(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-14
(45)【発行日】2025-03-25
(54)【発明の名称】複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/20 20060101AFI20250317BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20250317BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20250317BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20250317BHJP
【FI】
C08J3/20 B CEP
C08J3/20 CEY
C08L101/00
C08L1/00
C08K7/02
(21)【出願番号】P 2021112412
(22)【出願日】2021-07-06
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 清人
(72)【発明者】
【氏名】野口 徹
(72)【発明者】
【氏名】松田 元一
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-29169(JP,A)
【文献】特開2020-200361(JP,A)
【文献】特開2019-173253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/20
C08L 101/00
C08L 1/00
C08K 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系分散媒中において熱可塑性樹脂モノマー及びアニオン系乳化剤を混合し、
乳化重合することで熱可塑性樹脂を得、その熱可塑性樹脂を含む水系樹脂エマルジョンを得る水系樹脂エマルジョン作製工程と、
前記水系樹脂エマルジョン、カルボキシル基を有するセルロースナノファイバー、及び水よりも沸点の高い多価アルコールを混合し、水系分散液を得る水系分散液作製工程と、
前記水系分散液を混錬する第1混錬工程と、
前記第1混錬工程により混錬された水系分散液から水系分散媒を除去する乾燥工程と、
前記乾燥工程により得られた乾燥物を加熱しながら混錬し、前記多価アルコールを除去する第2混錬工程と、を含み、
前記水系樹脂エマルジョン作製工程において、前記熱可塑性樹脂モノマーの含有量を100重量%としたとき、前記アニオン系乳化剤の含有量が1~3重量%であり、
前記水系分散液作製工程において、前記熱可塑性樹脂の含有量を100重量%としたとき前記セルロースナノファイバーの含有量が1~30重量%であり、かつ、前記多価アルコールの含有量が重量基準で前記セルロースナノファイバーの含有量の5~20倍であり、
前記第2混錬工程において、前記乾燥物の加熱温度は、前記熱可塑性樹脂の動的粘弾性測定から得られるtan
δ曲線において、低温側から見て最初に現れる極大値の次に現れる極小値を中心とした±15℃の範囲内である、
複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然セルロースをナノサイズに解繊したセルロースナノファイバー(以下、「CNF」ということがある。)が注目されており、これを用いた先進材料の開発によりバイオマスの有効活用が期待されている。例えば、CNFと熱可塑性樹脂とを複合化して、物性向上を図った強化樹脂組成物が開発されている。
【0003】
強化樹脂組成物はCNFと熱可塑性樹脂とを混合してエマルジョンを作製し、当該エマルジョンから水を除去することにより得られる。このような技術を開示する文献として、特許文献1がある。
【0004】
特許文献1は、天然セルロース繊維にN-オキシル化合物と酸化剤と共酸化剤とを作用させ、次いで分散機による微細化工程を行うことで得られるセルロースナノファイバー及び/又は該セルロースナノファイバーの誘導体と樹脂粒子と液媒体とを含むエマルションを調製し、次いで該エマルションから乾燥によって該液媒体を除去する工程を有する樹脂改質用添加剤の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、CNFと熱可塑性樹脂とを含むエマルジョンから水を除去する工程において、水素結合によりCNFが凝集し、CNFを熱可塑性樹脂中に均一に分散し難いという問題があった。CNFが凝集すると、得られる樹脂組成物の強度も向上し難い。特許文献1では、このようなCNFの凝集を抑制するために、N-オキシル化合物を天然セルロースに作用させて、CNF中にカルボキシル基を導入している。カルボキシル基の導入により、水を除去する工程において、CNFが互いに静電反発して凝集が抑制される。しかしながら、CNFの凝集を抑制し、熱可塑性樹脂中にCNFを均一性高く分散させる技術には改善の余地があった。
