(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-13
(45)【発行日】2025-03-24
(54)【発明の名称】生体モデル
(51)【国際特許分類】
G09B 23/28 20060101AFI20250314BHJP
【FI】
G09B23/28
(21)【出願番号】P 2023500232
(86)(22)【出願日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2021006160
(87)【国際公開番号】W WO2022176118
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100167232
【氏名又は名称】川上 みな
(72)【発明者】
【氏名】山中 信圭
【審査官】松山 紗希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/011675(WO,A1)
【文献】特開2018-077443(JP,A)
【文献】特開2013-190578(JP,A)
【文献】特開2019-020691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 23/00-29/14
9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体モデルであって、
前記生体モデルの表面を含む部分を構成して皮膚を模擬する皮膚モデルと、
筋膜および筋肉を含む組織を模擬する筋膜・筋肉モデルと、
多孔質体を備え、前記皮膚モデルと前記筋膜・筋肉モデルとを接合する接合部と、
前記筋膜・筋肉モデルに埋設されて血管を模擬する血管モデルと、
を備え
、
前記皮膚モデルは、第1樹脂を含有し、
前記筋膜・筋肉モデルは、前記第1樹脂とは異なる第2樹脂を含有し、
前記接合部が備える前記多孔質体は、前記第1樹脂および前記第2樹脂のうちの一方の樹脂を含む
生体モデル。
【請求項2】
生体モデルであって、
前記生体モデルの表面を含む部分を構成して皮膚を模擬する皮膚モデルと、
筋膜および筋肉を含む組織を模擬する筋膜・筋肉モデルと、
多孔質体を備え、前記皮膚モデルと前記筋膜・筋肉モデルとを接合する接合部と、
前記筋膜・筋肉モデルに埋設されて血管を模擬する血管モデルと、
を備え
、
前記皮膚モデルは、前記表面に沿って広がるように配置された樹脂メッシュを備え、
前記樹脂メッシュは、前記皮膚モデルにおける前記樹脂メッシュ以外の部分を構成する樹脂よりも硬い第3樹脂によって形成される
生体モデル。
【請求項3】
請求項
2に記載の生体モデルであって、
前記樹脂メッシュを構成する素線の径は、0.5mm以下である
生体モデル。
【請求項4】
請求項1
から3までのいずれか一項に記載の生体モデルであって、
前記接合部が備える前記多孔質体は、前記多孔質体を厚み方向に貫通する細孔を有する
生体モデル。
【請求項5】
請求項1から
4までのいずれか一項に記載の生体モデルであって、
前記皮膚モデルは、前記表面を含む上層と、前記上層に積層される下層とに分割されており、
前記下層は、粘着性を有するゲルにより形成される
生体モデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、 生体モデルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の生体モデルが知られている。このような生体モデルは、例えば、治療や診断に係る各種の技能を高めるためのトレーニングにおいて用いられる。例えば、特許文献1には、超音波ガイド下における血管への注射針の挿入をシミュレートするための、皮膚や組織や血管を模した構造を有する生体モデルが開示されている。また、特許文献2には、超音波検査装置を用いた褥瘡診断訓練用の生体モデルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-533025号公報
【文献】特開2016-224396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような生体モデルのうち、特に、注射針を血管に挿入する穿刺に係る手技や、カテーテル等の医療用デバイスを血管に挿入して行う治療や診断に係る手技のトレーニングに用いる生体モデルでは、医療用デバイス等の挿入時に得られる感覚や感触が、トレーニングの質を高める上で重要である。そのため、生体を対象とする場合により近い感触や感覚が得られるトレーニングを可能にする生体モデルが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、生体モデルが提供される。この生体モデルは、前記生体モデルの表面を含む部分を構成して皮膚を模擬する皮膚モデルと、筋膜および筋肉を含む組織を模擬する筋膜・筋肉モデルと、多孔質体を備え、前記皮膚モデルと前記筋膜・筋肉モデルとを接合する接合部と、前記筋膜・筋肉モデルに埋設されて血管を模擬する血管モデルと、を備える。
この形態の生体モデルによれば、接合部は、多孔質体によって構成されている。そのため、皮膚モデルと筋膜・筋肉モデルとのうちの少なくとも一方については、構成材料が、接合部を構成する多孔質体の細孔の内部に入り込むことにより、接合部を介した接合が可能になり、皮膚モデルと筋膜・筋肉モデルとの接合強度を高めることができる。その結果、皮膚モデルと筋膜・筋肉モデルとを直接接合する場合の接合の困難性に起因する制限を抑えて、皮膚モデルを構成する材料と、筋膜・筋肉モデルを構成する材料との、組み合わせを選択することができる。このように、所望の特性を有する材料を用いて皮膚モデルおよび筋膜・筋肉モデルを構成することができるため、生体モデルを用いて種々の手技のトレーニングを行うときに、生体を対象とする場合により近い没入感を得ることが可能になる。
