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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-14
(45)【発行日】2025-03-25
(54)【発明の名称】工作機械の提案装置および提案方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/09 20060101AFI20250317BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20250317BHJP
   G16Y 10/25 20200101ALI20250317BHJP
【FI】
B23Q17/09 B
B23Q17/00 D
G16Y10/25
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023191073
(22)【出願日】2023-11-08
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】市瀬 真弓
(72)【発明者】
【氏名】猪狩 真二
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】特許第6837622(JP,B1)
【文献】特開2019-082836(JP,A)
【文献】特許第7426476(JP,B2)
【文献】特開2020-055043(JP,A)
【文献】特許第7276673(JP,B2)
【文献】特開平04-189450(JP,A)
【文献】特開2016-049608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 3/155- 3/157
B23Q 17/00
B23Q 17/09
G05B 19/4065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の工具の設定寿命の調整を提案する提案装置において、
工具の種類ごとに予め設定した設定寿命を記憶する工具管理部と、
工具の使用値が前記設定寿命に到達した設定寿命到達工具の存在を報知する報知部と、
前記設定寿命到達工具に対する摩耗状態の確認の結果、前記設定寿命到達工具が真の寿命に達していると判断した場合に行われる使用値のリセットまたは前記設定寿命到達工具が真の寿命に達していないと判断した場合に行われる使用延長を受付ける受付部と、
前記リセットまたは前記使用延長に関連する情報または履歴を工具個体別に蓄積処置情報として記憶する蓄積処置情報記憶部と、
設定寿命の調整に関する提案を行うための蓄積処置情報に対応した提案条件を予め記憶する提案条件記憶部を有し、前記蓄積処置情報を前記提案条件記憶部に照合した結果に応じて、前記設定寿命到達工具が属する種類の工具の設定寿命の調整を提案する提案部と、
を具備する工作機械の提案装置。
【請求項2】
前記蓄積処置情報記憶部は、同種の複数の工具個体での蓄積処置情報を記憶しており、前記提案部は同種の複数の工具個体での蓄積処置情報に基づいて設定寿命の調整を提案する請求項1に記載の提案装置。
【請求項3】
前記提案部は、設定寿命の調整として設定寿命の短縮を提案する請求項1に記載の提案装置。
【請求項4】
前記提案部は、特定の種類の工具について、過去に使用延長がなされていない場合、設定寿命の調整として設定寿命の短縮を提案する請求項3に記載の提案装置。
【請求項5】
前記提案部は、設定寿命の調整として設定寿命の延長を提案する請求項1に記載の提案装置。
【請求項6】
前記提案部は、特定の種類の工具について、過去に実施した使用延長の回数または頻度が所定の回数または頻度以上である場合、設定寿命の調整として設定寿命の延長を提案する請求項5に記載の提案装置。
【請求項7】
前記蓄積処置情報記憶部は、前記蓄積処置情報としてさらに工具破損に伴う工具交換、工程変更に伴う工具追加および工程変更に伴う工具除外を記憶し、
前記蓄積処置情報を、任意期間、前記任意期間に行われた工具への処置種別および前記処置種別ごとの合計回数で統計する統計部と、統計した結果を表示する表示部とを備える請求項1に記載の提案装置。
【請求項8】
工作機械の工具の設定寿命の調整を提案する提案方法において、
工具の種類ごとに設定寿命を予め設定し、
工具の使用値が前記設定寿命に到達した設定寿命到達工具が存在する場合に、当該設定寿命到達工具の存在を報知し、
前記設定寿命到達工具の摩耗状態の確認の結果、真の寿命に達していると判断した場合に前記設定寿命到達工具を交換して該設定寿命到達工具の使用値をリセットし、或いは、前記設定寿命到達工具の摩耗状態の確認の結果、真の寿命に達していないと判断した場合に前記設定寿命到達工具を交換することなく、前記設定寿命到達工具の使用値を延長し、
前記リセットまたは前記延長に関連する情報または履歴を工具個体別に蓄積処置情報として蓄積し、
設定寿命の調整に関する提案を行うための蓄積処置情報に対応した提案条件に基づいて、前記蓄積処置情報と前記提案条件とを照合した結果に応じて、前記設定寿命到達工具に属する種類の工具の設定寿命の短縮または延長を提案することを含む工作機械の工具の設定寿命の調整を提案する提案方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具の設定寿命の調整を提案する工作機械の提案装置および提案方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械においては、工具(工具ホルダに切削工具を組付けたもの)とワークを相対移動、相対回転させて切削加工がおこなわれる。ここで、切削加工中にワークと係合する切削工具の切刃は常に摩耗が進行している。一定程度摩耗が進行すると、加工精度が低下したり、加工負荷が増加したりして、この工具(切削工具)は加工に用いることができなくなり、新しい工具と交換しなければならないが、頻繁に工具を交換すると、加工効率を低下させ、また製造コストを増加することとなる。従って、寿命を予測し、適切な頻度で工具交換する必要がある。
