(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-14
(45)【発行日】2025-03-25
(54)【発明の名称】電力変換装置およびヒートポンプ装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20250317BHJP
H02M 7/06 20060101ALI20250317BHJP
H02M 7/12 20060101ALI20250317BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M7/06 A
H02M7/06 G
H02M7/12 601A
(21)【出願番号】P 2023554126
(86)(22)【出願日】2021-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2021038618
(87)【国際公開番号】W WO2023067695
(87)【国際公開日】2023-04-27
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】畠山 和徳
(72)【発明者】
【氏名】豊留 慎也
(72)【発明者】
【氏名】堤 翔英
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-111999(JP,A)
【文献】特開2007-295734(JP,A)
【文献】特開2005-039902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 7/06
H02M 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源から供給される交流電力を整流して負荷に供給するコンバータと、
前記負荷に流れる電流が脈動する際の前記電流の変動量が定められた値以下となるよう前記負荷を制御する制御部と、
前記交流電源と前記コンバータとの間に設けられたリアクトルと、
前記コンバータと前記負荷との間に設けられ、前記コンバータが出力する電圧を平滑化するコンデンサと、
を備え
、
前記定められた値を、前記リアクトルのインダクタンス値と、前記コンデンサの静電容量値と、前記交流電源から前記コンバータに流れる電流の偶数次高調波成分について規格で定められた限度値とに基づいて決定した値とする電力変換装置。
【請求項2】
前記リアクトルと前記コンデンサの共振周波数を110Hz以下とする、
請求項
1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の電力変換装置を備えるヒートポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置および電力変換装置を用いたヒートポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機および冷凍機といったヒートポンプ装置に適用されるシングルロータリ圧縮機やツインロータリ圧縮機を駆動する電動機の制御において、例えば、電動機の状態に応じてトルクの脈動成分を適切に補償することで消費電力の増加を抑制する技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の電動機制御装置は、周期的に負荷トルクが脈動する負荷を駆動する電動機の制御を行うものである。しかしながら、交流電源から供給される交流電力を直流電力に変換して負荷に供給する電力変換装置の場合、電源周波数と非同期の周波数で負荷トルクが脈動すると、交流を直流に変換するコンバータから平滑コンデンサに流れ込む充放電電流が、電源電圧の正と負でアンバランス状態となる。この結果、電源電流の高調波が増加してしまう恐れがある。ここで、電源電流の高調波は、その上限値が規格で定められている。特に、偶数次高調波は、電源系統に接続された他の機器に悪影響を及ぼすため、奇数次高調波よりも上限値が厳しく設定されている。このようなことから、負荷トルクの脈動の影響により発生する電源電流の高調波を抑制することが必要となる。