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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-14
(45)【発行日】2025-03-25
(54)【発明の名称】mRNAワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7105 20060101AFI20250317BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20250317BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20250317BHJP
   A61K 9/127 20250101ALI20250317BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20250317BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20250317BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20250317BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250317BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250317BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20250317BHJP
【FI】
A61K31/7105
A61K48/00
A61K39/395 N
A61K9/127
A61K9/51
A61K47/02
A61K47/12
A61P43/00 121
A61P35/00
A61P37/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021554684
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-06
(86)【国際出願番号】 EP2020056891
(87)【国際公開番号】W WO2020182993
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-01-20
(31)【優先権主張番号】19162558.1
(32)【優先日】2019-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520265930
【氏名又は名称】イーザアールエヌーエー イムノセラピーズ エンヴェー
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 緑
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】デ コケル,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ビャウコフスキ,ウカシュ
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-537978(JP,A)
【文献】Journal of Clinical Oncology,2016年,Vol.34, No.12,pp.1330-1338
【文献】Cancer Immunology Research,2015年,Vol. 3、No. 10, Supp.,Abstract Number: B36
【文献】Cance Immunology Research,2016年,Vol.4, No.2,pp.146-156
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 48/00
A61K 39/00-39/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HPV関連癌の予防及び/又は治療のための医薬の製造における、
CD40L、CD70及びcaTLR4の機能性免疫賦活タンパク質の全てをコードする1つ以上の単離されたmRNA分子と、
E7抗原をコードするmRNA分子と、および
イピリムマブ及びトレメリムマブから選択されるCTLA4に対するアンタゴニスト抗体と、
を含む組合せの使用であって、
該組合せは樹状細胞を含まず、及び該1つ以上の単離されたmRNA分子はリンパ節内投与用に配合される、使用。
【請求項2】
