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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-14
(45)【発行日】2025-03-25
(54)【発明の名称】光学部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/56 20060101AFI20250317BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20250317BHJP
【FI】
B29C45/56
B29C45/26
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021045973
(22)【出願日】2021-03-19
(65)【公開番号】P2021151780
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2020051626
(32)【優先日】2020-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】井場 洋貴
(72)【発明者】
【氏名】加藤 久博
(72)【発明者】
【氏名】若林 純子
(72)【発明者】
【氏名】添田 泰之
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-234774(JP,A)
【文献】特開2018-172588(JP,A)
【文献】特開2016-112867(JP,A)
【文献】特開2004-098603(JP,A)
【文献】特開平06-063999(JP,A)
【文献】特開2001-042101(JP,A)
【文献】特開平10-120767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 39/26-39/36
B29C 41/38-41/44
B29C 43/36-43/42
B29C 43/50
B29C 45/00-45/84
B29C 49/48-49/56
B29C 49/70
B29C 51/30-51/40
B29C 51/44
C08C 19/00-19/44
C08F 6/00-246/00
C08F301/00
G02B 1/00-1/08
G02B 3/00-3/14
G02C 1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出ユニットと、光学面を有する光学部品を成形するための成形領域を含むキャビティーおよび前記射出ユニットから前記キャビティー内への溶融樹脂の射出口となるゲートを有する金型とを備え、
前記金型は一対の第1金型および第2金型からなり、これらの金型の間には、前記成形領域aを含む前記キャビティーを有し、
前記第1金型は、前記光学面を形成するための面積310mm以上5030mm以下の成形面を前記成形領域内に有し、
前記第2金型は、第1金型と対向する位置に設けられ前記成形領域a内に開口する開口部と、当該開口部内に前記第1金型方向に摺動可能に構成された突出しコアを備え、前記突出しコアは前記光学面を形成するための面積310mm以上5030mm以下の成形面を前記成形領域内に有し、
前記成形領域aにおける、前記第1金型の前記成形面と前記第2金型の前記成形面との間の距離は2mm以上15mm以下である、射出成形装置を用いた光学部品の製造方法であって、
前記突出しコアを、前記第1金型方向とは反対の方向に0.30mm以上3mm以下移動させ、前記キャビティーの前記成形領域における前記第1金型と前記第2金型との間の幅を広げて、前記成形領域成形領域bに拡張する工程と、
エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体、を含む樹脂組成物を溶融する工程と、
当該溶融樹脂組成物を、前記射出ユニットから前記ゲートを介して拡張された前記成形領域b内に射出注入する工程と、
前記キャビティーの前記成形領域b内に前記成形領域の内積80%以上99%以下となるように前記溶融樹脂組成物を注入し、そして前記第2金型に備えられた前記突出しコアを前記成形領域まで押し込みながら、前記溶融樹脂組成物を前記成形領域の内積100%まで注入し、次いで前記射出ユニット側から前記キャビティー内の前記溶融樹脂組成物に保圧をかけるとともに、前記溶融樹脂組成物を前記突出しコアで押圧する工程と、
を含む、光学部品の製造方法。
【請求項2】
前記成形領域を拡張する前記工程は、前記突出しコアを、前記第1金型方向とは反対の方向に0.5mm以上3mm以下移動させ、前記キャビティーの前記成形領域における前記第1金型と前記第2金型との間の幅を広げる工程である、請求項1に記載の光学部品の製造方法。
【請求項3】
前記ゲートは、前記第1金型および前記第2金型の間に形成され、前記キャビティーと連通している、請求項1または2に記載の光学部品の製造方法。
【請求項4】
前記共重合体のガラス転移温度が120℃を超えて170℃以下である、請求項1~3のいずれかに記載の光学部品の製造方法。
【請求項5】
前記共重合体が、
下記一般式(I)で表される少なくとも1種のオレフィン由来の繰り返し単位(a)と、
下記一般式(II)で表される繰り返し単位、下記一般式(III)で表される繰り返し単
位および下記一般式(IV)で表される繰り返し単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)と、
を有する、請求項1~のいずれかに記載の光学部品の製造方法。
【化1】
(前記一般式(I)において、R300は水素原子又は炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。)
【化2】
(前記一般式(II)において、uは0または1であり、vは0または正の整数であり、wは0または1であり、R61~R78ならびにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R75~R78は、互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。)
【化3】
(前記一般式(III)において、xおよびdは0または1以上の整数であり、yおよびzは0、1または2であり、R81~R99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子またはR91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R95とR92またはR95とR99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。)
