(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-14
(45)【発行日】2025-03-25
(54)【発明の名称】冷間圧延焼鈍鋼板及び製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20250317BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20250317BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20250317BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/38
C21D9/46 G
C21D9/46 J
C22C38/00 301T
(21)【出願番号】P 2022537458
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(86)【国際出願番号】 IB2019061000
(87)【国際公開番号】W WO2021123880
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-08-15
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドリエ,ジョゼ
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-249733(JP,A)
【文献】特開2014-189812(JP,A)
【文献】特開2016-216808(JP,A)
【文献】特開2010-285657(JP,A)
【文献】特開2010-275627(JP,A)
【文献】特開2012-021225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/38
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間圧延焼鈍鋼板であって、重量%で、以下、すなわち、
0.060%≦C≦0.085%
1.8%≦Mn≦2.0%
0.4%≦Cr≦0.6%
0.1%≦Si≦0.5%
0.010%≦Nb≦0.025%
3.42N≦Ti≦0.035%
0≦Mo≦0.030%
0.020%≦Al≦0.060%
0.0012%≦B≦0.0030%
S≦0.005%
P≦0.050%
0.002%≦N≦0.007%
を含む組成であって、前記組成の残余は鉄及び精錬から生じる不可避の不純物である組成を有し、前記冷間圧延焼鈍鋼板は面積分率で以下、すなわち
- 34~80%の間のベイナイト、
- 10~16%の間のマルテンサイト、及び
- 10~50%の間のフェライトからなる微細組織であって、組織全体に対する非再結晶化フェライトの面積分率が30%未満である微細組織からなり、
前記マルテンサイトは自己焼戻しマルテンサイト及びフレッシュマルテンサイトからなり、前記自己焼戻しマルテンサイトの面積分率は、組織全体に対して、4%~10%の間に含まれる、冷間圧延焼鈍鋼板。
【請求項2】
前記組成が、0.0005%≦Ca≦0.005%を含む、請求項1に記載の冷間圧延焼鈍鋼板。
【請求項3】
前記冷間圧延焼鈍鋼板が、780MPa~900MPaの間に含まれる引張強さ、450MPa~550MPaの間に含まれる降伏強度YS、少なくとも15%の全伸びTE、及びISO規格16630:2009に従って測定された少なくとも35%の穴広げ率HERを有する、調質圧延板である、請求項1又は2に記載の冷間圧延焼鈍鋼板。
【請求項4】
前記冷間圧延焼鈍鋼板が、0.7mm~2.3mmの間に含まれる厚さを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の冷間圧延焼鈍鋼板。
【請求項5】
前記冷間圧延焼鈍鋼板が、少なくとも2.0mmの厚さを有する、請求項4に記載の冷間圧延焼鈍鋼板。
【請求項6】
圧延方向に少なくとも500mの長さを有し、前記冷間圧延焼鈍鋼板の最も高い引張強さの領域と最も低い引張強さの領域との間の引張強さの差が、最も高い引張強さ領域の引張強さの最大7%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の冷間圧延焼鈍鋼板。
【請求項7】
前記冷間圧延焼鈍鋼板が、連続的な浸漬被覆により得られる亜鉛又は亜鉛合金の皮膜を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の冷間圧延焼鈍鋼板。
【請求項8】
前記冷間圧延焼鈍鋼板が、真空蒸着によって得られる亜鉛又は亜鉛合金の皮膜を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の冷間圧延焼鈍鋼板。
【請求項9】
以下の連続する工程を含む、冷間圧延焼鈍鋼板を製造するための方法であって、
- 重量パーセントで、以下、すなわち、
0.060%≦C≦0.085%
1.8%≦Mn≦2.0%
0.4%≦Cr≦0.6%
0.1%≦Si≦0.5%
0.010%≦Nb≦0.025%
3.42N≦Ti≦0.035%
0≦Mo≦0.030%
0.020%≦Al≦0.060%
0.0012%≦B≦0.0030%
S≦0.005%
P≦0.050%
0.002%≦N≦0.007%
を含む組成であって、前記組成の残余は鉄及び精錬から生じる不可避の不純物である組成を有する鋼でできた半製品を提供する工程、
- 前記半製品を1200℃以上の温度T
H1まで加熱し、次いで、前記加熱した半製品を、Ar3~T
NRの間に含まれる最終圧延温度T
FRTで熱間圧延し(Ar3は前記鋼の冷却時におけるオーステナイトの変態の開始温度であり、T
NRは前記鋼の非再結晶化温度である)、熱間圧延鋼板を得る工程、
- 前記熱間圧延鋼板を少なくとも10℃/秒の第1の冷却速度で、前記鋼のマルテンサイト終了温度Mfよりも高く、且つ500℃よりも低い巻取り温度T
coilまで冷却し、及び前記熱間圧延鋼板を巻取り温度T
coilで巻取り、ベイナイトからなるか、又はベイナイト並びにマルテンサイト及び/又はパーライトからなり、パーライトの面積分率が15%未満である組織を得る工程、
- 前記熱間圧延鋼板を少なくとも40%の冷間圧延圧下率で冷間圧延して、冷間圧延鋼板を得る工程、
- 前記冷間圧延鋼板を、Ac3-20℃~Ac3+15℃の間に含まれる焼鈍温度T
H2まで再加熱する工程であって、前記焼鈍温度T
H2まで、1℃/秒~50℃/秒の間に含まれる平均加熱温度V
Hで、及び600℃~Ac1の間、1℃/秒~10℃/秒の間に含まれる平均加熱速度V
H’で再加熱し、並びに前記冷間圧延鋼板を前記焼鈍温度T
H2で少なくとも30秒の焼鈍時間t
H2の間保持して、少なくとも50%のオーステナイトを含む組織を得る工程、
- 前記冷間圧延鋼板を10℃/秒~50℃/秒の間に含まれる第2の冷却速度V
C2で440℃~480℃の間に含まれる温度T
Cまで冷却する工程、
- 前記冷間圧延鋼板を440℃~480℃の間に含まれる温度範囲で20秒~500秒の間に含まれる保持時間t
Cの間保持する工程、
- 前記冷間圧延鋼板を少なくとも1℃/秒の第3の冷却速度
V
C3
で周囲温度まで冷却する工程、
前記冷間圧延焼鈍鋼板が、面積分率で以下、すなわち
- 34~80%の間のベイナイト、
- 10~16%の間のマルテンサイト、及び
- 10~50%の間のフェライトからなる微細組織であって、組織全体に対する非再結晶化フェライトの面積分率が30%未満である微細組織からなり、
前記マルテンサイトは自己焼戻しマルテンサイト及びフレッシュマルテンサイトからなり、前記自己焼戻しマルテンサイトの面積分率は、組織全体に対して、4%~10%の間に含まれる、
方法。
【請求項10】
前記組成が、0.0005%≦Ca≦0.005%を含む、請求項9に記載の冷間圧延焼鈍鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記焼鈍時間t
