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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-14
(45)【発行日】2025-03-25
(54)【発明の名称】泡沫安定性
(51)【国際特許分類】
   C12C 7/14 20060101AFI20250317BHJP
   C12C 11/00 20060101ALI20250317BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20250317BHJP
【FI】
C12C7/14
C12C11/00 Z
C12N15/09 110
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021512432
(86)(22)【出願日】2018-09-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 NL2018050588
(87)【国際公開番号】W WO2020055235
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-09-09
【審判番号】
【審判請求日】2023-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】591211799
【氏名又は名称】ハイネケン サプライ チェーン ベー.フェー.
【氏名又は名称原語表記】Heineken Supply Chain B.V.
【住所又は居所原語表記】Tweede Weteringplantsoen21 1017 ZD Amsterdam The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】ベッケルス, アウフスティヌス コルネリウス アルデホンデ ペトルス アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】ブラウウェル, エリク リハルト
【合議体】
【審判長】柴田 昌弘
【審判官】宮久保 博幸
【審判官】植前 充司
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-365277(JP,A)
【文献】特開平01-165363(JP,A)
【文献】特開平08-66176(JP,A)
【文献】特開2003-169658(JP,A)
【文献】特開2004-290072(JP,A)
【文献】特開2012-125205(JP,A)
【文献】特開2015-112088(JP,A)
【文献】特開2015-112090(JP,A)
【文献】J. Inst. Brew., 1981, 発行日, Vol.87, pp.242-243
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.5mg/l未満のAcHFAを含むビールであって、
AcHFAが、カルボン酸基およびC11~C21直鎖状アルキル基を含むC12~C22脂肪酸であり、前記アルキル基が、部分不飽和であってもよく、かつ少なくとも1つのヒドロキシ基および少なくとも1つのアセテート基で置換されており、
AcHFAが、構造1によって定義され、
【化1】
構造1中、n=4~9の整数であり、
【化2】
、A、B、Cおよび/またはDのそれぞれは同じでも異なってもよく、
a)
【化3】
は単結合であり、その場合、
AおよびBの一方はH、OHまたはOAcであり、AおよびBの他方はHであり、
CおよびDの一方はH、OHまたはOAcであり、CおよびDの他方はHであるか、あるいは
b)
【化4】
は二重結合であり、その場合、
AおよびBの一方はHであり、AおよびBの他方は存在せず、CおよびDの一方はHであり、CおよびDの他方は存在せず、
ただし、構造1において、すべてのA、B、C、Dのうちの少なくとも1つはOHであり、すべてのA、B、C、Dのうちの少なくとも1つはOAcであることを条件とする、ビール。
【請求項2】
請求項1に記載のビールにおいて、
AcHFAが、構造2によって定義され、
【化5】
構造2中、n=1、2、または3であり、m=1または2であり、
AおよびBの一方はOHであり、AおよびBの他方はOAcである、
ビール。
【請求項3】
構造2中、n=2もしくは3であり、および/または、m=2である、請求項に記載のビール。
【請求項4】
構造2中、n=3であり、m=2である、請求項に記載のビール。
【請求項5】
請求項1からのいずれか一項に記載のビールにおいて、
0~15体積%のエタノールを含む、ビール。
【請求項6】
請求項1からのいずれか一項に記載のビールにおいて、
0.25mg/l未満のAcHFAを含む、ビール。
【請求項7】
請求項1からのいずれか一項に記載のビールにおいて、
合計5~55mg/lのイソアルファ酸を含む、ビール。
【請求項8】
請求項1からのいずれか一項に記載のビールにおいて、
グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、およびマルトトリオースの合計と定義される全糖含有量が0.05~5g/100mlである、ビール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、泡沫安定性が改善されたビール、およびビールの泡沫安定性を改善する方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
ビールは、世界中で最も人気のあるアルコール飲料の1つである。ビールは、糖をエタノール(「アルコール」)に変換する酵母を使用して、穀類に由来する糖含有水性マトリックスの発酵によって調製される。ビールの生成プロセスは一般的に知られており、当業者は、共通一般知識(例えば、The Brewers Handbook (第2版) of Ted Goldammer (2008、Apex publishers社)を参照のこと)および本明細書に開示されている情報に基づいてビールを得ることができる。
【0003】
ビールは、通常は大麦などの穀物から作製されるが、小麦またはモロコシを含むがこれらに限定されない他の穀物のタイプも使用することができる。ビールは、通常は次の基本的ステップ含むプロセスによって生成される:穀類と水の混合物をマッシングして、マッシュを生成するステップ;マッシュを麦汁とビール粕に分離するステップ;麦汁を煮沸して、煮沸した麦汁を生成するステップ;煮沸した麦汁を生酵母(Saccharomyces pastorianusまたはSaccharomyces cerevisiaeなど)で発酵させて、発酵した麦汁を生成するステップ;発酵した麦汁を1つまたは複数の別のプロセスステップ(例えば、成熟および濾過)にかけて、ビールを生成するステップ;およびビールを密封容器、例えば瓶、缶または樽にパッケージングするステップ。
【0004】
大麦モルトビールを生成する例示的なプロセスにおいて、大麦を製麦する。それは、大麦を発芽させ、続いて乾燥(「焙燥」)して、モルトを生成することを意味する。このプロセスは、味および色化合物の形成、ならびに別のフレーバー発生およびデンプン分解にとって重要である酵素の形成にとって重要である。続いて、モルトを製粉し、水に懸濁する(「マッシング」)。マッシュを加熱して、デンプン分解を促進する。続いて、濾過により、麦汁が得られ、麦汁は発酵性糖のほぼ清澄な水性溶液であり、様々なフレーバーおよびアロマならびに他の多くの化合物も含有する。麦汁中に、望ましいフレーバー化合物と望ましくないフレーバー化合物が両方存在する。
【0005】
麦汁を煮沸して、滅菌し、タンパク質を沈殿させ、濃縮する。場合によって、ホップを添加し、苦味およびフレーバーを加える。この混合物を、沈殿物の除去後に発酵にかける。発酵によって、発酵性糖をエタノールおよび二酸化炭素中に変換し、様々な新規フレーバー化合物も形成する。同時に、発酵に使用される酵母は、多くの別の化学変換をもたらす。外観および味を最適化するために、発酵後にビールを濾過および/または貯蔵することができる。