【化4】
(前記一般式(IV)において、R100、R101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18である。)
【請求項6】
前記共重合体(A1)中の前記環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)が、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテンおよびテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンから選ばれる少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し単位を含む、請求項に記載の光学部品の製造方法。
【請求項7】
前記共重合体(A1)中の前記オレフィン由来の繰り返し単位(a)が、エチレンに由来する繰り返し単位を含む、請求項またはに記載の光学部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系共重合体は光学性能に優れるため、例えば、光学レンズ等の光学部品として用いられている。
環状オレフィン系共重合体からなる光学部品の製造方法に関する技術としては、例えば、特許文献1に記載のものが挙げられる。
【0003】
特許文献1には、溶融状態の樹脂を、射出ユニットの先端のノズルから、金型内に射出注入する工程と、射出ユニット側から金型内の樹脂に保圧をかけるとともに、圧縮用突出しピンを金型内に押し込み、金型内の樹脂に所定の圧縮力を加える工程と、を有する樹脂成形品の製造方法が記載されている。当該文献には、当該方法によれば、低複屈折性を有し、表面平滑性に優れ、かつ、ウェルドラインが目立たない樹脂成形品を得られると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-112867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法においては、成形型の設計値との形状誤差が大きく、所望の形状の樹脂成形品が得られないことがあった。
【0006】
また、特許文献1に記載の製造方法においては、得られた樹脂成形品の光学面に表面荒れが発生することがあった。なお、光学面の表面荒れは、金型形状を正確に転写できず樹脂成形品の光学面の表面に凹凸などが発生する現象であり、特許文献1に記載されているような、金型内で流れた樹脂が合流したときにできる筋であるウェルドラインとは異なる。
さらに、特許文献1に記載の製造方法においては、得られた樹脂成形品のゲート部付近の平均複屈折量に大きい点に改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは検討した結果、特定の射出成形装置を用いた光学部品の製造方法によれば、金型転写性を向上させることができ、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下に示すことができる。
【0008】
[1] 射出ユニットと、光学面を有する光学部品を成形するための成形領域を含むキャビティーおよび前記射出ユニットから前記キャビティー内への溶融樹脂の射出口となるゲートを有する金型とを備え、
前記金型は一対の第1金型および第2金型からなり、これらの金型の間に形成された前記キャビティーの前記成形領域における前記第1金型と前記第2金型との間の幅は2mm以上15mm以下であり、
前記第1金型は、前記光学面を形成するための面積310mm以上5030mm以下の成形面を前記成形領域内に有し、
前記第2金型は、開口部内に前記第1金型方向に摺動可能に構成された突出しコアを備え、前記突出しコアは前記光学面を形成するための面積310mm以上5030mm以下の成形面を前記成形領域内に有する、射出成形装置を用いた光学部品の製造方法であって、
前記突出しコアを、前記第1金型方向とは反対の方向に0.30mm以上3mm以下移動させ、前記キャビティーの前記成形領域における前記第1金型と前記第2金型との間の幅を広げて、前記成形領域を拡張する工程と、
エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体、を含む樹脂組成物を溶融する工程と、
当該溶融樹脂を、前記射出ユニットから前記ゲートを介して前記キャビティー内に射出注入する工程と、
前記キャビティーの前記成形領域の内積80%以上に前記溶融樹脂を注入し、そして前記第2金型に備えられた前記突出しコアを前記成形領域まで押し込みながら、前記溶融樹脂を前記成形領域の内積100%まで注入し、次いで前記射出ユニット側から前記キャビティー内の前記溶融樹脂に保圧をかけるとともに、前記溶融樹脂を前記突出しコアで押圧する工程と、
を含む、光学部品の製造方法。
[2] 前記ゲートは、前記第1金型および前記第2金型の間に形成され、前記キャビティーと連通している、[1]に記載の光学部品の製造方法。
[3] 前記共重合体のガラス転移温度が120℃を超えて170℃以下である、[1]また[2]に記載の光学部品の製造方法。
[4] 前記共重合体が、
下記一般式(I)で表される少なくとも1種のオレフィン由来の繰り返し単位(a)と、
下記一般式(II)で表される繰り返し単位、下記一般式(III)で表される繰り返し単
位および下記一般式(IV)で表される繰り返し単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)と、
を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の光学部品の製造方法。
【化1】
(前記一般式(I)において、R300は水素原子又は炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。)
【化2】
(前記一般式(II)において、uは0または1であり、vは0または正の整数であり、wは0または1であり、R61~R78ならびにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R75~R78は、互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。)
【化3】
(前記一般式(III)において、xおよびdは0または1以上の整数であり、yおよびz
は0、1または2であり、R81~R99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子またはR91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R95とR92またはR95とR99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。)