【0003】
特許文献1には、工具寿命が十分に残っている時点での加工情報と、それ以外とを分類(クラスタリング)し、入力される加工情報が、どのクラスタに属するかを判定することによって、工具の残っている寿命を推定する工具寿命推定装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-103284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
切削工具の切刃の摩耗は、ワークの材質や切削条件によって進行の度合いが変化するので、特許文献1の工具寿命推定装置では、製造すべき製品が変更になった場合に、加工情報のクラスタを作成して工具寿命の推定を行うことは難しい問題がある。
【0006】
本発明は、こうした従来技術の問題を解決することを技術課題としており、使用値が設定寿命に達した工具に、過去にどのような処置をしたかに応じて、工具の設定寿命の調整を提案する提案装置および提案方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、本発明によれば、工作機械の工具の設定寿命の調整を提案する提案装置において、工具の種類ごとに予め設定した設定寿命を記憶する工具管理部と、工具の使用値が前記設定寿命に到達した設定寿命到達工具の存在を報知する報知部と、前記設定寿命到達工具に対する摩耗状態の確認の結果、前記設定寿命到達工具が真の寿命に達していると判断した場合に行われる使用値のリセットまたは前記設定寿命到達工具が真の寿命に達していないと判断した場合に行われる使用延長を受付ける受付部と、前記リセットまたは前記使用延長に関連する情報または履歴を工具個体別に蓄積処置情報として記憶する蓄積処置情報記憶部と、設定寿命の調整に関する提案を行うための蓄積処置情報に対応した提案条件を予め記憶する提案条件記憶部を有し、前記蓄積処置情報を前記提案条件記憶部に照合した結果に応じて、前記設定寿命到達工具が属する種類の工具の設定寿命の調整を提案する提案部と、を具備する工作機械の提案装置が提供される。
【0008】
更に、本発明によれば、工作機械の工具の設定寿命の調整を提案する提案方法において、工具の種類ごとに設定寿命を予め設定し、工具の使用値が前記設定寿命に到達した設定寿命到達工具が存在する場合に、当該設定寿命到達工具の存在を報知し、前記設定寿命到達工具の摩耗状態の確認の結果、真の寿命に達していると判断した場合に前記設定寿命到達工具を交換して該設定寿命到達工具の使用値をリセットし、或いは、前記設定寿命到達工具の摩耗状態の確認の結果、真の寿命に達していないと判断した場合に前記設定寿命到達工具を交換することなく、前記設定寿命到達工具の使用値を延長し、前記リセットまたは前記延長に関連する情報または履歴を工具個体別に蓄積処置情報として蓄積し、設定寿命の調整に関する提案を行うための処置情報に対応した提案条件に基づいて、前記蓄積処置情報と前記提案条件とを照合した結果に応じて、前記設定寿命到達工具に属する種類の工具の設定寿命の短縮または延長を提案することを含む工作機械の工具の設定寿命の調整を提案する提案方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、使用値が設定寿命に到達した工具に対して過去に実施した処置の履歴である蓄積処置情報に基づいて、設定寿命の調整を提案し、生産性を高めることが可能となる。複数の工具個体で実施した処置を蓄積処置情報として蓄積することによって、提案の信頼性を高めることができ、一層適切な調整を提案することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明を適用する工作機械および提案装置の略示図である。
図2】1つの工具の使用値が設定寿命に到達したことを報知する工具管理画面を示す図である。
図3】使用値が設定寿命に到達した工具の使用値をリセットした工具管理画面を示す図である。
図4】使用値が設定寿命に到達した工具の使用延長値を設定した工具管理画面を示す図である。
図5】設定寿命の短縮および延長を提案する工具管理画面を示す図である。
図6】蓄積処置情報を示す図である。
図7】ワークの変更による加工工程の変化を説明するための略図である。
図8】蓄積処置情報の統計を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1を参照すると、工作機械100は、工場の床面に固定された基台としてのベッド102を有している。ベッド102の後端側(図1では左側)で同ベッド102の上面には、コラム104が、水平左右方向またはX軸方向(図1紙面に直角な方向)に往復動可能に設けられている。工具マガジン112が、コラム104に隣接させて配設されている。工具マガジン112には加工に用いる複数の工具が収納されている。コラム104の前面には、サドル106が、上下方向またはY軸方向(図1では上下方向)に往復動可能に設けられている。サドル106には、水平な中心軸線O周りに主軸110を回転可能に支持する主軸頭108が取り付けられている。ベッド102の前方部分(図1では右側)の上面には、Z軸スライダ116が、中心軸線Oに平行な前後方向またはZ軸方向(図1では左右方向)に移動可能に設けられている。Z軸スライダ116には、ワークWを固定するテーブル114が搭載されている。
【0012】