【0006】
ビールの重要な側面は、ビールのヘッドである。ヘッドは、ビールの上にある泡沫層である。この泡沫は、発酵および/または発酵後の添加によってビール中に存在するが、ビール容器(例えば、缶または瓶)中の高圧の結果としてビールに本質的に溶解している二酸化炭素に由来する。ビールを容器から例えばグラスに放出することにより、二酸化炭素気泡の形成が起こり、その気泡がビール液体を通ってグラスの上部に上昇して、泡沫を形成する。
【0007】
ビールの泡沫の顕著な特徴は、その安定性である。他の起泡性酵母発酵飲料(例えば、シャンパン)とは対照的に、ビールの泡沫は安定している。これは、(とりわけ)ビール中のタンパク質および異性化されたホップ酸によって引き起こされ、それらは、二酸化炭素気泡が形成するときおよびビールを通って上昇するとき、気泡と液体の界面の位置につく。液体の上部に到達すると、これらの成分がビールの泡沫気泡を安定化する。その結果、泡沫層は、長期間無変化のままである。無変化で安定な泡沫層は、楽しめるビールの重要な側面とみなされる。
【0008】
しかし、泡沫安定化は、期間が限定されている。注いだ後、数分のうちに、泡沫層はより薄くなり、最終的に泡沫は全く残らない。このプロセスが、消費者がビールを消費しようとするより速く発生するということが起こりうる。これは、ビールが、消え行く泡沫層のために経時的に楽しめるものでなくなるということを意味する。ゆっくりと飲む人にとっては、ビールを飲み終える前であるのに泡沫が消失してしまう可能性がある。
【0009】
本発明は、改善された泡沫安定性を有するビール、およびビールの泡沫安定性を改善する方法を提供する。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、AcHFA量が低減されたビールを対象にする。AcHFA量が低減されたビールは、改善された泡沫安定性を有することが見出された。本発明は、AcHFA量が低減されたビール、および発酵中もしくは後にAcHFAをビールから除去するまたはAcHFAの前駆体を麦汁から除去する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】メチルセルロースエステル吸着剤を用いた吸着プロセスの前後の泡沫安定性の比較を示す図である。
図2a】ホップを加えたビールの泡沫安定性に対するAcHFA添加の効果を示す図である。
図2b】ホップを加えていないビールの泡沫安定性に対するAcHFA添加の効果を示す図である。
図3a】ホップを加えたビールからのAcHFA除去の効果を示す図である。
図3b】ホップを加えていないビールからのAcHFA除去の効果を示す図である。
図4】様々な吸着剤によるビールからのAcHFA除去を示す図である。
図5】AcHFAをビールから除去する際の2種の吸着剤の活性を示す図である。
図6】工業規模のビール醸造プロセスにおける吸着フィルターの設置を示す図である。
図7a】酵母におけるATF-1変異を示す図である。
図7b】ATF-1欠損酵母(株a)、ATF-2欠損酵母(株b)、およびATF-1とATF-2が両方欠損している酵母(株c)と改変されていない酵母(WT)を比べたエタノール産生を示す図である。
図8a】AcHFAをビールから除去する工場に適切な規模の例示的な構成を示す図である。
図8b】AcHFAをビールから除去する工場に適切な規模の例示的な構成を示す図である。
図9】工場に適切な規模を使用して生成されたビールにおける泡沫安定性の増大を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、2mg/l未満のAcHFAを含むビールであって、AcHFAが、カルボン酸基およびC11~C21直鎖状アルキル基を含むC12~C22脂肪酸であり、前記アルキル基が、部分不飽和であってもよく、かつ少なくとも1つのヒドロキシ基および少なくとも1つのアセテート基で置換されている、ビールを提供する。好ましくは、ビールは、1.5mg/l未満、好ましくは1.0mg/l未満、より好ましくは0.5mg/l未満、さらにより好ましくは0.25mg/l未満、さらにより好ましくは0.1mg/l未満のAcHFAを含む。したがって、本発明は、9mg/l未満、8mg/l未満、7mg/l未満、6mg/l未満、5mg/l未満、4mg/l未満、または3mg/l未満など、確実に10mg/l未満のAcHFAを含むビールに関する。
【0013】
現在、AcHFAは、酵母による麦汁の通常の発酵時にアセチルトランスフェラーゼ酵素(ATF)の作用によって形成することが見出されている。AcHFAは、発酵により得られたビール中に、少なくとも2mg/l、時には少なくとも3mg/l、またはさらに少なくとも4mg/l、または少なくとも5mg/l、または少なくとも6mg/l、または少なくとも7mg/l、または少なくとも8mg/l、または少なくとも9mg/l、または少なくとも10mg/lのレベルで通常存在することが見出されている。したがって、AcHFAは、発酵により得られたビール中に、1mg/lより高い、確実に0.5mg/lより高い、最も確実に0.25mg/lより高い量で存在することができる。本発明者らは、AcHFAが泡沫に対する負の因子であり、泡沫安定性にマイナスの効果を及ぼすもつのであることを見出した。発酵プロセスを最終ビール中のAcHFAの量が低下するように改変することによって、泡沫安定性を少なくとも10%、最大40%、増大させることができる。
【0014】
AcHFA(「アセチル化ヒドロキシ脂肪酸」)は、カルボン酸基およびC11~C21直鎖状アルキル基を含むC12~C22脂肪酸であり、前記アルキル基は、部分不飽和であってもよく、かつ少なくとも1つのヒドロキシ基および少なくとも1つのアセテート基で置換されている。アセテート基(HCCO-)は、(当技術分野においてよく見られるように)-OAcと略される。
【0015】
AcHFAは、構造1と定義することができる
【化1】

[構造1において、n=4~9の整数であり、
【化2】

、A、B、Cおよび/またはDはそれぞれ同じでも異なってもよく、
a)
【化3】

は単結合であり、その場合、
AおよびBの一方はH、OHまたはOAcであり、AおよびBの他方はHであり、
CおよびDの一方はH、OHまたはOAcであり、CおよびDの他方はHであるか;あるいは
b)
【化4】

は二重結合であり、その場合、
AおよびBの一方はHであり、AおよびBの他方は存在せず(これは、AおよびBの他方は存在しないものであることを意味する)、CおよびDの一方はHであり、CおよびDの他方は存在せず(これは、AおよびBの他方は存在しないものであることを意味する);
ただし、構造1において、すべてのA、B、C、Dのうちの少なくとも1つはOHであり、すべてのA、B、C、Dのうちの少なくとも1つはOAcであることを条件とする]。
【0016】
一般に知られているように、二重結合は、シスまたはトランス立体配置をとることができるが、立体配置はシスであることが好ましい。さらに、有機酸によく見られるように、酸基は、中性の形態(-COHとして表される)をとることができるが、イオンの形態(-CO )、または塩の形態((-COM、ここで、Mは、いずれかの金属イオン、好ましくは例えばNa、K、Ca、Mg、Fe、Cu、ZnまたはMnのイオンなどビールにおいて有効な金属イオンであってもよく、Mが1価(NaまたはK)である場合x=1であり、より高次の原子価イオンの場合xは1、2または3であってもよい)もとり得る。OHまたはOAcを有する炭素原子は独立して、RまたはS立体配置を有することができるが、好ましくは、OHおよびOAc基を有する隣接する炭素原子は、両方ともR立体配置を有し、または両方ともS立体配置を有する(RRおよびSS)。あるいは、OHおよびOAc基を有する隣接する炭素原子の一方の炭素原子は、S立体配置を有し、隣接する2個の炭素原子の他方の炭素は、R立体配置を有する(RSまたはSR)。
【0017】