【化4】
(前記一般式(IV)において、R100、R101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18である。)[5] 前記共重合体(A1)中の前記環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)が、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテンおよびテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンから選ばれる少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し単位を含む、[4]に記載の光学部品の製造方法。
[6] 前記共重合体(A1)中の前記オレフィン由来の繰り返し単位(a)が、エチレンに由来する繰り返し単位を含む、[4]または[5]に記載の光学部品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光学部品の製造方法によれば、金型転写性に優れていることから、所望の形状を有するとともに光学面の表面荒れが抑制された光学部品が得られ、さらにゲート部付近の平均複屈折量が小さい光学部品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(a)は共重合体を射出成型する前の突出しコアの位置を示す射出成形装置の概略断面図であり、図1(b)は共重合体を射出成型した後の突出しコアの位置を示す射出成形装置の概略断面図である。
図2図2は、本実施形態の製造方法で得られた光学部品(樹脂成形品)の概略上面図および概略断面図である。
図3図3は、実施例1で得られたレンズ表面(光学有効面)の光学顕微鏡写真である。
図4図4は、比較例1で得られたレンズ表面(光学有効面)に発生した表面荒れを示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、「~」は特に断りがなければ「以上」から「以下」を表す。
まず、本実施形態の光学部品の製造方法に用いられる射出成形装置について説明する。
【0012】
<射出成形装置>
本実施形態の射出成形装置は、図1(b)に示すように、図示しない射出ユニットと、金型10とを備える。
【0013】
射出ユニットは、従来公知のものを用いることができ、樹脂を投入するホッパー、当該樹脂を加熱するシリンダー、噴射ノズルなどを備え、溶融した当該樹脂を、ゲート18を介してキャビティー16内に注入することができる。
【0014】
金型10は、光学面を有する光学部品を成形するための成形領域16aをその一部に含むキャビティー16と、前記射出ユニットからキャビティー16内への溶融樹脂の射出口となるゲート18とを有する。成形領域16aは、後述する第1金型12の成形面12aと突出しコア15の成形面15aに挟まれる領域である。
金型10は一対の第1金型12および第2金型14からなる。
ゲート18は、第1金型12および第2金型14の間に形成され、キャビティー16と連通している。
【0015】
成形領域16aは、所望の光学部品を成形するための領域であり、光学部品は断面形状において、片面凸形状-片面凹形状、両面凸形状、両面凹形状、片面平面-片面凹形状、片面平面-片面凸形状、片面平面-片面平面形状などを有する。光学部品は平面視において円形状、楕円形状等であってもよい。
【0016】
キャビティー16の成形領域16aにおける第1金型12と第2金型14との間の幅aは、2mm以上15mm以下、好ましくは2.5mm以上12mm以下、さらに好ましくは2.5mm以上10mm以下とすることができる。
ゲート18の幅(第1金型12と第2金型14との間の幅)は、成形領域16aの幅aの30%以上100%以下程度である。
【0017】
第1金型12は、成形領域16a内に、光学部品の光学面を形成するための成形面12aを露出している。成形面12aの形状は、光学部品の光学面の形状に合わせて設定され、断面形状において凸形状、凹形状、または平面形状であってもよく、平面視において円形状、楕円形状等であってもよい。成形面12aの幅(円形状の場合は直径)は図1においてbで示される。
【0018】
成形面12aの面積は310mm以上5030mm以下、好ましくは415mm以上2850mm以下、さらに好ましくは490mm以上2000mm以下とすることができる。成形面12aが平面視において円形状である場合、直径bは20mm以上80mm以下、好ましくは23mm以上60mm以下、さらに好ましくは25mm以上50mm以下とすることができる。
【0019】
第2金型14は、突出しコア15を備える。突出しコア15は、図示しない油圧シリンダー等の動力手段に接続しており、第2金型14の開口部内を摺動することができるように構成されており、図1(a)および図1(b)に示すように、第1金型12の方向および逆方向に移動することができる。
【0020】
動力手段は、突出しコア15の移動位置を制御するための制御手段を備え、突出しコア15を所定の位置で止めることができるように構成されている。
突出しコア15は、成形領域16a内に、光学部品の光学面を形成するための成形面15aを露出している。
【0021】
成形面15aの形状は、光学部品の光学面の形状に合わせて設定され、断面形状において凸形状、凹形状、または平面形状であってもよく、平面視において円形状、楕円形状等であってもよい。成形面15aの幅(円形状の場合は直径)は図1においてcで示される。
【0022】
成形面15aの面積は310mm以上5030mm以下、好ましくは415mm以上2850mm以下、さらに好ましくは490mm以上2000mm以下とすることができる。成形面15aが平面視において円形状である場合、直径cは20mm以上80mm、好ましくは23mm以上60mm以下、さらに好ましくは25mm以上50mm以下とすることができる。
【0023】
<光学部品の製造方法>
本実施形態の光学部品の製造方法は、上述の射出成形装置を用いたものであり、以下の工程を含む。
工程a:突出しコア15を、第1金型方向12とは反対の方向に0.30mm~3mm移動させ、キャビティー16の成形領域16aにおける第1金型12と第2金型14との間の幅を広げて、成形領域16aを拡張する。
工程b:エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体、を含む樹脂組成物を溶融する。
