(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-13
(45)【発行日】2025-03-24
(54)【発明の名称】心房アンダーセンシングを検知するための埋め込み可能な医療デバイス、方法及びコンピュータ・プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/363 20210101AFI20250314BHJP
A61B 5/33 20210101ALI20250314BHJP
A61N 1/365 20060101ALI20250314BHJP
A61B 5/353 20210101ALI20250314BHJP
【FI】
A61B5/363
A61B5/33 120
A61N1/365
A61B5/353
(21)【出願番号】P 2022557672
(86)(22)【出願日】2021-03-15
(86)【国際出願番号】 EP2021056512
(87)【国際公開番号】W WO2021197819
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2024-01-19
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512158181
【氏名又は名称】バイオトロニック エスエー アンド カンパニー カーゲー
【氏名又は名称原語表記】BIOTRONIK SE & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Woermannkehre 1 12359 Berlin Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー、レネ
(72)【発明者】
【氏名】タイラー、トビアス
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第8750976(US,B2)
【文献】米国特許出願公開第2013/0053714(US,A1)
【文献】特表2007-523675(JP,A)
【文献】米国特許第8583221(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0069611(US,A1)
【文献】中国実用新案第209286501(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/318-5/367
A61N 1/36-1/378
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサと、メモリ・ユニットと、ヒト又は動物の心臓の心房の電気信号を検知するように構成された第1の検知ユニットと、同じ心臓の心室の電気信号を検知するように構成された第2の検知ユニットとを備える埋め込み可能な医療デバイスであって、
前記メモリ・ユニットはコンピュータ可読プログラムを含み、前記コンピュータ可読プログラムは、前記プロセッサで実行されると、前記プロセッサに:
前記埋め込み可能な医療デバイスの前記心房の電気信号中の心房事象について不十分な検知しか行われていない状態を確認するための、前記第1の検知ユニットによって検知された前記心房の電気信号中の心房事象、及び/又は前記第2の検知ユニットによって検知された前記心室の電気信号中の心室事象の評価のステップを実施させ、前記評価は、以下の基準:
i)前記検知された心房の電気信号の形態、
ii)心房事象の安定性の欠如、
iii)第1の時間にわたる心房事象の不在、
iv)前記検知された心房の電気信号の振幅が所定の閾値よりも小さいことの検知、
v)同じ時間における心室事象の検知の間の心房事象の不在、
vi)前記第1の検知ユニットの第1の検出プロファイルを用いて検出された心房事象と、前記第1の検出プロファイルよりも高感度である前記第1の検知ユニットの第2の検出プロファイルを用いて検出された心房事象との比較
の少なくとも1つに基づいて行われる埋め込み可能な医療デバイスにおいて、
前記評価は、以下の基準:i)前記検知された心房事象の安定性、及びii)第1の時間にわたる心房事象の不在、又は同じ時間における心室事象の検知の間の心房事象の不在、に基づいて行われる
ことを特徴とする埋め込み可能な医療デバイス。
【請求項2】
前記第1の時間は、1から5秒の間の時間であることを特徴とする、請求項1に記載の埋め込み可能な医療デバイス。
【請求項3】
少なくとも1つの前記基準は、2~5回の心室事象が検知される時間にわたる心房事象の不在を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の埋め込み可能な医療デバイス。
【請求項4】
