(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-14
(45)【発行日】2025-03-25
(54)【発明の名称】不焼成マグネシアスピネルれんが及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/043 20060101AFI20250317BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20250317BHJP
【FI】
C04B35/043 500
F27D1/00 N
(21)【出願番号】P 2023219900
(22)【出願日】2023-12-26
【審査請求日】2024-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000138772
【氏名又は名称】株式会社ヨータイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】田中 憲一
(72)【発明者】
【氏名】芝原 茉依
(72)【発明者】
【氏名】木村 健二
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-253782(JP,A)
【文献】特開平07-101780(JP,A)
【文献】特開平11-157917(JP,A)
【文献】特開昭62-158158(JP,A)
【文献】特開2003-335572(JP,A)
【文献】特開2020-128320(JP,A)
【文献】特開2018-015451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/043
C04B 35/443
F27D 1/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシア及びスピネルを主成分とし、1~2質量%の塩基性乳酸アルミニウムを含む耐火性原料100%に対して、外掛けで1~2質量%のアルミン酸ソーダ水溶液を添加して混練した後、任意の形状の成形体を得る第一工程と、
前記第一工程で得た前記成形体を乾燥させる第二工程と、を有
し、
前記アルミン酸ソーダ水溶液のAl
2
O
3
固形分濃度を10~20質量%とし、
前記第二工程における前記乾燥の温度を200~320℃とすること、
を特徴とする不焼成マグネシアスピネルれんがの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にセメント石灰等を焼成する炉の内張り等として使用することができる耐火物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシアスピネルれんがは、耐熱スポーリング性と容積安定性に優れ、主にセメントや石灰を焼成するロータリーキルンで使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開平08-026816号公報)においては、「セメント原料や石灰原料等を焼成するロータリーキルンの内張り用煉瓦に好適なマグネシアスピネル質耐火物を提供すること。」を課題として、「ZrO2を3~10%含んだスピネルクリンカー15~30%と、高純度で大結晶径の電融マグネシアクリンカー又は海水マグネシアクリンカーを50~80%有することを特徴とするマグネシアスピネル質耐火物。」が提案されている。
【0004】
上記特許文献1に記載のマグネシアスピネル質耐火物においては、高温操業下でも安定的に使用可能にするため、MgO量が98%で結晶粒径が50μm以上の大結晶径を有する電融マグネシアクリンカーを使用し、また、ZrO2を3~10%含んだスピネルクリンカーを使用することにより、焼結促進効果をもたせて熱問強度を高めたものである、とされている。
【0005】
また、特許文献2(特開平07-061857号公報)に記載の耐用性マグネシア-スピネル質セメント及び石灰焼成キルン用耐火物においては、「マグネシアスピネル質れんがが有する優れた耐スポーリング性を何等阻害することなく耐摩耗性を改善したマグネシアスピネル質れんがを提供すること。」を課題として、「マグネシアクリンカーとMgO-Al2O3系スピネルクリンカーを配合してなるマグネシア-スピネル質耐火物において、前記マグネシアクリンカーとして、かさ比重が3.20~3.37の範囲内にある焼結マグネシアクリンカーを20重量%以上使用してなる高耐用性セメント及び石灰焼成キルン用マグネシア-スピネル質焼成れんが。」が提案されている。
