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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-14
(45)【発行日】2025-03-25
(54)【発明の名称】エロージョン推定方法
(51)【国際特許分類】
   F01D 25/00 20060101AFI20250317BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20250317BHJP
   G01N 33/2045 20190101ALN20250317BHJP
【FI】
F01D25/00 V
G01M99/00 A
G01N33/2045 100
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023531453
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2022016218
(87)【国際公開番号】W WO2023276387
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2021109140
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】田畑 創一朗
(72)【発明者】
【氏名】澤津橋 徹哉
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-131034(JP,A)
【文献】特開昭60-026677(JP,A)
【文献】特開昭60-145401(JP,A)
【文献】特開2001-263006(JP,A)
【文献】特開2009-162143(JP,A)
【文献】特開2012-198223(JP,A)
【文献】特開2015-140762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 25/00
G01M 99/00
G01N 33/2045
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気タービンの最終段動翼のエロージョンの進行度を推定するエロージョン推定方法であって、
前記最終段動翼を構成する材料に含まれる検知対象物質を含む給水を、前記蒸気タービンに接続された給水ライン上から採取するステップと、
前記採取された前記給水中における前記検知対象物質の濃度を計測するステップと、
前記濃度に基づいてエロージョンの進行度を推定するステップと、
を含み、
エロージョンの進行度を推定するステップでは、前記検知対象物質の時間変化量から、エロージョンの進行度が、運転開始からエロージョンがほぼ発生しない期間である初期と、前記初期の経過後、前記初期と比較してエロージョンが急激に進行する過渡期と、前記過渡期の経過後、前記過渡期と比較してエロージョンの進行度の傾きが緩やかになる安定期と、のいずれの時期に当たるかを推定するエロージョン推定方法。
【請求項2】
前記最終段動翼は、
翼本体と、
該翼本体の先端部前縁側に設けられ、前記検知対象物質を含む材料で形成されたエロージョンシールドと、を有する請求項1に記載のエロージョン推定方法。
【請求項3】
前記最終段動翼は、
翼本体と、
該翼本体に埋め込まれた前記検知対象物質と、
を有する請求項1に記載のエロージョン推定方法。
【請求項4】
前記検知対象物質は、コバルト元素である請求項1から3のいずれか一項に記載のエロージョン推定方法。
【請求項5】
前記検知対象物質は、予め前記最終段動翼に含侵させた放射性元素である請求項1から3のいずれか一項に記載のエロージョン推定方法。
【請求項6】
蒸気タービンの最終段動翼のエロージョンの進行度を推定するエロージョン推定方法であって、
前記最終段動翼を構成する材料に含まれる検知対象物質を含む給水を、前記蒸気タービンに接続された給水ライン上から採取するステップと、
前記採取された前記給水中における前記検知対象物質の濃度を計測するステップと、
前記濃度に基づいてエロージョンの進行度を推定するステップと、
を含み、
前記最終段動翼は、
翼本体と、
該翼本体に埋め込まれた前記検知対象物質と、
を有するエロージョン推定方法。
【請求項7】
蒸気タービンの最終段動翼のエロージョンの進行度を推定するエロージョン推定方法であって、
前記最終段動翼を構成する材料に含まれる検知対象物質を含む給水を、前記蒸気タービンに接続された給水ライン上から採取するステップと、
前記採取された前記給水中における前記検知対象物質の濃度を計測するステップと、
前記濃度に基づいてエロージョンの進行度を推定するステップと、
を含み、
前記検知対象物質は、予め前記最終段動翼に含侵させた放射性元素であるエロージョン推定方法。