好ましくは、AcHFAは、場合によって複数のヒドロキシおよび/またはアセテート基のうち、隣接する炭素原子上に位置する1つのヒドロキシ基および1つのアセテート基を含む。さらに好ましくは、AcHFAは、C16~C20脂肪酸(構造1中、n=6~8)、最も好ましくはC18脂肪酸(構造1中、n=7)である。AcHFAが1または2つの二重結合、好ましくは1つの二重結合を含む場合、はるかに好ましい。二重結合は、好ましくはカルボン酸基から数えて6番目、9番目、12番目または15番目の炭素原子上に位置する。最も好ましくは、二重結合は、9番目の炭素原子上に位置する。
【0018】
はるかに好ましい実施形態において、AcHFAは、構造2によって表される
【化5】

[構造2中、
n=1、2、または3、好ましくは2または3、最も好ましくは3であり、
m=1または2、好ましくは2であり、
AおよびBの一方はOHであり、AおよびBの他方はOAcである]。
【0019】
構造2についても、二重結合は、シスまたはトランス立体配置(炭素-炭素二重結合から伸びる炭素-炭素単結合の向きはいかなる方向であってもよいことを示すライン形式
【化6】

によって示される)をとることができるが、立体配置はシスであることが好ましい。構造2中の酸基は、描かれたように中性の形態をとることができるが、以上に定義したようにイオンの形態または塩の形態もとることができる。
【0020】
はるかに好ましい実施形態において、AcHFAは、構造3によって表される
【化7】

[構造3中、AおよびBの一方はOHであり、AおよびBの他方はOAcである]。これらの実施形態において、AcHFAは、(シスまたはトランス;RR、SS、RSまたはSR)12-アセトキシ-13-ヒドロキシオクタデカ-9-エン酸(3a)、または(シスまたはトランス;RR、SS、RSまたはSR)13-アセトキシ-12-ヒドロキシオクタデカ-9-エン酸(3b)である。
【化8】

【化9】
【0021】
AcHFAは、酵母酵素のアセチルトランスフェラーゼ(ATF)による発酵時に形成されるので、ビール中で自然発生することが見出された。
【0022】
AcHFA前駆体は、例えば以上に定義した構造1~3などのジヒドロキシ脂肪酸であり、AcHFA中のOAc-基が存在する各位置にOH-基を有する。酵母ATF酵素は、(少なくとも)1つのOH-基をアセチル化して、AcHFA前駆体をAcHFAに変換する。
【0023】
さらに、同様のレギュラービールに比べてAcHFA含有量が低減されたビールは、改善された起泡性を有することが見出された。特に、AcHFA量の低減により、ビールの泡沫安定性が増大する。
【0024】
本明細書において、ビールの泡沫安定性は、NIBEM Instituteによって定められた基準に基づいて測定され、秒([s])単位で表される。したがって、ビールの泡沫安定性は、泡沫層が基準検査条件下で安定な時間を秒単位で表示する。
【0025】
NIBEM方法は一般に知られており、分析9.42.1のEBC方法として見つけることができる。検査は、20℃、大気圧下で行われる。泡沫安定性は、(泡沫が注がれる期間を含めて)基準条件下において泡沫を調製したときから泡沫層の高さが3cm減少するまでの経過時間として測定される。
【0026】
ビールは、いかなるタイプのビールを指してもよく、エール、ポーター、スタウト、ラガーおよびボックビールが挙げられるが、これらに限定されない。ビールは、好ましくはモルトベースのビールであり、すなわち、モルトから調製された麦汁の発酵により調製されるビールである。好ましくは、ビールはラガービールであり、これは下面発酵酵母を使用して7~15℃で発酵させ、その後低温で貯蔵による熟成を行うことによって得られるビールである。ラガービールとしては、例えばピルスナーが挙げられる。最も好ましくは、本明細書に記載されるビールはピルスナーである。ピルスナーは、ペールラガービールである。
【0027】
本明細書において、ビールは広義の意味で理解されるものとし、レギュラー(アルコール含有)ビールも低またはゼロアルコール(「NA」)ビールも含む。したがって、本明細書におけるビールは、好ましくはエタノール含有量が0~15体積%(「ABV」)、好ましくは1~15体積%であるビールである。ビールは、ホップを強化してもよく(「ホップを加えたビール」)、またはホップを加えていない可能性がある(「ホップを加えていないビール」)。ホップを加えたビールとしては、ρ-ホップなどの改変ホップを使用して調製されたビールが挙げられる。
【0028】
好ましい一実施形態において、ビールはレギュラービールである。この文脈では、「レギュラービール」は、1体積%より高いエタノールを生じる発酵プロセスを使用して得られる通常の醸造ビールである。したがって、本明細書に定義されるレギュラービールは、エタノール含有量が1体積%より高く、好ましくは15体積%未満である。レギュラービールのエタノール含有量は、好ましくは2~15体積%、より好ましくは2.5~12体積%、より好ましくは3.5~9体積%である。レギュラービールは、好ましくは上記のラガービールであり、最も好ましくはピルスナーである。当業者は、レギュラービール、そのうちレギュラーラガービールおよびピルスナーを例えばThe Brewers Handbook (第2版) of Ted Goldammer(2008、Apex publishers社)に記載されている方法または本明細書に開示されている方法によって得ることができる。あるいは、レギュラービールを商業的に得ることができる。
【0029】
別の好ましい実施形態において、ビールは、ゼロまたは低アルコールビール(「NAビール」)である。本文において、「ゼロまたは低アルコールビール」は、エタノール含有量が1.0体積%(「ABV」)以下、好ましくは0.5体積%以下、より好ましくは0.2体積%以下であるビールである。したがって、NAビールは、エタノール含有量が0~1.0体積%、好ましくは0~0.5体積%などであるビールである。
【0030】
NAビールは、例えばレギュラービールの脱アルコール(「脱アルコールビール」)、または麦汁の制限エタノール発酵(「制限発酵ビール」)によって得ることができる。
【0031】
本明細書に定義されるNAビールを得る一つの方法は、通常の醸造ビールを例えば精留ステップ、逆浸透ステップ、透析ステップまたは凍結濃縮ステップなどの脱アルコールステップにかけて、エタノールを発酵ビールから除去することである。これらの技法は、例えばBranyikら、J. Food. Eng. 108 (2012) 493-506、またはMangindaanら、Trends in Food Science&Technology 71 (2018) 36-45に記載されている。
【0032】
NAビールを得る別の方法は、ビールを制限発酵プロセスによって作製し、制限発酵ビールを得ることである。制限発酵ビールは、本明細書に定義されるNAビールの別のタイプである。
【0033】
制限発酵ビールは、麦汁の制限エタノール発酵によって得られた発酵ビールと定義される。麦汁の制限エタノール発酵は、正味のエタノール形成がそれほどされない発酵であり、すなわち、本明細書に定義される制限発酵は、1体積%以下、好ましくは0.5体積%以下、より好ましくは0.2体積%以下のエタノールを生じる。したがって、制限発酵ビールは、エタノール含有量が1.0体積%以下、好ましくは0.5体積%以下、より好ましくは0.2体積%以下である。
【0034】
麦汁の制限発酵は、発酵から直接に得られた産物のエタノール含有量が1.0体積%以下、好ましくは0.5体積%以下、より好ましくは0.2体積%以下であるプロセスである。当業者は、正味のエタノール形成が著しくない様々な制限発酵技法を認識している。例としては、下記を特徴とする麦汁の制限エタノール発酵である。
・7℃未満、好ましくは-1~4℃、例えば-0.5~2.5℃の温度で、好ましくは8~72時間、より好ましくは12~48時間(「低温接触発酵ビール」);および/または
・短い(例えば、2時間未満)発酵時間、その発酵が温度不活性化、例えば-0.5~1℃への急速冷却、場合によってその後引き続いて殺菌によって急速に止まる(「停止発酵ビール」);および/または