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、交流電源から供給される交流電力を整流して負荷に供給する直流電力を生成する際に発生する電源電流の高調波を抑制可能な電力変換装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示にかかる電力変換装置は、交流電源から供給される交流電力を整流して負荷に供給するコンバータと、負荷に流れる電流が脈動する際の電流の変動量が定められた値以下となるよう負荷を制御する制御部と、交流電源とコンバータとの間に設けられたリアクトルと、コンバータと負荷との間に設けられ、コンバータが出力する電圧を平滑化するコンデンサと、を備え、定められた値を、リアクトルのインダクタンス値と、コンデンサの静電容量値と、交流電源からコンバータに流れる電流の偶数次高調波成分について規格で定められた限度値とに基づいて決定した値とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示にかかる電力変換装置は、交流電源から供給される交流電力を整流して負荷に供給する直流電力を生成する際に発生する電源電流の高調波を抑制できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1にかかる電力変換装置の構成例を示す図
【
図2】実施の形態1にかかる電力変換装置の他の構成例を示す図
【
図3】定電力で負荷を動作させた場合の電流および電圧の波形の一例を示す図
【
図4】負荷電流Ioを変動させながら負荷を動作させた場合の電流および電圧の波形の一例を示す図
【
図5】電源電圧Vsの周波数が50Hzの場合において、負荷電流Ioが変動した場合に入力電流Isに生じる周波数成分を表す図
【
図6】電力変換装置が定電流で負荷を動作させた場合の電流および電圧の波形の一例を示す図
【
図7】電力変換装置が負荷電流Ioを変動させながら負荷を動作させた場合の電流および電圧の波形の他の例を示す図
【
図8】電力変換装置のリアクトルのインダクタンス値とコンデンサの静電容量値との組み合わせと、入力電流Isがアンバランスとなる電力値との関係を示す図
【
図9】
図8に示す負荷電力と共振周波数との関係を表す図
【
図10】実施の形態1にかかる電力変換装置が備える制御部を実現するハードウェア構成の一例を示す図
【
図11】実施の形態2にかかるヒートポンプ装置の構成例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本開示の実施の形態にかかる電力変換装置およびヒートポンプ装置を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる電力変換装置の構成例を示す図である。電力変換装置100は、リアクトル2と、コンバータである整流器3と、平滑部4と、負荷5と、電流検出器6と、制御部7と、を備える。電力変換装置100は交流電源1に接続され、交流電源1から交流電力の供給を受ける。
【0011】
交流電源1から入力される電源電圧Vsはリアクトル2を介して整流器3で整流され、整流器3の出力端に接続された平滑部4を構成するコンデンサ4aおよび4bに蓄積されることで平滑化が行われた後、負荷5に供給される。なお、交流電源1の出力端子のリアクトル2が接続された側を正とした場合、平滑部4のコンデンサ4aは、電源電圧Vsが正の場合に充電され、コンデンサ4bは電源電圧Vsが負の場合に充電される。
【0012】
ここで、交流電源1は、50Hzまたは60Hzの商用電源であってもよいし、定置型蓄電池や太陽光発電などの分散電源などにより生成された交流電圧でもよい。
【0013】
また、リアクトル2は、電磁鋼板などを積層したEI形状またはEE形状のものでもよいし、フェライトまたはアモルファスなどの鉄心を用いたものでもよい。巻線の材質は、銅、アルミなどである。
【0014】
整流器3は、例えば、ダイオードをブリッジ状に配置して実現する。ダイオードに代えてMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)などのパワー半導体により整流器3を構成してもよい。また、ダイオード、および、MOSFETなどのパワー半導体は、一般的なシリコン材料のものであってもよいし、より損失の低いワイドバンドギャップ半導体でもよい。
【0015】
コンデンサ4aおよび4bは、アルミ電解コンデンサ、小容量のフィルムコンデンサなどである。
【0016】
また、整流器3を
図2に示すような全波整流回路の整流器30としてもよい。
図2は、実施の形態1にかかる電力変換装置の他の構成例を示す図である。
図2に示す電力変換装置100aは、
図1に示す電力変換装置100の整流器3を全波整流回路で構成される整流器30に置き換え、平滑部4をコンデンサ41で構成される平滑部40に置き換えたものである。
図1および
図2に示すように、実施の形態1にかかる電力変換装置は、整流器と、整流後の直流電力を平滑化するコンデンサとを備えるものであればどのようなものでもよい。
【0017】