【請求項8】
前記蒸気タービンから排出された蒸気を冷却して水に戻す復水器と、
該復水器の下流側に設けられた復水ポンプと、
該復水ポンプの下流側に設けられ、前記水を予熱する節炭器と、
該節炭器で予熱された前記水を加熱して蒸気を発生させる蒸発器と、
該蒸発器で発生した前記蒸気を過熱する過熱器と、
を有する蒸気タービンシステムにおいて、
前記給水を採取するステップでは、前記復水ポンプと前記節炭器との間から前記給水を採取する請求項1からのいずれか一項に記載のエロージョン推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エロージョン推定方法に関する。
本願は、2021年6月30日に日本に出願された特願2021-109140号について優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンでは、静翼の表面で凝縮した水滴が蒸気流に乗って飛散し、下流側の動翼の表面に当該水滴が衝突することでエロージョンを生じることがある。特に最終段動翼でエロージョンが発生しやすいことが知られている。このようなエロージョンが進行すると翼の強度に影響が及ぶ可能性がある。
【0003】
従来は、蒸気タービンの定期点検時にタービンケーシングを開放して翼を露出させ、エロージョンの進行度を実際に計測して評価する方法が採られていた。しかしながら、タービンケーシングの開放には多大な時間とコストがかかることから、近年ではその頻度を減らしたという要請がある。
【0004】
一方で、下記特許文献1に示されるように、蒸気タービンシステムの各部の腐食を検知するために、給水の水質検査を行う方法も従来提唱されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-178824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、給水の水質からエロージョンの進行度を推定する方法は確立されていなかった。
【0007】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、簡易かつ低コストでエロージョンの進行度を推定することが可能なエロージョン推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示に係るエロージョン推定方法は、蒸気タービンの最終段動翼のエロージョンの進行度を推定するエロージョン推定方法であって、前記最終段動翼を構成する材料に含まれる検知対象物質を含む給水を、前記蒸気タービンに接続された給水ライン上から採取するステップと、前記採取された前記給水中における前記検知対象物質の濃度を計測するステップと、前記濃度に基づいてエロージョンの進行度を推定するステップと、を含み、エロージョンの進行度を推定するステップでは、前記検知対象物質の時間変化量から、エロージョンの進行度が、運転開始からエロージョンがほぼ発生しない期間である初期と、前記初期の経過後、前記初期と比較してエロージョンが急激に進行する過渡期と、前記過渡期の経過後、前記過渡期と比較してエロージョンの進行度の傾きが緩やかになる安定期と、のいずれの時期に当たるかを推定する
また、本開示に係るエロージョン推定方法は、蒸気タービンの最終段動翼のエロージョンの進行度を推定するエロージョン推定方法であって、前記最終段動翼を構成する材料に含まれる検知対象物質を含む給水を、前記蒸気タービンに接続された給水ライン上から採取するステップと、前記採取された前記給水中における前記検知対象物質の濃度を計測するステップと、前記濃度に基づいてエロージョンの進行度を推定するステップと、を含み、前記最終段動翼は、翼本体と、該翼本体に埋め込まれた前記検知対象物質と、を有する。
また、本開示に係るエロージョン推定方法は、蒸気タービンの最終段動翼のエロージョンの進行度を推定するエロージョン推定方法であって、前記最終段動翼を構成する材料に含まれる検知対象物質を含む給水を、前記蒸気タービンに接続された給水ライン上から採取するステップと、前記採取された前記給水中における前記検知対象物質の濃度を計測するステップと、前記濃度に基づいてエロージョンの進行度を推定するステップと、を含み、前記検知対象物質は、予め前記最終段動翼に含侵させた放射性元素である。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、簡易かつ低コストでエロージョンの進行度を推定することが可能なエロージョン推定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の実施形態に係る蒸気タービンシステムの構成を示す系統図である。
図2】本開示の実施形態に係る蒸気タービンの構成を示す模式図である。
