燃焼ガスが反応体12に直接当たらないようにする形態として、左右に隣り合う伝熱管22a同士の間にフィン状部材25を設ける代わりに、左右に隣り合う伝熱管22a同士を接触させる形態(各伝熱管22aを隙間なく配置する形態)が採用されても良い。
【0052】
またボイラ1によれば、缶体壁11内に設けた反応体12の熱で水を加熱して蒸気を発生させるものでありながら、当該反応体の熱を効率良く当該水に伝えることが可能である。その結果、反応体12が発する熱を蒸気の元となる水へ効率良く伝えることが可能である。
【0053】
なお本実施形態では、伝熱管22aを含む水経路22に蒸気の元となる水を流すようにしているが、その代わりに、水経路22には熱媒体Yを流すようにし、この熱媒体Yを用いて蒸気の元となる水を加熱することも可能である。このように構成したボイラの模式的な構成図を図5に例示する。
【0054】
図5に示すボイラ1aでは、セパレータ21の代わりに熱交換器50が設けられており、熱交換器50には、熱媒体Yが流れる水経路22の一部が配置されるとともに、蒸気の元となる水が供給される。なお熱媒体Yは、本図に実線矢印で示すように、伝熱管22aを含む水経路22を循環するようになっている。これにより、反応体12(発熱体)により加熱された熱媒体Yを熱交換器50へ送り込み、供給された水を当該熱媒体Yにより加熱して蒸気を発生させ、外部へ供給することが可能である。なお熱交換器50は、水を加熱して蒸気を生成する構成の他、温水を生成する構成としても良い。
【0055】
熱交換器50としては、例えば、プレート式やシェルアンドチューブ式の熱交換器を採用しても良く、各種形態のスチームジェネレータを採用しても良い。このスチームジェネレータの一例としては、供給された水を貯留する貯留スペースと、当該貯留スペース内に配置された熱媒体Yを通す管状体を有し、熱媒体Yの熱が当該管状体を介して貯留した水に伝わる構成のものが挙げられる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の構成は上記実施形態に限られず、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち上記実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。例えば、本発明に係るボイラは、上記実施形態のような蒸気を発生させるボイラの他、温水ボイラや熱媒ボイラ等にも適用可能である。本発明の技術的範囲は、上記実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、各種用途のボイラに利用可能である。
【符号の説明】
【0058】
1、1a ボイラ
11 缶体壁
11a 排気口
12 反応体
12a コア部
12b カバー部
13 ガス受入部
14 ガス経路
15 ガス供給管
15a 第1ガス供給弁
15b 第2ガス供給弁
16 ガスポンプ
17 ガスフィルタ
18 水素焚きバーナ
21 セパレータ
22 水経路
22a 伝熱管
23 水受入部
24 水ポンプ
25 フィン状部材
26 平板状伝熱フィン
50 熱交換器
図1
図2
図3
図4
図5