前記評価は、以下の基準:i)少なくとも3回の心室事象が検知される間に心房事象が検知されないこと、及び心房事象の安定性の欠如、又はii)前記第1の時間の間にP波が検知されないこと、又はiii)前記検知された心房の電気信号の振幅が所定の閾値よりも小さいことの検知、に基づいて行われることを特徴とする、請求項1から3までのいずれかに記載の埋め込み可能な医療デバイス。
【請求項5】
前記評価は、以下の基準:i)少なくとも3回の心室事象が検知される間に心房事象が検知されないこと、又はii)前記検知された心房の電気信号の振幅が所定の閾値よりも小さいことの検知、に基づいて行われることを特徴とする、請求項1から4までのいずれかに記載の埋め込み可能な医療デバイス。
【請求項6】
前記コンピュータ可読プログラムは、前記プロセッサで実行されると、前記プロセッサに、前記埋め込み可能なデバイスを装着している患者の健康状態を監視する役割を果たすホーム・モニタリング・サービス・センターに信号を送信するステップを実施させることを特徴とする、請求項1から5までのいずれかに記載の埋め込み可能な医療デバイス。
【請求項7】
前記コンピュータ可読プログラムは、前記プロセッサで実行されると、前記プロセッサに、前記埋め込み可能な医療デバイスを複数の室の検知ロジックから単一の室の検知ロジックに切り換えるステップを実施させることを特徴とする、請求項1から6までのいずれかに記載の埋め込み可能な医療デバイス。
【請求項8】
前記コンピュータ可読プログラムは、前記プロセッサで実行されると、前記プロセッサに、前記第1の検知ユニットの少なくとも1つの検知パラメータを自動的に調整するステップを実施させることを特徴とし、前記検知パラメータが前記第1の検知ユニットによって適用される検知アルゴリズムのパラメータである、請求項1から7までのいずれかに記載の埋め込み可能な医療デバイス。
【請求項9】
前記コンピュータ可読プログラムは、前記プロセッサで実行されると、前記プロセッサに、前記第1の検知ユニットの第1の検出プロファイルから、前記第1の検出プロファイルよりも高感度である前記第1の検知ユニットの第2の検出プロファイルに自動的に切り換えるステップを実施させることを特徴とする、請求項1から8までのいずれかに記載の埋め込み可能な医療デバイス。
【請求項10】
前記コンピュータ可読プログラムは、前記プロセッサで実行されると、前記プロセッサに、前記第1の検知ユニットによって検知されたファーフィールド(far-field)電位の形態的評価の間にP波が抽出された場合、欠落した心房事象を補うため、前記検知された心房の電気信号に心房事象を電子的に加えるステップを実施させることを特徴とする、請求項1から9までのいずれかに記載の埋め込み可能な医療デバイス。
【請求項11】
前記コンピュータ可読プログラムは、前記プロセッサで実行されると、前記プロセッサに、頻拍の律動が終了した場合、又は第2の時間にわたって心房の電気信号の不十分な検知が確認されなかった場合、心房の電気信号の不十分な検知が確認された後に前記埋め込み可能な医療デバイスによって採用された動作モードから通常の動作モードに自動的に切り換えるステップを実施させることを特徴とする、請求項1から10までのいずれかに記載の埋め込み可能な医療デバイス。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれかに記載の埋め込み可能な医療デバイスの心房の電気信号について不十分な検知しか行われていない状態を確認するための方法であって、前記方法は:
前記埋め込み可能な医療デバイスの前記心房の電気信号中の心房事象について不十分な検知しか行われていない状態を確認するための、第1の検知ユニットによって検知された前記心房の電気信号中の心房事象、及び/又は前記埋め込み可能な医療デバイスの前記第2の検知ユニットによって検知された心室の電気信号中の心室事象の評価のステップを含み、前記評価は
プロセッサによって行われ、以下の基準:
i)前記検知された心房の電気信号の形態、
ii)心房事象の安定性の欠如、
iii)第1の時間にわたる心房事象の不在、
iv)前記検知された心房の電気信号の振幅が所定の閾値よりも小さいことの検知、
v)同じ時間における前記埋め込み可能な医療デバイスの第2の検知ユニットによる心室事象の検知の間の心房事象の不在、
vi)前記第1の検知ユニットの第1の検出プロファイルを用いて検出された心房事象と、前記第1の検出プロファイルよりも高感度である前記第1の検知ユニットの第2の検出プロファイルを用いて検出された心房事象との比較
の少なくとも1つに基づいて行われ、
前記評価は、さらに以下の基準:i)前記検知された心房事象の安定性、及びii)第1の時間にわたる心房事象の不在、又は同じ時間における心室事象の検知の間の心房事象の不在、に基づいて
前記プロセッサによって行われる方法。
【請求項13】
コンピュータ可読コードを含むコンピュータ・プログラム製品であって、前記コンピュータ可読コードは、プロセッサで実行されると、前記プロセッサに:
埋め込み可能な医療デバイスの心房の電気信号中の心房事象について不十分な検知しか行われていない状態を確認するための、第1の検知ユニットによって検知された前記心房の電気信号中の心房事象、及び/又は前記埋め込み可能な医療デバイスの第2の検知ユニットによって検知された心室の電気信号中の心室事象の評価のステップを実施させ、前記評価は、以下の基準:
i)前記検知された心房の電気信号の形態、
ii)心房事象の安定性の欠如、
iii)第1の時間にわたる心房事象の不在、
iv)前記検知された心房の電気信号の振幅が所定の閾値よりも小さいことの検知、
v)同じ時間における心室事象の検知の間の心房事象の不在、
vi)前記第1の検知ユニットの第1の検出プロファイルを用いて検出された心房の電気信号と、前記第1の検出プロファイルよりも高感度である前記第1の検知ユニットの第2の検出プロファイルを用いて検出された心房事象との比較
の少なくとも1つに基づいて行われ、
前記評価は、さらに以下の基準:i)前記検知された心房事象の安定性、及びii)第1の時間にわたる心房事象の不在、又は同じ時間における心室事象の検知の間の心房事象の不在、に基づいて行われるコンピュータ・プログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に記載の埋め込み可能な医療デバイス、請求項13の前提部に記載のそうした埋め込み可能な医療デバイスの特定の状態を確認するための方法、及び請求項14の前提部に記載のそうした埋め込み可能な医療デバイスを制御するために使用することができるコンピュータ・プログラム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト又は動物の心臓を刺激するための埋め込み可能な医療デバイスの動作中、最終的に刺激を受ける心臓について心臓状態を確実に判定する必要がある。一般的には、特定の心律動の検知が適切であるほど、異常な心律動を処置できる可能性が高まる。主要な問題は、心室性頻拍(VT)と心室上部性頻拍(SVT:supraventricular tachycardia)の識別である。そうした識別のためには、最終的に刺激を受けるヒト又は動物の心臓の心室活動と心房活動の間の関係を判定する必要がある。
【0003】
心房アンダーセンシング、すなわち、心房信号の不十分な検出又は検知は、一般的に知られている問題である。心房アンダーセンシングとは、心房活動が十分高いにもかかわらず、心房信号が検知できない、又は不十分な量しか検知できないことを意味する。心房アンダーセンシングは、心房活動について、心房活動が不足していると誤った解釈をまねく可能性がある。そのような場合、例えば、ヒト又は動物の心臓を不適切に刺激するなど、それぞれの患者への不適切な処置の原因になる恐れがある。
【0004】
心房アンダーセンシングは特に、浮遊する極柱の場合、すなわち、電極リードは心室に固定されているが、2つの極柱が同じ心臓の心房のレベルでリード本体に配置されている場合に起こる可能性がある。したがって、2つの電極は、心房壁に取り付けられずに心房内に「浮遊」している。そうした浮遊する極柱は、心房信号を直接心筋で測定するのではなく、血液を介して測定する。その結果、そうした浮遊する極柱によって検知された信号は、電極が心房に固定されている場合よりもずっと小さい。浮遊する極柱は特に、位置が変わり、強度変化を伴う心房信号を検出する傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、心房アンダーセンシングを確認するのに特に適切な埋め込み可能な医療デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、請求項1の特徴を有する埋め込み可能な医療デバイスによって実現される。そうしたデバイスは、プロセッサと、メモリ・ユニットと、ヒト又は動物の心臓の心房の電気信号を検知するように構成された第1の検知ユニットと、同じ心臓の心室の電気信号を検知するように構成された第2の検知ユニットとを備える。
【0008】
本発明の一態様において、メモリ・ユニットは、プロセッサで実行されると、プロセッサに以下に説明するステップを実施させるコンピュータ可読プログラムを含む。実施されるステップは、埋め込み可能な医療デバイスの心房の電気信号中の心房事象について不十分な検知しか行われていない状態を確認するための、第1の検知ユニットによって検知された心房の電気信号中の心房事象、及び/又は第2の検知ユニットによって検知された心室の電気信号中の心室事象の評価を含む。この評価は、以下の基準:
-検知された心房の電気信号の形態、
-心房事象の安定性の欠如、
-第1の時間にわたる心房事象の不在、
-検知された心房の電気信号の振幅が所定の閾値よりも小さいことの検知、
-同じ時間枠内における心室事象が検知される間の心房事象の不在、