【0007】
そこで、本願の主な目的は、物性を向上することができる複合材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、上記課題を解決するための一つの手段として、水系分散媒中において熱可塑性樹脂モノマー及びアニオン系乳化剤を混合し、熱可塑性樹脂を含む水系樹脂エマルジョンを得る水系樹脂エマルジョン作製工程と、水系樹脂エマルジョン、カルボキシル基を有するセルロースナノファイバー、及び水よりも沸点の高い多価アルコールを混合し、水系分散液を得る水系分散液作製工程と、水系分散液を混錬する第1混錬工程と、第1混錬工程により混錬された水系分散液から水系分散媒を除去する乾燥工程と、乾燥工程により得られた乾燥物を加熱しながら混錬し、多価アルコールを除去する第2混錬工程と、を含み、水系樹脂エマルジョン作製工程において、熱可塑性樹脂モノマーの含有量を100重量%としたとき、アニオン系乳化剤の含有量が1~3重量%であり、水系分散液作製工程において、熱可塑性樹脂の含有量を100重量%としたときセルロースナノファイバーの含有量が1~30重量%であり、かつ、多価アルコールの含有量が重量基準でセルロースナノファイバーの含有量の5~20倍であり、第2混錬工程において、乾燥物の加熱温度は、熱可塑性樹脂の動的粘弾性測定から得られるtanδ曲線において、低温側から見て最初に現れる極大値の次に現れる極小値を中心とした±15℃の範囲内である、複合材料の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本開示により製造される複合材料は熱可塑性樹脂とCNFとが高い均一性で分散している。従って、本開示によれば、物性を向上した複合材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】複合材料の製造方法10のフローチャートである。
【
図2】(A)はポリメチルメタクリレートの貯蔵弾性率E’の測定結果であり、(B)はポリメチルメタクリレートのtan
δの測定結果である。
【
図3】実施例1、2及び比較例3~6の複合材料の写真である。
【
図4】実施例1~3及び比較例1~2の動的粘弾性試験の測定結果である。
【
図5】実施例3及び比較例1~2、9の動的粘弾性試験の測定結果である。
【
図6】実施例1~3及び比較例5~7の光学顕微鏡画像(倍率×200倍)である。
【
図7】実施例1~3及び比較例5~7のSEM画像(上:倍率×1000倍、下:倍率×50000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の複合材料の製造方法について、一実施形態である複合材料の製造方法10(以下、「製造方法10」ということがある。)を用いて説明する。
図1は製造方法10のフローチャートである。
【0012】
図1の通り、製造方法10は、水系樹脂エマルジョン作製工程S1と、水系分散液作製工程S2と、第1混錬工程S3と、乾燥工程S4と、第2混錬工程S5とを含む。以下、各工程について説明する。
【0013】
<水系樹脂エマルジョン作製工程S1>
水系樹脂エマルジョン作製工程S1は、水系分散媒中において熱可塑性樹脂モノマー及びアニオン系乳化剤を混合し、熱可塑性樹脂を含む水系樹脂エマルジョンを得る工程である。水系分散媒中において熱可塑性樹脂モノマー及びアニオン系乳化剤を混合することにより、熱可塑性樹脂モノマーの重合を促進し、微細な熱可塑性樹脂を含む水系樹脂エマルジョンを作製することができる。
【0014】
水系分散媒としては、通常水を用いる。ただし、任意で水に可溶な有機溶媒を混合してもよい。水に可溶な有機溶媒は特に限定されないが、例えばアルコール類や、エーテル類、ケトン類などを挙げることができる。また、乾燥工程S4において、分散媒を除去する観点から、水よりも沸点の低い有機溶媒を用いることが好ましい。分散媒に有機溶媒を混合する場合、分散媒全体を基準として、水の含有量を50重量%以上としてもよく、70重量%以上としてもよく、90重量%以上としてもよく、95重量%以上としてもよく、99重量%以上としてもよい。
【0015】
熱可塑性樹脂モノマーとしては、アクリル酸系モノマーやメタクリル酸系モノマー、スチレン系モノマー等の公知の熱可塑性樹脂モノマーを用いることができる。これらは単一で用いてもよく、複数の種類を用いてもよい。好ましくはメタクリル酸系モノマーであり、より好ましくはメチルメタクリレートモノマーである。
【0016】
アニオン系乳化剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム、ステアリル硫酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム等の公知のアニオン系乳化剤を用いることができる。これらは単一で用いてもよく、複数の種類を用いてもよい。