【0006】
(2)上記形態の生体モデルにおいて、前記皮膚モデルは、第1樹脂を含有し、前記筋膜・筋肉モデルは、前記第1樹脂とは異なる第2樹脂を含有し、前記接合部が備える前記多孔質体は、前記第1樹脂および前記第2樹脂のうちの一方の樹脂を含むこととしてもよい。このような構成とすれば、上記一方の樹脂を含む皮膚モデルまたは筋膜・筋肉モデルと接合部との間の接合が容易になり、皮膚モデルと筋膜・筋肉モデルとの間の接合強度をさらに高めることができる。
【0007】
(3)上記形態の生体モデルにおいて、前記接合部が備える前記多孔質体は、前記多孔質体を厚み方向に貫通する細孔を有することとしてもよい。このような構成とすれば、多孔質体の細孔内に、上記他方の樹脂を充填することにより、接合部内における気泡の残留を抑えることができる。
【0008】
(4)上記形態の生体モデルにおいて、前記皮膚モデルは、前記表面に沿って広がるように配置された樹脂メッシュを備え、前記樹脂メッシュは、前記皮膚モデルにおける前記樹脂メッシュ以外の部分を構成する樹脂よりも硬い第3樹脂によって形成されることとしてもよい。このような構成とすれば、例えば、樹脂メッシュ以外の部分を構成する樹脂によって、皮膚の柔らかい感触を再現することができると共に、さらに樹脂メッシュを設けることにより、注射針を皮膚に刺して皮膚を突き破るときの感触等の再現性を高めることができるため、皮膚モデルによる皮膚の再現性を高めることができる。
【0009】
(5)上記形態の生体モデルにおいて、前記樹脂メッシュを構成する素線の径は、0.5mm以下であることとしてもよい。このような構成とすれば、例えば、樹脂メッシュを構成する樹脂が、比較的超音波を通し難い樹脂であっても、生体モデルの内部に透過する超音波を確保することができ、エコーガイド下におけるトレーニングのために、生体モデルを好適に用いることができる。
【0010】
(6)上記形態の生体モデルにおいて、前記皮膚モデルは、前記表面を含む上層と、前記上層に積層される下層とに分割されており、前記下層は、粘着性を有するゲルにより形成されることとしてもよい。このような構成とすれば、上層の構成材料の種類にかかわらず、下層を構成するゲルの有する粘着性を利用して、下層と上層とを容易に接合することが可能になり、上層の構成材料の選択の自由度を高めることができる。
【0011】
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、生体モデルの製造方法、生体モデルを備える人体シミュレーション装置などの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態の生体モデルの概略構成を模式的に表す断面図。
【
図2】生体モデルの製造方法を表すフローチャート。
【
図3】第2実施形態の生体モデルの概略構成を模式的に表す断面図。
【
図4】第3実施形態の生体モデルの概略構成を模式的に表す断面図。
【
図5】第4実施形態の生体モデルの概略構成を模式的に表す断面図。
【
図6】第5実施形態の生体モデルの概略構成を模式的に表す断面図。
【
図7】第6実施形態の生体モデルの概略構成を模式的に表す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
A.第1実施形態:
(A-1)生体モデルの全体構成:
図1は、第1実施形態の生体モデル10の概略構成を模式的に表す断面図である。本実施形態の生体モデル10は、注射針を血管に挿入する穿刺に係る手技や、カテーテルやガイドワイヤ等の医療用デバイスを血管に挿入して行う治療や診断に係る手技のトレーニング、あるいは、医療用デバイスの開発等を目的とした用途のために用いられる。特に、本実施形態の生体モデル10は、超音波ガイド下において、上記した手技のトレーニング等を行うために用いられる。
【0014】
生体モデル10は、皮膚モデル20と、接合部30と、筋膜・筋肉モデル40と、血管モデル50と、骨モデル60と、を備える。生体モデル10では、生体モデル10の表面側から、皮膚モデル20と、接合部30と、筋膜・筋肉モデル40とが、この順で積層されている。
図1、および後述する
図3以降の各図には、相互に直交するXYZ軸が図示されている。X軸方向およびY軸方向は、生体モデル10を配置したときの水平方向に対応し、Z軸方向は、生体モデル10を配置したときの鉛直方向に対する。ただし、生体モデル10は、異なる向きに配置してもよい。また、Y軸方向は、生体モデル10内で血管モデル50が延びる方向である長手方向に対応する。なお、
図1は、各部の寸法の比率を正確に表すものではない。
【0015】
(A-2)皮膚モデル:
皮膚モデル20は、生体モデル10の表面である面21を含む部分を構成して生体の皮膚を模擬する。本実施形態の皮膚モデル20は、生体モデル10の表面である面21を含む表層モデル22と、表層モデル22に積層して表層モデル22の下側(-Z方向側)に設けられる皮下組織モデル24と、を備える。表層モデル22は、角質層を含む表皮、および、真皮を模擬する。皮下組織モデル24は、皮下組織を模擬する。表層モデル22は「上層」とも呼び、皮下組織モデル24は「下層」とも呼ぶ。
【0016】
表層モデル22は、生体モデルを用いたトレーニングの際に、注射針等を生体モデル10に突き刺す際の感触として、生体の皮膚を対象とする場合に得られる感触と近い感触が得られることが望ましい。また、エコーガイド下においてトレーニングを行う際に、表層モデル22を超音波が十分に透過すること、すなわち、音響インピーダンスが比較的低いことが望ましい。そのため、穿刺の際などに、生体の皮膚に近い感触が得られると共に、超音波が皮膚モデル20を十分に透過できるように、皮膚モデル20を構成する材料を選択すると共に、皮膚モデル20の厚みを設定すればよい。
【0017】
