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特許7651073プライマー組成物、電気絶縁用注型成形品およびその製造方法
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  • 特許-プライマー組成物、電気絶縁用注型成形品およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-14
(45)【発行日】2025-03-25
(54)【発明の名称】プライマー組成物、電気絶縁用注型成形品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 129/14 20060101AFI20250317BHJP
   C09D 5/25 20060101ALI20250317BHJP
   C09D 163/02 20060101ALI20250317BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20250317BHJP
   C09D 161/06 20060101ALI20250317BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20250317BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20250317BHJP
   B29C 45/16 20060101ALI20250317BHJP
【FI】
C09D129/14
C09D5/25
C09D163/02
C09D5/00 D
C09D161/06
C09D7/65
C09D7/63
B29C45/16
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024541750
(86)(22)【出願日】2024-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2024009462
【審査請求日】2024-07-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】保田 直紀
(72)【発明者】
【氏名】笹山 祥平
(72)【発明者】
【氏名】宮武 恭介
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 洋
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特許第3612594(JP,B2)
【文献】特開2011-040727(JP,A)
【文献】特開2005-290030(JP,A)
【文献】特開2003-160678(JP,A)
【文献】特開平07-029443(JP,A)
【文献】特開平07-014453(JP,A)
【文献】特開昭60-161423(JP,A)
【文献】特開2010-138280(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 129/14
C09D 5/25
C09D 163/02
C09D 5/00
C09D 161/06
C09D 7/65
C09D 7/63
B29C 45/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、熱硬化性樹脂と、を含み、金属部品と主剤がエポキシ樹脂、フェノール樹脂またはシリコーンゴムである注型成形材料とを接着するプライマー層を形成するプライマー組成物であって、
前記熱可塑性樹脂は、水酸基含有量が10mol%以上50mol%以下のアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂であり、
前記熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂と、前記アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂および前記フェノール樹脂を常温で相溶させ得る、エポキシ当量が700g/eq以下であり、重合平均分子量が1500以下であり、かつ前記常温での粘度が35000mPa・s以下であるビスフェノールA型またはビスフェノールF型の液状エポキシ樹脂と、を含み、
前記アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂、前記フェノール樹脂および前記ビスフェノールA型または前記ビスフェノールF型の液状エポキシ樹脂を有機溶媒に均一溶解させた溶液であることを特徴とするプライマー組成物。
【請求項2】
前記アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂のアセタール化度が30mol%以上90mol%以下であり、重合平均分子量が1000以上であることを特徴とする請求項1に記載のプライマー組成物。
【請求項3】
前記アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂は、ポリビニルアセトアセタール樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のプライマー組成物。
【請求項4】
前記アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂は、アセトアセタール基およびブチラール基の両方の基を有するアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のプライマー組成物。
【請求項5】
前記アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂は、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセトアセタール樹脂並びにアセトアセタール基およびブチラール基を有するアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂の群から選択される2以上の樹脂を混合した混合樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のプライマー組成物。
【請求項6】
ブタジエン系樹脂、アクリル系樹脂およびポリスチレン系樹脂の少なくとも1つからなるゴム粒子をさらに含み、
前記ゴム粒子は、前記熱硬化性樹脂および前記熱可塑性樹脂の総量100重量部に対して、0.1重量部以上40重量部以下の範囲で添加されることを特徴とする請求項1に記載のプライマー組成物。
【請求項7】
ヘキサメチレンテトラミン、トリフェニルホスフィン、N-メチルピペラジン、2-エチル-4-メチルイミダゾール、テトラ-n-ブトキシチタンの群から選択される少なくとも1つの材料を含む硬化促進剤をさらに含み、
前記硬化促進剤は、前記フェノール樹脂100重量部に対して0.01重量部以上30重量部以下の範囲で添加されることを特徴とする請求項1に記載のプライマー組成物。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂は、前記熱硬化性樹脂100重量部に対して5重量部以上200重量部以下の範囲で含まれることを特徴とする請求項1に記載のプライマー組成物。
【請求項9】
複数のアルコキシ基に加えて、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、ベンゾトリアゾール基、イミダゾール基、およびヒドロキシル基の群から選択される1つ以上の基を有する有機ケイ素化合物をさらに含み、
前記有機ケイ素化合物は、前記熱硬化性樹脂および前記熱可塑性樹脂の総量100重量部に対して、0.01重量部以上5重量部以下の範囲で添加されることを特徴とする請求項1に記載のプライマー組成物。
【請求項10】
金属部品を熱硬化性樹脂または熱硬化性エラストマーを含む注型成形材料によって注型成形する電気絶縁用注型成形品であって、
前記金属部品の表面と前記注型成形材料との間に請求項1から9のいずれか1つに記載のプライマー組成物によって形成されるプライマー層を備えることを特徴とする電気絶縁用注型成形品。
【請求項11】