また、平滑部4を構成するコンデンサの両端に接続された負荷5は、例えば、インバータと電動機などで構成されるものとすることができるが、これに限定するものではない。負荷5は、LED(Light Emitting Diode)照明、IH(Induction Heating)調理器など、直流電力を平滑化するためのコンデンサに蓄えられた電荷を消費する構成のものであればどのような負荷でもよい。
【0018】
なお、
図1および
図2に示す例では電力変換装置に負荷5が含まれる構成としたが、負荷5を構成する要素の一部または全部が電力変換装置の外部に存在する構成としてもよい。例えば、負荷5がインバータを含む場合に、インバータまでを電力変換装置が含み、残りの構成要素が電力変換装置の外部に存在する構成としてもよい。
【0019】
制御部7は、電流検出器6が検出する負荷電流Ioすなわち負荷5に流れる電流に基づいて、負荷5が消費する電力または電流を制御するための制御信号を生成して出力する。なお、本実施の形態では電流検出器6により負荷5に流れる電流を検出しているが、制御部7は、電流検出器6による負荷電流Ioの検出値の代わりに、負荷5に印加する直流電圧Vdcと、負荷5の内部で検出した電流、例えば、モータに流れる電流の値とに基づいて負荷電流Ioを推定し、推定した電流値を用いて制御信号を生成してもよい。
【0020】
ここで、負荷5を定電力で動作させ、電力を増加させた場合の波形を
図3に示す。
図3は、定電力で負荷5を動作させた場合の電流および電圧の波形の一例を示す図である。
【0021】
図3に示す波形のそれぞれは、上から、交流電源1が出力する電源電圧Vs、電源電流である、交流電源1から電力変換装置100への入力電流Is、平滑部4から負荷5に供給される直流電圧Vdc、負荷電流Ioを示す。負荷5を定電力で動作させた場合には、電力を直流電圧Vdcで除したものが負荷電流Ioとなる。つまり、定電力で負荷5を動作させた場合、
図3に示すように、負荷電流Ioは、直流電圧Vdcの脈動に合わせて変動し、直流成分に交流成分が重畳したような波形となる。
【0022】
そのため、負荷電流Ioの変動により、平滑部4を構成するコンデンサ4aおよび4bから消費される電荷が一定ではなくなる。負荷電流Ioが大の場合には、コンデンサ4aおよび4bから多くの電荷が消費されて直流電圧Vdcが低下し、電源電圧Vsが直流電圧Vdcよりも大きい状態になるとコンデンサ4aおよび4bへ充電電流が流れる。しかし、負荷電流Ioが小の場合には、コンデンサ4aおよび4bから消費される電荷が少なくなり、直流電圧Vdcの低下が抑制される。この場合、電源電圧Vsが直流電圧Vdcよりも大きくなっても、コンデンサ4aおよび4bへの充電量が低下するため充電電流も低下する。よって、
図3に示すように、入力電流Isの波形は不規則となり、電源電圧Vsと同期した波形にならなくなる。特に、負荷電流Ioの平均値が大きく、かつ変動が大きい場合や、コンデンサ4aおよび4bの静電容量が小さい場合に当該現象が顕著に現れる。
【0023】
入力電流Isと電源電圧Vsとが同期している場合、入力電流Isは電源電圧Vsの周波数と同じ周波数の成分を基本波として3次、5次、7次、・・・といった奇数次高調波成分が支配的となり、偶数次高調波の発生は軽微である。しかしながら、入力電流Isが、電源電圧Vsと非同期、かつ不規則に流れると、奇数次高調波以外の電流成分、具体的には、偶数次高調波および次数間高調波が発生する。次数間高調波は、入力電流Isの奇数次高調波および偶数次高調波のいずれにも該当しない高調波であり、例えば、基本波の周波数を50Hzとすると、2次高調波は100Hzとなり、この50Hzと100Hzとの間の周波数成分である。
【0024】
ここで、電源電流である入力電流Isの高調波電流は、JIS(Japanese Industrial Standards)およびIEC(International Electrotechnical Commission)により定められた規格の61000-3-2において限度値が決められている。この規格では、偶数次高調波よりも奇数次高調波の限度値の方が高く設定されている。そのため、上述のような、奇数次高調波以外の成分が発生するケースでは、偶数次高調波が増加し限度値を超過しやすくなる。また、次数間高調波については、その取扱い方法がJISおよびIECにより定められた規格の61000-4-7において決められている。この規格61000-4-7では、次数間高調波を特定範囲の周波数ごとにグルーピングを行い、隣接する奇数次高調波または偶数次高調波に足し込むとされている。そのため、次数間高調波の増加に伴い、奇数次高調波として取り扱う高調波および偶数次高調波として取り扱う高調波が増加する。よって、次数間高調波の発生も無視することはできず、発生を抑制することが重要となる。
