(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-14
(45)【発行日】2025-03-25
(54)【発明の名称】コイル製造装置、コイル製造方法、ステーター製造方法および回転電機製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/04 20250101AFI20250317BHJP
【FI】
H02K15/04
(21)【出願番号】P 2024506285
(86)(22)【出願日】2023-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2023008085
(87)【国際公開番号】W WO2023171570
(87)【国際公開日】2023-09-14
【審査請求日】2024-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2022034952
(32)【優先日】2022-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 博之
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 秀憲
(72)【発明者】
【氏名】三澤 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】李 旭涛
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-99745(JP,A)
【文献】特表2017-515120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボビンから引出されたマグネットワイヤーをコアに巻回してコイルを製造するコイル製造装置であって、
前記コアに巻回される前の前記マグネットワイヤーの欠陥部を検出する欠陥部検出装置と、
巻回された後の前記コイルの上での前記欠陥部の位置を算出して、欠陥部位置データとして記録する欠陥部位置記録装置と、
を備えたことを特徴とするコイル製造装置。
【請求項2】
前記欠陥部検出装置は、前記マグネットワイヤーの絶縁被膜の絶縁不良を前記欠陥部として検出することを特徴とする請求項1に記載のコイル製造装置。
【請求項3】
前記欠陥部検出装置は、前記マグネットワイヤーを湿式電極で挟み、前記湿式電極と前記マグネットワイヤーの端部との間に加えられた電圧による部分放電を測定することによって前記絶縁不良を検出することを特徴とする請求項2に記載のコイル製造装置。
【請求項4】
ボビンから引出されたマグネットワイヤーをコアに巻回してコイルを製造するコイル製造装置であって、
前記コアに巻回される前の前記マグネットワイヤーの欠陥部を検出する欠陥部検出装置と、
巻回された後の前記コイルの上での前記欠陥部の位置を算出して、欠陥部位置データとして記録する欠陥部位置記録装置と、
を備え、
前記欠陥部位置記録装置は、
前記欠陥部検出装置による
前記コアに巻回される前の前記マグネットワイヤーの前記欠陥部の検出信号と、
エンコーダで計測される前記マグネットワイヤーの通過速度と、
巻回される前記コイルの形状データと、
から前記マグネットワイヤーの前記欠陥部の巻回された後の前記コイルの上での位置を算出して前記欠陥部位置データとして記録することを特徴とするコイル製造装置。
【請求項5】
前記欠陥部検出装置によって検出された前記マグネットワイヤーの前記欠陥部を巻回される前に補修する補修装置を備えたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のコイル製造装置。
【請求項6】
ボビンから引出されたマグネットワイヤーをコアに巻回してコイルを製造するコイル製造装置であって、
前記コアに巻回される前の前記マグネットワイヤーの欠陥部を検出する欠陥部検出装置と、
巻回された後の前記コイルの上での前記欠陥部の位置を算出して、欠陥部位置データとして記録する欠陥部位置記録装置と、
前記欠陥部検出装置によって検出された前記マグネットワイヤーの前記欠陥部を巻回される前に補修する補修装置と、
を備え、
前記補修装置は前記欠陥部の位置に補修材を塗布するスプレーガンと、塗布された後の前記マグネットワイヤーの前記欠陥部に生じた過剰塗装箇所を除去する抑え部を有することを特徴とするコイル製造装置。
【請求項7】
請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載のコイル製造装置によって製造された前記コイルの良否判定を、前記欠陥部位置記録装置によって記録された前記欠陥部位置データによって行うことを特徴とするコイル製造方法。
【請求項8】
ボビンから引出されたマグネットワイヤーをコアに巻回してコイルを製造するコイル製造方法であって、前記マグネットワイヤーの欠陥部を検出する欠陥部検出工程と、
巻回された後の前記コイルの上での前記欠陥部の位置を算出して、欠陥部位置データとして記録する欠陥部位置記録工程と、
前記欠陥部位置記録工程において記録された前記欠陥部位置データによって、巻回後の前記コイルの良否判定を行い選別する選別工程と、
を含むことを特徴とするコイル製造方法。
【請求項9】
コアに巻回される前のマグネットワイヤーの欠陥部を検出する欠陥部検出装置と、
巻回された後のコイルの上での前記欠陥部の位置を算出して、欠陥部位置データとして記録する欠陥部位置記録装置と、
を備えたコイル製造装置により、ボビンから引出されたマグネットワイヤーを前記コアに巻回して前記コイルを製造するコイル製造方法であって、
前記コイルの良否判定を、前記欠陥部位置記録装置によって記録された前記欠陥部位置データにより、前記欠陥部から前記マグネットワイヤーが巻回された前記コアの露出面までの距離を算出し