金属部品を主剤がエポキシ樹脂、フェノール樹脂またはシリコーンゴムである注型成形材料によって注型成形する電気絶縁用注型成形品の製造方法であって、
請求項1から9のいずれか1つに記載のプライマー組成物を前記金属部品の表面に塗布し、プライマー層を形成する塗布工程と、
前記表面に前記プライマー層が形成された前記金属部品を金型の内部に配置し、前記注型成形材料を注型成形する注型成形工程と、
を含むことを特徴とする電気絶縁用注型成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属部品と熱硬化性樹脂または熱硬化性エラストマーの注型成形材料との接着力に優れたプライマー組成物と、金属部品と注型成形材料とをこれらの境界面に形成したプライマー組成物を用いたプライマー層によって接着した電気絶縁用注型成形品およびその製造方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスを絶縁媒体として用いるガス絶縁開閉装置(Gas Insulated Switchgear:GIS)に用いられる電気絶縁用注型品は、ガスの封入圧力、使用環境の温度変化すなわち温度サイクルに長期間晒される。エポキシ樹脂の注型材料中に金属部品を埋め込んだ注型品では、金属部品と注型材料との境界面においてガスの封入圧力に加えて両者の線膨張係数の違いによる応力が繰り返し発生するため、界面の接着力が低下し、注型材料が剥離することがある。この剥離した部分は部分放電の起点となり、放電ツリーが注型材料内部に進展し絶縁破壊に至る。
【0003】
この剥離発生を抑制する方法として、金属部品と注型材料であるエポキシ樹脂との間の接着力を強固にすることが考えられる。接着力強化の具体的方法としては、金属部品とエポキシ樹脂との境界面にプライマー層を形成する方法、金属部品の表面粗度を増加させてエポキシ樹脂の硬化収縮によるアンカー効果を利用する方法、または金属部品の表面とクロメート処理液との反応によって化成皮膜であるクロメート皮膜を形成する方法が一般的である。
【0004】
特許文献1には、2つ以上のエポキシ基を1分子中に有するエポキシ化合物およびポリエステルアミドを含む主剤とエポキシ硬化剤とを有するプライマー剤が開示されている。また、特許文献2には、ビスフェノール型エポキシ樹脂とポリビニルブチラール樹脂とフェノール樹脂との混合物をアセトンおよびアルコールで希釈して得られるプライマー剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-105304号公報
【文献】特開平7-14453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術は、金属導体とモールド樹脂層との間を容易に分離し金属導体を再利用できるプライマー剤に関するものであり、160℃以上に昇温することによってポリエステルアミドとの架橋点が切断し、接着強度が低下する。エポキシ樹脂による注型では、加熱工程における硬化反応での内部発熱によって温度が160℃以上に上昇することも容易に考えられ、注型品の金属導体との界面で剥離が生じ、絶縁性能が低下する場合がある。
【0007】
一方、特許文献2に記載の技術では、ポリビニルブチラール樹脂は、ブチラール基による可撓性で金属部品と注型材料との界面で発生する応力を緩和する作用があるが、界面との接着性は、ポリビニルブチラール樹脂の合成時に残存する水酸基量に大きく影響を受ける。応力緩和と接着性とを両立するには、分子内に存在するブチラール基量と水酸基量とが重要であり、ブチラール基量が多く、水酸基量が少なすぎると化学的な接着力が得られない。逆に、ブチラール基量が少なく、水酸基量が多いと応力緩和が小さく、プライマー層が脆い膜質となり、金属部品とエポキシ樹脂との界面の接着力が向上しない。また、ポリビニルブチラール樹脂の分子量が高いと有機溶剤への溶解性が低下し、均質なプライマー溶液とならないため、均一な膜厚の塗膜が得られず、金属部品とエポキシ樹脂との界面の接着力にバラつきが生じる。さらに、ポリビニルブチラール樹脂は耐熱性が低いため、プライマー層の硬化時の樹脂間の架橋密度によっては、電気絶縁用注型品の使用環境における80℃以上120℃以下の高温環境での安定した接着強度が得られない。特に通電中に金属部品が発熱した際に、注型材料との線膨張係数の違いによる応力によって、界面で剥離が生じやすくなる。
【0008】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、金属部品に表面処理を施さなくても熱硬化性樹脂または熱硬化性エラストマーの注型成形材料との接着力が高く、80℃以上120℃以下の高温環境下に置かれた場合でも金属部品との界面剥離の発生を抑制するプライマー層を形成することができるプライマー組成物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係るプライマー組成物は、熱可塑性樹脂と、熱硬化性樹脂と、を含み、金属部品と主剤がエポキシ樹脂、フェノール樹脂またはシリコーンゴムである注型成形材料とを接着するプライマー層を形成する。熱可塑性樹脂は、水酸基含有量が10mol%以上50mol%以下のアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂である。熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂と、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂およびフェノール樹脂を常温で相溶させ得る、エポキシ当量が700g/eq以下であり、重合平均分子量が1500以下であり、かつ常温での粘度が35000mPa・s以下であるビスフェノールA型またはビスフェノールF型の液状エポキシ樹脂と、を含む。プライマー組成物は、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂、フェノール樹脂およびビスフェノールA型またはビスフェノールF型の液状エポキシ樹脂を有機溶媒に均一溶解させた溶液である。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係るプライマー組成物は、金属部品に表面処理を施さなくても熱硬化性樹脂または熱硬化性エラストマーの注型成形材料との接着力が高く、80℃以上120℃以下の高温環境下に置かれた場合でも金属部品との界面剥離の発生を抑制するプライマー層を形成することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1に係る電気絶縁用注型成形品の構成の一例を模式的に示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本開示の実施の形態に係るプライマー組成物、電気絶縁用注型成形品およびその製造方法を図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
この明細書で注型成形材料とは、常圧注型、真空注型、加圧ゲル化注型などの注型法、または射出成形、押出成形、インサート成形などの成形法の原料である材料であって、金型に充填して固化させることによって注型成形品(注型品、成形品)を得ることができる材料である。一般的に注型法で用いられる注型材料は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、硬化剤、充填剤、各種添加剤(硬化促進剤、消泡剤、沈降防止剤など)で構成され、成形法で用いられる成形材料は、シリコーンゴム、エチレンプロピレンジエンゴムなどの熱硬化性エラストマー、硬化剤(架橋剤、加硫剤)、充填剤、各種添加剤(硬化促進剤、消泡剤、沈降防止剤、可塑剤など)で構成される。これらの注型材料と成形材料とを総称して注型成形材料とし、金型内で加熱硬化すなわち化学変化させて得た製品を注型成形品とする。