前記CTLA4に対するアンタゴニスト抗体が、イピリムマブである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記CD40L、CD70、及びcaTLR4の機能性免疫賦活タンパク質の全てをコードする1つ以上の単離されたmRNA分子および/または前記E7抗原をコードするmRNA分子が、ナノ粒子内で配合される、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記ナノ粒子が、脂質ナノ粒子及びポリマーナノ粒子から選択される、請求項に記載の使用。
【請求項5】
前記CD40L、CD70、及びcaTLR4の機能性免疫賦活タンパク質の全てをコードする1つ以上の単離されたmRNA分子および/または前記E7抗原をコードするmRNA分子がリンパ節内投与用に配合され、及び好適な注射用バッファー中の裸のmRNA分子の形態である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項6】
前記CD40L、CD70、及びcaTLR4の機能性免疫賦活タンパク質の全てをコードする1つ以上の単離されたmRNA分子および/または前記E7抗原をコードするmRNA分子がリンパ節内投与用に配合され、及びリンガー乳酸バッファー中の裸のmRNA分子の形態である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項7】
前記CTLA4に対するアンタゴニスト抗体が非経口投与用に配合される、請求項1~のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記CTLA4に対するアンタゴニスト抗体が、静脈内、腫瘍内、皮内、皮下、腹腔内、筋肉内又はリンパ節内投与用に配合される、請求項1~のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、機能性免疫賦活タンパク質をコードするmRNA分子とCTLA4経路阻害剤との組合せに関する。特に、本発明は、CD40L、CD70及びcaTLR4を含むリストから選択される少なくとも1つの機能性免疫賦活タンパク質をコードする1つ以上のmRNA分子と、任意に同様にmRNA分子の形態のCTLA4経路阻害剤との組合せに関する。本発明は、かかる組合せを含むワクチン、並びに人間医学又は獣医学、特に細胞増殖性障害の予防及び/又は治療における本発明の組合せ及びワクチンの使用に更に関する。
【背景技術】
【0002】
癌細胞を認識し、死滅させることが可能な強力な細胞溶解性CD8 T細胞応答の誘導が、あらゆる治療用癌ワクチンの主要目標である。かかる細胞溶解性T細胞応答を誘発するワクチンの能力は、ワクチンと、最も強力な抗原提示細胞であり、T細胞免疫の扇動因子(instigators)である樹状細胞(DC)との間の初期相互作用に大きく左右される。タンパク質ベースのワクチンとは対照的に、mRNAワクチンでは、抗原プロセシング及びCD8 T細胞への抗原の提示の自然な経路である、DCのサイトゾルにおけるmRNAによってコードされる抗原の発現が可能となる。
【0003】
加えて、T7等のウイルスポリメラーゼによって産生されるin vitro転写mRNAは、部分的にウイルスRNAに類似しているため、自然免疫センサーによって認識され、mRNAに固有のアジュバント特性を与える(非特許文献1、非特許文献2)。それにもかかわらず、IVT mRNAによるDCの活性化は最適以下であり、免疫賦活タンパク質CD40L、CD70及びcaTLR4をコードする3つのmRNAの混合物であるTriMix mRNAの同時送達によって更に増強され得る(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。腫瘍抗原をコードするmRNAへのTriMix mRNAの付加は、前臨床モデルにおいてT細胞応答の大きさ及びその抗腫瘍効果を強く増強することが実証されており、現在臨床研究において調査されている。
【0004】
抗CTLA4抗体は、腫瘍の免疫抑制を妨害し、既存のエフェクターT細胞の抗腫瘍効果を回復することができ、抗CTLA-4遮断抗体イピリムマブは癌患者の治療に承認された最初の免疫チェックポイント阻害剤である(非特許文献6)。CTLA-4と抗原提示細胞の表面に存在するCD80及びCD86との相互作用は、初期プライミング中にT細胞に抑制性シグナルを提供する。さらに、CTLA-4は制御性T細胞の表面で高発現される。
【0005】
mRNAワクチンは、mRNAにコードされた腫瘍関連抗原に対する抗腫瘍T細胞を誘発/拡大する能力を持つ。それにもかかわらず、ワクチンによって誘発されたT細胞の治療効果は、腫瘍部位に存在する強力な免疫抑制微小環境によってしばしば妨げられる。CTLA-4抗体は、T細胞プライミング中に共抑制シグナルを遮断し、制御性T細胞の免疫抑制機能を妨害する可能性があるため、本発明者らは、TriMixベースのmRNAワクチン接種と抗CTLA4抗体とを組み合わせることで抗腫瘍効果が高まるかどうかを評定した。