て行うことを特徴とするコイル製造方法。
【請求項10】
ボビンから引出されたマグネットワイヤーをコアに巻回してコイルを製造するコイル製造方法であって、前記マグネットワイヤーの欠陥部を検出する欠陥部検出工程と、
巻回された後の前記コイルの上での前記欠陥部の位置を算出して、欠陥部位置データとして記録する欠陥部位置記録工程と、
前記欠陥部位置記録工程において記録された前記欠陥部位置データによって、巻回後の前記コイルの良否判定を行い選別する選別工程と、
を有し、
前記欠陥部位置データにより、前記欠陥部から前記マグネットワイヤーが巻回された前記コアの露出面までの距離を算出して前記コイルの良否判定を行うことを特徴とするコイル製造方法。
【請求項11】
コアに巻回される前のボビンから引出されたマグネットワイヤーの欠陥部を検出する欠陥部検出装置と、
前記コアに巻回された後のコイルの上での前記欠陥部の位置を算出して、欠陥部位置データとして記録する欠陥部位置記録装置と、
を備えたコイル製造装置により、ボビンから引出されたマグネットワイヤーを前記コアに巻回してコイルを製造するコイル製造方法であって、
前記コア巻回後の前記コイルの上での前記マグネットワイヤーの前記欠陥部が複数箇所あ
る場合、前記欠陥部に対応して
前記欠陥部位置記録装置によって記録された前記欠陥部位置データから、複数の前記欠陥部の間の前記コイルの上での距離を算出して前記コイルの良否判定を行うことを特徴とするコイル製造方法。
【請求項12】
ボビンから引出されたマグネットワイヤーをコアに巻回してコイルを製造するコイル製造方法であって、前記マグネットワイヤーの欠陥部を検出する欠陥部検出工程と、
巻回された後の前記コイルの上での前記欠陥部の位置を算出して、欠陥部位置データとして記録する欠陥部位置記録工程と、
前記欠陥部位置記録工程において記録された前記欠陥部位置データによって、巻回後の前記コイルの良否判定を行い選別する選別工程と、
を有し、
巻回後の前記コイルの上での前記マグネットワイヤーの前記欠陥部が複数箇所あり、前記欠陥部に対応して記録された前記欠陥部位置データから、複数の前記欠陥部の間の前記コイルの上での距離を算出して前記コイルの良否判定を行うことを特徴とするコイル製造方法。
【請求項13】
請求項
5に記載のコイル製造装置によって製造されたコイ
ル製造方法であって、前記欠陥部位置データに基づく前記コイルの良否判定で不良と判別された前記コイルに対して、さらに絶縁試験をして良否判定することを特徴とするコイル製造方法。
【請求項14】
コアに巻回される前のボビンから引出されたマグネットワイヤーの欠陥部を検出する欠陥部検出装置と、
前記コアに巻回された後のコイルの上での前記欠陥部の位置を算出して、欠陥部位置データとして記録する欠陥部位置記録装置と、
を備えたコイル製造装置により、ボビンから引出されたマグネットワイヤーを前記コアに巻回してコイルを製造するコイル製造方法によって製造された前記コイルを複数個組合せて配置され
るステーター製造方法であって、前記欠陥部位置データ
に基づいて、複数の前記コイルの前記欠陥部の間のステーターの上での距離を算出して前記ステーターの良否判定を行うことを特徴とするステーター製造方法。
【請求項15】
ボビンから引出されてコアに巻回すマグネットワイヤーの欠陥部を検出する欠陥部検出工程と、
巻回された後のコイルの上での前記欠陥部の位置を算出して、欠陥部位置データとして記録する欠陥部位置記録工程と、
前記欠陥部位置記録工程において記録された前記欠陥部位置データによって、巻回後の前記コイルの良否判定を行い選別する選別工程と、
を有するコイル製造方法によって製造された前記コイルを複数個組合せて配置されるステーター製造方法であって、
前記欠陥部位置データに基づいて、複数の前記コイルの前記欠陥部の間のステーターの上での距離を算出して前記ステーターの良否判定を行うことを特徴とするステーター製造方法。
【請求項16】
前記コイルを円環に構成される前の前記コイルのセットについて、円環に組上げる前に前記ステーターの上での距離を算出して、前記ステーターの良否判定を行うことを特徴とする請求項
14または15に記載のステーター製造方法。
【請求項17】
前記ステーターの良否判定で良品となった場合に前記ステーターの絶縁試験を実施することを特徴とする請求項
16に記載のステーター製造方法。
【請求項18】
コアに巻回される前のボビンから引出されたマグネットワイヤーの欠陥部を検出する欠陥部検出装置と、
前記コアに巻回された後のコイルの上での前記欠陥部の位置を算出して、欠陥部位置データとして記録する欠陥部位置記録装置と、
を備えたコイル製造装置により、ボビンから引出されたマグネットワイヤーを前記コアに巻回してコイルを製造するコイル製造方法によって製造された前記コイルを複数個組合せて配置され
るステーター製造方法であって、
前記欠陥部位置データに
基づいてステーターでの前記コイルの組合せを決定して配置することを特徴とするステーター製造方法。
【請求項19】
ボビンから引出されてコアに巻回すマグネットワイヤーの欠陥部を検出する欠陥部検出工程と、
巻回された後のコイルの上での前記欠陥部の位置を算出して、欠陥部位置データとして記録する欠陥部位置記録工程と、
前記欠陥部位置記録工程において記録された前記欠陥部位置データによって、巻回後の前記コイルの良否判定を行い選別する選別工程と、
を有するコイル製造方法によって製造された前記コイルを複数個組合せて配置されるステータ
ー製造方法であって、
前記欠陥部位置データに
より選別された前記コイルの組合せを決定して
ステーターに配置することを特徴とするステーター製造方法。
【請求項20】