表層モデル22は、例えば、ポリウレタン、シリコーン、ナイロン、ポリスチレン等のエラストマや、天然ゴムあるいは合成ゴムを用いて、これらの高分子材料を単独で、あるいは、複数の高分子材料を組み合わせることにより、構成することができる。生体の皮膚の感触(肌触りや、エコー観察用のプローブを押し当てたときに感じる弾性、および、プローブの滑り具合など)に近い感触を得易いという観点から、摩擦特性や弾性率等の物性を考慮すると、ポリウレタンが望ましく、軟質ポリウレタンが特に望ましい。
【0018】
表層モデル22の厚みは、接触時や穿刺の際などに、生体の皮膚の感触に近い感触を得易いという観点から、例えば、0.5mm~1.0mm程度とすることができる。このような厚みとすることにより、生体モデル10をエコーガイド下で用いる際に、表層モデル22において十分に超音波を透過させることが可能になり、上記したいずれの樹脂も、表層モデル22の材料として支障なく用いることができる。ただし、表層モデル22の厚みは、上記範囲に限定されない。
【0019】
皮下組織モデル24においては、生体の皮膚の感触の再現性を向上させるように、また、エコーガイド下においてトレーニングを行う際に、皮下組織モデル24を超音波が十分に透過するように、構成材料を適宜選択すればよい。皮下組織モデル24は、例えば、シリコーンゲルや、ポリウレタンゲルなどのゲルを用いて構成することができる。皮下組織モデル24を、例えば粘着性を有するポリウレタンゲルを用いて構成する場合には、表層モデル22を構成する高分子材料の種類にかかわらず、皮下組織モデル24の有する粘着性を利用して、皮下組織モデル24と表層モデル22とを容易に接合可能となるため望ましい。皮下組織モデル24が十分な粘着性を有しない場合には、接着剤等を用いることなく表層モデル22と皮下組織モデル24とを直接接合させるために、表層モデル22と皮下組織モデル24とは、同種の高分子材料により構成することが望ましい。同種の高分子材料を用いる場合には、例えば皮下組織モデル24上に表層モデル22の材料を塗布して硬化させることにより、皮下組織モデル24と表層モデル22との界面において共有結合や水素結合等を形成させて、両者を容易に密着させることが可能となる。皮下組織モデル24と表層モデル22とを密着させることにより、例えば、皮下組織モデル24と表層モデル22との間に気泡が混入することを抑えることができる。
【0020】
なお、皮膚モデル20において、生体モデル10の表面である面21から離間する側の面である面25を含む部分、すなわち、皮下組織モデル24に含まれる樹脂は、「第1樹脂」とも呼ぶ。
【0021】
(A-3)筋膜・筋肉モデル:
筋膜・筋肉モデル40は、皮膚モデル20の下側(-Z方向側)に設けられており、筋膜および筋肉を含む組織を模擬する。筋膜・筋肉モデル40においては、生体の筋膜および筋肉を含む組織の硬さの再現性を向上させるように、構成材料を適宜選択すればよい。また、筋膜・筋肉モデル40においては、エコーガイド下における視認性が確保されて、生体の筋膜および筋肉を含む組織の超音波画像の再現性を向上させるように、音響インピーダンスが比較的低い構成材料を選択すればよい。このような観点から、筋膜・筋肉モデル40の構成材料としては、ゲルを用いることが望ましい。特に、分散媒が水であるハイドロゲルは、超音波が透過しやすく、超音波画像の再現性が良好であるため望ましい。
【0022】
筋膜・筋肉モデル40を構成するために用いるハイドロゲルとしては、例えば、アガロースゲル、メチルセルロースゲル、ヒアルロン酸ハイドロゲル、アルギン酸ハイドロゲル、カルボキシメチルセルロースゲル、キサンタンガム等の多糖類ハイドロゲルを挙げることができる。また、コラーゲン、ゼラチン、アルブミン、あるいはケラチン等を含むタンパク質ハイドロゲルや、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ乳酸、あるいはポリアクリル酸等を含む合成高分子ハイドロゲルや、ポリビニルアルコール(PVA)ハイドロゲルや、シリコーンハイドロゲルを用いてもよい。あるいは、ハイドロゲル以外の高分子材料であるウレタンゲルも、筋膜・筋肉モデル40の構成材料として好適に用いることができる。上記した高分子材料の中でも、ポリビニルアルコール(PVA)ハイドロゲルは、取り扱いが容易であり、生体の筋膜および筋肉を含む組織の硬さの再現性および超音波画像の再現性に優れているため望ましい。
【0023】
筋膜・筋肉モデル40は、上記のような種々の高分子材料のうちの任意の高分子材料を複数組み合わせて筋膜・筋肉モデル40を構成してもよい。複数の高分子材料を混合して用いることで、筋膜・筋肉モデル40における音響インピーダンスを調節することができる。例えば、ウレタンゲルを用いて筋膜・筋肉モデル40を構成する場合に、さらにシリコーンゲルを混合して音響インピーダンスを高め、シリコーンゲルの混合割合を調節することにより、所望の超音波画像を得ることとしてもよい。
【0024】
筋膜・筋肉モデル40は、上記した高分子材料に加えて、さらに、無機材料を含有していてもよい。筋膜・筋肉モデル40に混合する無機材料としては、例えば、セルロースナノファイバーや、ガラスビーズを挙げることができる。音響インピーダンスが比較的高いこれらの無機材料を混合することにより、筋膜・筋肉モデル40全体の音響インピーダンスを高めて、筋膜・筋肉モデル40の超音波画像をより白くすることができ、また、筋膜・筋肉モデル40をより硬くすることができる。筋膜・筋肉モデル40を構成する高分子材料の種類および濃度、高分子材料に添加する無機材料の種類、無機材料の混合割合、および、無機材料の粒径等のうちの少なくとも一つを調節することにより、生体の筋膜および筋肉を含む組織の硬さの再現性および超音波画像の再現性を向上させることができる。筋膜・筋肉モデル40の超音波画像や硬さを均質化するために、上記した無機材料は、例えば、10nm~数百nm程度の粒径の微粒子とすればよい。また、混合された無機材料の種類や濃度の異なる複数の層を積層することにより、筋繊維の集合体としての筋肉の超音波画像を模擬することとしてもよい。