【0006】
驚くべきことに、本発明者らは、抗CTLA4単剤療法は治療効果が全くなかったが、TriMixベースのmRNAワクチン接種と抗CTLA4療法との組合せは優れた抗腫瘍効果を示し、更にはTriMix単剤療法よりも優れていることを見出した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Kariko K et. Immunity 2005; 23, 165-175.
【文献】Yoneyama, M. & Fujita, T. Rev. Med. Virol. 2010; 20, 4-22
【文献】Bonehill A et al. Mol. Ther. 2008; 16:1170-80.
【文献】Van Lint S. et al. Cancer Res. 2012; 1;72(7):1661-71
【文献】Van Lint S. et al. Cancer Res Immunol. 2016; 4 (2):146-156
【文献】Seidel et al. Front Oncol. 2018; 8: 86.
【発明の概要】
【0008】
本発明は、以下の番号付けされた記述によって記載される。
【0009】
1. CD40L、CD70及びcaTLR4を含むリストから選択される少なくとも1つの機能性免疫賦活タンパク質をコードする1つ以上のmRNA分子と、
CTLA4によって開始されるシグナル伝達を阻止又は遮断するCTLA4経路阻害剤と、
を含む組合せ。
【0010】
2. 上記の1つ以上のmRNA分子が、CD40L、CD70及びcaTLR4を含むリストから選択される機能性免疫賦活タンパク質の全てをコードする、記述1に記載の組合せ。
【0011】
3. 上記のCTLA4経路阻害剤が上記のCTLA4経路阻害剤をコードするmRNAの形態である、記述1に記載の組合せ。
【0012】
4. 上記CTLA4経路阻害剤が、CTLA4に対するアンタゴニスト抗体、ナノボディ又はその誘導体である、記述1に記載の組合せ。
【0013】
5. CTLA4に対する上記アンタゴニスト抗体が、イピリムマブ及びトレメリムマブを含むリストから選択される、記述4に記載の組合せ。
【0014】
6. 腫瘍特異的抗原をコードする1つ以上のmRNA分子を更に含む、記述1~5のいずれか一項に記載の組合せ。
【0015】
7. 上記1つ以上のmRNA分子が非経口投与用、より特には静脈内、腫瘍内、皮内、皮下、腹腔内、筋肉内又は節内投与用に配合される、記述1~6のいずれか一項に記載の組合せ。
【0016】
8. 上記mRNA分子が、ナノ粒子に包まれる、記述1~7のいずれか一項に記載の組合せ。
【0017】
9. 上記ナノ粒子が、脂質ナノ粒子及びポリマーナノ粒子を含むリストから選択される、記述1~8のいずれか一項に記載の組合せ。
【0018】
10. 上記mRNA分子が節内又は腫瘍内投与用に配合され、リンガー乳酸バッファー(Ringer Lactate buffer)等の好適な注射用バッファー中の裸のmRNA分子の形態である、記述1~7のいずれか一項に記載の組合せ。
【0019】
11. 上記のCTLA4経路阻害剤が非経口投与、より特には静脈内、腫瘍内、皮内、皮下、腹腔内、筋肉内又は節内投与用に配合される、記述1~10のいずれか一項に記載の組合せ。
【0020】
12. 記述1~11のいずれか一項に記載の組合せを含むワクチン。
【0021】
13. 人間医学又は獣医学で使用される、記述1~11のいずれか一項に記載の組合せ、又は記述12に記載のワクチン。
【0022】
14. 細胞増殖性障害の予防及び/又は治療に使用される、記述1~11のいずれか一項に記載の組合せ、又は記述12に記載のワクチン。
【0023】
15. 被験体において腫瘍に対する免疫応答を誘発するのに使用される、記述1~11のいずれか一項に記載の組合せ又は記述12に記載のワクチン。
【0024】
したがって、第1の態様において、本発明は、
CD40L、CD70及びcaTLR4を含むリストから選択される少なくとも1つの機能性免疫賦活タンパク質をコードする1つ以上のmRNA分子と、
CTLA4によって開始されるシグナル伝達を阻止又は遮断するCTLA4経路阻害剤と、
を含む組合せを提供する。
【0025】
本発明の特定の実施の形態において、上記の1つ以上のmRNA分子は、CD40L、CD70及びcaTLR4を含むリストから選択される機能性免疫賦活タンパク質の全てをコードする。
【0026】