【0014】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る電気絶縁用注型成形品の構成の一例を模式的に示す断面図である。電気絶縁用注型成形品10は、金属部品1と、注型成形材料2と、プライマー層3と、を有する。図1に示されるように、金属部品1と注型成形材料2との間には、プライマー層3が配置されている。すなわち、プライマー層3は、金属部品1と注型成形材料2とを接着する接着層の役割を有する。注型成形材料2の一例は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ウレタンゴムなどの熱硬化性エラストマーである。特に、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーンゴムは、注型成形時の加熱時に原料の官能基とプライマー層3の官能基とで反応して架橋するため、金属部品1と注型成形材料2とを化学的に接着させる効果が大きい。このため、注型成形材料2の主剤としてエポキシ樹脂、フェノール樹脂またはシリコーンゴムが好ましい。
【0015】
実施の形態1における電気絶縁用注型成形品10の製造方法は、以下の手順で行われる。まず、機械加工にて決められた形状に加工された金属部品1に対する溶剤を用いた超音波脱脂が行われる。その後、必要に応じて、金属部品1に対して、アルカリ溶液による脱脂、塩酸または硫酸への浸漬による表面不純物の除去が行われる。次いで、水洗による洗浄を行い、機械加工の工程での金属部品1への付着液が除去される。
【0016】
次いで、水酸基含有量が10mol%以上50mol%以下の熱可塑性樹脂であるアルキルアセタール化ポリビニルアルコールと、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂と、常温すなわち25℃でこれらの2つの樹脂を相溶させ得る熱硬化性樹脂であるビスフェノールA型あるいはビスフェノールF型の液状エポキシ樹脂と、を有機溶媒に均一溶解させたプライマー組成物を生成する。ここで、樹脂を有機溶媒に均一溶解させたか否かは、目視で有機溶媒が透明な溶液であるか否かによって確認することができる。つまり、目視で有機溶媒が不透明である場合には、樹脂が有機溶媒に不均一に溶解した状態であり、目視で有機溶媒が透明である場合には、樹脂が有機溶媒に均一に溶解した状態である。樹脂が不均一に有機溶媒に溶解した状態は、樹脂が有機溶媒に溶解しきれなかった状態であり、一例では溶け切らなかった不透明な樹脂が透明な有機溶媒に存在する状態である。
【0017】
その後、上記の方法で洗浄された金属部品1の表面に、生成したプライマー組成物を塗布して、風乾あるいは加熱処理にて乾燥して、金属部品1の表面にプライマー層3を形成する。その後、プライマー層3を形成した金属部品1に注型成形材料2を注型成形することによって、図1に示される電気絶縁用注型成形品10が製造される。
【0018】
プライマー組成物に配合される熱硬化性樹脂は、注型成形材料2とは結合し得る基を有するため接着力が高いが、弾性および可塑性に劣るため金属部品1とは接着しにくい。そこで、弾性物質である熱可塑性樹脂を配合することで、注型成形材料2と金属部品1との両方と接着性を向上させることができる。熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂の2種を配合するのは、フェノール樹脂が、エポキシ樹脂と、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂と、の両方と反応し、プライマー組成物を硬化させることができるためである。フェノール樹脂とアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂とは常温である25℃で固体のものが一般的である。これら固体の樹脂と固体のエポキシ樹脂とを有機溶媒に溶解させたプライマー組成物の場合、有機溶剤への溶解度の違いによって配合が制限されたり、保管時に樹脂が析出したりするなどしてポットライフが低下する傾向がある。また、金属部品1に塗布したプライマー層3が均一な薄膜にならず、あるいは膜化できても脆く、金属部品1と注型成形材料2との接着力を安定的に高めることができない。従って、エポキシ樹脂は、プライマー組成物の均一で靭性の高い塗膜形成の主要素となる結合剤の役割を果たす必要があるため、フェノール樹脂を常温である25℃で相溶させる液状のものを選定する必要がある。
【0019】
上記熱硬化性樹脂は、液状エポキシ樹脂とフェノール樹脂との両方が配合されていればよく、各々の樹脂は1種または2種以上を用いることができる。また、フェノール樹脂は、熱硬化性樹脂100重量部に対して5重量部以上60重量部以下の範囲で含まれることが好ましく、硬化反応を安定的に進める観点から10重量部以上50重量部以下の範囲で含まれることがより好ましい。フェノール樹脂が5重量部未満の場合には、プライマー層3の硬化が不十分になり、金属部品1と注型成形材料2との接着力を安定的に高めることができない。また、フェノール樹脂が60重量部よりも多い場合には、液状エポキシ樹脂に相溶せず、注型成形材料2の界面の接着力を向上できないことに加えて、プライマー層3が脆い塗膜となり、接着力が向上しない。このため、フェノール樹脂は熱硬化性樹脂100重量部に対して5重量部以上60重量部以下の範囲であることが好ましい。
【0020】
プライマー組成物に配合する液状エポキシ樹脂としては、フェノール樹脂だけでなく、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂も相溶させ得るビスフェノールA型またはビスフェノールF型の液状エポキシ樹脂が好ましく、エポキシ当量が700g/eq以下であり、重合平均分子量が1500以下であり、かつ常温である25℃における粘度が35000mPa・s以下である液状樹脂が好ましく、1種または2種以上の液状エポキシ樹脂を用いることができる。これらの条件を満足しない場合には、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂との相溶性が乏しい上に、プライマー層3が脆く膜質が悪くなってしまう。より好ましい液状エポキシ樹脂は、エポキシ当量が500g/eq以下であり、重合平均分子量が1000以下であり、かつ25℃における粘度が25000mPa・s以下である液状樹脂である。このような液状エポキシ樹脂を用いることで、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂に親和性を有し、分子レベルでも混ざり合う液状エポキシ樹脂を配合することができる。この結果、均質な溶液のプライマー組成物を得ることができる。
【0021】
フェノール樹脂としては、フェノールまたはクレゾールなどのフェノール類とアルデヒド類とを原料として成る合成樹脂であるノボラックタイプおよびレゾールタイプが挙げられ、上記の液状エポキシ樹脂に相溶するものであれば液状でも固形でもよく、1種または2種以上のフェノール樹脂を用いることができる。プライマー層3は注型成形材料2の注型成形時の加熱によって硬化が進行するため、敢えて、プライマー組成物の塗布直後に硬化を完了させる必要がない。しかし、プライマー組成物を塗布した金属部品1の表面にタック性があり、金型に設置する際の作業性が悪い場合には、プライマー層3を予め硬化させてもよい。一例では、常温で硬化するレゾルシノール変性フェノール樹脂またはレゾルシン樹脂を使用すると、プライマー組成物を常温で硬化させることができるため、加熱する必要がなく、また金型に設置する際の金属部品1の表面のタック性が改善されるので、作業性が向上する。また、硬化速度を高めるため、フェノール樹脂の硬化促進剤として、アミン系、リン系、イミダゾール系、有機チタン・有機ジルコニウムなどの有機金属化合物系の硬化促進剤を添加してもよい。硬化促進剤としては特に限定されないが、ヘキサメチレンテトラミン、トリフェニルホスフィン、N-メチルピペラジン、2-エチル-4-メチルイミダゾール、テトラ-n-ブトキシチタンの群から選択される少なくとも1つの材料を用いることができる。また、硬化促進剤の添加量としては、フェノール樹脂100重量部に対して0.01重量部以上30重量部以下の範囲であることが好ましい。これは、硬化促進剤の添加量が0.01重量部未満の場合には、反応促進効果、すなわち硬化促進性がなく、30重量部超の場合には、保存安定性が悪くなるためである。より好ましい硬化促進剤の添加量はフェノール樹脂100重量部に対して1重量部以上20重量部以下の範囲である。このような添加量とすることで、硬化促進性と保存安定性とを両立することができる。
【0022】