工程c:工程bで得られた溶融樹脂を、射出ユニットからゲート18を介してキャビティー16内に射出注入する。
工程d:キャビティー16の成形領域16aの内積80%以上に溶融樹脂を注入し、そして第2金型に備えられた突出しコア15を成形領域16aまで押し込みながら、溶融樹脂を成形領域16aの内積100%まで注入し、次いで射出ユニット側からキャビティー16内の溶融樹脂に保圧をかけるとともに、前記溶融樹脂を突出しコア15で押圧する。
【0024】
[工程a]
当該工程においては、図示しない油圧シリンダー等の動力手段により、突出しコア15を第1金型方向12とは反対の方向に0.30mm以上3mm以下、好ましくは0.4mm以上2mm以下、さらに好ましくは0.5mm以上1mm以下移動させ、図1(b)から図1(a)の状態とする。
これにより、成形領域16aが拡張される。
【0025】
[工程b]
当該工程においては、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体を含む樹脂組成物を、ホッパーを介してシリンダー内に投入し、シリンダー内で当該樹脂組成物を加熱し溶融する。さらに、シリンダー内のスクリューを回転させることで噴射ノズルまで移動させる。なお、工程aと工程bとに順序は問わず、同時であってもよい。
【0026】
溶融状態の樹脂組成物の温度(シリンダー設定温度)は、樹脂のガラス転移温度(Tg)や融点(Tm)に応じて適宜決定することができるが、通常は、「Tg+100℃」~「Tg+180℃」、好ましくは「Tg+120℃」~「Tg+170℃」である。スクリューの回転数は、特に限定されないが、通常は、10~300rpmの範囲で適宜選択される。
本実施形態における樹脂組成物について説明する。
【0027】
(樹脂組成物)
本実施形態の樹脂組成物は、環状オレフィンに由来する繰り返し単位を必須構成単位とする環状オレフィン系共重合体(A)を含む。
環状オレフィン系共重合体(A)としては、例えば、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(A1)が挙げられる。
【0028】
本実施形態における共重合体(A1)を構成する環状オレフィン化合物は特に限定はされないが、例えば、国際公開第2006/0118261号の段落0037~0063に記載の環状オレフィンモノマーを挙げることができる。
【0029】
本実施形態における共重合体(A1)は、得られる光学部品の透明性および屈折率の性能バランスを良好に保ちつつ耐熱性をさらに向上できたり、成形性を向上できたりする観点から、下記一般式(I)で表される少なくとも1種のオレフィン由来の繰り返し単位(a)と、下記一般式(II)で表される繰り返し単位、下記一般式(III)で表される繰り返し単位および下記一般式(IV)で表される繰り返し単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)と、を有することが好ましい。
【0030】
【化5】
【0031】
上記一般式(I)において、R300は水素原子または炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。
【0032】
【化6】
【0033】
上記一般式(II)において、uは0または1であり、vは0または正の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、wは0または1であり、R61~R78ならびにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R75~R78は互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。
【0034】
【化7】
【0035】
上記一般式(III)において、xおよびdは0または1以上の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、yおよびzは0、1または2であり、R81~R99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子またはR91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R95とR92またはR95とR99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。
【0036】
【化8】
【0037】
上記一般式(IV)において、R100、R101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18である。
【0038】
本実施形態における共重合体(A1)の共重合原料の一つであるオレフィンモノマーは付加共重合して上記一般式(I)で表される構成単位を形成するものである。具体的には上記一般式(I)に対応する下記一般式(Ia)で表されたオレフィンモノマーが用いられる。
【0039】
【化9】
【0040】
上記一般式(Ia)において、R300は水素原子または炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。上記一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。より優れた耐熱性、機械的特性および光学特性を有する光学部品を得る観点から、これらのなかでも、エチレンとプロピレンが好ましく、エチレンが特に好ましい。上記一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマーは2種類以上を用いてもよい。
【0041】
本実施形態における環状オレフィン系共重合体を構成する構成単位の全体を100モル%としたとき、オレフィン由来の繰り返し単位(a)の割合が、好ましくは5モル%以上95モル%以下、より好ましくは20モル%以上90モル%以下、さらに好ましくは40モル%以上80モル%以下、特に好ましくは50モル%以上70モル%以下である。
なお、オレフィン由来の繰り返し単位(a)の割合は、13C-NMRによって測定することができる。
【0042】
本実施形態における共重合体(A1)の共重合原料の一つである環状オレフィンモノマー(b)は付加共重合して上記一般式(II)、上記一般式(III)または上記一般式(IV)で表される環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)を形成するものである。具体的には、上記一般式(II)、上記一般式(III)、および上記一般式(IV)にそれぞれ対応する一般式(IIa)、(IIIa)、および(IVa)で表される環状オレフィンモノマー(b)が用いられる。
【0043】
【化10】