【0017】
水系樹脂エマルジョン作製工程S1において、熱可塑性樹脂モノマーの含有量を100重量%としたとき、アニオン系乳化剤の含有量を1~3重量%とする。アニオン系乳化剤の含有量が1重量%未満であると、水系樹脂エマルジョンの作製が困難となる。アニオン系乳化剤の含有量が3重量%を超えると、製造された複合材料が可塑化しやすくなる。複合材料が可塑化すると、弾性等の物性が低下する。
【0018】
水系樹脂エマルジョン作製工程S1において、アニオン系乳化剤を用いる理由は、少量添加で微細な樹脂粒子のエマルジョンを作製できる点にある。具体的には、アニオン系乳化剤の存在下で熱可塑性樹脂モノマーを重合させることにより、熱可塑性樹脂の粒子が安定した一次粒子の状態で分散している水系樹脂エマルジョンを得ることができる。このように、得られる樹脂粒子は非常に微細であるため、CNFの大きさと近似することとなる。従って、水系分散液作製工程S2以降において、熱可塑性樹脂とCNFとの親和性(混和性)が高くなり、これらを均一に分散可能になる。熱可塑性樹脂とCNFとが高い均一性で分散することにより、複合材料の弾性等の物性を向上することができる。
【0019】
水系樹脂エマルジョン中の熱可塑性樹脂の平均粒子径は10nm以上であってもよく、20nm以上であってもよく、100nm以下であってもよい。熱可塑性樹脂の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、水系樹脂エマルジョンの乾燥物の任意の領域において、例えば10個以上の熱可塑性樹脂粒子の粒子径(フェレー径)を計測し、これらの平均値を計算することにより得ることができる。
【0020】
なお、アニオン系乳化剤をノニオン系乳化剤に代えると、エマルジョン中の樹脂粒子が二次粒子を形成しやすく、ゲル化する傾向が高くなる。本発明者らによると、ゲル化を抑制するためにはノニオン系乳化剤を8重量%以上添加する必要がある。しかし、そのような方法で製造された複合材料は可塑化され、ガラス転移温度が低下し、耐熱性が乏しくなり、剛性の小さい材料となる。
【0021】
混合方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、ミキサーによる混合撹拌が挙げられる。
【0022】
水系樹脂エマルジョン作製工程S1において、モノマーの重合反応に必要な添加剤などを任意で添加してもよい。例えば、亜硫酸水素ナトリウム及び亜硫酸アンモニウム等のpH緩衝剤や、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等の重合開始剤を添加してもよい。
【0023】
<水系分散液作製工程S2>
水系分散液作製工程S2は、水系樹脂エマルジョン作製工程S1によって作製された水系樹脂エマルジョン、カルボキシル基を有するセルロースナノファイバー(CNF)、及び水よりも沸点の高い多価アルコールを混合し、水系分散液を得る工程である。
【0024】
CNFは、カルボキシル基を有するCNFを用いる。このようなCNFは、原料である天然セルロースをTEMPO等のN-オキシル化合物により酸化することにより得られる。天然セルロースをN-オキシル化合物により酸化する方法は公知である。CNFは上記の水系分散媒に分散された状態(CNF分散液)で、水系樹脂エマルジョン及び多価アルコールと混合してもよい。CNFの繊維径は3~10nm、繊維長は50nm~10μm、アスペクト比(繊維長/繊維径)は20~350の範囲でよい。CNFの繊維径、繊維長、及びアスペクト比は、マイカ上にCNF分散液を載せて乾燥し、その後マイカ上のCNFを原子間力顕微鏡(AFM)による測定することにより得られる。CNFは、例えば10個以上測定する。この場合、繊維径及び繊維長は、測定結果の平均値とする。
【0025】
水系分散液作製工程S2において、水系樹脂エマルジョンに含まれる熱可塑性樹脂の含有量を100重量%としたとき、セルロースナノファイバーの含有量を1~30重量%の範囲とする。また、水系分散液作製工程S2において、CNFの含有量を5重量%以上としてもよく、10重量%以上としてもよく、20重量%以下としてもよい。CNFの含有量が1重量%未満であると、複合材料の物性向上効果が十分でなくなる。CNFの含有量が30重量%を超えると、複合材料が脆くなる傾向にある。
【0026】