請求項14、15、18および19のいずれか1項に記載のステーター製造方法によって製造された前記ステーターにロータを組み付けることを特徴とする回転電機製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、コイル製造装置、コイル製造方法、ステーター製造方法および回転電機製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転電機、あるいはトランスのコイルに巻線されるマグネットワイヤーは、一般的に表面をワニスでコーティングすることにより電気絶縁処理がなされている。ワニス層にキズ、気泡、またはピンホール等の欠陥が存在すると、そこが電気的に脆弱な箇所となり電圧を印加した際の破壊の起点となり得る。
マグネットワイヤーは、絶縁被膜の欠陥部の検査が行われ、ボビンに巻き取られた状態で出荷されるが、絶縁被膜の欠陥部の発生を完全に防止することは困難であり、また、絶縁被膜の欠陥部が発生する位置もバラバラである。
【0003】
回転電機のマグネットワイヤーの絶縁層に傷、ピンホール等の欠陥がある場合、マグネットワイヤーとコア間、マグネットワイヤーと接地間の絶縁性が低下すると共に、コイルの隣り合うマグネットワイヤー間に絶縁破壊を生じることによって、回転電機の性能低下、焼損および漏電などの問題を引き起こす可能性があるため、回転電機にはマグネットワイヤーの欠陥の検査が必要である。
また、回転電機、あるいはトランスのコイルの不良検出として巻線後の最終形状(回転電機の場合、ステーター)の状態にて耐圧試験を行い、品質を保証しており、その時点で性能未達の場合は廃棄となるため、マグネットワイヤーの品質が悪い場合は特に廃棄量が増加している。
【0004】
例えば特許文献1では、納品されたマグネットワイヤーに絶縁被膜の欠陥部が存在することを示すマークを不良箇所に施し、マグネットワイヤーをボビンに巻き取った状態で準備し、コイルの製造過程にてそのボビンを用いて製造する際にマークに基づいて欠陥部を検査し、欠陥部を切断するという製造方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような従来のコイルの製造方法では、納品されたマグネットワイヤーを一度ボビンに巻替えする必要があり生産効率が悪く、また製造後にコイルの性能検査の必要があるためその時点で不良が発生した場合、廃棄量が増加するという問題がある。
本願は上記のような問題を解決するためになされたものであり、コイルの製造方法においてマグネットワイヤーの不良による過剰な判定を抑制し、不良による廃棄量を低減できるコイルの製造装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願のコイル製造装置は、ボビンから引出されたマグネットワイヤーをコアに巻回してコイルを製造するコイル製造装置であって、コアに巻回される前の前記マグネットワイヤーの欠陥部を検出する欠陥部検出装置と、巻回された後のコイルの上での前記欠陥部の位置を算出して、欠陥部位置データとして記録する欠陥部位置記録装置と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
マグネットワイヤーの欠陥部を巻回される前にチェックし、その欠陥部の位置に対して巻回後のコイルの上での欠陥部位置データを算出して記録するようにしたので、マグネットワイヤーの欠陥部のコイルの上での位置によって、巻回後のコイルの良否判定が可能となる。マグネットワイヤーに欠陥部があっても、コイルの性能上に影響のないものは使用できる。そのため、マグネットワイヤーの不良による過剰な判定を抑制し、不良による廃棄量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1に係わるコイル製造装置を示す模式図である。
【
図2】実施の形態1に係わるコイル製造装置の欠陥部検出装置を示す模式図である。
【
図3】実施の形態1に係わるコイル製造装置の制御装置を示すブロック図である。
【
図4】実施の形態1に係わるコイル製造装置のコイルの巻き取り状態を示す斜視図である。
【
図5】実施の形態1に係わるステーターを示す斜視図である。
【
図6】実施の形態2に係わるコイル製造装置の欠陥部位置記録装置の構成を示す模式図である。
【
図7】実施の形態1に係わるコイル製造装置の欠陥部位置記録装置を示すブロック図である。
【
図8】実施の形態1に係わるコイル製造装置の欠陥部位置記録装置の処理を示す模式図である。
【
図9】実施の形態1に係わるコイル製造装置の欠陥部位置記録装置の動作を示すフローチャートである。
【
図10】実施の形態1に係わるコイル製造装置のコイルの良否判定の方法を示す斜視図である。
【
図11】実施の形態2に係わるコイル製造装置のコイルの良否判定の方法を示す斜視図である。
【
図12】実施の形態3に係わるステーターの良否判定の方法を示す斜視図である。
【
図13A】実施の形態3に係わる円環コイルセットの良否判定の手順を示すフローチャートである。
【
図13B】実施の形態3に係わる円環コイルセットの良否判定の手順を示すフローチャートである。
【
図13C】実施の形態3に係わる円環コイルセットの良否判定の手順を示すフローチャートである。
【
図14A】実施の形態4に係わるステーターの製造方法を示す斜視図である。
【
図14B】実施の形態4に係わるステーターの製造方法を示す斜視図である。
【
図15】実施の形態5に係わるコイル製造装置を示す模式図である。
【
図16】実施の形態5に係わるコイル製造装置の抑え部材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係わるコイル製造装置を示す模式図である。