【0006】
上記特許文献2に記載の耐用性マグネシア-スピネル質セメント及び石灰焼成キルン用マグネシア-スピネル質焼成れんがにおいては、単に所定のかさ比重のマグネシアクリンカーを使用することで他の物性を犠牲にすることなく、耐摩耗性を向上させるために熱間強度を上昇させることを可能にした、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平08-026816号公報
【文献】特開平07-061857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載のマグネシアスピネル質耐火物及び上記特許文献2に記載の耐用性マグネシア-スピネル質セメント及び石灰焼成キルン用耐火物は、何れも焼成工程を経て製造される焼成耐火物であり、製造工程における大量の二酸化炭素の排出が不可避である。
【0009】
これに対し、近年のカーボンニュートラルや地球温暖化抑制の観点からは、焼成工程を必要としない不焼成耐火物が優れているが、耐熱スポーリング性と容積安定性に優れた高強度な不焼成マグネシアスピネルれんがは存在しないのが実情である。
【0010】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、二酸化炭素排出量の低減に資する、耐熱スポーリング性と容積安定性に優れ、高い熱間強度を発現する不焼成マグネシアスピネルれんが及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、不焼成マグネシアスピネルれんが及びその製造方法について鋭意研究を重ねた結果、耐火性原料に塩基性乳酸アルミニウムを含有させると共に、混練時にアルミン酸ソーダ水溶液を添加すること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
即ち、本発明は、
マグネシア及びスピネルを主成分とし、1~2質量%の塩基性乳酸アルミニウムを含む耐火性原料100%に対して、外掛けで1~2質量%のアルミン酸ソーダ水溶液を添加して混練した後、任意の形状の成形体を得る第一工程と、
前記第一工程で得た前記成形体を乾燥させる第二工程と、を有すること、
を特徴とする不焼成マグネシアスピネルれんがの製造方法、を提供する。
【0013】
従来、焼成工程を経ない不焼成マグネシアスピネルれんがでは、高強度かつ耐熱スポーリング性と容積安定性に優れることに加え、高い熱間強度を発現するものを見いだせていなかった。これに対し、本発明の不焼成マグネシアスピネルれんがにおいては、適量の塩基性乳酸アルミニウムとアルミン酸ソーダ水溶液を混合することで、これらの特性を全て付与することができる。
【0014】
より具体的には、塩基性乳酸アルミニウムとアルミン酸ソーダを適量混合することで、ゲル化が生じ、乳酸アルミニウムが生成する。乳酸アルミニウムは保湿効果を有していることから、坏土の乾燥が抑制され、良好な成形体を得ることができる(第一工程)。
【0015】
また、得られた成形体を適切な温度で乾燥させると、乳酸ナトリウムなどの乳酸塩が分解せずに残り、強度の低下を抑制することができる(第二工程)。
【0016】
本発明の不焼成マグネシアスピネルれんがの製造方法においては、前記アルミン酸ソーダ水溶液のAl2O3固形分濃度を10~20質量%とすること、が好ましい。
【0017】
塩基性乳酸アルミニウムを含有する耐火性原料100%に対して、外掛けで1~2質量%のAl2O3固形分濃度が10~20質量%のアルミン酸ソーダ水溶液を添加することで、実炉で使用される際の加熱過程で乳酸ナトリウムなどの乳酸塩が分解して乳酸が蒸発し、活性度の高いアルミニウムがマグネシアと反応し、アルミニウムとマグネシアとの反応によるスピネル化を十分かつ円滑に進行させることができる。
【0018】