・適用された発酵条件下で低量のエタノールを産生する酵母株、例えば麦汁において発酵性糖1グラム当たりエタノール0.2g未満、好ましくは発酵性糖1グラム当たりエタノール0.1g未満を産生する酵母株、による発酵。好適な株(例えば、クラブトリー陰性株)は、当技術分野において既知であり、変動する発酵条件下で産生されるエタノールの量は、ルーチンの実験により決定することができる(「酵母制限ビール」);および/または
・第1のエタノール産生酵母株を使用し、Saccharomyces rouxiiなどエタノールを消費する第2の酵母株が、第1の酵母株によって産生されるエタノールの実質的にすべてを消費するのに十分な量で存在する下での発酵;および/または
・発酵性糖の含有量がその発酵完了後に最大1.0体積%のアルコールを産生するような麦汁。この場合、麦汁は、一般に発酵性糖の含有量が17.5g/l未満、好ましくは12g/l未満、より好ましくは8g/l未満である(「糖不足麦汁ビール」)。
【0035】
制限発酵ビールは、1.0体積%以下、好ましくは0.5体積%以下、より好ましくは0.2体積%以下の前記エタノール含有量を達成するための脱アルコールステップにはかけられていない。当業者は、発酵ビールの脱アルコールに適した様々な技法を知っているが(BranyikらおよびMangindaanらについて、上記を参照のこと)、これらの技法は前記エタノール含有量を達成するために適用されていない。しかし、本明細書において制限発酵ビールに対して任意で脱アルコールステップを行い、発酵から得られるエタノール含有量を前記1.0体積%以下、好ましくは0.5体積%以下、より好ましくは0.2体積%以下からさらに低減されたエタノール含有量に低減することができる。しかし、好ましくは本明細書に定義される制限発酵ビールに対しては脱アルコールステップを全く行わない。
【0036】
本明細書における制限発酵ビールは、好ましくは糖不足麦汁ビール、酵母制限ビール、停止発酵ビール、または低温接触発酵ビールである。本明細書において制限発酵ビールは、好ましくは低温接触発酵ビールである。
【0037】
はるかに好ましい実施形態において、本明細書におけるビールは、レギュラービール、制限発酵ビール、またはこれら2つのタイプのビールの混合物、好ましくはレギュラービール、低温接触発酵ビール、またはこれら2つのタイプのビールの混合物である。最も好ましくは、本明細書におけるビールは、以上に定義したエタノール含有量が1~15体積%であるレギュラービールである。
【0038】
泡沫安定性の向上による最適な効果を得るために、本発明のビールは、好ましくは糖含有量が低い。本発明のビールのグルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、およびマルトトリオースの合計と定義される全糖含有量は、好ましくは0.05~5g/100ml、より好ましくは0.1~1g/100ml、さらにより好ましくは0.15~0.5g/100mlである。これは、全糖含有量が比較的低いビールにおいて、低減されたAcHFA量の泡沫安定化効果は強化されることが見出されたからである。
【0039】
同様の理由で、本発明のビールは、好ましくは比較的高レベルの遊離アミノ窒素(FAN)を有する。FANは、泡沫安定性に寄与し、したがって本発明のビールは、好ましくはFAN含有量が50~160mg/l、好ましくは90~140、より好ましくは110~135mg/lである。
【0040】
イソアルファ酸も、ビールの泡沫安定性にプラスの効果を及ぼす。したがって、本発明のビールは、好ましくは合計2~55mg/l、好ましくは5~45mg/l、より好ましくは10~30mg/l、より好ましくは13~25mg/lのイソアルファ酸を有する。本明細書においてイソアルファ酸は、雌性ホップ毬花で生成されるルプリンの軟性樹脂画分と定義される。アルファ酸としては、例えばフムロン、コフムロン、およびアドフムロンが挙げられる。
【0041】
本明細書に定義されるAcHFA量が低減されたビールを得るために、発酵中または後にビールからAcHFAを除去、発酵のためのATF欠損酵母を使用することによりAcHFA形成を回避、および発酵対象の混合物からのAcHFA前駆体を除去、の3つの選択肢が開示される。したがって、本発明は、ビールの泡沫安定性を増大させる方法であって、麦汁を発酵させて前記ビールを得るステップを含み、
a)アセチルトランスフェラーゼ(ATF)欠損酵母を使用して、発酵を達成し、および/または
b)発酵中もしくは後に、ビールを、AcHFAを吸着可能な吸着剤と接触させ、および/または
c)麦汁に対し、AcHFA前駆体を吸着可能な吸着剤によってAcHFA前駆体を除去するステップが行われた、
方法を開示する。
【0042】
ATF欠損酵母
好ましい一実施形態において、発酵は、アセチルトランスフェラーゼ(ATF)欠損酵母(ATFのいかなるオルソログも含めて)を使用して達成され、その酵母は好ましくはS. cerevisiaeである。そのような酵母は、酵母(好ましくは、S. cerevisiae)の遺伝子改変、例えばATFコード遺伝子の置換または破壊(ノックアウト)、によって得ることができる。本明細書においてATF欠損酵母は、ATF遺伝子の複数のコピーが存在する酵母タイプにおいて、好ましくはそのATF遺伝子のすべてのコピーがノックアウトされていることを意味する。
【0043】
アセチルトランスフェラーゼ活性に関連する遺伝子が、(S. Cerevisaeにおいて)ATF-1およびATF-2の2種存在する。ATF-1遺伝子は、遺伝子識別番号854559(NCBIデータベース)を有し、ATF-2遺伝子は、遺伝子識別番号853088(NCBIデータベース)を有する。発酵に適した他の酵母タイプにおいて、共通一般知識を使用して、オルソログATF遺伝子の位置を特定することができる。上述したように、ATF-1欠損酵母において、好ましくはATF-1遺伝子のすべてのコピーがノックアウトされている。ATF-2欠損酵母において、好ましくはATF-2遺伝子のすべてのコピーがノックアウトされている。
【0044】
一実施形態において、ATF欠損酵母は、ATF-1欠損酵母である。ATF-1欠損によって、AcHFA形成の低減が約50~90%、好ましくは約65~85%になる。別の実施形態において、ATF欠損酵母は、ATF-2欠損酵母である。ATF-2欠損によって、AcHFA形成の低減が約1~40%、好ましくは約10~30%になる。好ましい実施形態において、ATF欠損酵母は、少なくともATF-1が欠損しており、好ましくはATF-2も欠損している。はるかに好ましい実施形態において、ATF欠損酵母は、ATF-1とATF-2の両方が欠損した酵母である。ATF-1とATF-2の両方が欠損している酵母の使用によって、発酵時におけるAcHFAの形成が完全に防止される。
【0045】
ATF欠損酵母は、変異生成、好ましくはランダム変異生成、または遺伝子工学など一般に知られている方法によって得ることができる。
【0046】
本明細書で用いられている「変異生成」は、少なくとも1つの変異が少なくとも1つの酵母細胞またはその芽胞のDNAにおいて生じ、したがって酵母細胞または芽胞の遺伝子情報が変更されるプロセスを指す。したがって、変異生成によって、上記のATF欠損酵母を生じることができる。
【0047】
本明細書で用いられているように、「変異」という用語は、酵母細胞または芽胞のDNAのいかなる変化も指し、変異としては、点変異、1つまたは複数のヌクレオチドの挿入または欠失、1つまたは複数のヌクレオチドの置換、フレームシフト変異、ならびに染色体切断またはサブテロメア切断などの一本鎖または二本鎖DNA切断、およびそのいずれかの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、変異は、上記のATF欠損酵母を生じるようにATF遺伝子中に位置する。
【0048】
変異生成は、当技術分野において公知のいかなる方法を使用しても行うことができ、これは放射線および化学処理など従来のランダム変異生成方法、ならびに部位特異的変異生成または標的変異生成などの組換えDNA技術を含む。したがって、一実施形態において、少なくとも酵母の第1の種の少なくとも1つの酵母細胞または芽胞は、UV照射、X線照射、γ線照射または変異原性物質での処理、あるいは遺伝子工学にかけられる。