ベッド102には、コラム104をX軸方向に往復駆動するX軸送り装置として、X軸サーボモータ(図示せず)が設けられている。コラム104には、サドル106をY軸方向に往復駆動するY軸送り装置として、Y軸サーボモータ(図示せず)が設けられている。ベッド102には、Z軸スライダ116をZ軸方向に往復駆動するZ軸サーボモータ(図示せず)が設けられている。
【0013】
主軸頭108は、主軸110を回転駆動する主軸サーボモータ(図示せず)を備えている。主軸110の先端部には切削工具と工具ホルダを組付けて一体にした工具Tが装着される。工具Tの切削工具は、典型的にはエンドミルやドリルのような回転工具である。本明細書で言及する「工具」は切削工具と工具ホルダを組付けて一体にした状態のものを示し、本明細書で言及する「摩耗」は切削工具の摩耗を示す。
【0014】
図1において、ワークWは、イケールのようなワーク取付具118を介してテーブル114に取り付けられている。ワーク取付具118は、ワークWを取り付けた状態でパレット(図示せず)に固定し、該パレットを介してテーブル114に取り付けるようにすることができる。ワークWは、ワーク取付具118を用いることなく、パレットに取り付け、パレットを介してテーブル114に取り付けるようにしてもよい。或いは、ワークWはテーブル114に直接取り付けてもよい。
【0015】
工作機械100は、更に、工具マガジン112と主軸110との間で工具を交換する自動工具交換装置(図示せず)や、工作機械100の加工領域にクーラントを供給するクーラント供給装置(図示せず)等の周辺機器を備えることができる。こうした周辺機器は、工作機械100とともにカバー(図示せず)内に収容することができる。また、工作機械100は、テーブル114との間でパレットを交換するパレット交換装置(図示せず)を備えることができる。工作機械100は、更に、オペレータが、ワークWをパレットやパレット上のワーク取付具118に着脱する段取りステーション(図示せず)を含んでいてもよい。工作機械100は、更に、段取りステーションとパレット交換装置との間でパレットを搬送するパレット搬送装置(図示せず)を含んでいてもよい。パレット搬送装置は、複数の工作機械100に対してパレットを授受、搬送するように構成できる。
【0016】
工具マガジン112内では、工具Tは、切削工具が工具ホルダに装着された状態で工具ポット(図示せず)に装着され、工具マガジン112内の工具ラック(図示せず)のような工具収納部に保持される。工具マガジン112に収納されている工具に関する情報は、工具管理部12に格納されている。工具マガジン112は、オペレータが工具マガジンから工具を取り出すための、または工具を投入するためのインタフェースとして工具段取り部(図示せず)を備えている。
【0017】
工作機械100のオペレータは、個々の加工プロセスを実行するために必要な工具を工具マガジン112に収納して準備する。その際、オペレータは、加工プログラム中で個々の工具を呼び出すために用いられる工具番号であるプログラム工具番号と、工具管理部12のポット番号とが同じ工具を参照するように、個々の工具を適切な番号の工具ポットに装着すると共に、工具管理部12の内容を編集できる。
【0018】
通常工場には、工具室と称されるような工具の保管、組立を行うための設備が備えられている。こうした工具の保管設備は、工場内に準備されている全ての種類の工具を管理する工具データベースを備えており、工具データベース上では、工具の種類ごとに、工場工具番号が付与されている。工場工具番号は、工具仕様別に付与される番号であり、工場内のすべての工具で共通に運用される。異なる工具番号として、プログラム工具番号がある。プログラム工具番号は、加工プログラム中で個々の工具を呼び出すために用いられる工具番号であり、工作機械100のローカルで運用される番号である。同じ工場工具番号の工具が複数の工作機械100で運用されるとき、複数の工作機械100において異なるプログラム工具番号が付与されていてもよい。さらに異なる工具番号として、工具個体番号がある。工具個体番号は、工具個体の個々に付与される番号である。同じ工場工具番号、つまり同仕様の工具が複数存在しているとき、それぞれ異なる工具個体番号が付与される。
【0019】
なお、本明細書では、工具の「種類」は、ボールエンドミルや、スクエアエンドミル、フェースミル、ドリルのような切削工具のタイプに加えて、工具径、工具長、切刃の数のような切削工具の仕様を含む概念である。つまり、同じタイプの工具であっても、工具径や工具長が異なれば、それらは異なる種類の工具であり、従って、異なる工場工具番号が付されることとなる。
【0020】
工作機械100は、提案装置を形成する制御装置10を具備している。制御装置10は、工具管理部12、報知部14、受付部16、蓄積処置情報記憶部18、提案部20、表示部24、入力部26および統計部28を含んでいる。工具管理部12、報知部14、受付部16、蓄積処置情報記憶部18、提案部20および統計部28は、CPU(中央演算素子)、RAM(ランダムアクセスメモリ)やROM(リードオンリーメモリ)のようなメモリ装置、HDD(ハードディスクドライブ)やSSD(ソリッドステートドライブ)のような記憶デバイス、出入力ポート、RTC(Real-Time-Clock)および、これらを相互接続する双方向バスを含むコンピュータおよび関連するソフトウェアから構成することができる。
【0021】
制御装置10は、主軸サーボモータ、X軸サーボモータ、Y軸サーボモータ、Z軸サーボモータおよびX軸スケール、Y軸スケール、Z軸スケールを制御するNC装置や、上述の工作機械の工具マガジンや、自動工具交換装置(図示せず)、パレット交換装置およびクーラント供給装置、更には、オイルエア供給装置(図示せず)や、圧縮空気供給装置(図示せず)のような工作機械の関連機器を制御する機械制御装置の一部としてソフトウェア的に構成することができる。
【0022】