【0025】
図3に示す例では、入力電流Isに相当する充電電流が2回に1回低下するため、電源周波数が50Hzの場合は25Hz成分が顕著に含まれることになる。この場合、次数間高調波である25Hz成分が基本波成分である50Hz成分に足し込まれるが、上述したように、基本波成分の限度値は高く設定されているため、この限度値に対する25Hz成分の増加の影響は小さい。すなわち、25Hz成分の増加に伴い基本波成分が限度値を超えてしまう可能性は低い。しかしながら、コンデンサ4aおよび4bを充電する周期が長くなり、一定時間あたりの充電回数が減少するため、1回あたりの充電電流が大きくなる。1回あたりの充電電流が大きくなると、リアクトル2に流れる入力電流Isが大きくなることによるインダクタンスの低下による影響、整流器3に過大な電流が流れることによる損失悪化などが懸念される。そのため、このような電流が流れないようにする制御、すなわち、1回あたりの充電電流が大きくならないようにすることが必要となる。
【0026】
また、別の例として、
図4に示すような、電源電圧Vsに対して負荷電流Ioを非同期で変動させた場合を考える。
図4は、負荷電流Ioを変動させながら負荷5を動作させた場合の電流および電圧の波形の一例を示す図である。
【0027】
電源電圧Vsに対して負荷電流Ioを非同期で変動させた場合、負荷電流Ioが小さい場合には直流電圧Vdcの低下は小さくなり、電源電圧Vsによる充電量が小さくなるため、入力電流Isは低下する。また、電源電圧Vsが低く(ゼロに近い)、かつ、負荷電流Ioが大きい場合、直流電圧Vdcが大きく低下する。このような状態で電源電圧Vsの正または負のピークが発生すると、コンデンサ4aおよび4bへの充電電流が大きくなり、入力電流Isは増加する。このような、負荷電流Ioの変動周期と電源電圧Vsの変動周期とが異なる場合、入力電流Isに以下の成分が含まれる。一例として、電源周波数を50Hzとした時に、負荷電流Ioが電源電圧Vsと非同期で変動する場合の入力電流Isに含まれる電流成分について
図5に記載する。
図5は、電源電圧Vsの周波数が50Hzの場合において、負荷電流Ioが変動した場合に入力電流Isに生じる周波数成分を表す図である。なお、電源周波数が60Hzの時に負荷電流Ioが電源電圧Vsと非同期で変動する場合の入力電流Isに含まれる電流成分についても、以下により同様に求めることが可能である。
【0028】
図5の左端の列に記載の周波数(0,5,10,…,100)は、周期的に変化する負荷電流Ioの波形(
図4参照)の周波数、すなわち、負荷電流Ioの変動周波数である。以下では、この周波数を負荷電流変動周波数と称する場合がある。
【0029】
図5の1行目に示す数値の範囲(75~125,125~175,…,275~325)は、周波数の範囲を表し、上述した、次数間高調波のグルーピングを行う際の単位となる。すなわち、上記の規格61000-4-7の規定に従うグルーピングでは、
図5の1行目に示す範囲のそれぞれに含まれる次数間高調波を1つのグループとする。例えば、75~125Hzの範囲に含まれる次数間高調波は同じグループに属することになる。
図5の3行目以降の左端の列以外の各列に記載した数値は、入力電流Isに含まれる次数間高調波の周波数を示す。
【0030】
図5の2行目の左端の列以外の記載(2次,3次,…,6次)は、電源周波数の高調波の次数であり、グルーピングされた次数間高調波が足し込まれる先を表す。例えば、「2次」と記載された列の次数間高調波(75Hz,80Hz,…)、すなわち、75~125Hzの範囲の次数間高調波は、2次高調波に足し込まれる。なお、グルーピングを行う範囲それぞれの境界となる周波数(125Hz,175Hz,225Hz,…)の次数間高調波は、その半分が、この次数間高調波を含む2つの範囲のそれぞれに対応する奇数次高調波および偶数次高調波の一方に足し込まれ、残り半分が、他方に足し込まれる。
【0031】
負荷電流Ioを周期的に変化させた場合に発生する具体的な電流成分について説明する。なお、以下の説明では、電源電圧Vsの基本波成分の周波数(50Hz)を電源周波数1fと記載し、電源電圧Vsの高調波成分の周波数(100Hz,150Hz,200Hz,…)を、電源周波数2f,電源周波数3f,電源周波数4f,…と記載する。
【0032】
交流電源1の負荷電流Ioの変動を問わず発生する電流成分として、以下の(1)に示す周波数の電流成分がある。
【0033】