熱可塑性樹脂として配合するアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂は、ポリ酢酸ビニルを部分ケン化して得られたポリビニルアルコールに酸触媒を用いて、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒドなどのアルデヒドを反応させてアセタール化することにより得られるものである。アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂の化学構造式を次式(1)に示す。
【0023】
【化1】
【0024】
アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂の分子構造は、(1)式のように表され、アセチル基、水酸基およびアセタール基の3つの官能基を有する。なお、(1)式において、l,x,yは自然数であり、nは0以上の整数である。分子量が高く、注型成形材料2の構造中に存在する水酸基と脱水縮合反応できる水酸基含有量が高いアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂を使用することで、金属との接着性に有効な弾性および可塑性に長け、かつ注型成形材料2と化学反応で結合するため、より強固な接着を発現させることができる。接着力はアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂の水酸基含有量に大きく左右され、水酸基含有量が10mol%以上60mol%以下のものが好ましく、1種または水酸基含有量が異なる2種以上のアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂を用いることができる。水酸基含有量が10mol%未満の場合には、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂の熱硬化性樹脂との反応性が低下して金属部品1との接着性の向上効果が得られない。また、水酸基含有量が60mol%超である場合には、プライマー組成物の保存安定性が低下するのに加えて、靭性が悪いので脆いプライマー層3となり、接着強度の向上が得られない。このため、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂の水酸基含有量は10mol%以上60mol%以下であることが好ましい。より好ましい水酸基含有量は15mol%以上55mol%以下である。このような水酸基含有量とすることで、熱硬化性樹脂との反応性と保存安定性とを両立することができる。
【0025】
実施の形態1のアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂の化学構造式は(1)式のように示され、主鎖のエチレン鎖には、アセタール基、水酸基、アセチル基が結合している。アセタール化度は、アセタール基が結合しているエチレン基量を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率で示した値で表すことができる。アセタール化度は、一例では以下のように算出することができる。まず、日本産業規格(Japanese Industrial Standards:JIS) K6728に準拠した方法によって、アセチル化度と水酸基の含有率とを測定し、得られた測定結果からモル分率を算出する。次いで、100mol%からアセチル化度と水酸基の含有率とを差し引くことによって、アセタール化度が算出される。ここで、アセタール基がホルマール基である場合には、アセタール化度はホルマール化度とも称され、アセタール基がアセトアセタール基である場合には、アセタール化度はアセトアセタール化度とも称され、アセタール基がブチラール基である場合には、アセタール化度はブチラール化度とも称される。プライマー組成物の接着性および靭性の向上には、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂の分子量に加えて、アセタール化度と水酸基量とが重要である。
【0026】
また、プライマー層3の靭性を高めるためには、熱可塑性樹脂は、重合平均分子量が1000以上であり、アセタール化度が30mol%以上90mol%以下であるアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂であることが好ましく、1種または2種以上のアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂を用いることができる。これは、重合平均分子量が1000未満である場合あるいはアセタール化度が30mol%未満の場合には、プライマー層3が脆くなり、アセタール化度が90mol%を超える場合には、液状エポキシ樹脂に相溶しないためである。また、熱可塑性樹脂は、重合平均分子量が10000以上150000以下であり、かつアセタール化度が45mol%以上85mol%以下であることがより好ましい。このような熱可塑性樹脂を用いることで、液状エポキシ樹脂に高濃度で相溶でき、プライマー層3の靭性を高めることができる。これによって、金属部品1との親和性が向上する。
【0027】
ホルムアルデヒドによってアセタール化されたホルマール化ポリビニルアルコール樹脂、すなわち(1)式でn=0であるポリビニルホルマール樹脂は機械的強度が高く、硬化皮膜の再現性の容易さ、耐水性などの化学的耐性に優れている。また、アセトアルデヒドによってアセタール化されたアセトアセタール化ポリビニルアルコール樹脂、すなわち(1)式でn=1であるポリビニルアセトアセタール樹脂は耐熱性が高く、可撓性に富み、親水性かつ耐水性がある。さらに、ブチルアルデヒドによってアセタール化されたブチラール化ポリビニルアルコール樹脂、すなわち(1)式でn=3であるポリビニルブチラール樹脂は強靱で柔軟性に優れている。
【0028】
電気絶縁用注型成形品10は使用環境において最大で80℃以上120℃以下の高温環境に晒されるので、プライマー層3が靭性と耐熱性とを併せ持つことが重要であり、熱可塑性樹脂の選定によって接着力が変化する。ポリビニルホルマール樹脂、ポリビニルアセトアセタール樹脂およびポリビニルブチラール樹脂の中において特性を比較すると、以下のような傾向がある。
【0029】
・機械的強度および耐熱性について
ポリビニルホルマール樹脂>ポリビニルアセトアセタール樹脂>ポリビニルブチラール樹脂
・靭性および柔軟性について
ポリビニルホルマール樹脂<ポリビニルアセトアセタール樹脂<ポリビニルブチラール樹脂
【0030】
このため、機械的強度および耐熱性の高い樹脂と、靭性および柔軟性の高い樹脂と、を組み合わせることで、常温から高温にかけて安定した接着力を得ることができる。従って、靭性および柔軟性の高い、(1)式でn=3であるブチラール化ポリビニルアルコール樹脂に、機械的強度および耐熱性が高い、(1)式でn=0であるホルマール化ポリビニルアルコール樹脂および(1)式でn=1であるアセトアセタール化ポリビニルアルコール樹脂の少なくとも一方を加えた混合樹脂とすることが好ましい。なお、(1)式でn=0であるホルマール化ポリビニルアルコール樹脂を配合した混合樹脂の場合には、接着強度の向上効果を得ることができるが、ホルマール基の効果で硬いプライマー層3になる傾向があり、(1)式でn=1であるアセトアセタール化ポリビニルアルコール樹脂に比較して接着強度の向上効果が制限される。このことから、プライマー層3の耐熱性、可撓性および強靭性をより効率的に向上させるためには、(1)式でn=1であるアセトアセタール化ポリビニルアルコール樹脂を配合した混合樹脂とすることがより好ましい。
【0031】
上記のホルマール基、アセトアセタール基およびブチラール基から選択される2つ以上の基を有するアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂は、それぞれの基に起因する特長を併せ持つことができるため、好適に使用できる。特に、アセトアセタール基およびブチラール基の両方を有するアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂とすることで、プライマー層3の耐熱性、可撓性および強靭性を同時に高めることができ、高温環境においても金属部品1と注型成形材料2との接着性をより向上させることができる。アセトアセタール基およびブチラール基の両方を有するアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂の化学構造式を次式(2)に示す。(2)式において、l,m,x,yは自然数である。(1)式のアセタール基が、アセトアセタール基およびブチラール基に置き換えられた分子構造を有している。