工具管理部12は、工具マガジン112に収納されている工具Tに関連した情報、特に工具毎に予め設定した寿命(設定寿命)を記憶している。報知部14は、後述するように、使用値が予め設定した寿命に到達した工具(設定寿命到達工具)の存在をオペレータに報知する。受付部16は、設定寿命に到達した工具に対してオペレータが行った処置、特に工具の使用値のリセットまたは工具の設定寿命の延長を受付ける。蓄積処置情報記憶部18は、後述するように、設定寿命に到達した工具に対してオペレータが行った処置を各工具について蓄積、記憶する。提案部20は、後述するように、設定寿命に到達した工具に対して過去の蓄積処置情報に基づいて、オペレータに設定寿命の調整(設定寿命の延長または短縮)を提案する。
【0023】
表示部24は、例えば、工作機械100を包囲する上述のカバーに取り付けられた操作盤(図示せず)に取り付けられたタッチパネル(図示せず)により形成することができる。入力部26は、操作盤に配設されているキーボード(図示せず)やボタン(図示せず)により形成することができる。表示部24がタッチパネルにより形成される場合、該タッチパネルによって入力部26を形成してもよい。制御装置10が、イーサネット(登録商標)(IEEE 802.3)のような通信ネットワークを介して、CAD(Computer Aided Design)システム、CAM(Computer Aided Manufacturing)システム、他の工作機械の制御装置(図示せず)等のコンピュータ装置に接続されている場合には、こうしたコンピュータ装置によって入力部26を形成することもできる。
【0024】
工具管理部12は、工具マガジン112に収納されている工具Tに関連した情報を、当該工具Tの工場工具番号、プログラム工具番号、工具個体番号、および工具マガジン112内において工具Tが装着されている収納ポットに対応したポット番号に関連付けて記憶している。こうした工具Tに関する情報は、入力部26からオペレータが入力することができる。
【0025】
或いは、工具管理部12は、入力部26としてのCADシステムにアクセスして、CADシステムが生成した加工プログラムを解析し、該加工プログラム中に記述されている工具を抽出し、更に、該工具のプログラム工具番号に対応する工場工具番号から、工作機械100が設置されている工場が備えている工具データベースを検索して、該工具のタイプ、工具径、工具長、設定寿命等の当該工具の情報を獲得、記憶するようにできる。
【0026】
工具管理部12は、記憶した工具情報に基づいて、図2図5に示すような工具リストを生成することができる。一例として図2図5に示す工具リストは、工具情報として、当該工具Tのタイプ、工具径、工具長および設定寿命を含んでいる。
【0027】
図2を参照すると、表示部24に表示される画面の一例が示されている。工具管理画面200は、カーソル201、工具リスト202、報知領域204、下移動ボタン203、上移動ボタン205、リセットボタン206および使用延長ボタン208を含んでいる。工具リスト202は、工具マガジン112に収納されている全ての工具Tの各々の工具情報を工場工具番号217、プログラム工具番号218、工具個体番号219および収納ポット220に関連づけて一覧表示する表である。本実施形態では、工具情報は工具概要(工具のタイプ)210、工具径212、工具長214および設定寿命216を含んでいる。工具リスト202は、更に、工具の使用値222および使用延長値224を含んでいる。カーソル201は、後述する使用値のリセット、使用延長値の入力などにおいて、現在対象としている工具はどれか、オペレータに認識させるための表示である。オペレータは、下移動ボタン203、上移動ボタン205を用いて、カーソル201を工具リスト202の上下方向に移動させて、対象の工具を選択することができる。
【0028】
工具リスト202は、工場工具番号217、プログラム工具番号218、工具個体番号219を含む。さらに、収納ポット220は、当該工具Tが工具マガジン112内で装着されている工具ポットの番号である。図2では、工具リスト202は、工場工具番号1001、1002、1003、…の工具が、1番、2番、3番、…の工具ポットにそれぞれ収納されていることを示している。
【0029】
工具概要210は当該工具Tのタイプを表している。図2では、工具リスト202は、工場工具番号1001、1002、1003…の工具は、それぞれPCDフェースミル、超硬ドリル、ハイスタップ、…であることを示している。工具径212は、工具Tの切刃の先端が描く円の直径(mm)である。図2では、工具リスト202は、工場工具番号1001、1002、1003…の工具の工具径は、それぞれ80mm、5mm、6mm、…であることを示している。
【0030】
工具長214は、工具Tが装着されている工具ホルダ(図示せず)の基準位置から工具Tの中心軸線に沿って測定した工具Tの刃先位置までの長さ(mm)である。図2では、工具リスト202は、工場工具番号1001、1002、1003…の工具の工具長は、それぞれ120mm、130mm、145mm、…であることを示している。なお、「刃先位置」は、工具Tの種類や加工プログラムの運用ポリシーに基づいて、多様に設定できる。例えばドリル工具であれば直径部分、所謂肩部に設定してもよいし、最も先端である頂点部に設定してもよい。
【0031】
設定寿命は、摩耗によって使用できなくなる前に工具Tを交換する目安となる予め設定された値である。本実施形態では、設定寿命として、工具Tの各々について切削距離(mm)が予め設定されている。設定寿命は、工作機械100のオペレータが入力してもよいし、或いは、工場に備えられている工具データベースから入力(ダウンロード)することができる。図2では、工具リスト202は、工場工具番号1001、1002、1003…の工具について工具寿命として設定されている切削距離は、それぞれ900000mm、720000mm、90000mm、…であることを示している。