更に、本発明の不焼成マグネシアスピネルれんがの製造方法においては、前記第二工程における前記乾燥の温度を200~320℃とすること、が好ましい。乾燥の温度を200℃以上とすることで、乳酸ナトリウムの分解及び乳酸の分解を抑制しつつ、乾燥を十分かつ円滑に進行させることができ、乾燥の温度を320℃以下とすることで、不焼成マグネシアスピネルれんがの強度の低下を抑制し、乾燥工程に係る二酸化炭素排出量の増加を抑制することができる。
【0019】
また、本発明は、
乳酸イオンを0.5~1.5質量%含み、
1200℃における曲げ強さが5MPa以上であること、
を特徴とする不焼成マグネシアスピネルれんが、も提供する。
【0020】
本発明の不焼成マグネシアスピネルれんがは、本発明の不焼成マグネシアスピネルれんがの製造方法によって得られるものであり、マグネシア及びスピネルを主成分とし、1~2質量%の塩基性乳酸アルミニウムを含む耐火性原料100%に対して、外掛けで1~2質量%のアルミン酸ソーダ水溶液を添加して混練した後、任意の形状の成形体を得る第一工程と、当該第一工程で得た前記成形体を乾燥させる第二工程を経ることで、0.5~1.5質量%の乳酸イオンを含んでいる。
【0021】
また、本発明の不焼成マグネシアれんがは高い熱間強度を有しており、1200℃における曲げ強さが5MPa以上となっている。本発明の不焼成マグネシアれんがの製造方法によって、緻密な成形体が得られ、当該成形体を適切な温度で乾燥させることで乳酸ナトリウムなどの乳酸塩が分解せずに残存する。その結果、1200℃までの加熱過程で乳酸ナトリウムなどの乳酸塩が分解して乳酸が蒸発し、活性度の高いアルミニウムがマグネシアと反応し、アルミニウムとマグネシアとの反応によるスピネル化を十分かつ円滑に進行させることができることから、高い熱間強度を発現することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、二酸化炭素排出量の低減に資する、耐熱スポーリング性と容積安定性に優れ、高い熱間強度を発現する高強度な不焼成マグネシアスピネルれんが及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の不焼成マグネシアスピネルれんが及びその製造方法の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0024】
1.不焼成マグネシアスピネルれんがの製造方法
本発明の不焼成マグネシアスピネルれんがの製造方法は、マグネシア及びスピネルを主成分とし、1~2質量%の塩基性乳酸アルミニウムを含む耐火性原料100%に対して、外掛けで1~2質量%のアルミン酸ソーダ水溶液を添加して混練した後、任意の形状の成形体を得る第一工程と、第一工程で得た成形体を乾燥させる第二工程と、を有するものである。以下、各工程について詳細に説明する。
【0025】
(1)第一工程
第一工程は、マグネシア及びスピネルを主成分とし、1~2質量%の塩基性乳酸アルミニウムを含む耐火性原料100%に対して、外掛けで1~2質量%のアルミン酸ソーダ水溶液を添加して混練した後、任意の形状の成形体を得るための工程である。
【0026】
(1-1)主成分
主成分となる耐火性原料には、マグネシア粒子及びスピネル粒子を用いることができる。マグネシア粒子とスピネル粒子の混合割合は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、不焼成マグネシアスピネルれんがの所望の特性に応じて適宜調整すればよい。
【0027】
マグネシア粒子及びスピネル粒子は、粒度の異なる原料を混合することが好ましい。異なる粒度の原料を混合して使用することで、不焼成マグネシアスピネルれんがに良好な耐熱スポーリング性を付与することができる。
【0028】
マグネシア原料の種類は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、例えば、従来公知の電融マグネシア、海水マグネシア及び天然マグネシア等を使用することができる。また、マグネシア原料の純度に関して、不純物による耐食性の低下や過焼結の影響を避けるために、95重量%以上の高純度のものを使用することが好ましい。
【0029】