図3】本開示の実施形態に係る最終段動翼の構成を示す模式図である。
図4】本開示の実施形態に係るエロージョン推定方法の工程を示すフローチャートである。
図5】最終段動翼におけるエロージョンの進行度の一例を示すグラフである。
図6】本開示の実施形態に係る蒸気タービンシステムの変形例を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態に係る蒸気タービンシステム100、最終段動翼90、及びエロージョンの推定方法について、図1から図4を参照して説明する。
【0012】
(蒸気タービンシステムの構成)
図1に示すように、蒸気タービンシステム100は、蒸気タービン1と、復水器2と、復水ポンプ3と、低圧節炭器41と、中圧節炭器43と、高圧節炭器42と、給水ポンプ5と、高圧蒸発器61と、中圧蒸発器62と、低圧蒸発器63と、高圧ドラム71と、中圧ドラム72と、低圧ドラム73と、高圧過熱器81と、中圧過熱器82と、低圧過熱器83と、再熱器9と、採取ライン10と、給水ライン30と、高圧蒸気ライン51と、中圧蒸気ライン52と、低圧蒸気ライン53と、抽気ライン54と、再熱蒸気ライン55と、を備えている。
【0013】
(蒸気タービンの構成)
図2に示すように、蒸気タービン1は、回転軸11と、ケーシング12と、動翼列16と、静翼列18と、を有している。回転軸11は、軸線Oに沿って延びるとともに当該軸線O回りに回転可能とされている。回転軸11の軸端には、一対のジャーナル軸受14、及び1つのスラスト軸受15が設けられている。ジャーナル軸受14は回転軸11に対する径方向の荷重を支持する。スラスト軸受15は回転軸11に対する軸線O方向の荷重を支持する。
【0014】
回転軸11の外周面には、軸線O方向に間隔をあけて配列された複数の動翼列16が設けられている。それぞれの動翼列16は、軸線Oに対する周方向に間隔をあけて配列された複数の動翼17を有している。これら複数の動翼列16のうち、軸線O方向における最も一方側に位置する動翼列16に含まれる動翼17は、最終段動翼90とされている。
【0015】
ケーシング12は、上記の回転軸11、及び動翼列16を外周側から覆っている。ケーシング12は、軸線Oを中心とする筒状をなしている。ケーシング12の軸線O方向他方側には外部から蒸気を導くための蒸気供給口12aが形成されている。ケーシング12の軸線O方向一方側には蒸気を外部に導くための蒸気排出口12bが形成されている。蒸気供給口12aと蒸気排出口12bの間は蒸気流路とされている。以下の説明では、蒸気排出口12bから見て蒸気供給口12aが位置する側を上流側と呼び、その反対側を下流側と呼ぶ。
【0016】
ケーシング12の内周面には、軸線O方向に間隔をあけて配列された複数の静翼列18が設けられている。それぞれの静翼列18は、軸線Oに対する周方向に間隔をあけて配列された複数の静翼19を有している。また、静翼列18と動翼列16は、軸線O方向に交互に配列されている。つまり、1つの静翼列18の下流側には1つの動翼列16が配置されている。
【0017】
(最終段動翼の構成)
図3に示すように、最終段動翼90は、翼本体91と、エロージョンシールド92と、を有している。翼本体91は、上記の回転軸11の外周面から径方向外側に向かって延びている。径方向から見た場合、翼本体91の断面形状は、上流側を前縁とする翼型をなしている。翼本体91の先端部(つまり、径方向外側の端部を含む部分)であって、前縁側には、エロージョンシールド92が設けられている。エロージョンシールド92は、上流側の静翼列18から飛散した液滴によって最終段動翼90の表面にエロージョンが生じることを防ぐために設けられている。エロージョンシールド92は、ステライトによって一体に形成されている。ステライトとは、コバルト元素を主成分とする金属材料である。詳しくは後述するが、本実施形態では、このステライトに含まれるコバルト元素を検出対象物質と呼ぶ。
【0018】
(蒸気タービンシステムの他の構成要素)
図1に示すように、蒸気タービン1の下流側(つまり、蒸気排出口12b)には、給水ライン30が接続されている。給水ライン30上には、蒸気タービン1側から順に復水器2、復水ポンプ3、採取ライン10、低圧節炭器41、及び給水ポンプ5が設けられている。
【0019】
復水器2は、蒸気タービン1から排出された低圧の蒸気を冷却して液体の水に戻すための装置である。復水ポンプ3は、この液体の水を給水ライン上で下流側に向かって圧送する。採取ライン10は、給水ライン30内を流れる給水の一部を外部に取り出すための配管である。低圧節炭器41は、給水を予熱するために設けられている。給水ポンプ5は、給水ライン30内の給水をさらに圧送する。
【0020】