H2が最大で500秒である、請求項9又は10に記載の冷間圧延焼鈍鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記焼鈍温度T
H2がAc3~Ac3+15℃の間に含まれ、前記第2の冷却速度V
C2が10℃/秒~20℃/秒の間に含まれる、請求項9~11のいずれか一項に記載の冷間圧延焼鈍鋼板の製造方法。
【請求項13】
440℃~480℃の間に含まれる温度範囲で前記保持中に、前記冷間圧延鋼板が480℃以下の温度の浴中で溶融めっきされる、請求項9~12のいずれか一項に記載の冷間圧延焼鈍鋼板の製造方法。
【請求項14】
前記冷間圧延焼鈍鋼板がZn又はZn合金で被覆される、請求項13に記載の冷間圧延焼鈍鋼板の製造方法。
【請求項15】
周囲温度まで冷却した後、亜鉛又は亜鉛合金被覆を真空蒸着により行う、請求項9~
12のいずれか一項に記載の冷間圧延焼鈍鋼板の製造方法。
【請求項16】
前記冷間圧延圧下率は40%~80%の間に含まれる、請求項9~15のいずれか一項に記載の冷間圧延焼鈍鋼板の製造方法。
【請求項17】
周囲温度まで冷却した後、前記鋼板が0.1~0.4%の間に含まれる調質圧延率で調質圧延される、請求項9~16のいずれか一項に記載の冷間圧延焼鈍鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度、優れた延性及び成形性並びに優れた穴広げ率を有する冷間圧延焼鈍鋼板に関する。また、本発明は、このような冷間圧延焼鈍鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「二相」鋼は、硬質マルテンサイト相又はベイナイト相が軟質フェライト母相中に分散した微細組織の結果として、高強度と高延伸性を組み合わせるため、大きく発展してきた。
【0003】
特に、成形前には、これらの鋼はそれらの引張強さと比較して比較的低い降伏強度を有する。その結果、これらの鋼は、非常に良好な、成形操作中の降伏比(降伏強度/引張強さ比)を示す。
【0004】
それらのひずみ硬化性は非常に高く、それは成形後の部品で著しく高い降伏強度及び衝突の場合の良好な変形分布を得ることを可能にする。したがって、従来の鋼と同様に複雑であるが、より高い機械的特性を有する部品を製造することが可能であり、その結果厚さを減少させながらも従来の鋼と同じ機能仕様を満たすことが可能である。したがって、これらの鋼は、車両の軽量化及び安全要求に効果的な対応を提供する。
【0005】
特に、それらの高いエネルギー吸収能及び疲労強度のために、二相鋼は、特に、縦ビーム、横材及び補強材のような自動車の構造部品及び安全部品を製造するのに良く適応している。
【0006】
複雑さの増した形状を有する自動車部品の開発は、少なくとも780MPaの高い引張強さとともに、非常に高い延性及び成形性、特に非常に高い延伸性を有する鋼の需要を増大させてきた。
【0007】
高い延性及び高い延伸性を確保するためには、少なくとも780MPa、最大900MPaの引張強さに加えて、どんな調質圧延操作前でも少なくとも350MPa、しかし450MPa以下(実施されたならば、焼戻し圧延後に少なくとも450MPa及び550MPa以下)の降伏強度、少なくとも15%の全伸び及び少なくとも35%の穴広げ率HERが望ましい。
【0008】
引張強さTSと全伸びTEは、2009年10月に発行されたISO規格ISO6892-1に従って測定される。測定方法の相違により、特に使用する試験片の形状の相違により、ISO6892-1規格に従った全伸びTEの値はJIS Z2241規格に従った全伸びの値とは非常に異なり、特により低いことを強調しなければならない。
【0009】
また、調質圧延により降伏強度さが上昇するので、何ら調質圧延を行っていない冷間圧延板の降伏強度の値は、調質圧延を行った鋼板の降伏強度の値と比較可能ではない。
【0010】
この点において、調質圧延を受けた鋼板は、調質圧延を受けなかった鋼板とは明らかに異なり、認識可能であることに留意しなければならない。実際、調質圧延は板の表面特性に影響を及ぼし、特に板の表面での加工硬化及び残留ひずみに明確で広く認められている影響を及ぼす。また、調質圧延は板の表面に、明確な形状を有する粗いクレーターの形態の識別可能な独特の跡を残す。これらの跡は、電子顕微鏡を使いて容易に視覚化できる。
【0011】
穴広げ率HERは、ISO規格16630:2009に従って測定される。測定方法の相違により、ISO規格16630:2009に従った穴広げ率HERの値は、JFS T1001(日本鉄鋼連盟規格)に従った穴広げ率λの値とは非常に異なり、比較可能でない。
【0012】
穴広げ率は鋼の穴フランジ伸縮性を評価する。
【0013】
一般に、穴広げ率の高い値は、降伏比の高い値(降伏強度を引張強さで除したものに等しい)と関連しており、このため所定の引張強さに対し、降伏強度の高い値と関連している。実際に、穴広げ率の高い値は、特に鋼の微細組織の成分間の強度の小さい差から生じる。しかし、鋼の微細組織の成分間の強度の小さい差は高い降伏比をもたらす。
【0014】
その結果、少なくとも780MPaの引張強さ及び高い穴広げ率を有する鋼板は、一般的に、あらゆる調質圧延前に450MPaよりも高い、500MPaよりも高いことさえある降伏強度を有し、調質圧延後に550MPaよりも高い、600MPaよりも高いことさえある降伏強度をもたらす。対照的に、調質圧延前に少なくとも780MPaの引張強さ及び最大で450MPaの降伏強度を有する鋼板は、低い穴広げ率を有するものである。
【0015】
したがって、780MPa~900MPaの間に含まれる引張強さ、あらゆる調質圧延前に350MPa~450MPaの間に含まれる(及び実施されたならば、調質圧延後に450MPa~550MPaの間に含まれる)降伏強度、少なくとも15%の全伸び及び少なくとも35%の穴広げ率を有する冷間圧延鋼板を製造することが望ましいままである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、本発明の一つの目的は、780MPa~900MPaの間に含まれる引張強さ、あらゆる調質圧延操作前に350MPa~450MPaの間に含まれる降伏強度(及び実施されたならば、調質圧延後に450MPa~550MPaの間に含まれる降伏強度)、少なくとも15%の全伸び及び少なくとも35%の穴広げ率を有する鋼板、及びそれを製造する方法を提供することにある。
【0017】
さらに、以下の詳細に説明されるように、本発明者らは、このように設計された組成を有する鋼に適用される既知の製造方法が、板の長さ方向及び幅方向における機械的特性の有意な不均質性を導くため、これらの特性を得るために鋼の組成を調節することは十分ではないことを発見した。
【0018】
したがって、好ましくは、本発明は、これらの特性が板全体にわたって均一であるように、上記の特性を有する鋼板を提供すること、及びこのような鋼板を製造するための方法をさらに目的とする。
【0019】
また、所定の製造ラインでは、一般に、板の厚さの増加に伴い、穴広げ率は減少する。したがって、本発明はまた、0.7mm~2.3mm、例えば、少なくとも1.5mm又は少なくとも2.0mmの広範囲の板の厚さにわたって、上記の機械的特性を有する冷間圧延鋼板を製造するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この目的のために、本発明は、冷間圧延焼鈍鋼板であって、重量%、以下、すなわち、
0.060%≦C≦0.085%
1.8%≦Mn≦2.0%
0.4%≦Cr≦0.6%
0.1%≦Si≦0.5%
0.010%≦Nb≦0.025%
3.42N≦Ti≦0.035%
0≦Mo≦0.030%
0.020%≦Al≦0.060%
0.0012%≦B≦0.0030%
S≦0.005%
P≦0.050%
0.002%≦N≦0.007%
及び任意に0.0005%≦Ca≦0.005%
を含む組成であって、好ましくはこれらからなり、組成の残余は鉄及び精錬から生じる不可避の不純物である組成を有し、該冷間圧延焼鈍鋼板は表面分率で以下、すなわち
- 34~80%の間のベイナイト、
- 10~16%の間のマルテンサイト、及び