本発明の尚も更なる実施の形態において、上記CTLA4経路阻害剤は、上記CTLA4経路阻害剤をコードするmRNAの形態である。代替的には、上記CTLA4経路阻害剤は、CTLA4に対するアンタゴニスト抗体、ナノボディ又はその誘導体である。より具体的には、CTLA4に対する上記アンタゴニスト抗体は、イピリムマブ及びトレメリムマブを含むリストから選択され得る。
【0027】
特定の実施の形態において、本発明の組合せは、腫瘍抗原をコードする1つ以上のmRNA分子を更に含み得る。
【0028】
本発明の更なる実施の形態において、上記1つ以上のmRNA分子は、非経口投与用、より特には静脈内、腫瘍内、皮内、皮下、腹腔内、筋肉内又は節内投与用に配合される。
【0029】
特に好ましい実施の形態において、本発明の上記組合せ又はmRNA分子は、例えば脂質ナノ粒子又はポリマーナノ粒子等のナノ粒子に配合される。
【0030】
尚も更なる特定の実施の形態において、上記mRNA分子は、節内又は腫瘍内投与用に配合され、リンガー乳酸バッファー等の好適な注射用バッファー中の裸のmRNA分子の形態である。
【0031】
本発明はまた、上記のCTLA4経路阻害剤が非経口投与、より特には静脈内、腫瘍内、皮内、皮下、腹腔内、筋肉内又は節内投与用に配合される、本明細書に記載の組合せを提供する。
【0032】
更なる態様において、本発明は、本明細書に記載の組合せを含むワクチンを提供する。
【0033】
特定の実施の形態において、本発明は、人間医学又は獣医学で使用される、より特には細胞増殖性障害の予防及び/又は治療に使用される、例えば、被験体において腫瘍に対する免疫応答を誘発するのに使用される、本明細書に記載の組合せ又はワクチン。
【0034】
これより図面を具体的に参照するが、示される記述は例示であり、本発明の種々の実施形態の説明的な論考のみを目的とすることが強調される。これらの図面は、本発明の原理及び概念的態様の最も有用かつ簡単な説明であると考えられるものを提供するために提示される。この点で、本発明の基礎的理解に必要とされるよりも詳細な本発明の構造細部を示そうとはしていない。この説明は、図面と共に本発明の幾つかの形態を実際に具体化し得る方法を当業者に明らかとするものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】TC-1保有マウスをそれぞれPBS、抗CTLA4、E7-TriMix mRNA、又はE7-TriMixmRNAと抗CTLA-4との組合せで処理した後の個々のマウスの腫瘍増殖曲線の図である。CR=完全奏効者、すなわち、腫瘍接種後90日目に腫瘍がないマウスの数を意味する。
図2】PBS、抗CTLA4、E7+TriMix mRNA、及びE7+TriMix mRNA+抗CTLA4で処理したTC-1接種マウスの平均腫瘍増殖曲線の図である。**p=0.0012、Bonferroniの多重比較検定による2元配置分散分析。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本明細書において上で既に詳述したように、本発明は、
CD40L、CD70及びcaTLR4を含むリストから選択される少なくとも1つの機能性免疫賦活タンパク質をコードする1つ以上のmRNA分子と、
CTLA4によって開始されるシグナル伝達を阻止又は遮断するCTLA4経路阻害剤と、
を含む組合せに関する。
【0037】
本発明全体を通して、「TriMix」という用語は、CD40L、CD70及びcaTLR4免疫賦活タンパク質をコードするmRNA分子の混合物を意味する。CD40LとcaTLR4との組合せの使用は、可溶性CD40L及びLPSの付加によるCD40及びTLR4のライゲーションについて示されているように、成熟したサイトカイン/ケモカイン分泌性DCを生じる。DCへのCD70の導入は、活性化T細胞アポトーシスを阻害し、T細胞増殖を支持することによってCD27+ナイーブT細胞に対する共刺激シグナルをもたらす。caTLR4の代替として、他のToll様受容体(TLR)が使用され得る。それぞれのTLRについて構成的活性型が知られ、宿主免疫応答を誘発するためにDCに導入され得る可能性がある。しかしながら、本発明者らの見解では、caTLR4が最も強力な活性化分子であり、したがって好ましい。
【0038】