スピネル原料の種類及びMgOとAl2O3の比率は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、例えば、従来公知のアルミナ-マグネシアスピネル(MgAl2O4)を用いることができる。また、スピネル原料についても、マグネシア原料と同様に、95重量%以上の高純度のものを使用することが好ましい。スピネル原料は特に限定されるものではなく、電融スピネル、焼成スピネル等を使用することができる。
【0030】
(1-2)必須の添加成分(バインダー)
必須の添加成分として、1~2質量%の塩基性乳酸アルミニウムを添加する。また、マグネシア及びスピネルを主成分とし、1~2質量%の塩基性乳酸アルミニウムを含む耐火性原料100%に対して、外掛けで1~2質量%のアルミン酸ソーダ水溶液を添加する。
【0031】
アルミン酸ソーダ水溶液のAl2O3固形分濃度は10~20質量%とすることが好ましく、14~18質量%とすることがより好ましい。1~2質量%の塩基性乳酸アルミニウムを含有する耐火性原料100%に対して、外掛けで1~2質量%のAl2O3固形分濃度が10~20質量%のアルミン酸ソーダ水溶液を添加することで、アルミニウムとマグネシアとの反応によるスピネル化を十分かつ円滑に進行させることができる。
【0032】
(1-3)任意の添加成分
例えば、成形助剤として、耐火性原料100%に対して、外掛けで1~3質量%のソルビトールを添加することができる。ソルビトールはD-ソルビトールを主成分とし、HOCH2(CHOH)4CH2OHで表され、粉末で水に容易に溶解し、一般的には界面活性剤や食品添加物として使用されている。ソルビトールを添加することで、混練杯土の充填性、粒子間の潤滑性を向上させ、杯土の経時変化を低減し、かつスレーキングを抑制する。また、毒性もなく、高い成形密度の成形体を得ることができる。また、にがりや硫酸マグネシウムなどの焼成スピネルれんがの成形助剤として使用されている添加材も使用することができる。
【0033】
その他、本発明の効果を損なわない限りにおいて、マグネシアスピネルれんがに関してアルミナ、ジルコニアや酸化鉄など、従来公知の種々の任意の成分を添加してもよい。
【0034】
(1-4)混練及び成形
主成分とする耐火性原料、必須の添加成分及び任意の添加成分を混練し、任意の形状に成形する。混練及び成形の方法は特に限定されず、耐火物の製造に用いられている従来公知の種々の方法を適用することができる。
【0035】
ここで、本発明の不焼成マグネシアスピネルれんがの製造方法においては、アルミン酸ソーダと塩基性乳酸アルミニウムを適量混合することで、ゲル化が生じ、乳酸アルミニウムが生成する。乳酸アルミニウムは保湿効果を有していることから、坏土の乾燥が抑制され、良好な成形体を得ることができる。
【0036】
(2)第二工程
第二工程は、第一工程で得た成形体を乾燥させ、不焼成マグネシアスピネルれんがを得るための工程である。
【0037】
第一工程で得られた成形体を適切な温度で乾燥させると、乳酸ナトリウムなどの乳酸塩が分解せずに残り、強度の低下を抑制することができる。
【0038】
乾燥の温度は200~320℃とすることが好ましい。乾燥の温度を200℃以上とすることで、余剰の水分が蒸発して脱水し強度を上げることができる。また、乾燥の温度を320℃以下とすることで、乳酸ナトリウムなどの乳酸塩が分解せずに残り、強度の低下を抑制することができ、かつ乾燥工程に係る二酸化炭素排出量の増加を抑制することができる。乾燥の温度は250~300℃とすることがより好ましい。
【0039】
成形体を乾燥させる方法は特に限定されず、不焼成耐火物の製造に用いられている従来公知の種々の方法を適用することができる。
【0040】
なお、本発明の不焼成マグネシアスピネルれんがの製造方法は、乾燥後の不焼成マグネシアスピネルれんがを適当な条件で焼成することを妨げるものではない。
【0041】
2.不焼成マグネシアスピネルれんが
本発明の不焼成マグネシアスピネルれんがは、乳酸イオンを0.5~1.5質量%含み、1200℃における曲げ強さが5MPa以上であること、を特徴としている。
【0042】
不焼成マグネシアスピネルれんがにおける乳酸イオンの含有量を測定する方法は、特に限定されず、従来公知の種々の測定方法を用いることができ、例えば、熱重量分析で乳酸イオンを定量することができる。より具体的には、示差熱-熱重量同時分析装置を用い、不焼成マグネシアスピネルれんがをエアー流下で昇温し、乳酸アルミニウム及び乳酸ナトリウム由来の乳酸の分解蒸発温度である350~400℃における重量変化を測定すればよい。