-一方における第1の検知ユニットの第1の検出プロファイルを用いて検出された心房事象と、他方における第1の検知ユニットの第2の検出プロファイルを用いて検出された心房事象との比較であって、この文脈において、第2の検出プロファイルは第1の検出プロファイルよりも高感度である、比較
の少なくとも1つを適用することによって行われる。
【0009】
ここで請求される発明の基礎となる基本概念は、信頼性のある心房アンダーセンシングの検知であり、例えば、心房信号の確実な検知を保証するために適切な対策が取られるべき範囲における心房アンダーセンシングの発生の検知である。このために、特許請求の範囲の埋め込み可能な医療デバイスは、検出された信号を自動的に絶えず評価し、場合により、個々に検出された信号、又は得られた情報の結合が可能である。そうすることによって、埋め込み可能な医療デバイスは、心房アンダーセンシングが存在する状態と、心房アンダーセンシングが存在しない状態とを区別することが可能になる。
【0010】
本発明によれば、心房事象は、電気信号中に検知される心房活動と定義される。例えば、そうした電気信号は、心房に固定された電極、又は異なる心臓の室に固定された電極(例えば心室内であり、その場合、信号はファーフィールド測定(far-field measurement)により測定される)によって、或いは心臓壁に固定されずに心房内に配置された浮遊電極を用いて記録することができる。典型的な心房事象はP波である。
【0011】
本発明によれば、心室事象は、電気信号中に検知される心室活動と定義される。例えば、そうした電気信号は、心室に固定された電極、又は異なる心臓の室に固定された電極(例えば心房内であり、その場合、信号はファーフィールド測定により測定される)によって記録することができる。典型的な心室事象はR波である。
【0012】
一実施例において、心房アンダーセンシングが存在するかどうかを判定するための基礎として、検知された心房事象の形態が用いられる。そうした形態的評価は、心房の電気信号の2つのパターンを互いに比較することによって行うことができる。そうした形態的評価の1つの可能な方法は、トリガー・ベースの評価である。そうしたトリガー・ベースの評価のために、第2の検知ユニットは、例えば心房事象の検知のための探索間隔の終わりを示す心室トリガーを生成する。
【0013】
その後、トリガーの時点近傍(例えば、生成されたトリガーの前の200ms、特に100ms、特に90ms、特に80ms、特に70ms、特に60ms、特に50ms、特に40ms、特に30ms、特に20ms、特に10msの間、及び生成されたトリガーの後の10ms、特に20ms、特に30ms、特に40ms、特に50ms、特に60ms、特に70ms、特に80ms、特に90ms、特に100msの間)で、得られた心房の電気信号のファーフィールド・チャネルにおける信号区間が抽出される。好ましい一実施例によれば、信号区間は、心室のトリガーの200ms前及び50ms後で抽出され、これは、房室結節リエントリー性頻拍の状況、及び広範囲の典型的な順行性伝導による1:1の律動(antegrade conducted 1:1 rhythm)の状況(SVT)を確実に含む。
【0014】
引き続き、この信号区間から特徴が抽出される。そうした抽出は、例えば、EP2353644A1に詳しく説明されるように、ピーク・トゥ・ピーク振幅を決定する(最低電圧値と最高電圧値との間の最大距離を計算する)こと;電気的な心房信号のピーク下の面積と最大のピーク・トゥ・ピーク振幅の値との間の商を計算すること;計算されたそれぞれの特徴が独自の次元を形成する多次元ベクトル(ジグザグの差分ベクトル)を生成すること、によって行うことができる。
【0015】
さらに、前の段落で説明した特徴の抽出が、参照パターンに対しても行われる。
【0016】
その後、現在の心房信号と参照パターンの特徴の抽出によって得られたベクトル間のユークリッド距離を決定することによって、実際に記録された心房の電気信号と参照パターンとの間の形態的距離を計算することができる。
【0017】
最後に、前の計算のスカラーの結果が閾値と比較される。スカラーの結果が閾値を上回る場合には、参照パターンまでの有意な距離が得られ、したがって、現在選択されている心房の電気信号区間内に心房事象(P波)は見られない(すなわち、心房活動によって生じる心房信号にピークがない)。一方、結果が閾値を下回る場合、現在測定されている心房の電気信号区間と参照パターンとの間の類似性は十分に高く、現在測定されている心房信号中にP波を認める。
【0018】
2つのパターンを互いに比較する他の方法は、相関関係に基づく方法である。そうした方法では、現在測定されている心房の電気信号からさらに長いブロックが切り取られる。こうしたさらに長いブロックは、20秒まで、例えば1秒~20秒、特に2秒~19秒、特に3秒~18秒、特に4秒~17秒、特に5秒~16秒、特に6秒~15秒、特に7秒~14秒、特に8秒~13秒、特に9秒~12秒、特に10秒~11秒の時間幅を有してもよい。参照パターンをこうしたブロックに沿って動かすことにより、これらのブロックにP波の参照パターンを重ね合わせる。そうすることによって、相関係数が連続的に計算される。相関の局所的極大値が、現在測定されている心房信号中の潜在的なP波事象となる。