【0025】
筋膜・筋肉モデル40を構成する上記した高分子材料は、皮膚モデル20を構成する既述した「第1樹脂」とは異なる樹脂であり、「第2樹脂」とも呼ぶ。第2樹脂は、複数種類の樹脂によって構成されていてもよい。
【0026】
(A-4)接合部:
接合部30は、皮膚モデル20および筋膜・筋肉モデル40に接するように、皮膚モデル20と筋膜・筋肉モデル40との間に配置されて、皮膚モデル20と筋膜・筋肉モデル40とを接合する。本実施形態の接合部30は、筋膜・筋肉モデル40を構成する既述した第2樹脂を含む発泡体によって構成される。例えば、筋膜・筋肉モデル40をポリビニルアルコール(PVA)ハイドロゲルを用いて形成する場合には、接合部30は、発泡ポリビニルアルコール(発泡PVA)を備えることとすればよい。また、例えば、筋膜・筋肉モデル40を、シリコーンハイドロゲルを用いて形成する場合には、接合部30は、発泡シリコーンを備えることとすればよい。このとき、接合部30における皮膚モデル20との界面を含む部分を構成する第2樹脂と、皮膚モデル20における接合部30との界面を含む部分を構成する第1樹脂とが異なるため、接合部30と皮膚モデル20との界面では音響インピーダンスの差が生じ、超音波画像において、接合部30と皮下組織モデル24との境界を、容易に視認可能となる。
【0027】
本実施形態では、筋膜・筋肉モデル40上において、筋膜・筋肉モデル40を構成する第2樹脂と同種の樹脂を用いて発泡および硬化の工程を行って接合部30を形成することにより、筋膜・筋肉モデル40と接合部30とを接合している。筋膜・筋肉モデル40と接合部30とが接合される態様は、用いる第2樹脂により異なり得る。例えば、第2樹脂としてポリビニルアルコール(PVA)を用いる場合には、ポリビニルアルコールハイドロゲルを含む筋膜・筋肉モデル40上で、発泡させたポリビニルアルコールを硬化させることで、筋膜・筋肉モデル40を構成するポリビニルアルコールと、発泡体を構成するポリビニルアルコールとの間で、架橋硬化に伴って、水素結合による物理架橋が形成されて、筋膜・筋肉モデル40と接合部30とが接合される。また、例えば、第2樹脂としてシリコーンを用いる場合には、シリコーンハイドロゲルを含む筋膜・筋肉モデル40上で、発泡させたシリコーン樹脂を硬化させることで、筋膜・筋肉モデル40を構成するシリコーン樹脂と、発泡体を構成するシリコーン樹脂との間で、架橋硬化に伴って、縮合反応が進行して、筋膜・筋肉モデル40と接合部30とが接合される。このように、筋膜・筋肉モデル40を構成する樹脂と、接合部30を構成する樹脂との間で、接合部30の架橋硬化に伴う反応が進行することにより、筋膜・筋肉モデル40と接合部30とが接する部位では、双方に共通する樹脂が溶け合った層が形成される。接合部30と筋膜・筋肉モデル40との間の接合強度を高めるためには、接合部30において、筋膜・筋肉モデル40との間で共通する構成材料の割合が高いことが望ましく、同じ組成の樹脂により形成されることがより望ましい。
【0028】
接合部30が備える発泡体では、皮膚モデル20と接する側の面である面31、すなわち、皮膚モデル20との界面において、気泡が開口している。そして、皮膚モデル20との界面を含む部分では、皮膚モデル20を構成する第1樹脂、すなわち、皮下組織モデル24を構成する樹脂が、接合部30を構成する発泡体の気泡の内部に入り込んでいる。上記のように、接合部30を構成する発泡体の気泡内に皮下組織モデル24の一部が入り込むことで、アンカー効果により、皮膚モデル20と接合部30とが接合されている。
【0029】
筋膜・筋肉モデル40上で接合部30を形成する際には、第2樹脂を含む接合部30の構成材料(例えば、筋膜・筋肉モデル40を構成するゲルの材料と同様の材料)に発泡剤を混合し、混合した材料を筋膜・筋肉モデル40上に塗布した後に、上記材料の発泡および硬化を行えばよい。発泡剤としては、例えば、ノルマルペンタン(n-ペンタン)、シクロペンタン、イソペンタン、ノルマルブタン、イソブタン、プロパンなどの低沸点溶剤を挙げることができる。発泡剤の種類や、接合部30を構成する高分子材料に発泡剤を混合する際の混合割合や、発泡および硬化時の温度などの条件を適宜設定することにより、得られる発泡体における細孔の大きさ、気孔率、あるいは、連続気泡と独立気泡との割合等を調節することができる。また、発泡体の形成時には、発泡剤に加えて、さらに、界面活性剤などの他の物質を混合してもよい。
【0030】
接合部30において、皮膚モデル20との界面において気泡を開口させるためには、独立気泡の割合が少ないことが望ましい。また、接合部30内に独立気泡が存在すると、超音波を用いて生体モデル10を観察する際に、独立気泡において超音波が反射されて、超音波の減衰が引き起こされ得るため、接合部30中に独立気泡が少ないことが望ましい。接合部30の厚みは、例えば1.5mm以上10mmとすることが望ましい。また、接合部30に形成される気泡径の平均値は、0.5mm以上5mm以下とすることが望ましい。このような発泡体が得られるように発泡および硬化に係る条件を調節することで、接合部30の形状を、皮膚モデル20との界面において気泡が開口する形状とし、独立気泡の形成を抑えることが容易になる。また、接合部30を形成するための発泡の工程の終了後、例えば、発泡により形成された気泡を潰して空隙を大きくすることにより、発泡体を、オープンセル構造の多孔質体、すなわち、厚み方向に貫通する細孔を有する多孔質体にしてもよい。あるいは、異なる発泡剤を混合させたゲル材料を複数用意し、これらのゲル材料を、筋膜・筋肉モデル40上に順に積層して配置し、発泡および硬化させることにより、連続気泡を有する接合部30を形成してもよい。
【0031】
(A-5)血管モデル:
血管モデル50は、筋膜・筋肉モデル40に埋設されて、血管を模擬しており、可撓性を有する管状部材によって構成されている。血管モデル50においては、生体の血管の硬さや、血管に注射針やカテーテル等の医療用デバイスを挿入したときの感触の再現性を向上させるように、構成材料を適宜選択すればよい。また、血管モデル50においては、エコーガイド下において、血管モデル50内に挿入した注射針や医療用デバイスの様子を視認可能となるように、音響インピーダンスが比較的低く、筋膜・筋肉モデル40の構成材料の音響インピーダンスとの差が比較的小さい構成材料を、適宜選択すればよい。血管モデル50を構成する高分子材料としては、例えば、筋膜・筋肉モデル40の構成材料として説明した材料から適宜選択して用いることができる。これらの材料の中でも、ポリビニルアルコール(PVA)は、滑り性や弾性が生体の血管に近似しているため望ましい。また、血管モデル50を、筋膜・筋肉モデル40と同種の材料により構成するならば、血管モデル50と筋膜・筋肉モデル40との間の接合強度の確保が容易となり、望ましい。
【0032】
血管モデル50は、筋膜・筋肉モデル40と同様に、ハイドロゲルなどの高分子材料に加えて、さらに無機材料を含有することにより、生体の硬さの再現性および超音波画像の再現性を向上させることができる。また、血管モデル50は、均質な材料により構成された単層の管状部材とする他、混合された無機材料の種類や濃度の異なる複数の層を積層した管状部材としてもよい。これにより、内膜、中膜、外膜を備える血管を模擬することができる。
【0033】
(A-6)骨モデル:
骨モデル60は、筋膜・筋肉モデル40に埋設されて、骨を模擬している。骨モデル60は、生体の骨の弾性率に近い弾性率を示し、比較的硬い材料により構成すればよい。骨モデル60の構成材料としては、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)を挙げることができる。血管モデル50よりも生体モデル10の深いところに存在する骨モデル60においては、必ずしもエコーガイド下における視認性を確保する必要はないが、過度に超音波を反射しないことが望ましい。また、超音波画像において骨モデル60の視認性を確保したい場合には、骨モデル60の表面に、さらに、筋膜・筋肉モデル40との間の音響インピーダンスの差がより大きい材料から成る層を設けてもよい。
【0034】
骨モデル60を設けることにより、血管モデル50に対して注射針や医療用デバイスを挿入してトレーニングを行う際に、例えば、血管近傍に存在する骨が操作時の感触に与える影響を模擬することができる。ただし、骨モデル60は必須ではなく、トレーニングする手技の対象が血管である生体モデル10においては、骨モデル60を設けないこととしてもよい。
【0035】
(A-7)生体モデルの製造方法:
図2は、生体モデル10の製造方法を表すフローチャートである。生体モデル10を製造する際には、まず、血管モデル50および骨モデル60を作製する(工程T100)。血管モデル50および骨モデル60は、各々形状に対応する形状の金型内で、構成材料である既述した高分子材料を硬化させることにより作製すればよい。
【0036】
次に、生体モデル10の全体形状に対応する形状の金型である成型モールド内に、工程T100で作製した血管モデル50および骨モデル60を配置する(工程T110)。そして、成型モールド内に、筋膜・筋肉モデル40の構成材料を充填した後に、充填した構成材料をゲル化させることにより、筋膜・筋肉モデル40を形成する(工程T120)。例えば、筋膜・筋肉モデル40を、ポリビニルアルコール(PVA)により作製する場合には、ポリビニルアルコールを、水、あるいはさらにジメチルスルホキシド等の水溶性有機溶媒を含む水溶液に溶解させて、ポリビニルアルコール溶液を作製する。このとき、必要に応じて無機材料などの他の成分をさらに加えて、80~130℃程度に加熱して混合し、上記した成型モールド内に充填する。その後、上記ポリビニルアルコール溶液を-30℃程度に冷却することで、ポリビニルアルコールの分子が架橋して硬化する。そして、冷却したポリビニルアルコール溶液を室温に戻すことにより、ポリビニルアルコールゲルが得られて、筋膜・筋肉モデル40が形成される。
【0037】
例えば、筋膜・筋肉モデル40および血管モデル50の双方を、ポリビニルアルコールを用いて形成する場合には、工程T120では、加熱したポリビニルアルコール溶液を、血管モデル50および骨モデル60を配置した成型モールド内に充填すればよい。これにより、血管モデル50の表面温度が上昇して、ポリビニルアルコール分子の水素結合が切れることにより、血管モデル50の表面が部分的に溶解して、成型モールドに充填したポリビニルアルコール溶液と混ざり合う。その後、成型モールド全体が冷凍されて、ポリビニルアルコールの分子間が架橋されることにより、血管モデル50と筋膜・筋肉モデル40とが結合される。
【0038】
工程T120で筋膜・筋肉モデル40を形成すると、次に、筋膜・筋肉モデル40上に、接合部30の構成材料を塗布する(工程T130)。筋膜・筋肉モデル40および接合部30を、ポリビニルアルコールを用いて形成する場合には、工程T130では、例えば、工程T120で筋膜・筋肉モデル40を形成するために用いた既述したゲル材料と同様の材料に、さらに発泡剤を加えたものを塗布すればよい。
【0039】
その後、工程T130で塗布した接合部30の構成材料を発泡させる(工程T140)。工程T140では、発泡剤による発泡が進行する温度に昇温させればよく、例えば発泡剤としてn-ペンタンを用いる場合には、50℃程度に昇温させればよい。
【0040】