【0032】
【化2】
【0033】
実施の形態1に係るプライマー組成物に使用される熱可塑性樹脂に、液状エポキシ樹脂との相溶性が高い上記で説明した(2)式の分子構造を有する1種類のアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂、またはアセタール化原料が異なる上記で説明した(1)式または(2)式の分子構造を有する2種類以上のアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂の混合樹脂を用いることができる。特に、アセトアセタール基を有するアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂は可撓性および耐熱性を両立している観点から、より好適に用いることができる。また、ブチラール基を含むアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂は高い柔軟性を有するので、より好適に用いることができる。
【0034】
つまり、実施の形態1に係るプライマー組成物に使用される熱可塑性樹脂には、ブチラール基とアセトアセタール基とが存在していることがより好ましい。このような熱可塑性樹脂の形態としては、大きく以下の2種類を挙げることができる。
(a)熱可塑性樹脂がブチラール基を有する樹脂とアセトアセタール基を有する樹脂との混合樹脂からなる場合
(b)熱可塑性樹脂がブチラール基およびアセトアセタール基の両方の基を有する樹脂からなる場合
【0035】
(a)の場合の熱可塑性樹脂は、ブチラール基を有する熱可塑性樹脂とアセトアセタール基を有する熱可塑性樹脂との2種をそれぞれ少なくとも1つ配合したものである。この一例として、(1)式でブチラール基のみを有する熱可塑性樹脂と(1)式でアセトアセタール基のみを有する熱可塑性樹脂との混合樹脂、(2)式でブチラール基とアセトアセタール基とを有する熱可塑性樹脂と(1)式でアセトアセタール基のみを有する熱可塑性樹脂との混合樹脂、(1)式でブチラール基のみを有する熱可塑性樹脂と(2)式でブチラール基とアセトアセタール基とを有する熱可塑性樹脂との混合樹脂を挙げることができる。
【0036】
実施の形態1では、熱可塑性樹脂は、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂であるので、ブチラール基を有する熱可塑性樹脂は、ブチラール基を有するアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂、すなわちブチラール化ポリビニルアルコール樹脂である。同様に、アセトアセタール基を有する熱可塑性樹脂は、アセトアセタール基を有するアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂、すなわちアセトアセタール化ポリビニルアルコール樹脂である。このため、(a)の場合におけるアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂は、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセトアセタール樹脂並びにアセトアセタール基およびブチラール基を有するアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂の群から選択される2以上の樹脂を混合した混合樹脂であるということもできる。
【0037】
一例では、(1)式でn=3としたブチラール化ポリビニルアルコール樹脂に、(1)式でn=1としたアセトアセタール基を有するアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂または(2)式で示されるブチラール基とアセトアセタール基とを有するアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂を加えた混合樹脂を熱可塑性樹脂とすることができる。
【0038】
(b)の場合の熱可塑性樹脂は、ブチラール基とアセトアセタール基との両方の基を含む熱可塑性樹脂を少なくとも1つ配合したものである。一例では、(2)式に示されるようなアセトアセタール基とブチラール基との両方を有するアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂を熱可塑性樹脂とすることができる。
【0039】
熱可塑性樹脂としてアセトアセタール基とブチラール基との両方の基を有するアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂を用いる場合には、この樹脂におけるアセトアセタール化度とブチラール化度との和がアセタール化度となる。また、熱可塑性樹脂が上記(a)の場合の混合樹脂である場合には、それぞれの熱可塑性樹脂のアセタール化度の総和が混合樹脂のアセタール化度となる。
【0040】
このように熱可塑性樹脂にアセトアセタール基とブチラール基とを共存させることによって、プライマー層3の耐熱性、可撓性および強靭性を高めることができ、電気絶縁用注型成形品10の使用環境における80℃以上120℃以下の範囲の高温環境でも、金属部品1と注型成形材料2との安定した接着強度を得ることができる。
【0041】
表面に水酸基などの結合し得る反応基があるアルミニウムなどの金属と、このような反応基がない銅、金などの金属と、では、接着性の向上効果に差が見られる。しかし、これらの金属を金属部品1として使用する場合の熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との配合比には、明確な差はなく、熱可塑性樹脂は、熱硬化性樹脂100重量部に対して5重量部以上200重量部以下の範囲で含まれることが好ましい。これは、熱可塑性樹脂が5重量部未満である場合には、金属表面との親和性が低くなり、接着することができず、熱可塑性樹脂が200重量部を超える場合には、液状エポキシ樹脂に相溶せず、注型成形材料2の界面の接着力を向上することができないためである。特に、熱可塑性樹脂は10重量部以上150重量部以下であることがより好ましい。このような範囲とすることで、安定した接着強度を得ることができる。なお、反応基がある金属だけではなく、反応基がない金属でも、後述するゴム粒子または反応性の有機官能基を持つ有機ケイ素化合物を密着助剤とすることで接着改善効果を高めることができる。
【0042】
ゴム粒子を密着助剤として添加することでプライマー組成物の塗膜を低応力化し、接着界面の靭性を高めて、注型成形材料2と金属部品1との接着力を向上させることができる。ゴム粒子は、マイクロサイズまたはナノサイズのゴムの微粒子である。ブタジエン系樹脂、アクリル系樹脂およびポリスチレン系樹脂の少なくとも1つからなるゴム粒子を密着助剤として、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂の総量100重量部に対して、0.1重量部以上40重量部以下の範囲で添加することが好ましい。これは、ゴム粒子が0.1重量部未満では、添加量が少なく、塗膜を低応力化することができず、また接着力を向上させることができないためである。また、ゴム粒子が40重量部を超える場合には、均質なプライマー層3が形成されず、接着再現性がなく、接着力が低下するためである。また、ゴム粒子の添加量は、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂の総量100重量部に対して、1重量部以上30重量部以下の範囲であることがより好ましい。このような添加量とすることで、プライマー組成物の接着力を所望の値以上としながら、プライマー組成物の保存安定性を得ることができる。なお、ゴム粒子は、外部にグラフト層を有するコアシェルタイプのゴム粒子でもよい。ゴム粒子の1次粒子の平均粒径は、0.01μm以上10μm以下の範囲である。ゴム粒子の1次粒子の平均粒径が、0.01μmよりも小さいと凝集しやすくなる。また、ゴム粒子の1次粒子の平均粒径が、10μmよりも大きいとゴム粒子が沈降しやすい上にプライマー層3が厚くなり、均質なプライマー層3を形成することができず、接着再現性がなくなるとともに接着力が低下する。このため、ゴム粒子の1次粒子の平均粒径は、0.01μm以上10μm以下の範囲であることが好ましい。また、ゴム粒子の1次粒子の平均粒径は、0.03μm以上2μm以下であることがより好ましい。このような範囲とすることで、ゴム粒子はプライマー組成物中に凝集せずに1次粒子の状態で分散安定性を確保することができる。