本明細書において使用又は言及されるmRNA又はDNAは、裸のmRNA若しくはDNAであっても又は保護されたmRNA若しくはDNAであってもよい。DNA又はmRNAの保護は、その安定性を増大させた上で、mRNA又はDNAをワクチン接種目的で使用する能力を維持する。mRNA及びDNAの両方の保護の非限定的な例は、リポソームカプセル化、プロタミン保護、(カチオン性)脂質リポプレックス化(Lipoplexation)、脂質のカチオン性又はポリカチオン性組成物、マンノシル化リポプレックス化、バブルリポソーム化(Bubble Liposomation)、ポリエチレンイミン(PEI)保護、リポソーム負荷マイクロバブル保護等であり得る。特定の実施形態において、本明細書において規定されるmRNA分子又はDNA分子は、単離されたmRNA分子又はDNA分子であり、具体的には、それらは、好ましくは、細胞(樹状細胞等)の一部ではない。本発明は、かかるmRNA分子又はDNA分子でトランスフェクトされた樹状細胞の使用を包含するexvivoアプローチとは対照的に、単離されたmRNA分子又はDNA分子の直接使用を含むin vivo用途を特に意図する。
【0039】
本発明は、腫瘍特異的抗原に関連して使用するのに特に適しているが、他のタイプの標的特異的抗原に関連して適切に使用することもできる。
【0040】
本明細書全体を通して使用される「標的」という用語は、本明細書に記載され得る具体的な例に限定されない。ウイルス、細菌又は真菌等の任意の感染因子を標的とすることができる。加えて、任意の腫瘍又は癌細胞を標的とすることができる。本明細書全体を通して使用される「標的特異的抗原」という用語は、本明細書に記載され得る具体的な例に限定されない。本発明が、提示される標的特異的抗原にかかわらず、APCにおける免疫賦活の誘導に関することが当業者には明らかである。提示される抗原は、被験体において免疫応答を誘発することを意図する標的のタイプによって決まる。標的特異的抗原の典型的な例は、腫瘍、細菌及び真菌細胞、又は特定のウイルスタンパク質若しくはウイルス構造に特異的な発現又は分泌されたマーカーである。本発明の保護範囲を限定することを望むものではないが、考え得るマーカーの幾つかの例を下に挙げる。
【0041】
本明細書全体を通して使用される「新生物」、「癌」及び/又は「腫瘍」という用語は、例示され得るタイプの癌又は腫瘍に限定されることを意図するものではない。それゆえ、この用語は、全ての増殖性障害、例えば、新生物、形成不全症、前悪性又は前癌性の病変、異常細胞増殖、良性腫瘍、悪性腫瘍、癌又は転移を包含し、癌は白血病、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、CNS癌、黒色腫、卵巣癌、腎癌、前立腺癌、乳癌、神経膠腫、結腸癌、膀胱癌、肉腫、膵癌、結腸直腸癌、頭頸部癌、肝癌、骨癌、骨髄癌、胃癌、十二指腸癌、食道癌、甲状腺癌、血液癌、及びリンパ腫の群から選択され得る。癌に特異的な抗原は、例えば、MelanA/MART1、癌-生殖細胞抗原、gp100、チロシナーゼ、CEA、PSA、Her-2/neu、サバイビン、テロメラーゼであり得る。
【0042】
本発明のワクチンの好ましい実施形態において、mRNA又はDNA分子(複数の場合もある)が、CD40L及びCD70免疫賦活タンパク質をコードする。本発明のワクチンの特に好ましい実施形態において、mRNA又はDNA分子(複数の場合もある)は、CD40L、CD70及びcaTLR4免疫賦活タンパク質をコードする。
【0043】
免疫賦活タンパク質をコードする上記のmRNA又はDNA分子は、単一mRNA又はDNA分子の一部であってもよい。好ましくは、上記の単一mRNA又はDNA分子は、2つ以上のタンパク質を同時に発現することが可能である。一実施形態において、免疫賦活タンパク質をコードするmRNA又はDNA分子は、単一mRNA又はDNA分子において内部リボソーム侵入部位(IRES)又は自己切断性2aペプチドをコードする配列によって隔てられる。
【0044】
特定の実施形態において、上記の本発明のmRNA分子の1つ以上が翻訳エンハンサー及び/又は核内係留要素(nuclear retention element)を更に含有し得る。好適な翻訳エンハンサー及び核内係留要素は、国際公開第2015071295号に記載されているものである。
【0045】
細胞傷害性Tリンパ球抗原-4(CTLA-4)は、主にT細胞の細胞内コンパートメントで発現される。ナイーブT細胞が活性化されると、CTLA-4は細胞表面に輸送され、免疫シナプスで濃縮され、CD80/CD86に対してCD28と競合し、TCRシグナル伝達をダウンモジュレートする。
【0046】
本明細書において使用される「CTLA4経路阻害剤」という用語は、CTLA4によって開始されるシグナル伝達を阻止又は遮断する任意の化合物を含む。したがって、CTLA4経路阻害剤は、例えば、CTLA4受容体(すなわち、転写及び/又は翻訳)又はその天然リガンドB7-1(CD80)及びB7-2(CD86)の発現を減少させることにより、CTLA4の調節に直接的又は間接的に影響を及ぼし得る。これらに限定されるものではないが、かかる阻害剤としては、siRNA、アンチセンス分子、タンパク質、ペプチド、小分子、抗体、ナノボディ、及びこれらのいずれかの誘導体が挙げられる。特定の実施形態において、上記CTLA4阻害剤はまた、抗CTLA4抗体をコードするmRNA等の、上記阻害剤をコードするmRNAの形態で提供され得る。