工程T140で接合部30の構成材料を発泡させた後、得られた発泡層の表面で開口する気泡内に、皮下組織モデル24の材料を充填して、ゲル化する(工程T150)。工程T150では、皮下組織モデル24を形成するための液状材料を、上記発泡層上に流し込むことで、発泡層の気泡内に液状材料が充填されるが、気泡における自然脱気が不十分である場合、あるいは、自然脱気が困難である場合には、真空脱気を行ってもよい。工程T150では、気泡内に空気を残すことなく皮下組織モデル24の材料を充填することが望ましい。工程T150では、発泡層の気泡内に、皮下組織モデル24の材料を充填した後、皮下組織モデル24の材料に応じた温度条件下(例えば常温)で、皮下組織モデル24の材料を架橋硬化させてゲル化し、皮下組織モデル24を形成する。
【0041】
次に、表層モデル22となる部材を用意する(工程T160)。ここでは、表層モデル22の材料として既述した高分子材料によって構成されるシートを用意する。そして、用意した表層モデル22となる部材を、工程T150で形成した皮下組織モデル24上に貼り付けて(工程T170)、生体モデル10を完成する。例えば、皮下組織モデル24を、粘着性を有するポリウレタンゲルによって構成する場合には、皮下組織モデル24の粘着性を利用して、皮下組織モデル24に表層モデル22を隙間無く密着させることができる。なお、皮下組織モデル24を、粘着性を有しない高分子材料により構成する場合には、工程T160および工程T170に代えて、例えば、皮下組織モデル24の構成材料と同種の材料を、表層モデル22の構成材料として皮下組織モデル24上に塗布する工程と、塗布した構成材料を硬化させて表層モデル22を形成する工程と、を行って、皮下組織モデル24と表層モデル22とを接合すればよい。
【0042】
生体モデル10は、直方体のブロック状や、円柱状など、種々の形状とすることができる。あるいは、注射針や医療用デバイスの挿入に係るトレーニングしたい手技の対象となる血管の種類に応じて、当該血管を備える人体の部分、例えば下肢や腕の形状を模したモデルとしてもよい。あるいは、人体模型等、人体のより広い範囲を模したモデルとしてもよい。
図1では、このようにして作製した生体モデル10における、トレーニングの対象となる血管モデル50および、その近傍の皮膚モデル20を含む部分のみを拡大して示している。
【0043】
以上のように構成された本実施形態の生体モデル10によれば、皮膚モデル20と筋膜・筋肉モデル40とを接合する接合部30は、樹脂によって形成された発泡体によって構成されている。そのため、皮膚モデル20と接合部30とを強固に接合することにより、皮膚モデル20と筋膜・筋肉モデル40との接合強度を高めることができる。例えば、皮膚モデル20を構成する樹脂が、接合部30を構成する発泡体の気泡の内部に入り込むことにより、アンカー効果が得られるためである。その結果、皮膚モデル20と筋膜・筋肉モデル40とを直接接合する場合の接合の困難性に起因する制限を抑えて、皮膚モデルを構成する材料と、筋膜・筋肉モデルを構成する材料と、の組み合わせの自由度を確保しつつ、皮膚モデルと筋膜・筋肉モデルとの間で高い接続強度を得ることができる。
【0044】
特に、本実施形態では、接合部30と筋膜・筋肉モデル40とは同種の樹脂を用いて形成されるため、例えば筋膜・筋肉モデル40上で接合部30となる樹脂の架橋硬化を行わせることにより、上記した同種の樹脂材料間を容易に結合することができる。そのため、皮膚モデル20および筋膜・筋肉モデル40の構成材料に関わらず、接合部30を介した皮膚モデル20と筋膜・筋肉モデル40との接合の強度を、さらに高めることができる。
【0045】
このように、皮膚モデル20と筋膜・筋肉モデル40とを異なる材料によって形成しても、両者を良好に接合することができるため、皮膚モデル20と筋膜・筋肉モデル40とのそれぞれの構成材料を、任意に設定することができる。例えば、皮膚モデル20では、皮膚に触れたときの感触の再現性を高めることができる摩擦特性や弾性率を有する材料を用いることが望まれる。さらに、生体モデル10を用いて穿刺のトレーニングを行う場合には、皮膚モデル20では、注射針を刺したときの感触の再現性を高めることができる硬さや弾性率を有する材料を用いることが望まれる。これに対して筋膜・筋肉モデル40では、生体における筋膜および筋肉を含む組織の硬さの再現性が高い材料を用いることが望まれる。さらに、生体モデル10が、エコーガイド下でのトレーニングを使用目的とする場合には、筋膜・筋肉モデル40は、超音波を十分に透過させて、生体における超音波画像の再現性に優れたゲルを用いることが望ましい。このように、皮膚モデル20と筋膜・筋肉モデル40との構成材料を選択する際に、接合の困難性等に起因する組み合わせの制限を受けることなく、皮膚モデル20と筋膜・筋肉モデル40との各々の構成材料を、要求される性能に応じて適切に選択しつつ、皮膚モデル20と筋膜・筋肉モデル40とを良好に接合することができる。
【0046】
生体モデル10を構成する各部について、各部が模擬する生体の部分の再現性が高まるように各部の構成材料を選択したときに、生体モデル10全体として、硬さや感触等の再現性に係る性能を十分に得るためには、複数の組織を模擬する各部が適切な強度で結合されていることが重要である。本実施形態では、接合部30を設けることにより、十分な接合強度を得ることができる。また、異なる材料によって構成される皮膚モデル20と筋膜・筋肉モデル40とを、接合のための構造を設けることなく積層して設けた場合には、両者の間の接合力が不足することに起因して、皮膚モデル20と筋膜・筋肉モデル40との間に例えば気泡が生じる可能性がある。皮膚モデル20と筋膜・筋肉モデル40との間に気泡が生じると、気泡によって超音波の透過が妨げられて、気泡よりも下の血管モデル50を含む部位の超音波画像による観察が困難になり得る。本実施形態では、接合部30を設けることにより、接合力が不足することに起因する上記した不都合を抑えることができる。
【0047】