多価アルコールとしては、水よりも沸点の高い多価アルコールを用いる。水よりも沸点の多価アルコールを用いることにより、乾燥工程S4において、水系分散液から水系分散媒を除去する際に、多価アルコールは除去されず、乾燥物中に多価アルコールが残存するようにできるため、水素結合によるCNFの凝集を抑制することができる。CNFの凝集が抑制されることにより、製造された複合材料の弾性等の物性を向上することができる。ただし、第2混錬工程S5において、多価アルコールの除去を容易にするために、沸点が290℃以下である多価アルコールを用いてもよい。このような多価アルコールとしては、例えばジエチレングリコール等の2価アルコールや、グリセリン等の3価アルコールが挙げられる。水系分散液作製工程S2において、多価アルコールは単一の種類を用いてもよく、複数の種類を用いてもよい。
【0027】
水系分散液作製工程S2において、多価アルコールの含有量を重量基準でCNFの含有量の5~20倍とし、10倍~20倍としてもよい。多価アルコールの含有量がCNFの含有量の5倍未満であると、セルロースナノファイバーの凝集を抑制する効果が低くなる。多価アルコールの含有量がセルロースナノファイバーの含有量の20倍を超えると、第2混錬工程S5において乾燥物から多価アルコールが多量に絞り出されることとなり、混錬が困難になる。
【0028】
<第1混錬工程S3>
第1混錬工程S3は、水系分散液作製工程S2により得られた水系分散液を混錬する工程である。水系分散液作製工程S2により得られた水系分散液は、粘性が高い増粘液体となっている。これは、CNFのカルボキシル基又は水酸基と樹脂粒子中のアニオン系乳化剤との間で、アニオン系乳化剤由来の陽イオン(例えば、ナトリウムイオン)を介して弱い結合を形成し、構造粘性化しているためであると、本発明者らは推定している。そのため、水系分散液作製工程S2における混合だけでは、樹脂粒子とCNFとが均一性高く分散された状態となり難い。そこで、第1混錬工程S3において水系分散液を混錬することにより、均一性の高い分散状態とすることができる。
【0029】
水系分散液を混錬する方法は特に限定されないが、自公転撹拌やロール混錬が挙げられる。
【0030】
自公転撹拌は公知の自公転撹拌装置により行うことができる。自公転撹拌の条件は、水系分散液を混錬することができるように適宜設定することができる。例えば、公転1,400rpm、自転700rpmを30秒行い、次に公転1800rpm、自転54rpmを30秒行う。
【0031】
ロール混錬は公知のオープンロールにより行うことができる。ロール混錬の条件は、水系分散液を混錬することができるように適宜設定することができる。
例えば、ロール混錬において、ロールの本数は2本であってもよく、3本であってもよい。ロールが2本の場合、ロール速度比は前ロール/後ロール=20.0rpm/17.0rpmでよく、ロール間隔は0~0.5mm以下でよい。ロールが3本の場合、ロール速度比は第一ロール/第ニロール/第三ロール=30rpm/90rpm/270rpm=1/3/9でよく、ロール間隔は0.3mmでよい。また、ロール混錬によりCNFを解繊することもできる。
【0032】
第1混錬工程S3において、水系分散液の混錬は1回でもよく、複数回行ってもよい。複数回行う場合は、異なる混錬方法を組み合わせてもよい。
【0033】
<乾燥工程S4>
乾燥工程S4は、第1混錬工程S3により混錬された水系分散液から水系分散媒を除去する工程である。水系分散液から水系分散媒を除去する方法は特に限定されない。例えば、室温で水系分散媒を乾燥させてもよく、加熱して乾燥させてもよい。通常、加熱して乾燥させる。加熱温度は多価アルコールが除去されない程度の温度に設定する。例えば30℃以上50℃以下である。加熱時間は水系溶媒が十分に除去可能な時間を設定する。例えば、24時間~48時間である。水系分散液から水系分散媒を除去すると、ゲル状の乾燥物が得られる。
【0034】
<第2混錬工程S5>
第2混錬工程S5は、乾燥工程S4により得られた乾燥物を加熱しながら混錬し、多価アルコールを除去する工程である。乾燥工程S4は水系溶媒の除去を目的としており、多価アルコールは除去されていない。乾燥工程S4において、単に温度を上昇させて、水系溶媒と一緒に多価アルコールを除去すると、CNFが凝集する問題が生じる。そこで、第2混錬工程S5において、乾燥物を加熱しながら混錬して、CNFを解繊しつつ、多価アルコールを除去することとしている。
【0035】
ただし、第2混錬工程S5において、多価アルコールは乾燥物から完全に除去されなくてもよく、ほぼ除去されればよい。これは目視によって確認可能である。多価アルコールが完全に除去されていない場合、第2混錬工程S5後に得られた混錬物をさらに加熱して多価アルコールを完全に除去してもよい。加熱方法は、例えば、オーブンによる熱処理である。CNFの劣化を抑制する観点から、減圧オーブンによる熱処理を行ってもよい。加熱温度は130~170℃としてよい。減圧オーブンによる熱処理において、圧力は特に限定されないが、例えば真空(例えば-0.1MPa以下)としてよい。
【0036】