図1において、コイル製造装置100は、地面に対して軸方向が垂直になるように置かれたボビン1から、材料であるマグネットワイヤー2が引き出されており、引き出されたマグネットワイヤー2は、テンショナー3を通り、ノズル4を経て、コイル5に巻き取られる。その際、テンショナー3からコイル5までの区間におけるマグネットワイヤー2は、テンショナー3により所定の張力に保たれており、またテンショナー3とノズル4との間の領域にマグネットワイヤー2の絶縁被膜の欠陥部を検出する欠陥部検出装置200が配置され、マグネットワイヤー2の動線が横切る場所に設置される。これらの機器の制御および信号の加工、データの記録等は制御装置300によって行われる。
【0011】
マグネットワイヤー2は、導体と、導体を覆う絶縁被膜を有し、ボビン1に巻き取った状態で準備される。このマグネットワイヤー2は不良箇所が除去されずに残っており、所定の巻量でボビンに巻き取られている。この導体の形成材料としては、例えば、銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金などが挙げられる。絶縁被膜の形成材料としては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂などが挙げられる。導体の形状としては、例えば断面形状が、円形状、楕円形状、レーストラック形状など、また三角形状、四角形状といった多角形形状など、種々の形状を採用できる。代表的には、断面円形状の丸線および断面矩形状の平角線が挙げられる。
コイル製造装置100は、巻線方式の分類で主にスピンドル巻線方式、フライヤー巻線方式そしてノズル巻線方式等に分けられるが、いずれの巻線方式にも適用可能である。
【0012】
欠陥部検出装置200は、絶縁被膜の欠陥部を検査する装置である。絶縁被膜の欠陥部としては、被膜の膨れ、剥離、ピンホールなどが挙げられ、これら検出対象に応じて、欠陥部検出装置200は複数の検査機器の組合せでもよい。絶縁被膜の欠陥部の検査方法としては、被膜の膨れ、剥離などであれば、例えば、巻線の表面をCCDカメラなどで撮像し、撮像した画像を画像処理装置で処理することで検出すること、また巻線の表面に形成された絶縁被膜の膜厚をレーザ式変位計で測定することで検出することが挙げられる。また、ピンホールであれば、マグネットワイヤー2はボビン1における巻始め側の端部を通じて電気的に繋がるように設置し部分放電を測定することで検出することが挙げられる。
【0013】
図2に実施の形態1の説明で使用する欠陥部検出装置200の構成を示す。欠陥部検出装置200には、液体槽201が設けられ内部に導電性液体202が満たされている。液体槽201の上部に軟質かつ吸湿性を持つフェルト素材による直方体形状の湿式電極203a、203bが設けられ、湿式電極203a、203bの電極間にマグネットワイヤー2が配置される。湿式電極203a、203bは、コイル製造装置100または液体槽201に固定されたクランプ204によって、マグネットワイヤー2に押し付けられ、保持される。すなわち、直方体形状の湿式電極203a、203bがマグネットワイヤー2を挟み込むように接触している。湿式電極203a、203bの下側部分は導電性液体202に浸漬されている。湿式電極203a、203bは、吸湿性があるため、導電性液体202で湿潤している。さらに、湿式電極203a、203bは軟質であるため、クランプ204によってマグネットワイヤー2に押し付けられることで、電極幅D1の領域においてマグネットワイヤー2の全周と接触している。(以下、湿式電極203a、203bの符号を区分けせず203として記述する。)
すなわち電極幅D1の領域において導電性液体202がマグネットワイヤー2の全周で接触していることとなる。この構成によって、導電性液体202をマグネットワイヤー2の表面に効率的に接触させることができる。
【0014】
マグネットワイヤー2は、コイル製造装置100におけるコイル5への巻取動作により、湿式電極203と電極幅D1の接触領域を保ちながら移動する。電源Vは測定範囲に電圧を印加させるためにマグネットワイヤー2の端部をアースに接続し、また測定範囲の末端に電圧を印加させるために接続されている。部分放電検出器205は、マグネットワイヤー2の放電電荷または放電電流を測定し、閾値以上の測定値を検出した場合に絶縁体層における欠陥部を検出したとして制御装置300に検出信号を出力する。
【0015】
電源Vと部分放電検出器205に接続されている金属電極206は、下部を導電性液体202に浸漬され、導電性液体202に交流電圧である電源Vを印加する。湿式電極203は導電性液体202で湿潤しているため、電源Vを接続することで、電極幅D1の領域においてマグネットワイヤー2の全周に電圧が印加される。
このような構成により、マグネットワイヤー2の絶縁体層における電気的な欠陥を非破壊でかつ連続的に検出することが可能となる。
【0016】
制御装置300は、
図3に示すように、プロセッサ301と記憶装置302から構成され、図示していないが、記憶装置はランダムアクセスメモリ等の揮発性記憶装置と、フラッシュメモリ等の不揮発性の補助記憶装置とを具備する。また、フラッシュメモリの代わりにハードディスクの補助記憶装置を具備してもよい。プロセッサ301は、記憶装置302から入力されたプログラムを実行し、後述の
図7で説明する機能ブロックに関する構成および
図9で説明するフローチャートの動作の一部又は全部を遂行する。この場合、補助記憶装置から揮発性記憶装置を介してプロセッサ301にプログラムが入力される。また、プロセッサ301は、入出力される信号、演算の中間値、および演算結果等のデータを記憶装置302の揮発性記憶装置に出力してもよいし、揮発性記憶装置を介して補助記憶装置にデータを保存してもよい。また、プロセッサ301及び記憶装置302に加え、ロジック回路、アナログ回路を併用してもよい。