【0043】
有機溶媒にゴム粒子を添加する場合に、ゴム粒子が1次粒子の状態で透明な有機溶媒に均一に分散していることが必要である。一方、有機溶媒内でゴム粒子が凝集して沈降してしまう場合には、ゴム粒子が有機溶媒に均一に分散しているとは言えない。一例では、ゴム粒子が有機溶媒に均一に分散しているか否かは、目視によって判断することができる。
【0044】
反応性の有機官能基を持つ有機ケイ素化合物を密着助剤として添加することで、注型成形材料2と金属部品1の表面と化学結合し、接着力をより向上させることができる。密着助剤として有機ケイ素化合物を、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂の総量100重量部に対して、0.01重量部以上5重量部以下の範囲で添加することが好ましい。これは、添加量が、0.01重量部より少ない場合には、接着力を高める効果がなく、5重量部よりも多い場合には、プライマー組成物の保存安定性が悪くなり、接着再現性がなくなるとともに接着力が低下するためである。また、有機ケイ素化合物を熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂の総量100重量部に対して、0.1重量部以上2重量部以下の範囲で添加することがより好ましい。このような範囲とすることで、プライマー組成物の保存安定性を確保することができる。
【0045】
有機官能基としては、アルコキシ基、アクリル基、アミノ基、イソシアネート基、イソシアヌレート基、イミダゾール基、ウレイド基、エポキシ基、ビニル基、ベンゾトリアゾール基、メルカプト基、メタクリル基およびヒドロキシル基の群から選択される1つ以上の基であることが好ましい。特に、複数のアルコキシ基に加えて、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、ベンゾトリアゾール基、イミダゾール基およびヒドロキシル基の群から選択される1つ以上の基を有する有機ケイ素化合物が注型成形材料2と金属部品1の表面との接着の観点からより好ましい。また、密着助剤として、1種または2種以上の有機ケイ素化合物を用いることができる。特に限定されないが、有機ケイ素化合物として、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、N-(トリメトキシシリル-プロピル)-1H-ベンゾトリアゾール-1-カルボジアミド、トリエトキシ[3-(1H-イミダゾール-1-イル)プロピル]シラン、テトラエトキシシランなどが挙げられる。
【0046】
プライマー組成物の溶剤としては、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを溶解させる有機溶剤であればよく、メチルエチルケトン、アセトン、トルエン、キシレン、メタノール、エタノールなどを挙げることができる。また、樹脂を完全に溶解させ得るのであれば、1種類の溶剤でもよいし、複数種類の溶剤を組み合わせたものでもよい。プライマー層3は、乾燥後の塗膜の膜厚が厚いと、このプライマー層3の内部応力で注型成形材料2と金属部品1との接着力が低下する。このため、塗布した際の膜厚が0.01μm以上20μm以下、より好ましくは0.1μm以上5μm以下の範囲となるように有機溶剤の配合量が調製される。また、プライマー組成部の粘度を変えてもよい。これによって、塗布した際の膜厚が0.01μm以上20μm以下、より好ましくは0.1μm以上5μm以下となる。つまり1回の塗布で形成される膜厚の厚さが所望の厚さとなるように、有機溶剤の配合量を調製したり、プライマー組成物の粘度を変えたりする。なお、塗布回数を変えることでも、膜厚を制御することができる。ただし、塗布回数を2回以上とする場合には、塗布工程および乾燥工程の回数が増え、また塗布された下地の膜上に塗布する際の位置合わせに手間を要するため、1回の塗布で塗膜を形成する方が望ましい。プライマー組成物は、刷毛、スプレー、ディッピング等によって塗布され、その後に、風乾または50℃以上150℃以下の温度での加熱処理によって乾燥され、溶剤が除去される。これによって、プライマー層3が形成される。この溶剤除去の加熱処理では、塗膜が半硬化状態であってもよいし、完全硬化状態であってもよい。
【0047】
以上のように、実施の形態1に係るプライマー組成物は、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とを含む。熱可塑性樹脂は、水酸基含有量が10mol%以上50mol%以下のアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂である。熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂と、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂およびフェノール樹脂を常温で相溶させ得る、エポキシ当量が700g/eq以下、重合平均分子量1500以下、かつ常温での粘度が35000mPa・s以下のビスフェノールA型またはビスフェノールF型の液状エポキシ樹脂と、を含む。そして、プライマー組成物は、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂、フェノール樹脂およびビスフェノールA型またはビスフェノールF型の液状エポキシ樹脂を有機溶媒に均一溶解させた溶液である。熱可塑性樹脂は弾性物質であるので、金属部品1との接着力を高めることができる。また、熱硬化性樹脂は、注型成形材料2と結合し得る基を有するため接着力が高い。そして、熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂の2種類を配合することで、フェノール樹脂が、エポキシ樹脂と、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂と、の両方と反応し、プライマー組成物を硬化させることができる。さらに、ビスフェノールA型またはビスフェノールF型の液状エポキシ樹脂とすることで、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂およびフェノール樹脂を常温で相溶させることができる。このように、2種の熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを組み合わせ、特長の異なる複数の樹脂を配合することで、注型成形材料2の熱硬化過程で、金属種を問わず、金属部品1の界面との親和性を向上させ、強固な化学的接着力を発現させることができる。つまり、金属部品1の表面粗度の増加、クロメート皮膜形成といった表面処理を施さなくても、注型成形材料2である熱硬化性樹脂または熱硬化性エラストマーとの接着力が高く、80℃以上120℃以下の高温環境下に置かれた場合、一例では通電中に金属部品1が発熱した場合にも、界面剥離の発生を抑制したプライマー層3を金属部品1の表面に形成することができるという効果を有する。
【0048】
また、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂のアセタール化度を30mol%以上90mol%以下とし、重合平均分子量を1000以上とした。これによって、液状エポキシ樹脂にアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂を高濃度で相溶させ、均質なプライマー組成物を得ることができる。この結果、プライマー層3の靭性を高めることができ、金属部品1との親和性が向上するという効果を有する。また、均質なプライマー組成物となるため、均一な膜厚の塗膜を得ることができ、金属部品1と注型成形材料2との界面において接着力のバラつきの発生を抑制し、均一な接着力を得ることができる。
【0049】
実施の形態2.