【0049】
「遺伝子工学」は、当技術分野において周知であり、バイオテクノロジーを使用し、それによって酵母細胞または芽胞のDNAの変化を導入して、酵母細胞または芽胞のゲノムを変化させることを指す。
【0050】
「ランダム変異生成」は、変異の正確な部位が予想可能でない変異生成技法を指し、酵母細胞または芽胞の染色体においてどこでも起こりうる。一般に、これらの方法は、少なくとも1つの変異を誘導するための化学物質または放射線の使用を伴う。ランダム変異生成は、DNAポリメラーゼの複写精度が低く、PCR産物における変異率が比較的高くなる条件下でPCRが行われるエラープローンPCRを使用してさらに達成することができる。部位特異的変異生成は、オリゴヌクレオチド指定変異生成を使用し、興味の対象となるDNA配列において部位特異的変異を生じて達成することができる。標的変異生成は、TALEN、CRISPR-Cas、ジンクフィンガーヌクレアーゼまたはメガヌクレアーゼ技術などのプログラム制御可能なRNAでガイドされたヌクレアーゼによって、特異的または標的遺伝子をインビボで変化させ、特異的部位に向けられた遺伝的構造の変化を生じる変異生成方法を指す。
【0051】
好ましい実施形態において、本発明の方法において変異生成は、少なくとも1つの酵母細胞または芽胞を、UV照射、X線照射、γ線照射などの放射線、または変異原性物質、好ましくはNTG(N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン)もしくはEMS(エチルメタンスルホネート)などの化学物質での処理にかけることによって行われる。
【0052】
AcHFAまたはAcHFA前駆体の吸着
さらに好ましい実施形態において、発酵ビールを、AcHFAを吸着可能な吸着剤と接触させる。さらに、麦汁を、AcHFA前駆体を吸着可能な吸着剤と接触させることによって、発酵より前に、麦汁からAcHFA前駆体を除去することができる。
【0053】
麦汁からのAcHFA前駆体の除去、および発酵中または後におけるビールからのAcHFAの除去には、同じ吸着剤を使用できることが見出された。すなわち、AcHFA前駆体およびAcHFA自体が実質的に同じ吸着剤に吸着する。好適な吸着剤としては、活性炭、疎水性吸着剤、親水性吸着剤、およびゼオライトが挙げられる。好ましくは、発酵中または後(好ましくは発酵後)にこれらの吸着剤を適用して、AcHFAをビールから吸着する。
【0054】
ホップを加えていないビールの泡沫安定性を改善するために、ビールを、AcHFA(またはその前駆体)を吸着するのに適したいかなる吸着剤と接触させてもよい。したがって、好ましい実施形態において、ビールはホップを加えていない。場合によって、ビールに、後にホップを加えて、さらなる泡沫安定性の向上およびさらなる(フレーバー)利点を達成してもよい。ホップを加えたビールは、ビールの泡沫にさらなる安定化効果を及ぼすイソアルファ酸を含む。
【0055】
ホップを加えたビールの泡沫安定性を改善するために、ビールを、好ましくはイソアルファ酸を実質的には吸着しない吸着剤と接触させる。イソアルファ酸は、ホップから麦汁煮沸によって得られ、泡沫安定化効果を及ぼすことが知られている。当業者は、吸着剤が泡沫安定性に最終的な改善効果を及ぼす限り、ホップを加えたビールにもいずれの吸着剤を使用できるということを認識している。これは、ホップの使用量および/または発酵時におけるAcHFAの形成量に依存する可能性がある。好ましい実施形態において、ホップを加えたビールに、AcHFA除去ステップが完了した後、さらにホップを加えることができる。
【0056】
活性炭は、当技術分野で周知であり、吸着剤として使用して、AcHFAを除去し、本発明によるAcHFAが低減されたビールを得ることができる。しかし、活性炭の欠点は、AcHFA除去にあまり効率的でないことである。さらに、活性炭は、イソアルファ酸を著しく吸着し、これは、ホップを加えたビールの処理における欠点である。さらなる欠点は、活性炭によって、ビールが脱色され、色が薄すぎて消費者に魅力的でない飲料が得られることである。
【0057】
疎水性吸着剤としては、疎水性ポリマー吸着剤、好ましくは芳香族および/またはアシル基を含むポリマー吸着剤が挙げられる。当業者は、共通一般知識および本明細書に記載されている方法に基づいて、どの吸着剤がAcHFA(またはその前駆体)をビール(または麦汁)から低減するのに適しているかを容易に決定することができる。疎水性ポリマー吸着剤の利点は、AcHFA(またはAcHFA前駆体)の除去に非常に効率的であることである。さらに、ビールの色が保持され、これらの吸着剤は、比較的わずかしか、またはさらには全くイソアルファ酸を吸着しない。したがって、特にポリスチレン/ジビニルベンゼン(PS/DVB)、例えばPLRP-S(Agilent社によって販売されている)などの疎水性ポリマー吸着剤が好ましい。
【0058】
親水性吸着剤は、好ましくは親水性ポリマー吸着剤である。はるかに好ましい親水性吸着剤は、混合セルロースエステル吸着剤、例えばMCE(MF-Millipore(商標)メンブレンフィルター、Merck社)である。これは、試験された吸着剤のうち最も効率的な吸着剤であり、ビールの色を無変化のままにし、イソアルファ酸を吸着しない。さらに、この吸着剤は再生することができ、特にビール工業生産で、生産コストの低下および廃棄物の減少につながる。
【0059】
さらに好ましい吸着剤は、例えば好ましくはSupelclean LC C18、Supelclean LC C8、Supelclean LC Ph、Supelclean LC CN、またはSupelclean LC SCX、より好ましくはSupelclean LC C18、Supelclean LC C8、またはSupelclean LC Ph、最も好ましくはSupelclean LC C18、Supelclean LC C8などのSupelclean(商標)吸着剤である。これらの吸着剤は、MCEおよびPLRP-Sについて上述したことと同じ理由で好ましい。
【0060】
本明細書においてゼオライトは、好ましくは疎水性ゼオライトである。これは、SiOおよびAlを少なくとも15のモル比(SiO:Al)で含有するシリケートベースのモレキュラーシーブである。本明細書で用いられている「モレキュラーシーブ」という用語は、直径2nm以下の細孔を有する微細孔性材料を指す。「シリケートベース」という用語は、材料が少なくとも67重量%のシリケートを含有することを意味する。したがって、「ゼオライト」は、微細孔性アルミノシリケートである。本明細書においてゼオライト吸着剤は、天然ゼオライトまたは合成ゼオライトとすることができる。
【0061】
SiOを含有するが、Alを含有しない疎水性シリケートベースのモレキュラーシーブが、モレキュラーシーブはSiOおよびAlを少なくとも15のモル比で含有するという条件を満たす(その場合、ゼオライトは、微細孔性アルミノシリケートではなく、微細孔性シリケートである)ことは理解されるべきである。
【0062】
好ましい実施形態によれば、吸着剤は疎水性ゼオライトである。本プロセスにおいて採用される疎水性ゼオライトは、好ましくはSiO/Alのモル比が少なくとも40、より好ましくは少なくとも100、さらにより好ましくは少なくとも200、最も好ましくは少なくとも250である。
【0063】
疎水性ゼオライトの平均細孔直径は、好ましくは0.2~1.2ナノメートル、より好ましくは0.3~1.0ナノメートル、さらにより好ましくは0.4~0.8ナノメートル、最も好ましくは0.45~0.70ナノメートルの範囲である。疎水性ゼオライトの細孔直径は、77Kにおける窒素吸着等温線をt-プロット-De Boer法で分析することによって決定することができる。
【0064】