給水ライン30の下流側の端部は高圧節炭器42に接続されている。給水ライン30における低圧節炭器41と給水ポンプ5との間には、第一分岐ライン31が接続されている。第一分岐ライン31の下流側の端部は後述する低圧蒸発器63に接続されている。さらに、給水ライン30における給水ポンプ5の下流側には第二分岐ライン32が接続されている。第二分岐ライン32の下流側の端部は中圧節炭器43に接続されている。
【0021】
低圧節炭器41と同様に、中圧節炭器43、及び高圧節炭器42は、給水を予熱するための装置である。低圧節炭器41で予熱された給水は、低圧蒸発器63に送られる。低圧蒸発器63は、給水をさらに加熱して低圧の蒸気を生成する。中圧節炭器43で予熱された給水は、中圧蒸発器62に送られる。中圧蒸発器62は、給水をさらに加熱して中圧の蒸気を生成する。同様に、高圧節炭器42で予熱された給水は、高圧蒸発器61に送られる。高圧蒸発器61は、給水をさらに加熱して高圧の蒸気を生成する。
【0022】
高圧ドラム71は、高圧蒸発器61で生成された高圧の蒸気を気液分離するために設けられている。気液分離されたうちの気相成分が、高圧蒸気ライン51を通じて高圧過熱器81に送られる。高圧過熱器81は、高圧の蒸気を過熱して高圧の過熱蒸気を生成する。高圧の過熱蒸気は、高圧蒸気ライン51を通じて、蒸気タービン1に送られる。
【0023】
中圧ドラム72は、中圧蒸発器62で生成された中圧の蒸気を気液分離するために設けられている。気液分離されたうちの気相成分が、中圧蒸気ライン52を通じて中圧過熱器82に送られる。中圧過熱器82は、中圧の蒸気を過熱して中圧の過熱蒸気を生成する。中圧の過熱蒸気は、中圧蒸気ライン52を通じて、再熱器9に送られる。再熱器9は、中圧の過熱蒸気をさらに加熱する。再熱器9で加熱された過熱蒸気は、再熱蒸気ライン55を通じて蒸気タービン1に送られる。さらに、再熱器9には蒸気タービン1から抽気された蒸気の一部が抽気ライン54を通じて流入する。この抽気された蒸気も再熱器9で加熱された後、再熱蒸気ライン55を通じて蒸気タービン1に供給される。
【0024】
低圧ドラム73は、低圧蒸発器63で生成された低圧の蒸気を気液分離するために設けられている。気液分離されたうちの気相成分が、低圧蒸気ライン53を通じて低圧過熱器83に送られる。低圧過熱器83は、低圧の蒸気を過熱して低圧の過熱蒸気を生成する。低圧の過熱蒸気は、低圧蒸気ライン53を通じて、蒸気タービン1に送られる。
【0025】
(エロージョンの推定方法)
次いで、本実施形態に係るエロージョンの推定方法について説明する。ここで、上述した蒸気タービン1を運転した場合、蒸気流路の上流側になるほど蒸気の温度が高く、下流側になるほど蒸気の温度が低くなる。このため、下流側の領域では蒸気が凝縮して水滴(液滴)が生じやすい。このような水滴が蒸気流に乗ってさらに下流側に流れ、回転する動翼列16に衝突することがある。すると、衝突のエネルギーによって動翼列16の表面が侵食されてしまう(エロージョンを生じてしまう。)。特に最終段動翼90でエロージョンが発生しやすいことが知られている。このようなエロージョンが進行すると翼の強度に影響が及ぶ可能性がある。そこで、本実施形態では、以下の方法によってエロージョンの進行度を推定する。
【0026】
図4に示すように、本実施形態に係るエロージョンの推定方法は、給水を採取するステップS1と、給水中の検出対象物質の濃度を計測するステップS2と、濃度からエロージョンの進行度を推定するステップS3と、進行度が予め定められた閾値以上であるか否かを判定するステップS4と、進行度が閾値以上であると判定された場合に最終段動翼90を補修・交換するステップS5と、を含む。
【0027】
ステップS1では、上述した採取ライン10を通じて、給水の一部が採取される。エロージョンが進行する過程では、上述したエロージョンシールド92の一部が侵食されて、その一部の成分が給水中に含まれた状態となる。そこで、本実施形態では、エロージョンシールド92を形成するステライトに含まれるコバルト元素を検出対象物質としている。ステップS2では、採取された給水に含まれるコバルト元素の濃度を計測する。濃度の計測には、プラズマ発光質量分析計が好適に用いられる。
【0028】
後続のステップS3では、ステップS2で計測されたコバルト元素の濃度に基づいて、エロージョンの進行度が推定される。ここで、エロージョンは図5に示すグラフのような時間変化をたどることが知られている。図5のグラフの横軸は実時間ではなく、蒸気の湿り度や、蒸気タービンの出力、蒸気流量を変数とする関数で表される等価時間である。グラフの縦軸はエロージョンの進行度を表している。同図中の曲線で示されるように、運転開始から一定の期間(初期t1)が経過するまでは、エロージョンはほぼ発生しないか、ごくわずかである。一方で、初期t1を経過した後の期間(過渡期t2)では、エロージョンが急激に進行する。その後、安定期t3に入ると、エロージョンの進行度の傾きが緩やかになるとともに、おおむね一定の値を取るようになる。ステップS3では、コバルト元素の時間変化量をもとに図5のグラフとの照合を行い、エロージョンの進行度を推定する。つまり、コバルト元素の時間変化量から、現在のエロージョン進行度が図5のグラフのどの時期に当たるかを推定する。