- 10~50%の間のフェライトからなる微細組織であって、組織全体に対する非再結晶化フェライトの表面分率が30%未満である微細組織からなり、
マルテンサイトは自己焼戻しマルテンサイト及びフレッシュマルテンサイトからなり、自己焼戻しマルテンサイトの表面分率は、組織全体に対して、4%~10%の間に含まれる、冷間圧延焼鈍鋼板に関する。
【0021】
好ましくは、ベイナイトは、低炭化物含有ベイナイトであり、100μm2の表面単位当たり100未満の炭化物を含む。
【0022】
実施形態において、冷間圧延焼鈍鋼板は調質圧延されたものではなく、この冷間圧延焼鈍鋼板は、780MPa~900MPaの間に含まれる引張強さTS、350MPa~450MPaの間に含まれる降伏強度YS、少なくとも15%の全伸びTE、及びISO規格16630:2009に従って測定された、少なくとも35%の穴広げ率HERを有する。
【0023】
別の実施形態では、冷間圧延焼鈍鋼板は、780MPa~900MPaの間に含まれる引張強さTS、450MPa~550MPaの間に含まれる降伏強度YS、少なくとも15%の全伸びTE、及びISO規格16630:2009に従って測定された、少なくとも35%の穴広げ率HERを有する調質圧延板である。
【0024】
一般に、冷延鋼板焼鈍鋼板は、0.7mm~2.3mmの間に含まれ、例えば、少なくとも2.0mmの厚さを有する。
【0025】
好ましくは、冷間圧延焼鈍鋼板は、少なくとも500mの圧延方向の長さを有し、冷間圧延焼鈍鋼板の最も高い引張強さ領域と最も低い引張強さ領域との間の引張強さの差は、最も高い引張強さ領域の引張強さの最大で7%である。
【0026】
実施形態によると、冷間圧延焼鈍鋼板は、連続的な浸漬被覆によって得られる亜鉛又は亜鉛合金の皮膜を含む。
【0027】
別の実施形態では、冷間圧延焼鈍鋼板は、真空蒸着によって得られる亜鉛又は亜鉛合金皮膜を含む。
【0028】
本発明はまた、以下の連続する工程を含む、冷間圧延焼鈍鋼板を製造するための方法に関する。
- 重量パーセントで、以下、すなわち、
0.060%≦C≦0.085%
1.8%≦Mn≦2.0%
0.4%≦Cr≦0.6%
0.1%≦Si≦0.5%
0.010%≦Nb≦0.025%
3.42N≦Ti≦0.035%
0≦Mo≦0.030%
0.020%≦Al≦0.060%
0.0012%≦B≦0.0030%
S≦0.005%
P≦0.050%
0.002%≦N≦0.007%
及び任意に0.0005%≦Ca≦0.005%
を含む組成であって、好ましくはこれらからなり、組成の残余は鉄及び精錬から生じる不可避の不純物である組成を有する鋼でできた半製品を提供する工程、
- 該半製品を1200℃以上の温度TH1まで加熱し、次いで、加熱した半製品を、Ar3~TNRの間に含まれる最終圧延温度TFRTで熱間圧延し(Ar3は鋼の冷却時におけるオーステナイトの変態の開始温度であり、TNRは鋼の非再結晶化温度である)、熱間圧延鋼板を得る工程、
- 該熱間圧延鋼板を少なくとも10℃/秒の第1の冷却速度で鋼のマルテンサイト終了温度Mfよりも高く、且つ500℃よりも低い巻取り温度Tcoilまで冷却し、及び該熱間圧延鋼板を巻取り温度Tcoilで巻取り、ベイナイト、任意にマルテンサイト及び/又はパーライトからなり、パーライトの表面分率が15%未満である組織を得る工程、
- 該熱間圧延鋼板を少なくとも40%の冷間圧延圧下率で冷間圧延して、冷間圧延鋼板を得る工程、
- 該冷間圧延鋼板を、Ac3-20℃~Ac3+15℃の間に含まれる焼鈍温度TH2まで再加熱する工程であって、焼鈍温度TH2まで、1℃/秒~50℃/秒の間に含まれる平均加熱温度VHで、及び600℃~Ac1の間、1℃/秒~10℃/秒の間に含まれる平均加熱速度VH’で、再加熱し、並びに該冷間圧延鋼板を該焼鈍温度TH2で少なくとも30秒の焼鈍時間tH2の間保持して、少なくとも50%のオーステナイトを含む組織を得る工程、
- 該冷間圧延鋼板を10℃/秒~50℃/秒の間に含まれる第2の冷却速度VC2で440℃~480℃の間に含まれる温度TCまで冷却する工程、
- 該冷間圧延鋼板を440℃~480℃の間に含まれる温度範囲で20秒~500秒の間に含まれる保持時間tCの間保持する工程、
- 該冷間圧延鋼板を少なくとも1℃/秒の第3の冷却速度で周囲温度まで冷却する工程。
【0029】
好ましくは、焼鈍時間tH2は最大で500秒である。
【0030】
実施形態では、焼鈍時間tH2はAc3~Ac3+15℃の間に含まれ、第2の冷却速度VC2は10℃/秒~20℃/秒の間に含まれる。
【0031】
一般に、冷間圧延焼鈍鋼板は、表面分率で、以下、すなわち、
- 34~80%の間のベイナイト、
- 10~16%の間のマルテンサイト、及び
- 10~50%の間のフェライトからなる微細組織であって、組織全体に対する非再結晶化フェライトの表面分率が30%未満である微細組織からなり、
マルテンサイトは自己焼戻しマルテンサイト及びフレッシュマルテンサイトからなり、自己焼戻しマルテンサイトの表面分率は、組織全体に対して、4%~10%の間に含まれる。
【0032】
実施形態では、440℃~480℃の間に含まれる温度範囲で前記保持中に、冷間圧延鋼板は480℃以下の温度の浴中で溶融めっきされる。
【0033】
好ましくは、冷間圧延焼鈍鋼板はZn又はZn合金で被覆される。
【0034】
別の実施形態では、周囲温度まで冷却した後、亜鉛又は亜鉛合金被覆を真空蒸着により行う。
【0035】
好ましくは、冷間圧延圧下率は40%~80%の間に含まれる。
【0036】
実施形態において、周囲温度まで冷却した後、鋼板は0.1~0.4%の間に含まれる調質圧延率で調質圧延される。
【0037】
以下、本発明を、添付図を参照して詳細に説明するが、制限を導入することなく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明に従わない鋼板の組織を示す顕微鏡写真である。
【
図2】本発明に従う鋼板の組織を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本願中、Ac1は加熱時の同素変態温度の開始を示す。
【0040】
Ac1は、膨張率測定によって測定するか、「Darstellung der Umwandlungen fuer technische Anwendungen und Moeglichkeiten ihrer Beeinflussung」、H.P.Hougardy、Werkstoffkunde Stahl Band 1、198-231、Verlag Stahleisen、Duesseldorf、1984に発表された以下の式で評価することができる。
Ac1=739-22*C-7*Mn+2*Si+14*Cr+13*Mo-13*Ni
【0041】
この式において、Ac1は摂氏で表され、C、Mn、Si、Cr、Mo及びNiは組成物中のC、Mn、Si、Cr、Mo及びNi中の含有量を重量パーセントで表したものである。
【0042】
さらに、Ar3は冷却時のオーステナイトの変態開始温度を示し、TNRは鋼の非再結晶化温度を示し、Ac3は加熱時のオーステナイト変態終了温度を示す。
【0043】
温度Ar3及びAc3は、膨張率測定によって測定するか、又はそれ自体知られているThermo-Calc(R)ソフトウェアで評価することができる。ねじり試験により非再結晶化温度TNRを測定できる。
【0044】
さらに、Mfはマルテンサイト終了温度、すなわち冷却時にオーステナイトからマルテンサイトへの変態が終了する温度を示す。Mfは膨張率測定で測定できる。
【0045】
以下、鋼の化学組成の元素の含有量を重量%(又は百万分率、すなわち、ppm)で示す。
【0046】
鋼の化学組成において、炭素は微細組織の形成及び機械的特性において役割を果たす。
【0047】
少なくとも780MPaの引張強さ、あらゆる調質圧延前に350MPa~450MPaの間(及び調質圧延後に450MPa~550MPaの間)に含まれる降伏強度及び少なくとも35%の穴広げ率を確保するために、炭素含有量は0.060%~0.085%の間に含まれる。C含有量が0.060%よりも低い場合、引張強さは780MPaに達しない。C含有量が0.085%よりも高い場合、巻取り時に多すぎる割合のパーライトが生成し、しま状組織となり、穴広げ率に悪影響となる。また、ベイナイトが炭化物を多量に含むと、降伏強度は450MPa(調質圧延前)を超えることがあり、全伸びが15%に達しないことがある。好ましくは、C含有量は0.075%以下である。