【0032】
使用値222は、工具Tの使用に関連して増加するパラメータであり、本実施形態では、工具Tが実際にワークWの切削に用いられた実切削距離(mm)である。工具管理部12は、ワークWの加工中の工具Tの先端点の移動距離である切削距離を使用値として累積、記憶する。工具管理部12は、例えば、実行された加工プログラムを解析することによって、加工に用いた工具Tの実切削距離を算出することができる。図2では、工具リスト202は、工場工具番号1001、1002、1003…の各工具は、既に804331mm、720024mm、62055mm、…実際に加工のために使用していることを示している。使用値の累積、記憶は、工具Tによる加工が終了したタイミングでおこなってもよいし、工具Tによる加工を含む工程すべてが終了したタイミングでおこなってもよい。
【0033】
ある工具が設定寿命に達したとき、一般的にはオペレータは、目視によって該工具の摩耗状態を確認する。その結果、工具の摩耗状態が真の寿命に達していると判断した場合には、オペレータは該工具を未使用の新品工具と交換して使用値をリセットする。ここで、真の寿命とは、工具の摩耗状態が該工具の加工において求められる結果や精度を達成できない程度に進行している状態を示す。別の結果として、工具の摩耗状態が真の寿命に達しておらずまだ加工に使用できると判断した場合には、オペレータは摩耗状態の程度に応じて工具の使用を延長する。本発明では、オペレータが工具の使用延長を選択したときに、後述するように、延長すべき切削距離がオペレータにより工具管理部に入力され、使用延長値224として工具リスト202に表示される。図2では、工場工具番号1001、1002、1003…の各工具について、使用延長されていないことを示している。
【0034】
報知部14は、使用値222が設定寿命216に到達した設定寿命到達工具の存在をオペレータに報知する。報知部14は、任意の工具Tの工具使用値222が更新されたとき、設定寿命216へ到達したかどうかを確認し、到達していれば、表示部24に該工具が設定寿命に到達していることを報知する。例えば、図2を参照すると、工場工具番号1002の工具の使用値222は720024mmとなっており、これは設定寿命216を超過している。このとき、報知部14は、工具管理画面200の報知領域204に、工場工具番号1002の工具使用値(実切削長さ)が設定寿命に到達したことを表示することで、オペレータに設定寿命到達工具の存在を報知する。報知部14は、オペレータに対して音や音声などで工作機械100へ誘導してから、表示部24において設定寿命に到達した工具が存在することを報知してもよい。
【0035】
工具管理画面200は、工具の交換の際、或いは、使用延長の際に使用する、リセットボタン206と使用延長ボタン208を含んでいる。リセットボタン206と使用延長ボタン208は、常時表示されていても、或いは、1つの工具が設定寿命に到達したときに、工具管理画面200内に表示されるようにしてもよい。
【0036】
1つの工具が設定寿命に到達し、オペレータが目視確認の結果工具交換を選択した場合、オペレータは、工具マガジン112内に収納されている当該工具を未使用の新品工具と交換し、工具個体番号219を該新品工具のものに変更する。図3を参照すると、ここでは「1002-202300231」に変更されたことがわかる。オペレータによる工具の交換は、工具段取り部において、工作機械100による加工を停止して、或いは、停止することなく、行うことができる。工具交換が終了した後、オペレータがカーソル201を工場工具番号1002の工具に合わせてリセットボタン206をタップすると、受付部16が設定寿命に到達した当該工具に対する使用値のリセットを受付け、工具管理部12の当該工具の使用値をリセットする。つまり工具管理部12が記憶する当該工具の使用値を0(零)にする(図3参照)と共に、蓄積処置情報記憶部18に、当該工具について工具交換が行われたことを書き込む。
【0037】
1つの工具が設定寿命に到達し、オペレータが目視確認の結果使用延長を選択した場合、オペレータは当該工具を工具マガジンに戻す。そしてオペレータは、使用延長値を設定する。このときオペレータが使用延長ボタン208をタップすると、受付部16は、工具管理画面200の使用延長値の編集を可能とする。これにより、図2の例では、工場工具番号1002の工具の使用延長値の欄224aがアクティブになり、オペレータが望む使用延長値を入力可能となる。受付部16は、使用延長ボタン208がタップされたときに、対応する工具の使用延長値を入力するダイアログボックス(図示せず)を工具管理画面200に重ねて表示するようにしてもよい。図4を参照すると、工場工具番号1002の工具の使用延長値の欄224aに、オペレータが入力した使用延長2000(mm)が表示されている。受付部16は、オペレータが使用延長ボタン208をタップすると、使用延長を受付け、次いでオペレータが使用延長値を入力すると、当該工具、本実施形態では工場工具番号1002の工具について2000(mm)の使用延長がなされたことを蓄積処置情報記憶部18に書き込む。こうして、使用延長値2000(mm)が入力されたことで、当該工具は引き続き切削を行うことができる。そして、工場工具番号1002の工具の使用値が、従来の設定寿命720000mmと、使用延長値2000mmを足した距離に達したとき、報知部14は再びオペレータへ設定寿命到達工具が発生したことを報知する。
【0038】
このようにして、複数の工具の各々について、使用値が設定寿命に到達したときにオペレータが行った処置に関連する情報または履歴が、蓄積処置情報記憶部18に記憶される。図6を参照すると、蓄積処置情報記憶部18に記憶されている蓄積処置情報の一例が示されている。図6に示す蓄積処置情報300は、工具個体番号302、処置304、使用延長値306および処置日時308を含んでいる。