【0029】
ステップS4では、エロージョンの進行度が閾値以上であるか否かが判定される。進行度が閾値以上であると判定された場合(ステップS4:Yes)、後続のステップS5で最終段動翼90の交換や補修を行う。進行度が閾値未満であると判定された場合(ステップS4:No)、再びステップS1からステップS4までを繰り返して実行する。以上により、本実施形態に係るエロージョンの推定方法の全工程が完了する。
【0030】
(作用効果)
【0031】
以上、説明したように、上記方法によれば、給水中における検知対象物質の濃度を計測することのみによって、蒸気タービン1のケーシング12を開放することなく、最終段動翼90のエロージョンの進行度を推定することができる。特に、ケーシング12の開放を伴う点検作業は、作業自体のコストが生じることに加え、点検期間中には運転ができないことからユーザにとっての大きなコストが発生する。上記の方法を採用することによって開放の頻度を削減可能となり、メンテナンスおよび運転機会喪失によるコストを削減することができる。
【0032】
また、上記方法によれば、最もエロージョンが集中しやすいエロージョンシールド92に蒸気タービンの他の部分には用いられない検知対象物質が含まれている。これにより、当該検知対象物質の濃度に基づいて、エロージョンの進行を高い精度で推定することができる。
さらに、上記方法によれば、検知対象物質としてコバルト元素が用いられる。コバルト元素は他の部分では使用されていないうえ、鉄(Fe)と類似した性質を示すことから、鉄分の検出を目的として設けられていた既設のモニタリング設備を、エロージョンの推定に容易に転用することが可能となる。言い換えれば、多くの蒸気タービンシステム100において、上述した採取ライン10に類する設備は既設であることから、これを転用して給水の採取を行うことが可能である。
【0033】
また、上記方法によれば、復水ポンプ3と節炭器(低圧節炭器41)との間を流れる比較的低温の給水を採取することで、エロージョンの進行度を推定することができる。これにより、例えば高温の蒸気や給水に触れる必要がないため、作業者への負担を軽減することができる。
【0034】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0035】
例えば、上記実施形態では、エロージョンシールドを形成するステライトに含まれるコバルト元素を検出対象物質として用いる例について説明した。しかしながら、検出対象物質そのものを翼本体91の内部に浸透度を変えて埋め込むことも可能である。このような構成によれば、翼本体91に検知対象物質が埋め込まれていることから、当該翼本体91のいかなる部位でエロージョンが進行しても、これを高い精度のもとで検知することができる。
【0036】
さらに、検知対象物質として、コバルト元素に代えて、予め最終段動翼90に含侵させた放射性元素を用いることも可能である。
【0037】
上記構成によれば、検知対象物質として放射性元素が用いられる。放射性元素は蒸気タービンの他の部分には用いられない。したがって、放射性元素を検知対象物質とすることにより、明確かつ高い精度のもとでエロージョンの進行度を推定することができる。
【0038】
また、上記実施形態では、蒸気タービンシステム100中の蒸気タービン1についてエロージョンの推定方法を適用した例について説明した。しかしながら、図6に示すような火力発電システム200に同方法を適用することも可能である。
【0039】
火力発電システム200では、給水ライン30b上に、蒸気タービン1から下流側に向かって順に、復水器2、復水ポンプ3、採取ライン10、脱塩装置4b、復水昇圧ポンプ3b、複数の低圧ヒータ5b、脱気器6b、給水ポンプ7b、複数の高圧ヒータ8b、節炭器9b、火炉10b、及び過熱器11bが設けられている。過熱器11bで生成された過熱蒸気は、高圧蒸気ライン51bを通じて蒸気タービン1に送られる。また、蒸気タービン1中の一部の蒸気は抽気ライン52bを通じて再熱器13bに送られる。再熱器13bで加熱された蒸気は再熱蒸気ライン53bを通じて蒸気タービン1に送られる。
【0040】
これら要素のうち、採取ライン10は、給水ライン30bにおける復水器2から低圧ヒータ5bまでの区間内であれば、いかなる場所に設けてもよい。
【0041】
<付記>
各実施形態に記載のエロージョン推定方法は、例えば以下のように把握される。
【0042】