【0019】
閾値を上回る局所的極大値はすべて、確認される心房事象(P波)であるとみなされる。心房性頻拍を判定するために、確かめられた最新のP波事象の総数がブロック長と関連付けられる。例えば、少なくとも10、特に少なくとも12、特に少なくとも14、特に少なくとも16、特に少なくとも18、特に少なくとも20のP波事象が例えば10秒のブロック長の中に検知される場合には、心房性頻拍が存在する。
【0020】
P波の検知を容易にするように、すなわち、実際の心房事象を検知された心房の電気信号に割り当てるように、埋め込み可能な医療デバイスを訓練することも可能である。そうした訓練のために、埋め込み可能な医療デバイスは、(遅い)洞調律(100拍毎分(bpm)未満、特に95bpm未満、特に90bpm未満、特に85bpm未満、特に80bpm未満、特に75bpm未満、特に70bpm未満)で、十分に長い信号区間(55秒超、特に60秒超、特に65秒超、特に70秒超、特に75秒超、特に80秒超、特に85秒超、特に90秒超)を記録する。次いで、これまでに説明したように、この信号区間を用いてすべての心房事象を抽出する。その後、検知された心房の電気信号の個々の特徴の平均値が計算される。
【0021】
そうすることによって、例えば、最大のピーク・トゥ・ピーク振幅、ピーク下の正規化された面積、及び/又は(ジグザグの)差分ベクトルの平均値によって特徴付けられる参照パターンが生成される。
【0022】
その場合、記録された心房の電気信号から抽出された領域(自動的にトリガーされた心房事象近傍の時間枠)がP波であるとみなされることを自動的に検知することが可能である。或いは、抽出された区間がP波であるとみなされることを医師が確認することが求められる。
【0023】
相関関係に基づく方法のための参照パターンの訓練は、埋め込み可能な医療デバイスによって、記録された心房の電気信号から潜在的なP波の信号区間を抽出することにより行うことができる。特定数の潜在的なP波事象が検知された場合(例えば、少なくとも20、特に少なくとも25、特に少なくとも30、特に少なくとも35、特に少なくとも40、特に少なくとも45、特に少なくとも50、特にこれまでに言及した低い値から構築可能な任意の間隔)、こうした潜在的なP波事象を医師に示し、P波であることを人手によって確かめることができる。これは、機械学習プロセスによって同様に行うことが可能である。トリガー・ベースの評価を実行する場合の訓練としてのこの訓練は、(患者固有の)参照パターンを構築するために1度だけ行う必要がある。その後、埋め込み可能な医療デバイスは、得られた心房の電気信号の形態的評価を行うために、この参照パターンに常に依拠することができる。
【0024】
心房信号のそうした形態的評価のために、検知されたパターンが、P波の参照パターン、特に患者固有の参照パターンと比較される。そうした比較によってP波が形態的に識別されるが、同時に(所定の時間の許容範囲で)心房事象が検知されなかった場合には、心房アンダーセンシングが存在する。したがって、そのような場合、心房事象は、心房信号自体からではなく、心房信号の形態的評価によってしか検知することができない。これは、心房の電気信号について不十分な検知しか行われていないことを示す。
【0025】
本発明の一実施例によれば、形態的評価のための参照パターンは、自動的に適合可能である。これにより、例えば患者の薬剤の処方計画の変更又は脱水によって引き起こされる、電気信号の形態的ドリフトを和らげることが可能である。例えば、参照パターンの適合のために用いられるすべての信号は、ある特定の特性要件を満たす必要がある。実例として、最小の信号対雑音比が満たされなければならないか、又は信号はクリップされないものとする。
【0026】
一実施例において、評価は心房事象の安定性の欠如に基づいて行われる。心房の安定性の判断は、現在測定されている心房事象を所定の数の以前の連続する心房事象の平均値と比較することによって実現することができる。所定の数は、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10とすることができる。比較によって所定の閾値を超えるずれが得られた場合、心房の律動が不安定であるとみなすことができる。心房の安定性の欠如は、心房細動などの特定の心房の律動の結果である可能性があるが、心房の安定性の欠如は、心房の律動自体は安定しているものの、心房アンダーセンシング、すなわち心房信号の不十分な検知の徴候である可能性もある。
【0027】