【0047】
好ましい抗CTLA4抗体は、ヒトCTLA4に特異的に結合するヒト抗体である。ヒト抗体は、ヒト患者における非ヒト抗体の使用に関連する免疫原性反応及びアレルギー反応を最小限に抑えることが期待されるため、本発明の治療方法において実質的な利点を提供する。
【0048】
例示的なヒト抗CTLA4抗体は、例えば、国際公開第00/37504号に詳細に記載される。かかる抗体としては、限定されるものではないが、3.1.1、4.1.1、4.8.1、4.10.2、4.13.1、4.14.3、6.1.1、チシリムマブ、11.6.1、11.7.1、12.3.1.1、及び12.9.1.1、並びにトレメリムマブ及びイピリムマブが挙げられる。別の実施形態において、抗体は、上に規定される抗体の全長、可変領域、又はCDR、重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列を有する抗体から選択される。
【0049】
本発明の他の実施形態において、抗体は、CTLA4とB7-1、B7-2、又はその両方との間の結合を阻害する。好ましくは、抗体は、約100 nM以下、より好ましくは約10 nM以下、例えば約5 nM以下、更により好ましくは約2 nM以下、又は更により好ましくは、例えば、約1 nM以下のIC50でB7-1との結合を阻害することができる。同様に、抗体は、約100 nM以下、より好ましくは10 nM以下、例えば、更により好ましくは約5 nM以下、更により好ましくは約2 nM以下、又は更により好ましくは約1 nM以下のIC50でB7-2との結合を阻害することができる。
【0050】
本明細書において先に検討した抗CTLA4抗体が好ましい場合があるが、当業者は、本明細書に提供される開示に基づいて、本発明が多種多様な抗CTLA4抗体を包含し、これらの特定の抗体に限定されないことを理解するであろう。より具体的には、ヒト抗体が好ましいが、本発明はヒト抗体に何ら限定されるものではなく、むしろ、本発明は、種の起源にかかわらず有用な抗体を包含し、とりわけ、キメラヒト化抗体及び/又は霊長類化抗体を含む。
【0051】
一実施形態において、本開示は、個体に1つ以上の免疫賦活因子及びCTLA4経路の阻害剤を投与することを含む、個体の併用療法の方法を提供する。1つ以上の免疫賦活因子及びCTLA4経路阻害剤を、単一の組成物若しくは別個の組成物として同時に(simultaneously or contemporaneously)投与してもよく、又は1つ以上の免疫賦活因子及びCTLA4経路阻害剤を異なる時点で投与してもよい。
【0052】
本発明の組成物は概して、CTLA4経路阻害剤を1つ以上の免疫賦活因子と組み合わせて含む。
【0053】
CTLA4経路阻害剤の好適な投与量は、例えば個体の年齢及び体重、治療を要する少なくとも1つの正確な病態、病態の重症度、組成物の性質、投与経路、並びにそれらの組合せを含む多数の要因によって決まる。最終的に、好適な投与量は、例えば医師、獣医師、科学者、並びに他の医療及び研究の専門家等の当業者によって容易に決定され得る。例えば、当業者は、低い投与量から始めて、これを所望の治療転帰又は結果に達するまで増加させることができる。代替的には、当業者は、高い投与量から始めて、これを所望の治療転帰又は結果を達成するのに必要とされる最低の投与量に達するまで減少させることができる。
【0054】
本発明はまた、上記mRNAがナノ粒子に包まれる、本明細書に記載される組合せを提供する。
【0055】
本明細書において使用される「ナノ粒子」という用語は、粒子を特に核酸の全身投与、特に静脈内投与に適したものにする直径を有し、通例1000ナノメートル(nm)未満の直径を有する任意の粒子を指す。
【0056】
本発明の特定の実施形態において、ナノ粒子は、脂質ナノ粒子及びポリマーナノ粒子を含むリストから選択される。
【0057】
脂質ナノ粒子(LNP)は、異なる脂質の組合せで構成されるナノサイズ粒子として一般に知られている。多くの異なるタイプの脂質がかかるLNPに含まれ得るが、本発明のLNPは例えば、イオン性脂質、リン脂質、ステロール及びPEG脂質の組合せで構成され得る。
【0058】