【0039】
工具個体番号302は、図2図5の工場工具番号217に識別番号を付して表記されている。図6では、工具個体番号302a、302b、302cは、図2図5の工場工具番号1002の工具(超硬ドリル)で202300240という識別番号を有した同じ個体の工具であり、302e、302g、302hは、同じ工場工具番号1002を有しているが、識別番号202300240とは異なる識別番号202300241を有した別の個体の工具であることを示している。同様に、工具個体番号302d、302fは、同じ工場工具番号1001を有しているが、それぞれ202300188、202300189という異なる識別番号を有した別の個体の工具であることを示している。工具個体番号は、工具室で組み立てられたとき、工具個々に付与される。工具組立の際、工具個体番号書き込み装置によって工具に取り付けられたIDチップに工具個体番号が書き込まれる。そして工具マガジン112に収納される際、工作機械100に備えられた工具個体番号読み取り装置によってIDチップが記憶する工具個体番号を読み取り、表示部24に表示し、オペレータがこれを確認した上で工具管理部112へ送信し、工具管理部12における該工具の工具個体番号として入力できる。工具個体番号は、組立の際工具本体に印字されてもよい。工具マガジン112に収納される際には、オペレータが目視しながら入力部26で工具管理部12の情報を書き換えてもよい。
【0040】
図6の蓄積処置情報300は、工具個体番号1002-202300240の工具は、2023年7月24日11時20分2秒と、2023年7月27日15時02分18秒に、それぞれ2000(mm)、1000(mm)使用延長された後、2023年8月3日9時08分45秒に真の寿命と判断されて同じ種類の新しい工具に交換されていることを示している。交換された新しい工具、つまり工具個体番号1002-202300241の工具も2023年8月7日10時23分41秒と、2023年8月18日16時19分5秒に、それぞれ1500(mm)、1000(mm)使用延長されている。蓄積処置情報300は、更に、工具個体番号1001-202300188の工具について、2023年8月5日13時30分39秒に同じ種類の新しい工具に交換したことを示している。蓄積処置情報300は、更に、工具個体番号1003-202300098の工具について、2023年8月23日9時21分20秒に工具破損を原因として同じ種類の新しい工具に交換したことを示している。
【0041】
一例として図6に示すように、設定寿命に到達した工具に対して過去に行った処置を蓄積すると、個々の工具について設定寿命を調整できることが理解されよう。例えば、同じ工場工具番号1002を有する2つの工具は、それぞれ2回ずつ使用延長した後に交換されている。この蓄積処置情報は、工具の真の寿命が従来の設定寿命より後に到来している結果と考えることができる。従って、設定寿命216を延長することによって、オペレータへの報知を工具交換に適したタイミングに調整することができる。結果として、オペレータの目視確認及び使用延長の回数が少なくなるので、オペレータの作業効率を向上させることが可能となる。或いは、同じ工場工具番号1001を有する異なる2つの工具は、それぞれ使用延長することなく交換されている。この蓄積処置情報は、工具の真の寿命が従来の設定寿命より先に到来している結果と考えることができる。従って、設定寿命216を短縮して、オペレータへの報知を工具交換に適したタイミングに調整することができる。結果として、工具の摩耗による加工精度や加工効率の低下を未然に防止することが可能となる。
【0042】
そのために本発明では、蓄積処置情報300に基づき、提案部20が設定寿命の調整を提案するようになっている。設定寿命の調整は設定寿命の延長または短縮である。そのために、提案部20は、設定寿命の調整(増減)に関する提案を行うための蓄積処置情報300に対応した提案条件を予め記憶する提案条件記憶部22を有している。なお、1本の工具の蓄積処置情報に基づいて設定寿命の調整を提案してもよいが、同種、つまり同じ工場工具番号を有する複数の工具の蓄積処置情報に基づいて設定寿命の調整を提案することによって、提案の信頼性が向上する。
【0043】
蓄積処置情報のひとつのケースは、過去に使用延長がなされていないことである。つまり、ある特定の工場工具番号を有した工具またはある特定の工具個体番号を有した工具について、使用延長することなく、毎回、使用値が設定寿命に到達したときに、この工具を新しい工具に交換している場合、提案部20は、提案条件として、設定寿命の短縮を提案するようにできる。図5を参照すると、工具管理画面200の提案表示領域230に、工具番号1001の工具の設定寿命の短縮と、その理由が表示されている。
【0044】
また、提案条件は、以下の条件1~条件3とすることができる。つまり、提案部20は、条件1~条件3の何れか1つが満たされた場合に、設定寿命の延長を提案するようにできる。条件1~条件3は、2つまたは3つを組み合わせてもよい。つまり、提案部20は、条件1~条件3のうち2つが満たされた場合、或いは、3つの全てが満たされた場合に、設定寿命の延長を提案するようにできる。条件1~条件3に記載されている各数値は、これに限定されず、変更することができる。図5には、工具1002の設定寿命の延長と、その理由が表示されている。
【0045】
(条件1)ある特定の工場工具番号を有した工具について、過去に所定数の工具個体で所定の回数以上の使用延長された工具が所定数以上存在する。例えば、過去10本の工具個体で2回以上使用延長された工具が6本以上存在する。
(条件2)ある特定の工場工具番号を有した工具について、過去に所定数の工具個体の使用延長の回数の合計が所定数以上である。例えば、過去10本の工具個体の使用延長の回数の合計が15回以上である。