本実施形態において、接合部30が備える発泡体は、発泡体を厚み方向に貫通する細孔を有することが望ましい。「発泡体を厚み方向に貫通する細孔」は、全体として発泡体を厚み方向に貫通するように互いに連通して設けられた複数の気泡から成る連続気泡であってもよく、発泡体を厚み方向に貫通する単一の気泡であってもよい。このように発泡体を貫通する細孔とは異なり、接合部30の内部に独立気泡が形成される場合には、このような独立気泡には、皮膚モデル20を構成する樹脂が入り込むことがなく、接合部30内に気泡が残留する。接合部30内に気泡が残留すると、エコーガイド下で生体モデル10を用いるときに、気泡によって超音波の透過が妨げられて、気泡よりも下の血管モデル50を含む部位の超音波画像による観察が困難になり得る。発泡体の細孔を貫通孔にすれば、細孔内に、皮膚モデル20を構成する樹脂を充填することにより、接合部30内における気泡の形成を抑えることができる。
【0048】
さらに、本実施形態によれば、皮膚モデル20と筋膜・筋肉モデル40とを接合するために接着剤を用いる必要がないため、接着剤に起因して、生体モデル10の硬さ、例えば、皮膚モデル20近傍の硬さが変更されることがない。さらに、皮膚モデル20と筋膜・筋肉モデル40との間に接着剤層が設けられる場合には、接着剤層によって超音波の透過が妨げられて、接着剤層よりも下の層の血管モデル50を含む部位の超音波画像による観察が困難になり得る。そのため、生体モデル10を、エコーガイド下で行う手技のトレーニングに用いる場合には、接着剤層が不要になることによる効果を、特に顕著に得ることができる。
【0049】
B.第2実施形態:
図3は、第2実施形態の生体モデル110の概略構成を模式的に表す断面図である。第2実施形態は、第1実施形態の皮膚モデル20に代えて皮膚モデル120を備える点以外は、第1実施形態と同様の構成を有する。第2実施形態において、第1実施形態の生体モデル10と共通する部分には同じ参照番号を付す。
【0050】
皮膚モデル120は、表層モデル122と、皮下組織モデル24と、を備える。表層モデル122は、第1実施形態の表層モデル22を構成する材料と同様の樹脂材料により形成される樹脂層を備えると共に、この樹脂層に埋め込まれた樹脂メッシュ126を備える。樹脂メッシュ126は、上記樹脂層、すなわち、面21を含む部分を構成する樹脂よりも硬い樹脂により形成される。本実施形態では、樹脂メッシュ126は、上記樹脂層を構成する樹脂だけでなく、皮下組織モデル24を構成する樹脂よりも硬い樹脂により形成される。樹脂メッシュ126を構成する樹脂は、「第3樹脂」とも呼ぶ。
【0051】
樹脂メッシュ126を構成する樹脂としては、例えば、ポリプロピレンやポリカーボネートを用いることができる。樹脂メッシュ126は、上記した第3樹脂により構成される素線を用いて作製された織物や編物とすることができる。
【0052】
このような構成とすれば、皮膚モデル120における樹脂メッシュ126以外の部分を構成する樹脂よりも硬い第3樹脂により形成される樹脂メッシュ126を備えるため、皮膚モデル120による皮膚の再現性を高めることができる。例えば、上記した樹脂層を構成する樹脂によって、皮膚の柔らかい感触を再現することができると共に、さらに樹脂メッシュ126を設けることにより、注射針を皮膚に刺して皮膚を突き破るときの感触の再現性を高めることができる。このように、皮膚モデル120を構成する各部の構成材料を適宜選択することにより、皮膚モデル120全体の性質を調整できるため、皮膚モデル120による皮膚の再現性を、より向上させることができる。
【0053】
第2実施形態の表層モデル122を形成する際には、樹脂材料を架橋硬化させて樹脂層を形成する際に、層状に配置された硬化前の樹脂材料内に、樹脂メッシュ126を埋め込み、その後、樹脂材料の架橋硬化を行えばよい。樹脂メッシュ126を硬化前の樹脂材料に埋め込むことにより、樹脂層を構成する樹脂材料が樹脂メッシュ126に含浸されるため、樹脂層と樹脂メッシュ126とが異なる材料により形成されても、樹脂層と樹脂メッシュ126とを良好に接合させることができる。
【0054】
上記のように、樹脂メッシュ126によって、例えば穿刺の際の感触等の再現性を高める効果を得る観点から、樹脂メッシュ126を構成する素線の線径(平均線径)は、例えば、0.1mm以上とすればよい。また、本実施形態では、樹脂メッシュ126を構成する樹脂が、比較的超音波を通し難い樹脂であっても、メッシュの目開き、および、メッシュにおける開口面積の割合を確保することで、生体モデル110の内部に透過する超音波を確保することができる。超音波の透過を確保する観点から、樹脂メッシュ126の素線の線径は、例えば、0.5mm以下とすることができる。
【0055】
第2実施形態の生体モデル110は、表層モデル122が樹脂メッシュ126を備えることにより、樹脂メッシュ126の表面の凹凸によって、生体モデル110の表面である面21に凹凸を形成し、皮膚の表面の感触の再現性を、さらに高めることとしてもよい。例えば、樹脂メッシュ126の素線の線径、樹脂メッシュ126の目開き、表層モデル122において樹脂メッシュ126が配置される深さ等により、表層モデル22の表面(面21)に形成される凹凸の大きさを調節することができる。
【0056】
C.第3実施形態:
図4は、第3実施形態の生体モデル210の概略構成を模式的に表す断面図である。第3実施形態は、第2実施形態の皮膚モデル120に代えて皮膚モデル220を備える点以外は、第2実施形態と同様の構成を有する。第3実施形態において、第2実施形態の生体モデル10と共通する部分には同じ参照番号を付す。
【0057】
第3実施形態の皮膚モデル220は、表層モデル222と皮下組織モデル24とを備える。第2実施形態の表層モデル122は、樹脂層と樹脂メッシュ126とにより形成したが、第3実施形態の表層モデル222は、第2実施形態の樹脂メッシュ126と同様の形状であって、皮下組織モデル24を構成する樹脂よりも硬い樹脂により形成される樹脂メッシュのみによって構成されている。このような表層モデル222は、例えば、皮膚モデル220を形成する際に、接合部30上に設けた皮下組織モデル24の材料から成る層上に樹脂メッシュを配置した後に、皮下組織モデル24の材料を架橋硬化させることにより形成することができる。このような構成としても、第2実施形態と同様の効果が得られる。