高分子ナノ粒子は、典型的には、ナノスフェア又はナノカプセルであり得る。高分子ナノ粒子の調製には2つの主要な戦略、すなわち「トップダウン」アプローチ及び「ボトムアップ」アプローチが使用される。トップダウンアプローチでは、事前に形成されたポリマーの分散によりポリマーナノ粒子が生成されるが、ボトムアップアプローチでは、モノマーの重合がポリマーナノ粒子の形成をもたらす。トップダウン法及びボトムアップ法はいずれも、ポリ(d,l-ラクチド-co-グリコリド)、ポリ(シアノアクリル酸エチル)、ポリ(シアノアクリル酸ブチル)、ポリ(シアノアクリル酸イソブチル)、及びポリ(シアノアクリル酸イソヘキシル)のような合成ポリマー/モノマー;ポリ(ビニルアルコール)及び臭化ジデシルジメチルアンモニウムのような安定剤;並びにジクロロメタン及び酢酸エチル、ベンジルアルコール、シクロヘキサン、アセトニトリル、アセトンのような有機溶媒等を使用する。最近、科学界は、天然高分子及び毒性の少ない溶媒を用いる合成方法を使用して、合成高分子の代替品を見つけようとしている。
【0059】
本発明はまた、人間医学又は獣医学に使用され、特に細胞増殖性障害の治療に使用され、より特には被験体において腫瘍に対する免疫応答を誘発するのに使用される、本明細書に記載される組合せ及びワクチンを提供する。
【0060】
最後に、本発明は、治療を必要とする被験体に本発明の組合せ又はワクチンを投与する工程を含む、細胞増殖性障害を治療する方法を提供する。
【0061】
上記組成物は獣医学分野においても価値がある可能性があり、本明細書における目的では、動物における疾患の予防及び/又は治療だけでなく、ウシ、ブタ、ヒツジ、ニワトリ、魚等の経済的に重要な動物の場合には、動物の成長及び/又は体重、及び/又は動物から得られる肉又は他の製品の量及び/又は品質を高めることも含む。
【0062】
ここで、本発明を以下の合成実施例及び生物学的実施例によって説明し、これらは本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例
【0063】
実施例1:TC-1腫瘍を保有するマウスにおける単剤療法としての又は抗CTLA4抗体と組み合わせたTriMixベースの免疫化の抗腫瘍効果
材料及び方法:
in vitroで転写されたmRNAの合成:
E7 mRNA及びマウスcaTLR4、マウスCD70及びマウスCD40L(TriMix)mRNAを、以前に記載されるように(欧州特許第3068888号)in vitro転写により、対応する線形化peTheRNAプラスミドから合成した。
【0064】
マウス:
C57BL/6マウス(雌性、6週齢)はJanvier(Genest)から購入し、FELASAガイドラインに従ってSPF(ディジョンのOncoDesign)条件下で維持した。TC-1細胞をATCCから入手し、以前に記載されるように培養した。
【0065】
抗体:
抗CTLA4抗体をBioXCellから購入した(参照:BE0131;クローン:9H10;反応性:マウス;アイソタイプ:ハムスターIgG1;保管条件:+4℃)。
【0066】
腫瘍の接種及び治療スケジュール:
0日目に、マウスに、200 μlの量のPBS中1×106個のTC-1腫瘍細胞を皮下接種した。E7/TriMix mRNAによるリンパ節内免疫を、腫瘍接種後3日目、8日目、及び13日目に実施した。マウスは、0.8×リンガーの乳酸溶液(20 μl)に溶解した30 μgのTriMix mRNAと組み合わせた10 μgのE7 mRNAを受けた。mRNAを鼠径リンパ節に注射した。抗CTLA4抗体を、腫瘍接種後3日目、6日目、9日目及び12日目に腹腔内注射した(10 mg/kg/投与)。
【0067】
リンパ節内投与
70%エタノールで消毒する前に、マウスの鼠径部を剃毛した。鼠径リンパ節を露出させるために、鼠径部に小さな切開を行った。総量10 μlのmRNA溶液を、0.3 mlの30Gインスリン針(BD Biosciences、参照324826A)を使用して鼠径リンパ節に注射した。注射後、皮膚を4-0のcrinerce縫合糸で閉じた。3つ全てのリンパ節内免疫について同じ鼠径リンパ節に注射を行った。
【0068】
結果:
図1及び図2に詳述されているように、記載される抗CTLA-4単剤療法のレジメンは、対照(PBS)と比較して、TC-1モデルでは治療上の利益を何ら提供せず、いずれの群にも完全奏効者はなかった。一方、E7/TriMixによるリンパ節内免疫は、TC-1腫瘍の増殖を大幅に遅らせ、わずかではあるが完全奏効者をもたらすことが示された(2/15)。
【0069】
更に驚くべきことは、抗CTLA4抗体とリンパ節内E7/TriMix免疫との組合せが、リンパ節内E7/TriMix単剤療法(p=0.0012)及び抗CTLA4単剤療法の両方と比較して優れた抗腫瘍効果を示し、完全奏功者の割合を非常に高めた(9/15)ことである。
【0070】
したがって、これらのデータは、腫瘍治療におけるTriMixとCTLA4経路阻害分子との組合せの可能性を明確に示す。
図1
図2