(1)電源周波数1f,電源周波数3f,電源周波数5f,…,電源周波数(2n-1)f、(n=1,2,3,…)
【0034】
「電源周波数1f」は電源電流の基本波の周波数を表し、「電源周波数(2n-1)」は電源電流の2n-1次高調波の周波数を表す。すなわち、基本波成分と、奇数次高調波成分とが、交流電源1の負荷電流Ioの変動を問わず発生する。
【0035】
負荷電流Ioの基本波成分の影響により入力電流Isに発生する電流成分として、以下の(2)~(7)に示す周波数の電流成分がある。なお、「電源周波数3f」は電源電流の3次高調波の周波数を表し、「電源周波数5f」は、電源電流の5次高調波の周波数を表す。
【0036】
(2)電源周波数1f-{電源周波数1f-|電源周波数1f-負荷電流変動周波数|}
(3)電源周波数1f+{電源周波数1f-|電源周波数1f-負荷電流変動周波数|}
(4)電源周波数3f-{電源周波数1f-|電源周波数1f-負荷電流変動周波数|}
(5)電源周波数3f+{電源周波数1f-|電源周波数1f-負荷電流変動周波数|}
(6)電源周波数5f-{電源周波数1f-|電源周波数1f-負荷電流変動周波数|}
(7)電源周波数5f+{電源周波数1f-|電源周波数1f-負荷電流変動周波数|}
【0037】
また、負荷電流Ioの2次高調波成分の影響により入力電流Isに発生する電流成分として、以下の(8)~(13)に示す周波数の電流成分がある。なお、これらは、
図5中では括弧内に記載している(例えば「(80,120)」が該当)。
【0038】
(8)電源周波数1f-{電源周波数1f-|電源周波数1f-負荷電流変動周波数×2|}
(9)電源周波数1f+{電源周波数1f-|電源周波数1f-負荷電流変動周波数×2|}
(10)電源周波数3f-{電源周波数1f-|電源周波数1f-負荷電流変動周波数×2|}
(11)電源周波数3f+{電源周波数1f-|電源周波数1f-負荷電流変動周波数×2|}
(12)電源周波数5f-{電源周波数1f-|電源周波数1f-負荷電流変動周波数×2|}
(13)電源周波数5f+{電源周波数1f-|電源周波数1f-負荷電流変動周波数×2|}
【0039】
このように、(1)に示した周波数の電流成分以外については、電源周波数と負荷電流変動周波数とに依存して発生し、発生量は負荷電流Ioの変動幅が大きいほど増加する。
図5に示すように、50Hz(電源周波数)の倍数である奇数次高調波および偶数次高調波ではなく、その間の次数間高調波になる場合がほとんどである。上記の規格61000-4-7で定められたグルーピング処理を行うと、例えば、負荷電流変動周波数が30Hzの場合には、周波数が80Hz,90Hz,110Hz,120Hzの各電流成分が発生するが、これらは偶数次高調波の100Hzにグルーピングされるため、偶数次高調波が増加することになる。偶数次高調波は上記の規格61000-3-2などでは限度値が低く設定されているため、このような、偶数次高調波にグルーピングされる次数間高調波が発生すると、偶数次高調波が限度値を超過してしまう可能性が高まる。
【0040】
上記の(2)~(13)に示した周波数の次数間高調波は、負荷電流変動周波数がゼロとなれば、すなわち、負荷電流Ioが直流となれば、発生しない。そのため、負荷電流Ioが直流となるように制御部7が負荷5を制御すれば、
図6に示すように入力電流Isのアンバランスが発生せず、次数間高調波の発生を抑制できることは明らかである。
図6は、電力変換装置100が定電流で負荷5を動作させた場合の電流および電圧の波形の一例を示す図である。
【0041】
なお、
図7に示すようなケース、具体的には、負荷電流Ioの変動量である変動幅が小さい場合は、入力電流Isのアンバランスの発生量も小さくなり、偶数次高調波への影響が小さくなる。すなわち、偶数次高調波に足し込まれる次数間高調波の発生量が少なくなる。このアンバランスの発生量はリアクトル2のインダクタンス値およびコンデンサ4a,4bの静電容量値によっても変化する。
図7は、電力変換装置100が負荷電流Ioを変動させながら負荷5を動作させた場合の電流および電圧の波形の他の例を示す図である。
図7に示す例では、
図4に示す例と比較して、負荷電流Ioの変動量が約1/8となっており、入力電流Isのアンバランス発生が抑制されていることがわかる。
【0042】
一般的に、インダクタンスや静電容量が大きい方が上記のアンバランスの発生量は小さくなる。そのため、負荷電流Ioの変動周波数および電源周波数に基づいて、負荷変動が許容できる範囲でリアクトル2およびコンデンサ4a,4bを設計してこれらの素子のインダクタンスおよび静電容量が必要以上に大きくなるのを防止して素子の小型化を実現することで、低コスト化を図りながら高調波電流が限度値を超えることを抑制することが可能となる。