【0058】
D.第4実施形態:
図5は、第4実施形態の生体モデル310の概略構成を模式的に表す断面図である。第4実施形態は、第1実施形態の皮膚モデル20に代えて皮膚モデル320を備える点以外は、第1実施形態と同様の構成を有する。第4実施形態において、第1実施形態の生体モデル10と共通する部分には同じ参照番号を付す。
【0059】
第4実施形態の皮膚モデル320は、単一の層により形成されている。このような構成としても、皮膚モデル320として望ましい特性を実現可能となるように皮膚モデル320の構成材料を選択したときに、接合部30を設けることにより、皮膚モデル320と筋膜・筋肉モデル40との接合強度を高める効果が得られる。なお、皮膚モデルは、第1実施形態のように2層構造とする、あるいは、第4実施形態のように単一の層によって形成する他、3層以上の複数の層を積層して形成してもよい。
【0060】
E.第5実施形態:
図6は、第5実施形態の生体モデル410の概略構成を模式的に表す断面図である。第5実施形態は、第1実施形態の接合部30に代えて接合部430を備える点以外は、第1実施形態と同様の構成を有する。第5実施形態において、第1実施形態の生体モデル10と共通する部分には同じ参照番号を付す。
【0061】
第5実施形態の接合部430は、皮下組織モデル24を構成する既述した第1樹脂を含む発泡体によって構成される。第5実施形態では、第1樹脂を共通して含有する接合部430と皮膚モデル20とは、一方の上に他方の材料を配置した後に、他方を架橋硬化させることにより、接合されている。また、接合部430と筋膜・筋肉モデル40とは、接合部430の細孔内に、筋膜・筋肉モデル40を構成する第2樹脂を入り込ませることにより、接合されている。このような構成としても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0062】
F.第6実施形態:
図7は、第6実施形態の生体モデル510の概略構成を模式的に表す断面図である。第6実施形態は、第1実施形態の接合部30に代えて接合部530を備える点以外は、第1実施形態と同様の構成を有する。第6実施形態において、第1実施形態の生体モデル10と共通する部分には同じ参照番号を付す。
【0063】
第6実施形態において、接合部530と皮膚モデル20とは、接合部530の細孔内に、皮下組織モデル24を構成する第1樹脂を入り込ませることにより、接合されている。また、接合部530と筋膜・筋肉モデル40との間も同様に、接合部530の細孔内に、筋膜・筋肉モデル40を構成する第2樹脂を入り込ませることにより、接合されている。このような生体モデル510は、例えば、接合部530の一方の面上に、皮下組織モデル24および筋膜・筋肉モデル40のうちの一方の構成材料を配置した後に架橋硬化させ、その後、得られた構造を反転させて、接合部530の他方の面上に、皮下組織モデル24および筋膜・筋肉モデル40のうちの他方の構成材料を配置した後に架橋硬化させることにより作製すればよい。
【0064】
このような構成としても、第1実施形態と同様の効果が得られる。また、第6実施形態によれば、接合部530の構成材料が、皮膚モデル20および筋膜・筋肉モデル40の構成材料のいずれとも異なる場合であっても、皮膚モデル20と筋膜・筋肉モデル40との接合強度を高めることができる。また、第6実施形態によれば、接合部530の構成材料を、皮膚モデル20および筋膜・筋肉モデル40の構成材料の双方と異ならせることができるため、接合部530の構成材料の選択の自由度を高めることができる。
【0065】
第6実施形態において、接合部530の構成材料は、第1樹脂および第2樹脂のうちの少なくとも一方の樹脂を含むこととしてもよい。この場合には、皮膚モデル20および筋膜・筋肉モデル40を構成する樹脂のうちの、接合部530と共通する樹脂は、接合部530の細孔内に入り込むと共に、接合部530を構成する樹脂と溶け合うことができるため、接合強度をさらに高めることができる。
【0066】
G.他の実施形態:
上記した各実施形態では、接合部は、発泡体により構成したが、発泡体以外の多孔質体により形成してもよい。例えば、筋膜・筋肉モデル40上に、第2樹脂を含み接合部30となる樹脂層を形成した後に、照射エッチング法により当該樹脂層を多孔質化して、樹脂によって構成される多孔質体を備える接合部30を設けることとしてもよい。このように、発泡体とは異なる多孔質体により接合部を構成する場合であっても、皮膚モデルと筋膜・筋肉モデルとの接合強度を高める同様の効果が得られる。
【0067】
上記した各実施形態では、生体モデルは、エコーガイド下で行う手技のトレーニングに用いることとしたが、異なる構成としてもよい。エコーガイド下以外の条件下で行う手技のトレーニングに用いる場合であっても、例えば、皮膚表面や血管などの各部の感触を再現可能となるように、皮膚モデルおよび筋膜・筋肉モデル40の材料を選ぶ際の選択の自由度を高めることができる。そして、接合部30を設けることにより、異なる材料により構成される皮膚モデルと筋膜・筋肉モデル40とを、良好に接続することができる。
【0068】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0069】
10,110,210,310,410,510…生体モデル
20,120,220,320…皮膚モデル
21,25,31…面
22,122,222…表層モデル
24…皮下組織モデル
30,430,530…接合部
40…筋膜・筋肉モデル
50…血管モデル
60…骨モデル
126…樹脂メッシュ