【0043】
また、不焼成マグネシアスピネルれんがの1200℃における曲げ強さを測定する方法は、特に限定されず、従来公知の種々の測定方法を用いることができる。例えば、熱間曲げ試験装置を用い、1200℃の大気雰囲気下で三点曲げ試験を実施すればよい。不焼成マグネシアスピネルれんがの1200℃における曲げ強さは7MPa以上であることが好ましく、9MPa以上であることがより好ましい。
【0044】
また、本発明の不焼成マグネシアスピネルれんがは室温においても十分な強度を有しており、同等の組成を有して乳酸イオンを含まない焼成マグネシアスピネルれんがよりも高い圧縮強さを有している。
【0045】
更に、本発明の不焼成マグネシアスピネルれんがは優れた耐食性、熱間スポーリング性及び耐組織脆化性を有している。具体的には、同等の組成を有して乳酸イオンを含まない焼成マグネシアスピネルれんがと同程度の耐食性、熱間スポーリング性及び耐組織脆化性を有している。
【0046】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0047】
≪実施例≫
表1に実施例1~実施例6として示す割合で原料を調整し、高速ミキサーで混練し、230×230×85mmの形状において、油圧プレスにより成形した。乾燥にはバッチ式ドライヤーを用い、200~320℃で8時間保持して本発明の実施例である不焼成マグネシアスピネルれんがを得た。表1の値は質量%を示し、アルミン酸ソーダ水溶液、ソルビトール水溶液及び水の添加量は、マグネシアクリンカー、スピネルクリンカー及び塩基性乳酸アルミニウムの合計量に対する外掛けの値として示している。また、マグネシアクリンカー及びスピネルクリンカーについては粒度、アルミン酸ソーダ水溶液についてはAl2O3固形分濃度(質量%)を示している。
【0048】
≪比較例≫
表1に比較例1~比較例8として示す割合で原料を調整したこと以外は実施例と同様にして、不焼成マグネシアスピネルれんがを得た。ここで、比較例1についてのみ、トンネルキルン式焼成窯を用い、最高温度1750±10℃で焼成した。
【0049】
【0050】
[評価]
実施例及び比較例として得られた各不焼成マグネシアスピネルれんがについて、耐食性、圧縮強さ、熱間強度、耐熱スポーリング性、耐組織脆化性を評価した。加えて、各不焼成マグネシアれんがに含まれる乳酸イオンの含有量を測定した。
【0051】
(1)耐食性
耐食性は回転ドラム侵食試験によって評価した。試験方法は次のとおりである。試験片をドラム内部に内張りし、酸素-プロパンバーナーを使用して1750±50℃で行った。侵食材として、ポルトランドセメント及び硫酸カリウムを5:1の比率で混ぜ合わせたものを投入した。1時間毎に侵食材を交換しながら6時間保持した試験後、試料を稼働面に垂直な方向に切断し、損耗量を8点測定して平均損耗量を出した。平均損耗量は比較例1の侵食量を100とする指数で表示した。得られた結果を表2に示す。指数が小さいほど耐食性に優れることを示しており、当該指数が105以下の場合は〇、105超110未満の場合は△、110以上となった場合を×とした。
【0052】
(2)圧縮強さ
60mm×60mm×60mmの試片を、アムスラー式強度測定試験装置を用いて圧縮強さを測定した。圧縮強度は焼成品である比較例1の焼成マグネシアスピネルれんがを100とする指数で評価した。得られた結果を表2に示す。
【0053】
(3)熱間強度
30mm×30mm×120mmの試片を、熱間曲げ試験装置を用いて熱間強度を測定した。1200℃の大気雰囲気下で三点曲げ(支点間距離80mm)を行った結果を数値(MPa)で表示している。得られた結果を表2に示す。数値が大きいほど熱間強度が高いことを示しており、5未満を×、5以上7未満の場合を△、7以上の場合を〇とした。
【0054】
(4)耐熱スポーリング性
耐熱スポーリング性の評価はJIS R2657に基づく空冷法によって行った。温度条件は1400℃とし、最大10回の加熱冷却を行った。途中で剥落した場合は当該剥落時の操作回数を記録し、最後まで剥落しなかった場合は亀裂の深さを測定した。亀裂の深さを相対比較し、亀裂が大きい場合は「大」、中程度の場合は「中」、小さい場合は「小」とした。得られた結果を表2に示す。