第2混錬工程S5は、乾燥物を溶融して成形加工する装置や、オープンロール、密閉式混錬機、押出し機、射出成型機等で行うことができる。好ましくは、オープンロールを用いることである。オープンロールを用いる場合、ロール混錬の条件は次のとおりである。ロールの本数は2本であってもよく、3本であってもよい。また、ロール間隔は0超0.5mm以下でよい。ロールの本数が2本である場合、ロール速度比は1.05~3.00としてよく、1.05~1.2としてもよい。
【0037】
第2混錬工程S5において、乾燥物の加熱温度は、熱可塑性樹脂の動的粘弾性測定から得られるtanδ曲線において、低温側から見て最初に現れる極大値の次に現れる極小値を中心とした±15℃の範囲内(極小値-15℃~極小値+15℃)とする。「低温側から見て最初に現れる極大値の次に現れる極小値」とは、言い換えると、tanδ曲線において最も低温側に現れる極大値よりも高温側であり、かつ、最も低温側に現れる極小値である。
【0038】
この温度範囲では混錬物が適度な弾性と粘性を有することとなるため、熱可塑性樹脂の弾性による復元力で熱可塑性樹脂が大きく変形することがで、その変形によりCNFが大きく移動することによりCNFが解繊する。これにより、樹脂粒子とCNFとを均一に分散させることができる。第2混錬工程S5における乾燥物の加熱温度が極小値-15℃未満であると、樹脂が混錬に適さない硬さになる。第2混錬工程S5における乾燥物の加熱温度が極小値+15℃を超えると、熱可塑性樹脂の弾性が低下し、混錬物の粘性が増大するため、CNFを解繊するせん断力が低下する。
【0039】
乾燥物の加熱温度は次のように得ることができる。まず、水系樹脂エマルジョン作製工程S1において作製した水系樹脂エマルジョンから水系分散媒を除去し、熱可塑性樹脂を得る。水系樹脂エマルジョンから水系分散媒を除去する方法は、上述した乾燥工程S4と同様の方法を採用することができる。次いで、得られた熱可塑性樹脂をプレス加工等により成形した後、短冊状に切断して、動的粘弾性測定の試験片を得る。試験片の大きさは、動的粘弾性測定を行うことができればよい。例えば、幅4mm、長さ40mm、厚さ0.3mmとする。そして、動的粘弾性測定を行う。測定装置は公知の動的粘弾性試験機を用いることができる。例えば、日立ハイテクサイエンス社製の動的粘弾性試験機DMS6100が挙げられる。測定方法は、チャック間距離20mm、測定温度-50℃~300℃、昇温ペース1.5℃、動的歪み0.05%、周波数1Hzに設定し、JIS K7244に基づいて行う。得られたtanδ曲線から、低温側から見て最初に現れる極大値の次に現れる極小値を探す。最後に、当該極小値を中心とした±15℃の温度範囲、すなわち、乾燥物の加熱温度の範囲を確定させる。
【0040】
熱可塑性樹脂としてポリメチルメタクリレートを用いたとき、すなわち、水系樹脂エマルジョン作製工程S1においてポリメチルメタクリレートを用いたとき、第2混錬工程S5における乾燥物の加熱温度は160℃~190℃の範囲とする。本発明者らによると、この温度範囲はポリメチルメタクリレートの貯蔵弾性率E’が約2~3MPa、tanδが約0.2以下となる範囲である。加熱温度が160℃未満であると、ポリメタクリレート樹脂が硬くなり、混錬に適さない。加熱温度が190℃を超えると、ポリメタクリレート樹脂の貯蔵弾性率E’が1MPa以下となり、弾性が低下し、混錬物の粘性が増大することになり、CNFを解繊するせん断力が低下する。
【0041】
参考のため、
図2(A)にポリメチルメタクリレートの貯蔵弾性率E’、
図2(B)にポリメチルメタクリレートのtan
δの測定結果を示した。測定方法は上記のとおりである。
【0042】
第2混錬工程S5により得られた、又は第2混錬工程S5後に加熱処理された混錬物(複合材料)は、その後成形されてもよい。成型方法は特に限定されず、公知の方法が用いることができる。例えば、真空プレス成型や、射出成型、押出成形などが挙げられる。また、成形は複合材料のみで行ってもよく、他の樹脂と混合して成形してもよい。
【0043】
以上より、一実施形態である複合材料の製造方法10を用いて、本開示の複合材料の製造方法について説明した。本開示の複合材料の製造方法は、アニオン系乳化剤を用いて、微小な熱可塑性樹脂(特に、ポリメチルメタクリレート)を含む水系樹脂エマルジョンを作製しているため、熱可塑性樹脂とCNFとの親和性(混和性)が高い。また、水系分散液に多価アルコールを添加することにより、水系分散媒を除去するときにCNFの凝集を抑制することができる。さらに、第1混錬工程において樹脂粒子とCNFとを均一になるように混錬することができ、第2混錬工程においてCNFを解繊することができる。これらの作用が相まって、熱可塑性樹脂とCNFとを均一性高く分散することができ、複合材料の弾性等の物性を向上することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を用いて、本開示につついてさらに説明する。