【0048】
少なくとも10%のマルテンサイトを含み、少なくとも780MPaの引張強さを有する微細組織を得るために、鋼の焼入れ性を高めるために、少なくとも1.8%のマンガン及び少なくとも0.4%のクロムを加える。
【0049】
特に、十分な焼入れ性を得るためには、Mn含有量は少なくとも1.8%である。しかし、Mn含有量が2.0%よりも高い場合は、オーステナイトの安定化が強力すぎ、Ms温度が高すぎるため、焼鈍温度からの冷却時にマルテンサイト分率が高くなりすぎてしまうことになる。その結果、降伏強度は450MPa(調質圧延前)を超えることになる。また、2.0%よりも高いMn含有量は、しま状組織をもたらし、穴広げ率に悪影響である。その結果、穴広げ率は35%に達しない。
【0050】
マンガンとは異なり、クロムは焼鈍中にオーステナイトの割合に影響を与えない。したがって、鋼の焼入れ性をさらに高めるためにMnに加えてクロムを添加し、少なくとも1.8%のMn含有量とともに少なくとも0.4%のCr含有量により、少なくとも780MPaの引張強さを得るのに十分な焼入れ性が提供される。実際に、0.4%未満では、自己焼戻しマルテンサイトの分率が不十分である一方、高すぎるフェライト分率が得られる可能性がある。0.6%を超えるCrでは、鋼の被覆性が低下し、添加コストが過剰である。したがって、Cr含有量は最大で0.6%である。
【0051】
少なくとも0.1%の含有量では、ケイ素は、フェライトの硬化を提供し、したがって微細組織の構成成分間の硬さの差を減少させ、穴広げ率を増加させる。ケイ素は低炭化物含有、すなわち、100μm2の表面単位当たり100未満の炭化物を含むベイナイトの生成に有利である。しかし、過剰なSiは、板の表面に付着する酸化物の形成を促進することによって被覆性を低下させ、フェライトのあまりに強力な安定化をもたらす。したがって、Si含有量は最大で0.5%である。
【0052】
チタン及びニオブは、析出硬化を提供し、マルテンサイト分率を最大で16%に制限しながら、少なくとも780MPaの引張強さを達成することを可能にするために、本発明によりともに使用されるマイクロ合金元素である。
【0053】
3.42*N~0.035%の含有量(Nは鋼中のN含有量を重量%で表す)では、チタンは主に窒素及び炭素と結合して、微細な窒化物及び/又は炭窒化物の形態で析出し、オーステナイト粒径を制御することを可能にする。また、チタンは、鋼の溶接性に正の影響を及ぼす。チタン含有量が0.035%を超えると、液体状態から析出する粗大な窒化チタンを形成する危険性があり、これは延性を低下させ、穴広げ試験中の早期損傷につながる傾向があり、したがって穴広げ率を低下させる。
【0054】
この含有量では、チタンは窒素が窒化物又は炭窒化物の形態で完全に結合することを保証し、その結果ホウ素は遊離型であり、焼入れ性に有効な役割を果たすことができる。
【0055】
少なくとも0.010%の含有量において、ニオブは臨界間変態範囲近傍の温度範囲で焼鈍中に微細な炭窒化ニオブを形成するのに非常に有効であり、析出硬化をもたらす。さらに、Nbはオーステナイト結晶粒を微細化し、したがって巻取りに対し熱間圧延板中のパーライト分率をさらに制限する。Nb含有量が0.010%未満であると、オーステナイト粒径が大きくなりすぎ、最終組織は多すぎる自己焼戻しマルテンサイトを含むことになる。その結果、降伏強度は大きすぎるものとなる。しかし、0.025%を超えると、ニオブは焼鈍中にフェライトの再結晶を過度に遅らせ、その結果30%を超える非再結晶化フェライトを組織が含むことになるため、もはや目標とする穴広げ率を達成することができなくなる。
【0056】
少なくとも0.0012%のホウ素を加えて炭素の活性を制限し、拡散相変態(冷却中のパーライト変態)を制御して制限し、所望の引張強さを得るために必要な硬化相(ベイナイト又はマルテンサイト)を形成する。Bの添加により、Mn、Mo、Crなどの硬化元素の添加を制限し、鋼種の低コスト化も可能となる。しかし、0.0030%を超えると、BはCとともに共偏析し、穴広げ率に悪影響な、しま状組織の形成につながる可能性がある。したがって、Bの含有量は最大で0.0030%である。好ましくは、Bの含有量は少なくとも0.0015%、及び/又は最大0.0025%である。
【0057】
前記組成は、残留元素としてモリブデンを最大0.030%含むことができる。0.030%よりも高い含有量で存在すれば、Moは焼鈍中にNb及びTiの析出を遅らせ、再結晶化を遅らせ、フェライト結晶粒の過剰な微細化を引き起こす可能性がある。
【0058】
アルミニウムは精緻化の際に液相中の鋼を脱酸素するための非常に有効な元素である。鋼の十分な脱酸素化を得るためには、Al含有量は少なくとも0.020%である。しかし、Al含有量は、温度Ac3の上昇を避け、冷却中にフェライトの形成を制御できるように、最大で0.060%でなければならない。
【0059】
充分な量の窒化物及び炭窒化物を形成するためには、0.002%の最低窒素含有量が必要である。窒素含有量は0.007%に制限され、液体状態からの粗大なTiN析出物(これは延性を低下させ、穴広げ試験中の早期損傷につながる傾向があり、穴広げ率を低下させる)の形成を防止する。
【0060】
任意に、鋼は、MnS球状化のために、穴広げ率を改善する効果を有する、カルシウムで実施される硫化物の球状化のための処理を受けることができる。したがって、鋼の組成は、少なくとも0.0005%、最大0.005%のCaを含むことができる。
【0061】
鋼の組成の残余は、鉄及び精錬から生じる不純物である。この点において、ニッケル、銅、硫黄及びリンは、不可避の不純物である残留元素と考えられる。したがって、それらの含有量は、最大で0.05%のNi、最大で0.03%のCu、最大で0.005%のS及び最大で0.050%のPである。
【0062】
硫黄含有量が0.005%を超える場合、MnSのような過剰な硫化物の存在により、延性、特に穴広げ率が低下する。非常に低いS含有量、すなわち、0.0001%未満を達成することは非常に費用がかかり、何の利益もない。したがって、Sの含有量は一般に0.0001%以上である。
【0063】
しかし、本発明では、鋼のS含有量に対する穴広げ率の感度が低下するため、0.001%を超えるS含有量(得るのにそれほど費用がかからない)でも少なくとも35%の穴広げ率が得られる。したがって、実施形態によれば、Sの含有量は少なくとも0.001%である。
【0064】
リンは、特に結晶粒界に偏析し、マンガンと共偏析する傾向があるため、スポット溶接性及び熱間延性を低下させる元素である。これらの理由から、その含有量は最大で0.050%、好ましくは最大で0.015%に制限しなければならない。しかし、非常に低いP含有量、すなわち0.001%よりも低いP含有量を達成するには非常に費用がかかる。したがって、Pの含有量は一般に0.001%以上である。
【0065】
本発明による冷間圧延焼鈍鋼板の微細組織は、表面分率で、34%~80%の間のベイナイト、10%~16%の間のマルテンサイト、及び10%~50%の間のフェライトからなる。
【0066】
少なくとも10%のフェライト分率は、少なくとも15%の全伸びを達成するのに寄与する。
【0067】
フェライトは、以下に記載するように、変態区間フェライトからなるか、又は変態区間フェライト及び以下に説明する冷間圧延鋼板の焼鈍中の冷却時に形成されるフェライトを含むことができる。冷却時に生成されるフェライトを、以下、「変態フェライト」と呼ぶ。特に、本発明の方法における焼鈍温度TH2が、上述したように、Ac3よりも低い場合、すなわち、Ac3-20℃~Ac3の間に含まれる場合、フェライトは変態区間フェライトを含み、さらに変態フェライトを含むことができる。換言すれば、焼鈍温度TH2がAc3よりも低い場合、フェライトは変態区間フェライトからなるか、変態区間フェライト及び変態フェライトからなる。