【0017】
なお、
図1では制御装置300は、コイル製造装置100の内部に設けられた形で示したが、コイル製造装置100とは別置きに設けてもよく、その場合はコイル製造装置100とは通信ケーブル等によって接続される。また、制御装置300は、コイル製造装置100の内部に設けられるものと、別置きに設けられるものと、役割を分けて分散して設けてもよい。
【0018】
図4に、巻回されるコイル5の状態を示す。湿式電極203を通過したマグネットワイヤー2は、ノズル4を経由して巻き取り部に設置されたコア11の周りに巻回される。コア11は、インシュレーター12によってコイル5から絶縁されており、回転台の上に固定され、回転台ごと回転方向Rに回転することによって、マグネットワイヤー2がコア11の周りに巻き付きコイル5が形成される。
形成されるコア11、インシュレーター12の形状・サイズは、予め決められており、コイル形状データとして制御装置300に記録されている。マグネットワイヤー2は、コイル5として、コア11のティース部に予め決められている形状・サイズで巻き取られる。
【0019】
この実施の形態1で示すコア11は回転電機600を形成するステーター500を構成するための分割コアとなる部分であり、
図5に完成されたステーター500を示す。
図5において、コア11に巻回されたコイル5をコアバック部18が円環状に連なるように周方向に並べ、導電性コイル用端子16を介してコイル5の端末と導電性接続部材17とを接続してコイル同士を周方向に2個以上離れたコイル5同士を結線し、隣り合うコイル5同士を渡り線15で接続することにより、ステーター500を形成する。
その後、ステーター500について中間検査で耐圧試験およびサージ試験を行う。本願では、中間検査前の巻線中にマグネットワイヤー2のピンホール等に起因する絶縁不良を把握できるため、中間検査における絶縁不良を減らすことができ、中間検査の工程を減らすことができる。
【0020】
また、中間検査後の製品組立工程において、図示しないロータをステーター500の内径側に空隙を介して回転自在に配置することにより、回転電機600を製造する。その後、ステーター500について最終検査において耐圧試験を行う。本願では、最終検査前の巻線中にマグネットワイヤー2のピンホール等に起因する絶縁不良を把握できるため、最終検査においても、ピンホール起因の絶縁不良を減らすことができ、最終検査の工程不良を減らすことができる。
【0021】
図6に欠陥部検出装置200によって検出された欠陥部のコイル5の上での位置を算出する欠陥部位置記録装置の構成を示す。欠陥部検出装置200の湿式電極203とノズル4との間にエンコーダ400を設置し、マグネットワイヤー2がエンコーダ400を通る速度から、距離(長さ)を算出する。
図7のブロック図に示すように、制御装置300に設けられた欠陥部位置記録装置310がプログラムによって実行される。測定フローに従い、欠陥部位置記録装置310は、湿式電極203、部分放電検出器205、エンコーダ400を制御し、欠陥部の位置の測定を行う。
【0022】
図7において、制御装置300は、プログラムによって動作する機能ブロックとして欠陥部位置記録装置310を有し、欠陥部位置記録装置310は、欠陥部位置算出処理部311、コイル形状データ312、欠陥部位置データ313の機能ブロックを有する。
図6における欠陥部検出装置200の湿式電極203とノズル4との距離L1、ノズル4の先端からコイル5までの距離L2、コイル5の短手方向の長さT1と長手方向の長さT2、加えて巻線張力下でのマグネットワイヤー2の伸び率を予め把握しておき、これらのデータはコイル形状データ312の中に記録されている。
欠陥部位置算出処理部311では部分放電検出器205からの信号とエンコーダ400からの信号を取り込み、コイル5の巻き始めの距離をゼロ点として、巻き取り距離を欠陥部位置データ313に記録する。
【0023】
上述した通り、電源Vを接続し電極幅D1の領域においてマグネットワイヤー2の外周表面に交流電圧を印加し、もし電極幅D1の測定領域に絶縁体を貫通するピンホール等の欠陥が存在する場合、導電性液体202は絶縁体層の内側の導体と直接接触するため、電圧印加時には電流が検出され、湿式電極203の電極幅D1領域で絶縁欠陥を検出できる。
また、コイル製造装置100において巻線動作が行われる際、マグネットワイヤー2は必ず欠陥部検出装置200の電極幅D1領域を通過するので、製品としてコイル5に巻き取られるマグネットワイヤー2の全てに対して、その全領域の欠陥部を検査できる。
【0024】
図8は、欠陥部位置記録装置310の処理を示す模式図である。部分放電検出器205からの検出信号により湿式電極203の位置においてマグネットワイヤー2の欠陥部を検出することができる。エンコーダ400の信号を取り込みコイル5の巻き始めの距離をゼロ点として記録された巻き取り距離E1と、既知の距離(長さ)L1、L2、T1、T2そして巻線張力に従うマグネットワイヤー2の伸び率から、コイル5の上において何巻目のどの場所に欠陥部が位置するかを計算によって正確に求めることができる。
したがって、巻線におけるコイル5の始端となる位置から欠陥部が検出された湿式電極203までの距離を測定することで、検出位置に基づいて、コイル5を形成したときにマグネットワイヤー2の被膜不良である欠陥部がコイル5のどの位置に巻き上げられ配置されるかを判定できる。
また、欠陥部の検出時点の距離をゼロ点とし、湿式電極203からの巻き取り距離E2を求めることで、コイル5の巻き取り完了後にマグネットワイヤー2に残る欠陥部があった場合でも、つぎのワークとなるコイル5の欠陥部の位置として記録することができる。
【0025】