図1に示したように、実施の形態2に係る電気絶縁用注型成形品10は、金属部品1を、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、またはシリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ウレタンゴムなどの熱硬化性エラストマーを含む注型成形材料2によって注型成形する電気絶縁用注型成形品10において、注型成形材料2と接する金属部品1の表面に接して配置されるプライマー層3を備えることを特徴とする。つまり、電気絶縁用注型成形品10は、金属部品1と注型成形材料2との間にプライマー層3を備える。プライマー層3は、プライマー組成物によって形成される。この電気絶縁用注型成形品10は、実施の形態1で説明したプライマー組成物を用いて製造することができる。実施の形態2に係る電気絶縁用注型成形品10の構成および製造方法について、図1を参照して説明する。
【0050】
図1に示されるように、電気絶縁用注型成形品10は、金属部品1と、注型成形材料2と、プライマー層3と、を備え、金属部品1と注型成形材料2とがプライマー層3を介して接合されている。
【0051】
実施の形態2に係る電気絶縁用注型成形品10の製造方法では、まず、金属部品1の表面に、実施の形態1で説明したプライマー組成物を塗布し、プライマー層3を形成する塗布工程が実行される。一例では、刷毛、スプレー、ディッピング等によってプライマー組成物を金属部品1の表面に塗布する。また、室温での風乾あるいは50℃以上150℃以下の範囲の温度で加熱する加熱処理によってプライマー組成物中の溶剤を除去することでプライマー層3が形成される。プライマー層3の膜厚は0.01μm以上20μm以下であることが好ましく、0.1μm以上5μm以下であることがより好ましい。この金属部品1の表面に形成されたプライマー層3は、後続の注型成形工程の金型を予熱する際に、硬化が進行するが、この加熱処理の結果得られるプライマー層3は、半硬化状態であってもよいし、完全硬化状態であってもよい。ここで、接着性を向上させる観点から、プライマー組成物の塗布前に、金属部品1に対して予めサンドブラスト処理が施されてもよい。
【0052】
次に、表面にプライマー層3が形成された金属部品1を金型の内部に配置し、注型成形材料2を注型成形する注型成形工程が実施される。注型成形材料2の原料であるエポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、またはシリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ウレタンゴムなどの熱硬化性エラストマーを金型内に注入し、80℃以上200℃以下の範囲の温度で10分以上36時間以下の期間加熱することによって、注型成形材料2を硬化させる。これは、80℃未満の温度でまたは10分未満の期間で加熱した場合には、注型成形材料2が十分に硬化せず、また200℃超の温度でまたは36時間を超える期間で加熱した場合には、注型成形材料2が加熱劣化してしまう傾向にあるので好ましくないためである。なお、注型成形材料2の主剤は、注型成形時の加熱時に原料の官能基とプライマー層3の官能基とで反応して架橋するため、金属部品1と注型成形材料2とを化学的に接着させる効果が大きい、エポキシ樹脂、フェノール樹脂またはシリコーンゴムであることが好ましい。このように、特長の異なる複数の熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを配合したプライマー層3を金属部品1の表面に予め形成することによって、注型成形材料2の熱硬化過程にて、金属部品1の界面との親和性を向上させ、強固な化学的接着力が確保される。
【0053】
このようにして得られた実施の形態2に係る電気絶縁用注型成形品10は、金属部品1と注型成形材料2との接着力に優れたものとなる。このような電気絶縁用注型成形品10の活用例としては、SF6ガス、ドライエアなどを絶縁媒体として用いるガス絶縁母線装置(Gas Insulated Bus:GIB)、ガス絶縁開閉装置、ガス遮断器(Gas Circuit Breaker:GCB)などのガス絶縁機器および変圧器といった各種変電機器に使用される絶縁スペーサ、絶縁ロッド、絶縁ブッシング、絶縁支持筒、固体絶縁母線等を挙げることができる。
【0054】
以上のように、実施の形態2に係る電気絶縁用注型成形品10の製造方法は、金属部品1を熱硬化性樹脂または熱硬化性エラストマーからなる注型成形材料2によって注型成形する電気絶縁用注型成形品10の製造方法であって、プライマー組成物を金属部品1の表面に塗布し、プライマー層3を形成する塗布工程と、表面にプライマー層3が形成された金属部品1を金型の内部に配置し、注型成形材料2を、常圧注型、真空注型、加圧ゲル化注型などの注型法、または射出成形、押出成形、インサート成形、インジェクション成形などの成形法にて注型成形する注型成形工程と、を含む。このようにプライマー層3を金属部品1の表面に予め形成することによって、注型成形材料2の熱硬化過程にて、金属部品1の界面との親和性が向上し、強固な化学的接着力が確保されるため、界面での注型成形材料2の金属部品1からの剥離を抑制する。この結果、電界集中を起こさない電気絶縁用注型成形品10を得ることができる。
【0055】
以上の実施の形態に示した構成は、内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【実施例
【0056】
以下、実施例および比較例によって本開示のプライマー組成物の詳細を説明するが、本開示のプライマー組成物はこれらに限定されるものではない。
【0057】
表1は、実施例および比較例におけるプライマー組成物の原料の比率と、作製されたプライマー組成物の接着性と、を示す表である。実施例1から8および比較例1から4では、下記の材料を表1に記載の配合にて配合し、プライマー組成物を作製する。なお、溶剤である希釈剤にはメチルエチルケトンおよびアセトンの少なくとも一方を用いる。これらのプライマー組成物を金属部品1との接着界面に塗工し、希釈剤を揮発乾燥してプライマー層3を作製する。
【0058】
【表1】
【0059】
<エポキシ樹脂(A)>
エポキシ樹脂(A)は熱硬化性樹脂の一例である。
(1-1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂:エポキシ当量190g/eq、重合平均分子量370、25℃での粘度10000mPa・s
(1-2)ビスフェノールF型エポキシ樹脂:エポキシ当量160g/eq、重合平均分子量250、25℃での粘度1000mPa・s
(1-3)ビスフェノールA型エポキシ樹脂:エポキシ当量480g/eq、重合平均分子量950、25℃での粘度25000mPa・s
(1-4)ビスフェノールF型エポキシ樹脂:エポキシ当量2530g/eq、重合平均分子量1650、固体
【0060】
<フェノール樹脂(B)>
ビスフェノール樹脂(B)は熱硬化性樹脂の一例である。
(2-1)フェノールノボラック樹脂:重合平均分子量5000
(2-2)フェノール変性レゾルシノール樹脂:重合平均分子量2000
(2-3)クレゾールノボラック樹脂:重合平均分子量12000
【0061】
<アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂(C)>
アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂(C)は熱可塑性樹脂の一例である。
(3-1)ホルマール化ポリビニルアルコール樹脂((1)式でn=0としたポリビニルホルマール樹脂):重合平均分子量1050、水酸基含有量30mol%、アセタール化度67mol%
(3-2)アセトアセタール化ポリビニルアルコール樹脂((1)式でn=1としたポリビニルアセトアセタール樹脂):重合平均分子量10万、水酸基含有量55mol%、アセタール化度35mol%
(3-3)アセトアセタール化ポリビニルアルコール樹脂((1)式でn=1としたポリビニルアセトアセタール樹脂):重合平均分子量2.7万、水酸基含有量15mol%、アセタール化度83mol%
(3-4)ブチラール化ポリビニルアルコール樹脂((1)式でn=3としたポリビニルブチラール樹脂):重合平均分子量5.6万、水酸基含有量45mol%、アセタール化度45mol%
(3-5)アセトアセタール基とブチラール基との両方を有するアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂((2)式):重合平均分子量13万、水酸基含有量26mol%、アセタール化度75mol%(アセトアセタール化度45mol%、ブチラール化度30mol%)
(3-6)ブチラール化ポリビニルアルコール樹脂((1)式でn=3としたポリビニルブチラール樹脂):重合平均分子量21万、水酸基含有量63mol%、アセタール化度25mol%
(3-7)ブチラール化ポリビニルアルコール樹脂((1)式でn=3としたポリビニルブチラール樹脂):重合平均分子量950、水酸基含有量7mol%、アセタール化度92mol%