【0044】
上記一般式(IIa)において、uは0または1であり、vは0または正の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、wは0または1であり、R61~R78ならびにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R75~R78は、互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。
【0045】
【化11】
【0046】
上記一般式(IIIa)において、xおよびdは0または1以上の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、yおよびzは0、1または2であり、R81~R99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子またはR91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R95とR92またはR95とR99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。
【0047】
【化12】
【0048】
上記一般式(IVa)において、R100、R101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18である。
【0049】
共重合成分として、上述した一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマー、一般式(IIa)、(IIIa)または(IVa)で表される環状オレフィンモノマー(b)を用いることにより、環状オレフィン系共重合体(A)の溶媒への溶解性がより向上するため成形性が良好となり、製品の歩留まりが向上する。
【0050】
一般式(IIa)、(IIIa)または(IVa)で表される環状オレフィンモノマー(b)の具体例については国際公開第2006/0118261号の段落0037~0063に記載の化合物を用いることができる。
【0051】
具体的には、ビシクロ-2-ヘプテン誘導体(ビシクロヘプト-2-エン誘導体)、トリシクロ-3-デセン誘導体、トリシクロ-3-ウンデセン誘導体、テトラシクロ-3-ドデセン誘導体、ペンタシクロ-4-ペンタデセン誘導体、ペンタシクロペンタデカジエン誘導体、ペンタシクロ-3-ペンタデセン誘導体、ペンタシクロ-4-ヘキサデセン誘導体、ペンタシクロ-3-ヘキサデセン誘導体、ヘキサシクロ-4-ヘプタデセン誘導体、ヘプタシクロ-5-エイコセン誘導体、ヘプタシクロ-4-エイコセン誘導体、ヘプタシクロ-5-ヘンエイコセン誘導体、オクタシクロ-5-ドコセン誘導体、ノナシクロ-5-ペンタコセン誘導体、ノナシクロ-6-ヘキサコセン誘導体、シクロペンタジエン-アセナフチレン付加物、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン誘導体、1,4-メタノ-1,4,4a,5,10,10a-ヘキサヒドロアントラセン誘導体、炭素数3~20のシクロアルキレン誘導体が挙げられる。
【0052】
一般式(IIa)、(IIIa)または(IVa)で表される環状オレフィンモノマー(b)
の中でも、一般式(IIa)で表される環状オレフィンが好ましい。
上記一般式(IIa)で表される環状オレフィンモノマー(b)として、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン(ノルボルネンとも呼ぶ。)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(テトラシクロドデセンとも呼ぶ。)から選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましく、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンを用いることがより好ましい。これらの環状オレフィンは剛直な環構造を有するため共重合体および光学部品の弾性率が保持され易くなる利点がある。
【0053】
本実施形態における共重合体(A1)を構成する構成単位の全体を100モル%としたとき、環状オレフィンモノマー(b)由来の繰り返し単位(b)の割合が、好ましくは5モル%以上95モル%以下、より好ましくは10モル%以上80モル%以下、さらに好ましくは20モル%以上60モル%以下、特に好ましくは30モル%以上50モル%以下である。
【0054】
本実施形態における共重合体(A1)の共重合タイプは特に限定されないが、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体等を挙げることができる。本実施形態においては、透明性、屈折率および複屈折率等の光学物性に優れ、高精度の光学部品を得ることができる観点から、本実施形態における共重合体(A1)としてはランダム共重合体を用いることが好ましい。
【0055】
本実施形態における共重合体(A1)としては、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体およびエチレンとビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテンとのランダム共重合体から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体がより好ましい。
本実施形態において環状オレフィン系共重合体(A)は1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
本実施形態における環状オレフィン系共重合体(A)に含まれる共重合体(A1)の含有量の下限は、本実施形態における光学部品に含まれる環状オレフィン系共重合体(A)を100質量%としたとき、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。本実施形態における環状オレフィン系共重合体(A)中の共重合体(A1)の含有量が上記下限値以上であることにより、光学性能をより一層良好にすることができる。
【0057】
本実施形態における環状オレフィン系共重合体(A)に含まれる共重合体(A1)の含有量の上限は特に限定されないが、本実施形態における光学部品に含まれる環状オレフィン系共重合体(A)を100質量%としたとき、100質量%以下である。
【0058】
本実施形態における共重合体(A1)は、例えば、特開昭60-168708号公報、特開昭61-120816号公報、特開昭61-115912号公報、特開昭61-115916号公報、特開昭61-271308号公報、特開昭61-272216号公報、特開昭62-252406号公報、特開昭62-252407号公報等の方法に従い適宜条件を選択することにより製造することができる。