疎水性ゼオライトの表面積は、好ましくは少なくとも100m/g、より好ましくは150~2000m/g、最も好ましくは200~1000m/gである。疎水性モレキュラーシーブの表面積は、BET法により決定することができる。
【0065】
疎水性ゼオライトは、質量重みつき平均粒径が好ましくは1~2000マイクロメートルの範囲、より好ましくは10~800マイクロメートルの範囲、最も好ましくは100~300マイクロメートルの範囲である。疎水性モレキュラーシーブ粒子の粒径分布は、異なるメッシュサイズの一組のシーブを使用して決定することができる。
【0066】
疎水性ゼオライトは、好ましくはZMS-5ゼオライト、Y型ゼオライト、ゼオライトβ、シリカライト、オールシリカフェリエライト、モルデン沸石およびそれらの組合せから選択される。より好ましくは、疎水性ゼオライトは、ZMS-5ゼオライト、Y型ゼオライト、ゼオライトβおよびそれらの組合せから選択される。最も好ましくは、疎水性ゼオライトは、ZMS-5ゼオライトである。
【0067】
本明細書に開示されている使用のための吸着剤を、当技術分野において既知であるように適用することができる。
【0068】
発酵時におけるAcHFAの除去には、発酵混合物を吸着剤と接触させることができるが、例えば混合物を吸着剤充填カラムに通すことによって、または吸着剤を粒子材料として発酵混合物に添加し、続いて吸着剤を濾過、サイクロニングもしくは別の好適な技法により除去することによって行うことができる。
【0069】
発酵後におけるAcHFAの除去には、発酵から得られたビールを吸着剤と接触させることができるが、例えばビールを吸着剤充填カラムに通すことによって、または吸着剤を粒子材料としてビールに添加し、続いて吸着剤を濾過、サイクロニングもしくは別の好適な技法により除去することによって行うことができる。好ましい実施形態において、発酵から得られたビールをホールドアップタンクに導入し、そこでAcHFAを吸着するために吸着剤と例えば20分~24時間、好ましくは0.5~5時間接触させる。続いて、AcHFAを、濾過により除去することができる。あるいは、ビールを吸着剤担持フィルターで連続濾過してもよい。
【0070】
AcHFA前駆体の除去には、発酵より前に麦汁を吸着剤と接触させることができるが、例えば麦汁を吸着剤充填カラムに通すことによって、または吸着剤を粒子材料として麦汁に添加し、続いて吸着剤を濾過、サイクロニングもしくは別の好適な技法により除去することによって行うことができる。好ましくは、麦汁は、ピッチングより前にスウィート麦汁として接触させる。
【0071】
当業者は、望ましくない成分を液体混合物から吸着により吸着する無数の技法を知っており、本明細書に定義するAcHFA量が低減されたビールを得るためにいかなる技法を適用してもよい。好適な技法は、例えばC. Judson King、Separation Processes(第2版)、McGraw-Hill, Inc.社、1980に記載されている。
【0072】
麦汁、発酵混合物またはビールを吸着剤と、AcHFAまたはその前駆体を吸着するのに十分な時間接触させる。これは、共通一般知識および本明細書に開示されている方法に基づいて当業者が容易に決定することができる。好ましくは、接触時間は、5分~48時間、より好ましくは0.5~24時間、より好ましくは1~20時間である。
【0073】
使用される吸着剤の量も、共通一般知識および本明細書に開示されている方法に基づいて当業者が容易に決定することができる。好ましくは、吸着剤は、0.001~10g/l、より好ましくは0.01~5g/l、より好ましくは0.05~2.5g/lの投入量で使用される。
【0074】
ビールのタイプおよび性質、吸着剤のタイプおよび量、ならびに接触時間に応じて、AcHFA量を、当業者が容易に確認することができるように実質的に低減することができる。AcHFA量を、少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%低減することができる。一部の実施形態において、AcHFA量を90%まで、または95%以上までも低減することができる。AcHFAがビールから吸着により除去される好ましい実施形態において、AcHFA量は、初期量の60%未満、より好ましくは初期量の20%未満、最も好ましくは初期量の5%未満に低減される。
【0075】
AcHFA低減の効果は、泡沫安定性が少なくとも10秒、好ましくは少なくとも15秒、より好ましくは少なくとも20秒増大されることである。泡沫安定性は、40秒まで、または50秒以上までも増大することができる。
【0076】
はるかに好ましい実施形態において、本発明は、ビールの泡沫安定性を増大させる方法であって、発酵により得られたビールを、AcHFAを吸着可能な吸着剤と接触させるステップを含む方法に関する。吸着剤およびビールを吸着剤と接触させる方式は、以上に定義した通りである。これによって、上記の泡沫安定性が増大したビールになる。
【0077】
明確性および簡潔な説明のために、本明細書においては同じまたは別個の実施形態の一部として構成を記載しているが、本発明の範囲は、記載されている構成のすべてまたは一部の組合せを有する実施形態を含むことができると認識されている。
【0078】
次に、本発明を以下に示す非限定的な実施例によってさらに説明する。
【0079】
方法
AcHFA分析
ビール中のAcHFA含有量は、LC-MSにより分析することができる。LC-MSシステムは、Waters TQ-S質量分析計およびWaters Acquity UPLCシステムからなるものであった。移動相は、
A:ミリQ水+0.1%(v/v)ギ酸
B:アセトニトリル+0.1%(v/v)ギ酸
からなるものであった。
【0080】
分析カラムは、15cm×2.1mm ID UPLC BEH C18(1.7μm)カラムであった。AcHFAを、次のグラジエントで他のマトリックス構成要素から分離した:
T 0分: 95% A、5% B
T 13分: 70% A、30% B
T 17分: 5% A、95% B
T 25分: 95% A、5% B
【0081】
流速を0.25ml/分に設定し、カラムをサーモスタットで50℃に調節した。UPLCシステムを、負イオンモードで操作したエレクトロスプレーインターフェース(ESI)を介してMSに連結した。次の遷移のMRMデータを記録した:m/z 355>295。コーン電圧を40ボルトに設定した。衝突エネルギーを15eVに設定した。AcHFAを構造3によって表される化合物として検出した。AcHFA量を任意単位(a.u)で表した。それは、クロマトグラムのピーク面に由来して、定量的結果をもたらす。
【0082】
ビール中の糖含有量の決定
糖含有量を超高性能液体クロマトグラフィー(UPLC)で測定した。UPLCは、65℃の温度で好適に実施することができる。溶離液の好適な選択は、アセトニトリル/水の例えば体積比75/25の混合物である。使用した検出器は、典型的には屈折率(RI)検出器である。試料の糖含有量は、試料のUPLC曲線を既知の糖濃度の標準試料の較正曲線と比較することによって決定した。
【0083】
UPLC用の試料を以下の通り調製した。ビールまたは麦汁の試料を、アセトニトリル/水の混合物(50/50-等体積部)の添加により5倍に希釈した。COが存在する場合、希釈より前に(例えば、試料を振盪または撹拌することによって)除去した。希釈した後、試料を濾過して、清澄な溶液を得た。上述の溶離液を使用して、濾過した試料を65℃でUPLCに注入した。
【0084】
遊離アミノ窒素(FAN)の決定
遊離アミノ窒素(アミノ酸、小ペプチドおよびアンモニアなど)の量を、O-フタルジアルデヒドアッセイによる窒素(NOPA)法に従って測定した。測光分析計(例えば、Gallery(商標) Plus Photometric Analyzer)を使用して、NOPA法を実施した。NOPA法に従って、試験試料をオルト-フタルジアルデヒド(OPA)およびN-アセチルシステイン(NAC)による処理にかける。この処理によって、イソインドールの形成下で試験試料中に存在する第一級アミノ基の誘導体化が行われる。イソインドールの含有量は、続いて測光分析計を使用して340nmの波長で決定される。次いで、遊離アミノ窒素(mg FAN/lで表す)をイソインドール含有量の測定値に基づいて算出することができる。必要なら、ビールまたは麦汁試料を、分析前にまず遠心にかけて、試料を清澄化し、および/または(例えば、試料を撹拌または振盪することによる)CO除去ステップにかける。