一実施例において、評価は第1の時間にわたる心房事象の不在に基づいて行われる。心房事象は一般に、規則的に生じることが予想されるため、心房事象の不在は心房アンダーセンシングの著しい徴候である。心房事象の不在は重篤な心臓機能障害の症状である可能性もあるため、心房アンダーセンシングを、「現実の」、すなわち生理学的な心房事象の不在と区別することが重要である。
【0028】
一実施例において、評価は、検知された心房の電気信号の振幅が所定の閾値よりも小さいことの検知に基づいて行われる。通常、心房信号は個々に定めることが可能な特定の値の間にあることが予想されるため、そうした閾値よりも小さい振幅が検知された場合には、心房アンダーセンシングの可能性が著しく高まる。
【0029】
一実施例において、評価は、同じ時間に心室の電気信号が検知される間の心房事象の不在に基づいて行われる。通常は、特定数の右心室事象が検知される間に、心房事象が検知されることが予想される。心室活動にかかわらず心房事象を検知することができない場合、これは心房アンダーセンシングの著しい徴候である。
【0030】
一実施例において、評価は、第1の検知ユニットの第1の検出プロファイルを用いて検出された心房事象と、第1の検知ユニットの第2のプロファイルを用いて検出された心房事象との間の比較に基づいて行われる。この文脈において、第2の検出プロファイルは、第1の検出プロファイルよりも高感度である。第2の検出プロファイルを用いて得られた検出結果と第1の検出プロファイルを用いて得られた検出結果との間にずれが観察される場合、これは感度が高いために検知された心房事象の数が増えたことを示す。これは、第1の検出プロファイルが適用されたときに心房アンダーセンシングが存在することを示す。この実施例の変形例では、第2の検出プロファイルを用いて検知された追加の心房事象を、第1の検出プロファイルの適用時に観察された心律動に組み込むことができるかどうかが調べられる。該当する場合、第1の検出プロファイルの感度はすべての心房事象を検知するには不十分であり、またより高感度の第2の検出プロファイルは、規則的な心律動を想定したときに発生すると予想される心房事象を明らかにする可能性がきわめて高い。
【0031】
一実施例において、心房アンダーセンシングを評価するための基礎として心房事象の不在が確認される第1の時間は、1から5秒の間、例えば、1.5秒、2秒、2.5秒、3秒、3.5秒、4秒、又は4.5秒の時間である。
【0032】
一実施例において、少なくとも1つの基準は、2~5回、例えば3回又は4回の心室事象が検知される時間にわたる心房事象の不在を含む。心室事象は先立つ心房事象によって引き起こされるので、心房事象は検知される心室事象の前に発生すると予想されるため、例えば、3回の心室事象が検知されても、同じ時間に心房事象が検知されない場合、これは心房アンダーセンシングを強く示唆する。
【0033】
一実施例では、心房の電気信号を評価して心房アンダーセンシングを推定するために、これまでに説明した基準の1つだけを使用するのではなく、こうした基準の2つ、3つ、4つ、5つ、又は6つを同時に使用して、評価方法の精度を高める。
【0034】
一実施例において、評価は以下の基準:(検知された心房事象の安定性の欠如)及び((第1の時間にわたる心房事象の不在)又は(同じ時間における心室事象の検知の間の心房事象の不在))に基づいて行われる。したがって、この実施例では、評価はこれまでに説明した基準の2つに基づいて行われるが、これらの基準の一方は固定され、他方は2つの特定の基準から選択することができる。
【0035】
他の実施例において、評価は以下の基準:((少なくとも3回の連続する心室事象が検知される間に心房事象が検知されないこと)及び(心房事象の安定性の欠如))又は(第1の時間の間に心房事象が検知されないこと)又は(検知された心房の電気信号の振幅が所定の閾値よりも小さいことの検知)に基づいて行われる。したがって、この実施例では、心房アンダーセンシングを疑うには、1つ又は2つの組み合わされた基準を満たす必要がある。一実施例において、評価は、これまでに説明した基準に基づいて行われるが、心房事象の安定性の欠如、及び検知された心房の電気信号の振幅が所定の閾値よりも小さいことの検知は考慮されず、すなわち、以下の基準:((少なくとも3回の連続する心室事象が検知される間に心房事象が検知されないこと)及び(心房事象の安定性の欠如))又は(第1の時間の間に心房事象がないこと)のみに基づいて行われる。
【0036】
一実施例において、評価は以下の基準:(少なくとも3回の連続した心室事象が検知される間に心房事象が検知されないこと)又は(検知された心房の電気信号の振幅が所定の閾値よりも小さいことの検知)に基づいて行われる。したがって、この実施例では、心房アンダーセンシングが存在するかどうかを推定するために、一方又は他方の基準で検知された心房信号の評価を実施すれば十分である。
【0037】