【0059】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(A)のガラス転移温度は、本発明の効果の観点から、好ましくは120℃超170℃以下、より好ましくは125℃以上160℃以下、さらにより好ましくは130℃以上155℃以下である。
【0060】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(A)のガラス転移温度は、たとえば、環状オレフィン系共重合体(A)に含まれる繰り返し単位の種類及び量、製造条件によって制御することができる。
【0061】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(A)のガラス転移点(Tg)は、例えば、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができる。例えば、SIIナノテクノロジー社製RDC220を用いて窒素雰囲気下で常温から10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温した後に5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で30℃まで降温した後に5分保持し、次いで10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する際にガラス転移点を測定することができる。
【0062】
(その他の成分)
本実施形態における樹脂組成物には、環状オレフィン系共重合体(A)以外に、本実施形態における光学部品の良好な物性を損なわない範囲内で任意成分として公知の添加剤を含有させることができる。
【0063】
添加剤としては、例えば、親水性安定剤、親水剤、酸化防止剤、二次抗酸化剤、滑剤、離型剤、防曇剤、耐候安定剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、金属不活性化剤等が挙げられる。
【0064】
上記の中でも、本実施形態における樹脂は、親水性安定剤を含むことが好ましい。親水性安定剤を含むと、高温高湿条件下における光学性能の劣化が抑制でき、より好ましい。
親水性安定剤は、脂肪酸と多価アルコールとの脂肪酸エステルが好ましい。脂肪酸とエーテル基を1つ以上有する多価アルコールとの脂肪酸エステルがより好ましい。
【0065】
本実施形態において、樹脂組成物中の環状オレフィン系共重合体(A)の含有量の下限は、樹脂組成物の全体を100質量%としたとき、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。樹脂組成物中の環状オレフィン系共重合体(A)の含有量が上記下限値以上であることにより、光学性能をより一層良好にすることができる。
樹脂組成物中の環状オレフィン系共重合体(A)の含有量の上限は特に限定されないが、例えば、100質量%以下である。
【0066】
[工程c]
当該工程においては、工程bで得られた溶融樹脂を、射出ユニットの噴射ノズルからゲート18を介してキャビティー16内に射出注入する(図1(a))。
噴射ノズルから金型に射出注入する際の射出圧は、金型の構造や樹脂の流動性等の条件を考慮して適宜選択し、設定すればよいが、通常、500~15,000kgf/cmの範囲で行われる。
【0067】
金型の温度は、脂環式構造を有する樹脂のガラス転移温度(Tg)や融点(Tm)に応じて適宜決定することができるが、通常は、「Tg-30℃」~「Tg+10℃」、好ましくは「Tg-20℃」~「Tg」である。
【0068】
[工程d]
当該工程においては、キャビティー16の成形領域16aの内積80%以上に溶融樹脂を注入し、そして第2金型に備えられた突出しコア15を成形領域16aまで押し込みながら、溶融樹脂を成形領域16aの内積100%まで注入する。次いで射出ユニット側からキャビティー16内の溶融樹脂に保圧をかけるとともに、前記溶融樹脂を突出しコア15で押圧する。
【0069】
このように、溶融樹脂が所定量注入された際に、突出しコア15の所定の面積を有する成形面15a全体で、溶融樹脂を均一に押圧することにより、金型転写性を改善することができ、所望の形状を有するとともに光学面の表面荒れが抑制された光学部品が得られ、さらにゲート部付近の平均複屈折量が小さい光学部品を得ることができる。
【0070】
溶融樹脂の充填率が、成形領域16aの内積の80%未満の時点で突出しコア15を押し込むと、突出しコア15によって溶融樹脂が通る流路が狭くなる事で樹脂が配向しやすくなることによって成形品の複屈折量が大きくなり、さらに圧縮効果が得られず、金型の成形品への転写性が悪くなり、光学面の表面荒れが生じる。
【0071】
したがって、本発明の効果の観点から、突出しコア15を押し込む時点において、成形領域16a内の溶融樹脂の充填率は、成形領域16aの内積の80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上とすることができる。上限値は特に限定されないが、100%以下、好ましくは99%以下、より好ましくは98%以下とすることができる。
【0072】
なお、保圧をかける時間と、突出しコア15を用いて金型内の溶融樹脂に圧縮力を加える時間は、完全に一致しなくてもよい。
保圧は、金型内に樹脂を充填した後、金型のゲート部分の樹脂が完全に冷却固化するまでの間、金型内の樹脂にかける圧力である。金型内に樹脂を充填した後も、射出ユニットのスクリューを所定時間稼働させることによって、金型内の樹脂に保圧をかけることができる。
【0073】
保圧の圧力や時間は、光学部品の大きさや形状に応じて適宜決定することができる。保圧は、通常は、10~200MPa、好ましくは20~140MPaである。保圧時間は、通常は、2~30秒である。
【0074】
突出しコア15を、第1金型方向12に成形領域16aまで押し込む。すなわち、突出しコア15を、0.30mm以上3mm以下、好ましくは0.4mm以上2mm以下、さらに好ましくは0.5mm以上1mm以下移動させ(図1(a)から図1(b))、前記溶融樹脂を所定の面積を有する成形面12aに押圧する。これにより、金型転写性を改善することができ、本発明の効果を得ることができる。
突出しコア15を押し込むことによる溶融樹脂に対する圧力や押し込む時間は適宜調整される。
なお、保圧をかける時間と、突出しコア15を用いて金型内の樹脂に圧縮力を加える時間は、完全に一致しなくてもよい。
【0075】