図9は、欠陥部位置記録装置310の動作を示すフローチャートである。まず、コイル製造装置100により、巻線を開始するのと同時に距離E1、E2を0にリセットし、エンコーダ400の距離E1のカウントを開始する(ステップS1)。次に欠陥部検出が始まり、湿式電極203の位置において欠陥部の検出を行う(ステップS2)。欠陥部が検出されなければ、巻き取り距離E1がコイルの巻き終わりとなる距離Ltになるまで、欠陥部の検出であるステップS2が繰り返される(ステップS13)。巻き終わりにて欠陥部が検出されなかった場合、次の巻線を開始するためにワークを交換する(ステップS14)。ワークの交換では、終端位置でマグネットワイヤー2を切断して巻き終わったコイル5を取り外し、新しいコア11を巻き取り台にセットし、切断されたマグネットワイヤー2を新しいコイル5の巻始め位置にセットする。
【0026】
欠陥部が検出された場合(ステップS2)、検出時のカウントの距離E1を取得し、欠陥部位置記録装置310に記憶する(ステップS3)。距離E1取得と同時に、次の欠陥部検出箇所までの距離E2を取得するための新たなカウントを開始する(ステップS4)。巻線完了に必要なマグネットワイヤー2の全距離Ltと、欠陥部が検出された距離E1とを比較する(ステップS5)。比較する際、全距離Ltから巻線開始時の既知の距離L1と距離L2を差し引いておく(
図8の各距離関係を参照)。これらの距離は電線の種類、電線にかかる張力により設定される伸び率を考慮し距離を算出する。
【0027】
距離E1が全距離Lt-(距離L1+距離L2)よりも小さいとき(ステップS5)、巻線しているコイル5に欠陥部が巻き取られることになる。距離E1+距離L1+距離L2に応じたコイル5の上の欠陥部の位置を算出して欠陥部位置記録装置310に記録する(ステップS6)。欠陥部が検出された距離E1に欠陥部が検出されてから現在までの距離E2を加えることで、巻き始めから現在までの距離E1とし(ステップS7)距離E1のカウントを継続する。この際、距離E2をリセットする(ステップS8)。その後、ステップS2に戻って次の欠陥部の検出を行う。
【0028】
距離E1が全距離Lt-(距離L1+距離L2)と等しいか、または大きいとき、巻終わりとなる巻き取り距離E1がコイルの巻き終わりとなる距離Ltになるまで待って(ステップS9)、距離E2を取得する(ステップS10)。この場合、巻き終わりの地点から、距離L1+距離L2さかのぼった地点までの範囲のいずれかの位置で欠陥部Xが存在していると推測され、コイル5の交換とともに(ステップS11)、L1+L2-E2に対応したコイル5の上の欠陥部の位置を算出し(
図8の各距離関係を参照)、欠陥部位置記録装置310に記録する(ステップS12)。この記録は交換後の新しいコイル5に対する記録となる。記録後、ステップS1に戻って交換後の新しいコイル5についての巻線を開始する。
コイル5の交換毎に距離のカウントをリセットするので、エンコーダ400の距離読み取り量と、実際のマグネットワイヤー2の送り量とのずれがコイル5の生産が進むにつれて広がる事はない。
【0029】
次に、欠陥部位置記録装置310に記録されたコイル5の上での欠陥部の位置に応じてコイル5の品質の優劣を判断する。
図10にコイル最外周に欠陥位置がある場合での良否判定を説明する斜視図を示す。
図10は、
図4で示されたコイル5の斜視図の右上部分に相当するコア11のコアバック部分とインシュレーター12の上部のコイル側から見た拡大図である。
前述に記載した
図9の欠陥部の位置の測定フローにより得られた欠陥部位置データ313を基に、欠陥部Xからインシュレーター12の端部までの距離L3を算出する。また、製品に応じて定められたインシュレーター12からコア11の露出部までの距離L4を用いることで、欠陥部の位置からコア11の露出部までの距離を把握することが可能となる。L3+L4の距離が、製品で定められた絶縁距離の閾値を超える場合、マグネットワイヤー2上に欠陥部があったとしても絶縁不良が発生しないと判別できる。このようにして、欠陥部位置データ313によってコイル5の良否判定が可能となり、巻回されたコイル5の選別が行われる。
【0030】
上記のようにコイル5の選別が行われるので、マグネットワイヤー2の欠陥部検出で得られた判定結果に対して製品機能上で過剰な判定を抑制することを可能とし、また、従来はコイル5を円環に組立てられたステーター500に性能評価として絶縁試験を行い、絶縁不良を検出した場合は組み立てられたステーター500を廃棄していたが、ステーター500の製作途中に優劣の判断ができることで、廃棄量の低減が見込める。
【0031】
実施の形態2.
図11は、実施の形態2に係わるコイル5の層間に複数の欠陥部がある場合のコイル5の判定方法を説明する模式図である。コイル5の上のマグネットワイヤー2の欠陥部の位置を巻線前に計算し、コイルの層間のマグネットワイヤー2の欠陥部の位置の距離を計算することでモーターコイルの優劣を判定する。
前述した
図9の欠陥部の位置の測定フローにより得られた欠陥部位置データ313を基に、コイル5のマグネットワイヤー2上の欠陥部Xの位置同士の層間の距離L5を算出する。L5の距離が、製品で定められた絶縁距離の閾値を超える場合、マグネットワイヤー2上に欠陥部があったとしても絶縁不良が発生しないと判別できる。
【0032】
そのため、マグネットワイヤー2の欠陥部検出で得られた判定結果に対して製品機能上で過剰な判定を抑制することを可能とし、また、従来はコイル5を円環に組立てられたステーター500に性能評価として絶縁試験を行い、絶縁不良を検出した場合は組み立てられたステーター500を廃棄していたが、ステーター500の製作途中に優劣の判断ができることで、廃棄量の低減が見込める。
【0033】
実施の形態3.