【0085】
ビール中のエタノールの決定
測光分析計(例えば、Gallery(商標) Plus Photometric Analyzer)を使用して、エタノール含有量を測定した。試験試料を酵素法にかけ、試料中に存在するエタノールを、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)でアセトアルデヒドに変換する。アセトアルデヒド含有量は、続いて測光分析計を使用して340nmの波長で決定される。エタノール含有量は、アセトアルデヒド含有量に基づいて算出することができる。必要であれば、ビールまたは麦汁試料を、分析前にまず遠心にかけて、試料を清澄化し、および/または(例えば、撹拌または振盪による)CO除去ステップにかける。
【0086】
ビール中のイソアルファ酸の決定
EBC 9.47 2010:HPLCによるビール中のIso-α-acids and reduced iso-α-acids (Rho, Tetra, Hexa)を使用して、イソアルファ酸を定量的に決定した。
【0087】
泡沫安定性の決定
泡沫安定性は、NIBEM Institute, EBC 9.42.1によって設定された基準に従って決定される。
【0088】
脱気および再炭酸化
ビールからのAcHFA吸着を伴う実験はすべて、脱気しておいたレギュラービールで行った。泡沫安定性を測定する前に、ビールを再炭酸化した。
【0089】
脱気したビールを以下の通り得た。
【0090】
約200mlの瓶詰めビール(4℃)を、清浄な500mlの実験室用瓶に慎重に移した(起泡を防止する)。試料が入っている瓶を20℃の水浴に入れ、穏やかに(40rpm)40分間振盪した。
【0091】
次に、振盪強度を120rpmに上げ、振盪を30分間続けて、脱気したビールを得た。脱気処理全体において、瓶のヘッドスペースを窒素ガスで連続的にフラッシュして、ビールの酸化を防止した。
【0092】
再炭酸化を実験室規模で以下の通り達成した。ステンレス鋼Millipore容器(モデルMillipore カタログ番号xx6700p05)を準備して、レギュラービール樽として使用することができた。ビールを添加する前に、樽を清浄し、COでフラッシュして、空気を除去した。約1~2リットルのビール試料を樽に移し、試料を100rpmで30分間振盪しながら、2.5バールのCO圧下に置いた。手順全体を20℃で行った。
【0093】
CO圧を使用して、ビールを、容器の底部から約0.7cmに配置したスピアを使用して分注した。したがって、Nibem泡沫ディスペンサー器具を、瓶詰めビールを使用するときに行われるように同様の(CO加圧)樽に連結することによって、泡沫を調製した。上述のNibem法に従って、泡沫安定性を決定した。
【実施例1】
【0094】
ビールからのAcHFAの除去によって、泡沫安定化がもたらされる
脱気したビールを、室温で0.1g/lの市販のメチルセルロースエステル吸着剤(MCE、MF-Millipore(商標)メンブレンフィルター、Merck社)とともに16時間インキュベートした。続いて、ビールを0.2μmのフィルターで濾過し、再炭酸化した。
【0095】
結果から、AcHFAのMCEへの吸着、続いてビールからのAcHFAの除去によって、泡沫安定性が向上したビールになることが示される。ブランクビールを、吸着ステップを除く同じ手順にかけた。処理した後、処理したビール中のAcHFAを、レギュラービール中の量の6.3%に低減した。ブランクビールは、(NIBEM)泡沫安定性が253秒であったが、MCE処理したビールは泡沫安定性が296秒であった。したがって、AcHFAの90%を超える除去によって、泡沫安定性が17%増大した。
【0096】
AcHFA除去プロセスは、ホップを加えたビールでもホップを加えていないビールでも、AcHFAの効率的な除去をもたらす(データ不図示)ことが示されてきた。さらに、MCEはイソアルファ酸を著しくは吸着せず、ビールの色は減少されないことが見出された。これは、イソアルファ酸の存在がビールの泡沫にさらに安定化する効果を及ぼすので有益である。したがって、MCEは、はるかに好ましい吸着剤である。
【実施例2】
【0097】
AcHFAは泡沫に対する負の因子である
実施例1に記載したように、脱気したレギュラービールを得た。この場合のビールは、ホップを含まないフルモルトビールであった。脱気したビールを、室温で0.2g/lのPLRP-S(Agilent社)とともに16時間インキュベートして、AcHFAの完全除去を行い、AcHFAを含まないホップを加えていないビールを得た。
【0098】
吸着剤を濾過および単離し、アセトニトリルで洗浄して、粗AcHFAを得た。粗AcHFAを逆相HPLCカラム(C18)で水からアセトニトリルへのグラジエントを使用して分画した。得られた画分を、ビールに添加することにより泡沫安定性に及ぼす効果について試験し、泡沫への負の画分を回収し、LC-MSにより分析し、明細書中の定義に従ってNMRによりAcHFAと特徴づけた。したがって、純粋なAcHFAの単離および特徴づけを行った。
【0099】
通常の発酵により得られたAcHFAの量がレギュラーである、脱気したホップを加えたビールおよび脱気したホップを加えていないビールに、純粋なAcHFAの追加量を添加した。実施例1に記載したように穏やかな均質化および再炭酸化を行った後、泡沫安定性を記載したように決定した。AcHFAの添加量を表1に示し、図2aおよび2bに表す。
【0100】
【表1】

【0101】
結果から、レギュラービール中のAcHFA量を増加させることによって、ビールの泡沫安定性が急速に低下することが示される。したがって、AcHFAは、泡沫に対する負の因子であり、AcHFA量が低下したビールは、泡沫安定性を増大させると結論づけられた。
【実施例3】
【0102】
AcHFA量が低減されたビールは、泡沫安定性が上昇する
別の実験において、室温で0.2g/lのPLRP-S(Agilent社)とともに16時間インキュベートして、AcHFAの完全除去を行うことによって、AcHFAを含まないホップを加えたビールおよびAcHFAを含まないホップを含まないビールを得た。ホップを加えたビールにAcHFAを添加する前に、吸着ステップ時におけるイソアルファ酸の損失を、20mg/lのイソアルファ酸(「IAA」、B-ホップ、Hopsteiner社)の添加により補償した。AcHFAビールは両方とも、続いて脱気した。
【0103】
AcHFAを含まないビールに、様々な量のAcHFAを添加した。上記のように穏やかな均質化および再炭酸化を行った後、泡沫安定性を決定した。結果を表2、図3aおよび3bに示す。
【0104】
【表2】

【0105】
結果から、ビール中のAcHFA量をレギュラービール中のレベル未満に低下させることによって、泡沫安定性がAcHFA濃度依存的に増大することが示される。AcHFAを含まないビールは泡沫安定性が最高である。
【実施例4】
【0106】
ビール中のAcHFAの低減
AcHFAが従来の量であるレギュラー(ホップを含まない)ビールを得た。このビールを記載したように脱気し、30mlずつ(10カラム体積)を同じ量の様々なSupelclean(商標)吸着剤(Sigma Aldrich社)と3mlのSPEカラム中で接触させ、続いて再炭酸化を行った。結果を表3および図4に示す。
【0107】
【表3】

【0108】
結果から、様々な疎水性および親水性吸着剤は、ビール中のAcHFA量を低減できることが示される。好ましい吸着剤は、LC C18、LC C8およびLcPhである。好ましい実施形態において、AcHFAは、初期量の60%未満、より好ましくは初期量の20%未満、さらにより好ましくは初期量の5%未満に低減される。
【実施例5】
【0109】
PLRP-Sおよび活性炭を使用した、ビール中のAcHFAの低減