【0043】
ここで、モータ駆動などのような定電力負荷を想定した場合に、リアクトル2およびコンデンサ4a,4bの容量に応じてアンバランスが発生し始める負荷電力についての解析結果を
図8に示す。
図8は、電力変換装置100のリアクトル2のインダクタンス値とコンデンサ4a,4bの静電容量値との組み合わせと、入力電流Isがアンバランスとなる電力値との関係を示す図である。
図8において「負荷電力」は、入力電流Isのアンバランスが発生し始める負荷電力の値を表す。入力電流Isのアンバランスが発生し始める、とは、次数間高調波の発生量が大きくなり高調波電流が限度値を超える状態になり始めることを意味する。
図8に示すように、リアクトル2のインダクタンス値が3mHかつコンデンサ4a,4bの静電容量が1000μFの場合、負荷電力が500Wになると入力電流Isのアンバランスが発生し始める。
図8において「共振周波数」は、リアクトル2とコンデンサ4a,4bの共振周波数を表す。
【0044】
リアクトル2のインダクタンス値およびコンデンサ4a,4bの静電容量と入力電流Isのアンバランスが発生し始める負荷電力との関係を解析した結果、
図8に示す解析結果から、リアクトル2のインダクタンス値が大、または、コンデンサ4a,4bの静電容量値が大となると、負荷電力が増加してもアンバランスを抑制可能であることがわかる。
【0045】
図9は、
図8に示す負荷電力と共振周波数との関係を表す図である。
図9は、電力変換装置100への入力電流Isのアンバランスが発生する負荷電力を横軸に、リアクトル2とコンデンサ4a,4bの共振周波数を縦軸に取ったグラフである。
図9に示すように、負荷電力の増加に合わせて共振周波数が小となるようにリアクトル2およびコンデンサ4a,4bを設計することにより、入力電流Isのアンバランスを抑制することが可能となる。
【0046】
実際には、リアクトル2の巻線抵抗および鉄損成分、コンデンサ4a,4bの内部抵抗による影響、配線インピーダンスの影響、負荷電力が定電力ではなく変動している場合などもあるため、必ずしも一致するわけではないが、
図9に示すようにリアクトル2とコンデンサ4a,4bの共振周波数を110Hz超に設定すると、アンバランスを誘発しやすくなるため、110Hz以下に設定することで、入力電流Isのアンバランスを解消しやすい状態にできる。
【0047】
共振周波数の設定は110Hz以下かつ負荷電力に応じて変化するが、負荷電流Ioを一定に制御することにより、共振周波数が大の場合でも入力電流Isのアンバランスを抑制することが可能となる。そのため、脈動する負荷電流Ioの変動量と、リアクトル2とコンデンサ4a,4bの共振周波数、入力電流Isを勘案してそれぞれ設定することで、リアクトル2とコンデンサ4a,4bのコストを低減させることが可能となる。
【0048】
なお、従来の一般的なシングルロータリ圧縮機やツインロータリ圧縮機などのモータの負荷において、負荷トルクの脈動による速度変動に伴う振動の増加を抑制するために、モータが出力するトルクを負荷トルクの脈動と略一致させることで速度変動を防止しており、加えて消費電力が大きくなりすぎないようモータの出力トルクを抑制するよう動作させている。
【0049】
このような動作の場合、負荷トルクに応じて負荷電流が変動し、前述の通り入力電流の高調波電流が増加してしまう。モータを駆動するインバータの場合には、負荷電力は機械角周波数ωとトルクτの積で電力が決まる。そのため、機械角周波数ωを変動させるか、トルクτを変動させることで負荷電流Ioを一定に近づけるよう制御させることが可能である。
【0050】
ただし、さらに電源高調波電流が増加しないよう、負荷電流の脈動を抑制するように動作させると、電源電流の振動が増加してしまう懸念がある。一般的なモータの場合、電力変動は負荷トルクに比例し、慣性モーメントに反比例する。負荷トルクの変動による負荷電流の変動量が許容できない場合には、慣性モーメントを大きくするよう設計することで対応することが可能となる。このような対応を行うことで、振動の抑制と電源高調波電流の抑制を両立させることができる。すなわち、電力変換装置100の制御部7は、負荷電流Ioの変動量が許容可能な範囲となるよう、換言すれば、負荷電流Ioの変動量が定められた値以下となるよう、負荷5を制御する。許容可能な範囲とは、電源電流の次数間高調波発生の影響を受ける偶数次高調波が規格の限度値以下の状態を維持可能な範囲であり、リアクトル2のインダクタンス値、コンデンサ4a,4bの静電容量などを考慮して予め決定しておく。