(条件3)ある特定の工場工具番号を有した工具について、過去に所定数の工具個体の使用延長値の平均が設定寿命の所定の割合以上である。例えば、過去10本の工具個体の使用延長値の平均が、設定寿命の15%以上である。
【0046】
本実施形態によれば、使用値が設定寿命に到達した工具に対して、過去に実施した処置(新品の工具と交換して使用値リセット、または、新品の工具と交換することなく使用延長)に応じて、設定寿命の調整を提案し、オペレータの作業効率や工作機械100の生産性を高めることが可能となる。
【0047】
また、既述の実施形態では、提案部20は、使用値が設定寿命に到達した工具の交換に関連して、設定寿命の調整を提案するようになっているが、設定寿命の調整、特に延長の提案に際して、オペレータに、ワークWの素材の状態を見直す機会を提供することもできる。ここでいう素材とは、ワークWが、工作機械100に投入される前の状態、つまり加工される前の状態を示す。例えば、図7に示すように、素材鋳造工程の変更により、素材状態のワークの表面高さが、該素材状態のワークの表面を加工する工具の設定寿命を検討した当初よりも低くなることがある。
【0048】
図7において、工具(フェースミル)TFMの設定寿命を検討した当初、ワークW1は高さH1を有しており、工具TFMによってワークW1を3つの加工パスP1、P2、P3に沿って加工して、仕上げ高さH0まで表面加工する計画であった。その後、素材鋳造工程の変更により、ワークW1は、高さH1よりも低い高さH2を有したワークW2に変更された。そのため、ワークW2は2つの加工パスP4、P5のみによって仕上げ高さH0まで加工可能となった。ここでは、加工パスP4、P5は加工パスP2、P3とそれぞれ一致する。
【0049】
こうした場合、工具TFMによる表面加工工程は、従前のワークW1の表面寸法に合わせた3つの加工パスP1、P2、P3の内、加工パスP1において、工具TFMは空振り状態となり、加工は行わない。このため、実際に切削している距離は短くなり、工具TFMの摩耗が減少する。そして、使用値が設定寿命に達したとき、工具TFMの摩耗状態を確認したオペレータは、想定よりも摩耗が進行していないことに気付いて使用延長を選択する傾向にある。つまり、蓄積処置情報300において使用延長の距離や回数が多い工具が存在する場合、提案部20は、設定寿命の延長に併せて、オペレータに素材状態の確認を提案することができる。このとき、提案表示領域230には、「素材状態を確認してください」等のメッセージを表示することができる。提案によって、オペレータは素材状態の確認を行い、加工パスP1を省略するように加工プログラムを変更し、工具TFMが空振りしないようにできる。この改善によって、加工時間は短縮され、尚且つ工具が設定寿命に到達するタイミングも真の寿命に近いものとなるので、オペレータの目視確認、使用値延長の頻度も小さくすることができる。
【0050】
統計部28によって、蓄積処置情報300の統計を行い、可視化してオペレータに提示してもよい。図8は、統計部28が任意期間(ここでは2023年10月1日から10月31日)における蓄積処置情報300について、予め定めた処置の種別に回数を統計し可視化した、蓄積処置情報統計400を示す。蓄積処置情報統計400は、たとえば表示部24に表示することができる。
【0051】
蓄積処置情報統計400について説明する。工具In統計410は、オペレータが工具マガジン112に工具を入れた処置の統計を示す。工具In回数410aは、理由は問わず任意期間内にオペレータが工具を工具マガジン112に何度入れたかを示す。これは後述する理由別の工具を入れた回数の合計と一致する。寿命到達時の新品交換回数410bは、設定寿命到達時、新品への交換が何度行われたかを示す。使用値延長回数410cは、設定寿命到達時、仕様延長が何度行われたかを示す。工具破損時の新品交換回数410dは、工具破損に伴う工具交換が何度行われたかを示す。なお、工具破損の発生は、工作機械100が備える工具破損装置(図示せず)が工具の破損を検知した後に、報知部14によって工具の破損を報知されたオペレータが、該工具を交換し使用値のリセットを行ったとき、受付部16が蓄積処置情報記憶部18へ工具破損時の新品への交換として記憶することができる。工程変更時の工具追加回数410eは、加工工程及び加工プログラムに変更があり、新規の工具を空いているポットに追加した回数を示す。工具Out統計420は、オペレータが工具マガジン112から工具を出した処置の統計を示す。工具Out回数420aは、理由は問わず任意期間内にオペレータが工具を工具マガジン112から何度出したかを示す。これは後述する理由別の工具を出した回数の合計と一致する。寿命到達時の確認回数A420bは、工具が設定寿命に到達してから「所定期間以内」に、オペレータが目視確認を行った回数を示す。寿命到達時の確認回数B420cは、工具が設定寿命に到達してから「所定期間を超えて」オペレータが目視確認を行った回数を示す。所定期間は自由に設定できる。例えば、所定期間は、「設定寿命に到達したときから4時間以内の期間」としてもよい。工具破損による確認回数420dは、工具破損が報知された後に工具を取り出し確認した回数を示す。工程変更時の工具除外回数420eは、加工工程及び加工プログラムに変更があり、不要になった工具を工具マガジン112から取り出して除外した回数である。ここで、工具In回数410aと工具Out回数420aは必ずしも一致しない。例えば、工程変更時の工具追加回数410eと、工程変更時の工具除外回数420eは必ずしも一致しないためである。
【0052】