【0055】
(5)耐組織脆化性
耐熱スポーリング性試験後の試件片を稼働面に垂直方向で切断し、切断面の表面状態を確認した。加熱面からの脱粒深さを組織脆化層として、耐組織脆化性を評価した。脱粒範囲が60以下の場合を〇、60超80以下の場合を△、80超の場合を×とした。得られた結果を表2に示す。
【0056】
(6)乳酸イオン含有量
熱重量分析で乳酸イオンを定量した。示差熱-熱重量同時分析の測定装置には、株式会社日立ハイテクサイエンス社製、STA7300を用いた。試料(不焼成マグネシアスピネルれんが)の秤量は、STA7300の天秤ビーム上で実施した。約10mgの試料を白金製測定容器に入れて上記測定装置にセットし、200ml/minのエアー流下、20~1000℃まで5℃/minの速度で昇温を行い、DTG曲線を得た。乳酸アルミニウム及び乳酸ナトリウム由来の乳酸の分解蒸発に起因する350~400℃の重量減少ピークを基に、不焼成マグネシアスピネルれんがに含まれる乳酸イオンの含有量を求めた。得られた結果を表2に示す。
【0057】
【0058】
本発明の実施例においては、全ての不焼成マグネシアスピネルれんがで乳酸イオンの含有量が0.5~1.5質量%となっている。また、何れの不焼成マグネシアスピネルれんがも高い熱間強度を発現しており、1200℃における熱間曲げ強度は5MPa以上となっている。これに対し、比較例においては、0.5~1.5質量%の乳酸イオンを含み1200℃における熱間曲げ強度が5MPa以上となる不焼成マグネシアスピネルれんがは存在しない。
【0059】
また、本発明の実施例については、全ての不焼成マグネシアスピネルれんがで耐食性及び耐熱スポーリング性の評価が〇となっている。また、水の代わりにソルビトール水溶液を用いた実施例4では脆化範囲がやや増加しているが、実施例における全ての不焼成マグネシアスピネルれんがで耐組織脆化性の評価が△以上となっている。また、実施例における全ての不焼成マグネシアスピネルれんがで熱間曲げ強度の評価が△以上となっている。特に、実施例3では熱間曲げ強度の評価が〇となり、全ての評価項目で良好な結果が得られている。その結果、実施例3の不焼成マグネシアスピネルれんがは、比較例1の焼成マグネシアスピネルれんがと同等の特性を有していることが分かる。
【0060】
これに対し、塩基性乳酸アルミニウムの添加量が少な過ぎる比較例2では接合相が十分に存在しないことから熱間曲げ強度が低く、耐熱スポーリング性及び耐組織脆化性の評価も×となっている。また、塩基性乳酸アルミニウムの添加量が多過ぎる比較例3では、スピネル結合に寄与しない乳酸分が多く含まれるため、耐食性の評価が×となっている。
【0061】
アルミン酸ソーダ水溶液のAl2O3固形分濃度が低過ぎる比較例4では接合相が十分に存在しないことから熱間曲げ強度が低くなっている。また、アルミン酸ソーダ水溶液のAl2O3固形分濃度が高過ぎる比較例5では、成形時の乾燥が早くなり、成形体の強度が得られ難いことから、熱間曲げ強度が低くなっている。
【0062】
アルミン酸ソーダ水溶液の添加量が多過ぎる比較例6では、ソーダ分が多くなる結果、耐食性及び耐組織脆化性の評価が×となっている。
【0063】
また、乾燥温度が低すぎる比較例7及び乾燥温度が高すぎる比較例8では、圧縮強さが低くなっている。
【0064】
以上の結果より、耐熱スポーリング性と容積安定性に優れた高強度な不焼成マグネシアスピネルれんがを得るためには、マグネシア及びスピネルを主成分とし、1~2質量%の塩基性乳酸アルミニウムを含む耐火性原料100%に対して、外掛けで1~2質量%のアルミン酸ソーダ水溶液の添加が重要であることが分かる。
【要約】
【課題】二酸化炭素排出量の低減に資する、耐熱スポーリング性と容積安定性に優れ、高い熱間強度を発現する不焼成マグネシアスピネルれんが及びその製造方法を提供する。
【解決手段】マグネシア及びスピネルを主成分とし、1~2質量%の塩基性乳酸アルミニウムを含む耐火性原料100%に対して、外掛けで1~2質量%のアルミン酸ソーダ水溶液を添加して混練した後、任意の形状の成形体を得る第一工程と、第一工程で得た成形体を乾燥させる第二工程と、を有すること、を特徴とする不焼成マグネシアスピネルれんがの製造方法。
【選択図】なし