【0068】
対照的に、焼鈍温度TH2がAc3以上であれば、フェライトは変換フェライトからなる。
【0069】
「変態フェライト」は焼鈍工程の終了時に組織中に残留する変態区間フェライトとは異なる。特に変態フェライトはマンガンに富み、すなわち、鋼の平均マンガン含有量よりも高い及び変態区間フェライトのマンガン含有量よりも高いマンガン含有量を有する。したがって変態区間フェライト及び変態フェライトは、メタ重硫酸塩でエッチングした後、二次電子を用いたFEG-TEM顕微鏡で顕微鏡写真を観察することにより差別化できる。顕微鏡写真上では、変態区間フェライトは中程度の灰色で現れるが、変態フェライトは、マンガン含有量が高いため、暗灰色で現れる。
【0070】
フェライトの一部は再結晶化されていない可能性がある。換言すれば、フェライトは、非再結晶化フェライトを含んでもよい。しかし、その組織は、30%未満(表面分率で)の非再結晶化フェライトを含んでいなければならない。このパーセンテージは、組織全体を参照して表される。
【0071】
30%未満の非再結晶化フェライトを有することは、目標とする機械的特性、特に少なくとも35%の穴広げ率を達成するために重要である。実際、組織が30%を超える非再結晶化フェライトを含む場合は、しま状組織が達成され、その結果穴広げ率は35%に達しない。
【0072】
好ましくは、非再結晶化フェライトの表面分率は最大で25%であり、さらに好ましくは最大で20%である。
【0073】
マルテンサイトは冷却時のMs温度未満でのオーステナイトの拡散のない変態から生じる。マルテンサイトは一般に島の形態をしている。
【0074】
少なくとも780MPaの引張強さを得るためには少なくとも10%のマルテンサイト分率が必要である。しかし、マルテンサイトの高い降伏強度のために、16%よりも高いマルテンサイト分率は、調質圧延前に450MPaよりも高い降伏強度及び調質圧延後に550MPaよりも高い降伏強度をもたらすであろう。さらに、16%よりも高いマルテンサイト分率は、穴広げ率を悪化させるであろう。したがって、マルテンサイト分率は最大で16%である。
【0075】
マルテンサイトは、自己焼戻しマルテンサイト及び任意にフレッシュマルテンサイト(すなわち、焼戻しも自己焼戻しもない)からなる。
【0076】
自己焼戻しマルテンサイトの表面分率は、組織全体に対して、4%~10%の間に含まれる。特に、10%よりも高い自己焼戻しマルテンサイトの表面分率は、調質圧延前に450MPaよりも高い(及び実施されたならば、調質圧延後に550MPaよりも高い)降伏強度をもたらすであろう。
【0077】
さらに、10~16%のマルテンサイトを有し、4%~10%の間に含まれる自己焼戻しマルテンサイトの表面分率を有することは、あらゆる調質圧延前に少なくとも350MPaかつ450MPa以下の降伏強度及び少なくとも35%の穴広げ率HERを達成することに寄与する。
【0078】
自己焼戻しマルテンサイトについては、この定義は、A.Constant及びG.Henry、PYC版 1986、p.157の「Les principes de base de traitement thermique des aciers」に記載されているものを指す。
【0079】
マルテンサイトは一般に0.75%よりも低いC含有量を有する。
【0080】
少なくとも34%のベイナイト分率は、調質圧延前に350MPa~450MPaの間に含まれる降伏強度及び少なくとも35%の穴広げ率の達成に寄与する。実際、ベイナイトの降伏強度はマルテンサイトの降伏強度よりも低い。さらに、ベイナイトとフェライトとの硬さの差が小さく、ベイナイトは、島状マルテンサイトを分別することにより、しま状組織の形成を回避し、穴広げ率を向上させるのに寄与する。
【0081】
ベイナイト分率が80%よりも高い場合、組織は少なくとも10%のマルテンサイト及び少なくとも10%のフェライトを含有せず、引張強さ又は全伸びが低くなりすぎる。
【0082】
ベイナイトは、Ms温度より高い、完全オーステナイト領域又は変態区間温度領域からの冷却中に形成される。ベイナイトはベイナイトラス及びセメンタイト粒子の凝集体の形態を取る。その形成には短距離拡散が含まれる。
【0083】
以下、炭化物を含むベイナイト及び低炭化物含有ベイナイトとの区別を行う。
【0084】
低炭化物含有ベイナイトとは、100μm2の表面単位当たり100未満の炭化物を含むベイナイトを指す。冷却中、550~450℃の間で低炭化物含有ベイナイトが生成する。
【0085】
低炭化物含有ベイナイトとは異なり、炭化物を含むベイナイトは常に100平方マイクロメートルの表面単位当たり100を超える炭化物を含む。
【0086】
好ましくは、組織中のベイナイトは低炭化物含有ベイナイトによって構成される。低炭化物含有ベイナイトのみを有することは、調質圧延前に最大で450MPaの降伏強度及び少なくとも15%の全伸びを達成するのに寄与する。
【0087】
板の組織はオーステナイトを全く含まない。
【0088】
これらの微細組織の特徴は、例えば、EBSD(「電子後方散乱回折」)検出器と組み合わせて、1200倍を超える倍率のフィールドエフェクトバレル(「SEM-FEB」技術)を用いた走査型電子顕微鏡を使用して、微細組織を観察することによって決定される。次に、それ自身で知られているプログラム、例えば、Aphelion(R)プログラムを用いた画像解析によって、ラス及び結晶粒の形態を決定する。
【0089】
非再結晶化フェライトの分率は、フッ化水素酸及び過酸化水素から構成される溶液で化学研磨した後、走査型電子顕微鏡で微細組織を観察することにより決定される。
【0090】
冷間圧延焼鈍鋼板は、一般に微細な炭窒化チタン及び/又は炭窒化ニオブを含む。特に、最大寸法が5nmよりも小さいこれらの炭窒化物の表面密度は、104/μm2よりも低いことが好ましい。ここで、炭窒化物の最大寸法は、炭窒化物の最大フェレット直径を指す。
【0091】
この表面密度は透過型電子顕微鏡(TEM)により試料を観察することによって測定できる。
【0092】
この冷間圧延焼鈍鋼板は、例えば以下の連続工程を含む方法によって製造される。
【0093】
上記のような組成を有する鋼は、鋼半製品を得るように鋳造される。鋼は、インゴットを得るために鋳造されてもよいし、厚さ約200mmのスラブの形態に連続的に鋳造されてもよい。この段階で、半製品は(TiNb)(CN)析出物を含む。
【0094】
鋼半製品は、圧延中に鋼が受ける大きな変形に有利な温度に全ての点で到達するように、少なくとも1200℃の温度TH1まで再加熱される。加熱中、(TiNb)(CN)析出物は溶解する。
【0095】
この半製品を、鋼の組織が完全にオーステナイトとなる温度範囲で熱間圧延し、最終圧延温度TFRTは温度Ar3~非再結晶化温度TNRの間に含まれ、熱間圧延鋼板を得る。
【0096】
TFRTがAr3よりも低い場合は、圧延終了前にAr3未満でフェライト結晶粒が生じる。これらの結晶粒は圧延中にひずみ硬化し、延性が低下する。
【0097】
TFRTがTNRよりも高いと、鉄ホウ炭化物Fe23(BC)6が結晶粒界に析出し、それによってBの硬化効果が阻害される。実際、これらの析出物は製造方法の後続の工程で溶解しないであろう。
【0098】
一般に、最終圧延温度TFRTは850℃~930℃の間に含まれる。
【0099】
熱間圧延中、微細な窒化チタンが一般に析出する。その最大の寸法は、一般的に150nm~200nmの間に含まれる。
【0100】
次いで、圧延鋼製品を少なくとも10℃/秒の第1の冷却速度VC1で500℃よりも低い巻取り温度Tcoilまで冷却し、巻き取る。
【0101】
冷却時のフェライト及びパーライトへのオーステナイトの変態を避け、部分的なニオブ析出を避けるために、第1の冷却速度VC1は少なくとも10℃/秒である。
【0102】
巻取り温度Tcoilは500℃よりも低く、マルテンサイト終了温度Mfよりも高くなければならない。
【0103】
実際、本発明者らは、巻取り温度Tcoilが500℃以上であると、板の機械的特性が長さ方向及び幅方向に不均一であり、引張強さは780MPaに達せず、少なくとも板の一部では600MPaよりもさらに低いことを発見した。