【0062】
<硬化促進剤>
(4-1)ヘキサメチレンテトラミン
(4-2)N-メチルピペラジン
【0063】
<ゴム粒子>
(5-1)ブタジエン系ゴム:平均粒径150nm
(5-2)ポリスチレン系ゴム:平均粒径500nm
【0064】
<有機ケイ素化合物>
(6-1)N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン
(6-2)3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン
【0065】
<希釈剤>
(7-1)メチルエチルケトン
(7-2)アセトン
【0066】
実施例1-8によるプライマー組成物は、実施の形態1に記載された原材料と配合とに従って作製されている。一方、比較例1-4によるプライマー組成物は、原材料の種類、配合等が適正ではなく、実施の形態1に係るプライマー組成物には適合していない。具体的には、比較例1のプライマー組成物では、エポキシ樹脂(A)の材料(1-4)が、エポキシ当量が700g/eq超であり、重合平均分子量が1500超であり、常温において固体であり、実施の形態1に係るプライマー組成物のエポキシ樹脂の条件を満たしていない。比較例2のプライマー組成物では、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂(C)が配合されていない。比較例3のプライマー組成物では、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂(C)の材料(3-6)が、水酸基含有量が60mol%超であり、アセタール化度が30mol%未満であり、実施の形態1に係るプライマー組成物のアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂の条件を満たしていない。比較例4のプライマー組成物では、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂(C)の材料(3-7)が、重合平均分子量が1000未満であり、水酸基含有量が10mol%未満であり、アセタール化度が90mol%超であり、実施の形態1に係るプライマー組成物のアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂の条件を満たしていない。
【0067】
実施例1-8および比較例1-4によるプライマー組成物を塗布した金属部品1と注型成形材料2との接着強度を評価する。実施例および比較例では、注型成形材料2として、エポキシ樹脂およびシリコーンゴムの2種類のものを用いる。
【0068】
接着強度は、接着試験片を作製し、引張試験機にて評価する。アセトンで表面を脱脂処理した金属ピースの接着界面にプライマー組成物を刷毛で塗布し、130℃で5分間乾燥させる。金属ピースとして、アルミニウムおよび銅を用いる。その後、プライマー組成物を塗布した金属ピースを注型成形金型にセットし、注型成形材料2であるエポキシ樹脂またはシリコーン樹脂を注型成形金型に注入し、150℃で12時間硬化させることで接着試験片を作製する。なお、いずれの接着試験片もプライマー層3の膜厚は約1μmである。引張試験は、25℃、80℃、100℃および120℃の各温度において引張速度1mm/minの条件で行われる。この結果得られる接着強度を、プライマー層3を形成しないプライマー未処理の試験片の接着強度である判定基準と比較して評価する。表1では、プライマー未処理試験片の接着強度である判定基準に対して、2倍以上の接着強度を有している接着試験片については、二重丸印を付し、1.5倍以上2倍未満の接着強度を有している接着試験片については、丸印を付し、1.1倍以上1.5倍未満の接着強度を有している接着試験片については、三角印を付し、1.1倍未満の接着強度を有している接着試験片については、バツ印を付している。
【0069】
最初に、実施例の評価結果について、表1を参照しながら説明する。表1に示されるように、実施例1-8では、いずれのプライマー組成物も25℃から120℃までの範囲における接着強度が、注型成形材料2がエポキシ樹脂およびシリコーンゴムのいずれの場合でも、また金属部品1がアルミニウムおよび銅のいずれの場合でも、プライマー未処理の場合よりも接着性を高める効果があることが確認される。
【0070】
アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂としてアセトアセタール化ポリビニルアルコール樹脂を単独配合するプライマー組成物の実施例2,3では、実施例1のホルマール化ポリビニルアルコール樹脂を単独配合する場合、あるいは実施例4のブチラール化ポリビニルアルコール樹脂を単独配合する場合に比べて、接着強度がプライマー未処理の場合よりも2倍以上向上している温度範囲が多い。
【0071】
また、実施例6-8ではアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂に混合樹脂を用い、実施例5ではアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂に単独樹脂を用いている。これらの実施例5-8では、熱可塑性樹脂にアセトアセタール基とブチラール基との両方が含まれていることに起因し、25℃から120℃の範囲における接着強度の全てが、プライマー未処理の場合の2倍以上に向上している。実施例3と実施例6とは、また実施例4と実施例7とは、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂の構成原料が異なるだけで、接着力に顕著な差が見られている。このように、アセトアセタール基とブチラール基とを有する樹脂を組み合わせたプライマー層3を介して、注型成形材料2と金属部品1とが接合された電気絶縁用注型成形品10においては、使用環境温度が高い場合でも、金属部品1の界面との強固な化学的接着力を確保して、界面での剥離を抑制する。この結果、電界集中を起こさない電気絶縁用注型成形品10を得ることができる。
【0072】
比較例1のエポキシ当量が700g/eq超であり、重合平均分子量が1500超である固体のビスフェノールF型エポキシ樹脂、すなわち材料(1-4)を含むプライマー組成物では、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂との相溶性が低く、また分子内にエポキシ基が少ない影響もあり、エポキシ樹脂またはシリコーンゴムの注型成形材料2と金属部品1とを化学的に接着させる効果が小さい。この結果、比較例1のプライマー組成物の接着強度は、プライマー未処理の接着強度と同等以下である。
【0073】
比較例2は、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂を含有していないため、注型成形材料2と金属部品1とを化学的に接着することができない。この結果、比較例2のプライマー組成物の接着強度は、プライマー未処理の接着強度と同等以下である。
【0074】
比較例3では、水酸基含有量が63mol%と高く、アセタール化度が25mol%と低いブチラール化ポリビニルアルコール樹脂、すなわち材料(3-6)が使用されている。このため、比較例3では、靭性が低く、脆いプライマー層3となり、接着強度の向上が得られない。この結果、比較例3のプライマー組成物の接着強度は、プライマー未処理の接着強度と同等以下である。
【0075】
比較例4では、重合平均分子量が950と低く、水酸基含有量が7mol%と低く、アセタール化度が92mol%と高いブチラール化ポリビニルアルコール樹脂、すなわち材料(3-7)が使用されている。このため、プライマー層3が脆い上に、熱硬化性樹脂との反応性が低下するため、金属部品1との接着性の向上効果が得られない。この結果、比較例4のプライマー組成物の接着強度は、プライマー未処理の接着強度と同等以下である。
【符号の説明】
【0076】
1 金属部品、2 注型成形材料、3 プライマー層、10 電気絶縁用注型成形品。
【要約】
プライマー組成物は、熱可塑性樹脂と、熱硬化性樹脂と、を含む。熱可塑性樹脂は、水酸基含有量が10mol%以上50mol%以下のアルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂である。熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂と、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂およびフェノール樹脂を常温で相溶させ得る、エポキシ当量が700g/eq以下であり、重合平均分子量が1500以下であり、かつ常温での粘度が35000mPa・s以下であるビスフェノールA型またはビスフェノールF型の液状エポキシ樹脂と、を含む。プライマー組成物は、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール樹脂、フェノール樹脂およびビスフェノールA型またはビスフェノールF型の液状エポキシ樹脂を有機溶媒に均一溶解させた溶液である。
図1