図12は、実施の形態3に係わるステーター500の良否判定の方法を示す斜視図である。最外周に欠陥部Xの位置があるコイル5同士の判定方法について説明する。コイル5の上のマグネットワイヤー2の欠陥部Xの位置を巻線前に計算し、ステーター500の隣り合うコイル5のマグネットワイヤー2の欠陥位置同士の距離を計算することでステーター500の優劣を判定する。
【0034】
前述した
図9の欠陥部の位置の測定フローにより得られた欠陥部位置データ313を基に、コイル5が円環状に組み立てられたときの円環の中心位置を原点にし、座標変換することで、コイル5のマグネットワイヤー2上の欠陥部Xの位置が原点座標に換算される。その際に、最外周側かつ隣り合うコイル5の場合は各コイル5を円環状に組み立てられたとき、円環の中心位置から座標変換した欠陥部位置データ313から欠陥部Xの位置同士の距離L6を計算する。L6の距離が、製品で定められた絶縁距離の閾値を超える場合、マグネットワイヤー2上に欠陥部Xがあったとしても絶縁不良が発生しないと判別できる。また、ステーター500の製作途中に優劣の判断ができることで、廃棄量の低減が見込める。
【0035】
つぎに、
図13Aから
図13Cのフローチャートにより、コイルの製造装置によるコイル製造からステーターの製造前(コイルを円環状に組立てる前)までの一連の流れを説明する。ステーター500を構成するために用意されるn個のコイル5を円環コイルセットC1からCnとするとき、
図13Aにて、代表となる円環コイルセットCiに対する巻線の手順を説明する。詳細な動作の説明は
図9で説明した通りであるが、ここでは、コイル製造に必要な流れを中心に説明する。
【0036】
まず、i番目の円環コイルセットCiとなるコア11をワークとして回転台にセットし、コイルのナンバーCiを欠陥部位置記録装置310の欠陥部位置データ313に記録して巻線を始める。欠陥部の個数をjとしてj=0からカウント始める(ステップS21)。マグネットワイヤー2の欠陥部の検出有無をチェックする(ステップS22)。欠陥部が検出されないときは、コイルの巻き終わりになるまで(ステップS26)、この検出ステップであるステップS22が繰り返される。欠陥部が検出されると、欠陥部個数jがカウントアップされ(ステップS23)、その巻き取り距離が取得される(ステップS24)。この距離からコイル形状データ312により欠陥部の位置情報が算出され、欠陥部位置座標Xij(円環コイルセットCiのj番目の欠陥部位置座標)が算出され欠陥部位置データ313に記録される(ステップS25)。この場合の位置情報は、コア11の特定形状の位置を原点におく三次元(x、y、z)の座標情報となる。また、同時に、コイルの何巻目のどの位置にあるかも合わせて記録してもよい。その後、巻き終わりとなるまで(ステップ26)、ステップS22へ戻り、新たな欠陥部検出を繰り返す。巻き終わりとなると(ステップS26)、ワーク交換(ステップS27)にて次の円環コイルセットCi+1に進む。
【0037】
なお、巻線を開始する前に最初に巻き取られるマグネットワイヤーに欠陥部が存在している場合は、ステップS21からステップS22を飛ばしてステップS23に進める。また、欠陥部検出なし(j=0)のままで巻き終わったものは、欠陥部なしの記録を欠陥部位置データ313に記録しておく。その場合、欠陥部位置情報Xi0として、(0,0,0)などあり得ない座標を記録してもよい。
【0038】
円環コイルセットCnまで、巻線が終了したら、
図13Bに進む。
図13Bでは、円環コイルセットC1からCnを円環状に組んだ場合のコイル間の欠陥部の直線距離を算出するための座標を抽出する。まずi=1から始める(S31)。円環コイルセットCiの欠陥部位置座標Xijのすべての欠陥部の位置情報を欠陥部位置データ313から読出す(ステップS32)。読出された欠陥部位置座標の中から最外周に巻かれた欠陥部位置座標のみを抽出し、組立後の円環の中心位置を原点とする三次元座標(x、y、z)に座標変換にした欠陥部位置座標Xiを算出して欠陥部位置データ313に記録する(ステップS33)。次に円環コイルセットのカウントiを進めて(ステップS34)、円環セット完了(i=n)となるまで(ステップS35)、ステップS32、S33を繰り返す。円環セット終了したら、
図13Cに進む。
なお、ステップS33において最外周に巻かれた欠陥部位置座標Xiが複数存在する場合は、両側に隣接するコイルに最も近いものを、両側に1つずつ選ぶ。また、この欠陥部位置座標Xiが存在しない場合は、隣接する円環コイルセットの位置同士の欠陥部位置座標の比較に掛からない座標値に設定する。
【0039】
図13Cでは、フローチャートに従って、円環コイルセットC1からCnの良否判定を行う。まず、
図13Bで座標変換された位置座標に基づき、円環コイルセットC1の欠陥部位置座標X1を欠陥部位置データ313から読込む(ステップS101)。つぎに隣接する円環コイルセットC2の欠陥部位置座標X2を読込む(スッテプS102)。これらの欠陥部位置座標X1とX2の直線距離を隣接円環コイルセット間の欠陥部の位置同士の距離Lc1として算出する(ステップS103)。同様にして、他の円環コイルセットC2からCnについても、隣接する円環コイルセット間の距離Lc2からLcnとして算出する(ステップS121からステップS1n3に相当)。
なお、
図13BのステップS33で説明したように欠陥部位置座標Xiが2つある場合は、距離LciはLciが小さくなるほうの欠陥部位置座標Xiを使用して算出する。
【0040】
これらの算出ステップの結果がすべて揃ったら、算出された隣接する円環コイルセット間の欠陥部の位置同士の距離Lc1からLcnのすべてが、製品で定められた絶縁距離の閾値を超えるか否かを比較する(ステップS201)。すべて距離Lc1からLcnが絶縁距離の閾値を超えていれば、合格として、円環コイルセットC1からCnは次工程である円環組立工程に進む(ステップS202)。距離Lc1からLcnの中に絶縁距離の閾値以下のものがあれば、これらの円環コイルセットC1からCnは、円環組立される前に不良の円環コイルセットとして不良ラインに排出される(ステップS203)。ただし、不良として排出された円環コイルセットの中に、最外周側の欠陥部を持たないものがあれば、他の円環コイルセットに組込んで再利用してもよい。
【0041】
以上のように、円環コイルセットの円環組立工程に入る前に、円環コイルセットの良否判定が可能となる。マグネットワイヤー2の欠陥部検出で得られた判定結果に対して製品機能上で過剰な判定を抑制することを可能とし、また、従来はコイル5を円環に組立てられたステーター500に性能評価として絶縁試験を行い、絶縁不良を検出した場合は組み立てられたステーター500を廃棄していたが、ステーター500の製作途中に優劣の判断ができることで、廃棄量の低減が見込める。また、余分な円環組立工程、および円環組立後の絶縁試験を行う手間を省くことが可能となる。
なお、ここでいう絶縁試験とは、ステーター組立後の中間検査、および回転電機組立後の最終検査で行う耐圧試験およびサージ試験のことを呼ぶものである。
【0042】
実施の形態4.