【0104】
本発明者らは、この現象を調査し、この現象が調質圧延前に最大で450MPaの降伏強度及び少なくとも35%の穴広げ率を得るために必要な鋼中のMn含有量が低いことに大きく起因することを発見した。
【0105】
特に、Mnは一般的に巻取り中にベイナイト及び/又はマルテンサイトへのオーステナイトの変態を遅らせる。これは、2.0%よりも高いMn含有量を有する鋼については特にそうであり、この場合、調質圧延前に最大で450MPa又は調質圧延後に最大で550MPaの降伏強度が不要であり、及び/又は穴広げ率が低い。
【0106】
Mn含有量を最大で2.0%まで減少させると、巻取り中のベイナイトへのオーステナイトの変態が加速され、巻取り中の板、特にコイルの中心部及び軸領域での温度の上昇をもたらす。
【0107】
コイルの中心部は、板の長手方向に沿って、板の全長の30%に位置する第1の端部から板の全長の70%に位置する第2の端部まで延びる板の部分として定義される。また、軸領域は板の長手方向の中軸を中心とする領域と定義され、板の全幅の60%に等しい幅を有する。
【0108】
中心部及び軸領域では、巻線が連続しているため、ベイナイトへのオーステナイトの変態で発生する熱を大幅に放散できない。
【0109】
巻取り温度が500℃以上であると、この温度上昇はホウ炭化物並びに粗大な炭化チタン及び炭化ニオブの析出をもたらし、それによってB、Ti及びNbの析出硬化潜在力を阻害する。さらに、再結晶微細化に及ぼすNbの効果が妨げられ、その結果フェライト結晶粒が粗すぎることになる。さらに、この温度上昇はセメンタイトの合体をもたらす。特に、セメンタイトは完全には溶解しないため、オーステナイトに利用できるCの量が少なすぎる。したがって、巻取り中にコイルの中心部及び軸領域に位置する領域には少なすぎる量のオーステナイトが形成され、最終的な微細組織におけるこの領域でのマルテンサイト分率が低すぎることになる。これらの2つの影響の結果、板のこの領域では引張強さは780MPaに達しない。
【0110】
また、巻取り温度が500℃以上であれば、板の機械的特性は板の長さ方向でも幅方向でも均一ではない。
【0111】
本発明者らは、巻取りを500℃よりも低い温度で行うと、ベイナイトへのオーステナイトの変態による温度上昇にもかかわらず、セメンタイトの合体はなく、ホウ炭化物又は粗大な炭化チタン及び炭化ニオブの析出も現れないことを見出した。したがって、引張強さは低下せず、板の機械的特性は板の長さ方向及び幅方向で均一である。
【0112】
また、500℃よりも低い温度での巻取りは、巻取りの間に形成されるパーライトの分率を制限することを可能にし、それにより、方法の後続の工程において穴広げ率に悪影響なしま状組織の形成を回避する。
【0113】
しかし、巻取り温度がMf未満の場合、鋼を冷間圧延することが困難になりすぎる。
【0114】
好ましくは、巻取り温度は少なくとも300℃、さらに好ましくは少なくとも350℃又は少なくとも400℃である。
【0115】
巻取りの間、オーステナイトはベイナイト、並びに任意にマルテンサイト及び/又はパーライトに変わり、その結果、巻取りの終了時に、板全体の組織はベイナイト及び任意にマルテンサイト及び/又はパーライトからなり(パーライトの表面分率は15%未満である。)、フェライトを含まない。特に、その組織は板の長さ方向及び幅方向に均一である。ベイナイトは低炭化物含有、すなわち、100μm2の表面単位当たり100未満の炭化物を含むベイナイトである。
【0116】
この段階で、板は固溶体中にB、Nb及びTiを含む。特に固溶体中のNb含有量は少なくとも0.01%である。
【0117】
巻取り後の熱間圧延板のこの微細組織は、所望の機械的特性を得るために重要である。実際、巻取り後の熱間圧延板の微細組織に依存する、後続の焼鈍工程中の再結晶化の反応速度論は、焼鈍中に形成した組織、特にオーステナイト結晶粒のサイズ及び形状に大きな影響を及ぼす。特に、巻取り後の板の組織が15%以上のパーライトを含む場合、オーステナイトは、パーライトを含む板の領域において、焼鈍中に主に核となり、成長し、しま状組織を導く。
【0118】
次に熱間圧延鋼板を少なくとも40%の冷間圧延圧下率で冷間圧延し、冷間圧延鋼板を得る。40%未満では、組織に付与されるひずみが不十分であり、後続の焼鈍時の再結晶化が不十分となり、しま状組織となる。
【0119】
冷間圧延圧下率は一般に40~80%の間に含まれる。
【0120】
冷間圧延鋼板は、一般に、0.7mm~2.3mmの間に含まれる厚さ、例えば、少なくとも1.5mm又は少なくとも2.0mmの厚さを有する。
【0121】
次に、冷間圧延鋼板をAc3-20℃~Ac3+15℃の間に含まれる焼鈍温度TH2まで再加熱する。
【0122】
焼鈍温度TH2までの平均加熱速度VHは、1℃/秒~50℃/秒の間に含まれる。さらに、600℃~Ac1の間の平均加熱速度VH’は、1℃/秒~10℃/秒の間に含まれる。
【0123】
600℃~Ac1の間の平均加熱速度VHは、加熱処理の開始(例えば、室温)~Ac1の間の平均加熱速度とは異なり、焼鈍温度TH2までの平均加熱速度VHとも異なることに注意しなければならない。
【0124】
平均加熱速度VH及びVH’は、例えば、板が移動する複数のゾーンを有する連続焼鈍炉内で冷間圧延板を加熱することによって達成される。炉のこれらのゾーンの各々において、炉の設定(例えば、ゾーン内の温度、加熱出力・・)は、このゾーンにおいて特定の目標加熱速度を達成するように制御される。この制御により、1℃/秒~50℃/秒の間に含まれる、焼鈍温度までの平均加熱速度VH、及び1℃/秒~10℃/秒の間に含まれる、600℃~Ac1の間の平均加熱速度VH’を達成することが可能となる。
【0125】
600℃~Ac1の間の加熱中、再結晶化が起こり、微細な炭窒化チタン及び炭窒化ニオブが鋼中に析出する。微細な析出物を有することにより、フェライト結晶粒の過度に重大な成長を回避することにより再結晶時のフェライト結晶粒のサイズを制御するために固溶体中にNbを依然として十分に有することが可能となる。
【0126】
本発明者らは、600℃~Ac1の間の平均加熱速度VH’、ひいては再結晶化の開始から再結晶化の終了までの時間に相当する600℃~Ac1の間の加熱時間を制御することが、後者の相変態の運動速度論、特に焼鈍温度TH2での後続の保持相の間の運動速度論にとって重要であることを見出した。
【0127】
特に、600℃~Ac1の間の平均加熱速度の制御により、Ac1で得られるフェライト結晶粒のサイズ及びアスペクト比の制御が可能になる。後続のAc1から焼鈍温度への加熱中に、オーステナイト結晶粒は再結晶化フェライトの結晶粒界で核となるものである。したがって、600℃~Ac1の間の平均加熱速度の制御により、焼鈍終了時のオーステナイト結晶粒のサイズ及び再炭素濃化、並びに最終的な微細組織の制御が可能になる。
【0128】
1℃/秒よりも低い平均加熱速度VH’は、600℃~Ac1の間の過度に長い加熱時間をもたらし、したがって、フェライト結晶粒及びその後に形成されるオーステナイト結晶粒の過剰な成長をもたらすであろう。オーステナイト結晶粒の過剰なサイズは、前記製造方法のさらなる工程中に過度に高い分率のマルテンサイトの形成、特に最終組織中の過度に高い分率の自己焼戻しマルテンサイトの形成を導く。その結果、降伏強度が高すぎることになる。
【0129】
反対に、10℃/秒よりも高い平均加熱速度VH’は、600℃からAc1への加熱中のフェライトの不十分な再結晶化、又はフェライトが再結晶化しないことをもたらすであろう。その結果、オーステナイトは炭素に富む領域、すなわち、パーライト及びマルテンサイトの帯で核となり、その結果最終組織はしま状組織となり、穴広げ率に悪影響である。
【0130】
1℃/秒~10℃/秒の間に含まれる、600℃~Ac1の間の平均加熱速度VH’は、前記製造方法の終了時に、組織中の非再結晶化フェライトの表面分率が30%未満であるように、微細組織が、表面分率で、34%~80%の間のベイナイト、10%~16%の間のマルテンサイト、及び10%~50%の間のフェライトからなり、自己焼戻しマルテンサイトの割合が4%~10%の間に含まれる鋼を得ることを可能にする。