一実施例において、コンピュータ可読プログラムは、プロセッサで実行されると、プロセッサに、埋め込み可能なデバイスを装着している患者の健康状態を監視する役割を果たすホーム・モニタリング・サービス・センター(HMSC:home monitoring service center)に信号を送信するステップを実施させる。そうした信号によって、HMSCでは、心房アンダーセンシングが検知され、対策が必要であること、又は対策が自動的に取られることが示される。特定数の心房アンダーセンシング事象が検知される場合、これは、心房信号の検出に用いられる電極に伴う一般的な問題が存在する可能性があることを示す。そうした場合には、電極の再配置、又は浮遊半径の制限が必要になる可能性がある。
【0038】
一実施例において、コンピュータ可読プログラムは、プロセッサで実行されると、プロセッサに、埋め込み可能な医療デバイスを複数の室の検知ロジックから単一の室の検知ロジックに切り換えるステップを実施させる。一実施例において、複数の室の検知ロジックは、ヒト又は動物の心臓の刺激が必要かどうかを決定するために、心房信号と心室信号の両方を考慮する2つの室の検知ロジックである。単一の室の検知ロジックは通常、外部刺激が必要かどうかを決定するために、心室信号のみを使用する心室の検知ロジックである。心房アンダーセンシングが検知された場合、治療を受ける心臓の刺激が必要かどうかの決定を行うために、少なくともある特定時間の間は、十分に検知されない心房信号に依拠するのではなく、心室の信号のみに依拠することが実際的である。
【0039】
一実施例において、コンピュータ可読プログラムは、プロセッサで実行されると、プロセッサに、第1の検知ユニットの少なくとも1つの検知パラメータを自動的に調整するステップを実施させる。第1の検知ユニットのそうしたパラメータは、通常は第1の検知ユニットによって適用される検知アルゴリズムのパラメータである。そうしたパラメータの調整によって、第1の検知ユニットの検知の実施を、例えば弱い心房の電気信号に関して最適化することが可能である。
【0040】
一実施例において、コンピュータ可読プログラムは、プロセッサで実行されると、プロセッサに、第1の検知ユニットの第1の検出プロファイルから第1の検知ユニットの第2の検出プロファイルに自動的に切り換えるステップを実施させる。この文脈において、第2の検出プロファイルは、第1の検出プロファイルよりも高感度である。より高い感度を有する異なる検出プロファイルを適用することによって、例えば、より弱い心房の電気信号をより高い信頼度で検知することが可能になる。一実施例において、第2の検出プロファイルは、心房事象の検知後に、感度が所定の値までしか低下せず、したがって、第2の検出プロファイルの感度が、その後の心房信号に対して依然として第1の検出プロファイルの場合よりも高いことを保証する。一実施例において、第2の検出プロファイルは、心房事象が検知された後に感度を高め、第1の検出プロファイルよりも高度になることを保証する。これにより、第2の検出プロファイルの適用によって、検知すべき任意の後続の心房事象の検知が容易になる。
【0041】
一実施例において、コンピュータ可読プログラムは、プロセッサで実行されると、プロセッサに、第1の検知ユニットによって検知されたファーフィールド電位の形態的評価の間にP波が抽出された場合、検知された心房の電気信号に心房事象を電子的に加えるステップを実施させる。通常、そうしたP波の抽出は、P波を含む基準信号と第1の検知ユニットによって検知されたファーフィールド電位との間の一致を確認することによって行われる。そのように検知された信号に心房信号を電子的に加えることによって、欠落した心房事象を補い、さらに評価可能な完全な心房信号を得ることができるようになる。
【0042】
一実施例では、埋め込み可能な医療デバイスが、無期限に特定の心房アンダーセンシング・モードのままにならないように注意が払われる。より明確に言えば、それ以上の心房アンダーセンシングが予想されない又は検知できない場合、埋め込み可能な医療デバイスを正規モードの検知にリセットするために処置が取られる。このために、一実施例において、コンピュータ可読プログラムは、プロセッサで実行されると、プロセッサに、治療を受ける心臓の頻拍の律動が終了した場合、又は第2の時間にわたって心房事象の不十分な検知が確認されなかった場合、心房事象の不十分な検知が確認された後に埋め込み可能な医療デバイスによって採用された動作モード(心房アンダーセンシング・モード)から通常の動作モード(正規モード)に自動的に切り換えるステップを実施させる。一実施例において、第2の時間は、10分から60分の間、特に20分から50分の間、特に30分から40分の間の時間である。
【0043】
一態様において、本発明は、これまでの説明による埋め込み可能な医療デバイスの状態を確認するための方法に関する。確認される状態は、心房事象の不十分な検知によって特徴付けられる。この文脈において、方法は、以下に説明するステップを含む。
【0044】