【0045】
[複合材料の作製]
以下の通り、実施例1~14、比較例1~19の複合材料を作製した。表1、2に材料の含有量及び混錬工程の条件をまとめた。
【0046】
<実施例1>
(水系樹脂エマルジョン作製工程)
亜硫酸水素ナトリウム(富士フィルム和光純薬製特級試薬)0.2gを純水10mlに溶解し、亜硫酸水素ナトリウム水溶液を作製した。過硫酸ナトリウム(Alfa Aesar社製、97%試薬)0.45gを純水10mlに溶解し、過硫酸ナトリウム水溶液を作製した。
【0047】
撹拌機と還流装置を設けた500mlの4つ口フラスコに純水200gを入れアニオン系乳化剤であるドデシル硫酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬製和光一級試薬)1.5gを加えて、窒素ガス置換しつつ、撹拌し溶解した。次に、フラスコにメチルメタクリレートモノマー(富士フィルム和光純薬製 和光特級試薬)15gと亜硫酸水素ナトリウム水溶液2ml添加し、250rpmで撹拌しつつ70℃に温度上昇させた。30分撹拌後、過硫酸ナトリウム水溶液2mlを添加し、さらに30分撹拌した。次いで、メチルメタクリレートモノマー60gを2時間掛けて滴下した。また、亜硫酸水素ナトリウム8mlと過硫酸ナトリウム8mlを同様に2時間掛けて滴下した。次に、温度を75℃に上昇して1時間熟成した。室温まで冷却後、200メッシュ濾過し、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を含む水系樹脂エマルジョンを得た。
【0048】
(水系分散液作製工程)
まず、CNF水分散液(日本製紙株式会社製セレンピアTC-01A、1重量%)(TEMPO酸化CNF)40gに水15gを加え、希釈混合し、次いで上記により得られた水系樹脂エマルジョン(濃度25.0%)32gと、ジエチレングリコール(関東化学製 試薬特級)(DEG)4gとを加えた。このとき、水系樹脂エマルジョン中のPPMAを100重量%としたとき、CNFの含有量が5重量%であり、かつ、ジエチレングリコールの含有量が重量基準でCNFの含有量の10倍であった。次に、得られた混合液を、ジューサーミキサー(Waring製ブレンダーMX1200XTX)を用いて、回転数20000rpmで15秒間撹拌混合し、水系分散液を得た。
【0049】
<第1混錬工程>
得られた水系分散液を自公転撹拌機(株式会社シンキー、型番:あわとり練太郎 ARV-930WN練太郎)に適用し、混練、脱泡を行った。具体的には、まず公転1,400rpm、自転700rpmを30秒行い、次に公転1800rpm、自転54rpmを30秒行った。
【0050】
次に、3本のロールを用いたオープンロールによるロール混錬を行った。ロール混錬は、ロール間隙0.3mmとし、ロール速度比を第一ロール/第二ロール/第三ロール=30rpm/90rpm/270rpm=1/3/9とした。また、水系分散液をロール混錬装置に2回適用した。
【0051】
<乾燥工程>
混錬した水系分散液をトレイに移し、40℃のオーブンで36時間乾燥した。十分に水が除去されたことを確認し、ゲル状の乾燥物を得た。
【0052】
<第2混錬工程>
得られた乾燥物を、2本のロールを用いたオープンロールによるロール混錬を行った。ロール混錬は、初期の温度を160℃~170℃に設定し、ロール回転速度(前ロール20rpm、後ロール17rpm)の条件で混錬を開始し、ロール間隙を0.5mmから0.3mm、0.1mmと狭めていき、DEGの蒸発とともにロール温度を170℃~190℃に上昇させ、DEGの蒸発が目視で無くなるまで混錬した。得られた混錬物を、減圧オーブンを用いて160℃で24時間乾燥し、DEGの完全除去し、実施例1の複合材料を得た。
【0053】
得られた複合材料を、真空プレス機を用いて、200℃の温度でプレス成型を行い、厚さ0.3mmの板状に成形した。
【0054】
<実施例2~5>
水系分散液作製工程において、PMMAとCNFとの比率を表1に示した比率に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例2~5の複合材料を作製した。
【0055】
<実施例6~7>
水系分散液作製工程において、CNFの含有量に対するDEGの含有量を表1に示した倍率に変更したこと以外は、実施例2と同様の方法で実施例6~7の複合材料を作製した。
【0056】
<実施例8>
第1混錬工程において、ロール混錬を省略したこと以外は、実施例2と同様の方法で実施例8の複合材料を作製した。
【0057】
<実施例9>
第1混錬工程において、自公転撹拌を省略したこと以外は、実施例2と同様の方法で実施例9の複合材料を作製した。
【0058】
<実施例10>
第1混錬工程において、ロール混錬を2本のロールで行ったこと以外は、実施例2と同様の方法で実施例10の複合材料を作製した。ロール混錬は室温で行い、ロール間隙0.2mm、第一ロール/第二ロールの速度比=1.1/1.0に設定した。