【0131】
焼鈍温度TH2は、Ac3-20℃~Ac3+15℃の間に含まれ、焼鈍温度TH2での保持終了時に、少なくとも50%のオーステナイト及び任意にフェライトからなる組織を得る。
【0132】
焼鈍温度TH2がAc3-20℃よりも低い場合、組織は多すぎるフェライトを含むか、及び/又は十分なベイナイト及び/又は自己焼戻しマルテンサイトを含まない可能性があり、穴広げ率HERは35%に達しない。
【0133】
焼鈍温度TH2がAc3+15℃よりも高い場合、オーステナイト結晶粒のサイズは大きすぎる。このオーステナイト結晶粒の過剰なサイズは、最終組織中に高すぎる分率のベイナイト及び高すぎる分率の自己焼戻しマルテンサイトの形成をもたらし、一方、不十分な分率のフェライトが冷却時に生成する。その結果、降伏強度が高すぎ、全伸びが低すぎる。
【0134】
板を焼鈍温度TH2で少なくとも30秒、好ましくは最大500秒の焼鈍時間tH2の間保持する。この焼鈍温度TH2での保持中に、オーステナイト結晶粒が成長し、炭窒化チタン及び炭窒化ニオブの析出が続く。
【0135】
焼鈍時間tH2が30秒より短い場合、オーステナイト結晶粒は小さすぎる。その結果、最終組織は、不十分なマルテンサイト分率及び過剰なフェライト分率を含み、少なくとも780MPaの引張強さは達成されない。焼鈍時間tH2が500秒より長い場合、ニオブ及びチタンの析出物が合体し、それによってNb及びTiの硬化効果が阻害され、オーステナイト結晶粒が大きすぎる可能性がある。その結果、降伏強度が450MPaを超える可能性があり、少なくとも780MPaの引張強さは得られない、及び/又は35%よりも低い穴広げ率は得られる可能性がある。
【0136】
次いで、10℃/秒~50℃/秒の間に含まれる第2の冷却速度VC2で、板を440℃~480℃の間に含まれる温度TCまで冷却する。この冷却工程の間、オーステナイトは部分的にベイナイト及び任意にフェライトに変態する。
【0137】
この冷却は、温度TH2から1つ又は複数の工程で行うことができ、後者の場合、冷水浴又は沸騰水浴、ウォータージェット又はガスジェットのような異なる冷却モードを伴うことがある。
【0138】
第2の冷却速度VC2が10℃/秒よりも低い場合、最終組織は過剰なフェライト分率を含み、不十分なマルテンサイト分率及び/又はベイナイト分率を含み、引張強さは780MPaに達せず、穴広げ率は35%に達しない。
【0139】
焼鈍温度がAc3~Ac3+15℃の間に含まれる場合、最終組織が少なくとも10%のフェライトを含むように、オーステナイトの一部をフェライトに変態させるために、第2の冷却速度VC2は最大で20℃/秒であることが好ましい。
【0140】
次いで、鋼板を、440~480℃の間に含まれる温度範囲に、20秒~500秒の間に含まれる保持時間tCの間保持する。
【0141】
この段階でベイナイトへの残留オーステナイトの部分的変態が起こる。保持時間tCが20秒より短ければ、不十分な分率のベイナイトが形成される。保持時間tCが500秒より長ければ、ベイナイト分率はあまりにも大きく、最終組織中のマルテンサイト分率は不十分である。
【0142】
好ましくは、保持時間tCは最大で50秒である。
【0143】
任意に、440℃~480℃の間に含まれる温度範囲での保持の間、鋼板を、480℃よりも低い温度TZnで、亜鉛又は亜鉛合金浴中で溶融めっきする。
【0144】
任意に、亜鉛めっき後、亜鉛又は亜鉛合金浴を出た直後に、一般に10~40秒間に含まれる時間tGの間、490~550℃の間に含まれる温度TGまで加熱することにより、鋼板を合金化溶融亜鉛めっきすることができる。
【0145】
440℃~480℃の間に含まれる温度範囲に保持した直後、又は実施されるならば亜鉛めっき若しくは合金化溶融亜鉛めっきを施した直後に、少なくとも1℃/秒の第3の冷却速度VC3で板を周囲温度まで冷却する。この冷却工程中、残留オーステナイトはフレッシュマルテンサイト及び/又はベイナイトに変態する。
【0146】
この製造方法により、冷間圧延焼鈍鋼板が得られ、その組織は、表面分率で、34%~80%の間のベイナイト、10%~16%の間のマルテンサイト、及び10%~50%の間のフェライトからなる。組織中の非再結晶化フェライトの表面分率は30%未満である。マルテンサイトは、自己焼戻しマルテンサイト及びフレッシュマルテンサイトからなり、自己焼戻しマルテンサイトの表面分率は、全体組織に対して、4%~10%の間に含まれる。
【0147】
室温まで冷却した後、亜鉛めっきを行わなかった場合には、冷間圧延焼鈍鋼板を、例えば、物理蒸着(PVD)又はジェット蒸着(JVD)型による真空蒸着によって被覆してもよい。
【0148】
本発明者らは、この製造方法によって製造された冷間圧延焼鈍鋼板が、780~900MPaの間に含まれる引張強さ、350~450MPaの間に含まれる降伏強度、少なくとも15%、又は少なくとも18%ですらある全伸び、及び少なくとも35%の穴広げ率HERを有することを示した。
【0149】
350~450MPaの間の降伏強度は、調質圧延を行わずに室温まで冷却した直後に達成される。
【0150】
特に、組成中のニオブ及びチタンの添加、及び焼鈍工程中の微細な炭窒化ニオブ及び炭窒化チタンの析出により、最大で16%という比較的低いマルテンサイト分率で780MPaの引張強さを得ることが可能となる。したがって、降伏強度は最大450MPaのままであり、微細組織の成分間の硬さの差が減少するので、穴広げ率は35%を超えることができる。
【0151】
任意に、室温まで冷却した後、調質圧延を行う。この場合、冷間圧延焼鈍鋼板は、780~900MPaの間に含まれる引張強さ、450~550MPaの間に含まれる降伏強度、少なくとも15%、又は18%ですらある全伸び、及び少なくとも35%の穴広げ率HERを有する。
【0152】
例えば、調質圧延は、0.1%~0.4%の間、例えば、0.1%~0.2%の間に含まれる圧下率で実施される。
【0153】
また、これらの機械的特性は、0.7mm~2.3mmの範囲の冷間圧延焼鈍鋼板の広範囲の厚さにわたって達成される。これらの特性は、板の厚さが少なくとも2.0mm、最大2.3mmの場合に特に達成される。
【0154】
さらに、機械的特性、特に引張強さは板の長さ方向及び幅方向で均一である。特に、圧延方向の長さが少なくとも500mの全冷間圧延焼鈍鋼板を考えると、冷間圧延焼鈍鋼板の最も高い引張強さの領域と最も低い引張強さの領域との間の引張強さの差は、最も高い引張強さの領域の引張強さの最大で7%である。
【実施例】
【0155】
実施例及び比較として、表Iに従った鋼組成でできた板を製造し、その元素を重量%又はppm(百万分率)で表す。
【0156】
【0157】
この表では、「res」とは、対応する元素が、その含有量がこの元素について定義されたより低い範囲よりも低い残留物として存在することを意味する。特に、Tiの残存量は、Ti含有量が3.42N未満であることを意味し、Bの残存量は、B含有量が0.0012%未満であることを意味する。下線を付した値は本発明によるものではない。
【0158】
変態Ac3の値も表Iに報告する。Ac3はThermo-Calc(R)ソフトウェアで評価した。
【0159】
表Iに開示された組成を有する鋼を鋳造して、インゴットを得た。これらのインゴットを1250℃の温度TH1で再加熱し、次いで熱間圧延し、最終圧延温度TFRTはAr3~TNRの間に含まれ、熱間圧延鋼板を得た。
【0160】
熱間圧延鋼板を、30℃/秒の第1の冷却速度VC1で巻取り温度Tcoilまで冷却し、この温度Tcoilで巻き取り、ベイナイト及び任意にマルテンサイト及び/又はパーライトからなる組織を得、パーライトの表面分率は15%未満であった。全ての実施例及び比較例について、巻取り温度はMfを超えていた。
【0161】
その後、熱間圧延鋼を酸洗いし、冷間圧延圧下率50%で冷間圧延し、厚さ1.4mmの冷間圧延板を得た。
【0162】
冷間圧延板を、平均加熱速度VHで焼鈍温度TH2まで再加熱し、600℃~Ac1の間の平均加熱速度VH’で焼鈍温度TH2まで再加熱し、焼鈍時間tH2の間焼鈍温度TH2に維持した。