工程dの後、常法に従い、金型内の樹脂を冷却固化させ、次いで金型を開けて樹脂成形品(光学部品)を取り出す。冷却時間は、特に限定されないが、通常1~500秒である。
【0076】
[光学部品]
本実施形態の製造方法によって得られる樹脂成形体(光学部品)は、図2に示されるように、上面視においてR1面に円状の有効光学面(内円に囲まれた部分、直径b)を有する。裏面であるR2面に円状の有効光学面(直径c)を有する。
本実施形態の製造方法は金型転写性に優れており、得られる光学部品の光学面は表面荒れが抑制されている。
【0077】
本実施形態の製造方法で得られた光学部品は、金型設計どおりの所望の形状を有しており、図2に記載の樹脂の流れ方向(MD方向)の面形状変動PV値と、樹脂の流れに垂直な方向(TD方向)の面形状変動PV値が何れも小さい。PV値は2.0μm以下、好ましくは1.5μm以下、さらに好ましくは1.0μm以下とすることができる。PV値は小さいほど好ましいので下限値はとくに限定されないが、例えば0.1μm以上である。
【0078】
ここで、PV値とは、成形型の設計値からの形状誤差の一番大きい点(Peak)と成形型の設計値からの形状誤差の一番小さい点(Valley)の差を示す。PV値、及び、ΔPVは、3次元測定器によって、レンズ面の形状測定を行うことにより測定が可能であり、具体的には実施例記載の方法により評価可能である。
さらに、本実施形態の製造方法は金型転写性に優れており、得られた光学部品は、ゲート18付近の平均複屈折量が小さい。
平均複屈折量はゲート位置5mm×5mm角の領域(25mm)における波長523nm,543nm,575nmの各波長の位相差の平均値である。
【0079】
本実施形態に係る光学部品は環状オレフィン系共重合体(A)を含むため、光学性能に優れている。そのため像を高精度に識別する必要がある光学系において、光学部品として好適に用いることができる。光学部品とは光学系機器等に使用される部品であり、具体的には、センサーレンズ、ピックアップレンズ、プロジェクタレンズ、プリズム、fθレンズ、撮像レンズ、導光板等が挙げられ、本実施形態に係る効果の観点から、fθレンズ、撮像レンズ、センサー用レンズ、プリズムまたは導光板に好適に用いることができる。
【0080】
レンズの形状としては、両面が球面の凸レンズ、両面が球面の凹レンズ、片面が球面かつ凸形状でかつ他の面が非球面のレンズ、片面が球面かつ凹形状でかつ他の面が非球面のレンズ、片面が球面かつ凸形状でかつ他の面が平面のレンズ、片面が非球面かつ凸形状でかつ他の面が平面のレンズ、回折レンズ、フレネル型レンズ、ウエハレンズ、ウエハレンズアレイ、ウエハレンズアレイの積層体を挙げることができる
【0081】
特に、本実施形態に係る光学部品は、所望の形状を有するとともに光学面の表面荒れが抑制され、さらにゲート部付近の平均複屈折量が小さいため、上記した従来の光学部品としての用途に用いることができるのはもちろん、車載カメラレンズや携帯機器(携帯電話、スマートフォン、タブレット等)用のカメラレンズ等の光学部品にも用いることができる。車載カメラレンズや携帯機器用カメラレンズとしては、例えば、ビューカメラレンズ、センシングカメラレンズ、ヘッドアップディスプレイの光収束用レンズ、ヘッドアップディスプレイの光拡散用レンズ、また、パソコン用カメラ、携帯電話用カメラ、スマートフォン用カメラ、タブレット端末用カメラ、モバイル装置用カメラ、デジタルカメラ、医療機器用カメラ等の各種光学装置におけるレンズ、等が挙げられる。なお、車載カメラは、可視画像を撮影するものであっても、赤外画像を撮影するものであっても、両方を撮影するものであってもよく、また、可視画像の場合に白黒画像であっても、カラー画像であってもよい。また、上記以外の用途として、自動車内装パネル、自動車ランプレンズ、自動車インナーレンズ、自動車レンズ保護カバー、自動車ライトガイド等が挙げられる。本実施形態に係る光学部品は、特に車載用に好適に用いることができる。
【0082】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例
【0083】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0084】
<製造例>
<樹脂組成物Aの調製>
(触媒の調製)
VO(OC)Clをシクロヘキサンで希釈し、バナジウム濃度が6.7ミリモル/L-シクロヘキサンであるバナジウム触媒を調製した。エチルアルミニウムセスキクロリド(Al(C1.5Cl1.5)をシクロヘキサンで希釈し、アルミニウム濃度が107ミリモル/L-ヘキサンである有機アルミニウム化合物触媒を調製した。
【0085】
(重合)
攪拌式重合器(内径500mm、反応容積100L)を用いて、連続的にエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの共重合反応を行った。ここで、エチレンは水素ガスとともに重合器内に供給した。この共重合反応を行う際には、上記方法によって調製されたバナジウム触媒を、重合溶媒として用いられた重合器内のシクロヘキサンに対するバナジウム触媒濃度が0.6ミリモル/Lになるような量で重合器内に供給した。また、有機アルミニウム化合物であるエチルアルミニウムセスキクロリドを、Al/V=18.0になるような量で重合器内に供給した。重合温度を8℃とし、重合圧力を1.8kg/cmGとして連続的に共重合反応を行った。
【0086】
(脱灰)
重合器より抜出したエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの共重合体溶液に対して、水およびpH調節剤として濃度が25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加し重合反応を停止させた。また、共重合体中に存在する触媒残渣をこの共重合体溶液中から除去(脱灰)した。上記脱灰処理を行った、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの共重合体のシクロヘキサン溶液(ポリマー濃度7.7質量%)に安定剤としてペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を共重合体に対する添加量が共重合体100質量部に対して0.4質量部となるように添加した。次いで、フラッシュ乾燥工程に入る前に一旦、有効容積1.0mの攪拌槽を用いて1時間混合した。
【0087】
(脱溶媒)
熱源として20kg/cm2Gの水蒸気を用いた二重管式加熱器(外管径2B、内管径3/4B、長さ21m)に、シクロヘキサン溶液中の共重合体の濃度を5質量%とした上記共重合体のシクロヘキサン溶液を150kg/hの量で供給して、180℃に加熱した。