【0059】
<実施例11>
水系分散液作製工程において、多価アルコールの種類をDEGからグリセリンに変更し、また第2混錬工程において、減圧オーブンを用いて混錬物を170℃で24時間乾燥したことした以外は、実施例3と同様の方法で実施例11の複合材料を作製した。
【0060】
<実施例12~13>
水系樹脂エマルジョン作製工程において、ドデシル硫酸ナトリウムの含有量を表1の含有量に変更したこと以外は、実施例3と同様の方法で実施例12~13の複合材料を作製した。
【0061】
<実施例14>
水系樹脂エマルジョン作製工程において、アニオン系乳化剤の種類をドデシル硫酸ナトリウムからステアリル硫酸ナトリウムに変更したこと以外は、実施例3と同様の方法で実施例14の複合材料を作製した。
【0062】
<比較例1>
PMMA樹脂として、PMMA樹脂ペレット(クラレ株式会社製 パラペットGH-S)を用いて、170℃でプレス成型し、比較例1の材料を作製した。
【0063】
<比較例2>
実施例1において作製した水系樹脂エマルジョンを80℃のオーブンで24時間して水分除去し、PMMAを得た後、220℃でプレス成型し、比較例2の材料を作製した。
【0064】
<比較例3~4>
水系分散液作製工程においてDEGを添加せず、かつ、第2混錬工程を省略したこと以外は、実施例2~3と同様の方法で比較例3~4の複合材料をそれぞれ作製した。
【0065】
<比較例5~7>
水系分散液作製工程において、DEGを添加しなかったこと以外は、実施例1~3と同様の方法で比較例5~7の複合材料をそれぞれ作製した。
【0066】
<比較例8>
水系分散液作製工程において、CNFの含有量に対するDEGの含有量を30倍に変更したこと以外は、実施例3と同様の方法で比較例8の複合材料を作製した。
【0067】
<比較例9>
水系分散液作製工程において、CNFの含有量に対するDEGの含有量を10倍に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で比較例9の複合材料を作製した。
【0068】
<比較例10>
水系分散液作製工程において、PMMAとCNFとの含有量の比率をPMMA:CNF=100:35に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で比較例10の複合材料を作製した。
【0069】
<比較例11>
第2混錬工程において、混錬温度を220℃に変更したこと以外は、実施例3と同様の方法で比較例11の複合材料を作製した。
【0070】
<比較例12~14>
水系分散液作製工程において、CNFの種類をTEMPO酸化CNFからカルボキシメチル化CNF(日本製紙株式会社製)(CM化CNF)に変更したこと以外は、実施例1~3と同様の方法で比較例12~14の複合材料をそれぞれ作製した。
【0071】
<比較例15>
水系樹脂エマルジョン作製工程において、メチルメタクリレートモノマーの含有量に対するドデシル硫酸ナトリウムの含有量の比率を、メチルメタクリレートモノマー:ドデシル硫酸ナトリウム=100:0.6に変更したこと以外は、実施例2と同様の方法で比較例15の複合材料を作製しようとした。しかしながら、エマルジョンが重合途中でゲル化し、良好なエマルジョンが得られず、複合材料を作製することができなかった。
【0072】
<比較例16>
水系樹脂エマルジョン作製工程において、メチルメタクリレートモノマーの含有量に対するドデシル硫酸ナトリウムの含有量の比率を、メチルメタクリレートモノマー:ドデシル硫酸ナトリウム=100:4に変更したこと以外は、実施例2と同様の方法で比較例16の複合材料を作製した。
【0073】
<比較例17~19>
水系樹脂エマルジョン作製工程において、乳化剤の種類をアニオン系乳化剤であるドデシル硫酸ナトリウムからノニオン系乳化剤であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル(三洋化成:ナロアクティCL-400)(POAAE)に変更し、POAAEの含有量の比率を、メチルメタクリレートモノマー:POAAE=100:8に変更したこと以外は、実施例1~3と同様の方法で比較例17~19の複合材料をそれぞれ作製した。
【0074】
[評価]
作製した複合材料に対し、次の試験を行った。
【0075】
<外観観察>
複合材料の外観を目視で観察し、主にCNFの凝集の有無を評価し、色調に特徴があるものについては色調も評価した。結果を表1、2に示した。また、実施例1、2及び比較例3~6の複合材料の写真を
図3に示した。
【0076】
<引張試験>