図14A、
図14Bは、実施の形態4に係わるステーター500の製造方法を示す斜視図である。コイル5の最外周に欠陥部Xの位置があるモーターコイルの隣り合うコイル5の選別方法について説明する。
前述した
図9の欠陥部の位置の測定フローにより得られた欠陥部位置データ313を基に、各コイル5が円環状に組み立てられたときの円環の中心位置を原点にし、座標変換することで、各コイル5のマグネットワイヤー2上の欠陥部Xの位置が原点座標に換算される。その際に、最外周側かつ隣り合うコイル5の場合は各コイル5を円環状に組み立てられたとき、円環の中心位置から座標変換した欠陥部位置データ313から欠陥部Xの位置同士の距離L7を計算し、L7の距離が、製品で定められた絶縁距離の閾値以下の場合は、マグネットワイヤー2上に欠陥部Xの位置が隣り合わず、もしくは製品で定められた絶縁距離の閾値を超えるように組み合わせる。
図14Aではコイル5aとコイル5bの隣接により距離L7が短くなるが、順序を入れ換え
図14Bのようにコイル5bとコイル5aとなるようにすると、距離L7を引き離すことができる。
【0043】
そのため、マグネットワイヤー2の欠陥部検出で得られた判定結果に対して製品機能上で過剰な判定を抑制することを可能とし、また、従来はコイル5を円環に組立てられたステーター500に性能評価として絶縁試験を行い、絶縁不良を検出した場合は組み立てられたステーター500を廃棄していたが、ステーター500の製作途中に優劣の判断ができることで、廃棄量の低減が見込める。
【0044】
実施の形態5.
図15は、実施の形態5に係わるコイル製造装置を示す模式図である。部分放電検出器205からの検出信号により湿式電極203の位置においてマグネットワイヤー2の欠陥部を検出することができる。この欠陥部が検出された時点からのマグネットワイヤー2の移動距離をエンコーダ400から得ることにより、コイル5での巻線前のマグネットワイヤー2の欠陥部に補修装置410において絶縁保護の塗装を行う。
補修装置410は、スプレーガン411と抑え部材412から構成される。欠陥部検出を受けた際の信号をトリガーとし、制御装置300は巻線速度、欠陥部の位置を考慮したうえで補修材塗布の信号をスプレーガン411に与え、マグネットワイヤー2の欠陥部が通過する所定位置に塗装剤を塗布する。
図15では、スプレーガン411を上下方向に少し離して2箇所に設けたものを示している。スプレーガン411の配置および個数はこれに限定されるものではなく、マグネットワイヤー2の全周に塗布できるものであれば、数量、位置は任意に選定できる。
【0045】
塗装材料としては巻線速度に影響がでないよう速乾性があるものが望ましい。例としてフッ素コーティング剤があげられるが、要求される絶縁性能、膜厚を満たすコーティング剤であれば他材料でも問題ない。塗装方法として、塗装材料をスプレーガン411に供給し、前述で記載された欠陥部の通過のタイミングにてスプレーガン411を動作させる。
図16に、抑え部材の模式図を示す。マグネットワイヤー2は図の方向Fに送られ、欠陥部に対する塗装剤の過剰塗布箇所413は抑え部材412で除去し、マグネットワイヤー2に要求される寸法、塗装むらの抑制を行う。また抑え部材412は半円形状で、2箇所で押圧することによりマグネットワイヤー2への過度なテンションを抑制することが可能となる。
【0046】
実施の形態5におけるコイル製造装置では、マグネットワイヤー2の欠陥部をコイル5のコア11への巻回作業の前に補修装置410によって補修することで、欠陥部が検出されたマグネットワイヤー2であっても再利用が可能となり、マグネットワイヤー2の欠陥部に起因する廃棄量の低減が見込める。
また、このような欠陥部への補修は、保全のための仮補修ととらえて、補修後の欠陥部についても上述した実施の形態1から4に示したように欠陥部位置データ313に記録し、このデータを用いてコイルおよびステーターの判定を行うことができる。その場合、欠陥部位置データ313を用いた良否判定で不良と判断されたコイルおよびステーターであっても絶縁試験段階で復活することができるものがあり、不良による廃棄量をさらに低減することが可能となる。
【0047】
本願は、様々な例示的な実施の形態および実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、および機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組合せで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0048】
1 ボビン、2 マグネットワイヤー、3 テンショナー、4 ノズル、5,5a,5b コイル、11 コア、12 インシュレーター、15 渡り線、16 導電性コイル用端子、17 導電性接続部材、18 コアバック部、100 コイル製造装置、200 欠陥部検出装置、201 液体槽、202 導電性液体、203,203a,203b 湿式電極、204 クランプ、205 部分放電検出器、206 金属電極、300 制御装置、301 プロセッサ、302 記憶装置、310 欠陥部位置記録装置、311 欠陥部位置算出処理部、312 コイル形状データ、313 欠陥部位置データ、400 エンコーダ、410 補修装置、411 スプレーガン、412 抑え部材、413 過剰塗布箇所、500 ステーター、600 回転電機。