蓄積処置情報統計400によって、工作機械100で行われた加工や生産を分析し、改善すべき様々な課題を発見することができる。例えば、寿命到達時の確認回数B420cが多い(例えば寿命到達時の確認回数A420bよりも多い)場合、設定寿命到達工具が存在するにも関わらず、オペレータが工具の状態を確認するまでに時間を要している傾向を把握することができる。つまり、オペレータの勤務負荷が適切でない状況だと推測して、勤務人数や勤務シフトを見直す改善のトリガにすることができる。また、工具破損による確認回数420dが多ければ、加工工程や加工条件が適切でない状況だと推測して、加工工程や加工条件を見直す改善のトリガにすることができる。
【0053】
また、蓄積処置情報統計400は、任意の種別の処置に関して、処置内訳を表示することもできる。例えば、図8において使用値延長回数410cについての処置内訳430が表示されている。処置内訳430は、使用値延長回数410cが表示されている領域をタップすることでポップアップ表示される。処置内訳430には、使用値延長を行った回数が多い上位3種類の工場工具番号が表示されており、工場工具番号2010の工具については使用値延長が12回行われており、使用値延長の回数が他工具に比べて突出していることがわかる。つまり、工場工具番号2010の工具の設定寿命が適切でないか、または工場工具番号2010の工具の目視確認をおこなったオペレータの目視スキルが適切でないことを予測し、改善のトリガにすることができる。もちろん、使用値延長回数410c以外の情報について処置内訳430が表示されてもよいし、処置内訳430に表示される情報は、回数上位の3種類の工具の工場工具番号でなく回数上位の5種類の工具の工場工具番号でもよい。
【0054】
本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明は既述の実施形態に限定されず、種々の変更と改良が可能であることは、当業者の当然とするところである。
例えば、図1には、本発明を適用する工作機械の一例として横形マシニングセンタを構成する工作機械100が示されているが、本発明は立形の工作機械にも適用することができる。また、工作機械100は、X、Y、Zの直交3軸の直線送り軸を有するように説明したが、工作機械100は直交3軸の直線送り軸に加えて、少なくとも1つの回転送り軸を有していてもよい。
【0055】
また、既述の実施形態では、提案装置を形成する制御装置10は、工作機械100のNC装置や機械制御装置の一部として形成できると説明したが、提案装置としての制御装置10は、工作機械100のNC装置や機械制御装置とは別のコンピュータ装置によって形成してもよい。例えば、複数の工作機械100を配置して生産設備を形成するような場合、提案装置としての制御装置10は、個々の工作機械100に配設したり、或いは、複数の工作機械100のために設けたりすることができる。更に、複数の工作機械100を含めた生産設備(図示せず)全体を制御する統合制御装置(図示せず)の一部に形成してもよい。
【0056】
更に、既述の実施形態では、設定寿命、使用値、使用延長値は切削距離であるが、これらは切削時間であってもよい。この場合、提案装置としての制御装置10は、主軸サーボモータの負荷の変化と、RTC(リアルタイムクロック)による計測時間に基づいて切削時間を演算することができる。更に、既述の実施形態では工具の径情報は直径であるが、半径でもよい。
【0057】
複数の工作機械100のために提案装置として制御装置10が配設される場合、報知部14は、複数の工作機械100の各々が備えている操作盤のタッチパネルのような表示装置および/または生産設備全体を制御する統合制御装置の表示装置に、使用値が設定寿命に到達した工具が存在することを表示するようにできる。報知を受けた統合制御装置は、使用値が設定寿命に到達した工具が存在する工作機械100の工具マガジン112または加工室(図示せず)に設置されたカメラ(図示せず)で、工具Tの摩耗状態を撮像し、画像データから真の寿命に到達したかどうかを判断するようにできる。その結果、工具Tを交換すべきと判断される場合には、統合制御装置からオペレータや自動搬送装置に工具交換指令を発するようにできる。交換せず使用延長すべきと判断される場合には、統合制御装置から、生産設備の提案装置としての制御装置10の工具管理部12へ該工具Tの設定寿命の延長を指示する。設定寿命をどの程度延長するか、摩耗状態に応じて決定するようにできる。
【符号の説明】
【0058】
10 制御装置
12 工具管理部
14 報知部
16 受付部
18 蓄積処置情報記憶部
20 提案部
22 提案条件記憶部
24 表示部
26 入力部
100 工作機械
102 ベッド
104 コラム
106 サドル
108 主軸頭
110 主軸
112 工具マガジン
114 テーブル
116 Z軸スライダ
118 ワーク取付具
200 工具管理画面
202 工具リスト
204 報知領域
206 リセットボタン
208 使用延長ボタン
210 工具概要
212 工具径
214 工具長
216 設定寿命
220 収納ポット
222 使用値
224 使用延長値
230 提案表示領域
300 蓄積処置情報
【要約】
【課題】使用値が設定寿命に達した工具に、過去にどのような処置をしたかに応じて、工具の設定寿命の調整を提案する提案装置および提案方法を提供すること。
【解決手段】工作機械100の工具Tの設定寿命の調整を提案する提案装置10が、工具の種類ごとに予め設定した設定寿命を記憶する工具管理部12と、工具の使用値が設定寿命に到達した工具の存在を報知する報知部14と、使用値のリセットまたは使用延長を受付ける受付部16と、使用値のリセットまたは使用延長を工具個体別に蓄積処置情報として記憶する蓄積処置情報記憶部18と、蓄積処置情報に対応した提案条件を予め記憶する提案条件記憶部22を有し、設定寿命到達工具が属する種類の工具の設定寿命の調整を提案する提案部20とを具備する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8