ホップを含まない脱気したビールをPLRP-S(0.1mg/l)および1.0mg/lの活性炭(Aktivkohle, art. 2186 Merck社)と接触させ、続いて再炭酸化を行った。結果を図5に示す。
【0110】
結果から、PLRP-Sは、AcHFAをビールから除去する上でより効率的であることが示される。さらに、活性炭はビールの脱色を行うことが観察された。これは欠点とみなされる。PLRP-Sは、ビールの色を無変化のままにする。さらに、PLRP-Sは、イソアルファ酸を著しくは吸着しない。したがって、PLRP-S(およびMCE、実施例1を参照のこと)は、活性炭より好ましい吸着剤である。
【実施例6】
【0111】
従来のビールに比べてAcHFA量が低下したビールを得るための、スウィート麦汁からのAcHFA前駆体の除去
従来のパイロットプラントビール醸造プロセスにおいて、ラウタータンと銅製麦汁容器の間に設置されたPVPPフィルターを750gのPLRP-Sでコーティングし、15hlのスウィート麦汁を、銅製麦汁容器への流入より前に前記フィルターで処理することによって、スウィート麦汁をPLRP-Sで処理した(図6)。続いて、ビールを従来の方式(ホップ添加、煮沸、ワールプール、発酵、および後処理および瓶詰め)で醸造した。
【0112】
同じプロセス条件を使用するが、スウィート麦汁をPLRP-S担持フィルターで濾過せずに、同じ麦汁から比較のビールを醸造した。
【0113】
AcHFA前駆体(ジヒドロキシ脂肪酸)の量の分析は、ホップを加えた麦汁(ピッチング麦汁)の試料について、AcHFAで記載されたHPLC条件を使用して行った。AcHFA量は、最終ビールについて決定した。結果を表4に示す。
【0114】
【表4】
【0115】
結果から、AcHFA前駆体の吸着による除去により、最終ビール中におけるAcHFAの形成を防止できることが示される。これは、得られるビールの泡沫安定性が増大するという結果を生む。
【0116】
結果から、吸着プロセスを工業上適切な規模で適用できることがさらに示される。
【実施例7】
【0117】
酵母の改変によりAcHFA量が低減されたビールを得ること
この実施例において、ATF1およびATF2の欠損対立遺伝子の異なる組合せを有するS. pastorianus野生型(WT)酵母の欠損ライブラリーを、CRISPR-Cas9技術を使用して構築した。S. pastorianus WTは、S. cerevisiaeとS. eubayanusの両ゲノムに由来するATF1の5つのコピーおよびATF2の4つのコピーを含む。S. pastorianus中で機能的なCRISPR-Cas9システムを用いて、1つの遺伝子のすべてのコピーを1回の形質転換で標的とする。最終的に、9つのATF1/2遺伝子が、異なる4つの染色体からわずか2回の形質転換で欠損した。ATF-1欠損酵母を「a株」と称する。ATF-2欠損酵母を「b株」と称する。ATF-1とATF-2が両方欠損している酵母を「c株」と称する。株を醸造関連条件下で成長させることによって、様々なノックアウトの影響を検討した。株は、15°プラトー麦汁中で標準醸造発酵時に同様の成長速度、糖消費プロファイル、およびエタノール生成を示した。
【0118】
野生型酵母から変異体を得ること
「CRISPR‐Cas9 mediated gene deletions in lager yeast Saccharomyces pastorianus」、Arthur R. Gorter de Vriesら、Microb Cell Fact (2017) 16:222に記載されている方法に従って、変異株を得た。変異の表示を図7aに示す。
【0119】
醸造条件下におけるATF欠損を有するWTの特徴づけ
発酵性能を確認するために、オートクレーブおよび濾過滅菌にかけ、酵母の成長要件を満たすために亜鉛を追加した15°プラトーの麦汁に、株を接種した。1株当たり3本の瓶に約500万細胞の同じ細胞濃度で接種した。HPLCによる分析のために、実験の開始時および発酵の数日後にすべての瓶をサンプリングした。しかし、糖消費ならびにグリセロール、エタノール、およびバイオマスの生成をモニタリングし、WTによる発酵と比較するために、それぞれ3本の瓶のうちの1本の瓶を発酵時にもサンプリングした。発酵後に、各瓶の上澄みを糖、グリセロール、およびエタノールについてHPLCにより分析した。変異株は、発酵において適用されたとき、野生型酵母と実質的に同一の挙動を示すことが観察された。グルコース、マルトース、マルトトリオース、およびフルクトースの時間軸上の糖消費プロファイルは、実質的に同一の消費プロファイルが使用されていることを示す。また、発酵時にモニタリングされたグリセロールおよびエタノールの生成も、実質的に同一であった。また、細胞成長速度も(光学濃度によって測定して)実質的に同一であった。a株、b株およびc株のエタノール生成を示す例示的な図を図7bとして組み入れる。すべての試験パラメータについて、変異株は、実質的に同一の特徴および実質的に同一の時間経過を示した。したがって、最終ビール中のAcHFAの量を低下させるために、変異株を既存の生成プロセスに適用することができる。
【0120】
したがって、WT酵母と同じ条件下で適用することができるATF欠損酵母タイプを得た。ATF-1欠損酵母(a株)、ATF-2欠損酵母(b株)、およびATF-1とATF-2が両方欠損している酵母(c株)を麦汁の標準発酵において使用して、標準ビール醸造プロセスにおけるそれらの活性を評価した。5mio細胞/mlで接種した異なる酵母を、250mlの浸出容器において、150mlのフルモルトのホップを加えた15~16P麦汁中、200rpm、13℃、微好気的条件下で7日間振盪して、発酵させた。得られたビールを、改変されていないWT酵母で得られたビールと比較し。結果を表5に示す。
【0121】
【表5】
【0122】
結果から、ATF-1欠損酵母を使用すると、AcHFAが、野生型酵母を使用して観察されたAcHFA量の15%に低減されることが示される。ATF-2欠損酵母を用いると、AcHFAが、野生型酵母を使用して観察されたAcHFA量の77%に低減される。ATF-1とATF-2(好ましくは、すべてのコピー)が両方欠損している酵母を使用することによって、AcHFA形成を完全に抑制することができる。
【実施例8】
【0123】
AcHFA量が低下したビールを得るための、工業上適切な規模でのレギュラービールからのAcHFAの除去
従来のプロセスおよび従来の酵母を使用して、ビールをパイロットプラントで醸造した。醸造プロセスにより、ラガービールが生じた。イソアルファ酸(「IAA」)が添加されたラガービール(20mg/lのB-ホップ、Hopsteiner社)、およびイソアルファ酸が添加されていないビールを得た。
【0124】
ラガービールを濾過し、PVPPで安定化し、ホールドアップタンク中で0.1g/lのPLRP-S(Agilent社)と1または2時間接触させて貯蔵した。続いて、ビールを濾過して、PLRP-Sおよび吸着したAcHFAを除去した(図8a)。あるいは、発酵から得られたビールを、PLRP-Sでコーティングされたフィルターで濾過して、AcHFAを除去することができた(図8b;得られたビールのデータは示していないが、図8aに表示したプロセスにより得られたビールのデータに匹敵する)。
【0125】
AcHFA量を分析し、前記濾過ステップを行わないビールの量と比較した。さらに、得られたビールの泡沫安定性を比較した。
【0126】
結果から、発酵から得られたビールをPLRP-Sで1または2時間処理することにより、AcHFA量を有意に低減できることが示される。これは、イソアルファ酸が添加されたビールでもイソアルファ酸が添加されていないビールでも、泡沫安定性にプラスの大幅な効果を及ぼした。したがって、PLRP-Sなどの吸着剤を使用して、AcHFAを除去し、ビールの泡沫安定性を増大させることができる。
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図4
図5
図6
図7a
図7b
図8a
図8b
図9