【0051】
また、入力電流Isの高調波電流とモータの振動の両立が困難な場合は、前述の通りリアクトル2とコンデンサ4a,4bの共振周波数を110Hz以下に設定することで、負荷電力に対する入力電流Isの安定性を向上させることが可能となる。
【0052】
なお、空調用の圧縮機駆動用インバータのスイッチング周波数は、電源高調波規制値である40次高調波の2kHz(電源周波数が50Hz時)または2.4kHz(電源周波数が60Hz時)よりも高い。インバータにおける負荷電流はスイッチング周波数に応じたパルス状となるが、このパルス状の電流は電源高調波に影響を与えにくい。そのため、負荷電流の脈動成分は電源高調波規制値である40次高調波の周波数以下を抑制するようにすればよい。
【0053】
つづいて、電力変換装置100が備える制御部7のハードウェア構成について説明する。
図10は、実施の形態1にかかる電力変換装置100が備える制御部7を実現するハードウェア構成の一例を示す図である。電力変換装置100の制御部7は、例えば、
図10に示すプロセッサ91およびメモリ92により実現される。
【0054】
プロセッサ91は、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、DSP(Digital Signal Processor)ともいう)である。メモリ92は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリー、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等である。なお、メモリ92には電力変換装置100の制御部7として動作するためのプログラムが格納され、このプログラムをプロセッサ91が読み出して実行することにより制御部7が実現される。メモリ92に格納される上記のプログラムは、例えば、CD(Compact Disc)-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)-ROMなどの記憶媒体に書き込まれた状態でユーザ等に提供される形態であってもよいし、ネットワークを介して提供される形態であってもよい。
【0055】
なお、制御部7は、専用の処理回路、例えば、単一回路、複合回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせた回路で実現することも可能である。
【0056】
以上説明したように、本実施の形態にかかる電力変換装置100において、負荷5を制御する制御部7は、負荷5に流れる電流である負荷電流Ioが脈動する際の変動量が定められた範囲となるように、具体的には、変動量が小さくなるように、負荷5を制御する。これにより、電力変換装置100は、交流電源1から供給される交流電力を整流する際に発生する電源電流(入力電流Is)の高調波を抑制できる電源電流の高調波の発生を抑制することができる。
【0057】
実施の形態2.
実施の形態1で説明した電力変換装置100および100aは、直流電圧で動作する負荷を駆動する装置に適用することができる。
【0058】
以下、実施の形態1で説明した電力変換装置100または100aを適用可能な装置の一例として、ヒートポンプ装置を説明する。
【0059】
図11は、実施の形態2にかかるヒートポンプ装置200の構成例を示す図である。実施の形態2にかかるヒートポンプ装置200は、実施の形態1で説明した電力変換装置100を備える。
【0060】
また、ヒートポンプ装置200は、四方弁902と、
図1などに示した負荷5を構成する圧縮機903と、熱交換器906と、膨張弁908と、熱交換器910とが、冷媒配管912を介して取り付けられた構成の冷凍サイクルを備えている。
【0061】
圧縮機903には、冷媒配管912内を循環する冷媒を圧縮する圧縮機構904と、圧縮機構904を動作させるモータ905とが設けられている。モータ905は電力変換装置100から電力の供給を受けて駆動する。
【0062】
このような構成のヒートポンプ装置200は、例えば、空気調和機、ヒートポンプ給湯機、冷蔵庫、冷凍機等に利用することができる。
【0063】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 交流電源、2 リアクトル、3,30 整流器、4,40 平滑部、4a,4b,41 コンデンサ、5 負荷、6 電流検出器、7 制御部、100,100a 電力変換装置、200 ヒートポンプ装置、902 四方弁、903 圧縮機、904 圧縮機構、905 モータ、906,910 熱交換器、908 膨張弁、912 冷媒配管。