実施されるステップは、埋め込み可能な医療デバイスの心房事象について不十分な検知しか行われていない状態を確認するための、第1の検知ユニットによって検知された心房の電気信号中の心房事象、及び/又は埋め込み可能な医療デバイスの第2の検知ユニットによって検知された心室の電気信号中の心室事象の評価を含む。この評価は、以下の基準:
-検知された心房の電気信号の形態、
-心房事象の安定性の欠如、
-第1の時間にわたる心房事象の不在、
-検知された心房の電気信号の振幅が所定の閾値よりも小さいことの検知、
-同じ時間枠内で心室事象が検知される間の心房事象の不在、
-一方における第1の検知ユニットの第1の検出プロファイルを用いて検出された心房事象と、他方における第1の検知ユニットの第2の検出プロファイルを用いて検出された心房事象との比較であって、この文脈において、第2の検出プロファイルは第1の検出プロファイルよりも高感度である、比較
の少なくとも1つに基づいて行われる。
【0045】
一態様において、本発明は、プロセッサで実行されると、プロセッサに、以下に説明するステップを実施させるコンピュータ可読コードを含むコンピュータ・プログラム製品に関する。
【0046】
実施されるステップは、埋め込み可能な医療デバイスの心房事象について不十分な検知しか行われていない状態を確認するための、第1の検知ユニットによって検知された心房の電気信号中の心房事象、及び/又は埋め込み可能な医療デバイスの第2の検知ユニットによって検知された心室の電気信号中の心室事象の評価を含む。この評価は、以下の基準:
-検知された心房の電気信号の形態、
-心房事象の安定性の欠如、
-第1の時間にわたる心房事象の不在、
-検知された心房の電気信号の振幅が所定の閾値よりも小さいことの検知、
-同じ時間枠内で心室事象が検知される間の心房事象の不在、
-一方における第1の検知ユニットの第1の検出プロファイルを用いて検出された心房事象と、他方における第1の検知ユニットの第2の検出プロファイルを用いて検出された心房事象との比較であって、この文脈において、第2の検出プロファイルは第1の検出プロファイルよりも高感度である、比較
の少なくとも1つに基づいて行われる。
【0047】
一態様において、本発明は、医療的方法、すなわち、これまでの説明による埋め込み可能な医療デバイスによる治療を必要とするヒト又は動物の患者の治療方法に関する。この埋め込み可能な医療デバイスは、プロセッサと、メモリ・ユニットと、ヒト又は動物の心臓の心房の電気信号を検知するように構成された第1の検知ユニットと、同じ心臓の心室の電気信号を検知するように構成された第2の検知ユニットと、同じ心臓のある領域を刺激するように構成された刺激ユニットとを備える。この文脈において、方法は以下に説明するステップを含む。
【0048】
第1のステップにおいて、埋め込み可能な医療デバイスの心房事象について不十分な検知しか行われていない状態を確認するために、第1の検知ユニットによって検知された心房の電気信号中の心房事象、及び/又は埋め込み可能な医療デバイスの第2の検知ユニットによって検知された心室の電気信号中の心室事象が評価される。この評価は、以下の基準:
-検知された心房の電気信号の形態、
-心房事象の安定性の欠如、
-第1の時間にわたる心房事象の不在、
-検知された心房の電気信号の振幅が所定の閾値よりも小さいことの検知、
-同じ時間枠内で心室事象が検知される間の心房事象の不在、
-一方における第1の検知ユニットの第1の検出プロファイルを用いて検出された心房事象と、他方における第1の検知ユニットの第2の検出プロファイルを用いて検出された心房事象との比較であって、この文脈において、第2の検出プロファイルは第1の検出プロファイルよりも高感度である、比較
の少なくとも1つに基づいて行われる。
【0049】
その後、埋め込み可能な医療デバイスの心房事象について不十分な検知しか行われていない状態が確認された場合には、第1の検知ユニットの検知モードが自動的に調整される(心房アンダーセンシング・モード)。
【0050】
その後、調整された検知モードでのヒト又は動物の心律動の評価後に、刺激が必要であるとみなされた場合には、刺激ユニットを用いて刺激パルスを適用することによって、ヒト又は動物の心臓のある領域が刺激される。
【0051】
埋め込み可能な医療デバイスに関して記載された変形例及び実施例はすべて、任意の所望の方法で組み合わせること、並びに個々に又は任意の組み合わせで記載される方法及び/又は記載されるコンピュータ・プログラム製品に移すことが可能である。さらに、記載された方法の実施例及び変形例はすべて、任意の所望の方法で組み合わせること、並びに個々に又は任意の組み合わせで、それぞれの他の方法、埋め込み可能な医療デバイス、及びコンピュータ可読プログラムに移すことが可能である。最後に、記載されたコンピュータ可読プログラムの実施例及び変形例はすべて、任意の所望の方法で組み合わせること、並びに個々に又は任意の組み合わせで、記載される埋め込み可能な医療デバイス及び記載される方法に移すことが可能である。