複合材料を短冊状に切断し、幅4mm、長さ90mm、厚さ0.3mmの試験片とした。次に、引張試験機(島津製作所製オートグラフAG-X)を用いて、標線間距離10mm、引張速度2mm/分に設定し、試験片の弾性率、最大応力及び引張伸びを測定した。結果を表1、2に示した。
【0077】
<動的粘弾性測定(DMA測定)>
複合材料を短冊状に切断し、幅4mm、長さ40mm、厚さ0.3mmの試験片とした。次に、動的粘弾性試験機(日立ハイテクサイエンス社製DMS6100)を用いて、JIS K7244に基づいて、チャック管距離20mm、測定温度-50℃~300℃、昇温ペース1.5℃、動的歪み0.05%、周波数1Hzに設定し、試験片の動的粘弾性(貯蔵弾性率E’、損失弾性率E’’、損失正接tan
δ=E’’/E’)を測定した。測定結果から、貯蔵弾性率E’(200℃)及び損失正接tan
δのピーク値を算出した。結果を表1、2に示した。また、実施例1~3及び比較例1~2の測定結果を
図4に、実施例3及び比較例1~2、9の測定結果を
図5に示した。
【0078】
<線膨張係数測定(TMA測定)>
複合材料を短冊状に切断し、幅2mm、長さ20mm、厚さ0.3mmの試験片とした。次に、熱機械分析試験機(日立ハイテクサイエンス社製TMA7100)を用いて、チャック管距離10mm、測定温度-30℃~200℃、昇温ペース3℃/分に設定し、試験片の線膨張係数を測定した。その結果を表1、2に示した。
【0079】
<顕微鏡観察>
実施例1~3及び比較例5~7複合材料について、光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を行った。光学顕微鏡画像(倍率×200倍)を
図6に、SEM画像(上:倍率×1000、下:倍率×50000)
図7に示した。
【0080】
【0081】
【0082】
[結果]
実施例1~14は比較例1~2(PMMA樹脂)に比べて弾性率が高く、線膨張係数が低い結果となった。また、実施例1~14の結果から、CNF添加による破断伸びの低下も許容範囲であった。
【0083】
比較例3~4は、CNFの凝集体が多数存在する状態であり、非常にもろく、物性測定が不可能なものであった。
【0084】
比較例5~7は、目視ではCNFの凝集体は目立って確認できなかった。しかし、光学顕微鏡画像から、明らかに実施例1~3よりも凝集体のサイズが大きく、また凝集体の数も多かった。また、SEM画像から、実施例1~3は平滑面の部分が多く、熱可塑性樹脂とCNFとの均一性が高いことが確認できたが、比較例5~7はクラウン形状の波面を有しており、熱可塑性樹脂とCNFとの均一性が高いとは言えなかった。物性面では、比較例5~7は実施例1~3に比べて、破断伸びが小さく、また最大応力が小さい結果となった。これは、DEGを添加していないことにより、乾燥工程においてCNFの凝集が抑制できなかったため、複合材料中にCNFの凝集体が多数形成され、これにより物性が低下したと考えられる。
【0085】
比較例8は、第二混練工程において、乾燥物からDEGが多量に絞り出され、ロール上で乾燥物が滑り、適切に混練出来ないものであった。
【0086】
比較例9は、CNF添加による物性向上効果が不十分であった。具体的には、比較例9は実施例4に比べて、最大応力が小さく、破断伸びも小さく、また線膨張係数が大きい結果となった。
【0087】
比較例10は、CNF量が過剰であり、実施例5に比べて破断伸びが低下しており、脆いものであった。
【0088】
比較例11は、実施例3と比較して、弾性率の増大が小さく、また引張伸びが小さい結果であった。これは、第二混練工程の温度条件が220℃と高く、弾性混錬が十分に行われない領域(流動混練)であったため、CNFの解繊が不十分であったためと考えられる。
【0089】
比較例12~14は、CNFをCM化CNFに変更したため、実施例1~3と比較して、弾性率の増大が小さく、CNFによる効果がほとんど認められなかった。また線膨張係数の低下が小さい結果であった。
【0090】
比較例16は、水系樹脂エマルジョン作製工程において、メチルメタクリレートモノマーの含有量に対するドデシル硫酸ナトリウムの含有量の比率を、メチルメタクリレートモノマー:ドデシル硫酸ナトリウム=100:4に増大したため、DMA測定のtanδのピーク値が126℃となり、200℃以下で溶融した。このことから、比較例16は樹脂の可塑化が生じていると推定される。また、比較例16は線膨張係数が大きい結果となり、これも樹脂の可塑化による影響と考えられる。
【0091】
比較例17~19は、アニオン系乳化剤をノニオン系乳化剤に変更したため、DMA測定の貯蔵弾性率E’曲線が15℃~22℃低温側にシフトし、tanδのピーク値が111℃~117℃に低下した。また、比較例17,18は200℃以下で溶融する結果となった。このことから、比較17~19は、大幅な樹脂の可塑化が生じていると推定される。また、比較例17~19は線膨張係数が大きい結果となり、これも樹脂の可塑化による影響と考えられる。