熱源として25kg/cm2Gの水蒸気を用いた二重管式フラッシュ乾燥器(外管径2B、内管径3/4B、長さ27m)とフラッシュホッパー(容積200L)とを用いて、上記加熱工程を経た上記共重合体のシクロヘキサン溶液から重合溶媒であるシクロヘキサンとともに大半の未反応モノマーを除去することでフラッシュ乾燥された溶融状態のエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体(環状オレフィン系共重合体(A-1)を得た。後述の方法で環状オレフィン系共重合体(A-1)のガラス転移温度Tg(℃)を評価したところ、155℃であった。
【0088】
(押出)
脂肪酸エステルとしてエキセパールPE-MS(花王株式会社製)を100℃で4時間加熱した溶融状態で、環状オレフィン系共重合体(A-1)100質量部に対して2.1質量部の量で直接ベント付二軸混練押出機に装入し、押出機の樹脂装入部より装入した環状オレフィン系共重合体(A-1)と混錬し、押出機出口に取り付けられたアンダーウォーターペレタイザーによりペレット化し、得られたペレットを温度100℃の熱風にて4時間乾燥して樹脂組成物A-1を得た。
【0089】
[ガラス転移温度Tg(℃)]
島津サイエンス社製、DSC-6220を用いてN(窒素)雰囲気下で環状オレフィン系共重合体のガラス転移温度Tgを測定した。環状オレフィン系共重合体を常温から10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温した後に5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で-20℃まで降温した後に5分間保持した。そして10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する際の吸熱曲線から環状オレフィン系共重合体のガラス転移点(Tg)を求めた。ガラス転移点(Tg)は140℃であった。
【0090】
(光学部品の作製)
<実施例1>
以下のサイズを有する金型を備える射出成形機を用いて、光学部品を製造した。
図1(a)に示されるように、突出しコアを、第1金型12の方向とは反対の方向に表1に記載の圧縮量分だけ移動させた。樹脂組成物A-1を、射出ユニットに投入し、シリンダー温度260℃で溶融させ、溶融樹脂を、射出ユニットからゲート18を介してキャビティー16内に射出注入した。金型10(金型温度120℃)内の成形領域(光学有効部)16aの内積97%以上に溶融樹脂を注入したところで、第2金型14に備えられた突出しコア15を表1に記載の圧縮量分移動させ、成形領域16aまで押し込み、溶融樹脂を押圧し、金型10(金型温度120℃)内の成形領域(光学有効部)16aの内積100%まで樹脂を注入後、キャビティー16内の溶融樹脂に、表1に記載の圧力で保圧をかけ、金型内の樹脂を冷却固化させ、次いで金型を開けて樹脂成形品(光学部品)を得た。
(金型のサイズ)
・第1金型12の成形面12aの直径(幅)b:φ28mm
・成形面12aの面積:615mm
・突出しコア15の成形面15aの直径(幅)c:φ26.9mm
・成形面15aの面積:568mm
・成形領域(光学有効部)16aの厚さa:2.7mm
・ゲート18の幅:1.2mm
・レンズの形状:メニスカスレンズ
【0091】
<実施例2、比較例1~3>
表1に記載の条件とした以外は実施例1と同様にして樹脂成形品(光学部品)を調製した。
【0092】
<実施例3、比較例4>
金型のサイズを以下のように変更し、表1に記載の条件とした以外は実施例1と同様にして樹脂成形品(光学部品)を調製した。
・第1金型12の成形面12aの直径(幅)b:φ46mm
・成形面12aの面積:1661mm
・突出しコア15の成形面(平面)15aの直径(幅)c:φ46mm
・成形面15aの面積:3524mm
・成形領域(光学有効部)16aの厚さa:10mm
・ゲート18の幅:2mm
・レンズの形状:平凸レンズ
【0093】
[光学部品の評価方法]
得られた光学部品について、以下の方法で評価を行った。
【0094】
[レンズ形状]
実施例・比較例の光学部品について、超高精度3次元測定器UA3P(パナソニック社製)でレンズ面の形状測定を行った。測定は、先端曲率半径2μmのダイヤモンド触針を用い、測定速度0.1mm/sで光学部品のR1面とR2面について、その有効径(直径6mm)の87%の範囲について、MD方向とTD方向それぞれ実施し、PV値を求めた。ここで、成形型の設計値からの形状誤差の一番大きい点(Peak)と成形型の設計値からの形状誤差の一番小さい点(Valley)の差を、その頭文字をとってPV値と呼ぶ。
なお、R1面は、射出成型における第1金型12側の面であり、R2面は、射出成型における第2金型14側の面である。また、図2に示す通り、MD方向は樹脂の流れ方向を、TD方向は樹脂の流れに対し垂直な方向を、それぞれ示す。以下の基準で評価した。
(基準)
〇:MD方向とTD方向のPV値がともに2μm以下
×:MD方向とTD方向のPV値のどちらかが2μmより大きい
【0095】
[複屈折量]
得られた光学部品について、ワイドレンジ複屈折評価システム(フォトニックラティス社製 WPA-200)を用いて、3波長測定(波長523nm,543nm,575nm)により、図2に示されるゲート位置5mm×5mm角の領域の位相差を測定し、平均値を求めた。以下の基準で評価した。
(基準)
〇:位相差の平均値が10nm以下
×:位相差の平均値が10nmより大きい
【0096】
[表面粗さ]
光学部品のR1面の光学有効面の表面を光学顕微鏡(25倍)で観察した。
以下の基準で評価した。
(基準)
〇:表面荒れ発生なし
×:表面荒れ発生
図3に、実施例1で得られた光学部品の光学有効面(表面荒れ発生なし)の光学顕微鏡写真を示し、図4に、比較例1で得られた光学部品の光学有効面に発生した表面荒れを示す光学顕微鏡写真を示す。
【0097】
【表1】
【0098】
表1に示されるように、本発明の所定の射出成形機を用いた光学部品の製造方法によれば、金型転写性に優れていることから、PV値が小さく所望の形状を有し、光学面の表面荒れが抑制され、さらにゲート部付近の平均複屈折量が小さい光学部品を得ることができることが明らかとなった。本発明の製造方法により得られた光学部品は、これらの特性を有することから、各種のレンズとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0099】
1 射出成形装置
10 金型
12 第1金型
12a 成形面
14 第2金型
15 突出しコア
15a 成形面
16 キャビティー
16a 成形領域
18 ゲート
a 成形領域の幅
b 成形面12aの幅(直径)
c 成形面15aの幅(直径)
図1
図2
図3
図4