【0163】
次いで、板を第2の冷却速度VC2で温度TCまで冷却し、保持時間tCの間この温度に維持した。次に、最大480℃の温度の亜鉛浴中で溶融めっきにより板を亜鉛めっきし、少なくとも1℃/秒の第3の冷却速度VC3で室温まで冷却した。
【0164】
板を最終的に0.1~0.4%の間に含まれる調質圧延率で調質圧延した。
【0165】
処理の条件を表IIに報告する。
【0166】
【0167】
表IIにおいて、下線を付した値は本発明によるものではない。表IIにおいて、下線を付さないTH2の値は、焼鈍時の組織が少なくとも50%のオーステナイトを含むようなものである。
【0168】
このようにして得られた鋼板の微細組織を決定した。重亜硫酸ナトリウムによるエッチング後、マルテンサイト(焼戻マルテンサイト及びフレッシュマルテンサイトを含む)の表面分率、ベイナイトの表面分率及び低炭化物含有ベイナイトの表面分率を定量化した。NAOH-NaNO3試薬によるエッチング後、フレッシュマルテンサイトの表面分率を定量化した。
【0169】
また、フェライトの表面分率を光学顕微鏡観察及び走査型電子顕微鏡観察によって決定し、そこではフッ化水素酸及び過酸化水素から構成される溶液で化学研磨した後、フェライト相を同定し、非再結晶化の分率を走査型電子顕微鏡観察によって決定した。
【0170】
さらに、板の機械的特性を決定した。
【0171】
測定した特性は、穴広げ率HER、降伏強度YS、引張応力TS、一様伸びUE及び全伸びTEである。
【0172】
2009年10月に発行されたISO規格ISO6892-1に従って、降伏強度YS、引張強さTS、一様伸びUE及び全伸びTEを測定した。穴拡げ率HERは、ISO16630:2009規格に従って測定した。
【0173】
さらに、板の最も高い引張強さの領域と最も低い引張強さの領域の間の引張強さの差ΔTSを測定した。
【0174】
鋼板の微細組織及びその機械的特性を以下の表IIIに示す。
【0175】
【0176】
表IIIにおいて、Mはマルテンサイトの表面分率、FMはフレッシュマルテンサイトの表面分率、TMは焼戻しマルテンサイトの表面分率、Bはベイナイトの表面分率、Fはフェライトの表面分率、「UF<30%」の列は非再結晶化フェライトの表面分率が30%未満であるかどうかを示し、LBC/Bは低炭化物含有ベイナイトであるベイナイトの割合である。
【0177】
鋼1の組成は0.4%未満のCrを含み、不十分な焼入れ性をもたらし、自己焼戻しマルテンサイト分率の割合は4%に達しないが、一方、フェライト分率は50%よりも高い。さらにより高いフェライト分率が例1-aで達成され、これはAc3-20℃よりも低い温度で焼鈍される。その結果、引張強さは780MPaに達せず、例1-aでは穴拡げ率は35%に達しない。
【0178】
鋼2及び3の組成も0.4%未満のCrを含み、2.0%を超えるMnを含む。この高いMn含有量は、オーステナイトの大幅すぎる安定化をもたらし、焼鈍温度からの冷却中に高すぎるマルテンサイト分率が形成され、ベイナイト分率が低すぎる。その結果、降伏強度が高すぎる。また、この2.0%を超えるMn含有量によりしま状組織を導き、穴広げ率が35%に達しない。
【0179】
鋼4の組成は本発明による。実施例4-bは、本発明による方法により製造され、本発明による組織を有するため、目標とする機械的特性に到達する。
図2は、この実施例4-bの組織を示している。この図について、Mはマルテンサイトを示し、CFBは炭化物を含まないベイナイトを示し、Fはフェライトを示す。
【0180】
例4-aは、対照的に、Ac3-20℃よりも低い温度TH2で焼鈍されており、組織が十分な自己焼戻しマルテンサイトを含まず、穴広げ率HERが35%に達しない。
【0181】
鋼5の組成は多すぎるC及びMnを含み、Ti及びBの含有量が不十分である。鋼6の組成は多すぎるC及びMnを含み、Ti及びBの含有量が不十分であり、Crの含有量が低すぎる。その結果、例5-a、5-b、6-a及び6-bは、請求したような組織を有しておらず、特にフェライト分率が高すぎ(冷却時にフェライトが形成される)かつベイナイト分率が低すぎるため、降伏強度が高すぎ、穴広げ率が35%に達しない。
【0182】
鋼7の組成も多すぎるC及びMnを含み、Cr含有量が低すぎ、Nb含有量が高すぎる。例7-aは、多すぎるフェライト、多すぎる非再結晶化フェライト及び低すぎるベイナイト分率を含み、目標とする降伏強度及び穴広げ率に達しない。
【0183】
鋼8の組成は本発明による。実施例8-b、8-g及び8-hは、本発明による方法により製造され、本発明による組織を有するため、目標とする機械的特性に達する。
【0184】
対照的に、例8-aは、Ac3-20℃よりも低い温度TH2で焼鈍されており、組織は十分な自己焼戻しマルテンサイトを含まず、十分なベイナイトを含まず、多すぎるフェライトを含む。その結果、穴広げ率HERは35%に達しない。
【0185】
例8-c、8-d及び8-eは、高すぎる巻取り温度で巻き取った。その結果、組織は十分なマルテンサイトを含んでおらず、十分な自己焼戻しマルテンサイトを含んでおらず、十分なベイナイトを含んでおらず、多すぎるフェライトを含む。その結果、引張強さは780MPaに達しない。また、引張強さが均一でなく、引張強さの差ΔTSが7%を超える。
【0186】
例8-fは低すぎる焼鈍温度TH2で焼鈍したところ、組織が少なすぎる自己焼戻しマルテンサイトを含み、穴広げ率が35%に達しない。
【0187】
例8-iは焼鈍後に高すぎる温度で保持したところ、自己焼戻しマルテンサイトの分率が高くなりすぎ、降伏強度が550MPaよりも高くなり、穴広げ率が35%に達しない。
【0188】
例8-jは短すぎる保持時間tcで保持した。その結果、ベイナイトへの変態が不完全であったため、自己焼戻しマルテンサイトの分率が高すぎ、降伏強度が550MPaよりも高くなり、穴広げ率が35%に達しない。
【0189】
例8-kは、焼鈍温度まで速すぎる加熱速度VH’で加熱した。その結果、組織は30%を超える非再結晶化フェライトを含み、穴広げ率が35%に達せず、降伏強度が高すぎる。
【0190】
鋼9の組成は多すぎるMoを含み、例9-mは低すぎる焼鈍温度で焼鈍されるので、鋼の組織は本発明によるものではなく、目標とする特性は達成されない。
【0191】
鋼10の組成は、多すぎるCを含み、Cr、Nb及びBを十分に含んでいない。その結果、マルテンサイト分率が高くなりすぎ、穴広げ率が35%に達しない。
図1は、例10-aの組織を示す。この図について、Mはマルテンサイトを示し、CFBは炭化物を含まないベイナイトを示し、Fはフェライトを示す。また、BCは炭化物を含むベイナイトを示す。
【0192】
鋼11の組成は本発明に従う。実施例11-bは、本発明による方法により製造され、本発明による組織を有するため、目標とする機械的特性に達する。
【0193】
対照的に、例11-aは、Ac3-20℃よりも低い温度TH2で焼鈍したので、組織は十分な自己焼戻しマルテンサイトを含まず、十分なベイナイトを含まず、多すぎるフェライトを含む。その結果、穴広げ率HERは35%に達しない。
【0194】
例11-cもAc3-20℃よりも低い温度TH2で焼鈍し、さらに高すぎる巻取り温度で巻き取った。組織は十分なマルテンサイトも十分な自己焼戻しマルテンサイトも含まず、多すぎるフェライトを含み、引張強さは780MPaに達しない。また、引張強さが均一でなく、引張強さの差ΔTSが7%を超える。
【0195】
鋼12の組成は0.085%を超えるCを含む。その結果、本発明による方法を実施しても、目標とする組織が達成されず、また目標とする特性も達成されない。再び例12-cは、高すぎる巻取り温度で巻取ると7%よりも高い引張強さの差ΔTSにつながることを示す。
【0196】
鋼13の組成は多すぎるMnを含み、Ti及びBの含有量が不十分である。その結果、本発明による方法を実施しても、目標とする組織が達成されず、目標とする特性も達成されない。特に、Ti及びB含有量が不十分であるため、マルテンサイト分率が10%に達せず、引張強さが780MPaよりも低い。