(1)第1の態様に係るエロージョン推定方法は、蒸気タービン1の最終段動翼90のエロージョンの進行度を推定するエロージョン推定方法であって、前記最終段動翼90を構成する材料に含まれる検知対象物質を含む給水を、前記蒸気タービン1に接続された給水ライン30,30b上から採取するステップS1と、前記採取された前記給水中における前記検知対象物質の濃度を計測するステップS2と、前記濃度に基づいてエロージョンの進行度を推定するステップS3と、を含む。
【0043】
上記方法によれば、給水中における検知対象物質の濃度を計測することのみによって、蒸気タービン1のケーシング12を開放することなく、最終段動翼90のエロージョンの進行度を推定することができる。
【0044】
(2)第2の態様に係るエロージョン推定方法では、前記最終段動翼90は、翼本体91と、該翼本体91の先端部前縁側に設けられ、前記検知対象物質を含む材料で形成されたエロージョンシールド92と、を有してもよい。
【0045】
上記方法によれば、最もエロージョンが集中しやすいエロージョンシールド92に検知対象物質が含まれている。これにより、エロージョンの進行をより高い精度のもとで検知することができる。
【0046】
(3)第3の態様に係るエロージョン推定方法では、前記最終段動翼90は、翼本体91と、該翼本体91に埋め込まれた前記検知対象物質と、を有してもよい。
【0047】
上記方法によれば、翼本体91に検知対象物質が埋め込まれていることから、当該翼本体91のいかなる部位でエロージョンが進行しても、これを高い精度のもとで検知することができる。
【0048】
(4)第4の態様に係るエロージョン推定方法では、前記検知対象物質は、コバルト元素であってもよい。
【0049】
上記方法によれば、検知対象物質としてコバルト元素が用いられる。コバルト元素は鉄(Fe)と類似した性質を示すことから、鉄分の検出を目的として設けられていた既設のモニタリング設備を、エロージョンの推定に容易に転用することが可能となる。
【0050】
(5)第5の態様に係るエロージョン推定方法では、前記検知対象物質は、予め前記最終段動翼90に含侵させた放射性元素であってもよい。
【0051】
上記方法によれば、検知対象物質として放射性元素が用いられる。放射性元素は蒸気タービン1の他の部分には用いられない。したがって、放射性元素を検知対象物質とすることにより、明確かつ高い精度のもとでエロージョンの進行度を推定することができる。
【0052】
(6)第6の態様に係るエロージョン推定方法では、前記蒸気タービン1から排出された蒸気を冷却して水に戻す復水器2と、該復水器2の下流側に設けられた復水ポンプ3と、該復水ポンプ3の下流側に設けられ、前記水を予熱する節炭器(低圧節炭器41)と、該節炭器で予熱された前記水を加熱して蒸気を発生させる蒸発器(高圧蒸発器61、中圧蒸発器62、低圧蒸発器63)と、該蒸発器で発生した前記蒸気を過熱する過熱器(高圧過熱器81、中圧過熱器82、低圧過熱器83)と、を有する蒸気タービンシステム100において、前記給水を採取するステップS1では、前記復水ポンプ3と前記節炭器との間から前記給水を採取してもよい。
【0053】
上記方法によれば、復水ポンプ3と低圧節炭器41との間を流れる比較的に低温の給水を採取することで、エロージョンの進行度を推定することができる。これにより、例えば高温の蒸気や給水に触れる必要がないため、作業者への負担を軽減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本開示によれば、簡易かつ低コストでエロージョンの進行度を推定することが可能なエロージョン推定方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0055】
100 蒸気タービンシステム
1 蒸気タービン
2 復水器
3 復水ポンプ
3b 復水昇圧ポンプ
4b 脱塩装置
5 給水ポンプ
5b 低圧ヒータ
6b 脱気器
7b 給水ポンプ
8b 高圧ヒータ
9 再熱器
9b 節炭器
10b 火炉
10 採取ライン
11 回転軸
11b 過熱器
12 ケーシング
12a 蒸気供給口
12b 蒸気排出口
13b 再熱器
14 ジャーナル軸受
15 スラスト軸受
16 動翼列
17 動翼
18 静翼列
19 静翼
30,30b 給水ライン
31 第一分岐ライン
32 第二分岐ライン
41 低圧節炭器
42 高圧節炭器
43 中圧節炭器
51,51b 高圧蒸気ライン
52 中圧蒸気ライン
53 低圧蒸気ライン
54,52b 抽気ライン
55,53b 再熱蒸気ライン
61 高圧蒸発器
62 中圧蒸発器
63 低圧蒸発器
71 高圧ドラム
72 中圧ドラム
73 低圧ドラム
81 高圧過熱器
82 中圧過熱器
83 低圧過熱器
90 最終段動翼
91 翼本体
92 エロージョンシールド
200 火力発電システム
O 軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6